(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺体を表面に接触保持させて搬送する冷却キャンロールと、該冷却キャンロール表面に対向して配置されかつスパッタリングターゲットが装着されるマグネトロンスパッタリングカソードを真空チャンバー内に複数組み込むと共に、該真空チャンバー内に反応性ガスとプロセスガスを導入して上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部を搬送される長尺体表面に薄膜を形成する方法であって、上記プロセスガスがスパッタリングターゲットと反応しない希ガスのみからなる成膜方法において、
上記反応性ガスとプロセスガスを真空チャンバー内に供給する手段を、反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段に分割し、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置して上記隙間部を搬送される長尺体表面側へ向けて反応性ガスを供給し、上記スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスを供給しないようにすると共に、各マグネトロンスパッタリングカソードの間に隔壁を設けたことを特徴とする成膜方法。
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード側に上記プロセスガス供給手段を配置し、上記スパッタリングターゲット側へ向けてプロセスガスを供給するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部にマスクカバーを介在させて、上記隙間部を搬送される長尺体の薄膜形成領域を規制するようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の成膜方法。
上記スパッタリングターゲットが、Ni単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Ni、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金で構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の成膜方法。
長尺体を表面に接触保持させて搬送する冷却キャンロールと、該冷却キャンロール表面に対向して配置されかつスパッタリングターゲットを装着したマグネトロンスパッタリングカソードが真空チャンバー内に複数組み込まれていると共に、該真空チャンバー内に反応性ガスとプロセスガスを導入して上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部を搬送される長尺体表面に薄膜を形成する装置であって、上記プロセスガスがスパッタリングターゲットと反応しない希ガスのみからなるスパッタリング成膜装置において、
上記反応性ガスとプロセスガスを真空チャンバー内に供給する手段が、反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段に分割され、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段が配置されて上記隙間部を搬送される長尺体表面側へ向けて反応性ガスが供給され、上記スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスが供給されないようにすると共に、各マグネトロンスパッタリングカソードの間に隔壁が設けられていることを特徴とするスパッタリング成膜装置。
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード側に上記プロセスガス供給手段が配置され、上記スパッタリングターゲット側へ向けてプロセスガスが供給されるようにしたことを特徴とする請求項8に記載のスパッタリング成膜装置。
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部にマスクカバーが介装され、上記隙間部を搬送される長尺体の薄膜形成領域が規制されるようになっていることを特徴とする請求8または9に記載のスパッタリング成膜装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、スパッタリングターゲットが装着されるマグネトロンスパッタリングカソードを備えたスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法により金属酸化膜(金属吸収層)の連続成膜を行った場合、反応性ガス(酸素ガス)とスパッタリングターゲット(Ni合金等)が反応して成る化合物がパーティクル堆積物としてスパッタリングターゲットの非エロージョン領域に堆積し、更に、スパッタリングターゲットのエロージョン領域端部にノジュールと呼ばれる異物が発生してしまうことが知られている。
【0014】
そして、上記パーティクル堆積物やノジュールがスパッタリングターゲットから剥がれて長尺樹脂フィルムの成膜面に付着すると膜欠陥(異物の付着による凹凸欠陥)となり、パーティクル堆積物やノジュールの帯電に起因してアーク放電等が発生すると成膜面にデント(dent:窪み)が形成され膜欠陥となる問題が存在した。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を用いた反応性スパッタリングにより連続成膜した場合においても、パーティクル堆積物やノジュール等が発生し難い成膜方法とスパッタリング成膜装置および積層体フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、上記課題を解決するため本発明者が鋭意研究を行った結果、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(例えばアルゴンガス)との混合ガスを真空チャンバー内に供給する手段について、これを水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給手段と、プロセスガスを供給するプロセスガス供給手段とに分割し、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置して、スパッタリングターゲット側へ向け反応性ガスが供給され難いガス供給手段の配置構造を採用することで解決されることを見出すに至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されたものである。
【0017】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
長尺体を表面に接触保持させて搬送する冷却キャンロールと、該冷却キャンロール表面に対向して配置されかつスパッタリングターゲットが装着されるマグネトロンスパッタリングカソードを真空チャンバー内に複数組み込むと共に、該真空チャンバー内に反応性ガスとプロセスガスを導入して上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部を搬送される長尺体表面に薄膜を形成する
方法であって、上記プロセスガスがスパッタリングターゲットと反応しない希ガスのみからなる成膜方法において、
上記反応性ガスとプロセスガスを真空チャンバー内に供給する手段を、反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段に分割し、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置して上記隙間部を搬送される長尺体表面側へ向けて反応性ガスを供給し、上記スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスを供給しないようにすると共に、各マグネトロンスパッタリングカソードの間に隔壁を設けたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る第2の発明は、
第1の発明に記載の成膜方法において、
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード側に上記プロセスガス供給手段を配置し、上記スパッタリングターゲット側へ向けてプロセスガスを供給するようにしたことを特徴とし、
第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載の成膜方法において、
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部にマスクカバーを介在させて、上記隙間部を搬送される長尺体の薄膜形成領域を規制するようにしたことを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明〜第3の発明のいずれかに記載の成膜方法において、
上記スパッタリングターゲットが、Ni単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Ni、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金で構成されることを特徴し、
第5の発明は、
第1の発明〜第4の発明のいずれかに記載の成膜方法において、
上記反応性ガスが酸素ガスで構成され、かつ、反応性ガスに水若しくは水素が
添加されていることを特徴とし、
第6の発明は、
第1の発明〜第5の発明のいずれかに記載の成膜方法において、
真空チャンバー内に複数組み込んだマグネトロンスパッタリングカソードにおいて、上記長尺体表面に形成される薄膜の膜厚が1つのスパッタリングターゲット当たり30nm以下に設定されることを特徴とし、
また、第7の発明は、
透明な樹脂フィルムから成る長尺体と該長尺体の少なくとも片面に形成された積層膜とで構成される積層体フィルムの製造方法において、
上記積層膜が、長尺体側から数えて第1層目の膜厚15nm〜30nmの金属吸収層と第2層目の銅層を有すると共に、
上記金属吸収層が、第1の発明〜第6の発明のいずれかに記載の成膜方法で形成された薄膜で構成されていることを特徴とする。
【0019】
次に、本発明に係る第8の発明は、
長尺体を表面に接触保持させて搬送する冷却キャンロールと、該冷却キャンロール表面に対向して配置されかつスパッタリングターゲットを装着したマグネトロンスパッタリングカソードが真空チャンバー内に複数組み込まれていると共に、該真空チャンバー内に反応性ガスとプロセスガスを導入して上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部を搬送される長尺体表面に薄膜を形成する
装置であって、上記プロセスガスがスパッタリングターゲットと反応しない希ガスのみからなるスパッタリング成膜装置において、
上記反応性ガスとプロセスガスを真空チャンバー内に供給する手段が、反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段に分割され、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段が配置されて上記隙間部を搬送される長尺体表面側へ向けて反応性ガスが供給され、上記スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスが供給されないようにすると共に、各マグネトロンスパッタリングカソードの間に隔壁が設けられていることを特徴とし、
第9の発明は、
第8の発明に記載のスパッタリング成膜装置において、
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード側に上記プロセスガス供給手段が配置され、上記スパッタリングターゲット側へ向けてプロセスガスが供給されるようにしたことを特徴とし、
また、第10の発明は、
第8の発明または第9の発明に記載のスパッタリング成膜装置において、
上記スパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部にマスクカバーが介装され、上記隙間部を搬送される長尺体の薄膜形成領域が規制されるようになっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、反応性ガス
とプロセスガスを真空チャンバー内に供給する手段について、これを、反応性ガスを供給する反応性ガス供給手段とプロセスガスを供給するプロセスガス供給手段に分割し、かつ、スパッタリングターゲットと冷却キャンロールの隙間部における中間位置より冷却キャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置することで、上記隙間部を搬送される長尺体表面側へ向けて反応性ガスが供給され、上記スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスが供給されないようにしているため、連続して反応性スパッタリングによる成膜を行った場合でも、上述したパーティクル堆積物やノジュール等の発生を防止することが可能となる。
【0021】
従って、長尺体(長尺の樹脂フィルム等)表面に異物の付着やデント(窪み)等が存在しない高品質の薄膜が形成されるため、電極基板フィルムの材料として好適な積層体フィルムを製造できる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
(1)積層体フィルム
(1-1)第一の積層体フィルム
第一の積層体フィルムは、
図1に示すように樹脂フィルムから成る透明基板40と、該透明基板40の両面に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された金属吸収層41、43と金属層42、44とで構成されている。
【0025】
尚、上記金属層については、乾式成膜法(スパッタリング法)と湿式成膜法(湿式めっき法)を組み合わせて形成してもよい。
【0026】
すなわち、
図2に示すように樹脂フィルムから成る透明基板50と、該透明基板50の両面に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された膜厚15nm〜30nmの金属吸収層51、53と、該金属吸収層51、53上に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された金属層52、54と、該金属層52、54上に湿式成膜法(湿式めっき法)により形成された金属層55、56とで構成してもよい。
【0027】
(1-2)第二の積層体フィルム
次に、第二の積層体フィルムは、
図2に示した第一の積層体フィルムを前提とし、該積層体フィルムの金属層上に第2金属吸収層を形成して成るものである。
【0028】
すなわち、
図3に示すように樹脂フィルムから成る透明基板60と、該透明基板60の両面に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された膜厚15nm〜30nmの金属吸収層61、63と、該金属吸収層61、63上に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された金属層62、64と、該金属層62、64上に湿式成膜法(湿式めっき法)により形成された金属層65、66と、該金属層65、66上に乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された膜厚15nm〜30nmの第2金属吸収層67、68とで構成されている。
【0029】
ここで、
図3に示す第二の積層体フィルムにおいて、符号62、65で示す金属層の両面に金属吸収層61と第2金属吸収層67を形成し、また、符号64、66で示す金属層の両面に金属吸収層63と第2金属吸収層68を形成しているのは、該積層体フィルムを用いて作製された電極基板フィルムをタッチパネルに組み込んだときに金属製積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンが反射して見えないようにするためである。
【0030】
尚、樹脂フィルムから成る透明基板の片面に金属吸収層を形成し、該金属吸収層上に金属層が形成された第一の積層体フィルムを用いて電極基板フィルムを作製した場合にも、該透明基板からの上記回路パターンの視認を防止することが可能である。
【0031】
(1-3)金属吸収層
金属吸収層は、Ni単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Cu、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたNi系合金、または、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Ag、Mo、Ni、Co、Znより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金で構成された金属ターゲットと反応性ガス(酸素ガス)を用いた反応性スパッタリングにより形成される。
【0032】
(1-4)金属層
金属層を構成する材料としては、電気抵抗値が低い金属であれば特に限定されず、例えば、Cu単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Agより選ばれる1種以上の元素が添加されたCu系合金、または、Ag単体、若しくは、Ti、Al、V、W、Ta、Si、Cr、Cuより選ばれる1種以上の元素が添加されたAg系合金が挙げられ、特に、Cu単体が、回路パターンの加工性や抵抗値の観点から望ましい。
【0033】
また、金属層の膜厚は電気特性に依存するものであり、光学的な要素から決定されるものではないが、通常、透過光が測定不能なレベルの膜厚に設定される。
【0034】
(1-5)透明基板を構成する樹脂フィルム
上記積層体フィルムに適用される樹脂フィルムの材質としては特に限定されることはなく、その具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)、トリアセチルセルロース(TAC)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂フィルムの単体、あるいは、上記樹脂材料から選択された樹脂フィルム単体とこの単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(商品名)やJSR社のアートン(商品名)等が挙げられる。
【0035】
尚、積層体フィルムを用いて作製される下記電極基板フィルムはタッチパネル等に使用されるため、樹脂フィルムの中でも可視波長領域での透明性に優れるものが望ましい。
【0036】
(2)電極基板フィルム
(2-1)上記積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して配線加工することにより、液晶パネル、ノートパソコン、携帯電話、タッチパネル等に使用される電極基板フィルムを得ることができる。具体的には、
図3に示す積層体フィルムの積層膜をエッチング処理して
図4に示すような電極基板フィルムを得ることができる。
【0037】
すなわち、
図4に示す電極基板フィルムは、樹脂フィルムから成る透明基板70と、該透明基板70の両面に設けられた金属製積層細線から成るメッシュ構造の回路パターンを有し、上記金属製積層細線が、透明基板70側から数えて第1層目の金属吸収層71、73と、第2層目の金属層72、75、74、76と、第3層目の第2金属吸収層77、78とで構成されている。
【0038】
そして、電極基板フィルムの電極(配線)パターンをタッチパネル用のストライプ状若しくは格子状とすることでタッチパネルに用いることができる。また、電極(配線)パターンに配線加工された金属製積層細線は、積層体フィルムの積層構造を維持していることから、高輝度照明下においても透明基板に設けられた電極等の回路パターンが極めて視認され難い電極基板フィルムとして提供することができる。
【0039】
(2-2)そして、積層体フィルムから電極基板フィルムに配線加工するには、公知のサブトラクティブ法により加工が可能である。サブトラクティブ法は、積層体フィルムの積層膜表面にフォトレジスト膜を形成し、配線パターンを形成したい箇所にフォトレジスト膜が残るように露光、現像し、かつ、上記積層膜表面にフォトレジスト膜が存在しない箇所の積層膜を化学エッチングにより除去して配線パターンを形成する方法である。
【0040】
化学エッチングのエッチング液としては、例えば、塩化第二鉄水溶液や塩化第二銅水溶液を用いることができる。
【0041】
(3)特許文献1、2に記載されたスパッタリング成膜装置
(3-1)特許文献1、2に記載された従来のスパッタリング成膜装置は、
図5に示すように真空チャンバー10内に設けられており、巻き出しロール11から巻き出された長尺樹脂フィルム(長尺体)12に対して所定の成膜処理を行った後、巻き取りロール24で巻き取るようになっている。これ等巻き出しロール11から巻き取りロール24までの搬送経路の途中にモータで回転駆動される冷却キャンロール16が配置されている。キャンロール16の内部には、真空チャンバー10の外部で温調された冷媒が循環している。
【0042】
真空チャンバー10内では、スパッタリング成膜のため、到達圧力10
-4Pa程度までの減圧と、その後のプロセスガス(スパッタリングガス)の導入による0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。プロセスガスにはアルゴン等公知のガスが使用され、更に、反応性ガス(酸素ガス)が添加される。真空チャンバー10の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく種々のものを使用することができる。また、真空チャンバー10内を減圧してその状態を維持するため、真空チャンバー10にはドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等種々の装置(図示せず)が組み込まれている。
【0043】
巻き出しロール11からキャンロール16までの搬送経路には、長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール13と、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール14がこの順で配置されている。また、張力センサロール14から送り出されてキャンロール16に向かう長尺樹脂フィルム12は、キャンロール16の近傍に設けられたモータ駆動の前フィードロール15によってキャンロール16の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール16の外周面に長尺樹脂フィルム12を密着させることができる。
【0044】
キャンロール16から巻き取りロール24までの搬送経路も、上記同様に、キャンロール16の周速度に対する調整を行うモータ駆動の後フィードロール21、長尺樹脂フィルム12の張力の測定を行う張力センサロール22および長尺樹脂フィルム12を案内するフリーロール23がこの順に配置されている。
【0045】
上記巻き出しロール11および巻き取りロール24では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって長尺樹脂フィルム12の張力バランスが保たれている。また、キャンロール16の回転とこれに連動して回転するモータ駆動の前フィードロール15、後フィードロール21により、巻き出しロール11から長尺樹脂フィルム12が巻き出されて巻き取りロール24に巻き取られるようになっている。
【0046】
キャンロール16の近傍には、キャンロール16の外周面上に画定される搬送経路(キャンロール16外周面内の長尺樹脂フィルム12が巻き付けられる領域)に対向する位置に、成膜手段としてのスパッタリングターゲットがそれぞれ装着されるマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19および20が配置され、これ等マグネトロンスパッタリングカソード17、18、19、20の近傍に、上述したように水等を含ませた反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(アルゴンガス等)の混合ガスを放出するガス供給パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が付設された構造になっている。
【0047】
尚、
図5のスパッタリング成膜装置では、板状ターゲットを装着したマグネトロンスパッタリングカソードが用いられているが、円筒形のロータリーターゲットが装着されたマグネトロンスパッタリングカソードを用いてもよい。板状ターゲットに較べ、ロータリーターゲットの方がターゲットの使用効率に優れている。
【0048】
(3-2)反応性スパッタリング
金属酸化膜から成る金属吸収層を形成する目的で酸化物ターゲットを適用した場合、上述したように成膜速度が遅く量産に適さない。このため、金属ターゲット(Ni系金属等)を用いかつ真空チャンバー内に反応性ガス(酸素ガス)を導入する反応性スパッタリングが採用されている。
【0049】
ところで、
図5に示すスパッタリング成膜装置を用い、長尺状樹脂フィルムに連続スパッタリング成膜を行って得られる積層体フィルムは、上述したように長尺樹脂フィルムの長手方向でエッチング液によるエッチング速度が異なり、成膜始端側積層体フィルムのエッチング速度が、成膜終端側積層体フィルムより速くなることが確認され、この現象は、特許文献1、2において金属吸収層のエッチング速度が相違するためであると記載されている。
【0050】
そして、Ni系の金属ターゲットを用いた反応性スパッタリングにより成膜される金属酸化膜(金属吸収層)の化学組成(Niの化学状態)は、非特許文献1によれば、反応性ガスとして酸素を導入するとNiO膜になり、水分を導入するとNiOOH膜になることから、金属酸化膜(金属吸収層)は結晶粒が細かく、水酸化物であるNiOOHの存在がエッチング性に影響を及ぼしていると推定している。
【0051】
このため、特許文献1、2においては、成膜中に減少する真空チャンバー内の水分量を補うために反応性ガス(酸素ガス)に水若しくは水素を含ませ、長尺樹脂フィルムの長手方向によってエッチング速度が異なる現象を解決する方法を提案している。
【0052】
尚、反応性ガスを制御する方法として以下の4つの方法が知られている。
(3-2-1)一定流量の反応性ガスを放出する方法。
(3-2-2)一定圧力を保つように反応性ガスを放出する方法。
(3-2-3)スパッタリングカソードのインピーダンスが一定になるように反応性ガスを放出する(インピーダンス制御)方法。
(3-2-4)スパッタリングのプラズマ強度が一定になるように反応性ガスを放出する(プラズマエミッション制御)方法。
【0053】
(4)従来のスパッタリング成膜装置を用いた場合の問題
(4-1)従来のスパッタリング成膜装置
金属ターゲット(Ni系金属等)と反応性ガス(酸素ガス)を用いた反応性スパッタリング法により金属酸化膜(金属吸収層)を形成する場合、上述したように
図5に示すスパッタリング成膜装置が利用されている。
【0054】
そして、水等を含ませた反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(アルゴンガス等)を真空チャンバー内に供給する手段として、スパッタリングターゲットが装着されるマグネトロンスパッタリングカソード17、18、19、20の近傍に付設されたガス供給パイプ25、26、27、28、29、30、31、32が利用され、ガス供給パイプは、そのガス放出孔がスパッタリングの成膜成分で閉塞されないようにするため、通常、マグネトロンスパッタリングカソード17、18、19、20の側面側(
図5参照)若しくはマグネトロンスパッタリングカソードの裏面側に配置される場合が多い。
【0055】
(4-2)問題点
ところで、マグネトロンスパッタリングカソードの側面側(
図5参照)若しくは裏面側にガス供給パイプが配置された場合、上記ガス供給パイプから放出されるガスの流れに沿って水等を含ませた反応性ガス(酸素ガス)が、プロセスガス(スパッタリングガス)と共にスパッタリングターゲット表面のプラズマ領域を通過することになるため、スパッタリングターゲット表面に反応性ガス(酸素ガス)や水等を原因とする水酸化物が堆積され易くなり、上述したノジュールと呼ばれる異物も発生し易くなる。そして、これ等水酸化物やノジュールと呼ばれる異物は絶縁体であるため、帯電による異常放電(アーク放電)で堆積物がはじけ飛び、キャンロールとマグネトロンスパッタリングカソードの隙間部を搬送される長尺体(長尺樹脂フィルム等)表面に堆積物の粒子が付着して膜欠陥(異物の付着による凹凸欠陥)を引き起こし、更に、上記堆積物の粒子がキャンロール表面に付着して影響を及ぼす問題も引き起こす。
【0056】
尚、上記「プラズマ領域」とは、マグネトロンスパッタリングカソードの磁場により形成されるポロイダル磁場空間を電子がドリフトして移動し、プロセスガス(スパッタリングガス)を構成する希ガス原子(例えばアルゴン原子)のプラズマ濃度が高い雰囲気を指しており、この雰囲気は、マグネトロンスパッタリングカソードに装着されたスパッタリングターゲットとキャンロールの隙間部における中間位置(スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置)よりスパッタリングターゲット側に生じる。
【0057】
(5)本発明による改善策
(5-1)そこで、本発明においては、上記ガス供給パイプ25、26、27、28、29、30、31、32から水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(例えばアルゴンガス)との混合ガスを真空チャンバー内に供給する方法に代え、上記ガス供給パイプについて、これを、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給手段と、プロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給手段とに分割し、かつ、スパッタリングターゲットとキャンロールの隙間部における中間位置よりキャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置してスパッタリングターゲット側へ向け反応性ガスが供給され難いガス供給手段の配置構造を採用することで上記問題を解消している。
【0058】
すなわち、本発明においては、スパッタリングターゲットとキャンロール(冷却キャンロール)の隙間部における中間位置よりキャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置し、上記隙間部を搬送される長尺体(長尺樹脂フィルム等)表面側へ向けて反応性ガスを供給すると共に上記スパッタリングターゲット側へ向け反応性ガスを供給しないようにする一方、上記隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード側に上記プロセスガス供給手段を配置し、上記スパッタリングターゲット側へ向けてプロセスガス(アルゴン等のスパッタリングガス)を供給する方法を採っている。
【0059】
(5-2)本発明に係るスパッタリング成膜装置
長尺体(長尺樹脂フィルム等)片面に上述した積層体フィルムにおける第1層目の金属吸収層(金属酸化膜)を2本のマグネトロンスパッタリングカソードを用いて形成する場合を例に挙げて本発明に係るスパッタリング成膜装置を説明する。
【0060】
尚、
図6は本発明に係るスパッタリング成膜装置の部分拡大図を示しており、
図5に示したマグネトロンスパッタリングカソード17、18は、
図6においてはマグネトロンスパッタリングカソード117、118に対応し、
図5のガス供給パイプ25、26、27、28は、
図6においてガス供給パイプ125、126、127、128に対応し、また、
図5のキャンロール(冷却キャンロール)16は、
図6においてキャンロール(冷却キャンロール)116に対応している。
【0061】
また、本発明に係るスパッタリング成膜装置は、
図5に示したスパッタリング成膜装置と相違して上記マグネトロンスパッタリングカソード117、118の間に隔壁172が設けられており、互いのガス雰囲気が影響を及ぼさないように差動排気システムを取り付けてもよい。尚、
図6の符号170、符号171はカソードカバーを示している。
【0062】
そして、本発明に係るスパッタリング成膜装置は、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(例えばアルゴンガス)との混合ガスを真空チャンバー内に供給する従来の方式に代えて、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給手段と、プロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給手段とに分割し、かつ、スパッタリングターゲットとキャンロールの隙間部における中間位置よりキャンロール側に上記反応性ガス供給手段を配置してスパッタリングターゲット側へ向け反応性ガスが供給され難いガス供給手段の配置構造を採用したことを特徴としている。
【0063】
すなわち、本発明に係るスパッタリング成膜装置は、
図6に示すように上記隔壁172を境にして上流側のマグネトロンスパッタリングカソード117と、キャンロール(冷却キャンロール)116との隙間部における中間位置(スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置)より冷却キャンロール116側でかつマグネトロンスパッタリングカソード117の対向側に水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給パイプ180、181が配置されると共に、上記隔壁172を境にして下流側のマグネトロンスパッタリングカソード118と、冷却キャンロール116との隙間部における中間位置より冷却キャンロール116側でかつマグネトロンスパッタリングカソード118の対向側にも水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給パイプ182、183が配置されている。
【0064】
尚、各反応性ガス供給パイプ180、181、182、183におけるガス放出孔の先端方向が適宜調整されて、マグネトロンスパッタリングカソードに装着されるスパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部を搬送される長尺体(長尺樹脂フィルム等)側へ向けて反応性ガス供給パイプから水等を含んだ反応性ガス(酸素ガス)が供給される一方、マグネトロンスパッタリングカソード117、118に装着される各スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスが供給され難くなるようになっている。
【0065】
また、上流側のマグネトロンスパッタリングカソード117に装着されるスパッタリングターゲットと冷却キャンロール116との隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード117側でかつマグネトロンスパッタリングカソード117の側面側にプロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給パイプ125、126が配置されると共に、下流側のマグネトロンスパッタリングカソード118に装着されるスパッタリングターゲットと冷却キャンロール116との隙間部における中間位置よりマグネトロンスパッタリングカソード118側でかつマグネトロンスパッタリングカソード118の側面側にもプロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給パイプ127、128が配置されている。
【0066】
(5-3)反応性ガス供給パイプとプロセスガス供給パイプの具体例
(5-3-1)各反応性ガス供給パイプは冷却キャンロール116の軸方向に沿って設けられ、水等を含んだ反応性ガス(酸素ガス)を放出するガス放出孔が反応性ガス供給パイプの長手方向(長尺体の幅方向)に点在していると共に、ガス放出孔は反応性ガス供給パイプにおけるパイプ本体の厚みにより長尺体(長尺樹脂フィルム等)表面側のスパッタリング成膜領域に向いておりかつスパッタリングターゲット側へは向いていない。
【0067】
このため、マグネトロンスパッタリングカソードに装着される各スパッタリングターゲット側へ向けて反応性ガスは供給され難い構造となっている。
【0068】
(5-3-2)一方、プロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給パイプは、アルゴン等のスパッタリングガスを放出するガス放出孔を備えており、ガス放出孔は、マグネトロンスパッタリングカソードに装着されるスパッタリングターゲットと冷却キャンロールとの隙間部における中間位置よりスパッタリングターゲット側に生じる上述の「プラズマ領域」に向いている。
【0069】
(5-4)金属吸収層(金属酸化膜)の膜厚
本発明に係るスパッタリング成膜装置においては、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)とプロセスガス(例えばアルゴンガス)との混合ガスを真空チャンバー内に供給する供給パイプが、上述したように反応性ガス供給パイプとプロセスガス供給パイプに分割されているため、長尺体(長尺の樹脂フィルム等)表面に形成される金属吸収層(金属酸化膜)の膜厚は、スパッタリングターゲットが装着される1つのスパッタリングカソード毎に30nm以下であることが望ましい。配置された反応性ガス供給パイプに近い箇所からより多くの反応性ガス原子が金属吸収層(金属酸化膜)内に取り込まれることから、金属吸収層(金属酸化膜)内に取り込まれる反応性ガス原子の偏りを防ぐためである。
【0070】
尚、積層体フィルムから電極基板フィルムを加工する際のエッチング液にも依存するが、積層体フィルムの積層膜(Ni系金属吸収層と金属層)においてエッチングの進行が早いのは、Ni膜、NiOOH膜、NiO膜の順番である。エッチング性を重視するならば、金属吸収層(金属酸化膜)の厚み方向で長尺樹脂フィルム(長尺体)側をNiOOH膜(完全に酸化しているわけではない)にすることが望ましく、長尺樹脂フィルムからの水分が積層膜を酸化させないバリア性を重視するならば、金属吸収層の厚み方向で長尺樹脂フィルム側をNiO膜(完全に酸化しているわけではない)にすることが望ましい。
【0071】
(5-5)本発明による改善効果
本発明に係るスパッタリング成膜装置によれば、マグネトロンスパッタリングカソード117、118に装着される各スパッタリングターゲット側へ向けて水等を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給され難い構造になっているため、連続して反応性スパッタリングによる金属吸収層(金属酸化膜)の成膜を行った場合でも、上述したパーティクル堆積物やノジュール等の発生を防止することが可能となる。
【0072】
従って、長尺体(長尺の樹脂フィルム等)表面に異物の付着やデント(窪み)等が存在しない高品質の薄膜が形成されるため、電極基板フィルムの材料として好適な積層体フィルムを製造できる効果を有している。
【0073】
(6)板状ターゲットとロータリーターゲット
(6-1)板状ターゲットが適用されたスパッタリング成膜装置
図7は板状ターゲットが適用されたスパッタリング成膜装置の要部を拡大した図であり、
図7(A)は板状ターゲットTが装着されたマグネトロンスパッタリングカソード217の平面図、
図7(B)は板状ターゲットTが組み込まれた本発明に係るスパッタリング成膜装置の要部拡大図である。
【0074】
板状ターゲットTが適用されたスパッタリング成膜装置は、
図7(B)に示すように冷却キャンロール216の外周面近傍部に薄膜形成領域(すなわち成膜領域)を規制するマスクカバー200が付設されており、かつ、上記キャンロール216表面の対向側に板状のスパッタリングターゲットTが装着されるマグネトロンスパッタリングカソード217が組み込まれている。
【0075】
また、マグネトロンスパッタリングカソード217に装着される板状スパッタリングターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)より冷却キャンロール216側の上記マスクカバー200の開口端近傍位置でかつマグネトロンスパッタリングカソード217の対向側に水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給パイプ280、281が配置され、かつ、上記マグネトロンスパッタリングカソード217に装着される板状スパッタリングターゲットTと冷却キャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)よりマグネトロンスパッタリングカソード217側でかつマグネトロンスパッタリングカソード217の側面側にプロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給パイプ225、226が配置されると共に、マグネトロンスパッタリングカソード217の背面側にH
2OとArガスの分圧を測定する四重極質量分析計300が組み込まれている。
【0076】
尚、反応性スパッタリング中に板状スパッタリングターゲットT表面に形成されてしまう「エロージョン」を
図7(A)と
図7(B)に示す。
【0077】
そして、板状ターゲットTが適用された
図7に示すスパッタリング成膜装置においては、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を真空チャンバー内に供給する反応性ガス供給パイプ280、281が、板状スパッタリングターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)より冷却キャンロール216側でマスクカバー200の開口端近傍位置に配置され、板状スパッタリングターゲットT側のエロージョン部分(レーストラック)から5cm以内を含む領域(すなわち板状スパッタリングターゲット表面のプラズマ領域P)へ向けて水等を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給され難い構造になっているため、連続して反応性スパッタリングによる金属吸収層(Ni系金属酸化膜)の成膜を行った場合でも、上述したパーティクル堆積物やノジュール等の発生を防止することが可能となる。
【0078】
(6-2)ロータリーターゲットが適用されたスパッタリング成膜装置
図8はロータリーターゲットが適用されたスパッタリング成膜装置の要部を拡大した図であり、
図8(A)はロータリーターゲットTが装着されたマグネトロンスパッタリングカソードの平面図、
図8(B)はロータリーターゲットTが組み込まれた本発明に係るスパッタリング成膜装置の要部拡大図である。
【0079】
ロータリーターゲットTが適用されたスパッタリング成膜装置も、
図8(B)に示すように冷却キャンロール216の外周面近傍部に薄膜形成領域(すなわち成膜領域)を規制するマスクカバー200が付設されており、かつ、上記キャンロール216表面の対向側にロータリーターゲットTが装着される円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317が組み込まれている。
【0080】
また、円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317に装着されるロータリーターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(ロータリーターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)より冷却キャンロール216側の上記マスクカバー200の開口端近傍位置でかつ円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317の対向側に水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を供給する反応性ガス供給パイプ280、281が配置され、かつ、円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317に装着されるロータリーターゲットTと冷却キャンロール216との隙間部における中間位置(ロータリーターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)より円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317側でかつ円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317の側面側にプロセスガス(例えばアルゴンガス)を供給するプロセスガス供給パイプ325、326が配置されると共に、円筒形マグネトロンスパッタリングカソード317の背面側に上記四重極質量分析計300が組み込まれている。
【0081】
尚、反応性スパッタリング中にロータリーターゲットT表面に形成されてしまう「エロージョン」を
図8(A)と
図8(B)に示す。
【0082】
そして、ロータリーターゲットTが適用された
図8に示すスパッタリング成膜装置においては、水等が添加された反応性ガス(酸素ガス)を真空チャンバー内に供給する反応性ガス供給パイプ280、281が、板状スパッタリングターゲットTが適用された
図7のスパッタリング成膜装置と同様、ロータリーターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(ロータリーターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)より冷却キャンロール216側でマスクカバー200の開口端近傍位置に配置され、ロータリーターゲットT側のエロージョン部分から5cm以内を含む領域(すなわちロータリーターゲットT表面のプラズマ領域P)へ向けて水等を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給され難い構造になっているため、連続して反応性スパッタリングによる金属吸収層(Ni系金属酸化膜)の成膜を行った場合でも、上述したパーティクル堆積物やノジュール等の発生を防止することが可能となる。
【0083】
尚、上記反応性ガス供給パイプとプロセスガス供給パイプのガス放出孔については、ターゲットからの飛来粒子による閉塞を防止するためカバーを配置することが望ましい。
【0084】
(7)水分圧制御
スパッタリング成膜装置による金属吸収層(金属酸化膜)の成膜は、成膜時間が数時間にも及ぶことがあり、その間における真空チャンバー内の水分圧を設定値に安定させる必要がある。このため、四重極質量分析計(
図7と
図8の符号300参照)を用いてH
2OとArガスの分圧を測定し、この比「H
2O/Ar」が一定となるように水の放出量(供給量)を流量計で制御している。成膜中における水流量「H
2O流量」と比「H
2O/Ar」を
図9に示す。ここでは、比「H
2O/Ar」が0.012となるようにPID制御を実施している。
【0085】
図9のグラフ図から、成膜中の比「H
2O/Ar」が0.012を保っていることが確認できる。また、水流量「H
2O流量」は成膜開始と共に低下している。これは、スパッタリング時間の経過と共にスパッタリングの熱負荷によりカソード周辺や真空チャンバー内壁の温度が上昇して水が離脱するため、0.012の比「H
2O/Ar」を保つための水流量「H
2O流量」が次第に減少している。後に水流量「H
2O流量」は増加している。
【0086】
更に、スパッタリング時間の経過と共にスパッタリングの熱負荷によりカソード周辺や真空チャンバー内壁の温度が上昇して、水が既に離脱してしまったため、0.012の比「H
2O/Ar」を保つために水流量「H
2O流量」が次第に増加している。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について、比較例を挙げて具体的に説明する。
【0088】
[実施例1〜5]
図5に示すスパッタリング成膜装置のマグネトロンスパッタリングカソード17、18の構造が、
図6に示されたマグネトロンスパッタリングカソード117、118に変更され、
図5に示すスパッタリング成膜装置のガス供給パイプ25、26、27、28の構造が、
図6に示されたマグネトロンスパッタリングカソード117、118の各側面側に設けられたプロセスガス供給パイプ125、126、127、128、および、キャンロール116(
図5においてキャンロールは符号16で示す)近傍に設けられた反応性ガス供給パイプ180、181、182、183に分割された構造に変更され、かつ、
図6に示されたマグネトロンスパッタリングカソード117、118間に隔壁172が介装されると共にキャンロール116と各マグネトロンスパッタリングカソード117、118との隙間部に成膜領域(薄膜形成領域)を規制するマスクカバー(
図7Bの符号200参照)が付設され、更に、
図7(B)に示すようにマグネトロンスパッタリングカソード217(
図6においてこのマグネトロンスパッタリングカソードは符号117で示す)の背面側に四重極質量分析計300が組み込まれた構造の改変型スパッタリング成膜装置を用いて積層体フィルムの製造を行った。
【0089】
尚、上記反応性ガス供給パイプ180、181、182、183(
図7Bにおいて上記反応性ガス供給パイプ180、181は符号280、281で示し、
図6のキャンロール116は
図7Bにおいて符号216で示す)は、板状スパッタリングターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)よりキャンロール216側で上記マスクカバー200の開口端近傍位置に設けられており、板状スパッタリングターゲットTと冷却キャンロール216の隙間部を搬送される図示外の長尺体(長尺の樹脂フィルム)表面側へ向け上記反応性ガス供給パイプ180、181、182、183(
図7Bにおいて反応性ガス供給パイプ180、181は符号280、281で示す)から水を含む反応性ガス(酸素ガス)を供給する一方、マグネトロンスパッタリングカソード217に装着された板状スパッタリングターゲットT側のエロージョン部分から5cm以内を含む領域(板状スパッタリングターゲット表面のプラズマ領域P)へ向けて水を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給されないようになっている。また、
図7(B)において板状スパッタリングターゲットTと冷却キャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)よりマグネトロンスパッタリングカソード217側でかつマグネトロンスパッタリングカソード217の側面側に設けられたプロセスガス供給パイプ225、226からは板状スパッタリングターゲットT側のエロージョン部分から5cm以内を含む領域(板状スパッタリングターゲット表面のプラズマ領域P)へ向けてプロセスガス(アルゴンガス)が供給される(
図7Bには示されていない
図6のプロセスガス供給パイプ127、128も同様)ようになっている。
【0090】
また、
図5に示すキャンロール16は、直径600mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。前フィードロール15と後フィードロール21は直径150mm、幅750mmのステンレス製で、ロール本体表面にハードクロムめっきが施されている。また、
図6に示すマグネトロンスパッタリングカソード117、118には金属吸収層用の板状Ni−Cuターゲットが取付けられ、
図5に示すマグネトロンスパッタリングカソード19と20には金属層用の板状Cuターゲットが取付けられている。
【0091】
また、透明基板を構成する上記長尺体(長尺の樹脂フィルム)には幅600mmで長さ1200mのPETフィルムを用い、
図5に示すキャンロール16は0℃に冷却制御した。また、真空チャンバー10を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に、複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10
-3Paまで排気した。
【0092】
そして、搬送速度を2m/分にした後、
図6に示す上記プロセスガス供給パイプ125、126、127、128(
図7Bにおいてプロセスガス供給パイプ125、126は符号225、226で示す)からプロセスガス(アルゴンガス)を300sccm導入する一方、反応性スパッタリング中に、反応性ガス供給パイプ180、181、182、183(
図7Bにおいて反応性ガス供給パイプ180、181は符号280、281で示す)から水を含む反応性ガス(酸素ガス)を30sccm導入した。尚、4本の上記反応性ガス供給パイプ180、181、182、183から反応性ガス(酸素ガス)を導入する際、設定水分圧に制御されるまで待機してから導入を行っている。
【0093】
また、
図5に示すガス供給パイプ29、30、31、32からプロセスガス(アルゴンガス)を300sccm導入し、
図5に示す金属層形成用のマグネトロンスパッタリングカソード19と20は、膜厚80nmのCu層が得られる電力制御で成膜を行い、
図5に示す金属吸収層形成用のマグネトロンスパッタリングカソード17と18は、膜厚30nmのNi−Cu酸化膜層が得られる電力制御で成膜を行った。
【0094】
そして、Ni−Cu酸化膜層を成膜する際、四重極質量分析計(HORIBAエステック製)により真空チャンバー内の比「H
2O/Ar」を予め測定し、上記比「H
2O/Ar」が0.006(実施例1)、0.008(実施例2)、0.010(実施例3)、0.012(実施例4)、0.014(実施例5)になるように水導入量(H
2Oガス)をPID制御して実施例1〜5に係る積層体フィルムを製造した。
【0095】
[比較例1〜5]
上記反応性ガス供給パイプ180、181、182、183(
図7Bにおいて上記反応性ガス供給パイプ180、181は符号280、281で示し、
図6のキャンロール116は
図7Bにおいて符号216で示す)の設置位置が、板状スパッタリングターゲットTとキャンロール216との隙間部における中間位置(板状スパッタリングターゲットとキャンロール間距離の中間位置:5cm)よりスパッタリングターゲットT側に設定され、スパッタリングターゲットTと冷却キャンロール216の隙間部を搬送される図示外の長尺体(長尺の樹脂フィルム)表面側へ向けて上記反応性ガス供給パイプ180、181、182、183(
図7Bにおいて反応性ガス供給パイプ180、181は符号280、281で示す)から水を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給されると共に、更に、マグネトロンスパッタリングカソード217に装着された板状スパッタリングターゲットT側のエロージョン部分から5cm以内を含む領域(板状スパッタリングターゲット表面のプラズマ領域P)へ向け、水を含む反応性ガス(酸素ガス)が供給されてしまう点を除いて実施例と略同一構造の改変型スパッタリング成膜装置を用い、かつ、実施例と略同一の成膜条件で積層体フィルムを製造した。
【0096】
尚、上記四重極質量分析計(HORIBAエステック製)により予め測定した真空チャンバー内の比「H
2O/Ar」が0.006(比較例1)、0.008(比較例2)、0.010(比較例3)、0.012(比較例4)、0.014(比較例5)としている。
【0097】
「評 価」
(1)成膜層の評価
上述した1200mの長尺体(PETフィルム)に対して、第1層目のNi−Cu酸化膜層(膜厚30nm)と第2層目のCu層(膜厚80nm)を連続成膜し、1200mの成膜が終了した後、最後部(成膜終端側)をサンプリングして表面異物に起因する凹凸を観察した。
【0098】
また、反応性スパッタリング成膜中における異常放電の有無と成膜中におけるスパッタリングターゲットの表面状態も合わせて調べた。
【0099】
これ等結果を以下の表1に示す。
【0100】
(2)エッチング性の評価
乾式成膜法(スパッタリング法)により形成された第2層目のCu層(膜厚80nm)上に湿式めっき法により更に1μmのCu層を成膜し、かつ、第1層目と同一の条件で第3層目のNi−Cu酸化膜層(膜厚30nm)を成膜して
図3に示す積層体フィルムを製造した。
【0101】
そして、エッチング液に塩化第二鉄水溶液を用いて積層膜(Cu/Ni−Cu/Cu)のエッチング性を評価した。
【0102】
これ等結果も以下の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
「確 認」
(1)実施例と比較例の「水分圧」と「エッチング時間(秒)」欄から確認されるように、水分圧(すなわち、真空チャンバー内の比「H
2O/Ar」)が大きい程、エッチング性が良好であることが確認される。
【0105】
尚、エッチング性が若干劣る実施例1と比較例1は、同一の評価になっていることが確認される。
【0106】
(2)また、エッチング性を改善するため「水分圧」を大きくした場合、比較例2においては実施例2に較べて「ターゲットの表面状態」が悪くなる(堆積物発生)ことが確認され、比較例3においては実施例3に較べて「ターゲットの表面状態」が悪くなり(堆積物発生)かつ「表面の凹凸」も発生してしまうことが確認され、更に、比較例4においては実施例4に較べて「ターゲットの表面状態」が悪くなり(堆積物発生)、「表面の凹凸」も発生し、かつ、「成膜中の異常放電」も生じてしまうことが確認される。