(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
化学プラント等の反応装置として、撹拌しながら反応容器内の液体やスラリー等の液相に気体を導入して反応させ、化学処理を行うものが多く用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、容器の長手方向軸のまわりに回転可能なシャフトと、そのシャフトに取り付けられ、軸方向に離間して配置された径方向に延びる第1及び第2のインペラとを備えた混合容器が開示されている。具体的に、この混合容器においては、第1のインペラは軸方向に第2のインペラに向けて流体を移動させるように動作可能な複数の湾曲したブレードを含み、第2のインペラは軸方向に第1のインペラに向けて流体を移動させるように動作可能な複数の湾曲したブレードを含み、また、容器底面にガス導入口が設けられている。このような構成とすることにより、混合容器の中央部において強い乱流領域を生成させて、容器内の液体の混合を容易に制御できるようにしている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の混合容器では、中央に大きく設けられた気体導入口から大きな気泡が導入されると、混合容器内で気泡径が小さくならないうちに混合容器の上部の液面まで達してしまうという問題がある。そのため、このような混合容器を化学反応に用いる反応容器として適用したとしても、反応に寄与しない気体が多くなり、反応効率が低下してしまう。
【0005】
このことは、反応容器内で化学反応に用いられる気体としては容器内の液相中でその気泡径を小さくすることが重要であり、小気泡にするほど、気液界面の面積が大きくなり、また気泡が液体内を循環滞留する時間が長くなること等から、気体成分が液相に溶け込む量が多くなり、その結果として液相中の気体濃度が高まって反応効率を向上させる効果が期待できるからである。つまり、反応容器においては、導入する気体を液相中で小気泡にして気泡量を最大化させることが重要となる。
【0006】
液相中での気泡径を小さくする技術として、スパージャー(散気管)を用いる方法や、撹拌翼下に気体を吹き込んで翼で気泡を分断させる方法等が知られている。例えば、気体の吹き込み量が多い場合には、フラッディング現象により撹拌翼が空回りして、気体が液中に溶け込む量が小さくなることが知られており、その対策として、特許文献2には、翼より大きな径のリングスパージャーを用いて、吹き出た気泡を装置内で循環する液体の流れに乗せる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、スパージャーを、気体を導入する加圧反応装置に適用しようとしたとき、スパージャーから装置内に吹き込む気体の圧力を、反応容器の内圧とスパージャーの圧力損出とを加えた値を超えて加圧する必要がある。また、スパージャーは、気泡出口径が小さいために圧力損出が大きいため、加圧設備のコストが高くなる問題がある。さらに、反応によっては、中間物を含む反応生成物や反応後の残渣が付着物となってスパージャーの小さな気泡出口を塞ぐことがあり、付着物を取り除くために装置を停止させることで稼働率が低下するという問題もある。このような種々の問題点により、加圧反応装置にスパージャーを用いることは困難であった。
【0008】
気体を導入する加圧反応装置においては、圧力損出を最小化するために気体吹き込み管の管径や出口径を可能な限り大きくすることが好ましい。ところが、気体吹き込み管から放出される気泡の気泡径は、気体吹き込み管の出口径に依存することがよく知られており、圧力損出を最小化させようとすると気泡径は大きくなってしまう。そして、気泡径が大きくなることは、フラッディング現象を起こしやすくなることや気液界面の面積が小さくなることを意味し、好ましくない。このことから、圧力損出が小さい大きな出口径から放出された大きな径の気泡を、小さな気泡径にするための技術が望まれてきた。
【0009】
さらに、化学反応装置内で化学反応を促進させるために、気体の導入量を増やせば、上記説明した通りフラッディング現象が起きやすくなる。したがって、圧力損出が小さい大きな出口径から放出された大きな径の気泡を小さな気泡径にするとともに、気体の導入量が増えてもフラッディング現象を起きにくくする技術が望まれてきた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0022】
本実施の形態に係る加圧反応装置は、撹拌機と、気体吹き込み管とを備えたものであり、高圧下での反応を可能とするものである。この加圧反応装置は、例えば、内部を飽和蒸気によって高温高圧にする耐熱耐圧反応容器であるオートクレーブ装置として適用することができる。以下では、具体的にオートクレーブ装置とその装置内で行われる化学反応について説明するがこれに限られるものではなく、撹拌機と、気体吹き込み管とを備えた加圧反応装置内で液相を化学反応させる装置であれば、同様の効果を奏する。
【0023】
図1は、オートクレーブ装置の構成を示す図である。
図1の(a)は、オートクレーブ装置1を水平に切断して内部構造を模式的に示した横断平面図であり、(b)は、オートクレーブ装置1を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。オートクレーブ装置1は、
図1のように、例えば円筒形状の容器が横型に設置されたものである。
【0024】
オートクレーブ装置1は、例えば、液相として少なくともニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(固形物)を含有する原料スラリー(原料となる固形物と浸出液との懸濁液、以下では単に「スラリー」ともいう)を、硫酸物等の溶解液とする浸出処理に用いられる。より具体的に、オートクレーブ装置1では、加熱、加圧されたスラリーを収容し、硫酸等の酸を添加して撹拌することによって、高温高圧下でスラリー中の固形物に含まれる有価金属を高温加圧浸出する。
【0025】
浸出される有価金属としては、特に限定されず、原料固形物としてニッケル及びコバルトの混合硫化物を用いた場合には、ニッケル、コバルトが有価金属として浸出される。
【0026】
また、オートクレーブ装置1内における処理条件については、例えば、装置内圧力としては3気圧以上に加圧し、また温度は100℃以上とする。
【0027】
図1に示すように、オートクレーブ装置1は、複数の区画室10を備えている。各区画室10は、オートクレーブ装置1においてスラリーに対する浸出処理等の処理を施す反応場となる空間である。具体的に、区画室10は、オートクレーブ装置1内に設けられた隔壁40によって複数に区画されている。
図1に示すオートクレーブ装置1の例では、4つの隔壁40(40A,40B,40C,40D)によって5区画に区画された5つの区画室10(10A,10B,10C,10D,10E)が設けられている。なお、オートクレーブ装置における区画室の数は、原料や浸出条件等に応じて適宜設定することができるものである。
【0028】
各区画室10は、少なくとも、スラリーを撹拌するための撹拌機20と、スラリーに空気等の気体を供給するための気体吹き込み管30と、が設けられている。具体的に、各区画室10A〜10E内には、それぞれ、撹拌機20(20A,20B,20C,20D,20E)と、気体吹き込み管30(30A,30B,30C,30D,30E)とが設けられている。
【0029】
[区画室での浸出処理]
区画室10は、上流側(
図1の左側)から順に、第1の区画室10A、第2の区画室10B・・・と続き、最下流側(
図1の右側)が最終の第5の区画室10Eで構成されている。オートクレーブ装置1においては、最上流の第1の区画室10Aに原料となるスラリーが装入され、また、第1の区画室10Aの上部から垂下された配管を介して硫酸等の溶液がスラリーに供給される。そして、第1の区画室10Aでは、後述する撹拌機20Aによる撹拌と気体吹き込み管30Aにより供給された酸素によって、スラリー中の固形物に含まれる有価金属が溶液中に浸出される。
【0030】
第1の区画室10Aにてスラリーの撹拌が施されると同時に、そのスラリーの一部は、第1の区画室10Aと第2の区画室10Bとを区画する隔壁40Aの上部をオーバーフローして、第2の区画室10Bへと移送される。第2の区画室10Bでは、第1の区画室10Aにおける処理と同様に、撹拌機20Bによる撹拌によって順次浸出処理が進行する。なお、このとき、第2の区画室10Bにおいても、その上部から配管を垂下させて、浸出に用いる硫酸等の溶液やスラリー等を供給することもできる。
【0031】
以降順次、第3の区画室10C、第4の区画室10Dへとスラリーが主としてオーバーフローにより移送され、各区画室10において浸出処理が進行していく。そして、最下流の第5の区画室10Eにおいても同様にして、スラリーに対する浸出処理が施されると、その第5の区画室10Eに設けられた浸出液排出管(図示しない)を介して、有価金属が浸出されて得られた浸出液を含むスラリーが排出される。
【0032】
[区画室の構成]
区画室10においては、上述したように、内部のスラリーを撹拌するための撹拌機20と、反応に必要な酸素等の気体を供給するための気体吹き込み管30と、が設けられている(
図2、
図4参照)。また、区画室10のうち、少なくとも第1の区画室10Aには、原料となるスラリーを装入するための原料スラリー装入管(図示しない)が付設されており、その原料スラリー装入管を介して固形物を含むスラリーが装入される。
【0033】
また、区画室10には、例えばその上部から垂下されるようにして、硫酸等の酸溶液やスラリー、蒸気等を供給するための種々の供給配管も付設されている。
【0034】
(撹拌機)
撹拌機20は、第1の区画室10A〜第5の区画室10Eのそれぞれに設置されており、各区画室10の内部に装入、移送されたスラリーを撹拌する。
【0035】
撹拌機20としては、例えば
図1(a)における区画室10BのA−A断面を表す
図2、及び
図4の模式図に示すように、上部より垂下した撹拌軸21と、撹拌軸21の下端位置にその撹拌軸21に対して垂直に設けられた複数の撹拌羽根22と、を有するプロペラ形状のものを用いることができる。このように撹拌機20は、各区画室10の上部天井から垂下され、オートクレーブ装置1を上部から視たとき(
図1(a)参照)、各区画室10の中央部分に撹拌軸21が位置するように設けることができる。なお、撹拌軸に対して複数の撹拌羽根を備えたプロペラ形状のものを上下に複数組備えた撹拌機としてもよい。
【0036】
撹拌機20は、例えば時計回りに所定の速度で撹拌軸21を回転させ、撹拌羽根22によってスラリーを撹拌する。この撹拌機20による撹拌によって、区画室10内のスラリーには所定の方向への液流が発生する。なお、区画室10内の全体にわたってスラリーが流動されるように、通常は、撹拌羽根22から下向きの方向(撹拌軸21の軸方向において液面とは反対の方向)に向かって液流が発生するように撹拌される。
【0037】
(気体吹き込み管)
気体吹き込み管30は、第1の区画室10A〜第5の区画室10Eのそれぞれに設置されており、各区画室10の内部にあるスラリーの反応に必要な気体成分を供給する。
【0038】
ここで、少なくともニッケルとコバルトとの混合硫化物を含むスラリーに対する浸出処理に当該オートクレーブ装置1を用いる場合、各区画室10内における、ニッケル硫化物やコバルト硫化物の浸出処理時の反応は、下記式(1)及び式(2)となる。
NiS+2O
2→NiSO
4 ・・・(1)
CoS+2O
2→CoSO
4 ・・・(2)
【0039】
上記反応式に示すように、高温高圧下での浸出処理においては、反応に必要な酸素(O
2)をスラリー中に供給する必要がある。スラリーに酸素を供給するにあたっては、空気を供給することが通例であり、気体吹き込み管30を介して空気が供給される。
【0040】
気体吹き込み管30としては、
図2及び
図4に示すようにそれぞれの区画室10内に1本のみ設けられている態様に限られず、例えば2本等の複数設けられていてもよい。
【0041】
なお、オートクレーブ装置1では、気体吹き込み管30以外に、高温高圧状態を維持するための蒸気や、硫酸等の酸を供給して硫酸酸性の浸出液とするための硫酸、濃度調節等の目的で水やスラリー等を供給するための配管等も必要に応じて付設されることもあるが、本実施の形態においては、反応に必要な気体を供給する管を気体吹き込み管30とし、他の供給物の供給を目的とした配管とは区別している。
【0042】
[区画室内の液流]
ここで、
図2は、
図1(a)のA−A断面における模式図であり、撹拌機20により区画室10内で発生する撹拌流について、撹拌軸21の軸方向、つまり液面までの高さ方向での流れを示したものである。なお、撹拌流を見やすくするため、
図2中、気体吹き込み管30は破線で表している。
図3は、
図2のB−B断面における模式図であり、撹拌機20により区画室10内で発生する撹拌流について、気体吹き込み管出口30aの方向と、主要な撹拌領域Sとを示したものである。
【0043】
上述したように、通常、区画室10内では、撹拌羽根22から液面とは逆の下向きの方向に向かって撹拌流が発生するように撹拌されるため、撹拌軸21からオートクレーブ装置1の内壁面1wに向かって斜め下方向への撹拌流となる。そして、
図2の矢印で示すように、主要な撹拌流は、オートクレーブ装置1の内壁面1wにぶつかった後、その内壁面1wに沿って上方に向かう流れとなり、一部の撹拌流は、内壁面1wに沿って下方に向かう流れとなる。
【0044】
したがって、撹拌機20によって
図2上の斜め右方向に推進された撹拌流は、撹拌機20から液面、オートクレーブ装置1の内壁面1wにわたって広がり、流速も速い大きな反時計回りの流れ(
図2中の太線矢印X)と、撹拌機20の右下に発生する流速が遅く小さな時計回りの流れ(
図2中の細線矢印Y)となる。撹拌機20により発生した主要な撹拌流である大きな反時計回りの流れは、液面と平行な水平方向の流れと合わせて、渦を巻きながら上方へと向かう流れとなる。
【0045】
このような撹拌流を、
図2中B―B線に沿って、内壁面1wから撹拌軸21に向かう方向でみていくと、太線矢印Xで示すように速い流速で撹拌流が流動する領域があって、この領域を超えると、細線矢印Yで示すように遅い流速で撹拌流が流動する領域が存在していることになる。このような撹拌流を撹拌軸に垂直な断面からみると、
図3に示すように、撹拌流が速い流速で流動する領域(以下、「主要な撹拌領域S」という)は、ドーナツ状に形成されていることになる。そして、この主要な撹拌領域Sでの撹拌流の方向は、図中矢印Zで示すように、反時計回りに外側に向かう渦巻状になっている。
【0046】
[気体吹き込み管の配置]
気体吹き込み管30においては、撹拌機20による撹拌流によって、気体吹き込み管30から供給される気体の気泡が分断されて小径化し、また、その撹拌流に気泡をのせて液相内の気泡量を増大させることができるようにすることが好ましい。
【0047】
撹拌流に気泡をのせて液相内を流動させることにより液相内の気泡量が増大する理由としては、上述したように、主要な撹拌領域Sでは、撹拌流が渦を巻きながら上方へと向かう流れになるため、気泡がその撹拌流とともに移動して、相対的に液面に到達する時間が長くなるためと考えられる。一方で、撹拌流が弱い箇所に位置する気泡は、浮力により液面に向かって上昇する速度が勝り、相対的に液面に到達する時間が短くなる。また、撹拌流が弱い位置では、気泡の合体により気泡が大径化し、気泡径に依存して浮力による上昇速度は増すことから、大径化した気泡は一段と液面に到達するまでの時間が短くなってしまう。
【0048】
一方、気体吹き込み管30から供給される気体は、その供給量に応じて流速(以下、「初期の運動エネルギー」という)を持っている。よって、気体吹き込み管30から供給された気泡は、気体吹き込み管出口30aが向いている方向に進もうとし、実際に撹拌流にのって液相内を流動するのは、初期の運動エネルギーが撹拌流による抵抗を相殺してから後となる。気泡の初期の運動エネルギーも考慮すると、気泡は気体吹き込み管出口30aから撹拌機20に向かってある程度の距離を進んでから撹拌流にのって液相内を流動することになる。このある程度の距離は、気体の供給量が増えるにしたがって長くなる。そのため、気体吹き込み管出口30aが撹拌軸21に向かう方向に設置されている場合には、気体吹き込み管30からの気体の供給量が増えるほど、気泡は主要な撹拌領域Sを通り過ぎ矢印Y方向に示す撹拌流が遅い流速で流動する領域に達する量が増える。その結果、気泡が撹拌軸21の下部(撹拌羽根22の下部)に溜まりやすくなり、フラッディング現象を起こしやすくなる。
【0049】
そこで、本実施の形態に係るオートクレーブ装置1においては、
図3及び
図4に示すように、気体吹き込み管出口30aを特定の位置に配置し、かつ、気体吹き込み管30の出口中心線の延長方向Dが、撹拌軸21の方向ではなく、撹拌機20により発生する撹拌流の正方向側(Z方向)に向けられている。
【0050】
これにより、気体吹き込み管出口30aから供給された気体の気泡は、気体吹き込み管出口30aの出口中心線の延長方向Dが撹拌軸21と交差する場合に比べ、主要な撹拌領域Sを通過する距離が長くなり、主要な撹拌領域Sにのった気泡は、渦を巻きながら上方に向かう流れに乗って流動する。したがって、気体の供給量が増えても、気泡の多くが主要な撹拌領域Sにのることになり、フラッディング現象を有効に抑制することができる。
【0051】
以下、気体吹き込み管出口30aの設置位置と設置方向について具体的に説明する。
図4に示すように、当該オートクレーブ装置1を撹拌軸21の軸方向に沿った断面で正面視して、撹拌軸21から延長した線が当該オートクレーブ装置1の内壁面1wと交わる位置から撹拌羽根22の高さ位置までをHとし、その撹拌軸21の中心からの撹拌羽根22の最大長さをRとしたとき、気体吹き込み管出口30aの中心は、撹拌軸21から延長した線が当該オートクレーブ装置1の内壁面1wと交わる位置からの高さをh、撹拌軸21の中心からの距離をrとした場合に、以下の式(i)及び(ii)を満足する位置に設けられている。
0.45H≦h≦
0.55H ・・・(i)
1.1R≦r≦1.4R ・・・(ii)
【0052】
ここで、撹拌羽根22の高さ位置のHとは、撹拌軸21の軸方向に対して垂直に設けられた撹拌羽根22の中心軸の高さをいい、その撹拌羽根22の中心軸とは、
図4中の線C1で表される軸をいう。また、撹拌軸21の中心から撹拌羽根22の最大長さRに関して、撹拌軸21の中心とは、
図4中の線C2で表される軸の中心をいい、最大長さRとは、その撹拌軸21の中心から撹拌羽根22の軸線(線C1)上における撹拌羽根22の先端位置までの長さをいう。
【0053】
気体吹き込み管出口30aの位置に関しては、その高さhが0.45H未満(0.45H>h)、又は、
0.55Hを超える(
0.55H<h)と、気体吹き込み管出口30aから供給された気体の気泡は、主要な撹拌領域Sを外れてしまうか、流動する距離が短くなる。その結果、気泡を分断する効果が低下し、小径の気泡が得られにくくなる。上述したように、気泡の大きさは浮力による上昇速度に影響するため、気泡を分断する効果が低下すると、その気泡が液面に達するまでの時間を短くなることを意味し、液相内の気泡量は減少する。
【0054】
また、気体吹き込み管出口30aの位置に関して、その出口の中心と撹拌軸21の中心との距離rが1.4Rを超える(1.4R<r)と、気泡が主要な撹拌領域Sの撹拌流にのって液相内を流動して液面まで達する距離が短くなるため、相対的に液相内の気泡量が減少する。一方で、その距離rが1.1R未満(1.1R>r)になると、
図2〜
図4からも分かるように、撹拌機20の下に発生する弱い時計回りの流れ(
図2中の細線矢印Y)にのる気泡が増加することになる。この弱い流れにのった気泡は、撹拌機20の下部(撹拌羽根22の下部)に溜まりやすく、かつ流速も遅いため合体して大径化しやすいため、大きな気泡となって液面に向かって上昇しフラッディング現象が発生しやすく、相対的に液相内の気泡量は減少してしまう。
【0055】
また、上述したオートクレーブ装置1においては、気体吹き込み管出口30aの方向が、以下の条件を満足するように設けられている。すなわち、気体吹き込み管出口30aは、撹拌軸21と垂直な断面において、気体吹き込み管出口30aの出口中心における撹拌軸21の中心からの距離rにより形成される円の接線Lと、気体吹き込み管出口30aの出口中心線の延長方向Dとのなす角度θが、以下の式(iii)を満足するような方向で配置されている。
20°≦θ≦60° ・・・(iii)
【0056】
ここで、気体吹き込み管出口30aの出口中心における円の接線Lと、気体吹き込み管出口30aの出口中心線の延長方向Dとのなす角度θは、両者により形成される角度のうち鋭角である方の角度を指す。気体吹き込み管出口30a及びその近傍は、直線状になっている場合もあれば曲線状の場合もある。気体吹き込み管出口30aの出口中心線の延長方向Dとは、直線状に形成される場合はその直線の延長方向であり、曲線状に形成される場合はその接線の方向である。
【0057】
気体吹き込み管出口30aの方向に関して、撹拌軸21を中心とした円の接線Lと出口中心線の延長方向Dとのなす角度θが20°未満であると、気体吹き込み管出口30aから供給された気体の気泡は、主要な撹拌領域Sを外れてしまうか、主要な撹拌領域Sを流動する距離が短くなる。その結果、気泡を分断する効果が低下し、小径の気泡が得られにくくなる。一方、その角度θが60°を超えると、上述したように気体の供給量が増えた場合に、気体吹き込み管出口30aから供給される気体の気泡が、主要な撹拌領域Sを超えて撹拌機20の下に発生する弱い時計回りの流れにのる気泡が増加し、撹拌軸21の下部に溜まりやすくなるため、フラッディング現象が発生しやすくなる。
【0058】
このように気体吹き込み管出口30の位置を特定の位置に配置したオートクレーブ装置1によれば、装置内に導入された気体の気泡を効率的に分断して小さな気泡径とすることができ、液相内に存在する気泡量を増大させることができる。また、気体吹き込み管出口30aを特定の方向に向けたオートクレーブ装置1によれば、気体の供給量が増えても気泡が主要な撹拌領域Sを流動する時間が長くなり、撹拌機20の下部に溜まりにくいため、フラッディング現象が発生しにくく、気体の供給量を増やしやすい。また、このようなオートクレーブ装置1を用いてスラリー中の固形物に含まれる有価金属を浸出させる浸出処理等を行うことで、液相内の気泡量の増大又は気体の供給量の増大により反応効率が高まり、効果的に有価金属を液中に浸出させることができる。
【0059】
本実施の形態においては、上述したように気体吹き込み管出口30aを特定の位置と方向で配置するようにしているため、撹拌機20により発生した撹拌流により気泡を効率的に分断させて小径化することができ、気体の供給量が増えてもフラッディング現象が発生しにくい。よって、その気体吹き込み管30の管径や出口径を所定の割合で絞る必要はなく、圧力損出を抑えることができる。したがって、気体吹き込み管30の出口径としては、特に限定されず、反応で必要とされる加圧下での気体の流量を出口面積で除した値(出口流速)に応じて適宜調整すればよい。
【0060】
ただし、その中でも、工業規模の例えば5m
3程度の反応装置では、気体吹き込み管30の出口径を10mm〜150mmとすることが好ましい。気体吹き込み管30の出口径が10mm未満であると、必要な空気流量(例えば300Nm
3/h)以上での圧力損失が高くなることがあり、送風する気体の加圧設備にコストがかかるだけでなく、反応生成物や反応後の残渣が付着して出口が閉塞することがある。また、気体吹き込み管30の出口径が150mmを超えると、その配管自体によって撹拌流の流れを変えてしまう可能性があり好ましくない。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
オートクレーブ装置の1区画室内で、液相となるニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(固形物)を硫酸に添加したスラリーに、撹拌しながら空気(酸素)を吹き込むことによって、スラリー中の固形物に含まれる有価金属を高温加圧浸出処理する処理を行った。具体的には、
図3及び
図4に示す模式図のように、撹拌機と、気体吹き込み管とを備えたオートクレーブ装置を用い、気体吹き込み管の出口位置を所定の位置に配置させたものを用いた。
【0063】
この処理において、オイラー・オイラー座標系で分散相における合体、分裂を考慮したMUSIG(Multiple Size Group Model)とした連続相−分散相の混相流でモデル化を行い、液相中の気泡の体積分率を解析して、その区画室内の積分値から液相中の空気総量を計算した。このモデルにおいては、連続相は液相のスラリーであり、分散相は気泡(空気)となる。
【0064】
境界条件としては、連続相であるスラリーの密度:1275kg/m
3、分散相である空気の密度:11kg/m
3、気体吹き込み管内の空気吹き込み面から放出された直後の気泡径:5mm、撹拌回転数:159rpmとした。また、相対空気吹き込み量を0.018min
−1、0.157min
−1とした。なお、相対空気吹き込み量とは、区画室内に収容されるスラリー(連続相)の量(m
3)に対する空気(分散相)吹き込み量(m
3/min)の比率である。
【0065】
ここで、
図4を参照して、実施例1では、気体吹き込み管30の出口位置の高さh、撹拌軸の中心からの距離r、気体吹き込み管30の出口中心における、撹拌軸の中心からの距離rにより形成される円の接線方向Lと、該気体吹き込み管の出口中心線の延長方向Dとのなす角度θが、(h,r,θ)=(0.55H,1.27R,40°)、となるように制御した装置を用いて処理した。
【0066】
一方、比較例1では、(h,r、θ)=(0.50H,1.38R,90°)となるように制御した装置を用いて処理した。
【0067】
図5に、実施例1及び比較例1での処理における、撹拌機の撹拌動力相対値の結果を示す。撹拌機の撹拌動力相対値は、空気を吹き込まない時の撹拌機の撹拌動力P
0に対する、空気吹き込み時の撹拌機の撹拌動力P
gの値である。
図5に示すように、実施例1では、空気吹き込み量が多くなっても、撹拌動力相対値が高く維持されているのに対し、比較例1では、空気吹き込み量が多くなると撹拌動力相対値が低下していることが分かった。実施例1では、気体吹き込み管30の出口位置を特定の位置と方向で配置したことにより、空気吹き込み量が増えても、気泡が撹拌機の下部に溜まりにくく、フラッディング現象が発生しにくいためであると考えられる。一方、比較例1では、気体吹き込み管30の出口が撹拌軸に向かっているため、空気吹き込み量が多くなると、撹拌軸の下方に気泡が溜まってフラッディング現象が発生していると考えられる。
【0068】
以下、気体吹き込み管30の角度θを詳細に検討した。
図6に、角度θと液中空気量との関係を示す。
図7に角度θと撹拌動力相対値との関係を示す。なお、
図6、7中における各条件(h,r,θ)は、以下の通りであり、相対空気吹き込み量は0.157min
−1とした。
(h,r,θ)=(0.55H,1.25R,0°)
(h,r,θ)=(0.55H,1.30R,0°)
(h,r,θ)=(0.55H,1.27R,20°)
(h,r,θ)=(0.55H,1.27R,35°)
(h,r,θ)=(0.55H,1.27R,40°)
(h,r,θ)=(0.55H,1.32R,60°)
(h,r,θ)=(0.47H,1.30R,90°)
【0069】
図6に示すように、角度θが大きくなるにつれ液中空気量が増え、角度θが20°を超えると、液中空気量が浸出処理に好ましい液中空気量である0.05m
3を超えていることが分かる。角度θが20°未満であると、気体吹き込み管30から供給された気泡が主要な撹拌領域Sを外れてしまうか、主要な撹拌領域Sを流動する距離が短いためであると考えられる。一方、
図7に示すように、角度θが60°を超えると、撹拌動力相対値が低下し始めてしまう。角度θが60°を超えると、フラッディング現象が生じやすくなるためであると考えられる。気体吹き込み管30から供給された空気を効率的に分断して小さな気泡径とするとともに、空気の供給量を増やしたとしても、フラッディング現象の発生を抑制する点から、角度θは、20°から60°が好ましい。