特許第6848864号(P6848864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許6848864光学用ポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法、ならびにその光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848864
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】光学用ポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法、ならびにその光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
   G02B5/30
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-528603(P2017-528603)
(86)(22)【出願日】2017年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2017019449
(87)【国際公開番号】WO2017204270
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-106071(P2016-106071)
(32)【優先日】2016年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】枝澤 敏行
(72)【発明者】
【氏名】方山 智広
(72)【発明者】
【氏名】早川 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 宏志
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−188661(JP,A)
【文献】 特開2009−13368(JP,A)
【文献】 特開2002−59474(JP,A)
【文献】 特開2004−20631(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/012902(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/26
B29C 41/36
B29K 29/00
B29L 7/00
C08J 5/18
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅2m以上かつ長さ4km以上のポリビニルアルコール系フィルムであって、幅A(m)×長さB(km)で囲まれる面積(ただし、A≧2m、かつB≧4km)あたりに含まれる直径50μm以上の気泡数が0.01個/m2以下であり、ヘイズが0.2%以下であることを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
幅が4m以上であることを特徴とする請求項1記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
厚さが45μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、ポリビニルアルコール系樹脂と界面活性剤を水に溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する調液工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を脱泡処理および濾過処理する脱泡濾過工程と、上記脱泡および濾過されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液をT型スリットダイからキャスト型に吐出および流延して製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程とを備え、上記調液工程において、上記界面活性剤の配合量を上記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.15重量部以下とし、上記界面活性剤として少なくともノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を用い、上記アニオン性界面活性剤を最後に添加しないようにしたことを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項5】
上記脱泡処理が、ベントを有する2軸押出機を用いて行なわれ、100〜130℃の発泡工程と90〜100℃蒸気排出工程からなることを特徴とする請求項記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項6】
上記製膜工程において、T型スリットダイから吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度T1(℃)と、キャスト型表面の温度T2(℃)との温度差ΔT(℃)が、絶対値で4℃以下であることを特徴とする請求項または記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項のいずれか一項に記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法により製造されることを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載の光学用ポリビニルアルコール系フィルムが用いられていることを特徴とする偏光膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリビニルアルコール系フィルム、特に、気泡欠点が少なく、透明性に優れた光学用ポリビニルアルコール系フィルムであり、表示欠点がなく高品位な偏光膜や偏光板を製造するための光学用ポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法、ならびにその光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂と界面活性剤等の添加剤を水に溶解して水溶液(製膜原液)を調製した後、かかる水溶液を溶液流延法(キャスト法)により製膜して、得られたフィルムを乾燥することにより製造される。このようにして得られるポリビニルアルコール系フィルムは、透明性や染色性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光膜があげられる。かかる偏光膜は、液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
このような中、液晶テレビなどの画面の大型化、高精細化、薄型化にともない、従来品より一段と幅広長尺薄型で、かつ表示欠点の無い偏光膜が必要とされている。一般的に、偏光膜は、原反であるポリビニルアルコール系フィルムを、水(温水を含む)で膨潤させた後、ヨウ素による染色、ヨウ素を配向させるための延伸、配向状態を固定するためのホウ酸架橋等の工程を経て製造される。表示欠点の無い偏光膜を製造するには、原反となるポリビニルアルコール系フィルムにも欠点が無いことが必要であり、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムに気泡が多い場合は、偏光膜の表示欠点が増加し、最終的にはディスプレイの品質が低下する。更に、ポリビニルアルコール系フィルム中の気泡は、偏光膜製造時に色ムラやフィルムの破断を引き起こす原因でもあり、特に破断しやすい薄型偏光膜の製造においては、ポリビニルアルコール系フィルムの気泡を極力低減する必要があった。
【0004】
上記気泡対策として、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を多軸押出機で脱泡するポリビニルアルコール系フィルムの製造方法(たとえば、特許文献1参照)、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出温度とキャスト型表面の温度差ΔTを特定範囲とするポリビニルアルコール系フィルムの製造方法(たとえば、特許文献2参照)、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を濾過する時に使用されるフィルターの交換方法(たとえば、特許文献3参照)、フィルムの表面に存在する20μm以上の大きさの異物が1m2当たり10個以下のポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光フィルムの製造方法(たとえば、特許文献4参照)、未溶解物の無いポリビニルアルコール系樹脂水溶液の製造方法(たとえば、特許文献5参照)、直径0.5〜0.9μmの気泡をフィルム面積1cm2当たり1.0×104個以上含むポリビニルアルコール系フィルム(たとえば、特許文献6参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−59474号公報
【特許文献2】特開2002−59475号公報
【特許文献3】特開2002−144419号公報
【特許文献4】特開2004−20631号公報
【特許文献5】特開2002−60495号公報
【特許文献6】特開2011−111526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献の手法をもってしても、偏光膜の表示欠点を低減することは困難であった。
【0007】
上記特許文献1の開示技術では、ベント部での樹脂温度を105〜180℃とするものであるが、かかる方法のみでは気泡の除去は困難であり、更なる改善の余地がある。特に、厚さ60μm以下の薄型のポリビニルアルコール系フィルムの製造に関しては更なる改善が望まれている。
【0008】
上記特許文献2の開示技術では、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出温度とキャスト型表面の温度差ΔTを5〜10℃(実施例)とするものであるが、かかる温度差でも微小な気泡は発生する場合があることから、更なる改善の余地がある。特に、厚さ60μm以下の薄型のポリビニルアルコール系フィルムの製造に関しては更なる改善が望まれている。
【0009】
上記特許文献3の開示技術では、フィルターを通り抜ける気泡の除去は困難であり、更に、濾過後の工程で発生する気泡は避けることができず、更なる改良が必要であった。
【0010】
上記特許文献4の開示技術では、濾過により異物を低減したポリビニルアルコール系フィルムを用いているが、濾過のみでは気泡の除去は困難であり、更に、気泡はフィルムの表面だけでは無く、フィルム内部にも存在するため、偏光膜の表示欠点を低減できなかった。
【0011】
上記特許文献5の開示技術では、加圧溶解により未溶解物を低減できるものの、適切な脱泡をしなければ、微細な気泡の除去は困難であり更なる改善の余地がある。
【0012】
上記特許文献6の開示技術では、波長オーダーの微小な気泡に関するものであり、必ずしもポリビニルアルコール系フィルムの気泡欠点を改善するものではなかった。また、微小な気泡により光散乱が起こり、フィルムのヘイズが増大する問題があった。
【0013】
そこで、本発明ではこのような背景下において、気泡欠点が少なく、透明性に優れた光学用ポリビニルアルコール系フィルムであり、表示欠点が少なく高品質な偏光膜や偏光板を製造することが可能な光学用ポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法、ならびにその光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜を提供する。
【0014】
なお、本発明において問題とする気泡のサイズとしては、目視で確認できるものはもちろんのことながら、光散乱の原因となるサブミクロンサイズの気泡をも含むものであり、また、気泡の形状としては、球形のみならず楕円形をも含むものである。
【0015】
かかる光学用ポリビニルアルコール系フィルム中の気泡は、必ずしも全数がそのまま偏光膜の表示欠点となるものではなく、例えば、上記膨潤工程や、その後の偏光膜製造工程で消滅するものも存在する。しかしながら、確率論的に光学用ポリビニルアルコール系フィルム中の気泡の数が増加すると偏光膜の表示欠点も増加するため、光学用ポリビニルアルコール系フィルム中の単位面積当たりの気泡数を低減する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、光学用ポリビニルアルコール系フィルムに含まれる気泡数を、微小なサイズのものまでを広範囲にわたり少なくすることにより、上記課題を解決し、高品質な偏光膜が製造できることを見出した。
【0017】
すなわち、本発明の第1の要旨は、幅2m以上かつ長さ4km以上のポリビニルアルコール系フィルムであって、幅A(m)×長さB(km)で囲まれる面積(ただし、A≧2m、かつB≧4km)あたりに含まれる直径50μm以上の気泡数が0.01個/m2以下であり、ヘイズが0.2%以下であることを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルムである。
【0018】
また、本発明の第2の要旨は、上記第1の要旨の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法であって、ポリビニルアルコール系樹脂と界面活性剤を水に溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する調液工程と、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を脱泡処理および濾過処理する前処理工程と、上記脱泡および濾過されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液をT型スリットダイからキャスト型に吐出および流延して製膜する製膜工程と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程とを備え、上記調液工程において、上記界面活性剤の配合量を上記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.15重量部以下とし、上記界面活性剤として少なくともノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を用い、上記アニオン性界面活性剤を最後に添加しないようにしたことを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法である。
【0019】
そして、本発明の第3の要旨は、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムが用いられていることを特徴とする偏光膜である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、単位面積あたりに含まれる直径50μm以上の気泡数が0.01個/m2以下であることから、気泡欠点が少なく、低ヘイズとなり、表示欠点の少ない高品質な偏光膜を得ることができる。したがって、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜は、偏光性能に優れたものとなる。
【0021】
そして、光学用ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが0.2%以下であるため、上記フィルムを用いて得られる偏光膜の光線透過率の低下を抑制することができる。
【0022】
また、幅が4m以上であると、偏光膜の大面積化に対応可能となる。
【0023】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂と界面活性剤を水に溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液した後、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を脱泡処理および濾過処理して前処理し、上記前処理済みポリビニルアルコール系樹脂水溶液をT型スリットダイからキャスト型に吐出および流延して製膜するが、上記調液工程において、上記界面活性剤の配合量を上記ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.15重量部以下とし、上記界面活性剤として少なくともノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を用い、上記アニオン性界面活性剤を最後に添加しないようにしている。そして、この製膜したフィルムを乾燥させることにより光学用ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。このため、気泡欠点が少なく、低ヘイズな上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムを効率良く製造することができる。
【0024】
上記脱泡処理が、ベントを有する2軸押出機を用いて行なわれ、100〜130℃の発泡工程と90〜100℃の蒸気排出工程からなると、ガスの排出が良好となり、より一層気泡の少ないものが得られるようになる。
【0025】
上記製膜工程において、T型スリットダイから吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度T1(℃)と、キャスト型表面の温度T2(℃)との温度差ΔT(℃)が、絶対値で4℃以下であると、より一層気泡の少ないものが得られるようになる。
【0026】
光学用ポリビニルアルコール系フィルムの厚さが45μm以下であると、上記フィルムを用いて得られる偏光膜の薄型化に対応可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、幅2m以上かつ長さ4km以上であって、幅A(m)×長さB(km)で囲まれる面積(ただし、A≧2m、かつB≧4km)あたりに含まれる直径50μm以上の気泡数が0.01個/m2以下であることを特徴とする光学用ポリビニルアルコール系フィルムである。
【0028】
上記気泡数は、ポリビニルアルコール系フィルム内の幅A(m)×長さB(km)で囲まれる面積(ただし、A≧2m、かつB≧4km)について検査(測定)した際の1m2あたりの直径50μm以上の気泡数であり、好ましくはポリビニルアルコール系フィルムの全長全幅にわたって測定した際の1m2あたりの直径50μm以上の気泡数である。
例えば、幅4m×長さ4km(面積16,000m2)のフィルムを検査した時に、直径50μm以上の気泡が16個検出された場合、その気泡の数は0.001個/m2となる。また、気泡の形状が楕円形の場合は、(長径+短径)/2を直径とした。
【0029】
直径50μm以上の気泡数は、0.01個/m2以下であることが必要であり、好ましくは0.001個/m2以下、特に好ましくは0.0001個/m2以下、更に好ましくは0.00001個/m2以下である。気泡の数が、0.01個/m2を超えると、偏光膜の表示欠点が増加し、本発明の目的を達成することができない。
【0030】
上記気泡数の検査(測定)は、つぎのようにして行なわれる。まず、測定対象となるポリビニルアルコール系フィルムをロールから巻き出しながら、所定の面積にわたって直径50μm以上の異物(明欠陥)を自動異物検査装置にて検出する。つぎに、検出された異物の拡大写真から直径50μm以上の気泡を抽出して、気泡の総数を算出する。かかる総数を所定の面積で除することにより、気泡数(個/m2)とする。なお、気泡の形状が楕円形の場合は、(長径+短径)/2を直径とする。また、上記「明欠陥」とは、上記自動異物検査装置で欠点部をカメラで検出した際に、地合いの部分(フィルムの正常部)に対して明るい輝点として検出される欠点のことである。
上記自動異物検査装置の設定条件は下記の通りである。
照明:透過型、角度90°(フィルムに垂直)、距離300mm、光源ハロゲンランプ150W
検出:CCDカメラ20台、位置483mm、5000画素/台、分解能48μm/pixel、50mmレンズ(F2.8)
【0031】
そして、上記幅2m以上かつ長さ4km以上の長尺の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、その長さ方向(流れ方向:MD方向)に搬送されながら、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て、偏光膜に形成される。ここで、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムが、幅A(m)×長さB(km)で囲まれる面積(ただし、A≧2m、かつB≧4km)あたりに含まれる直径50μm以上の気泡数が0.01個/m2以下であるため、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、透明性に優れ、表示欠点が少なく高品質な偏光膜や偏光板を製造することが可能となる。
【0032】
かかる気泡数を低減する手法としては、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液に添加される界面活性剤の種類や量、調液方法、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の保管方法、脱泡条件、濾過条件、製膜条件、を最適化する方法等があげられる。これらの中でも、後述する通り、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造工程において、上記水溶液の脱泡条件とフィルムの製膜条件を最適化する方法が特に有効である。
【0033】
ここで、本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法について説明する。
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂と添加剤を水に溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する調液工程(α)と、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を脱泡処理および濾過処理する前処理工程(β)と、上記前処理済みポリビニルアルコール系樹脂水溶液をT型スリットダイからキャスト型に吐出および流延して製膜する製膜工程(γ)と、その製膜したフィルムを乾燥させる乾燥工程(δ)とを備えることを特徴とする。
【0034】
〔調液工程(α)〕
まず、上記調液工程(α)について詳しく説明する。
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、未変性のポリビニルアルコール系樹脂、すなわち、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される樹脂が用いられる。必要に応じて、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)、炭素数2〜30のオレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテン等)、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸塩等があげられる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0035】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0036】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、10万〜30万であることが好ましく、特に好ましくは11万〜28万、更に好ましくは12万〜26万である。かかる重量平均分子量が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向があり、大きすぎると偏光膜製造時の延伸が困難となる傾向がある。なお、上記ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0037】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎると偏光膜の偏光度が低下する傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0038】
本発明に用いるポリビニルアルコール系樹脂として、変性種、変性量、重量平均分子量、平均ケン化度等の異なる2種以上のものを併用してもよい。
【0039】
そして、上記ポリビニルアルコール系樹脂を用いて、製膜原液となる水溶液を調製する。すなわち、上記ポリビニルアルコール系樹脂を、水を用いて洗浄し、遠心分離機等を用いて脱水して、含水率50重量%以下のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキとすることが好ましい。含水率が大きすぎると、所望する水溶液濃度にすることが難しくなる傾向がある。
【0040】
つぎに、得られたポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを、水、グリセリン等の可塑剤や界面活性剤等の添加剤と共に溶解槽に仕込まれ、加温および撹拌し溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。
【0041】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、上述のように、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の一般的に使用される可塑剤や、ノニオン性、アニオン性、およびカチオン性の少なくとも一つの界面活性剤を含有させることが、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製膜性の点で好ましい。上記可塑剤のポリビニルアルコール系樹脂水溶液における含有量は、水溶液全体の1〜20重量%であることが好ましい。
【0042】
本発明において、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡を低減するためには、かかる調液工程(α)において配合される界面活性剤について、
(i)界面活性剤の種類、
(ii)界面活性剤の配合量、
(iii)界面活性剤の配合手順、
(iv)界面活性剤の溶解方法、
(v)界面活性剤を溶解させたポリビニルアルコール系樹脂水溶液の保管方法、
の5つを最適化することが有用である。
これら界面活性剤に関する最適化の内、界面活性剤の(i)種類、(ii)配合量、(iv)溶解方法に関しては、これまでにいくつかの提案がなされているが、界面活性剤の(iii)配合手順と(v)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の保管方法の最適化に関しては、有効な提案がなされていないのが現状であり、特に(iii)配合手順に関しては、最適化されているとは言い難いものであった。
【0043】
一般的に、界面活性剤は、ポリビニルアルコール系樹脂の水への均一な溶解を促進するために配合されるが、本発明者らは、かかる界面活性剤の一部が加熱により分解し、生成した低沸点の有機系分解物が発泡することにより、フィルムの気泡が増加するとの知見を得た。また、界面活性剤は一旦水溶液に溶解しても、その後の冷却や脱水等の過程で液滴として分離することがあり、かかる場合にもフィルムの気泡が増加するとの知見を得た。そして、上記(i)〜(v)を適切に設計すれば、かかる気泡や液滴を低減できることを見出した。
【0044】
なお、一般的に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調液する時には、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤が使用される。
【0045】
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、やし油還元アルコールエチレンオキサイド付加物、牛脂還元アルコールエチレンオキサイド付加物等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、カプロン酸モノまたはジエタノールアミド、カプリル酸モノまたはジエタノールアミド、カプリン酸モノまたはジエタノールアミド、ラウリン酸モノまたはジエタノールアミド、パルミチン酸モノまたはジエタノールアミド、ステアリン酸モノまたはジエタノールアミド、オレイン酸モノまたはジエタノールアミド、やし油脂肪酸モノまたはジエタノールアミド、あるいはこれらのエタノールアミドに代えてプロパノールアミド、ブタノールアミド等の高級脂肪酸アルカノールアミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリオキシエチレンヘキシルアミン、ポリオキシエチレンヘプチルアミン、ポリオキシエチレンオクチルアミン、ポリオキシエチレンノニルアミン、ポリオキシエチレンデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンテトラデシルアミン、ポリオキシエチレンヘキサデシルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミン、ポリオキシエチレンオレイルアミン、ポリオキシエチレンエイコシルアミン等のポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンカプロン酸アミド、ポリオキシエチレンカプリル酸アミド、ポリオキシエチレンカプリン酸アミド、ポリオキシエチレンラウリン酸アミド、ポリオキシエチレンパルミチン酸アミド、ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、ポリオキシエチレンオレイン酸アミド等のポリオキシエチレン高級脂肪酸アミド、ジメチルラウリルアミンオキシド、ジメチルステアリルオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド等のアミンオキシド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0046】
上記アニオン性の界面活性剤としては、例えば、硫酸エステル塩型として、ヘキシル硫酸ナトリウム、ヘプチル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、ノニル硫酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデシル硫酸ナトリウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、エイコシル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等のアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンヘキシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘプチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンエイコシルエーテル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、アンモニウム塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンヘキシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘプチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンテトラデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンヘキサデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンオクタデシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンエイコシルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、あるいはこれらのカリウム塩、アンモニウム塩等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、カプロン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、カプリル酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、カプリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、ラウリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、パルミチン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、ステアリン酸エタノールアミド硫酸ナトリウム、オレイン酸エタノールアミド硫酸ナトリウムあるいはこれらのカリウム塩、更にはこれらエタノールアミドに代えてプロパノールアミド、ブタノールアミド等の高級脂肪酸アルカノールアミド硫酸エステル塩、硫酸化油、高級アルコールエトキシサルフェート、モノグリサルフェート等があげられる。また、上記硫酸エステル塩型以外に、脂肪酸石鹸、N−アシルアミノ酸およびその塩、ポリオキシエチレンアルキルエステルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等のカルボン酸塩型、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸の塩ホルマリン重縮合物、メラミンスルホン酸の塩ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、スルホコハク酸アルキル二塩、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二塩、アルキルスルホ酢酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン塩、ジメチル−5−スルホイソフタレートナトリウム塩等のスルホン酸塩型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩等のリン酸エステル塩型等もあげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0047】
上記(i)の界面活性剤の種類に関して、本発明においては、ノニオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤を併用することが好ましい。ノニオン性界面活性剤を単独で用いる場合、およびアニオン性界面活性剤を単独で用いる場合のいずれの場合においても、ポリビニルアルコール系樹脂の水への溶解が困難となり、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加し、かつヘイズが増大する傾向がある。
【0048】
上記(ii)の界面活性剤の配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して0.15重量部以下であることが好ましく、特に好ましくは0.1重量部以下、更に好ましくは0.07重量部以下である。また、好ましい下限は0.01重量部である。
かかる界面活性剤の配合量が、多すぎると、溶解工程において界面活性剤が充分に溶解しにくい傾向があり、溶解したとしても製膜時に析出しやすいため、ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加し、かつヘイズが増大してしまう傾向がある。
【0049】
上記(iii)の界面活性剤の配合手順に関して、複数種の界面活性剤を使用する際のその配合順序は、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の順で溶解槽に配合されることが好ましく、特に好ましくは、ノニオン性界面活性剤の配合を二段階に分けて、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤の順で配合されることである。
アニオン性界面活性剤が、最後に添加されると、溶解工程において界面活性剤が充分に溶解しない傾向があり、溶解したとしても製膜時に析出しやすいため、ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加し、かつヘイズが増大する傾向がある。
【0050】
上記(iv)の界面活性剤の溶解方法に関して、かかる溶解工程は、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで行なうことが、溶解性に優れる点で好ましい。具体的には、溶解槽中で水蒸気を吹き込み、槽内温度が40〜80℃となった時点で撹拌を開始し、さらに、水蒸気を吹き込み、槽内温度が90〜100℃で溶解を行なう方法が好ましい。
【0051】
特に好ましくは、槽内温度が90〜100℃となった時点で、さらに、水蒸気を吹き込んで槽内を0.1〜1MPaに加圧し、槽内温度が130〜150℃で加圧溶解する方法である。
かかる加圧溶解は、130〜150℃で1〜10時間行なわれることが好ましい。かかる加圧溶解温度が低すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の充分な溶解が得られず、光学用ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが増大する傾向があり、高すぎても、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の分解物が生じ、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向がある。また、かかる加圧溶解時間が短すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の充分な溶解が得られず、光学用ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが増大する傾向があり、長すぎても、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の分解物が生じ、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向にある。
【0052】
上記界面活性剤の溶解後、必要であれば、水蒸気の排気や水の添加で、所望する濃度となるようにポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度調整を行なってもよい。かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の樹脂濃度は、好ましくは15〜60重量%、特に好ましくは18〜55重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。樹脂濃度が低すぎると、フィルムの乾燥負荷が大きくなり、高すぎると、粘度が高くなりすぎて均一な溶解が困難となる傾向がある。
【0053】
上記(v)の界面活性剤を溶解させたポリビニルアルコール系樹脂水溶液の保管方法に関して、一般的に、界面活性剤を溶解させた後のポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、製膜工程(γ)に供される前に、一旦保管槽に保管されるものであるが、かかる保管を加熱状態で行なうことが好ましい。
【0054】
保管温度は、好ましくは100〜150℃であり、特に好ましくは110〜145℃、更に好ましくは120〜140℃である。かかる保管温度が低すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤が析出しやすく光学用ポリビニルアルコール系フィルムのヘイズが増大する傾向があり、高すぎても、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の分解物が生じ、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向がある。
また、保管時間は、30時間以内であることが好ましく、特に好ましくは25時間以内、更に好ましくは1〜20時間である。かかる保管時間が、短すぎると、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向があり、長すぎても、ポリビニルアルコール系樹脂や界面活性剤の分解物が生じ、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向がある。
【0055】
かくして本発明で使用されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液が得られる。
〔前処理工程(β)〕
つぎに、前記前処理工程(β)について説明する。前処理工程(β)は、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液を脱泡処理および濾過処理する工程である。本発明の製造方法における最大の特徴は、かかる前処理工程(β)にあり、具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の(vi)脱泡方法と(vii)濾過方法の2つの方法に特徴がある。これらに関しては、有効な提案がなされていないのが現状であり、特に(vi)脱泡方法に関しては、最適化されているとは言い難い。
【0056】
上記(vi)脱泡方法に関して、脱泡は、生産性の点から、ベントを有する2軸押出機を用いて行なわれることが好ましく、特に好ましくは、脱泡効率の点から、ベントを有する2軸押出機を用いて、100〜130℃の発泡工程と90〜100℃の蒸気排出工程より行なわれることである。気泡排出用の上記ベントは、当然のことながら、蒸気排出工程中に設けられる。
【0057】
かかる発泡工程の温度は、100〜130℃であることが好ましく、特に好ましくは100〜120℃、更に好ましくは100〜115℃である。かかる発泡工程の温度が低すぎると、ベントからのガス排出が困難となる傾向があり、逆に、高すぎても光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向がある。
【0058】
また、蒸気排出工程の温度は、90〜100℃であることが好ましく、特に好ましくは92〜98℃である。かかる上記排出工程の温度が低すぎても高すぎても、気泡が増加する傾向がある。
【0059】
上記(vii)濾過方法に関して、濾過は、通常のディスクフィルターを用いることができるが、本発明においては、濾過効率の点で、目開きの異なる複数のディスクフィルターを用いて、2段階以上の濾過処理が行なわれることが好ましい。特に好ましくは、更なる濾過効率の点で、目開きの異なる3種類のディスクフィルターを用いて、粗目/中目/仕上げの3段階の濾過処理である。この際に、粗目のディスクフィルターとしては、目開き10〜100μmのものが好ましく、中目のディスクフィルターとしては、目開き1〜50μmのものが好ましく、仕上げのディスクフィルターとしては、目開き0.1〜10μmのものが好ましい。
【0060】
かくして前処理工程(β)を経由して、前処理済みポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、速やかに製膜に供される。
【0061】
〔製膜工程(γ)〕
つぎに、前記製膜工程(γ)について説明する。製膜工程(γ)は、前処理された水溶液を、キャスト型に吐出および流延して製膜する工程であるが、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの気泡を低減させるためには、かかる製膜工程(γ)において(viii)ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を特定の温度条件でキャスト型に流延して製膜することが有用である。
【0062】
まず、濾過されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、キャストドラム(ドラム型ロール)、エンドレスベルト等のキャスト型、好ましくは、幅広長尺薄型化等の点からキャストドラムに吐出される。
以下、キャスト型としてキャストドラムを使用する場合を例にとって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
本発明において使用されるキャストドラムの表面粗さRaは、5〜20nmであることが好ましく、特に好ましくは6〜17nm、更に好ましくは7〜15nmである。表面粗さRaが小さすぎると、キャストドラム表面と膜との密着性が低下し、ポリビニルアルコール系フィルムに窪みが発生する傾向があり、大きすぎると、キャストドラム表面の粗い部分で水溶液が発泡しやすく、ポリビニルアルコール系フィルムの気泡が増加する傾向がある。
上記キャストドラムの表面粗さRaは、つぎのようにして測定される。すなわち、キーエンス社製レーザーフォーカス顕微鏡VK−9700(測定長0.1mm、対物レンズ50倍)を用いて、キャストドラムの任意の3か所の表面粗さRaを測定し、その平均値を表面粗さとする。
【0064】
キャストドラムの直径は、好ましくは2〜5m、特に好ましくは3〜4mである。キャストドラムの直径が小さすぎると、乾燥長さが不足して生産性が低下する傾向があり、大きすぎると設備負荷が増大する傾向がある。
【0065】
キャストドラムの幅は、好ましくは2〜7mであり、特に好ましくは3〜6mである。キャストドラムの幅が狭すぎると生産性が低下する傾向があり、7mをこえると設備負荷が増大する傾向がある。
【0066】
キャストドラムの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、特に好ましくは6〜20m/分である。回転速度が遅すぎると生産性が低下する傾向があり、速すぎると乾燥が不足する傾向がある。
【0067】
T型スリットダイから吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度T1(℃)は、70〜100℃であることが好ましく、特に好ましくは80〜90℃である。温度が低すぎると流動不良となる傾向があり、高すぎても発泡が起こりやすい傾向がある。
【0068】
キャストドラム表面の温度T2(℃)は、50〜99℃であることが好ましく、特に好ましくは60〜98℃、更に好ましくは70〜97℃である。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると水溶液が発泡して、フィルム中の気泡が増加する傾向がある。
【0069】
本発明においては、T型スリットダイから吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度T1(℃)と、キャストドラム表面の温度T2(℃)の温度差ΔT(=|T1−T2|)(℃)が、4℃以下であることが好ましく、特に好ましくは3℃以下、更に好ましくは2℃以下である。絶対値である温度差ΔT(℃)が、大きすぎると、フィルム中の気泡が増加する傾向がある。なお、かかる気泡は、水蒸気のみならず、水溶液中の溶存ガスから発生したものと推測される。溶存ガスとしては、酸素や窒素以外に、界面活性剤の分解物である有機ガスも含まれる。
【0070】
なお、キャストドラム表面の温度ムラは、フィルムの厚み精度の点で、5℃以内であることが好ましく、特に好ましくは3℃以内、更に好ましくは2℃以内である。
【0071】
〔乾燥工程(δ)〕
かくして本発明の製造方法における製膜工程(γ)が行なわれ、製膜されたフィルムはキャストドラムから剥離され、乾燥に供される。
前記乾燥工程(δ)について詳しく説明する。この乾燥工程(δ)は、上記製膜されたフィルムを加熱して乾燥する工程である。
上記加熱による乾燥方法は、製膜されたフィルムの表面と裏面とを複数の金属製加熱ロール(以下、「熱ロール」と呼ぶ。)に交互に接触させることにより行なう方法が好ましい。熱ロールの表面温度は、通常40〜150℃、好ましくは50〜140℃である。かかる表面温度が低すぎると乾燥不良となる傾向があり、高すぎると乾燥しすぎることとなり、うねり等の外観不良を招く傾向がある。
【0072】
〔熱処理工程〕
さらに、上記熱ロール等による乾燥工程(δ)後、必要に応じて熱処理を行なってもよい。熱処理方法としては、フローティングドライヤーでフィルムの両面に温風を吹き付ける方法(以下、「フローティング法」と記載することがある。)や赤外線ランプで近赤外線を照射する方法等があげられる。中でも、光学用ポリビニルアルコール系フィルム両面の乾燥状態を均一にすることができる点で、フローティング法で行なうことが好ましく、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの平坦性の点で、フィルム幅1m当たりのニップ間張力を1〜10Nとしたフローティング法が特に好ましい。かかる熱処理温度は、通常、70〜150℃である。熱処理温度が低すぎると、光学用ポリビニルアルコール系フィルムの耐水性が不足する傾向があり、高すぎると偏光膜製造時の延伸性が低下する傾向がある。
【0073】
〔光学用ポリビニルアルコール系フィルム〕
上記乾燥工程(δ)後、さらに必要に応じて熱処理工程を経由して、長尺の本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムが得られる。この光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、フィルムの幅方向の両端部がスリットされ、芯管にロール状に巻き取られることによりフィルム巻装体に作製される。
【0074】
かくして本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムが得られる。
【0075】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムの厚さは、60μm以下であることが好ましく、特に好ましくは破断回避の点から15〜45μmである。厚さが厚すぎると、偏光膜の薄型化が困難となる傾向がある。
【0076】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜の大面積化の点で、幅2m以上であることが必要であり、好ましくは幅3m以上、より好ましくは幅4m以上、特に好ましくは幅4〜7mである。
【0077】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜の生産性向上の点で、長さ4km以上であることが必要であり、好ましくは偏光膜ひいては液晶画面の大面積化への対応の点から長さ5km以上、更に好ましくは、輸送性の点から、5〜30kmである。
【0078】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、ヘイズが0.2%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.15%以下、更に好ましくは0.1%以下である。ヘイズが上限値を超えると、偏光膜の光線透過率が低下する傾向がある。
【0079】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、欠点が少なく、偏光膜の原反フィルムとして好ましく用いられる。
【0080】
〔偏光膜の製造方法〕
ここで、本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜の製造方法について説明する。
【0081】
本発明の偏光膜は、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムを、前記フィルム巻装体から繰り出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0082】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、光学用ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、光学用ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラなどを防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。上記処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1〜10分間程度である。
【0083】
染色工程は、光学用ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1〜100g/Lが適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。
【0084】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行なわれる。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度10〜100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30〜70℃程度、処理時間は0.1〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0085】
延伸工程は、一軸方向(流れ方向)に3〜10倍、好ましくは3.5〜6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向に対して直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30〜170℃が好ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一回のみならず、偏光膜製造工程において複数回実施してもよい。
【0086】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液に光学用ポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行なわれ、その光学用ポリビニルアルコール系フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1〜80g/L程度である。洗浄処理時の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃である。処理時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行なってもよい。
【0087】
乾燥工程は、例えば、上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムを大気中で40〜80℃で1〜10分間乾燥することが行なわれる。
【0088】
かくして、本発明の偏光膜が得られる。本発明の偏光膜の偏光度は、好ましくは99.8%以上、より好ましくは99.9%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H1)より、下式にしたがって算出される。
偏光度=〔(H11−H1)/(H11+H1)〕1/2
【0089】
さらに、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上、より好ましくは43%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0090】
本発明の偏光膜は、表示欠点のない偏光板を製造するのに好適である。
ここで、本発明の偏光板の製造方法について説明する。
【0091】
〔偏光板の製造方法〕
上記偏光板は、本発明の偏光膜の片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性の樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合することにより作製される。保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド等のフィルムまたはシートがあげられる。
【0092】
貼合方法は、公知の手法で行なわれるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行なわれる。
【0093】
また、偏光膜の片面または両面に、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、硬化して硬化層を形成し、偏光板とすることもできる。このように作製することにより、上記硬化層が上記保護フィルムの代わりとなり、薄膜化を図ることができる。
【0094】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜や偏光板は、表示欠点や色ムラがなく、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例、参考例および比較例における光学用ポリビニルアルコール系フィルム、偏光膜の各物性の測定・評価をつぎのようにして行なった。
【0096】
<評価方法>
(1)直径50μm以上の気泡の数(個/m2
得られた光学用ポリビニルアルコール系フィルムをフィルム巻装体から巻き出しながら、幅4m×長さ4kmにわたって直径50μm以上の異物(明欠陥)を自動異物検査装置にて検出し、検出された異物の拡大写真から直径50μm以上の気泡をピックアップして、気泡の総数を算出した。かかる総数を面積16,000m2で除することにより、気泡の数(個/m2)とした。なお、気泡の形状が楕円形の場合は、(長径+短径)/2を直径とした。
自動異物検査装置の詳細な設定条件は下記の通りである。
照明:透過型、角度90°(フィルムに垂直)、距離300mm、光源ハロゲンランプ150W
検出:CCDカメラ20台、位置483mm、5000画素/台、分解能48μm/pixel、50mmレンズ(F2.8)
【0097】
(2)ヘイズ(%)
得られた光学用ポリビニルアルコール系フィルムから50mm×50mmの試験片を10枚切り出し、日本電色社製ヘイズメーターNDH−2000を用いて測定し、10枚の平均値をヘイズ(%)とした。
【0098】
(3)表示欠点数(個)
得られた偏光膜から、長さ1m×幅1mの試験片を10枚切り出し、15,000lxの環境下で目視検査し、100μm以上の大きさの表示欠点の総数(個)を測定した。
【0099】
(4)偏光度(%)、単体透過率(%)
得られた偏光膜から、4cm×4cmの試験片を25点切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製VAP7070)を用いて偏光度(%)と単体透過率(%)を測定し、平均値をとった。
【0100】
(5)色ムラ
得られた偏光膜から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだのちに、表面照度14,000lxのライトボックスを用いて、透過モードで光学的な色ムラを観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○・・・色ムラがなかった。
△・・・かすかに色ムラがあった。
×・・・はっきりと色ムラがあった。
【0101】
<実施例1>
(光学用ポリビニルアルコール系フィルムの製造)
重量平均分子量142,000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂1,000kg、水2,500kg、アニオン性界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム0.2kg(樹脂に対して0.02重量%)を、加圧溶解缶に投入して90℃で撹拌した後、ノニオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンドデシルエーテル0.2kg(樹脂に対して0.02重量%)、可塑剤としてグリセリン100kgを入れ、水蒸気を吹き込んで加圧しながら昇温し、140℃で8時間撹拌して均一に溶解したポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た(樹脂濃度25重量%)。
つぎに、該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、保管槽で140℃18時間保管した後、ベントを有する2軸押出機を用いて、発泡工程と蒸気排気工程を経由させて脱泡した。上記発泡工程と蒸気排気工程における各脱泡温度は、下記のとおりである。
発泡工程:105℃
蒸気排出工程:95℃
【0102】
続いて、該ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャストドラムに、吐出(吐出速度1.9m/分)および流延して製膜した。製膜条件は下記のとおりである。
T型スリットダイから吐出されるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の温度T1:90℃
キャストドラム表面の温度T2:88℃(温度ムラ1℃以内)
温度差ΔT(=|T1−T2|):2℃
【0103】
ついで、キャストドラムから製膜したフィルムを剥離し、そのフィルムの表面と裏面とを複数の熱ロールに交互に接触させながら乾燥を行なった後、フローティングドライヤーを用いて熱処理を行ない、厚さ45μm、幅5m、長さ5kmの光学用ポリビニルアルコール系フィルムを得た。
最後に、得られた光学用ポリビニルアルコール系フィルムのフィルム両端部をスリットして芯管にロール状に巻き取ることにより、フィルム巻装体を得た。得られた光学用ポリビニルアルコール系フィルムの特性を表3に示す。
【0104】
(偏光膜の製造)
得られた上記光学用ポリビニルアルコール系フィルムを上記巻装体から繰り出し、搬送ロールを用いて水平方向に搬送し、まず、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら流れ方向(MD方向)に1.7倍に延伸した。つぎに、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる28℃の水溶液中に浸漬して染色しながら流れ方向(MD方向)に1.6倍に延伸し、ついでホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(55℃)に浸漬してホウ酸架橋しながら流れ方向(MD方向)に2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行ない、60℃で2分間乾燥して総延伸倍率5.8倍の偏光膜を得た。得られた偏光膜の特性を下記の表3に示す。
【0105】
<実施例2、3、比較例1〜4、参考例1、2
下記の表1および表2に示される条件で製造する以外は、実施例1と同様にして、光学用ポリビニルアルコール系フィルム、および偏光膜を得た。得られた光学用ポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜の特性を下記の表3に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
実施例1〜の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、気泡の数が本発明の特定の範囲内であるため、得られる偏光膜の表示欠点が少ないのに対し、比較例1〜4の光学用ポリビニルアルコール系フィルムは、気泡の数が本発明の特定の範囲外であるため、得られる偏光膜の表示欠点が多いことがわかる。
【0110】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の光学用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜や偏光板は、表示欠点が少なく偏光性能にも優れているため、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。