(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を適用した一実施形態であるカーボンナノチューブ分散液、及びその調製方法(製造方法)について、このカーボンナノチューブ分散液を用いて形成した薄膜と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
<カーボンナノチューブ分散液>
先ず、本発明を適用した一実施形態であるカーボンナノチューブ分散液の構成について説明する。
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液(CNT分散液)は、カーボンナノチューブ(CNT)と、極性溶媒と、多糖類を含む第1分散剤と、ステロイド構造を有する化合物を含む第2分散剤とを含有して、概略構成されている。
【0021】
(カーボンナノチューブ)
本実施形態のCNT分散液に適用可能なカーボンナノチューブとしては、極性溶媒に分散させることが可能であり、基材の表面に塗膜を形成した後に乾燥して溶媒を除去した際にCNTネットワークを形成することが可能であれば、特に限定されるものではない。上記CNTネットワークを形成することで基材に付与したい特性に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
このようなカーボンナノチューブとしては、具体的には、炭素によって作られる六員環ネットワーク(グラフェンシート)が単層の同軸管状となった単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube:SWNT)、上記グラフェンシートが二層の同軸管状となった二層カーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotube:DWNT)、及び多層の同軸管状となった多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube:MWNT)が挙げられる。
【0023】
カーボンナノチューブの層数は、特に制限はないが、3〜50層の範囲であることが好ましく、生産性の観点から4〜12層の範囲であることがより好ましい。ここで、カーボンナノチューブの層数が3層以上であると、カーボンナノチューブの強度が高くなるため、極性溶媒中に分散させる際にカーボンナノチューブが折れにくくなる効果が得られる。また、カーボンナノチューブの層数が50層以下であると、例えば本実施形態のCNT分散液を透明導電膜の形成に適用した際に透明性が損なわれないという効果が得られる。
【0024】
カーボンナノチューブの長さは、特に制限はないが、カーボンナノチューブの長さが30〜5000μmであることが好ましく、生産性の観点から50〜600μmであることがより好ましい。ここで、カーボンナノチューブの長さが30μm以上であると、30μm未満の短尺のカーボンナノチューブと比べて少ない添加量であってもCNTネットワークを容易に形成することができる。また、カーボンナノチューブの長さが5000μm以下であると、極性溶媒中での均一分散が容易となるために好ましい。
【0025】
また、カーボンナノチューブの径(直径)は、カーボンナノチューブの層数に大きく依存するものであるが、直径が1〜80nmであることが好ましく、4〜20nmであることがより好ましい。これらの中でも、直径が4nm以上のカーボンナノチューブを適用すると、本実施形態のCNT分散液中でより折れにくいという効果が得られる。
【0026】
また、カーボンナノチューブのアスペクト比(上述したカーボンナノチューブの長さを直径で除した比率)は、375以上であることが好ましく、2500以上がより好ましい。ここで、カーボンナノチューブのアスペクト比が375以上であると、カーボンナノチューブに機械的なシェアをかけて分散液を作製する際に折れにくいという効果が得られる。
【0027】
また、カーボンナノチューブの結晶性は、良いことが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブの結晶性の指標である「G/D」が0.8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。ここで、上記「G/D」が12以上のカーボンナノチューブは、その構造中に欠陥となる5員環や7員環が少ないため、分散時の折損を低減することができるため、好ましい。
【0028】
上記「G/D」は、例えば、励起波長632.8nmで得られるラマンスペクトルにおいて、波数1580cm
−1付近に出現するグラファイト構造に起因するピークであるGバンドに出現するピークの強度I
Gと、波数1360cm
−1付近に出現する各種欠陥に起因するピークであるDバンドに出現するピークの強度I
Dとの比である。また、上記「G/D」は、市販のラマン分光分析装置を用いて算出することができる。なお、カーボンナノチューブでは、上記Gバンドのピークの分裂が観測されることがあるが、この場合、ピーク強度I
Gとして高い方のピーク高さを採用すればよい。
【0029】
(カーボンナノチューブの製造方法)
本実施形態のCNT分散液に適用可能なカーボンナノチューブの製造方法としては、特に限定されるものではないが、基板に形成された触媒層上にバンドルを成して垂直配向するように作製することが好ましい。具体的には、例えば、炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法(アーク放電法)、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法(レーザー蒸発法)、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法(化学的気相成長法:CVD(Chemical Vapor Deposition)法)、熱分解法、プラズマ放電を利用する方法等を用いて、所要のカーボンナノチューブを作製することができる。これらの中でも、長尺のカーボンナノチューブを製造する観点で、化学的気相成長法(CVD法)が好ましい。
【0030】
上述した好ましい態様のカーボンナノチューブの製造方法について、化学的気相成長法(CVD法)を用いた場合を一例として、以下に詳細に説明する。
【0031】
先ず、基板上にカーボンナノチューブを成長させるための触媒層を形成する。
基板としては、特に限定されるものではないが、複数の触媒粒子から構成される触媒層を支持可能な基板であることが好ましく、触媒が流動化・粒子化する際にその動きを妨げない平滑度を有する基板であることが好ましい。また、基板の材質としては、特に限定されるものではないが、触媒金属に対する反応性が低い材料であることが好ましい。このような基板としては、具体的には、例えば、平滑性や価格の面、耐熱性の面で優れた単結晶シリコン基板が挙げられる。
【0032】
なお、基板として単結晶シリコン基板を用いる場合、基板の表面に化合物が形成されることを防止するために、基板の表面を酸化処理、又は窒化処理することが好ましい。これにより、単結晶シリコン基板の表面には、シリコン酸化膜(SiO
2膜)、又はシリコン窒化膜(Si
3N
4膜)が形成される。また、単結晶シリコン基板の表面に、反応性の低いアルミナ等の金属酸化物からなる被膜を形成した後、この被膜上に触媒層を形成してもよい。
【0033】
触媒層を構成する触媒粒子としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属粒子を用いることができる。また、触媒粒子としては、一種の金属からなる単一触媒を用いることが好ましく、鉄一元系を用いることがより好ましい。これにより、欠陥が少ないカーボンナノチューブを形成することが可能となる。
【0034】
触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、0.5〜100nmの範囲で設定することが好ましく、0.5〜15nmの範囲で設定することがより好ましい。ここで、触媒層の厚さが0.5nm以上であれば、基板の表面に均一な厚さの触媒層を形成することができる。また、触媒層の厚さが15nm以下であれば、800℃以下の加熱温度によって粒子化することができる。
【0035】
触媒層の形成方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、スパッタ法や真空蒸着法等によって基板上に金属を堆積させる方法や、基板上に触媒溶液を塗布して塗布層を形成後に加熱し乾燥させる方法が挙げられる。
【0036】
なお、触媒溶液としては、例えば、ニッケル、コバルト、鉄等の金属のうちの1種、またはニッケル、コバルト、鉄等の金属錯体の化合物のうちの1種を含んだ触媒溶液を用いることができる。
【0037】
また、触媒溶液を基板上に塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコーター法、インクジェット法、スリットコータ法等が挙げられる。
【0038】
塗布層の加熱は、例えば、減圧下または非酸化雰囲気下で、500℃〜1000℃の温度範囲で行うことが好ましく、650〜800℃の温度範囲で行うことがより好ましい。これにより、直径が0.5〜50nm程度の、複数の触媒粒子から構成される触媒層を形成することができる。
【0039】
次に、CVD法により、高温雰囲気中で原料ガスを供給し、触媒粒子を核としてカーボンナノチューブを成長させる。この際、複数のカーボンナノチューブは、基板に対して垂直配向するように形成される。カーボンナノチューブの形成温度は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、500℃〜1000℃の範囲とすることが好ましく、650〜800℃の範囲とすることがより好ましい。
【0040】
ここで、カーボンナノチューブ1本の長さは、原料ガスの添加量、合成圧力、CVD装置のチャンバー内での反応時間によって調整することができる。CVD装置のチャンバー内での反応時間を長くすることにより、カーボンナノチューブの長さを数mm程度まで伸ばすことができる。
【0041】
また、カーボンナノチューブ1本の太さは、触媒層を構成する触媒粒子径を小さくすることで、カーボンナノチューブの直径を小さくすることができる。これに対して、触媒層を構成する触媒粒子径を大きくすることで、カーボンナノチューブの直径を大きくすることができる。
【0042】
カーボンナノチューブの合成・成長に使用する原料ガスとしては、例えば、アセチレン、メタン、エチレン等の脂肪族炭化水素のガスを用いることができる。これらのうち、アセチレンガスが好ましく、さらにアセチレン濃度が99.9999%以上の超高純度のアセチレンガスがより好ましい。
【0043】
なお、原料ガスとしてアセチレンガスを用いると、核となる触媒粒子から多層構造で直径が0.5〜50nmの複数のカーボンナノチューブが、基板に対して垂直、かつ一定方向に配向成長する。また、原料ガスとして超高純度のアセチレンガスを用いることで、品質の良いカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0044】
次に、例えばステンレス製のスクレーパー等を用いて、触媒層上に形成された複数のカーボンナノチューブを剥ぎ取ることで、カーボンナノチューブを回収する。この段階では、複数のカーボンナノチューブは、バンドルを形成しており、1本1本のカーボンナノチューブに分かれてはいない。なお、本明細書中では、複数のカーボンナノチューブがバンドルを形成した状態のものを「カーボンナノチューブバンドル」といい、「CNTB」と略称することがある。
【0045】
(極性溶媒)
本実施形態のCNT分散液に適用可能な極性溶媒としては、使用する第1分散剤及び第2分散剤を溶解することが可能であり、これらとの組み合わせでカーボンナノチューブバンドル(CNTB)を構成するカーボンナノチューブ同士の隙間に浸透して当該カーボンナノキューブを孤立状態で分散させ得るものであれば特に限定されない。
【0046】
このような極性溶媒としては、水、アルコール系溶媒、及びケトン系溶媒のうち、いずれか1種を含むもの、またはこれらのうち少なくとも2種類以上の混合溶媒が挙げられる。ここで、アルコール系溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等が挙げられる。また、ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0047】
(第1分散剤)
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液に適用可能な第1分散剤は、多糖類を含む。第1分散剤に含まれる多糖類は、セルロースである。セルロースは、カーボンナノチューブと類似した炭素の環状構造を有するためにカーボンナノチューブの六員環との相溶性が良く、ヒドロキシル基も有するために極性溶媒との相溶性も良いため、CNT分散液中では環状構造をカーボンナノチューブ側に向け、ヒドロキシル基を極性溶媒側に向けて存在する。第1分散剤は、カーボンナノチューブのバンドルを開繊して、極性溶媒中にカーボンナノチューブの分散状態を得ることが可能な分散剤である。
【0048】
セルロースとしては、極性溶媒中でカーボンナノチューブを孤立分散状態にできるものであれば、特に限定されるものではない。このようなセルロースとしては、具体的には、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、オキシエチルセルロース、アミノエチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、トリメチルセルロース、ベンジルセルロース等が挙げられる。また、これらのセルロースの誘導体を第1分散剤として用いても良い。
【0049】
セルロースの数平均分子量は、特に制限されるものではなく、分散液に用いるカーボンナノチューブの長さに応じて適宜選択することができる。長さ50μm以上の長尺カーボンナノチューブを分散させる場合、セルロースの数平均分子量は、100,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、300,000〜600,000の範囲であることがより好ましい。セルロースの数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると、カーボンナノチューブの表面全体にセルロースを被覆させて溶媒中に該カーボンナノチューブを単分散させる際に、溶媒中へセルロースの添加量を抑制することができる。また、セルロースの数平均分子量が上記範囲の上限値以下であると、溶媒に対するセルロースの溶解性の悪化を防ぐことができる。
【0050】
(第2分散剤)
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液に適用可能な第2分散剤は、ステロイド構造を有する化合物を含む。第2分散剤に含まれる、ステロイド構造を有する化合物は、コレステロール(C
27H
46O)である。コレステロールは、硬くてほぼ平面のステロイド骨格(ステロイド環)と柔らかいアルキル基とを有しており、生体膜を構成する分子の一つである。
【0051】
以下、第2分散剤の機能について説明する。生体膜は、両親媒性分子のリン脂質が配列され、二分子膜を形成している。コレステロールは、リン脂質同士の間にうまく割り込み、ステロイド環がリン脂質とリン脂質とを疎水性の相互作用によって糊のように繋ぐ作用を奏する。このように、コレステロールがあることで、生体膜の構造が維持される。また、アルキル基の働きによって生体膜の流動性を保つことが可能であり、コレステロールは生体膜の安定性の維持に役立っている。さらに、生体膜の温度が上昇すると分子運動が活発になり、生体膜が崩壊する危険があるが、コレステロールがあることで、生体膜の流動性を低下させる効果も奏する。
【0052】
ところで、CNT分散液をPETフィルムなどの基材に塗布し溶媒を乾燥させると、場所による溶媒の乾燥速度の違いによって、基材上に、乾燥が速く進行する領域と乾燥が不十分な領域との分布ができる。乾燥が速く進行する領域のカーボンナノチューブは、溶媒中に存在するほうがエネルギー的に安定のため、乾燥が不十分な領域へと移動する性質がある。この性質により、乾燥が不十分な領域において、溶媒中でカーボンナノチューブが動きまわり、該カーボンナノチューブの凝集が生じる。ある程度の乾燥状態になると、乾燥が不十分な領域において、溶媒中のカーボンナノチューブと分散剤の濃度が高まり、粘度があがったところで凝集が停止する。これにより、基材状に局所的なCNTネットワークが形成されるため、均一なカーボンナノチューブ薄膜を形成させることが困難となる。
【0053】
この現象を鑑み、カーボンナノチューブの外層を被覆したセルロース(第1分散剤)構造体にコレステロール(第2分散剤)を添加すると、先に説明した生体膜構造におけるコレステロールの作用と類似の現象が生じる。すなわち、極性溶媒中に分散しているセルロース(第1分散剤)構造体に被覆されたカーボンナノチューブ同士の間にコレステロール(第2分散剤)が入り込む。これにより、第2分散剤を添加したCNT分散液を乾燥させた際に、溶媒の乾燥と同時に増粘作用を発揮し、分散しているカーボンナノチューブ同士が接近して再度凝集することを防ぐ効果を奏する。
【0054】
また、第2分散剤としてコレステロールを添加したカーボンナノチューブ分散液によれば、基材の表面に塗布して塗布膜を形成後、これを加温乾燥させた場合であっても、塗布膜の流動性が低下するため、分子運動が抑制されてカーボンナノチューブ同士が接近して凝集するリスクを低減することができる。したがって、基材の表面上に均一に分散した状態のCNTネットワークを得ることができる。
【0055】
(カーボンナノチューブ分散液)
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの濃度が0.1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。分散液中のカーボンナノチューブの濃度を0.1質量%未満とすることで、カーボンナノチューブの長さをある程度維持した状態で分散液中に均一に分散させることができる。
【0056】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、第1分散剤である多糖類(セルロース)が、カーボンナノチューブに対して質量比で5〜60倍の範囲で含まれることが好ましく、15〜30倍の範囲で含まれることがより好ましい。CNT分散液中に第1分散剤を好ましい範囲で含むことにより、長さが30μm以上の長尺カーボンナノチューブであっても、外側の表面(外層)に当該多糖類(セルロース)を約5〜8nm程度の厚さで被覆することができる。これにより、その静電反発の作用によってカーボンナノチューブの凝集束(バンドル)を開繊し、極性溶媒中に長尺カーボンナノチューブを分散させることができる。
【0057】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、第2分散剤であるステロイド構造を有する化合物(コレステロール)が、カーボンナノチューブに対して質量比で1〜3倍含まれることが好ましい。CNT分散液中の第2分散剤の含有量が上記範囲の下限値以上であると、CNT分散液を基材の表面に塗布して塗布膜を形成した後、加温し乾燥させて溶媒を除去してCNT薄膜を形成する際、第2分散剤(コレステロール)の化学構造がうまく寄与し、塗布膜の流動性が低下するため、CNTの凝集リスクを低減することができる。これにより、CNT分散液中におけるカーボンナノチューブの均一分散の状態を維持したまま、基材の表面に均一なカーボンナノチューブネットワークを形成することができる。一方、第2分散剤の含有量が上記範囲の上限値以下であると、該第2分散剤の添加によるCNT分散液の粘度の上昇を抑制して、これによるカーボンナノチューブの凝集を防ぐことができる。
【0058】
本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の粘度は、1〜1000cP(0.001〜1Pa・s)の範囲であることが好ましく、10〜100cP(0.01〜0.1Pa・s)の範囲であることがより好ましい。CNT分散液の粘度が上記範囲の下限値以上であると、超音波分散などのキャビテーションによる衝撃により、CNT同士の隙間に存在する空気を追い出し、第1分散剤を溶媒とともに浸透させることが可能である。バンドルを構成するCNTのすべての面を分散剤で覆うことで、CNTに被覆した分散剤同士の静電反発や立体障害の効果によって、溶媒中にCNTを単分散させることができる傾向があり、上記範囲の上限値以下であると、キャビテーションによる分散効果を発揮しやすい傾向がある。なお、CNT分散液の粘度は、市販の粘度計(ビステック社製、「VISCOLEAD ONE」を用いて測定することができる。
【0059】
上述したように、本実施形態の好ましい態様のカーボンナノチューブ分散液は、極性溶媒中に第1分散剤である多糖類(セルロース)がカーボンナノチューブに対して質量比で5〜60倍の範囲で添加され、第2分散剤であるステロイド構造を有する化合物(コレステロール)がカーボンナノチューブに対して質量比で1〜3倍の範囲で添加され、3層以上の層数、30μm以上の長さ、及び375以上のアスペクト比を有するカーボンナノチューブが0.1質量%未満の濃度で分散されている。このように、カーボンナノチューブの分散剤として上記第1及び第2分散剤を併用するとともに、上記質量比となるように調製することで、長さが30μm以上の長尺カーボンナノチューブを均一分散させ、且つその分散状態を安定させることができる。
【0060】
なお、本明細書において、「均一分散」とは、理想的には、分散液中のほぼ全量のカーボンナノチューブがバンドル(または「束」)になることなく、かつ、物理的に絡み合うこともなく、1本1本が独立し、隣り合うカーボンナノチューブが一定距離を保ちながら溶媒中に浮遊している状態のことであり、ゼータ電位を測定した際の数値の絶対値が30mVより大きな値になる状態のことをいう。また、ゼータ電位は、市販のゼータ電位測定システム装置(大塚電子社製、「ELSZ−1000」)を用いて、電気泳動光散乱法にて測定することができる。
【0061】
ところで、カーボンナノチューブは、その形状からファンデルワールス力による凝集力が強く、バンドル化し易い。また、カーボンナノチューブが太いバンドルを形成すると、結果として導電性が悪くなってしまう。上述したように、本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブが均一分散していることを基本とするが、局所的に大きなバンドルが存在していてもよい。CNT分散液中にバンドルが存在する場合、カーボンナノチューブの平均バンドル数は、10本以下であることが好ましく、5本以下であることがより好ましい。
【0062】
<カーボンナノチューブ分散液の調製方法>
次に、上述した本実施形態のカーボンナノチューブ分散液の調製方法(製造方法)について説明する。
【0063】
先ず、調製予定のカーボンナノチューブの濃度となるように、所要量の極性溶媒を用意する。次いで、添加する予定のカーボンナノチューブの質量に対して、5〜60倍の範囲となるように、第1添加剤を秤量する。次に、極性溶媒に第1分散剤を加えて、超音波ホモジナイザー等を用いて撹拌し、第1分散剤溶液を作製する。
【0064】
次に、作製した第1分散剤溶液に、0.1質量%未満の濃度となるように複数のカーボンナノチューブ(具体的には、複数のCNTB)を加えて、超音波ホモジナイザー等を用いて撹拌する。これにより、第1分散剤溶液中において、複数のカーボンナノチューブのバンドル群の開繊化が進み、CNTが極性溶媒中に分散されることとなる。
【0065】
ところで、上述したように、基板上に結晶成長した配向CNTを基板から剥離した際、複数のCNTがバンドルを形成したCNTBの状態である。CNTBのサイズは、長さ200μm程度、厚み10μm程度、幅5〜5000μm程度であり、1本のCNT同士の間隔は10〜60nm程度である。溶媒中へCNTを単分散させるためには、CNT同士の隙間(10〜60nm程度)に分散剤を溶媒とともに浸透させ、CNTBを開繊する必要がある。
【0066】
そのため、第1分散剤溶液は、粘度が1〜1000cP(0.001〜1Pa・s)の範囲となるように調整することが好ましい。第1分散剤溶液の粘度が上記範囲の上限値以下であると、超音波分散などのキャビテーションによる衝撃により、CNT同士の隙間に存在する空気を追い出し、第1分散剤を溶媒とともに浸透させることが可能である。バンドルを構成するCNTのすべての面を分散剤で覆うことで、CNTに被覆した分散剤同士の静電反発や立体障害の効果によって、溶媒中にCNTを単分散させることができる。なお、超音波分散以外による方法によって、CNT間に分散剤および溶媒を浸透させてもよい。例えば、溶媒に圧力をかける手法も適用が可能である。
【0067】
次に、添加したカーボンナノチューブの質量に対して1〜3倍の範囲となるように、第2添加剤を秤量する。次いで、CNTが分散された第1分散剤溶液に第2分散剤を加えて、超音波ホモジナイザー等を用いて撹拌する。
このようにして、本実施形態のカーボンナノチューブ分散液を作製する。
【0068】
<CNT薄膜の形成方法>
次に、上述した本実施形態のカーボンナノチューブ分散液を使用した、カーボンナノチューブのネットワーク(CNTネットワーク)が形成された薄膜(CNT薄膜)の形成方法について説明する。
【0069】
具体的には、先ず、本実施形態のカーボンナノチューブ分散液を基材の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成する。
【0070】
適用可能な基材としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、PETフィルム、PENフィルム、ガラス基板等が挙げられる。
【0071】
カーボンナノチューブ分散液の塗布方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、バーコート、ディップコート、スプレーコート、スリットコート、ダイコート、グラビア印刷等が挙げられる。
【0072】
塗布膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、具体的には塗布時の膜厚が2〜100μmの範囲とすることが好ましい。塗布膜の膜厚を上記範囲とすることにより、後述する塗布膜の乾燥時におけるカーボンナノチューブの凝集リスクをより低減することができる。
【0073】
次に、塗布膜を加温(加熱)、乾燥して、塗布膜中の溶媒を除去する。ここで、塗布膜の乾燥方法としては、特に限定されるものではなく、具体的には、例えば、恒温乾燥機等を用いた乾燥方法等が挙げられる。また、加温(加熱)条件としては、特に限定されるものではなく、カーボンナノチューブ分散液に用いた極性溶媒の沸点に応じて適宜選択することができる。
【0074】
上述したように、塗布膜を乾燥する際、第2分散剤(コレステロール)の化学構造がうまく寄与し、塗布膜の流動性が低下するため、CNTの凝集が抑制される。具体的には、CNTバンドル数が5本未満のものが全体の50%以上となるようにCNTの凝集が抑制されることが好ましく、70%以上となることがより好ましい。
【0075】
(分散剤の除去)
ところで、PETフィルム等の基材上にCNT分散液を塗布・乾燥して形成されるCNT薄膜は、当該薄膜中のカーボンナノチューブの表面が、絶縁性の分散剤(第1分散剤、及び第2分散剤)によって被覆されており、カーボンナノチューブ本来の高導電性を発揮できない。そのため、基材上にCNT分散液を塗布・乾燥した後で、カーボンナノチューブを被覆する分散剤を除去する。
【0076】
分散剤の除去方法としては、特に限定されるものではないが、溶液浸漬法、コロナ処理、プラズマ処理、UV照射、光焼成法等が挙げられる。一例によれば、基材上に形成されたCNT薄膜をイオン交換水中に5分程度浸漬させることで、イオン交換水中にCNTを被覆する分散剤(第1分散剤、及び第2分散剤)のみを溶解させることができる。分散剤を除去した後、乾燥することで、分散剤の除去前よりも表面抵抗値を改善することができる。
【0077】
以上のようにして、CNT分散液中におけるカーボンナノチューブの均一分散の状態を維持したまま、基材の表面に均一なカーボンナノチューブネットワークが形成された薄膜(CNT薄膜)を形成することができる。このように形成されたCNT薄膜によれば、カーボンナノチューブのネットワークが導電パスとなるため、基材に導電性を付与することができる。
【0078】
<透明導電膜>
上述したCNT薄膜を形成する際、PETフィルム、PENフィルム、ガラス基材等の透明な基材上に、CNT分散液を塗布・乾燥させることで、透明基材上にCNTネットワークを形成することができる。その際、CNT分散液の濃度と塗布膜厚とを適宜調整することにより、透明基材の透明性を維持した状態で導電性を付与した透明導電膜を作製することができる。例えば、カーボンナノチューブの濃度が0.05質量%のCNT分散液を20μm程度成膜した後、分散剤を除去することで、全光線透過率86%程度、表面抵抗値1000Ω/□程度の透明導電膜が得られる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態のカーボンナノチューブ分散液によれば、極性溶媒中にカーボンナノチューブ、多糖類を含む第1分散剤、及びステロイド構造を有する化合物を含む第2分散剤を含有する構成であるため、極性溶媒中に均一にカーボンナノチューブを分散させることができる。
【0080】
また、本実施形態のカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブに対して質量比で1〜3倍となるように第2分散剤を含んでいるため、基材の表面の少なくとも一部に塗膜を形成した後、当該塗膜を乾燥して溶媒を除去する際に、カーボンナノチューブの凝集を抑制することができる。したがって、分散液中における高い分散状態を維持したまま、基材の表面にCNTネットワーク(CNT薄膜)を形成することができる。
【0081】
特に、層数が3層以上、長さが30μm以上、かつアスペクト比が375以上の長尺のカーボンナノチューブであっても、カーボンナノチューブを凝集させることなく基材の表面にCNTネットワークを形成することができる。さらに、より少ない添加量であっても、基材に対して優れた導電性を付与することができる。
【0082】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
(実施例)
【0083】
以下、本発明の効果について、実施例及び比較例によって詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例の内容に限定されるものではない。
【0084】
先ず、下記に示す第1工程〜第4工程の処理を実施して、カーボンナノチューブを作製した。また、作製したカーボンナノチューブについてラマンスペクトルを測定し、Gバンドに出現するピークの強度I
Gと、Dバンドに出現するピークの強度I
Dとの比(=G/D)とを取得した。
【0085】
[第1工程:カーボンナノチューブの作製]
厚さ1000Åの酸化膜(SiO
2膜)が形成された6インチサイズのシリコン基板を用意した。次いで、スパッタ法によってSiO
2膜上に鉄触媒を3.0nmの厚さで堆積させた。次いで、鉄触媒が形成されたシリコン基板を石英製の反応炉内に設置し、該反応炉内にN
2を導入し、不活性雰囲気下において、赤外線加熱ヒーターにより該シリコン基板を720℃まで加熱した。
【0086】
次に、上記シリコン基板の温度が720℃に達した時点で、上記反応炉内にC
2H
2を、C
2H
2:N
2=45:55になるように導入し、CVD処理を60秒行い、シリコン基板上に総重量68mg、平均長さ102μm、外径がφ4.0nm〜φ20nmで平均φ13nm、層数が4層〜12層で平均8層の複数のカーボンナノチューブ(この段階では複数のカーボンナノチューブはバンドルを形成している)を得た。
【0087】
[第2工程:カーボンナノチューブの剥離]
樹脂製のスクレーパーにて、上記シリコン基板上に成長した複数のカーボンナノチューブ(この段階では複数のカーボンナノチューブはバンドルを形成している)を回収した。
【0088】
[第3工程:アモルファス層の除去]
次に、得られた複数のカーボンナノチューブをカーボン製のるつぼに充填した。その後、複数のカーボンナノチューブが充填されたカーボン製のるつぼを高温カーボン製電気炉(丸祥電器株式会社製)に挿入し、複数のカーボンナノチューブに対し2600℃にて10分間の熱処理を実施し、カーボンナノチューブの結晶構造に変化を与えることなく、不純物であるカーボンナノチューブ表層のアモルファス(非結晶のカーボン)を除去した。
【0089】
[第4工程:結晶度評価]
上記アモルファスを除去したカーボンナノチューブについて、ラマンスペクトルを測定し、励起波長632.8nmで得られるGバンドに出現するピークの強度I
GとDバンドに出現するピークの強度I
Dとの比からG/Dを測定した。この測定の結果、アモルファスを除去したカーボンナノチューブのG/Dは測定した全てのデータが10以上で、平均12であることが分かった。
【0090】
次に、作製したカーボンナノチューブを用い、下記に示す第5工程〜第6工程の処理を実施して、実施例1〜2及び比較例1〜2のカーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0091】
[第5工程:カーボンナノチューブ分散液原料の作製]
(実施例1〜2及び比較例1〜2)
多糖類(第1分散剤)として、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、「HPC」と略記する)306mg(カーボンナノチューブ質量比30倍)をエタノール20g中に加え、超音波ホモジナイザーを用いて10分間分散させて、第1分散剤溶液を作製した。次いで、第1分散剤溶液に、上記第1〜第4工程によって作製したカーボンナノチューブ10.2mgを加え、超音波ホモジナイザーを用いて15分間分散させて、カーボンナノチューブの分散濃度が0.05質量%のカーボンナノチューブ分散液原料を作製した。
【0092】
[第6工程:カーボンナノチューブ分散液の作製]
(実施例1)
上記第5工程で作成したカーボンナノチューブ分散液原料に、ステロイド骨格を有するコレステロール(第2分散剤)10.2mg(カーボンナノチューブの質量比:1倍)を加え、超音波ホモジナイザーを用いて15分間分散させて、実施例1のカーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0093】
(実施例2)
上記第5工程で作成したカーボンナノチューブ分散液原料に、ステロイド骨格を有するコレステロール(第2分散剤)30.6mg(カーボンナノチューブの質量比:3倍)を加え、超音波ホモジナイザーを用いて15分間分散させて、実施例2のカーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0094】
(比較例1)
上記第5工程で作成したカーボンナノチューブ分散液原料に、ステロイド骨格を有するコレステロール(第2分散剤)添加せずに、比較例1のカーボンナノチューブ分散液とした。
【0095】
(比較例2)
上記第5工程で作成したカーボンナノチューブ分散液原料に、ステロイド骨格を有するコレステロール(第2分散剤)51.0mg(カーボンナノチューブの質量比:5倍)を加え、超音波ホモジナイザーを用いて15分間分散させて、比較例2のカーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0096】
次に、作製した実施例1〜2及び比較例1〜2のカーボンナノチューブ分散液を用い、下記に示す第7工程〜第8工程の処理を実施して、実施例1〜2及び比較例1〜2のカーボンナノチューブ薄膜、及び透明導電膜を作製した。
【0097】
(実施例1〜2、比較例1〜2)
[第7工程:カーボンナノチューブ薄膜の作製]
上記第6工程によって作製した実施例1〜2及び比較例1〜2のカーボンナノチューブ分散液を、PETフィルムの表面に塗布して塗布膜を形成した。CNT分散液の塗布は、バーコーター(番手No.10)を用い、塗布速度2.5m/minで行った。次いで、角型恒温乾燥機を用い、90℃の条件で塗布膜が形成されたPETフィルムを乾燥し、溶媒を除去した。このようにして、PETフィルムの表面上に、実施例1〜2及び比較例1〜2のCNT薄膜を作製した。
【0098】
[第8工程:分散剤の洗浄]
次に、CNT薄膜が形成されたPETフィルムを常温(25℃)のイオン交換水に浸し、分散剤を洗浄除去した。洗浄処理された透明導電膜を、速やかに100℃に加熱された電気炉内に挿入し、1分間の2次乾燥処理を実施した。その後、3mol/Lの硝酸水溶液を準備し、2次乾燥処理された透明導電膜を上記硝酸水溶液に浸し、分散剤を洗浄除去した。硝酸水溶液処理を終了した透明導電膜を常温のイオン交換水に浸し、透明導電膜に付着した硝酸水溶液を洗浄除去した。次いで、透明導電膜を速やかに100℃に加熱された電気炉内に挿入し、1分間の3次乾燥処理を実施することにより、実施例1〜2及び比較例1〜2の透明導電膜を作製した。
【0099】
<評価1:ゼータ電位測定>
実施例1〜2及び比較例1〜2の分散液について、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製、ELSZ−1000)にてゼータ電位を電気泳動光散乱法にて測定し、分散度を評価した。
【0100】
<評価2:粘度測定]
実施例1〜2及び比較例1〜2の分散液については粘度計(ビステック社製、「型式VISCOLEAD ONE」)、塗布膜について光ピックアップ法にて粘度を測定し、塗布膜の流動性の変化を評価した。
【0101】
<評価3:表面抵抗値、全光線透過率>
実施例1〜2及び比較例1〜2の透明導電膜について、低抵抗率計(三菱化学アナリテック製、ロレスタGP)にて表面抵抗値を測定し、導電性を評価した。
また、実施例1〜2及び比較例1〜2のCNT薄膜について、ヘイズメーター(日本電色製、「NDH4000」)にて全光線透過率を測定し、透明性を評価した。
【0102】
<評価4:CNTネットワークの分散性評価>
実施例1〜2及び比較例1〜2の透明導電膜について、走査型電子顕微鏡(SEM;JEOL製、「JSM−7401F」)にて目視観察し、CNT薄膜におけるCNTネットワークの分散状態を評価した。
【0103】
<評価結果>
実施例1〜2及び比較例1〜2のCNT分散液について、作製条件と、ゼータ電位測定、粘度測定、表面抵抗値、及び全光線透過率の評価結果とを下記の表1に示す。
また、CNT分散液をPET基材に塗布・乾燥して作製したCNT薄膜(透明導電膜)のSEM観察の結果を、
図1〜4に示す。
【0105】
表1に示すように、実施例1および実施例2のCNT分散液について、ゼータ電位の測定結果から、コレステロール(第2分散剤)の添加により、値が向上したことから、極性溶媒中のCNTの分散性が向上したことがわかった。さらに、粘度の測定結果から、コレステロール(第2分散剤)の添加により、値が変化しなかったことから、CNT分散液の流動性が維持されていることがわかった。
【0106】
一方、CNT分散液をPET基材に塗布し、90℃で乾燥した際の塗布膜の粘度は、塗布直後の粘度に比べて4倍程度向上したことから、流動性が低下することがわかった。また、乾燥後のCNT薄膜におけるカーボンナノチューブのネットワーク構造は、
図1および
図2に示すように均一な状態であった。
【0107】
比較例1のCNT分散液は、コレステロール(第2添加剤)を添加していないため、CNT分散液をPET基材に塗布し、90℃で乾燥した際の塗布膜の粘度は、塗布直後の粘度と同等であった。また、
図3に示すように、乾燥後のCNT薄膜におけるカーボンナノチューブのネットワーク構造は、実施例1と比較すると凝集したCNTが見られ、透明導電膜としての性能も実施例1および実施例2ほどの性能が得られなかった。
【0108】
比較例2のCNT分散液は、コレステロール(第2添加剤)をCNTの質量比で5倍となるように添加したことで、ゼータ電位の測定結果の値が低下したことから、極性溶媒中のCNTの分散性が低下し、CNTが溶媒中で凝集したことがわかった。また、CNT分散液をPET基材に塗布し、90℃で乾燥した際の塗布膜の粘度は、実施例1と同様に塗布直後に比べて粘度が向上した。
【0109】
また、
図4に示すように、乾燥後のCNT薄膜におけるカーボンナノチューブのネットワーク構造は、実施例1と比較すると凝集したCNTが見られた。また、透明導電膜としての性能も、この凝集CNTに起因して、透明性、導電性ともに実施例1および実施例2に比べて悪くなった。これにより、コレステロール(第2分散剤)の添加量は、CNTに対して質量比で5倍未満とすることが必要であることがわかった。