(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性フィラーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体で予め表面修飾されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイ。
前記導電性フィラーを表面修飾する前記単独重合体が、メチルメタクリレートの単独重合体であり、前記導電性フィラーを表面修飾する前記共重合体が、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルディスプレイ。
前記導電性フィラーを表面修飾する前記単独重合体又は前記共重合体が、前記形状記憶樹脂と架橋する架橋性反応基を有することを特徴とする請求項5又は6に記載のフレキシブルディスプレイ。
前記電極が、前記基板の表裏面の一方の端部に設けられた構造、前記基板の表裏面の全体に設けられた構造、前記基板の表面の両方の端部に設けられた構造、又は前記基板の表面に櫛歯状に設けられた構造を有することを特徴とする請求項10に記載のフレキシブルディスプレイ。
請求項1〜11のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイの使用方法であって、前記基板に電圧を印加することで前記基板を前記形状記憶樹脂のTtransよりも高い温度に加熱して前記フレキシブルディスプレイを変形させた後、変形させた状態を保持したままで前記基板を前記形状記憶樹脂のTtransよりも低い温度に冷却することにより、フレキシブルディスプレイの形状を固定化することを特徴とするフレキシブルディスプレイの使用方法。
請求項1〜11のいずれか一項に記載のフレキシブルディスプレイの使用方法であって、前記基板に電圧を印加することで前記基板を前記形状記憶樹脂のTtransよりも高い温度に加熱し、記憶された元の形状に回復させることを特徴とするフレキシブルディスプレイの使用方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフレキシブルディスプレイは、Ttransが室温よりも高い形状記憶樹脂中に導電性フィラーが分散された基板を備え、基板に電圧を印加することによって基板が加熱されることを特徴とする。
【0012】
以下、本発明のフレキシブルディスプレイ及びその使用方法の好適な実施の形態について図面を用いて説明する。
図1は、本発明のフレキシブルディスプレイの断面模式図である。
図1において、フレキシブルディスプレイ1は、基板2と、基板2上に設けられた表示素子3とから構成されている。基板2は、Ttransが室温よりも高い形状記憶樹脂4と、形状記憶樹脂4に分散された導電性フィラー5とから構成されている。
【0013】
ここで、本明細書において「形状記憶樹脂4」とは、元々の形状(永久形状)から別の一時的形状への変形及び固定が可能で、通常は一時的形状を保っているが、熱などの刺激によって永久形状に自発的に回復する特性を有する樹脂を意味する。形状記憶樹脂4の永久形状は、高分子鎖を架橋することによって付与される。架橋構造は、必ずしも化学架橋である必要はなく、緩和時間が十分長ければ、物理的相互作用による擬似架橋であってもよい。このような架橋構造を有する樹脂を、Ttrans以上の温度、即ち、分子鎖のセグメント運動が可能な温度で外力を付与し、変形させた後、Ttransより低い温度に冷却し、セグメント運動を凍結することで、一時的形状が固定化される。形状記憶樹脂4がTtrans以上の温度に加熱され、セグメント運動が再び可能になると、元の永久形状に自発的に回復する。形状記憶樹脂4が固化−軟化する温度(Ttrans)は、架橋鎖が固化する温度であり、ガラス状高分子ではガラス転移温度(Tg)に、結晶性高分子では溶融温度(Tm)に相当する。なお、形状記憶樹脂4は、形状記憶ポリマーとも称される。
【0014】
形状記憶樹脂4は、Ttransが室温よりも高く、好ましくは30℃〜80℃である。
ここで、本明細書において「室温」とは、一般に25℃を意味する。
また、本明細書において「Ttrans」とは、JIS K7121の「プラスチックの転移温度測定方法」に基づいた示差走査熱量測定(DSC)によって測定される値のことを意味する。
【0015】
形状記憶樹脂4の種類は、Ttransが室温よりも高ければ特に限定されないが、ポリノルボルネン、トランスポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、アクリル系架橋体などを用いることができる。この中でもアクリル系架橋体は、形状記憶特性及び透明性にも優れるため、本発明の用途に適した材料と言える。アクリル系架橋体は、当該技術分野において公知の方法によって製造することができる。
アクリル系架橋体は、一般に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体である。
ここで、本明細書において「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」とは、アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルの両方を意味する。
【0016】
アクリル酸アルキルエステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、n−ドデシルアクリレート、n−ラウリルアクリレート、n−オクタデシルアクリレートなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
メタクリル酸アルキルエステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、n−ドデシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート、n−オクタデシルメタクリレートなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体の中でも、室温よりも高いTtrans(=Tg)を安定して得る観点から、メタクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体の場合、その種類は特に限定されず、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体であり得る。
【0019】
形状記憶樹脂4に分散される導電性フィラー5としては、特に限定されず、樹脂組成物の分野において一般に用いられるものを用いることができる。
ここで、本明細書において「導電性フィラー5」とは、電気抵抗値が10
7Ω・cm以下のフィラーのことを意味する。
上記のような電気抵抗値を有する導電性フィラー5の例としては、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属繊維(例えば、アルミ繊維、銀繊維、銅繊維など;特に、銀ナノワイヤー)、金属粒子(例えば、金、銀、銅、パラジウム、白金など;特に、銀ナノ粒子)が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも、コスト、入手容易性などの観点からはカーボンブラックが好ましく、透明性などの観点からは、グラフェン、銀ナノワイヤー、銀ナノ粒子などが好ましい。
【0020】
導電性フィラー5の形状は、特に限定されず、球状、非球状(例えば、繊維状)のいずれであってもよい。繊維状の導電性フィラーを用いれば、導電性フィラー5の間に導電ネットワークが形成され易くなるため、基板2に電圧を印加した際に基板2を加熱し易くすることができる。
導電性フィラー5の大きさは、特に限定されず、作製する基板2の大きさに応じて適宜設定すればよい。特に、導電性フィラー5がナノ粒子であれば、光に対する十分な透過率を確保することができるため、基板2を表示素子3の表示面側に配置したり、透明ディスプレイに適用したりすることが可能になる。ここで、本明細書において「ナノ粒子」とはナノメートルのオーダー(1nm〜100nm)の粒子のことを意味する。
【0021】
形状記憶樹脂4に対する導電性フィラー5の配合割合は、基板2に電圧を印加した際に基板2を加熱することが可能な量であれば特に限定されないが、100質量部の形状記憶樹脂4に対して、一般に3質量部〜50質量部、好ましくは5質量部〜30質量部、より好ましくは10質量部〜20質量部である。導電性フィラー5の配合割合が3質量部未満であると、基板2に電圧を印加した際に基板2の加熱が不十分となることがある。一方、導電性フィラー5の配合割合が50質量部であると、基板2の柔軟性が損なわれる恐れがある。
【0022】
導電性フィラー5は一般に無機物であるため、有機物である形状記憶樹脂4中に均一に分散し難い場合がある。これは、導電性フィラー5と形状記憶樹脂4の原料(モノマー)との相溶性が低いことに起因している。そこで、導電性フィラー5と形状記憶樹脂4の原料(モノマー)との相溶性を向上させ、形状記憶樹脂4中に導電性フィラー5を均一に分散させる観点から、導電性フィラー5を予め表面修飾させることが好ましい。
【0023】
導電性フィラー5の表面修飾法としては、特に限定されず、樹脂組成物の分野において公知の方法を用いることができる。表面修飾法の例としては、カップリング剤修飾法、高分子のグラフト共重合法、カプセル化法(ポリマーコーティング法)、ゾルゲル法などが挙げられる。その中でも、様々な種類の導電性フィラー5に容易に適用することができるカプセル化法が好ましい。
【0024】
カプセル化法によって導電性フィラー5の表面に形成されるポリマーの種類としては、形状記憶樹脂4の原料(モノマー)との相溶性が良好であれば特に限定されない。例えば、形状記憶樹脂4と同種の樹脂(例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体又は共重合体)を導電性フィラー5の表面に形成することにより、形状記憶樹脂4の原料(モノマー)との相溶性を高めることができる。
【0025】
カプセル化法を用いて導電性フィラー5の表面にポリマーを形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、界面活性剤を用いたカプセル化を行なえばよい。界面活性剤を用いたカプセル化では、導電性フィラー5の表面に界面活性剤を吸着させ、二分子吸着層(吸着ミセル)を生じさせる。そして、この吸着ミセルにポリマーの原料(モノマー)、重合開始剤などを溶解させて重合させることによって導電性フィラー5の表面にポリマーを形成することができる。なお、導電性フィラー5の表面に形成するポリマーとして形状記憶樹脂4と同種の樹脂を形成する場合、形状記憶樹脂4に用いられる原料を当該ポリマーの原料として用いることができる。形状記憶樹脂4の原料については下記で詳細に説明する。
【0026】
また、導電性フィラー5の表面に形成されるポリマー(単独重合体又は共重合体)は、形状記憶樹脂4(具体的には、形状記憶樹脂4の原料モノマー)と架橋する架橋性官能基を有することが好ましい。架橋性官能基としては、特に限定されないが、例えば、メタクリロイル基、アクリル基、ビニル基などが挙げられる。架橋性官能基は、導電性フィラー5の表面に形成されるポリマーと架橋性官能基を有する化合物とを反応させることによってポリマーに導入することができる。架橋性官能基を有する化合物としては、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、塩化メタクリロイル、4−ビニルベンジルクロリドなどが挙げられる。
【0027】
導電性フィラー5の表面に架橋性官能基を有するポリマーが形成されている場合、形状記憶樹脂4と架橋させることにより、基板2を変形させた際に導電性フィラー5が形状記憶樹脂4中で移動し難くなるため、導電性フィラー5の分散状態が維持され、導電ネットワークを安定化させることができる。その結果、基板2に電圧を印加した際に基板2の温度が上昇し易くなると共に、変形の繰り返しに対する耐久性(以下、「繰り返し耐久性」と略す)も向上させることができる。
【0028】
基板2は、形状記憶樹脂4の原料(モノマー、架橋剤、重合開始剤など)に導電性フィラー5を加えて混合した後、混合物を所定の型に流し込むか又は支持体上に塗布してフィルム状に形成し、重合及び架橋させることによって製造することができる。重合反応としては、特に限定されないが、例えば、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などが挙げられる。また、導電性フィラー5の表面に架橋性官能基を有するポリマーが形成されている場合、当該重合反応の際に当該ポリマーの架橋性反応基と形状記憶樹脂4の原料モノマーとを架橋させることができる。
【0029】
形状記憶樹脂4として(メタ)アクリル酸アルキルエステルの共重合体を製造する場合、各(メタ)アクリル酸アルキルエステルの配合割合は、共重合体のTtrans(=Tg)が室温よりも高くなるような割合にすればよく、特に限定されない。
【0030】
重合条件は、使用する原料の種類などに応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、重合温度は一般に50℃〜200℃、好ましくは60℃〜150℃、重合時間は一般に0.5時間〜48時間、好ましくは1時間〜24時間である。
また、重合体の架橋は、重合後又は重合と同時に行われる。重合後に架橋を行う場合、所定の温度に加熱すればよい。架橋時間及び架橋温度は、使用する架橋剤の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、架橋温度が一般に100℃〜250℃、架橋時間が一般に0.5時間〜5時間である。
【0031】
架橋剤としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の配合割合は、使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの種類に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに対して外割で、一般に0.1モル%〜20モル%、好ましくは0.3モル%〜15モル%、さらに好ましくは0.5モル%〜10モル%である。
【0032】
重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物などのラジカル重合開始剤が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の配合割合は、使用する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び架橋剤の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定されないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び架橋剤の合計に対して外割で、一般に0.01モル%〜10モル%、好ましくは0.03モル%〜5モル%、さらに好ましくは0.05モル%〜3モル%である。
【0033】
上記のようにして製造される基板2は、表示素子3の表示面側に配置する場合、又は透明ディスプレイに適用する場合には、透明であることが好ましい。
ここで、本明細書において「透明」とは、可視光に対して透明であることを意味する。
【0034】
基板2は、基板2を形状記憶樹脂4のTtransよりも高い温度に加熱して所望の形状に変形させた後、形状記憶樹脂4のTtransよりも低い温度に冷却することにより、所望の形状に変形させた状態を維持することができる。なお、このようなTtransよりも高い温度で与えた形状を保持したままTtransよりも低い温度に冷却することにより、その形状が維持される特性を以下では「形状固定性」という。
また、変形した状態で形状固定させた基板2は、形状記憶樹脂4のTtransよりも高い温度に加熱することにより、記憶させた形状(変形前の元の形状)に回復させることもできる。なお、このようなTtransよりも高い温度に加熱することにより、記憶させた形状に戻る特性を以下では「形状回復性」という。
【0035】
基板2の厚さは、柔軟性を損なわない範囲であれば特に限定されないが、一般に20μm〜2000μm、好ましくは30μm〜1500μm、より好ましくは40μm〜1000μmである。
【0036】
表示素子3としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。表示素子3の例としては、有機EL表示素子、液晶表示素子、電子ペーパーなどが挙げられる。
【0037】
基板2に対する電圧の印加は、基板2上に形成された電極を介して行うことができる。基板2に形成される電極構造としては、電圧の印加が可能な構造であれば特に限定されないが、例えば、
図2に示すような構造が挙げられる。なお、
図2では、図面を分かり易くする観点から、表示素子3は省略した。
図2において、(a)〜(c)は断面図、(d)は表面図である。
図2に示されているように、電極構造は、
図2(a)に示されているような基板2の表裏面の一方の端部に電極6が設けられた構造、
図2(b)に示されているような基板2の表裏面の全体に電極6が設けられた構造、
図2(c)に示されているような基板2の表面の両方の端部に電極6が設けられた構造、
図3(d)に示されているような基板2の表面に櫛歯状の電極6が設けられた構造をとり得る。電極6は、ITOなどの公知の材料から形成することができる。
【0038】
本発明のフレキシブルディスプレイ1は、基板2に電極6から電圧を印加することによって基板2を加熱することができる。そのため、電熱変換素子などを設ける必要がなく、フレキシブルディスプレイ1の薄型化が可能になると共にコストも低減することができる。また、本発明のフレキシブルディスプレイ1は、基板2に電極6から電圧を印加することで基板2を形状記憶樹脂4のTtransよりも高い温度に加熱して変形させた後、変形させた状態を保持したままで基板2を形状記憶樹脂4のTtransよりも低い温度に冷却することにより、その形状を固定化することができる。そのため、本発明のフレキシブルディスプレイ1は、変形させた状態で使用したり、運搬又は搬送などを行ったりすることができる。さらに、本発明のフレキシブルディスプレイ1は、基板2に電極6から電圧を印加することで基板2を形状記憶樹脂4のTtransよりも高い温度に加熱し、記憶された元の形状に回復させることができる。そのため、本発明のフレキシブルディスプレイ1は、様々な形状に変形させても、元の形状に回復させることができる。
【実施例】
【0039】
以下の実験により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。また、以下の実験で使用した試薬は全て購入品をそのまま用いた。
(実験1)
ブチルメタクリレート(BMA)7mL、及びAIBN(重合開始剤)7.3mgを規格瓶に入れ、1時間攪拌して溶解させた後、得られた溶液を型に流し込んだ。型は、ガラス板、PETフィルム、及びテフロン(登録商標)製のスペーサーを用いて70mm×70mm×1mmの基板サンプルが得られるような形状とした。次に、溶液を流し込んだ型を超音波バス内に配置し、3分間超音波照射して脱気させた。次に、型を85℃の恒温槽に入れて3時間重合させた後、恒温槽から取り出して室温でゆっくり冷却した。その後、型を除去して、BMAの単独重合体(PBMA:ポリブチルメタクリレート)からなる基板サンプルAを得た。
【0040】
(実験2)
BMA及びAIBNと共にエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)82.7μL(BMAに対して外割で1モル%に相当する)を加え、実験1と同様の条件にて重合及び架橋反応を行うことにより、架橋構造を有するPBMAからなる基板サンプルBを得た。
【0041】
(実験3)
まず、ドデシル硫酸ナトリウム(界面活性剤)0.2g及び水100mLをビーカーに入れて混合し、0.2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液を得た。次に、このドデシル硫酸ナトリウム水溶液にCB1gを加えた後、超音波バス内にビーカーを置き、60分間超音波を照射することによってCB分散水溶液を得た。次に、三口ナスフラスコにCB分散水溶液100mL、メタクリル酸メチル(MMA)1065μL、10mLの蒸留水に硫酸鉄(II)7水和物27.8mgを溶解した水溶液を入れ、窒素バブリングを行いながら1時間攪拌した。その後、過酸化水素水11.7gを三口ナスフラスコにさらに加えて2時間攪拌し、重合反応を完了させた。次に、溶液を濾過し、濾過物を蒸留水で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥を行い、PMMAで表面修飾されたカーボンブラック(CB(PMMA))を得た。
次に、BMA及びAIBNと共にCB(PMMA)1.16g(100質量部のBMAに対して15質量部に相当する)を加え、実験1と同様の条件にて重合反応を行うことにより、CB(PMMA)が分散したPBMAからなる基板サンプルCを得た。
【0042】
(実験4)
BMA及びAIBNと共にCB(PMMA)1.16g及びエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)82.7μL(BMAに対して外割で1モル%に相当する)を加え、実験1と同様の条件にて重合及び架橋反応を行うことにより、CB(PMMA)が分散した、架橋構造を有するPBMAからなる基板サンプルDを得た。
【0043】
(実験5)
まず、ドデシル硫酸ナトリウム(界面活性剤)0.2g及び水100mLをビーカーに入れて混合し、0.2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液を得た。次に、このドデシル硫酸ナトリウム水溶液にCB1gを加えた後、超音波バス内にビーカーを置き、60分間超音波を照射することによってCB分散水溶液を得た。次に、三口ナスフラスコにCB分散水溶液100mL、CHDMMA375μL、MMA851μL、10mLの蒸留水に硫酸鉄(II)7水和物27.8mgを溶解した水溶液を入れ、窒素バブリングを行いながら1時間攪拌した。ここで、MMAとCHDMMAとのモル比は8:2に相当する。その後、過酸化水素水11.7gを三口ナスフラスコにさらに加えて2時間攪拌し、重合反応を完了させた。次に、反応溶液を過剰のメタノールに注ぎ、冷暗所で一晩静置した。次に、溶液を濾過し、濾過物を蒸留水で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥を行い、CB(P(2CHDMMA−co−8MMA))を得た。
【0044】
次に、BMA7mL、及びCB(P(2CHDMMA−co−8MMA))1.45g(100質量部のBMAに対して15質量部に相当する)を規格瓶に入れ、規格瓶を超音波バス内に配置して30分間超音波照射した。次に、規格瓶に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)246.0μL及びジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL)60.1μLを加え、48時間攪拌しながら反応させた。次に、AIBN7.3g(BMAに対して外割で0.1モル%に相当する)を規格瓶にさらに加え、1時間攪拌した。AIBNの溶解を確認した後、溶液を流し込んだ型を超音波バス内に配置し、3分間超音波照射して脱気させた。次に、型を85℃の恒温槽に入れて3時間重合及び架橋反応を行った。次に、型を恒温槽から取り出して室温でゆっくり冷却した後、型を除去することにより、CB(P(2CHDMMA−co−8MMA)が分散し、(P(2CHDMMA−co−8MMA)に導入されたメタクリロイル基によって架橋構造が形成されたPBMAからなる基板サンプルEを得た。
【0045】
上記の実験で得られた基板サンプルA〜Eについて示差走査熱量測定によってTgを測定した。Tgの測定は、サンプル重量を5〜10mg、昇温速度を40℃/分、温度範囲を−30〜100℃とし、ヘリウム雰囲気下で行った。その結果を表1に示す。
【0046】
また、上記の実験で得られた基板サンプルA〜Eについて、形状固定性及び形状回復性を評価した。評価は次の手順に従って評価した。
(i)各基板サンプルから50mm×5mm×1mmの試験片を切り出した。
(ii)チャック間距離が20mmとなるように一軸延伸機に試験片を取り付け、試験片の中央から左右に5mmの位置を、試験片の初めの長さL
0として測定した。
(iii)試験片の中央から左右に5mmの位置に直流電源装置(株式会社テクシオ・テクノロジー製PA80−1B)のクリップを挟み、電圧を3分間印加して試験片を各変形温度(T
def)まで昇温させた。なお、導電性フィラー(CB)を含有していない基板サンプルA及びBの試験片は、電圧を印加しても昇温しないため、試験片を各変形温度(T
def)に設定した恒温槽に入れ、10分間加熱した。また、T
defは、サンプルごとにTg+10℃に設定した。
(iv)45mm/分の歪速度で25%まで伸長変形を試験片に付与し、この時の長さL
1を測定した。
(v)試験片に(iv)の応力を付与した状態のまま室温で3分間静置した。
(vi)応力を除き、試験片をテフロン(登録商標)シャーレに入れ、室温で5分間静置した後、試験片の長さL
2を測定した。
(vii)試験片の中央から左右に5mmの位置に直流電源装置のクリップを挟み、電圧を印加して昇温させた。導電性フィラーを含有していない基板サンプルA及びBの試験片については、試験片を各変形温度(T
def)に設定した恒温槽に入れて昇温させた。5分経過ごとに試験片を取出し、長さL
3を測定した。
(viii)(i)〜(vii)の工程を3回繰り返して行った。
【0047】
形状固定性の評価指標である形状固定率(R
f)及び形状回復性の評価指標である形状回復率(R
r)は、次の式によって算出した。
R
f(%)=(L
2−L
0)/(L
1−L
0)×100
R
r(%)=(L
1−L
3)/(L
1−L
0)×100
この評価において、形状固定率(R
f)は、実用性の観点から85%以上であることが必要であり、好ましくは86%、より好ましくは87%以上である。また、形状回復率(R
r)は、実用性の観点から90%以上であることが必要であり、好ましくは90.5%以上である。上記の評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示されるように、基板サンプルAは、架橋構造を有しない樹脂から形成されており、この樹脂は形状記憶樹脂とは言えない。そのため、基板サンプルAは、形状固定率(R
f)が低く、フレキシブルディスプレイにおいて実用性が低い。他方、基板サンプルB(特願2015−253375号で提案した基板に相当する)は、形状固定率(R
f)及び形状回復率(R
r)が高く、変形を繰り返しても形状固定率(R
f)及び形状回復率(R
r)の低下が少ない。しかしながら、基板サンプルBは、基板サンプルBを加熱する手段(例えば、電熱変換素子)を別個に設ける必要があるため、フレキシブルディスプレイの厚みが増大して柔軟性が損なわれる恐れがあると共にコストも上昇する。基板サンプルCは、マトリックス樹脂が架橋構造を有しておらず、このマトリックス樹脂は形状記憶樹脂とは言えない。そのため、基板サンプルCは、基板サンプルAと同じように、形状固定率(R
f)が低く、フレキシブルディスプレイにおいて実用性が低い。
【0050】
これに対して本発明例の基板サンプルD及びFは、形状固定率(R
f)及び形状回復率(R
r)が高く、変形を繰り返しても形状固定率(R
f)及び形状回復率(R
r)の低下が少なかった。特に、本発明例の基板サンプルFは、変形の繰り返しに対する形状固定率(R
f)及び形状回復率(R
r)の低下が少なかった。また、本発明例の基板サンプルD及びFは、基板サンプルD及びFを加熱する手段(例えば、電熱変換素子)を設けることなしに電圧を印加するだけで加熱することが可能であり、基板サンプルBの結果と比べても遜色のない結果であった。
【0051】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、電熱変換素子を設けることなしに、変形させた状態を維持すると共に変形前の元の形状に回復させることが可能なフレキシブルディスプレイ及びその使用方法を提供することができる。