特許第6848724号(P6848724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848724
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】ポリクロロプレンゴムラテックス接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 111/02 20060101AFI20210315BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210315BHJP
   B32B 25/16 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C09J111/02
   C09J11/06
   B32B25/16
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-126259(P2017-126259)
(22)【出願日】2017年6月28日
(65)【公開番号】特開2019-6955(P2019-6955A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊裕
【審査官】 小出 輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−027024(JP,A)
【文献】 特開2004−359787(JP,A)
【文献】 特開2001−270003(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/176677(WO,A1)
【文献】 特開2011−063672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 111/02
B32B 25/16
C09J 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリクロロプレンゴムラテックス100重量部に対し、水分散型のイソシアネート1〜4重量部と、水溶性のカルボジイミド化合物を3〜15重量部含有するラテックス接着剤組成物。
【請求項2】
ラテックス中のポリクロロプレンゴムがカルボキシル基含有単量体及び水酸基含有単量体より選ばれる1種以上の単量体との共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のラテックス接着剤組成物。
【請求項3】
水分散型のイソシアネート化合物の含有量が1.5重量部〜3.0重量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラテックス接着剤組成物。
【請求項4】
水溶性のカルボジイミド化合物の含有量が4.0重量部〜12重量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のラテックス接着剤組成物。
【請求項5】
発泡体同士又は発泡体とテキスタイルが、請求項1〜4のいずれかに記載のラテックス接着剤組成物で接着された接着体。
【請求項6】
発泡体の素材が、ポリクロロプレンゴムであることを特徴とする請求項5の記載の接着体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の接着体からなるウエットスーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリクロロプレンゴムラテックス接着剤、更に詳しくは発泡体同士或いは発泡体とテキスタイルとの接着において、優れた接着強度と柔軟性を両立させることが可能なポリクロロプレンゴムラテックス接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウエットスーツ、サポーター、スポーツシューズの中敷き、衝撃吸収剤等の製造において、被着体として各種の発泡体が用いられている。従来、これらの接着において、ポリクロロプレンゴム等をベースとした溶剤系接着剤が用いられてきた。しかしながら、これらの接着剤に使用される有機溶剤の揮散が、作業者の健康障害、あるいは作業場の火災等を引き起こす原因となっており、このような心配のないラテックス系接着剤が切望されて来た。
【0003】
また、従来のポリクロロプレンゴムラテックスは、接着強度が不十分であるという問題があった。この問題を解決する方法として、例えば特開2000−104028号公報、特開2003−27024号公報で発泡体との接着において、ポリクロロプレンラテックスを主成分とし、架橋剤としてポリイソシアネートを含む接着剤やその接着方法が知られている。しかしイソシアネートにより接着剤被膜が硬化することで、接着強度が向上する反面接着後の発泡体の柔軟性を損なうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−104028号公報
【特許文献2】特開2003−27024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のポリクロロプレンゴムラテックス系接着剤では十分な接着強度が得られない、もしくは、柔軟性が低下してしまうスポーツグッズやウエットスーツ用の素材となる発泡体同士、あるいは発泡体とテキスタイルの接着において、良好な接着強度と柔軟性を有するポリクロロプレンゴムラテックス接着剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、このような背景の下、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、水分散型のイソシアネートと、水溶性のカルボジイミド化合物をポリクロロプレンゴムラテックスに混合させることで、ポリクロロプレンゴムラテックスを主成分としてなる接着剤と発泡体との接着強度向上が可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち本発明は、ポリクロロプレンゴムラテックス100重量部に対し、水分散型のイソシアネート1〜4重量部、水溶性カルボジイミド化合物を3重量部〜15重量部含有するポリクロロプレンゴムラテックス接着剤である。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明におけるポリクロロプレンゴムラテックス接着剤は、ポリクロロプレンゴムラテックス100重量部に対し、水分散型のイソシアネート化合物1〜4重量部、水溶性のカルボジイミド化合物を3〜15重量部含有する。
【0010】
ポリクロロプレンゴムラテックスは各種製品が市販されており、クロロプレン単量体の単独重合体を含むラテックス、クロロプレン単量体と、カルボキシル基含有単量体及び水酸基含有単量体より選ばれる1種以上の単量体との共重合体のラテックス等が存在する。カルボキシル基含有単量体としてアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、水酸基含有単量体としてはアクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル等が挙げられる。
【0011】
ポリクロロプレンラテックスは特に限定されるものではないが、ポリクロロプレンゴムは低温化で結晶化により硬くなるため、1種以上の単量体との共重合体を含むポリクロロプレンゴムラテックスが好ましい。
【0012】
本発明のポリクロロプレンゴムラテックスを主成分とする接着剤は、十分な接着強度と柔軟性を両立するために、水分散型のイソシアネート化合物および水溶性のカルボジイミド化合物を含む事が必要である。水分散型のイソシアネート化合物は−N=C=Oで示される官能基を有する化合物で、それらを乳化剤で保護することにより水分散化している。カルボジイミドは−N=C=N−で示される官能基を有する化合物で、一般的には、カルボジイミド化触媒の存在下ジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって合成される。カルボジイミド化合物は、その一部を親水化したり、乳化剤等により乳化する事で、水溶性、エマルション型、水分散型などの各種形態となり、各種の市販品が存在する。本発明では水に溶解する水溶性のものを用いる。
【0013】
本発明で用いる水分散型のイソシアネート化合物は、ポリクロロプレンゴム100重量部に対し1〜4重量部であり、より好ましくは1.5〜3.0重量部である。水分散型のカルボジイミド化合物の量が1重量部未満では接着物性が低下し、4重量部を超えると被着体の柔軟性が低下する。水溶性のカルボジイミド化合物は、ポリクロロプレンゴム100重量部に対し3〜15重量部であり、より好ましくはポリクロロプレンゴム100重量部に対し4〜12重量部である。水分散型のカルボジイミド化合物の量が3重量部未満もしくは15重量部を超えると接着物性が低下する。
【0014】
ポリクロロプレンゴムラテックスを主成分とする接着剤の粘度は、各種増粘剤、例えば、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、疎水化セルロース、会合型ノニオン界面活性剤等の水溶性ポリマー、及びカルボキシル基含有ポリマーから構成されるアルカリ可溶型の増粘剤、ヘクトライト等のシリケート化合物等の配合により所望の粘度に調整できる。また必要に応じて、ロジンエステル、テルペンフェノール、石油樹脂、クマロン樹脂等の粘着付与樹脂、老化防止剤、防腐剤、凍結防止剤、造膜助剤、可塑剤、pH調整剤等を適宜配合しても良い。
【0015】
本発明の接着剤は、スポーツグッズやウエットスーツ用等の素材となる発泡体同士、又は発泡体とテキスタイルの接着に用いられる。
【0016】
本発明におけるスポーツグッズ及び他の発泡体としては、ポリクロロプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、スチレンブタジエンゴムなどで成型した発泡体を挙げることができる。一方、ウエットスーツ用の発泡体としてはポリクロロプレンゴムなどが使用される。
【0017】
本発明におけるテキスタイルとしては、ナイロン、ポリエステルなどの合成繊維や、綿・絹等の天然繊維の不織布などがあるが、ウエットスーツ用としては撥水効果をもたせたジャージが用いられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の接着剤は、発泡体同士、または発泡体とテキスタイルとの接着強度に優れ、その接着体は優れた柔軟性を維持する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0020】
なお、実施例における常温剥離強度、柔軟性は以下の方法で測定・評価した。
<常温剥離強度の測定>
接着した試料を恒温室において23℃×1日間養生後、25mm×150mmの裁断機で打ち抜き、試験片を作製した。テンシロン型引張り試験機にそれぞれの被着体の端を取り付け、引張り速度20mm/minの条件で23℃における180°剥離試験を実施し、剥離状態の観察と剥離強度を測定した。
【0021】
剥離状態は、以下のように判断した。
【0022】
(良) 材料破壊(材破)>凝集破壊(凝集)>界面破壊(界面) (劣)
<柔軟性の測定>
接着した試料を恒温室において23℃×7日間養生後、25mm×150mmの裁断機で打ち抜き、試験片を作製した。テンシロン型引張り試験機に試験片の両端を取り付け、引張り速度100mm/minの条件で23℃における60%伸長時の引張応力を測定した。
【0023】
実施例1
ポリクロロプレンゴムラテックス(東ソー(株)製クロロプレン・メタクリル酸共重合体、商品名:スカイプレンGFL−890)100重量部、水分散型イソシアネート化合物(東ソー(株)製、商品名:コロネートAQ−140)2重量部、水溶性カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル(株)製、商品名:カルボジライトV−04、有効成分40%)4重量部、及び会合型粘度調節剤((株)アデカ製、商品名:アデカノールUH−438)2.5重量部をホモミキサーにより均一に混合し接着剤組成物を作製した。接着剤をCR製スポンジ片に約100g/m(wet)塗布し、撥水性ナイロンジャージを皺が生じないように重ね、110℃のオーブン中で0.5kg/mで1分間プレス乾燥した。作製した試料の組成および評価結果を表1に示す。
【0024】
剥離試験ではスポンジ材破が主で常温剥離強度は高く、試験片の引張応力は低く柔軟性は良好な結果であった。
【0025】
実施例2
混合する水分散型イソシアネートの重量を表1に示す量に変更した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。剥離試験ではスポンジが材破し、常温剥離強度および柔軟性ともに良好な結果であった。
【0026】
実施例3〜5
混合する水溶性カルボジイミドの重量を表1に示す量に変更した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。剥離試験ではスポンジが材破し、常温剥離強度および柔軟性ともに良好な結果であった。
【0027】
【表1】
【0028】
比較例1
水溶性カルボジイミドを用いず、水分散型イソシアネートのみを表2に示す量使用して実施例1に従い接着剤組成物を作製し評価を行った。剥離状態が凝集破壊となり、引張応力が上昇し、柔軟性が劣った。
【0029】
比較例2
水分散型イソシアネートを用いず、水溶性カルボジイミド化合物のみを表2に示す量に使用した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。柔軟性は良好であったが、接着剤の界面破壊が主となり、常温剥離強度が劣った。
【0030】
比較例3
水分散型イソシアネートの量を表2に示す量に使用した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。柔軟性は良好であったが、接着剤の凝集破壊が主であり、常温剥離強度が劣った。
【0031】
比較例4
水分散型イソシアネートの量を表2に示す量に使用した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。スポンジが材破し、常温剥離強度は問題無かったが、柔軟性が劣った。
【0032】
比較例5
水溶性カルボジイミド化合物の量を表2に示す量に使用した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。剥離状態が凝集破壊となり、引張応力が上昇し、柔軟性が劣った。
【0033】
比較例6
水溶性カルボジイミド化合物の量を表2に示す量に使用した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。増粘により接着剤粘度が高く、部分的に接着不良が見られ、剥離強度も低下した。
【0034】
比較例7
カルボジイミド化合物を水分散型カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル製、商品名:カルボジライトE−05、有効成分40%)に変更した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。常温剥離強度は良好であったが、柔軟性が劣った。
【0035】
比較例8
カルボジイミド化合物をエマルション型カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル製、商品名:カルボジライトE−02、有効成分40%)に変更した以外は実施例1に従い接着剤組成物を作製し、評価を行った。部分的に接着不良が見られ、常温剥離強度も劣った。また、柔軟性が低かった。
【0036】
【表2】