(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属酸窒化物の前記結晶粒と、前記非晶質との前記集合体は、1MHzの電場が印加された場合に、−50℃〜50℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が3%以内である、請求項13または14に記載の誘電体組成物。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0038】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0039】
本願発明者らは、前述した課題を鋭意検討した結果、金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とを用いて窒素を含む雰囲気中で焼結すれば、十分に窒化されている焼結体が得られることを見出し、本発明をなすに至った。そして、本発明に係る焼結体は、金属酸窒化物を含む複数の結晶粒と、非晶質との集合体を含むことを特徴とする。
【0041】
本発明に係る焼結体は、上記の通り、複数の結晶粒と、非晶質との集合体とを含む。この複数の結晶粒における金属酸窒化物としては、特に限定されないが、さまざまな金属の酸窒化物を用いることができる。金属として、アルカリ土類金属や希土類金属が好適に用いられる。アルカリ土類金属や希土類金属を用いることにより、窒素含有量が高い焼結体を容易に得ることができる。アルカリ土類金属としては、BaまたはSrの少なくとも一方が好適に用いられる。また、希土類金属としてはLaが好適に用いられる。BaやSr、Laを用いた場合、より一層窒素含有量の高い焼結体を確実に得ることができる。上記の通り、金属酸窒化物を含む複数の結晶粒は、結晶性である。本発明に係る焼結体は、この結晶性の複数の結晶粒と、非晶質の集合体を含む。
【0042】
上記非晶質は、結晶性でない適宜の材料からなる。好ましくは、上記非晶質は、結晶粒間の界面に存在している。また、複数の結晶粒は、好ましくは多結晶からなる。そして、上記非晶質はこの多結晶の結晶粒間に存在していることが望ましい。より具体的には、上記非晶質は上記多結晶の結晶粒界に沿って存在していることが望ましい。
【0043】
また、非晶質を構成する材料は特に限定されないが、好ましくは、炭素を含み、より好ましくは、炭素と窒素とを含む。
【0044】
さらに非晶質は、上述した金属酸窒化物を構成している金属元素と同種の元素を少なくとも1つ含んでいてもよい。その場合には、上述した金属酸窒化物が一部溶解し、再析出を生じることにより焼結が進展したと考えることができ、ゆえに非晶質部分は金属酸窒化物を焼結させるための助剤として働いていると考えることができる。
【0045】
本発明においては、集合体の緻密性は、65%以上であることが好ましい。ここで、緻密性の評価は、後述の実施例で説明するように、画像解析を利用して求められる。緻密性が65%以上であれば、焼結体の緻密性が高いことが好ましい物性を活用した応用に用いることができる。該応用としては、例えば、上記焼結体を誘電体組成物に用いることが挙げられる。より好ましくは、集合体の少なくとも一部の緻密性が80%以上である。
【0046】
また、上記焼結体においては、結晶粒の円相当径の平均値は、好ましくは、0.18μm以上である。その場合には、結晶粒は焼結体の原料である酸窒化物粒子が互いに結合・成長していると考えることができる。また、上記結晶粒の円相当径の平均値は、4.0μm以下であることが望ましい。上記円相当径の平均値は、粒子の形状や大きさを判別できる倍率で取得した画像(例えば倍率3万倍の走査型電子顕微鏡による観察像)に対して画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いることにより求めることができる。
【0047】
上記「A像くん」を用いた円相当径の平均値の解析方法を述べる。
【0048】
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、個々の粒子の形状が判別できる程度の倍率の画像を取得した。このときの倍率としては、例えば5000倍や10000倍、あるいは30000倍などが用いられる。次に、粒子の形状が目立つように明るさ、コントラストを調節した。2値化処理を行い、粒子部分のみを抽出した。
【0049】
なお、上記「A像くん」の2値化処理による粒子抽出では完全でない場合には手動で補った。
【0050】
粒子以外の箇所、すなわち焼結体における非晶質部分や、空隙部分を抽出した場合は、これを削除した。
【0051】
画像処理ソフトの「粒子解析」で粒子の個数、面積、円相当径を測定した。
【0052】
なお、上記結晶粒は、ペロブスカイト構造を含む。
【0053】
本発明に係る焼結体は、比誘電率が高い。従って、本発明の焼結体は、誘電体組成物に好適に用いられる。
【0054】
上記のように、本発明に係る焼結体が誘電体としての特性に優れていることは、焼結体中に、酸素と窒素が十分に含有されており、酸素あるいは窒素の格子欠陥が十分に少ないため、絶縁性が高められていることによると考えられる。後述の実施例で説明するように、本発明で得られた焼結体は、一般的な酸窒化物粉体とほぼ同様に、橙色〜赤色を示している。従って、窒素の脱離があまり生じておらず、窒素含有量の多い焼結体の得られていることがわかる。
【0055】
橙色〜赤色の色調を示していることは、バンドギャップエネルギーが、可視光の領域にあることを示している。従って、本発明に係る焼結体及びその構成粒子は、光触媒組成物、光電変換素子などに好適に用いることができる。また、窒素が表面に存在するため、従来の酸化物センサでは測定できないガスを測定し得るガスセンサをも提供することが可能となる。
【0056】
本発明に係る焼結体の製造方法では、金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とを互いに接触させた状態で、窒素を含む雰囲気中で焼結する。このシアナミドを含む焼結助剤を用い、かつ窒素を含む雰囲気中で加熱して焼結することにより、窒素含有量の多い焼結体を得ることができる。
【0057】
上記シアナミドの融点は、上記金属酸窒化物の窒素脱離温度よりも低いことが好ましい。それによって、窒素の脱離が焼結に際してより一層生じ難い。上記シアナミドは特に限定されないが、好ましくは、BaCN
2、SrCN
2、CaCN
2などを用いることができ、より好ましくは、BaCN
2が用いられる。
【0058】
上記BaCN
2は、焼結助剤として用いられているものであり、得られた焼結体では、BaCN
2の結晶構造は見られない。すなわち、金属酸窒化物からなる結晶粒間に、非晶質部分が存在している。
【0059】
本発明の製造方法において、金属酸窒化物は、シアナミドが融解した液相に溶解する材料であることが好ましい。それによって、窒素含有量の多い焼結体をより確実に提供することができる。このような金属酸窒化物としては、特に限定されないが、例えば、BaTaO
2NやSrTaO
2Nなどが用いられる。
【0060】
焼結助剤として、BaCN
2を用い、金属酸窒化物としてSrTaO
2Nを用いた場合の製造方法の一実施態様について説明する。
【0061】
BaCN
2の融点は900℃付近である。他方、SrTaO
2Nの窒素脱離を伴う重量変化開始温度は1000℃付近である。従って、SrTaO
2Nの窒素の脱離が生じ難い、900℃付近の温度で、SrTaO
2Nの周囲に存在するBaCN
2が液相に変化する。よって、SrTaO
2N粒子が、液相のBaCN
2に溶解し、再析出する現象を繰り返すこととなる。すなわち、液相焼結により、SrTaO
2Nが焼結されることとなる。SrTaO
2N粒子が、溶解及び再析出現象を繰り返すことにより、互いに結着し、粒成長が進む。その結果、Sr
1−xBa
xTaO
2Nの焼結体を得ることができる。
【0062】
なお、従来、SrTaO
2Nの焼結には、1400℃以上の高温を必要としていた。これに対して、本発明の製造方法では、800℃〜900℃程度の低温で焼成を行うことができる。そのため、焼成に際しての窒素の脱離が生じ難い。その結果、窒素含有量の高められた焼結体を得ることが可能とされている。
【0063】
上記のように、SrTaO
2Nからの窒素の脱離温度は1000℃付近である。従って、本発明の製造方法では、1000℃よりも低い温度で焼成することが好ましい。より好ましくは、本発明に係る焼結体の製造方法では、焼成に際しては、金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とが互いに接触された状態で、880℃以上、950℃以下の温度で加熱することが好ましい。この温度範囲内であれば、窒素の脱離がより一層生じ難い。
【0064】
上記焼結に際し、金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とを互いに接触させる態様については、特に限定されない。金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とを混合してもよい。あるいは、金属酸窒化物上に、シアナミドを含む焼結助剤を載置してもよい。
【0065】
なお、本発明の焼結体の製造方法では、好ましくは、一回の焼成により焼結体を得る。この場合には、窒素の脱離がより一層生じ難い。
【0066】
本発明の焼結体の製造方法において、窒素の脱離が生じ難いのは、上記のように、窒素が脱離する温度よりも低い温度で焼成すること、及び窒素雰囲気下で焼成することによる。
【0067】
好ましくは、焼結助剤は、粉体状または粒子状であることが望ましい。その場合には、金属酸窒化物を容易に混合することができ、混合状態で上記焼結を行うことができる。従って、窒素含有量の多い焼結体をより一層確実に得ることができる。
【0068】
なお、上記焼結助剤の使用量は特に限定されないが、金属酸窒化物100重量%に対し、3重量%以上の割合で用いることが望ましく、5重量%以上の割合で用いることがより望ましく、10重量%以上の割合で用いることがさらに望ましい。また、上記焼結助剤の使用量としては、金属酸窒化物100重量%に対し、50重量%以下の割合で用いることが望ましい。上記範囲内であれば、窒素含有量の多い焼結体をより一層確実に得ることができる。
【0069】
上記焼結体の製造方法では、焼結に際し、窒素雰囲気下で焼結を行うため、電気炉などを用い連続的に製造することができる。従来のアンモニアガスを用いた製造方法では、バッチ式製造方法を用いねばならなかった。これに対して、上記の通り、連続的な製造方法を用いることができるため、生産性を効果的に高めることができる。
【0070】
本発明に係る焼結体からなる誘電体組成物は、好ましくは、30℃〜150℃の環境において、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率が、100以上、200以下である。また、本発明に係る焼結体からなる誘電体組成物は、好ましくは、30℃〜150℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が10%以内である。
【0071】
従って、本発明に係る誘電体組成物は、例えばキャパシタに好適に用いることができる。
【0072】
より好ましくは、金属酸窒化物の結晶粒と、非晶質との集合体は、1MHzの電場が印加された場合に、−50℃〜50℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が3%以内である。この場合には、温度変化による比誘電率の変化が小さいコンデンサを提供することができる。
【0073】
本発明に係るキャパシタの構造は特に限定されないが、本発明に係る誘電体組成物と、誘電体組成物を介して対向されている一対の電極とを備えるものであればよい。この場合、一対の電極の一方の電極が、誘電体組成物のある面に設けられ、誘電体組成物の他の面に他方の電極が設けられてもよい。あるいは、誘電体組成物の同一面において、ギャップを隔てて一対の電極が設けられていてもよい。
【0074】
光触媒組成物では、バンドギャップエネルギーが可視光領域内、すなわち1.65eV〜3.26eVの領域にあることが好ましいとされている。利用できる太陽光のエネルギー幅が増加するため、光触媒特性を高め得るからである。本発明により得られた焼結体は、橙色〜赤色の色調を示す。従って、バンドギャップエネルギーが可視光の領域にあると推測される。よって、本発明に係る焼結体は、光触媒組成物に好適に用いることができる。
【0075】
また、太陽電池などの光電変換素子においても、光電変換材料は可視光領域にバンドギャップエネルギーを有することが望ましく、かつ不純物が少ないことが好ましい。従って、本発明の焼結体は、上記光電変換素子に好適に用いられ得る。
【0076】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。
【0077】
(実施例1)
従来の金属酸窒化物焼結体では、窒素が脱離し半導体化している。そのため、電気抵抗が低く、誘電体として用いることは困難であった。
【0078】
これに対して、本発明で得られた焼結体は、窒素を多く含有しており、絶縁体すなわち誘電体としての特性を示す。よって、誘電体組成物に本発明の焼結体を好適に用いることができる。
【0079】
(1)SrTaO
2Nの合成
炭酸ストロンチウム(SrCO
3)粉体と、炭酸ストロンチウム粉体に対し、1/2モル量の酸化タンタル(Ta
2O
5)とをアセトン分散媒中で混合した。空気中で乾燥させたのち、電気炉を用いて、大気雰囲気下で1200℃の温度で12時間熱処理した。それによって、Sr
2Ta
2O
7粉体を得た。
【0080】
得られたSr
2Ta
2O
7粉体を、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、1000℃で80時間加熱し、SrTaO
2N粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0081】
得られたSrTaO
2N粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、SrTaO
2Nの無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0082】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、得られた粉体の一次粒径を測定した。その結果、粒径は40nm〜150nm程度であった。また、平均粒径は90nmであった。
【0083】
(2)BaCN
2粉体の合成
炭酸バリウム(BaCO
3)を酸化アルミニウムからなるボート上に配置し、(1)で用いたのと同じ管状炉内に配置した。炉心管内にアンモニアを50ml/分の流量で流し、900℃の温度で10時間加熱し、粉体を得た。昇温・降温速度は、5℃/分とした。
【0084】
得られた粉体をXRD装置を用いて結晶分析を行った。結果を
図1に示す。得られた粉体の結晶相は、既存のBaCN
2の粉末回折データファイル(JCPDS 51−542)とは異なった。従って、得られた粉体の結晶相は新規な結晶相であると考えられる。
【0085】
また、得られた粉体の元素組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)を用いて分析した。その結果、Baが74重量%以上、77重量%以下の割合で含まれていることがわかった。また、燃焼組成分析により、C及びNがそれぞれ、6.5重量%及び15.3重量%含まれていることがわかった。
【0086】
さらに、上記粉体を蒸留水中に投入したところ、アンモニア臭を伴いながら、BaCO
3相の沈殿を生成した。
【0087】
これらの結果から、得られた粉体の組成は、BaCN
2と推定した。
【0088】
組成がBaCN
2であると仮定し、上記粉体の結晶構造をXRDにより調べた。推定された結晶構造に基づき、密度を求めた。その結果、理論密度は、4.53g/cm
3と推定された。
【0089】
(3)SrTaO
2Nの液相焼結
(1)で合成されたSrTaO
2N粉体と、(2)で合成されたBaCN
2粉体とをメノウ鉢を用いて混合した。さらに、錠剤成型用金型を用い、混合物を、直径6mm、厚さ2mmの円板の形状に成形した。SrTaO
2N粉体とBaCN
2粉体との混合比率は、SrTaO
2N粉体100重量部に対し、BaCN
2粉体が30重量部とした。成形圧力は約46MPaとした。
【0090】
成形後、金型から成形体を取り出した。取り出された成形体を真空パックし、等方静水圧プレス機を用い、150MPaで加圧した。加圧後に取り出された成形体を、(1)で合成されたSrTaO
2N粉体を埋め粉として用い、酸化アルミニウムのボート上に配置し、(1)及び(2)内で用いた管状炉内に配置した。炉心管に窒素ガスを50ml/分の流量で流しつつ、900℃の温度で30時間加熱した。それによって、焼結体を得た。なお、昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0091】
(4)焼結体の観察及び分析
(3)で得られた加圧後の成形体の表面は橙色を呈していた。これに対して、(3)で得られた焼結体の表面は赤色に近い色となっていた。従って、焼結体のバンドギャップエネルギーは可視光領域内にあると推測される。
【0092】
また、加圧された後の成形体の直径及び厚みは、直径が6mm及び厚みが2mmであったのに対し、得られた焼結体の直径は5.4mm及び厚みは1.6mmであった。上記成形体及び焼結体の体積及び重量から、得られた焼結体の密度は、成形体に比べて約42%高くなっていることがわかった。
【0093】
焼結体の密度は約5.6g/cm
3であった。この焼結体の密度は、無機結晶構造データ(ICSD 95373)に記載の計算密度である7.975g/cm
3の70.2%であった。また、SrTaO
2N粉体100重量部と、BaCN
2粉体30重量部との混合物の推定密度は、BaCN
2の密度4.53g/cm
3とした場合、7.18g/cm
3と推定される。従って、上記焼結体の密度は、この推定密度7.18g/cm
3の78%であった。
【0094】
得られた焼結体の表面から約0.2mmの厚みの部分までを、耐水サンドペーパー(シリコンカーバイド砥粒、砥粒の粒径は2μm〜3μm)を用いて乾式研磨した。しかる後、XRD分析を行った。結果を
図2に示す。
【0095】
図2に示されているように、回折ピーク位置は、SrTaO
2Nに近い角度に分布している。従って、この焼結体の主な結晶相はペロブスカイト相であると推定される。
【0096】
また、水酸化バリウム水和物(Ba(OH)
2・H
2O)と思われるピーク(ICSD 63017)と、SrCO
3の寄与によるピーク(ICSD 27446)と思われる弱い回折ピークも存在している。
【0097】
他方、(2)で合成されていたBaCN
2の回折ピークと同位置には、
図2ではピークが見られない。BaCN
2の添加量は、SrTaO
2Nの30重量%であった。この添加量と比べると、Ba(OH)
2・H
2Oの回折ピーク強度は著しく弱い。従って、BaCN
2に由来する物質は、得られた焼結体内で、非晶質として分布していると考えられる。
【0098】
得られた焼結体を破断し、破断面をSEMを用いて観察した。このSEM写真を、
図3及び
図4に示す。
図3に示す300倍の観察写真では、粒子が緻密に存在している領域と、幅50μm程度の空隙とが、規則性を有することなく分布している。また、
図4に示す倍率10000倍の観察写真において、緻密な部分を観察すると、幅1μm以上の比較的大きな空隙は見られない。
【0099】
得られた焼結体のSEM観察写真から、焼結体の緻密性を解析した。緻密性は、以下の方法で求めた。
【0100】
SEM観察写真は倍率300倍または500倍の画像を使用した。このとき、取得した画像の範囲は、300倍の場合は幅392μm×高さ284μm、500倍の場合は幅258μm×高さ181μmであった。
【0101】
画像は焼成体破断面のため凹凸が多い。元々空隙であったと考えられる領域は、暗い穴や、破断に伴い生じた焼結体の欠片が入り込んでいる箇所と言えるので、これら空隙と考えられる箇所が目立つように明るさ、コントラストを調節した。
【0102】
画像処理ソフト「A像くん」を用いて2値化処理を行い、空隙部分のみを抽出した。「A像くん」の2値化処理による抽出では完全でない場合には手動で補った。
【0103】
空隙以外を抽出した場合は、これを削除した。
【0104】
上記「A像くん」の「総面積・個数計測」で総面積、個数、空隙面積率、計測範囲の面積を測定した。
【0105】
解析の結果、SEM観察で取得した画像領域に占める空隙部分の面積率は、20.0%〜32.0%であった。焼結体の緻密性は100−空隙部面積率であるので、68.0%〜80.0%と求められた。
【0106】
得られた焼結体を集束イオンビーム(FIB)を用いて加工し、走査透過型電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて観察及び元素分布分析を行った。
図5及び
図6は、焼結体のSTEM写真である。また、
図7は、
図5に示したSTEM写真と、その結晶粒と思われる部分及び非晶質と思われる部分の電子回折図形を示す。
【0107】
図5〜
図7から明らかなように、回折スポットが観測されている結晶質部分と、回折スポットが見られない非晶質部分とが存在していることがわかる。従って、非晶質の材料が、結晶粒間に分布していることがわかる。
【0108】
図8は、上記焼結体のTEM−EDXスペクトル分析において観察した部分のTEM写真及び
図9,
図10は、粒子部分と粒子間部分のTEM−EDXスペクトルである。
図11〜
図22は、上記焼結体のTEM−EDX元素マッピング像を示す図である。このうち
図11と
図17は、TEM−EDX元素マッピング分析の観察箇所のTEM写真である。結晶粒子部分には、Sr及びTaが多く分布しており、他にBa及びNが検出されている。他方、非晶質部分では、Ba、C及びNが多く分布しており、微量のSr及びTaが検出されている。この結果から、SrTaO
2NはBaCN
2に溶解し、再析出するときに、Srの代わりにBaが結晶格子に取り込まれており、Sr
1−xBa
xTaO
2Nとして粒成長していると推測され得る。また、BaCN
2中に、溶解したSr及びTaが残留したため、非晶質部分においてSr及びTaが検出されているものと考えられる。
【0109】
上記焼結体を、破断し、破断面を研磨した。しかる後、クエン酸(C(OH)(CH
2COOH)
2COOH、98.0%濃度)の1モル/L水溶液に2日間浸漬し、BaCN
2及びBaCN
2に由来すると考えられる非晶質を除去した。浸漬後の焼結体を取り出し、少量の蒸留水及びヘキサンを用いて洗浄した。この後に、破断面をSEMで観察した。
図23(a)及び
図23(b)は、上記破断面のSEM写真である。
図4の倍率10000倍のSEM写真と比べると、同じ位置の
図23(a)では、粒径80nm〜400nm程度、平均粒径で200nm程度の角張った粒子が互いに結合しながら分布していることがわかる。破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて粒度分布を解析した結果、円相当径の平均値は237nmと求められた。粒子同士の空隙は、非晶質が存在した部分と考えられる。従って、非晶質が存在した部分は、大きくても、1μm程度と考えられる。
【0110】
上記焼結体内では、ペロブスカイト構造を有する酸窒化物粒子同士の間に、非晶質が分布していることがわかった。これは、上記の通り、SrTaO
2N粒子間の隙間に液状のBaCN
2が浸透し、SrTaO
2N粒子の溶解及び再析出による粒成長や結合を生じさせた後、液状のBaCN
2は炉内温度低下に伴い固化した時に結晶化しなかったためと考えられる。
【0111】
(5)焼結体の電気物性の評価
(3)で得られた焼結体の両面に、白金(Pt)をスパッタ法を用いて成膜した。インピーダンスアナライザーを用いて、比誘電率(ε
r)、誘電損失(tanδ)及び複素インピーダンスを測定した。
図24は、複素インピーダンス特性を示す図である。
図24から、複素インピーダンスは、数MΩの領域にあり、焼結体が十分な絶縁性を有することがわかった。
図25に示すように、比誘電率(ε
r)は、周波数によらず60以上、200以下の領域に存在しており、誘電損失は7×10
−2(7%)以上、3×10
−1(30%)以下の領域にあることがわかった。
【0112】
上記と同じ焼結体を、インピーダンスアナライザーを用いて周波数5MHz〜100MHzの電場を印加し、30℃〜150℃の温度範囲で、比誘電率及び誘電損失を測定した。結果を、
図26に示す。温度30℃〜150℃の範囲で、比誘電率は周波数5MHzでは139〜153に、10MHzでは137〜150に、50MHzでは125〜134に、100MHzでは122〜129に増加した。
【0113】
30℃〜150℃の温度範囲における比誘電率の増加量を30℃のときの比誘電率で除算した。その結果、比誘電率の変化率は、周波数5、10、50、及び100MHzにおいて、それぞれ、10.7、9.3、6.5、5.6(%)であった。誘電損失は、0.08(8%)以上、0.2(20%)以下の間で変化した。
【0114】
(実施例2)
BaCN
2のSrTaO
2Nに対する添加量を50重量部としたことを除いては、実施例1と同様にして、焼結体を得た。得られた焼結体は、実施例1で得られた焼結体と同様に、加圧後の成形体に比べて収縮しており、硬質であった。また、実施例1で得た焼結体に比べ、実施例2で得た焼結体は、赤みがより強かった。
【0115】
実施例2で得た焼結体が、赤みが強いことは以下の理由によると考えられる。すなわち、Sr
1−xBa
xTaO
2Nにおいて、xが実施例1の場合よりも大きいためと考えられる。言い換えれば、SrTaO
2NにおけるSrサイトにおいて、SrからBaへの置換がより一層進んでいるためと考えられる。
【0116】
(実施例3)
実施例1の(1)で得たSrTaO
2Nの成形体上に、該成形体の30%の重量を有する、BaCN
2の成形体を配置し、900℃の温度で2時間、窒素ガス中で加熱した。それによって、焼結体を得た。
【0117】
得られた焼結体は、赤色を示し、かつ硬質であった。また、焼結体上面には、やや明るい赤色または白色の層が見られた。この焼結体を乾式研磨すると、研磨された面は光沢を有していた。
【0118】
また、この焼結体を破断し、破断面をSEMで観察した。
図27(a)〜
図27(c)は、焼結体の破断面のSEM写真を示す。破断面に、個々の粒子の形状は見られず、溶融・硬化物が分布していることがわかる。
【0119】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、STEM−EDX分析を行った。
図28(a)及び
図28(b)は、STEM観察写真を示し、
図29(a)〜
図29(c)はその要部を拡大して示す。
【0120】
図28(a)及び
図28(b)並びに
図29(a)〜
図29(c)から、粒子同士が別の物質で結合されていることがわかる。
【0121】
図29(a)に示すSTEM写真の結晶粒と見られる部分のSTEM−EDXスペクトルを
図30に、結着物質部分と見られる部分のSTEM−EDXスペクトルを
図31に示す。
【0122】
図30及び
図31より、SrTaO
2N粒子であった部分に微量のBaが分布していること、BaCN
2部分であった結着物質部分にSrとTaも分布していることがわかる。
【0123】
上記焼結体の研磨と、XRD分析及び上記STEM−EDX分析を繰り返すことにより、焼結体の上面から底面に至るまでの結晶相と元素組成を分析した。
図32は、各部分のXRDパターンを示す図である。また、図内のSr/Ba/Taの右側の数字は、焼結体の各部分の蛍光X線(XRF)分析による、Sr、Ba、Taの各原子の個数比率(at%)である。上面から底面に至るまで、主な結晶相がペロブスカイト構造を有し、Sr
1−xBa
xTaO
2Nの回折パターンを示していることがわかる。他に、Ba(OH)
2・H
2O及びSrCO
3に由来すると考えられる微弱な回折ピークと、不明相の回折ピークが検出された。また、上面に行くほどBa量が多く底面に向かうにつれてBa量は減少した。なお、底面のみBa量が再度増加しているが、融解したBaCN
2が酸窒化物成形体の外周部を伝って、底面側に浸透したものと考えられる。
【0124】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。
図33は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図33により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0125】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を
図34に示す。
図34より、比誘電率(ε
r)は100前後であり、誘電損失(tanδ)は10
−1(10%)以上、0.7(70%)以下の間で変動していることがわかる。また、誘電物性の温度依存性を
図35及び
図36に示す。−50℃〜50℃の100℃の温度範囲において、印加電場の周波数ごとの比誘電率(ε
r)の増加量を下記の表1に示す。
【0127】
表1から、上記温度範囲における温度変化による比誘電率(ε
r)の変化量は、周波数1kHz、10kHz、100kHz、1MHzにおいて、それぞれ、6.22%、4.23%、2.92%及び1.94%であった。
【0128】
実施例3の結果から明らかなように、焼結助剤のシアナミドは、金属酸窒化物と混合して用いられなくともよい。すなわち、焼結助剤は、金属酸窒化物と接触されてさえいればよい。
【0129】
(実施例4)
実施例1の(1)で合成されたSrTaO
2N粉体200mgとBaCN
2粉体300mgとを混合したのち、酸化アルミニウム製ルツボ内に設置し、実施例1と同様にして、900℃の温度で30時間、窒素ガス中で加熱した。熱処理後、ルツボの底面に赤茶色の固化物が形成されていた。
【0130】
上記固化物を取り出したのち、1モル/L濃度の硝酸に15時間浸漬した。その結果、赤色の微粉末が硝酸を入れた容器の底面に沈殿した。ろ過により沈殿物を得、蒸留水で洗浄し、試料粉体とした。
【0131】
上記試料粉体の組成をXRFを用いて分析した。その結果、Sr、Ba及びTaは、41.9(2):7.94(4):50.2(3)の割合で含まれていた。Sr+Baの割合と、Taの割合とがほぼ一致した。
【0132】
他方、ろ液をICP−AESを用いて元素組成を分析した。その結果、Sr、Baと、微量のTaの存在が確認された。従って、実施例1において作製した焼結体の非晶質部分には、元のBaCN
2だけでなく、SrTaO
2N酸窒化物粒子から溶解したSrやTaが含有されていると推定される。
【0133】
上記試料粉体をXRD分析した。結果を
図37に示す。
図37より、この試料粉体は、SrTaO
2NやBaTaO
2Nと同様のペロブスカイト型の結晶を有することがわかる。また、試料粉体の回折ピーク位置は、SrTaO
2Nの回折ピーク位置と、BaTaO
2Nとの回折ピーク位置の間に存在した。上記XRF分析及びXRD分析の結果から、上記試料粉体は、Sr
1−xBa
xTaO
2Nであることがわかった。
【0134】
上記試料粉体をSEMに装着したEDXを用いて、元素分布を分析した。元素マッピング像を、
図38(a)〜
図38(c)及び
図39(a)〜
図39(c)に示す。Sr、Ba、Ta、N及びOが一様に分布していることが確認された。
【0135】
上記試料粉体をSEMで観察した。
図40(a),
図40(b)及び
図41(a),
図41(b)は、上記のように硝酸で洗浄された粉体粒子のSEM写真である。
【0136】
図40(a),
図40(b)及び
図41(a),
図41(b)から、粒子の一次粒径が0.1μm以上、3μm以下程度であり、一次粒子同士が互いに強固に結合しているように見受けられた。また、二次粒子の大きさは約数μmであった。
【0137】
BaCN
2をSrTaO
2Nよりも多くした場合、BaCN
2液相が多く生じる。これにSrTaO
2Nが溶解したと考えられる。その結果、酸窒化物粒子は、溶解及び再析出を繰り返しながら粒成長し、直径1μm以上の多結晶粒子が形成された。上記のように、一次粒径が0.1μm〜数μmの範囲に跨っている。これらの結果から、シアナミドを用いた液相焼結では、酸窒化物粒子が効果的に粒成長することがわかる。
【0138】
また、上記酸窒化物粒子のシアナミド相への溶解及び再析出の繰り返しにより、大粒径であり、かつ単相の酸窒化物粒子を合成することが可能となる。
【0139】
(実施例5)
本実施例は、金属酸窒化物としてLaTaON
2を用いた点において、実施例1と異なる。以下において、本実施例の詳細を説明する。
【0140】
酸化ランタン(La
2O
3)粉体と、酸化ランタンと等モル量の酸化タンタル(Ta
2O
5)とをエタノール分散媒中で混合した。空気中で乾燥させたのち、電気炉を用いて、大気雰囲気下で1400℃の温度で20時間熱処理した。それによって、LaTaO
4粉体を得た。
【0141】
得られたLaTaO
4粉体を、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、1000℃で15時間加熱し、LaTaON
2粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0142】
得られたLaTaON
2粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、LaTaON
2の無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0143】
LaTaON
2粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN
2粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、LaTaON
2粉体に対するBaCN
2粉体の添加量を30重量部とした。LaTaON
2とBaCN
2とのmol比率としては62mol%:38mol%に相当する。成形体を、窒素ガスを流しつつ、915℃の温度で30時間加熱した。得られた焼結体は固化していた。さらに、この焼結体を蒸留水に1日間浸漬したところ、焼結体は粉体状に崩れた。この粉体を遠心分離機を用いて回収・乾燥させた。
【0144】
図42は、実施例5で得られた焼結体及び焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体のXRDパターンを示す図である。
【0145】
焼結体はLaTaON
2とBa
2LaTaO
6とにより構成されていることがわかる。これら2つの結晶相に起因する回折ピーク強度の比率から、リートベルト法を用い結晶相の構成比率を計算したところ、LaTaON
2:Ba
2LaTaO
6=97.7mol%:2.3mol%と求められた。この比率は成形体の作製に使用したLaTaON
2とBaCN
2とのmol比率(62mol%:38mol%)とは大きく異なっており、BaCN
2に由来する成分の多くが非晶質として焼結体中に存在していることを示している。また、蒸留水に浸漬し、乾燥したことにより得た粉体では、LaTaON
2及びBa
2LaTaO
6に加えてBaCO
3相が生じた。この結果から、焼結体中に存在するBaを含む非晶質成分が水と反応してBaCO
3を生じさせたと考えられる。
【0146】
図43(a)及び
図43(b)は、実施例5で得られた焼結体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。
図44(a)及び
図44(b)は、実施例5において焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。
【0147】
焼結体内部の粒子は膜状の物体に覆われている。一方で、焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体の粒子は、膜状物質に覆われておらず、個々の粒子の形状が明瞭に観察された。これらの結果から、非晶質成分は結晶粒子の表面を覆っていることがわかった。
【0148】
また、焼結体中の酸窒化物粒子の粒度分布を、実施例1と同様に、破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて解析した。その結果、円相当径の平均値は1950nmと求められた。
【0149】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。
図45は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図45により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0150】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を
図46に示す。
図46より、比誘電率(ε
r)は10以上、40以下程度であり、誘電損失(tanδ)は0.1(10%)以上、0.6(60%)以下の間で変動していることがわかる。
【0151】
このように、本発明の焼結体には、例えばLaTaON
2などの、SrTaO
2N以外の金属酸窒化物も用い得る。
【0152】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、STEM−EDX分析を行った。
【0153】
図47は、STEM観察写真と電子線回折像を示す。また、STEM−EDX元素マッピングを
図48に示す。
【0154】
図47に示すように、結晶粒の周囲には、結晶質であることを示す電子線回折パターンが得られない非晶質部分があることがわかる。また
図48に示すように、結晶粒の表層部分には、C、Ba及びNが多く検出された。この結果から、酸窒化物結晶粒子同士を結着する結晶粒間の部分は、主にBaとCからなる化合物で形成されていることがわかった。なお、結晶粒の表層部分の層には、少量だがLaが含まれることもわかる。
【0155】
(実施例6)
本実施例は、金属酸窒化物としてBaTaO
2Nを用いた点において、実施例1と異なる。以下において、本実施例の詳細を説明する。
【0156】
炭酸バリウム(BaCO
3)粉体と、炭酸バリウム1.02モル当量に対し0.5モル当量の酸化タンタル(Ta
2O
5)とを、エタノール分散媒中で混合した。空気中で乾燥させて得た粉体を、酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、950℃で80時間加熱し、BaTaO
2N粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0157】
得られたBaTaO
2N粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、BaTaO
2Nの無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0158】
BaTaO
2N粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN
2粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、BaTaO
2N粉体に対するBaCN
2粉体の添加量を10重量部とした。成形体を、窒素ガスを流しつつ、900℃の温度で10時間加熱した。得られた焼結体は固化していた。
【0159】
図49は、実施例6で得られた焼結体のXRDパターンを示す図である。
【0160】
図49に示す焼結体のXRDパターンからは、BaTaO
2Nと、微量のBa
2TaO
3Nの回折ピークが見られた。一方で、材料として用いたBaCN
2成分に由来する回折ピークが見られないことがわかる。このため、実施例1と同様に、焼結体中にはBaCN
2に由来する非晶質成分が含まれている。
【0161】
図50(a)〜
図50(c)は、実施例6で得られた焼結体の500倍、1000倍及び15000倍の各SEM写真である。
【0162】
角張った粒子が互いに結合しながら分布していることがわかる。また、焼結体中の酸窒化物粒子の粒度分布を、実施例1と同様に、破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて解析した。その結果、円相当径の平均値は1041nmと求められた。
【0163】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。
図51は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図51により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0164】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を
図52に示す。
図52より、比誘電率(ε
r)は4以上、40以下程度であり、誘電損失(tanδ)は0.06(6%)以上、0.7(70%)以下の間で変動していることがわかる。この結果から、この焼結体は誘電体組成物に好適に用いることができることがわかる。
【0165】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、TEM−EDX分析を行った。
【0166】
図53は、TEM観察写真と、写真中の結晶粒と見られる部分の電子線回折像を示す。
図53に示すTEM写真の結晶粒と見られる部分のTEM−EDXスペクトルを
図54に、結着物質部分と見られる部分のTEM−EDXスペクトルを
図55に示す。
【0167】
図53に示すように結晶粒と見られる部分で結晶質に起因する電子線の回折スポットが観察された。また、この結晶質部分には
図54に示すように、Ba、Ta、O、N並びにTEM観察用試料台の成分であるW及びMoが多く検出された。一方で
図55に示すように、結晶粒以外の部分ではBa並びにW及びMoのみが主に検出された。この結果から、酸窒化物結晶粒子同士を結着する結晶粒間の部分は、主にBaからなる化合物で形成されていることがわかった。
【0168】
以上のように、本発明の焼結体には、例えばBaTaO
2Nなどの、SrTaO
2N以外の金属酸窒化物も用い得る。
【0169】
(実施例7)
酸化ランタン(La
2O
3)粉体と、酸化ランタン1モル当量に対し、2モル当量の酸化チタン(TiO
2)粉体とをエタノール分散媒中で混合した。得られた混合粉体を1200℃の温度で30時間熱処理した。それによって、La
2Ti
2O
7粉体を得た。
【0170】
得られたLa
2Ti
2O
7粉体を、実施例1とほぼ同様に、アンモニアガスを流し、980℃で20時間加熱し、LaTiO
2N粉体を合成した。
【0171】
LaTiO
2N粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN
2粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、LaTiO
2N粉体に対するBaCN
2粉体の添加量を10重量部、20重量部または30重量部とした。成形体を、窒素ガスを流しつつ、950℃の温度で10時間加熱した。得られた焼成物は固化しておらず、粉体の圧縮成形体様であった。
【0172】
図56は、実施例7で得られた焼結体のXRDパターンである。
【0173】
焼結体は、LaTiO
2Nの他に酸化ランタン(La
2O
3)、窒化チタン(TiN)及びチタン酸二バリウム(Ba
2TiO
4)で構成されていた。SrTaO
2N+BaCN
2、BaTaO
2N+BaCN
2及びLaTaON
2+BaCN
2の焼結体に関する実施例とは異なり、固化した焼結体を得られないことがわかった。これは、文献(Solid State Sciences, vol.54, 2−6ページ, 2016年、Partial nitrogen loss in SrTaO
2N and LaTiO
2N oxynitride perovskites、著者Daixi Chen, Daiki Habu, Yuji Masubuchi, Shuki Torii, Takashi Kamiyama, Shinichi Kikkawa)において示されている通り、LaTiO
2Nは800℃からNの脱離や熱分解が生じることが一因である。BaCN
2が融解して焼結助剤として作用し始める前に、この熱分解により、TiNやLa
2O
3といった別種の化合物相が生じるので、LaTiO
2NではBaCN
2を用いた焼結が進行しない。一方で、同文献には、SrTaO
2NからのNの脱離や熱分解は950℃以上で生じると記載されている。これらの結果から、BaCN
2を用いた焼結は、BaCN
2の融点である900℃でNの脱離や熱分解が生じない組成の酸窒化物で有効と考えられる。