(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6847515
(24)【登録日】2021年3月5日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】耐冷性トリグリセリド
(51)【国際特許分類】
C11C 3/00 20060101AFI20210315BHJP
A61K 31/23 20060101ALI20210315BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20210315BHJP
C07C 69/30 20060101ALI20210315BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20210315BHJP
A23D 9/04 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
C11C3/00
A61K31/23
A61P3/02
C07C69/30
A23D9/00 516
A23D9/04
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-8162(P2017-8162)
(22)【出願日】2017年1月20日
(65)【公開番号】特開2018-115285(P2018-115285A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛
(72)【発明者】
【氏名】笠井 通雄
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/052847(WO,A1)
【文献】
特公昭50−018001(JP,B1)
【文献】
国際公開第2016/121675(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00−15/00
C11C 1/00− 5/02
A23D 7/00− 9/06
A61K31/00−31/327
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドが、トリカプリリン、トリカプリン及び/又はトリラウリンの混合物からなり、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が11〜24質量%であり、n−デカン酸の割合が76〜89質量%である、前記トリグリセリド。
【請求項2】
前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が20質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%である、請求項1に記載のトリグリセリド。
【請求項3】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合が91〜99質量%であり、n−ドデカン酸の割合が1〜9質量%である、前記トリグリセリド。
【請求項4】
前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合が95質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5質量%である、請求項3に記載のトリグリセリド。
【請求項5】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が1〜25質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜90質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であり、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計が100質量%である、前記トリグリセリド。
【請求項6】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が5〜15質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜85質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であり、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計が100質量%である、前記トリグリセリド。
【請求項7】
前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が10質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%であり、n−ドデカン酸の割合が10質量%である、請求項5又は6に記載のトリグリセリド。
【請求項8】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドが、トリカプリリン、トリカプリン及び/又はトリラウリンの混合物からなり、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合を11〜24質量%、n−デカン酸の割合を76〜89質量%とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合が特定の数値範囲となるようにした、耐冷性トリグリセリド、及び、該トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者や病中病後の患者は、通常の食事を十分に取ることができないため、低栄養状態に陥る場合がある。このような事態に対処するため、少量の摂取で十分な栄養を摂取できるような食品の開発が行われている。特に、エネルギー(カロリー)の摂取に主眼をおいた場合、このような食品の脂質含量を高めた方が効率がよい。加えて、ケトン食(例えば、特許文献1)や糖尿病食、低炭水化物ダイエットに対応する食品とするには、高脂質、低糖質であることが好ましい。
【0003】
このような食品に利用される脂質としては、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド(以下、「MTG」ともいう。)がよく知られている。MTGに含まれる中鎖脂肪酸は、消化管内で速やかに吸収され、肝臓で極めて早く分解されエネルギーに変わることから、栄養学的な利点を有している。しかしながら、MTGを一度に大量に摂取すると、咽頭部や胃上部の刺激、胃もたれやむかつき等の不快感を誘発することがある。
【0004】
MTGの中でも、構成脂肪酸中に炭素数が10であるn−デカン酸を多く含むものは、咽頭部や胃上部の刺激、胃もたれやむかつき等の不快感が少ないことが報告されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、構成脂肪酸に占めるn−デカン酸の含有量が高いMTGにおいては、室温において固化しやすく、もしくは結晶が析出しやすく、一部の食品形態(例えば、乳化食品)では、使い勝手が良いとはいえない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−506587号公報
【特許文献2】再公表特許第2010/052847号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、室温(20℃)においても固化又は結晶化しにくい、耐冷性を備えた、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド、及び該トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合を特定の数値範囲となるようにすることで、本課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
〔1〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が11〜24質量%であり、n−デカン酸の割合が76〜89質量%である、前記トリグリセリド。
〔2〕前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が20質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%である、〔1〕に記載のトリグリセリド。
〔3〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合が91〜99質量%であり、n−ドデカン酸の割合が1〜9質量%である、前記トリグリセリド。
〔4〕前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合が95質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5質量%である、〔3〕に記載のトリグリセリド。
〔5〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が1〜25質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜90質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であり、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計が100質量%である、前記トリグリセリド。
〔6〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が5〜15質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜85質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であり、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計が100質量%である、前記トリグリセリド。
〔7〕前記中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が10質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%であり、n−ドデカン酸の割合が10質量%である、〔5〕又は〔6〕に記載のトリグリセリド。
〔8〕前記構成脂肪酸が中鎖脂肪酸のみである、〔1〕ないし〔7〕のいずれか1項に記載のトリグリセリド。
〔9〕前記トリグリセリドが、トリカプリリン、トリカプリン及び/又はトリラウリンの混合物からなる、〔1〕ないし〔8〕のいずれか1項に記載のトリグリセリド。
〔10〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合を11〜24質量%、n−デカン酸の割合を76〜89質量%とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法。
〔11〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合を91〜99質量%、n−ドデカン酸の割合を1〜9質量%とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法。
〔12〕構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合を1〜25質量%、n−デカン酸の割合を75〜90質量%、n−ドデカン酸の割合を5〜14質量%(ただし、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計は100質量%である)とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、室温(20℃)において固化又は結晶化しにくく、耐冷性に優れた、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドを提供することができる。これにより、これまで固化しやすく、又は結晶が析出しやすかった、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドを、例えば、乳化食品などの一部の食品形態においても使用しやすくなる。また、本発明では、何らの添加剤を加えることなく、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合を特定の数値範囲となるように調整するだけでよいため、中鎖脂肪酸の栄養学的な利点を活かしつつ、使い勝手の良い該トリグリセリドを提供することができる。
さらに、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドは、食品のみならず、化粧品や医薬品の原料としても使用されるため、耐冷性に優れたものが得られれば、その使用用途がさらに拡大することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1と比較例2〜4のトリグリセリドを20℃で10日間保存したときの固化状態の結果を示す図である。
【
図2】実施例2〜3と比較例5〜6のトリグリセリドを20℃で10日間保存したときの固化状態の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合が特定の数値範囲になっていることを特徴とする。以下、詳しく説明する。
[構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド]
本発明において、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド(以下、「MTG」とも表す)とは、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸の一部もしくは全部とするトリグリセリドを意味する。構成脂肪酸のすべてが中鎖脂肪酸であるトリグリセリドは、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、「MCT」とも表す)といい、MTGの中に含まれる。また、本発明において、中鎖脂肪酸とは、炭素数8〜12の脂肪酸であり、直鎖の飽和脂肪酸であることが好ましい。具体的には、n−オクタン酸(カプリル酸)、n−デカン酸(カプリン酸)、n−ドデカン酸(ラウリン酸)である。
また、本発明において、構成脂肪酸は中鎖脂肪酸のみであることが好ましく、具体的には、構成脂肪酸は、n−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸のみであることが好ましい。
【0012】
本発明において、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が11〜24質量%であり、n−デカン酸の割合が76〜89質量%であれば、室温(20℃)における耐冷性が向上するので好ましい。また、n−オクタン酸の割合が12〜23質量%であり、n−デカン酸の割合が77〜88であることがより好ましく、n−オクタン酸の割合が15〜22質量%であり、n−デカン酸の割合が78〜85質量%であることがさらに好ましく、n−オクタン酸の割合が20質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%であることが殊更好ましい。
【0013】
別の態様では、本発明において、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合が91〜99質量%であり、n−ドデカン酸の割合が1〜9質量%であれば、室温(20℃)における耐冷性が向上するので好ましい。また、n−デカン酸の割合が92〜98質量%であり、n−ドデカン酸の割合が2〜8質量%であることがより好ましく、n−デカン酸の割合が93〜96質量%であり、n−ドデカン酸の割合が4〜7質量%であることがさらに好ましく、n−デカン酸の割合が95質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5質量%であることが殊更好ましい。
【0014】
さらに別の態様では、本発明において、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が1〜25質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜90質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であれば、室温(20℃)における耐冷性が向上するので好ましい(なお、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計は100質量%である。以下同様。)。また、n−オクタン酸の割合が4〜20質量%であり、n−デカン酸の割合が77〜86質量%であり、n−ドデカン酸の割合が7〜13質量%であることがより好ましく、n−オクタン酸の割合が7〜15質量%であり、n−デカン酸の割合が78〜83質量%であり、n−ドデカン酸の割合が8〜12質量%であることがさらに好ましい。
【0015】
また、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合が5〜15質量%であり、n−デカン酸の割合が75〜85質量%であり、n−ドデカン酸の割合が5〜14質量%であれば、室温(20℃)における耐冷性が向上するので好ましい(なお、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計は100質量%である。以下同様。)。また、n−オクタン酸の割合が6〜14質量%であり、n−デカン酸の割合が76〜84質量%であり、n−ドデカン酸の割合が6〜13質量%であることがより好ましく、n−オクタン酸の割合が7〜13質量%であり、n−デカン酸の割合が77〜83質量%であり、n−ドデカン酸の割合が7〜12質量%であることがさらに好ましく、n−オクタン酸の割合は8〜12質量%であり、n−デカン酸の割合が78〜82質量%であり、n−ドデカン酸の割合が8〜11質量%であることが殊更好ましく、n−オクタン酸の割合は10質量%であり、n−デカン酸の割合が80質量%であり、n−ドデカン酸の割合が10質量%であることが最も好ましい。
【0016】
本発明で使用される構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドは、従来公知の方法で製造できる。例えば、n−デカン酸(必要に応じて他の脂肪酸も含み得る)とグリセロールとを、触媒下、好ましくは無触媒下、また、好ましくは減圧下で、50〜250℃、より好ましくは120〜180℃に加熱し、脱水縮合させること(エステル合成)により製造できる。
ここで、触媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、通常のエステル合成に用いられる酸触媒又は塩基触媒等を使用することができる。減圧下とは、例えば、0.01〜100Pa、好ましくは、0.05〜75Pa、より好ましくは、0.1〜50Paである。このとき系内の水分は少ない方が好ましく、更に好ましくは0.2質量%以下である。
【0017】
本発明の構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドは(MTG)は、また、中鎖脂肪酸及び長鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド(以下、「MLCT」とも表す)であってもよい。MLCTは、グリセロールに結合する3個の脂肪酸のうち、中鎖脂肪酸と長鎖脂肪酸とがそれぞれ少なくとも1個結合したトリグリセリドである。ここで、長鎖脂肪酸とは、炭素数が14以上の脂肪酸であり、直鎖脂肪酸であることが好ましい。具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。MLCTを構成する長鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸の全量に占める不飽和脂肪酸の含有量が70〜100質量%(より好ましくは80〜100質量%)であることが好ましい。
【0018】
上記MLCTは、MCTと同様に、エステル合成により製造されてもよい。MLCTは、また、MCTと長鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、「LCT」とも表す)の混合物をエステル交換することにより製造されてもよい。ここで、LCTとは、構成脂肪酸のすべてが長鎖脂肪酸であるトリグリセリドである。LCTとしては、構成脂肪酸に占める不飽和脂肪酸の含有量が70質量%以上である油脂が好ましい。
上記MCTとLCTの混合物のエステル交換は、MCTとLCTとが、質量比で10:90〜90:10(より好ましくは20:80〜80:20)の割合で混合された混合物のエステル交換であることが好ましい。エステル交換する方法としては、特に限定されるものではなく、ナトリウムメトキシドを触媒とした化学的エステル交換や、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換など、通常行われる方法でよい。
【0019】
[トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法]
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合が特定の数値範囲にすると、耐冷性が向上することから、本発明は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合を11〜24質量、n−オクタン酸の割合を76〜89質量%とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法にも関する。
また、別の態様では、本発明は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−デカン酸の割合を91〜99質量%、n−ドデカン酸の割合を1〜9質量%とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法にも関する。
さらに、別の態様では、本発明は、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合を1〜25質量%、n−デカン酸の割合を75〜90質量%、n−ドデカン酸の割合を5〜25質量%(ただし、前記中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸、n−デカン酸およびn−ドデカン酸の割合の総計は100質量%である。)とすることにより、前記トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法にも関する。
なお、本明細書において、「耐冷性」とは、一旦、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドを溶解した後、室温(20℃)で10日間保存した場合であっても、固化又は結晶化状態にならず、清澄状態を維持していることをいう。
【0020】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドにおいて、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合を特定の数値範囲になるように調整する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、市販されているトリカプリリン(トリカプリル酸グリセロール)、トリカプリン(トリカプリン酸グリセロール)、トリラウリン(トリラウリン酸グリセロール)を適当量混合して、特定の数値範囲になるように調整することができる。また、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドをエステル合成する際に、原料となるn−オクタン酸、n−デカン酸、n−ドデカン酸を適当量混合することにより、特定の数値範囲になるように調整することができる。
なお、トリグリセリドの耐冷性を向上させる方法において、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占める、n−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合及び/又はn−ドデカン酸の割合等については、上述で定義したとおりである。
【実施例】
【0021】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0022】
以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を意味する。
油脂に含まれるトリアシルグリセロールの組成の分析は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)準拠)を用いて行った。
油脂に含まれるトリアシルグリセロール(TAG)の有する構成脂肪酸の分析は、ガスクロマトグラフ法(AOCS Ce1f−96準拠)を用いて行った。
【0023】
<原料油脂>
(1)構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド
MCT1(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:スコレー8(構成脂肪酸がn−オクタン酸のみであるトリグリセリド:トリカプリリン)、融点9〜10℃)
MCT2(日清オイリオグループ株式会社製、ラボ調製品(構成脂肪酸がn−デカン酸のみであるトリグリセリド:トリカプリン)、融点31〜32℃)
MCT3(日清オイリオグループ株式会社製、ラボ調製品(構成脂肪酸がn−ドデカン酸のみであるトリグリセリド:トリラウリン)、融点46〜47℃)
【0024】
<トリグリセリドの配合比率及び目視による固化状態の結果>
下記表1に示した配合比率で、MCT1、MCT2およびMCT3を合計50g(グラム)となるように50ml(ミリリットル)のサンプル瓶の中に加えて混合し、実施例1〜3のトリグリセリド、比較例1〜12のトリグリセリドを調製した。
なお、実施例1〜3、比較例1〜12のトリグリセリドは、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリドであって、前記トリグリセリドを構成する中鎖脂肪酸の全量に占めるn−オクタン酸の割合、n−デカン酸の割合、及び/又はn−ドデカン酸の割合が、前記配合比率と同じ値になっているトリグリセリドである。
また、上記のごとく調製したトリグリセリドを80℃で一旦溶解(清澄化)した後、徐冷で20℃の恒温装置にて0日間、3日間、5日間、10日間保存して、目視により固化状態(清澄のままであるか、固化又は結晶化しているか)をそれぞれ測定した。以上の結果を表1〜3に記した(なお、表1には、10日後の目視による固化状態の結果のみを●で示し、表2〜3には、上記0日〜10日後の目視による固化状態の結果を示した)。
なお、上述したように、MCT2は融点が31〜32℃なので、MCT2を50質量%以上の配合比率で含む、表1のトリグリセリドは、20℃で10日間保存した場合、清澄状態から固化又は結晶化状態になることが予測される。
【0025】
【表1】
【0026】
【0027】
【0028】
表1〜3に示したように、実施例1〜3に示した特定の配合比率においては、予想に反して意外にも、清澄(透明で液状)を維持する現象が見られた。一方、比較例1〜12の配合比率では、予想通り、固化もしくは結晶化する現象が見られたことから、実施例1〜3の配合比率及びその周辺の配合比率においては、20℃で10日間保存しても清澄性を維持することが期待できる。そして、このような清澄状態のトリグリセリドは、様々な食品形態や医薬品及び化粧品等に幅広く応用することができる。