【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0054】
[比較例1]
タンディッシュ炉中で、電解鉄(純度:99.95質量%以上)28.2kgとシリコンメタル(純度:99質量%以上)1.1kgとフェロクロム(Fe33wt%、Cr67wt%)0.67kgとを窒素雰囲気下において加熱溶解した溶湯を、窒素雰囲気下(酸素濃度0.001ppm以下)においてタンディッシュ炉の底部から落下させながら、水圧150MPa、水量160L/分で高圧水(pH10.3)を吹き付けて急冷凝固させ、得られたスラリーを固液分離し、固形物を水洗し、真空中、40℃、30時間の条件で乾燥した。
【0055】
このようにして得られた略球状のFeSiCr合金粉末1について、組成(Fe、Si、Crの含有量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗R及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0056】
[組成]
FeSiCr合金粉末1の組成の測定は、以下の通り行った。
Feは、滴定法により、JIS M8263(クロム鉱石−鉄定量方法)に準拠して、以下のように分析を行った。まず、試料(FeSiCr合金粉末1)0.1gに硫酸と塩酸を加えて加熱分解し、硫酸の白煙が発生するまで加熱した。放冷後、水と塩酸を加えて加温して可溶性塩類を溶解させた。そして、得られた試料溶液に温水を加えて液量を120〜130mL程度にし、液温を90〜95℃程度にしてからインジゴカルミン溶液を数滴加え、塩化チタン(III)溶液を試料溶液の色が黄緑から青、次いで無色透明になるまで加えた。引き続き試料溶液が青色の状態を5秒間保持するまで二クロム酸カリウム溶液を加えた。この試料溶液中の鉄(II)を、自動滴定装置を用いて二クロム酸カリウム標準溶液で滴定し、Fe量を求めた。
【0057】
Siは、重量法により、以下のように分析を行った。まず、試料(FeSiCr合金粉末1)に塩酸と過塩素酸を加えて加熱分解し、過塩素酸の白煙が発生するまで加熱した。引き続き加熱して乾固させた。放冷後、水と塩酸を加えて加温して可溶性塩類を溶解させた。続いて、不溶解残渣を、ろ紙を用いてろ過し、残渣をろ紙ごとるつぼに移し、乾燥、灰化させた。放冷後、るつぼごと秤量した。少量の硫酸とフッ化水素酸を加え、加熱して乾固させた後、強熱した。放冷後、るつぼごと秤量した。そして、1回目の秤量値から2回目の秤量値を差し引き、重量差をSiO
2として計算してSi量を求めた。
【0058】
Crは、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製のSPS3520V)を用いて、分析を行った。
【0059】
酸素含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(株式会社堀場製作所製のEMGA−920)により測定した。
【0060】
[粒度分布]
粒度分布については、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで体積基準の粒度分布を求めた。
【0061】
[BET比表面積]
BET比表面積は、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製のMacsorb)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N
2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。
【0062】
[タップ密度]
タップ密度(TAP)は、特開2007−263860号公報に記載された方法と同様に、FeSiCr合金粉末1を内径6mm×高さ11.9mmの有底円筒形のダイに容積の80%まで充填して合金粉末層を形成し、この合金粉末層の上面に0.160N/m
2の圧力を均一に加え、この圧力で合金粉末がこれ以上密に充填されなくなるまで前記合金粉末層を圧縮した後、合金粉末層の高さを測定し、この合金粉末層の高さの測定値と、充填された合金粉末の重量とから、合金粉末の密度を求め、これをFeSiCr合金粉末1のタップ密度とした。
【0063】
[圧粉体抵抗R]
圧粉体抵抗Rは、以下のようにして測定した。6.0gのFeSiCr合金粉末1を粉体抵抗測定システム(三菱化学アナリテック株式会社製のMCP−PD51型)の測定容器内に詰めた後に加圧を開始して、20kNの荷重がかかった時点の横断面がφ20mmの円形形状の圧粉体の体積抵抗率を測定した。
【0064】
[磁気特性(透磁率、保持力、及び飽和磁化)の測定]
FeSiCr合金粉末1とビスフェノールF型エポキシ樹脂(株式会社テスク製;一液性エポキシ樹脂B−1106)を97:3の質量割合で秤量し、真空撹拌・脱泡ミキサー(EME社製;V−mini300)を用いてこれらを混練し、供試粉末がエポキシ樹脂中に分散したペーストとした。このペーストをホットプレート上で30℃、2hr乾燥させて合金粉末と樹脂の複合体としたのち、粉末状に解粒して、複合体粉末とした。この複合体粉末0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機により9800N(1Ton)の荷重をかけることにより、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体を得た。この成形体について、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製;E4991A)とテストフィクスチャ(アジレント・テクノロジー社製;16454A)を用い、10MHzにおける複素比透磁率の実数部μ’を測定した。
【0065】
また、高感度型振動試料型磁力計(東英工業株式会社製:VSM−P7−15型)を用い、印加磁界(10kOe)、M測定レンジ(50emu)、ステップビット100bit、時定数0.03sec、ウエイトタイム0.1secでFeSiCr合金粉末1の磁気特性を測定した。B−H曲線により、飽和磁化σs及び保磁力Hcを求めた。なお、処理定数はメーカー指定に従った。具体的には下記の通りである。
【0066】
交点検出:最小二乗法 M平均点数 0 H平均点数 0
Ms Width:8 Mr Width:8 Hc Width:8 SFD Width:8 S.Star Width:8
サンプリング時間(秒):90
2点補正 P1(Oe):1000
2点補正 P2(Oe):4500
【0067】
[X線回折(XRD)測定]
粉末XRDパターンはX線回折装置(株式会社リガク社製、型式RINT−UltimaIII)を用いて測定した。X線源にはコバルトを使用し、加速電圧40kV、電流30mAでX線を発生させた。発散スリット開口角は1/3°、散乱スリット開口角は2/3°、受光スリット幅は0.3mmである。半価幅の正確な測定のため、ステップスキャンにて2θが51.5〜53.5°の範囲を測定間隔0.02°、計数時間5秒、積算回数3回で測定を行った。
得られた回折チャートから粉末X線解析ソフトウェアPDXL2を使用して、面指数(1,1,0)におけるピークを解析し、ピーク位置、d値、半価幅(FWHM)、積分幅、結晶子サイズを求めた。
【0068】
[ESCA分析]
得られたFeSiCr合金粉末1について、ESCAにより表面組成比を測定した。測定は以下の条件で行った。
測定装置:アルバック・ファイ社製PHI5800 ESCA SYSTEM
測定光電子スペクトル:Fe2p、Si2p
分析径:φ0.8mm
試料表面に対する測定光電子の出射角度;45°
X線源:モノクロAl線源
X線源出力:150W
バックグラウンド処理:shirley法
Arスパッタエッチング速度をSiO
2換算にて1nm/minとし、最表面からスパッタ時間0〜300minまで81点の測定を行った。スパッタ時間1minを粒子表面からの深さ1nm、300minを深さ300nmとして、そのときのSiの原子濃度値とFeの原子濃度値を用いて、SiとFeの原子濃度の比(Si/Fe)を求めた。
【0069】
[比較例2]
溶湯調製原料を電解鉄26.9kgとシリコンメタル1.1kgとフェロクロム2.0kgに変更した以外は、比較例1と同様の方法で略球状のFeSiCr合金粉末2を得た。この合金粉末2について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0070】
[実施例1]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで800℃に加温し、800℃で960分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末3を得た。この合金粉末3について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。また、ESCA分析の結果(深さ300nmまでのSiとFeの原子濃度の比)を、比較例1の結果とあわせて
図1に示す。
【0071】
[実施例2]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで500℃に加温し、500℃で960分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末4を得た。この合金粉末4について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0072】
[実施例3]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで800℃に加温し、800℃で20分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末5を得た。この合金粉末5について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0073】
[実施例4]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで700℃に加温し、700℃で60分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末6を得た。この合金粉末6について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0074】
[実施例5]
比較例2で得られたFeSiCr合金粉末2に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで700℃に加温し、700℃で60分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末7を得た。この合金粉末7について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0075】
[比較例3]
比較例2で得られたFeSiCr合金粉末2に対して、棚式乾燥機を使用し、大気雰囲気中、150℃で60分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末8を得た。この合金粉末8について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0076】
[比較例4]
比較例2で得られたFeSiCr合金粉末2に対して、棚式乾燥機を使用し、大気雰囲気中、200℃で60分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末9を得た。この合金粉末9について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0077】
[比較例5]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を100ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで400℃に加温し、400℃で960分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末10を得た。この合金粉末10について、比較例1と同様の方法で、組成、酸素含有量、粒度分布、圧粉抵抗及び磁気特性(圧粉磁心の密度を含む)を求め、さらにX線回折測定を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0078】
[比較例6]
比較例1で得られたFeSiCr合金粉末1に対して、実施例1と同様の炉を使用し、CO/CO
2/N
2雰囲気中(酸素濃度0.1ppm)、昇温速度10℃/minで800℃に加温し、800℃で960分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末11を得た。この合金粉末11について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0079】
[比較例7]
分級条件を変えて粒度を変えた以外は比較例1と同様の方法で略球状のFeSiCr合金粉末12を得た。この合金粉末12について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求めた。結果は下記の表2及び3に示している。
【0080】
[実施例6]
比較例7で得られたFeSiCr合金粉末12に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を800ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで700℃に加温し、700℃で240分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末13を得た。この合金粉末13について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0081】
[比較例8]
分級条件を変えて粒度を変えた以外は比較例1と同様の方法で略球状のFeSiCr合金粉末14を得た。この合金粉末14について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求めた。結果は下記の表2及び3に示している。
【0082】
[実施例7]
比較例8で得られたFeSiCr合金粉末14に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を2000ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで700℃に加温し、700℃で240分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末15を得た。この合金粉末15について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0083】
[比較例9]
分級条件を変えて粒度を変えた以外は比較例1と同様の方法で略球状のFeSiCr合金粉末16を得た。この合金粉末16について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求めた。結果は下記の表2及び3に示している。
【0084】
[実施例8]
比較例9で得られたFeSiCr合金粉末16に対して、実施例1と同様の炉を使用し、酸素を2000ppm含む窒素雰囲気中、昇温速度10℃/minで700℃に加温し、700℃で240分間熱処理を実施してFeSiCr合金粉末17を得た。この合金粉末17について、比較例1と同様の方法で、組成(Fe、Si、Crの量及び酸素含有量)、粒度分布、BET比表面積、タップ密度、圧粉体抵抗及び磁気特性を求め、さらにX線回折(XRD)測定及びESCA分析を行った。結果は下記の表2及び3に示している。
【0085】
以上の実施例1〜8及び比較例1〜9の熱処理条件を下記表1に、これらで得られた合金粉末1〜17の粉体特性を下記表2に、合金粉末1〜17の絶縁特性及び磁気特性を下記表3に示す(表3には参考のため、熱処理条件及び粒子表面から1nmの深さにおけるSiとFeの原子濃度の比(Si/Fe)を再掲する)。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
粒子表面から1nmの深さにおけるSiとFeの原子濃度の比(Si/Fe)について、熱処理前の原料粉末(比較例1及び2)は1以下であり、深さ300nmにおける比(Si/Fe)は0.03程度であった。このように水アトマイズ法で製造されたFeSiCr合金粉末では、熱処理前からSiについて一定程度の粒子表面への局在(偏析)が見られたが、圧粉体抵抗Rは不十分なものであった。
【0090】
この原料粉末(比較例2)に対して大気雰囲気中で200℃以下の熱処理を行うと(比較例3及び4)、1nmの深さにおける原子濃度の比(Si/Fe)にはほとんど変化が認められず、若干酸素含有量及びO×D50(質量%・μm)が上昇した。原料粉末との比較で、圧粉体抵抗Rは若干上昇する程度で電気絶縁性は不十分であり、飽和磁化σsはわずかに悪化した。
【0091】
比較例1の原料粉末に対して本発明規定の微量の酸素が存在する雰囲気中で比較的低温での熱処理を行った場合(比較例5)には、1nmの深さにおける原子濃度の比(Si/Fe)にはほとんど変化が認められなかった。比較例1の原料粉末に対して、高温であるが酸素が実質的に存在しない雰囲気中で熱処理を行った場合(比較例6)には、1nmの深さにおける原子濃度の比(Si/Fe)が一定程度上昇した。しかし、これらのいずれも、原料粉末との比較で飽和磁化σsに変化はなく、電気絶縁性は若干悪化した。
【0092】
一方、比較例1及び2の原料粉末に対して本発明の熱処理方法を実施した場合には(実施例1〜5)、1nmの深さにおける原子濃度の比(Si/Fe)が8.0以上と大きく上昇し、電気絶縁性も2ケタ以上上昇した。一方飽和磁化σsには変化は無く、原料粉末と同等であった。
【0093】
実施例1及び比較例1の軟磁性粉末におけるSiの分布について具体的に説明すると、比較例1の軟磁性粉末は、
図1(a)の破線に示すように、どの深さにおいても原子濃度の比(Si/Fe)が1以下であって大きく変化せず、Siがほぼ一様に存在している。これに対して、実施例1の軟磁性粉末は、実線に示すように、比(Si/Fe)が、粒子内部(粒子表面から深さ30nm以上の深い領域)では0.5以下で大きく変化せずに均一であるが、深さ10nmあたりから表面側に向かって大きくなり、深さ1nmの位置では17.4となるといったように、Siが表面側に局在している。このようにSiが表面側に局在する軟磁性粉末によれば、Siが均一に存在する軟磁性粉末と比べて、飽和磁化を同等に維持しながらも、より高い電気絶縁性を得ることができる。
【0094】
比較例1及び2とは粒子径を変えた原料粉末(比較例7〜9)に対して本発明の熱処理方法を実施した場合にも、同様の効果が認められた(実施例6〜8)。なおこれらの実施例の場合、実施例1〜5に比べて透磁率が高くなっているが、これは、実施例1〜5のFeSiCr合金粉末とは異なる粒度分布の合金粉末であり、これにより、磁気特性を測定する際のトロイダル形状の成形体の形成において、粒子の充填性が高まったことによると考えられる。