(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成形アパーチャアレイ基板の複数の開口部全体が含まれる領域に、荷電粒子ビームの照射を受け、前記複数の開口部を前記荷電粒子ビームの一部がそれぞれ通過することにより、マルチビームを形成する工程と、
前記マルチビームのクロスオーバ高さ位置を可変にしながら前記マルチビームの歪を測定する工程と、
前記マルチビームの歪がより小さくなる前記マルチビームのクロスオーバ高さ位置を測定する工程と、
前記クロスオーバ高さ位置に、前記マルチビームのうち、軌道から外れたビームの通過を制限する制限アパーチャ基板の高さ位置を調整する工程と、
を備えたことを特徴とするマルチビーム光学系の調整方法。
前記制限アパーチャ基板に形成される開口部を前記マルチビームの全ビームが通過する状態で、前記マルチビームの歪が測定されることを特徴とする請求項1又は2記載のマルチビーム光学系の調整方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。また、実施の形態では、露光装置の一例として、描画装置を用いた構成について説明する。但し、露光装置は、描画装置に限るものではなく、検査装置等の荷電粒子ビームの試料への照射を行う装置でも構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画機構150と制御部160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202(電磁レンズ)、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、制限アパーチャ基板206、対物レンズ群212、偏向器208、検出器213、アライメントコイル211、及び高さ位置調整機構214が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(照射時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、個別ビーム位置検出機構218、及びXYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0017】
対物レンズ群212は、複数段の対物レンズ215,216(電磁レンズ)を有する。
図1では、例えば、2段の対物レンズ215,216を有する。
【0018】
個別ビーム位置検出機構218は、通過マーク基板220、ブロック222、及び電流検出器224を有する。
【0019】
制御部160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、レンズ制御回路131、レンズ制御回路132、アンプ134、アパーチャ制御回路136、アンプ137、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、レンズ制御回路131、レンズ制御回路132、アンプ134、アパーチャ制御回路136、アンプ137、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び記憶装置140,142は、図示しないバスを介して互いに接続されている。記憶装置140(記憶部)には、描画データが描画装置100の外部から入力され、格納されている。レンズ制御回路131には、照明レンズ202が接続される。レンズ制御回路132には、複数段の対物レンズ215,216が接続される。レンズ制御回路132には、さらに、アライメントコイル211が接続される。偏向制御回路130には、ブランキングアパーチャアレイ機構204が接続される。また、偏向制御回路130には、図示しないDACアンプユニットを介して偏向器208に接続される。アンプ134には、検出器213が接続される。アパーチャ制御回路136には、高さ位置調整機構214が接続される。アンプ137には、電流検出器224が接続される。ステージ制御機構138は、XYステージ105の駆動を制御する。ステージ位置測定器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0020】
制御計算機110内には、ショットデータ生成部50、測定部52、測定部53、歪量演算部54、判定部56、抽出部58、設定部60、設定部62、測定部64、抽出部66、設定部68、及び描画制御部70が配置される。ショットデータ生成部50、測定部52、測定部53、歪量演算部54、判定部56、抽出部58、設定部60、設定部62、測定部64、抽出部66、設定部68、及び描画制御部70といった各「〜部」は、処理回路を有し、その処理回路として、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等を用いることができる。また、各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ショットデータ生成部50、測定部52、測定部53、歪量演算部54、判定部56、抽出部58、設定部60、設定部62、測定部64、抽出部66、設定部68、及び描画制御部70に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度メモリ112に記憶される。
【0021】
複数の図形パターンが定義される描画データが描画装置100の外部から入力され、記憶装置140に格納されている。
【0022】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0023】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、縦横(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、縦横(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0024】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、
図3と
図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド43の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、
図3に示すように、支持台33上にシリコン等からなる半導体基板31が配置される。基板31の中央部は、例えば裏面側から薄く削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域30(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域30を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域32(第2の領域)となる。メンブレン領域30の上面と外周領域32の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に高さ位置になるように形成される。基板31は、外周領域32の裏面で支持台33上に保持される。支持台33の中央部は開口しており、メンブレン領域30の位置は、支持台33の開口した領域に位置している。
【0025】
メンブレン領域30には、
図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(第2の開口部)が開口される。言い換えれば、基板31のメンブレン領域30には、電子線を用いたマルチビームのそれぞれ対応するビームが通過する複数の通過孔25がアレイ状に形成される。そして、基板31のメンブレン領域30上であって、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向するように基板31上に複数の電極群がそれぞれ配置される。具体的には、メンブレン領域30上に、
図3及び
図4に示すように、各通過孔25の近傍位置に該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、基板31内部であってメンブレン領域30上の各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
【0026】
また、
図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば10ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、制御信号用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号線および電源用の配線等が接続される。クロック信号線および電源用の配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極24と対向電極26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、
図3の例では、制御電極24と対向電極26と制御回路41とが基板31の膜厚が薄いメンブレン領域30に配置される。但し、これに限るものではない。また、メンブレン領域30にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列によってグループ化され、グループ内の制御回路41群は、
図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド43からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。具体的には、各制御回路41内に、図示しないシフトレジストが配置され、例えば、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの制御信号がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0027】
制御回路41内には、図示しないアンプ(スイッチング回路の一例)が配置される。アンプの一例として、CMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。そして、CMOSインバータ回路は正の電位(Vdd:ブランキング電位:第1の電位)(例えば、5V)(第1の電位)とグランド電位(GND:第2の電位)に接続される。CMOSインバータ回路の出力線(OUT)は制御電極24に接続される。一方、対向電極26は、グランド電位が印加される。
【0028】
CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビーム20を偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。
【0029】
各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立に対となる2つの制御電極24と対向電極26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。具体的には、制御電極24と対向電極26の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるCMOSインバータ回路によって切り替えられる電位によってマルチビームの対応ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、ブランキングアパーチャアレイ機構204は、複数の電極群を用いて、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームの各ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。
【0030】
図5は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図5に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショット(後述する照射ステップの合計)では、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0031】
図6は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図6において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビームのビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象画素36(単位照射領域、或いは描画位置)となる。描画対象画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/n(nは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。
図6の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図6の例では、8×8列のマルチビームの場合を示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチがマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図6の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのグリッド29を構成する。
図6の例では、各グリッド29は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0032】
図7は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
図7の例では、
図6で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するグリッドの一部を示している。
図7の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。
図7の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0033】
具体的には、ステージ位置測定器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部70がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、図示しないDACアンプでデジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
【0034】
そして、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの画素36に対応する描画時間(照射時間、或いは露光時間)、各画素36にマルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。
【0035】
図7の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=0からt=最大描画時間Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば最下段右から1番目の画素に1ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=0からt=Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0036】
当該ショットのビーム照射開始から当該ショットの最大描画時間Ttrが経過後、偏向器208によってトラッキング制御のためのビーム偏向を継続しながら、トラッキング制御のためのビーム偏向とは別に、偏向器208によってマルチビーム20を一括して偏向することによって各ビームの描画位置(前回の描画位置)を次の各ビームの描画位置(今回の描画位置)にシフトする。
図7の例では、時刻t=Ttrになった時点で、注目グリッド29の最下段右から1番目の画素から下から2段目かつ右から1番目の画素へと描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は定速移動しているのでトラッキング動作は継続している。
【0037】
そして、トラッキング制御を継続しながら、シフトされた各ビームの描画位置に当該ショットの最大描画時間Ttr内のそれぞれ対応する描画時間、マルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。
図7の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から2段目かつ右から1番目の画素に2ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0038】
図7の例では、時刻t=2Ttrになった時点で、注目グリッド29の下から2段目かつ右から1番目の画素から下から3段目かつ右から1番目の画素へと偏向器208によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から3段目かつ右から1番目の画素に3ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。時刻t=3Ttrになった時点で、注目グリッド29の下から3段目かつ右から1番目の画素から下から4段目かつ右から1番目の画素へと偏向器208によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間に注目グリッド29の例えば下から4段目かつ右から1番目の画素に4ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。以上により、注目グリッド29の右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0039】
図7の例では初回位置から3回シフトされた後の各ビームの描画位置にそれぞれ対応するビームを照射した後、トラッキング制御用のビーム偏向をリセットすることによって、トラッキング位置をトラッキング制御が開始されたトラッキング開始位置に戻す。言い換えれば、トラッキング位置をステージ移動方向と逆方向に戻す。
図7の例では、時刻t=4Ttrになった時点で、注目グリッド29のトランキングを解除して、x方向に8ビームピッチ分ずれた注目グリッドにビームを振り戻す。なお、
図7の例では、座標(1,3)のビーム(1)について説明したが、その他の座標のビームについてもそれぞれの対応するグリッドに対して同様に描画が行われる。すなわち、座標(n,m)のビームは、t=4Ttrの時点で対応するグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。例えば、座標(2,3)のビーム(2)は、
図7のビーム(1)用の注目グリッド29の−x方向に隣り合うグリッドに対して右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0040】
なお、各グリッドの右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器208は、各グリッドの下から1段目かつ右から2番目の画素にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
【0041】
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器208によって1画素ずつシフトさせながら各ショットを行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、
図5の下段に示すように、例えば1画素ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器208によって1画素ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、照射領域34a〜34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。
【0042】
なお、上述した例では、偏向器208でトラッキング偏向とシフト偏向の両方を行う場合を示したがこれに限るものではない。複数の偏向器、例えば、2つの偏向器でトラッキング偏向とシフト偏向とを分けて制御しても好適である。次に、描画機構150の具体的な動作について説明する。
【0043】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202により屈折させられ成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴22(第1の開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。このように、成形アパーチャアレイ基板203は、マルチビーム20を形成する。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(制御電極24と対向電極26の組)(第1の偏向器:個別ブランキング機構47)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、少なくとも個別に通過する電子ビーム20を設定された描画時間(照射時間)ビームがON状態になるようにブランキング制御する。
【0044】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20a〜eは、照明レンズ202による屈折により、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。そして、マルチビーム20a〜eは、制限アパーチャ基板206の中心の穴(第3の開口部)の高さ位置でクロスオーバ(C.O.)を形成する。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビーム20(
図1の点線で示すビーム20a)は、制限アパーチャ基板206(ブランキングアパーチャ部材)の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。このように、制限アパーチャ基板206は、個別ブランキング機構47によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20の各ビームは、レンズ制御回路132によってそれぞれ励磁された対物レンズ群212により、成形アパーチャアレイ基板203の穴22の所望の縮小倍率のアパーチャ像となり、試料101上に焦点が合わされる。そして、偏向器208によって、制限アパーチャ基板206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0045】
ここで、描画装置100では、
図1に示すように、成形されたマルチビーム20が照明レンズ202によって一旦集束し、クロスオーバ(C.O.1)を形成する。そして、クロスオーバ(C.O.1)後に拡散したマルチビーム20を対物レンズ群212によって再度集束し、クロスオーバ(C.O.2)を形成した後、所望の縮小倍率の像となって試料101面上へと結像される。実施の形態1では、クロスオーバ(C.O.1)位置に、余分な電子の通過を制限する制限アパーチャ基板206を配置する。対物レンズ群212により試料101面上にマルチビーム20を実際に結像すると、対物レンズ群212の製造誤差等の影響により、試料101面上にマルチビーム20の像の焦点位置が合った状態では、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)位置が、設計位置からずれてしまう場合があり得る。かかる場合に、上流側の照明レンズ202によりクロスオーバ(C.O.1)位置を設計位置に合わせ込むと、試料101面上に結像される像の歪が大きくなってしまう。特に、マルチビーム描画では、シングルビーム描画に比べて試料101面上に形成される像のサイズが格段に大きいので、歪が大きくなってしまうと、その影響をシングルビーム描画の場合に比べて大きく受けてしまう。
【0046】
一方、クロスオーバ(C.O.1)位置が設計位置からずれると、設計位置に配置されている制限アパーチャ基板206面上でのマルチビーム20全体でのビームサイズが大きくなる。そのため、そのままでは、マルチビーム20の一部が制限アパーチャ基板206の開口部を通過できず、ビーム損失が生じてしまう。逆に、制限アパーチャ基板206の開口部の開口径を大きくすると、ビーム損失は回避できるが、本来、通過を制限するべきであった余分な電子も通過してしまう。かかる余分な電子(漏れビーム)により、試料101面上に結像する像のコントラストが低下してしまう。さらに、制限アパーチャ基板206でブランキング制御を行う場合、個別ブランキング機構47によるブランキング偏向量を大きくしないとビームOFFができず、ブランキング制御が困難になってしまう。そこで、実施の形態1では、実際に、対物レンズ群212により、試料101面上にマルチビーム20の像の焦点位置が合った状態でのクロスオーバ(C.O.1)位置に、後から制限アパーチャ基板206の位置を合わせ込む。以下、具体的に説明する。
【0047】
図8は、実施の形態1におけるマルチビーム光学系の調整方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図8において、実施の形態1におけるマルチビーム光学系の調整方法は、照明レンズの初期設定工程(S102)と、焦点合わせ工程(S104)と、アパーチャ粗調整工程(S106)と、ビーム位置測定工程(S108)と、歪量演算工程(S110)と、判定工程(S112)と、照明レンズ値変更工程(S114)と、最小歪のレンズ値選択工程(S116)と、照明レンズ設定工程(S118)と、アパーチャ高さ設定工程(S120)と、マルチビーム径測定工程(S122)と、最小ビーム径アパーチャ高さ選択工程(S124)と、アパーチャ設置(調整)工程(S126)と、いう一連の工程を実施する。アパーチャ高さ設定工程(S120)と、マルチビーム径測定工程(S122)と、最小ビーム径アパーチャ高さ選択工程(S124)とは、クロスオーバ位置測定工程(S119)を構成する。
【0048】
照明レンズの初期設定工程(S102)として、レンズ制御回路131は、電子ビーム200を成形アパーチャアレイ基板203に照明する照明レンズ202の設定値を設定する。ここでは、まず、照明レンズ202を励磁する設計上のレンズ値となる初期値を設定する。
【0049】
焦点合わせ工程(S104)として、レンズ制御回路132は、2段の対物レンズ215,216を使って、マルチビーム20の焦点を試料面101上に合わせる。実施の形態1では、2段の対物レンズ215,216によって、マルチビーム20の縮小と結像を行う。実施の形態1では、複数段の対物レンズ215,216を用いることで高倍率の縮小光学系を構成する。例えば、総縮小倍率を200〜300倍に設定する。対物レンズ215がマルチビームの縮小を担当する上流側の電磁レンズに相当する。そして、最終段の対物レンズ216がマルチビームの縮小を担当する下流側の電磁レンズに相当する。
【0050】
図9は、実施の形態1におけるマルチビームの外径軌道の一例とマルチビームの中心ビームのアパーチャ像の結像軌道の一例とを示す図である。
図9(a)では、縦軸に結像軌道の光軸からの水平方向(例えばx方向)の位置(a.u)を示す。横軸に試料面101からの高さ方向(z方向)の位置(a.u)を示す。横軸の左端が成形アパーチャアレイ基板203裏面の高さ位置を示し、右端が試料101上面の高さ位置を示す。
図9(a)では、マルチビーム20の外径軌道(A)(軸外軌道)と、マルチビームの中心ビームのアパーチャ像の結像軌道(B)(軸上軌道)とが示されている。
図9(b)にマルチビーム20の外径軌道A(軸外軌道)の拡大図が示される。
図9(a)に示すように、マルチビームの中心ビームのアパーチャ像の結像軌道B(軸上軌道)は、成形アパーチャアレイ基板203裏面(物面)から広がり、対物レンズ215によって結像された後、広がった軌道を対物レンズ216によって試料101面上に結像する。その際、マルチビーム20の外径軌道A(軸外軌道)は、
図9(a)及び
図9(b)に示すように、成形アパーチャアレイ基板203の上流側から照明レンズ202によって光軸側に屈折させられ集束し、クロスオーバ(C.O.1)を形成した後、対物レンズ215,216によって光軸側に屈折させられ集束し、クロスオーバ(C.O.2)を形成し、試料101面へと到達する。
【0051】
図10は、実施の形態1におけるクロスオーバ位置と歪量との関係の一例を示す図である。
図10において、横軸にクロスオーバ(C.O.1)高さ位置を示し、縦軸右側に、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置に対応する歪量、縦軸左側に、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置に対応するクロスオーバ(C.O.2)高さ位置を示す。横軸は、右側に進むほど試料面に近づく場合を示す。縦軸左側は、上方に進むほど試料面から離れる場合を示す。縦軸右側は、上方に進むほど歪量が大きくなる場合を示す。
図10に示すように、試料面上に形成されるマルチビーム20の像の歪量(C)は、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置の最適高さ位置において最小値を示し、最適高さ位置の前後で大きくなることがわかる。また、クロスオーバ(C.O.2)高さ位置(D)は、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置が試料面に近づくほど、試料面から離れることがわかる。歪量を許容値内に抑えるためには、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置の範囲も制限されることになる。よって、クロスオーバ(C.O.1)高さの設計値が
図10に示す許容範囲からはずれた場合、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置を設計値に合わせ込むと歪量が許容範囲から外れてしまう。よって、クロスオーバ(C.O.1)高さ位置を設計値に合わせ込むのではなく、逆に制限アパーチャ基板206の高さ位置をクロスオーバ(C.O.1)高さ位置に応じて調整することが望ましいことがわかる。
【0052】
アパーチャ粗調整工程(S106)として、アパーチャ制御回路136は、高さ位置調整機構214を駆動して、制限アパーチャ基板206の高さ位置を粗調整する。具体的には、マルチビーム20の全ビームが制限アパーチャ基板206の開口部を通過する高さ位置に粗調整する。マルチビーム20の全ビームが制限アパーチャ基板206の開口部を通過するかどうかは、次のようにして判断すればよい。具体的には、レンズ制御回路132は、アライメントコイル211を励磁して、マルチビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206上を走査する。そして、検出器213が、マルチビーム20が制限アパーチャ基板206に照射されたことに起因して放出される、反射電子を含む2次電子を検出する。検出器213によって検出されたデータは、アンプ134に出力され、アナログデータからデジタルデータに変換された上で増幅されて制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、測定部52がかかる2次電子の検出データを受信して、マルチビーム20の像を測定する。ここでは、測定されたマルチビーム20の像のサイズが制限アパーチャ基板206の開口部のサイズよりも小さいかどうかを判断すればよい。ここでアパーチャ基板206位置では、マルチビーム20の像は理想的には一つの円状となるが、個々のビーム像が分離したものの集合体となることもある。個々のビーム像が分離している場合には、最外周を含む円の大きさをマルチビーム20の像のサイズとすれば良い。そして、アパーチャ制御回路136は、高さ位置調整機構214を駆動して、マルチビーム20の像のサイズが制限アパーチャ基板206の開口部のサイズよりも小さくなる制限アパーチャ基板206の高さ位置に、制限アパーチャ基板206の高さ位置を粗調整する。或いは、アライメントコイル211を使用せずに、検出器213が、マルチビーム20が制限アパーチャ基板206に照射されたことに起因して放出される、反射電子を含む2次電子を検出してもよい。そして、アパーチャ制御回路136は、高さ位置調整機構214を駆動して、2次電子を検出しない制限アパーチャ基板206の高さ位置に、制限アパーチャ基板206の高さ位置を粗調整してもよい。高さ位置調整機構214の構成については後述する。
【0053】
ビーム位置測定工程(S108)として、個別ビーム位置検出機構218は、マルチビーム20の全ビームが制限アパーチャ基板206の開口部を通過する状態で、マルチビーム20の各ビームの位置を測定する。
【0054】
図11は、実施の形態1における個別ビーム位置を検出する手法を説明するための図である。
図11(a)に示すように、成形アパーチャアレイ基板203には、マルチビーム20を形成するための複数の穴22が、x,y方向に所定のピッチ(Px,Py)で形成される。そして、対物レンズ群212によって所望の縮小倍率で縮小されることで、試料101面上は、各ビームがx,y方向にピッチ(Px’,Py’)で形成されることになる。そこで、
図11(b)に示すように、通過マーク基板220に形成される孔のサイズφ1を各ビームのピッチPx’(及びPy’)より小さくすることで、測定対象のビーム20iに隣接するビーム20jを遮蔽して通過を回避でき、ビームを1本ずつ通過させることができる。より望ましくは、ビームの裾野部分のブラー寸法をさらに差し引いたサイズにすると良い。そして、通過マーク基板220の上面の高さ位置が、試料101上面と同じ高さ位置になるようにブロック222で調整する。通過マーク基板220に形成される孔の下側に位置するブロック222の領域は空洞に形成され、通過マーク基板220の孔を通過した測定対象のビーム20iは、電流検出器224に入射する。そして、電流検出器224は、入射されたビームiの電流値を測定する。電流検出器224で検出されたデータは、アンプ137に出力され、アナログデータからデジタルデータに変換の上、増幅されて制御計算機110に出力される。制御計算機110内では測定部53に出力される。かかる通過マーク基板220上をマルチビーム20で走査する。マルチビーム20の走査は、偏向器208でマルチビーム20を一括偏向することで行うことができる。これにより、測定部53は、各ビーム位置に沿って検出された電流値データを受信する。そして、電流値データの強度のピーク位置を当該ビームの位置として検出することができる。
【0055】
歪量演算工程(S110)として、歪量演算部54は、制限アパーチャ基板206に形成される開口部をマルチビーム20の全ビームが通過する状態で、マルチビーム20の歪を測定する。具体的には、歪量演算部54は、各ビーム位置を入力し、得られた各ビームの照射位置により形成される像の形状からx,y方法の歪量を演算する。演算された歪量は、記憶装置142に格納される。
【0056】
判定工程(S112)として、判定部56は、照明レンズ202を励磁する予め設定された範囲での複数の設定値(レンズ値)のすべてが設定されたかどうを判定する。設定値(レンズ値)の振り幅(範囲)は経験的に必要と判断される幅を予め設定しておけばよい。例えば、照明レンズ202を励磁する設計上のレンズ値を中心に前後に所定の幅で設定すればよい。まだ複数の設定値(レンズ値)のすべてが設定されていない場合には、照明レンズ値変更工程(S114)に進む。複数の設定値(レンズ値)のすべてが設定された場合には、最小歪のレンズ値選択工程(S116)に進む。
【0057】
照明レンズ値変更工程(S114)として、レンズ制御回路131は、電子ビーム200を成形アパーチャアレイ基板203に照明する照明レンズ202の設定値を設定する。ここでは、照明レンズ202を励磁する予め設定された範囲での複数の設定値(レンズ値)のうち、まだ設定されていない値に変更する。これにより、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置が変更される。
【0058】
そして、アパーチャ粗調整工程(S106)に戻り、判定工程(S112)において複数の設定値(レンズ値)のすべてが設定されたと判定されるまで、アパーチャ粗調整工程(S106)から照明レンズ値変更工程(S114)までの各工程を繰り返す。
【0059】
以上のように、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置は、照明レンズ202の設定値により可変に調整される。そして、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置を可変にしながらマルチビーム20の歪を測定する。
【0060】
最小歪のレンズ値抽出工程(S116)として、抽出部58は、得られた照明レンズ202の各設定値に対応するマルチビーム20の歪量の中から、マルチビーム20の歪がより小さくなる照明レンズ202の設定値(レンズ値)を抽出(選択)する。
【0061】
照明レンズ設定工程(S118)として、設定部60は、抽出された設定値(レンズ値)を設定するようにレンズ制御回路131に制御信号を出力する。レンズ制御回路131は、照明レンズ202の設定値として、設定部60から出力された設定値(レンズ値)を設定する。
【0062】
クロスオーバ高さ位置測定工程(S119)として、マルチビーム20の歪がより小さくなるマルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置を測定する。具体的には、以下のように動作する。
【0063】
アパーチャ高さ設定工程(S120)として、設定部62は、設定された照明レンズ202のレンズ値で粗調整された際のアパーチャ高さをアパーチャ制御回路136に出力する。そして、アパーチャ制御回路136は、高さ位置調整機構214を駆動して、制限アパーチャ基板206の高さ位置を設定する。まずは、アパーチャ粗調整工程(S106)において当該照明レンズ202のレンズ値で粗調整された際のアパーチャ高さにすることにより、制限アパーチャ基板206を、とりあえずマルチビーム20全体が制限アパーチャ基板206の開口部を通過する高さ位置に設置できる。
【0064】
図12は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の一例を示す構成図である。
図12において、高さ位置調整機構214では、制限アパーチャ基板206の外径端を駆動筒230で支持する。そして、駆動筒230を外側から支持板232で支持する。支持板232は、駆動筒230が光軸方向に移動可能なサイズの開口部が形成された支持台238上にピエゾ素子234を挟んで支持される。また、支持板232と支持台238との間はバネ236を介して接続され、バネ236の弾性力により支持板232と支持台238との間のサイズがピエゾ素子234のサイズに制限される。アパーチャ制御回路136は、ピエゾ素子234に制御電圧を印加して、ピエゾ素子234の伸縮に応じて駆動筒230を駆動し、制限アパーチャ基板206の高さ位置を制御する。マルチビーム20は、制限アパーチャ基板206の中央部に開口した開口部152を通過する。また、制限アパーチャ基板206は、マルチビーム20のうち、軌道から外れたビームの通過を制限する。
【0065】
マルチビーム径測定工程(S122)として、測定部64は、マルチビーム20のビーム径を測定する。具体的には、レンズ制御回路132は、アライメントコイル211を励磁して、マルチビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206上を走査する。そして、検出器213が、マルチビーム20が制限アパーチャ基板206に照射されたことに起因して放出される、反射電子を含む2次電子を検出する。検出器213によって検出されたデータは、アンプ134に出力され、アナログデータからデジタルデータに変換された上で増幅されて制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、測定部64がかかる2次電子の検出データを受信して、マルチビーム20の像のビームサイズを測定する。
【0066】
そして、制限アパーチャ基板206の高さ位置を少しずつ変更しながら、かかるアパーチャ高さ設定工程(S120)とマルチビーム径測定工程(S122)とを繰り返す。これにより、制限アパーチャ基板206の高さ位置を少しずつ可変に変更した際の各高さ位置におけるマルチビーム20のビーム径を測定する。測定されたマルチビーム20のビーム径の情報は、記憶装置142に格納される。
【0067】
最小ビーム径アパーチャ高さ選択工程(S124)として、抽出部66は、測定された各高さ位置におけるマルチビーム20のビーム径の中から最小ビーム径となる制限アパーチャ基板206の高さ位置を抽出する。最小ビーム径となる制限アパーチャ基板206の高さ位置がマルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置となる。以上のように、アライメントコイル211、検出器213、アンプ134、測定部64、及び抽出部66等は、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置を測定する測定機構を構成する。
【0068】
アパーチャ設置(調整)工程(S126)として、設定部68は、抽出された制限アパーチャ基板206の高さ位置をアパーチャ制御回路136に出力する。そして、アパーチャ制御回路136は、高さ位置調整機構214を駆動して、制限アパーチャ基板206の高さ位置を最小ビーム径となる位置に設定する。言い換えれば、高さ位置調整機構214は、クロスオーバ高さ位置に、マルチビーム20のうち、軌道から外れたビームの通過を制限する制限アパーチャ基板206の高さ位置を調整する。
【0069】
図13は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図13(a)に示すように、高さ位置調整機構214は、駆動板242,248とローラ244a,244bの組とローラ246a,246bの組とを有する。
図13(a)の例では、高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dを横につなげた機構を用いる。複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの両側には、駆動板242,248が接続される。そして、ローラ244a,244bの組の間に駆動板242が挟まれことにより支持される。また、ローラ246a,246bの組の間に駆動板248が挟まれことにより支持される。そして、ローラ244a,244bの組とローラ246a,246bの組との一方を互いに逆方向に回転駆動させることにより、駆動板242,248をx方向(或いはy方向)に移動させることができる。高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dは横につながれているので、
図13(a)から
図13(d)に示すように、駆動板242,248をx方向(或いはy方向)に移動させることで、複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの中から任意の高さを持つ1つをマルチビーム20が通過する光軸上に配置できる。
【0070】
図14は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図14に示す高さ位置調整機構214の例は、
図13の例の変形例である。複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dを横につなげた機構のx方向(或いはy方向)のスペースが狭い場合には、駆動板251,253とローラ254a,254bの組とローラ256a,256bの組の配置高さをずらしてもよい。
図14の例では、駆動板251,253とローラ254a,254bの組とローラ256a,256bの組の配置高さを複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dを横につなげた機構から上方にずらした場合を示している。複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの両側には、補助板252,258が接続される。そして、駆動板251と補助板252との間は、支持棒255により接続される。駆動板253と補助板258との間は、支持棒257により接続される。そして、ローラ254a,254bの組の間に駆動板251が挟まれことにより支持される。また、ローラ256a,256bの組の間に駆動板253が挟まれことにより支持される。そして、ローラ254a,254bの組とローラ256a,256bの組との一方を互いに逆方向に回転駆動させることにより、駆動板251,253をx方向(或いはy方向)に移動させることができる。高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dは横につながれているので、
図14に示すように、駆動板251,253をx方向(或いはy方向)に移動させることで、複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの中から任意の高さを持つ1つをマルチビーム20が通過する光軸上に配置できる。
【0071】
図15は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図15に示す高さ位置調整機構214の例は、
図12の例の変形例である。
図15の例では、支持板232とピエゾ素子234とバネ236との代わりに、ローラ235a,235bの組によって駆動筒230を挟む。そして、ローラ235a,235bの組を互いに逆方向に回転させることで、駆動筒230をz方向(高さ方向)に駆動し、制限アパーチャ基板206の高さ位置を任意の高さに制御する。
【0072】
上述した例では、制限アパーチャ基板206の高さ位置を調整するにとどまる場合を示したがこれに限るものではない。
【0073】
図16は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図16に示す高さ位置調整機構214の例は、上述した
図12或いは
図15の構成に、さらに、水平駆動機構を配置する。
図16に示す高さ位置調整機構214の例では、支持台238をx方向にピストン262と補助棒268で挟む。補助棒268は、バネ264で筐体(例えば電子鏡筒102内壁)と接続される。同様に、支持台238をy方向にピストン263と補助棒269で挟む。補助棒269は、バネ265で筐体(例えば電子鏡筒102内壁)と接続される。そして、図示しないステッピングモータ等でピストン262をx方向に駆動し、支持台238をx方向に押すことで制限アパーチャ基板206の開口部152のx方向位置を移動させることができる。同様に、ピストン262を−x方向に駆動すれば、支持台238をバネ264が−x方向に押すことで制限アパーチャ基板206の開口部152の−x方向位置を移動させることができる。同様に、図示しないステッピングモータ等でピストン263をy方向に駆動し、支持台238をy方向に押すことで制限アパーチャ基板206の開口部152のy方向位置を移動させることができる。同様に、ピストン263を−y方向に駆動すれば、支持台238をバネ265が−y方向に押すことで制限アパーチャ基板206の開口部152の−y方向位置を移動させることができる。また、バネ264の弾性力で補助棒268が支持台238を−x方向に押し戻しているので、ピストン262と補助棒268とにより支持台238のx方向の移動を常に拘束している。よって、ピストン262の駆動位置によって制限アパーチャ基板206の開口部152のx方向位置を高精度に制御できる。同様に、バネ265の弾性力で補助棒269が支持台238を−y方向に押し戻しているので、ピストン263と補助棒269とにより支持台238のy方向の移動を常に拘束している。よって、ピストン263の駆動位置によって制限アパーチャ基板206の開口部152のy方向位置を高精度に制御できる。
【0074】
図17は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図17に示す高さ位置調整機構214の例は、上述した
図13の例の変形例である。
図17の例では、さらに、水平駆動機構を配置する。
図17では、上方から見た構成を示している。
図13の例と同様、高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dを横につなげた機構を用いる。かかる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dを横につなげた状態で、駆動板272上に配置する。駆動板272には、複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの各開口部152a,152b,152c,152dの位置に合わせて各開口部152a,152b,152c,152dよりも広く開口する貫通穴が形成されていることは言うまでもない。そして、駆動板272の左端側は、ローラ271a,271bの組の間に挟まれことにより支持される。駆動板272の右端側は、ローラ273a,273bの組の間に挟まれことにより支持される。そして、ローラ271a,271bの組とローラ273a,273bの組との一方を互いに逆方向に回転駆動させることにより、駆動板272をx方向に移動させることができる。高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dは横(x方向)につながれているので、複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dの中から任意の高さを持つ1つをマルチビーム20が通過する光軸上に配置できる。さらに、駆動板272をy方向にピストン274と補助棒277で挟む。補助棒277は、バネ276で筐体(例えば電子鏡筒102内壁)と接続される。そして、図示しないステッピングモータ等でピストン274をy方向に駆動し、駆動板272をy方向に押すことで制限アパーチャ基板206の開口部152のy方向位置を移動させることができる。
【0075】
図18は、実施の形態1における高さ位置調整機構の構成の他の一例を示す構成図である。
図18に示す高さ位置調整機構214の例は、上述した
図14の例の変形例である。
図18の例では、高さ位置の異なる複数の制限アパーチャ基板206a,206b,206c,206dに、それぞれ、複数の開口部152を形成する。
図18の例では、制限アパーチャ基板206aにx方向に並ぶ3つの開口部152aを形成する。同様に、制限アパーチャ基板206bにx方向に並ぶ3つの開口部152bを形成する。同様に、制限アパーチャ基板206cにx方向に並ぶ3つの開口部152cを形成する。同様に、制限アパーチャ基板206dにx方向に並ぶ3つの開口部152dを形成する。同じ高さの開口部152を複数設けることで、コンタミ等の付着により開口部152の1つが目詰まりを起こした場合でも、同様の高さの他の開口部152を使用できる。
また、開口寸法の異なる開口部を用意することにより、クロスオーバ寸法が異なる場合にも適切なアパーチャを選ぶことが出来る様にすることも出来る。
【0076】
図19は、実施の形態1における高さ位置調整機構に反射電子吸収機構を配置した構成の一例を示す構成図である。
図19では、
図15に示す高さ位置調整機構214の上方に反射電子吸収機構310を配置した場合を示す。但し、これに限るものではない。上述した高さ位置調整機構214の他の例の上方に配置しても構わない。
【0077】
反射電子吸収機構310は、筒状吸収体312と複数の静翼314とを有する。筒状吸収体312は、例えば、所定の肉厚を持った円形の筒状に形成される。また、筒状吸収体312は、内壁面側に、中心方向やや上側に向かって延びる複数の静翼314を有する。
図19の例では、例えば、2段階の静翼314が高さ位置をずらして配置される場合を示している。各静翼218は、制限アパーチャ基板206に形成される開口部152中心を向くように角度調整されると好適である。かかる角度調整により、散乱電子及びx線を効率良く取り込むことができる。また、各段の静翼314は、周方向につながった円錐台状に形成されても良いし、複数の翼が周方向に沿って並んで配置されても好適である。
【0078】
筒状吸収体312と複数の静翼314は、原子番号が13番(アルミニウム:Al)以下の原子(低Z材料)を材料とする。アルミニウム(Al)の他、例えば、炭素(C)等を用いると好適である。また、筒状吸収体312と複数の静翼314は、帯電しないように導電性の材料が用いられる。低Z材料を用いることで、散乱電子が衝突した場合に、衝突点からさらに散乱電子及びx線が発生することを低減できる。また、筒状吸収体312の内壁面に衝突した散乱電子は、反射しても、反射軌道上に位置する静翼314によって軌道が干渉され、エネルギーを消費させられる。よって、電子鏡筒102中心領域(マルチビーム20の通過領域)へと戻りにくくできる。このように反射電子吸収機構310は、散乱電子を捕集(トラップ)することによって散乱電子を吸収する。反射電子吸収機構310により、反射電子がブランキングアパーチャアレイ機構204に到達することを防止できる。なお、反射電子吸収機構310を反射電子電流検出器として用いても好適である。
【0079】
以上のように、実施の形態1によれば、光学系の製造誤差等によりクロスオーバ(C.O.1)高さ位置が設計位置からずれた場合でも、マルチビーム20のクロスオーバ(C.O.1)高さ位置に制限アパーチャ基板206を可変に調整できる。そのため、マルチビーム20の結像歪みを抑制しながら余分な電子の通過を制限できる。その結果、高精度な描画(露光)ができる。
【0080】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0081】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0082】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチビーム光学系の調整方法及びマルチビーム露光装置は、本発明の範囲に包含される。