特許第6849999号(P6849999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6849999海底地質探査システム、海底地質探査方法および海底地質探査プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6849999
(24)【登録日】2021年3月9日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】海底地質探査システム、海底地質探査方法および海底地質探査プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/26 20060101AFI20210322BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   G01V1/26
   G01V1/00 Z
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-86440(P2017-86440)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-185206(P2018-185206A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】鶴 哲 郎
(72)【発明者】
【氏名】榊 原 淳 一
(72)【発明者】
【氏名】高 梨 将
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/322208(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0002536(US,A1)
【文献】 特表2000−509153(JP,A)
【文献】 特開平8−54473(JP,A)
【文献】 特開昭60−135783(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0223696(US,A1)
【文献】 特表昭60−500383(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0346365(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0379304(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0128692(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0031043(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曳航体と、
前記曳航体に曳航され、複数の水中受振器が設けられた単一の受振ケーブルと、
前記受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置され、互いに異なる波形の音波を出力する非爆破型の複数の振源と、
前記水中受振器が受振した合成波を前記各振源に対応する複数の反射波に分離する合成波分離部と、
を備えることを特徴とする海底地質探査システム。
【請求項2】
前記複数の振源は、前記曳航体に曳航される発振ケーブルに設けられることを特徴とする請求項1に記載の海底地質探査システム。
【請求項3】
前記複数の振源は、前記曳航体に曳航され、平面視して前記曳航体から離れるにつれて互いに離間するように広がる一対の発振ケーブルに設けられることを特徴とする請求項1に記載の海底地質探査システム。
【請求項4】
前記曳航体には、当該曳航体から張り出すように設けられ、剛性を有する張出曳航部が設けられ、
前記複数の振源は、前記張出曳航部から垂下されたケーブルに設けられることを特徴とする請求項1に記載の海底地質探査システム。
【請求項5】
前記振源から発振される音波は、周波数、位相および振幅のうち少なくともいずれか一つが連続的あるいはランダムに変化する非パルス波であり、
前記振源は、第1の非パルス波を発振した後、前記第1の非パルス波の発振時間よりも短い時間だけ遅延させて第2の非パルス波を発振することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の海底地質探査システム。
【請求項6】
前記非パルス波は、位相が連続的に変化する擬似ランダム波、または周波数が連続的に変化するスイープ波であることを特徴とする請求項5に記載の海底地質探査システム。
【請求項7】
前記複数の振源は、圧電素子、超磁歪素子、水中スピーカー、電磁バイブレータ、または油圧式バイブレータにより構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の海底地質探査システム。
【請求項8】
前記曳航体は、船または水中探査機であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の海底地質探査システム。
【請求項9】
曳航体に曳航される単一の受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置された非爆破型の複数の振源が、互いに異なる波形の音波を出力し、
前記受振ケーブルに設けられた複数の水中受振器が、前記各振源から出力され、海底面または地層境界面で反射された音波が合成された合成波を受振し、
合成波分離部が、前記合成波を前記各振源に対応する複数の反射波に分離する、
ことを特徴とする海底地質探査方法。
【請求項10】
コンピュータを、
曳航体に曳航される単一の受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置された非爆破型の複数の振源から出力された互いに異なる波形の音波が海底面または地層境界面で反射され合成された合成波を、前記各振源に対応する複数の反射波に分離する合成波分離手段として機能させるための海底地質探査プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底地質探査システム、海底地質探査方法および海底地質探査プログラム、より詳しくは、水中の振源から発振され海底で反射した音波に基づいて海底地質(海底構造)を探査するための海底地質探査システム、海底地質探査方法および海底地質探査プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の海底地質探査システムでは、探査効率を上げるために、複数本の受振ケーブル(ストリーマーケーブルとも呼ばれる。)が使用される。図13に示すように、従来の海底地質探査システム100は、調査船110と、複数本の受振ケーブル120と、エアガン130と、先端にパラベイン150が設けられたワイヤー140とを有している。
【0003】
各受振ケーブル120には、所定間隔で水中受振器121が設けられている。受振ケーブル120は、S/N比を確保するために、長いもので数kmの長さを有し、水深10〜20m程度の浅海用のものでも数百mの長さを有する。受振ケーブル120は、各々、調査船110に設けられたウインチに巻回されて船内に収納される。海底地質探査を行う際、受振ケーブル120はウインチから巻き出され、水中に投入され曳航される。
【0004】
エアガン130は、複数の振源で組まれたアレイを有し、これらの振源を同時に爆破する(より詳しくは、チャンバーに蓄えられた高圧の空気を瞬間的に放出する)ことでパルス状の音波を発生させる。音波の大きさを調整するために、エアガン130は、図13に示すように複数設けられる。これらのエアガン130は、同じ波形の音波を出力する。
【0005】
なお、非特許文献1には、疑似ランダム波を発振する圧電素子型振源を利用した陸上の地盤探査法(音響トモグラフィ地盤探査法)が記載されている。この方法では、一方のボーリング孔の底部に圧電素子型振源を配置し、他方のボーリング孔に複数の受振器を配置する。そして、圧電素子型振源をボーリング孔内部で上方に移動させながら、地盤を伝播した波形を受振器で観測する。この方法によれば、発振波と受振波との相互相関を算出することで、地盤構造を反映した波形が得られる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】榊原 淳一 著、「音響トモグラフィ地盤探査法(1) 原理・手法編」、公益社団法人 物理探査学会 物理探査ニュース(Geophysical Exploration News)、2014年4月、No.22、P.5−6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、従来の海底地質探査システムでは、探査効率を上げるために複数本の受振ケーブルが使用される。このため、海底地質探査システムのコストが高くなるとともに、受振ケーブルの修理対応等のメンテナンスコストも高くなるという問題がある。
【0008】
また、受振ケーブルを収納するためのウインチが受振ケーブルの数だけ船内に並ぶため、調査船が大型化するという問題もある。
【0009】
また、海底地質探査中に、潮流の影響を受けて受振ケーブル同士が絡まってしまうという問題もある。
【0010】
また、水深の浅い海域において調査船が旋回する際に受振ケーブル同士が絡まり易いことから、浅海域での探査が困難であるという問題もあった。
【0011】
本発明は、上記の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、単一の受振ケーブルを用いて海底地質にかかる三次元データを効率良く取得することができる海底地質探査システム、海底地質探査方法および海底地質探査プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る海底地質探査システムは、
曳航体と、
前記曳航体に曳航され、複数の水中受振器が設けられた単一の受振ケーブルと、
前記受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置され、互いに異なる波形の音波を出力する非爆破型の複数の振源と、
前記水中受振器が受振した合成波を前記各振源に対応する複数の反射波に分離する合成波分離部と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記複数の振源は、前記曳航体に曳航される発振ケーブルに設けられるようにしてもよい。
【0014】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記複数の振源は、前記曳航体に曳航され、平面視して前記曳航体から離れるにつれて互いに離間するように広がる一対の発振ケーブルに設けられるようにしてもよい。
【0015】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記曳航体には、当該曳航体から張り出すように設けられ、剛性を有する張出曳航部が設けられ、
前記複数の振源は、前記張出曳航部から垂下されたケーブルに設けられるようにしてもよい。
【0016】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記振源から発振される音波は、周波数、位相および振幅のうち少なくともいずれか一つが連続的あるいはランダムに変化する非パルス波であり、
前記振源は、第1の非パルス波を発振した後、前記第1の非パルス波の発振時間よりも短い時間だけ遅延させて第2の非パルス波を発振するようにしてもよい。
【0017】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記非パルス波は、位相が連続的に変化する擬似ランダム波、または周波数が連続的に変化するスイープ波でもよい。
【0018】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記複数の振源は、圧電素子、超磁歪素子、水中スピーカー、電磁バイブレータ、または油圧式バイブレータにより構成されてもよい。
【0019】
また、前記海底地質探査システムにおいて、
前記曳航体は、船または水中探査機であってもよい。
【0020】
本発明に係る海底地質探査方法は、
曳航体に曳航される単一の受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置された非爆破型の複数の振源が、互いに異なる波形の音波を出力し、
前記受振ケーブルに設けられた複数の水中受振器が、前記各振源から出力され、海底面または地層境界面で反射された音波が合成された合成波を受振し、
合成波分離部が、前記合成波を前記各振源に対応する複数の反射波に分離する、
ことを特徴とする。
【0021】
本発明に係る海底地質探査プログラムは、
コンピュータを、
曳航体に曳航される単一の受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置された非爆破型の複数の振源から出力された互いに異なる波形の音波が海底面または地層境界面で反射され合成された合成波を、前記各振源に対応する複数の反射波に分離する合成波分離手段として機能させる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る海底地質探査システムは、受振ケーブルに対して平面視で平行に並ばないように配置され、互いに異なる波形の音波を出力する非爆破型の複数の振源と、水中受振器が設けられた単一の受振ケーブルとを備え、合成波分離部により、水中受振器が受振した合成波を各振源に対応する複数の反射波に分離する。これにより、本発明によれば、単一の受振ケーブルを用いて海底地質にかかる三次元データを効率良く取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る海底地質探査システムの概略を示す平面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る海底地質探査システムの概略を示す斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る海底地質探査方法を説明するためのフローチャートである。
図4】第1の実施形態に係る海底地質探査システムの簡略図である。
図5】(a)は振源S1から発振された音波の反射波の時間波形図であり、(b)は振源S2から発振された音波の反射波の時間波形図である。
図6】水中受振器R1、R2およびR3で観測された合成波の時間波形図である。
図7】(a)は振源S1に対応するパルス波の時間波形図であり、(b)は振源S2に対応するパルス波の時間波形図である。
図8】第1の実施形態に係る海底地質探査システムによる測定結果の一例を示す図である。
図9】遅延発振について説明するための海底地質探査システムの簡略図である。
図10】振源S1から発振された音波の反射波の時間波形図(左側)と、振源S1から遅延発振された音波の反射波の時間波形図(右側)である。
図11】水中受振器R1、R2およびR3で観測された合成波の時間波形図である。
図12】本発明の第2の実施形態に係る海底地質探査システムの概略を示す平面図である。
図13】従来の海底地質探査システムの概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図において同等の機能を有する構成要素には同一の符号を付す。
【0025】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る海底地質探査システム1の構成について、図1および図2を参照して説明する。
【0026】
海底地質探査システム1は、図1および図2に示すように、曳航体10と、単一の受振ケーブル20と、一対の発振ケーブル30,40と、複数の振源31,32,33,41,42,43と、合成波分離部50と、を備えている。
【0027】
曳航体10は、本実施形態では、船(調査船とも呼ばれる。)である。調査船の種類やサイズは特に限定されないが、石油調査などでは1万〜1万5千トン程度の大型船を用いることもある。
【0028】
なお、曳航体10は、水中を航行する水中探査機であってもよい。水中探査機として、自律型無人潜水機(Autonomous Underwater Vehicle:AUV)、遠隔操作無人探査機(Remotely Operated Vehicle)等が挙げられる。
【0029】
受振ケーブル20は、曳航体10に曳航されるケーブルである。この受振ケーブル20には、音波を受振する複数の水中受振器21が設けられている。水中受振器21は、例えば、音圧変化を電圧変化などに変換するハイドロフォンである。複数の水中受振器21は、図1に示すように等間隔で設けられてもよいし、あるいは不等間隔で設けられてもよい。水中受振器21間の間隔は、所望の水平分解能などを考慮して決められる。
【0030】
なお、水中受振器21が設けられた受振ケーブル20として、ストリーマーケーブルや、A/D変換器を内蔵したデジタルストリーマーを適用してもよい。また、受振ケーブル20は、曳航体10に直接接続される場合に限らず、比較的高密度のケーブル(リード・イン・セクション)を介して曳航体10に接続されてもよい。
【0031】
発振ケーブル30,40は、曳航体10に曳航されるケーブルである。図1に示すように、発振ケーブル30,40の先端には、パラベイン(水中凧)35,45がそれぞれ設けられている。パラベイン35,45は、曳航体10の航行に伴う水流を受けると、曳航体10の幅方向外側に、曳航体10から離れるように移動する。このため、一対の発振ケーブル30,40は、曳航体10に曳航された状態において、平面視して曳航体10から離れるにつれて互いに離間するように広がる。なお、発振ケーブル30,40として、前述のワイヤー140を用いてもよい。
【0032】
複数の振源31,32,33,41,42,43は、図1に示すように、翼状に広がる一対の発振ケーブル30,40に設けられている。より具体的には、振源31,32,33は発振ケーブル30に設けられ、振源41,42,43は発振ケーブル40に設けられている。
【0033】
なお、振源の配置は、図1に示す配置に限るものではない。
【0034】
また、振源の数は、6個に限るものではなく、複数であれば任意の個数でよい。例えば、発振ケーブル30に振源31のみが設けられ、発振ケーブル40に振源41のみが設けられてもよい。また、発振ケーブル30,40に予備の振源を設けてもよい。
【0035】
また、複数の振源31,32,33,41,42,43は、水中受振器21で観測されるデータ品質の均一性を保つ観点から、ほぼ同じ深さに配置されてもよい(図4参照)。換言すれば、曳航中の各振源の深度(曳航深度)がほぼ一定であるようにしてもよい。
【0036】
振源31,32,33,41,42,43は、非爆破型の振源であり、連続波を発生させることが可能である。これらの振源は、圧電素子(ピエゾ素子)、超磁歪素子、水中スピーカー、電磁バイブレータ、または油圧式バイブレータ等により構成される。
【0037】
圧電素子、超磁歪素子および水中スピーカーは、周波数、位相および振幅の制御が容易であるため、非パルス波を出力することが可能である。本願において、「非パルス波」とは、周波数、位相および振幅のうち少なくともいずれか一つが連続的あるいはランダムに変化する波のことである。非パルス波の例として、位相が連続的に変化する擬似ランダム波や、周波数が連続的に変化するスイープ波がある。疑似ランダム波を発振する擬似ランダム波振源として、圧電素子や超磁歪素子を用いることができる。なお、非パルス波は疑似ランダム波やスイープ波に限らず、例えば、水中スピーカーから音楽を非パルス波として発振してもよい。
【0038】
また、圧電素子、超磁歪素子、水中スピーカー等は、エアガンよりも高い周波数の音波を発振するため、エアガンに比べて垂直分解能(深度方向の分解能)を向上させることができる。例えば、振源の周波数が200Hz、地層中における音波の平均速度が2000m/秒である場合、音波の波長は10mとなる。一般的に、垂直分解能は波長の1/4であることから、この場合の垂直分解能は2.5mとなる。したがって、2.5mの層厚の地層まで識別できる。
【0039】
複数の振源31,32,33,41,42,43は、互いに異なる波形の音波を発振する。各振源から出力された音波は海底に向けて同時並行的に伝播する。互いに異なる波形として、例えば疑似ランダム波が用いられる。この疑似ランダム波は、単一周波数の正弦波をベースとして位相変調により生成される連続波である。疑似ランダム波の場合、振源から発振される発振波と、水中受振器により受振される受振波との相互相関を算出する処理(相互相関処理)により、正弦波の周波数に依存した波長を有するパルス波が得られる。
【0040】
なお、振源31,32,33,41,42,43から発振される音波は、互いに異なる波形であれば、疑似ランダム波に限らず、疑似ランダム波以外の非パルス波を用いてもよい。
【0041】
また、互いに異なる波形の音波は、振源31,32,33,41,42,43から同時に発振されてもよいし、あるいは、時間差を付けて発振されてもよい。
【0042】
前述のように、複数の振源31,32,33,41,42,43は、翼状に広がる発振ケーブル30,40に設けられている。このため、図1に示すように、隣り合う振源同士を結ぶ線(仮想線)は、平面視して、受振ケーブル20と平行にならない。すなわち、複数の振源31,32,33,41,42,43は、受振ケーブル20に対して平面視で平行に並ばないように配置される。これにより、海底地質データを面的に取得することができる。
【0043】
なお、探査面積の観点からは、振源間を結ぶ線が受振ケーブル20と直交するのが最も有利である。一方、空間的高分解能探査の観点からは、振源間を結ぶ線と受振ケーブル20とが交差する角度は小さい方がよい。
【0044】
合成波分離部50は、水中受振器21が受振した合成波を各振源31,32,33、41,42,43に対応する複数の反射波に分離する。ここで、「合成波」は、各振源から出力され、海底面または地層境界面で反射された音波が合成された波のことである。本実施形態では6個の振源が設けられているので、合成波は6つの反射波を合成した波となる。合成波分離部50は、水中受振器21が受振した合成波を6つの反射波に分離する。
【0045】
より詳しくは、合成波分離部50は、水中受振器21が受振した合成波の波形信号を入力すると、水中受振器21が受振した受振波(合成波)と、振源31から出力された発振波との相互相関を算出する相互相関処理を行い、当該発振波の反射波を取得する。他の振源(振源32,33,41,42,43)についてもそれぞれ同様に相互相関処理を行う。これらの処理により、合成波は、各振源に対応する複数の反射波に分離される。合成波分離部50は、このような合成波の分離処理を各水中受振器21について行う。
【0046】
本実施形態では、合成波分離部50は、曳航体10に設けられたコンピュータ上で動作するプログラムにより実現される。このコンピュータは、各振源31,32,33,41,42,43および各水中受振器21に接続されており、各振源に制御信号を送信したり、各水中受振器が受振した波形データを受信する。
【0047】
なお、合成波分離部50は、受振ケーブル20内に設けられてもよいし、あるいは陸上の解析局に設けられてもよい。前者の場合、合成波分離部50は、例えば、デジタルストリーマーのA/D変換器を構成するICチップ上で動作するプログラムにより実現される。後者の場合、合成波分離部50は、例えば、解析局に設けられたコンピュータ上で動作するプログラムにより実現される。なお、陸上のコンピュータと曳航体10とを無線通信で接続し、リアルタイムで相互相関処理を行ってもよい。
【0048】
<海底地質探査方法>
次に、本実施形態に係る海底地質探査システム1の動作について、図3のフローチャートおよび図4図8を参照して説明する。なお、以下では簡単のため、図4に示すように、振源が2つ(S1,S2)であり、水中受振器が3つ(R1,R2,R3)の場合について説明する。なお、図4において、振源S1と振源S2は、紙面垂直方向に異なる位置に配置されている。
【0049】
複数の振源S1,S2が、互いに異なる波形の音波を出力する(ステップS11)。振源S1,S2は、前述のように、曳航体10に曳航される単一の受振ケーブル20に対して平面視で平行に並ばないように配置された非爆破型の振源である。
【0050】
図4に示すように、振源S1,S2から発振された音波は海底に向かって伝播し、海底面や地層境界面で反射する。図5(a)は、振源S1から発振された音波の反射波の時間波形図であり、図5(b)は振源S2から発振された音波の反射波の時間波形図である。図5(a)および図5(b)は、水中受振器R1,R2,R3ごとの波形を示している。図5(a)および図5(b)において、縦軸のt軸は、音波が振源から出力されてから水中受振器で受振されるまでの時間(すなわち、深度)を示している。なお、t軸については、以降に説明する時間波形図についても同様である。
【0051】
複数の水中受振器R1,R2,R3が、各振源S1,S2から出力され、海底面または地層境界面で反射された音波が合成された合成波を受振する(ステップS12)。本ステップにおいて、水中受振器R1,R2,R3は、図5(a)および図5(b)が示す波形を受振するのではなく、実際には、図6に示す合成波を受振する。すなわち、水中受振器R1,R2,R3は、振源S1およびS2からそれぞれ発振された音波が加算された波を受振する。
【0052】
その後、合成波分離部50が、合成波を各振源S1,S2に対応する複数の反射波に分離する(ステップS13)。具体的には、合成波の波形信号が合成波分離部50に送信され、合成波分離部50は相互相関処理を実行する。これにより、合成波は、図7(a)および図7(b)に示すように、振源S1および振源S2にそれぞれ対応する2つの反射波(ショット記録)に分離される。図7(a)は振源S1に対応するパルス波の時間波形図を示し、図7(b)は振源S2に対応するパルス波の時間波形図を示している。
【0053】
図8は、本実施形態に係る海底地質探査システム1による測定結果の一例を示している。より詳しくは、駿河湾の内浦湾内をほぼ東西方向(W−E)に航行して得られた結果を示している。なお、ここでは振源としてピエゾ素子を用いた。図8に示すように、海底面F1、地層境界面F2および地層境界面F3の各面間の層厚の変化が高い垂直分解能で明瞭に観測されている。また、賀茂沖層群内の反射波群(領域G)や土肥沖層群頂部の反射波(領域H)も明瞭に観測されている。
【0054】
なお、本実施形態では発振ケーブルとして発振ケーブル30および40の2本が設けられていたが、発振ケーブルの本数はこれに限るものではない。また、発振ケーブル30,40は、曳航体10とは別の曳航体により曳航されてもよい。
【0055】
以上説明したように、本実施形態に係る海底地質探査システム1では、複数の振源31,32,33,41,42,43から発振された互いに異なる波形の音波を1本の受振ケーブル20に設けられた水中受振器21で受振する。その後、相互相関処理を行って、水中受振器21が受振した合成波を各々の振源に対応する複数の反射波に分離する。これにより、1本の受振ケーブルのみであっても、振源の個数に等しい本数の受振ケーブルを用いる場合と同等の三次元データを取得することが可能となる。本実施形態では、6個の振源を用いているので、6本の受振ケーブルを用いた海底地質探査システム100と同等の三次元データを取得することができる。
【0056】
よって、本実施形態によれば、単一の受振ケーブルを用いて海底地質にかかる三次元データを効率良く取得することができる。換言すれば、本実施形態によれば、複数本の受振ケーブルを用いる従来の海底地質探査システムと同等の効率で海底地質にかかる三次元データを取得することができる。
【0057】
また、図8で示したように、本実施形態によれば、垂直分解能の高い海底地質探査を行うことができる。したがって、海底地質探査システム1は、海底活断層の調査や、坑井の掘削準備のためのサイトサーベイにも有効である。
【0058】
さらに、本実施形態によれば、受振ケーブルが1本で済むため、以下の効果を得ることができる。
【0059】
海底地質探査システムの低コスト化を図ることができるとともに、受振ケーブルの修理対応等のメンテナンスを容易にすることができる。
【0060】
また、受振ケーブルを収納するウインチを複数設置する必要がなくなり、調査船等の曳航体を小型化することができる。
【0061】
また、海底地質調査を行う際、受振ケーブルの展開やウインチへの収納を容易に行うことができる。
【0062】
また、漁船等の船舶が多い海域において、受振ケーブルの先端付近に配備される警戒船の数を減らすことができる。
【0063】
また、受振ケーブルがもつれることを防止できる。よって、潮流の影響を受ける場合や、水深の浅い海域(特に水深10m以下の極浅海域)でも海底地質探査を行うことが可能となる。
【0064】
さらに、本実施形態によれば、振源がエアガンのような爆破型(インパルス波型)ではなく、非爆破型(連続波型)であるため、以下の効果を得ることができる。
【0065】
調査船等の曳航体にコンプレッサを設ける必要がなく、曳航体を小型化することができる。
【0066】
また、海洋性ほ乳類や魚類への影響を軽減することができ、海洋生物の生活環境に配慮した海底地質探査を行うことができる。
【0067】
また、エアガンと異なり、エアバブルが発生しないので、受振波のS/N比を向上させることができる。
【0068】
<遅延発振について>
ここで、水平分解能を向上させるための遅延発振手法について、図9図11を参照して説明する。図9は、遅延発振について説明するための海底地質探査システムの簡略図である。図9は、簡単のため、振源が1つ(S1のみ)、水中受振器が3つ(R1,R2,R3)の場合を示している。図10の左側の波形図は、振源S1から発振された音波(非パルス波W1)の反射波の時間波形を示し、図10の右側の波形図は、振源S1から遅延発振された音波(非パルス波W2)の反射波の時間波形図である。
【0069】
非パルス波を発振する非爆破型振源(ピエゾ素子、超磁歪素子、水中スピーカー等)を用いた場合、探査深度にもよるが、発振時間(非パルス波の発振時間)は例えば15〜30秒程度である。探査深度が深くなるにつれて、より大きな発振エネルギーが必要になるため、発振時間を長くする必要がある。
【0070】
例えば曳航体10の移動速度が2m/秒、発振時間が20秒の場合、40mごとに波形データが得られる。したがって、水中受振器の数を一個とした場合、水平分解能は40mとなり、水平分解能が低いために正確な地質構造を把握できないおそれがある。そこで、以下に説明するように、振源S1に音波を遅延発振させるようにしてもよい。
【0071】
図9および図10に示すように、振源S1は、非パルス波W1(第1の非パルス波)を発振した後、非パルス波W1の発振時間よりも短い時間(遅延時間D)だけ遅延させて非パルス波W2(第2の非パルス波)を発振する。すなわち、非パルス波W2は非パルス波W1と時間的に重なるように発振される。
【0072】
なお、非パルス波W2は、非パルス波W1と同じ波形であってもよいし、異なる波形であってもよい。異なる波形の場合であっても、他の振源から発振される波形と同じにならないようにする必要がある。また、観測データの品質を一定に保つために、非パルス波W1と非パルス波W2の発振時間は同じにすることが好ましい。
【0073】
遅延時間が短いほど水平分解能を高くすることができる。その一方、遅延時間を短くするほど、より大きな電力を振源に供給する必要がある。このため、必要な水平分解能、曳航体10が振源に供給可能な電力、および振源の耐久性等を考慮して遅延時間を決定することが好ましい。
【0074】
図11に示すように、水中受振器R1,R2,R3は、非パルス波W1および非パルス波W2が加算された合成波を受振する。合成波分離部50が相互相関処理を実行することにより、受振された合成波は非パルス波W1,W2ごとのパルス波に分離される。より詳しくは、非パルス波W1と合成波との相互相関を計算することにより非パルス波W1の反射波のデータが得られる。また、非パルス波W2と合成波との相互相関を計算することにより非パルス波W2の反射波のデータが得られる。なお、非パルス波W2と合成波との相互相関処理では、合成波として、遅延時刻td(図11参照)以降の波形データのみを用いる。
【0075】
上記のように非パルス波W1から所定の遅延時間だけ遅らせて非パルス波W2を発振することで、水平分解能を改善することができる。例えば曳航体10の移動速度が2m/秒、発振時間が20秒、遅延時間が10秒の場合、10秒ごとに波形データが得られるため、水平分解能を20mに改善することができる。
【0076】
このように、エアガン等の爆破型振源に比べて発振時間が比較的長い非爆破型振源を用いる場合であっても、上述した遅延発振手法を用いることで、水平分解能を向上させることができる。その結果、爆破型振源と同等以上の水平分解能を有するデータを得ることができる。
【0077】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る海底地質探査システム1Aについて、図12を参照して説明する。第2の実施形態の第1の実施形態との相違点は、振源が設けられる場所である。以下、相違点を中心に第2の実施形態について説明する。
【0078】
海底地質探査システム1Aは、図12に示すように、曳航体10と、張出曳航部11と、単一の受振ケーブル20と、複数の振源31,32,33,41,42,43と、合成波分離部50と、を備えている。
【0079】
曳航体10には、この曳航体10から張り出すように設けられ、剛性を有する張出曳航部11が設けられている。本実施形態では、図12に示すように、張出曳航部11は、曳航体10の幅方向に沿って延在するように設けられている。張出曳航部11は、例えば梯子を用いて構成される。
【0080】
複数の振源31,32,33,41,42,43は、図12に示すように、張出曳航部11から垂下されたケーブル12に設けられる。本実施形態では、振源間を結ぶ線は受振ケーブル20とほぼ直角で交わる。これにより、探査面積を最大にすることができる。
【0081】
本実施形態のように曳航体10が船の場合、張出曳航部11は、水面上方に(すなわち、空中に)配置されてもよい。これにより、張出曳航部11による海水抵抗を回避することができる。
【0082】
また、振源間を結ぶ線と受振ケーブル20とが交差する角度(交差角度)が直角以外になるように張出曳航部11を構成してもよい。例えば、張出曳航部11が曳航体10の側面から斜め後ろ方向に延出するようにしてもよい。また、ケーブル12の長さを振源ごとに変えることで、交差角度を調整してもよい。
【0083】
本実施形態によれば、第1の実施形態の場合と同様に、単一の受振ケーブルを用いて海底地質にかかる三次元データを効率良く取得することができる。また、第1の実施形態で説明したその他の効果も同様に得ることができる。
【0084】
さらに、第2の実施形態では、剛性を有する張出曳航部11に振源が吊されるため、ケーブルに振源が設けられる第1の実施形態に比べて、曳航体10の速度や潮流が振源の配置に与える影響を軽減することができる。これにより、振源間を結ぶ線と受振ケーブル20との交差角度を所定の角度に容易に調整することができるとともに、交差角度を安定的に維持することができる。その結果、本実施形態によれば、海底地質にかかる三次元データを、より効率良く、安定的に取得することができる。
【0085】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0086】
1,1A,100 海底地質探査システム
10 曳航体
11 張出曳航部
12 ケーブル
20,120 受振ケーブル
21,121 水中受振器
30,40 発振ケーブル
35,45,150 パラベイン(水中凧)
31,32,33,41,42,43 振源
50 合成波分離部
110 調査船
130 エアガン
140 ワイヤー
D 遅延時間
F1 海底面
F2,F3 地層境界面
R1,R2,R3 水中受振器
S1,S2 振源
W1,W2 非パルス波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13