(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.プラスチックボトルの製造方法
本開示のプラスチックボトルの製造方法は、未成膜プラスチックボトルの内面に化学蒸着法によってDLC膜を成膜する工程を備える。
図1に示すように、本開示の製造方法に用いられる未成膜プラスチックボトルは、口部1、肩部2、胴部3及び底部4を有し、容積が5L以上35L以下であり、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)が0.1以上0.3以下である。本開示の製造方法においては、化学蒸着法によるDLC膜5の成膜において3000W以上5000W以下の高周波電力を採用することに一つの特徴がある。
【0019】
DLC膜を備えない未成膜プラスチックボトルについては、例えば、有底円筒形状のパリソン(プリフォーム)を加温し、金型内でブロー延伸するブロー成形法により容易に製造できる。パリソン形状やその製法、およびブロー延伸条件は、ボトルの容積や形状に応じて適宜決定すればよい。
【0020】
ブロー成形後の未成膜ボトルの内面に対して、汎用のCVD装置を用いてDLC膜を設けることで、プラスチックボトル10を製造することができる。例えば、プラスチック容器の大きさに合わせた外部電極の内側に未成膜プラスチック容器を収容し、且つ、内部電極を容器開口の内部又は外部の所定の位置に設置した後で、化学蒸着(プラズマ化学蒸着)によって容器内にガスバリア性膜を成膜することができる。プラズマ化学蒸着法とは、減圧下で発生させたプラズマによって原料ガスを解離、イオン化させて成膜種を生成させ、被着体に堆積、成膜させる方法である。例えば、特開2003−237754号公報に開示されたような装置と容器の口部および肩部の周囲に誘電体材料からなるスペーサー等とを利用することが可能である。この場合、ガス供給管機能を有する内部電極を、ボトルの内部の位置であってボトル高さの1/5(20%)〜4/5(80%)の位置に配設することが好ましく、1/4(25%)〜3/4(75%)の位置がより好ましい。
【0021】
DLC膜の原料ガスは、アセチレン、エチレン、プロピレン等の不飽和炭化水素化合物;メタン、エタン、プロパン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素化合物;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物等が挙げられる。これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよい。中でも、エチレン又はアセチレンガスを単独使用することが好ましい。
【0022】
上記の原料ガスには少量の水素、有機化合物が混合されていてもよい。また、原料ガスをアルゴン、ヘリウム等の希ガスで希釈してもよい。
【0023】
プラズマ化学蒸着法によりDLC膜を成膜する場合、真空排気(減圧)とガス導入を行い、内部が所定の圧力(真空度)となった時点で原料ガスをプラズマ化させて成膜する。成膜時の内部圧力は、良好な膜質や物性と成膜所要時間との兼ね合いから、1Pa以上50Pa以下とすることが好ましい。原料ガスの導入は、内部電極を通しても、チャンバ内部に直接導入してもよい。特に、ガス導入管と内部電極を兼用することで、部品数を低減でき、成膜成分が部品に付着、落下し容器成膜へ異物混入することを防ぐことができる。
【0024】
チャンバ内部を所定の真空度とし、原料ガスを供給し、且つ、外部電極とグランド電位の内部電極との間に電圧を印加して、外部電極に収容している容器の内部にプラズマを発生させることで、容器内面にガスバリア性膜を成膜することができる。例えば、電源として高周波電源を用いる場合、その周波数は例えば数MHz以上数100MHz以下、汎用性の観点から好ましくは6MHz又は13.56MHzとすることができる。また、後述するように十分なガスバリア性を確保するとともに、胴部と口部との色むらを低減する観点から、電力(出力)は3000W以上5000W以下とすることが重要である。成膜時間は例えば0.2〜20秒、好ましくは1.0〜10秒とすることができる。
【0025】
本発明者の知見では、大型プラスチックボトルの形状に合わせて、従来の小型プラスチックボトルにおけるガスバリア性膜の成膜条件(例えば特開平8−053116号公報)をスケールアップしただけでは、良質なガスバリア性膜(特にDLC膜)が得られない。その理由については以下の通りである。
【0026】
上述したように、一般に、胴部内径(D
2)比べ口部内径(D
1)が小さい容器のDLC成膜では、胴部3に比べ口部1のDLC膜厚が増大し、濃色となる。更に、5リットル以上の大型容器を、数100ミリリットルから3リットル等の容器の一般的な成膜条件、例えば高周波出力数100〜1000W程度で成膜し、胴部3の十分なガスバリア性を得ようとすると、口部の濃色が顕著となり且つ不透明性が強まってしまう。
【0027】
これに対し、容積5リットル以上、口部内径(D
1)の胴部内径(D
2)に対する比(D
1/D
2)が0.1以上0.3以下であれば、高周波電力3000W以上の条件を用いることで、口部の着色が軽減され良好な外観が得られる。この現象の要因は、成膜出力を高出力にすると、原料ガスのプラズマ分解が進み、容器胴部への成膜と開口部側への成膜とのバランスが変化することであると考えられる。容器へのDLC成膜において、成膜条件は膜質に影響を与えるために、極めて重要であり、中でも、成膜出力は、原料ガスのプラズマ分解に大きな影響を与えるため、DLC膜の膜質や物性に、大きな影響を与える要件である。上記の通り、高周波電力を3000W以上とすることで、従来のような口部内側に筒状部材を装填したり、ガス排気管をボトル内部に配置したり、口部にマスキング部材を装着させたりしてDLC成膜を行わずとも、ボトルのガスバリア性と、口部の濃色化抑制および透明性とを兼備できる。高周波電力は4000W以上がより好ましい。一方、発熱や異常放電を抑制する観点等から、高周波電力の上限は5000W以下が好ましい。
【0028】
なお、高周波電力の出力が大きい場合は、成膜時圧力が高いと異常放電が発生し易く、膜自体や樹脂容器のみならず成膜装置を損傷させる可能性が高まる。異常放電の抑制には、容器内を効率よく排気させることが効果的である。この点、ボトルの口径/胴径比(D
1/D
2)が0.1以上、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.2以上であれば、容器内部にガス排気管を配置せずとも、排気口を容器装填位置から離れた成膜チャンバー壁面に設置した従来設備条件において、容器内を効率的に排気できる。
【0029】
また、一般に、高出力ではその発熱により、容器の肩部等の比較的薄い樹脂厚の箇所が熱変形を受けやすいが、胴径130mm以上、より好ましくは180mm以上、樹脂厚0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上あれば被熱による熱変形は発生し難い。なお、樹脂厚は、大容積容器のボトル強度の点からも必然的に厚めに設計されるので、本開示のプラスチックボトル10を製造するにあたり、高周波電力条件のために特別な樹脂厚設計は不要である。
【0030】
また、本発明者の知見では、成膜出力の増大と共に、DLC膜のラマンスペクトル分析のI(S)/I(N)が高くなり、有機成分に対し無機成分の比率が高くなる傾向にある。また、無機成分の比率が大きいほど、即ちI(S)/I(N)が大きいほど、DLC膜の硬度の増大や、屈折率の増大という傾向が得られている。このことは、DLC膜の無機成分比が高いほど、膜が緻密化(密度増大)し、概して膜の硬度および屈折率が増大するという相関性の現れであり、ひいては、容器のガスバリア性が高くなる(酸素透過率が小さくなる)効果が得られるものと考えられる。以上のことから、DLC膜の化学蒸着時に3000W以上5000W以下の高周波電力を採用することにより、口部の着色抑制による良好な外観性と高いガスバリア性とを兼備した容器を得ることができる。
【0031】
2.プラスチックボトル
本開示の製造方法により製造されるプラスチックボトル10について説明する。
図1に示すように、プラスチックボトル10は、熱可塑性樹脂を主原料とする未成膜プラスチックボトルの内面にDLC膜5を設けたものである。未成膜プラスチックボトルは、口部1、肩部2、胴部3及び底部4を有し、容積が5L以上35L以下であり、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)が0.1以上0.3以下である。
【0032】
2.1.原料
未成膜プラスチックボトルは、熱可塑性樹脂を主原料とする。「主原料」とは、ガスバリア性膜5を除くプラスチックボトルを構成する原料の90質量%以上が熱可塑性樹脂であることを意味する。好ましくは、当該原料の95質量%以上、より好ましくは98質量%以上を熱可塑性樹脂とする。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂等が挙げられる。特に、上述のブロー成形がより容易となることから、PET樹脂が好ましい。また、耐熱性を向上させるためにナイロン系樹脂を混合してもよい。一方、言うまでもないが、プラスチックボトル10は、原料として金属化合物のスカベンジャーを含まない。スカベンジャーを含む場合、リサイクルが困難となり、上記課題を解決することができない。
【0033】
2.2.形状
プラスチックボトル10は、
図1に示すように、口部1、肩部2、胴部3及び底部4を有する。これら口部1、肩部2、胴部3及び底部4の形状は、特に限定されるものではない。特に
図1に示すように、口部1、肩部2及び胴部3の水平断面形状が円形状であるものが好ましい。後述するガスバリア性膜5をボトル内面により均一に設けることができるためである。
【0034】
プラスチックボトル10は、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)が0.1以上0.3以下である必要がある。上述したように、胴径(D
2)に比べ口径(D
1)が小さい容器のDLC成膜では、胴部に比べ口部のDLC膜厚が増大し、濃色となる。さらに、一般的なガスバリア成膜条件によって胴部の十分なガスバリア性を得ようとすると、口部1の濃色が大変顕著となり且つ不透明性が強まる。容積5L以上35L以下の場合において、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)が0.1以上0.3以下であれば、化学蒸着において3000W以上5000W以下の高周波電力を採用することで、ボトルのガスバリア性と、口部の濃色化抑制および透明性とを兼備できる。この場合、口部1の内側に筒状部材を装填したり、ガス排気管をボトル内部に配置したり、口部1にマスキング部材を装着させることなく、容易にDLC成膜を行うことができる。
【0035】
プラスチックボトル10は、例えば、口部の内径(D
1)が30mm以上100mm以下、胴部の内径(D
2)が150mm以上350mm以下、全体高さ(H
1)が250mm以上700mm以下、口部高さ(H
2)が20mm以上80mm以下、胴部高さ(H
3)が100mm以上600mm以下である。
【0036】
プラスチックボトル10の口部1、肩部2、胴部3及び底部4における厚み(ガスバリア性膜5の厚みを除く)は、特に限定されるものではない。例えば、上述したように、ボトル内面に化学蒸着によってDLC膜5を設ける場合にボトルの熱変形を抑制する観点からは、肩部2や胴部3が0.2mm以上の厚みを有することが好ましく、0.3mm以上がより好ましい。
【0037】
プラスチックボトル10の容積は5L以上35L以下である。下限は、飲料サーバー用容器として運搬効率の良さの点から、好ましくは10L以上である。従来、このような大容積のプラスチックボトルに対しガスバリア性膜を設けることは想定されていなかった。
【0038】
2.3.DLC膜
プラスチックボトル10は、化学蒸着によって内面にDLC膜5が設けられる。DLC膜を成膜したプラスチックボトル(例えばPETボトル)のリサイクル可否の閾条件については、PETボトルリサイクル推進協議会の自主基準に基づいた評価によってリサイクル可否が判断される。この点、胴部3におけるDLC膜の厚みは、15nm以上50nm以下とすることが好ましく、ガスバリア安定性の点から20nm以上がより好ましい。このような厚みとすることで、リサイクル性に優れるとともに、酸素透過率が一層低いプラスチックボトルとすることができる。一方、口部1におけるDLC膜の厚みは、通常、胴部3のDLC膜の厚みよりも大きくなる。この場合、口部1におけるDLC膜の厚みは、500nm以上1000nm以下であることが好ましい。下限がより好ましくは600nm以上であり、上限がより好ましくは750nm以下である。口部1のDLC膜の厚みが大き過ぎると、口部1の濃色が顕著となり且つ不透明性が強まる。
【0039】
また、この場合、胴部3の内面におけるDLC膜は、ラマン分光分析におけるI(D)/I(G)が0.16以上の結合組成を有することが好ましい。一方、I(D)/I(G)の上限は特に限定されないが、0.22以下とすることが好ましい。I(D)/I(G)は、DLC膜の六員環ネットワークの終端に起因すると考えられるピークと、sp
2結合由来のグラファイト構造に起因するピークの強度比であり、上記の範囲であれば、膜の透明性、強度、ガスバリア性を良好に兼備し易い。
【0040】
さらに、この場合、胴部3の内面におけるDLC膜は、ラマン分光分析におけるI(S)/I(N)が1.0以上の結合組成を有することが好ましい。I(S)/I(N)が大きいことは、有機成分に対し無機成分の比率の高いことを意味し、DLC膜の緻密化による膜の硬度の増大や、屈折率の増大と相関性があり、それらがガスバリア性の向上に働き、ボトルの酸素透過率が小さくなる。この点、I(S)/I(N)の上限は特に限定されないが、通常15以下、好ましくは13以下、より好ましくは10以下である。
【0041】
2.4.酸素透過率
プラスチックボトル10は、酸素透過率が0.10cc/m
2/day以下であることが好ましい。より好ましくは、0.09cc/m
2/day以下である。また、プラスチックボトル10は、酸素透過率が0.06cc/pkg/day以下であることが好ましい。より好ましくは0.05cc/pkg/day以下である。このような酸素透過率であれば、例えば、炭酸を含む飲料が充填されるサーバー用容器として用いることができる。
【0042】
2.5.用途
プラスチックボトル10の用途は特に限定されるものではないが、内部に液体が充填されることが好ましい。液体の種類は特に限定されないが、例えばジュース、ビール等の炭酸飲料を含む各種飲料、食用油、工業用油等の各種油、醤油等の調味料などが挙げられ、炭酸ガスや風味の抜け防止や大気中の酸素透過に依る酸化防止に有効である。特に、上述の通り、本開示のプラスチックボトル10は、ガスバリア性に優れることから、炭酸を含む飲料のサーバー用容器として用いることもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本開示のプラスチックボトルについてより詳細に説明する。
【0044】
1.ガスバリア性膜(DLC膜)の評価方法について
<膜厚(nm)>
口部膜厚は、口部天面から下方へ10mmの位置の膜厚とした。
胴部膜厚は、容器全高の半分の高さ位置の膜厚とした。
膜厚測定は、容器内面に黒色マジックインキで線を書いてマスキングを行ってDLC成膜した後に、エタノールでマスキングを除去し、その箇所を小坂研究所株式会社製高精度微細形状測定器ET4000A機を用いて測定した。
【0045】
<屈折率>
エリプソメーターJ.A.Woollam製M−2000X機を用いて、入射角45〜75度、測定波長380〜780nmの条件で偏光状態を表す振幅反射率Psi(Ψ)と位相差Delta(Δ)の2つの値を測定し、得られたスペクトルをフレネルの反射係数やスネルの法則などの光理論に基づいた光学モデルで解析し、屈折率を得た。
屈折率は、膜の密度に関係があり、一般的に、密度が大きければ屈折率は大きくなる。密度が大きければ、膜も緻密になり、バリア性も向上するものと考えられる。
【0046】
<3次元表面粗さSa(nm)>
容器全高の半分の高さ位置の容器の一部を切り出し、ブルカー製白色干渉顕微鏡Contour GTX機を用い、測定範囲720μm角、接眼レンズ倍率1.0倍、対物レンズ倍率10倍の条件で測定し、3次元表面粗さを解析した。
膜表面形状が粗過ぎると膜の状態が悪く、3次元表面粗さSaが10nm以下程度であると、概して良好なガスバリア性を得易い傾向がある。
【0047】
<ナノインデンテーション法硬度(N/m
2)>
容器全高の半分の高さ位置の容器胴部内面に、シリコンウェハー20mm角を貼り付けてDLC成膜を行い、測定に供した。
株式会社エリオ二クス製ナノインデンテーション試験機ENT−2100、三角錐(バーコビッチ型)圧子を用い、3回測定した平均値を算出した。測定においては、基材(シリコンウェハー)の影響が現れないように、圧子押し込み深さはDLC膜表面から膜厚の5分の1から10分の1相当の深さとし、DLC膜の硬度を測定解析した。
【0048】
<ラマン分光分析>
容器全高の半分の高さ位置の容器胴部内面に、シリコンウェハー20mm角を貼り付けてDLC成膜を行い、分析に供した。
測定は、Thermo Fisher Scientific製Nicolet Almega XR機を用い、 励起波長532nm、分解能約10cm
−1、照射径1μφm(対物レンズ100倍、ピーンホール径25μm)、励起出力1%(試料位置において0.1mW以下)、露光時間30秒、積算回数6回の条件で行い、以下のスペクトル解析を行った。
【0049】
<ラマン分光分析I(S)/I(N)>
DLC膜に由来するスペクトルは、およそ1800cm
−1から1000cm
−1の範囲のピークに現れ(例えば、
図2参照。)、また、DLC膜中に含まれるDLCの原料由来の水素元素量に比例して蛍光強度が高くなり、ラマンスペクトルのベースライン強度が高くなる。
上記ピークの約1500cm
−1のピークトップ波数位置におけるピーク強度I(t)、その位置のベースライン強度I(N)、I(t)からベースラインの強度I(N)を差し引いたピーク強度I(S)から、I(S)/I(N)を算出した。
I(S)/I(N)は、炭素−炭素結合量と炭素−水素結合量の相対的な比率が表れ、この値が高いほどDLC膜が硬質となり、概してガスバリア性が良好な傾向が得られる。
【0050】
<ラマン分光分析 I(D)/I(G)>
およそ1800cm
−1から1000cm
−1の範囲のピークについて、フォークト関数を用いて、DLCの六員環ネットワークの終端に帰属すると考えられるピークトップ約1500cm
−1のピーク(D−band)と、sp
2結合のグラファイト構造に帰属されるピークトップ約1330cm
−1のピーク(G−band)と、帰属不明のピークトップ約1200cm
−1のピークとの3つにピーク分離解析を行い、D−bandとG−bandの各ピークトップ強度I(D)、I(G)との比からI(D)/I(G)を算出した。
I(D)/I(G)値が高いほど、概してガスバリア性が良好な傾向が得られる。
【0051】
<酸素透過率測定>
MOCON社製OX−TRAN2/61機を用い、ボトル開口に上記装置用のアダプターヘッドを装着して、測定23℃50RH%条件下でのボトル当たりの酸素透過率(cc/pkg/24h・air)を測定した。また、ボトル内表面積値を用い、単位面積当たりの酸素透過率(cc/m
2/24・air)を算出した。
【0052】
<口部の着色>
ボトルを正立させて目視観察し、次の基準で評価した。
◎ 極薄い黄褐色
○ 薄い黄褐色
△ やや濃い黄褐色
× 濃い黄褐色
【0053】
2.プラスチックボトルの作製
2.1.ブロー成形
<実施例1〜4、比較例1〜3(容積20L)>
ガスバリア性膜を成膜するための未成膜プラスチックボトルとして、ポリエチレンテレフタレート樹脂製の有底円筒状のパリソンとボトル形状の金型とを用い、2ステップブロー成形法(コールドパリソン法)によって得られたボトルを用意した。ボトルの容積は20L、胴部内径(D
2)は235mm、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)は0.2とした。
【0054】
<比較例4(容積15L)>
実施例1とパリソン形状、金型形状を変えた他は同様の方法で、ガスバリア性膜を成膜するためのプラスチックボトルを得た。ボトルの容積は15L、胴部内径(D
2)は235mm、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)は0.2とした。
【0055】
<参考例1(容積1L)>
実施例1とパリソン形状、金型形状を変えた他は同様の方法で、ガスバリア性膜を成膜するためのプラスチックボトルを得た。ボトルの容積は1L、胴部内径(D
2)は106mm、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)は0.2とした。
【0056】
<参考例2(容積0.5L)>
実施例1とパリソン形状、金型形状を変えた他は同様の方法で、ガスバリア性膜を成膜するためのプラスチックボトルを得た。ボトルの容積は0.5L、胴部内径(D
2)は70.5mm、口部内径(D
1)と胴部内径(D
2)との比(D
1/D
2)は0.3とした。
【0057】
2.2.DLC膜の成膜
図3に概略的に示すように、ボトルの大きさに合わせた外部電極と、容器口部上方のチャンバー壁に排気口を有するCVD装置に、ブロー成形した未成膜ボトルを収容し、細孔を先端部に設けたガス供給管を兼ねたφ10mmの内部電極をボトル内部のボトル全高1/2(50%)の位置に配設して真空排気を行い、容器内部の到達圧力が15Paとなった後に、高純度アセチレンガスを所定の流量で導入し、所定の高周波電源、出力(電力)、時間でプラズマ化学蒸着によって、ボトル内面にDLC膜を成膜した。成膜条件及び成膜されたDLC膜の性状について、下記表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、DLC膜の成膜条件のうち、高周波出力を3000W以上5000W以下とすることで、ガスバリア性に優れるとともに、胴部と口部との色むらが低減されたプラスチックボトルが得られた(実施例1〜4)。
一方で、高周波出力を2000Wと小さくした場合、ガスバリア性に優れるものの、胴部と口部との色むらが顕著であった(比較例1)。
また、高周波出力を1000Wと小さくした場合、酸素透過率が0.13cc/m
2/dayと大きくなった(比較例2)。胴部のDLC膜の性状を確認したところ、DLC膜が実施例1〜4及び比較例1と比べて軟質であり、硬度測定において下地(Siウエハ)の影響が現れるほどであった。また、I(D)/I(G)やI(S)/I(N)(有機成分に対する無機成分の比)が実施例1〜5と比べて小さく、また、実施例1〜4及び比較例1に比べて膜が脆かった。
さらに、ガスバリア性膜を有さない場合、当然ながら、酸素透過率を十分小さなものとすることができなかった(比較例3、4)。
尚、実施例1〜4と参考例1、2とを比べた場合、実施例1〜4における酸素透過率が参考例1、2に匹敵するものであることがわかる。すなわち、上記した成膜条件にてボトルの内面にDLC膜を設けることで、ボトル容積を大容積とした場合においても、ガスバリア性に優れるプラスチックボトルが製造可能であることが分かった。