(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848497
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】スラリーの流送方法及びスラリー流送装置
(51)【国際特許分類】
C22B 19/34 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
C22B19/34
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-21563(P2017-21563)
(22)【出願日】2017年2月8日
(65)【公開番号】特開2018-127676(P2018-127676A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武史
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−155692(JP,A)
【文献】
特開2000−070994(JP,A)
【文献】
特開2007−307515(JP,A)
【文献】
特開2011−016103(JP,A)
【文献】
特開2015−128754(JP,A)
【文献】
特開2012−183472(JP,A)
【文献】
特開平10−202213(JP,A)
【文献】
特開2014−062304(JP,A)
【文献】
特開平03−140423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径1000mm以上の貯溜槽に貯溜されたスラリーを、該貯溜槽の側面に接続された内径200mm以下の抜き取り配管を通して流送するスラリーの流送方法であって、
スケール防止剤を、前記抜き取り配管の前記貯溜槽側の接続端から0mm以上100mm以下の位置に設置したスケール防止剤添加口から該抜き取り配管内に直接供給し、
前記スラリーが、亜鉛含有率30重量%以上70重量%以下の粗酸化亜鉛ダストがスラリー濃度で1g/L以上50g/L以下の濃度に懸濁された粗酸化亜鉛スラリーであって、
前記スケール防止剤が、キレート剤、ホスホン酸、マレイン酸系ポリマーのうちのいずれかを少なくとも含んでなるスケール防止剤であって、前記粗酸化亜鉛スラリーに対して1μL/L以上30μL/L以下の濃度になるように前記スケール防止剤の供給量を調整する、
スラリーの流送方法。
【請求項2】
前記スケール防止剤を、前記貯溜槽には供給せずに、前記抜き取り配管内のみに供給する請求項1に記載のスラリーの流送方法。
【請求項3】
前記貯溜槽は、
亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を得る製造プラントにおいて発生する粗酸化亜鉛スラリーを貯溜する槽である、請求項1又は2に記載のスラリーの流送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーの流送方法及びスラリー流送装置に関する。詳しくは、亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を得る製造プラントにおいて発生する粗酸化亜鉛スラリーの流送に特に好ましく適用することができる、スラリーの流送方法及びスラリー流送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、イオン交換膜を用いた水処理、ボイラー水や冷却水の処理、排ガス洗浄水処理等、原水又は処理水を扱う工業分野において、原水又は処理水に溶存するシリカやカルシウム等が原因となって、イオン交換膜の表面、ボイラーの伝熱面、配管内、熱交換器内にスケールが発生することがある。このスケールが発生すると、イオン交換や熱交換の効率を著しく低下させたり、配管を閉塞させて著しく流送を困難にする等、様々な問題を引き起こす。
【0003】
このスケール発生の問題は、工業炉における溶融、焙焼、加熱、或いは乾燥に伴って発生する粗酸化亜鉛ダストを湿式除塵して得られた、粗酸化亜鉛スラリーの処理時においても例外なく発生する。例えば、亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を得る製造プラントにおける上記処理が、それに該当する。そして、このようなスケールの発生は、スラリーを流送する配管を閉塞させて操業の中断を余儀なくする等、上記製造プラント等の稼働率を低下させる要因となっていた。
【0004】
一般的な水処理装置におけるスケール対策として、処理対象の原水へスケール分散剤を添加するための添加装置他を備えた水処理装置(特許文献1参照)や、Caイオン等の2価のイオンを含む混合水に対して、スケール防止剤を供給するスケール防止剤供給部を有する水処理システム(特許文献2参照)等が開示されている。上記の酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいても、スケール対策として、同様に、処理対象となるスケール成分に応じた各種のスケール防止剤を、スラリーの貯留槽へ供給する対策が行われていた。
【0005】
しかしながら、特に大型の貯溜槽からスラリーを流送する内径の狭小な配管において、上記のスケール対策の効果は必ずしも十分ではなかった。又、そのような内径の狭小な配管は、スケール発生後の清掃除去作業も困難であるため、スケールの付着をより効果的に防止することができる手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−183472号公報
【特許文献2】特開2015−128754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みて考案されたものであり、大型の貯溜槽からスラリーを流送する狭小な配管において、スケールの付着を、従来手段よりも効果的に抑制することができるスラリーの流送手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、貯溜槽の側面部に接続された抜き取り配管において、貯留槽への接続端から特定の距離範囲内の位置において、スケール防止剤を直接抜き取り配管内に供給することによって、配管内へのスケール付着量を極めて効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 内径1000mm以上の貯溜槽に貯溜されたスラリーを、該貯溜槽の側面に接続された内径200mm以下の抜き取り配管を通して流送するスラリーの流送方法であって、スケール防止剤を、前記抜き取り配管の前記貯溜槽側の接続端から0mm以上100mm以下の位置に設置したスケール防止剤添加口から該抜き取り配管内に直接供給する、スラリーの流送方法。
【0010】
(1)の発明においては、抜き取り配管のスケール対策として、スケール防止剤を、貯留槽を経由させずに、スラリーを流送する抜き取り配管の所定位置に直接供給することとした。これによれば、同量のスケール防止剤を貯留槽に供給していた従来方法による場合と比較して、配管中のスケールの付着抑制効果が著しく向上する。これは、従来方法による場合に、滞留時間の長い貯留槽内でスケール防止剤の多くの部分が作用してしまっていたのに対して、(1)の発明によれば、スケールの付着が致命的な問題となりやすい狭小な配管内において概ね全てのスケール防止剤を効果的に作用させることができるからである。
【0011】
(2) 前記スラリーが、亜鉛含有率30重量%以上70重量%以下の粗酸化亜鉛ダストがスラリー濃度で1g/L以上50g/L以下の濃度に懸濁された粗酸化亜鉛スラリーであって、前記スケール防止剤が、キレート剤、ホスホン酸、マレイン酸系ポリマーのうちのいずれかを少なくとも含んでなるスケール防止剤であって、前記粗酸化亜鉛スラリーに対して1μL/L以上30μL/L以下の濃度になるように前記スケール防止剤の供給量を調整する(1)に記載のスラリーの流送方法。
【0012】
(2)の発明によれば、例えば、酸化亜鉛鉱製造プラントにおいて発生する一般的な性状の粗酸化亜鉛スラリーに起因して発生する、配管のスケール対策に、(1)の発明を特に好ましい態様で適用することができる。
【0013】
(3) 前記スケール防止剤を、前記貯溜槽には供給せずに、前記抜き取り配管内のみに供給する(1)又は(2)に記載のスラリーの流送方法。
【0014】
(3)の発明によれば、スケール防止剤を抜き取り配管内のみに供給することとした。これによれば、(1)又は(2)に記載のスラリーの流送方法の実施において、必要最小限のスケール防止剤の供給量で十分なスケール付着の抑制効果を得ることができ、(1)又は(2)に記載のスラリーの流送方法を用いて行う、酸化亜鉛鉱製造等における生産コストを抑えることができる。
【0015】
(4) 前記貯溜槽は、亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を得る製造プラントにおいて発生する粗酸化亜鉛スラリーを貯溜する槽である、(1)から(3)のいずれかに記載のスラリーの流送方法。
【0016】
(4)の発明によれば、(1)から(3)のいずれかのスラリーの流送方法の上記効果を享受して、酸化亜鉛鉱の製造プラントの稼働率向上や経済性の向上に寄与することができる。
【0017】
(5) スラリーを流送するスラリー流送装置であって、内径1000mm以上の貯溜槽と、前記貯溜槽の側面に接続された内径200mm以下の抜き取り配管と、を備え、前記抜き取り配管の前記貯溜槽側の接続端から0mm以上100mm以下の位置にスケール防止剤添加口が設置されている、スラリー流送装置。
【0018】
(5)の発明によれば、配管のスケール対策として供給するスケール防止剤を、貯留槽を経由させずに、スラリーを流送する抜き取り配管の所定位置に直接供給することができる構造とした。これによれば、同量のスケール防止剤を貯留槽に供給していた従来方法による場合と比較して、配管中のスケールの付着抑制効果が著しく向上する。これは、従来構成の装置による場合に、滞留時間の長い貯留槽内でスケール防止剤の多くの部分が作用してしまっていたのに対して、(5)の発明によれば、スケールの付着が致命的な問題となりやすい狭小な配管内のみにおいて概ね全てのスケール防止剤を効果的に作用させることができるからである。
【0019】
(6) 吸込み側が前記抜き取り配管に接続された流送ポンプと、該流送ポンプの吐出側に接続された内径200mm以下の流送配管とを更に備える、(5)に記載のスラリー流送装置。
【0020】
(6)の発明によれば、流送ポンプの吸込み側にスケール防止剤を供給することとなるのでエゼクター効果により管内でスケール防止剤が均一に分散するため、抜き取り配管内へスケール防止剤の添加細管を挿入する等の追加的な加工を施すことなく、本発明の効果を好ましい水準で享受することができる。
【0021】
(7) 前記スラリーが、亜鉛含有率30重量%以上70重量%以下の粗酸化亜鉛ダストがスラリー濃度で1g/L以上50g/L以下の濃度に懸濁された粗酸化亜鉛スラリーである、(5)又は(6)に記載のスラリー流送装置。
【0022】
(7)の発明によれば、例えば、酸化亜鉛鉱製造プラントにおいて発生する一般的な性状の粗酸化亜鉛スラリーに起因して発生する、配管のスケール対策に、(5)又は(6)の発明を特に好ましい態様で適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、大型の貯溜槽からスラリーを流送する狭小な配管において、スケールの付着を、従来手段よりも効果的に抑制することができるスラリーの流送手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のスラリー流送装置の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のスラリーの流送方法及びスラリー流送装置の好ましい一実施形態について説明する。本発明は、スラリーを貯溜する槽からスラリーを流送する工程を含んでなる様々な工業プロセスに広く適用可能であり、中でも粗酸化亜鉛スラリーを配管で流送する工程を含む工業プロセスにおいて、特に好ましく実施することができる。粗酸化亜鉛スラリーを配管で流送する工程を含む工業プロセスの代表例としては、以下に詳細を示す「酸化亜鉛鉱の製造プロセス」、即ち、還元焙焼工程、湿式工程、乾燥加熱工程を含んでなる酸化亜鉛鉱の製造プロセスを挙げることができる。以下においては、本発明の方法又は装置の酸化亜鉛鉱の製造プロセスへの適用を、本発明の好ましい実施形態の一例として詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で変更が可能である。
【0026】
<酸化亜鉛鉱の製造プロセス>
ウェルツ法による酸化亜鉛鉱の製造プロセスは、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼して粗酸化亜鉛ダストを得る還元焙焼工程、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストからフッ素及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱して酸化亜鉛鉱(焼鉱)を得る乾燥加熱工程を順次行うプロセスである。本発明は、このような酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて、特に乾燥加熱工程から排出されたDRK排ガスダストを含む粗酸化亜鉛スラリーを貯溜槽から流送するための手段として極めて好ましく実施することができる。尚、本願発明は、例えば、酸化亜鉛鉱の産出量が6t/h以上10t/h以下程度の一般的な酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいて好ましく実施することができ、又、これに限らず、あらゆる規模の製造プラントにおいて同様に実施可能である。
【0027】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程においては、鉄鋼ダストを還元材とともに予めペレット化した原材料等を、還元焙焼用ロータリーキルン(RRK)によって還元焙焼する処理が行われる。この工程では、上記の原材料ペレットが、石灰石等とともに、RRKに連続的に投入される。RRK炉内で鉄鋼ダスト由来の原材料は還元焙焼されて、揮発した金属亜鉛は炉内で再酸化されて粉状の酸化亜鉛となる。粉状の酸化亜鉛は、RRKからの排出ガスとともに集塵機に導入され、捕捉されて粗酸化亜鉛ダストとして回収される。
【0028】
[湿式工程]
還元焙焼工程に続く湿式工程においては、還元焙焼工程で得た粗酸化亜鉛ダストに含有される塩素、フッ素等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式処理が行われる。より詳細には、塩素、フッ素等のハロゲン系不純物が処理液中に除去された状態において、固液分離により、不純物が分配された処理液をスラリーから除去する。これにより、粗酸化亜鉛ダストが、ハロゲン系不純物が除去された粗酸化亜鉛ケーキとなる。
【0029】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程においては、湿式工程で得た粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱用ロータリーキルン(DRK)に投入して焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する乾式処理を行う。この工程で処理対象となる粗酸化亜鉛ケーキの水分率は一般的に20質量%以上30質量%以下である。又、粗酸化亜鉛ケーキの一般的な組成は、亜鉛が61質量%以上68質量%以下、鉛が7質量%以上10質量%以下、塩素が0.3質量%以上0.9質量%以下、フッ素が0.2質量%以上1.5質量%以下(いずれも乾燥量基準)である。このような粗酸化亜鉛ケーキは、含水ケーキ状のまま、スクリューフィーダ等の定量装入装置によって、DRKに投入される。DRKに投入された粗酸化亜鉛ケーキは、長さ30m程度のロータリーキルンの内部の装入端側でペレット状に造粒され、次に乾燥され、加熱され、排出端側で焼成される。
【0030】
DRKには、酸化亜鉛鉱を排出する排出端側に、オイルバーナーが備えられており、排出端側から直火で加熱される。ロータリーキルンから排出される酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度は、放射温度計にて、連続的に測定、監視されている。尚、焼成温度については、酸化亜鉛鉱の焼鉱の温度で、900℃以上1200℃以下の範囲となるように維持管理する。焼成温度は、例えばオイルバーナーへの供給オイル量によって調節することができる。乾燥加熱工程において、DRKから排出される酸化亜鉛鉱のサイズは、概ね、1mm以上6mm以下であり、その一般的な組成は、亜鉛が60質量%以上70質量%以下、鉛が3質量%以上5質量%以下、塩素が0.5質量%以上1.5質量%以下、フッ素が0.6質量%以下程度(いずれも乾燥量基準)である。
【0031】
DRKに装入された粗酸化亜鉛ケーキ等の装入物は、約30mのロータリーキルン内において、順に造粒、乾燥、加熱、焼成される。そして、造粒、乾燥の過程で飛散した装入物の粉塵、加熱、焼成の過程で揮発した酸化物やハロゲン化物等がダストとなる。DRK排ガスのダスト濃度は、30g/Nm
3以上40g/Nm
3以下程度である。又、DRKから排出される排ガス流量は14000m
3/h以上15000m
3/h以下程度である。
【0032】
[排ガス処理]
DRKから排出される排ガスは、装入端側から吸引され、最終的には湿式のガス洗浄塔、湿式電気集塵機によって除塵され、ファン等の排風機を経由して煙突から放出される。本発明のスラリーの流送方法及びスラリー流送装置は、上記の乾燥加熱工程から排出されるDRK排ガスを洗浄処理する一連のプロセス中において、上記排ガス中の排ガスダストを含む粗酸化亜鉛スラリーを、貯溜槽から流送するための手段として好ましく用いることができる。
【0033】
ここで、DRK排ガスの洗浄処理にかかる上記の一連のプロセスにおいては、通常、湿式の処理装置による最終的な洗浄処理に先行して、ロータリーキルンからの排出直後から、煙道内にて洗浄水による予備洗浄が行われる。本発明は、より詳しくは、この予備洗浄において、粗酸化亜鉛スラリーを貯溜槽(循環槽)から抜き出して抜き取り配管を通して流送する手段として極めて好ましく用いることができる。
【0034】
上記の予備洗浄は、ロータリーキルンの排ガス排出口近傍に設置され、排ガスを次工程に流送する煙道内に洗浄水を流し込み、当該煙道から排ガスダストを含む処理水を取り出して循環槽へと集め、同槽内に貯溜された粗酸化亜鉛スラリーを、抜き取り配管を通して流送することにより行われる。
【0035】
尚、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおける上記の循環槽内のスラリーは、粗酸化亜鉛ダストのスラリーであり、そのスラリー濃度は5g/L以上10g/L以下、粗酸化亜鉛ダストの亜鉛含有率は30重量%以上40重量%以下(乾燥量基準)である。尚、粗酸化亜鉛スラリーは、上記洗浄処理に繰返し循環使用される。
【0036】
[スラリー流送装置]
図1は本発明のスラリー流送装置の構成を模式的に示す図である。本発明のスラリー流送装置10は、亜鉛含有鉱から酸化亜鉛鉱を得る製造プラントにおいて発生する粗酸化亜鉛スラリー6を処理する装置として好ましく用いることができる。より詳しくは、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおける一連の排ガス処理中に行われる、上述の予備洗浄において、循環槽及びこれに接続されるスラリーの抜き取り配管として、用いることにより、貯溜槽(循環槽)からスラリーを流送する配管において、スケールの付着を効果的に抑制することができる。
【0037】
スラリー流送装置10は、粗酸化亜鉛スラリー6を流送する装置であり、貯溜槽1と抜き取り配管2、及び、抜き取り配管2の貯溜槽側の接続端からの所定距離範囲内の位置に形成されているスケール防止剤添加口3を必須の構成要素とする。又、このスラリー流送装置10には、吸込み側が抜き取り配管2の側に接続された流送ポンプ4が設置されていることが好ましい。流送ポンプ4の吐出側には、更に流送配管5が接続される。
【0038】
貯溜槽1が大型の貯溜槽であり、これに接続される抜き取り配管2の内径が相対的に狭小である場合に上述のスケール発生の問題が生じる。具体的には、内径1000mm以上の貯溜槽に対して、内径200mm以下の抜き取り配管が接続されている場合に、この問題が生じやすく、本発明はこのような貯溜槽及び抜き取り配管として構成する場合に、特に有利な効果を発揮しうるものである。
【0039】
又、流送配管5の内径が200mm以下である場合、配管内の掃除を行うには、一部のフランジを取外して高圧水を特殊なノズル先端から噴射させて行うジェット洗浄や、一部のフランジを取外して高圧を掛けて抜き取り配管内に球(ピグ)を押し流すピグ洗浄等の特殊な方法を、手間と時間を掛けて行うしかなかった。又、場合によっては、人手で配管の外面をハンマーで叩き、その振動によって剥離させることも行っていた。又、これらの配管掃除作業においては、配管が長く、高所にあることも多いため、そのフランジ取外しとジェット洗浄、人手による配管の叩き作業が高所作業になることもあり、危険を伴うものであった。配管の閉塞、即ち、スケールの発生を防止するためには、大量の水で希釈する方法や、対象となる処理水のpHを調整する方法も考えられるが、水量の増加や薬剤の使用、或いは好ましくない反応の進行等を伴うため、現実的ではない。本発明は、大型の貯溜槽に内径200mm以下の配管が接続されている場合に生じる以上のような問題も解決するものである。
【0040】
そして、スラリー流送装置10は、スケール防止剤添加口3が、抜き取り配管2の貯溜槽側の接続端からの距離d(
図1参照)が、0mm以上100mm以下となる位置に形成されていることを特徴とする。これにより、従来、貯溜槽に供給していたスケール防止剤を、貯溜槽1を経由させずに、抜き取り配管2内に適切な位置から直接供給することができる。
【0041】
[スラリーの流送方法]
本発明のスラリーの流送方法は、粗酸化亜鉛スラリーを貯溜した大型の貯溜槽から、スラリーを抜き出して、抜き取り配管を通じて流送する方法であり、配管内のスケール発生の防止において特に有利な方法である。
【0042】
このスラリーの流送方法は、内径1000mm以上の貯溜槽に貯溜されたスラリーを、当該貯溜槽の側面に接続された内径200mm以下の抜き取り配管を通して流送する場合に上述の有利な効果を奏し得る方法であり、具体的な実施手段としては、上述のスラリー流送装置10を用いることによって実施することができる。このスラリーの流送方法は、従来は、同様の処理工程において、処理水を集める貯溜槽、或いは、これに相当する循環槽等に直接供給していたスケール防止剤を、抜き取り配管2の貯溜槽側の接続端から0mm以上100mm以下の位置に設置したスケール防止剤添加口3から、同抜き取り配管内に直接供給することを特徴とする。
【0043】
抜き取り配管2内へのスケール防止剤の供給は、スケール防止剤を貯溜した槽からスケール防止剤添加口3へ、定量ポンプで圧入することにより行うことができる。
【0044】
ここで、従来のように貯溜槽1にスケール防止剤を供給した場合には、貯溜槽1での滞留時間は、抜き取り配管2及び流送配管5における滞留時間と比較して長く、貯溜槽1内でスケール防止剤が作用してしまう。滞留時間は、仮に抜き取り配管2及び流送配管5の内径が50mm、貯溜槽1の内径が1000mmとすれば、単純計算上、貯溜槽1における滞留時間が400倍長くなる。そこで、本発明においては、貯溜槽1の側面部に接続された抜き取り配管2において、貯溜槽1の側面部の接続端からの距離が0mm以上100mm以下となる位置において、スケール防止剤を抜き取り配管内に直接供給することとした。この供給位置を上記接続端からの距離が100mm以内となる位置とすることにより、スケール防止剤を、配管内部の接続端近傍を含めて、配管内全体に十分に分散させ配管内全体において、スケールの発生を十分に防止することができる。又、供給されたスケール防止剤は、抜き取り配管2及び流送配管5の内部のみにおいて効果的に作用することとなる。
【0045】
本発明の実施において、スケール防止剤を、貯溜槽1には全く供給せずに、抜き取り配管2内のみに供給する場合には、貯溜槽1内壁へのスケール防止効果は得られないが、付着するスケールの厚みが5mmだとした場合、仮に貯溜槽1の内径が1000mmとすれば、無視し得る範囲である。一方で、仮に抜き取り配管及び流送配管の内径が50mmとすれば、5mmのスケール付着によって実質の内径が40mmとなってしまい、スラリーの流速が同じと仮定しても、その流量は0.6倍程度に減少し、流送に支障をきたすことになる。又、圧力損失が増加するので、その流量は更に減少する。尚、このようにスケール防止剤を、貯溜槽1には供給せずに、抜き取り配管2内のみに供給することにより、スケール防止剤の使用量を必要最小量に抑えることもできる。
【0046】
従来、スケール防止剤として、スケール成分に合わせて、溶解して分散させる効果が高い物質が適宜選択されており、例えばカルシウム系スケールに対しては、リン酸塩やホスホン酸化合物等が用いられている。本発明においても、同様に従来公知のスケール防止剤を適宜選択することができる。例えば、粗酸化亜鉛スラリーの流送にかかる処理においては、キレート剤、ホスホン酸、マレイン酸系ポリマーのうちのいずれかを少なくとも含んでなるスケール防止剤を好ましく用いることができる。このようなスケール防止剤の具体例としては、2種類のキレート剤、ホスホン酸、マレイン酸ポリマーからなる「ポリクリンT−231(商品名)(栗田工業株式会社製)」を挙げることができる。
【0047】
処理対象となる粗酸化亜鉛スラリーが、亜鉛含有率30重量%以上70重量%以下の粗酸化亜鉛ダストがスラリー濃度で1g/L以上50g/L以下の濃度に懸濁された粗酸化亜鉛スラリーである場合に、各種のキレート剤等を含む上記のスケール防止剤は、粗酸化亜鉛スラリーに対して1μL/L以上30μL/L以下の濃度になるように供給量を調整することが好ましい。
【実施例】
【0048】
(実施例)
酸化亜鉛鉱の産出量が6t/h以上10t/h以下である、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおける乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)の排ガス予備洗浄装置の、循環槽、抜き取り配管、流送ポンプ、流送配管からなる装置に、本発明のスラリー流送装置を適用し、本発明のスラリーの流送方法を実施した。循環槽(貯溜槽)内のスラリーは、粗酸化亜鉛ダストのスラリーであり、そのスラリー濃度は8g/L以上10g/L以下、粗酸化亜鉛ダストの亜鉛含有率は30重量%以上40重量%以下(乾燥量基準)であった。スケール防止剤としては、ポリクリンT−231(商品名)(栗田工業株式会社製)を使用し、粗酸化亜鉛スラリーに対して10μL/Lの濃度になるように供給した。尚、循環槽の内径は2500mm、抜き取り配管の内径は80mm、流送配管の内径は80mmであった。上記条件で、本発明を適用した試験操業を、約1か月間継続した。約1ヶ月後、流送配管の3ヶ所において、配管内に生成したスケールの厚みを測定したところ、平均で4mmであった。
【0049】
(比較例)
スケール防止剤を循環槽に直接供給することとしたことの他は実施例と同条件とした試験操業を約1ヶ月間継続した。約10日後より、流送配管のスラリー流量が低下し、各所の水量を調整することとなった。約1ヶ月後、流送配管の実施例と同じ3ヶ所において、配管内に生成したスケールの厚みを測定したところ、平均で15mmであった。
【0050】
上記結果より、本発明は、大型の貯溜槽からスラリーを流送する狭小な配管において、スケールの付着を従来手段よりも効果的に抑制することができるスラリーの流送手段であることが分かる。
【符号の説明】
【0051】
1 貯溜槽
2 抜き取り配管
3 スケール防止剤添加口
4 流送ポンプ
5 流送配管
6 粗酸化亜鉛スラリー
10 スラリー流送装置