(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子分散剤(D)は、分子中に少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物、又は分子中に少なくとも1つの窒素原子を有する化合物であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の加熱接合材。
前記金属層を構成する前記バルク材は、前記金属微粒子(P)と同種の金属単体または合金であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加熱接合材。
前記金属層を構成する前記バルク材は、前記金属微粒子(P)と異なる種類の金属単体または合金であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の加熱接合材。
前記高分子分散剤(D)は、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、及びゼラチンからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の加熱接合材。
一方の前記金属接合層に含まれる前記金属微粒子(P)は、他方の前記金属接合層に含まれる前記金属微粒子(P)と同種の金属単体、合金または金属化合物からなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の加熱接合材。
一方の前記金属接合層に含まれる前記金属微粒子(P)は、他方の前記金属接合層に含まれる前記金属微粒子(P)と異なる種類の金属単体、合金または金属化合物からなることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の加熱接合材。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る加熱接合材1を図面に基づいて説明する。
図1は一実施形態に係る加熱接合材1を示す断面図である。
【0026】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る加熱接合材1は、金属のバルク材から形成される金属層2を有しており、金属層2の両面には、金属接合層3が積層されている。金属接合層3は、高分子分散剤(D)に被覆され、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に分散させた分散溶液をフィルム状に成形してなる。
【0027】
なお、加熱接合材1は、金属接合層3を保護するための離型フィルムが、金属接合層3の表面に設けられていてもよい。離型フィルムとしては、公知のものを使用することができる。
【0028】
加熱接合材1は、電子部品等の接合面にあわせて予め所定の大きさや形状に切断されていてもよい。
【0029】
以下、本実施形態の加熱接合材1の各構成要素について詳細に説明する。
【0030】
(1)金属層2
金属層2は、金属のバルク材から形成される。バルク材は、接合材料としての導電性を確保する観点から、金属元素含有量が99質量%以上であることが好ましい。また、バルク材は、一の金属単体で構成されてもよいし、複数の金属からなる合金金で構成されてもよい。金属元素としては、特に限定されるものではないが、金属単体の場合は、例えば、銅、銀、金、白金、およびパラジウムからなる群から選択されることが好ましい。合金の場合は、例えば、銅、銀、金、白金、およびパラジウムの中から選択される少なくとも2種以上から構成されることが好ましい。また、バルク材は、後述の金属微粒子(P)と同種の金属単体または合金であってもよいし、異なる種類の金属単体または合金であってもよい。
【0031】
金属層2は、上述のバルク材をシート状あるいはフィルム状に形成したものであれば、形状や製法は限定されるものではないが、箔が好ましく、銅箔、銅合金箔が特に好ましい。その他、金属メッシュ、金属多孔質体なども用いることができる。
【0032】
金属層2の厚みは、特に限定するものではないが0.05mm〜0.2mmであることが好ましい。金属層2の厚みが0.05mm未満であると、加熱接合材1としての取り扱い性や接合部材としての剛性などの観点から、金属接合層3の厚みを大きくする必要があり、焼結時の有機溶媒(S)の抜けが悪くなり、有機溶媒(S)の残存やボイドが発生するおそれがある。金属層2の厚みが0.2mm超であると、線膨張係数の差に起因して金属接合層3と金属層2を加熱する際に発生する応力が大きくなり、加熱接合材1が割れやすくなるおそれがある。また、金属層2を厚くすることで金属接合層3の厚みを薄くする必要があり、接合強度が低下する原因になると考えられる。
【0033】
(2)金属接合層3
金属接合層3は、高分子分散剤(D)に被覆され、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に分散させた分散溶液をフィルム状に成形してなる。
【0034】
(2−1)高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)
金属微粒子(P)は、特に限定されるものではないが、銅、銀、金、白金、およびパラジウムからなる金属元素群から選ばれる1種の微粒子、前記金属元素群から選ばれる2種以上を混合した微粒子、前記金属元素群から選ばれる2種以上の元素の合金からなる微粒子、前記金属元素群から選ばれる1種の微粒子または前記金属元素群から選ばれる2種以上を混合した微粒子と前記金属元素群から選ばれる2種以上の元素の合金からなる微粒子とを混合した微粒子、これらの酸化物、または、これらの水酸化物等を用いることができる。
【0035】
金属層2の一方側の面に設けられる金属接合層3に含まれる前記金属微粒子(P)は、金属層2の他方側の面に設けられる金属接合層3に含まれる前記金属微粒子(P)と同種の金属単体、合金または金属化合物からなっていてもよいし、異なる種類の金属単体、合金または金属化合物からなっていてもよい。
【0036】
金属微粒子(P)は、加熱処理前の平均一次粒径が5〜500nmであることが好ましく、10〜50nmであることがさらに好ましい。上記金属微粒子(P)の平均一次粒子径が、5〜500nmである場合には、加熱接合材1を加熱処理して、金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、有機溶媒(S)の加水分解反応において、金属微粒子(P)が触媒として作用し、加水分解反応の進行速度を向上させ、金属微粒子(P)の焼結を促進させる効果が期待できる。
【0037】
金属微粒子(P)の平均一次粒子径が、5nm未満である場合には、金属微粒子(P)が酸化され易くなる他、凝集し易くなり、均一に分散され難く、粘度の保存安定性に劣るおそれがある。一方、金属微粒子(P)の平均一次粒子径が、500nmを超える場合には、加熱接合材1を加熱処理して、金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結温度を上げなければならず、緻密性の高い均質な焼結膜を形成することができないおそれがある。
【0038】
ここで「平均一次粒子径」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、観察可能な任意に選択した粒子の一次粒径をそれぞれ測定し、特定の粒径分布範囲にある粒子を対象として、それぞれの一次粒径の測定値の平均を算出する。
【0039】
具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、観察可能な任意に選択した80個の金属微粒子(P)の一次粒径を測定したものである。測定した金属微粒子(P)全体(80個)のうち、一次粒径が小さい方から順に数えて、金属微粒子(P)全体(80個)の5%に相当する金属微粒子(P)(4個)と、一次粒径が大きい方から順に数えて、金属微粒子(P)全体(80個)の5%に相当する金属微粒子(P)(4個)とを除き、残り金属微粒子(P)全体(80個)の90%に相当する金属微粒子(P)(72個)を対象とし、72個の金属微粒子(P)の一次粒径の測定値の平均を算出し、金属微粒子(P)の平均一次粒径とする。
【0040】
(2−2)高分子分散剤(D)
本発明で用いる高分子分散剤(D)は、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面を被覆して、金属微粒子(P)を形成することができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0041】
ここで「被覆」とは、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面の少なくとも一部を覆うものであってもよいし、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面の全体を覆うものであってもよい。
【0042】
本発明で用いる高分子分散剤(D)の数平均分子量は、特に限定されないが、3,000〜5,000であることが好ましい。
【0043】
上記高分子分散剤(D)の数平均分子量が、上記範囲未満である場合には、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面を好適に被覆させることができず、金属微粒子(P)の粒径がナノサイズよりも大きくなるおそれがあり、サイズ効果による焼結性の向上を期待できなくなる。
【0044】
一方、上記高分子分散剤(D)の数平均分子量が、上記範囲を超える場合には、加熱処理により金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結膜内に高分子分散剤(D)が残留し、電気抵抗を高める原因となるおそれがある。
【0045】
本発明で用いる高分子分散剤(D)は、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面を好適に被覆させる観点から、分子中に少なくとも1つのカルボニル基を有する化合物、又は分子中に少なくとも1つの窒素原子を有する化合物であることが好ましい。
【0046】
本発明で用いる高分子分散剤(D)としては、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面を好適に被覆させることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、デンプン、およびゼラチン等が挙げられ、これらの中から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0047】
本発明で用いる、高分子分散剤(D)と高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)との重量比(D/P)は、特に限定されないが、0.2〜0.5の範囲にあることが好ましい。
【0048】
上記高分子分散剤(D)と金属微粒子(P)との重量比(D/P)が、上記範囲未満である場合には、高分子分散剤(D)の割合が少な過ぎ、金属微粒子(P)の原料となる金属の表面を好適に被覆させることができず、金属微粒子(P)の粒径がナノサイズよりも大きくなるおそれがあり、サイズ効果による焼結性の向上を期待できなくなる。
【0049】
一方、上記高分子分散剤(D)の含有量が、上記範囲を超える場合には、高分子分散剤(D)の割合が多過ぎ、加熱処理により金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結膜内に高分子分散剤(D)が残留し、電気抵抗を高める原因となるおそれがある。
【0050】
本発明において、平均一次粒子径が5〜500nmの範囲にある、高分子分散剤(D)で被覆された表面を有する金属微粒子(P)を製造する方法は、特に限定されないが、液相還元法(電解法又は無電解法)を用いて製造することができる。
【0051】
電解法による液相還元法では、例えば、金属イオンを含む水溶液および高分子分散剤(D)を含む混合溶液を電解槽に入れ、電極(陽極:アノード、陰極:カソード)を配置し、アノードとカソード間で通電させることによってカソード付近に、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)が電析し、回収される。
【0052】
これに対して、無電解法による液相還元法では、例えば、還元剤を含む水溶液に、高分子分散剤(D)を添加して、攪拌溶解させ、金属イオンを含む水溶液を滴下し、金属微粒子の混合溶液を調製する。
【0053】
なお、金属微粒子の混合溶液は、金属イオンを含む水溶液に、高分子分散剤(D)を添加して、攪拌溶解させ、還元剤を含む水溶液を加えて調製されてもよい。
【0054】
ここで用いる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ジメチルアミノボラン、およびトリメチルアミノボラン等が挙げられる。
【0055】
また、ここで用いる金属イオンを形成する金属塩としては、例えば、塩化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、および酢酸塩等の金属塩が挙げられる。
【0056】
次に、上記のように調製した金属微粒子の混合溶液に、凝集促進剤などの添加剤を添加し、攪拌し静置した後、沈殿した固形分を含む混合溶液を遠心分離機に供給することによって、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)が分離・回収される。
【0057】
ここで用いる凝集促進剤としては、ハロゲン系炭化水素が好ましく用いられ、例えば、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、および四塩化炭素等の炭素原子数1の塩素系化合物;塩化エチル、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、1,1−ジクロルエチレン、1,2−ジクロルエチレン、トリクロルエチレン、四塩化アセチレン、およびエチレンクロロヒドリン等の炭素原子数2の塩素系化合物;1,2−ジクロルプロパン、および塩化アリル、等の炭素原子数3の塩素系化合物;クロロプレン等の炭素原子数4の塩素系化合物;クロルベンゼン、塩化ベンジル、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、p−ジクロルベンゼン、α−クロルナフタリン、およびβ−クロルナフタリン等の芳香族系塩素系化合物;ブロモホルム、およびブロムベンゾール等の臭素系化合物;等が挙げられる。
【0058】
(2−3)有機溶媒(S)
本発明で用いる有機溶媒は、特に限定されないが、二価アルコール及び/又は三価アルコールからなる有機溶媒(S)であることが好ましい。上記二価アルコール及び/又は三価アルコールからなる有機溶媒(S)を用いることで、加熱処理により金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、有機溶媒(S)が、ガス成分と水分子(H
2O)とに好適に分解される。
【0059】
二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、および1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、これらの中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
また、三価アルコールとしては、例えば、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、および1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられ、これらの中から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
高分子分散剤(D)に被覆され、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に分散させた分散溶液は、高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)を50〜90重量%、有機溶媒(S)を10〜50重量%含有することが好ましい。すなわち、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)との重量比((D+P)/S)は、特に限定されないが、50/50〜90/10の範囲にあることが好ましい。
【0062】
高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)との重量比((D+P)/S)が、上記範囲未満である場合には、有機溶媒(S)の割合が多過ぎ、金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化するのに適した粘度よりも低く、液だれし易いおそれがある他に、加熱処理による金属微粒子(P)の焼結を行う過程(焼結過程)で、有機溶媒(S)が、ガス成分と水分子(H
2O)とに好適に分解されないおそれがある。
【0063】
一方、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)と有機溶媒(S)との重量比((D+P)/S)が、上記範囲を超える場合には、有機溶媒(S)の割合が少な過ぎ、金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化するのに適した粘度よりも高く、塗布する方法が制限されるおそれがある他に、加熱処理による焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)に達する前に有機溶媒(S)が枯渇してしまう(気化してしまう)おそれがある。
【0064】
本発明で用いる、二価アルコール及び/又は三価アルコールからなる有機溶媒(S)は、緻密性の高い均質な焼結膜を形成する観点から、加熱処理による焼結を行う際に焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)よりも高い沸点を有するものが好ましく用いられる。
【0065】
二価アルコール及び/又は三価アルコールからなる有機溶媒(S)は、沸点が、焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)よりも40〜50℃高く、250℃以上の範囲にあるものが、さらに好ましく用いられる。
【0066】
上記有機溶媒(S)の沸点が、上記範囲未満である場合には、加熱処理による焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)に達する前に有機溶媒(S)が気化して枯渇してしまうおそれがある。
【0067】
本発明において、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)を、二価アルコール及び/又は三価アルコールからなる有機溶媒(S)に添加し、3本ロールミル、遠心混練、および超音波発生機(超音波ホモジナイザー)などの分散機を用いて分散処理を行うことで、均一分散させる。
【0068】
高分子分散剤(D)に被覆され、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に分散させた分散溶液には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて消泡剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、増粘剤など公知の添加物を加えることができる。
【0069】
高分子分散剤(D)に被覆された金属微粒子(P)の含有量は、高分子分散剤(D)に被覆され、金属単体、合金及び金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種からなる金属微粒子(P)を有機溶媒(S)に分散させた分散溶液の全量100重量%に対して、50〜90重量%であることが好ましい。
【0070】
上記金属微粒子(P)の含有量が、上記範囲にある場合には、金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化するのに適した粘度が得られ、加熱処理による焼結を行う過程(焼結過程)で、有機溶媒(S)の加水分解反応において、金属微粒子(P)が触媒として作用し、加水分解反応の進行速度を向上させ、金属微粒子(P)の焼結を促進させる効果が期待できる。
【0071】
上記金属微粒子(P)の含有量が、上記範囲未満である場合には、金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化するのに適した粘度よりも低く、液だれし易いおそれがある他に、加熱処理による焼結を行う過程(焼結過程)で、金属微粒子(P)が触媒として作用する効果が期待できないおそれがある。
【0072】
一方、上記金属微粒子(P)の含有量が、上記範囲を超える場合には、金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化するのに適した粘度よりも高く、加熱処理による焼結を行う過程(焼結過程)で、焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)に達する前に有機溶媒(S)が枯渇してしまう(気化してしまう)おそれがある。
【0073】
次に、本実施形態の加熱接合材1の製造方法について説明する。
【0074】
まず、上述の金属微粒子(P)の分散溶液をフィルム化する。フィルム化の方法は限定されるものではないが、例えば、分散溶液を乾燥後の膜厚が所定の厚さとなるように離型フィルム上に塗布し、加熱処理などにより乾燥させる方法が挙げられる。乾燥条件は、使用する有機溶媒(S)にもよるが、望ましくは100〜200℃の温度で15〜30分間である。このとき、金属接合層3中の金属微粒子(P)の割合が80〜95重量%となるように、離型フィルム上に塗布された分散溶液を乾燥させることが好ましく、金属微粒子(P)の割合が85重量%程度であることがさらに好ましい。
【0075】
金属微粒子(P)の分散溶液を塗布する方法は、特に限定されないが、例えば、スキージ法、スクリーン印刷、マスク印刷、インクジェット印刷、ディスペンサー印刷、スプレーコート、バーコート、ナイフコート、およびスピンコート等が挙げられる。なお、分散溶液の粘度が高い場合は、分散溶液を離型フィルム上に載せた後、プレス機でプレスしてもよいし、ローラー等で圧延してもよい。このようにして、金属層2の一方側の面に設けられる金属接合層3と、金属層2の他方側の面に設けられる金属接合層3とを作製する。
【0076】
金属接合層3は、厚みが0.15mm〜0.225mmであることが好ましい。金属接合層3の厚みが0.15mm未満であると、金属接合層3を均一に製膜するのが困難になり、均質な焼結膜が得られず接合強度が低下するおそれがある。金属接合層3の厚みが0.225mmを超えると、焼結時の有機溶媒(S)の抜けが悪くなり、有機溶媒(S)の残存やボイドが発生するおそれがあり、有機溶媒(S)の残存やボイドが発生した場合、接合強度が低下する。
【0077】
加熱接合用材料の厚みは、1.0mm以下であることが好ましく、通常は0.5mm程度である。全体として、この厚みになるように、金属層2や金属接合層3の厚みや、金属接合層3の厚みを適宜設計するとよい。また、金属接合層3は全体として所望の厚みになればよく、分散溶液をシート化したものを複数積層してもよい。
【0078】
その後、金属層2の両面にそれぞれ金属接合層3をローラーで圧着するなどして貼合することにより、本実施形態に係る加熱接合材1が得られる。
【0079】
次に、本実施形態の加熱接合材1の使用方法について説明する。
【0080】
本実施形態の加熱接合材1は電気電子機器を製造する際に用いることができる。具体的には、電気電子機器の一の部品の接合面に本実施形態の加熱接合材1を載せた後、該加熱接合材1上に更に接続する他の部品の接合面を載置し、加熱処理により焼結して、一の部品と他の部品とを接合し、電気電子機器を製造する。本実施形態の加熱接合材1は、金属微粒子(P)が焼結されることにより、電気電子機器において部品間の導電接続部材を構成することになる。
【0081】
電気電子機器の部品としては、半導体素子、回路基板の電極端子、及び導電性基板などが挙げられる。基板の種類は、特に限定されないが、例えば、ガラス基板、セラミック基板、銅基板、およびポリイミド基板等が挙げられる。
【0082】
導電接続部材としては、半導体素子と導電性基板間を接合するための導電性ダイボンド部等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0083】
導電性ダイボンド部は、通常、加熱接合材1を電子部品における回路基板の接合面に載せ、当該加熱接合材1上に更に接続する他方の電極端子の接合面を積層配置した後、加熱処理又は加圧処理により上記一の接合面と上記他の接合面とを焼結して形成される。
【0084】
焼結時の加熱処理は加圧下で行ってもよい。加圧下の加熱処理は、両電極端子間、又は電極端子と基板間の加圧により加熱接合材1と両電極端子接合面、又は電極端子と導電性基板間との接合を確実にするか、又は加熱接合材1に適切な変形を生じさせて電極端子接合面との確実な接合を行うことができるとともに、加熱接合材1と電極端子接合面との接合面積が大きくなり、接合信頼性を一層向上することができる。
【0085】
また、半導体素子と加熱接合材1を加圧型ヒートツ−ル等を用いて加圧下で焼結を行うと、接合部での焼結性が向上してより良好な接合部が得られる。上記両電極端子間、又は電極端子と基板間の加圧は、0.5〜15MPaが好ましい。
【0086】
また、焼結は、大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)は、緻密性の高い均質な焼結膜を形成する観点から、200〜270℃の温度範囲にあり、有機溶媒(S)の沸点よりも40〜50℃低い温度範囲であることが好ましい。
【0087】
上記焼結膜を形成する加熱温度(焼結温度)が、200℃未満である場合には、焼結温度が低過ぎ、金属微粒子(P)の分散溶液の焼結を好ましく進行させることができず、緻密性の高い均質な焼結膜が形成されず、電気抵抗が増大し導電性に劣る、焼結導電体しか得られないおそれがある。
【実施例】
【0088】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本実施例及び比較例において行った試験方法は、以下のとおりである。
【0089】
(1)金属微粒子(P)の評価(平均一次粒子径)
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、観察可能な任意に選択した80個の金属微粒子(P)の一次粒径を測定した。
測定した金属微粒子(P)全体(80個)のうち、一次粒径が小さい方から順に数えて、金属微粒子(P)全体(80個)の5%に相当する金属微粒子(P)(4個)と、一次粒径が大きい方から順に数えて、金属微粒子(P)全体(80個)の5%に相当する金属微粒子(P)(4個)とを除き、残り金属微粒子(P)全体(80個)の90%に相当する金属微粒子(P)(72個)を対象とし、72個の金属微粒子(P)の一次粒径の測定値の平均を算出し、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)の平均一次粒子径とした。
【0090】
(2)焼結膜の評価
(2−1)ボイドの含有率(%)
金属接合層3の金属微粒子(P)の焼結工程において得られた、ガラス基板上に形成された焼結膜を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、500倍率で観察した。
焼結膜に発生した空隙の大きさを、画像処理ソフトで2値化し、所定の単位面積当たり50%以上の空隙を有する部分をボイドとし、焼結膜に発生したボイドの含有率(%)を算出した。
【0091】
(2−2)接合部の評価(ダイシェア強度)
金属接合層3をガラス基板(基板サイズ;15mm×15mm)の接合面に載置後、金属接合層3上にシリコンチップの接合面を積層配置した。続いて、窒素ガス雰囲気中、250℃の温度で5分間、無加圧下で、加熱処理による焼結を行い、ガラス基板とシリコンチップとを接合させ、室温まで炉冷し、ダイシェア強度測定用のサンプルを作製した。
上記作製したサンプルに対して、ダイシェア強度測定機(テイジ・ジャパン株式会社製、製品名;万能型ボンドテスター、型式;シリーズ4000)を用い、米国MIL‐STD‐883に準拠し、25℃の条件下で、ガラス基板とシリコンチップとの接合部のダイシェア強度(剥離強度)を測定した。
【0092】
(実施例1)
(金属微粒子(P)の分離・回収工程)
金属微粒子(P)の原料として酢酸第二銅((CH
3COO)
2Cu・1H
2O)0.2gを蒸留水10mlに溶解させ、酢酸第二銅水溶液10mlを調製した。
一方、金属イオン還元剤として水素化ホウ素ナトリウム(NaBH
4)を、濃度が5.0mol/lとなるように蒸留水に混合し、水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlを調製した。
【0093】
次に、上記調製した水素化ホウ素ナトリウム水溶液100mlに、高分子分散剤(D)としてポリビニルピロリドン(PVP、数平均分子量;約3,500)0.1g(金属微粒子(P)の全量に対して0.5重量%)を添加して攪拌溶解させ、続いて、窒素ガス雰囲気中で、上記調製した酢酸第二銅水溶液10mlを滴下し、金属微粒子の混合溶液を調製した。
【0094】
次に、上記調製した金属微粒子の混合溶液に、凝集促進剤としてクロロホルム(CHCl
3)5mlを添加して数分間攪拌し、更に数分間静置した後、沈殿した固形分を含む混合溶液を遠心分離機に供給し、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)を分離、回収した。
【0095】
ここで、上記分離・回収した金属微粒子(P)の一部を採取し、高分子分散剤(D)で被覆された金属微粒子(P)の一次粒径を測定し、平均一次粒子径を算出したところ12nmであった。
【0096】
(金属微粒子(P)の分散溶液を得る工程)
上記金属微粒子(P)の分離・回収工程で回収された、金属微粒子(P)55重量%(金属微粒子の分散溶液の全量に対する含有量)、を、三価アルコールからなる有機溶媒(S)としてグリセロール(示性式;C
3H
5(OH)
3,沸点;290℃)45重量%(金属微粒子の分散溶液の全量対する含有量)に添加して、超音波発生機(超音波ホモジナイザー)による分散処理を30分間行い、金属微粒子の分散溶液を得た。
【0097】
(加熱接合材1の作製・焼結工程)
上記得られた金属微粒子(P)の分散溶液を、載置台の上に、離型フィルム(50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)、その上に、スキージ法で0.15mm塗布し(塗布サイズ;10mm×10mm)を形成し、80℃、60秒間乾燥させ、フィルム化し金属接合層3を形成した。このとき、乾燥後の金属接合層3における金属接合層3の割合は、85重量%であった。この金属接合層3を2枚作製した。同サイズの銅箔(型番:GTS−STD、厚み0.2mm)を片方の金属接合層3に配置し、その上にもう片方の金属接合層3を配置し実施例1に係る加熱接合材1を得た。この加熱接合材1をガラス基板(基板サイズ;15mm×15mm)上に配置し、その加熱接合材1上にシリコンチップの接合面を積層配置した。
【0098】
上述の積層体を窒素ガス雰囲気中、250℃の温度で5分間、5MPa圧下で加熱加圧処理し、金属接合層3の焼結を行い、室温まで炉冷し、ガラス基板上に焼結膜が形成された焼結導電体の実装サンプルを得た。
【0099】
作成した実装サンプルについて、断面加工を行い、SEMでボイドの観察をして評価した結果、ボイド率は8%だった。また、ダイシェア試験により接合強度を測定した結果、接合強度は36MPaであった。
【0100】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で上記得られた金属微粒子(P)の分散溶液を、載置台の上に、離型フィルム(50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム)、その上に、スキージ法で0.225mm塗布し(塗布サイズ;10mm×10mm)を形成し、80℃、60秒間乾燥させ、フィルム化し金属接合層3を形成した。このとき、乾燥後の金属接合層3における金属接合層3の割合は、85重量%であった。この金属接合層3を2枚作製した。同サイズの銅箔(型番:GTS−STD、厚み0.2mm)を片方の金属接合層3に配置し、その上にもう片方の金属接合層3を配置し、実施例2に係る加熱接合材1を得た。この加熱接合材1をガラス基板(基板サイズ;15mm×15mm)上に配置し、その加熱接合材1上にシリコンチップの接合面を積層配置した。
【0101】
上述の積層体を窒素ガス雰囲気中、250℃の温度で5分間、5MPa圧下で加熱加圧処理し、金属接合層3の焼結を行い、室温まで炉冷し、ガラス基板上に焼結膜が形成された焼結導電体の実装サンプルを得た。
【0102】
作成した実装サンプルについて、断面加工を行い、SEMでボイドの観察をして評価した結果、ボイド率は20%だった。また、ダイシェア試験により接合強度を測定した結果、接合強度は22MPaであった。
【0103】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で金属微粒子(P)を得て同様の方法で金属微粒子(P)の分散溶液を得た。この分散溶液をスキージ法でガラス基板(基板サイズ;15mm×15mm)上に0.5mm厚となるように塗布し、その上にシリコンチップの接合面を積層配置した。
【0104】
上述の積層体を窒素ガス雰囲気中、250℃の温度で5分間、5MPa圧下で加熱加圧処理し、金属接合層3の焼結を行い、室温まで炉冷し、ガラス基板上に焼結膜が形成された焼結導電体の実装サンプルを得た。
【0105】
作成した実装サンプルについて、断面加工を行い、SEMでボイドの観察をして評価した結果、ボイド率は47%だった。また、ダイシェア試験により接合強度を測定し、接合強度は10MPaであった。