特許第6848249号(P6848249)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

特許6848249非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池
<>
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000003
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000004
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000005
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000006
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000007
  • 特許6848249-非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848249
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20210315BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210315BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G53/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-150621(P2016-150621)
(22)【出願日】2016年7月29日
(65)【公開番号】特開2018-18789(P2018-18789A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝晃
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 淳
【審査官】 渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/142279(WO,A1)
【文献】 特開2015−072801(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/133063(WO,A1)
【文献】 特開2016−100060(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115547(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/060105(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/182665(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表され、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物で構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
走査電子顕微鏡により取得される前記二次粒子断面の画像解析の結果から得られる空隙率が、前記二次粒子の中心部から前記二次粒子の半径の2分の1までの第1領域において5%以上50%以下であり、かつ、前記第1領域の外側の第2領域において1.5%以下であることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記第2の領域における空隙率が1.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記第1領域における空隙率が5%以上20%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
タップ密度が2.1g/cm以上2.6g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
体積平均粒径MVが5〜20μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔D90−D10)/平均粒径〕が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えることを特徴とする非水系電解質二次電池。
【請求項7】
一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表され、かつ、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
反応水溶液中で少なくともニッケル、コバルト及びマンガンをそれぞれ含む塩を中和してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を晶析させる晶析工程と、
前記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と、リチウム化合物を混合して得たリチウム混合物とを、酸素雰囲気中で焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る焼成工程とを、含み、
前記晶析工程において、前記反応水溶液の液面上の雰囲気を酸素濃度0.2容量%以上2容量%以下の範囲に調整し、前記反応水溶液の温度を38℃以上45℃以下の範囲、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.0以上12.5の範囲、及び反応水溶液中の溶解ニッケル濃度を300mg/L以上900mg/L以下の範囲に制御する、
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記晶析工程は、反応槽にニッケルとコバルト及びマンガンを含む混合水溶液を連続的に加えて、中和させて生成するニッケルマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーをオーバーフローさせて前記粒子を回収することを特徴とする請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記晶析工程において、前記混合水溶液の濃度を1.5mol/L以上2.5mol/L以下とすることを特徴とする請求項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記焼成工程において、800℃以上1000℃以下の温度で焼成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記焼成工程において、前記リチウム化合物として、水酸化リチウム、炭酸リチウム、又はこれらの混合物を用いることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、及び非水系電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコン等の携帯機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型かつ軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、環境意識の高まりを受け、CO排出量の少ないXEVと呼ばれる環境対応自動車の開発が進められている。環境対応自動車用二次電池に要求される特性として、1回の充電当たりの走行距離の向上と充放電を繰り返した際の優れたサイクル性が挙げられる。よって、これらに用いられる二次電池には、高エネルギー密度化とともにより優れたサイクル特性が要求されている。
【0003】
高いエネルギー密度を有する二次電池として、非水系電解質二次電池がある。非水系電解質二次電池の代表的な電池としてはリチウムイオン二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池の正極材料には、リチウム金属複合酸化物が正極活物質として使用される。リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)は、合成が比較的容易であり、かつ、リチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池において、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する二次電池を実現できるための正極活物質として実用化されている。
【0004】
しかしながら、コバルトは希少で高価であり、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)などの開発が進められている。中でもリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は比較的安価であり、熱安定性・耐久性などのバランスに優れているため注目されている。しかしながら、エネルギー密度の向上がさらに求められ、サイクル特性の改善も求められている。
【0005】
正極活物質におけるエネルギー密度とサイクル特性の向上の要求に対応して種々の提案が行われている。例えば、特許文献1では、サイクル特性を向上させるとともに高出力化するため、平均粒径が2〜8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕が0.60以下である非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。このような活物質は電気化学反応が均一に起こるため、高容量・高寿命であるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子から構成され、一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有するか、又は二次粒子の内部に空隙を有し、その被覆層又は空隙の面積占有率が二次粒子断面積の2.5〜9%である非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。このような正極活物質を用いることで、高い充放電初期容量を有すると同時にサイクル耐久性にも優れた二次電池が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−116580号公報
【特許文献2】特開2010−080394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の正極活物質では、正極活物質の充填性が低くなるために、体積エネルギー密度の点では高いとはいえない。一方、特許文献2の正極活物質では、空隙を二次粒子の全体に形成しているため、この空隙が抵抗となり、電池の反応抵抗を上昇させ、充放電容量を低下させてしまう。また、この活物質は、一次粒子の表面に無機リチウム化合物の被覆層を有することにより、得られる二次電池の反応抵抗を上昇させることになる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い充放電容量を有するとともに、充放電を繰り返しても充放電容量の劣化が少ない非水系電解質二次電池が得られる正極活物質と、該正極活物質を正極に含む非水系電解質二次電池を提供する。
【0010】
さらに、本発明においては、上記非水系電解質二次電池用正極活物質の工業的規模においても簡便かつ安価な製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、非水系電解質二次電池の充放電容量とサイクル特性の改善について鋭意検討したところ、正極活物質が特定の粒子構造を有することで充放電容量とサイクル特性が改善されるとの知見を得た。また、正極活物質の粒子構造は、前駆体となる複合水酸化物の製造条件が大きく影響しており、正極活物質の製造において、特定の晶析条件で製造して得られる複合水酸化物を用いることにより、正極活物質の粒子構造の制御が可能であるとの知見を得て、本発明を完成した。
【0012】
本発明の第1の態様では、一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表され、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなるリチウム金属複合酸化物で構成され、走査電子顕微鏡により取得される前記二次粒子断面の画像解析の結果から得られる空隙率が、二次粒子の中心部から二次粒子の半径の2分の1までの第1領域において5%以上50%以下であり、かつ、第1領域の外側の第2領域において1.5%以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
【0013】
また、上記正極活物質は、第2の領域における空隙率が1.0%以下であることが好ましい。また、上記正極活物質は、第1領域における空隙率が5%以上20%以下であることが好ましい。また、上記正極活物質は、タップ密度が2.1g/cm以上2.6g/cm以下であることが好ましい。また、上記正極活物質は、体積平均粒径MVが5μm以上20μm以下であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔D90−D10)/平均粒径〕が0.7以上であることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の態様では、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を含む正極を備えることを特徴とする非水系電解質二次電池が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様では、一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表され、かつ、複数の一次粒子が凝集した二次粒子からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、反応水溶液中で少なくともニッケル、コバルト及びマンガンをそれぞれ含む塩を中和してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を晶析させる晶析工程と、前記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とリチウム化合物を混合して得たリチウム混合物とを、酸素雰囲気中で焼成して、リチウム金属複合酸化物を得る焼成工程とを、含み、晶析工程において、反応水溶液の液面上の雰囲気を酸素濃度0.2容量%以上2容量%以下の範囲に調整し、反応水溶液の温度を38℃以上45℃以下の範囲、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を11.0以上12.5の範囲、及び反応水溶液中の溶解ニッケル濃度を300mg/L以上900mg/L以下の範囲に制御する、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0016】
また、晶析工程は、反応槽にニッケルとコバルト及びマンガンを含む混合水溶液を連続的に加えて、中和させて生成するニッケルマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーをオーバーフローさせて粒子を回収することが好ましい。また、晶析工程において、混合水溶液の濃度を1.5mol/L以上2.5mol/L以下とすることが好ましい。焼成工程において、800℃以上1000℃以下の温度で焼成することが好ましい。また、焼成工程において、リチウム化合物として、水酸化リチウム、炭酸リチウム、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質により、高い充放電容量を有し、サイクル特性に優れる非水系電解質二次電池が得られる。また、その正極活物質の製造方法は、工業的規模においても容易に実施が可能であり、その工業的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(A)は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の一例を示す模式図であり、図1(B)は、非水系電解質二次電池用正極活物質内部の領域を説明する図である。
図2図2は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法(概略)の一例を示すフロー図である。
図3図3は、本実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法における晶析工程の一例を示す図である。
図4図4は、電池特性の評価に用いたコイン型電池の概略断面図である。
図5図5は、実施例1の正極活物質の断面SEM像である
図6図6は、比較例4の正極活物質の断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法等の一例について説明する。なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0020】
(1)非水系電解質二次電池用正極活物質
図1(A)は、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質10(以下、「正極活物質10」ともいう。)を構成するリチウム金属複合酸化物11の一例を示す模式図であり、図1(B)は、正極活物質10内部の領域について説明した図である。図1(A)に示すように、リチウム金属複合酸化物11は、複数の一次粒子12が凝集した二次粒子13からなる。また、二次粒子13は、複数の一次粒子12間に空隙14を有する。なお、リチウム金属複合酸化物11は、主に一次粒子12が凝集した二次粒子13から構成されるが、例えば、二次粒子13として凝集しなかった一次粒子12や、凝集後に二次粒子13から脱落した一次粒子12など、少量の単独の一次粒子12を含んでもよい。
【0021】
一次粒子12が凝集した二次粒子13からなるリチウム金属複合酸化物11で構成された正極活物質10は、その粒子構造、特に空隙率が、非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)に用いられた際の二次電池の特性に大きく影響する。本発明者らは、図1(B)に示すように、二次粒子13の中心部Cから二次粒子13の半径rの2分の1までの内側の領域(第1領域R1)の空隙率を特定の範囲とし、この領域の外側の領域(第2領域R2)の空隙率を、第1領域R1の空隙率よりも低い特定の範囲とした場合、正極活物質10を二次電池に用いた際に、二次電池の充放電容量(以下、「電池容量」ともいう。)を低下させずに、充放電を繰り返した際の電池容量の維持率(以下、「サイクル特性」ともいう。)を向上できることを見出し、本発明を完成させた。サイクル特性が向上する理由は、特に限定されないが、例えば、二次粒子13の各領域によって空隙率を変えた正極活物質を用いることにより、充放電を繰り返した際に二次粒子13が割れることを抑制し、二次粒子13の割れによる電池容量の低下を低減することが考えられる。
【0022】
正極活物質10は、第1領域R1(以下、「内側領域R1」ともいう。)において空隙率が5.0%以上50%以下である。ここで、内側領域R1とは、二次粒子13断面の中心部Cから二次粒子13の半径rの2分の1までの領域をいい、例えば、二次粒子13の外周からなる断面形状の重心を中心部Cとし、中心部Cから二次粒子13外周上の任意の点までの最短距離を半径rとした場合の中心部から半径の2分の1までの領域をいう(図1(B)参照)。内側領域R1の空隙率が上記範囲である場合、正極活物質10を用いた二次電池のサイクル特性が向上する。内側領域R1の空隙率が5.0%未満である場合、充放電の際の粒子の膨張と収縮による応力負荷を緩和することができず、充放電を繰り返した際の二次粒子13の割れを低減できないため、サイクル特性が低下する。一方、内側領域R1の空隙率が50%を超える場合、二次粒子13の密度が低下するため、電池容器内への充填密度が不足し、電池の容積当たりのエネルギー密度が低下しやすい。また、エネルギー密度をより向上させるという観点から、内側領域R1の空隙率は、20%以下であることが好ましい。
【0023】
正極活物質10は、第2領域(以下、「外側領域R2」ともいう。)において空隙率が1.5%以下である。ここで、外側領域R2は、二次粒子13中の内側領域R1の外側の領域をいい、すなわち、二次粒子13中の内側領域R1以外のすべての領域をいう(図1(B)参照)。外側領域R2の空隙率が上記範囲である場合、二次粒子13の密度が高くなり、エネルギー密度が向上したり、二次粒子の強度13を向上させ、二次粒子13の割れが抑制されたりする。また、エネルギー密度をより向上させるという観点から、外側領域R2の空隙率は、1.0%以下であることが好ましい。なお、外側領域R2の空隙率の下限は、例えば、0.05%以上であり、好ましくは0.1%以上である。
【0024】
正極活物質10は、内側領域R1と外側領域R2との空隙率を、それぞれ上記範囲とすることにより、高いエネルギー密度を有するとともに、充放電の際の粒子の膨張と収縮による応力負荷を効率よく緩和することができ、これを用いた二次電池は、高い電池容量を有するとともに、サイクル特性に非常に優れる。
【0025】
ここで、正極活物質10内部(内側領域R1及び外側領域R2)の空隙率は、走査型電子顕微鏡(SEM)により取得される画像(SEM像)を解析することにより得ることができる。例えば、正極活物質10(二次粒子13)を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより二次粒子13断面観察が可能な状態でSEM像を撮影し、WinRoof6.1.1(商品名)などの画像解析ソフトを用いて、空隙を黒色部として検出し、〔(二次粒子13の各領域の空隙14の面積/二次粒子13の各領域の断面積)×100〕(%)で表される値として求めることができる。例えば、内側領域R1の空隙率の場合、〔(内側領域R1の空隙14の面積/内側領域R1の断面積)×100〕(%)、すなわち〔(内側領域R1の空隙14の面積)/(内側領域R1の一次粒子12の断面積と空隙14の面積との和)×100〕(%)により求めることができる。
【0026】
なお、観察する二次粒子13断面は、複数の二次粒子13の断面において、1つの二次粒子13の断面の外周上で距離が最大となる2点間の距離d(図1(A)参照)が、レーザー光回折散乱式粒度分析計を用いて測定された体積平均粒径(MV)の80%以上となる二次粒子13を、任意(無作為)に20個選択したものである。
【0027】
正極活物質10は、タップ密度が2.0g/cm以上2.6g/cmであることが好ましく、2.1g/cm以上2.5g/cmであることがより好ましい。タップ密度が上記範囲である場合、正極活物質10は優れた電池容量と充填性を両立したものとなり、二次電池のエネルギー密度をより向上させることができる。
【0028】
また、正極活物質10は、体積平均粒径MVが5μm以上20μm以下であることが好ましく、6μm以上15μm以下がより好ましい。これにより、充填性を高く維持しながら、比表面積の低下を抑制し、この正極活物質10を用いた二次電池は、高い充填密度と優れた出力特性とを両立させることができる。
【0029】
さらに、正極活物質10は、粒度分布の広がりを示す指標[(D90−D10)/平均粒径]が、0.70以上であることが好ましい。ニッケルマンガン複合水酸化物の粒度分布の広がりを示す指数が上記範囲である場合、微粒子や粗大粒子が適度に混入して、得られる正極活物質のサイクル特性や出力特性の低下を抑制しながら、粒子の充填性を向上させることができる。正極活物質への微粒子又は粗大粒子の過度な混入を抑制する観点から、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒度分布の広がりを示す指数は1.2以下とすることが好ましく、1.0以下とすることがより好ましい。
【0030】
上記[(D90−D10)/平均粒径]において、D10は、各粒径における粒子数を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径を意味し、D90は、同様に粒子数を累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径をそれぞれ意味している。また、平均粒径は、体積平均粒径MVであり、体積で重みづけされた平均粒径を意味している。体積平均粒径MVや、D90及びD10は、レーザー光回折散乱式粒度分析計を用いて測定することができる。
【0031】
リチウム金属複合酸化物11は、一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表される。上記組成式を有するリチウム金属複合酸化物11は、層状岩塩型構造の結晶構造を有する。なお、上記一般式中、αは、リチウム金属複合酸化物11に含まれるLi以外の金属元素に対するLiの原子数の比とLi以外の金属元素の価数に応じて変化する係数である。
【0032】
上記一般式中、ニッケルの含有量を示すxは、0.30≦x≦0.70であり、好ましくは0.30≦x≦0.60である。すなわち、リチウム金属複合酸化物11は、金属元素としてニッケル含み、リチウム以外の金属元素の合計に対してニッケルの含有量が30原子%以上70原子%以下、好ましくは30原子%以上60原子%以下である。層状岩塩型構造の結晶構造を有し、ニッケルの含有量が上記範囲である場合、リチウム金属複合酸化物11は、二次電池に用いられた際に高い電池容量を実現できる。
【0033】
上記一般式中、コバルトの含有量を示すyは、0.10≦y≦0.35であり、好ましくは、0.15≦y≦0.35である。すなわち、リチウム以外の金属元素の合計に対してコバルトの含有量が10原子%以上35原子%以下、好ましくは15原子%以上35原子%以下である。コバルト含有量が上記範囲である場合、高い結晶構造の安定性を有し、サイクル特性により優れる。
【0034】
上記一般式中、マンガンの含有量を示すzは、0.20≦z≦0.40である。すなわち、リチウム以外の金属元素の合計に対してマンガンの含有量が20原子%以上40原子%以下である。マンガンの含有量が上記範囲である場合、高い熱安定性を得ることができる。本実施形態に係るリチウム金属複合酸化物11は、上記のように特定の空隙率を有し、かつ、これらのニッケル、コバルトおよびマンガンを含有させることで、より高い電池容量と熱安定性を確保し、かつ、サイクル特性に非常に優れる。
【0035】
(2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
図2は、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)の製造方法(概略)の一例を示すフロー図であり、図3は、晶析工程の一例を示した図である。本実施形態の正極活物質の製造方法は、一般式:LiNiCoMn2+α(0.95≦a≦1.50、0.30≦x≦0.70、0.10≦y≦0.35、0.20≦z≦0.40、0≦t≦0.1、x+y+z+t=1、0≦α≦0.5、Mは、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Fe、及びWから選択される1種以上の金属元素)で表され、複数の一次粒子12が凝集した二次粒子13からなるリチウム金属複合酸化物11で構成される正極活物質10を、工業的規模において簡便に製造することができる。
【0036】
本実施形態の正極活物質の製造方法では、図2に示すように、晶析工程S11と、焼成工程S12とを有する。以下、各工程について詳細に説明する。また、図2、3を説明する際に、適宜、正極活物質の一例を示す模式図である図1を参照する。
【0037】
[晶析工程]
晶析工程S11は、反応水溶液中で少なくともニッケル、コバルト及びマンガンをそれぞれ含む塩を中和してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」ともいう。)を晶析させる工程である。晶析工程においては、図3に示すように、反応水溶液の液面上の雰囲気、反応水溶液の温度、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値、及び、反応水溶液中の溶解ニッケル濃度を特定の範囲に制御する。
【0038】
本発明者らは、正極活物質10の前駆体として用いられる複合水酸化物の製造条件を鋭意検討した結果、1)晶析工程S11において、反応水溶液の液面上の雰囲気の酸素濃度(以下、「雰囲気酸素濃度」ともいう。)に加えて、さらに反応水溶液中の溶解ニッケル濃度、反応水溶液のpH値(液温25℃基準)を調整することにより、複合水酸化物のモフォロジーの制御が正確にできること、及び、2)最終的に得られる正極活物質10は複合水酸化物のモフォロジーに強く影響されることから、複合水酸化物粒子のモフォロジーを正確に制御することにより、正極活物質のモフォロジーを最適化できること、を見出した。なお、「モフォロジー」とは、粒子の形状、空隙率、平均粒径、粒度分布、タップ密度などを含む、一次粒子及び/又は二次粒子(複合水酸化物及び/又はリチウム金属複合酸化物11)の形態、構造に関わる特性である。すなわち、本実施形態の製造方法においては、晶析工程S11の際、反応水溶液中の溶解ニッケル濃度と、液面上の雰囲気の酸素濃度(雰囲気酸素濃度)とを調整することが重要であり、これらの因子(パラメータ)を調整することにより、最終的に得られる正極活物質10の二次粒子13の粒径と二次粒子13内部の空隙率とのそれぞれを特定の範囲に制御することが可能となる。以下、晶析工程S11におけるそれぞれの条件について、説明する。
【0039】
(酸素濃度)
雰囲気酸素濃度は、0.2容量%以上2容量%以下の範囲で適宜調整する。雰囲気酸素濃度を上記の範囲に調整した場合、複合水酸化物の一次粒子及び二次粒子のモフォロジーを制御して、正極活物質10として好適な空隙率を有するリチウム金属複合酸化物11を得ることができる。例えば、雰囲気酸素濃度を上記範囲で調整する場合、雰囲気酸素濃度の増加に応じて、正極活物質10の外側領域R2の空隙率を上記範囲内で増加させることができる。すなわち、外側領域R2の空隙率に対して、雰囲気酸素濃度は、正の相関を示す関係を有することができ、この関係に基づいて、外側領域R2の空隙率を上記範囲に制御することができる。
【0040】
雰囲気酸素濃度が0.2容量%より低い場合、遷移金属、中でも特にマンガンの酸化がほとんど進まなくなり、その結果、複合水酸化物の二次粒子内部が極端に密になる。また、表面が特異的な形状を示したりすることがある。このような複合水酸化物を用いて得られる正極活物質は、二次粒子の内側領域R1および外側領域R2の空隙率が低くなり、サイクル特性が低下するとともに、反応抵抗が高くなり、出力特性が低下する。一方、雰囲気酸素濃度が2容量%を超えると、生成する複合水酸化物の二次粒子が疎になって空隙率が高くなり、正極活物質の二次粒子の外側領域R2の空隙率が高くなり、サイクル特性が低下する。雰囲気酸素濃度は、不活性ガス(例えば、NガスやArガスなど)、空気、あるいは酸素などのガスを反応槽内の空間に導入し、これらのガスの流量や組成を制御することにより調整できる。なお、これらのガスは反応水溶液中に吹き込んでもよい。
【0041】
(溶解ニッケル濃度)
反応水溶液中の溶解ニッケル濃度は、反応水溶液の温度を基準として300mg/L以上900mg/L以下の範囲で、好ましくは300mg/L以上850mg/L以下の範囲で調整する。溶解ニッケル濃度を上記範囲で、適宜調整した場合、複合水酸化物の粒径及び空隙率を制御して、正極活物質の粒径及び粒子構造を制御することができる。例えば、溶解ニッケル濃度を上記範囲で調整する場合、溶解ニッケル濃度の増加に応じて、正極活物質10の内側領域R1の空隙率を上記範囲内で増加させることができる。すなわち、内側領域R1の空隙率に対して、溶解ニッケル濃度は、正の相関を示す関係を有することができ、この関係に基づいて、内側領域R1の空隙率を上記範囲に制御することができる。
【0042】
反応水溶液中の溶解ニッケル濃度が300mg/Lより低い場合、複合水酸化物の一次粒子の成長速度が速く、粒子成長よりも核生成が優位となり、一次粒子が小さくなり、球状性の悪い二次粒子となることがある。このような複合水酸化物をリチウムと混合して焼成すると、二次粒子全体が収縮し、二次粒子の内側領域R1の空隙率が低くなる。また、正極活物質の球状性が悪いため、電池に用いた際に高いエネルギー密度が得られない。一方、溶解ニッケル濃度が900mg/Lを超える場合、複合水酸化物の二次粒子の生成速度が遅くなり、正極活物質10の空隙率が低下することがある。また、濾液中にニッケルが残留し、得られる複合水酸化物の組成が目標値から大きくずれることがある。さらに、溶解ニッケル濃度が高すぎる条件では、複合水酸化物中に含有される不純物量が著しく多くなり、複合水酸化物から得られた正極活物質10(リチウム金属複合酸化物11)を電池に用いた際の電池特性を低下させることがある。
【0043】
(pH値)
反応水溶液のpH値は、液温25℃基準として11.0以上12.5以下、好ましくは11.0以上12.3以下、より好ましくは11.0以上12.0以下の範囲である。pH値が上記範囲である場合、複合水酸化物の一次粒子の大きさ及び形状を適度に制御して空隙率を制御しながら、二次粒子のモフォロジーを適切に制御して、正極活物質10としてより好適なリチウム金属複合酸化物11を得ることができる。
【0044】
pH値が10.0未満である場合、複合水酸化物の生成速度が著しく遅くなり、粗大な二次粒子が生成される。また、濾液中にニッケルが残留し、得られる複合水酸化物の組成が目標値から大きくずれることがある。一方、pH値が12.5を超える場合、粒子の成長速度が速く、核生成が起こりやすくなるため、小粒径かつ球状性の悪い粒子となり、正極活物質の充填性が低下することがある。
【0045】
(反応温度)
晶析反応槽内の反応水溶液の温度は、38℃以上45℃以下の範囲であることが好ましい。また、温度の上下限を5℃以内に制御することが好ましい。これにより、複合水酸化物の粒子成長を安定化させ、一次粒子および二次粒子の形状や粒径の制御を容易にすることができる。
【0046】
反応水溶液の温度が45℃超える場合、反応水溶液中で、粒子成長よりも核生成の優先度が高まり、複合水酸化物1を構成する一次粒子の形状が微細になり過ぎやすい。一方、反応水溶液の温度が38℃未満の場合、反応水溶液中で、核生成よりも、粒子成長が優先的となる傾向があるため、複合水酸化物を構成する一次粒子及び二次粒子の形状が粗大になりやすい。このような粗大な二次粒子を有する複合水酸化物を正極活物質の前駆体として用いた場合、電極作製時に凹凸が発生するほどの非常に大きい粗大粒子を含む正極活物質が形成されるという問題がある。さらに、反応水溶液が35℃未満の場合、反応水液中の金属イオンの残存量が高く反応効率が非常に悪いという問題が発生するとともに、不純物元素を多く含んだ複合水酸化物が生成してしまう問題が生じやすい。
【0047】
(その他)
本実施形態の製造方法は、反応水溶液中において、少なくともニッケルとコバルトおよびマンガンとを含む塩を中和してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を生成させる晶析工程S11を含む。晶析工程の具体的な実施態様としては、例えば、反応槽内の少なくともニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)をそれぞれ含む混合水溶液を一定速度にて撹拌しながら、中和剤(例えば、アルカリ溶液など)を加えて中和することによりpHを制御して、複合水酸化物粒子を共沈殿により生成させることができる。
【0048】
晶析工程において、反応水溶液に負荷する攪拌動力は、特に限定されず、上記正極活物質10を製造できる範囲であればよいが、2.0kW/m以上6.7kW/m以下の範囲で調整することが好ましく、3kW/m以上6.5kW/m以下の範囲とすることがより好ましい。攪拌動力を上記範囲とすることで、二次粒子の過度の微細化や粗大化を抑制し、複合水酸化物の粒径を正極活物質としてより好適なものとすることができる。
【0049】
本実施形態の製造方法においては、バッチ方式による晶析法、あるいは連続晶析法のいずれの方法も採用できる。ここで、連続晶析法とは、上記混合水溶液を連続的に供給しながら中和剤を供給してpHを制御しつつ、生成した複合水酸化物粒子をオーバーフローにより回収する晶析法である。例えば、晶析工程において、反応槽にニッケルとコバルト及びマンガンを含む混合水溶液を連続的に加えて、中和させて生成する複合水酸化物粒子を含むスラリーをオーバーフローさせて粒子を回収させることができる。連続晶析法は、バッチ法と比較して粒度分布の広い粒子、例えば、粒度分布の広がりを示す指標である〔D90−D10)/平均粒径〕が0.7以上の粒子が得られ、充填性の高い粒子が得られやすい。また、連続晶析法は、大量生産に向いており、工業的にも有利な製造方法となる。例えば、上述した本実施形態の複合水酸化物の製造を、連続晶析法で行う場合、得られる複合水酸化物粒子の充填性(タップ密度)をより向上させることができ、より高い充填性及び空隙率を有する複合水酸化物を、簡便かつ大量に生産することができる。
【0050】
混合水溶液は、少なくともニッケルとコバルトおよびマンガンを含む水溶液、すなわち、少なくともニッケル塩とコバルト塩及びマンガン塩を溶解した水溶液を用いることができる。さらに、混合水溶液は、Mを含んでもよく、ニッケル塩、マンガン塩及びMを含む塩を溶解した水溶液を用いてもよい。ニッケル塩およびマンガン塩及びMを含む塩としては、例えば、硫酸塩、硝酸塩、および塩化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、コストや廃液処理の観点から、硫酸塩を使用することが好ましい。
【0051】
混合水溶液の濃度は、溶解した金属塩の合計で、1.0mol/L以上2.5mol/L以下とすることが好ましく、1.5mol/L以上2.5mol/L以下とすることがより好ましい。これにより、複合水酸化物の粒径を適度な大きさに制御することが容易になり、得られる正極活物質の充填性を向上させることができる。ここで、前記混合水溶液に含まれる金属元素の組成と得られる複合水酸化物に含まれる金属元素の組成は一致する。したがって、目標とする複合水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調製することができる。
【0052】
また、中和剤と併せて、錯化剤を混合水溶液に添加することもできる。錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でニッケルイオン、コバルトイオン、マンガンイオンなどの金属元素と結合して錯体を形成可能なものであればよく、例えば、錯化剤としては、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、とくに限定されないが、例えば、アンモニア水、硫酸アンモニウム水溶液、および塩化アンモニウム水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、取扱いの容易性から、アンモニア水を使用することが好ましい。アンモニウムイオン供給体を用いる場合、アンモニウムイオン濃度を5g/L以上25g/L以下の範囲とすることが好ましく、5g/L以上15g/L以下の範囲とすることがより好ましい。これにより、pH値の変動による粒径変動を抑制して粒径制御をさらに容易にすることができる。また、複合水酸化物の球形度をさらに向上させることができ、正極活物質の充填性を向上させることができる。
【0053】
中和剤としては、アルカリ溶液を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。これらの中でも、コストや取扱いの容易性の観点から、水酸化ナトリウム水溶液を使用することが好ましい。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度は、12質量%以上30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度が12質量%未満である場合、反応槽への供給量が増大し、粒子が十分に成長しないおそれがある。一方、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度が30質量%を超える場合、アルカリ金属水酸化物の添加位置で局所的にpH値が高くなり、微粒子が発生するおそれがある。
【0054】
晶析工程後、複合水酸化物を洗浄することが好ましい。洗浄工程は、上記晶析工程S11で得られた複合水酸化物に含まれる不純物を洗浄する工程である。洗浄溶液としては、純水を用いることが好ましい。また、洗浄溶液の量は300gの複合水酸化物に対して、1L以上であることが好ましい。洗浄溶液の量が、300gの複合水酸化物に対して1Lを下回る場合、洗浄不十分となり、複合水酸化物中に不純物が残留してしまうことがある。洗浄方法としては、例えば、フィルタープレスなどのろ過機に純水などの洗浄溶液を通液すればよい。複合水酸化物に残留するSOをさらに洗浄したい場合は、洗浄溶液として、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどを用いることが好ましい。
【0055】
洗浄後は、好ましくは110℃以上150℃以下の範囲の温度で乾燥する。乾燥温度及び時間は、水分が除去できる程度とすればよく、例えば、1時間以上24時間以下程度である。また、乾燥後の複合水酸化物を350℃以上800℃以下の範囲の温度で加熱してニッケルコバルトマンガン複合酸化物(以下、「複合酸化物」ということがある。)へ変換させる熱処理工程を更に有してもよい。この熱処理より、後工程である焼成工程S12での水蒸気の発生を抑制してリチウム化合物との反応を促進すると共に、正極活物質10におけるリチウム以外の金属元素と、リチウムとの比を安定させることができる。熱処理工程での熱処理温度が350℃未満では、複合酸化物への変換が不十分となる。一方、熱処理温度が800℃を超えると、複合酸化物の粒子同士が焼結して粗大粒子が生成されることがある。また、多くのエネルギーが必要となるため、工業的に適当でない。なお、熱処理を行う雰囲気は、特に制限されるものではなく、酸素を含む非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える大気雰囲気中において行うことが好ましい。
【0056】
また、熱処理時間は、複合酸化物への変換が十分に可能な時間とすればよく、1〜10時間が好ましい。さらに、熱処理に用いられる設備は、特に限定されるものではなく、複合水酸化物を、酸素を含む非還元性雰囲気中、好ましくは、大気雰囲気中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉等が好適に用いられる。
【0057】
[焼成工程]
焼成工程S12は、複合水酸化物とリチウム化合物とを混合して得られた混合物を、酸素雰囲気中で焼成してリチウム金属複合酸化物を得る工程である。複合水酸化物又はそれを熱処理して得られた複合酸化物と、リチウム化合物とは、混合物中のリチウム以外の金属元素の原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が0.95以上1.50以下、好ましくは0.98以上1.15以下、より好ましくは1.01以上1.09以下となるように、混合される。すなわち、焼成工程前後でLi/Meは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるため、混合物におけるLi/Meは、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。
【0058】
Li/Me比が上記範囲となるように、複合水酸化物(複合酸化物)とリチウム化合物とを混合することで、結晶化が促進される。このLi/Me比が0.95より小さい場合、リチウムが一部の酸化物と反応せずに残存して十分な電池性能が得られないことがある。一方、Li/Me比が1.50より大きい場合、焼結が促進され、粒径や結晶子径が大きくなり十分な電池性能が得られないことがある。
【0059】
リチウム混合物を形成するために使用されるリチウム化合物は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、又はこれらの混合物が入手しやすいという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウム、炭酸リチウム又はこれらの混合物を用いることがより好ましい。
【0060】
なお、リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない間等の問題が生じる可能性があるため、焼成前に十分混合する必要がある。混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダ等を用いることができ、熱処理粒子等の形骸が破壊されない程度に、複合酸化物粒子とリチウムを含有する物質とが十分に混合されればよい。
【0061】
次に、混合物を酸素雰囲気中、すなわち酸素を含む雰囲気で焼成してリチウム金属複合酸化物を得る。このときの焼成温度は、800℃以上1000℃以下とすることが好ましい。これにより、結晶性が高くなり、置換が促進される。焼成温度が800℃未満であると、十分にリチウム原料が反応できず余剰のリチウムが残留してしまうことや、結晶が十分に成長せず電池特性が悪くなることがある。一方、1000℃を超えると焼結・凝集が進み、粒子充填性の低下や電池特性の低下を招くことがある。さらにはLiサイトと遷移金属サイトでミキシングを起こし、電池特性を低下させる。
【0062】
焼成時間は、特に限定されないが、1時間以上24時間以内程度である。1時間未満では、十分にリチウム原料が反応できず余剰のリチウムが残留してしまうことや、結晶が十分に成長せず電池特性が悪くなることがある。また、複合水酸化物又はそれを酸化して得られる複合酸化物と、リチウム化合物と、の反応を均一に行わせる観点から、昇温速度は、例えば、1℃/分以上10℃/分以下の範囲で、上記焼成温度まで昇温することが好ましい。さらに、焼成前に、リチウム化合物の融点付近の温度で1時間〜10時間程度保持してもよい。これにより、より反応を均一に行わせることができる。
【0063】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中で混合物を加熱できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式又は連続式の炉を何れも用いることができる。
【0064】
また、焼成によって得られたリチウム金属複合酸化物は、凝集又は軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよく、これにより、リチウム金属複合酸化物11、つまり、本実施形態に係る正極活物質10を得ることができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体を殆ど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体を解す操作をいうものとする。
【0065】
(3)非水系電解質二次電池
本実施形態の非水系電解質二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、正極、負極及び非水電解液を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成されることができる。以下、本実施形態の二次電池の一例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0066】
(正極)
上記の正極活物質10を用いて、非水系電解質二次電池の正極を作製する。以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、上記の正極活物質10(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0067】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウム二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウム二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60〜95質量%、導電材を1〜20質量%、結着剤を1〜20質量%含有することができる。
【0068】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0069】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0070】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸を用いることができる。
【0071】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0072】
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0073】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0074】
(セパレータ)
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0075】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0077】
(電池の形状、構成)
以上のように説明してきた正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0078】
(特性)
本実施形態に係る二次電池は、高容量で熱安定に優れたものである。好ましい形態で得られた正極活物質10を用いた二次電池は、例えば、後述する実施例の条件において製造された2032型コイン電池の場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量を有することができ、組成と製造方法を最適化すればさらに高容量の二次電池とすることができる。また、例えば、後述する実施例の条件において製造された2032型コイン電池を用いてサイクル特性を評価した場合、初期放電容量Dに対する500回充放電を繰り返した後の放電容量Dの割合([D/D]×100)を75%以上とすることができ、より条件を最適化することで77%以上とすることができる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明の実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質について、実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
反応槽(50L)に純水を所定量入れ、攪拌しながら槽内温度を42℃に設定した。このとき反応槽内には窒素ガスを供給して、反応槽内の空間を非酸化性雰囲気(酸素濃度:0.3容量%)とした。この反応槽内にニッケル:コバルト:マンガンのモル比が45:30:25となるように混合した硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを含む2.0mol/Lの混合水溶液と、アルカリ溶液である25質量%水酸化ナトリウム溶液、錯化剤として25質量%アンモニア水を反応槽に同時に連続的に添加し反応水溶液を形成して中和晶析反応を行った。このとき混合水溶液に含まれる金属塩の反応槽内での滞留時間は8時間となるように流量を制御し、反応水溶液の溶解ニッケル濃度は300mg/L(目標値)になるようpH値とアンモニウムイオン濃度の制御により調整し、溶解ニッケル濃度は319mg/Lで安定した。この際、反応槽内のアンモニウムイオン濃度を12〜15g/Lの範囲に調整し、pH値は、液温25℃基準として12.0であり、変動幅は上下に0.1であった。反応槽で中和晶析反応が安定した後、オーバーフロー口からニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を含むスラリーを回収した後、吸引濾過を行いニッケルコバルトマンガン複合水酸化物のケーキを得た。濾過を行った吸引濾過機内にあるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで不純物の洗浄を行った(洗浄工程)。さらに、洗浄後のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物ケーキを120℃で乾燥して正極活物質の前駆体となるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を得た(晶析工程)。
【0081】
上記ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物と炭酸リチウムを、Li/Meが1.02なるように秤量した後、前駆体の形骸が維持される程度の強さでシェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合してリチウム混合物を得た。
【0082】
このリチウム混合物をマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、流量10L/分の大気雰囲気中で昇温速度2.77℃/分で900℃まで昇温して10時間保持し、室温まで炉冷し、リチウム金属複合酸化物からなる正極活物質を得た(焼成工程)。
得られた正極活物質の粒度分布測定を、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した。平均粒径D50は7.7μmであり、〔D90−D10)/平均粒径〕は0.80であることを確認した。タップ密度は、タッピング装置(セイシン企業社製、KYT3000)を用いて測定し、500回のタッピング後、体積と試料重量から算出した。その結果、タップ密度は2.2g/mlであった。
【0083】
得られた正極活物質の断面構造を走査型電子顕微鏡により観察した。図5に得られた正極活物質の断面構造を示す。空隙率の評価のために、画像解析ソフト(WinRoof6.1.1(商品名))を用いて二次粒子の粒子断面積、粒子内部の空隙面積を求め、[(粒子内部の空隙面積)/(粒子断面積)×100](%)の式から空隙率を二次粒子の内側領域と外側領域について算出した。ここで、粒子断面積は空隙部(黒色部)と一次粒子断面(白色部)の合計とした。また、二次粒子の外周からなる形状の重心を二次粒子の中心とし、中心から二次粒子外周上の任意の点までの最短距離を半径とし、中心から半径の2分の1までの領域を二次粒子の内側領域とした。すなわち、二次粒子の外周からなる形状と相似比が2分の1の相似形を、重心を一致させて重ね、相似形の内側を二次粒子の内側領域とし、内側領域の外側を外側領域とした。
【0084】
さらに、体積平均粒径(MV)の80%以上となる二次粒子(N=20個)に対して求めた個々の粒子の空隙率を、個数平均することにより正極活物質の空隙率を算出した結果、二次粒子の内側領域(第1領域)は5.2%、外側領域(第2領域)は0.1%であった。
【0085】
得られた正極活物質を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成はLi1.02Ni0.45Co0.30Mn0.25であり、狙い組成の粒子が得られていることを確認した。製造条件及び得られた正極活物質の特性を表1に示す。
【0086】
[電池作製]
得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、図4に示す正極(評価用電極)PEを作製した。作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した後、この正極PEを用いて2032型コイン電池CBAを、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。負極NEには、直径17mm厚さ1mmのリチウム(Li)金属を用い、電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン電池は、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン型の電池に組み立てた。
【0087】
初期放電容量は、コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0088】
サイクル特性は、60℃、正極に対する電流密度を2mA/cm2として、4.1Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを2Cレートで500回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算してサイクル特性とした。充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。得られた正極活物質の初期充放電容量およびサイクル特性の測定結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2〜8)
晶析時の反応槽内の雰囲気酸素濃度と反応水溶液の溶解ニッケル濃度を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得るとともに評価をした。溶解ニッケル濃度の調整する際のpH値の範囲は、液温25℃基準として11.0以上12.3以下であった。製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1〜6)
晶析時の反応槽内の雰囲気の酸素濃度と反応水溶液の溶解ニッケル濃度を表1のとおりとした以外は、実施例1と同様の条件にて正極活物質を得るとともに評価をした。製造条件及び評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
(評価結果)
実施例は、二次粒子の内側領域の空隙率が5%以上で、外側領域の空隙率が1.5%以下であった。また、実施例で得られた正極活物質を用いて得られた二次電池(評価用)は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れている。特に、二次粒子の内側領域の空隙率が20%以内のものは、168mAh/g以上の高い初期放電容量が得られている。
【0093】
比較例1、比較例2は、二次粒子の外側の空隙率は1.5%以下だが、内側の空隙率が5%未満であるため、十分なサイクル特性が得られなかった。
【0094】
比較例3は、二次粒子の内側の空隙率が5%以上あるためサイクル特性は良好なものの、外側の空隙率が1.5%を超えているため、初期放電容量が低くなってしまった。
【0095】
比較例4〜比較例6は、二次粒子の内側の空隙率が5%未満で、外側の空隙率が1.5%を超えているため、初期放電容量が低く、十分なサイクル特性が得られていない。
【0096】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。また、例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。なお、非水系電解質二次電池用正極活物質の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本実施形態に係る正極活物質は、二次粒子の空隙率分布がコントロールされており、この正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、初期放電容量が高く、サイクル特性に優れることができる。よって、本実施形態に係る正極活物質は、車載用やモバイル用の非水系電解質二次電池用正極活物質として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
10…正極活物質
11…リチウム金属複合酸化物
12…一次粒子
13…二次粒子
14…空隙
d…二次粒子の粒径
r…二次粒子の半径
C…中心部分
R1…第1領域
R2…第2領域
PE…正極(評価用電極)
NE…負極
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶
図1
図2
図3
図4
図5
図6