【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0038】
[使用薬剤]
以下の実施例及び比較例で用いた薬剤を表2に示す。
【0039】
有機系カチオン凝結剤は固形分92%のDADMACの製品添加量を基準としたので、固形分50%のエピクロルヒドリン/ジアルキルアミン縮合物(EPDAA)は、DADMACの固形分92%相当の製品添加量で表示した。
【0040】
したがって、被処理水IのPCD滴定による流動荷電0mVに要する消費量A値1.87ppmは、製品としては1.87×92/50=3.44ppmである。
【0041】
【表2】
【0042】
[凝集条件]
凝集処理には、宮本製作所(株)製ジャーテスターを使用し、表3の条件で凝集を行った。
【0043】
【表3】
【0044】
[濾過処理]
濾過処理は、凝集液の全量をあらかじめ純水500mlで洗浄したアドバンテック社製の185φNO5A濾紙2枚重ねで行った。
【0045】
なお、この濾過処理の粒子捕捉機能は重力式二層濾過(主濾過砂径0.45mm)と圧力式二層濾過(主濾過砂径0.60mm)の中間に位置する。
【0046】
[SFF、MFFの測定方法]
最大孔径0.45μm25φMF、商品名メルクミリポア社HAWP02500を使用し、基準水(T0)、試料水150ml(T1)、試料水150ml(T2)を順次、−67kPaの条件で減圧濾過し、透過時間T0、T1、T2を計測する。
基準水は微粒子およびバイオポリマーが完全フリーの1mS/m〜3mS/mの清澄水を使用する。
【0047】
本評価では、栗田工業(株)排水回収設備のRO透過水(約2mS/m)を使用した。
【0048】
一連の測定においては水温を0.1℃単位で測定し、T0、T1、T2を25℃条件で、1℃当りの粘性係数比1.024を用いて補正する。
【0049】
SFF=補正T1/補正T0
MFF=補正T2/補正T1である。
【0050】
[微量PO
4−Pの測定方法]
概ね100ppb(0.1mg/l)を超えるPO
4−PはJIGK0101にしたがって行った。
【0051】
100ppb未満の微量PO
4−Pは、特開2016−18824号公報に記載の方法に準じ、これを一部改良して実施した。測定精度としては±0.3ppb(50mmセル吸光度±0.001)である。
【0052】
したがって1ppb未満は分析上の精度は欠ける。しかし、少数点第1位での技術比較は可能と判断し1ppb未満も小数点1位で表示した。また、測定値から計算される値がマイナスとなる場合も原理的にはあり得ないが、そのままマイナス表示した。
【0053】
[残留アルミニウム、残留鉄の測定方法]
ICPによりppb単位で測定した。
【0054】
[UV260nm吸光度の測定]
主としてフミン系有機物の指標として260nmの紫外吸光度を50mmセルにて計測した。
【0055】
[薬剤中の固形分量の計算方法]
MFRACは固形分9%より製品(ppm)×0.09、DADMACは固形分92%より製品(ppm)×0.92、EPDAAは固形分92%換算表示ゆえ(ppm)×0.92とした。
【0056】
塩化第二鉄(FC)はFC13.1%より固形分はFe
2O
3形態と想定し、18.7%として製品(ppm)×0.187を薬剤固形分とした。
【0057】
PACはAl
2O
310.4%より固形分はAl(OH)
3形態と想定し、15.7%として製品(ppm)×0.157を薬剤固形分とした。
【0058】
[薬剤による含水状態のフロック発生容量]
フロック発生容量の計測は困難なため、フロック容量評価は行わない。
【0059】
ただし、同じ薬剤固形分でのフロック容量は大きい順(水分含有が多い順)で以下の通りと考えられ、有機系カチオン凝結剤凝集物の水分含有は無機凝集剤やMFRACに比較して非常に少ない。フロック発生容量は、PAC>塩化第二鉄≧MFRAC>>DADMACおよびEPDAAである。
【0060】
[用いた工業用水の水質]
実施例及び比較例で用いた工業用水の水質を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
千葉工水A,Bは同一の工業用水系で、水源は過栄養湖の印旛沼で、原水のPO
4−Pは100ppbを超えるが、浄水場で常時PAC処理が行われているため、配水される工業用水のPO
4−Pは2016年6月15日は22ppb、同年10月11日は8ppbとなっている。
【0063】
有機汚濁(UV260nm50mmセル吸光度)水準は相当に高い。
【0064】
なお、千葉県企業局公開データから推算すると、浄水場では平均13ppmの液体塩化アルミニウムで凝集、沈殿されている。
【0065】
熊本県八代市井戸水は、その単純濾過水をプラント洗浄に使用した排水で、その回収検討の評価結果である。同排水はSSを濾過で除けば、無色・透明で有機汚濁水準のUV260nm50mmセル吸光度=0.03で、水質が良い部類の水道水並みである。しかし、PO
4−Pを100ppb以上含有している。
【0066】
この井戸水の採取直後のSFF=0.98、MFF=1.02であるが、大気開放放置で微生物が繁殖し(凝集試験前の生菌数=30万CFU/ml)で、微生物代謝物でSFF、MFFが悪くなっている。
【0067】
鹿島工水は、過栄養湖(PO
4−P100ppb以上)に分類されると思われる北浦を水源とし、浄水場で液体硫酸バンド5ppmで凝集・沈殿処理されている。この結果、PO
4−Pは46ppbとなっている。有機汚濁(UV260nm50mmセル吸光度)水準と高い。なお、鹿島浄水場では液体硫酸バンド5ppmでの凝集・沈殿を行っている。
【0068】
[評価項目と評価基準]
評価項目は下記(1)〜(5)である。各評価項目での評価基準は以下の通りとした。
(1) 薬剤固形物量
5mg/l未満 ◎
5〜10mg/l未満 ○(同一SS量ならPACよりFCの含水フロック量が少ないことを考慮して最大10mg/lを許容範囲とした)
10mg/l以上 ×
(2) PO
4−P
1ppb未満 ◎
1〜3ppb未満 ○
3ppb以上 ×
(3) 残留Al
20ppb未満 ◎
20〜50ppb未満 ○
50ppb以上 ×
(4) バイオポリマー指標SFF
1.00未満 ◎
1.00〜1.08未満 ○
1.08以上 ×
(5) 微粒子汚濁指標MFF
1.025未満 ◎
1.025〜1.10未満 ○
1.10以上 ×
【0069】
[実施例1〜8、比較例1〜17]
千葉工業用水(工水)Aに対し表5,6に示す薬剤を添加し、前記条件で凝集処理し、次いで濾過処理した。上記評価基準による評価結果を、表5,6に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
[考察]
実施例1では、DADMAC0.50ppm(対A値48%)、塩化第二鉄(以下FC)10ppm(Fe=1.3mg/l)とMFRAC5ppmの凝集処理によって、SFF◎、MFF○、PO
4−P◎、残留Al○の処理水質が得られ、発生SSも2.8mg/l(○)であった。
【0073】
実施例2では、FC10ppmから20ppmへの増加で、残留Alが25ppb(○)→8ppb(◎)とさらに向上した。
【0074】
実施例3〜6では、DADMAC添加量対A値が14%〜96%の範囲で、FC10ppm、MFRAC5ppmで、評価項目すべてをクリアーする。
【0075】
DADMACを添加しない比較例6では、SFF、MFFが×である。
【0076】
一方、DADMAC添加量対A値115%の比較例16ではSFF、MFFが×になる。
【0077】
なお、A値とSFF、MFFの関係は
図1のようになる。
【0078】
なお、
図1は、千葉工水AにおけるDADMA添加量比(%/A値)とSFF、MFF(FC20ppmMFRAC5ppm)の関係を示している。
【0079】
実施例7、8は、カチオン系有機凝結剤をエピクロルヒドリン/ジアルキルアミン縮合物(以下EPDAA)としたものである。この場合でもFC20ppm、MFRAC5ppmで評価項目をすべてクリアーする。ただしDADMACの固形分92%換算の添加量は増加する。
【0080】
比較例1は、MFRAC単独で添加量を30ppmまで増加したものである。SFF、MFFは◎および○になるが、PO
4−P除去、残留Al低減はできない。
【0081】
比較例2〜5は、FCのみを添加したものである。この比較例2〜5では、薬剤発生SS量を除く水質評価項目をクリアーするには100ppm以上の添加量を必要とし、この場合薬剤発生SS量が×となる。
【0082】
比較例7〜10はPACのみを添加したものである。この比較例7〜10では、薬剤発生SS量を除く水質評価項目をクリアーするには100ppm以上の添加量を必要とし、この場合薬剤発生SS量が×となる。
【0083】
比較例11、12は、MFRACを添加しないものである。この場合、MFFが×である。
【0084】
比較例13、14は、FCを添加しないものである。この場合、PO
4−P、残留Alが低減しない。
【0085】
比較例17は薬剤処理なしのブランクの評価である。
【0086】
[実施例9〜14、比較例18〜31]
鹿島工業用水に表7,8の通り、各薬剤を添加して前記上限で凝集及び濾過処理した。結果を表7,8に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
【表8】
【0089】
[考察]
実施例9、10、11では、DADMAC0.80ppm(対A値58%)、FC15〜30ppm(Fe2.0%〜3.9%)、MFRAC13ppmで水質評価項目と薬剤起因SS発生量をクリアーできる。
【0090】
PO
4−Pと残留Alの除去水準はFC添加量に依存する。
【0091】
実施例12では、DADMAC添加量を対A値58%→29%としたものである。SFF、MFF評価は◎および○で大きくは変化しない。
【0092】
実施例13、14は、カチオン系有機凝結剤をエピクロルヒドリン/ジアルキルアミン縮合物(EPDAA)としたものである。この場合でもFC20ppmMFRAC13ppmで評価項目をすべてクリアーする。
【0093】
ただしDADMACの固形分92%換算の添加量は増加する。
【0094】
比較例18は、MFRAC単独で添加量を40ppmまで増加したものである。この場合、SFF、MFFは○になるが、PO
4−P除去、残留Al低減はできない。
【0095】
比較例19〜21は、FC30ppm〜70ppm単独添加である。この場合、SFF、MFFは×である。○にするには100ppm以上(Fe13mg/L以上)の添加量が必要と推察される。
【0096】
比較例22は、DADMAC添加がないものである。この場合、FC20ppmでMFRACを実施例10の2倍以上の30ppm添加してもSFF、MFF評価は×である。
【0097】
比較例23〜25は、PAC単独である。この場合、30〜70ppmでSFF、MFF×である。○にするには100ppm以上の添加両が必要と推察される。
【0098】
比較例26、27は、塩化第二鉄の代りにPACを30ppm、15ppm添加したものである。この場合、SFF、MFFは◎であるが、残留Alが薬剤なし(比較例31)の137ppbからそれぞれ203、237ppbに増加する。またPO
4−P低減効果が劣る。
【0099】
比較例29の通り、DADMAC添加量がA値の100%を超えると、MFFが×となる。
【0100】
薬剤発生SS量を除く水質評価項目をクリアーするには100ppm以上の添加量を必要とし、この場合薬剤発生SS量が×となる。
【0101】
比較例30は、DADMACとMFRAC凝集で塩化第二鉄がないものである。この場合、PO
4−Pは低下せず、残留Alも僅かしか低下しない。
【0102】
比較例31は、薬剤凝集処理を行わない濾過処理のみの結果である。
【0103】
[実施例15、比較例32〜37]
千葉工水Bに表9の通り各薬剤を添加して前記条件で凝集及び濾過処理した。結果を表9に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
[考察]
実施例15は、DADMAC0.35ppm(対A値49%)、FC10ppm(Fe1.3mg/L)、MFRAC5ppm添加であり、SFF、MFF◎、PO
4−P◎、残留Al○が得られる。
【0106】
比較例32は、実施例15の4倍のMFRAC20ppm単独添加である。この場合、SFF、MFFは○であるが、PO
4−Pは薬剤なし(比較例37)と変わらず、残留Al除去効果も微弱である。
【0107】
比較例33は、実施例15の3倍のFC30ppm単独添加である。この場合、SFF、MFFが×である。
【0108】
比較例34は、実施例15の2倍のMFRAC10ppm添加でDADMAC添加なしである。この場合、MFFが×である。
【0109】
比較例35は、PAC60ppm単独添加である。この場合、残留Alが94ppb存在する。
【0110】
比較例36は、実施例15のMFRAC添加をなくしたものである。この場合、MFFが×である。
【0111】
比較例37は、薬剤凝集処理を行わない濾過処理のみの結果である。
【0112】
[実施例16、比較例38〜42]
八代井水に表10の通り各薬剤を添加し、前記条件で凝集及び濾過処理した。結果を表10に示す。
【0113】
【表10】
【0114】
[考察]
実施例16は、DADMAC0.30ppm(対A値52%)、FC30ppm(Fe3.9mg/L)、MFRAC10ppm添加である。この場合、SFF◎、MFF○、PO
4−P○が得られる。残留Alは薬剤なしのブランクが3ppbで実施例の残留Alは0ppbである。
【0115】
比較例38、39は、FC単独添加である。FC30ppmの比較例38ではMFF×である。FC50ppmの比較例39では、水質項目は○および◎となるが薬剤起因SS量が×となる。
【0116】
比較例40、41はPAC単独添加である。PAC30ppmの比較例40ではSFF、MFFは○であるがPO
4−Pが×である。
【0117】
残留Alは○であるが、薬剤なしのブランクの3ppbが45ppbに増加する。
【0118】
PAC60ppmの比較例41は、水質項目、薬剤起因SSすべて○または◎になるが、残留Alが薬剤なしのブランクの3ppbが39ppbに増加する。
【0119】
比較例42は、薬剤凝集処理を行わない濾過処理のみの結果である。
【0120】
以上の実施例及び比較例より、工業用水をカチオン系有機凝結剤と第二鉄塩とMFRACの組み合わせで凝集、濾過することにより、逆浸透膜汚染要因の微量微粒子汚濁(MFF)、バイオポリマー汚濁(SFF)、残留Al、さらには膜モジュール内での微生物繁殖要因となる微量PO
4−Pの除去を一気に行うことができることが認められた。