特許第6848563号(P6848563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848563
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20210315BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C08L67/02
   C08G63/16
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-51703(P2017-51703)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-154703(P2018-154703A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2020年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】岸下 稔
【審査官】 堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−143908(JP,A)
【文献】 特開平10−292051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08G 63/00−63/91
C08J 3/00−3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー4メッシュを通過し、タイラー16メッシュを通過しないポリエステル粒状体(A)と、該ポリエステルと実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー100メッシュを通過し、目開き10μmのニッケルスクリーンを通過しないポリエステル微粉(B)とを含むポリエステル組成物であって、
[1]ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトルにおける1730cm−1のバンドの半値幅が18cm−1以下であり、
[2]以下に示す、<ポリエステル組成物より、ポリエステル粒状体(A)とポリエステル微粉(B)の分離>により求められるポリエステル微粉(B)の量がポリエステル粒状体(A)の量に対して35質量ppm以上95質量ppm以下であり、
<ポリエステル組成物より、ポリエステル粒状体(A)とポリエステル微粉(B)の分離>
ポリエステル組成物試料1kgをタイラー4メッシュで篩分し、該タイラー4メッシュを通過したポリエステル組成物試料を更にタイラー16メッシュで篩分する。篩分後、該タイラー16メッシュ上にあるポリエステル組成物試料をタイラー100メッシュ上に移し、水2Lを5回に分割してタイラー100メッシュ上のポリエステル組成物試料を洗浄する。その後ポリエステル組成物試料を乾燥し、ポリエステル粒状体(A)とし、重量を測定する。
前記洗浄に供した水を該タイラー100メッシュ下で回収する。次いで、該濾過した水を更に目開き10μmのニッケルスクリーンにより濾過し、該目開き10μmのニッケルスクリーンを120℃で4時間乾燥し、該目開き10μmのニッケルスクリーン上にある固形物を回収して、ポリエステル微粉(B)を得、その重量を測定する。
ポリエステル粒状体(A)量に対するポリエステル微粉(B)量の割合を計算する。
且つ、
[3]ポリエステル微粉(B)の固有粘度とポリエステル粒状体(A)の固有粘度とが下記式(1)に従うポリエステル組成物。
IV(B) ≦ IV(A)+0.6dl/g (1)
(式中、IV(B)はポリエステル微粉(B)の固有粘度を示し、IV(A)はポリエステル粒状体(A)の固有粘度を示す。)
【請求項2】
前記IV(B)が1.8dL/g以下である請求項1に記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
前記ジオール成分としてブタンジオールを80モル%以上含む請求項1又は2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
前記ジオール成分としてエチレングリコールを80モル%以上含む請求項1又は2に記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル組成物が射出成形用である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル組成物が押出フィルム成形用である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステルは、その優れた物理的特性、化学的特性を活かしてエンジニアリングプラスチックとして電気電子部品、自動車用コネクター、繊維、フィルム、ボトルなどの成形品として工業的に広く使用されている。特許文献1では、ポリエステルとモノカルボン酸金属塩との組成物にすることが記載されている。特許文献2では、ポリエステルの粒状物であるペレットに剪断処理を行うことが記載されている。特許文献3では、固相重合されたポリエステルペレットから微粉を除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭48−4097号公報
【特許文献2】特開平10−292051号公報
【特許文献3】特開2008−2028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これら従前知られたポリエステル又はポリエステル組成物では、スクリューの回転により樹脂量をバッチ式に計量し成形する射出成形機や、スクリューの連続的な定速回転により定量的に樹脂を供給してフィルムとする連続押出フィルム成形機等に供する供給材として使用した場合、スクリューへの食い込み安定性が未だ不十分であり、成形品の製造に長時間要したり、又、成形された成形品の外観が不良であるという問題があった。
【0005】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものである。すなわち、射出成形機や連続押出フィルム成形機等による成形品の製造を短時間でムラなく実施することができ、且つ、フィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品を得ることができるポリエステル組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、特定条件の大きさを有するポリエステル粒状体(A)と、該ポリエステルと実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、特定条件の大きさを有するポリエステル微粉(B)とを含むポリエステル組成物であって、[1]ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトルにおける1730cm−1のバンドの半値幅が18cm−1以下であり、[2]ポリエステル微粉(B)の量がポリエステル粒状体(A)の量に対して特定量であり、且つ、[3]ポリエステル微粉(B)の固有粘度とポリエステル粒状体(A)の固有粘度とが特定の関係にあるポリエステル組成物とすることにより、射出成形機や連続押出フィルム成形機等に供する供給材として、スクリュー食い込み性が良好で、且つ、フィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品を得ることが可能となることを見いだし、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下である。
[1] ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー4メッシュを通過し、タイラー16メッシュを通過しないポリエステル粒状体(A)と、該ポリ
エステルと実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー100メッシュを通過し、目開き10μmのニッケルスクリーンを通過しないポリエステル微粉(B)とを含むポリエステル組成物であって、
[1]ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトルにおける1730cm−1のバンドの半値幅が18cm−1以下であり、
[2]ポリエステル微粉(B)の量がポリエステル粒状体(A)の量に対して35質量ppm以上95質量ppm以下であり、且つ、
[3]ポリエステル微粉(B)の固有粘度とポリエステル粒状体(A)の固有粘度とが下記式(1)に従うポリエステル組成物。
IV(B) ≦ IV(A)+0.6dl/g (1)
(式中、IV(B)はポリエステル微粉(B)の固有粘度を示し、IV(A)はポリエステル粒状体(A)の固有粘度を示す。)
[2] 前記IV(B)が1.8dL/g以下である[1]に記載のポリエステル組成物。
[3] 前記ジオール成分としてブタンジオールを80モル%以上含む[1]又は[2]に記載のポリエステル組成物。
[4] 前記ジオール成分としてエチレングリコールを80モル%以上含む[1]又は[2]に記載のポリエステル組成物。
[5] 前記ポリエステル組成物が射出成形用である[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
[6] 前記ポリエステル組成物が押出フィルム成形用である[1]乃至[4]のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステルは、射出成形機や連続押出フィルム成形機等に供する供給材とすると、スクリュー食い込み性が良好で、成形品を短時間でムラなく製造することができ、且つ、フィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品とすることができることより、種々の電気電子部品、自動車用コネクター、繊維、フィルム、ボトル等の成形品製造用に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(ポリエステル組成物)
以下に本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
本発明のポリエステル組成物は、ジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー4メッシュを通過し、タイラー16メッシュを通過しないポリエステル粒状体(A)と、該ポリエステルと実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、タイラー100メッシュを通過し、目開き10μmのニッケルスクリーンを通過しないポリエステル微粉(B)とを含むポリエステル組成物である。
【0010】
ポリエステル粒状体(A)はジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであり、ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸を主成分とする。テレフタル酸の割合としては、全ジカルボン酸成分に対して80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。前記範囲内であることにより、結晶性が高く、機械物性に優れるポリエステル組成物となる可能性がある。
【0011】
テレフタル酸以外のジカルボン酸としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸のような脂肪族ジカルボン酸などを挙げることができ
る。
【0012】
ジオール成分としては、1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールを含むことが好ましい。1,4−ブタンジオールを含む場合、1,4−ブタンジオールは全ジオール成分に対し、80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。1,4−ブタンジオールが前記範囲であることより結晶性に優れたポリエステル組成物となる可能性がある。又エチレングリコールを含む場合、エチレングリコールは全ジオール成分に対し、80モル%以上が好ましく、85モル%以上がより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。エチレングリコールが前記範囲であることより耐熱性に優れたポリエステル組成物となる可能性がある。
【0013】
1,4−ブタンオールまたはエチレングリコール以外のジオールとしては、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができる。
尚、ポリエステル粒状体(A)の各ジカルボン酸成分、各ジオール成分は、ポリエステル粒状体(A)のH−NMRスペクトルを測定することにより定量することができる。
【0014】
ポリエステル粒状体(A)は、ポリエステル組成物をタイラー4メッシュにより篩別し、タイラー4メッシュ篩下のものをタイラー16メッシュにより篩別し、タイラー16メッシュ篩上のものとして分離することができる。
【0015】
ポリエステル微粉(B)は前記ポリエステル粒状体(A)を構成するポリエステルと実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルである。すなわち、ポリエステル粒状体(A)、ポリエステル微粉(B)それぞれをH−NMRスペクトルによりジカルボン酸成分、ジオール成分を定量した結果、ポリエステル微粉(B)のジカルボン酸成分、ジオール成分それぞれの測定値が、ポリエステル粒状体(A)のジカルボン酸成分、ジオール成分それぞれの測定値に対して、その差が1モル%以下であれば実質的に同じジカルボン酸成分とジオール成分からなるポリエステルであるとする。
【0016】
ポリエステル微粉(B)は、ポリエステル組成物をタイラー100メッシュにより篩別し、タイラー100メッシュ篩下のものを目開き10μmのニッケルスクリーンにより篩別し、目開き10μmのニッケルスクリーン上のものとして分離することができる。
【0017】
本発明のポリエステル組成物において、ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトルにおける1730cm−1のバンドの半値幅は18cm−1以下であり、好ましくは17cm−1以下であり、より好ましくは16cm−1以下である。上記範囲であることにより、射出成形機や連続押出フィルム成形機等のスクリューへの食い込みが安定し、成形品を短時間でムラなく製造することができる傾向にある。
【0018】
本発明のポリエステル組成物において、ポリエステル微粉(B)の量がポリエステル粒状体(A)の量に対して35質量ppm以上95質量ppm以下であり、好ましくは40質量ppm以上90質量ppm以下であり、より好ましくは45質量ppm以上85質量ppm以下である。上記範囲であることにより、射出成形機や連続押出フィルム成形機等のスクリューへの食い込みが安定し、成形品を短時間でムラなく製造することができ、該成形品のフィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品を得ることが可能となる。
【0019】
本発明のポリエステル組成物において、ポリエステル微粉(B)の固有粘度とポリエステル粒状体(A)の固有粘度とが下記式(1)に従う。
IV(B) ≦ IV(A)+0.6dl/g (1)
(式中、IV(B)はポリエステル微粉(B)の固有粘度を示し、IV(A)はポリエステル粒状体(A)の固有粘度を示す。)上記式の範囲内であることにより、成形品のフィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品を得ることが可能となる。
【0020】
本発明のポリエステル組成物において、前記IV(B)が1.8dL/g以下であることが好ましく、より好ましくは1.70dL/g以上1.79dL/g以下、更に好ましくは1.60dL/g以上1.20dL/g以下である。上記範囲内であることにより、該成形品のフィッシュアイが少ない等成形外観が良好である成形品を得ることが可能となる。
【0021】
(ポリエステル組成物の製造方法)
ポリエステル組成物の製造方法は特に制限されるものではなく、通常の方法を適用することができる。例えば、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体、イソフタル酸又はそのエステル形成性誘導体を含むジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールを含むジオール成分とを、所定割合で攪拌下に混合して原料スラリーとする工程、次いで、該原料スラリーを常圧又は加圧下で加熱して、エステル化反応させポリエステル低重合体(以下「オリゴマー」と称する場合がある。)とする工程、次いで、得られたオリゴマーを漸次減圧するとともに、加熱して、溶融重縮合反応させポリエステル粒状体を得る溶融重縮合工程、該ポリエステル粒状体を表面処理する工程、又、必要に応じて表面処理したポリエステル粒状体を篩分した後、混合する工程からなる。
【0022】
ポリエステル低重合体とする工程の例としては、単一のエステル化反応槽、又は複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、該反応で生成する水と余剰のジオール成分を系外に除去しながら、エステル化反応率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上に達するまで行い、ポリエステル低重合体を得る方法が挙げられる。
【0023】
溶融重縮合工程の例としては、単一の溶融重縮合槽、又は複数の溶融重縮合槽を直列に接続し、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に生成するジオールを系外に留出させながら行う方法が挙げられる。
ポリエステル重縮合触媒の反応系への添加は、前記ジカルボン酸成分とジオール成分の混合・調製段階、前記ポリエステル低重合体とする工程の任意の段階、又は溶融重縮合工程の初期の段階のいずれであってもよい。また、この際用いられるポリエステル重縮合用触媒としては、アンチモン、ゲルマニウム、チタン等の化合物が用いられる。
【0024】
更に、ポリエステル低重合体とする工程や溶融重縮合工程において、熱分解やジオールの二量化などの副反応を抑制するために、酸化防止剤や塩基性化合物を添加することもできる。具体的には、酸化防止剤としては、イルガノックス1330(BASF社製)、イルガノックス1010(BASF社製)等が挙げられ、塩基性化合物としては、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0025】
前記溶融重縮合工程により得られるポリエステルは、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出した後、該ストランド状のポリエステルを水冷しながら、又は水冷後、カッターで切断してペレット状又は、チップ状等のポリエステル粒状体とする。
【0026】
ポリエステル粒状体を表面処理する工程としては、例えば、粒状体に剪断処理を施すことにより得ることができる。具体的には粒状体をミキサ、ブレンダ、精米機、表面処理機などの粒体撹拌装置を用いて粒状体を剪断処理する。この処理の強度と処理の時間によって、表面処理状態をコントロールできる。
また、局部的な高重合度化や高結晶化による不具合を無視すれば、一定の固相重合処理によってもこの領域の粒状体を得ることができる。
【0027】
表面処理したポリエステル粒状体を篩分して回収した後、ポリエステル微粉と混合して、所定のポリエステル組成物を得ることができる。
【0028】
本発明のポリエステルは、その用途に応じて更に結晶核剤、酸化防止剤、着色防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、離型剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、無機及び/又は有機粒子等を配合することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
<ポリエステル組成物より、ポリエステル粒状体(A)とポリエステル微粉(B)の分離>
ポリエステル組成物試料1kgをタイラー4メッシュで篩分し、該タイラー4メッシュを通過したポリエステル組成物試料を更にタイラー16メッシュで篩分した。篩分後、該タイラー16メッシュ上にあるポリエステル組成物試料をタイラー100メッシュ上に移し、水2Lを5回に分割してタイラー100メッシュ上のポリエステル組成物試料を洗浄した。その後ポリエステル組成物試料を乾燥し、ポリエステル粒状体(A)とし、重量を測定した。
前記洗浄に供した水は該タイラー100メッシュ下で回収した。次いで、該濾過した水は更に目開き10μmのニッケルスクリーンにより濾過し、該目開き10μmのニッケルスクリーンを120℃で4時間乾燥し、該目開き10μmのニッケルスクリーン上にある固形物を回収し、ポリエステル微粉(B)を得、重量を測定し、ポリエステル粒状体(A)量に対するポリエステル微粉(B)量の割合を計算した。
【0031】
<ポリエステル粒状体(A)の各ジカルボン酸及び各ジオールの定量>
ポリエステル粒状体(A)サンプル約100mgを重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒1mlに溶解後、重ピリジン36μLを添加し、測定溶液とした。該測定溶液を日本電子(株)製「α−400」又は「JMN270]NMR測定装置により、50℃でH−NMRを測定し、ポリエステル粒状体(A)の各ジカルボン酸及び各ジオールを定量した。
【0032】
<ポリエステル微粉(B)の各ジカルボン酸及び各ジオールの定量>
ポリエステル微粉(B)サンプル約100mgを重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒1mlに溶解後、重ピリジン36μLを添加し、測定溶液とした。該測定溶液を日本電子(株)製「α−400」又は「JMN270]NMR測定装置により、50℃でH−NMRを測定し、ポリエステル微粉(B)の各ジカルボン酸及び各ジオールを定量した。
【0033】
<ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトル>
次の条件により、ポリエステル粒状体(A)表面のラマンスペクトル測定を行った。
装置:ナノフォトン製レーザーラマン顕微鏡(RAMANtouch)
励起レーザ波長:532nm
回折格子:1200gr/mm
スペクトルレンジ:1670-1800cm-1
【0034】
<固有粘度(IV)>
ポリエステル粒状物(A)、ポリエステル微粉(B)それぞれ試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00g/dLとなるように溶解させた後、30℃まで冷却し、30℃において全自動溶液粘度計(センテック社製、「DT553」)にて、試料溶液の落下速度、溶媒のみの落下秒数それぞれを測定し、以下の式により、固有粘度(IV)を算出した。
IV=((1+4KHηsp0.5−1)/(2KHC)
ここで、 ηsp=η/η−1 であり、ηは試料溶液の落下秒数、ηは溶媒のみ
の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。なお試料の溶解条件は、110℃で30分間とした。
【0035】
<ポリエステル組成物の計量時間変動評価>
ポリエステル組成物を窒素雰囲気下140℃で4時間乾燥し、射出成形機(日精樹脂工業社製「FE-80」)を用い、次の条件により射出成形を行い、計量時間変動を評価した。
すなわち、縦110mm×横110mm×厚み1mmのフィルムシートを連続100回射出成形し、各々の計量時間を計測し、その最大値、最小値、平均値及び標準偏差を求めた。平均値が小さくまた標準偏差が小さいほどポリエステル組成物のスクリューへの食い込み性に変動がなく、優れていることを示している。
シリンダー温度(ノズル−ホッパー下):245℃−250℃−240℃−180℃
スクリュー回転数:75rpm
計量:1回当たり約80g
背圧:0.15MPa
射出時間:10秒
冷却時間:20秒
金型温度:30℃
【0036】
<フィッシュアイ(FE)数の測定>
ポリエステル組成物を窒素雰囲気下140℃で4時間乾燥し、フィルム成形装置(ME-20/26V2&CR-7&FS-5)(OCS社製)により、次の条件でフィルム成形を行い、フィッシュアイ(個/m)を測定した。フィッシュアイ数は、フィルムを製膜しつつ装置付属のCCDカメラにより、1mの面積中に存在する長径16μm以上のサイズの個数を自動的にカウントして測定した。この値が小さいほど、成形外観に優れることを示している。シリンダー温度(ノズル−ホッパー下):250℃−250℃−250℃−250℃
スクリュー回転数:100rpm
樹脂圧:75MPa
チルロール温度:50℃
フィルム厚み:50μm
【0037】
(実施例1)
テレフタル酸1モルに対して1,4−ブタンジオールを1.8モルの割合とした出発原料を原料供給口からスラリー調製槽に供給し、撹拌、混合してスラリーを調製した。該スラリーを温度230℃、圧力78.7kPaに調整したエステル化反応槽に1,836重量部/時間で連続的に供給すると共に、該エステル化反応槽に具備された触媒供給口からテトラ−n−ブチルチタネートを1.06重量部/時間で連続的に供給し、撹拌下、滞留時間3時間としてエステル化反応させて、エステル化反応率97.5%の低重合体を得た。
該低重合体を温度250℃、圧力2.66kPaに調整した第1重合反応槽に連続的に
供給し、撹拌下、滞留時間2時間で重合反応させ、プレポリマーAを得た。該プレポリマーAの固有粘度は0.250dL/gであった。該プレポリマーAを温度250℃、圧力0.133kPaに調整した第2重合反応槽に連続的に供給し、撹拌下、滞留時間3時間で重合反応を更に進めて、プレポリマーBを得た。該プレポリマーBの固有粘度は0.872dL/gであった。次いで、該プレポリマーBを温度250℃、圧力0.133kPaに調整した第3重合反応槽に連続的に供給し、撹拌下、滞留時間2時間で重合反応を更に進めて、ポリマーを得た。
該ポリマーを第3重合反応槽より抜き出しダイに移送し、円柱状のストランドとしてポリマーを押し出し、20℃の冷却水で0.9秒間冷却した後、カッティングしてポリマー粒状体とした。該ポリマー粒状体の固有粘度は1.26dL/gであった。又、該ポリマー粒状体1個当たりの重量は平均22mgであった。
該ポリマー粒状体をプラスチック粒状体表面処理機PBA25A(株式会社サタケ製作所社製)により使用電流65Aにて表面処理を実施した。
表面処理したポリマー粒状体1kgをタイラー4メッシュで篩分し、通過したポリマー粒状体を更にタイラー16メッシュで篩分した。篩分後、該タイラー16メッシュ上にあるポリマー粒状体をタイラー100メッシュ上に移し、水2Lを5回に分割してタイラー100メッシュ上のポリマー粒状体を洗浄した。その後乾燥し、ポリエステル粒状体(A)とし、重量を測定した。
前記洗浄に供した水は該タイラー100メッシュ下で回収した。次いで、該回収した水は更に目開き10μmのニッケルスクリーンにより濾過し、該目開き10μmのニッケルスクリーンを120℃で4時間乾燥し、該目開き10μmのニッケルスクリーン上にある固形物を回収し、ポリエステル微粉(B)を得た。
該ポリエステル粒状体(A)量に対するポリエステル微粉(B)量は750質量ppmであった。次いで、分取したポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.06重量部を添加し、均一となるように混合し、ポリエステル組成物を調整した。該ポリエステル組成物について測定、評価を行った結果を表1にまとめた。
【0038】
(比較例1)
ポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.03重量部を添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。結果を表1に示
す。
【0039】
(比較例2)
ポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.10重量部を添加した以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。結果を表1に示
す。
【0040】
(比較例3)
実施例1と同様にして製造した、ポリマー粒状体1kgをタイラー4メッシュで篩分し、通過したポリマー粒状体を更にタイラー16メッシュで篩分した。篩分後、該タイラー16メッシュ上にあるポリマー粒状体をタイラー100メッシュ上に移し、水2Lを5回に分割してタイラー100メッシュ上のポリマー粒状体を洗浄した。その後乾燥し、ポリエステル粒状体(A)とし、重量を測定した。
前記洗浄に供した水は該タイラー100メッシュ下で回収した。次いで、該回収した水は更に目開き10μmのニッケルスクリーンにより濾過し、該目開き10μmのニッケルスクリーンを120℃で4時間乾燥し、該目開き10μmのニッケルスクリーン上にある固形物を回収し、ポリエステル微粉(B)を得た。
該ポリエステル粒状体(A)量に対するポリエステル微粉(B)量は10質量ppmであった。次いで、分取したポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.03重量部を添加し、均一となるように混合し、ポリエステル組成物を
調整した。該ポリエステル組成物について測定、評価を行った結果を表1にまとめた。
【0041】
(比較例4)
ポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.06重量部を添加した以外は比較例3と同様にしてポリエステル組成物を得た。結果を表1に示
す。
【0042】
(比較例5)
テレフタル酸1モルに対して1,4−ブタンジオールを1.8モルの割合とした出発原料を原料供給口からスラリー調製槽に供給し、撹拌、混合してスラリーを調製した。該スラリーを温度230℃、圧力78.7kPaに調整したエステル化反応槽に1,836重量部/時間で連続的に供給すると共に、エステル化反応槽に具備された触媒供給口からテトラ−n−ブチルチタネートを1.06重量部/時間で連続的に供給し、撹拌下、滞留時間3時間としてエステル化反応させて、エステル化反応率97.5%の低重合体を得た。
該低重合体を温度250℃、圧力2.66kPaに調整した第1重合反応槽に連続的に
供給し、撹拌下、滞留時間2時間で重合反応させ、プレポリマーAを得た。該プレポリマーAの固有粘度は0.250dL/gであった。該プレポリマーAを温度250℃、圧力0.133kPaに調整した第2重合反応槽に連続的に供給し、撹拌下、滞留時間3時間で重合反応を更に進めて、プレポリマーBを得た。該プレポリマーBを第2重合反応槽より抜き出しダイに移送し、円柱状のストランドとして押し出し、20℃の冷却水で0.9秒間冷却した後、カッティングしてプレポリマーB粒状体とした。該プレポリマーB粒状体50kgを、温度195℃、圧力133Pa以下10時間で回分式の撹拌式固相重合装置を用いて固相重合を行った。
固相重合後のポリマー粒状体1kgをタイラー4メッシュで篩分し、通過したポリマー粒状体を更にタイラー16メッシュで篩分した。篩分後、該タイラー16メッシュ上にあるポリマー粒状体をタイラー100メッシュ上に移し、水2Lを5回に分割してタイラー100メッシュ上のポリマー粒状体を洗浄した。その後乾燥し、ポリエステル粒状体(A)とし、重量を測定した。
前記洗浄に供した水は該タイラー100メッシュ下で回収した。次いで、該回収した水は更に目開き10μmのニッケルスクリーンにより濾過し、該目開き10μmのニッケルスクリーンを120℃で4時間乾燥し、該目開き10μmのニッケルスクリーン上にある固形物を回収し、ポリエステル微粉(B)を得た。
該ポリエステル粒状体(A)量に対するポリエステル微粉(B)量は150質量ppmであった。次いで、分取したポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.03重量部を添加し、均一となるように混合し、ポリエステル組成物を調整した。該ポリエステル組成物について測定、評価を行った結果を表1にまとめた。
【0043】
(比較例6)
ポリエステル粒状体(A)1000重量部に対してポリエステル微粉(B)0.06重量部を添加した以外は比較例5と同様にしてポリエステル組成物を得た。結果を表1に示
す。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明のポリエステル組成物は実施例で示されている通り、射出成形評価において平均計量時間が短かく、且つ、30も短かいことより、射出成形機や連続押出フィルム成形機等による成形品の製造を短時間でムラなく実施することができ、又、フィルム評価結果よりフィッシュアイが少ない等成形外観が良好な成形品とすることができる。前記した短時間でムラなく成形できるということは、成形時の熱履歴のバラつきが小さくなり、且つ複数の成形品を成形しても該複数の成形品で機械物性等にばらつきがなく安定することを示唆している。よって要求される特性がきわめて厳しい電気電子部品、自動車用コネクター、繊維、フィルム、ボトル等の射出成形用又は押出フィルム成形用に本発明のポリエステル組成物は適用することができる。