特許第6851840号(P6851840)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6851840コンパウンド及びこれを用いた接着性フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851840
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】コンパウンド及びこれを用いた接着性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 125/04 20060101AFI20210322BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20210322BHJP
【FI】
   C09J125/04
   C09J11/08
   C09J11/06
   C09J7/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-18783(P2017-18783)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-123280(P2018-123280A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】三枝 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 匠
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−051688(JP,A)
【文献】 特開2011−021076(JP,A)
【文献】 特開2000−000886(JP,A)
【文献】 特開2005−105048(JP,A)
【文献】 特開2003−286410(JP,A)
【文献】 特開平11−268117(JP,A)
【文献】 特開2002−356593(JP,A)
【文献】 特開2015−187188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むベース樹脂とホットメルト接着性成分とを含有する接着性組成物のコンパウンドであって前記ホットメルト接着性成分が、スチレン系エラストマー、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂もしくはポリイソブチレン樹脂、又はこれらのうち2種以上の組み合わせであり、前記コンパウンドの結晶融解温度(℃)と冷結晶化温度(℃)が下記式を満たす、コンパウンド
[結晶融解温度]−[冷結晶化温度]≦70℃
【請求項2】
前記コンパウンドが海島構造を形成しており、前記ベース樹脂が海部、前記ホットメルト接着性成分が島部を構成する、請求項1記載のコンパウンド
【請求項3】
前記島部の平均粒径が15μm以下である、請求項1又は2記載のコンパウンド
【請求項4】
前記コンパウンド中、前記ベース樹脂の含有量が60質量%以上である、請求項1〜3のいずれか1項記載のコンパウンド
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載のコンパウンドを用いた接着性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性組成物及びこれを用いた接着性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂等のベースポリマー中に、粘着付与成分である樹脂を含有させた無溶剤系の接着剤である。ホットメルト接着剤は各種被着体に対して熱プレスにより接着することができ、プラスチック、金属、紙類等の接着に広く用いられている。
【0003】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(以下、単に「シンジオタクチックポリスチレン」又は「SPS」と呼ぶことがある。)は、耐熱性、耐湿性、離型性等に優れることが知られ、フィルム状に成形されて、包装用途、耐熱離型フィルム等に用いられている。他方、SPSフィルムは離型性に優れる一方、他の部材と接着しづらい。SPSフィルムを他部材と接着させる必要がある場合、SPSフィルム表面に接着剤が塗布される(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−81207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被着体への接着性に優れ、被着体に接着した後、剥離しても、被着体に接着性成分が残留しにくく剥離性にも優れ、さらに耐熱性と耐湿性とを兼ね備えたコンパウンドを提供することを課題とする。また本発明は、当該コンパウンドを用いた接着性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、SPSを含むベース樹脂と、粘着付与成分であるホットメルト接着性成分とを混練し、結晶融解温度(Tm)と冷結晶化温度(Tc)との差を70℃以下に調整した組成物を調製し、この組成物をフィルム状に成形してホットメルト接着性フィルムとして用いると、この接着性フィルムが被着体に対して十分な接着力を示すこと、被着体に接着したフィルムを剥離した際には、被着体にフィルム成分が残留しにくいこと(糊残りが生じにくいこと)を見い出した。また、この接着性フィルムは高温高湿条件下で保存してもホットメルト接着フィルムとして十分な接着性を発現することができ、耐熱性と耐湿性に優れることを見い出した。本発明は、これらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
すなわち本発明の上記課題は下記手段により解決された。
【0007】
〔1〕
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体を含むベース樹脂とホットメルト接着性成分とを含有する接着性組成物のコンパウンドであって前記ホットメルト接着性成分が、スチレン系エラストマー、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂もしくはポリイソブチレン樹脂、又はこれらのうち2種以上の組み合わせであり、前記コンパウンドの結晶融解温度(℃)と冷結晶化温度(℃)が下記式を満たす、コンパウンド
[結晶融解温度]−[冷結晶化温度]≦70℃
〔2〕
前記コンパウンドが海島構造を形成しており、前記ベース樹脂が海部、前記ホットメルト接着性成分が島部を構成する、〔1〕記載のコンパウンド
〔3〕
前記島部の平均粒径が15μm以下である、〔1〕又は〔2〕記載のコンパウンド
〔4〕
前記コンパウンド中、前記ベース樹脂の含有量が60質量%以上である、〔1〕〜〔3〕のいずれか1記載のコンパウンド

〔1〕〜〔〕のいずれか1記載のコンパウンドを用いた接着性フィルム。
【0008】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のコンパウンド及び接着性フィルムは、被着体への接着性に優れ、また被着体に接着させた後、剥離しても、被着体に接着性成分が残留しにくく剥離性に優れる。また本発明のコンパウンド及び接着性フィルムは、高温高湿条件下で保存しても接着性が低下しくい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
コンパウンド
本発明のコンパウンドは、SPSを含むベース樹脂と、粘着付与成分としてホットメルト接着性成分と、必要により後述する他の成分とを含有する接着剤組成物の溶融混錬物であるの接着性組成物は、通常は溶媒を含有しない。本発明のコンパウンドは、SPSを含むベース樹脂が海部(連続相)、ホットメルト接着性成分が島部(分散相)を構成する海島構造であることが好ましい。海島構造であることにより、海部を構成するSPSの特性(耐熱性、耐湿性等)を効果的に発現する組成物とすることができる。また、上記海島構造とすることにより、ホットメルト接着性成分がその周りをベース樹脂に覆われた状態となり、常温では接着性を発現せず、加熱貼合時に接着性を発現する物性とすることができる。
本発明のコンパウンドは、結晶融解温度(融解ピーク温度、Tm)が250℃以上、好ましくは260℃以上であると、はんだリフローに耐性を示し、電子部品実装関連部材として使用可能となり好ましい。当該Tmは通常は250〜290℃であり、260〜280℃であることが好ましい。また、本発明のコンパウンドは、加熱ラミネート時の接着力発現の観点から、この組成物を溶融したものを冷却していく際に結晶化する温度、すなわち冷結晶化温度(結晶化ピーク温度、Tc)が180℃以上であることが好ましい。当該Tcは通常は180〜240℃であり、190〜230℃であることがより好ましい。
本発明のコンパウンドは、TmからTcを差し引いた差が70℃以下(Tm−Tc≦70℃)である。Tm−Tc≦70℃とすることにより、接着性と剥離性という互いに相反する特性をいずれも所望のレベルに高めることが可能となる。本発明のコンパウンドは、接着性をより高める観点から、Tm−Tc≦65℃を満たすことが好ましく、Tm−Tc≦60℃を満たすことが好ましい。
本明細書において、結晶融解温度(Tm)及び冷結晶化温度(Tc)は、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121に準じて測定される。
本発明のコンパウンド、耐衝撃性(柔軟性)の観点から、海島構造の島部の平均粒径が15μm以下であることが好ましく、13μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。また、島部の平均粒径は0.5μm以上でとするのが実際的であり、通常は1μm以上であり、2μm以上であってもよい。
本発明のコンパウンドの海島構造の状態は、その断面観察により特定される。例えば、観察対象のコンパウンドを、液体窒素を用いて凍結し、この凍結した組成物から、凍結切片ミクロトーム(FX−801、大和光機工業社製)を用いて薄膜切片を得、この薄膜切片を、RuO4を用いて常法により染色し、SEM装置(JSM6500F、日本電子社製)を用いて観察することにより海島構造を特定することができる。島部の平均粒径は、例えば、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac−View、マウンテック社製)を用いて算出することができる。より詳細には、薄膜切片の観察面積を1mm×1mmとし、この観察範囲で測定された各島部の測定面積を、真円から得られた値として島部の平均粒径が算出される。
続いて本発明のコンパウンドを構成する各成分について説明する。
【0011】
<シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(SPS)を含むベース樹脂>
本発明に用いるベース樹脂はSPSを含む樹脂である。このベース樹脂はSPSを含んでいれば特に制限はなく、SPSであってもよいし、SPSと、SPS以外の樹脂(当該「SPS以外の樹脂」はホットメルト接着性成分とは異なる樹脂である。)とのブレンド樹脂であってもよい。当該「SPS以外の樹脂」は、SPSと相溶する樹脂であることが好ましい。ベース樹脂中のSPSの含有量は50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。ここで、「SPSと相溶する」とは、SPSとのブレンド樹脂とした際に海島構造をとらないことを意味する。
【0012】
−SPS−
上記SPSにおけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基や置換フェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものである。そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法)により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができる。本発明に用いられるSPSは、ラセミダイアッドで75%以上またはラセミペンタッドで30%以上のシンジオタクティシティーを有するスチレン系重合体である。シンジオタクティシティーは、ラセミダイアットで85%以上またはラセミペンタッドで30%以上であることが好ましい。
【0013】
上記SPSとしては、上述したシンジオタクチック構造を有する、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(アリールスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体、これらの混合物、これらをブロック構造として有する共重合体が挙げられる。上記ポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(tert−ブチルスチレン)等が挙げられる。上記ポリ(アリールスチレン)としては、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)等が挙げられる。上記ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)等が挙げられる。上記ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。
【0014】
なかでも本発明に用いうるSPSは、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−tert−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらをブロック構造として含む共重合体が好ましい。
【0015】
上記SPSはアタクチックポリスチレンと異なり結晶融解温度(Tm)を持つ。上記SPSのTmは200℃以上が好ましく、240℃以上がより好ましい。Tmの上限値に特に制限はないが、300℃以下が好ましい。
また、上記SPSのガラス転移温度(Tg)は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。上限値に特に制限はないが、150℃以下が好ましい。本明細書において、Tgは、示差走査熱量計を用いて、JIS K7121の補外ガラス転移開始温度に準じて測定される。
【0016】
上記SPSは、例えば、不活性炭化水素溶媒中または溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、上述したスチレン系重合体を導く単量体を重合することにより製造することができる。かかる製造方法については、例えば特開昭62―187708号公報を参照することができる。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報、これらの水素化重合体は特開平1−178505号公報を参照することができる。
さらに、上記SPSがスチレン系モノマー(スチレン骨格を有するモノマー)と非スチレン系モノマー(スチレン骨格を有しないモノマー)との共重合体の場合において、この非スチレン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン等のオレフィンモノマー、ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー、環状ジエンモノマー、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、アクリロニトリル等の極性ビニルモノマー等を挙げることができる。
【0017】
本発明に用いるSPSは、その全構成成分(モノマー由来成分)中に占めるスチレン成分の割合が80〜100モル%、p−メチルスチレン成分の割合が0〜20モル%であることが好ましい。本発明に用いるSPSの分子量については特に制限はなく、例えば、重量平均分子量が50,000〜500,000のSPSを用いることができ、150,000〜300,000のSPSを用いることが好ましい。また、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が1.0〜3.0のSPSを用いることが好ましい。
【0018】
本発明に用いるSPSは、例えば、出光興産株式会社より商品名ザレックとして販売されているものを用いることができる。またSPSは常法により合成してもよい。
本発明のコンパウンドはベース樹脂としてSPSを用いているため、低誘電率、低誘電損失といった優れた電気特性を有する。本発明のコンパウンド中、SPSの含有量は60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。また、本発明のコンパウンド中、SPSの含有量は通常は95質量%以下であり、90質量%以下が好ましい。
【0019】
<ホットメルト接着性成分>
ホットメルト接着性成分としては、ホットメルト接着剤における粘着付与成分として一般的に用いられる成分をいずれも好適に用いることができる。なかでも、接着性フィルムの使用態様において十分な粘着性を付与する観点からは、例えば重量平均分子量が6千以上20万未満のエラストマーを用いることが好ましい。さらに、SPSとの相溶性に優れ、また所望の海島構造を形成する観点から、上記エラストマーはスチレン系エラストマーであることが好ましい。このスチレン系エラストマーは、分散性と接着力の観点から、分子中のスチレン成分の含有量が40質量%未満であることが好ましい。さらに、スチレン系エラストマー分子中のスチレン成分の含有量を20質量%未満とすれば、より強い接着力を実現することができ好ましい。また、スチレン系エラストマー分子中のスチレン成分の含有量を5質量%以上とすることにより、分散性をより向上させることができる。
上記スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。これらの中でも、混練時の熱分解や熱重合を抑えて、より安定した生産性を実現する観点から、水素添加されたスチレン系エラストマーが好ましく、なかでも水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が特に好ましい。
【0020】
また、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂(C5系:脂肪族系、C9系:芳香族系、C5/C9系:共重合系)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ポリイソブチレン樹脂等も本発明に用いるホットメルト接着性成分として好適である。これらの樹脂は分子量200以上5000未満の低分子成分であることが好ましい。これらの低分子成分は、接着性組成物の調製時における熱変性を防ぐ観点から、水素化により不飽和結合が低減された、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂(C5系:脂肪族系、C9系:芳香族系、C5/C9系:共重合系)、アルキルフェノール樹脂及びキシレン樹脂、並びにポリイソブチレン樹脂が好ましい。特に、水素添加石油樹脂が耐熱性と接着性とのバランスに優れる。
ロジン樹脂は、アビチエン酸を主成分とし、これをエステル化、不均化、水添化、重合化処理等をして得られる。テルペン樹脂は、テルピン油やオレンジ油を主成分とし、さらにフェノールや芳香族類と重合し、さらに水素添加処理等されて得られる。石油樹脂は、石油のC5留分を原料として得られる脂肪族系樹脂(C5樹脂)、C5留分中のシクロペンタジエン類を主原料として得られる脂環族系樹脂(DCPD)、C9留分であるスチレン、インデン、メチルスチレン、ビニルトルエン類を主原料として得られる芳香族系樹脂、C5樹脂とC9樹脂を共重合したC5/C9樹脂などの石油系樹脂が挙げられる。
【0021】
ホットメルト接着性成分は、スチレン系エラストマー、ロジン樹脂、テルペン樹脂、石油樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂及びポリイソブチレン樹脂から選ばれる2種以上の組み合わせであってもよい。
【0022】
コンパウンドに所望の接着力を付与するため、コンパウンド中のホットメルト接着性成分の含有量を5質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることがより好ましく、15重量%以上とすることがさらに好ましい。また、より高い耐熱性を実現する観点から、コンパウンド中のホットメルト接着性成分の含有量は40重量%未満が好ましく、30重量%未満がより好ましい。
【0023】
<その他の成分>
本発明のコンパウンドには、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば下記の成分を加えることができる。
【0024】
−アンチブロッキング剤−
本発明のコンパウンドは、アンチブロッキング剤として無機粒子及び/又は有機粒子を含有していてもよい。アンチブロッキング剤の平均粒径は0.1〜10μmが好ましい。本発明のコンパウンドがアンチブロッキング剤を含有する場合、コンパウンド中のアンチブロッキング剤の含有量は0.01〜15質量%が好ましい。本発明のコンパウンドは、アンチブロッキング剤を1種又は2種以上含有することができる。
【0025】
−酸化防止剤−
本発明のコンパウンドの熱分解をより効果的に防ぐために、酸化防止剤を含有することも好ましい。例えば、リン系、フェノール系、イオウ系等公知のラジカル捕捉剤の1種又は2種以上を酸化防止剤として用いることができる。また、酸化防止剤として2−〔1−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル〕−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレートを用いることも好ましい。
本発明のコンパウンドが酸化防止剤を含有する場合、コンパウンド中の酸化防止剤の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。均一なフィルム表面を形成するためには、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0026】
−結晶化核剤−
本発明のコンパウンドは結晶化核剤を含有していてもよい。結晶化核剤としてはアルミニウムジ(p−t−ブチルベンゾエート)をはじめとするカルボン酸の金属塩、メチレンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウム(融点400℃以上)をはじめとするリン酸の金属塩、タルク、フタロシアニン誘導体等、公知のものを特に制限なく用いることができる。本発明のコンパウンドは、結晶化核剤を1種又は2種以上含有することができる。本発明のコンパウンドが結晶化核剤を含有する場合、コンパウンド中の結晶化核剤の含有量は、速やかな結晶生成の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。また、フィルム状に成形した際に、より均一なフィルム表面とする観点から、コンパウンド中の結晶化核剤の含有量は2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。また、結晶化核剤のTmはベース樹脂であるSPSのTm以上が好ましく、本発明のコンパウンドを得るための溶融混練の混練温度以上であることがより好ましい。
【0027】
−可塑剤−
本発明のコンパウンドは可塑剤を含有していてもよい。可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリアミドオリゴマー、エチレンビスステアロアマイド、フタル酸エステル、ポリスチレンオリゴマー、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル等公知のものを特に制限なく用いることができる。本発明のコンパウンドには、1種又は2種以上の可塑剤を用いることができる。
【0028】
−滑剤−
本発明のコンパウンドは滑剤を含有してもよい。滑剤は、コンパウンドを得るための溶融混練時の発熱を抑えるために、コンパウンド中の成分の熱分解が抑えられ、品質の安定化に有用である。滑剤としては、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル、長鎖カルボン酸、長鎖カルボン酸金属塩等公知のものを特に制限なく用いることができる。本発明のコンパウンドには、1種又は2種以上の滑剤を用いることができる。
【0029】
−プロセスオイル−
本発明のコンパウンドはプロセスオイルを含有してもよい。プロセスオイルを含有することにより、伸度を向上させることができる。本発明のコンパウンドには、1種又は2種以上のプロセスオイルを用いることができる。コンパウンド中のプロセスオイルの含有量は、0〜1.5質量部とすることが好ましい。
【0030】
−着色剤−
本発明のコンパウンドは、樹脂の酸化による着色を目立たなくし、また、被着体の構造や模様を覆い隠す目的で、黒鉛や顔料などの着色剤を添加することもできる。
【0031】
コンパウンドの製造方法>
本発明のコンパウンドは特に限定されるものではなく、公知の混合・混練方法で製造することができる。より好ましくは、最初にドライブレンドを行った後、二軸混練機でSPSのTm以上の温度で樹脂を溶解し、連続的に押出し混練する。SPSの融点は一般に270℃付近にあるため、本発明のコンパウンドの調製における溶融混練は300℃付近で行うことが好ましい。
本発明のコンパウンドは、その調製における混練度を高めるほど、Tmが低下し、逆にTcは上昇する傾向が認められる。この理由は定かではないが、混練によるTmの低下は凝固点降下と同様の現象と考えられる。また、混練によるTcの上昇は、混練により小サイズ化した島部が不純物として働き、結晶化核形成が生じやすくなることが一因と考えられる。本発明のコンパウンドの調製における混練は、コンパウンドがTm−Tc≦70℃を満たす物性になるまで行う。
【0032】
[接着性フィルム]
本発明の接着性フィルムは、本発明のコンパウンドを用いてなるフィルムである。本発明の接着性フィルムは、より詳細には、本発明のコンパウンドをフィルム状に成形してなる接着性フィルムである。
本発明の接着性フィルムの厚さは1〜500μmが好ましく、5〜100μmがより好ましい。
【0033】
<接着性フィルムの製造方法>
本発明の接着性フィルムの製造方法は特に限定されず、公知の成膜技術を適宜に適用して製造することができる。例えば、本発明のコンパウンドを、スクリュー押し出し機を用いて溶融押出しによりダイから押出しする方法、あるいはキャスト法、インフレーション法等を適用し、接着フィルムを製造することができる。
溶融押出しによりフィルム状に成形する場合、ダイの温度は280〜320℃とすることが好ましい。ダイから押し出されたコンパウンドが冷却ロールで冷やされる時間は、キャスト法の場合、ダイと冷却ロールの間を調整することによって、フィルムの表面温度が100℃以下になるまでの時間が0.2秒以下とすることが好ましい。冷却時間を0.2秒以下とすることでシンジオタクチックポリスチレン樹脂の結晶化を抑え、接着性フィルムとして好ましい結晶化度のフィルムを得ることができる。また、インフレーション法の場合は送風の強さや温度を調整することで、吐出からフィルムの表面温度が100℃以下になるまでの時間が、0.2秒以内となるように調整されることが好ましい。
多層のフィルムを製造するには共押出法、押出ラミネート法、ドライラミネート法など従来公知の製造法をいずれも用いることができる。
本発明の接着フィルムの製造において、十分な接着性能を発現させるため、SPSの結晶化度が40%未満となるように成形することが好ましく、25%未満となるように成形することがより好ましい。
本発明の接着性フィルム中のSPSの結晶化度は、下記式から算出される。
結晶化度(%)=100×(ΔHf−ΔHTcc)/(ΔHf)
上記式において、ΔHfはSPSの融解エンタルピーであり、このSPSの融解エンタルピーは230〜280℃付近に凹ピークとして検出される。ΔHTccはSPSの冷結晶化のエンタルピーであり、このSPSの冷結晶化のエンタルピーは130〜180℃付近に凸ピークとして検出される。
ΔHfおよびΔHTccは、示差走査熱量計(例えば、リガク社製)により測定することができる。
【0034】
<接着性フィルムの使用方法>
続いて本発明の接着フィルムの使用方法の一例について説明する。例えば、被着体を、ホットプレート等を用いて本発明の接着フィルムのガラス転移点(Tg)以上に加熱し、この加熱した被着体の上に、本発明の接着フィルムを設置し、さらに必要により接着フィルムの上に離型フィルムを設置して、加圧することにより被着体に本発明の接着性フィルムを貼合することができる。加圧は、ロールや真空ラミネータなどを用いて、重ねあわせた層内の空気を追い出しながら行うと、ボイドの発生が低減される。
本発明の接着性フィルムないしコンパウンドのTgは150℃以下、より好ましくは110℃以下である。ガラス転移点を上記温度とすることにより、汎用のPET離型フィルムを用いて貼合ができるので好ましい。本発明の接着性フィルムないしコンパウンドのTgは80℃以上が好ましく、90℃としてもよい。
被着体に貼合された接着性フィルムのピール接着力は、目的、用途に応じて適宜に調整することができる。十分な接着性を実現する観点から、そのピール接着力が0.1N/cm以上であることが好ましく、0.2N/cm以上がより好ましく、0.4N/cm以上がさらに好ましく、0.8N/cm以上がさらに好ましい。また、配線板の配線保護用途を考慮した場合、被着体に貼合された接着性フィルムのピール接着力は1N/cm以上であることが好ましい。ピール接着力は後述する実施例に記載の方法により測定される。
また、本発明の接着性フィルムは、被着体から剥離した際には、被着体への接着性フィルム成分が残留しにくい。すなわち、剥離可能な接着性フィルムとして用いることができる。
また、本発明の接着性フィルムを配線保護用途に用いる場合、本発明の接着性フィルムを、当該接着性フィルムよりTmが高い樹脂からなる非接着性層との積層体として用いることが好ましい。こうすることで、配線保護のために貼合する際の離型フィルムが不要になる。
【0035】
本発明の実施の形態を下記実施例に基づきより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
[原料]
<SPSを含むベース樹脂>
ザレックSP130(SPS70質量%とエラストマー30質量%との混練物、出光興産株式会社、当該エラストマーはホットメルト接着性ではなく、またSPSと相溶する。)
ザレックS105(SPS70質量%とエラストマー30質量%との混練物、出光興産株式会社、当該エラストマーはホットメルト接着性ではなく、またSPSと相溶する。)
<ホットメルト接着性成分>
タフテックH1221(SEBS、旭化成社製、分子量20万、スチレン/オレフィン比=12/88)
タフプレン125(SBS、旭化成社製、分子量10万、スチレン/オレフィン比=40/60)
クインタック3280(SIS、日本ゼオン社製、スチレン/オレフィン比=25/75)
アイマーブP−100(石油樹脂、出光興産社製、軟化点100℃、分子量660)
ハイペールCH(ロジン樹脂、荒川化学株式会社、軟化点75℃)
クリアロンM115(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル株式会社、軟化点115℃、分子量662)
ザイロン500H(変性ポリフェニレンエーテル、旭化成社製、熱変形温度120℃)
【0037】
[実施例1〜11、比較例4] 接着性フィルムの製造
下表に示した組成で原料をドライブレンドした後、41mmφ二軸押し出し機を用い、290℃、吐出量100kg/時間で溶融混練してコンパウンドを得た。こうして得たコンパウンドを、51mmφ単軸押し出し機で300℃、線速20m/分、冷却ロール温度は50℃で、押し出されたフィルムが、押出しから0.1秒以内に冷却ロールに接するような条件で溶融押出しを行い、厚さ50μmの接着フィルムを得た。比較例4では変性ポリフェニレンエーテル(PPE)がシンジオタクチックポリスチレンに完全相溶したため、島相は確認できなかった。
【0038】
[実施例12、14、16]
下表に示した組成で原料をドライブレンドした後、41mmφ二軸押し出し機を用い、290℃、吐出量100kg/時間で溶融混練してコンパウンドを得た。得られたコンパウンドを再度、41mmφ二軸押し出し機を用い、290℃、吐出量100kg/時間で溶融混練してコンパウンドを得た。こうして得たコンパウンドを、51mmφ単軸押し出し機で300℃、線速20m/分、冷却ロール温度は50℃で、押し出されたフィルムが、押出しから0.1秒以内に冷却ロールに接するような条件で溶融押出しを行い、厚さ50μmの接着フィルムを得た。
実施例12、14、16では、実施例1〜11、比較例4に対して、溶融混練の度合が2倍となる。
【0039】
[実施例13、15、17]
下表に示した組成で原料をドライブレンドした後、41mmφ二軸押し出し機を用い、290℃、吐出量200kg/時間で溶融混練してコンパウンドを得た。こうして得たコンパウンドを、51mmφ単軸押し出し機で300℃、線速20m/分、冷却ロール温度は50℃で、押し出されたフィルムが、押出しから0.1秒以内に冷却ロールに接するような条件で溶融押出しを行い、厚さ50μmの接着フィルムを得た。
実施例13、15、17では、実施例1〜11、比較例4に対して、溶融混練の度合が1/2倍となる。
【0040】
[比較例1、2、3]
下表に示した組成で原料をドライブレンドした後、41mmφ二軸押し出し機を用い、290℃、吐出量300kg/時間で溶融混練してコンパウンドを得た。こうして得たコンパウンドを、51mmφ単軸押し出し機で300℃、線速20m/分、冷却ロール温度は50℃で、押し出されたフィルムが、押出しから0.1秒以内に冷却ロールに接するような条件で溶融押出しを行い、厚さ50μmの接着フィルムを得た。
比較例1、2、3では、実施例1〜11、比較例4に対して、溶融混練の度合が1/3倍となる。
【0041】
[ピール接着力の測定]
ポリイミドロールの外側面を接着性フィルムとの被着面となるようにして、200℃のホットプレート上に設置されたポリイミドフィルム(ユーピレックス:厚さ50μm、表面積(長さ×幅)150mm×15mm)と、接着性フィルムと、離型フィルム(フッ素樹脂フィルム)をこの順に重ね合わせ、重さ5kgの圧着ローラーを1往復させて均一に圧着した。次いで、200℃のホットプレス機を用い、25kg/cmで3分間加圧し完全に貼り合わせた。離型フィルムを取り除いた試験片に、測定時の補強として、日東電工(株)ニットー31B(厚さ25μm、25mm幅)テープを、接着性フィルム側にゴムローラーで気泡が入らない様に貼り合わせ、補強テープ幅に合わせて切り出して測定サンプルとした。
ピール接着力の測定は、テンシロン引張試験機により、引張り速度300mm/分でT字(90℃)ピール接着力を測定した(このピール接着力を「通常ピール接着力」と称す。)。
【0042】
[高温高湿条件下における保存後のピール接着力の測定]
接着性フィルムを85℃、85%RHの恒温恒湿槽中で48時間放置し、その後、上記の[ピール接着力の測定]と同様にして測定サンプルを作製し、引張り速度300mm/分でT字(90℃)ピール接着力を測定した(このピール接着力を「高温高湿保存後のピール接着力」と称す。)。下記式で算出される高温高湿保存後のピール接着力の低下率が、10%未満のものを○、10%以上20%未満のものを△、20%以上の低下があったものは×とした。
高温高湿保存後のピール接着力の低下率(%)=100−{100×[高温高湿保存後のピール接着力]/[通常ピール接着力]}
【0043】
[剥離性の評価]
通常ピール接着力の測定後、接着性フィルムを剥離した後に、剥離面のポリイミド側を観察して、接着性フィルム成分の残留物の有無を目視確認した。残留物が認められなかったサンプルを○、残留物が認められたサンプルを×とした。
結果を下表に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】
【0046】
上記表に示される通り、コンパウンドのTm−Tcが70℃を越える場合、このコンパウンドを用いて調製した接着性フィルムは、ピール接着力が弱く十分な接着性を示さず、また剥離した際には被着体に接着性成分が残留し、剥離性にも劣る結果となった(比較例1〜4)。
これに対し、本発明で規定するコンパウンドを用いて調製した接着性フィルムは、十分な接着性を示し、また剥離した際には被着体に接着性成分が残留せず、剥離性にも優れていた。すなわち本発明のコンパウンドないし接着性フィルムは、接着性と剥離性という互いに相反する特性を高いレベルで両立できることがわかる。さらに、本発明の接着フィルムは高温高湿条件下で保存しても接着性が低下しにくく、耐熱性、耐湿性に優れることもわかった(実施例1〜17)。