(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リン系酸化防止剤は、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、又は[トリアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイトである
請求項5に記載の熱伝導性グリース。
前記ホウ素含有極圧剤は、ホウ素含有アミン、4ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩及びホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種である
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の熱伝導性グリース。
前記無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種以上である
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の熱伝導性グリース。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、熱伝導性グリースの熱伝導率は、一般に充填剤の量が多いほど高くなる。ところが、充填剤の量が多すぎるとちょう度が低くなり充分な塗布性が得られなくなり、その結果、塗膜の膜厚が増え気泡が混入することで熱伝導性が低下するおそれがある。
【0007】
そのため、熱伝導性グリースにおいて、ちょう度を高めて良好な塗布性を保ちながら、充填剤の量を多くする技術が求められている。また、熱伝導性グリースは、発熱する部品に直接塗布されて使用されるため、その種類によっては、熱の影響により油分の蒸発、ブリード及びポンプアウト等が起こり、放熱性能が低下することがある。したがって、発熱量の大きい環境で長期間に亘って使用される場合では、熱伝導性グリースの性能として、より高い熱伝導率を有し、かつ高温下で優れた熱安定性を有することが求められる。
【0008】
熱伝導性グリースとして、固化時間(流動性を失う時間)が比較的長く、蒸発損失も低く、且つ熱安定性に優れているという観点から、ポリオールエステルを基油とするものが多用されている。しかしながら、近年では使用条件の過酷化が更に進み、ポリオールエステルを基油とする熱伝導性グリースでも、高温での劣化による酸価の上昇やタール分(スラッジ、ワニス、コーク)の生成等に基づいてグリースが硬化してしまい、耐熱性の面で問題が生じるようになってきた。例えば、温度175℃、1000時間の耐久試験では、ポリオールエステル系の熱伝導性グリースであっても、酸価劣化によるタール分の生成が起こり、油の蒸発損失により硬化乾燥が生じ、ポンプアウトが生じやすくなっている。
【0009】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、高い熱伝導性、優れた塗布性及び高温環境における高い熱安定性を有する熱伝導性グリースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、基油組成物として、基油、分散剤、芳香族アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びホウ素含有極圧剤を含み、それらの酸化防止剤の総量を基油組成物の総量に対して特定の割合となるように含有させることで、熱伝導性、ちょう度及び高温における熱安定性に優れた熱伝導性グリースが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、無機粉末充填剤85〜97質量%及び基油組成物3〜15質量%を含有する熱伝導性グリースであって、前記基油組成物は、基油と、分散剤と、酸化防止剤と、ホウ素含有極圧剤とを含み、前記酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤を含み、前記アミン系酸化防止剤の含有量は、前記基油組成物100質量%に対し、0.5〜15質量%であり、前記リン系酸化防止剤の含有量は、前記基油組成物100質量%に対し、0.5〜5.5質量%であり、前記ホウ素含有極圧剤の含有量は、前記基油組成物100質量%に対し、0.1〜5.5質量%である、熱伝導性グリースである。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記アミン系酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミン及びアルキル化フェニルナフチルアミンを含む、熱伝導性グリースである。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記アミン系酸化防止剤は、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン及びN−オクチルフェニル−α−ナフチルアミンを含む、熱伝導性グリースである。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記アミン系酸化防止剤は、前記アルキル化ジフェニルアミン:前記アルキル化フェニルナフチルアミンの質量比が1:1〜5:1である、熱伝導性グリースである。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記リン系酸化防止剤は、アルキル化フェニルホスファイトである、熱伝導性グリースである。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第5の発明において、前記リン系酸化防止剤は、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、又は[トリアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイトである、熱伝導性グリースである。
【0017】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記ホウ素含有極圧剤は、ホウ素含有アミン、4ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩及びホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種である、熱伝導性グリースである。
【0018】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至第7のいずれかの発明において、前記無機粉末充填剤は、銅、アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種以上である、熱伝導性グリースである。
【0019】
(9)本発明の第9の発明は、第1乃至第8のいずれかの発明において、前記分散剤の含有量は、前記熱伝導性グリース100質量%に対し0.001〜1質量%である、熱伝導性グリースである。
【0020】
(10)本発明の第10の発明は、第1乃至第9のいずれかの発明において、前記基油は、鉱油、合成炭化水素油、ジエステル、ポリオールエステル及びフェニルエーテルからなる群から選択される少なくとも1種以上である、熱伝導性グリースである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高い熱伝導性、高温環境における高い熱安定性及び優れた塗布性を有する熱伝導性グリースを提供することができる。また、このような熱伝導性グリースを使用することで、高熱を発する電子部品の放熱性を向上させることができ、特にパワー半導体やLEDの放熱材料として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪1.熱伝導性グリース≫
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、無機粉末充填剤85〜97質量%及び基油組成物3〜15質量%を含有する。このうち基油組成物は、基油と、分散剤と、酸化防止剤と、ホウ素含有極圧剤とを含む。また、酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤を含む。アミン系酸化防止剤の含有量は、基油組成物100質量%に対し、0.5〜15質量%であり、リン系酸化防止剤の含有量は、前記基油組成物100質量%に対し、0.5〜5.5質量%であり、ホウ素含有極圧剤の含有量は、前記基油組成物100質量%に対し、0.1〜5質量%である。
【0024】
<無機粉末充填剤>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、熱伝導性グリース100質量%に対し、無機粉末充填剤を85〜97質量%含有する。
【0025】
無機粉末充填剤としては、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されないが、金属酸化物、無機窒化物、金属、ケイ素化合物、カーボン材料等の粉末を用いることが好ましい。また、無機粉末充填剤としては、1種類を単独で用いることもでき、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
無機粉末充填剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、ダイヤモンド等、半導体やセラミック等の非導電性物質の粉末を好適に用いることができる。その中でも、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカの粉末を用いることが好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムの粉末を用いることがより好ましい。このような無機粉末充填剤を用いることにより、熱伝導性グリースに電気絶縁性を付与することができる。
【0027】
また、無機粉末充填剤としては、例えば、金属アルミニウム、金属銀、金属銅などの金属粉末や、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ等の炭素材料粉末を用いることが好ましい。その中でも、金属粉末を用いることがより好ましく、金属アルミニウムの粉末を用いることがさらに好ましい。このような無機粉末充填剤を用いることにより、熱伝導性グリースにより高い熱伝導性を付与することができる。
【0028】
なお、無機粉末充填剤として、非導電性物質の粉末と、金属粉末や炭素材料粉末とを組み合わせて用いることもできる。
【0029】
無機粉末充填剤としては、細粒のみを用いることも、細粒と粗粒の組み合わせを用いることもできる。細粒のみを用いる場合、平均粒径0.15〜3μmの無機粉末を用いることが好ましい。平均粒径を0.15μm以上とすることにより、無機粉末充填剤の表面積に対する液体成分(基油と表面改質剤)の割合のバランスを良好にすることができ、より高いちょう度を得ることができる。一方、平均粒径を3μm以下とすることで、最密充填をしやすくなり、より高い熱伝導率とすることができ、また離油を抑制することもできる。
【0030】
一方で、細粒と粗粒を組み合わせる場合には、平均粒径0.15〜3μmの無機粉末(細粒)と、平均粒径5〜50μmの無機粉末(粗粒)を組み合わせることができる。この場合、粗粒の平均粒径を50μm以下とすることにより塗膜を薄くし、実装時の放熱性能を一層高めることができる。一方で、粗粒の平均粒径を5μm以上とすることにより、熱伝導率を高くすることができる。
【0031】
また、細粒と粗粒を組み合わせて用いる場合、粗粒として更に、平均粒径の異なる2種類以上の粉末の組み合わせとすることもできる。この場合にも、熱伝導率と実装時の放熱性能の観点から、それぞれの粗粒の平均粒径は5〜50μmの範囲であることが好ましい。
【0032】
細粒と粗粒の混合比としては、質量比で20:80〜85:15の割合であることが好ましい。粗粒を2種類以上組み合わせる場合、粗粒同士の質量比としては特に限定されないが、この場合にも細粒の質量比を無機粉末充填剤のうち20%〜85%の範囲にすることが好ましい。細粒と粗粒の配合比を上記範囲とすることで、無機粉末充填剤の表面積と液体成分(基油と表面改質剤)の量のバランスから、高いちょう度を得ることができる。また、粗粒と細粒のバランスが最密充填に適しており、離油を抑制することもできる。
【0033】
無機粉末充填剤の含有量は、上述したとおり熱伝導性グリース100質量%に対し、85〜97質量%である。また、熱伝導性グリース100質量%に対し、86〜96.5質量%であることが好ましく、87〜96質量%であることがより好ましく、90〜96質量%であることがさらに好ましく、91〜95.8質量%であることが特に好ましい。85質量%以上であることにより、熱伝導性を高め、また離油に起因する基油の滲み出しを抑制することができる。一方、97質量%以下であることにより、ちょう度の低下を抑制し十分な塗布性を達成することができる。
【0034】
<基油組成物>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、熱伝導性グリース100質量%に対し、基油組成物を3〜15質量%含有する。この基油組成物は、基油と、分散剤と、酸化防止剤と、ホウ素含有極圧剤とを含む。
【0035】
[基油]
基油は、基油組成物の主成分をなすものである。基油としては、特に限定されず、例えば鉱油、合成炭化水素油、ジエステル、ポリオールエステル、フェニルエーテル等を用いることができる。
【0036】
基油の含有量(総量)としては、特に限定されないが、例えば、熱伝導性グリース100質量%に対し、2〜14.6質量%であることが好ましく、2.5〜12質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましく、3.5〜7質量%であることが特に好ましい。
【0037】
また、基油組成物100質量%における基油の含有量としては、40〜98.85質量%であることが好ましく、50〜98質量%であることがより好ましく、60〜97質量%であることがさらに好ましく、70〜95質量%であることが特に好ましい。
【0038】
ここで、基油としては、固化し難く、蒸発損失が小さく、高温安定性に優れることから、ポリオールエステルと芳香族系エステルとを組み合わせて用いることが好ましい。ポリオールエステルと芳香族系エステルとを組み合わせて用いることによって、蒸発損失を改善することができる。
【0039】
(ポリオールエステル)
ポリオールエステルは、ポリオール成分とカルボン酸がエステル結合により結合した化合物である。
【0040】
ポリオールエステルのポリオール成分としては、特に限定されないが、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン又はネオペンチルグリコールを用いることが好ましい。
【0041】
ポリオールエステルの酸成分としては、特に限定されず、潤滑油の粘度が所望の範囲になるように設計することができる。酸成分としては、炭素数7〜10の直鎖状もしくは分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪酸等を用いることができ、分岐鎖状の脂肪酸をより好適に用いることができる。具体的には、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2−エチルペンタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチル−2−メチルブタン酸、2−メチルヘプタン酸、2−エチルヘキサン酸、2−プロピルペンタン酸、2,2−ジメチルへキサン酸、2−エチル−2−メチルヘプタン酸、2−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸等を用いることができる。その中でも特に、耐熱性に優れているため、3,5,5−トリメチルヘキサン酸を用いることが好ましい。
【0042】
(芳香族系エステル)
芳香族系エステルは、アルコール成分と芳香族カルボン酸がエステル結合により結合した化合物である。
【0043】
芳香族系エステルのアルコール成分としては、特に限定されないが、例えば炭素数4〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有する脂肪族一価アルコールが好ましい。具体的には、3,5,5−トリメチルヘキサノール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、n−ヘキサノール、イソヘキサノール、n−ヘプタノール、イソヘプタノール、n−オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ノナノール、イソノナノール、n−デカノール、イソデカノール、n−ウンデカノール、イソウンデカノール、n−ドデカノール、イソドデカノール、n−トリデカノール、イソトリデカノール、n−テトラデカノール、イソテトラデカノール、n−ペンタデカノール、イソペンタデカノール,n−デキサデカノール、イソヘキサデカノール、n−オクタデカノール、イソオクタデカノール等を用いることができる。また、これらのアルコール成分が、部分的にアルコールの酢酸エステル等の低級アルキルエステル化されているもの(部分エステル)を用いることもできる。一価アルコールの中でも特に、2−エチルヘキサノール及び3,5,5−トリメチルヘキサノールを用いることが好ましい。
【0044】
芳香族系エステルの酸成分としては、特に限定されず、例えばフタル酸、4−t−ブチルフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、4,4’−チオビス安息香酸等の芳香族カルボン酸、その無水物、その低級アルコール(メタノール、エタノール等の炭素数1〜4のアルコール)とのエステル等が例示される。これらの芳香族カルボン酸成分の中では、特に、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、及びピロメリット酸を用いることが好ましい。また、チェーン用潤滑油として非常に厳しい高温条件で使用される場合、高粘度で蒸発損失の少ないエステルを提供することができる観点から、トリメリット酸、トリメシン酸又はピロメリット酸を用いることが好ましい。
【0045】
芳香族エステルとしては、例えばフタル酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、イソフタル酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、イソフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、トリメシン酸トリ(2−エチルヘキシル)、ピロメリット酸テトラ(2−エチルヘキシル)を用いることができる。その中でも特にトリメリット酸トリ(3,5,5−トリメチルヘキシル)及びトリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)を用いることが好ましい。
【0046】
芳香族系エステルとポリオールエステルを組み合わせて用いる場合、ポリオールエステルの含有量としては、基油100質量%に対し、69〜85質量%であることが好ましい。また、芳香族系エステルの含有量としては、基油100質量%に対し、5〜20質量%であることが好ましい。ポリオールエステルの含有量が69質量%より少ないとスラッジ量が増加し、85質量%より多くなると芳香族系エステルを十分に組み合わせることができなくなる。また、芳香族系エステルの含有量が5質量%よりも少ない場合、望ましい初期耐蒸発性が得られなくなるおそれがある。また、芳香族系エステルの含有量が20質量%よりも多くなると、スラッジ量が多くなるおそれがある。
【0047】
[分散剤]
基油組成物は、分散剤を含有する。分散剤としては、無機充填剤粉末を基油組成物中に分散させることが可能なものであれば特に限定されるものではないが、例えば高分子系分散剤が挙げられる。このような高分子系分散剤としては、塩基性高分子系分散剤、酸性高分子系分散剤、中性高分子系分散剤等が挙げられる。また、高分子系分散剤を構成する高分子化合物の主骨格として、アクリル系、ポリリン酸エステル系、ポリエステル系(但し、ポリリン酸エステル系を除く。以下同じ。)、ポリエーテル系、ウレタン系、シリコーン系等の構造を有するものを使用することができる。具体的には、商品名で、Disperbyk(登録商標)−101、102、103、107、108、109、110、111、112、116、130、140、142、145、154、161、162、163、164、165、166、167、168、170、171、174、180、181、182、183、184、185、190(以上、ビックケミー社製);EFKA(登録商標)4008、4009、4010、4015、4020、4046、4047、4050、4055、4060、4080、4400、4401、4402、4403、4406、4408、4300、4330、4340、4015、4800、5010、5065、5066、5070、7500、7554(以上、チバスペシャリティー社製);SOLSPERSE(登録商標)−3000、9000、13000、16000、17000、18000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、32500、32550、33500、35100、35200、36000、36600、38500、41000、41090、20000(以上、ルーブリゾール社製);アジスパー(登録商標)PA−111、PB711、PB821、PB822、PB824(味の素ファインテクノ社製)等を用いることができる。
【0048】
分散剤の含有量としては、特に限定されないが、基油組成物100質量%に対し、0.001〜1質量%であることが好ましく、0.005〜0.8質量%であることがより好ましく、0.01〜0.5質量%であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が0.001質量部未満であると、良好な分散安定性を得ることが困難になる場合がある。一方、高分子分散剤の含有量が1質量%超であると、酸化安定性が低下し、分散剤の酸化重合によりワニス化の進行及びペーストとしての硬化の進行が促進されるおそれがある。また、添加に見合うだけ効果も得られず不経済でもある。
【0049】
[酸化防止剤]
基油組成物は、酸化防止剤を含有する。酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤を含有する。このように、アミン系酸化防止剤とリン系酸化防止材とを組み合わせて用いることにより、基油組成物の酸化を効果的に抑制するとともに、熱伝導性及びちょう度を低下させることなく高く維持しながらも、熱安定性を高めることができる。また、グリースは通常、高湿環境において劣化し得るものであるが、耐湿性を高め、高湿環境における劣化を抑制することもできる。
【0050】
(アミン系酸化防止剤)
アミン系酸化防止剤の含有量は、基油組成物100質量%に対し、0.5〜15質量%である。アミン系酸化防止剤の含有量が0.5質量%以上であることにより、熱伝導性及びちょう度を高く維持しながら、熱安定性を高めることができる。また、耐湿性を高め、高湿環境における劣化を抑制することもできる。
【0051】
また、アミン系酸化防止剤の含有量としては、基油組成物100質量%に対し、0.7〜12質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、4〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
また、無機粉末充填剤100質量%に対するアミン系酸化防止剤の含有量は、0.022〜5質量%であることが好ましく、0.025〜2質量%であることがより好ましく、0.03〜1質量%であることがさらに好ましく、0.05〜0.55質量%であることが特に好ましい。アミン系酸化防止剤の含有量が0.022質量%よりも少なくなると固化時間が短くなり、5質量%よりも多くなると、スラッジ量が多くなるおそれがある。
【0053】
アミン系酸化防止剤としては、特に限定されず、例えばアルキル化ジフェニルアミン類、アルキル化フェニルナフチルアミン類及びフェニレンジアミン類等の芳香族アミン系酸化防止剤を用いることができる。アルキル化ジフェニルアミン類としては、例えばジフェニルアミン、p,p’−ジブチルジフェニルアミン、p,p’−ジペンチルジフェニルアミン、p,p’−ジヘキシルジフェニルアミン、p,p’−ジヘプシルジフェニルアミン、p,p’−ジオクチルジフェニルアミン、p,p’−ジノニルジフェニルアミンの他、炭素数4〜9の混合アルキルジフェニルアミン等を用いることができる。アルキル化フェニルナフチルアミン類としては、N−フェニル−α−ナフチルアミン、N−ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、N−ノニルフェニル−α−ナフチルアミン等を用いることができる。また、フェニレンジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等を用いることができる。
【0054】
また、アミン系酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンとを組み合わせて用いることが好ましい。アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンとを組み合わせて用いることにより、基油組成物の耐蒸発性が著しく改善する等、相乗効果が得られる。この場合において、アルキル化ジフェニルアミンとしてp,p’−ジオクチルジフェニルアミンを、アルキル化フェニルナフチルアミンとしてN−オクチルフェニル−α−ナフチルアミンを用いることが好ましい。
【0055】
アミン系酸化防止剤として、アルキル化ジフェニルアミンとアルキル化フェニルナフチルアミンとを組み合わせて用いる場合、その質量比としては、アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミン=1:1〜5:1であることが好ましく、1:1〜4:1であることがより好ましい。アルキル化ジフェニルアミンよりもアルキル化フェニルナフチルアミンの重量比が大きくなるか(アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミン=1:1超)、又はアルキル化ジフェニルアミンの重量比がアルキル化フェニルナフチルアミンの5倍よりも大きくなると(アルキル化ジフェニルアミン:アルキル化フェニルナフチルアミン=5超:1)、基油組成物の耐蒸発性が低下するおそれがある。
【0056】
(リン系酸化防止剤)
リン系酸化防止剤の含有量は、基油組成物100質量%に対し、0.5〜5.5質量%である。リン系酸化防止剤の含有量が0.5〜5.5質量%であることにより、熱伝導性及びちょう度を高く維持しながら、熱安定性を高めることができる。また、耐湿性を高め、高湿環境における劣化を抑制することもできる。
【0057】
また、リン系酸化防止剤の含有量としては、基油組成物100質量%に対し、0.7〜5.2質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0058】
また、無機粉末充填剤100質量%に対するリン系酸化防止剤の含有量としては、0.02〜0.29質量%であることが好ましく、0.03〜0.26質量%であることがより好ましく、0.05〜0.25質量%であることがさらに好ましい。リン系酸化防止剤の含有量が0.02質量%よりも少なくなると固化時間が短くなり、0.29質量%よりも多くなると、スラッジ量が多くなり且つ引火点が低下するおそれがある。
【0059】
リン系酸化防止剤としては、ホスファイト系酸化防止剤を用いることが好ましく、アルキル化フェニルホスファイトを用いることがより好ましい。具体的に、アルキル化フェニルホスファイトとしては、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、アルカノール(炭素数12〜16)−4,4’−イソプロピリデンジフェノール・トリフェニルホスファイト重縮合物、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、[トリアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト等を用いることができる。これらの中でも、[ヘキサアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト、又は[トリアルキル(炭素数8〜18)トリス(アルキル(炭素数8〜9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−tert−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイトを用いることが好ましい。
【0060】
[ホウ素含有極圧剤]
ホウ素含有極圧剤は、ホウ素元素を含有してなる。ホウ素含有極圧剤の含有量は、基油組成物100質量%に対し、0.1〜5.5質量%である。酸化防止剤と併用し、且つホウ素含有極圧剤の含有量を0.1〜5.5質量%とすることにより、熱伝導性及びちょう度を高く維持しながら、熱安定性を高めることができる。また、耐湿性を高め、高湿環境における劣化を抑制することもできる。
【0061】
また、ホウ素含有極圧剤は、酸化重合により発生する油重合物のエステル油への分散・可溶化を促進する。油重合物は、酸化防止剤により発生をある程度抑制することができるが、酸化防止剤のみでは完全に抑制できない場合もある。一方で、油重合物が油中で分散・可溶化していないと、スラッジ同士が凝集、増粘し、短時間で流動性が失われるおそれがある。ホウ素含有極圧剤を、基油組成物100質量%に対し、0.1〜5.5質量%添加することで油重合物を分散・可溶化させ、熱伝導性グリースの流動性の維持時間を延長させることができる。
【0062】
ホウ素含有極圧剤の含有量としては、基油組成物100質量%に対し、0.2〜5.2質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。
【0063】
また、無機粉末充填剤100質量%に対するホウ素含有極圧剤の含有量としては、0.02〜0.30質量%であることが好ましく、0.03〜0.29質量%であることがより好ましく、0.05〜0.26質量%であることがさらに好ましい。リン系酸化防止剤の含有量が0.02質量%よりも少なくなると固化時間が短くなり、0.30質量%よりも多くなると、スラッジ量が多くなり且つ引火点が低下するおそれがある。
【0064】
ホウ素含有極圧剤としては、ホウ素含有アミン、4ホウ酸カリウム、アルカリ金属のホウ酸塩、アルカリ土類金属のホウ酸塩、遷移金属の安定ホウ酸塩、ホウ酸からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0065】
[その他の添加剤]
その他の添加剤としては、さび止め剤、腐食防止剤、増粘剤・増ちょう剤等を用いることができる。さび止め剤としては例えばスルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩等の化合物を用いることができる。腐食防止剤としては例えばベンゾトリアゾール及びその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物を用いることができる。増粘剤・増ちょう剤としては例えばポリブテン、ポリメタクリレート、脂肪酸塩、ウレア化合物、石油ワックス、ポリエチレンワックス、有機処理ベントナイト、シリカ等を用いることができる。これらの添加剤の配合量は、本発明の効果が得られる範囲内において適宜調整することができる。
【0066】
[グリースの性状]
熱伝導性グリースのちょう度としては特に限定されないが、通常の環境における使用の観点から、200以上であることが好ましく、塗布性、拡がり性、付着性、離油防止性等の観点から250〜400であることがより好ましく、300〜400であることがさらに好ましく、330〜400であることが特に好ましい。
【0067】
≪2.熱伝導性グリースの製造方法>
本実施の形態に係る熱伝導性グリースは、各成分を混合することにより製造する。製造方法としては、均一に成分を混合できれば特に限定されず、一般的なグリースの製造方法を採用することができる。
【0068】
具体的に、製造方法としては、プラネタリーミキサー、自転公転ミキサーなどにより混練りを行い、グリース状にした後、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法を用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0070】
≪実施例1〜9、比較例1〜6≫
[試薬]
実施例及び比較例に用いた各成分について以下に示す。
【0071】
(無機粉末充填剤)
酸化亜鉛:平均粒径 0.6μm
酸化亜鉛:平均粒径 11μm
(基油)
ジペンタエリスリトールとイソノナン酸(3,5,5−トリメチルヘキサン酸)のエステル
(分散剤)
高級脂肪酸エステル
(芳香族アミン系酸化防止剤)
オクチルジフェニルアミン
(芳香族アミン系酸化防止剤)
N−オクチルフェニル−α−ナフチルアミン
(ホスファイト系酸化防止剤)
ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン−トリホスファイト
(ホウ素含有極圧剤)
ホウ酸カリウム
(増ちょう剤)
有機処理ベントナイト
(消泡剤)
シリコーンオイル
【0072】
[熱伝導性グリースの調製]
以上に示した基油、芳香族アミン系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、ホウ素含有極圧剤、腐食防止剤、増ちょう剤、分散剤及び消泡剤の各成分を下記表1に示す割合となるようにそれぞれ混合した。具体的に、芳香族アミン系酸化防止剤は、アルキル化ジフェニルアミン及びアルキル化フェニルナフチルアミンともに粉体であるので、基油に予め90〜100℃で加熱溶解させてから、それ以外の成分を加えて混合し、撹拌機(HEIDON社製)により回転速度600rpmで20分間撹拌して基油組成物を得た。
【0073】
次いで、以上のようにして基油組成物に、無機粉末充填材を、下記表1の組成となるように混合したものを自公転ミキサーで混錬し、熱伝導性グリースを調製した。
【0074】
[熱伝導性グリースの評価]
得られた熱伝導性グリースを用いて、グリースのちょう度、熱伝導率、熱安定性及び耐湿性を評価した。
【0075】
(ちょう度の評価)
ちょう度は、JIS−K2220に準拠して不混和ちょう度を測定した。結果を下記表1に示す。なお、ちょう度の値が大きいほど熱伝導性グリースが軟らかくなり、逆に小さいほど硬くなる。具体的に、ちょう度としては、塗布性、拡がり性、付着性などの点から250〜300であることが好ましい。
【0076】
(熱伝導率の評価)
熱伝導率は、京都電子工業(株)製迅速熱伝導率計QTM−500により室温にて測定した。結果を下記表1に示す。なお、熱伝導率が高いほど熱伝導性グリースとして好ましい。具体的には、4.0W/mK以上であることが好ましく、4.5W/mK以上であることがより好ましい。
【0077】
(熱安定性の評価)
熱安定性の評価は、以下の手順にて行った。先ず、熱伝導性グリースをフィルムアプリケーターで200μmに塗布した熱伝導性グリースを150℃で500時間加熱した後、ちょう度測定に必要な量を回収し、上記と同様にしてちょう度を測定し、加熱後のちょう度とした。加熱後のちょう度と加熱前のちょう度の差を下記表1に示す。
【0078】
(耐湿性の評価)
耐湿性の評価は、フィルムアプリケーターを用いて200μmに薄膜化した熱伝導性グリースを温度60度、相対湿度90%の環境下に72時間放置した後、上記と同様にして不混和ちょう度を測定し、加湿後のちょう度とした。加湿後の不混和ちょう度と加熱前の不混和ちょう度の差を下記表1に示す。
【0079】
なお、以上の熱安定性及び耐湿性の評価の結果は、ちょう度及び不混和ちょう度の差で表されているものであり、ちょう度及び不飽和ちょう度の変化率の負の数値は、ちょう度及び不混和ちょう度が低下し、硬くなったことを表わしている。一方で、ちょう度及び不混和の変化率の正の数値は、ちょう度及び不混和ちょう度が上昇し、軟らかくなったことを表わしている。なお、熱安定性の評価によるちょう度変化率は、±50以内であることが好ましく、±40以内であることがより好ましい。また、耐湿性の評価によるちょう度変化率は、±15以内であることが好ましく、±10以内であることがより好ましい。
【0080】
[評価結果]
【表1】
【0081】
実施例10〜18のグリース試料は、4.5W/m・K以上の高い熱伝導率を有し、且つちょう度も250〜300となっており、塗布性や付着性に優れることがわかる。また、熱安定性評価及び耐湿性評価においても、ちょう度及び不混和ちょう度の変化が少なく良好な熱安定性及び耐湿性を兼ね備えていることがわかる。
【0082】
一方で比較例7〜12のグリース試料は、実施例10〜18のグリース試料と概ね同程度の熱伝導率とちょう度を有しているが、熱安定性評価及び耐湿性評価において、ちょう度及び不混和ちょう度の変化が大きく、熱安定性及び耐湿性が実施例10〜18のグリース試料と比較して劣っていることがわかる。