(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、本発明を詳細に説明するが、本発明は、個々の形態には限定されない。
本発明において、「クリームチーズ」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、および公正競争規約で定めるナチュラルチーズの規格のうちいずれかに該当するものであって、一般的にクリームチーズと呼ばれるものをすべて包含するものとする。したがって、例えば、国際食品規格(Codex Standard)で規定されるクリームチーズ(CODEX STAN 275-1973)や、米国連邦規則で規定されるクリームチーズ(21CFR§133.133)などを包含する。
【0015】
クリームチーズの製造方法は、例えば、下記の通りである。
原料として、牛乳、山羊乳、羊乳等の哺乳類から得られた生乳、脱脂乳、クリームなどの乳原料を用い、クリームチーズ用の原料ミックスとすることができる。クリームチーズ用の原料ミックスは、生乳および/または脱脂乳にクリームを加えて、乳脂肪の含量を、例えば、7〜20重量%、7〜18重量%、7〜16重量%、7〜14重量%、7〜12重量%、8〜20重量%、8〜18重量%、8〜16重量%、8〜14重量%、8〜12重量%、9〜20重量%、9〜18重量%、9〜16重量%、9〜14重量%、9〜12重量%、10〜20重量%、10〜18重量%、10〜16重量%、10〜14重量%、10〜12重量%に調整する。クリームチーズ用の原料ミックスの乳脂肪の含量を7重量%以上とすることで、後述するクリームチーズのチーズカードとホエイを分離しやすくなり好ましい。また、クリームチーズ用の原料ミックスの乳脂肪の含量を20重量%以下とすることで、クリームチーズの風味および食感がくどくなく好ましい。したがって、かかる観点からは、乳脂肪の含量は、7〜20重量%、8〜20重量%、9〜20重量%、または10〜20重量%がより好ましい。
【0016】
なお、濃厚で重みのある風味および食感のクリームチーズを得る場合には、クリームチーズ用の原料ミックスの乳脂肪の含量を20重量%を超えて調整することもできる。このように調整する場合の上限は、油分の分離、保形性等の観点から、45重量%程度である。したがって、濃厚で重みのある風味および食感のクリームチーズを得る場合、乳脂肪の含量は、7〜45重量%、8〜40重量%、9〜35重量%、または10〜30重量%が好ましい。
【0017】
クリームチーズ用の原料ミックスの殺菌方法としては、例えば、63℃で30分間、72〜74℃で15分間以上、82〜88℃で300〜360秒間、95℃で300秒間、などの条件で加熱殺菌を行うことができるが、これらの記載に限られず、公知のチーズ製造における原料ミックスの殺菌方法を、目標とするクリームチーズの品質や風味によって選択することが可能である。また、必要に応じて、原料ミックスの加熱殺菌前に、均質機(例えば、HA4733 TYPE H-20-2(SANWA MACHINE CO.,INC)など)を使用して0〜25MPaの均質化圧力で均質化処理を行なうこともできる。
【0018】
クリームチーズ用の原料ミックスを殺菌し、冷却した後に、クリームチーズ用の原料ミックスを凝固させる。
本発明において、殺菌処理したクリームチーズ用の原料ミックスを酸により凝固させる方法として、乳酸菌とプロピオン酸菌との発酵を利用する。
【0019】
添加する乳酸菌は、発酵至適温度が約40℃の高温菌、発酵至適温度が約25℃の中温菌を使用することが一般的である。例えば、ヘルベチカス菌(Lactobacillus helveticus)、ラクチス菌(Lactococcus lactis)、ジアセチルラクチス菌(Lactococcus lactis subsp. lactis biovar. diacetylactis)、クレモリス菌(Lactococcus lactis subsp. cremoris)を乳酸菌として使用することが一般的であるが、これらに限られず、乳(乳糖)を発酵できる乳酸菌であれば、目標とするクリームチーズの品質や風味によって選択することができる。
【0020】
凝固したクリームチーズ用の原料ミックスは、ホエイを分離することにより、チーズカードを得ることができる。ホエイの分離方法は、膜またはメッシュなどによる濾過、遠心力を利用した分離など、公知のチーズの製造で使用しているホエイを分離する方法を、目標とするクリームチーズの品質や風味によって選択すればよい。得られたチーズカードがクリームチーズである。
【0021】
本発明の原料ミックスは、上記のクリームチーズの製造にて一般的に用いられているクリームチーズ用の原料ミックスをいうが、目標とするクリームチーズの品質や食感に応じて成分の調整をすることができる。
【0022】
本発明のプロピオン酸菌は、一般的にプロピオン酸菌といわれているものであれば、特に制限なく使用することができる。プロピオン酸菌のうち、プロピオニバクテリウム属のプロピオン酸菌は良く知られており、例えばプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・トエニー(P. thoenii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニシ(P. acidipropionici)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニー(P. jensenii)などのチーズ用の菌、プロピオニバクテリウム・アビダム(P. avidum)、プロピオニバクテリウム・アクネス(P. acnes)、プロピオニバクテリウム・リンホフィラム(P. lymphophilum)、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(P. granulosam)などを挙げることができる。このうち、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒが好ましい。さらに、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(P. freudenreichii)IFO 12424株、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(P. freudenreichii)ATCC 6207株およびプロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株(P. freudenreichii ET-3)(FERM BP−8115)が好ましく、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株(P. freudenreichii ET-3)(FERM BP−8115)が特に好ましい。なお、株名にATCCと記載された菌株は、American Type Culture Collectionから入手可能な菌株である。株名にIFOと記載された菌株は、The institute for Fermentation, Osakaから入手可能な菌株である。
【0023】
本明細書における「プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株」(Propionibacterium freudenreichii ET-3)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)(日本国 〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領番号:FERM P−18454(識別のための表示:ET−3、平成13(2001)年8月9日に国内受託されており、平成14(2002)年7月11日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−8115が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)より特許微生物寄託業務を承継したため、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に寄託されている(受託番号FERM BP−8115)。
【0024】
本発明のプロピオン酸菌の原料ミックスへの接種量は、クリームチーズとしての十分な発酵風味を有し、従来のクリームチーズと比較して酸味がマイルドに感じられるように調整されるが、特に制限はない。本発明のプロピオン酸菌の原料ミックスへの接種量は、原料ミックス1gに対し、例えば、1〜10
9cfu/g、1〜5×10
8cfu/g、1〜10
8cfu/g、1〜5×10
7cfu/g、1〜10
7cfu/g、1〜5×10
6cfu/g、1〜10
6cfu/g、10〜10
9cfu/g、10〜5×10
8cfu/g、10〜10
8cfu/g、10〜5×10
7cfu/g、10〜10
7cfu/g、10〜5×10
6cfu/g、10〜10
6cfu/g、10
2〜10
9cfu/g、10
2〜5×10
8cfu/g、10
2〜10
8cfu/g、10
2〜5×10
7cfu/g、10
2〜10
7cfu/g、10
2〜5×10
6cfu/g、10
2〜10
6cfu/g、10
3〜10
9cfu/g、10
3〜5×10
8cfu/g、10
3〜10
8cfu/g、10
3〜5×10
7cfu/g、10
3〜10
7cfu/g、10
3〜5×10
6cfu/g、10
3〜10
6cfu/g、10
4〜10
9cfu/g、10
4〜5×10
8cfu/g、10
4〜10
8cfu/g、10
4〜5×10
7cfu/g、10
4〜10
7cfu/g、10
4〜5×10
6cfu/g、10
4〜10
6cfu/gである。風味等の観点から、好ましくは、10
6〜10
9cfu/g、とくに好ましくは、10
7〜10
8cfu/gである。なお、cfu/gとは、1gあたりのシャーレにおけるコロニーの生成数であり、すなわち、プロピオン酸菌を接種した原料ミックス1g中に存在する、生菌数測定培地で生育するプロピオン酸菌数を意味する。
【0025】
本発明のクリームチーズの製造方法では、原料ミックスにプロピオン酸菌を接種する以外には、公知のクリームチーズの製造方法を応用することができる。
また、本発明のクリームチーズの製造方法における、乳酸菌およびプロピオン酸菌による発酵を終了するpHは、例えば、pH3〜5、pH3.5〜5、pH3.7〜5、pH3.9〜5、pH4〜5、pH4.1〜5、pH4.2〜5、pH4.3〜5、pH4.4〜5、pH4.5〜5であり、目標とするクリームチーズの品質や風味によって選択することができる。ここで、凝固した時のpHが3以上であれば、クリームチーズの酸味が強くなく、好ましい。また、凝固した時のpHが5以下であれば、十分に酸による凝固がなされており、後述するホエイとの分離が容易であり、好ましい。
本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズは、従来のクリームチーズ用の原料ミックスに乳酸菌を添加して調製するクリームチーズと比較して、クリームチーズを想起させる発酵風味が同等であった。これにより、本発明のクリームチーズの製造方法は、従来の方法と比較して、一般的に熟成風味を生成するプロピオン酸菌を併用しているにも関わらず、従来のクリームチーズと同等の発酵風味を有する。
【0026】
さらに、驚くことに、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズは、従来のクリームチーズ用の原料ミックスに乳酸菌を添加して調製するクリームチーズと比較して、乳酸由来の酸味を感じにくく、さらには、乳由来の甘味が感じられ、クリームチーズ全体として嗜好性が高まった。これにより、本発明のクリームチーズの製造方法は、従来の方法と比較して、同じクリームチーズを想起する発酵風味でありながらも、乳酸由来の酸味を感じにくく、乳由来の甘味が感じられる、嗜好性の高いクリームチーズの製造方法であることがわかる。
【0027】
本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズには、従来のクリームチーズと比較して、プロピオン酸を多く含有しており、これが、酸味、甘味、発酵風味を改善する効果を奏している。例えば、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズは、従来のクリームチーズと比較して、クリームチーズ中のプロピオン酸量が、例えば、1.2〜50倍、1.2〜40倍、1.2〜35倍、1.2〜30倍、1.2〜20倍、1.2〜18倍である。
【0028】
本発明のクリームチーズの製造方法は、本発明の効果である、クリームチーズの発酵風味を十分に有したまま、乳酸由来の酸味を感じにくい特徴が維持されているかぎり、本発明のクリームチーズの製造途中での、新たな製造工程を付加、新たな食品原料・食品添加物の添加もできる。また、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズは、その後に加熱し、均質化をするなどの新たな工程の付加、製菓や製パンなどへの新たな加工もできる。
【0029】
例えば、本発明のクリームチーズの製造方法において、最終的なクリームチーズが滑らかな食感で離水が少なく、このクリームチーズを原料にチーズケーキにした場合においても、組織の縮みや沈みといったボリュームの低下が起こらず、良好な食感とするために、クリームチーズ中の多糖類、とくに乳酸菌由来の多糖類を3〜200μg/mL、3〜150μg/mL、3〜100μg/mL、3〜80μg/mL、3〜60μg/mL、3〜50μg/mL、3〜40μg/mL、3〜30μg/mL、3〜25μg/mL、3〜20μg/mL、3〜15μg/mL含有するよう、乳酸菌由来の多糖類を生成する乳酸菌を使用することができる。ここでいう、乳酸菌由来の多糖類とは、乳酸菌の発酵(代謝)により生成された多糖類である。
【0030】
例えば、発酵中に乳酸菌由来の多糖類を生成する乳酸菌として、ラクトバチルス・デルブリュッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)(以下、ブルガリア菌という)OLL1247株(受託番号:NITE BP−01814)(以下、ブルガリア菌OLL1247株という)、またはラクトバチラス・デルブルッキー・サブスピーシス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)OLL1073R−1株(受託番号:FERM BP−10741)(以下、ブルガリア菌OLL1073R−1株という)、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)(以下、サーモフィラス菌という)OLS3618株(受託番号:NITE BP−01815)(以下、サーモフィラス菌OLS3618株という)、またはストレプトコッカス・サーモフィラス OLS3078株(受託番号:NITE BP−01697)(以下、サーモフィラス菌OLS3078株という)などを単独で使用することができる。
【0031】
また、例えば、ブルガリア菌とサーモフィラス菌の組み合わせとして、ブルガリア菌OLL1247株とサーモフィラス菌OLS3618株の組み合わせ、ブルガリア菌OLL1247株とサーモフィラス菌OLS3078株の組み合わせ、ブルガリア菌OLL1073R−1株とサーモフィラス菌OLS3078株の組み合わせ、などを使用することができる。なお、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズの乳酸菌由来の多糖の含量は、公知のフェノール・硫酸法にて測定できる。
【0032】
本明細書における「ブルガリア菌OLL1247株」(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1247)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(日本国 〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)へ、2014年3月6日付にてブダペスト条約に基づく国際寄託され、受託番号NITE BP−01814が付与されている。
【0033】
本明細書における「ブルガリア菌OLL1073R−1株」(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R−1)は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)(日本国 〒305−8566 茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に受領番号:FERM P−17227(識別のための表示: Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus OLL1073R−1)、平成11(1999)年2月22日に国内受託されており、平成18(2006)年11月29日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−10741が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD, AIST)より特許微生物寄託業務を承継したため、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に寄託されている(受託番号FERM BP−10741)。
【0034】
本明細書における「サーモフィラス菌OLS3618」(Streptococcus thermophilus OLS3618)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(日本国 〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)へ、2014年3月6日付にてブダペスト条約に基づく国際寄託され、受託番号NITE BP−01815が付与されている。
【0035】
本明細書における「サーモフィラス菌OLS3078」(Streptococcus thermophilus OLS3078)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD, NITE)(日本国 〒292−0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)へ、2013年8月23日付にてブダペスト条約に基づく国際寄託され、受託番号NITE BP−01697が付与されている。
【0036】
本発明のクリームチーズの製造方法において、目標とするクリームチーズの発酵風味の強さに応じて、発酵風味を生成する適当な乳酸菌の菌株を選択できる。発酵風味は、実際にクリームチーズを食べた時の風味をもとに行う官能評価のほか、ジアセチルを指標物質として、クリームチーズ中のジアセチル含量で評価することができる。クリームチーズ中のジアセチルの含有量は、発酵風味の強いクリームチーズとするには、例えば、1〜20ppm、2〜19ppm、3〜18ppm、4〜17ppm、5〜16ppm、5〜15ppmである。
【0037】
本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズは、その後の加熱・均質化処理をして、加熱処理したクリームチーズとすることで、滑らかな食感で離水が少なく、このクリームチーズを原料にチーズケーキにした場合においても、組織の縮みや沈みといったボリュームの低下が起こらず、良好な食感にすることができる。ここで加熱の温度は、本発明のクリームチーズの効果が損なわれない限り、特に制限はないが、例えば60〜100℃、65〜95℃、70〜90℃、75〜85℃、77℃〜83℃、78℃〜82℃である。また、加熱の保持時間は10〜90分間、15〜60分間、20〜40分間、25〜35分間である。好ましくは、70〜90℃で20〜40分間の加熱であり、とくに好ましくは、78〜82℃で25〜35分間の加熱である。
【0038】
本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズを、その後に加熱処理するために均質化の条件は、均質機を使用する場合の均質化圧は、例えば、5〜50MPa、6〜40MPa、7〜35MPa、10〜33MPa、12〜31MPa、15〜30MPa、15〜25MPaである。本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズの均質化圧が5MPa以上であれば、本発明の効果が得られるため、好ましい。また、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズクリームチーズの均質化圧が50MPa以下であれば、過剰なせん断による本発明の効果が失われることがないため、好ましい。均質機としては、当該分野において用いられる一般的なものを用いることができ、具体的な均質機の例としては、HA4733 TYPE H-20-2(SANWA MACHINE CO.,INC)などが挙げられる。また、均質化を行う温度は、特に限定されないが、均質化の前の加熱処理の温度や、均質化後の処理を考慮し、例えば、約80℃で行われる。
【0039】
本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズ(加熱処理したものも含む)は、製菓、製パン用の加工原料として使用することができる。例えば、焼成工程のあるスフレチーズケーキに加工することができる。スフレチーズケーキを作る場合、本発明のクリームチーズの製造方法で得られたクリームチーズ加熱処理したものも含む)の他に、白ワイン、牛乳、卵黄、卵白、グラニュー糖、バターを添加することができる。焼成の温度は、例えば、150〜300℃、150〜250℃、150〜220℃、160〜200℃、170〜190℃である。また、焼成の保持時間は10〜90分間、15〜60分間、20〜40分間、25〜35分間である。好ましくは、160〜200℃で20〜40分間の焼成であり、とくに好ましくは、170〜190℃で25〜35分間の焼成である。
【実施例】
【0040】
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。
【0041】
[実施例1]
未殺菌の生乳(牛乳)80kgにクリーム20kgを加えて、乳脂肪の含量が15重量%になるよう調整し、クリームチーズ用の原料ミックスとした。この原料ミックスを95℃で60秒間保持して殺菌した後、75℃まで冷却してから均質化圧15MPaで均質処理した。殺菌処理した原料ミックスを37℃まで冷却し、「明治ブルガリアヨーグルト」(株式会社明治製、日本)から分離したブルガリア菌とサーモフィラス菌と、プロピオン酸菌(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株(FERM BP−8115)を添加し、原料ミックス(発酵初期のプロピオン酸菌が9.5×10
6cfu/g)のpHが4.8になるまで静置発酵をした。発酵した原料ミックスを撹拌しながら80℃まで加温した後、カードとホエイを分離して、実施例1のクリームチーズを得た。このクリームチーズを4℃まで冷却した。
【0042】
[実施例2]
未殺菌の生乳(牛乳)80kgにクリーム20kgを加えて、乳脂肪の含量が15重量%になるよう調整し、クリームチーズ用の原料ミックスとした。この原料ミックスを95℃で60秒間保持して殺菌した後、75℃まで冷却してから均質化圧15MPaで均質処理した。殺菌処理した原料ミックスを37℃まで冷却し、「明治ブルガリアヨーグルト」(株式会社明治製、日本)から分離したブルガリア菌とサーモフィラス菌と、プロピオン酸菌(プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒET−3株(FERM BP−8115)を添加し、原料ミックス(発酵初期のプロピオン酸菌が2.6×10
7cfu/g)のpHが4.8になるまで静置発酵をした。発酵した原料ミックスを撹拌しながら80℃まで加温した後、カードとホエイを分離して、実施例2のクリームチーズを得た。このクリームチーズを4℃まで冷却した。
【0043】
[比較例1]
未殺菌の生乳(牛乳)80kgにクリーム20kgを加えて、乳脂肪の含量が15重量%になるよう調整し、クリームチーズ用の原料ミックスとした。この原料ミックスを95℃で60秒間保持して殺菌した後、75℃まで冷却してから均質化圧15MPaで均質処理した。殺菌処理した原料ミックスを37℃まで冷却し、「明治ブルガリアヨーグルト」(株式会社明治製、日本)から分離したブルガリア菌とサーモフィラス菌を添加し原料ミックスのpHが4.8になるまで6.3時間の静置発酵をした。発酵した原料ミックスを撹拌しながら80℃まで加温した後、カードとホエイを分離して、比較例1のクリームチーズを得た。このクリームチーズを4℃まで冷却した。
【0044】
実施例1〜2のクリームチーズ、および比較例1のクリームチーズを対象に、プロピオン酸の含量をGC−MSで測定した。比較例1のクリームチーズの検出量のピーク面積を1として、実施例1のクリームチーズは1.4、実施例2のクリームチーズは16であることがわかった。また、実施例1〜2のクリームチーズ、および比較例1のクリームチーズを対象に、「発酵風味」、「乳由来の良好甘味」の指標で評価した。「発酵風味」、「乳由来の良好な甘味」において、「◎」は比較例1と比較して非常に強い、「○」は比較例1と比較して強い、「△」は比較例1と同等、「×」は比較例1と比較して弱いと判定した。さらに、実施例1〜2のクリームチーズ、および比較例1のクリームチーズを対象に、「酸味」の指標で評価した。「発酵風味」、「乳由来の良好な甘味」において、「◎」は比較例1と比較して非常に弱い、「○」は比較例1と比較して弱い、「△」は比較例1と同等、「×」は比較例1と比較して強いと判定した。これらの評価は、チーズの専門パネル10名で行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1より、実施例1〜2のクリームチーズは、比較例1と比較して、酸味がマイルドで、クリームチーズを想起する発酵風味も強く、乳由来の良好な甘味を十分に感じることができた。特に、実施例2のクリームチーズは、実施例1のクリームチーズより、その効果は顕著に表れた。これにより、実施例1〜2のクリームチーズは、プロピオン酸の含量が比較例1のクリームチーズと比較して相対的に高いため、乳酸に由来する酸味を感じることなく、クリームチーズを想起する良好な発酵風味を有し、かつ、乳由来の甘味が強い、嗜好性の高いクリームチーズであることがわかった。