特許第6850271号(P6850271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6850271熱硬化性シリコーン組成物、シリコーン樹脂硬化物、及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850271
(24)【登録日】2021年3月9日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】熱硬化性シリコーン組成物、シリコーン樹脂硬化物、及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/14 20060101AFI20210322BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20210322BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C08L83/14
   C08L83/05
   C08L83/07
   H01L23/30 F
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-39101(P2018-39101)
(22)【出願日】2018年3月5日
(65)【公開番号】特開2019-151767(P2019-151767A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 中
(72)【発明者】
【氏名】原田 良文
(72)【発明者】
【氏名】中山 和彦
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−201754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/14
C08L 83/05
C08L 83/07
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A−1)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する付加反応生成物 30〜70質量部、
(A−2)下記一般式(3)で表される化合物 30〜70質量部(但し、前記(A−1)成分及び前記(A−2)成分の合計は100質量部である)、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有する有機ケイ素化合物
(組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の合計量が、組成物中の付加反応性炭素−炭素二重結合に対してモル比で0.5〜3.0となる量である)、及び
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含有することを特徴とする熱硬化性シリコーン組成物。
【化1】
(式中Aは下記一般式(2)で表される基から成る群から選ばれる2価の基であり、Rは、独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基である。)
【化2】
【化3】
(式中Phはフェニル基であり、Rは独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、Rは付加反応性炭素−炭素二重結合含有基であり、nは1〜20の整数である。)
【請求項2】
前記(b)が、下記一般式(4)で表されるアルケニルノルボルネン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱硬化性シリコーン組成物。
【化4】
(式中、Rは非置換又は置換の炭素原子数2〜12のアルケニル基である。)
【請求項3】
前記(b)が、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、及びこれらの組み合わせのうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の熱硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記(B)成分が、下記一般式(5)で表されるシロキサン化合物であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の熱硬化性シリコーン組成物。
【化5】
(式中、Rは独立に水素原子又はアルケニル基以外の非置換若しくは置換の炭素原子数
1〜12の一価炭化水素基であり、Rはメチル基あるいは水素原子であり、pは1〜10の整数、qは0〜7の整数である。pが付されたシロキサン単位とqが付されたシロキサン単位とは互いにランダムに配列している。)
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の熱硬化性シリコーン組成物を硬化させることにより得られたものであることを特徴とするシリコーン樹脂硬化物。
【請求項6】
硬化直後における、波長400nmの光の透過率が80%以上であり、150℃環境下、500時間暴露後の波長400nmの光の透過率が70%以上を維持しているものであることを特徴とする請求項5に記載のシリコーン樹脂硬化物。
【請求項7】
ガスバリア性を有し、1mm厚の前記硬化物の水蒸気透過率が、40℃において7g/m・day以下のものであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のシリコーン樹脂硬化物。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載のシリコーン樹脂硬化物によって光学素子を封止したものであることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
前記光学素子がLED(発光ダイオード)であることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子封止材料、特に白色LED(発光ダイオード)用封止材料として有用なシリコーン樹脂硬化物を与える透明熱硬化性シリコーン組成物、該組成物の硬化物、及び該硬化物によって光学素子を封止したものである半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性シリコーン組成物は、付加反応性炭素−炭素二重結合を含有するオルガノポリシロキサン及びケイ素に結合した水素原子を有する有機ケイ素化合物を含み、ヒドロシリル化反応によって硬化して硬化物を与える。このようにして得られる硬化物は、耐熱性、耐寒性、電気絶縁性に優れ、また、透明であるため、LEDの封止材などの各種光学用途に用いられている(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、一般的にこのような組成物からなる光学素子封止材はガスバリア性が低いために、外部からの腐食性ガスの侵入により銀電極が変色してしまう欠点がある。その結果、LEDの輝度が低下してしまう場合がある。
【0004】
そこで、多環式炭化水素骨格含有成分を含む熱硬化性シリコーン組成物を用いた光学素子封止材が提案されている。このような組成物から得られる封止材は高いガスバリア性を有するため、外部からの腐食性ガスの侵入を防ぎ、銀電極の変色を抑えることが可能である。しかしながら、熱により変色しやすいという欠点があるため、特にハイパワーのLEDには使用できないといった問題が存在している(特許文献3、4)。
【0005】
また、主骨格にフェニル基を導入した熱硬化性シリコーン組成物を用いた光学素子封止材が提案されている。このような組成物から得られる封止材は、上記特許文献3、4に記載の多環式炭化水素骨格含有封止材に比べて耐熱変色性に優れるものの、外部からの腐食性ガスによる銀電極の腐食を抑制するという点に関しては充分満足するものではない(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−186168号公報
【特許文献2】特開2004−143361号公報
【特許文献3】特開2008−069210号公報
【特許文献4】特開2012−046604号公報
【特許文献5】特開2010−132795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、室温において高い流動性を有し、透明性、耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有した硬化物を与える熱硬化性シリコーン組成物を提供する。即ち、本発明は、光学素子封止用材料として有用なシリコーン樹脂硬化物を与える透明熱硬化性シリコーン組成物及び該組成物の硬化物によって封止されたものである半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明では、
(A−1)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する付加反応生成物 30〜70質量部、
(A−2)下記一般式(3)で表される化合物 30〜70質量部(但し、前記(A−1)成分及び前記(A−2)成分の合計は100質量部である)、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有する有機ケイ素化合物
(組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の合計量が、組成物中の付加反応性炭素−炭素二重結合に対してモル比で0.5〜3.0となる量である)、及び
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含有する熱硬化性シリコーン組成物を提供する。
【化1】
(式中Aは下記一般式(2)で表される基から成る群から選ばれる2価の基であり、Rは、独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基である。)
【化2】
【化3】
(式中Phはフェニル基であり、Rは独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、Rは付加反応性炭素−炭素二重結合含有基であり、nは1〜20の整数である。)
【0009】
このような熱硬化性シリコーン組成物であれば、室温において高い流動性を有し、透明性、耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有した硬化物を与える透明な熱硬化性シリコーン組成物となる。
【0010】
また、前記(b)が、下記一般式(4)で表されるものであることが好ましい。
【化4】
(式中、Rは非置換又は置換の炭素原子数2〜12のアルケニル基である。)
【0011】
また、前記(b)が、5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、6−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、及びこれらの組み合わせのうちのいずれかであることが好ましい。
【0012】
このような原料(b)であれば、より高いガスバリア性を付与することができる。
【0013】
また、前記(B)成分が、下記一般式(5)で表されるシロキサン化合物であることが好ましい。
【化5】
(式中、Rは独立に水素原子又はアルケニル基以外の非置換若しくは置換の炭素原子数
1〜12の一価炭化水素基であり、Rはメチル基あるいは水素原子であり、pは1〜10の整数、qは0〜7の整数である。pが付されたシロキサン単位とqが付されたシロキサン単位とは互いにランダムに配列している。)
【0014】
このような(B)成分であれば、硬化物としたときに、光学素子封止材料として十分な機械特性を付与することができる。
【0015】
また、本発明では、上記の熱硬化性シリコーン組成物を硬化させることにより得られたものであるシリコーン樹脂硬化物を提供する。
【0016】
このようなシリコーン樹脂硬化物であれば、光学素子封止用材料として好適に用いることができる。
【0017】
このとき、硬化直後における、波長400nmの光の透過率が80%以上であり、150℃環境下、500時間暴露後の波長400nmの光の透過率が70%以上を維持しているものであることが好ましい。
【0018】
このようなシリコーン樹脂硬化物であれば、照明器具などの発光装置の光学素子封止材料として用いた場合に、光の取り出し効率がより高くなり、充分な明るさを容易に確保できる。
【0019】
またこのとき、ガスバリア性を有し、1mm厚の前記硬化物の水蒸気透過率が、40℃において7g/m・day以下のものであることが好ましい。
【0020】
このようなシリコーン樹脂硬化物であれば、外部からの腐食性ガスの侵入により銀電極が変色してしまう可能性がなく、硬化物を照明器具などの発光装置の光学素子封止材料として用いた場合に、光の取り出し効率が低下してしまい、充分な明るさを確保できなくなってしまうおそれがない。
【0021】
また、本発明では、上記のシリコーン樹脂硬化物によって光学素子を封止したものである半導体装置を提供する。
【0022】
この場合、前記光学素子がLED(発光ダイオード)であることが好ましい。
【0023】
このような半導体装置であれば、より信頼性の優れたものとなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、室温において、高い流動性を有するため、作業性・取扱い性に優れる。また、上記組成物を熱硬化させて得られるシリコーン樹脂硬化物は、透明性と耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有する。よって、上記硬化物は光学素子封止材料、例えば、発光装置用、特に白色LED用の封止材料として有用であるため、信頼性の優れた半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述のように、室温において高い流動性を有し、透明性、耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有した硬化物を与える熱硬化性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0026】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するヒドロシリル化反応による反応付加生成物と、特定の構造を有するオルガノポリシロキサンを含有する熱硬化性シリコーン組成物であれば、室温において高い流動性を有し、透明性、耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有した硬化物を与えるとともに、このような硬化物が光学素子封止材料として有益であることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
即ち、本発明は、
(A−1)(a)上記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する付加反応生成物 30〜70質量部、
(A−2)上記一般式(3)で表される化合物 30〜70質量部(但し、前記(A−1)成分及び前記(A−2)成分の合計は100質量部である)、
(B)ケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に3個以上有する有機ケイ素化合物
(組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の合計量が、組成物中の付加反応性炭素−炭素二重結合に対してモル比で0.5〜3.0となる量である)、及び
(C)ヒドロシリル化反応触媒
を含有することを特徴とする熱硬化性シリコーン組成物である。
【0028】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、Me及びPhはそれぞれメチル基及びフェニル基を表し、粘度は回転粘度計により測定した値である。
【0029】
[(A−1)成分]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の(A−1)成分は、硬化させた後の硬化物に強度を付与し高硬度とする他、ガスバリア性を付与する成分である。
【0030】
(A−1)成分は、(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であって、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有する付加反応生成物である。以下、(A−1)成分の原料となる原料(a)及び原料(b)について説明する。
【化6】
(式中、Aは、下記一般式(2)で表される基から成る群から選ばれる2価の基であり、Rは、独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基である。)
【化7】
【0031】
<原料(a)>
(A−1)成分の反応原料である、(a)上記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子(以下、「SiH」ということがある)を1分子中に2個有する化合物(原料(a))は、上記一般式(1)中のAが上記一般式(2)で表される2価の基であるので、下記一般式(6)で表される化合物である。
【化8】
(Rは独立に非置換もしくは置換の炭素原子数1〜12の、好ましくは1〜6の、1価炭化水素基又は炭素原子数1〜6のアルコキシ基である)
【0032】
上記一般式(6)中、Rが1価炭化水素基である場合としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、sec−ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−,m−,p−トリル等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等のアルケニル基;p−ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基;及びこれらの基中の炭素原子に結合した1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、エポキシ環含有基等で置換された、例えば、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2−シアノエチル基;3−グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0033】
また、Rがアルコキシ基である場合としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0034】
上記の中でも、Rとしては、アルケニル基及びアルケニルアリール基以外のものが好ましく、特に、1分子中の全てのRがメチル基であるものが、工業的に製造することが容易であり、入手しやすいことから好ましい。
【0035】
この上記一般式(6)で表される化合物としては、例えば、
構造式:HMeSi−p−C−SiMe
で表される1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、
構造式:HMeSi−m−C−SiMe
で表される1,3−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、
構造式:HMeSi−o−C−SiMe
で表される1,2−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン等のシルフェニレン化合物が挙げられる。
【0036】
なお、この上記一般式(6)で表される化合物((A−1)成分の反応原料である上記原料(a))は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0037】
<原料(b)>
(A−1)成分の反応原料である(b)付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素(原料(b))において、「付加反応性」とは、ケイ素原子に結合した水素原子の付加(ヒドロシリル化反応として周知)を受け得る性質を意味する。
【0038】
また、原料(b)は、(i)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されているもの、(ii)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているもの、又は、(iii)多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素−炭素二重結合が形成されており、かつ、多環式炭化水素の多環骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が付加反応性炭素−炭素二重結合含有基によって置換されているものの何れであっても差し支えない。ここで、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ノルボルニル基等のアルケニル基、特に炭素原子数2〜12のもの等が挙げられる。
【0039】
この原料(b)としては、例えば、下記一般式(4)で表されるアルケニルノルボルネン化合物が挙げられる。さらに、下記一般式(4)で表される化合物の具体例としては、下記構造式(7)で表される5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、下記構造式(8)で表される6−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、及びこれら両者の組み合わせが挙げられる。(以下、これら3者を区別する必要がない場合は、「ビニルノルボルネン」と総称することがある)。
【化9】
(式中、Rは非置換又は置換の炭素原子数2〜12のアルケニル基である。)
【化10】
【化11】
【0040】
なお、上記ビニルノルボルネンのビニル基の置換位置は、シス配置(エキソ形)又はトランス配置(エンド形)のいずれであってもよく、また、このような配置の相違によって、原料(b)の反応性等に特段の差異がないことから、これら両配置の異性体の組み合わせであっても差し支えない。
【0041】
<(A−1)成分の調製>
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の(A−1)成分は、SiHを1分子中に2個有する上記原料(a)の1モルに対して、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有する上記原料(b)の1モルを超え10モル以下、好ましくは1モルを超え5モル以下の過剰量を、ヒドロシリル化反応触媒の存在下で付加反応させることにより、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個有し、かつ、SiHを有しない付加反応生成物として得ることができる。
【0042】
こうして得られる(A−1)成分は、原料(b)由来の付加反応性炭素−炭素二重結合のほかに、原料(a)に由来する(具体的には、一般式(1)中のRに由来する)付加反応性炭素−炭素二重結合を含み得るので、付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に少なくとも2個含むが、この数は好ましくは2〜6個、より好ましくは2個である。付加反応性炭素−炭素二重結合がこのような数であると、本発明の熱硬化性シリコーン組成物を硬化させて得られる硬化物が脆くなることもない。
【0043】
上記ヒドロシリル化反応触媒としては、従来から公知のものが全て使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、白金とジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニルシロキサンとの錯体;塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。また、付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されず通常のとおりとすればよい。
【0044】
上記のとおり、(A−1)成分の調製には上記原料(a)に対して過剰モル量の上記原料(b)を用いることから、(A−1)成分は、上記原料(b)の構造に由来する付加反応性炭素−炭素二重結合を1分子中に2個有するものである。更に、(A−1)成分は、上記原料(a)に由来する残基を有し、その残基が、上記原料(b)の構造に由来するが付加反応性炭素−炭素二重結合を有しない多環式炭化水素の二価の残基によって結合されている構造を含むものであってもよい。
【0045】
即ち、(A−1)成分としては、例えば、下記一般式(9)で表される化合物が挙げられる。
【化12】
(式中、Xは上記原料(a)の化合物の二価の残基であり、Yは上記原料(b)の多環式炭化水素の一価の残基であり、Y´は上記原料(b)の二価の残基であり、mは0〜10、好ましくは0〜5の整数である)
【0046】
なお、上記(Y´−X)で表される繰り返し単位の数であるmの値については、上記原料(a)1モルに対して反応させる上記原料(b)の過剰モル量を調整することにより設定することが可能である。
【0047】
上記一般式(9)中のYとしては、具体的には、例えば、下記構造式で表される一価の残基(以下、これら6者を区別する必要がない場合は、これらを「NB基」と総称し、また、これら6者の構造を区別せずに「NB」と略記することがある。)が挙げられる。
【化13】
【0048】
上記一般式(9)中のY´としては、具体的には、例えば、下記構造式で表される二価の残基が挙げられる。
【化14】
【0049】
但し、上記構造式で表される非対称な二価の残基は、その左右方向が上記記載のとおりに限定されるものではなく、上記構造式は、実質上、個々の上記構造を紙面上で180度回転させた構造をも含めて示している。
【0050】
上記一般式(9)で表される(A−1)成分の好適な具体例を、以下に示すが、これに限定されるものではない。(なお、「NB」の意味するところは、上記のとおりである。)
【0051】
【化15】
(式中、rは0〜10の整数である。)
【0052】
更に、本発明の(A−1)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0053】
[(A−2)成分]
(A−2)成分は、(A−1)成分と相溶性が高く、硬化させた後の硬化物の強度を落とすことなく、耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性を付与する成分である。
【0054】
(A−2)成分は、主鎖がジフェニルシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端が付加反応性炭素−炭素二重結合含有基を有するトリオルガノシロキシ基で封鎖された直鎖状のオルガノポリシロキサンである。(A−2)成分のオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いてもよく、分子量、ケイ素原子に結合した有機基の種類等が相違する二種以上を併用してもよい。
【0055】
上記一般式(3)中のRとしての付加反応性炭素−炭素二重結合含有基は、上記<原料(b)>の説明に記載したものと同じく、ケイ素原子に結合した水素原子の付加(ヒドロシリル化反応として周知)を受け得る性質をもつ炭素−炭素二重結合を含有する基である。
【0056】
上記付加反応性炭素−炭素二重結合含有基は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
上記付加反応性炭素−炭素二重結合含有基の具体例としては、ビニル基、アリル基、5−ヘキセニル基、プロペニル基、ブテニル基等の炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10のアルケニル基;1,3−ブタジエニル基等の炭素原子数4〜10のアルカジエニル基;アクリロイルオキシ基(−O(O)CCH=CH)、メタクリロイルオキシ基(−O(O)CC(CH)=CH)等の、上記アルケニル基とカルボニルオキシ基との組み合わせ;アクリルアミド基(−NH(O)CCH=CH)等の、上記アルケニル基とカルボニルアミノ基との組み合わせが挙げられる。
【0058】
中でも、(A−2)成分の原料を得るときの生産性及びコストならびに(A−2)成分の反応性等の観点から、上記付加反応性炭素−炭素二重結合含有基としては、ビニル基、アリル基及び5−ヘキセニル基が好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0059】
上記一般式(3)中のRは独立に非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の1価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、sec−ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−,m−,p−トリル等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等のアルケニル基;p−ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基;及びこれらの基中の炭素原子に結合した1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、エポキシ環含有基等で置換された、例えば、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2−シアノエチル基;3−グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0060】
上記の中でも、Rとしては、特にメチル基又はフェニル基であるものが、工業的に製造することが容易であり、入手しやすいことから好ましい。
【0061】
(A−2)成分において、ジフェニルシロキサン単位の重合度nは1〜20であり、1〜15であることが好ましく、2〜10であることが更に好ましい。nが20より大きいと、流動性の低下や(A−1)成分との相溶性の低下が起こり、好ましくない。
【0062】
(A−2)成分の配合量は、(A−1)成分及び(A−2)成分の合計100質量部に対し、30〜70質量部であり、好ましくは35〜65質量部、さらに好ましくは40〜60質量部である。(A−2)成分の配合量が30質量部未満になると、耐熱変色性が低下し、70質量部を超えると、ガスバリア性が低下する。
【0063】
(A−2)成分は、例えばジクロロジフェニルシランやジアルコキシジフェニルシラン等の二官能性シランを加水分解・縮合させた後、又は加水分解・縮合と同時に、付加反応性炭素−炭素二重結合含有基を有する末端封止剤で末端を封止することにより得ることができる。
【0064】
[(B)成分]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の(B)成分は、SiHを1分子中に3個以上有する有機ケイ素化合物である。この(B)成分中のSiHが、上記(A−1)及び(A−2)成分が1分子中に少なくとも2個有する付加反応性炭素−炭素二重結合とヒドロシリル化反応により付加して、3次元網状構造の硬化物を与える。
【0065】
このような(B)成分としては、例えば、下記一般式(5)で表されるシロキサン化合物が挙げられる。
【化16】
(式中、Rは独立に水素原子又はアルケニル基以外の非置換若しくは置換の炭素原子数1〜12の一価炭化水素基であり、Rはメチル基あるいは水素原子であり、pは1〜10の整数、qは0〜7の整数である。pが付されたシロキサン単位とqが付されたシロキサン単位とは互いにランダムに配列している。)
【0066】
上記一般式(5)中のRとしては、例えば、メチル基、エチル、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、sec−ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、o−,m−,p−トリル等のアリール基;ベンジル基、2−フェニルエチル基等のアラルキル基;p−ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基;及びこれらの基中の炭素原子に結合した1個以上の水素原子が、ハロゲン原子、シアノ基、エポキシ環含有基等で置換された、例えば、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基;2−シアノエチル基;3−グリシドキシプロピル基等が挙げられる。
【0067】
上記の中でも、Rとしては、特にメチル基又はフェニル基であるものが、工業的に製造することが容易であり、入手しやすいことから好ましい。
【0068】
上記(B)成分の好適な具体例を、以下に示すが、これに限定されるものではない。
【0069】
HMeSiO(HMeSiO)(PhSiO)SiMe
HMeSiO(HMeSiO)(PhSiO)(MeSiO)SiMe
HMeSiO(HMeSiO)(PhSiO)(MeSiO)SiMe
HMeSiO(HMeSiO)(MeSiO)SiMe
MeSiO(HMeSiO)(PhSiO)SiMe
【0070】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の(B)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0071】
(B)成分の配合量は、次のように設定されることが好ましい。本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、(B)成分以外のSiHを有する成分(例えば、後述の(G)成分)、及び、(A−1)又は(A−2)成分以外のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合を有する成分(例えば、後述の(C)成分として白金との錯体を形成した状態で本組成物中に含有されうるビニルシロキサン)のいずれか一方又は両方を含有することができる。そこで、本組成物中のケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合1モルに対して本組成物中のケイ素原子に結合した水素原子の量は、好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルである。(B)成分の配合量がこのような条件を満たす量であると、光学素子封止時材料として用いた場合に十分な機械特性を有する硬化物を本発明の熱硬化性シリコーン組成物から得ることができる。
【0072】
(A−1)及び(A−2)成分のみがケイ素原子に結合した付加反応性炭素−炭素二重結合を有し、かつ、(B)成分のみがSiHを有する場合には、本発明の熱硬化性シリコーン組成物への(B)成分の配合量は、上記(A)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合1モルに対して、(B)成分中のSiHが、好ましくは0.5〜3.0モル、より好ましくは0.8〜2.0モルとなる量とするのがよい。
【0073】
[(C)成分]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の(C)成分であるヒドロシリル化反応触媒としては、従来から公知のものが全て使用することができる。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、白金とジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニルシロキサンとの錯体;塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられる。
【0074】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物への(C)成分の配合量は、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、上記(A−1)、(A−2)及び(B)成分との合計に対して、白金族金属原子として重量基準で、好ましくは1〜500ppm、特に好ましくは2〜100ppm程度となる量の(C)成分を配合するとよい。このような範囲内の配合量とすることで、硬化反応に要する時間が適度のものとなり、硬化物が着色する等の問題を生じることがない。
【0075】
(C)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0076】
[(D)成分]
また、本発明の熱硬化性シリコーン組成物には、(D)成分として接着性向上剤を配合することが好ましい。接着性向上剤としては、シランカップリング剤やそのオリゴマー、シランカップリング剤と同様の反応性基を有するシリコーン等が例示される。これらの中でも、(D)成分としては、下記一般式(11)で表される化合物が好ましい。
【化17】
(式中、sは1〜3の整数であり、tは0〜3の整数であり、uは0〜3の整数であり、但しs+t+uは4〜5の整数である。sが付されたシロキサン単位とtが付されたシロキサン単位とuが付されたシロキサン単位とは互いにランダムに配列している。)
【0077】
(D)成分は、本発明の熱硬化性シリコーン組成物及びその硬化物の基材に対する接着性を向上させるために組成物に配合される任意的成分である。ここで、基材とは、金、銀、銅、ニッケルなどの金属材料、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化チタンなどのセラミック材料、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの高分子材料を指す。(D)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0078】
(D)成分の配合量は、上記(A−1)、(A−2)、及び(B)成分の合計100質量部に対し、好ましくは1〜30質量部であり、より好ましくは、1〜10質量部である。配合量が1〜30質量部であると、本発明の熱硬化性シリコーン組成物及びその硬化物は、基材に対する接着性が効果的に向上し、また、着色しにくい。
【0079】
(D)成分の好適な具体例としては、下記の化合物が挙げられるが、(D)成分はこれらに限定されるものではない。
【化18】
【0080】
[他の配合成分]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物には、上記成分に加えて、他の成分を配合することは任意である。他の成分としては、例えば、以下に説明するものが挙げられる。
【0081】
<酸化防止剤>
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物中には、上記(A−1)成分中の付加反応性炭素−炭素二重結合が未反応のまま残存している場合があり、例えば、下記構造式で表される2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5−イル)エチル基、及び下記構造式で表される2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−6−イル)エチル基のいずれか一方又は両方の中に存在する炭素−炭素二重結合が含まれている場合がある。そして、このような炭素−炭素二重結合が含まれていると、大気中の酸素により酸化され硬化物が着色する原因となる。そこで、本発明の熱硬化性シリコーン組成物に、必要に応じ、酸化防止剤を配合することにより着色を未然に防止することができる。
【化19】
2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−5−イル)エチル基
【化20】
2−(ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン−6−イル)エチル基
【0082】
この酸化防止剤としては、従来から公知のものが全て使用することができ、例えば、ヒンダードアミン化合物やヒンダードフェノール化合物が例示され、具体的には、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリス[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、N’,N’,N’’,N’’’−テトラキス[4,6−ビス[(1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン−4−イル)(ブチル)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2−イル][N’,N’’−エチレンビス(プロパン−1,3−ジアミン)]等が挙げられる。これらは、1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0083】
なお、この酸化防止剤を使用する場合、その配合量は、酸化防止剤としての有効量であればよく、特に制限されないが、上記(A−1)、(A−2)及び(B)成分の合計に対して、質量基準で、好ましくは10〜10,000ppm、特に好ましくは100〜1,000ppm程度配合するのがよい。このような範囲内の配合量とすることによって、酸化防止能力が十分発揮され、着色、酸化劣化等の発生がなく透明性に優れた硬化物が得られる。
【0084】
<その他>
また、ポットライフを確保するために、1−エチニルシクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等の付加反応制御剤を配合することができる。
更に、発光素子からの光及び太陽光線等の光エネルギーによる光劣化に対する抵抗性を付与するため光安定剤を用いることも可能である。この光安定剤としては、光酸化劣化で生成するラジカルを捕捉するヒンダードアミン系安定剤が適しており、酸化防止剤と併用することで、酸化防止効果はより向上する。光安定剤の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、4−ベンゾイル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0085】
[熱硬化性シリコーン組成物]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物(透明熱硬化性シリコーン組成物)は硬化前には液状であり、その25℃における粘度は好ましくは100〜5000mPa・sであり、より好ましくは200〜1000mPa・sである。粘度が100〜5000mPa・sの範囲であると、得られる組成物は、作業性・取扱い性が良好となりやすく、硬化時に泡や空気の巻き込みが発生しにくい。
【0086】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物の粘度は、(A−1)(A−2)〜(C)成分及び他の配合成分の配合比率、これら成分の中で液状のものの粘度などにより調節される。
【0087】
[シリコーン樹脂硬化物]
本発明の熱硬化性シリコーン組成物は、公知の硬化条件下で公知の方法により成形、硬化させ、シリコーン樹脂硬化物を得ることができる。
具体的には、通常、80〜200℃、好ましくは100〜160℃で加熱することにより、組成物を硬化させることができる。加熱時間は、0.5分〜5時間程度、特に1分〜3時間程度でよいが、LED封止用等の信頼性が要求される場合は、硬化時間を長めにすることが好ましい。得られる硬化物の形態は特に制限されず、例えば、ゲル硬化物、エラストマー硬化物及び樹脂硬化物のいずれであってもよい。
【0088】
一般的に、樹脂硬化物が光学素子封止材料として機能する上では、波長400nmの光の透過率が好ましくは80%以上(即ち、80〜100%)、より好ましくは85%以上(即ち、85〜100%)である。光透過率が80%以上であると、硬化物を照明器具などの発光装置の光学素子封止材料として用いた場合に、光の取り出し効率がより高くなり、充分な明るさを容易に確保できる。光透過率は、硬化物の製造初期のみならず耐熱試験(硬化物を150℃にて500時間放置することにより行われるもの)の後においても、70%以上を維持していることが好ましく、75%以上を維持していることがより好ましい。本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物から得られるシリコーン樹脂硬化物は、波長400nmの光の透過率が80%以上であり、150℃、500時間放置後の光透過率が70%以上であり、光学素子封止材料として十分な光透過率を得ることができる。なお、本明細書において光の透過率は、分光光度計により測定された数値を意味する。
【0089】
また、本発明のシリコーン樹脂硬化物はガスバリア性を有し、1mm厚の硬化物の水蒸気透過率が、40℃において好ましくは7g/m・day以下、より好ましくは6g/m・day以下である。水蒸気透過率が7g/m・day以下であれば、ガスバリア性が低下し、外部からの腐食性ガスの侵入により銀電極が変色してしまうことがない。その結果、硬化物を照明器具などの発光装置の光学素子封止材料として用いた場合に、光の取り出し効率が低下することなく、充分な明るさを確保することができる。したがって、本発明の熱硬化性シリコーン樹脂組成物から得られるシリコーン樹脂硬化物は、光学素子封止材料として十分なガスバリア性を得ることができる。
【0090】
本発明の熱硬化性シリコーン組成物を硬化させることにより得られる硬化物は、上記のように透明性、耐熱変色性、ガスバリア性に優れるとともに、通常の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物と同様に耐寒性、電気絶縁性等にも優れる。
【0091】
[半導体装置]
本発明のシリコーン樹脂硬化物によって封止される光学素子としては、例えば、LED、半導体レーザー、フォトダイオード、フォトトランジスタ、太陽電池、CCD等が挙げられる。このような光学素子は、該光学素子に本発明の透明熱硬化性シリコーン組成物を塗布し、塗布された組成物を公知の硬化条件下で公知の硬化方法により、具体的には上記したとおりに硬化させることによって封止することができる。このような硬化物により被覆された半導体装置であれば、信頼性が優れる半導体装置とすることができる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例中、粘度は回転粘度計であるスパイラル粘度計(株式会社マルコム、型式:PC−1T)を用いて測定した25℃における値である。
【0093】
下記の例において、シリコーンオイル又はシリコーンレジンの組成を示す記号を以下に示す。また、各シリコーンオイル又は各シリコーンレジンのモル数は、各成分中に含有されるビニル基又はケイ素原子結合水素原子のモル数を示すものである。
:(CHHSiO1/2
Vi:(CH=CH)(CHSiO1/2
ViΦ:(CH=CH)(C)(CH)SiO1/2
:(CH)HSiO2/2
Φ:(C)(CH)SiO2/2
2Φ:(CSiO2/2
M:(CHSiO1/2
【0094】
[合成例1](A−1)成分の調製
撹拌装置、冷却管、滴下ロート及び温度計を備えた5Lの4つ口フラスコに、ビニルノルボルネン(商品名:V0062、東京化成社製;5−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンと6−ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンとの略等モル量の異性体混合物)1785g(14.88モル)、及び、トルエン455gを加え、オイルバスを用いて85℃に加熱した。これに、5質量%の白金を担持したカーボン粉末3.6gを添加し、撹拌しながら1,4−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン1698g(8.75モル)を180分間かけて滴下した。滴下終了後、更に110℃で加熱攪拌を24時間行った後、室温まで冷却した。その後、白金担持カーボンをろ過して除去し、トルエン及び過剰のビニルノルボルネンを減圧留去して、無色透明なオイル状の反応生成物(25℃における粘度:12820mPa・s)3362gを得た。
【0095】
反応生成物を、FT−IR、NMR、GPC等により分析した結果、このものは、
(1)p−フェニレン基を2個有する化合物(下記に代表的な構造式の一例を示す):約41モル%、
【化21】
(2)p−フェニレン基を3個有する化合物(下記に代表的な構造式の一例を示す):約32モル%
【化22】
(3)p−フェニレン基を4個以上有する化合物:約27モル%
の混合物であることが判明した。また、混合物全体としての付加反応性炭素−炭素二重結合の含有割合は、0.36モル/100gであった。
【0096】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
下記の(A−1)〜(G)成分を表1に示す配合量(単位:質量部)で配合し、実施例1〜4、比較例1〜3の各々の組成物を得た。得られた組成物の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0097】
(A−1)合成例1で得られた反応生成物、
(A−2−1)平均分子式:MViΦ2Φで表されるオルガノポリシロキサン
(A−2−2)平均分子式:MVi2Φで表されるオルガノポリシロキサン
(A−3)平均分子式:MViΦで表されるオルガノポリシロキサン
(B−1)平均分子式:M2Φ、で表されるオルガノポリシロキサン
(B−2)平均分子式:M2Φ、で表されるオルガノポリシロキサン
(C)白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体トルエン溶液(白金原子を1質量%含有)
(D−1)下記式で表される化合物
【化23】
(D−2)下記式で表される化合物
【化24】
(E)1−エチニル−1−シクロヘキサノールの50質量%トルエン溶液(付加反応制御剤)
(F)酸化防止剤:BASF社製 SABOSTAB UV 119
(G)酸化防止剤:チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 IRGANOX 3114
【0098】
【表1】
【0099】
次に、各実施例及び比較例で得られた組成物について、下記(1)〜(4)の手法に従って硬化物を作製し(それぞれ表2中のH1〜H4、H5〜H7)、性能評価を実施した。硬化条件として、150℃で4時間加熱硬化を行なった。得られた硬化物の特性を表2に示す。
(1)光透過率の測定
2枚のガラス板間に2mm厚のスペーサーを装着し、15mm×40mm×2mmの空間に組成物を収め、上記の加熱硬化を行い、2mm厚の硬化物を得た。得られた硬化物の光透過率を分光光度計を用いて、測定波長400nm(紫外線領域)について25℃で測定を行った。
(2)硬度の測定
ASTM D 2240 に準じて、各硬化物の硬度(Shore D) を測定した。
(3)ガスバリア性(水蒸気透過率)の評価
外径100mmΦ、厚み1mmの硬化物を作製し、システック・イリノイ社製水蒸気透過率測定装置(L80−5000型)を用い、40℃にて測定を実施した。数値が低い方がガスバリア性が高いと評価される。
(4)耐熱変色性の評価
上記(1)で得られた硬化物H1〜H7を、150℃にて500時間放置して耐熱試験を行った。上記(1)で得られた初期の光透過率と試験後の光透過率との差をとることで、耐熱性を評価した。光透過率の差が小さいほど耐熱性が高いと評価される。
【0100】
【表2】
【0101】
表1、2に示すように、本発明の熱硬化性シリコーン組成物を用いた実施例1〜4においては、いずれの組成物も粘度が低く、したがって流動性に優れていた。初期の光透過率も高く、透明性にも優れていた。また、初期の光透過率と加熱劣化後の光透過率の差も小さいことから、耐熱性にも優れていた。さらに、水蒸気透過率も小さく、ガスバリア性も優れていることが分かった。
【0102】
一方、比較例1では、初期に比べ、加熱劣化後の光透過率が大きく低下していることから、耐熱性が不良であった。比較例2では、水蒸気透過率が高い値を示しており、ガスバリア性が低いことが分かった。また、比較例3においても、水蒸気透過率は高い値を示し、良好なガスバリア性が得られなかった。
【0103】
以上の結果は、本発明の熱硬化性シリコーン組成物が、室温において高い流動性を有し、その硬化物は、透明性と耐熱性(熱安定性)、特に耐熱変色性に優れ、さらに高いガスバリア性を有することを示している。よって、本発明の熱硬化性シリコーン組成物の硬化物は、光学素子封止材料、特に白色LED用の封止材料として有用である。
【0104】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。