(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の保護層は、前記(7)の工程で使用されるドライエッチングガスイオンに対して、前記第1の保護層よりも高いエッチング耐性を有する材料で構成される、請求項6に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
なお、本願において「マスクブランク」と言う用語は、パターン化された吸収層を有するマスクとは異なり、所望のパターンにパターン化される前の状態の吸収層を有する基板を意味する。従って、通常の場合、「マスクブランク」の段階では、吸収層は、基板に全面膜の形態で配置される。
【0016】
また、「マスクブランク用の反射部材」と言う用語は、マスクブランクの製造途中段階の中間物、すなわち基板の上に少なくとも反射層が形成された部材を意味する。例えば、「マスクブランク用の反射部材」には、基板の上に反射層が配置された部材、および基板の上に反射層および保護層が配置された部材などが含まれる。
【0017】
なお、基板の上に反射層、保護層、および吸収層(さらに必要な場合、低反射層)が配置された反射部材は、完成部材、すなわち「マスクブランク」に相当する。ただし、本願では、簡単のため、そのような部材も、「マスクブランク用の反射部材」と表現する場合がある。
【0018】
(従来のマスクの製造方法に関する問題)
本発明の特徴をより良く理解するため、まず、
図1および
図2を参照して、従来のマスクの製造方法について、簡単に説明する。
【0019】
図1には、従来のマスクの製造方法のフローの一例を概略的に示す。
【0020】
図1に示すように、従来のマスクの製造方法(以下、「従来の製造方法」と称する)は、
基板に反射層を成膜する工程(ステップS10)と、
反射層の上に保護層を成膜する工程(ステップS20)と、
前記基板を洗浄する工程(ステップS30)と、
保護層の上に吸収層を成膜する工程と(ステップS40)と、
吸収層をエッチングして、吸収層のパターンを形成する工程(ステップS50)と、
を有する。
【0021】
以下、
図2を参照して、各工程について説明する。
【0022】
まず、ステップS10では、
図2(a)に示すような基板10が準備される。また、
図2(b)に示すように、基板10の一方の表面に、反射層20が成膜される。
【0023】
次に、ステップS20では、反射層20の上に、保護層30が成膜される。保護層30は、後のステップS50において、エッチング停止層として機能する。
【0024】
ここで、保護層30の成膜の際に、しばしば、保護層30に異物が混入する場合がある。そして、異物が比較的大きな寸法を有する場合、
図2(c)に示すように、保護層30は、異物35によって分断され、不連続な状態で成膜され得る。
【0025】
次に、ステップS30では、基板10が洗浄される。これにより、保護層30に含まれる異物35が除去される。
【0026】
その結果、
図2(d)に示すように、保護層30の異物35が存在していた部分は、貫通空孔37となる。そして、反射層20の一部に、保護層30によって被覆されていない露出部25が生じる。
【0027】
次に、ステップS40では、保護層30の上に吸収層60が成膜される。
【0028】
通常、吸収層60は、保護層30を覆うように形成される。ただし、
図2(e)に示すように、保護層30の貫通空孔37の位置では、吸収層60は、反射層20の上に、直接形成される。従って、貫通空孔37の位置では、吸収層60によって、反射層20の露出部25が被覆された状態となる。
【0029】
次に、ステップS50では、吸収層60がエッチング処理され、吸収層60のパターンが形成される。
【0030】
ここで、前述のように、保護層30は、エッチング処理に使用されるドライエッチングガスイオンに対してエッチング耐性を有し、エッチング停止層として機能する。このため、保護層30の上部では、吸収層60のみがエッチング除去される。
【0031】
しかしながら、貫通空孔37の位置では、保護層30が存在しない。このため、貫通空孔37の位置では、エッチング処理によって吸収層60がエッチング除去された際に、反射層20の露出部25がドライエッチングガスイオンに暴露されてしまう。また、通常、反射層20は、エッチング処理に使用されるドライエッチングガスイオンに対してエッチング耐性を示さない。従って、反射層20の露出部25がドライエッチングガスイオンに暴露されると、反射層20がダメージ(侵食)を受けてしまう。
【0032】
その結果、
図2(f)に示したように、保護層30の存在しない貫通空孔37の直下、すなわち反射層20の露出部25では、反射層20がドライエッチングガスイオンによるアタックを受け、ダメージ部28(例えば減肉部)が形成される。
【0033】
このような反射層20のダメージ部28は、位相欠陥の原因となる。また、マスクにこのような反射層20のダメージ部28が存在すると、マスクの品質が低下してしまうという問題がある。
【0034】
(本発明の一実施形態によるマスクブランク)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0035】
図3には、本発明の一実施形態によるマスクブランクの一構成例を概略的に示す。
【0036】
図3に示すように、本発明の一実施形態によるマスクブランク(以下、「第1のマスクブランク」という)100は、基板110と、該基板110の両表面に配置された各層とで構成される。
【0037】
基板110は、第1の表面112および第2の表面114を有する。基板110は、例えば、ガラス基板であってもよい。
【0038】
基板110の第1の表面112には、反射層120が配置される。反射層120は、EUV光(波長12nm〜14nm)に対して、高い反射性を示すような構成を有する。反射層120は、例えば、MoとSiの繰り返し多層膜であってもよい。
【0039】
反射層120の上には、保護層130が配置される。保護層130は、上部に配置される吸収層160および低反射層170をエッチング処理する際のエッチング停止層としての機能を有する。保護層130は、例えば、ルテニウム(Ru)またはRu化合物を含んでもよい。
【0040】
保護層130の上には、吸収層160が配置される。吸収層160は、EUV光に対して高い吸収率、すなわち低い反射率を示す材料で構成される。例えば、吸収層160は、タンタル(Ta)を含んでもよい。
【0041】
吸収層160の上には、低反射層170が配置される。低反射層170は、吸収層160のパターンを検査する検査光に対して、吸収層160よりも低い反射率を有する。検査光としては、例えば257nm程度または193nm程度の波長の光が使用される。
【0042】
低反射層170は、例えば、タンタル(Ta)を含む材料で構成されてもよい。
【0043】
なお、低反射層170は、必須の層ではなく、省略されてもよい。
【0044】
一方、基板110の第2の表面114には、導電層180が配置される。導電層180は、例えば、静電吸着方式等により、第1のマスクブランク100のハンドリングを容易にするために配置される。導電層180は、例えば、クロム(Cr)のような金属で構成されてもよい。
【0045】
ただし、導電層180を設けることは、任意であって、導電層180は、省略されてもよい。
【0046】
ここで、第1のマスクブランク100において、保護層130は、少なくとも、第1の保護層140および第2の保護層150の2層を有する。
【0047】
第1の保護層140は、反射層120の上部に配置される。ただし、第1の保護層140は、「貫通空孔」145を含み、この部分には、第1の保護層140は存在しない。換言すれば、第1の保護層140は、貫通空孔145によって不連続な状態で配置される。
【0048】
なお、
図3に示した例では、第1の保護層140内に、貫通空孔145が一つだけ存在する。しかしながら、これは単なる一例であって、第1の保護層140内に存在する貫通空孔145は、複数であってもよい。また、
図3からは明確ではないが、貫通空孔145は、第1の保護層140内に「点状」に存在している。
【0049】
このような貫通空孔145は、例えば、前述の
図2を参照して示したように、第1の保護層140の形成工程において介在した異物が、その後の洗浄工程で除去されることにより生じ得る。従来の製造方法では、
図2(d)に示したように、このような貫通空孔37によって、反射層20には、保護層30によって被覆されていない露出部25が生じる。
【0050】
これに対して、第1のマスクブランク100では、反射層120の第1の保護層140で被覆されていない部分、すなわち露出部125には、第2の保護層150が配置されている。すなわち、反射層120の表面は、露出部125を含む何れの箇所も、エッチング停止層として機能する第1の保護層140または第2の保護層150で被覆されている。
【0051】
このため、第1のマスクブランク100では、吸収層160および低反射層170のパターン化のため、これらの層をエッチング処理した際に、前述のような問題、すなわち、露出部125において、反射層120がドライエッチングガスイオンによってアタックされ、反射層120がダメージ(侵食)を受けてしまうという問題を、回避することができる。
【0052】
その結果、第1のマスクブランク100からマスクを製造した場合、反射層120に位相欠陥が生じ難くなり、マスクの品質を高めることが可能となる。
【0053】
以上、
図3に示したような第1のマスクブランク100を例に、本発明の一実施形態による特徴および効果について説明した。しかしながら、本発明の実施形態は、前述のようなマスクブランクに限られるものではない。
【0054】
例えば、本発明の一実施形態は、
図3に示した構成において、吸収層160および低反射層170を有しない、マスクブランク用の反射部材の形態であってもよい。あるいは、本発明の一実施形態は、
図3に示した構成において、吸収層160および低反射層170がパターン化された、マスクの形態であってもよい。
【0055】
(第1のマスクブランク100の各構成部材)
ここで、第1のマスクブランク100に含まれる各構成部材について、より詳しく説明する。
【0056】
(基板110)
基板110は、各層を支持するために使用される。
【0057】
基板110の材質は、EUVマスクブランク用の基板として使用できる限り、特に限られない。例えば、基板110は、ガラス基板であってもよい。
【0058】
(反射層120)
反射層120は、EUV光に対して高い反射率を有することが好ましい。例えば、反射層120の表面に、EUV光を入射角6゜で照射した際に、13.3nm〜13.7nmの波長域における反射率の最大値が60%以上であることが好ましい。
【0059】
そのような反射層120は、高屈折率層と低屈折率層を交互に複数回積層させた多層膜で構成されてもよい。その場合、例えば、高屈折率層には、Siが使用され、低屈折率層にはMoが使用されてもよい。すなわち、Mo/Si多層膜が使用されてもよい。
【0060】
ただし、反射層120は、これに限られるものではなく、例えば、Ru/Si多層膜、Mo/Be多層膜、Mo化合物/Si化合物多層膜、Si/Mo/Ru多層膜、Si/Mo/Ru/Mo多層膜、およびSi/Ru/Mo/Ru多層膜なども使用できる。
【0061】
反射層120を多層膜で構成した場合、各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層120に要求される反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si膜を例にとると、13.3nm〜13.7nmの波長域における反射率の最大値が60%以上の反射層120とするには、多層膜は、膜厚2.3±0.1nmのMo層と、膜厚4.5±0.1nmのSi層とを、繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0062】
反射層120の表面酸化を防止するため、反射層120の最上層には、酸化されにくい層(例えばSi層)を使用することが好ましい。
【0063】
反射層120の全厚は、例えば、210nm〜420nmの範囲である。
【0064】
(保護層130、すなわち第1の保護層140および第2の保護層150)
第1の保護層140および第2の保護層150は、前述のように、吸収層160および低反射層170のパターン処理の際のエッチング停止層として設けられる。
【0065】
通常、吸収層160および低反射層170のパターン処理に使用されるエッチング技術は、ドライエッチングプロセスであり、ドライエッチングガスイオンすなわちエッチングガスとしては、しばしば、塩素系ガスおよびフッ素系ガス等が使用される。
【0066】
従って、第1の保護層140および第2の保護層150は、そのようなガスに対して耐性のある材料で構成される。一般に、第1の保護層140および第2の保護層150のエッチング速度は、吸収層160のエッチング速度の1/10以下であることが好ましい。
【0067】
なお、第1の保護層140および第2の保護層150は、それ自身によって、EUV光に対する反射率が損なわれないように、十分な反射性を有する必要がある。
【0068】
そのような材料としては、ルテニウム(Ru)またはルテニウム(Ru)化合物が挙げられる。特に、Ru化合物層としては、RuB、RuNb、およびRuZrが挙げられる。
【0069】
第1の保護層140または第2の保護層150がRu化合物で構成される場合、Ruの含有率は50at%以上、好ましくは80at%以上、特に90at%以上であることが好ましい。
【0070】
第1の保護層140と第2の保護層150は、同じ材料で構成されてもよい。あるいは、第2の保護層150は、第1の保護層140とは異なる材料で構成されてもよい。
【0071】
両者が異なる材料で構成される場合、第2の保護層150は、第1の保護層140に比べて、前記ドライエッチングガスイオンに対する耐性が高いことが好ましい。これは、一般に、第2の保護層150は、第1の保護層140に比べて、厚さが薄いためである。
【0072】
例えば、第2の保護層150のエッチング速度は、第1の保護層140のエッチング速度の1/2以下、好ましくは1/3以下であってもよい。
【0073】
例えば、第1の保護層140は、Ru化合物で構成され、第2の保護層150は、Ru金属で構成されてもよい。
【0074】
第1の保護層140の厚さは、例えば、1nm〜4nmの範囲である。
【0075】
一方、第2の保護層150の厚さは、例えば、0.3nm〜3.0nmの範囲であることが好ましい。特に0.3nm〜0.6nmの範囲であることがより好ましい。
【0076】
第2の保護層150が0.6nmを超えると、第1のマスクブランク100において、EUV光に対する反射率が低下するおそれがある。一方、第2の保護層150が0.3nmを下回ると、エッチング停止層としての機能が十分に発揮されなくなるおそれがある。
【0077】
(吸収層160)
吸収層160は、高いEUV光の吸収率、すなわち低いEUV光の反射率を有することが好ましい。例えば、吸収層160の表面に、EUV光を照射した際に、13.3nm〜13.7nmの波長域における平均反射率が4.0%以下であることが好ましい。
【0078】
そのような特徴を発現させる場合、吸収層160は、例えば、Taを40at%以上、好ましくは50at%以上、より好ましくは55at%以上含有する材料で構成される。
【0079】
吸収層160に用いられるTaを主成分とする材料は、Ta以外にHf、Si、Zr、Ge、B、Pd、Pt、HおよびNのうち少なくとも1種以上の元素を含有することが好ましい。
【0080】
Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaPdN、TaPt、TaPtN、などが挙げられる。ただし、吸収層160は、酸素を含まないことが好ましい。
【0081】
具体的には、吸収層160中の酸素の含有率は、25at%未満であることが好ましい。
【0082】
吸収層160は、例えば、30nm〜100nmの範囲の厚さを有する。
【0083】
(低反射層170)
低反射層170は、吸収層160のパターンを検査する検査光に対して、吸収層160よりも低い反射率を有する。検査光としては、例えば257nm程度または193nm程度の波長の光が使用される。
【0084】
低反射層170は、例えば、Taを含む材料で構成される。また、低反射層170は、Ta以外にも、Hf、Ge、Si、B、N、H、およびOのうち少なくとも1種以上の元素を含んでもよい。
【0085】
低反射層170は、例えば、TaO、TaON、TaONH、TaBO、TaHfO、TaHfON、TaBSiO、TaBSiON、SiN、SiON等で構成されてもよい。
【0086】
吸収層160と低反射層170の厚さの合計は、例えば、10nm〜65nmの範囲であり、合計厚さは、30〜100nmの範囲が好ましく、35nm〜85nmの範囲がより好ましい。
【0087】
低反射層170が吸収層160よりも厚い場合、吸収層160でのEUV光吸収特性が低下するおそれがある。このため、低反射層170の厚さは、吸収層160の厚さよりも薄いことが好ましい。
【0088】
例えば、低反射層170の厚さは、1nm〜20nmであり、1nm〜10nmであることが好ましく、1nm〜8nmであることがより好ましい。
【0089】
なお、前述のように、低反射層170は、必要に応じて設けられる層であり、必ずしも必要ではない。
【0090】
(導電層180)
前述のように、導電層180は、必要に応じて設けられる層である。
【0091】
ただし、導電層180は、第1のマスクブランク100を静電吸着方式で保持する際に有益である。例えば、基板110の第2の表面114が導電層180を有する場合、静電チャックを用いて基板110を保持し、この状態で、基板110の第1の表面112などに対して、成膜処理などの各種ハンドリングを行うことができる。
【0092】
導電層180は、例えば、Si、TiN、Mo、Cr、CrN、CrO、またはTaSi等で構成されてもよい。導電層180は、シート抵抗が100Ω/□以下であってもよく、導電層180の厚さは、例えば10nm〜1000nmである。
【0093】
(本発明の一実施形態によるマスクの製造方法)
次に、
図4および
図5を参照して、本発明の一実施形態によるマスクの製造方法について説明する。
図4には、本発明の一実施形態によるマスクの製造方法の一例を概略的に示したフロー図を示す。また、
図5には、
図4に示した各工程における態様を概略的に示す。
【0094】
図4に示すように、本発明の一実施形態によるマスクの製造方法(以下、「第1の製造方法」という)は、
(1)基板の第1の表面に反射層を形成する工程(ステップS110)と、
(2)前記反射層の上に、第1の保護層を形成する工程(ステップS120)と、
(3)前記基板を洗浄する工程(ステップS130)と、
(4)前記基板の前記第1の表面側に、第2の保護層を形成する工程であって、これにより、前記反射層の表面は、前記第1または第2の保護層によって被覆される、工程(ステップS140)と、
(5)前記基板の前記第1の表面側に、吸収層を形成する工程(ステップS150)と、
(6)前記吸収層の上に、低反射層を形成する工程(ステップS160)と、
(7)前記吸収層および前記低反射層をエッチング処理する工程(ステップS170)と、
を有する。
【0095】
以下、
図5を参照して、各工程について説明する。なお、ここでは、明確化のため、各部材を表す際に、
図3に示した参照符号を使用することにする。
【0096】
(ステップS110)
まず、基板110が準備される。
【0097】
図5(a)には、基板110の模式的な断面図を示す。基板110は、相互に対向する第1の表面112および第2の表面114を有する。
【0098】
前述のように、基板110の材質は、特に限られず、基板110は、ガラス、シリコン、または金属等で構成されてもよい。
【0099】
次に、
図5(b)に示すように、基板110の第1の表面112に、反射層120が設けられる。
【0100】
反射層120は、前述のように、Mo膜とSi膜の交互積層膜で構成されてもよい。
【0101】
反射層120の形成方法は、特に限られない。反射層120は、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などの成膜方法を用いて成膜してもよい。
【0102】
例えば、イオンビームスパッタリング法を用いて、Mo/Si多層膜を成膜する場合、Moターゲットを用いてMo層を成膜する工程と、Siターゲットを用いてSi層を成膜する工程が、交互に繰り返し行われてもよい。
【0103】
(ステップS120)
次に、反射層120の上に、第1の保護層140が形成される。
【0104】
第1の保護層140は、前述のように、ステップS170で使用されるドライエッチングガスイオンに対して、耐性のある材料で構成される。第1の保護層140は、例えば、ルテニウム(Ru)またはRu化合物で構成されてもよい。
【0105】
第1の保護層140の形成方法は、特に限られない。第1の保護層140は、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などの成膜方法を用いて成膜してもよい。
【0106】
前述のように、第1の保護層140を形成する工程では、しばしば、第1の保護層140に異物が混入する場合がある。そして、異物が比較的大きな寸法を有する場合、
図5(c)に示すように、第1の保護層140は、異物135によって分断され、不連続な状態で成膜される。
【0107】
(ステップS130)
次に、基板110が洗浄され、これにより、異物135が除去される。
【0108】
洗浄プロセスは、特に限られない。洗浄プロセスは、例えば、純水等で基板110をウェット洗浄することにより実施されてもよい。あるいは、洗浄プロセスは、個体CO
2ジェットのようなドライ洗浄であってもよい。
【0109】
図5(d)に示すように、洗浄プロセス後には、第1の保護層140内の異物135の存在箇所は、貫通空孔145に変化する。この貫通空孔145の部分には、第1の保護層140は存在しない。このため、反射層120の表面には、局部的に第1の保護層140によって被覆されていない露出部125が生じる。
【0110】
また、洗浄プロセス後には、洗浄プロセスにより第1の保護層140の表面の一部に酸化膜が生じる。
【0111】
(ステップS140)
次に、第1の保護層140を覆うように、第2の保護層150が形成される。
【0112】
ここで、
図5(e)に示すように、第2の保護層150は、第1の保護層140に加えて、反射層120の露出部125を覆うように形成される。
【0113】
なお、
図5(e)に示した例では、第2の保護層150は、基板110の第1の表面112の上部に、第1の表面112の全体にわたって設けられている。しかしながら、これは単なる一例であって、第2の保護層150は、少なくとも反射層120の露出部125覆うように設けられればよい。
【0114】
ただし、第2の保護層150をスパッタリング法等の成膜プロセスによって形成する場合、第2の保護層150は、
図5(e)に示したように、第1の表面112の上部に全体にわたって配置することが好ましい。この場合、マスキング等処理を施す必要がなくなり、第2の保護層150を容易に形成することができる。
【0115】
第2の保護層150は、前述のように、ステップS170で使用されるドライエッチングガスイオンに対して、耐性のある材料で構成される。第2の保護層150は、例えば、ルテニウム(Ru)またはRu化合物で構成されてもよい。
【0116】
第2の保護層150の形成方法は、特に限られない。第2の保護層150は、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などの成膜方法を用いて成膜してもよい。
【0117】
(ステップS150)
次に、
図5(f)に示すように、第2の保護層150を覆うように吸収層160が形成される。
【0118】
吸収層160は、前述のように、高いEUV光の吸収率、すなわち低いEUV光の反射率を有する材料で構成される。吸収層160は、例えば、Taを40at%以上、好ましくは50at%以上、より好ましくは55at%以上含有する材料で構成される。
【0119】
吸収層160の形成方法は、特に限られない。吸収層160は、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などの成膜方法を用いて成膜してもよい。
【0120】
(ステップS160)
次に、
図5(g)に示すように、吸収層160の上に、低反射層170が形成される。
【0121】
低反射層170の形成方法は、特に限られない。低反射層170は、例えば、Taを含む材料で構成される。
【0122】
低反射層170は、例えば、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などの成膜方法を用いて成膜してもよい。
【0123】
なお、このステップS160は、必須のステップではなく、省略されてもよい。
【0124】
以上の工程により、例えば、
図5(g)に示したような構成を有するマスクブランクを製造することができる。
【0125】
(ステップS170)
次に、吸収層160(および存在する場合、低反射層170。以下同じ)がエッチング処理される。これにより、吸収層160の所望のパターンを有するマスクが製造される。
【0126】
ここで、第1の製造方法では、前述のように、ステップS140において、第2の保護層150が形成される。この第2の保護層150は、反射層120の第1の保護層140で被覆されていない露出部125を覆うように配置される。その結果、反射層120の表面は、露出部125を含む何れの箇所も、エッチング停止層として機能する第1の保護層140または第2の保護層150で被覆される。
【0127】
従って、第1の製造方法では、ステップS170において、吸収層160のエッチング処理を実施した際に、前述のような問題、すなわち、露出部125において、反射層120がドライエッチングガスイオンによってアタックされ、反射層120がダメージ(侵食)を受けてしまうという問題を、回避することができる。
【0128】
その結果、第1の製造方法では、反射層120に含まれ得る位相欠陥が有意に抑制された、高品質のマスクを提供することができる。
【0129】
以上、
図4に示した第1の製造方法を例に、本発明の一実施形態における特徴および効果について説明した。しかしながら、本発明の実施形態は、第1の製造方法に限られるものではない。
【0130】
例えば、本発明の別の実施形態では、第1の製造方法において、ステップS170が省略されてもよい。この場合、位相欠陥が有意に抑制された、高品質のマスクブランクを製造することができる。また、第1の製造方法において、ステップS160以降の工程が省略されてもよい。この場合、低反射層を有しないマスクブランクを製造することができる。さらに、第1の製造方法において、ステップS150以降の工程が省略されてもよい。この場合、マスクブランク用の反射部材を製造することができる。
【0131】
さらに、これらの実施形態において、さらに、基板110の第2の表面114に、導電層180を設ける工程が含まれてもよい。
【0132】
この他にも、当業者には、各種実施形態が想定され得る。
【実施例】
【0133】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の説明において、例1〜例8は実施例であり、例9〜例10は比較例である。
【0134】
(例1)
以下の方法で、マスクブランクを製造した。
【0135】
まず、基板として、縦152.4mm×横152.4mm×厚さ6.3mmのガラス基板(SiO
2−TiO
2系)を準備した。
【0136】
次に、ガラス基板の一方の表面(第2の表面)に、導電層を形成した。導電層は、Cr層とし、マグネトロンスパッタリング法により、厚さが約100nmとなるように成膜した。導電層のシート抵抗は、100Ω/□である。
【0137】
次に、ガラス基板の第1の表面に、反射層を成膜した。
【0138】
成膜には、イオンビームスパッタリング法を用い、厚さ2.3nmのMo層と厚さ4.5nmのSi層を交互に40回ずつ成膜することにより、Mo/Siの多層膜を形成した。
【0139】
Mo層の成膜には、Moターゲットを用い、Arガス雰囲気下でイオンビームスパッタリングを実施した(ガス圧:0.02Pa)。成膜速度は3.84nm/minとした。
【0140】
一方、Si層の成膜には、ホウ素をドープしたSiターゲットを用い、Arガス雰囲気下でイオンビームスパッタリングを実施した(ガス圧:0.02Pa)。成膜速度は4.62nm/minとした。
【0141】
反射層の総厚さ(目標値)は、(2.3nm+4.5nm)×50回=340nmである。
【0142】
次に、イオンビームスパッタリング法により、反射層の上に第1の保護層を成膜した。
【0143】
第1の保護層はRu層とし、Ruターゲットを用いて、Arガス雰囲気下でイオンビームスパッタリングを実施した(ガス圧:0.02Pa)。成膜速度は3.12nm/minとした。第1の保護層の膜厚は、2.5nmとした。
【0144】
なお、第1の保護層の成膜の際には、意図的に雰囲気の清浄度を下げ、異物が混入しやすい条件で、成膜を実施した。
【0145】
次に、各膜が形成されたガラス基板を純水で洗浄した。
【0146】
原子間力顕微鏡(AFM)装置(型番SFA460:SIIノテクノロジー社製)を用いて、洗浄されたガラス基板を第1の表面側からスキャンした。その結果、第1の保護層には、少なくとも一つの貫通空孔が存在することが確認された。
【0147】
次に、第1の保護層の上に、第2の保護層(Ru層)を成膜した。第2の保護層は、第1の保護層と同様の条件で成膜した。ただし、第2の保護層の厚さは、0.6nmとした。
【0148】
次に、第2の保護層の上に、マグネトロンスパッタリング法により、吸収層を形成した。
【0149】
吸収層は、TaN層とし、Taターゲットを用いて、KrとN
2の混合ガス(Kr=91vol%、N
2=9vol%)雰囲気下で、マグネトロンスパッタリングを実施した(ガス圧:0.18Pa)。成膜速度は、7.7nm/minとし、膜厚は、77nmとした。
【0150】
次に、吸収層の上に、マグネトロンスパッタリング法により、低反射層を形成した。
【0151】
低反射層は、TaON層とし、Taターゲットを用いて、Ar、O
2、およびN
2の混合ガス(Ar=60vol%、O
2=30vol%、N
2=10vol%)雰囲気下で、マグネトロンスパッタリングを実施した(ガス圧:ガス圧:0.29Pa)。成膜速度は1.32nm/minとした。低反射層の膜厚は、7nmとした。
【0152】
これにより、例1に係るマスクブランク(サンプル1という)が製造された。
【0153】
(例2〜例8、例13〜例20)
例1と同様の方法により、例2〜例8および例13〜例20に係るマスクブランクを製造した。
【0154】
ただし、これらの例では、第1の保護層、第2の保護層、吸収層、および/または低反射層の膜厚を、例1の場合とは変化させた。
【0155】
以下、例2〜例8および例13〜例20において得られたマスクブランクを、それぞれ、サンプル2〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20という。
【0156】
(例9)
例1と同様の方法により、例9に係るマスクブランク(サンプル9という)を製造した。ただし、この例9では、第1の保護層の上に、第2の保護層を成膜しなかった。すなわち、第1の保護層の成膜後に、吸収層の成膜を実施した。その他の製造条件は、例1と同様である。
【0157】
(例10〜例12)
例9と同様の方法により、例10〜例12に係るマスクブランク(それぞれサンプル10〜サンプル12という)を製造した。ただし、この例10〜例12では、吸収層および低反射層の膜厚を、例9の場合とは変化させた。その他の製造条件は、例9と同様である。
【0158】
以下の表1には、サンプル1〜サンプル20における各層の厚さをまとめて示した。
【0159】
【表1】
(エッチング処理)
各サンプルを用いて、低反射層および吸収層のドライエッチング処理を行った。
【0160】
ドライエッチング処理としては、プラズマRFエッチング処理を採用した。なお、ここでは、エッチング処理の際にマスクは使用せず、全面エッチングを実施した。
【0161】
まず、フッ素系ガスを用いた第1のエッチング処理により、低反射層を除去した。フッ素系ガスには、CF
4/He(ガス流量4sccm/16sccm)混合ガスを使用し、ガス圧力は0.3Paとした。また、バイアスRFは50Wとし、トリガー圧力は3Paとした。電極基板間距離は55mmとした。
【0162】
次に、塩素系ガスを用いた第2のエッチング処理により、吸収層を除去した。塩素系ガスには、Cl
2/He(ガス流量4sccm/16sccm)混合ガスを使用し、ガス圧力は0.3Paとした。また、バイアスRFは50Wとし、トリガー圧力は3Paとした。電極基板間距離は55mmとした。
【0163】
なお、吸収層のエッチング中は、雰囲気中のRu成分の有無をモニターし、Ru成分が検出されるまでの時間(「吸収層除去時間」という)を測定した。ここで、Ru成分が検出されたタイミングを「吸収層除去時点」と称する。
【0164】
この「吸収層除去時点」は、吸収層がエッチング除去されたタイミングと見なすことができる。ただし、吸収層除去時点では、吸収層が局部的に残留している可能性が否定できない。このため、吸収層除去時点から、さらに吸収層除去時間の30%の時間だけ、オーバーエッチング処理を行った。
【0165】
以上のようなエッチング処理により、低反射層および吸収層がサンプルの表面から除去された。
【0166】
(評価)
エッチング処理後に、前述のAFM装置を用いて、各サンプルの表面(ガラス基板の第1の表面側に対応する)を観察した。この場合、サンプル1〜サンプル8では、観察対象表面は、第2の保護層の表面に対応し、サンプル9〜サンプル10では、観察対象表面は、第1の保護層の表面に対応する。
【0167】
そのような観察により、第2の保護層および/または第1の保護層越しに、反射層の露出の有無を評価した。
【0168】
前述の表1の「反射層の露出の有無」の欄には、各サンプルにおいて得られた評価結果をまとめて示した。
【0169】
この結果から、サンプル9〜サンプル12では、反射層の一部は、第1の保護層で被覆されておらず、反射層の表面が露出されていることがわかる。この露出部では、エッチング処理の際に、反射層がダメージを受けた可能性が高い。
【0170】
これに対して、サンプル1〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20では、反射層の表面が露出されていないことがわかった。従って、サンプル1〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20では、エッチング処理の際に、反射層がダメージを受けた可能性は低い。
【0171】
なお、前述のように、サンプル1〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20においても、第2の保護層の成膜前には、貫通空孔(および反射層の露出部)が存在することが確認されている。従って、サンプル1〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20では、第2の保護層を設けることにより、反射層の露出部が被覆されたものと予想される。また、このことから、サンプル1〜サンプル8およびサンプル13〜サンプル20では、エッチング処理の際に、第2の保護層が直下の反射層に対するエッチング停止層として機能した可能性が高いと思われる。
【0172】
このように、第1の保護層の形成後に第2の保護層を設けることにより、反射層の露出部が被覆され、エッチングの際に反射層がダメージを受けることが抑制できることが予想された。