(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一端が開口し他端が閉塞するルツボの内部に、高融点材料によって構成された網状部材で構成された支持体によって昇華性物質からなる蒸発材料を前記蒸発材料の外周面が前記ルツボの内周面に対して部分的に露出され前記ルツボの前記内周面及び底面から離間した状態で支持することにより配置し、
真空雰囲気下で、前記ルツボの周囲に配置された誘導加熱コイルに高周波電力を供給し、前記ルツボの側面からの放射熱によって前記蒸発材料の前記外周面を直接的に加熱し、
前記ルツボの開口端部に対向して配置された成膜対象物上に前記蒸発材料の蒸発粒子を堆積させる
真空蒸着方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
昇華性物質で構成される蒸発材料の加熱は、主として、ルツボの内側の表面(内周面)からの熱放射によって行われるため、蒸発材料の蒸発エリアはルツボの内径で決まる面積に限られる。また、蒸発材料がルツボ内に充填されていると、ルツボ内周面からの輻射熱などによって材料は一旦蒸発するが、その蒸発粒子のほとんどはルツボ内周面及び蒸発材料と衝突し、ルツボの開口部に達する蒸発粒子は僅かである。従って、蒸着に寄与する蒸発粒子は材料表面(上面)から蒸発するものが主体となるため、成膜速度が限定されてしまい、また、ルツボに供給した高周波電力が有効に蒸発に使用されないという問題がある。さらに、蒸発によって材料表面(上面)が減じる(下がる)ことで、蒸発粒子の指向性が変わり、膜厚分布が変動するという問題もある。
【0010】
なお、成膜速度を上げるためには、昇華性物質の表面温度を上げる必要があるが、ZnS等の比較的熱伝導率が小さい材料の場合はスプラッシュの原因となり、Cr等の比較的蒸発に必要な温度が高い材料の場合はルツボに供給される高周波電力が過大となる。
【0011】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、昇華性物質の加熱に際してスプラッシュを抑止しつつ、成膜レートおよび電力の使用効率を向上させ、さらに膜厚分布の変動を抑えることができる蒸発源、真空蒸着装置および真空蒸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る蒸発源は、ルツボと、誘導加熱コイルと、支持体とを具備する。
上記ルツボは、一端が開口し他端が閉塞する収容部を有する。
上記誘導加熱コイルは、上記ルツボの周囲に配置される。
上記支持体は、上記収容部に配置され、蒸発材料を上記ルツボの内周面から離間した状態で支持する。
【0013】
上記蒸発源において、蒸発材料は、支持体を介して、ルツボの内周面から離間した状態で収容部に配置される。上記構成によれば、蒸発材料が昇華性物質で構成される場合、ルツボの内周面と蒸発材料の外周面との間の隙間を介して、蒸発材料の外周面から収容部の開口端部に向けて蒸発粒子が到達し易くなる。その結果、蒸着に寄与する蒸発粒子が増加するため成膜レートが向上し、材料の表面温度を過剰に上げる必要がないためスプラッシュも抑止される。また、誘導加熱コイルに供給される高周波電力が効率よく蒸発材料の蒸発に使用されるので電力の使用効率が向上する。さらに、蒸発材料の外周面から優先的に蒸発するため、材料の上面の低下がほとんどなく、従って蒸発粒子の指向性変化に伴う膜厚変動が抑えられる。
【0014】
上記支持体は、上記蒸発材料を上記ルツボの底部から離間した状態で支持可能な網状部材で構成されてもよい。
これにより、蒸発材料が所定形状に成形できない材料であったり、粉粒状の材料であったりしても、ルツボの内周面から離間した状態で蒸発材料を安定に保持することが可能となる。
【0015】
上記ルツボは、上記収容部の開口端部に設けられた環状部をさらに有していてもよい。この場合、上記環状部は、上記収容部の開口径よりも小さい内径を有する。
これにより、ルツボの内周面からの放射熱だけでなく、環状部からの放射熱によって蒸発材料を加熱することができるため、蒸発材料の蒸発エリアが増加し、成膜レートの更なる向上を図ることが可能となる。
【0016】
上記ルツボは、上記収容部を部分的に遮蔽する遮蔽部をさらに有していてもよい。この場合、上記遮蔽部は、上記収容部の開口端部に支持され、上記収容部の開口径よりも小さい外径の板部を有する。
これにより、蒸発材料のスプラッシュの際に生じる飛沫が成膜対象物へ到達することがなくなるため、膜中にピンホールが生じることを効果的に抑えることができる。
【0017】
上記遮蔽部は、上記構成に限られず、上記収容部の開口端部よりも内側に領域に形成された複数の貫通孔を有してもよい。
【0018】
本発明の他の形態に係る蒸発源は、ルツボと、誘導加熱コイルと、蒸発材料とを具備する。
上記ルツボは、一端が開口し他端が閉塞する収容部を有する。
上記誘導加熱コイルは、上記ルツボの周囲に配置される。
上記蒸発材料は、上記収容部に上記ルツボの内周面から離間した状態で配置された昇華性物質で構成される。
【0019】
上記蒸発源において、蒸発材料は、ルツボの内周面から離間した状態で収容部に配置されているため、ルツボの内周面と蒸発材料の外周面との間の隙間を介して、蒸発材料の外周面から収容部の開口端部に向けて蒸発粒子が到達し易くなる。その結果、蒸着に寄与する蒸発粒子が増加するため成膜レートが向上し、材料の表面温度を過剰に上げる必要がないためスプラッシュも抑止される。また、誘導加熱コイルに供給される高周波電力が効率よく蒸発材料の蒸発に使用されるので電力の使用効率が向上する。さらに、蒸発材料の外周面から優先的に蒸発するため、材料の上面の低下がほとんどなく、従って蒸発粒子の指向性変化に伴う膜厚変動が抑えられる。
【0020】
上記蒸発材料は、上記ルツボの内径未満の外径を有する円柱状の成形体で構成されてもよい。
【0021】
上記蒸発源は、網状部材をさらに具備してもよい。上記網状部材は、上記収容部に配置され、上記蒸発材料を収容する。この場合、上記蒸発材料は、粉粒体で構成されてもよい。
【0022】
本発明の一形態に係る真空蒸着装置は、真空チャンバと、蒸発源とを具備する。上記蒸発源は、上記真空チャンバの内部に配置され、成膜対象物に蒸着膜を形成する。
上記蒸発源は、一端が開口し他端が閉塞する収容部を有するルツボと、上記ルツボの周囲に配置された誘導加熱コイルと、上記収容部に配置され、蒸発材料を上記ルツボの内周面から離間した状態で支持する支持体と、を有する。
【0023】
上記真空蒸着装置は、フィルム搬送機構をさらに具備してもよい。上記フィルム搬送機構は、上記真空チャンバの内部に配置され、上記成膜対象物としてのフィルムを搬送する。
この場合、上記蒸発源は、上記フィルムの幅方向に沿って複数配列される。
【0024】
本発明の一形態に係る真空蒸着方法は、一端が開口し他端が閉塞するルツボの内部に、昇華性物質からなる蒸発材料を上記ルツボの内周面から離間した状態で配置することを含む。
真空雰囲気下で、上記ルツボの周囲に配置された誘導加熱コイルに高周波電力が供給され、上記ルツボの側面からの放射熱によって上記蒸発材料が加熱される。
上記ルツボの開口端部に対向して配置された成膜対象物上に上記蒸発材料の蒸発粒子が堆積させられる。
【発明の効果】
【0025】
以上述べたように、本発明によれば、昇華性物質の加熱に際してスプラッシュを抑止しつつ、成膜レートおよび電力の使用効率を向上させ、さらに膜厚分布の変動を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0028】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る真空蒸着装置の構成を示す概略縦断面図である。
なお、図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示しており、本実施形態ではX軸及びY軸は水平方向を、Z軸は高さ方向をそれぞれ示す。
【0029】
[蒸着装置の全体構成]
真空蒸着装置1は、巻出しローラ2と、巻取ローラ3と、メインローラ4と、蒸発源6と、これらを収容する真空チャンバ7とを備える。真空蒸着装置1は、巻出しローラ2から連続的又は間欠的に送り出された長尺のベースフィルム(以下、フィルムFともいう)をメインローラ4に巻き付けながら、当該メインローラ4に対向して配置された蒸発源6からの蒸発物質をフィルムF上に蒸着させ、蒸着後のフィルムFを巻取りローラ3で巻き取る巻取式真空蒸着装置として構成される。
【0030】
(真空チャンバ)
真空チャンバ7は、密閉構造を有し、排気ラインLを介して真空ポンプPに接続される。これにより、真空チャンバ7は、その内部が所定の減圧雰囲気に排気又は維持可能に構成される。
【0031】
真空チャンバ7は内部に仕切板8を有する。仕切板8は、真空チャンバ7のZ軸方向における略中央部に配置されており、所定の大きさの開口部を有する。当該開口部の周縁部は、所定の隙間を空けてメインローラ4の外周面に対向している。真空チャンバ7の内部は、仕切板8により、仕切板8よりZ軸方向の上側にある搬送室9と、仕切板8よりZ軸方向の下側にある成膜室10とに区画される。
【0032】
成膜室10には排気ラインLが接続されている。したがって、真空チャンバ7の内部を排気する際には、まず、成膜室10の内部が排気される。一方、上述のように仕切板8とメインローラ4との間には所定の隙間があるため、この隙間を通して搬送室9の内部も排気される。これにより、成膜室10と搬送室9との間に圧力差が生じる。この圧力差により、蒸発材料の蒸気流が搬送室9に侵入するのを抑えることができる。
なお、本実施形態では、排気ラインLを成膜室10にのみ接続したが、搬送室9にも別の排気ラインを接続することにより、搬送室9と成膜室10とを同時にあるいは独立して排気してもよい。
【0033】
(フィルム搬送機構)
巻出しローラ2、巻取りローラ3、メインローラ4、ガイドローラ5A〜5Hは、成膜対象物としてのベースフィルムを搬送するフィルム搬送機構50を構成する。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及びメインローラ4は、それぞれ図示しない回転駆動部を備え、X軸に平行な軸まわりに回転可能に構成される。
【0034】
巻出しローラ2及び巻取りローラ3は、搬送室9内に配置され、それぞれの回転駆動部により
図1の矢印で示す方向(時計回り)に所定速度で回転可能に構成される。なお、巻出しローラ2の回転方向はこれに限られず、メインローラ4に向かってフィルムFを繰り出せる限り、どの方向に回転させてもよい。同様に、巻取りローラ3の回転方向も時計回りに限られず、メインローラ4からフィルムFを巻き取れる限り、どの方向に回転させてもよい。
【0035】
メインローラ4は、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2と巻取りローラ3との間に配置される。具体的には、メインローラ4のZ軸方向における下部の少なくとも一部が、仕切板8に設けられた開口部を通して成膜室10に臨むような位置に配置される。
【0036】
また、メインローラ4は、巻出しローラ2及び巻取りローラ3と同様に、回転駆動部により時計回りに所定速度で回転可能に構成される。さらに、メインローラ4は、鉄あるいはステンレス鋼等の金属材料で筒状に構成され、その内部に図示しない冷却媒体又は熱媒体の循環機構を備える。これにより、メインローラ4上のフィルムを所定温度に冷却又は加熱することが可能となる。メインローラ4の大きさは特に限定されないが、典型的には、軸方向の長さ(軸長)はフィルムFの幅と同じかそれよりも長い。
【0037】
ガイドローラ5A,5B,5C,及び5Dは、フィルムFの搬送経路において巻出しローラ2とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。また、ガイドローラ5E,5F,5G,及び5Hは、フィルムFの搬送経路において巻取りローラ3とメインローラ4との間に配置され、フィルムFの走行をガイドする。各ガイドローラ5A〜5Hは、典型的には、独自の回転駆動部を備えていないフリーローラにより構成されるが、少なくとも1つは、フィルムFの張力を保持あるいは調整可能なテンションローラとして構成されてもよい。
【0038】
以上のようにして構成されるフィルム搬送機構50により、真空チャンバ7内においてフィルムFが所定の速度で搬送される。フィルム搬送機構50はさらに、図示せずとも、フィルムFの表面クリーニング、表面改質のための荷電ビーム照射装置(例えばイオンビーム照射装置、電子ビーム照射装置)、フィルムFの帯電除去のためのイオンボンバード機構、フィルムFの脱ガス、水分除去のためのヒータ機構、などを備えていてもよい。
【0039】
フィルムFには、様々な種類のベースフィルムが適用可能である。フィルムFは、材料としてポリエチレンテレフタレート(PET)を含むが、これに限られない。その他の材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリアリレート、又はアクリル樹脂等の透明な樹脂を用いることができる。また、フィルムFは、織物、ガラスフィルム、金属箔等でもよい。
【0040】
フィルムFの厚さは、特に限定されず、例えば、約1.2μm〜250μmである。また、フィルムFの幅や長さについては特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができる。典型的には、フィルム幅が約300mm〜4800mm(主に約1500mm〜約2500mm)であり、搬送方向に沿った長さが1000m以上の長尺フィルムが用いられる。
【0041】
(蒸発源)
蒸発源6は、成膜室10に配置され、フィルム搬送機構50により搬送されるフィルムFの表面に蒸着膜を形成する。本実施形態において蒸発源6は、
図1に示すように、メインローラ4のZ軸方向における直下の位置に配置され、真空チャンバ7の底部に設置された支持台60の上に設置される。
【0042】
なお図示せずとも、成膜室10(
図1参照)には、蒸発源6から放出される蒸発材料EMの蒸気が真空チャンバ7の内壁面や仕切板8への堆積を防止するための防着板や、メインローラ4上のフィルムFに対する成膜領域を区画するためのマスク部材が適宜の位置に配置されてもよい。
【0043】
蒸発源6は、蒸発材料EMを収容する容器としてのルツボ61と、ルツボ61の周囲に配置された誘導加熱コイル62とを有する。
【0044】
誘導加熱コイル62は、真空チャンバ7の外部に設置された図示しない高周波電源に電気的に接続される。蒸発源6は、誘導加熱方式により、ルツボ61に収容された蒸発材料EMを加熱し、蒸発材料EMの蒸気を生成して、メインローラ4上のフィルムFの成膜面に蒸着膜を形成する。
【0045】
蒸発源6は単数に限られず、複数用いられてもよい。この場合、フィルムFの幅方向(X軸方向)に沿って直線的に又は千鳥足状に複数の蒸発源6が配列される(
図6参照)。
【0046】
図2は、蒸発源6の詳細を示す拡大断面図である。
【0047】
ルツボ61は、カーボン、グラファイト、金属、ボロンナイトライド(BN)等の導電性を有する材料から構成される。ルツボ61は、蒸発材料EMを収容可能な収容部611と、収容部611に収容された蒸発材料EMの蒸気を放出する開口部612が形成された開口端部613とを有する。ルツボ61の形状は特に限定されず、本実施形態では有底の円筒形状に形成される。これにより、一端が開口し他端が閉塞する収容部611が構成され、開口部612は、メインローラ4(Z軸上方)から見たときに、収容部611の外径と略同一の開口径(内径)を有する円形に形成される。
【0048】
誘導加熱コイル62は、ルツボ61の周囲に配置される。誘導加熱コイル62は、ルツボ61の周囲に巻回され、Z軸方向に沿ったコイル軸を有する。誘導加熱コイル62には、上記高周波電源により、50Hz〜1MHzの高周波電力が印加される。周波数は、蒸発材料EMの種類、ルツボ61のサイズ等により決定され、典型的には、1kHz〜100kHzの範囲に設定される。
【0049】
誘導加熱コイル62は、上記高周波電源より高周波電力が印加されることで、ルツボ61に渦電流(誘導電流)を発生させ、そのジュール熱でルツボ61を加熱(誘導加熱)する。ルツボ61だけでなく、収容部611に収容された蒸発材料EMも同時に誘導加熱されてもよい。加熱温度は特に限定されず、ルツボ61から蒸発材料EMへの熱伝達、熱輻射あるいは蒸発材料EMの直接加熱によって蒸発材料EMの蒸気圧が所定の圧力になる温度とされる。ここでいう所定の圧力は、蒸着装置の生産性を確保できる蒸発材料EMの蒸発レートが得られる圧力に設定され、具体的には、0.1Pa〜1000Paとされる。
【0050】
誘導加熱コイル62は、内部に冷却水が循環可能な水冷構造を備えていてもよい。また
図2に示すように、蒸発源6は、ルツボ61及び誘導加熱コイル62を一体保持するためと、ルツボ61の断熱のための構造材64,65が設けられてもよい。構造材64,65は断熱性を有する材料で構成され、構造材64は、支持台60とルツボ61の間に配置され、構造材65は、誘導加熱コイル62の周囲に配置される。これら構造材64,65は、相互に一体的に構成されてもよい。なお図示せずとも、ルツボ61と誘導加熱コイル62との間に、これらの間の断熱とルツボ61の保護のための耐熱材がさらに設けられてもよい。
【0051】
蒸発材料EMは特に限定されず、例えば、Ag(銀)、Al(アルミニウム)、Au(金)、Cr(クロム)、Cu(銅)、In(インジウム)、Sn(スズ)、ZnS(硫化亜鉛)、SiO(一酸化珪素)、SnO
2(二酸化スズ)等が挙げられる。本実施形態では、蒸発材料EMとして、Cr、ZnS、SiO及びSnO
2等の昇華性物質からなる蒸発材料が用いられる。
【0052】
誘導加熱式蒸発源における昇華性物質からなる蒸発材料の加熱は、主として、ルツボの内側の表面(内周面)からの熱放射によって行われる。このため、蒸発材料EMの蒸発エリアはルツボ61の内径や深さで決まる面積に限られる。
【0053】
ここで、蒸発材料EMがルツボ61内に充填されていると、ルツボ61の内周面からの輻射熱などによって材料は一旦蒸発するが、その蒸発粒子のほとんどはルツボ内周面及び蒸発材料と衝突するため、ルツボ61の開口部612に達する蒸発粒子は僅かである。その結果、蒸着に寄与する蒸発粒子は、
図3に示すように蒸発材料EMで被覆されていないルツボ61の内周面からの輻射熱を受ける材料表面(上面)からの蒸発粒子が主体となるため、成膜速度が限定されてしまう。また、ルツボ61に供給した高周波電力が有効に蒸発に使用されず、さらに蒸発によって材料表面が減じる(下がる)ことで、蒸発粒子の指向性が変わり、膜厚分布が変動するという問題が生じる。
【0054】
一方、成膜速度を上げるためには、昇華性物質の表面温度を上げる必要があるが、ZnS等の比較的熱伝導率が小さい材料の場合は表面からのスプラッシュの原因となり、Cr等の比較的蒸発に必要な温度が高い材料の場合はルツボに供給される高周波電力が過大となる。
【0055】
そこで本実施形態では、
図2に示すように、蒸発材料EMがルツボ61の内周面から離間した状態で収容部611に配置される。これにより、蒸発材料EMの外周面から収容部611の開口端部613に向けて蒸発粒子が到達し易くなる。その結果、蒸着に寄与する蒸発粒子が増加するため成膜レートが向上し、蒸発材料EMの表面温度を過剰に上げる必要もないためスプラッシュも抑止される。また、誘導加熱コイル62に供給される高周波電力が効率よく蒸発材料EMの蒸発に使用されるので、電力の使用効率が向上する。さらに、蒸発材料EMはその外周面から優先的に蒸発するため、蒸発材料EMの上面の低下がほとんどなく、従ってフィルムF上の蒸着膜の膜厚変動が抑えられることになる。
【0056】
ルツボ61の内周面からの蒸発材料EMの離間距離は特に限定されず、少なくとも、ルツボ61の内周面からの熱放射を受けて生成される蒸発材料EMの外周面からの蒸発粒子が、ルツボ61の内周面に阻害されることなく、ルツボ61の開口部612に到達し得る大きさの隙間が形成されていればよい。また、ルツボ61の内周面からの蒸発材料EMの離間距離は、蒸発材料EMの全周にわたって均一である場合に限られず、不均一であってもよい。さらに、蒸発材料EMの外周面が全周にわたってルツボ61の側周面から離間していることが好ましいが、蒸発材料EMの外周面がルツボ61の側周面に部分的に接触していても構わない。
【0057】
蒸発材料EMの形状も、円柱形状、角柱形状、錐体形状等の定形の立体形状に限られず、不定形のバルク形状であってもよい。
【0058】
蒸発材料EMをルツボ61の内周面から離間した状態で収容部611に配置する方法としては、蒸発材料EMをルツボ61の内径未満の外径を有する円柱状の成形体で構成する方法がある。成形体としては、インゴットでもよいし、焼結体であってもよい。この種の材料としては、例えばZnS等の成形が可能な材料が挙げられる。
【0059】
あるいは、
図4に模式的に示すように、蒸発材料EMをルツボ61の内周面から離間した状態で支持することが可能に構成された支持体63が用いられてもよい。支持体63は、例えば、収容部611の底部に配置され、蒸発材料EMを収容することが可能な網状部材で構成される。この構成は、蒸発材料EMが粉粒体などのように、単独ではルツボ61の内周面から離間した状態で安定に配置することができない場合に有用であり、例えば、蒸発材料EMとして、一定形状に成形できない、あるいは成形が困難、あるいは成形に過大なコストが必要とされる物質、あるいは、成形ができたとしても成形体からの放出ガスが問題となる物質などが適用される。このような材料としては、例えばCr等が挙げられる。なお当該構成は、ZnS等のように成形が比較的容易な物質にも勿論適用可能である。
【0060】
支持体63としての網状部材は、例えばMo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)等の高融点金属で構成されたメッシュないしは網状の容器で構成され、蒸発材料EMを部分的にルツボ61の内周面に露出させることができれば、その形態は特に限定されない。
【0061】
また、支持体63が袋状に構成されることで、蒸発材料EMとルツボ61の底部との接触を回避でき、これにより蒸発材料EMの下面から蒸発する粒子をも効率よくルツボ61の開口部612へ導くことができる。また、蒸発材料EMがルツボ61の構成材料と反応しやすい材料であれば、両者の接触による反応を阻止することができる。
【0062】
なお、蒸発材料EMとルツボ61の底部との接触を回避する他の手段として、例えば
図5A,Bに示すように、蒸発材料EMの下面とルツボ61の底部との間に、ルツボ61の底部から蒸発材料EMを離間させる複数の脚部66が設けられてもよい。これらの脚部66は、独立した部材として構成されてもよいし、蒸発材料EMが成形体で構成される場合はその一部として構成されてもよいし、ルツボ61あるいは支持体63の一部として構成されてもよい。
【0063】
なお、支持体63は、上述した網状部材に限られず、蒸発材料EMをルツボ61の内周面から離間した状態で安定に保持できる構成であればいずれの構成も採用可能であり、例えば、収容部611に配置された台座や治具、収容部611の底部に設けられた凹部等で支持体が構成されてもよい。
【0064】
(コントローラ)
本実施形態の真空蒸着装置1は、真空チャンバ7の外部に設置されたコントローラ11をさらに備える(
図1参照)。コントローラ11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)及びメモリを含むコンピュータ等により構成され、真空蒸着装置1の各部を統括的に制御する。コントローラ11は、例えば、真空ポンプPの動作の制御、各ローラの回転駆動及び位置制御、蒸発源6における蒸発材料EMの蒸発量の制御等を行う。
【0065】
[蒸着装置の動作]
次に、以上のようにして構成される真空蒸着装置1の典型的な動作について説明する。
【0066】
まず、ZnS等の昇華性物質からなる蒸発材料EMが、蒸発源6におけるルツボ61の内部(収容部611)に、ルツボ61の内周面から離間した状態で配置される。次に真空ポンプPにより、成膜室10内が排気され、これにより真空チャンバ7の内部が所定の圧力まで減圧される。巻出しローラ2、巻取りローラ3、及びメインローラ4は、各々の回転軸のまわりに
図1中矢印で示す方向(時計回り)にそれぞれ所定の速度で回転駆動される。
【0067】
巻出しローラ2から巻き出されたフィルムFは、ガイドローラ5A,5B,5C,及び5Dによって走行をガイドされながら、所定の抱き角でメインローラ4の外周面に巻回される。そして、フィルムFは、メインローラ4による冷却作用(又は加熱作用)を受けながら、蒸発源6の直上を通過した後、ガイドローラ5E,5F,5G,及び5Hを介して巻取りローラ3に巻き取られる。
【0068】
蒸発源6においては、図示しない高周波電源から誘導加熱コイル62に高周波電力が供給されることで、ルツボ61が所定温度に加熱される。ルツボ61の内部に収容された蒸発材料EMは、主として、ルツボ61の内周面からの放射熱により加熱される。蒸発材料EMは昇華性物質で構成されるため、融点に達する前に所定の蒸気圧でもって蒸発し、これにより、ルツボ61の開口部612からメインローラ4に向かう蒸気流Vmが形成される(
図2参照)。蒸気流Vmは、メインローラ4の周面に所定速度で搬送されるフィルムFの表面(成膜面)に付着、堆積する。これにより、フィルムFの成膜面に所定厚みの蒸着膜が形成される。
【0069】
本実施形態では、蒸発材料EMがルツボ61の内周面から離間した状態で収容部611に配置されるため、ルツボ61の内周面と蒸発材料EMの外周面との間の隙間を介して、蒸発材料EMの外周面から収容部611の開口端部613に向けて蒸発粒子が到達し易くなる。その結果、蒸着に寄与する蒸発粒子が増加するため成膜レートが向上する。しかも、蒸発材料EMの表面温度を過剰に上げる必要もないため、スプラッシュが抑止され、これにより蒸着膜中のピンホールの発生を低減することができる。
【0070】
従って本実施形態によれば、蒸発材料EMが、ZnS等の比較的熱伝導率が小さい昇華性物質で構成される場合にはスプラッシュを抑制しつつ成膜レートの向上を図ることができ、Cr等の比較的蒸発に必要な温度が高い昇華性物質で構成される場合には、所望とする成膜レートを実現することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、蒸発材料EMの蒸発エリアが広くなるため、誘導加熱コイル62に供給される高周波電力が効率よく蒸発材料EMの蒸発に使用される。これにより電力の使用効率が改善し、省エネ効果を向上させることができる。さらに、蒸発材料EMはその外周面から優先的に蒸発するため、蒸発材料EMの上面の低下がほとんどなくなり、従って蒸発粒子の指向性変化による蒸気流Vm(
図2参照)の変動が抑えられる。これにより、フィルムF上の蒸着膜の膜厚変動を抑えることができる。
【0072】
さらに本実施形態によれば、ルツボ61の開口部612が収容部611の断面積と略同等の比較的広い開口径を有するため、蒸発源6とフィルムFとの距離を大きくすることなく、フィルムFの成膜面に、膜厚均一性に優れた蒸着膜を形成することができる。また、蒸発源6とフィルムFとの距離が短くなることで、フィルムFへの蒸発材料の付着効率が高まって成膜レートが向上し、さらに装置全体の大型化を抑制することが可能となる。
【0073】
一方、幅広のフィルムFに対しては、フィルムFの幅方向(X軸方向)に複数の蒸発源6を直線的に、又は
図6に示すように千鳥足状に配列することによって、フィルムFの幅方向に均一な膜厚の蒸着膜を比較的容易に形成することができる。例えば、ルツボ61の内径(開口径)が115mm、深さが110mm、フィルムFとルツボ61との対向距離が250〜290mm、フィルムFの幅が2500mmである場合、フィルムFの幅方向に16個のルツボ61を155〜165mmピッチで配列することで、フィルムFに形成される蒸着膜の膜厚分布を±3〜5%に抑えることができる。
【0074】
[実験例]
以下、本発明者らにより行われた実験例について説明する。
【0075】
図7に示すように、内径(開口径)115mm、深さ110mmのルツボ61と、外径105mm、高さ90mmの円柱状に成形されたZnSからなる蒸発材料EMとを用い、蒸発材料EMをルツボ61の内周面から離間した状態で収容部611に配置した蒸発源を準備した。ルツボ61は、固有抵抗値が900〜1250μΩ・cmのグラファイト製とし、ルツボ61とベースフィルムとの距離は270mmとした。
【0076】
一方、比較例として、ZnSからなる蒸発材料EMをルツボ61の内部に充填した蒸発源を準備した(
図3参照)。
【0077】
そして、本実験例および比較例に係る蒸発源各々を真空チャンバにセットし、誘導加熱コイルに高周波電力を印加して蒸発材料EMを加熱蒸発させ、メインローラ上のPET製のベースフィルムにZnS膜を成膜した(
図2参照)。そして、各蒸発源について、誘導加熱コイルへ投入した周波数9.9kHzの高周波電力と成膜速度(ダイナミックレート)との関係を測定した。その結果を
図8に示す。
【0078】
比較例に係る蒸発源の場合、材料の加熱はルツボ61の内周面のうち、蒸発材料EMで被覆されていない開放された表面からの熱放射によって行われる(
図3参照)。従って、蒸発材料EMの蒸発エリアは、ルツボ61の内径によって決定される面積に限られ、誘導加熱コイルに高周波電力6kWを導入したときのダイナミックレートは、5300nm・m/minであった(
図8参照)。
【0079】
ここで、ダイナミックレートが5300nm・m/minであるということは、ベースフィルムを100m/minで走行させた場合、53nmの薄膜が形成されることを意味する。言い換えれば、50nmの薄膜を形成するため、ダイナミックレート5300nm・m/minの蒸発源を使用した場合のベースフィルムの走行速度は、106m/minになる。
【0080】
これに対して、本実験例に係る蒸発源(
図7)を使用した場合、蒸発材料EMの蒸発エリアは蒸発材料EMの外周面のほぼ全域にわたり、誘導加熱コイルに比較例と同一の高周波電力6kWを導入したときのダイナミックレートは、20300nm・m/minであった(
図8参照)。これは、比較例に係る蒸発源の約3.8倍となる。
【0081】
従って本実験例では、50nmの薄膜を形成しようとする場合、ベースフィルムの走行速度は406m/minになる。また、比較例と同じダイナミックレート5300nm・m/minを得るための投入電力は、
図8から約4.5kWであり、約25%の省エネルギとなる。投入電力が少なくて済むことから、ベースフィルムへの入熱量も少なくなり、ベースフィルムの熱ダメージのリスクも軽減できると同時に、メインローラへの熱負荷も少なくなりメインローラの冷却機構の負荷も低減できるため、装置全体の省エネルギ効果はより一層大きくなる。
【0082】
<第2の実施形態>
図9は、本発明の第2の実施形態に係る蒸発源におけるルツボの構成を示す概略側断面図である。
以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0083】
本実施形態のルツボ161は、一端が開口し他端が閉塞する収容部611を有するルツボ本体610と、収容部611(ルツボ本体610)の開口端部613に設けられた環状部614とを有する。ルツボ本体610および環状部614は、カーボン、グラファイト、金属あるいはBN(ボロンナイトライド)等の導電性材料で構成される。環状部614は、収容部611の開口径よりも小さい内径の開口部614aを有する。
【0084】
本実施形態においても上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に本実施形態においては、誘導加熱コイルへの高周波電力の投入時においてルツボ本体610だけでなく、環状部614も同様に加熱される。その結果、収容部611内の蒸発材料EMは、環状部614の裏面からの放射熱を受けて加熱蒸発される。これにより、蒸発材料EMの蒸発エリアがさらに増加するため、成膜レートの更なる向上を図ることが可能となる。
【0085】
環状部614は、典型的には、ルツボ本体610とは別部材で構成されるが、ルツボ本体610と一体的に形成されてもよい。環状部614がルツボ本体610とは別部材で構成されることにより、収容部611への蒸発材料EMの収容作業が容易となる。
【0086】
また、環状部614の開口部614aの内径は、ルツボ本体610の開口部612の内径よりも小さければ特に限定されず、好適には、収容部611に配置される蒸発材料EMの外径よりも小さい内径を有する。これにより、蒸発材料EMの上面外周側へ環状部614からの放射熱を効率よく照射することができる。
【0087】
さらに、環状部614の開口部614aの形状は円形に限られず、蒸発材料EMの平面形状等に応じて、矩形その他の幾何学的形状を任意に採用することが可能である。
【0088】
<第3の実施形態>
図10A,Bは、本発明の第3の実施形態に係る蒸発源におけるルツボの構成を示す概略側断面図および平面図である。
以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0089】
本実施形態におけるルツボ261は、一端が開口し他端が閉塞する収容部611を有する導電性材料で構成されたルツボ本体610と、収容部611を部分的に遮蔽する遮蔽部615とを有する。
【0090】
遮蔽部615は、収容部611の開口径よりも小さい外径の板部615aを有する。板部615aは、支持部615dを介して収容部611(ルツボ本体610)の開口端部613に支持される。支持部615dは、板部615aを支持する複数のアーム部615bと、複数のアーム部615bを開口端部613上で支持する外周部615cとを有する。板部615aは、典型的には、円盤形状を有し、収容部611に配置された蒸発材料EMの中央部を部分的に遮蔽する。外周部615cは、図示するように複数のアーム部615bを共通に支持する円環形状を有するが、これに限られず、各アーム部615bを個々に支持する複数の部分円弧で構成されてもよい。
【0091】
遮蔽部615は、ルツボ本体610と同様な導電性材料で構成されてもよいし、ルツボ本体610よりも導電率の低い(抵抗率の高い)導電性材料で構成されてもよいし、あるいはアルミナ、ジルコニア、マグネシア等の非導電性材料で構成されてもよい。また、遮蔽部615を金属製としたとき、金属材料は、蒸発材料EMと反応しない材料が好ましく、蒸発材料EMがZnSの場合、TaやW、Mo等の高融点金属が好ましい。さらに、遮蔽部615は、単層構造に限られず、多層構造であってもよい。多層構造で構成される場合、各層の材料はそれぞれ同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
遮蔽部615がルツボ本体610と同様な導電性材料で構成されることにより、ルツボ本体610だけでなく遮蔽部615をも加熱することができるため、遮蔽部615への蒸着物質の堆積を抑制することができるとともに、第2の実施形態と同様に蒸発材料EMの蒸発エリアを増加させて成膜レートの向上を図ることができる。また、遮蔽部615がルツボ本体よりも導電率が低い材料あるいは非導電性材料で構成されることにより、遮蔽部615を熱シールドとして機能させることができ、これによりベースフィルムへの入熱量の低減を図ることができる。
【0093】
本実施形態においても、上述の第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。特に本実施形態によれば、遮蔽部615の板部615aが蒸発材料EMの一部を遮蔽するように配置されることにより、スプラッシュで発生した蒸発材料EMの飛沫がベースフィルムへ付着して膜中に粗大なピンホールを生じさせることを抑えることができる。
【0094】
図11は、
図3に示した比較例に係る蒸発源と、本実施形態の蒸発源とを用いてベースフィルム上に50nmのZnS膜を成膜し、膜中のピンホールの数を測定したときの実験結果である。ピンホールサイズが大、中、小のそれぞれについて測定した結果、いずれのサイズにおいても比較例に係る蒸発源に比べて、本実施形態(実験例)に係る蒸発源は、ピンホールの数を約1/30〜1/100に抑えられることが確認された。
【0095】
なお、遮蔽部615は、
図10A,Bに示したような板部615aおよび複数のアーム部615bを有する形態だけに限られず、例えば、パンチメタルやメッシュシールドのような複数の孔が面内に形成された板材で構成されてもよい。このような構成においても、上述と同様の作用効果を得ることができる。
【0096】
例えば
図12A,Bに、パンチメタルで構成された遮蔽部615Aの構成例を示す。遮蔽部615Aは、収容部611の開口端部613に載置される。遮蔽部615Aは、開口端部613よりも内側の領域に複数の貫通孔615eを有する板状の部材で構成され、収容部611に配置された蒸発材料EMの表面(上面)を部分的に遮蔽する。貫通孔615eの数は特に限定されず、収容部611の開口径や蒸発材料EMの種類等に応じて適宜設定可能である。各貫通孔615eはそれぞれ同一径で形成されるが、領域ごとに異なる径で形成されてもよい。また、貫通孔615eは円形に限られず、楕円形や矩形等で形成されてもよいし、領域ごとに異なる形状で形成されてもよい。
【0097】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0098】
例えば以上の実施形態では、蒸発材料EMとして、ZnS、Cr等を例に挙げて説明したが、これに限られず、SiOやSnO
2等の他の昇華性物質からなる蒸発材料が用いられてもよい。また、ルツボ61のサイズや形状も上述の例に限られず、種々のサイズあるいは形状のルツボにも、本発明は適用可能である。
【0099】
また、蒸発源6を構成するルツボの開口端部613からの放射熱からベースフィルムを保護するため、開口端部613に熱シールド板が配置されてもよい。
図13は、第2の実施形態に係るルツボ161(
図9)において、環状部614の直上に環状の熱シールド板616が配置された例を示している。熱シールド板616としては、例えば、ルツボ本体610よりも高い固有抵抗を有する材料で構成される。これにより、ルツボ161の開口端部からの熱放射を抑制し、ベースフィルムの入熱量を低減することができる。このような構成は、上述の第1の実施形態あるいは第3の実施形態にも同様に適用可能である。
【0100】
さらに以上の実施形態では、蒸発源6として、巻取式真空蒸着装置における蒸発源に本発明を適用した例について説明したが、これに限られず、例えば、半導体基板やガラス基板上への蒸着膜を形成することが可能なバッチ式あるいはインライン方式の蒸着装置における蒸発源にも、本発明は適用可能である。