特許第6851595号(P6851595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851595
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】酵母エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 31/15 20160101AFI20210322BHJP
   A23L 3/32 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   A23L31/15
   !A23L3/32
【請求項の数】10
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-120159(P2017-120159)
(22)【出願日】2017年6月20日
(65)【公開番号】特開2018-11591(P2018-11591A)
(43)【公開日】2018年1月25日
【審査請求日】2019年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-135271(P2016-135271)
(32)【優先日】2016年7月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000136642
【氏名又は名称】株式会社フロンティアエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 理
(72)【発明者】
【氏名】中村 敏英
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勝一
(72)【発明者】
【氏名】植村 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】星野 弘
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2002/0081357(US,A1)
【文献】 特開2016−029614(JP,A)
【文献】 特開2013−141550(JP,A)
【文献】 特開2013−135630(JP,A)
【文献】 特開2001−245643(JP,A)
【文献】 特開2006−296368(JP,A)
【文献】 特開昭48−018484(JP,A)
【文献】 特開平01−095751(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0092773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酵母を含有する懸濁液を準備する工程、
(b)前記懸濁液に電界処理を施す工程、
(c)前記(b)工程の後、前記懸濁液において酵母を自己消化する工程、
を有し、
前記(b)工程は、電極を有する流路である電界印加部に、前記懸濁液を連続的に流しながら、前記電極に電圧を印加する工程であり、
前記(b)工程において、
電圧の印加期間の前記懸濁液の温度は、64℃以下であり、
印加される電圧は、50V/mm以上500V/mm以下であり、
印加される電圧は、周波数が5kHz以上100kHz以下の交流電圧であって、パルス数が100を超える、酵母エキスの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記(b)工程において、
前記懸濁液への交流電圧の印加時間は、0.001秒以上1秒以下である、酵母エキスの製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記(b)工程において、
前記電極は、対向して配置された第1電極と第2電極とを有し、
前記懸濁液は、前記第1電極と第2電極との間を流れる、酵母エキスの製造方法。
【請求項4】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属またはキャンディダ(Candida)属である、酵母エキスの製造方法。
【請求項5】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記酵母は、ドライイーストまたは生イーストである、酵母エキスの製造方法。
【請求項6】
(a)酵母を含有する懸濁液を準備する工程、
(b)前記懸濁液に電界処理を施す工程、
(c)前記(b)工程の後、前記懸濁液において酵母を自己消化する工程、
を有し、
前記(b)工程は、電極を有する流路である電界印加部に、前記懸濁液を連続的に流しながら、前記電極に電圧を印加する工程であり、
前記(b)工程において、
電圧の印加期間の前記懸濁液の温度は、64℃以下であり、
印加される電圧は、3V/mm以上50V/mm以下であり、
印加される電圧は、周波数が5kHz以上100kHz以下の交流電圧である、酵母エキスの製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記(b)工程において、
前記懸濁液への交流電圧の印加時間は、1秒以上30秒以下である、酵母エキスの製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記(b)工程において、
前記電極は、リング状の第1電極と第2電極とを有し、
前記懸濁液は、前記第1電極と、前記第1電極と前記第2電極の間の管と、前記第2電極との中を流れる、酵母エキスの製造方法。
【請求項9】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属またはキャンディダ(Candida)属である、酵母エキスの製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の酵母エキスの製造方法において、
前記酵母は、ドライイーストまたは生イーストである、酵母エキスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母エキスの製造方法に関し、特に、アミノ酸を高濃度で含有させる酵母エキスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵母エキスは、酵母の有用な成分を抽出したエキスである。主成分としてアミノ酸や核酸関連物質、ミネラル、ビタミン類を含み、医薬品や培地、食品、飼料など様々な分野で利用されている。特に、食品製造過程においては風味の改善や増強のために酵母エキスが使用されており、天然素材という好イメージから需要が増し、製造量も年々増加している。
【0003】
酵母エキスの製造方法には、自己消化法、熱水処理法、酵素処理法などがある。酵母自己消化物は、酵母の細胞を集めて、酵母自身に含まれる消化酵素の作用によって自己消化させたものである。これにより、酵母を構成するタンパク質が、うま味を持つアミノ酸や低分子のペプチド鎖に分解される。
【0004】
このような自己消化法で酵母エキスを製造する際、エキス中の有用成分の含有量を向上させることが望まれる。
【0005】
例えば、酵母エキスの製造過程において、トルエンや酢酸エチル、無機酸などを添加することで、自己消化を促進することができる。また、自己消化の促進方法としては、以下に示すものがある。
【0006】
例えば、特許文献1には、自己消化法により酵母エキスを製造するにあたり、酵母に含まれる蛋白質分解酵素のうち低温度域で反応がより活性化する酵素の最適反応温度で第1段階の酵素反応を行い、続いて最適反応温度よりも高く、雑菌の繁殖を抑制する温度領域以上の温度で第2段階の酵素反応を行い、さらに、異なる酵素反応温度を備えた3段階以上の酵素反応を行う技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、増殖の定常期にある酵母を、液体培地のpHが7.5以上11未満である条件下で液体培養するアミノ酸高含有酵母の製造方法が開示されている。これにより、アミノ酸を高濃度に含有するアミノ酸高含有酵母を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−179084号公報
【特許文献2】特許第5730579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、自己消化法で酵母エキスを製造する際、エキス中の有用成分の含有量を向上させることが望まれる。
【0010】
しかしながら、酵母の自己消化を促進するために薬品を添加することは、天然素材のイメージを損ねる。また、酵母エキスを食品に使用する際には、残留薬品の除去が必要であったり、使用できる薬品に制限が生じたりする。また、温度やpHを調整する方法では、予備処理や条件制御に時間やコストを要する。
【0011】
そこで、できるだけ短時間、短工程で、かつ条件の制御の容易な酵母エキスの製造方法の開発が望まれる。
【0012】
本発明の目的は、短時間、短工程で、かつ条件の制御の容易な酵母エキスの製造方法を提供することを目的とする。特に、アミノ酸などの有用成分を高濃度で含有する酵母エキスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の酵母エキスの製造方法は、(a)酵母を含有する懸濁液を準備する工程、(b)上記懸濁液に電界処理を施す工程、(c)上記(b)工程の後、上記懸濁液において酵母を自己消化する工程、を有する。
【0014】
上記(b)工程において、印加される電圧は、1000V/mm未満であり、電圧の印加期間の前記懸濁液の温度は、64℃以下である。
【0015】
上記(b)工程において、印加される電圧は、3V/mm以上150V/mm以下である。
【0016】
上記(b)工程において、電圧の印加時間は、25秒未満である。
【0017】
上記(b)工程において、印加される電圧は、交流電圧である。
【0018】
上記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属またはキャンディダ(Candida)属である。
【発明の効果】
【0019】
このように、酵母を含有する懸濁液に電界処理を施すことにより、酵母エキス中のアミノ酸の含有量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】酵母エキスの製造工程のうち、電界処理工程を示す模式断面図である。
図2】酵母エキスの製造工程のうち、短時間加熱処理工程を示す模式断面図である。
図3】試験A〜試験Dの総アミノ酸量のグラフを示す図である。
図4】試験A〜試験Dの分岐鎖アミノ酸量のグラフを示す図である。
図5】試験E1、試験E2の総アミノ酸量のグラフを示す図である。
図6】試験E1、試験E2の分岐鎖アミノ酸量のグラフを示す図である。
図7】印加される電圧パルスの波形を示す図である。
図8】酵母エキスの製造装置システム(高電界処理システム)を示す図である。
図9】酵母エキスの製造装置システム(低電界処理システム)を示す図である。
図10】装置の使用条件の一例をまとめた図である。
図11】(A)および(B)は、酵母(ドライイースト)の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。
図12】(A)および(B)は、酵母(生イースト)の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。
図13】(A)および(B)は、試験F2、試験G2の総遊離アミノ態窒素量のグラフを示す図である。
図14】(A)および(B)は、試験F2、試験G2の分岐鎖アミノ酸の量のグラフを示す図である。
図15】(A)および(B)は、試験F2、試験G2のグルタミン酸の量のグラフを示す図である。
図16】(A)および(B)は、試験F2、試験G2のグルタミンの量のグラフを示すである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0022】
(電界処理による自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量富化)
図1は、酵母エキスの製造工程のうち、電界処理工程を示す模式断面図である。図1に示すように、電気絶縁材料によりなる流路Rに、酵母の懸濁液を流す。酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属またはキャンディダ(Candida)属などを用いることができる。懸濁用の液体としては、例えば、水(純水、イオン交換水)を用いることができる。懸濁液における酵母の濃度は、例えば、数%〜数十%(w/v)程度である。
【0023】
流路Rの途中には、狭い間隔(例えば0.1〜5mm程度)をもって対向する一対の電極EL1、EL2が配置されている。この電極EL1、EL2間に、例えば5kHz〜20kHz程度の周波数の交流電圧を、電極EL1、EL2間の間隔1mm当り150V程度で印加する。例えば、懸濁液の流速は、ポンプなどにより制御されており、電極EL1、EL2間の懸濁液の通過時間は、例えば、0.1秒以下である。
【0024】
このように、電極EL1、EL2間において、電界処理した酵母の懸濁液を、冷却した後、例えば、40℃〜50℃の恒温槽にて、数時間加熱する。これにより、酵母の懸濁液が自己消化する。自己消化とは、酵母の細胞が、酵母自身に含まれる消化酵素の作用によって分解されることをいう。例えば、酵母を構成するタンパク質が、うま味を持つアミノ酸や低分子のペプチド鎖に分解される。
【0025】
(短時間加熱処理による自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量富化)
図2は、酵母エキスの製造工程のうち、短時間加熱処理工程を示す模式断面図である。図2に示すように、電気絶縁材料によりなる流路Rに、酵母の懸濁液を流す。酵母としては、例えば、サッカロマイセス(Saccharomyces)属またはキャンディダ(Candida)属などを用いることができる。懸濁用の液体としては、例えば、水を用いることができる。懸濁液における酵母の濃度は、例えば、数%(w/v)程度である。
【0026】
流路Rの途中には、熱交換器が配置されている。熱交換器により、酵母の懸濁液を加熱することができる。加熱温度は、例えば、50℃〜60℃程度である。また、懸濁液の流速は、ポンプなどにより制御されており、熱交換器の通過時間は、例えば、数秒程度であり、この間に上記50℃〜60℃まで、酵母の懸濁液を加熱することができる。
【0027】
このように、短時間加熱処理した酵母の懸濁液を、冷却した後、例えば、40℃〜50℃の恒温槽にて、数時間加熱する。これにより、酵母の懸濁液が自己消化する。
【0028】
(実施例1)
(試験A)市販のドライイースト(サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))を、5%(w/v)となるようにイオン交換水に懸濁し、酵母の懸濁液を調整し、6時間置いて、酵母の懸濁液を得た。次いで、この酵母の懸濁液に、20kHz、150V/mmの高電界(交流高電界)を0.03s印加した。この高電界の印加時間は、懸濁液の電極間の通過時間に相当する。具体的には、電極間隔が4mmの電極間に上記懸濁液を通し、600Vの電圧を電極間に印加し、電極間を0.03sで通過させた。電界の印加で懸濁液の温度は54℃まで上昇した。この懸濁液を、熱交換器で7℃まで冷却した後、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。
【0029】
自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0030】
(試験B)コントロール1として、市販のドライイーストを、5%(w/v)となるように水で懸濁し、6時間置いて、得た酵母の懸濁液を、上記試験Aの場合と同様に、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0031】
(試験C)コントロール2として、市販のドライイーストを、5%(w/v)となるように水で懸濁し、6時間置いて、得た酵母の懸濁液を、電界を印加することなく、電極間に通し、その懸濁液を、上記試験Aの場合と同様に、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0032】
(試験D)上記試験Aの電界処理においては、酵母の懸濁液の温度上昇が確認されたため、熱交換器を利用した短時間加熱処理を行った。5%(w/v)の酵母の懸濁液を6時間置いて、熱交換器に通し、8.3sで54℃まで加熱した。この懸濁液を、上記試験Aの場合と同様に、熱交換器で7℃まで冷却した後、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0033】
上記試験A〜試験Dの遊離アミノ酸分析結果を、表1〜表4に示す。なお、試験A〜試験Dの懸濁液については、自己消化前の懸濁液、即ち、保持時間が0時間の懸濁液についても、遊離アミノ酸分析を行っている。
【0034】
以下の表1は、上記試験Aの高電界処理(“電界150V/mm”または“HEF150”と示す)の遊離アミノ酸分析結果である。0hは、保持時間が0時間(自己消化前)の場合を示し、6hは、保持時間が6時間(自己消化後)の場合を示す(以下の試験B〜試験Dについても同じ)。表2は、上記試験Bのコントロール1(“コントロール”または“CON”と示す)の遊離アミノ酸分析結果である。表3は、上記試験Cのコントロール2(“系内通過”または“HEF000”と示す)の遊離アミノ酸分析結果である。表4は、上記試験Dの熱交換器を用いた短時間加熱処理(“熱交換器”または“PHE”と示す)の遊離アミノ酸分析結果である。なお、表中、“ND”は、“検出限界以下”を示す。また、各表の番号(No.)および略号とアミノ酸名(一部アミノ酸以外のものも含む)との関係は以下のとおりである。
1.P−Ser:フォスフォセリン(Phosphoserine)
2.Tau:タウリン(Taurine)
3.PEA:リン酸エタノールアミン(Phosphoethanolamine)
4.Urea:尿素(Urea)
5.Asp:アスパラギン酸(Aspartic acid)
6.Thr:トレオニン(Threonine)
7.Ser:セリン(Serine)
8.Asn:アスパラギン(Asparagine)
9.Glu:グルタミン酸(Glutamic acid)
10.Gln:グルタミン(Glutamine)
11.Sar:サルコシン(Sarcosine)
12.AAA:アミノアジピン酸(Aminoadipic acid)
13.Gly:グリシン(Glycine)
14.Ala:アラニン(Alanine)
15.Cit:シトルリン(Citrulline)
16.a−ABA:α−アミノ酪酸(α-Aminobutyric acid)
17.Val:バリン(Valine)
18.Cys:システイン(Cysteine)
19.Met:メチオニン(Methionine)
20.Cysta:シスタチオニン(Cystathionine)
21.Ile:イソロイシン(Isoleucine)
22.Leu:ロイシン(Leucine)
23.Tyr:チロシン(Tyrosine)
24.b−Ala:β−アラニン(β-Alanine)
25.Phe:フェニルアラニン(Phenylalanine)
26.b−ABA:β−アミノ酪酸(β-Aminobutyric acid)
27.GABA:γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)
28.MEA:モノエタノールアミン(Monoethanolamine)
29.NH:アンモニア(Ammonia)
30.Hylys−1:ヒドロキシリシン−1(Hydroxylysine-1)
31.Orn:オルニチン(Ornithine)
32.1M−His:1-メチルヒスチジン(1-Methylhistidine)
33.His:ヒスチジン(Histidine)
34.Lys:リシン(Lysine)
35.3M−His:3-メチルヒスチジン(3-Methylhistidine)
36.Trp:トリプトファン(Tryptophan)
37.Ans:アンセリン(Anserine)
38.Car:カルノシン (Carnosine)
39.Arg:アルギニン(Arginine)
40.Hypro:ヒドロキシプロリン(Hydroxyproline)
41.Pro:プロリン(Proline)
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
また、上記試験A〜試験Dの遊離アミノ酸分析から、総アミノ酸量のグラフを図3に示す。縦軸は、総アミノ酸量(mg/mL)を示す。また、上記試験A〜試験Eの遊離アミノ酸分析から、分岐鎖アミノ酸量のグラフを図4に示す。
【0039】
上記表1〜表4、図3および図4に示すように、上記試験Aの高電界処理(“電界150V/mm”または“HEF150”と示す)を施した場合は、上記試験Bのコントロール1(“コントロール”または“CON”と示す)および上記試験Cのコントロール2(“系内通過”または“HEF000”と示す)の場合より、総遊離アミノ酸量が増加した。例えば、コントロール2(HEF0006h)と比較し、電界150V/mm(HEF1506h)の総遊離アミノ酸量は、1.2倍であった。また、この増加傾向は、保持時間が0時間の場合についても見られた。さらに、上記試験Aの高電界処理(“電界150V/mm”または“HEF150”と示す)を施した場合は、分岐鎖アミノ酸であるVal(バリン)、Ile(イソロイシン)およびLeu(ロイシン)の総量が増加した。この分岐鎖アミノ酸は、ヒトでは必須アミノ酸であり、筋タンパク質中の必須アミノ酸の35%を占め、哺乳類にとって必要とされるアミノ酸の40%を占める。例えば、コントロール2(HEF0006h)と比較し、電界150V/mm(HEF1506h)のVal、IleおよびLeuの総量は、1.35倍であった。
【0040】
また、上記分岐鎖アミノ酸(Val、IleおよびLeu)を含む、分析したすべてのアミノ酸について、量の増加を確認することができた。例えば、コントロール2(HEF0006h)と比較し、電界150V/mm(HEF1506h)の各アミノ酸の量は、すべて増加している。
【0041】
さらに、上記試験Aと試験Dとの比較から、試験Dのような単なる加熱処理より、試験Aの高電界処理を施した方が、総遊離アミノ酸量が多かった。また、この増加傾向は、保持時間が0時間の場合についても見られた。また、分岐鎖アミノ酸であるVal、IleおよびLeuの総量も多かった。各アミノ酸については、Glu(グルタミン酸)、AAA(アミノアジピン酸)以外のアミノ酸について、量が増加した。
【0042】
このように、高電界処理や短時間加熱処理により自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量を増加させることができる。特に、上記高電界処理においては、有用な遊離アミノ酸を含む遊離アミノ酸の顕著な増加を確認することができた。
【0043】
このような、アミノ酸含有量の増加は、電気的に酵母の活性化が起きている可能性や、電気穿孔による一部の酵母中の酵素の漏出による効果の可能性などが考えられるが、未だ要因の解明には至っていない。
【0044】
しかしながら、上記高電界処理により自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量を増加させることを確認できたことは非常に有効だと思われる。
【0045】
このような高電界処理によれば、自己消化を促進するために薬品の添加を回避もしくは添加量を低減することができ、天然素材のイメージを維持しつつ、食品に添加可能なアミノ酸を容易に、また、短時間、短工程で製造することができる。
【0046】
ここで、上記試験Aにおいては、特定の条件(例えば、150V/mm)で試験を行ったが、後述する実施例2、3に示すように、100V/mmや50V/mmにおいても効果を奏することが判明している。
【0047】
よって、本明細書で言う、高電界処理とは、50V/mm以上の処理を示すものとする。但し、電極間の間隔1mm当りの電圧は、1000V未満とすることが好ましい。1000V以上とした場合、酵母に対し電気穿孔が生じやすく、酵母が死滅する恐れがある。また、高電界処理時の最高温度は64℃以下とすることが好ましい。64℃を超えると酵母が死滅する恐れがある。
【0048】
よって、電極間の間隔1mm当りの電圧としては、1000V/mm未満とすることが好ましい。中でも、本実施の形態および後述の実施例2、3に示すように、50V/mm〜150V/mmの範囲の高電界処理によれば、自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量を増加させることが確認できている。さらに、分岐鎖アミノ酸の増加を確認できている。
【0049】
高電界処理の処理時間(電圧印加時間、電圧印加期間)としては、0.1秒以下の範囲で適宜調整することができる。
【0050】
また、上記実施例1においては、懸濁液における酵母の濃度を、5%(w/v)としたが、この濃度に限定されるものではない。例えば、酵母の濃度を、1%〜30%(w/v)の間で調整することができる。但し、酵母の濃度が低すぎると、処理効率が低下し、また、酵母の濃度が高すぎると、流速の制御が困難となったり、電圧の印加のばらつきが生じたりするため、上記1%〜30%(w/v)の間で調整することが好ましい。
【0051】
(実施例2)
実施例1の試験Aにおいて、電界を100V/mmとして同様の実験を行った。また、この場合の酵母の懸濁液の温度上昇は、29℃であったため、実施例1の試験Bにおいて、熱交換器による加熱温度を29℃として同様の実験を行った。なお、用いた酵母の懸濁液を、コントロールとして、実施例1の試験Cと同様の実験を行った。
【0052】
この実施例2においても、試験Aの電界処理を施した場合は、試験Bの熱交換器による加熱処理を施した場合より、総アミノ酸量が増加した。また、分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンのそれぞれの量が増加した。
【0053】
(実施例3)
実施例1の試験Aにおいて、電界を50V/mmとして同様の実験を行った。また、この場合の酵母の懸濁液の温度上昇は、18℃であったため、実施例1の試験Bにおいて、熱交換器による加熱温度を18℃として同様の実験を行った。なお、用いた酵母の懸濁液を、コントロールとして、実施例1の試験Cと同様の実験を行った。
【0054】
この実施例3おいても、試験Aの電界処理を施した場合は、試験Bの熱交換器による加熱処理を施した場合より、総アミノ酸量が増加した。また、分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシンのそれぞれの量が増加した。
【0055】
(実施例4)
上記試験Aにおいては、高電界を印加したが、低電界の電界処理についても試験を行った。5%(w/v)の酵母の懸濁液を6時間置いて、この酵母の懸濁液に、低電界処理を行った。
【0056】
試験E1として、酵母の懸濁液に、1V/mmの低電界を25s印加した。この電界の印加時間は、懸濁液の電極間の通過時間に相当する。具体的には、電極間隔が75mmの電極間に上記懸濁液を通し、75Vの電界を電極間に印加し、電極間を25sで通過させた(図1参照)。この懸濁液を、熱交換器で7℃まで冷却した後、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。
【0057】
試験E2として、酵母の懸濁液に、3V/mmの低電界を2.5s印加した。この電界の印加時間は、懸濁液の電極間の通過時間に相当する。具体的には、電極間隔が75mmの電極間に上記懸濁液を通し、225Vの電界を電極間に印加し、電極間を2.5sで通過させた(図1参照)。この懸濁液を、熱交換器で7℃まで冷却した後、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行った。
【0058】
上記試験E1、E2において自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0059】
上記試験E1、試験E2の遊離アミノ酸分析結果を、表5に示す。表5は、低電界処理の遊離アミノ酸分析結果である。試験E1については、“1Sジュール”または“1SJH54”と示す。試験E2については、“15Aジュール”または“15AJH54”と示す。なお、表の番号(No.)および略号とアミノ酸名(一部アミノ酸以外のものも含む)との関係は前述のとおりである。
【0060】
【表5】
また、上記試験E1、試験E2の遊離アミノ酸分析から、総アミノ酸量のグラフを図5に示す。縦軸は、総アミノ酸量(mg/mL)を示す。また、上記試験E1、試験E2の遊離アミノ酸分析から、分岐鎖アミノ酸量のグラフを図6に示す。
【0061】
上記表5、図5および図6に示すように、上記試験E1の低電界処理(“1Sジュール”または“1SJH54”と示す)を施した場合は、総遊離アミノ酸量が、実施例4におけるコントロール(図示せず)と同程度であった。また、上記試験E2の3V/mm電界処理(15AJH546h)を施した場合は、コントロール(図示せず)および上記試験E1(1V/mm印加)より、総遊離アミノ酸量が増加した。また、分岐鎖アミノ酸であるVal、IleおよびLeuの総量も増加した。また、各アミノ酸の量も、増加している。
【0062】
このように、低電界処理であっても、3V/mm以上の処理において、自己消化酵母エキスのアミノ酸含有量を増加させることができる。
【0063】
低電界処理の場合、3V/mm以上10V/mmの範囲で電圧を印加することが好ましい。また、処理時の最高温度は64℃以下とすることが好ましい。64℃を超えると酵母が死滅する恐れがある。処理時間(電圧印加時間)としては、25秒未満、より好ましくは10秒以下の範囲で適宜調整することができる。なお、懸濁液の温度上昇を抑制する方法としては、1)懸濁液の流速を大きくする、2)懸濁液の導電率を向上させるなどの方法がある。
【0064】
また、低電界処理の場合、電極間距離を長くすることができるため、比較的高濃度の懸濁液を処理することができる。例えば、酵母の濃度を、1%〜50%(w/v)の間で調整することができる。
【0065】
(実施の形態2)
実施の形態1においては、150V/mmや3V/mmの交流電界を電極間に印加したが、印加する電界をパルス電界としてもよい。
【0066】
図7は、印加される交流電界およびパルス電界の波形を示す図である。電圧は、例えば、電極間の1mm当たり、300Vとなるように設定される。周波数は、例えば、5kHz〜60kHzの範囲で調整することができる。例えば、交流電界の周波数を21kHzとした場合、電圧の立ち上がり時間と立ち下がり時間(反転時間)を2μs、電圧の通電時間(パルス幅)を22μsとすることができる(図7の上図参照)。図7の下図に示すように、通電時間に、休止時間を設けてもよい。例えば、2〜6400μsの範囲で、休止時間を調整することができる。表6に、電圧パルスの周波数とパルス幅の組み合わせ例を、表7に休止時間の例を示す。
【0067】
【表6】
【0068】
【表7】
以上詳細に説明したように、実施の形態1の高電界処理において、通電時間に、休止時間を設けた高電圧パルス(例えば、50V/mm〜150V/mm程度)を用いてもよい。なお、休止時間のない連続した高電圧パルス処理を交流高電界処理と言う場合がある。また、実施の形態1の低電界処理において、通電時間に、休止時間を設けた低電圧パルス(例えば、3V/mm〜10V/mm程度)を用いてもよい。
【0069】
周波数は、例えば、5kHz〜60kHzの範囲で調整することができる。
【0070】
また、前述したとおり、電界処理時の最高温度は64℃以下とすることが好ましいが、懸濁液の温度上昇を抑制する方法としては、1)懸濁液の流速を大きくする、2)懸濁液の導電率を向上させるなどの他、3)交流電界のパルスを間引く(休止時間を設ける)方法がある。
【0071】
(実施の形態3)
上記実施の形態1、2で説明した電界処理に用いる装置に制限はないが、例えば、以下に説明する装置を用いることができる。
【0072】
図8は、酵母エキスの製造装置システムを示す図である。図8に示すシステムにおいては、処理対象の酵母の懸濁液が投入されるホッパ10と、ホッパ10と流路を介して接続される電界印加装置13と、電界印加装置13と流路を介して接続される熱交換器15とを有する。ホッパ10と電界印加装置13との間にはポンプPが接続されている。
【0073】
ホッパ10は、上記流路が接続された容器である。このホッパ10内で、懸濁用の液(例えば、イオン交換水)と、酵母とを混ぜ合わせてもよい。
【0074】
電界印加装置13では、電極EL1、EL2が流路Rを介して対向して配置されている。電極EL1、EL2間は絶縁体ILにより絶縁されている。電極EL1、EL2間には、電源ユニットUが接続されており、所定の電界を電極EL1、EL2間に印加することができる。また、所定の周波数の交流電界を電極EL1、EL2間に印加することができる。周波数は、例えば、5kHz〜20kHzの範囲で調整可能である。また、電極EL1、EL2間の間隔は、例えば、0.1〜8mm程度であり、電極EL1、EL2間に、間隔1mm当り3V〜1000Vの電圧を印加することができる。
【0075】
よって、流入口INから流入した酵母の懸濁液は、電極EL1、EL2間を通り、その間に、電界処理され、流出口OUTから排出される。電界処理された酵母の懸濁液は、電界の印加により加熱されており、熱交換器15により冷却される。
【0076】
熱交換器15の構成に制限はないが、例えば、コイル状の流路の外周に冷却水を流し、流路内の懸濁液の温度を調整する。
【0077】
熱交換器15を通って冷却された懸濁液は、例えば、パック内に注入され密封された後、恒温槽17に注入され、恒温槽17内において、所定の温度で、所定の時間保持される。恒温槽17は、酵母の自己消化部となる。
【0078】
具体的には、市販のドライイーストを5%(w/v)となるように水に懸濁した、室温の酵母の懸濁液を、ホッパ10に投入し、ポンプPを介して、例えば、100L/hで送液する。酵母の懸濁液が、電界印加装置13の電極EL1、EL2間を通過する0.03秒間に、150V/mmの電界を印加する。これにより、酵母の懸濁液の温度は54℃まで上昇する。この後、酵母の懸濁液は、熱交換器により7℃まで冷却され、100mlずつ、プラスチックパックに分注され、密封される。各プラスチックパックを、恒温槽17内において、45℃で0〜6時間加熱する。
【0079】
このように、図8に示すようなシステムを用いて酵母の懸濁液から酵母エキスを製造することで、効率良く酵母エキスを製造することができる。即ち、酵母エキスの製造において、その工程を短時間、短工程とすることができる。また、酵母エキスの製造において、印加電界や温度などの条件の制御が容易となる。
【0080】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0081】
例えば、実施例1等では、酵母の懸濁液を6時間置いた後、試験A〜E1、E2を行ったが、これは懸濁液のばらつきを抑制し、各試験の比較をより精度良く行うためのものであり、必須のものではない。例えば、酵母の懸濁液を調整した直後に、電界処理を行ってもよい。酵母の懸濁液を調整した直後の電界処理によっても、アミノ酸量が増加することを確認している。
【0082】
また、実施例1等では、電界処理後の酵母の懸濁液を、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行ったが、保持温度および保持時間は、これに限定されるものではない。保持温度としては、64℃以下で適宜調整可能である。また、保持時間は、大きくなるほど、アミノ酸量が増加する傾向にあるが、保持時間0時間でも、アミノ酸量の増加を確認している。また、保持時間が、0時間から6時間へと増加するにしたがって、アミノ酸量は増加する。
【0083】
また、実施例1等では、酵母を懸濁するための液として、例えば、イオン交換水を用いたが、他の溶媒を用いてもよい。さらに、懸濁液の導電率の調整のため、懸濁液に、塩(例えば、NaCl)や糖などを添加してもよい。
【0084】
(実施の形態4)
上記実施の形態1、2で説明した電界処理に用いる装置に制限はないが、例えば、以下に説明する装置を用いることができる。
【0085】
図9は、酵母エキスの製造装置システムを示す図である。図8に示すシステムにおいては、処理対象の酵母の懸濁液が投入されるホッパ10と、ホッパ10と流路を介して接続される電界印加装置(電界印加部)23と、電界印加装置23と流路を介して接続される熱交換器15とを有する。ホッパ10と電界印加装置23との間にはポンプPが接続されている。
【0086】
ホッパ10は、上記流路が接続された容器である。このホッパ10内で、懸濁用の液(例えば、イオン交換水)と、酵母とを混ぜ合わせてもよい。
【0087】
電界印加装置23では、リング電極(リング状の電極)REL1、REL2、REL3が管R1、R2を介して配置されている。管R1、R2は絶縁材料よりなる。リング電極REL1、REL2間、およびリング電極REL2、REL3間には、電源ユニットUが接続されており、所定の電界をリング電極REL1、REL2間、リング電極REL2、REL3間に印加することができる。また、所定の周波数の交流電界をリング電極REL1、REL2間、リング電極REL2、REL3間に印加することができる。周波数は、例えば、5kHz〜100kHzの範囲で調整可能である。また、リング電極REL1、REL2間、リング電極REL2、REL3間の間隔(電極間距離ED)は、例えば、75mm程度であり、リング電極REL1、REL2間、リング電極REL2、REL3間に、間隔1mm当り1V〜1000Vの電圧を印加することができる。管R1、R2およびリング電極REL1、REL2、REL3の内径は、例えば、17.5mm程度である。
【0088】
よって、流入口INから流入した酵母の懸濁液は、リング電極REL1、REL3間を通り、その間に、電界処理され、流出口OUTから排出される。電界処理された酵母の懸濁液は、電界の印加により加熱されており、熱交換器15により冷却される。
【0089】
熱交換器15の構成に制限はないが、例えば、コイル状の流路の外周に冷却水を流し、流路内の懸濁液の温度を調整する。
【0090】
熱交換器15を通って冷却された懸濁液は、例えば、パック内に注入され密封された後、恒温槽17に注入され、恒温槽17内において、所定の温度で、所定の時間保持される。恒温槽17は、酵母の自己消化部となる。
【0091】
具体的には、市販のドライイーストを5%(w/v)となるように水に懸濁した、室温の酵母の懸濁液を、ホッパ10に投入し、ポンプPを介して、例えば、100L/hで送液する。酵母の懸濁液が、電界印加装置23のリング電極REL1、REL3間を通過する2.5秒間に、3V/mmの電界を印加する。これにより、酵母の懸濁液の温度は54℃程度まで上昇する。この後、酵母の懸濁液は、熱交換器により7℃まで冷却され、100mlずつ、プラスチックパックに分注され、密封される。各プラスチックパックを、恒温槽17内において、45℃で0〜6時間加熱する。
【0092】
このように、図9に示すようなシステムを用いて酵母の懸濁液から酵母エキスを製造することで、効率良く酵母エキスを製造することができる。即ち、酵母エキスの製造において、その工程を短時間、短工程とすることができる。また、酵母エキスの製造において、印加電界や温度などの条件の制御が容易となる。なお、上記電界印加装置23においては、3個のリング電極を用いたが、リング電極を2個としてもよく、また、3個以上(例えば、5個)としてもよい。
【0093】
図10は、実施の形態3および本実施の形態で説明した装置の使用条件の一例をまとめた図である。例えば、実施の形態3(図8)の装置は、実施の形態1で説明した高電界処理(試験A)に適し、実施の形態4(図9)の装置は、実施の形態1で説明した低高電界処理(試験E2)に適する。
【0094】
前述の試験A、試験E2の説明と重複するが、図10を参照しながら、実施の形態3の装置(図8、高電界処理装置)および実施の形態4の装置(図9、低電界処理装置)の使用条件の一例について説明する。
【0095】
図10に示すように、高電界処理装置、低電界処理装置の電極材料は、例えば、Tiである。Tiの他にPtを用いてもよい。また、TiにPtをコーティングした電極を用いてもよい。
【0096】
電極が設けられた流路(電界処理部)の大きさについて、その断面は、高電界処理装置では、6mm×2mm程度の略矩形であり、長さ(RD)は、32mmである。また、低高電界処理装置では、断面は、直径17.5mmの円形であり、長さ(ED×2)は、75mm×2である。
【0097】
高電界処理装置は、電極間距離が小さく(ここでは、4mm)、電極間電圧を600Vとすることで、高電界(ここでは、150V/mm)を印加することができる。高電界処理の電界としては、電極間距離や電極間電圧を調整することで、50V/mm〜500V/mmの間で調整することができる。
【0098】
低電界処理装置は、電極間距離が比較的大きく(ここでは、75mm)、電極間電圧を225Vとすることで、低電界(ここでは、3V/mm)を印加することができる。低電界処理の電界としては、電極間距離や電極間電圧を調整することで、3V/mm〜50V/mmの間で調整することができる。
【0099】
高電界処理装置および低電界処理装置のどちらにおいても、交流電界が印加されている。即ち、電極間の電圧の正負が所定の間隔で切り換わる。周波数は、例えば、20kHzである。周波数としては、5kHz〜100kHzが好ましい。5kHz未満では、電気分解による電極の変質が生じやすく、電極のメンテナンスの頻度が高まる。特に、上記高電界処理装置および低電界処理装置は、インラインでの処理であり、電極の洗浄や付け替えには、装置(電界印加装置)の分解を伴い、処理効率の低下を招く。また、周波数としては、100kHzを超えると電力のロスが大きくなり、生産コスト高を招く。
【0100】
電界印加時間(処理時間)は、処理材料(酵母の懸濁液)が、電極間を流れる時間であり、高電界処理装置においては、例えば、電極が対向している領域(長さRD、ここでは、32mm程度)であり、ここをポンプの押圧により、処理材料が例えば、0.03秒程度で通過する。また、低電界処理装置においては、例えば、電極間距離(2×ED、ここでは、2×75=150mm程度)間であり、この間をポンプの押圧により、処理材料が例えば、2.5秒程度で通過する。
【0101】
この電界印加時間(処理時間)は、電極が設けられた流路(電界処理部)の大きさや、ポンプ圧により、調整することが可能である。例えば、高電界処理装置においては、電界印加時間(処理時間、電界印加部の通過時間)を、0.001秒以上1秒以下の範囲で調整することができる。また、低電界処理装置においては、電界印加時間(処理時間、電界印加部の通過時間)を、1秒以上30秒以下の範囲で調整することができる。
【0102】
上記のとおり、高電界処理装置においては、電極が設けられた流路(電界処理部)の断面が小さく、粘度の低い材料の処理に適する。粘度の基準としては、例えば、トマトジュース(粘度50mPa・s程度)より粘度の低いものの処理に適する。高電界処理装置は、酵母の懸濁液の場合、例えば、13%(w/v)以下のものの処理に適する。低電界処理装置においては、電極が設けられた流路(電界処理部)の断面が大きく、粘度の高い材料の処理も可能である。粘度の基準としては、例えば、あんこ(粘度1000000mPa・s以上)のような高粘度ものの処理も可能である。例えば、13%(w/v)以上の酵母の懸濁液は、低電界処理装置で処理することが好ましい。
【0103】
試験Aや試験E2において用いた酵母の懸濁液は、5%程度であり、高電界処理装置でも低電界処理装置でも処理が可能である。また、酵母の懸濁液の濃度を高くすることで、処理効率を向上させることができる。このように、粘度が大きくなるような場合には、低電界処理装置を用いることが好ましい。
【0104】
このように、上記高電界処理装置や低電界処理装置を用いて、酵母の懸濁液電界処理することで、効率良く酵母エキスを製造することができる。即ち、酵母エキスの製造において、その工程を短時間、短工程とすることができる。また、酵母エキスの製造において、印加電界条件などの制御が容易となる。
【0105】
(実施の形態5)
本実施の形態においては、酵母の自己消化率の保持時間の影響について説明する。
【0106】
(実施例5)
酵母の自己消化率の保持時間の影響について、以下の試験F1、試験F2、試験G1、試験G2を行い、検討した。
【0107】
(試験F1)
市販のドライイースト(サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae))を、5%(w/v)となるようにイオン交換水に懸濁し、酵母の懸濁液を調整し、6時間置いて、酵母の懸濁液を得た。次いで、この酵母の懸濁液に、20kHz、500V/mmの高電界(交流高電界)を0.03s印加した。この高電界の印加時間は、懸濁液の電極間の通過時間に相当する。具体的には、電極間隔が4mmの電極間に上記懸濁液を通し、600Vの電圧を電極間に印加し、電極間を0.03sで通過させた。電界の印加で懸濁液の温度は54℃まで上昇した。この懸濁液を、熱交換器で7℃まで冷却した後、45℃で0〜24時間、保持することで酵母の自己消化を行った。即ち、保持時間を0〜24時間とした。自己消化により経時的に細胞の重量が減少していくことから、一定量の懸濁液に含まれる酵母菌体を遠心分離により回収し、その乾燥重量(不溶性画分量)を求め、減少した重量の割合から自己消化率[(0時間目の乾燥菌体重量−処理後の乾燥菌体重量/0時間目の乾燥菌体重量)×100%]を求めた。なお、0時間目の乾燥菌体重量は、開始時不溶性画分量とも言え、また、処理後の乾燥菌体重量は、測定時不溶性画分量とも言える。
【0108】
自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、酵母液中の遊離アミノ酸分析を行った。
【0109】
また、コントロールとして、市販のドライイーストを、5%(w/v)となるように水で懸濁し、6時間置いて、得た酵母の懸濁液を、電界を印加することなく、45℃で0〜24時間保持することで酵母の自己消化を行った。自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、自己消化率を求めた。
【0110】
また、比較試験として、市販のドライイーストを、5%(w/v)となるように水で懸濁し、酵母の自己消化を促進するための薬品として酢酸エチルを、3.3ml/Lとなるように添加した後、6時間置いて、得た酵母の懸濁液を、電界を印加することなく、45℃で0〜24時間保持することで酵母の自己消化を行った。自己消化後の酵母の懸濁液(酵母液)を、80℃に熱し酵母の不活化処理を行った。その後、自己消化率を求めた。
【0111】
図11(A)は、酵母の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。グラフ(a)は、ドライイーストの高電界処理の場合、グラフ(b)は、酢酸エチルを添加した場合、グラフ(c)は、コントロールの場合を示す。横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、自己消化率(%)である。
【0112】
図11(A)に示すように、ドライイーストの高電界処理においては、いずれの保持時間においても、酢酸エチルを添加した場合より、自己消化率が高かった。特に、グラフ(a)は、急速に自己消化率が高まり、保持時間が6時間程度でも、25%以上の高い自己消化率を得られた。
【0113】
(試験F2)
また、保持時間を、上記試験F1での0〜24時間より長期間である0〜72時間として、試験F1と同様の試験を行った。図11(B)は、酵母の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。グラフ(a)は、ドライイーストの高電界処理の場合、グラフ(b)は、酢酸エチルを添加した場合、グラフ(c)は、コントロールの場合を示す。横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、自己消化率(%)である。
【0114】
図11(B)に示すように、ドライイーストの高電界処理においては、保持時間が、24時間程度で、自己消化率が50%程度となった。なお、一般的な酵母の自己消化率の到達値は、50%程度と考えられている。
【0115】
(試験G1)
酵母をドライイースト(乾燥酵母)から生イースト(圧搾酵母)に代えて、試験F1と同様の試験を行った。
【0116】
図12(A)は、酵母の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。グラフ(a)は、生イーストの高電界処理の場合、グラフ(b)は、酢酸エチルを添加した場合、グラフ(c)は、コントロールの場合を示す。
【0117】
図12(A)に示すように、生イーストの高電界処理においては、いずれの保持時間においても、酢酸エチルを添加した場合より、自己消化率が高かった。特に、グラフ(a)は、急速に自己消化率が高まり、保持時間が6時間程度でも、十分な自己消化率を得られた。
【0118】
(試験G2)
また、保持時間を、上記試験G1での0〜24時間より長期間である0〜72時間として、試験G1と同様の試験を行った。図12(B)は、酵母の自己消化率と保持時間の関係を示すグラフである。グラフ(a)は、生イーストの高電界処理の場合、グラフ(b)は、酢酸エチルを添加した場合、グラフ(c)は、コントロールの場合を示す。横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、自己消化率(%)である。
【0119】
図12(B)に示すように、生イーストの高電界処理においては、保持時間が、24時間程度で、自己消化率が50%程度となった。
【0120】
(試験F2、試験G2の遊離アミノ酸分析結果について)
上記試験F2、試験G2の遊離アミノ酸分析結果について、図13図16を参照しながら、以下に説明する。
【0121】
図13は、試験F2、試験G2の総遊離アミノ態窒素量のグラフを示す図であり、図14は、試験F2、試験G2の分岐鎖アミノ酸の量のグラフを示す図である。また、図15は、試験F2、試験G2のグルタミン酸の量のグラフを示す図であり、図16は、試験F2、試験G2のグルタミンの量のグラフを示す図である。いずれの図においても、(A)は、試験F2(ドライイースト)の場合、(B)は、試験G2(生イースト)の場合を示す。また、各図において、グラフ(a)は、高電界処理の場合、グラフ(b)は、酢酸エチルを添加した場合、グラフ(c)は、コントロールの場合を示す。
【0122】
図13において、横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、総遊離アミノ態窒素量(mg/mL)である。図13に示すように、図13(A)のドライイースト、図13(B)の生イーストのいずれの場合も、グラフ(a)の高電界処理の場合において、総遊離アミノ態窒素量の急速な上昇が確認できた。特に、グラフ(b)の酢酸エチルを添加した場合と比較し、短い保持時間での総遊離アミノ態窒素量の増加を確認することができた。
【0123】
図14において、横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、分岐鎖アミノ酸の量(遊離アミノ酸量(mg/mL))である。図14に示すように、図14(A)のドライイースト、図14(B)の生イーストのいずれの場合も、グラフ(a)の高電界処理の場合において、分岐鎖アミノ酸の量(遊離アミノ酸量)の急速な上昇が確認できた。特に、グラフ(b)の酢酸エチルを添加した場合と比較し、短い保持時間での分岐鎖アミノ酸の量(遊離アミノ酸量)の増加を確認することができた。
【0124】
図15において、横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、グルタミン酸の量(遊離アミノ酸量(mg/mL))である。グルタミン酸は、うま味を持つアミノ酸の一種である。図15に示すように、図15(A)のドライイースト、図15(B)の生イーストのいずれの場合も、グラフ(a)の高電界処理の場合において、グルタミン酸の量(遊離アミノ酸量)の急速な上昇が確認できた。特に、グラフ(b)の酢酸エチルを添加した場合と比較し、短い保持時間でのグルタミン酸の量(遊離アミノ酸量)の増加を確認することができた。
【0125】
図16において、横軸は、保持時間(hr)、縦軸は、グルタミンの量(遊離アミノ酸量(mg/mL))である。図16に示すように、図16(A)のドライイースト、図16(B)の生イーストのいずれの場合も、グラフ(a)の高電界処理の場合において、グルタミンの量(遊離アミノ酸量)の急速な上昇が確認できた。特に、グラフ(b)の酢酸エチルを添加した場合と比較し、短い保持時間でのグルタミンの量(遊離アミノ酸量)の増加を確認することができた。
【0126】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0127】
例えば、実施例1等では、酵母の懸濁液を6時間置いた後、試験A〜E1、E2を行ったが、これは懸濁液のばらつきを抑制し、各試験の比較をより精度良く行うためのものであり、必須のものではない。例えば、酵母の懸濁液を調整した直後に、電界処理を行ってもよい。酵母の懸濁液を調整した直後の電界処理によっても、アミノ酸量が増加することを確認している。
【0128】
また、実施例1等では、電界処理後の酵母の懸濁液を、45℃で6時間保持することで酵母の自己消化を行ったが、保持温度および保持時間は、これに限定されるものではない。保持温度としては、64℃以下で適宜調整可能である。また、保持時間は、大きくなるほど、アミノ酸量が増加する傾向にあるが、保持時間0時間でも、アミノ酸量の増加を確認している。また、保持時間が、0時間から6時間へと増加するにしたがって、アミノ酸量は増加する。
【0129】
また、実施例1等では、酵母を懸濁するための液として、例えば、イオン交換水を用いたが、他の溶媒を用いてもよい。さらに、懸濁液の導電率の調整のため、懸濁液に、塩類(例えば、NaCl)や糖などを添加してもよい。
【符号の説明】
【0130】
10 ホッパ
13 電界印加装置
15 熱交換器
17 恒温槽
23 電界印加装置
EL1 電極
EL2 電極
IL 絶縁体
IN 流入口
OUT 流出口
P ポンプ
R 流路
R1 管
R2 管
REL1 リング電極
REL2 リング電極
REL3 リング電極
U 電源ユニット
図1
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図3
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図5
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