特許第6850570号(P6850570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6850570乳タンパク質濃縮物およびその製造方法、乳製品ならびに乳製品の乳風味を損なわずに乳製品の塩味および「えぐみ」を弱める方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850570
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】乳タンパク質濃縮物およびその製造方法、乳製品ならびに乳製品の乳風味を損なわずに乳製品の塩味および「えぐみ」を弱める方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/142 20060101AFI20210322BHJP
   A23C 1/14 20060101ALI20210322BHJP
   A23C 9/12 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   A23C9/142
   A23C1/14
   !A23C9/12
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-176613(P2016-176613)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2018-38359(P2018-38359A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100147706
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(72)【発明者】
【氏名】金子 成子
(72)【発明者】
【氏名】越膳 浩
【審査官】 楠 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−050843(JP,A)
【文献】 特表2006−512073(JP,A)
【文献】 Growth and Activities of Lactococcus lactis in Milk Enriched with Low Mineral Retentate Powders,Journal of Dairy Science,1992年,vol. 75,pp. 2344-2352
【文献】 阿彦健吉, 高橋健, 川成真美,高濃度脱脂粉乳溶液の熱安定性に及ぼす予熱の影響,日畜会報,1982年,53(5),p321-325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、
脱脂乳のpHを5.5以上6.5未満の範囲内に調整して、pH調整脱脂乳を調製するpH調整工程と、
前記pH調整脱脂乳を限外ろ過処理して第1乳タンパク質濃縮物を調製する第1乳タンパク質濃縮物調製工程と、
前記第1乳タンパク質濃縮物のpHを6.45以上6.75以下の範囲内に調整して第2乳タンパク質濃縮物を調製するpH再調整工程と
を備える、乳タンパク質濃縮物の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整工程では、前記脱脂乳のpHが5.5以上5.8以下の範囲内に調整されてpH調整脱脂乳が調製される
請求項1に記載の乳タンパク質濃縮物の製造方法。
【請求項3】
前記pH再調整工程では、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液が前記第1乳タンパク質濃縮物に添加されることによって前記第1乳タンパク質濃縮物のpHが6.45以上6.75以下の範囲内に調整されて前記第2乳タンパク質濃縮物が調製される
請求項1または2に記載の乳タンパク質濃縮物の製造方法。
【請求項4】
前記第2乳タンパク質濃縮物は、液状である
請求項1から3のいずれか1項に記載の乳タンパク質濃縮物の製造方法。
【請求項5】
前記第2乳タンパク質濃縮物は、全固形分の20質量%あたり、タンパク質の含有量が9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であり、灰分の含有量が0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内であり、ナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量が0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内である
請求項1から4のいずれか1項に記載の乳タンパク質濃縮物の製造方法。
【請求項6】
全固形分の20質量%あたり、タンパク質の含有量が9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であり、灰分の含有量が0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内であり、ナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量が0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内であり、
pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である
乳タンパク質濃縮物。
【請求項7】
液状である、請求項6に記載の乳タンパク質濃縮物。
【請求項8】
請求項6または7に記載の乳タンパク質濃縮物を原料として製造した乳製品。
【請求項9】
前記乳製品は、発酵乳である
請求項に記載の乳製品。
【請求項10】
乳製品を製造する際、pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である乳タンパク質濃縮物を用いて、前記乳製品の乳風味を損なわずに前記乳製品の塩味および「えぐみ」を弱める方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳タンパク質濃縮物およびその製造方法に関する。また、本発明は、その乳タンパク質を用いた乳製品にも関する。さらに、本発明は、乳製品の乳風味を損なわずに乳製品の塩味および「えぐみ」を弱める方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
過去に「陽イオン交換樹脂を用いて、脱脂乳を脱カルシウム処理し、乳タンパク質濃縮物を製造すること」が提案されている(例えば、特表2010−502182号公報、特開2011−024589号公報等を参照)。このような乳タンパク質濃縮物は、高い熱安定性を有し、調製粉乳、飲料、発酵乳、アイスクリーム等の種々の乳製品の有用な原料として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2010−502182号公報
【特許文献2】特開2011−024589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のようにして得られる乳タンパク質濃縮物を用いて乳製品を調製した場合、その乳製品の塩味や「えぐみ」が弱まるものの、乳風味が十分とは言えない傾向がある。
【0005】
本発明の課題は、熱安定性を確保しつつも、乳風味を損なうことがない乳タンパク質濃縮物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1局面に係る乳タンパク質濃縮物(「Milk Protein Concentrate」(以下「MPC」と略する。)ともいう。)の製造方法は、pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、pH調整工程、第1乳タンパク質濃縮物調製工程およびpH再調整工程を備える。pH調整工程では、脱脂乳のpHが5.5以上6.5未満の範囲内に調整されて、pH調整脱脂乳が調製される。第1乳タンパク質濃縮物調製工程では、pH調整脱脂乳が限外ろ過処理されて、第1乳タンパク質濃縮物が調製される。なお、pH調整工程から第1乳タンパク質濃縮物調製工程へ進む前に、所定時間で、pH調整脱脂乳を静置するか攪拌することが好ましい。これは、カルシウム等のイオンを十分にタンパク質(すなわち、カゼイン等)から解離(遊離)させるためである。pH再調整工程では、第1乳タンパク質濃縮物のpHが6.45以上6.75以下の範囲内に調整されて第2乳タンパク質濃縮物が調製される。
【0007】
この乳タンパク質濃縮物の製造方法では、脱脂乳のpHが5.5以上6.5未満の範囲内に調整されてからその原料(すなわちpH調整脱脂乳)が限外ろ過処理される。ここで、pH調整脱脂乳では、タンパク質に静電的に結合しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等が部分的に解離した状態となっている(通常では、pH調整脱脂乳のpHが5.2以下で、全部のカルシウムイオンやマグネシウムイオン等が解離する。)。そして、その部分的に解離したカルシウムイオンやマグネシウムイオン等は、pH調整脱脂乳が限外ろ過処理されると、透過液の水分と共に排出される。この結果、カルシウムイオンやマグネシウムイオン等が程よく残留した乳タンパク質濃縮物が調製される。このため、この乳タンパク質濃縮物の熱安定性が高められ、また、それを用いて製造された乳製品では乳風味が損なわれることがない。さらに、この乳タンパク質濃縮物の製造方法では、イオン交換処理を行うことがない。このため、乳タンパク質濃縮物の製造方法の全体の流れにおいて、作業工数が少なくなり、製造費を低く抑えることができる。また、この乳タンパク質濃縮物の製造方法では、pH再調整工程が行われるため、第1乳タンパク質濃縮物の酸味を抑えることができる。また、pH再調整工程では、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いることにより、第1乳タンパク質濃縮物中のナトリウムイオンとカリウムイオンの量的なバランスを調整することができる。加えて、この製造方法で製造された乳タンパク質濃縮物は、上述の通り、熱安定性に優れるため、この乳タンパク質濃縮物を原料として乳製品等を製造する場合、加熱殺菌工程における操作等を複雑化する必要がなくなる。このため、この製造方法で製造された乳タンパク質濃縮物は、場合によっては乳製品等の製造費を低く抑えることができる。
【0008】
本発明の第2局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法は、第1局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、pH調整工程では、脱脂乳のpHが5.5以上5.8以下の範囲内に調整されてpH調整脱脂乳が調製される。
【0009】
本発明の第3局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法は、第1局面または第2局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、pH再調整工程では、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液が第1乳タンパク質濃縮物に添加されることによって第1乳タンパク質濃縮物のpHが6.45以上6.75以下の範囲内に調整されて第2乳タンパク質濃縮物が調製される。
【0010】
本発明の第4局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法は、第1局面から第3局面のいずれか一局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、第2乳タンパク質濃縮物は、液状である。
【0011】
本発明の第5局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法は、第1局面から第4局面のいずれか一局面に係る乳タンパク質濃縮物の製造方法であって、第2乳タンパク質濃縮物は、全固形分の20質量%あたり、タンパク質の含有量が9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であり、灰分の含有量が0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内であり、ナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量が0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内である。
【0012】
本発明の第6局面に係る乳タンパク質濃縮物は、上述の乳タンパク質濃縮物の製造方法によって製造される乳タンパク質濃縮物である。なお、この乳タンパク質濃縮物の組成は、全固形分の20質量%あたり、タンパク質の含有量が9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であり、灰分の含有量が0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内であり、ナトリウムの含有量が0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内であり、カリウムの含有量が0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、カルシウムの含有量が0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内であり、マグネシウムの含有量が0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内であり、リンの含有量が0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内であり、塩素の含有量が0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内であり、pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である。そして、この乳タンパク質濃縮物を原料として種々の乳風味が豊かな乳製品を製造することができる。
【0013】
本発明の第局面に係る乳タンパク質濃縮物は、第面に係る乳タンパク質濃縮物であって、液状である。
【0014】
本発明の第局面に係る乳製品は、上述の乳タンパク質濃縮物を原料として製造される。なお、乳製品は発酵乳であることが好ましい。
【0015】
本発明の第局面に係る方法は、乳製品の乳風味を損なわずに乳製品の塩味および「えぐみ」を弱める方法であって、乳製品が製造される際、pH6.45以上6.75以下の範囲内において130℃における熱凝固時間が4分間以上である乳タンパク質濃縮物を用いる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1に係る乳濃縮物の熱凝固時間に及ぼすpHの影響を示すプロット図を、比較例1に係る乳濃縮物の熱凝固時間に及ぼすpHの影響を示すプロット図と併せて示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、pH調整工程および乳濃縮物調製工程を経て製造される。以下、乳濃縮物について詳述した後に、その製造方法およびその用途について詳述する。
【0018】
<乳濃縮物>
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、生乳、牛乳もしくは特別牛乳または脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を除去したもの)もしくは部分脱脂乳(生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を部分的に除去したもの)を濃縮したものであって、例えば、「乳及び乳製品の成分規格等に関する厚生省省令」に規定される濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%以上であり、乳脂肪分が7.0%以上であるもの)や、脱脂濃縮乳(生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%以上であり、細菌数(標準平板培養法で1g当たり)が100,000以下であるもの。)のみならず、「生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したものであって、乳固形分が25.5%未満であるもの(以下「省令外濃縮乳」という。)」、「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したものであって、無脂乳固形分が18.5%未満であるもの(以下「省令外脱脂濃縮乳」という。)」等でもあり得るが、乳タンパク質濃縮物(Milk Protein Concentrate(以下「MPC」と略する)ともいう)であることが好ましい。なお、以下、説明の便宜上、生乳、牛乳、特別牛乳、脱脂乳および部分脱脂乳をまとめて「原料乳」と称することがある。
【0019】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、全固形分の20質量%あたり、9.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内のタンパク質、0.40質量%以上1.55質量%以下の範囲内の灰分、0.01質量%以上0.10質量%以下の範囲内のナトリウム(Na)、0.05質量%以上0.40質量%以下の範囲内のカリウム(K)、0.15質量%以上0.40質量%以下の範囲内のカルシウム(Ca)、0.00質量%超0.03質量%以下の範囲内のマグネシウム(Mg)、0.08質量%以上0.25質量%以下の範囲内のリン(P)および0.00質量%超0.35質量%以下の範囲内の塩素(Cl)を含む。
【0020】
なお、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のタンパク質の含有量は、全固形分の20質量%あたり、10.0質量%以上15.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、10.5質量%以上15.0質量%以下の範囲内であることがより好ましく、11.0質量%以上15.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、11.5質量%以上14.5質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、12.0質量%以上14.0質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、12.5質量%以上13.5質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0021】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物の灰分の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.50質量%以上1.55質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.55質量%以上1.50質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.60質量%以上1.50質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.65質量%以上1.45質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.70質量%以上1.45質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0022】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のナトリウム(Na)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.01質量%以上0.09質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.01質量%以上0.08質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.02質量%以上0.08質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.02質量%以上0.07質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0023】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のカリウム(K)の含有量は、ナトリウム(Na)の含有量にもよるが、全固形分の20質量%あたり、0.05質量%以上0.38質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.05質量%以上0.36質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.06質量%以上0.34質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.06質量%以上0.32質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。なお、カリウム(K)の含有量は、ナトリウム(Na)の含有量の3倍以上4倍以下であることが好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.2倍以上3.9倍以下であることがより好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.4倍以上3.8倍以下であることがさらに好ましく、ナトリウム(Na)の含有量の3.6倍以上3.7倍以下であることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のカルシウム(Ca)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.15質量%以上0.36質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.16質量%以上0.34質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.17質量%以上0.32質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.18質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0025】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のマグネシウム(Mg)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.00質量%超0.02質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.00質量%超0.01質量%以下の範囲内であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物のリン(P)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.10質量%以上0.24質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.11質量%以上0.24質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.12質量%以上0.23質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.13質量%以上0.23質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0027】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物の塩素(Cl)の含有量は、全固形分の20質量%あたり、0.01質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることが好ましく、0.03質量%以上0.30質量%以下の範囲内であることがより好ましく、0.05質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることがさらに好ましく、0.07質量%以上0.25質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0028】
さらに、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物の全固形分の含有量は、通常では、14質量%以上22質量%以下の範囲内であり、16質量%以上22質量%以下の範囲内であることが好ましく、18質量%以上22質量%以下の範囲内であることがより好ましく、20質量%以上22質量%以下の範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物の130℃における熱凝固時間(乳濃縮物に凝固物が発生するまでの時間や、乳濃縮物の粘度が上昇するまでの時間)は、2分間以上であることが好ましく、4分間以上であることがより好ましく、6分間以上であることがさらに好ましく、8分間以上であることが特に好ましい。
【0030】
<乳濃縮物の製造方法>
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、上述の通り、pH調整工程および乳濃縮物調製工程を経て製造される。また、本発明の実施の形態に係る乳濃縮物が脱脂濃縮乳や、省令外脱脂濃縮乳、乳タンパク質濃縮物である場合、pH調整工程の前に、脱脂乳調製工程が設けられることが好ましい。また、乳濃縮調製工程の後に、pH再調整工程が設けられることが好ましい。以下、これらの工程について詳述する。
【0031】
(1)脱脂乳調製工程
脱脂乳調製工程では、生乳、牛乳もしくは特別牛乳から、脱脂乳または部分脱脂乳が調製される。なお、ここにいう「脱脂乳」とは、生乳、牛乳または特別牛乳から、乳脂肪分を除去したものであって、例えば、「生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪分を0.5%未満としたもの」等である。また、ここにいう「部分脱脂乳」とは、生乳、牛乳または特別牛乳から、乳脂肪分を部分的に除去したものであって、例えば、「生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪分を0.5%以上3.0%未満の範囲内としたもの」等である。なお、脱脂乳調製工程は、上述の通り、必ずしも実施されなければならないものではない。脱脂濃縮乳や省令外脱脂濃縮乳の市販品を購入して、それをpH調整工程において原料乳(出発原料)として用いてもかまわない。
【0032】
生乳、牛乳もしくは特別牛乳から、脱脂乳または部分脱脂乳を調製する方法には、例えば、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪を遠心分離処理する方法(以下「遠心分離法」ともいう。)や、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の乳脂肪を膜分離処理する方法(以下「膜分離法」ともいう。例えば、精密ろ過処理がある。)等がある。なお、遠心分離法を採用する場合、生乳、牛乳もしくは特別牛乳の温度を45℃以上55℃以下の範囲内に保ちながら、乳脂肪を遠心分離処理することが好ましい。また、かかる場合、pH調整工程の前に、この得られた脱脂乳または部分脱脂乳を冷却しておくことが好ましい。なお、かかる場合、冷却の温度は、脱脂乳または部分脱脂乳が液状を保つ温度以上10℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上5℃以下の範囲内であることがより好ましい。
【0033】
(2)pH調整工程
pH調整工程では、原料乳(例えば、冷却された原料乳)のpHが5.5以上6.5未満の範囲内に調整されて、pH調整原料乳が調製される。なお、アルカリの添加量の調整のしやすさや、低粘度の維持のしやすさの観点から、pHが所定値であることが好ましい。すなわち、かかる場合、pH調整工程では、pH調整原料乳のpHが5.5以上6.2以下の範囲内であることが好ましく、5.5以上6.0以下の範囲内であることがより好ましく、5.5以上5.8以下の範囲内であることがさらに好ましい。なお、原料乳のpHが通常では6.4以上7.2以下の範囲内であるため、このpH調整工程では、酸が用いられる。そして、この酸には、食品に添加し得る酸、すなわち、人体に無害な酸、例えば、塩酸、乳酸、酢酸等が用いられる。このように、原料乳のpHが酸性側に調整されると、pH調整原料乳では、タンパク質に静電的に付着しているカルシウムイオンやマグネシウムイオン等がタンパク質から解離する。そして、原料乳のpHを上記範囲内において適宜調整することによって、原料乳において解離するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の含有量(個数)を調整することができる。
【0034】
なお、このpH調整工程では、原料乳に上述の酸を添加した後に、所定時間で、pH調整原料乳を静置するか攪拌することが好ましい。ここで、この所定時間は0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、1.5時間以上であることがさらに好ましく、2時間以上であることが特に好ましい。そして、この所定時間に特に上限はないが、所定時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。また、このpH調整工程では、所定温度で、pH調整原料乳を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、この所定温度は、pH調整原料乳が液状を保つ温度以上25℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上20℃以下の範囲内であることがより好ましく、2℃以上15℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、3℃以上10℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0035】
(3)乳濃縮物調製工程
乳濃縮物調製工程では、pH調整工程の後に、pH調整原料乳が限外ろ過処理されて、乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)が調製される。この際、pH調整工程において解離したカルシウムイオンやマグネシウムイオン等が透過液として、pH調整原料乳(あるいは乳濃縮物)から分離される。この結果、目的の「カルシウムやマグネシウムの含有量(濃度)が低減された乳濃縮物」が得られる。なお、限外ろ過処理に供される限外ろ過膜には、平膜、中空糸膜、スパイラル膜、セラミック膜、回転膜、振動膜等が用いられ、その限外ろ過膜の分画分子量は、8000Da以上12000Da以下の範囲内であることが好ましく、9000Da以上11000Da以下の範囲内であることがより好ましく、9500Da以上10500Da以下の範囲内であることがさらに好ましい。ところで、この濃縮倍率は、原料乳の種類等によって、その下限値が変わり得るが、例えば、原料乳が脱脂乳である場合、この濃縮倍率は、2.5倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、原料乳が生乳である場合、この濃縮倍率は、1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましい。また、この濃縮倍率の上限値は、限外ろ過膜および限外ろ過装置の耐圧の程度によって、決定され得るが、例えば、原料乳が脱脂乳である場合、この濃縮倍率は4倍以下であることが好ましく、3.5倍以下であることがより好ましく、原料乳が生乳である場合、この濃縮倍率は、3倍以下であることが好ましく、2.5倍以下であることがより好ましい。なお、本発明者の鋭意検討により、この濃縮倍率が高いほど、乳濃縮物の熱安定性が高く、pH再調整(中和)工程において要するアルカリの添加量が少なく、pH再調整工程の後に、乳濃縮物の粘度が低くなることが明らかになっている。
【0036】
(4)pH再調整工程
pH再調整工程では、乳濃縮物(例えば、冷却された乳濃縮物、常温の乳濃縮物)のpHが6.5以上7.0以下の範囲内に調整されてpHが再調整された乳濃縮物(以下「pH調整乳濃縮物」ともいう。)が調製される。なお、熱安定性の向上のしやすさや、低粘度の維持のしやすさの観点から、pHが所定値であることが好ましい。すなわち、pH再調整工程では、pH調整乳濃縮物のpHが6.5以上6.9以下の範囲内とされることが好ましく、6.5以上6.8以下の範囲内とされることがより好ましく、6.5以上6.7以下の範囲内とされることがさらに好ましい。なお、乳濃縮物のpHが通常では5.5以上6.5未満の範囲内であるため、このpH再調整工程では、アルカリが用いられる。このアルカリには、食品に添加し得るアルカリ、すなわち、人体に無害なアルカリ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等が用いられる。この際、アルカリは、稀薄水溶液の形態で用いられることが好ましく、具体的には、1〜3Nのアルカリ水溶液の形態で用いられることがより好ましく、2Nのアルカリ水溶液の形態で用いられることがさらに好ましい。また、この際、乳濃縮物のナトリウムイオン/カリウムイオンの比率が、原料乳のナトリウムイオン/カリウムイオンの比率、または、その比率に近い比率になるように、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとの混合水溶液を用いることが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム:水酸化カリウムが2〜4:8〜6である混合水溶液を用いることがより好ましく、水酸化ナトリウム:水酸化カリウムが3:7である混合水溶液を用いることがさらに好ましい。
【0037】
なお、このpH再調整工程では、乳濃縮物に上述のアルカリを添加した後に、所定時間で、pH調整乳濃縮物を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、所定時間は、0.1時間以上であることが好ましく、0.3時間以上であることがより好ましく、0.5時間以上であることがさらに好ましく、1時間以上であることが特に好ましい。そして、この所定時間の上限は特にないが、所定時間は、例えば、10時間以下であることが好ましく、8時間以下であることがより好ましく、6時間以下であることがさらに好ましく、4時間以下であることが特に好ましい。また、このpH再調整工程では、所定時温度で、pH調整乳濃縮物を静置するか撹拌することが好ましい。ここで、この所定温度は、pH調整乳濃縮物が液状を保つ温度以上25℃以下の範囲内であることが好ましく、1℃以上20℃以下の範囲内であることがより好ましく、2℃以上15℃以下の範囲内であることがさらに好ましく、3℃以上10℃以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0038】
<乳濃縮物の用途>
本発明の実施の形態に係る乳濃縮物は、乳製品の原料の一成分として用いることができる。すなわち、この乳濃縮物は、単独で、乳製品の原料(原料乳)として用いられてもよいし、水、生乳、殺菌乳、脱脂乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、全脂濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バター、クリーム、チーズ等の他の原料と混合して、乳製品の原料(原料乳の一部等)として用いられてもよい。
【0039】
なお、上述の乳製品には、例えば、乳飲料(加工乳を含む)、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、発酵乳、アイスクリーム類、クリーム類、チーズ類等が含まれる。なお、この乳製品には、必要に応じて、任意の成分を加えることができる。このような任意の成分には、特段の制限はないが、一般的な乳製品に配合される成分である甘味料、酸味料、野菜や果物や種実、野菜汁や果物汁や種実汁、野菜や果物や種実のエキス、ビタミン、ミネラル、ペプチドやアミノ酸等などの栄養素材、乳酸菌、ビフィズス菌、プロピオン酸菌等の有用な微生物、有用な微生物の培養物、有用な微生物の発酵物、ローヤルゼリー、グルコサミン、アスタキサンチン、ポリフェノール等の既存の機能性素材、香料、pH調整剤、賦形剤、酸味料、着色料、乳化剤、保存料等が含まれる。この際、甘味料には、例えば、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、ショ糖、オリゴ糖、砂糖、蜂蜜、メープルシロップ、アガベシロップ、バームシュガー、モラセス(糖蜜)、水飴、ブドウ糖果糖液糖、トレハロース、マルチトース、パラチノース、キシリトール、ソルビトール、甘草抽出物、ステビア加工の甘味料、羅漢果抽出物、ソーマチン、グリセリン、クルクリン、モネリン、ミラクリン、エリトリトール等が含まれる。これらの甘味料は、乳製品に甘味を与えるのみならず、酸味や「えぐみ」を抑えることができることから、乳製品の製造時に積極的に添加することが好ましい。
【0040】
上述の乳製品が発酵乳である場合、この乳濃縮物は、発酵乳の原料ミックスの一成分として用いられてもよい。なお、この発酵乳原料ミックスの調製では、例えば、乳濃縮物、他の任意成分(例えば、甘味料、酸味料、ミネラル、ビタミン、香料等)等の原料が添加(配合)・加温・混合・溶解される。そして、この原料ミックスには、乳濃縮物の他、水、生乳、殺菌乳、全脂粉乳、全脂濃縮乳、バターミルク、バター、クリーム、チーズ等を添加・加温・混合・溶解等してもよい。また、この原料ミックスには、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、α−ラクトアルブミン(α−La)、β−ラクトグロブリン(β−Lg)等を添加・加温・混合・溶解してもよい。
【0041】
なお、上述の乳製品が発酵乳である場合、この発酵乳は、従来の発酵乳の製造方法と同様に、原料ミックスの調合工程、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程、発酵乳の冷却工程等の工程を経て製造される。この際、原料ミックスの調合工程では、上述の通り、原料を添加・加温・混合・溶解(調合)等する。なお、上述の各工程では、一般的な発酵乳の製造時の処理条件を適宜採用すればよい。また、原料ミックスの(加熱)殺菌工程、原料ミックスの冷却工程、スターターの添加工程、発酵工程および発酵乳の冷却工程は、この順番で実施されることが好ましい。
【0042】
<乳濃縮物の特徴>
上述のようにして得られた乳濃縮物は、従来の乳濃縮物に比べて、カルシウムおよびマグネシウム等の濃度が比較的に高いが、熱安定性を良好に向上または維持している。そして、この乳濃縮物を原料として調製した乳製品は、従来の乳濃縮物を原料として調製した乳製品に比べてカルシウムおよびマグネシウム等の濃度が比較的に高いが、乳風味や他の物性を良好に向上または維持している。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、この実施例に限定されることはない。
【0044】
(実施例1)
1.乳濃縮物の調製
先ず、クリームセパレーター(elecream社製 Separator F−3、容積:0.37L)を用いて、生乳を50℃で遠心分離処理(回転数:7000〜8000rpm、処理流量:315L/h、処理時間:4.2秒、重力加速度:1500〜4400G)して、脱脂乳を調製し、その脱脂乳を5℃に冷却した(脱脂乳調製工程)。次に、その冷却した脱脂乳に、2Nの塩酸水溶液を加えて、その脱脂乳のpHを5.7に調整し、5〜10℃、2時間で放置した(pH調整工程)。次に、中空糸膜のモジュール(Koch社製 Romicon Hollow fiber CTG3” HF25−43 PM−10、分画分子量:10,000Da、膜面積:2.3m)を用いて、その放置した脱脂乳を3.2倍の濃縮倍率で限外ろ過(UF)処理して、乳濃縮物(乳タンパク質濃縮物)を製造した(乳濃縮物調製工程)。
【0045】
なお、中空糸膜のモジュールを用いて、脱脂乳を限外ろ過処理する前に、塩素を200ppmで添加したアルカリ水溶液を用いて、中空糸膜を洗浄した。そして、冷水(3〜5℃)を中空糸膜のモジュールに循環させながら中空糸膜を冷却した後に、中空糸膜のモジュールからこの冷却水を排出した。それから、20L容のジャケット付のタンクに、上述の放置した脱脂乳(5〜10℃)を投入した。そして、中空糸膜のモジュールを用いて、脱脂乳を限外ろ過処理する際には、このタンクに中空糸膜のモジュールを配管等で接続し、このタンクを間接的に冷却すると共に、この配管の途中に冷却管を設けて、この配管を間接的に冷却した。なお、脱脂乳を限外ろ過処理する濃縮倍率は、脱脂乳の仕込み量(処理量)、透過液の処理流量(透過流速)、保持液(濃縮液)の全固形分の濃度やタンパク質の濃度等から決定した。
【0046】
そして、この乳濃縮物を5つに分けた後に、各乳濃縮物のナトリウム(イオン)/カリウム(イオン)の比率が牛乳における比率(約4/15)と同等になるように、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが3:7(モル比)で含まれる2Nの水酸化ナトリウム/水酸化カリウムの混合水溶液を添加して、20℃の恒温環境下において、各乳濃縮物のpHを6.40、6.45、6.50、6.60、6.75に調整し、pHが再調整された乳濃縮物(pH再調整乳濃縮物)を調製した(pH再調整工程)。
【0047】
2.物性等確認試験
(1)熱安定性の確認試験
先ず、各pH再調整乳濃縮物を4mLずつで、14mL容の丸底バイアル瓶に計量して密封した。次に、この丸底バイアル瓶を130℃の油浴に浸漬すると共に、この丸底バイアル瓶を振とうしながら、各pH再調整乳濃縮物を目視にて確認しつつ、pH再調整乳濃縮物において凝固物が発生するまでの時間を計測し、この計測時間を「熱凝固時間」とした。最後に、pH再調整の時点から2時間後に、各pH再調整乳濃縮物の10℃におけるpHを測定し、そのpHを各pH再調整乳濃縮物のpHとした。
【0048】
この確認試験の結果を表1に示した。また、その表1に掲載されたデータのグラフ図を図1に示した。
【0049】
(2)官能試験
(2−1)
上記pH再調整乳濃縮物を原料乳に用いて、発酵乳を調製し、その発酵乳について官能試験を行った。以下、その発酵乳の調製方法を説明した後、官能試験について詳述する。
【0050】
各pH再調整乳濃縮物を加熱殺菌して、殺菌済みのバット(5L容のステンレス製の容
器)に貯液した。なお、この加熱殺菌では、バットを用いた回分式によって、pH再調整
乳濃縮物を95℃の達温で加熱した。
【0051】
次に、加熱殺菌した各pH再調整乳濃縮物をバットに入れて43℃に調温した後に、各pH再調整乳濃縮物に、乳酸菌スターター(明治ブルガリアヨーグルトLB81より分離した、ブルガリア菌とサーモフィルス菌の混合スターター)を2質量%となるように添加し、それらを10分間かけて攪拌・保持した。
【0052】
次に、乳酸菌スターターを添加した各pH再調整乳濃縮物を70gずつで、約100mL容のカップに充填した。一方、ここで残った各pH再調整乳濃縮物をバットに入れたままとした。続いて、それらのカップおよびバットを43℃の恒温器に入れて、各pH再調整乳濃縮物を発酵させた。そして、各pH再調整乳濃縮物のpHが4.6に達した時点で、カップ入りの発酵乳を冷蔵庫(3〜5℃)に入れ、一晩(約12時間)で保持して、ハードタイプの発酵乳を製造した。一方、各pH再調整乳濃縮物のpHが4.6に達した時点で、バット入りの発酵乳を攪拌しながら、冷水浴(3〜5℃)で冷却して、ソフトタイプの発酵乳を製造した。
【0053】
(2−2)
5名の専門パネルが、上記のハードタイプの発酵乳およびソフトタイプの発酵乳を冷却(5℃)した状態で食し、甘味、塩味、酸味、えぐみ、乳風味、滑らかさ、不快な臭いの強弱(程度)を5段階で評価した。このとき、専門パネルの過半数が「実施例1(前述)の発酵乳は、比較例1(後述)の発酵乳に比べて、えぐみが少なく、乳風味や滑らかさが豊かである。」と評価した。
【0054】
(比較例1)
乳濃縮物の調製において、pH調整工程を省略し、冷却した脱脂乳のpHを調整することなく、その脱脂乳を限外ろ過処理した以外は、実施例1と同様にして、pH再調整乳濃縮物を調製した。そして、実施例1と同様にして、そのpH再調整乳濃縮物について熱安定性の確認試験を行った。なお、比較例1では、実施例1や実施例2と対比するためだけに、pHの再調整工程を実施したのであって、本発明におけるpH再調整の特許性を否定するものではない。
【0055】
この確認試験の結果を表1に示した。また、その表1に掲載されたデータのグラフ図を図1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
<実施例および比較例に対する考察>
図1から明らかなように、pH6.4から6.75までの範囲内において、実施例1で調製されたpH再調整乳濃縮物は、比較例1で調製されたpH再調整乳濃縮物に比べて、熱安定性に優れることが明らかになった。なお、pH6.4から6.5までの範囲内において、実施例1で調製されたpH再調整乳濃縮物の熱安定性は、発酵乳等の製造に十分に耐え得るレベルであり、pHが6.5から6.7付近までの範囲内において、実施例1で調製されたpH再調整乳濃縮物の熱安定性は顕著なレベルと評価されるべきである。
図1