【実施例】
【0032】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0033】
1.活性白土を用いたジェット燃料の精製
[バッチ式精製法による評価]
(不純物を含むジェット燃料の作製および導電率の評価)
船舶に設けられている、C重油燃料ボイラからイナートガスを生成するイナートガス設備の海水シール出口から、イナートガスをテトラバックに15Lサンプリングした。イナートガスをただちに検知管(ガステック社製、型番:No.5M)で測定したところ、SO
2の濃度は25質量ppmであった。また、排ガス計(ホダカ社製、型番:HT−2300)でNOを測定したところ、NOの濃度が123質量ppmであった。
【0034】
次に、マロックス法(Merox Process)により、含有するメルカプタンを無臭の二硫化物にしたジェット燃料を15Lのガラス容器に5L入れ、ガラス容器を減圧した。そして、ガラス容器の減圧を利用して上述のテトラバックからガラス容器にイナートガスを導入した。イナートガスを導入したジェット燃料の入っているガラス容器を1分間激しく振とうした。その後、予め減圧にして収縮した状態にしておいた、伸縮性のあるポリエチレン容器をガラス容器に接続し、イナートガスと混合したジェット燃料をポリエチレン容器に移送し、ポリエチレン容器を満液状態とし、精製前ジェット燃料Aを準備した。
【0035】
330ccの精製前ジェット燃料Aをガラス容器に採取し、予め120℃で2時間乾燥した♯50〜100メッシュのクレイ0.08gを加え、15時間撹拌翼で撹拌した。撹拌終了後、0.2μmのメンブレンで濾過してクレイを除去し、ろ液に、1.5mg/Lの濃度となるよう静電気防止剤(オクテル社製、型番:STADIS450)を添加し、15℃の液温に冷却して、実施例1および比較例1〜3のジェット燃料を作製した。そして、15℃の液温で、導電率計(EMCEE ELECTRONIC社製、型番:MODEL 1152)を用いて、JIS K 2276に規定する導電率試験方法に準拠して導電率を測定した。導電率の測定結果を下記の表1に示す。また、改質前ジェット燃料Aの導電率を参考例1として表1に示す。
なお、実施例1および比較例1〜3の作製には以下のクレイを用いた。
実施例1:ガレオナイト251、活性白土、水澤化学工業(株)製
比較例1:ガレオナイト0612、酸性白土、水澤化学工業(株)製
比較例2:アタパルジャイト、粘土、巴工業(株)製
比較例3:モリキュラーシーブ3A、ゼオライト、メルク社製
【0036】
【表1】
【0037】
上記導電率の測定結果から、静電気防止剤を用いてジェット燃料の導電率を上昇させることができることがわかった。また、活性白土を用いて精製したジェット燃料は、酸性白土、粘土およびゼオライトをそれぞれ用いて精製したジェット燃料よりも導電率が高くなることがわかった。この結果より、活性白土は、酸性白土、粘土およびゼオライトに比べて、イナートガスとの接触混合により品質低下をもたらす不純物をより多くジェット燃料から除去しているものと推測される。
【0038】
[カラム流通式精製法による評価]
(ジェット燃料の精製および精製したジェット燃料の導電率の評価)
直径10mmのカラムに、予め120℃で2時間乾燥した白土6.2ccを充填した。原料ポンプで所定の通液速度に調整し、白土を充填した上記カラムを用いてジェット燃料の精製を行った。累積通液量が白土容積の400倍の時点でカラムの入口およびカラム出口の液をサンプリングし、実施例2のジェット燃料および比較例4のジェット燃料を得た。そして、サンプリングした液に静電気防止剤(オクテル社製、型番:STADIS450)を1.00mg/Lとなるよう添加し、15℃の液温に冷却して導電率計を用いて測定した。
なお、精製するジェット燃料として前記精製前ジェット燃料Aを使用した。
また、15℃の液温における導電率は、JIS K 2276に規定する導電率試験方法に準拠して測定した。なお、以下の導電率の測定についても同様である。
【0039】
実施例2および比較例4のジェット燃料を得るためのジェット燃料の精製条件は以下のとおりである。
<実施例2のジェット燃料>
・白土:活性白土(ガレオナイト251、水澤化学工業(株)製、表面積:290m
2/g)
・白土充填量:3.8g(6.2cc)
・白土の粒径 1.7〜4.0mm
・通油前のジェット燃料の導電率:250[pS/m]
・液空間速度(LHSV):49[hr
−1]および382[hr
−1]
・ジェット燃料の評価時の累積通液量 白土容積の400倍
<比較例4のジェット燃料>
・白土:酸性白土(ガレオナイト0612、水澤化学工業(株)製、表面積:74m
2/g)
・白土充填量:5.0g(6.2cc)
・白土の粒径:1.4〜3.4mm
・通油前のジェット燃料の導電率:250[pS/m]
・液空間速度(LHSV):6.5[hr
−1]および49[hr
−1]
・ジェット燃料評価時の累積通液量:白土容積の400倍
【0040】
(カラム入口と出口とにおけるジェット燃料の導電率の差)
累積通液量が白土容積の400倍となった時点の実施例2および比較例4のジェット燃料のカラム入口と出口とにおける導電率の差を調べた。結果を下記の表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
上記結果より、活性白土を使用して精製したジェット燃料は、酸性白土を使用して精製したジェット燃料よりも、静電気防止剤を添加することによる導電率向上の効果が大幅に向上することがわかった。
【0043】
(ジェット燃料の性状)
実施例2のジェット燃料の性状を調べた。結果を表3および表4に示す。また、参考のために、精製前ジェット燃料Aの性状を参考例2として表4に示す。さらに、15℃における導電率が実施例2と同じになるように静電気防止剤の添加量を1.00mg/Lから1.60mg/Lに増やした場合の精製前ジェット燃料の性状を参考例3として表4に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
なお、各性状は次の方法にしたがって求めた。実施例2については精製したジェット燃料に、参考例2および3については精製前ジェット燃料Aに、表4に記載の添加量の静電気防止剤および酸化防止剤を添加した後に各性状を測定した。
(外観)
外観は、JIS K 2276に規定する外観試験方法に準拠して評価した。
(色(セーボルト))
色(セーボルト)は、JIS K 2580に規定するセーボルト色試験方法に準拠して測定した。
(酸価)
酸価は、JIS K 2276に規定する全酸価試験方法に準拠して測定した。
(芳香族炭化水素分)
芳香族炭化水素分は、JIS K 2536に準拠して測定した。
(硫黄分)
硫黄分は、JIS K 2541に準拠して測定した。
(ドクター試験)
ドクター試験は、JIS K 2276に規定するドクター試験方法に準拠して測定した。
(メルカプタン硫黄分)
メルカプタン硫黄分は、JIS K 2276に規定するメルカプタン硫黄分試験方法(電位差滴定法)に準拠して測定した。
(蒸留性状)
蒸留性状は、JIS K 2254に準拠して測定した。
(引火点)
引火点は、JIS K 2265に規定するタグ密閉式引火点試験方法に準拠して測定した。
(密度(15℃))
15℃の液温における密度は、JIS K 2249に準拠して測定した。
(析出点)
析出点は、JIS K 2276に規定する析出点試験方法に準拠して測定した。
(動粘度(−20℃))
−20℃の液温における動粘度は、JIS K 2283に規定する動粘度試験方法に準拠して測定した。
(真発熱量)
真発熱量は、JIS K 2279に準拠して測定した。
(煙点)
煙点は、JIS K 2537に準拠して測定した。
(銅板腐食(100℃、2時間))
100℃の試験温度および2時間の試験時間における銅板腐食は、JIS K 2513に準拠して測定した。
(熱安定性)
熱安定性は、JIS K 2276に規定する熱安定度試験方法のA法またはB法に準拠して測定した。
(水分離指数(MSEP))
水分離指数(MSEP)は、JIS K 2276に規定する水分離指数試験方法(マイクロセパロメータ法)に準拠して測定した。
(微粒きょう雑物)
微粒きょう雑物は、JIS K 2276に規定する微粒きょう雑物試験方法(試験室ろ過法)に準拠して測定した。
(実在ガム)
実在ガムは、JIS K 2261に準拠して測定した。
(遊離水分)
CASRI検水器により、遊離水分の有無を確認した。
(導電率(15℃))
15℃の液温における導電率は、JIS K 2276に規定する導電率試験方法に準拠して測定した。
(静電気防止剤添加量)
静電気防止剤として、STADIS450(オクテル社製)を使用した。
【0047】
実施例2と参考例2とを比較することにより、活性白土を使用してジェット燃料を精製することにより、静電気防止剤を添加することによる導電率向上の効果を向上させることができることがわかった。また、活性白土を使用してジェット燃料を精製することにより、ジェット燃料の水分離指数が改善することがわかった。
【0048】
参考例2と参考例3とを比較することにより、静電気防止剤の添加量を増やすと、ジェット燃料の導電率は向上するものの、ジェット燃料の水分離指数が悪くなることがわかった。
【0049】
(酸化防止剤の残留性)
ジェット燃料に酸化防止剤を添加した後に、実施例2と同様に活性白土を使用してジェット燃料を精製して得た実施例3のジェット燃料における酸化防止剤の含有量を調べることにより、活性白土を使用してジェット燃料を精製しても、ジェット燃料中の酸化防止剤は残留しているか否かを調べた。酸化防止剤として、2,4−ジメチル−6−ターシャリーブチルフェノール(Qualification Reference : RDE/A/608)を使用した。なお、ジェット燃料中の酸化防止剤の含有量は、メタノールを使用してジェット燃料から酸化防止剤を抽出し、酸化防止剤を抽出したメタノール中の酸化防止剤の含有量を質量分析計(GC−MS)(Agilent社製、型番:6890N)を用いて、内部標準法により測定した。結果を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
上記結果より、活性白土を使用して酸化防止剤を含有するジェット燃料を精製しても、ジェット燃料中の酸化防止剤の濃度はほとんど変わらないことがわかった。これより、活性白土は、ジェット燃料中の酸化防止剤をあまり除去しないで、イナートガスとの接触混合により品質低下をもたらす不純物を効果的に除去できることがわかる。通常、当業者は、イナートガスとの接触混合により品質低下をもたらす不純物をジェット燃料から除去すると、ジェット燃料中の酸化防止剤も一緒に除去してしまうと考えるので、この結果は驚くべきものである。
【0052】
2.水を用いたジェット燃料の精製
[バッチ式精製法による評価]
(不純物を含むジェット燃料の作製および導電率の評価)
船舶に設けられている、C重油燃料ボイラからイナートガスを生成するイナートガス設備の海水シール出口から、イナートガスをテトラバックに15Lサンプリングした。イナートガスをただちに検知管(ガステック社製、型番:No.5M)で測定したところ、SO
2の濃度は15質量ppmであった。また、排ガス計(ホダカ社製、型番:HT−2300)でNOを測定したところ、NOの濃度が100質量ppmであった。
【0053】
次に、マロックス法(Merox Process)により、含有するメルカプタンを無臭の二硫化物にしたジェット燃料を15Lのガラス容器に5L入れ、ガラス容器を減圧した。そして、ガラス容器の減圧を利用して上述のテトラバックからガラス容器にイナートガスを導入した。イナートガスを導入したジェット燃料の入っているガラス容器を1分間激しく振とうした。その後、予め減圧にして収縮した状態にしておいた、伸縮性のあるポリエチレン容器をガラス容器に接続し、イナートガスと混合したジェット燃料をポリエチレン容器に移送し、ポリエチレン容器を満液状態とし、精製前ジェット燃料Bを準備した。この精製前ジェット燃料Bに、静電気防止剤(オクテル社製、型番:STADIS450)を1.5mg/Lとなるよう添加し、15℃の液温に冷却して導電率計を用いて測定した結果、導電率は250pS/mであった。
【0054】
精製前ジェット燃料B:900mlと、イオン交換水3mlを1Lの分液ロートに入れて、60分間自動振とう機で混合し、20分間静置し、水が沈降しているのを目視で確認した。その後、上部から精製前ジェット燃料Bだけを採取して、前記静電気防止剤を1.5mg/Lとなるよう添加し、冷却して液温を15℃にして導電率計を用いて導電率を測定した。沈降した水を残した分液ロートに新たに精製前ジェット燃料Bを添加して、同様の混合・測定・分離を繰り返した。
水に対する積算の精製前ジェット燃料量の比に対する水洗浄によるジェット燃料の導電率の向上分(対精製前ジェット燃料B)の結果を、まとめて表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
上記結果から、用いた精製前ジェット燃料の積算量が水の量の1100倍程度まで、有効な導電率向上効果が得られることがわかった。したがって、水の必要量としては、精製前ジェット燃料に対して1/1000で十分な導電率改善効果が得られる。
【0057】
[流通式精製法による評価]
(ジェット燃料の精製および精製したジェット燃料の導電率の評価)
下記に示すスタティックミキサに精製前ジェット燃料を連続通液し、途中から水を注入した後、スタティックミキサにて混合し、次に、下記コアレッサーフィルターにて油水分離した。分離された水は、系の上流側で再度水注入されるようにリサイクルした。導電率の測定は、サンプリングした液に静電気防止剤(オクテル社製、型番:STADIS450)を1.5mg/Lとなるよう添加し、15℃の液温に冷却し、前記と同様にして行った。
なお、精製するジェット燃料として前記精製前ジェット燃料Bを使用した。
【0058】
・スタティックミキサ:(株)ノリタケカンパニーリミテッド製、T3−17−RS(内径3.7mm、長さ100mm、エレメント数17)
スタティックミキサにおける圧力損失:35kPa(実測値)
・コアレッサーフィルター:和興フィルターテクノロジー製(フィルター目開き1μm相当)
・系内水量:50ml
・ジェット燃料の通液速度:500L/分
・還流水の通液速度:180〜10ml/分
【0059】
スタティックミキサにおける水と精製前ジェット燃料との通液速度比を(水/ジェット燃料)比とし、これの各々に対するジェット燃料の導電率の向上分(対精製前ジェット燃料B)をプロットした結果を
図1に示す。
図1に示すように、水/ジェット燃料比が1/100程度と低い場合でも有効な導電率向上効果が得られることがわかった。
【0060】
(酸化防止剤の残留性)
ジェット燃料に酸化防止剤(2,4−ジメチル−6−ターシャリーブチルフェノール(DTBP))を添加した後に、前記流通精製法による評価において、ジェット燃料の通液速度を500L/分、還流水の通液速度を10ml/分として水洗浄し、洗浄前後のジェット燃料中のDTBPの含有量を実施例3と同様の方法により測定した。結果を表7に示す。
【0061】
【表7】
【0062】
上記結果より、活性白土処理と同様に、水洗浄により酸化防止剤は除去されないことが分かった。