特許第6849064号(P6849064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6849064真空蒸着用のマスクの洗浄方法及びリンス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6849064
(24)【登録日】2021年3月8日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】真空蒸着用のマスクの洗浄方法及びリンス組成物
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20210315BHJP
   C11D 7/28 20060101ALI20210315BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20210315BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20210315BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210315BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   C11D7/28
   C11D7/50
   C11D7/32
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-526180(P2019-526180)
(86)(22)【出願日】2018年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2018016296
(87)【国際公開番号】WO2019003605
(87)【国際公開日】20190103
【審査請求日】2020年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2017-124086(P2017-124086)
(32)【優先日】2017年6月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 寿夫
(72)【発明者】
【氏名】花田 毅
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−259565(JP,A)
【文献】 特開2008−106289(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/001015(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/026309(WO,A1)
【文献】 特開2006−117811(JP,A)
【文献】 特開平08−245469(JP,A)
【文献】 特開2002−180280(JP,A)
【文献】 特開2005−162947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C11D 1/00−19/00
B08B 3/00−3/14
H01L 51/50
H05B 33/10
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着用のマスクの洗浄方法であって、
前記マスクを、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物で洗浄し、
洗浄後の前記マスクを、CFCH−O−CFCHFで表されるハイドロフルオロエーテルを含むリンス組成物でリンスすることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記リンス組成物中の前記ハイドロフルオロエーテルの含有量の割合は、80質量%以上100質量%以下である、請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記洗浄組成物は、N−メチル−2−ピロリジノンを含む、請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記マスクの洗浄及びリンスをいずれも10℃以上40℃以下で行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記マスクの洗浄及びリンスをいずれも20℃以上30℃以下で行う、請求項1〜のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項6】
前記真空蒸着は、低分子型有機EL素子の製造において行われる、請求項1〜のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項7】
前記リンス組成物でリンスした後のマスクを乾燥させる、請求項1〜のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項8】
N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物で洗浄された真空蒸着用のマスクをリンスするリンス組成物であって、
CFCH−O−CFCHFで表されるハイドロフルオロエーテルを含むことを特徴とするリンス組成物。
【請求項9】
前記リンス組成物中の前記ハイドロフルオロエーテルの含有量の割合は、80質量%以上100質量%以下である、請求項に記載のリンス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着用のマスクの洗浄方法及びリンス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレーとして、液晶表示装置や有機EL素子を備えた表示装置が注目されている。液晶表示装置は低消費電力の反面、明るい画面を得るためには外部照明(バックライト)を必要とする。これに対して、有機EL素子を備えた表示装置は、有機EL素子が自己発光型の素子であることから、液晶表示装置のようなバックライトを必要としない。そのため、有機EL素子を備えた表示装置は省電力であるという特徴を有しているとともに、さらに高輝度、広視野角という特徴も併せて有している。
【0003】
有機EL素子は、陽極と陰極との間に有機化合物からなる発光層を含む機能層を有している。このような機能層を形成する方法としては、真空蒸着法などの気相プロセス(乾式法ともいう。)や、機能層形成材料を溶媒に溶解あるいは分散させた溶液を用いる液相プロセス(湿式法あるいは塗布法ともいう。)が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
真空蒸着により機能層を形成する場合、基板にマスクを近づけ、マスクを介して、陰極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、陽極の各層をパターン形成する。このときに使用される、特にRGB層の微細なパターニングのための蒸着用マスクは高精細であるため製造するのが困難で、さらに非常に高価である。しかし、有機EL素子における有機層のパターン形成においては、同じマスクを数回用いて蒸着すると、マスク上に有機物が堆積して付着するので、高精細なマスクのパターンを基板に正確に転写できなくなってしまう。したがって、高精細なマスクパターンを実現するためには、数回用いた高価なマスクを廃棄せざるを得ず、生産コストの面から量産を難しくしている一因となっている。
【0005】
そこで、マスクを反復使用することによりコストを下げようとする試みがなされており、有機EL素子製造の真空蒸着工程においてマスクに付着する種々の有機物を洗浄するための洗浄液組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
特許文献4には、マスクを洗浄液組成物で洗浄した後に、ハイドロフルオロエーテルでリンスすることが記載されている。ところが、特許文献4でリンス液として用いられている「ノベックHFE7100」(COCH)は、例えばN−メチル−2−ピロリジノンやN,N−ジメチルホルムアミドの存在下で分解し、フッ素イオンを生じる(例えば、特許文献5参照。)。そのため、上記方法では、マスク表面が清浄に洗浄されないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−110345号公報
【特許文献2】特開2002−305079号公報
【特許文献3】特開2002−313564号公報
【特許文献4】特開2005−162947号公報
【特許文献5】特表2009−518857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、例えば有機EL素子製造時の真空蒸着工程において使用されたマスクの洗浄方法であって、洗浄組成物で洗浄したマスクをリンス組成物でリンスする際に、リンス組成物の有効成分の分解を伴わず、マスクを極めて清浄に洗浄することのできる洗浄方法及びリンス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の洗浄方法は、真空蒸着用のマスクの洗浄方法であって、マスクを、N−メチル−2−ピロリジノン(NMP)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)から選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物で洗浄し、洗浄後のマスクを、CFCH−O−CFCHF(HFE−347pc−f)、CHFCF−O−CH(HFE−254pc)、CHF−O−CHCFCHF(HFE−356pcf)及びCFCHFCF−O−CHCF(HFE−449mec−f)から選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルを含むリンス組成物によってリンスすることを特徴とする。
【0010】
実施形態の洗浄方法において、前記リンス組成物中の前記ハイドロフルオロエーテルの含有量の割合は、80質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0011】
実施形態の洗浄方法において、洗浄組成物は、N−メチル−2−ピロリジノンを含むことが好ましい。
【0012】
実施形態の洗浄方法において、リンス組成物は、CFCH−O−CFCHFを含むことが好ましい。
【0013】
実施形態の洗浄方法において、マスクの洗浄及びリンスをいずれも10℃以上40℃以下で行うことが好ましく、20℃以上30℃以下で行うことがより好ましい。
【0014】
実施形態の洗浄方法において、真空蒸着は、低分子型有機EL素子の製造において行われることが好ましい。
【0015】
実施形態の洗浄方法において、リンス組成物でリンスした後のマスクを乾燥させることが好ましい。
【0016】
実施形態のリンス組成物は、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物で洗浄された真空蒸着用のマスクをリンスするリンス組成物であって、CFCH−O−CFCHF、CHFCF−O−CH、CHF−O−CHCFCHF及びCFCHFCF−O−CHCFから選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルを含むことを特徴とする。
【0017】
実施形態のリンス組成中の前記ハイドロフルオロエーテルの含有量の割合は、80質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0018】
なお、本明細書において、化合物名の後の括弧内にその化合物の略称を記すことがあり、必要に応じて化合物名に代えてその略称を用いる。また、本明細書において「〜」の符号は、その前に記載された数値以上、その後に記載された数値以下の範囲を表す。
【発明の効果】
【0019】
本実施形態の洗浄方法及びリンス組成物によれば、例えば、有機EL素子製造時の真空蒸着工程において使用されたマスクの洗浄において、洗浄組成物で洗浄したマスクをリンス組成物でリンスする際に、リンス組成物の有効成分の分解を伴わず、マスクを極めて清浄に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】有機EL表示装置の製造方法を説明する図である。
図2】マスクを介した発光層の形成態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の洗浄方法は、例えば、有機EL素子製造時の真空蒸着工程において使用されたマスクを洗浄する方法であり、洗浄工程と、リンス工程と、乾燥工程を含む。本実施形態の洗浄方法では、洗浄工程において、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物でマスクを洗浄する。次いで、リンス工程において、洗浄組成物で洗浄後のマスクを、HFE−347pc−f、HFE−254pc、HFE−356pcf及びHFE−449mec−fから選ばれる少なくとも1種のハイドロフルオロエーテルを含むリンス組成物によってリンスする。その後、必要に応じて乾燥工程を行い、マスクを乾燥させる。
【0022】
本実施形態の洗浄方法において、リンス組成物中に含有される上記特定のハイドロフルオロエーテルは、洗浄組成物中のN−メチル−2−ピロリジノン又はN,N−ジメチルホルムアミドの存在下においても分解されにくい。そのため、洗浄組成物が洗浄後のマスクに残留した場合にも、リンス組成物中の上記特定のハイドロフルオロエーテルが洗浄組成物によって分解することがなく、フッ素イオンを生じない。そのため、マスク表面を極めて清浄に洗浄することができる。
【0023】
本実施形態の洗浄方法において洗浄対象とされるマスクは、例えば、次に説明する有機EL表示装置の製造過程における、真空蒸着工程で使用されたものである。
【0024】
以下に、有機EL表示装置の製造方法について、マスクを用いた真空蒸着工程を、図1及び図2を参照して概説する。ガラス基板上にTFT(薄膜トランジスタ)及び透明電極が形成され、さらに、ホール輸送層が形成される。このTFT、透明電極及びホール輸送層が形成されたガラス基板1は、ガラス基板1の被処理面を下方にして、真空チャンバ内へ搬入される。真空チャンバ内で、ガラス基板1上に、カラー表示装置としての各原色R、G、Bに対応する発光層が形成される。この工程は、カラー表示装置としての各原色R、G、Bに対応した個別のチャンバ内で行われる。すなわち、ガラス基板1は、原色Rに対応する発光層を形成するための真空チャンバ、原色Gに対応する発光層を形成するための真空チャンバ及び原色Bに対応する発光層を形成するための真空チャンバへと順に搬送される。
【0025】
各真空チャンバ内には、図1に示す態様にて、予め発光層の形状に合わせて開口されたマスク20が配置されている。このマスク20は、保持台24上に配置されたマスクフレーム21によって固定されている。
【0026】
各真空チャンバには、マスク20として、R、G、Bのいずれかの原色に対応して、所定の原色の発光に用いられる透明電極(陽極)11に対応した部分のみが開口されたマスクが備えられている。これにより、各チャンバにおいて、各原色に対応した発光層をそれぞれ所定の位置に形成することができる。
【0027】
図1において、保持台24の下方に配置された蒸着源(ソース)30から、発光層の材料(有機EL材料)を加熱して蒸発させることで、マスクの開口部を介してガラス基板1表面に同材料を蒸着させる。このマスク20を介した発光層の形成態様を、図2に模式的に示す。図2に示すように、各透明電極(陽極)11のうち、各チャンバ内で該当する原色に対応した透明電極の形成領域以外がマスク20で覆われる。そして、該当する原色に対応した有機EL材料は、ソース30内で加熱され、気化されてマスク20の開口部20hを介してガラス基板1(正確にはそのホール輸送層)上に蒸着形成される。なお、マスクの材質としては、SUS等のステンレス、Ni単体、Niの合金(例えばFe−Ni合金、Mg−Ni合金)、又はシリコン等の半導体などが挙げられる。
【0028】
この蒸着工程において、マスクには、蒸着材料からなる各種の有機物が付着する。蒸着材料としては、上記有機EL材料のほか、有機EL素子を製造する際に使用されるホール注入材料、ホール輸送材料、電子輸送材料等が挙げられる。ホール注入材料としては、銅フタロシアニン(CuPC)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)の複合物(PEDOT/PSS)、4,4’,4’’−トリス[フェニル(m−トリル)アミノ]トリフェニルアミン(m−MTDATA)等が挙げられる。ホール輸送材料としては、トリフェニルアミン類(TPD)、ジフェニル・ナフチルジアミン(α−NPD)、トリス(4−カルバゾイル−9−イルフェニル)アミン(TCTA)等が挙げられる。有機EL材料としては、ビススチリルベンゼン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq)、ビス[2−(2−ベンゾオキサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn−PBO)、ルブレン、ジメチルキナクリドン、N,N’−ジメチルキナクリドン(DMQ)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−[2−(2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H−ベンゾ[ij]キノリジン−9−イル)ビニル]−4H−ピラン(DCM2)等が挙げられる。電子輸送材料としては、Alq、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、2−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、シロール誘導体等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の洗浄方法の洗浄工程では、このマスクに付着された有機物を、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物によって洗浄する。洗浄方法としては、洗浄組成物にマスクを浸漬する方法、ジェット水流により洗浄組成物をマスクに吹き付ける方法などがある。また、マスク洗浄の際に、超音波洗浄を併用してもよく、これにより、溶解能が向上し、洗浄時間を短縮することができる。洗浄工程で使用される洗浄組成物は、洗浄性の点から、N−メチル−2−ピロリジノンを含むことが好ましい。
【0030】
洗浄工程で使用される洗浄組成物中のN−メチル−2−ピロリジノン又はN,N−ジメチルホルムアミドの含有割合は、マスクを充分に洗浄できる点から80〜100質量%であることが好ましく、95〜100質量%であることがより好ましく、98〜100質量%であることがさらに好ましい。洗浄組成物がN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドの両者を含有する場合、マスクを充分に洗浄できる点で、これらの合計含有割合が上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0031】
洗浄組成物は、本実施形態の効果を損なわない限り、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の成分を含んでいてもよい。このような成分は、例えば、ヘプタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素類、1−ブテン、2−ブテン、2−メチルプロペン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ブチン、2−ブチン、ペンチン、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等の不飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラフルオロエタノール等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン等のアミン類、ジクロロメタン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1,2−テトラクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ペンタクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、cis−1,2−ジクロロエチレン、trans−1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン等のクロロカーボン類、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)類、デカフルオロブタン、ドデカフルオロペンタン、テトラデカフルオロヘキサン、ヘキサデカフルオロヘプタン、オクタデカフルオロオクタン等のPFC(パーフルオロカーボン)類、ジクロロペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン、1−クロロ−1,1−ジフルオロエタン、2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン等のHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)類等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの成分は単独で含まれていても、複数含まれていてもよい。
【0032】
洗浄組成物がN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の成分を含む場合、これらの含有割合は、20質量%以下が好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。洗浄組成物中に含まれるN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の成分は上記した中で、洗浄効果を奏しない成分であってもよい。また、洗浄組成物に水分が含まれていると、マスク表面に水分が付着して、しみが生じたり、溶剤組成物の洗浄力が低下する場合があるため、洗浄組成物中の水の含有量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。洗浄組成物は水を含まないことが特に好ましい。
【0033】
洗浄工程を行う時間は、マスクの大きさや付着した有機物の種類及び量などにもよるが、例えば、5〜15分であればよい。洗浄工程における洗浄組成物の温度は、温度調節を行わずに常温でよく、好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは20〜30℃である。このように、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドから選ばれる少なくとも1種を含む洗浄組成物を用いて上記の温度範囲で洗浄することで、洗浄性に優れるとともに、洗浄時の熱によりマスクが変形、ゆがみなどを生じることがない。
【0034】
また、洗浄工程では、各種のマスク表面に付着した1種類又は2種類以上の有機物を、上記した洗浄組成物のみで充分に除去することができる。そのため、洗浄液の種類の異なった洗浄槽を必要としない結果、洗浄プロセスが非常に簡便になる。
【0035】
なお、洗浄組成物は、使用済みの洗浄液組成物を蒸留して再使用することが可能である。洗浄組成物が、N−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の成分を含む場合にも、使用済みの洗浄液組成物を、蒸留し、回収した液の組成を調整することにより再使用することができる。
【0036】
本実施形態の洗浄方法のリンス工程では、洗浄組成物により洗浄されたマスクを、リンス組成物によってリンスする。本明細書において、リンスとは、洗浄組成物により洗浄されたマスクに付着した洗浄組成物を除去することを意味する。
【0037】
洗浄後のマスクをリンスする方法としては、洗浄後のマスクをリンス組成物に浸漬する方法、リンス組成物を洗浄後のマスクにかけ流す方法などが挙げられる。いずれの方法によっても、洗浄後のマスク表面に付着した洗浄組成物を容易に除去することができ、マスク表面を極めて清浄にリンスできる。リンス工程を行う時間は、マスクの大きさなどにもよるが、例えば5〜15分であればよい。リンス工程におけるリンス組成物の温度は、温度調節を行わずに常温でよく、10〜40℃が好ましく、20〜30℃がさらに好ましい。このように、比較的低温でのリンスができるため、熱によるマスクの変形、ゆがみなどが生じない。
【0038】
リンス組成物は、有効成分として、HFE−347pc−f、HFE−254pc、HFE−356pcf及びHFE−449mec−fから選ばれるハイドロフルオロエーテルの少なくとも1種を含む。HFE−347pc−f、HFE−254pc、HFE−356pcf及びHFE−449mec−fは、いずれも沸点が74℃以下と低く、乾燥性に優れ、室温でも容易に蒸発する。また、沸騰させて蒸気となっても、樹脂部品等の熱による影響を受けやすい部品に悪影響を及ぼしにくい。リンス組成物は上記ハイドロフルオロエーテルの1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
HFE−347pc−fは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が小さい。HFE−347pc−fは、沸点が約56℃である。HFE−347pc−fは、例えば、非プロトン性極性溶媒及び触媒(アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ金属水酸化物)の存在下に、2,2,2−トリフルオロエタノールとテトラフルオロエチレンとを反応させる方法(国際公開第2004/108644号を参照)によって製造できる。
HFE−347pc−fの市販品としては、例えば、「アサヒクリン(登録商標)AE−3000」(旭硝子社製)が挙げられる。
【0040】
HFE−254pcは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が小さい。HFE−254pcの沸点は、37℃である。HFE−254pcは、例えば、強アルカリ(例えば、水酸化カリウム)共存下のメタノールにテトラフルオロエチレンを加える方法によって製造できる。
【0041】
HFE−356pcfは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が小さい。HFE−356pcfの沸点は74℃である。HFE−356pcfは、例えば、強アルカリ(例えば、水酸化カリウム)共存下のテトラフルオロプロパノール(TFPO)にクロロジフルオロメタン(HCFC−22)を加える方法によって製造できる。
【0042】
HFE−449mec−fは、オゾン破壊係数がゼロであり、地球温暖化係数が小さい。HFE−449mec−fの沸点は73℃である。HFE−449mec−fは、例えば、非プロトン性極性溶媒及び触媒(アルカリ金属アルコキシド又はアルカリ金属水酸化物)の存在下に、2,2,2−トリフルオロエタノールとヘキサフルオロプロペンとを反応させる方法(特開平9−263559号を参照)によって、製造できる。
【0043】
洗浄組成物中のN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドは、リンス組成物中のハイドロフルオロエーテルのいずれに対しても優れた溶解性を有する。そのため、洗浄組成物はリンス組成物によって極めて容易に除去される。また、上記ハイドロフルオロエーテルは洗浄組成物に含まれるN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドのいずれによっても分解されない。そのため、リンス後のマスク表面に、フッ素イオンが残留することがなく、マスクを極めて清浄に洗浄することができる。
【0044】
ここで、リンス組成物に用いるハイドロフルオロエーテルが洗浄組成物に含まれるN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドによって分解されない理由は次のように推定される。
【0045】
例えば、メチル−パーフルオロ−n−ブチルエーテル(COCH、HFE−449sl)のように、電子吸引性の強いCF−基を持つハイドロフルオロエーテル類は、CF−基の結合された炭素が電子不足になっている。CF−基の結合された炭素に、ハロゲン原子などの脱離しやすい原子、又は原子団が結合されている場合、N−メチル−2−ピロリジノンやN,N−ジメチルホルムアミドによる求核攻撃を受けて分解しやすくなる。これに対して、本実施形態で使用するリンス組成物中のハイドロフルオロエーテルは、CF−基を有しないか、又はCF−基を有していてもCF−が結合する炭素に脱離しやすい原子又は原子団が結合していない。そのため、分子内の電荷の偏りが生じにくく、N−メチル−2−ピロリジノンやN,N−ジメチルホルムアミドからの求核攻撃を受けにくい。
【0046】
本実施形態の洗浄方法で使用されるリンス組成物としては、洗浄組成物を充分に除去できる点、乾燥性に優れる点から、HFE−347pc−fを含むことが好ましい。
【0047】
本実施形態の洗浄方法で使用されるリンス組成物中の上記ハイドロフルオロエーテルの含有割合は、マスクを充分にリンスできる点から80〜100質量%であることが好ましく、95〜100質量%であることがより好ましく、98〜100質量%であることがさらに好ましい。リンス組成物が、上記ハイドロフルオロエーテルの2種以上を含む場合、マスクを充分にリンスできる点で、その合計含有割合が上記好ましい範囲であることが好ましい。
【0048】
リンス組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記ハイドロフルオロエーテル以外の成分を含んでいてもよい。上記ハイドロフルオロエーテル以外の成分としては、例えば、上記洗浄組成物中のN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミド以外の成分と同様の成分が挙げられるが、これらに限定されない。また、これらの成分は単独で含まれていても、複数含まれていてもよい。
【0049】
リンス組成物が上記ハイドロフルオロエーテル以外の成分を含む場合、このような成分の含有割合は、20質量%以下が好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
上記したように、洗浄組成物に水分が含まれていると、マスク表面に水分が付着して、しみができる場合がある。リンス組成物がメチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコールから選ばれる少なくとも1種のアルコールを含む場合には、洗浄組成物に水分が含まれる場合であっても、その水分を溶解して取り除くことができるため好ましい。リンス組成物が上記アルコールを含む場合、水分を十分に除去できる点から、リンス組成物中のアルコールの含有量の割合は、10質量%以下が好ましく、1〜8質量%であることがより好ましく、2〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0051】
本実施形態の洗浄方法の乾燥工程では、リンス工程でリンス後のマスクを乾燥させる。乾燥方法は、リンス後のマスクを自然乾燥により乾燥させる方法、エアブローにより乾燥させる方法、減圧により乾燥させる方法等を使用することができる。なかでも、マスクをより効率的に乾燥できる点から、減圧により乾燥させる方法が好ましい。
【0052】
エアブローにより乾燥させる方法では、例えば、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは20〜30℃の乾燥空気を吹き付けることで乾燥させることができる。このように、比較的低温での乾燥ができるため、熱によるマスクの変形、ゆがみなどが生じない。
【0053】
減圧によりマスクを乾燥させる場合の圧力は、減圧に時間を要するため、減圧度が小さいほうが好ましい。ただし、マスクへのリンス組成物の付着量が少なければ減圧の過程で乾燥できるため、マスクの大きさやマスクへのリンス組成物の付着量によって適宜設定することができ、例えば、リンス組成物の20℃の蒸気圧以上101.3kPa以下の範囲内に設定することが好ましい。例えば、リンス組成物がHFE−347pc−fからなる場合、乾燥工程において、25〜101.3kPaの圧力まで減圧することが好ましい。
【0054】
以上説明した実施形態の洗浄方法によれば、リンス組成物として特定のハイドロフルオロエーテルを用いることで、洗浄時にマスクに付着した洗浄組成物中のN−メチル−2−ピロリジノン及びN,N−ジメチルホルムアミドのいずれによっても、ハイドロフルオロエーテルが分解することがなく、フッ素イオンを生じない。そのため、マスクを極めて清浄に洗浄することができる。本実施形態の洗浄方法は、有機EL素子を真空蒸着法で製造する際のマスクの洗浄方法として有用であり、好ましくは低分子型EL素子を製造時の真空蒸着工程において用いられる。
【実施例】
【0055】
次に実験例及び実施例について説明する。本発明はこれらの実験例及び実施例に限定されない。
【0056】
(実験例1)
本実験例では、所定の時間加熱した場合の、NMP及びDMFによるリンス組成物の分解性について調べた。HFE−347pc−f(旭硝子社製、AE−3000)にNMP又はDMFを5質量%、同様にHFE−449sl(スリーエム社製、Novec7100)にNMP又はDMFを5質量%添加したサンプル液を作製した。各サンプル液を、55℃の恒温槽内に3日間静置した。静置後の各溶剤サンプル液中のフッ素イオン濃度をフッ素イオンメーター(東亜ディーケーケー社製、IM−55G、フッ素イオン電極:東亜ディーケーケー社製、F−2021)によって測定した。なお、フッ素イオン濃度の検出限界は0.5ppmとした。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(実験例2)
本実験例では、加速試験として、HFE−347pc−f又はHFE−449slと、NMPとを含むサンプル液を加熱還流させた時のリンス組成物の、NMPによる分解性について調べた。上記同様のHFE−347pc−f(旭硝子社製、AE−3000)に対し、NMPを5質量%添加したサンプル液の250gをフラスコに入れ、ヒーターで沸騰状態になるように加熱して、4時間還流した。その後、80分間で175gの留出液を採取し、残った釜残液のpH、フッ素イオン濃度、酸分を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
また、上記同様のHFE−449sl(スリーエム社製、Novec7100)に対してNMPを5質量%添加したサンプル液の250gをフラスコに入れ、ヒーターで加熱することにより沸騰させて、4時間還流した。その後、80分間で175gの留出液を採取し、残った釜残液のpH、フッ素イオン濃度、酸分を測定した。なお、pHの測定はpHメーター(東亜ディーケーケー社製、HM−25R、電極:東亜ディーケーケー社製、GST−5741C)で、フッ素イオン濃度の測定はフッ素イオンメーター(東亜ディーケーケー社製、IM−55G、フッ素イオン電極:東亜ディーケーケー社製、F−2021)で、酸分の測定はフェノールフタレインを指示薬として滴定で行った。検出限界は、フッ素イオン濃度、酸分ともに0.5ppmとした。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
表1、表2より、3日間の加熱又は、80分間の加熱還流によっても、リンス組成物中のHFE−347pc−fはNMPやDMFによって分解せず、フッ素イオンを生じないのに対し、HFE−449slは、NMPやDMFによって分解してフッ素イオンを生じたことがわかる。
【0062】
(実施例)
リンス組成物としてHFE−347pc−fを用いた場合の金属製マスクの洗浄性について調べた。低分子型有機EL材料が付着した金属(SUS)片を室温(25℃)のNMPに1分浸漬する。その後、金属片を、室温(25℃)のHFE−347pc−f(旭硝子社製、AE−3000)に1分浸漬することでリンスして、引き上げる。この金属片を自然乾燥させた後純水に浸漬し、抽出されたフッ素イオン濃度をフッ素イオンメーター(東亜ディーケーケー社製、IM−55G、フッ素イオン電極:東亜ディーケーケー社製、F−2021)によって測定する。なお、フッ素イオン濃度の検出限界は0.5ppmとする。その結果を、フッ素イオンが検出される場合を「検出」、検出されない場合を「不検出」として、表3に示す。
【0063】
(比較例)
リンス組成物としてHFE−449slを用いた場合の金属製マスクの洗浄性について調べた。低分子型有機EL材料が付着した金属(SUS)片を室温(25℃)のNMPに1分浸漬した後、室温(25℃)のHFE−449sl(スリーエム社製、Novec7100)に1分浸漬することでリンスし、引き上げる。この金属片を自然乾燥させた後、純水に浸漬し、抽出されたフッ素イオンの有無を調べる。その結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より、リンス組成物としてHFE−347pc−fを用いることで、マスクを清浄に洗浄できることがわかる。これに対し、HFE−449slを用いた場合、マスク表面にフッ素イオンが付着しており、マスクが清浄に洗浄できていないことが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1…ガラス基板、11…透明電極、20…マスク、20h…開口部、21…マスクフレーム、24…保持台、30…ソース。
図1
図2