(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6847425
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】伸縮性起毛電極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/263 20210101AFI20210315BHJP
A61B 5/25 20210101ALI20210315BHJP
【FI】
A61B5/04 300W
A61B5/04 300C
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-564598(P2018-564598)
(86)(22)【出願日】2018年1月24日
(86)【国際出願番号】JP2018002107
(87)【国際公開番号】WO2018139483
(87)【国際公開日】20180802
【審査請求日】2020年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-11461(P2017-11461)
(32)【優先日】2017年1月25日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代プリンテッドエレクトロニクス材料・プロセス基盤技術開発/(6)フレキシブル複合機能デバイス技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 学
(72)【発明者】
【氏名】延島 大樹
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小林 健
(72)【発明者】
【氏名】竹下 俊弘
【審査官】
門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−16166(JP,A)
【文献】
特開2016−212986(JP,A)
【文献】
特開2015−213607(JP,A)
【文献】
特開2012−176120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25 − 5/297
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有するシート体の表面を起毛させた起毛電極であって、
前記シート体の表面に沿って追従して伸縮可能に与えられた樹脂層と、前記樹脂層にその一端部を挿入された挿入部を有する複数の導電性繊維と、を含み、
隣接する前記導電性繊維同士が前記樹脂層への非挿入部において電気的に接触し、且つ、前記導電性繊維の与えられた前記シート体の電極領域の導電率が面内等方となるような密度で前記樹脂層に前記導電性繊維が与えられていることを特徴とする起毛電極。
【請求項2】
隣接し接点を有する前記導電性繊維同士は前記シート体の伸縮で前記接点を維持するよう前記シート体に対して傾斜することを特徴とする請求項1記載の起毛電極。
【請求項3】
前記導電性繊維は、前記非挿入部に対して前記挿入部の長さを小とすることを特徴とする請求項2記載の起毛電極。
【請求項4】
前記導電性繊維の前記非挿入部は、前記挿入部の2倍以上の長さであることを特徴とする請求項3記載の起毛電極。
【請求項5】
前記導電性繊維の長さが1mm以下であることを特徴とする請求項3記載の起毛電極。
【請求項6】
前記導電性繊維は繊維の表面に導電性のメッキを与えられた針状体であることを特徴とする請求項3記載の起毛電極。
【請求項7】
前記樹脂層は絶縁体であることを特徴とする請求項1記載の起毛電極。
【請求項8】
伸縮性を有するシート体の表面を起毛させた起毛電極の製造方法であって、
前記シート体の表面に沿って追従して伸縮可能に与えられた樹脂層と、前記樹脂層にその一端部を挿入された挿入部を有する複数の導電性繊維と、を含み、
前記シート体の前記表面に接着層を与える工程と、前記表面に向けて前記導電性繊維を飛翔させ前記接着層に一端部を挿入させて起毛させる起毛工程と、前記接着層を硬化させて前記樹脂層を与える硬化工程と、を含み、
隣接する前記導電性繊維同士が前記樹脂層への非挿入部において電気的に接触し、且つ、前記導電性繊維の与えられた前記シート体の電極領域の導電率が面内等方となるような密度に前記導電性繊維を与えることを特徴とする起毛電極の製造方法。
【請求項9】
前記起毛工程は、前記シート体をアースした電極に載置して静電スプレーガンとの間に電圧を印加した状態で、前記静電スプレーガンから帯電した導電性繊維を前記シート体に向けて噴霧する噴霧工程を含むことを特徴とする請求項8記載の起毛電極の製造方法。
【請求項10】
前記噴霧工程は、前記電圧を調整し、前記導電性繊維の前記非挿入部に対して前記挿入部の長さを小とすることを特徴とする請求項9記載の起毛電極の製造方法。
【請求項11】
前記噴霧工程は、前記導電性繊維の前記非挿入部を前記挿入部の2倍以上の長さであることを特徴とする請求項10記載の起毛電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート体の表面に導電性繊維を起毛させた起毛電極及びその製造方法に関し、特に、身体に押し当てられて生体信号を収集するための生体電極などに使用され得て伸縮性を有する伸縮性起毛電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凹凸のある物体の表面に押し当てて該物体との間で電流を流すことのできる可撓性を有するフレキシブル電極が知られている。かかるフレキシブル電極の1つとして、身体に押し当てられて生体信号を収集する計測電極としての生体電極がある。例えば、人体の胴体部に導電性シートからなる生体電極をその間に導電性ジェルを与えて押し当て、心電図などの生体信号が収集される。ここで導電性ジェルは胴体部と生体電極との間を電気的に埋めて微弱な電流を確実に計測できるようにするために用いられる。
【0003】
ところで、過敏な皮膚のような場合、導電性ジェルを直接、該皮膚に接触させることは好まれず、また、ウエアラブル電極のような長時間に亘る使用用途の場合にあっても導電性ジェルを用いたくないとの要望がある。そこで、導電性ジェルを用いなくとも凹凸のある物体の表面に追従し生体の微弱電流を収集できるように、弾力性や伸縮性を有する電極基材を用い、又は、電極基材の表面に導電性繊維を植毛、起毛させることなどが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、スポンジなどの弾力と厚みを有する保持部の周囲に導電性繊維からなる布などの導電性と柔軟性を有する検出部を与えた生体電極が開示されている。かかる生体電極は衣服の内側に設置され変形することで生体への密着性を高め得るが、伸縮性は有しない。一方、特許文献2では、伸縮性を有する布部材に対して導電性繊維からなる帯状電極を連続して不織布加工、織り加工、又は、編み加工により一体化させた生体電極が開示されている。かかる生体電極は、基材としての布部材は伸縮するが、帯状電極部分は伸縮しない。そこで、帯状電極に、例えば、特許文献3に開示されるような、導電性伸縮フィルムを用いることも考慮できる。
【0005】
また、特許文献4では、シート体からなる電極ではないが脳波を収集するための生体電極として、導電性繊維からなる複数の接触子を起毛状態でベースから延出させた起毛電極を開示している。かかる電極は、ベースは伸縮しないが、接触子が柔軟に移動することで実質的に電極が伸縮することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−36524号公報
【特許文献2】特開平5−137699号公報
【特許文献3】特開2016−212986号公報
【特許文献4】特開2015−16166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伸縮性を有するシート体の上に金属薄膜からなる電極部を与えた生体電極において、シート体は伸縮できるものの電極部は伸縮しない。このような生体電極は装着者の動作を拘束し装着の快適性に欠き、特に、ウエアラブル電極としては好ましくない。そこで、伸縮性を有するシート体に導電性繊維からなる起毛を与えた起毛電極が考慮される。しかしながら、多数の起毛からの電流を集電する集電部をシート体の表面に沿って設けようとするなら、導電性繊維との電気的且つ機械的結合とともにシート体の伸縮に追従するようにしなければならず、このための構造は簡単ではなかった。
【0008】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、身体に押し当てられて生体信号を収集するための生体電極などに使用され得て伸縮性を有する伸縮性起毛電極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による起毛電極は、伸縮性を有するシート体の表面を起毛させた起毛電極であって、前記シート体の表面に沿って追従して伸縮可能に与えられた樹脂層と、前記樹脂層にその一端部を挿入された挿入部を有する複数のs繊維と、を含み、隣接する前記導電性繊維同士が前記樹脂層への非挿入部において電気的に接触し、且つ、前記導電性繊維の与えられた前記シート体の電極領域の導電率が面内等方となるような密度で前記樹脂層に前記導電性繊維が与えられていることを特徴とする。
【0010】
かかる発明によれば、樹脂層が高い導電率を有さずとも電極としての導電性を得られるから、シート体に対応した樹脂層の材料選択の幅を広げ得て、導電性繊維の付与を容易にできるようになるとともに、付与形態の選択幅を広げることができるのである。
【0011】
上記した発明において、隣接し接点を有する前記導電性繊維同士は前記シート体の伸縮で前記接点を維持するよう前記シート体に対して傾斜することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、安定した導電率を得られるのである。
【0012】
上記した発明において、前記導電性繊維は、前記非挿入部に対して前記挿入部の長さを小とすることを特徴としてもよい。また、前記導電性繊維の前記非挿入部は、前記挿入部の2倍以上の長さであることを特徴としてもよい。更に、前記導電性繊維の長さが1mm以下であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、シート体の伸縮に影響を受けることなく安定して電極として機能するのである。
【0013】
上記した発明において、前記導電性繊維は繊維の表面に導電性のメッキを与えられた針状体であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、シート体の伸縮に影響を受けることなく安定して電極として機能するのである。
【0014】
上記した発明において、前記樹脂層は絶縁体であることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、シート体に対応した樹脂層の材料選択の幅を広げ得て、導電性繊維の付与を容易にできるようになるとともに、付与形態の選択幅を広げることができるのである。
【0015】
また、本発明による起毛電極の製造方法は、伸縮性を有するシート体の表面を起毛させた起毛電極の製造方法であって、前記シート体の表面に沿って追従して伸縮可能に与えられた樹脂層と、前記樹脂層にその一端部を挿入された挿入部を有する複数の導電性繊維と、を含み、前記シート体の前記表面に接着層を与える工程と、前記表面に向けて前記導電性繊維を飛翔させ前記接着層に一端部を挿入させて起毛させる起毛工程と、前記接着層を硬化させて前記樹脂層を与える硬化工程と、を含み、隣接する前記導電性繊維同士が前記樹脂層への非挿入部において電気的に接触し、且つ、前記導電性繊維の与えられた前記シート体の電極領域の導電率が面内等方となるような密度に前記導電性繊維を与えることを特徴とする。
【0016】
かかる発明によれば、樹脂層が高い導電率を有さずとも電極としての導電性を得られるから、シート体に対応した樹脂層の材料選択の幅を広げ得て、導電性繊維の付与を容易にできるようになるとともに、付与形態の選択幅を広げることができるのである。
【0017】
上記した発明において、前記起毛工程は、前記シート体をアースした電極に載置して静電スプレーガンとの間に電圧を印加した状態で、前記静電スプレーガンから帯電した導電性繊維を前記シート体に向けて噴霧する噴霧工程を含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、効率的に導電性繊維の起毛を与え得るのである。
【0018】
上記した発明において、前記噴霧工程は、前記電圧を調整し、前記導電性繊維の前記非挿入部に対して前記挿入部の長さを小とすることを特徴としてもよい。また、前記噴霧工程は、前記導電性繊維の前記非挿入部を前記挿入部の2倍以上の長さであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、シート体の伸縮に影響を受けることなく安定した電極を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による1つの実施例における起毛電極の断面図である。
【
図3】起毛電極が導電性繊維によって変形等に追従する原理を説明する図である。
【
図5】評価試験に用いた起毛電極の外観写真、断面写真及び断面模式図である。
【
図6】起毛電極上で導電ゴムをスライドさせる評価試験について説明する図、及び、その結果を示す電気抵抗変化のグラフである。
【
図7】伸縮の評価試験の結果を示す電気抵抗変化のグラフである。
【
図8】洗浄耐性の評価試験の結果を示す電気抵抗のグラフである。
【
図9】実施例1における起毛電極の外観写真及び得られた心電波形である。
【
図10】実施例2における起毛電極の外観、スクリーン印刷に用いたメッシュの拡大図及びスクリーンマスクのパターン図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明による1つの実施例としての起毛電極について
図1を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、起毛電極10は、伸縮性を有するシート体からなる基材1と、その表面に接合された樹脂層2と、樹脂層2に一端部を挿入するように植設された複数の導電性繊維3とを含む。ここで、導電性繊維3は、隣接する繊維同士が樹脂層2に挿入されていない非挿入部分において互いに電気的に接触し、起毛電極10内に形成される電極領域の導電率が面内で等方となるような密度で付与されている。ここで、電極領域は、導電性繊維3の非挿入部分が起毛電極10の主面側に露出している領域であり、例えば、同図中で横方向にxで示し、高さ方向にzで示した範囲の領域である。また、上面視でも同様に導電性繊維3が露出している領域である。
【0022】
基材1は、伸縮性を有するシート体であれば特に制限はなく、例えば、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維による織物、ウレタンなどの熱硬化性樹脂系のエラストマーによるシート、ブチルゴムなどの合成ゴムによるシート、シリコーンなどの合成高分子化合物によるシートなどを用いることができる。後述するような、静電スプレー法により導電性繊維3を吹き付ける方法によれば、基材1は絶縁性であり得る。
【0023】
樹脂層2は、基材1の表面に導電性繊維3を上記したような付与形態とし得る接着剤による層であり、例えば、シリル化ウレタン系の弾性接着剤、アクリルエマルジョンなどのエマルジョン系接着剤などを用いることができる。なお、樹脂層2としては、特に導電性を必要とされておらず、上記したような導電性繊維3による電極領域を得るために好適な材料、例えば基材1に対して接着性の高い材料などを導電性に関係なく選択できる。例えば、基材1とともに樹脂層2として絶縁性材料から選択すれば、導電性材料に比べて材料選択の幅を広げ得て好ましい。
【0024】
導電性繊維3は、例えば、カーボンナノファイバー、金属繊維、導電性高分子をコートしたり金属メッキを施したりした化学繊維等を用いることができる。導電性繊維3の線径及び繊維長は、上記したような付与形態とできるように、適宜、選択される。電極領域の導電率や起毛電極10の変形に対する追従性、生体電極として身体に接触させる場合の柔軟性や快適性等を考慮し、導電性繊維3は、例えば線径を20μm以下、繊維長を0.1mm以上0.5mm以下とする針状体となる短繊維であることが好ましい。また、導電性繊維3は、上記したような付与形態を得られるようにするとともに、起毛電極10に必要とされる伸縮や変形に対して安定して電極として機能するよう、その線径や繊維長に合せて単位面積当たりの本数や基材1に対する傾き(基材1の主面に対する角度)を設定される。
【0025】
[製造方法]
次に、本発明による1つの実施例として、起毛工程に噴霧工程を利用した起毛電極10の製造方法について
図2を用いて説明する。
【0026】
図2(a)に示すように、まず、基材1の上に樹脂層(接着層)2を形成させるための接着剤2aを塗布し、電極領域をパターニングする。例えば、電極パターンとなる開口部5aを有するマスク5を置き、その上からスキージ6で樹脂層2となる接着剤2aを塗り伸ばす。ここで接着剤2aは基材1上で滲みを発生させないような粘度、例えば10〜400Pa・sとされることが好適である。
【0027】
図2(b)に示すように、マスク5を取り除くと、接着剤2aで電極パターンを形成できる。なお、マスク5の厚さ、すなわち基材1の上に形成される接着剤2aによる樹脂層2の厚さは導電性繊維3を植設させ得るものであり、例えば、10〜1000μmが好適である。なお、接着剤2aのパターニングにおいては、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、ディスペンシング法、スプレーコート法、インクジェット法など、他の方法も用い得る。
【0028】
図2(c)に示すように、静電スプレー法により導電性繊維3を吹き付ける。すなわち、基材1をアースした電極11に載置して静電スプレーガン12との間に電圧を印加した状態で、静電スプレーガン12から帯電した導電性繊維3を基材1の上に噴霧する。導電性繊維3は飛翔し電気力線13に沿って電極11に引き寄せられる。その結果、導電性繊維3は、噴霧による初速と静電気力によって一端部を挿入させて起毛するように厚さを有する接着剤2aに植設され、又は、電極パターン以外の部分において基材1の上に直接降りかかる。導電性繊維3の接着剤2aへの挿入部の長さは、電極11と静電スプレーガン12との間の電圧を調整して制御可能である。また、導電性繊維3の一端部を樹脂層2に挿入できるものであれば、スプレーコート法や静電植毛法など、他の公知の方法を用いてもよい。
【0029】
図2(d)に示すように、硬化工程として、接着剤2aを乾燥させるなどして硬化させて樹脂層2とし、基材1に飛翔し直接降りかかった導電性繊維3をバキュームクリーナ14で吸引して除去する。弱粘着ローラーなどを用いて除去してもよい。これによって、導電性繊維3を電極パターン上に植設し電極領域とした起毛電極10を得ることができる。
【0030】
さらに、電極領域としない部分には、導電性繊維3の上から絶縁膜を形成して配線領域としてもよい。すなわち、絶縁シートを圧着したり、絶縁ペーストを塗布して乾燥させたりして絶縁膜を形成する。かかる絶縁膜としては、伸縮性や柔軟性に富むウレタンエラストマーやシリコーン樹脂、ブチルゴム系材料が好適である。
【0031】
[原理]
次に、生体電極として起毛電極10を使用した場合に、伸縮や変形に追従し、導電性を維持する原理について、
図3及び
図4を用いて説明する。
【0032】
図3(a)に示すように、初期状態で樹脂層2に一端を挿入された導電性繊維3は、非挿入部で接点Cによって電気的に接続している。
【0033】
図3(b)に示すように、このような起毛電極10の上から物体Bを押し付けると、起毛電極10の厚さを小さくする方向に導電性繊維3は傾く。つまり、導電性繊維3は、その他端側を樹脂層2に近づけるように、換言すれば基材1(
図1参照)の主面に対する角度を小さくして寝る方向に、その傾きを大きくし、電極領域の厚さを小さくする。この場合でも、より樹脂層2に近づけた位置で接点Cを維持し、電気的な接続を維持できる。なお、実際には、導電性繊維3同士は3次元的に複数同士で接触し合っており、面内等方的な電気特性を与えるよう、隣接するいくつかの導電性繊維3同士が複数箇所の接点Cを有するよう高い密度で存在することが好ましい。これによれば、基材1及び樹脂層2がいずれも絶縁性であり得る。
【0034】
また、
図3(c)に示すように、起毛電極10を基材1(
図1参照)の主面に沿った方向に伸ばすと、接点Cを有していた導電性繊維3同士の挿入部の距離は離れる。ここで、導電性繊維3の挿入部の最も深い部分と最表面の部分との延伸方向の距離d2は伸縮可能な樹脂層2の伸びに伴い、伸ばされる前の距離d1よりも長くなる。距離d1からd2への変形によって、導電性繊維3は基材1の主面に対する角度を小さくよう傾斜する。これにより、導電性繊維3のより先端側(他端側)に接点Cを維持し得る。延伸方向の変形によって電極領域内での導電性繊維3の密度は低下されようとするが、一方で厚さ方向に電極領域を薄くする変形によってかかる密度の低下を少なからず相殺し得て、電極領域内での電気的な接続を維持しやすい。
【0035】
なお、かかる樹脂層2の伸びに伴う導電性繊維3の角度の変化は、導電性繊維3の挿入部が非挿入部に比べて十分に小さいことで得られ、典型的には、長さの比において2倍以上、つまり、挿入部:非挿入部=1:2、また、好ましくは1:3〜5である。なお、この比が大きすぎると、導電性繊維3は、
図3(b)に示すような物体Bの押し付け時に形状変化をし、又、抜けやすくなってしまう。
【0036】
以上のような原理で、伸縮性を有する起毛電極10は、身体に押し当てられて生体信号を収集するための生体電極などに使用され得るのである。すなわち、起毛電極10は、導電性繊維3同士を電気的に接続させた3次元的なネットワークを形成しており、曲面に対して追従して変形させても、また、押し付けによって厚さ方向に変形させても、面内等方の導電性を維持し得て、生体電極としての使用に適する。
【0037】
このように、導電性繊維3による電極領域によって導電性を維持できるから、上記したように樹脂層2に導電性を必要とせず、導電性繊維3を好ましい付与形態で植設できるように基材1に対応した樹脂層2の材料選択の幅を広げ得るのである。
【0038】
なお、
図4(a)に示すように、起毛電極10は、導電性繊維3の基材1の主面に対する角度を小さくしたものとすることもできる。同角度を大きくした起毛電極10(
図1参照)は、押し付けに対する変形によく追従するが、同角度を小さくすることで、基材1の主面に沿った方向への伸長に対して導電性を維持しやすくできる。
【0039】
また、
図4(b)に示すように、起毛電極10は、樹脂層2及び導電性繊維3による電極領域の層を積層させることもできる。この場合、導電性繊維3の上に重ねられた樹脂層2’は、その内部にも導電性を有する電極領域を備えることになる。樹脂層2及び2’を積層させたことで厚さ方向への変形により追従しやすくなるとともに、電気的な接続を樹脂層2’内で維持できて、導電性をより安定的に維持できる。
【0040】
[評価試験]
次に、起毛電極10を作製して評価試験を行った結果について、
図5乃至
図8を用いて説明する。
【0041】
図5(a1)及び(b1)に示すように、2種類の起毛電極10a及び10bを作製した。すなわち、
図5(a2)、(a3)、(b2)及び(b3)による断面写真及び断面図に示すように、基材1の主面に対する導電性繊維3の角度の小さい起毛電極10aと、かかる角度の大きい起毛電極10bを作製した。なお、導電性繊維3としては、線形17μm、長さ0.5mmの銀メッキ繊維を用いた。
【0042】
図6(a)に示すように、起毛電極10a及び10bの上に導電ゴムGを押し当てて、電極上をスライドさせたときの起毛電極10a及び10bと導電ゴムGと間の電気抵抗を測定した。なお、比較例1として基材1にAgペーストを塗布して乾燥させた電極、比較例2として銅板電極を用い、同様に導電ゴムGを押し当てて電極上をスライドさせたときの電気抵抗を測定した。
【0043】
図6(b)に示すように、起毛電極10a及び10bにおいては、比較例1及び2に比べて電気抵抗は小さく、その変化も小さく面内等方的に連続的な変化であった。これは、押し当てられた導電ゴムGの先端部の形状に起毛電極10a及び10bが追従して変形し、導電ゴムGとの接触点を多く得て接触面積を広くできたためと考えられる。また、導電ゴムGのスライドに対しても、特に導電性繊維3の変形によって追従性よく変形して、導電ゴムGとの接触点の数を維持するようにできたものと考えられる。なお、基材1の主面に対する導電性繊維3の角度の大きな起毛電極10bの方が角度の小さな起毛電極10aよりも電気抵抗が小さかった。これは、上記したように、導電性繊維3の角度を大きくしたほうが、押し付けに対する変形によく追従するためであると考えられる。
【0044】
これに対し、比較例1(Agペースト電極)や比較例2(銅板)では、厚さ方向の形状変化に対する追従性が悪く、押し付けた導電ゴムGとの接触面積を小さくしてしまう。またこれをスライドさせても、導電ゴムGの移動に伴う形状変化に追従しづらく、小さな接触面積をさらに減少させるなどして電気抵抗を不連続的に大きく変化させてしまうものと考えられる。
【0045】
図7に示すように、起毛電極10a及び10bと、比較例1のAgペースト電極をそれぞれ主面に沿った方向に1.5倍に伸ばし、もとに戻す伸縮操作を繰り返し行い、その主面に沿った方向の電極領域の電気抵抗を測定した。比較例1は伸縮操作によって大きく不連続的に電気抵抗が変化した。Agペースト電極は伸ばしたときに電気抵抗が大きくなってしまうことが判る。これに対し、起毛電極10a及び10bはともに伸縮操作による電気抵抗の変化は小さく連続的な変化であり、伸長に対して導電性を良好に維持していることが判る。より詳細には、基材1の主面に対する導電性繊維3の角度の小さい起毛電極10aの方が、角度の大きい起毛電極10bよりも電気抵抗の変化が小さかった。上記したように、導電性繊維3の角度を小さくした方が、基材1の主面に沿った方向への伸長に対して導電性をより維持しやすいことが判る。
【0046】
図8に示すように、起毛電極10a及び10bと、比較例1のAgペースト電極のそれぞれについて洗浄を繰り返し行い、洗浄の回数に対する主面に沿った方向の電極領域の電気抵抗を測定した。比較例1のAgペースト電極では、わずか3回の洗浄で電気抵抗を大きく増大させてしまった。洗浄中の電極の曲げ等の形状変化によりAgペーストが主面に沿った方向に分断されてしまい、さらには部分的に水流で脱落してしまったと考えられる。対して、起毛電極10a及び10bはともに洗浄による電気抵抗の大きな変化が少なくとも10回までは観察されなかった。曲げ等の変形に対する樹脂層2の追従性が高く、導電性繊維3の洗浄による脱落が少なかったものと考えられる。
【0047】
以上のように、起毛電極10a及び10bによれば、Agペースト電極に比べて、押し付けや延伸といった変形に良好に追従し、導電性を維持できて、生体電極として優れることが判る。
【0048】
[実施例1]
図9(a)に示すように、上記した製造方法によって起毛電極20を製造した。起毛電極20は紙面上方に導電性繊維3による電極領域21が方形に3つ形成され、電極領域21のそれぞれから下方に向けて延びる導電性繊維3による配線領域22が形成される。配線領域22は、上記したように、導電性繊維3の植設された領域の上から絶縁体からなる絶縁被膜を形成された領域である。配線領域22の下端には、端子23が接続されている。
【0049】
図9(b)に示すように、起毛電極20によって心電波形の計測を行ったところ、明瞭な波形が得られ、心電図を得るための生体電極として良好に機能することが確認された。
【0050】
[実施例2]
図10(a)に示す起毛電極30は、スクリーン印刷及び静電植毛を用いて製造されたものである。スクリーン印刷によって基材1に接着剤2aを塗布し(
図2参照)、静電直毛法によって導電性繊維3を植設した。接着剤2aとしては、DIC株式会社製のアクリルエマルジョン(商品名:ボンコート W−386)を用いた。
【0051】
図10(b)を参照すると、スクリーン印刷に用いたメッシュ31は、接着剤2aを厚く塗布できるよう、紗厚を155μmと厚くした線径40μmの繊維によるメッシュカウント200の3Dメッシュである。スクリーン版は、メッシュ31に感光乳剤を50μmの厚さで塗布し、乾燥させ、
図10(c)に示すミタニマイクロニクス株式会社製のスクリーンマスクによるポジフィルムを貼り付けて露光させて得た。なお、スクリーン版には、接着剤2aが版残りしないように溌液コートを施した。
【0052】
このように、電極領域(及び配線領域)を形成する電極パターンとなるよう接着剤2aをスクリーン印刷によって塗布し、導電性繊維3を静電植毛法によって植設しても、導電性繊維3を上記したような付与形態とした起毛電極30を得られた。
【0053】
以上、本発明による実施例、これに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0054】
1 基材
2 樹脂層
3 導電性繊維
10、10a、10b、20、30 起毛電極