特許第6848887号(P6848887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6848887異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848887
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20210315BHJP
   B32B 27/04 20060101ALI20210315BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20210315BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20210315BHJP
   B32B 38/18 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B32B27/00 101
   B32B27/04 Z
   B32B27/20 Z
   B32B7/027
   B32B38/18 C
【請求項の数】14
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-6139(P2018-6139)
(22)【出願日】2018年1月18日
(65)【公開番号】特開2019-123174(P2019-123174A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2019年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼松 紀仁
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和昌
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−302545(JP,A)
【文献】 特開2016−219732(JP,A)
【文献】 特開2004−090516(JP,A)
【文献】 特開2014−150161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H01L23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性充填剤を含有し、かつ、アスカーC硬度が2〜30である熱伝導性シリコーンゴム層と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂が含浸された縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層とを具備し、縦糸の繊維方向が厚さ方向と一致すると共に、上記熱伝導性シリコーンゴム層と上記繊維クロス層とがそれぞれ少なくとも5層以上にわたって、厚さ方向に直交する方向に沿って交互に並設されてなることを特徴とする異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項2】
シートの厚さが0.1〜100mmである請求項1記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項3】
各熱伝導性シリコーンゴム層の幅(P)が0.01〜10.0mm、各縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層の幅(Q)が0.05〜1.0mmであり、かつ、上記両層の幅の比(P):(Q)が1:10〜10:1である請求項1又は2記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項4】
熱伝導性シリコーンゴム層が、(a)硬化性オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、及び(c)熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴム組成物の硬化物層である請求項1〜3のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項5】
縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸されるシリコーンゴムが、(a)硬化性オルガノポリシロキサン及び(b)硬化剤を含む硬化性シリコーン組成物の硬化物である請求項1〜4のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項6】
縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸されるシリコーン樹脂が、室温下で実質的に固体である熱軟化性シリコーン樹脂である請求項1〜4のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項7】
シリコーンゴム層の熱伝導率が0.5W/mK以上である請求項1〜6のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
【請求項8】
熱伝導性充填剤を含有し、かつ、アスカーC硬度が2〜30である熱伝導性シリコーンゴム層と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させてなる繊維クロス層とを貼り合わせて熱伝導性複合シリコーンゴムシートを作製し、この熱伝導性複合シリコーンゴムシートを積層又は巻き芯に巻回して成形体ブロックを形成した後、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスし、シート化させることを特徴とする異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項9】
熱伝導性シリコーンゴム層が、(a)硬化性オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、及び(c)熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である請求項8記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項10】
縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸させるシリコーンゴムが、(a)硬化性オルガノポリシロキサン及び(b)硬化剤を含む硬化性シリコーン組成物であり、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させたのち硬化させて繊維クロス層を形成する請求項8又は9記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項11】
縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させるシリコーン樹脂が、室温下で実質的に固体である熱軟化性シリコーン樹脂であり、これを繊維クロスに含浸・充填させて繊維クロス層を形成する請求項8又は9記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項12】
熱伝導性シリコーンゴム層の熱伝導率が0.5W/mK以上である請求項8〜11のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項13】
熱伝導性シリコーンゴム層と縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層との体積比率を20:80〜95:5の範囲とする請求項8〜12のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【請求項14】
縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層において、該縦糸の質量比が90質量%以上である請求項8〜13のいずれか1項記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱性電子部品等の放熱用シートとして好適な、放熱特性に優れる異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピューター、スマートフォン等の電子機器に利用されるCPU、ドライバICやメモリー等のLSIチップは、小型化・高集積化等に伴い、熱を大量に発生するようになり、その熱によるチップの温度上昇はチップの動作不良を引き起こすことから、放熱を円滑に行うために、電子機器内での配置が考慮されている。その他に、特定の部品又は機器全体を強制冷却したり、集積回路素子に対しては放熱用シート(以下、放熱シートという)を介して冷却部材や基板、筐体に熱を逃がしたりする等の考慮もなされている。
【0003】
しかし、近年、パーソナルコンピューターに代表される電子機器の高集積化が進み、機器内の上記発熱性部品や集積回路素子の発熱量が増加するにつれて、従来の放熱シートではこれら部品や素子の冷却又は放熱が不十分な場合がある。特に、素子が形成されるプリント基板の材料として放熱性の劣るガラス補強エポキシ樹脂やポリイミド樹脂を使用している放熱シートでは、充分に熱を基板に逃がすことができない。そこで素子の近傍に、自然冷却タイプあるいは強制冷却タイプの放熱フィン又はヒートパイプ等の放熱器を設置し、素子の発生熱を放熱媒体を介して放熱器に伝え、放熱させる方式が採られている。
【0004】
この方式の放熱媒体として、素子と放熱器との間の熱伝導を良好にするために、異方性を有する窒化ホウ素、炭素繊維等の熱伝導性充填剤をシリコーン樹脂に分散させ、加圧下で硬化させて、加圧方向に垂直な方向に、熱伝導性充填剤を配向させた後、加圧方向に薄く切断することで、(素子と放熱器に対して)垂直方向に熱伝導性が高い放熱シートが提案されている。例えば、鱗片状窒化ホウ素を含有するシリコーン組成物を小さな断面積で棒状に押し出し、成形された棒状体を複数本集結させて、再度成形、硬化させた後スライスし、シート化させる方法(特許文献1)が知られているが、この方法では棒状体の間に空隙が存在し熱伝導性が低下することがある。また、繊維状フィラーを含有するシリコーン組成物を押出成形又は金型成形法により成形体ブロックを形成した後、成形体ブロックをシート状にスライスし、シート化させる方法(特許文献2)が知られているが、この方法では繊維状フィラーが切断されず、シート面から繊維状フィラーが露出することがあり、シートのスライス面をプレスしても露出が抑えきれず、空隙が存在し熱伝導性が低下することがある。一方、異方熱伝導性を有するグラファイトシートを、粘着材を介して重ね合わせて成形体ブロックを形成した後、グラファイトシート成形体ブロックをシート状にスライスし、シート化させる方法(特許文献3,4)が提案されている。しかしながらこれら方法では、表面硬度が高く、熱履歴により空隙が発生して熱伝導性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−108220号公報
【特許文献2】特開2014−31501号公報
【特許文献3】特開2009−295921号公報
【特許文献4】特開2010−3981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、発熱体及び放熱部材との高い密着性を実現し、熱伝導性が低下することのない異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、熱伝導性充填剤を含有し、かつ、アスカーC硬度が2〜30であり、表面微粘着性である厚さ0.01〜10mmの熱伝導性シリコーンゴム層と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸させてなる、厚さ0.05〜1.0mmの繊維クロス層とを貼り合わせて熱伝導性複合シリコーンゴムシートを作製し、更にこの熱伝導性複合シリコーンゴムシートを積層又は巻き芯に巻回して成形体ブロックを形成した後、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度でスライスすることで、密着性が高く熱伝導性が低下することのない異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートが得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート及びその製造方法を提供する。
1.熱伝導性充填剤を含有し、かつ、アスカーC硬度が2〜30である熱伝導性シリコーンゴム層と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂が含浸された縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層とを具備し、縦糸の繊維方向が厚さ方向と一致すると共に、上記熱伝導性シリコーンゴム層と上記繊維クロス層とがそれぞれ少なくとも5層以上にわたって、厚さ方向に直交する方向に沿って交互に並設されてなることを特徴とする異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
2.シートの厚さが0.1〜100mmである1記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
3.各熱伝導性シリコーンゴム層の幅(P)が0.01〜10.0mm、各縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層の幅(Q)が0.05〜1.0mmであり、かつ、上記両層の幅の比(P):(Q)が1:10〜10:1である1又は2記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
4.熱伝導性シリコーンゴム層が、(a)硬化性オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、及び(c)熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴム組成物の硬化物層である1〜3のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
5.縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸されるシリコーンゴムが、(a)硬化性オルガノポリシロキサン及び(b)硬化剤を含む硬化性シリコーン組成物の硬化物である1〜4のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
6.縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸されるシリコーン樹脂が、室温下で実質的に固体である熱軟化性シリコーン樹脂である1〜4のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
7.シリコーンゴム層の熱伝導率が0.5W/mK以上である1〜6のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート。
8.熱伝導性充填剤を含有し、かつ、アスカーC硬度が2〜30である熱伝導性シリコーンゴム層と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させてなる繊維クロス層とを貼り合わせて熱伝導性複合シリコーンゴムシートを作製し、この熱伝導性複合シリコーンゴムシートを積層又は巻き芯に巻回して成形体ブロックを形成した後、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスし、シート化させることを特徴とする異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
9.熱伝導性シリコーンゴム層が、(a)硬化性オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、及び(c)熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴム組成物を硬化させてなるシリコーンゴム層である8記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
10.縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層に含浸させるシリコーンゴムが、(a)硬化性オルガノポリシロキサン及び(b)硬化剤を含む硬化性シリコーン組成物であり、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させたのち硬化させて繊維クロス層を形成する8又は9記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
11.縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロスに含浸させるシリコーン樹脂が、室温下で実質的に固体である熱軟化性シリコーン樹脂であり、これを繊維クロスに含浸・充填させて繊維クロス層を形成する8又は9記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
12.熱伝導性シリコーンゴム層の熱伝導率が0.5W/mK以上である8〜11のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
13.熱伝導性シリコーンゴム層と縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層との体積比率を20:80〜95:5の範囲とする8〜12のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
14.縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層において、該縦糸の質量比が90質量%以上である8〜13のいずれかに記載の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、低硬度で微粘着性の熱伝導性シリコーンゴム層を有することで高い密着性を実現し、低熱抵抗化と、例えば、基板上に厚さの異なる複数の半導体チップに対して一枚の放熱シートで適用する際などの段差構造へ適応するため熱伝導性に優れる。更に、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を含浸した繊維クロス層の高熱伝導繊維が素子と放熱器に対して垂直方向に配置されることで、従来の積層シートと比較して垂直方向の熱伝導性が極めて良好となり、表面の凸凹が少なく、空隙が発生して熱伝導性が低下することも少ないため、熱特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)は熱伝導性複合シリコーンゴムシートを積層した成形体ブロックの模式図であり、(B)は成形体ブロックを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスして得た異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの模式図である。
図2】(A)は熱伝導性複合シリコーンゴムシートを巻き芯に巻回した成形体ブロックの模式図であり、(B)は成形体ブロックを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスして得られた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、図1及び図2に示したように、熱伝導性充填剤を含有し、アスカーC硬度が2〜30である層厚さ0.01〜10.0mmの熱伝導性シリコーンゴム層1と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂を含浸させてなる層厚さ0.05〜1.0mmの縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層2とを貼り合わせて熱伝導性複合シリコーンゴムシート3を作製し、この熱伝導性複合シリコーンゴムシート3を積層又は巻き芯に巻回して成形体ブロック4を形成した後、これを縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスし、シート化させることにより製造されるものである。そして、本発明の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート5は、上記の熱伝導性シリコーンゴム層1と繊維クロス層2とが少なくとも5層以上にわたって交互に並設された構造を有するものとなる。
【0012】
[熱伝導性シリコーンゴム層]
本発明において、熱伝導性シリコーンゴム層は、好適には(a)硬化性オルガノポリシロキサン、(b)硬化剤、及び(c)熱伝導性充填剤を含むシリコーンゴム組成物を硬化させてなり、アスカーC硬度が2〜30であり、かつ、表面が微粘着性である熱伝導性シリコーンゴム層である。
【0013】
(a)オルガノポリシロキサン
(a)成分のオルガノポリシロキサンは、硬化して熱伝導性シリコーンゴム層を与えるシリコーンゴム組成物におけるベースポリマー(主剤)として作用するものであって、好適には、下記平均組成式(1)
1aSiO(4-a)/2 (1)
(式中、R1は独立に炭素原子数1〜12の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、aは1.8〜2.2、好ましくは1.95〜2.05の正数である。)
で表される、基本的に直鎖状の(あるいは一部に分岐構造を含有する分岐鎖状の)ジオルガノポリシロキサンである。
【0014】
上記R1としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニリル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、メチルベンジル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、並びにこれらの基の炭素原子が結合している水素原子の一部又は全部が、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換された基、例えば、クロロメチル基、2−ブロモエチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基、シアノエチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシル基等が挙げられ、R1のうち少なくとも2個はアルケニル基であることが好ましい。代表的なものは炭素原子数が1〜10、特に代表的なものは炭素原子数が1〜6のものであり、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等の炭素原子数1〜3の非置換又は置換のアルキル基及びフェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基等の非置換又は置換のフェニル基、及びビニル基、アリル基等のアルケニル基である。
【0015】
(a)オルガノポリシロキサンの25℃における動粘度は、通常、10〜100,000mm2/s、特に好ましくは500〜50,000mm2/sの範囲である。上記動粘度が低すぎると、得られる組成物の保存安定性が悪くなる場合があり、また高すぎると得られる組成物の伸展性が悪くなり、加工性が悪くなる場合がある。なお、本発明において、動粘度はオストワルド粘度計により測定できる。また、上記動粘度は、通常、直鎖状オルガノポリシロキサンの場合、数平均重合度で約10〜1,100程度、特には約50〜800程度に相当するものである。なお、本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析によるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0016】
この(a)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独でも、動粘度や分子構造等が異なる2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
下記(b)成分の硬化剤が、オルガノハイドロジェンポリシロキサン及び白金系触媒の組み合わせからなる付加硬化型のもの(ヒドロシリル化反応硬化剤)である場合、(a)成分のオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは3〜100個、より好ましくは3〜50個程度有するオルガノポリシロキサンである。ケイ素原子に結合したアルケニル基の含有量が上記下限未満であると、得られる組成物が十分に硬化しなくなる。また、ケイ素原子に結合したアルケニル基としてはビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖末端及び側鎖のいずれか一方又は両方にあればよく、少なくとも一個のアルケニル基が分子鎖末端のケイ素原子に結合していることが好ましい。
【0018】
下記(b)成分の硬化剤が、有機過酸化物である場合、(a)成分のオルガノポリシロキサンは、分子中にアルケニル基を含有するものであっても含有しないものであってもよく、特に限定されないが、ケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上、好ましくは3〜100個、より好ましくは3〜50個程度有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0019】
(b)硬化剤
(b)硬化剤は、上記(a)成分に対する架橋剤(硬化剤)として作用する成分であり、本発明では、ヒドロシリル化反応硬化剤(即ち、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒の組み合わせ)又は有機過酸化物を使用することができる。以下、これらについて詳細に説明する。
【0020】
(b)成分の硬化剤が、ヒドロシリル化反応硬化剤(即ち、オルガノハイドロジェンポリシロキサンと白金系触媒の組み合わせ)である場合、上記硬化剤中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を1分子中に2個以上、好ましくは2〜200個、より好ましくは3〜100個程度有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができる。
【0021】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した有機基としては、例えば、脂肪族不飽和結合を有しない非置換又は置換の1価炭化水素基等が挙げられる。具体的には、(a)成分で説明したアルケニル基等の脂肪族不飽和基以外のケイ素原子に結合する非置換又は置換の1価炭化水素基として例示したものと同様の、非置換又は置換の1価炭化水素基が挙げられるが、それらの中でも、合成容易性及び経済性の観点から、メチル基が好ましい。
【0022】
本発明における(b)成分のヒドロシリル化反応硬化剤中の上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造は特に限定されず、直鎖状、分岐状、環状及び三次元網状構造のいずれであってもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0023】
また、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの重合度(又はケイ素原子の数)は、通常、2〜200、特に2〜100、とりわけ2〜50程度であることが好ましい。
【0024】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの好適な具体例としては、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)メチルシラン、トリス(ハイドロジェンジメチルシロキシ)フェニルシラン、メチルハイドロジェンシクロポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C653SiO1/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
なお、(b)成分中のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記ヒドロシリル化反応硬化剤中の上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの配合量は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基が(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5〜5.0モルとなる量であることが好ましく、より好ましくは0.8〜4.0モルとなる量である。オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基の量を(a)成分中のアルケニル基1モルに対して0.5モル以上とすることにより、組成物を十分に硬化させることができるため、硬化物においても十分な強度が得られ、成形体、複合体とした際の取り扱いが容易なものとなる。一方、その量を5.0モル以下とすることにより、後述する繊維クロス層との複合を容易なものとすることができる。
【0026】
ヒドロシリル化反応硬化剤として上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンとともに用いられる白金系触媒は、(a)成分中のアルケニル基と上記オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子に結合した水素原子とのヒドロシリル化付加反応を促進させ、本発明の組成物を三次元網状構造の架橋硬化物(シリコーンゴム硬化物)に変換するために配合される触媒成分である。
【0027】
上記白金系触媒成分は、通常のヒドロシリル化付加反応に用いられる公知の触媒の中から適宜選択して使用することができる。その具体例としては、例えば、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体、H2PtCl4・xH2O、H2PtCl6・xH2O、NaHPtCl6・xH2O、KHPtCl6・xH2O、Na2PtCl6・xH2O、K2PtCl4・xH2O、PtCl4・xH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・xH2O(但し、式中のxは0〜6の整数であり、好ましくは0又は6である。)等の塩化白金、塩化白金酸及び塩化白金酸塩、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィンとのコンプレックス、白金黒、パラジウム等の白金族金属を、アルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの、ロジウム−オレフィンコンプレックス、クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒)、塩化白金、塩化白金酸、塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとのコンプレックス等の、白金族金属又は白金族金属化合物などの白金族金属触媒が挙げられる。これらの白金族金属触媒は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
上記白金系触媒成分の白金系化合物の配合量は、組成物を硬化させるために必要な有効量であればよいが、通常は、(a)成分に対する白金族金属元素の質量換算で、0.1〜1,000ppm、好ましくは0.5〜500ppmである。
【0029】
(b)成分の硬化剤が有機過酸化物である場合、有機過酸化物によるシリコーンゴム組成物の硬化反応は、好適には、分子鎖末端(片末端又は両末端)及び分子鎖非末端(分子鎖途中)のどちらか一方又はその両方にビニル基等のアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンを有機過酸化物系化合物存在下でラジカル重合させることにより起こる。有機過酸化物系化合物としては、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等が挙げられる。有機過酸化物系化合物は、光や熱に弱く、不安定であること、固体の有機過酸化物系化合物を組成物に分散させるのが困難であることから、有機溶媒に希釈させたり、シリコーン成分に分散させたりした状態で用いられる場合が多い。
【0030】
有機過酸化物系化合物の配合量はいわゆる触媒量とすればよく、(a)成分のオルガノポリシロキサン、好適には、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン100質量部に対して、通常、0.1〜2質量部程度が好ましい。
【0031】
(c)熱伝導性充填剤
(c)熱伝導性充填剤としては、この種の用途に熱伝導性充填剤として一般的に使用される公知の材料を特に制限なく使用することができる。例えば、銅、銀、アルミニウム等の金属:酸化アルミニウム、シリカ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物:窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス:人工ダイヤモンド等を用いることができる。このうち比較的入手しやすく、比較的安価な酸化アルミニウム、窒化アルミニウムが好ましい。
【0032】
(c)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して、通常100〜1,800質量部、特に200〜1,600質量部であることが好ましい。上記配合量を下限以上とすることで十分な熱伝導性を得ることができ、一方、配合量を上限以下とすることで(c)成分の組成物中への均一な配合が容易になるとともに成形加工性が良好なものとなる。(c)成分の平均粒径は、0.5〜100μm、特に1〜50μm、とりわけ1〜10μmであることが好ましい。平均粒径が上限以下であればシリコーン樹脂との接触面積が十分に確保されるので良好な耐ポンピングアウト性が得られ、下限以上であればシリコーン樹脂と混合が容易になる。なお、平均粒径は、例えば、レーザー光回折法による粒度分布測定における累積質量平均径(又はメジアン径、D50)等として求めることができる。
【0033】
本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートにおける表面微粘着性である熱伝導性シリコーンゴム層は、上記(a)〜(c)成分及び必要に応じてその他の任意成分(各種の添加剤等)を均一に混合してなるシリコーンゴム組成物を、通常の付加硬化型あるいは有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物の硬化条件で加熱硬化することによって得ることができるが、熱伝導性シリコーンゴム層の硬度は、JIS K 7312:1996に基づくアスカーC硬度で2〜30、より好ましくは6〜20である。硬度が2未満であると、粘着性が強く(表面微粘着性に乏しく)、強度が弱いため、取り扱い時にゴム層が破壊される場合があり、取り扱い性が低下する。硬度が30より高くなると、表面の粘着性が低下し(表面微粘着性に乏しく)、更に異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの密着性が低下するおそれがある。
【0034】
ここで、本発明において、表面微粘着性とは常温、短時間にてわずかな圧力を加えることで接着することを意味する。
【0035】
熱伝導性シリコーンゴム層の熱伝導率は通常0.2W/mK以上であり、熱抵抗の観点から、好ましくは0.5W/mK以上である。その上限に制限はないが、通常30W/mK以下である。
【0036】
この場合、熱伝導性シリコーンゴム層の層厚さは、0.01〜20mmであることが好ましく、より好ましくは0.02〜1.0mm、更に好ましくは0.02〜10mmである。層厚さが0.01mm未満であると、強度が低下することがある。層厚さが20mmより大きくなると、十分な熱伝導率が得られないおそれがある。
【0037】
[繊維クロス層]
本発明において繊維クロス層は、縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層にシリコーンゴム又はシリコーン樹脂を含浸させてなるものである。
【0038】
上記縦糸が100W/mK以上の高熱伝導繊維を有する繊維クロス層の厚さは好ましくは0.03〜1.0mm、さらに好ましくは0.05〜0.9mmである。厚さが0.03mm未満であると、繊維クロスの強度が不十分で、作成が困難となるおそれがあり、厚さが1.0mmより大きくなると、上記熱伝導性シリコーンゴム層の密着性が低下するおそれがある。
【0039】
(d)繊維クロス
本発明で用いる繊維クロスは、縦糸に100W/mK以上の熱伝導率を有する熱伝導性繊維を用いたクロスである。なお、本発明における縦糸とは、最終的に繊維クロス含有熱伝導性樹脂硬化物を切断する面と垂直になる方向となる繊維を指す。図1(A)のX方向が縦糸の繊維方向(長さ方向)を示す。
【0040】
このような熱伝導性繊維として、具体的には、黒鉛化炭素繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ホウ素ナノチューブ繊維、銀繊維、アルミ繊維、銅繊維などが挙げられる。また、熱伝導性の観点から、繊維の長さ方向(「繊維方向」ともいう。図1(A)のX方向)に、熱伝導率が好ましくは200W/mK以上、より好ましくは400W/mK以上を有する熱伝導性繊維を用いることが好適であり、中でも、熱伝導率の高さや入手の簡便さから、黒鉛化炭素繊維を採用することが好適である。
【0041】
また、繊維クロスの横糸については特に制限はなく、無機繊維、有機繊維などを用いることができる。中でも、強度の観点から、ガラス繊維、アルミナ繊維、セルロースファイバー、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維などを用いることが好ましく、柔軟性の観点から、ポリエステル繊維を用いるのがより好ましい。
【0042】
繊維クロスの織り方としては、特に制限はないが、例えば、平織(縦糸と横糸の本数の比率が異なるものも含む)、朱子織、綾織などの織り方が挙げられる。中でも、熱伝導性の観点から、縦糸と横糸の質量や本数の比率が異なる平織を採用することが好ましい。
繊維クロスの縦糸と横糸との割合は任意に設定することができるが、熱伝導性の観点から、縦糸の割合は繊維クロス全体の40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。熱伝導性繊維の縦糸の割合が40質量%より少ないと、熱伝導性が損なわれるおそれがある。また、縦糸の割合の上限値は、繊維クロス全体の好ましくは99.99質量%以下である。
【0043】
繊維クロスの1m2あたりの質量については、特に制限はないが、10〜500g/m2程度とすることが好適であり、50〜250g/m2とすることがより好適である。繊維クロス1m2あたりの質量が10g/m2より小さいと、繊維の密度が小さくなり、十分な熱伝導率が得られないおそれがあり、また、500g/m2より大きくなると、樹脂を含浸させるのが困難になるおそれがある。なお、繊維クロスは、1枚でもよいし、2枚以上重ねて用いることができる。
【0044】
以上の点から、本発明の繊維クロスとして最も好ましいのは、縦糸として長さ方向(繊維方向、図1(A)のX方向)に400W/mK以上の熱伝導率を有する炭素繊維を用いると共に、横糸としてポリエステル繊維を用いた異種繊維クロスであり、且つ、炭素繊維の質量割合が90質量%以上99.99質量%以下であることが好適である。
【0045】
繊維クロス層(単層)の厚みは、30〜500μmの範囲のものが好ましく、より好ましくは50〜300μmの範囲である。
【0046】
繊維クロス(単層)の厚みが、作製しようとする繊維クロス層全体の厚みの半分以下である場合には、複数の繊維クロスを重ねた状態でシリコーン樹脂を含浸又は含浸・硬化させることにより、所望の厚みの繊維クロス層とすることができる。上記範囲の厚さを有する繊維クロスを複数重ねた状態でシリコーン樹脂を含浸又は含浸・硬化させることで、500μmを超える繊維クロス層とすることができる。この場合、積層繊維クロスの厚さは最大50mm以下、特に20mm以下である。
【0047】
(e)シリコーンゴム又は樹脂
本発明では、上記(d)繊維クロスに含浸させる(e)シリコーンゴム又は樹脂としてこれを得る場合、以下の(e−1)硬化性シリコーンゴム組成物及び(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂を使用することができる。
【0048】
(e−1)硬化性シリコーンゴム組成物
(e−1)硬化性シリコーンゴム組成物としては、上記した(a)オルガノポリシロキサン及び(b)硬化剤と同様の成分を含む組成物からなる硬化性シリコーンゴム組成物を好適に使用することができる。(e−1)成分を上述した(d)繊維クロスに含浸・充填させた後、硬化させることによって、シリコーンゴムが含浸・充填された表面微粘着性の繊維クロス層を形成することができる。
【0049】
(e−1)成分には、(d)繊維クロスとの濡れ性や熱伝導性シリコーンゴム層の密着性を向上させることを目的とした表面処理剤を任意成分として必要に応じて配合することができる。上記表面処理剤の具体例としては、アルコキシシラン等のオルガノキシシラン化合物や、分子鎖片末端がトリアルコキシシリル基等のトリオルガノキシシリル基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンなどの加水分解性基含有有機ケイ素化合物を例示することができる。
【0050】
(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂
(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂としては、室温(25℃±5℃)下で実質的に固体(即ち、自己流動性のない非液状物)のシリコーン樹脂を使用することができる。本発明では、例えば、下記の熱軟化性シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0051】
(e−2)成分としては、実質的に室温(25℃±5℃)で固体(即ち、自己流動性のない非液状物)であって、通常、40℃以上、発熱性部品の発熱による最高到達温度以下、即ち、40〜120℃、特に40〜90℃程度の温度範囲において、熱軟化、低粘度化又は融解して少なくとも発熱性電子部品との接触表面が流動化するものであればよい。
【0052】
本発明においては、特に(e−2)成分の軟化点(もしくは融点)が40〜120℃であることが好ましく、45〜100℃であることがより好ましい。40℃未満では雰囲気温度が高温の場合、成形体の流動性の発現が著しく、取り扱いが困難となる場合があり、120℃を超えると、熱軟化温度が高温であるため成形が困難となる場合がある。なお、軟化点は、落下球式測定法(即ち、転落球式粘度計において樹脂を昇温した際に転落球が樹脂中に完全に沈み込む時の温度を軟化点とする)等により求めることができる。
【0053】
(e−2)成分としては、上記条件を満たすものであれば特に限定されるものではないが、上述した熱軟化性は、シリコーン樹脂の組成が重要な因子となる。
【0054】
特に、(e−2)成分については、上記(d)繊維クロスと組み合わせて得られる繊維クロス層(即ち、繊維クロスに熱軟化性シリコーン樹脂を含浸・充填した構造体)が、上記熱伝導性シリコーンゴム層と積層した際に熱伝導性シリコーンゴム層の変形を抑制し、良好な作業性を実現する観点から、室温で実質的に固体状である必要がある。そのため、この条件を満足するものとしては、例えば、分岐構造単位であるR2SiO3/2で示される3官能性シルセスキオキサン構造単位(以下、T単位と称する)及び/又はSiO2で示される4官能性構造単位(以下、Q単位と称する)を主成分(例えば40モル%以上、特に50モル%以上)として含んだ三次元網状構造の共重合体であるシリコーン樹脂(いわゆるシリコーンレジン)、好ましくは、T単位及び/又はQ単位とR22SiOで示される2官能性シロキサン構造単位(以下、D単位と称する)との共重合体である三次元網状構造のシリコーン樹脂、より好ましくは、T単位及び/又はQ単位とD単位とを含有する共重合体において、末端がR23SiO1/2で示される1官能性シロキシ構造単位(以下、M単位と称する)で封鎖された三次元網状構造の共重合体(即ち、T単位及び/又はQ単位を含有し、更にM単位及びD単位を含有する共重合体)等が例示される。
【0055】
ここで、上記R2は、好ましくは、独立に水素原子、又はアリール基以外の同一又は異種のカルボニル基を含んでいてもよい炭素原子数1〜8の1価炭化水素基である。R2の具体例としては、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基等のアルケニル基;アクリロイル基、メタクリロイル基等のアシル基が挙げられる。原料の入手の容易さの観点から、R2として特に水素原子、メチル基、エチル基、ビニル基を好適に用いることができる。
【0056】
なお、上記(e−2)成分としては、上記した分岐構造単位を含有する、通常、三次元網状構造のシリコーン樹脂共重合体の1種又は2種以上を使用することができるが、更に、D単位を主成分(通常、80モル%以上、好ましくは90モル%以上)として主鎖が実質的にD単位の繰り返し構造からなり、分子鎖末端がM単位で封鎖されている(又は封鎖されていない)、実質的に直鎖状の(又は少量のT単位又はQ単位を含有してもよい分岐した鎖状の)オルガノポリシロキサン(例えばシリコーンオイルやシリコーン生ゴム)を好ましくは三次元網状共重合体100質量部に対し1〜100質量部、特に2〜50質量部添加して、上記分岐構造単位を含有する三次元網状共重合体との混合物として使用してもよい。
【0057】
これらの中で、上記(e−2)成分としては、T単位とD単位を含む(M単位は任意の)シリコーン樹脂、T単位を含むシリコーン樹脂と回転粘度計により測定した25℃における粘度が100Pa・s以上のシリコーンオイル又はシリコーン生ゴムの組み合わせであるシリコーン樹脂組成物が好ましい。上記シリコーン樹脂は、末端がR23SiO1/2(M単位)で封鎖されたものであってもよい。
【0058】
更に、上記(e−2)成分の組成について具体的に説明すると、熱軟化性シリコーン樹脂は、通常、主成分としてT単位及び/又はQ単位を含む三次元網状構造を有するものであり、M単位とT単位のみ、あるいはM単位とQ単位のみで設計することが行われている。しかしながら、固形時の強靭性に優れる(繊維クロスの空孔部に熱軟化性シリコーン樹脂を含浸・充填してなる繊維クロス層の脆さを改善し、取り扱い時の破損等を防止する)ためには、特にT単位を導入することが有効であり、更にはD単位を併用することが好ましい。ここで、T単位の置換基(R2)としてはメチル基、フェニル基が望ましく、D単位の置換基(R2)としてはメチル基、フェニル基、ビニル基が望ましい。また上記T単位及び/又はQ単位とD単位の組成比率(モル比)は10:90〜90:10、特に20:80〜80:20とすることが好ましい。
【0059】
なお、通常用いられるM単位とT単位のみ、あるいはM単位とQ単位のみから合成されたシリコーンレジンであっても、これに、T単位を含み、主としてD単位の繰り返し構造からなる(末端はM単位)高粘度シリコーンオイル(例えば、回転粘度計により測定した25℃における粘度が1,000Pa・s以上)もしくは生ゴム状のシリコーン化合物を混合することによって、上記繊維クロス層と熱伝導性シリコーンゴム層とを積層してなる熱伝導性複合シリコーンゴムシートの脆さが改良され、またヒートショックをかけた場合の熱伝導性シリコーンゴム層の密着性を向上させ、剥離を防止することができる。従って、T単位を含み、D単位を含まない三次元網状構造のシリコーン樹脂を用いる場合には、このシリコーン樹脂に、D単位を主成分とする高粘度シリコーンオイル又はシリコーン生ゴム化合物を添加することが好ましい。
【0060】
よって、室温より高い温度の軟化点もしくは融点を有するシリコーン樹脂がT単位を含み、D単位を含まない場合には、上記理由によってD単位を主成分とする高粘度シリコーンオイルもしくはシリコーン生ゴムを添加すれば取り扱い性の優れた材料となる。この場合、D単位を主成分とする高粘度シリコーンオイル又は生ゴム状のシリコーン化合物等の添加量は、室温より高い温度の軟化点もしくは融点を有するシリコーン樹脂100質量部に対して1〜100質量部、特に2〜10質量部とすることが好ましい。添加量を1質量部以上とした場合には、熱伝導性シリコーンゴム層の密着性が十分に向上し、剥離する可能性が低下する。添加量を100質量部以下とした場合には、熱抵抗を小さくすることができ、熱伝導性を向上させることができる。
【0061】
また、(e−2)成分は、クリティカルな(温度依存性の大きな)粘度低下を発生させるため、比較的低分子量のものを用いることが望ましい。この(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂の分子量としては500〜10,000、特に1,000〜6,000であることが望ましい。なお、分子量は、通常、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析によるポリスチレン換算の数平均分子量等として求めることができる。
【0062】
なお、上記(e−2)成分は、本発明の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートに密着性とタック性を付与し得るものが好適であり、単一の粘度の重合体等を使用してもよいが、より強度とタック性のバランスに優れたシートを得る観点から、粘度の異なる2種類以上を用いてもよい。
【0063】
上記(e−2)成分として、具体的には、例えば、下記のような2官能性シロキサン構造単位(D単位)及び3官能性シルセスキオキサン構造単位(T単位)を特定組成で含有するシリコーン樹脂を挙げることができる。
1mp2n
(ここで、D1はジメチルシロキサン単位(即ち、(CH32SiO)、Tはフェニルシルセスキオキサン単位(即ち、(C65)SiO3/2)、D2はメチルビニルシロキサン単位(即ち、(CH3)(CH2=CH)SiO)を表し、組成比に係る(m+n)/p(モル比)=0.25〜4.0、また、(m+n)/m(モル比)=1.0〜4.0の範囲である。)
【0064】
また、例えば、1官能性シロキシ構造単位(M単位)、2官能性シロキサン構造単位(D単位)及び3官能性シルセスキオキサン構造単位(T単位)を特定組成で含有するシリコーン樹脂を挙げることができる。
l1mp2n
(ここで、Mはトリメチルシロキサン単位(即ち、(CH33SiO1/2)、D1、T、D2は上記のとおりであり、組成比に係る(m+n)/p(モル比)=0.25〜4.0、また、(m+n)/m(モル比)=1.0〜4.0、また、l/(m+n)(モル比)=0.001〜0.1の範囲である。)
【0065】
更に、例えば、1官能性シロキシ構造単位(M単位)、2官能性シロキサン構造単位(D単位)及び4官能性構造単位(Q単位)を特定組成で含有するシリコーン樹脂を挙げることができる。
l1mq2n
(ここで、QはSiO4/2を表し、M、D1、D2は上記のとおりであり、組成比に係る(m+n)/q(モル比)=0.25〜4.0、また、(m+n)/m(モル比)=1.0〜4.0、また、l/(m+n)(モル比)=0.001〜0.1の範囲である。)
これらは、1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。
【0066】
なお、上記シリコーンゴム又はシリコーン樹脂が含浸された繊維クロス層も微粘着性を有することが好ましく、表面微粘着性を有することで上記熱伝導性シリコーンゴム層との接着面積が顕著に増大し、異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートにおいて良好な密着性をより確実に実現し、そのため空隙が発生して熱伝導性が低下することも少ないため熱特性が向上する。この場合、微粘着性は、上記硬化性シリコーンゴム組成物(e−1)を用いてシリコーンゴムを形成すること、特にアスカーC硬度2〜10のシリコーンゴムを形成すること、また、熱硬化性シリコーン樹脂を用いることで達成することができる。
【0067】
[熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造]
熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造方法は、特に限定されないが、プレス法やコーティング法など、一般的にはコーティング法が有効である。
【0068】
[熱伝導性シリコーンゴム層の組成物の調製]
熱伝導性シリコーンゴム層の組成物は、上記各成分(上記(a)〜(c)成分及び必要によりその他の成分)をプラネタリミキサー等の混合機を用いて、室温(25℃±5℃)にて0.5〜5時間、特に1〜3時間程度均一に混合することにより調製できる。この工程で所望により、熱伝導性能を損なわない範囲で、付加反応制御剤、セパレーターとの離型を促す内添離型剤、シリコーンウエッター、着色剤、補強性シリカ等補強剤、難燃剤等を添加してもよい。
【0069】
得られたシリコーン組成物は、成形させることから、室温で自己流動性のある液状であることが好ましく、具体的には、例えば回転粘度計(BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定した25℃における粘度が500,000mPa・s以下(通常、50〜500,000mPa・s)、特に100〜50,000mPa・s、更に300〜10,000mPa・s程度であることが好ましい。
【0070】
なお、本発明に用いられる熱伝導性シリコーンゴム層とするための、上記硬化性シリコーン組成物の硬化条件としては特に限定されないが、好ましくは80〜150℃、より好ましくは100〜130℃の温度で、好ましくは約1分〜1時間、より好ましくは約5分〜30分程度である。
【0071】
[繊維クロス層の製造]
〈硬化性シリコーンゴム組成物を使用する場合〉
繊維クロスに(e−1)硬化性シリコーンゴムを含浸・充填させた繊維クロス層の製造方法について説明する。
【0072】
まず、離型処理したポリマーフィルム(基材)上に、繊維クロスを供給(設置)し、繊維クロスの表面に液状の(e−1)硬化性シリコーンゴム組成物をバーコートにより所定量塗布して含浸させる。次いで、含浸・充填させた(e−1)硬化性シリコーンゴム組成物を所定の条件で硬化させることで繊維クロス層が得られる。この場合、用いる繊維クロスは、その厚さに応じて一枚で使用しても、複数の繊維クロスを積層して使用してもよい。本発明では、繊維クロスの厚さと積層数を適宜変更することにより、所望の厚みの繊維クロス層とすることができる。なお、得られた繊維クロス層を使用する際には、離型処理したポリマーフィルムを剥がして使用する。
【0073】
なお、繊維クロス含浸した際において硬化性シリコーン組成物を硬化する条件としては、付加反応硬化型の硬化性シリコーン組成物の場合、一般的に付加硬化型シリコーン組成物が硬化し得る通常の硬化条件でよく、特に限定されない。加熱条件はシリコーン組成物の(Si−H/Si−アルケニル)モル比や硬化触媒の種類等にもよるが、好ましくは、80〜150℃、好ましくは100〜130℃の温度で、好ましくは約1分〜1時間、より好ましくは約5分〜30分程度である。また、有機過酸化物硬化型の硬化性シリコーン組成物の場合、一般的に有機過酸化物硬化型シリコーン組成物が硬化し得る通常の硬化条件でよく、特に限定されない。加熱条件は硬化触媒の種類等にもよるが、好ましくは、80〜150℃、好ましくは100〜130℃の温度で、好ましくは約1分〜1時間、より好ましくは約5分〜30分程度である。また、繊維クロス層を成形する条件として、プレス機の圧力は、気泡の発生を避けるため、約0.1〜35MPa程度であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5MPa程度である。
【0074】
〈熱軟化性シリコーン樹脂を使用する場合〉
次に、繊維クロスに(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂を含浸・充填させた繊維クロス層の製造方法について説明する。
繊維クロスに室温下で実質的に固体である(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂を含浸・充填させてなる繊維クロス層の代表的な製造方法は以下のとおりである。
【0075】
具体的には、室温下で実質的に固体である(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂が溶融し得る温度(例えば、100℃程度)に加熱したホットプレート上に、離型処理したポリマーフィルムを供給(配置)し、この上に未処理の繊維クロスを供給(配置)し、更に所定量の(e−2)熱軟化性シリコーン樹脂を上記繊維クロスの上に供給(配置)して、その状態で熱軟化により液状とした後、この熱軟化性シリコーン樹脂をバーコートにより繊維クロス上に塗り広げながら含浸させる。次いで、別の離型処理したポリマーフィルムをその上に供給(配置)して熱圧着を行う。その後、離型処理したポリマーフィルムをはがすことで所望の厚みの繊維クロス層が得られる。この場合、用いる繊維クロスは、その厚さに応じて一枚で使用しても、複数の繊維クロスを積層して使用してもよい。本発明では、繊維クロスの厚さと積層数を適宜変更することにより、所望の厚みの繊維クロス層とすることができる。
【0076】
また、作製した熱軟化性シリコーン樹脂を含浸・充填させた繊維クロス層を成形する条件は特に限定されないが、加熱炉の加熱条件としては、気泡の発生を避けるため、50〜200℃であることが好ましく、より好ましくは60〜180℃である。また、プレス機を用いる場合の圧力としては、気泡の発生を避けるため、約0.01〜35MPa程度であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5MPa程度である。
【0077】
なお、本発明の熱伝導性複合シリコーンゴムシートの繊維クロス層は、低硬度の熱伝導性シリコーンゴム層の変形の抑制及び補強等の点から、層厚さが0.05〜1.0mmであることが好ましく、より好ましくは0.15〜0.9mm、さらに好ましくは0.2〜0.8mmである。
【0078】
上述した方法により得られた、熱伝導性シリコーンゴム層と繊維クロス層を積層することで熱伝導性複合シリコーンゴムシートを得ることができる。繊維クロス層は一層であっても、複数の繊維クロス層であってもよく、所望の厚みの繊維クロス層となる層数でよい。また、積層体の強度を補強する目的で、熱伝導率を損なわない範囲で層の間を接着してもよい。積層成形する条件としては、温度は特に限定はされないが、室温が好ましく、プレス機の圧力は、気泡の発生を避けるため、約0.1〜35MPa程度であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5MPa程度である。
【0079】
[熱伝導性複合シリコーンゴム成形体ブロックの製造]
上記熱伝導性複合シリコーンゴムシートを複数層重ね合わせることにより所定の厚さを有する板状又は柱状の成形体ブロックを形成したり、又は該シートを複数層重ね合わせたものを巻き芯に巻回することにより所定の肉厚を有する円筒状の成形体ブロックを形成することができる。積層する場合、熱伝導率の観点から縦糸の高熱伝導繊維の方向を一定になるように積層するのが好ましい。この成形体ブロックの熱伝導性シリコーンゴム層と繊維クロス層の体積比率は20:80〜95:5の範囲にあることが好ましく、30:70〜90:10がより好ましい。熱伝導性シリコーンゴム層の体積比率が20より小さいと、表面硬度が高く、ゴム特有の伸縮性が損なわれ、熱履歴により空隙が発生して熱伝導性が低下するおそれがあり、95より大きいと異方熱伝導性が低下するため、熱伝導性が低下するおそれがある。巻き芯に上記シートを巻きつけて成形体ブロックを形成する場合、使用する巻き芯は、特に限定はされないが、空隙の入り難さ及び作業性の観点から、上記熱伝導性シリコーンゴム層を形成する材料と同様の材料で作成されたチューブ状成形物が好ましい。また熱伝導率の観点から、縦糸の高熱伝導繊維が巻き芯に平行になるようにするのが好ましい。重ね合わせ枚数や巻きつけ回数が影響する成形体ブロックの厚み(層に対する垂直方向の厚み)は、特に限定されないが、集積回路素子の大きさから5〜50mmが好ましい。
【0080】
[異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造]
本発明の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートは、上記成形体ブロックを縦糸の100W/mK以上の高熱伝導繊維に対して垂直になる角度にスライスしシート化させることで得られる。成形体ブロックから、異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートを得るための加工方法は、特に限定はなく、様々なスライス加工方法を用いることができる。例えば、回転刃を用いて切り出したり、レーザー加工にてシートを切り出したりすることができる。スライスして切り出したシートの厚みは、好ましくは0.1〜20mm、より好ましくは0.2〜10mmである。シートの厚みを0.1mm以上とすることによりスライス時にシートの形状を維持することが容易となり、20mm以下とすることにより熱抵抗が過度に増大することがない。
【0081】
[異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート]
このようにして得られる異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート5は、図1(B)及び図2(B)に示したように、熱伝導性充填剤を含有するアスカーC硬度2〜30の熱伝導性シリコーンゴム層1と、シリコーンゴム又はシリコーン樹脂が含浸された繊維クロス層2とが交互に並設して設けられたものである。この場合、これら層1,2は互いに5層以上、好ましくは10〜100層、より好ましくは20〜80層が交互に並設されるように形成されることが好ましい。
【0082】
また、熱伝導性シリコーンゴム層1と繊維クロス層2とは、上述したように、体積比率が20:80〜95:5、特に30:20〜90:10であることが好ましいが、各熱伝導性シリコーンゴム層1の幅(P)は0.01〜10.0mm、より好ましくは0.02〜5mm、更に好ましくは0.05〜3mmであることが好ましく、各繊維クロス層2の幅(Q)は0.05〜10mm、より好ましくは0.1〜2mm、更に好ましくは0.1〜1mmであることが好ましい。また、各熱伝導性シリコーンゴム層1の幅(P)と各繊維クロス層2の幅(Q)との割合は、(P):(Q)=20:80〜95:5であることが好ましく、より好ましくは60:40〜90:10である。なお、上記シリコーンゴムシートの厚さは0.1〜20mmが好ましく、より好ましくは0.2〜20mm、更に好ましくは0.2〜10mmである。
【実施例】
【0083】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、粘度は25℃での値を示す。
【0084】
[実施例、比較例]
まず、本発明に係る異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートに用いられる熱伝導性シリコーンゴム層の成分は下記のとおりである。
<熱伝導性シリコーンゴム層>
(a)成分:
下記式で示されるオルガノポリシロキサン
【化1】
(式中、Xはビニル基であり、lは下記粘度を与える数である。)
(A−1)動粘度:600mm2/s
(A−2)動粘度:30,000mm2/s
【0085】
(b)成分:
下記式で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(B−1)
【化2】
【0086】
5質量%塩化白金酸−トルエン溶液(B−2)
【0087】
下記式で示されるオルガノポリシロキサン(B−3)
【化3】
(式中、Xはビニル基である。)
ベンゾイルパーオキサイド(B−4)
【0088】
(c)成分:
平均粒径が5μmの酸化アルミニウム粉末(C−1)
平均粒径が1.5μmの酸化アルミニウム粉末(C−2)
【0089】
[付加硬化型熱伝導性シリコーンゴム層の製造]
25℃における動粘度が600mm2/sであるジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン(A−1)65質量部、25℃における動粘度が30,000mm2/sであるジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン(A−2)35質量部、熱伝導性充填剤として平均粒径が5μmの酸化アルミニウム粉末(C−1)300質量部、及び平均粒径が1.5μmの酸化アルミニウム粉末(C−2)300質量部をプラネタリーミキサーにて室温で20分混練りし、100メッシュのストレーナーにて濾過して仕上げた。
【0090】
その後、5質量%塩化白金酸−トルエン溶液(B−2)0.1質量部を均一に配合し、次いで、付加反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.1質量部、更に、セパレーターとの離型を促す内添離型剤として信越化学工業社製のフェニル変性シリコーンオイルであるKF−54を3質量部添加配合し、上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(B−1)9.5質量部を室温にて1時間均一に混合し、熱伝導性シリコーンゴム組成物とした。
【0091】
なお、比較例1で使用した熱伝導性シリコーンゴム組成物は、ジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン成分をジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したフェニル基を含有するポリシロキサン成分に変更したこと以外は上記熱伝導性シリコーンゴム組成物の調製と同様の手順で調製した。
【0092】
離型処理したポリマーフィルム上に、上記熱伝導性シリコーンゴム組成物を塗布した。120℃に加熱された加熱炉、および巻き取り装置を備えたナイフコーター装置を用いて、熱伝導性シリコーンゴム組成物を硬化させ、離型処理したポリマーフィルムを剥がすことで表面微粘着性の熱伝導性シリコーンゴム層を得た。
【0093】
[有機過酸化物硬化型熱伝導性シリコーンゴム層の製造]
5質量%塩化白金酸−トルエン溶液(B−2)0.1質量部をベンゾイルパーオキサイド(B−4)0.5質量部に変更し、付加反応制御剤及びメチルハイドロジェンポリシロキサンを添加しなかった以外は、上記付加硬化型熱伝導性シリコーンゴム層の製造と同様にして表面微粘着性の熱伝導性シリコーンゴム層を得た。
【0094】
異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートに用いられる繊維クロス層の成分は下記のとおりである。
<繊維クロス層>
(d)成分:
縦糸に黒鉛化炭素繊維(10μm径、500W/mK)、横糸にポリエステル繊維(5μm径)を用いた繊維クロス(平織、200g/m2、縦糸95質量%)(D−1)
【0095】
(e−1)成分:
上記(A−1),(A−2),(B−1),(B−2),(B−3),(B−4)
(e−2)成分:
下記組成式で表されるシロキサン樹脂(E−2−1)
12555220
〔式中、D1はジメチルシロキサン単位(即ち、(CH32SiO2/2)、Tはフェニルシルセスキオキサン単位(即ち、(C65)SiO3/2)、D2はメチルビニルシロキサン単位(即ち、(CH3)(CH2=CH)SiO2/2)を表す。〕
(数平均分子量:約2,000、軟化点:48℃)
【0096】
[繊維クロス充填用付加硬化型シリコーンゴム組成物]
25℃における動粘度が600mm2/sであるジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン(A−1)65質量部、25℃における動粘度が30,000mm2/sであるジメチルビニルシロキシ基で両末端を封止したジメチルポリシロキサン(A−2)35質量部、5質量%塩化白金酸−トルエン溶液(B−2)0.1質量部を均一に配合し、次いで、付加反応制御剤として1−エチニル−1−シクロヘキサノール0.1質量部、上記メチルハイドロジェンポリシロキサン(B−3)5質量部を室温にて1時間均一に混合し、繊維クロスに充填するための液状の硬化性シリコーンゴム組成物を得た。
【0097】
[シリコーンゴム含浸繊維クロス層の製造(1)]
離型処理したポリマーフィルム上に(D−1)繊維クロスを供給(配置)し、上記(D−1)繊維クロスの表面に上記硬化性シリコーン組成物を塗布した後、更に、もう一つの離型処理したポリマーフィルムを繊維クロスの上部から配置し、2枚の離型処理したポリマーフィルムで繊維クロスを挟んだ状態とした。その後、2枚のポリマーフィルムで挟まれた繊維クロスに対して、加熱プレス装置を用い、3MPaの圧力で、120℃、10分の加熱処理を行い、硬化性シリコーン組成物を充填、硬化させて、シリコーンゴムの硬化物で充填された表面微粘着性の繊維クロス層を得た。
【0098】
[繊維クロス充填用有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物]
5質量%塩化白金酸−トルエン溶液(B−2)0.1質量部をベンゾイルパーオキサイド(B−4)0.5質量部に変更し、付加反応抑制剤及びメチルハイドロジェンポリシロキサンを添加しなかった以外は、上記繊維クロス充填用付加硬化型シリコーン組成物の製造と同様にして繊維クロスに充填するための硬化性シリコーンゴム組成物を得た。
【0099】
[シリコーンゴム含浸繊維クロス層の製造(2)]
繊維クロス充填用付加硬化型シリコーンゴム組成物を繊維クロス充填用有機過酸化物硬化型シリコーンゴム組成物に変更した以外は、上記付加硬化型シリコーンゴム組成物によるシリコーンゴム含浸繊維クロス層の製造と同様にして、シリコーンゴムの硬化物で充填された表面微粘着性の繊維クロス層を得た。
【0100】
[熱軟化性シリコーン樹脂含浸繊維クロス層の製造]
100℃のホットプレート上に、離型処理したポリマーフィルムを供給(配置)し、この上に(D−1)繊維クロスを供給(配置)し、更に上述した熱軟化性シリコーン樹脂(E−2−1)を上記(D−1)繊維クロスの上に所定量供給して液状とした後、熱軟化性シリコーン樹脂をバーコートにより繊維クロス上に塗り広げながら含浸させた。次いで、もう一つの離型処理したポリマーフィルムを繊維クロスの上に配置し、2枚の離型処理したポリマーフィルムで繊維クロスを挟んだ状態とした。その後、2枚のポリマーフィルムで挟まれた繊維クロスに対して、加熱プレス装置を用い、3MPaの圧力で、120℃、10分の加熱処理を行い、熱軟化性シリコーン樹脂を充填させて繊維クロス層を得た。
【0101】
[熱伝導性複合シリコーンゴム成形体ブロックの製造]
表1,2に示した厚みの表面微粘着性の熱伝導性シリコーンゴム層(幅35mm、長さ100mm)の一方の面の離型処理したポリマーフィルムを剥がし、熱伝導性シリコーンゴム層上に、一方の面の離型処理したポリマーフィルムを剥がした同表に示した表面微粘着性の繊維クロス層(幅35mm、長さ100mm)を配置することで、1セットの熱伝導性複合シリコーンゴムシートを得た。熱伝導性複合シリコーンゴムシートを同表に示した数を用意し、最表面の離型処理したポリマーフィルム以外は全て剥がし、室温でプレス機にて、0.1MPaの圧力で炭素繊維の向きが一定になるように圧着し、幅35mm×長さ100mm×厚さ35mmの熱伝導性複合シリコーンゴム成形体ブロックを得た。
【0102】
[異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの製造]
上記熱伝導性複合シリコーンゴム成形体ブロックを炭素繊維に対して垂直に丸刃スライサーA70(回転刃、;ハクラ精機(株)社製)を用いて厚み2mmに切り出し、幅35mm×長さ35mm×厚さ2mmの異方熱伝導性シートを得た。
【0103】
[評価手法]
得られた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートについて、下記特性を試験・測定し、評価した。その結果を表1,表2に示した。
【0104】
[熱伝導性シリコーンゴム層の硬度]
得られた熱伝導性シリコーンゴム層を重ねて厚さを10mmとし、アスカーC硬度計で測定した。
【0105】
[異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの圧縮率]
得られた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートに0.3MPaの荷重をかけ、表面硬さと相関のある圧縮率を測定した。
【0106】
[異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの密着性]
得られた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートに0.3MPaの荷重をかけ、これを幅50mm×長さ50mm×厚さ1mmのアルミニウム板に貼り付け、アルミニウム板を垂直に固定し、1時間後の異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートの脱着の有り無しで密着性を評価した。
評価A:脱着なし
評価B:脱着あり
【0107】
[熱抵抗の測定]
得られた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートをASTM−D5470に準拠した方法で、0.3MPaの荷重をかけ、熱抵抗を測定した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表1から明らかなように、各実施例はいずれも圧縮性、密着性に優れ、かつ放熱性に優れた異方熱伝導性複合シリコーンゴムシートとなっている。
また、表2から明らかなように、比較例1のように熱伝導性シリコーンゴム層の硬度が高い場合は、密着性が劣るため放熱特性が格段に劣り、比較例2のように、熱伝導性シリコーンゴム層のみで繊維クロス層が無い場合、放熱特性が格段に劣ることが分かる。
【符号の説明】
【0111】
1 熱伝導性シリコーンゴム層
2 繊維クロス層
3 熱伝導性複合シリコーンゴムシート
4 成形体ブロック
5 異方熱伝導性複合シリコーンゴムシート
図1
図2