特許第6848968号(P6848968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6848968
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20210315BHJP
   G03B 11/00 20210101ALN20210315BHJP
【FI】
   G02F1/15 508
   G02F1/15 504
   !G03B11/00
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-518325(P2018-518325)
(86)(22)【出願日】2017年5月17日
(86)【国際出願番号】JP2017018468
(87)【国際公開番号】WO2017199988
(87)【国際公開日】20171123
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-99757(P2016-99757)
(32)【優先日】2016年5月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾山 卓司
(72)【発明者】
【氏名】小西 哲平
(72)【発明者】
【氏名】田原 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】熊井 裕
【審査官】 竹村 真一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−137747(JP,A)
【文献】 特開平09−185844(JP,A)
【文献】 特表2009−529153(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0002884(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0286334(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15
G03B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電解質層と、
前記透明電解質層を挟持する、一対の固体エレクトロクロミック層と、
さらに、前記一対の固体エレクトロクロミック層を挟持する、一対の透明導電膜と、
前記一対の透明導電膜をそれぞれ支持する透明支持基板と、を備え、
前記一対の固体エレクトロクロミック層は、還元発色型固体エレクトロクロミック層と、酸化発色型固体エレクトロクロミック層と、が対をなして構成され、
前記透明電解質層の厚さをd0、波長550nmの光に対する屈折率をn0とし、前記還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さをd1、波長550nmの光に対する屈折率をn1とし、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層の厚さをd2、波長550nmの光に対する屈折率をn2としたとき、
n0はn1及びn2とそれぞれ異なり、
d0は5μm以上であり、
d1とd2とを、前記還元発色型固体エレクトロクロミック層を含む、前記透明支持基板/前記透明導電膜/前記還元発色型固体エレクトロクロミック層/前記透明電解質層をこの順番に積層した積層体の干渉による分光透過スペクトルにおける、波長550nmに最も近い極大又は極小を示す波長λaと、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層を含む、前記透明電解質層/前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層/前記透明導電膜/前記透明支持基板をこの順番に積層した積層体の干渉による分光透過スペクトルにおける、波長550nmに最も近い極小又は極大を示す波長λb(前記λaが極大の場合には極小に、前記λaが極小の場合には極大に、対応する波長を選定する)が|λa−λb|≦50nmを満たすように設けることを特徴とするエレクトロクロミック素子。
【請求項2】
λ1を550nm、m1を整数部M1が正であるM1±0.3の整数または実数、m2を整数部M2が正であるM2±0.3の整数または実数とするとき、
前記還元発色型固体エレクトロクロミック層の光学膜厚(n1×d1)が(λ1/4)×m1と等しく、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層の光学膜厚(n2×d2)が(λ1/4)×m2と等しく、
前記整数部M1と前記整数部M2は、M1=M2±1、M2±3、M2±5またはM2±7である請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記整数部M1と前記整数部M2は、M1=M2±1である請求項2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、波長380〜780nmの光に対する平均透過率が75%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記エレクトロクロミック素子の消色状態において、波長400nmの光に対する透過率をT400、波長530nmの光に対する透過率をT530、波長630nmの光に対する透過率をT630、としたとき、これら3つの透過率の平均値に対して、それぞれの波長における透過率の値が±10%以内である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記透明電解質層は、液体状またはゲル状の材料を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
前記透明電解質層は、液体状またはゲル状のLi電解質を含む、請求項6に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
前記還元発色型固体エレクトロクロミック層は、WOを含み、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層は、NiOを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
|n0−n1|≧0.2、かつ、|n0−n2|≧0.2を満たす、請求項1〜8のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
|n0−n1|≧0.3、かつ、|n0−n2|≧0.3を満たす、請求項1〜9のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
||n0−n1|−|n0−n2||≦0.2の関係を満足する、請求項9または10に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
前記還元発色型固体エレクトロクロミック層と前記透明電解質層との間と、前記透明電解質層と前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層との間と、の一方若しくは両方に、遮蔽層を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NDフィルタ等の各種光学素子等に適用され、透過率を制御可能なエレクトロクロミック素子に係り、より詳細には、消色状態におけるリップルを抑制したエレクトロクロミック素子に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミック材料はエレクトロクロミック性を有する化合物であり、その電気的状態の変化により透過率が変化する化合物である。このエレクトロクロミック材料の特性を用いて、電圧印加により可視光透過率の変化が制御可能なエレクトロクロミック素子が知られている。このエレクトロクロミック素子は、一般に、上記したエレクトロクロミック材料と電解質が、一対の電極の間に配置されて構成された素子で、例えば、これを応用した製品としては、NDフィルタ等がある。
【0003】
このエレクトロクロミック素子については、消色状態において、可視光透過率の均一性が高いことが好ましい。この均一性を高める方法として、例えば、エレクトロクロミック材料が第1の屈折率、対電極が第2の屈折率、電解質(イオン伝導層)が第3の屈折率を有する場合、第1、第2及び第3の屈折率を実質上等しくすることによって実現しようとする技術は公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3603963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、所望の特性を得るための、エレクトロクロミック材料と電解質材料との組み合わせ自由度を考えると、エレクトロクロミック材料と電解質材料とは、いずれも屈折率が異なる関係の組合せの方が大多数である。そのため、いずれの屈折率も実質上等しいものとする材料の組合せは、極めて選択肢を狭め、素子特性の多様性も得られなくなる。
【0006】
そこで、本発明は、エレクトロクロミック材料と電解質材料の屈折率が異なる場合であっても、消色状態においてリップルを抑制し、良好な可視光透過率が得られるエレクトロクロミック素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレクトロクロミック素子は、透明電解質層と、前記透明電解質層を挟持する、一対の固体エレクトロクロミック層と、さらに、前記一対の固体エレクトロクロミック層を挟持する、一対の透明導電膜と、前記一対の透明導電膜をそれぞれ支持する透明支持基板と、を備え、前記一対の固体エレクトロクロミック層は、還元発色型固体エレクトロクロミック層と、酸化発色型固体エレクトロクロミック層と、が対をなして構成され、前記透明電解質層の厚さをd0、波長550nmの光に対する屈折率をn0とし、前記還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さをd1、波長550nmの光に対する屈折率をn1とし、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層の厚さをd2、波長550nmの光に対する屈折率をn2としたとき、n0はn1及びn2とそれぞれ異なり、d0は5μm以上であり、d1とd2とを、前記還元発色型固体エレクトロクロミック層を含む、前記透明支持基板/前記透明導電膜/前記還元発色型固体エレクトロクロミック層/前記透明電解質層をこの順番に積層した積層体の干渉による分光透過スペクトルにおける、波長550nmに最も近い極大又は極小を示す波長λaと、前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層を含む、前記透明電解質層/前記酸化発色型固体エレクトロクロミック層/前記透明導電膜/前記透明支持基板をこの順番に積層した積層体の干渉による分光透過スペクトルにおける、波長550nmに最も近い極小又は極大を示す波長λb(前記λaが極大の場合には極小に、前記λaが極小の場合には極大に、対応する波長を選定する)が|λa−λb|≦50nmを満たすように設けることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態であるエレクトロクロミック素子の概略構成図。
図2】本発明の一実施形態であるエレクトロクロミック素子の概略構成図。
図3】例1で得られたシュミレーションデータを示した図。
図4】例2で得られたシュミレーションデータを示した図。
図5】例3で得られたシュミレーションデータを示した図。
図6】例4で得られたシュミレーションデータを示した図。
図7】例5で得られたシュミレーションデータを示した図。
図8】例6で得られたシュミレーションデータを示した図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のエレクトロクロミック素子について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
(エレクトロクロミック素子)
本発明の一実施形態に係るエレクトロクロミック素子の断面図を図1に示した。図1に示したエレクトロクロミック素子100は、透明電解質層110と、透明電解質層110を挟持する、一対の固体エレクトロクロミック層(還元発色型固体エレクトロクロミック層120,酸化発色型固体エレクトロクロミック層130)と、さらに、一対の固体エレクトロクロミック層を挟持する、一対の透明導電膜140と、を備える。また、透明導電膜140は透明支持基板150で支持される。
【0011】
<透明電解質層>
透明電解質層110は、エレクトロクロミック現象に関与するイオン(H+、Li+、Na+、Ag+、K+といったカチオンあるいはOH−タイプのアニオン)を、エレクトロクロミック層120,130へ可逆的かつ同時に移動可能とするとともに、電子の移動を遮蔽できるものであり、透明材料から形成される。
【0012】
この透明電解質層110を形成する材料としては、上記の機能を有し、化学的、電気的に比較的安定なものであればよい。このような材料としては、有機系材料、無機系材料、有機系と無機系の複合系材料が挙げられる。また、これら材料は、固体状、ゲル状、液体状の形態のいずれも使用できる。
【0013】
ゲル状の電解質材料としては、例えば、炭化水素系プロトン伝導ポリマーや、これらのフッ素置換系プロトン伝導ポリマー、リチウムイオン伝導ポリマーなどのプロトン伝導を示すポリマーが挙げられる。
【0014】
このようなゲル状の電解質材料は、例えば、(i)酸性官能基と塩基性官能基を有する化合物及びイオン化可能な塩を含んでなる共融混合物と、(ii)重合反応によりゲル状ポリマーを形成可能な単量体を含有する電解質前駆体液と、を重合させて得られる。
【0015】
ここで用いる(i)共融混合物は、電解質構成成分として使用される。一般に、共融混合物は、蒸気圧がないため、電解質の蒸発及び枯渇の問題がなく、非常に安定しており、本エレクトロクロミック素子内での副反応を抑制できる。この共融混合物としては、例えば、アセトアミドやウレアなどのアミド系化合物とイオン化可能な塩との共融混合物が挙げられ、イオン化可能な塩を形成するカチオン成分としては、テトラアンモニウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムなどが好ましく、アニオン成分としては、チオシアネート、フォーメート、アセテート、ナイトレート、パークロレート、スルファート、ハイドロキサイド、アルコキシド、ハロゲン化物、カーボネート、オキサレート、テトラフルオロボレートなどが好ましい。
【0016】
さらに、(ii)電解質前駆体液中に含まれる単量体としては、その単量体の重合反応によりゲル状のポリマーが形成可能であれば特に限定されず、様々な種類の単量体が適用できる。このような単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、メタクリロニトリル、メチルスチレン、ビニルエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリルアミド、テトラフルオロエチレン、ビニルアセテート、ビニルクロライド、メチルビニルケトン、エチレン、スチレン、パラメトキシスチレン、パラシアノスチレンなどが挙げられる。
【0017】
このような単量体としては、さらに、例えば、メタクリル酸β−ヒドロキシエチルと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸との共重合体、含水メタクリル酸メチル共重合体のような含水ビニル重合体、含水ポリエステル、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。また、ポリエーテルケトン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリイミド系、ポリベンザゾール系の芳香環を主鎖骨格に有し、スルホン酸基を有する芳香族炭化水素系ポリマーなども挙げられる。フッ素ポリマーとしては、具体的には、フレミオン(登録商標)(旭硝子社製、商品名)、Nafion(登録商標)(デュポン社製、商品名)、アシプレックス(登録商標)(旭化成社製、商品名)などが例示できる。
【0018】
また、イオンの良伝導性の観点からリチウムイオンLi+の場合、Li含有もしくは非含有の金属酸化物又は金属酸化物の混合物などから選択でき、酸化ニッケル(NiOx)(0<x≦1.5)、リチウムを含む酸化ニッケル(LixNiO2)(0≦x≦1)、チタン及びセリウム酸化物の混合物(CeTiOx)(0<x≦4)、酸化タングステン(WO3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化バナジウム(V2O5)、リチウムを含む酸化バナジウム(LixV2O5)(0<x≦2)などが例示できる。
【0019】
このような電解質材料としては、固体状、ゲル状、液体状の形態のいずれも使用できる。この中でも、イオンの移動速度が高められ発消色の応答特性の観点から、またシール封止への適用が容易であり信頼性の観点から液体状、ゲル状の形態が好ましく用いられる場合が多い。
【0020】
液体状の電解質としては、イオン性物質を水に溶解させた水系電解質、有機溶媒に溶解させた有機系電解質が挙げられるが、信頼性の観点から有機系電解質が好ましい。有機系電解質に適用する電解質材料中で移動するイオンとしてはLi+、Na+、K+などが挙げられるが、応答速度の観点から電気伝導率が最も高いLiイオン系が好ましい。
【0021】
液体状Li系電解質の構成としては、Liイオン注入に携わる支持電解質としてLi塩とその塩を溶解する極性溶媒から構成され、必要に応じて粘度調整のための、同溶媒に可溶なポリマーなどが添加されてもよい。また、この電解質に重合性化合物を混合し、既に固体エレクトロクロミック層が形成された素子の空セルに注入などした後、UV光や熱などで硬化させてもよい。
【0022】
Li塩としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド)、LiI、LiBF4、CF3SO3Li、CF3COOLiなどのアルカリ金属塩が挙げられ、電解質溶媒の非制限的な例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、メトキシプロピオニトリル、3−エトキシプロピオニトリル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミドなど、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0023】
また、近年開発が盛んであるイオン性液体などもLi系電解質の極性溶媒として適用できる。イオン性液体はカチオン部位と対アニオン部位から構成されており、カチオン部位としては、イミダゾリウム系、アルキルアンモニウム系、ピリジニウム系、ピロリジニウム系、ホスホニウム系等が挙げられる。対アニオン部位としては、ハロゲン、AlCl4−,PF6−,TFSI−などが挙げられる。この中で、イオン伝導度の観点から1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビストリフルオロメタンスルホンイミドなどが知られているが、これに限定されない。
【0024】
上述の電解質材料は、さらに、それらの水和度を増大させる親水性のある添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、W、Re等の金属が好ましく挙げられ、Li、Na、Kタイプのアルカリ金属も使用可能である。これら添加剤は、好ましくは層を形成する材料に対してわずか数重量%に相当する添加量でその効果を発揮する。
【0025】
以上、透明電解質層110に使用する材料は、その両側に位置する、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の材料、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の材料への影響がなく、これらの両層との間で密着でき、かつ、透明な材料から選択することが好ましい。
【0026】
<固体エレクトロクロミック層>
固体エレクトロクロミック層は、電圧を印加して発色、消色を可逆的に制御できる光吸収可変部として機能する。この固体エレクトロクロミック層は、消色時において透過率が高く透明性が高くなり、発色時において透過率が低下し、遮光性が高くなる。
【0027】
この固体エレクトロクロミック層は、それぞれ異なる種類の固体エレクトロクロミック材料が透明電解質層110を挟むように設けられ、一方を還元発色型固体エレクトロクロミック材料で形成された層、他方を酸化発色型固体エレクトロクロミック材料で形成された層とすればよい。図1においては、還元発色型固体エレクトロクロミック層120と酸化発色型固体エレクトロクロミック層130が、エレクトロクロミック素子100における光吸収可変部を構成する。
【0028】
本実施形態においては、上記のような還元発色型固体エレクトロクロミック層120と酸化発色型固体エレクトロクロミック層130とを組み合わせて使用する。そうすることで、エレクトロクロミック素子100の光吸収特性が、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の発色と酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の発色とを組み合わせた特性を発揮でき、上記2種の固体エレクトロクロミック層のうち1種を単独で使用するよりもニュートラル色に近い色合いが実現できる。なお、本実施形態において光とは、特にことわりがない限り、波長が380〜780nmの範囲における可視光を意味する。
【0029】
還元発色型固体エレクトロクロミック材料としては、例えば、三酸化タングステン(WO3)、三酸化モリブデン(MoO3)が挙げられる。これらの材料は、それぞれ単独で使用してもよいし、発色時の色調を変化させるため、2種類以上の材料を複合化して使用してもよく、複合酸化物とすることによって、消色時の分光透過率のフラット化や、発色時の吸収帯の制御など、が可能となる。また、広い波長帯においてニュートラルな色調に近づけるため、還元発色型固体エレクトロクロミック材料は、TiO2等、色調を補正する添加剤を含んでもよく、この場合、還元発色型固体エレクトロクロミックの可視光波長帯域の吸収がフラットに近づく。
【0030】
酸化発色型固体エレクトロクロミック材料としては、例えば、Ni、Ir、Cr、V、Mn、Cu、Co、Fe、W、Mo、Ti、Pr及びHfから選ばれる金属を含有する酸化物、水酸化物又は水和酸化物が挙げられる。さらに、これら酸化物、水酸化物又は水和酸化物は、Li、Ta、Sn、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Nb、Zr、In、Sb及びSiから成る群から選ばれる1種または2種以上の元素との複合酸化物、複合水酸化物、複合水和酸化物でもよい。さらに、これら酸化発色型固体エレクトロクロミック材料を、ITO、ZnO、MgF2、CaF2等の分散媒に分散させて得られる分散体としてもよい。この酸化発色型固体エレクトロクロミック材料は、その酸化発色状態及び還元消色状態における透過率やその波長分散状態などを勘案し、使用する材料を決めればよい。
【0031】
<透明導電膜>
透明導電膜140は、上記透明電解質層110を挟持する一対の固体エレクトロクロミック層を、さらに挟持する一対の部材であり、この一対の透明導電膜140に電位差を生じさせることで、透明導電膜140間に電圧を印加できる。
【0032】
この透明導電膜140を形成する材料としては、例えば、Ag、Crなどの薄い金属膜、酸化スズ、酸化亜鉛、他の酸化物に微量の成分をドープした酸化スズ(SnO2)、ITO、FTO、IZO、酸化インジウム(In2O5)等の金属酸化物又はこれらの混合物が挙げられる。透明電極膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、電子ビーム真空蒸着法、スパッタリング法を使用できる。
【0033】
この透明導電膜140は、そのシート抵抗が高過ぎると、固体エレクトロクロミック層に必要な電流がロスして、面内の均一性が低下する、発消色のダイナミックレンジが低下する、発色と消色の間で状態が変化するまでの応答時間が遅くなる等の理由から、シート抵抗値は、できるだけ低いことが好ましい。具体的には、素子の大きさにもよるが、100Ω/□以下が好ましく、50Ω/□以下がより好ましく、10Ω/□以下がさらに好ましい。透明導電膜140の厚さは、透明導電膜の可視光透過率を勘案し0.01〜0.5μmが好ましい。
【0034】
〈透明支持基板〉
エレクトロクロミック素子は、通常、その片面又は両面に透明支持基板を有し、図1はそれが両面に備えられる構成を例示した。透明支持基板150により、エレクトロクロミック素子100の形状を安定して保持できる。透明支持基板150は、透明性を有し、かつ、所定の強度があれば限定されず、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂が使用できる。
【0035】
ここで、ガラスとしては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、赤外線カットガラスとして、フツリン酸塩系ガラスやリン酸塩系ガラス等にCuO等を添加した光吸収特性を有するガラスも挙げられる。
【0036】
樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィン等の熱可塑性樹脂や、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の熱硬化性樹脂が挙げられる。さらに、インプリント等で凹凸成形体とする場合は、アクリルやエポキシなどのエネルギー線硬化性樹脂を使用できる。
【0037】
透明支持基板の厚さは限定されず、軽量化、薄肉化の観点より、透明支持基板を片面のみに備える場合、0.01〜1mmが好ましく、0.03〜0.1mmがより好ましい。
【0038】
また、上記したエレクトロクロミック素子100の両面に透明支持基板を備える場合、各透明支持基板の厚さは0.01〜0.1mmが好ましく、0.01〜0.03mmがより好ましく、0.01〜0.02mmがさらに好ましい。なお、両面の各透明支持基板の厚さが同じであれば、基板の反りなどを抑制でき好ましい。また、機械的強度の観点から、この両面の透明支持基板で挟持したエレクトロクロミック素子を適用製品の要素部材の一部に貼り合わせて使用してもよい。このように、透明支持基板は、機械強度が強く、大気中の酸素、水分などの遮蔽能力が高い材料が好ましく使用できる。
【0039】
〈透明電解質層及び固体エレクトロクロミック層の物理的特性〉
次に、本実施形態において、上記透明電解質層110と固体エレクトロクロミック層との物理的特性(特に、屈折率及び光学膜厚)に関する組み合わせについて説明する。
【0040】
ここで、透明電解質層110の厚さをd0、波長550nmの光に対する屈折率をn0、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の厚さをd1、波長550nmの光に対する屈折率をn1、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の厚さをd2、波長550nmの光に対する屈折率をn2、とする。このとき、屈折率n0は、屈折率n1,n2といずれも異なるように選定する。なお、屈折率n1と屈折率n2とは同一でも異なってもよい。
【0041】
まず、透明電解質層110の厚さd0は、エレクトロクロミック素子100の特性に応じて適宜決定できる。透明電解質層110の厚さd0は、一対の固体エレクトロクロミック層同士の光学干渉を抑制でき安定した光学特性を得るため、5μm以上であればよく、6μm以上が好ましい。また、厚さd0は、必要以上に光吸収を増大させて透過率を低減させないため、また、応答速度を低下させないために、10μm以下であればよく、9μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましい。
【0042】
さらに、屈折率n0と屈折率n1との差の絶対値(|n0−n1|)は、材料選択の自由度が大きくできる関係から、0.1超が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。また、屈折率n0と屈折率n2との差の絶対値(|n0−n2|)も、材料選択の自由度が大きくできる関係から、0.1超が好ましく、0.2以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。なお、これら絶対値の差は互いに近い値であることが好ましく、例えば、これら絶対値の差の絶対値(||n0−n1|−|n0−n2||)は0.2以下が好ましい。
【0043】
また、エレクトロクロミック素子100は、入射する光に対して上下の固体エレクトロクロミック層を含む多層膜において発生する分光透過スペクトルの起伏が互いに打ち消し合うように設計すればよい。例えば、酸化発色型固体エレクトロクロミック層を含む、「透明支持基板/透明導電膜/酸化発色型固体エレクトロクロミック層/透明電解質層」をこの順番に積層した積層体の透明支持基板側からの光の入射時の干渉による分光透過スペクトルにおいて、波長550nm付近の波長λaに極大値を有する場合、還元発色型固体エレクトロクロミック層を含む「透明電解質層/還元発色型固体エレクトロクロミック層/透明導電膜/透明支持基板」をこの順番に積層した積層体の透明電解質側からの光の入射時の干渉による分光透過スペクトルにおいて、波長550nm付近の波長λbに極小値を有し、|λa−λb|≦50nmとなるようにd1及びd2を調整するとよい。また、この値は、40nm以下がより好ましく、30nm以下がさらに好ましい。
このとき、波長550nm付近の極大値となる波長λaは、上記の分光透過スペクトルに現れている極大の中で最も550nmに近い波長である。ここで、組み合わされる波長λbは、上記の分光スペクトル中に現れている極小の中で最も550nmに近い極小の波長である。
なお、上記の例の分光透過スペクトルにおいて、前者が極小値、後者が極大値の関係となるように調整してもよい。その際には、波長550nm付近の極小値となる波長をλa、極大値となる波長をλbと読み替えて適用すればよい。すなわち、還元発色型固体エレクトロクロミック層を含む側の積層体における極大値又は極小値の波長をλa、酸化発色型固体エレクトロクロミック層を含む側の積層体における極小値又は極大値の波長をλb
とする。
【0044】
また、本実施形態において、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の光学膜厚(n1×d1)は、(λ1/4)×m1と等しいものとする(ただし、ここでλ1は550nm、m1は正の実数)。また、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の光学膜厚(n2×d2)は、(λ1/4)×m2と等しいものとする(ただし、ここでλ1は550nm、m2は正の実数)。
【0045】
そして、上記関係を満たすm1とm2は、それぞれ、ある正の整数M1及びM2によりM1−0.3≦m1≦M1+0.3、M2−0.3≦m2≦M2+0.3で表され、このときM1とM2は、その差(M1−M2)が±1、±3、±5または±7の奇数となる関係を満たすものとする。M1とM2がこの関係を満たす際に、消色状態におけるリップルを効果的に抑制できる。このとき、リップルの抑制の観点から、M1とM2との差は小さい方が望ましく、±1が好ましい。これは、m=Mの時に対応する波長λでエレクトロクロミック層自体の干渉が極大(Mが偶数)又は極小(Mが奇数)となるためである。したがって、上述のように、エレクトロクロミック層を含む多層膜からの透過スペクトルがこの波長で極大又は極小となり、これらを極大と極小の組み合わせとすることで上下の干渉を打ち消し合うことができる。
【0046】
このように還元発色型固体エレクトロクロミック層120と酸化発色型固体エレクトロクロミック層130とを、上記関係を満たすことで、互いの分光透過スペクトルの特性をずらして、足し合わせたときに相殺させてエレクトロクロミック素子100の消色状態におけるリップルを抑制できる。
【0047】
〈遮蔽層〉
また、本実施形態において、還元発色型固体エレクトロクロミック層120と透明電解質層110との間、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130と透明電解質層110との間、の少なくとも一方に(不図示の)遮蔽層を形成してもよい。遮蔽層は、各層間におけるイオンの移動を妨げない透明材料からなり、透明電解質層110、還元発色型固体エレクトロクロミック層120及び酸化発色型固体エレクトロクロミック層130とは化学的に不活性な材料で形成されるとよい。
【0048】
還元発色型固体エレクトロクロミック層120は、透明電解質層110のプロトン伝導イオンに由来する水分により変質劣化したり、また、酸化発色型固体エレクトロクロミック層は、酸性で変質劣化したりするおそれがある。そのため、特にスルホン酸基やカルボン酸基などの酸性基がもつ酸性水和イオンなどにより、エレクトロクロミック層から徐々に金属イオンが溶出してしまう場合があるが、この遮蔽層を各層の間に形成しておくと、そのような不具合を抑制できる。
【0049】
換言すると、遮蔽層は、透明電解質層110が還元発色型固体エレクトロクロミック層120及び/又は酸化発色型固体エレクトロクロミック層130と直接接触することなく、それぞれの層を長期間にわたる安定的な駆動を助長でき、エレクトロクロミック素子の信頼性を向上できる。
【0050】
また、本実施形態のエレクトロクロミック素子は、遮蔽層を有する場合、例えば、酸化発色型固体エレクトロクロミック層を含む、「透明支持基板/透明導電膜/酸化発色型固体エレクトロクロミック層/遮蔽層/透明電解質層」をこの順番に積層した積層体の透明支持基板側からの光の入射時の干渉による分光透過スペクトルにおいて、波長550nm付近の波長λaに極大値を有する場合、還元発色型固体エレクトロクロミック層を含む「透明電解質層/遮蔽層/還元発色型固体エレクトロクロミック層/透明導電膜/透明支持基板」をこの順番に積層した積層体の透明電解質側からの光の入射時の干渉による分光透過スペクトルにおいて、波長550nm付近の波長λbに極小値を有し、|λa−λb|≦50nmとなるようにd1及びd2を調整するとよい。そして、遮蔽層を有する場合であっても、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の光学膜厚(n1×d1)は、(λ1/4)×m1と等しいものとし、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の光学膜厚(n2×d2)は、(λ1/4)×m2と等しいものとする。
【0051】
なお、前述した、「透明支持基板/透明導電膜/酸化発色型固体エレクトロクロミック層/透明電解質層」および「透明電解質層/還元発色型固体エレクトロクロミック層/透明導電膜/透明支持基板」の表現は、任意に含む「遮蔽層」の有無は不問と解釈し、「遮蔽層」を明確に含む場合は、「透明支持基板/透明導電膜/酸化発色型固体エレクトロクロミック層/遮蔽層/透明電解質層」のように「遮蔽層」を含む表現とする。
なお、遮蔽層以外の膜をさらに追加して設けてもよい。その場合には、上記積層体において追加した膜を考慮して波長λa、λbを同様の方法で決定すればよい。
【0052】
なお、いずれか一方に遮蔽層を設ける場合、比較的安定性に劣る酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の側、すなわち、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130と透明電解質層110との間に配置することで、信頼性の向上が得られやすい。また、エレクトロクロミック素子の信頼性をより高めるためには、両方に設けることが好ましい。遮蔽層を構成する材料としては、種々の酸化物や窒化物を使用できる。
【0053】
(光学特性)
以下、エレクトロクロミック素子100の光学特性について説明する。
まず、還元発色型固体エレクトロクロミック層120が負極性、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130が正極性となるよう電圧VとしてV=V1を印加することにより、両固体エレクトロクロミック層が共に発色状態となり、本エレクトロクロミック素子の全駆動面積領域で可視光を遮光する状態となる。なお、後述する(両)端子とは、一対の透明導電膜140に相当する。
【0054】
ここで、還元発色型固体エレクトロクロミック層120、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の両端子間の電圧VとしてV=V2(ただし|V2|<|V1|)を印加することにより、両固体エレクトロクロミック層の発色状態が共に消色傾向となる。このとき、電圧の絶対値が小さくなるにしたがい、消色傾向となっていく。
【0055】
また、上記の端子間電圧が逆極性となるよう、還元発色型固体エレクトロクロミック層120が正極性、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130が負極性となるよう電圧VとしてV=V3を印加することにより、両固体エレクトロクロミック層が共に完全に消色状態となり、本エレクトロクロミック素子の全駆動面積領域で可視光を透過する状態となる。
【0056】
本エレクトロクロミック素子において、印加電圧Vの最大値は、副反応が起きて本素子の安定性を損なわないよう過電圧を越えない範囲でできるだけ高電圧に設定することで、より強い発消色状態へ、より高速に可変到達できる。実際の最大印加電圧は、エレクトロクロミック素子に求められる特性に応じて選択すればよいが、一般に±3V以内、好ましくは±2V以内、より好ましくは±1.5V以内でエレクトロクロミック素子の安定性と高速可変が得られるよう制御できるとよい。
【0057】
本エレクトロクロミック素子において、発色状態であって本素子の全駆動面積領域で可視光を遮光する状態、消色状態であって本素子の全駆動面積領域で可視光を透過する状態と、その中間状態とを、外部から電圧(V)により制御する場合、還元発色型固体エレクトロクロミック層120の厚さd1、酸化発色型固体エレクトロクロミック層130の厚さd2は、本素子に必要な光学濃度(OD値)も勘案して設定することが好ましい。これらの厚さが厚いほど遮光性能は高まるが、一方で必要とする電荷量が増すため、必要とする電圧(V)が高くなり前述のようにエレクトロクロミック素子の安定性を損なったり、光量変化する応答特性が遅くなったりするおそれがある。
【0058】
なお、ここで波長λ(nm)における光学濃度(OD値(OD(λ))は、以下のように定義される。
OD(λ)=Log10{PI(λ)/PT(λ)}=−Log10T(λ)
ここで、λは特定波長を表し、PI(λ)は(波長λの)入射光量、PT(λ)は(波長λの)透過光量、Tは透過率を表し、OD値が大きいほど減衰率が大きくなる。ここで、透過率を評価する波長については、可視域の適当な値を選択できるが、632nmは容易に入手できるHe−Neレーザーの波長であるとともに、人間の目の感度の3刺激値の内の赤に相当する波長であるためにこの波長を用いることが多い。
【0059】
本実施形態において、透明電解質層を介して還元発色型固体エレクトロクロミック層と酸化発色型固体エレクトロクロミック層の両層が、電圧印加によって相補的に発色する。そのため、固体エレクトロクロミック層が単独で発消色する系に比べ、波長632nmにおける透過率が80%以上となる消色透過状態、また透過率が50%程度となる中間透過状態、また透過率が10%以下となる発色遮光状態のいずれにおいても、可視光透過率の波長分散がフラットに近くでき好ましい。
このとき、エレクトロクロミック素子の消色状態において、波長380〜780nmの光に対する平均透過率は、75%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。
【0060】
そして、このようにして得られるエレクトロクロミック素子100は、その可視光透過率がより均一なものが好ましい。この均一性については、いくつかの評価方法がある。例えば、可視域における透過率の偏差(標準偏差や平均偏差、変動率等)が所定の範囲を満たしたり、特定の波長における透過率(例えば、RGBの各波長における透過率)の差が所定の範囲を満たしたりする、等が挙げられる。
【0061】
この標準偏差としては、例えば、可視域を含む波長380〜780nmの光に対する透過率のサンプリング数をNとし、短波長側から長波長側へ任意の波長幅で順番に分光透過率を測定することで得られる透過率から求められる標準偏差が挙げられる。この標準偏差を求めるため、得られる標準偏差の信頼性、測定数の増加による煩雑さを回避すること、等の観点から、上記測定における波長幅を380〜780nmの範囲で波長間隔を10nm以下で行うことが好ましい。
【0062】
ここで、分光透過スペクトルの平均値Tm、標準偏差σ、変動係数Tcvは、上記測定により得られた透過率から、それぞれ次の式(1)〜(3)で求められる。
【数1】
【数2】
【数3】
(ただし、式中、Nはサンプリング数、xiは低波長側からの測定順i番目の測定における透過率、である。)
【0063】
こうして得られた標準偏差や変動率は、数値が小さいほど透過率の平均値からのばらつきが少ないため好ましい。
【0064】
また、特定の波長における透過率(例えば、RGBの各波長における透過率)を考えた場合、各波長における透過率の差が小さければ、その色調がある特定の色に偏らず、バランスがとれていることを示すことになる。そのため、この各波長の透過率は所定の範囲内が望ましい。例えば、消色時において、RGBに対応する波長における透過率の平均値に対してRGBそれぞれの波長における透過率が±10%の範囲内が望ましい。具体的には、例えば、波長400nmの光に対する透過率をT400、波長530nmの光に対する透過率をT530、波長630nmの光に対する透過率をT630、としたとき、これらの透過率の平均値に対して、上記3つのそれぞれの波長に対する透過率の値が±10%以内であることが好ましく、±8%以内がより好ましく、±5%以内がさらに好ましい。
【0065】
このように、本実施形態によれば、印加電圧に応じてエレクトロクロミック素子の透過率が可逆的に制御可能なエレクトロクロミック素子が得られる。この透過率の制御は、両透明導電膜間に電圧を印加することにより、還元発色型固体エレクトロクロミック層と酸化発色型固体エレクトロクロミック層の両層において発消色(光の吸収量)を可逆的に変化制御することで達成できる。
【0066】
上記の実施の形態においては、透過率の可変範囲を大きく、かつ広く可視域にわたって色調がニュートラルである観点から、エレクトロクロミック素子系内に還元発色型固体エレクトロクロミック層と酸化発色型固体エレクトロクロミック層を相対して存在させたものである。
【0067】
また、本実施形態のエレクトロクロミック素子100は、透明電解質層110、還元発色型固体エレクトロクロミック層120及び酸化発色型固体エレクトロクロミック層130における厚さ、光学膜厚を所定の関係を満たすことで、消色状態におけるリップルを抑制でき、良好な透過色が得られる。
【0068】
(エレクトロクロミック素子の製造方法)
本実施形態のエレクトロクロミック素子は、上記、例示した実施形態に限らず、積層される還元発色型固体エレクトロクロミック層、酸化発色型固体エレクトロクロミック層、その層間に位置する透明電解質層及び遮蔽層は、スパッタリング、真空蒸着、イオンプレーティング、パルスレーザ蒸着などドライ成膜してもよいし、ゾル−ゲル系材料をウエット成膜後硬化させ形成してもよい。また、これらドライ成膜、ウエット成膜の両方が適時混在してもよい。材料が酸化物あるいは複合酸化物であれば、積層対象物に直接成膜でき、成膜後、例えば電解液中で陽極酸化により酸化物とすることもでき、金属ターゲットを酸素雰囲気下で反応性スパッタリングすることでも得られる。
【0069】
透明支持基板への還元発色型固体エレクトロクロミック層、酸化発色型固体エレクトロクロミック層、その層間に位置する透明電解質層及び遮蔽層の成膜は、片面の透明支持基板上に順次積層してもよいし、各々の透明支持基板上に還元発色型固体エレクトロクロミック層と酸化発色型固体エレクトロクロミック層を別々に成膜のうえ、透明電解質(層)を介して合わせ密着させてもよい。
【0070】
また、本エレクトロクロミック素子は、両側の透明電極付き透明支持基板各々の上に還元発色型固体エレクトロクロミック層と酸化発色型固体エレクトロクロミック層を別々に成膜のうえ、透明電解質(層)を介して合わせ密着させる製法に替えて、シールを介して空セルを形成し、液体状の透明電解質を減圧化で注入して得てもよい。この場合、前述の固体系あるいは半固体系の透明電解質を介して密着合わせする必要がないため、液体状の電解質を用いても漏れ等による劣化の懸念はなく、事前に密閉性の高い空セルを形成して、高信頼性のエレクトロクロミック素子を作製できる。
【0071】
ここで、減圧注入する液体状の透明電解質は、前述のとおり、信頼性の観点から有機系電解質が好ましく、さらに応答速度の観点からイオン伝導度が高いLi系が好ましい。
【0072】
このように液体状の電解質を用いて得られるエレクトロクロミック素子100aは、図2に示したように、液体状の透明電解質層110aと、透明電解質層110aを挟持する、一対の固体エレクトロクロミック層(還元発色型固体エレクトロクロミック層120,酸化発色型固体エレクトロクロミック層130)と、さらに、一対の固体エレクトロクロミック層を挟持する、一対の透明導電膜140と、を備えてなる。また、透明導電膜140は透明支持基板150で支持されている。ここで、電解質が液体の場合、該電解質を内部に保持できるよう、透明支持基板150間に壁材160を四方に設けてセルを形成する。ここで、図2のエレクトロクロミック素子100aは、透明電解質として液体状の透明電解質を用い、それに伴い、内部に液体状の透明電解質を保持するように壁材160を設けた点が、図1のエレクトロクロミック素子100と異なるだけで、それ以外の構成は同じである。
【0073】
なお、本エレクトロクロミック素子は、大気中の酸素、水分を遮断して長期間安定駆動させるため、保護膜を備えてもよい。例えば、1枚の透明支持基板上に積層した構成の本エレクトロクロミック素子の(透明支持基板と対向する側の)上面及び側面に接着剤の必要量を塗布して覆い、他の光学部材と貼り合せ封止してもよい。
【0074】
また、2枚の透明支持基板150間に狭持した構成の本エレクトロクロミック素子100では、必要に応じてスペーサを含有した接着剤を、支持基板内の本素子周辺部を覆うように塗布して、封止もできる。
【0075】
ここで使用する封止材は、公知の熱硬化もしくは光硬化の接着剤を単独もしくは組み合わせて使用できる。具体的にはシリコーン系やアクリル系、エンチオール系等の炭素−炭素不飽和二重結合を有する官能基をもつ系のほか、エポキシ系のような開環反応を起こす重合性化合物も使用できる。このような化合物は重合収縮が小さいため、成形型により精密成形を可能にするだけでなく、反りを低減できる。封止材は、2官能以上の多官能化合物を含むとより好ましい。
【0076】
透明支持基板を備えた本エレクトロクロミック素子を作製する際は、透明支持基板を補強するため、それよりも厚さのある補強支持基材を仮着してもよい。補強支持基材を用いる場合、各固体エレクトロクロミック層を成膜した2枚の透明支持基板を積層したり、予め空セルを形成したりした後、仮着している補強支持基材を剥離することで、総厚さの薄いエレクトロクロミック素子が得られる。仮着には、後で剥離等を可能にする、一時的に接着できる公知の樹脂等が使用できる。
【0077】
補強支持基材付きの透明支持基板上に、各固体エレクトロクロミック層を成膜するプロセスにおいて、その成膜温度、その後の焼成温度、さらに各固体エレクトロクロミック層を成膜した基板を対向させて空セルを形成する際のシール硬化温度などが、例えば150〜350℃程度の高温を必要とする場合、透明支持基板と仮着するために使用している樹脂等との剥離強度が変化するおそれがある。したがって、プロセス上そのような高温条件に晒される場合、補強支持基材と透明支持基板の固定位置のずれがないよう、また強く固着し過ぎて剥離する際、透明支持基板が破損することがないよう、仮着に使用する樹脂等を選択すればよい。
【0078】
仮着に使用する樹脂は、具体的には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが例示され、耐熱性、仮着強度、剥離性に優れるシリコーン樹脂が好ましい。
(参考文献:国際公開第2014−103678号)
【0079】
また、透明支持基板は、予め機械強度が維持できる厚さのものを準備して、エレクトロクロミック素子を完成させた後、両側の透明支持基板を、物理的研磨もしくは化学的研磨(エッチング)によりスリミングさせ、所望の総厚さの薄いエレクトロクロミック素子を得てもよい。
【0080】
具体的には、本エレクトロクロミック素子の総厚さを勘案して、使用する各透明支持基板の厚さが0.5〜0.7mmとし、本素子を構成する各透明支持基板の厚さとして、0.01〜0.03mmの範囲まで、さらに必要に応じて、0.01〜0.02mmの範囲までスリミング処理するとよい。スリミング処理前の透明支持基板の厚さが0.5〜0.7mmあれば、各エレクトロクロミック層を積層した各透明支持基板を対向させ空セルを事前に作製でき、さらに必要に応じて対向させた透明支持基板の外周部を外周シールしたうえで、液状の電解質を空セル中に安定して注入できる。そして、液状の電解質を空セル中に注入して注入孔を封止した後に、例えば0.06mm以下の所望のエレクトロクロミック素子厚となるまで両面同時にスリミング処理すればよい。
【0081】
化学的研磨(エッチング)によるスリミングの場合、フッ酸を含有するエッチング液が一般的であるが、透明支持基板が無アルカリガラスの場合など、必要に応じてエッチング液組成を選択すればよい。(参考文献:特許第5423874号公報)
【0082】
以上説明したエレクトロクロミック素子は、NDフィルタ等に適用できる。
本素子を撮像装置用のNDフィルタとして用いる場合、カメラ等の撮像装置内の撮像素子に組み込むことで、撮像素子のゲインを下げることなく、光量を調節できる。本素子を用いた撮像装置としては、本素子が撮像光学系に組み込まれても、撮像装置本体に組み込まれてもよい。
撮像光学系にエレクトロクロミック素子を組み込む場合、被写体と撮像光学系との間、撮像光学系と撮像素子との間、撮像光学系を形成するレンズの間のいずれに用いられてもよい。この場合のエレクトロクロミック素子の駆動は、本体が有する駆動回路からの信号によって駆動する場合が例示される。
【実施例】
【0083】
本発明のエレクトロクロミック素子について、実施例に基づいて詳細に説明する。
(例1)
透過率シミュレーションソフト(ここでは内製したThin Film Center社のEssential Macleod相当のソフト)を用い、図1に示したエレクトロクロミック素子の光学特性について以下のように調べた。
【0084】
まず、透明電解質層としてフレミオン(登録商標)(屈折率 1.46、厚さ 8000nm)、還元発色型固体エレクトロクロミック層としてWO(屈折率 n1=1.92)、酸化発色型固体エレクトロクロミック層としてNiO(屈折率 n2=1.82)、透明電極としてITO電極(屈折率 1.76、厚さ 150nm)、透明支持基板として反射防止膜付きのソーダライムガラス基板(屈折率1.53、厚さ 0.1mm)で構成されるエレクトロクロミック素子について、分光特性を計算した。
【0085】
なお、ガラス基板については旭硝子(株)社製のソーダライムフロートガラスの分光透過率と分光反射率からコーシーモデルで求めた屈折率と消衰係数を用い、フレミオン層については同じガラス上に形成したフレミオン層から分光測定した透過率と反射率からコーシーモデルで屈折率と消衰係数の波長依存性を求めた値を用いた。また、ITOについてはやはり分光特性との比較からドルーデモデルに基づいて計算された屈折率と消衰係数の波長依存性を用いた。これらのモデルを用いた分光特性とのフィッティングによる光学定数の導出はJ.A.Woollam Co., Inc.社の分光エリプソメータに付属のWVASE32ソフトウエアにて行った。
【0086】
なお、還元発色型固体エレクトロクロミック層及び酸化発色型固体エレクトロクロミック層は、消色時の消衰係数がゼロ(すなわち完全に透明な材料)でかつ屈折率の波長依存性が無いものとし、それらの光学膜厚が所定の関係を満たすように膜厚を変化させた。また、両側のガラス基板の外側界面での反射を無いものとするために、上下の媒質がこれらのガラスと同じ屈折率を持つものとして計算している。これらは多くの仮定を含んではいるものの、本発明の趣旨を検証するには問題の無い仮定であると考えられる。
【0087】
本例では、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n1×d1)=(λ1/4)×m1の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd1を次のように固定した。すなわち、m1=9(このとき、M1が9)となるようにd1を設定した(d1=644nm)。
次いで、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n2×d2)=(λ1/4)×m2の関係を満たすように、酸化発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd2を次のように変化させた。すなわち、m2を7、8、9、10、11(M2が7、8、9、10、11)となるようにd2を設定し、それぞれの光学スペクトルを算出した。得られた光学スペクトルのデータを図3に示した。なお、このときの透過率の平均値と標準偏差と変動率について、表1に示した。なお、図3及び表1において、透過率は、380nmから波長幅10nmごとに780nmまで(N=41)示した。標準偏差は、このように得られた透過率を基に、上記(1)式に基づいて算出した。
【0088】
図3及び表1から、M1=9に対してM2を変化させたとき、M2がM1−1=8、M1+1=10のときに消色状態におけるリップルの発現が効果的に抑制されることが確認できた。
【0089】
【表1】
【0090】
(例2)
例1とは、酸化発色型固体エレクトロクロミック層として屈折率(n2)が1.92のNiOを用いた点だけが異なるエレクトロクロミック素子を例2とし、同様に光学特性について調べた。なお、NiOの屈折率は、その成膜条件等により形成される膜の密度が変化し、それに応じて屈折率も変化する。そのため、本例では例1とは同一の材料(化学組成)の素子構成でありながら、NiOの屈折率のみが異なる。
【0091】
本例では、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n1×d1)=(λ1/4)×m1の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd1を固定した。このとき、m1=9(このとき、M1が9)となるようにd1を設定した(d1=644nm)。
【0092】
次いで、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n2×d2)=(λ1/4)×m2の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd2を変化させた。このとき、m2を7、8、9、10、11(M2が7、8、9、10、11)となるようにd2を設定したとき、それぞれの光学スペクトルを算出した。得られた光学スペクトルのデータを図4に示した。なお、このときの透過率の平均値と標準偏差について、表2に示した。なお、図4及び表2において、透過率は、380nmから波長幅10nmごとに780nmまで示した。
【0093】
図4及び表2から、M1=9に対してM2を変化させたとき、M2=M1−1=8、M1+1=10のときに消色状態におけるリップルの発現が効果的に抑制されることが確認できた。
【0094】
【表2】
【0095】
(例3)
例1とは、電解質層として1モル/LのLiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)炭酸プロピレン溶液を用いた点だけが異なるエレクトロクロミック素子を例3とし、同様に光学特性について調べた。なお、この電解質の屈折率は、溶媒である炭酸プロピレンと等しいものとして1.42として計算した。
【0096】
本例では、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n1×d1)=(λ1/4)×m1の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd1を固定した。このとき、m1=9(このとき、M1が9)となるようにd1を設定した(d1=644nm)。
【0097】
次いで、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n2×d2)=(λ1/4)×m2の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd2を変化させた。このとき、m2を7、8、9、10、11(M2が7、8、9、10、11)となるようにd2を設定したとき、それぞれの光学スペクトルを算出した。得られた光学スペクトルのデータを図5に示した。なお、このときの透過率の平均値と標準偏差について、表3に示した。なお、図5及び表3において、透過率は、380nmから波長幅10nmごとに780nmまで示した。
【0098】
図5及び表3から、M1=9に対してM2を変化させたとき、M2がM1−1=8、M1+1=10のときに消色状態におけるリップルの発現が効果的に抑制されることが確認できた。
【0099】
【表3】
【0100】
(例4)
例3とは、酸化発色型固体エレクトロクロミック層として屈折率(n2)が1.92のNiOを用いた点だけが異なるエレクトロクロミック素子を例4とし、同様に光学特性について調べた。なお、NiOの屈折率は、その成膜条件等により形成される膜の密度が変化し、それに応じて屈折率も変化する。そのため、本例では例3とは同一の材料(化学組成)の素子構成でありながら、NiOの屈折率のみが異なることとしている。
【0101】
本例では、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n1×d1)=(λ1/4)×m1の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd1を固定した。このとき、m1=9(このとき、M1が9)となるようにd1を設定した(d1=644nm)。
【0102】
次いで、波長550nmの光(λ1=550nm)を用いたとき、(n2×d2)=(λ1/4)×m2の関係を満たすように、還元発色型固体エレクトロクロミック層の厚さd2を変化させた。このとき、m2を7、8、9、10、11(M2が7、8、9、10、11)となるようにd2を設定したとき、それぞれの光学スペクトルを算出した。得られた光学スペクトルのデータを図6に示した。なお、このときの透過率の平均値と標準偏差について、表4に示した。なお、図6及び表4において、透過率は、380nmから波長幅10nmごとに780nmまで示した。
【0103】
図6及び表4から、M=9に対してM2を変化させたとき、M2がM1−1=8、M1+1=10、のときに消色状態におけるリップルの発現が効果的に抑制されることが確認できた。
【0104】
【表4】
【0105】
(例5)
例3の構成で、m1=6(このときM1=6)となるようにd1を設定し(d1=430nm)、m2を10,11,12(M2が10,11,12)とした場合について、それぞれの光学スペクトルを算出した。得られた光学スペクトルのデータを図7に示した。また、このときの透過率の平均値と標準偏差について計算した値を表5に示した。なお、図7及び表5において、透過率は380nmから780nmまでの10nm刻みの値を採用している。
【0106】
【表5】
【0107】
図7及び表5から、M1=6に対してM2を変化させたとき、M2がM1+5=11のとき消色状態におけるリップルの発現が抑制されていることが確認できた。
【0108】
(例6)
例5とは、酸化発色型固体エレクトロクロミック層として屈折率(n2)が1.92のNiOを用いた点だけが異なるエレクトロクロミック素子を例6とし、同様に光学特性について調べた。得られた光学スペクトルのデータを図8、また、このときの透過率の平均値と標準偏差について計算した値を表6に示した。なお、図8及び表6において、透過率は380nmから780nmまでの10nm刻みの値を採用している。
【0109】
【表6】
【0110】
図8及び表6から、M1=6に対してM2を変化させたとき、M2がM1+5=11のとき消色状態におけるリップルの発現が抑制されていることが確認できた。
【0111】
以上より、エレクトロクロミック素子において、透明電解質層、還元発色型固体エレクトロクロミック層及び酸化発色型固体エレクトロクロミック層を所定の関係を満たすようにすることで、消色状態におけるリップルを抑制できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のエレクトロクロミック素子は、電圧の印加状態によって分光透過率特性を制御できるものであり、特に、電圧を印加して消色状態としたときのリップルを抑制したものである。
【符号の説明】
【0113】
100…エレクトロクロミック素子、110…透明電解質層、120…還元発色型固体エレクトロクロミック層、130…酸化発色型固体エレクトロクロミック層、140…透明導電膜、150…透明支持基板、160…壁材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8