特許第6850459号(P6850459)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850459
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】焼結体及び焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20210322BHJP
   C04B 35/58 20060101ALI20210322BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20210322BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20210322BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20210322BHJP
   B01J 27/26 20060101ALI20210322BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20210322BHJP
   C01B 21/082 20060101ALI20210322BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20210322BHJP
   H01G 4/08 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C04B35/495
   C04B35/58
   B01J35/02 J
   B01J27/24 M
   B01J37/08
   B01J27/26 M
   C01G35/00 Z
   C01B21/082 K
   H01G4/12 090
   H01G4/08
【請求項の数】27
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2019-507404(P2019-507404)
(86)(22)【出願日】2018年1月31日
(86)【国際出願番号】JP2018003070
(87)【国際公開番号】WO2018173491
(87)【国際公開日】20180927
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2017-57304(P2017-57304)
(32)【優先日】2017年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 信一
(72)【発明者】
【氏名】細野 新
(72)【発明者】
【氏名】鱒渕 友治
(72)【発明者】
【氏名】猪口 真志
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−181053(JP,A)
【文献】 特開2007−175659(JP,A)
【文献】 特許第3078287(JP,B2)
【文献】 国際公開第2017/135298(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/495
B01J 27/24
B01J 27/26
B01J 35/02
B01J 37/08
C01B 21/082
C01G 35/00
C04B 35/58
H01G 4/08
H01G 4/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸窒化物を含む複数の結晶粒と、非晶質との集合体である、焼結体。
【請求項2】
結晶相と、前記結晶相同士の間に形成されている粒界相とを有し、前記結晶相が金属酸窒化物を含む複数の結晶粒からなり、前記粒界相が非晶質を含み、
前記複数の結晶粒が多結晶からなり、
前記非晶質が前記多結晶の結晶粒界に沿って存在する、焼結体。
【請求項3】
結晶相と、前記結晶相同士の間に形成されている粒界相とを有し、前記結晶相が金属酸窒化物を含む複数の結晶粒からなり、前記粒界相が非晶質を含み、
前記非晶質が炭素を含む、焼結体。
【請求項4】
結晶相と、前記結晶相同士の間に形成されている粒界相とを有し、前記結晶相が金属酸窒化物を含む複数の結晶粒からなり、前記粒界相が非晶質を含み、
前記非晶質が、炭素と窒素とを含む、焼結体。
【請求項5】
結晶相と、前記結晶相同士の間に形成されている粒界相とを有し、前記結晶相が金属酸窒化物を含む複数の結晶粒からなり、前記粒界相が非晶質を含み、
前記非晶質は、前記金属酸窒化物の金属元素と同種の元素を少なくとも1つ含む、焼結体。
【請求項6】
前記集合体の緻密性が65%以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項7】
前記集合体の少なくとも一部の緻密性が、80%以上である、請求項に記載の焼結体。
【請求項8】
前記結晶粒の円相当径の平均値が0.18μm以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項9】
前記結晶粒の円相当径の平均値が4.0μm以下である、請求項に記載の焼結体。
【請求項10】
前記複数の結晶粒が、ペロブスカイト構造を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項11】
前記金属酸窒化物の金属は、アルカリ土類金属及び希土類金属のうち少なくとも一方を含む、請求項10に記載の焼結体。
【請求項12】
前記金属酸窒化物の金属は、La、Ba及びSrから選択される少なくとも一種である、請求項11に記載の焼結体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焼結体からなる誘電体組成物であって、
前記焼結体は、30℃〜150℃の環境において、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率が、100以上、200以下である、誘電体組成物。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焼結体からなる誘電体組成物であって、
前記焼結体は、30℃〜150℃の温度範囲内での温度変化による、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率の変化率が10%以内である、誘電体組成物。
【請求項15】
前記金属酸窒化物の前記結晶粒と、前記非晶質との前記集合体は、1MHzの電場が印加された場合に、−50℃〜50℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が3%以内である、請求項13または14に記載の誘電体組成物。
【請求項16】
請求項1315のいずれか一項に記載の誘電体組成物と、
前記誘電体組成物を介して対向されている一対の電極とを備える、キャパシタ。
【請求項17】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焼結体を含む、光触媒組成物。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焼結体を含む、光電変換素子。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の焼結体を含む、ガスセンサ。
【請求項20】
金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とが互いに接触された状態で、窒素を含む雰囲気中で焼結することを特徴とする、焼結体の製造方法。
【請求項21】
前記シアナミドの融点は、前記金属酸窒化物の窒素脱離温度よりも低い、請求項20に記載の焼結体の製造方法。
【請求項22】
前記シアナミドがBaCNである、請求項20または21に記載の焼結体の製造方法。
【請求項23】
前記金属酸窒化物は、前記シアナミドが融解した液相に溶解する材料である、請求項2022のいずれか一項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項24】
前記金属酸窒化物は、BaTaON及びSrTaONから選択される一種である、請求項2023のいずれか一項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項25】
前記焼結に際し、880℃以上、950℃以下の温度で加熱する、請求項2024のいずれか一項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項26】
前記焼結助剤は、前記金属酸窒化物100重量%に対し、3重量%以上、50重量%以下の割合で用いられる、請求項2025のいずれか一項に記載の焼結体の製造方法。
【請求項27】
前記焼結助剤は、粉体状又は粒子状であり、前記金属酸窒化物に混合された状態で、前記焼結が行われる、請求項2026のいずれか一項に記載の焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸窒化物を含む焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペロブスカイト構造を有する金属酸窒化物焼結体の製造に際しては、アンモニアガスを利用する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、アンモニアガスは、製造装置を腐食させるおそれがあった。そのため、下記の特許文献1では、被焼成物と炭素とを近接配置し、窒素ガス雰囲気下で焼成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3078287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製造方法では、アンモニアガスを用いないため、製造装置が腐食し難い。しかしながら、特許文献1の段落[0023]に記載のように、得られた焼結体は誘電体となっていない。これは、焼結体全体が十分に窒化されていないためと考えられる。すなわち、ごく一部のみが酸窒化物となっており、残りの大部分は酸窒化物になっていないと考えられる。
【0006】
本発明の目的は、金属酸窒化物を含む焼結体であって、従来よりも十分に窒化されている焼結体、該焼結体を用いた誘電体組成物及び該焼結体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る焼結体は、金属酸窒化物を含む複数の結晶粒と、非晶質との集合体を含む。
【0008】
本発明に係る焼結体のある特定の局面では、前記非晶質が、前記結晶粒間の界面に存在している。
【0009】
本発明に係る焼結体の他の特定の局面では、前記複数の結晶粒が多結晶からなり、前記非晶質が前記多結晶の結晶粒界に沿って存在する。
【0010】
本発明に係る焼結体の別の特定の局面では、前記非晶質が炭素を含む。
【0011】
本発明に係る焼結体のさらに他の特定の局面では、前記非晶質が、炭素と窒素とを含む。
【0012】
本発明に係る焼結体のさらに他の特定の局面では、前記非晶質は、前記金属酸窒化物の金属元素と同種の元素を少なくとも1つ含む。
【0013】
本発明に係る焼結体の別の特定の局面では、前記集合体の緻密性が65%以上である。この場合には、焼結体の緻密性が高いことが好ましい物性を活用した応用に用いることができる。例えば、誘電体としてキャパシタへ応用することが挙げられる。より好ましくは、前記集合体の少なくとも一部の緻密性が、80%以上である。
【0014】
本発明に係る焼結体のさらに他の特定の局面では、前記結晶粒の円相当径の平均値が0.18μm以上である。
【0015】
本発明に係る焼結体のさらに他の特定の局面では、前記結晶粒の円相当径の平均値が4.0μm以下である。
【0016】
本発明に係る焼結体の別の特定の局面では、前記複数の結晶粒が、ペロブスカイト構造を含む。
【0017】
本発明に係る焼結体の別の特定の局面では、前記金属酸窒化物の金属は、アルカリ土類金属及び希土類金属のうち少なくとも一方を含む。
【0018】
本発明に係る焼結体のさらに他の特定の局面では、前記金属酸窒化物の金属は、La、Ba及びSrから選択される少なくとも一種である。
【0019】
本発明に係る誘電体組成物の第1の態様は、本発明に従って構成された焼結体からなる誘電体組成物であって、前記焼結体は、30℃〜150℃の環境において、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率が、100以上、200以下である。
【0020】
本発明に係る誘電体組成物の第2の態様は、本発明に従って構成された焼結体からなる誘電体組成物であって、前記焼結体は、30℃〜150℃の温度範囲内での温度変化による、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率の変化率が10%以内である。
【0021】
本発明に係る誘電体組成物の他の特定の局面では、前記金属酸窒化物の前記結晶粒と、前記非晶質との前記集合体は、1MHzの電場が印加された場合に、−50℃〜50℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が3%以内である。
【0022】
本発明に係るキャパシタは、本発明に従って構成された誘電体組成物と、前記誘電体組成物を介して対向されている一対の電極とを備える。
【0023】
本発明に係る光触媒組成物は、本発明に従って構成された焼結体を含む。
【0024】
本発明に係る光電変換素子は、本発明に従って構成された焼結体を含む。
【0025】
本発明に係るガスセンサは、本発明に従って構成された焼結体を含む。
【0026】
本発明に係る焼結体の製造方法は、金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とが互いに接触された状態で、窒素を含む雰囲気中で焼結することを特徴とする。
【0027】
本発明に係る焼結体の製造方法では、好ましくは、前記シアナミドの融点は、前記金属酸窒化物の窒素脱離温度よりも低い。この場合には、窒素がより一層脱離し難いため、一層窒素含有量の多い焼結体をより確実に提供することができる。
【0028】
前記シアナミドとしては、好ましくは、BaCNが用いられる。この場合には、窒素含有量の多い焼結体をより一層確実に提供することができる。
【0029】
本発明の焼結体の製造方法では、好ましくは、前記金属酸窒化物は、前記シアナミドが融解した液相に溶解する材料である。この場合には、窒素含有量の多い焼結体をより確実に提供することができる。
【0030】
本発明に係る焼結体の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記金属酸窒化物は、BaTaON及びSrTaONから選択される一種である。
【0031】
本発明に係る焼結体の製造方法の他の特定の局面では、前記焼結に際し、880℃以上、950℃以下の温度で加熱する。この場合には、窒素が脱離し難く、窒素含有量の多い焼結体を得ることができる。
【0032】
本発明に係る焼結体の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記焼結助剤は、前記金属酸窒化物100重量%に対し、3重量%以上、50重量%以下の割合で用いられる。この場合には、窒素含有量の高い焼結体をより一層確実に提供することができる。
【0033】
本発明に係る焼結体の製造方法のさらに他の特定の局面では、前記焼結助剤は、粉体状又は粒子状であり、前記金属酸窒化物に混合された状態で、前記焼結が行われる。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る焼結体及びその製造方法によれば、従来の一部のみが窒化された金属酸窒化物からなる焼結体に比べて、窒素含有量が豊富な焼結体を提供することができる。従って、誘電特性に優れた誘電体組成物を本発明により提供することができる。
【0035】
また、上記誘電体組成物を用いて静電容量の高いキャパシタを提供することができる。さらには、本発明に係る焼結体を用いて、光触媒組成物、光電変換素子及びガスセンサなどを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本発明の実施例1で用いられるBaCNのXRDパターンを示す図である。
図2図2は、BaCNの添加割合が、金属酸窒化物100重量%に対し、30重量%である組成を用いた焼結体のXRDパターンを示す図である。
図3図3は、本発明の実施形態で得られた焼結体の300倍のSEM写真である。
図4図4は、本発明の実施形態で得られた焼結体の10000倍のSEM写真である。
図5図5は、実施例1で得られた焼結体のSTEM写真である。
図6図6は、実施例1で得られた焼結体の他の部分のSTEM写真である。
図7図7は、図5に示したSTEM写真を拡大した写真と、この写真で表された部分のある部分の電子回折図形及び他の部分の電子回折図形を示す写真である。
図8図8は、実施例1で得た焼結体のTEM−EDXスペクトル分析において観察した部分のTEM写真である。
図9図9は、図8に示した写真の一部の部分におけるTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図10図10は、図8に示した写真の他の部分におけるTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図11図11は、実施例1で得られた焼結体のTEM−EDX元素マッピング分析箇所のTEM写真である。
図12図12は、図11に示した写真の部分の炭素(C)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図13図13は、図11に示した写真の部分の窒素(N)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図14図14は、図11に示した写真の部分のストロンチウム(Sr)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図15図15は、図11に示した写真の部分のバリウム(Ba)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図16図16は、図11に示した写真の部分のタンタル(Ta)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図17図17は、実施例1で得られた焼結体の他の部分におけるTEM−EDX元素マッピング分析箇所のTEM写真である。
図18図18は、図17に示した写真の部分の炭素(C)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図19図19は、図17に示した写真の部分の窒素(N)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図20図20は、図17に示した写真の部分のストロンチウム(Sr)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図21図21は、図17に示した写真の部分のバリウム(Ba)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図22図22は、図17に示した写真の部分のタンタル(Ta)原子のTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図23図23(a)及び図23(b)は、エッチングされた後の実施例1の焼結体の10000倍及び50000倍の倍率の各SEM写真である。
図24図24は、実施例1で得られた焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図25図25は、実施例1で得られた焼結体の誘電物性を示す図である。
図26図26は、実施例1で得られた焼結体の誘電物性の温度特性を示す図である。
図27図27(a)〜図27(c)は、実施例3で得られた焼結体の2000倍、5000倍、及び10000倍の倍率のSEM写真である。
図28図28(a)及び図28(b)は、実施例3で得られた焼結体のSTEM写真である。
図29図29(a)〜図29(c)は、実施例3で得られた焼結体のSTEM写真である。
図30図30は、図29(a)に示したSTEM写真の一部におけるSTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図31図31は、図29(a)に示したSTEM写真の他の一部におけるSTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図32図32は、実施例3で得られた焼結体における各部分のXRDパターンを示す図である。また、図内のSr/Ba/Taの右側の数字は、焼結体の各部分のXRF分析による、Sr、Ba、Taの各原子の個数比率(at%)である。
図33図33は、実施例3で得られた焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図34図34は、実施例3で得られた誘電物性を示す図である。
図35図35は、実施例3で得られた焼結体の比誘電率の温度特性を示す図である。
図36図36は、実施例3で得られた焼結体の誘電損失(tanδ)の温度特性を示す図である。
図37図37は、BaTaON、SrTaON及び実施例4で得た硝酸で洗浄されたSr1−xBaTaONのXRDパターンを示す図である。
図38図38(a)〜図38(c)は、実施例4で得た硝酸で洗浄されたSr1−xBaTaON粒子のSEM−EDX元素マッピングを説明するための各図である。
図39図39(a)〜図39(c)は、実施例4で得た硝酸で洗浄されたSr1−xBaTaON粒子のSEM−EDX元素マッピングを説明するための各図である。
図40図40(a)及び図40(b)は、実施例4で得た硝酸で洗浄されたSr1−xBaTaON粒子の20000倍及び50000倍の各SEM写真である。
図41図41(a)及び図41(b)は、実施例4で得た硝酸で洗浄されたSr1−xBaTaON粒子の20000倍及び50000倍の各SEM写真である。
図42図42は、実施例5で得られた焼結体及び焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体のXRDパターンを示す図である。
図43図43(a)及び図43(b)は、実施例5で得られた焼結体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。
図44図44(a)及び図44(b)は、実施例5において焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。
図45図45は、実施例5で得られた焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図46図46は、実施例5で得られた誘電物性を示す図である。
図47図47は、実施例5で得られた焼結体のSTEM写真である。
図48図48は、実施例5で得られた焼結体のSTEM写真の部分におけるSTEM−EDX元素マッピングを示す図である。
図49図49は、実施例6で得られた焼結体のXRDパターンを示す図である。
図50図50(a)〜図50(c)は、実施例6で得られた焼結体の500倍、1000倍及び15000倍の各SEM写真である。
図51図51は、実施例6で得られた焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。
図52図52は、実施例6で得られた誘電物性を示す図である。
図53図53は、実施例6で得られた焼結体のTEM写真および、STEM写真中の結晶粒子と考えられる箇所の電子線回折像である。
図54図54は、図53に示したTEM写真の一部におけるSTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図55図55は、図53に示したTEM写真の他の一部におけるSTEM−EDXスペクトルを示す図である。
図56図56は、実施例7で得られた焼結体のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0038】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0039】
本願発明者らは、前述した課題を鋭意検討した結果、金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とを用いて窒素を含む雰囲気中で焼結すれば、十分に窒化されている焼結体が得られることを見出し、本発明をなすに至った。そして、本発明に係る焼結体は、金属酸窒化物を含む複数の結晶粒と、非晶質との集合体を含むことを特徴とする。
【0040】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0041】
本発明に係る焼結体は、上記の通り、複数の結晶粒と、非晶質との集合体とを含む。この複数の結晶粒における金属酸窒化物としては、特に限定されないが、さまざまな金属の酸窒化物を用いることができる。金属として、アルカリ土類金属や希土類金属が好適に用いられる。アルカリ土類金属や希土類金属を用いることにより、窒素含有量が高い焼結体を容易に得ることができる。アルカリ土類金属としては、BaまたはSrの少なくとも一方が好適に用いられる。また、希土類金属としてはLaが好適に用いられる。BaやSr、Laを用いた場合、より一層窒素含有量の高い焼結体を確実に得ることができる。上記の通り、金属酸窒化物を含む複数の結晶粒は、結晶性である。本発明に係る焼結体は、この結晶性の複数の結晶粒と、非晶質の集合体を含む。
【0042】
上記非晶質は、結晶性でない適宜の材料からなる。好ましくは、上記非晶質は、結晶粒間の界面に存在している。また、複数の結晶粒は、好ましくは多結晶からなる。そして、上記非晶質はこの多結晶の結晶粒間に存在していることが望ましい。より具体的には、上記非晶質は上記多結晶の結晶粒界に沿って存在していることが望ましい。
【0043】
また、非晶質を構成する材料は特に限定されないが、好ましくは、炭素を含み、より好ましくは、炭素と窒素とを含む。
【0044】
さらに非晶質は、上述した金属酸窒化物を構成している金属元素と同種の元素を少なくとも1つ含んでいてもよい。その場合には、上述した金属酸窒化物が一部溶解し、再析出を生じることにより焼結が進展したと考えることができ、ゆえに非晶質部分は金属酸窒化物を焼結させるための助剤として働いていると考えることができる。
【0045】
本発明においては、集合体の緻密性は、65%以上であることが好ましい。ここで、緻密性の評価は、後述の実施例で説明するように、画像解析を利用して求められる。緻密性が65%以上であれば、焼結体の緻密性が高いことが好ましい物性を活用した応用に用いることができる。該応用としては、例えば、上記焼結体を誘電体組成物に用いることが挙げられる。より好ましくは、集合体の少なくとも一部の緻密性が80%以上である。
【0046】
また、上記焼結体においては、結晶粒の円相当径の平均値は、好ましくは、0.18μm以上である。その場合には、結晶粒は焼結体の原料である酸窒化物粒子が互いに結合・成長していると考えることができる。また、上記結晶粒の円相当径の平均値は、4.0μm以下であることが望ましい。上記円相当径の平均値は、粒子の形状や大きさを判別できる倍率で取得した画像(例えば倍率3万倍の走査型電子顕微鏡による観察像)に対して画像解析ソフト「A像くん」(旭化成エンジニアリング株式会社製)を用いることにより求めることができる。
【0047】
上記「A像くん」を用いた円相当径の平均値の解析方法を述べる。
【0048】
まず、走査型電子顕微鏡を用いて、個々の粒子の形状が判別できる程度の倍率の画像を取得した。このときの倍率としては、例えば5000倍や10000倍、あるいは30000倍などが用いられる。次に、粒子の形状が目立つように明るさ、コントラストを調節した。2値化処理を行い、粒子部分のみを抽出した。
【0049】
なお、上記「A像くん」の2値化処理による粒子抽出では完全でない場合には手動で補った。
【0050】
粒子以外の箇所、すなわち焼結体における非晶質部分や、空隙部分を抽出した場合は、これを削除した。
【0051】
画像処理ソフトの「粒子解析」で粒子の個数、面積、円相当径を測定した。
【0052】
なお、上記結晶粒は、ペロブスカイト構造を含む。
【0053】
本発明に係る焼結体は、比誘電率が高い。従って、本発明の焼結体は、誘電体組成物に好適に用いられる。
【0054】
上記のように、本発明に係る焼結体が誘電体としての特性に優れていることは、焼結体中に、酸素と窒素が十分に含有されており、酸素あるいは窒素の格子欠陥が十分に少ないため、絶縁性が高められていることによると考えられる。後述の実施例で説明するように、本発明で得られた焼結体は、一般的な酸窒化物粉体とほぼ同様に、橙色〜赤色を示している。従って、窒素の脱離があまり生じておらず、窒素含有量の多い焼結体の得られていることがわかる。
【0055】
橙色〜赤色の色調を示していることは、バンドギャップエネルギーが、可視光の領域にあることを示している。従って、本発明に係る焼結体及びその構成粒子は、光触媒組成物、光電変換素子などに好適に用いることができる。また、窒素が表面に存在するため、従来の酸化物センサでは測定できないガスを測定し得るガスセンサをも提供することが可能となる。
【0056】
本発明に係る焼結体の製造方法では、金属酸窒化物と、シアナミドを含む焼結助剤とを互いに接触させた状態で、窒素を含む雰囲気中で焼結する。このシアナミドを含む焼結助剤を用い、かつ窒素を含む雰囲気中で加熱して焼結することにより、窒素含有量の多い焼結体を得ることができる。
【0057】
上記シアナミドの融点は、上記金属酸窒化物の窒素脱離温度よりも低いことが好ましい。それによって、窒素の脱離が焼結に際してより一層生じ難い。上記シアナミドは特に限定されないが、好ましくは、BaCN、SrCN、CaCNなどを用いることができ、より好ましくは、BaCNが用いられる。
【0058】
上記BaCNは、焼結助剤として用いられているものであり、得られた焼結体では、BaCNの結晶構造は見られない。すなわち、金属酸窒化物からなる結晶粒間に、非晶質部分が存在している。
【0059】
本発明の製造方法において、金属酸窒化物は、シアナミドが融解した液相に溶解する材料であることが好ましい。それによって、窒素含有量の多い焼結体をより確実に提供することができる。このような金属酸窒化物としては、特に限定されないが、例えば、BaTaONやSrTaONなどが用いられる。
【0060】
焼結助剤として、BaCNを用い、金属酸窒化物としてSrTaONを用いた場合の製造方法の一実施態様について説明する。
【0061】
BaCNの融点は900℃付近である。他方、SrTaONの窒素脱離を伴う重量変化開始温度は1000℃付近である。従って、SrTaONの窒素の脱離が生じ難い、900℃付近の温度で、SrTaONの周囲に存在するBaCNが液相に変化する。よって、SrTaON粒子が、液相のBaCNに溶解し、再析出する現象を繰り返すこととなる。すなわち、液相焼結により、SrTaONが焼結されることとなる。SrTaON粒子が、溶解及び再析出現象を繰り返すことにより、互いに結着し、粒成長が進む。その結果、Sr1−xBaTaONの焼結体を得ることができる。
【0062】
なお、従来、SrTaONの焼結には、1400℃以上の高温を必要としていた。これに対して、本発明の製造方法では、800℃〜900℃程度の低温で焼成を行うことができる。そのため、焼成に際しての窒素の脱離が生じ難い。その結果、窒素含有量の高められた焼結体を得ることが可能とされている。
【0063】
上記のように、SrTaONからの窒素の脱離温度は1000℃付近である。従って、本発明の製造方法では、1000℃よりも低い温度で焼成することが好ましい。より好ましくは、本発明に係る焼結体の製造方法では、焼成に際しては、金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とが互いに接触された状態で、880℃以上、950℃以下の温度で加熱することが好ましい。この温度範囲内であれば、窒素の脱離がより一層生じ難い。
【0064】
上記焼結に際し、金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とを互いに接触させる態様については、特に限定されない。金属酸窒化物とシアナミドを含む焼結助剤とを混合してもよい。あるいは、金属酸窒化物上に、シアナミドを含む焼結助剤を載置してもよい。
【0065】
なお、本発明の焼結体の製造方法では、好ましくは、一回の焼成により焼結体を得る。この場合には、窒素の脱離がより一層生じ難い。
【0066】
本発明の焼結体の製造方法において、窒素の脱離が生じ難いのは、上記のように、窒素が脱離する温度よりも低い温度で焼成すること、及び窒素雰囲気下で焼成することによる。
【0067】
好ましくは、焼結助剤は、粉体状または粒子状であることが望ましい。その場合には、金属酸窒化物を容易に混合することができ、混合状態で上記焼結を行うことができる。従って、窒素含有量の多い焼結体をより一層確実に得ることができる。
【0068】
なお、上記焼結助剤の使用量は特に限定されないが、金属酸窒化物100重量%に対し、3重量%以上の割合で用いることが望ましく、5重量%以上の割合で用いることがより望ましく、10重量%以上の割合で用いることがさらに望ましい。また、上記焼結助剤の使用量としては、金属酸窒化物100重量%に対し、50重量%以下の割合で用いることが望ましい。上記範囲内であれば、窒素含有量の多い焼結体をより一層確実に得ることができる。
【0069】
上記焼結体の製造方法では、焼結に際し、窒素雰囲気下で焼結を行うため、電気炉などを用い連続的に製造することができる。従来のアンモニアガスを用いた製造方法では、バッチ式製造方法を用いねばならなかった。これに対して、上記の通り、連続的な製造方法を用いることができるため、生産性を効果的に高めることができる。
【0070】
本発明に係る焼結体からなる誘電体組成物は、好ましくは、30℃〜150℃の環境において、5MHz〜100MHzの電場が印加された際の比誘電率が、100以上、200以下である。また、本発明に係る焼結体からなる誘電体組成物は、好ましくは、30℃〜150℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が10%以内である。
【0071】
従って、本発明に係る誘電体組成物は、例えばキャパシタに好適に用いることができる。
【0072】
より好ましくは、金属酸窒化物の結晶粒と、非晶質との集合体は、1MHzの電場が印加された場合に、−50℃〜50℃の温度範囲内での温度変化による、比誘電率の変化率が3%以内である。この場合には、温度変化による比誘電率の変化が小さいコンデンサを提供することができる。
【0073】
本発明に係るキャパシタの構造は特に限定されないが、本発明に係る誘電体組成物と、誘電体組成物を介して対向されている一対の電極とを備えるものであればよい。この場合、一対の電極の一方の電極が、誘電体組成物のある面に設けられ、誘電体組成物の他の面に他方の電極が設けられてもよい。あるいは、誘電体組成物の同一面において、ギャップを隔てて一対の電極が設けられていてもよい。
【0074】
光触媒組成物では、バンドギャップエネルギーが可視光領域内、すなわち1.65eV〜3.26eVの領域にあることが好ましいとされている。利用できる太陽光のエネルギー幅が増加するため、光触媒特性を高め得るからである。本発明により得られた焼結体は、橙色〜赤色の色調を示す。従って、バンドギャップエネルギーが可視光の領域にあると推測される。よって、本発明に係る焼結体は、光触媒組成物に好適に用いることができる。
【0075】
また、太陽電池などの光電変換素子においても、光電変換材料は可視光領域にバンドギャップエネルギーを有することが望ましく、かつ不純物が少ないことが好ましい。従って、本発明の焼結体は、上記光電変換素子に好適に用いられ得る。
【0076】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明をより詳細に説明する。
【0077】
(実施例1)
従来の金属酸窒化物焼結体では、窒素が脱離し半導体化している。そのため、電気抵抗が低く、誘電体として用いることは困難であった。
【0078】
これに対して、本発明で得られた焼結体は、窒素を多く含有しており、絶縁体すなわち誘電体としての特性を示す。よって、誘電体組成物に本発明の焼結体を好適に用いることができる。
【0079】
(1)SrTaONの合成
炭酸ストロンチウム(SrCO)粉体と、炭酸ストロンチウム粉体に対し、1/2モル量の酸化タンタル(Ta)とをアセトン分散媒中で混合した。空気中で乾燥させたのち、電気炉を用いて、大気雰囲気下で1200℃の温度で12時間熱処理した。それによって、SrTa粉体を得た。
【0080】
得られたSrTa粉体を、酸化アルミニウム(Al)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、1000℃で80時間加熱し、SrTaON粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0081】
得られたSrTaON粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、SrTaONの無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0082】
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、得られた粉体の一次粒径を測定した。その結果、粒径は40nm〜150nm程度であった。また、平均粒径は90nmであった。
【0083】
(2)BaCN粉体の合成
炭酸バリウム(BaCO)を酸化アルミニウムからなるボート上に配置し、(1)で用いたのと同じ管状炉内に配置した。炉心管内にアンモニアを50ml/分の流量で流し、900℃の温度で10時間加熱し、粉体を得た。昇温・降温速度は、5℃/分とした。
【0084】
得られた粉体をXRD装置を用いて結晶分析を行った。結果を図1に示す。得られた粉体の結晶相は、既存のBaCNの粉末回折データファイル(JCPDS 51−542)とは異なった。従って、得られた粉体の結晶相は新規な結晶相であると考えられる。
【0085】
また、得られた粉体の元素組成を、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)を用いて分析した。その結果、Baが74重量%以上、77重量%以下の割合で含まれていることがわかった。また、燃焼組成分析により、C及びNがそれぞれ、6.5重量%及び15.3重量%含まれていることがわかった。
【0086】
さらに、上記粉体を蒸留水中に投入したところ、アンモニア臭を伴いながら、BaCO相の沈殿を生成した。
【0087】
これらの結果から、得られた粉体の組成は、BaCNと推定した。
【0088】
組成がBaCNであると仮定し、上記粉体の結晶構造をXRDにより調べた。推定された結晶構造に基づき、密度を求めた。その結果、理論密度は、4.53g/cmと推定された。
【0089】
(3)SrTaONの液相焼結
(1)で合成されたSrTaON粉体と、(2)で合成されたBaCN粉体とをメノウ鉢を用いて混合した。さらに、錠剤成型用金型を用い、混合物を、直径6mm、厚さ2mmの円板の形状に成形した。SrTaON粉体とBaCN粉体との混合比率は、SrTaON粉体100重量部に対し、BaCN粉体が30重量部とした。成形圧力は約46MPaとした。
【0090】
成形後、金型から成形体を取り出した。取り出された成形体を真空パックし、等方静水圧プレス機を用い、150MPaで加圧した。加圧後に取り出された成形体を、(1)で合成されたSrTaON粉体を埋め粉として用い、酸化アルミニウムのボート上に配置し、(1)及び(2)内で用いた管状炉内に配置した。炉心管に窒素ガスを50ml/分の流量で流しつつ、900℃の温度で30時間加熱した。それによって、焼結体を得た。なお、昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0091】
(4)焼結体の観察及び分析
(3)で得られた加圧後の成形体の表面は橙色を呈していた。これに対して、(3)で得られた焼結体の表面は赤色に近い色となっていた。従って、焼結体のバンドギャップエネルギーは可視光領域内にあると推測される。
【0092】
また、加圧された後の成形体の直径及び厚みは、直径が6mm及び厚みが2mmであったのに対し、得られた焼結体の直径は5.4mm及び厚みは1.6mmであった。上記成形体及び焼結体の体積及び重量から、得られた焼結体の密度は、成形体に比べて約42%高くなっていることがわかった。
【0093】
焼結体の密度は約5.6g/cmであった。この焼結体の密度は、無機結晶構造データ(ICSD 95373)に記載の計算密度である7.975g/cmの70.2%であった。また、SrTaON粉体100重量部と、BaCN粉体30重量部との混合物の推定密度は、BaCNの密度4.53g/cmとした場合、7.18g/cmと推定される。従って、上記焼結体の密度は、この推定密度7.18g/cmの78%であった。
【0094】
得られた焼結体の表面から約0.2mmの厚みの部分までを、耐水サンドペーパー(シリコンカーバイド砥粒、砥粒の粒径は2μm〜3μm)を用いて乾式研磨した。しかる後、XRD分析を行った。結果を図2に示す。
【0095】
図2に示されているように、回折ピーク位置は、SrTaONに近い角度に分布している。従って、この焼結体の主な結晶相はペロブスカイト相であると推定される。
【0096】
また、水酸化バリウム水和物(Ba(OH)・HO)と思われるピーク(ICSD 63017)と、SrCOの寄与によるピーク(ICSD 27446)と思われる弱い回折ピークも存在している。
【0097】
他方、(2)で合成されていたBaCNの回折ピークと同位置には、図2ではピークが見られない。BaCNの添加量は、SrTaONの30重量%であった。この添加量と比べると、Ba(OH)・HOの回折ピーク強度は著しく弱い。従って、BaCNに由来する物質は、得られた焼結体内で、非晶質として分布していると考えられる。
【0098】
得られた焼結体を破断し、破断面をSEMを用いて観察した。このSEM写真を、図3及び図4に示す。図3に示す300倍の観察写真では、粒子が緻密に存在している領域と、幅50μm程度の空隙とが、規則性を有することなく分布している。また、図4に示す倍率10000倍の観察写真において、緻密な部分を観察すると、幅1μm以上の比較的大きな空隙は見られない。
【0099】
得られた焼結体のSEM観察写真から、焼結体の緻密性を解析した。緻密性は、以下の方法で求めた。
【0100】
SEM観察写真は倍率300倍または500倍の画像を使用した。このとき、取得した画像の範囲は、300倍の場合は幅392μm×高さ284μm、500倍の場合は幅258μm×高さ181μmであった。
【0101】
画像は焼成体破断面のため凹凸が多い。元々空隙であったと考えられる領域は、暗い穴や、破断に伴い生じた焼結体の欠片が入り込んでいる箇所と言えるので、これら空隙と考えられる箇所が目立つように明るさ、コントラストを調節した。
【0102】
画像処理ソフト「A像くん」を用いて2値化処理を行い、空隙部分のみを抽出した。「A像くん」の2値化処理による抽出では完全でない場合には手動で補った。
【0103】
空隙以外を抽出した場合は、これを削除した。
【0104】
上記「A像くん」の「総面積・個数計測」で総面積、個数、空隙面積率、計測範囲の面積を測定した。
【0105】
解析の結果、SEM観察で取得した画像領域に占める空隙部分の面積率は、20.0%〜32.0%であった。焼結体の緻密性は100−空隙部面積率であるので、68.0%〜80.0%と求められた。
【0106】
得られた焼結体を集束イオンビーム(FIB)を用いて加工し、走査透過型電子顕微鏡(STEM)及びエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて観察及び元素分布分析を行った。図5及び図6は、焼結体のSTEM写真である。また、図7は、図5に示したSTEM写真と、その結晶粒と思われる部分及び非晶質と思われる部分の電子回折図形を示す。
【0107】
図5図7から明らかなように、回折スポットが観測されている結晶質部分と、回折スポットが見られない非晶質部分とが存在していることがわかる。従って、非晶質の材料が、結晶粒間に分布していることがわかる。
【0108】
図8は、上記焼結体のTEM−EDXスペクトル分析において観察した部分のTEM写真及び図9図10は、粒子部分と粒子間部分のTEM−EDXスペクトルである。図11図22は、上記焼結体のTEM−EDX元素マッピング像を示す図である。このうち図11図17は、TEM−EDX元素マッピング分析の観察箇所のTEM写真である。結晶粒子部分には、Sr及びTaが多く分布しており、他にBa及びNが検出されている。他方、非晶質部分では、Ba、C及びNが多く分布しており、微量のSr及びTaが検出されている。この結果から、SrTaONはBaCNに溶解し、再析出するときに、Srの代わりにBaが結晶格子に取り込まれており、Sr1−xBaTaONとして粒成長していると推測され得る。また、BaCN中に、溶解したSr及びTaが残留したため、非晶質部分においてSr及びTaが検出されているものと考えられる。
【0109】
上記焼結体を、破断し、破断面を研磨した。しかる後、クエン酸(C(OH)(CHCOOH)COOH、98.0%濃度)の1モル/L水溶液に2日間浸漬し、BaCN及びBaCNに由来すると考えられる非晶質を除去した。浸漬後の焼結体を取り出し、少量の蒸留水及びヘキサンを用いて洗浄した。この後に、破断面をSEMで観察した。図23(a)及び図23(b)は、上記破断面のSEM写真である。図4の倍率10000倍のSEM写真と比べると、同じ位置の図23(a)では、粒径80nm〜400nm程度、平均粒径で200nm程度の角張った粒子が互いに結合しながら分布していることがわかる。破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて粒度分布を解析した結果、円相当径の平均値は237nmと求められた。粒子同士の空隙は、非晶質が存在した部分と考えられる。従って、非晶質が存在した部分は、大きくても、1μm程度と考えられる。
【0110】
上記焼結体内では、ペロブスカイト構造を有する酸窒化物粒子同士の間に、非晶質が分布していることがわかった。これは、上記の通り、SrTaON粒子間の隙間に液状のBaCNが浸透し、SrTaON粒子の溶解及び再析出による粒成長や結合を生じさせた後、液状のBaCNは炉内温度低下に伴い固化した時に結晶化しなかったためと考えられる。
【0111】
(5)焼結体の電気物性の評価
(3)で得られた焼結体の両面に、白金(Pt)をスパッタ法を用いて成膜した。インピーダンスアナライザーを用いて、比誘電率(ε)、誘電損失(tanδ)及び複素インピーダンスを測定した。図24は、複素インピーダンス特性を示す図である。図24から、複素インピーダンスは、数MΩの領域にあり、焼結体が十分な絶縁性を有することがわかった。図25に示すように、比誘電率(ε)は、周波数によらず60以上、200以下の領域に存在しており、誘電損失は7×10−2(7%)以上、3×10−1(30%)以下の領域にあることがわかった。
【0112】
上記と同じ焼結体を、インピーダンスアナライザーを用いて周波数5MHz〜100MHzの電場を印加し、30℃〜150℃の温度範囲で、比誘電率及び誘電損失を測定した。結果を、図26に示す。温度30℃〜150℃の範囲で、比誘電率は周波数5MHzでは139〜153に、10MHzでは137〜150に、50MHzでは125〜134に、100MHzでは122〜129に増加した。
【0113】
30℃〜150℃の温度範囲における比誘電率の増加量を30℃のときの比誘電率で除算した。その結果、比誘電率の変化率は、周波数5、10、50、及び100MHzにおいて、それぞれ、10.7、9.3、6.5、5.6(%)であった。誘電損失は、0.08(8%)以上、0.2(20%)以下の間で変化した。
【0114】
(実施例2)
BaCNのSrTaONに対する添加量を50重量部としたことを除いては、実施例1と同様にして、焼結体を得た。得られた焼結体は、実施例1で得られた焼結体と同様に、加圧後の成形体に比べて収縮しており、硬質であった。また、実施例1で得た焼結体に比べ、実施例2で得た焼結体は、赤みがより強かった。
【0115】
実施例2で得た焼結体が、赤みが強いことは以下の理由によると考えられる。すなわち、Sr1−xBaTaONにおいて、xが実施例1の場合よりも大きいためと考えられる。言い換えれば、SrTaONにおけるSrサイトにおいて、SrからBaへの置換がより一層進んでいるためと考えられる。
【0116】
(実施例3)
実施例1の(1)で得たSrTaONの成形体上に、該成形体の30%の重量を有する、BaCNの成形体を配置し、900℃の温度で2時間、窒素ガス中で加熱した。それによって、焼結体を得た。
【0117】
得られた焼結体は、赤色を示し、かつ硬質であった。また、焼結体上面には、やや明るい赤色または白色の層が見られた。この焼結体を乾式研磨すると、研磨された面は光沢を有していた。
【0118】
また、この焼結体を破断し、破断面をSEMで観察した。図27(a)〜図27(c)は、焼結体の破断面のSEM写真を示す。破断面に、個々の粒子の形状は見られず、溶融・硬化物が分布していることがわかる。
【0119】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、STEM−EDX分析を行った。図28(a)及び図28(b)は、STEM観察写真を示し、図29(a)〜図29(c)はその要部を拡大して示す。
【0120】
図28(a)及び図28(b)並びに図29(a)〜図29(c)から、粒子同士が別の物質で結合されていることがわかる。
【0121】
図29(a)に示すSTEM写真の結晶粒と見られる部分のSTEM−EDXスペクトルを図30に、結着物質部分と見られる部分のSTEM−EDXスペクトルを図31に示す。
【0122】
図30及び図31より、SrTaON粒子であった部分に微量のBaが分布していること、BaCN部分であった結着物質部分にSrとTaも分布していることがわかる。
【0123】
上記焼結体の研磨と、XRD分析及び上記STEM−EDX分析を繰り返すことにより、焼結体の上面から底面に至るまでの結晶相と元素組成を分析した。図32は、各部分のXRDパターンを示す図である。また、図内のSr/Ba/Taの右側の数字は、焼結体の各部分の蛍光X線(XRF)分析による、Sr、Ba、Taの各原子の個数比率(at%)である。上面から底面に至るまで、主な結晶相がペロブスカイト構造を有し、Sr1−xBaTaONの回折パターンを示していることがわかる。他に、Ba(OH)・HO及びSrCOに由来すると考えられる微弱な回折ピークと、不明相の回折ピークが検出された。また、上面に行くほどBa量が多く底面に向かうにつれてBa量は減少した。なお、底面のみBa量が再度増加しているが、融解したBaCNが酸窒化物成形体の外周部を伝って、底面側に浸透したものと考えられる。
【0124】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。図33は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。図33により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0125】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を図34に示す。図34より、比誘電率(ε)は100前後であり、誘電損失(tanδ)は10−1(10%)以上、0.7(70%)以下の間で変動していることがわかる。また、誘電物性の温度依存性を図35及び図36に示す。−50℃〜50℃の100℃の温度範囲において、印加電場の周波数ごとの比誘電率(ε)の増加量を下記の表1に示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1から、上記温度範囲における温度変化による比誘電率(ε)の変化量は、周波数1kHz、10kHz、100kHz、1MHzにおいて、それぞれ、6.22%、4.23%、2.92%及び1.94%であった。
【0128】
実施例3の結果から明らかなように、焼結助剤のシアナミドは、金属酸窒化物と混合して用いられなくともよい。すなわち、焼結助剤は、金属酸窒化物と接触されてさえいればよい。
【0129】
(実施例4)
実施例1の(1)で合成されたSrTaON粉体200mgとBaCN粉体300mgとを混合したのち、酸化アルミニウム製ルツボ内に設置し、実施例1と同様にして、900℃の温度で30時間、窒素ガス中で加熱した。熱処理後、ルツボの底面に赤茶色の固化物が形成されていた。
【0130】
上記固化物を取り出したのち、1モル/L濃度の硝酸に15時間浸漬した。その結果、赤色の微粉末が硝酸を入れた容器の底面に沈殿した。ろ過により沈殿物を得、蒸留水で洗浄し、試料粉体とした。
【0131】
上記試料粉体の組成をXRFを用いて分析した。その結果、Sr、Ba及びTaは、41.9(2):7.94(4):50.2(3)の割合で含まれていた。Sr+Baの割合と、Taの割合とがほぼ一致した。
【0132】
他方、ろ液をICP−AESを用いて元素組成を分析した。その結果、Sr、Baと、微量のTaの存在が確認された。従って、実施例1において作製した焼結体の非晶質部分には、元のBaCNだけでなく、SrTaON酸窒化物粒子から溶解したSrやTaが含有されていると推定される。
【0133】
上記試料粉体をXRD分析した。結果を図37に示す。図37より、この試料粉体は、SrTaONやBaTaONと同様のペロブスカイト型の結晶を有することがわかる。また、試料粉体の回折ピーク位置は、SrTaONの回折ピーク位置と、BaTaONとの回折ピーク位置の間に存在した。上記XRF分析及びXRD分析の結果から、上記試料粉体は、Sr1−xBaTaONであることがわかった。
【0134】
上記試料粉体をSEMに装着したEDXを用いて、元素分布を分析した。元素マッピング像を、図38(a)〜図38(c)及び図39(a)〜図39(c)に示す。Sr、Ba、Ta、N及びOが一様に分布していることが確認された。
【0135】
上記試料粉体をSEMで観察した。図40(a),図40(b)及び図41(a),図41(b)は、上記のように硝酸で洗浄された粉体粒子のSEM写真である。
【0136】
図40(a),図40(b)及び図41(a),図41(b)から、粒子の一次粒径が0.1μm以上、3μm以下程度であり、一次粒子同士が互いに強固に結合しているように見受けられた。また、二次粒子の大きさは約数μmであった。
【0137】
BaCNをSrTaONよりも多くした場合、BaCN液相が多く生じる。これにSrTaONが溶解したと考えられる。その結果、酸窒化物粒子は、溶解及び再析出を繰り返しながら粒成長し、直径1μm以上の多結晶粒子が形成された。上記のように、一次粒径が0.1μm〜数μmの範囲に跨っている。これらの結果から、シアナミドを用いた液相焼結では、酸窒化物粒子が効果的に粒成長することがわかる。
【0138】
また、上記酸窒化物粒子のシアナミド相への溶解及び再析出の繰り返しにより、大粒径であり、かつ単相の酸窒化物粒子を合成することが可能となる。
【0139】
(実施例5)
本実施例は、金属酸窒化物としてLaTaONを用いた点において、実施例1と異なる。以下において、本実施例の詳細を説明する。
【0140】
酸化ランタン(La)粉体と、酸化ランタンと等モル量の酸化タンタル(Ta)とをエタノール分散媒中で混合した。空気中で乾燥させたのち、電気炉を用いて、大気雰囲気下で1400℃の温度で20時間熱処理した。それによって、LaTaO粉体を得た。
【0141】
得られたLaTaO粉体を、酸化アルミニウム(Al)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、1000℃で15時間加熱し、LaTaON粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0142】
得られたLaTaON粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、LaTaONの無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0143】
LaTaON粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、LaTaON粉体に対するBaCN粉体の添加量を30重量部とした。LaTaONとBaCNとのmol比率としては62mol%:38mol%に相当する。成形体を、窒素ガスを流しつつ、915℃の温度で30時間加熱した。得られた焼結体は固化していた。さらに、この焼結体を蒸留水に1日間浸漬したところ、焼結体は粉体状に崩れた。この粉体を遠心分離機を用いて回収・乾燥させた。
【0144】
図42は、実施例5で得られた焼結体及び焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体のXRDパターンを示す図である。
【0145】
焼結体はLaTaONとBaLaTaOとにより構成されていることがわかる。これら2つの結晶相に起因する回折ピーク強度の比率から、リートベルト法を用い結晶相の構成比率を計算したところ、LaTaON:BaLaTaO=97.7mol%:2.3mol%と求められた。この比率は成形体の作製に使用したLaTaONとBaCNとのmol比率(62mol%:38mol%)とは大きく異なっており、BaCNに由来する成分の多くが非晶質として焼結体中に存在していることを示している。また、蒸留水に浸漬し、乾燥したことにより得た粉体では、LaTaON及びBaLaTaOに加えてBaCO相が生じた。この結果から、焼結体中に存在するBaを含む非晶質成分が水と反応してBaCOを生じさせたと考えられる。
【0146】
図43(a)及び図43(b)は、実施例5で得られた焼結体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。図44(a)及び図44(b)は、実施例5において焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体の500倍及び10000倍の各SEM写真である。
【0147】
焼結体内部の粒子は膜状の物体に覆われている。一方で、焼結体を蒸留水に浸漬させた後乾燥させて得られた粉体の粒子は、膜状物質に覆われておらず、個々の粒子の形状が明瞭に観察された。これらの結果から、非晶質成分は結晶粒子の表面を覆っていることがわかった。
【0148】
また、焼結体中の酸窒化物粒子の粒度分布を、実施例1と同様に、破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて解析した。その結果、円相当径の平均値は1950nmと求められた。
【0149】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。図45は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。図45により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0150】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を図46に示す。図46より、比誘電率(ε)は10以上、40以下程度であり、誘電損失(tanδ)は0.1(10%)以上、0.6(60%)以下の間で変動していることがわかる。
【0151】
このように、本発明の焼結体には、例えばLaTaONなどの、SrTaON以外の金属酸窒化物も用い得る。
【0152】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、STEM−EDX分析を行った。
【0153】
図47は、STEM観察写真と電子線回折像を示す。また、STEM−EDX元素マッピングを図48に示す。
【0154】
図47に示すように、結晶粒の周囲には、結晶質であることを示す電子線回折パターンが得られない非晶質部分があることがわかる。また図48に示すように、結晶粒の表層部分には、C、Ba及びNが多く検出された。この結果から、酸窒化物結晶粒子同士を結着する結晶粒間の部分は、主にBaとCからなる化合物で形成されていることがわかった。なお、結晶粒の表層部分の層には、少量だがLaが含まれることもわかる。
【0155】
(実施例6)
本実施例は、金属酸窒化物としてBaTaONを用いた点において、実施例1と異なる。以下において、本実施例の詳細を説明する。
【0156】
炭酸バリウム(BaCO)粉体と、炭酸バリウム1.02モル当量に対し0.5モル当量の酸化タンタル(Ta)とを、エタノール分散媒中で混合した。空気中で乾燥させて得た粉体を、酸化アルミニウム(Al)からなるボート上に配置し、石英ガラス炉心管を有する管状炉内に設けた。炉心管内にアンモニアガスを100ml/分の流量で流し、950℃で80時間加熱し、BaTaON粉体を合成した。管状炉温度コントローラーによる昇温速度は5℃/分、降温速度は3℃/分とした。
【0157】
得られたBaTaON粉体を粉末X線回析(XRD)装置を用い、結晶分析を行った。その結果、BaTaONの無機結晶構造データと一致することを確認した。
【0158】
BaTaON粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、BaTaON粉体に対するBaCN粉体の添加量を10重量部とした。成形体を、窒素ガスを流しつつ、900℃の温度で10時間加熱した。得られた焼結体は固化していた。
【0159】
図49は、実施例6で得られた焼結体のXRDパターンを示す図である。
【0160】
図49に示す焼結体のXRDパターンからは、BaTaONと、微量のBaTaONの回折ピークが見られた。一方で、材料として用いたBaCN成分に由来する回折ピークが見られないことがわかる。このため、実施例1と同様に、焼結体中にはBaCNに由来する非晶質成分が含まれている。
【0161】
図50(a)〜図50(c)は、実施例6で得られた焼結体の500倍、1000倍及び15000倍の各SEM写真である。
【0162】
角張った粒子が互いに結合しながら分布していることがわかる。また、焼結体中の酸窒化物粒子の粒度分布を、実施例1と同様に、破断面の複数のSEM写真に対して画像解析ソフト「A像くん」を用いて解析した。その結果、円相当径の平均値は1041nmと求められた。
【0163】
実施例1と同様にして、この焼結体の複素インピーダンス特性を評価した。図51は、この焼結体の複素インピーダンス特性を示す図である。図51により、焼結体は数MΩの抵抗を有し、絶縁性を有することが確認された。
【0164】
上記焼結体の誘電物性を実施例1と同様にして評価した。結果を図52に示す。図52より、比誘電率(ε)は4以上、40以下程度であり、誘電損失(tanδ)は0.06(6%)以上、0.7(70%)以下の間で変動していることがわかる。この結果から、この焼結体は誘電体組成物に好適に用いることができることがわかる。
【0165】
上記焼結体の破断面をFIB加工し、TEM−EDX分析を行った。
【0166】
図53は、TEM観察写真と、写真中の結晶粒と見られる部分の電子線回折像を示す。図53に示すTEM写真の結晶粒と見られる部分のTEM−EDXスペクトルを図54に、結着物質部分と見られる部分のTEM−EDXスペクトルを図55に示す。
【0167】
図53に示すように結晶粒と見られる部分で結晶質に起因する電子線の回折スポットが観察された。また、この結晶質部分には図54に示すように、Ba、Ta、O、N並びにTEM観察用試料台の成分であるW及びMoが多く検出された。一方で図55に示すように、結晶粒以外の部分ではBa並びにW及びMoのみが主に検出された。この結果から、酸窒化物結晶粒子同士を結着する結晶粒間の部分は、主にBaからなる化合物で形成されていることがわかった。
【0168】
以上のように、本発明の焼結体には、例えばBaTaONなどの、SrTaON以外の金属酸窒化物も用い得る。
【0169】
(実施例7)
酸化ランタン(La)粉体と、酸化ランタン1モル当量に対し、2モル当量の酸化チタン(TiO)粉体とをエタノール分散媒中で混合した。得られた混合粉体を1200℃の温度で30時間熱処理した。それによって、LaTi粉体を得た。
【0170】
得られたLaTi粉体を、実施例1とほぼ同様に、アンモニアガスを流し、980℃で20時間加熱し、LaTiON粉体を合成した。
【0171】
LaTiON粉体と、実施例1の(2)で得たBaCN粉体とを混合し、実施例1と同様の方法で成形体を作製した。このとき、LaTiON粉体に対するBaCN粉体の添加量を10重量部、20重量部または30重量部とした。成形体を、窒素ガスを流しつつ、950℃の温度で10時間加熱した。得られた焼成物は固化しておらず、粉体の圧縮成形体様であった。
【0172】
図56は、実施例7で得られた焼結体のXRDパターンである。
【0173】
焼結体は、LaTiONの他に酸化ランタン(La)、窒化チタン(TiN)及びチタン酸二バリウム(BaTiO)で構成されていた。SrTaON+BaCN、BaTaON+BaCN及びLaTaON+BaCNの焼結体に関する実施例とは異なり、固化した焼結体を得られないことがわかった。これは、文献(Solid State Sciences, vol.54, 2−6ページ, 2016年、Partial nitrogen loss in SrTaON and LaTiON oxynitride perovskites、著者Daixi Chen, Daiki Habu, Yuji Masubuchi, Shuki Torii, Takashi Kamiyama, Shinichi Kikkawa)において示されている通り、LaTiONは800℃からNの脱離や熱分解が生じることが一因である。BaCNが融解して焼結助剤として作用し始める前に、この熱分解により、TiNやLaといった別種の化合物相が生じるので、LaTiONではBaCNを用いた焼結が進行しない。一方で、同文献には、SrTaONからのNの脱離や熱分解は950℃以上で生じると記載されている。これらの結果から、BaCNを用いた焼結は、BaCNの融点である900℃でNの脱離や熱分解が生じない組成の酸窒化物で有効と考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56