特許第6852463号(P6852463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6852463-蛍光体レンズ及び発光装置 図000005
  • 特許6852463-蛍光体レンズ及び発光装置 図000006
  • 特許6852463-蛍光体レンズ及び発光装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852463
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】蛍光体レンズ及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/02 20060101AFI20210322BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20210322BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20210322BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20210322BHJP
【FI】
   G02B1/02
   C09K11/00 D
   C09K11/80
   C04B35/50
   H01L33/50
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-39031(P2017-39031)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-146656(P2018-146656A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
【審査官】 山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−352085(JP,A)
【文献】 特開2004−146835(JP,A)
【文献】 特開2010−235388(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0181919(US,A1)
【文献】 特開2013−225597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00−1/08
3/00−3/14
C04B 35/50
C09K 11/00
C09K 11/80
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
(LaxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、QはGd、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素(ただし、下記(III)の条件ではGd及び/又はTb)であり、x、y、z、w、v、p、q、rは下記(I)、(II)、(III)のいずれかの条件を満たす。
(I):x=y=0、0<z≦1、0.0001≦w≦0.005、0<v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0≦q≦0.55、0<r≦0.2、p+q+r=1である。
(II):0<x≦0.1、0≦y≦1、0<z≦1、0.0001≦w≦0.005、0≦v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0≦q≦0.55、0≦r≦0.2、p+q+r=1である。
(III):x=0、0<y≦1、0≦z≦1、0.0001≦w≦0.005、0≦v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0<q≦0.55、0≦r≦0.2、p+q+r=1である。)
で表されるA3512型ガーネット構造を有する複合酸化物を主成分として含み、副成分としてシリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む、光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率が50%以上となる透明セラミックスの焼結体からなる蛍光体レンズ。
【請求項2】
前記(I)の条件において、QとしてGdを含み、0<q≦0.55である請求項1記載の蛍光体レンズ。
【請求項3】
青色の励起光が入射されて、白色光を出射する請求項1又は2記載の蛍光体レンズ。
【請求項4】
レンズの径方向の厚み分布として、一方のレンズ面側の光軸上に点光源を配置し、該点光源から励起光を該一方のレンズ面に入射させた場合に、レンズ内を透過する励起光の光路長がすべて等しくなる厚み分布を有する凸型レンズである請求項1〜3のいずれか1項記載の蛍光体レンズ。
【請求項5】
当該蛍光体レンズの光軸を中心としてそのレンズ径方向に前記複合酸化物におけるCeの濃度勾配を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の蛍光体レンズ。
【請求項6】
前記レンズ径方向のCeの濃度勾配とレンズの径方向の厚み分布の組み合わせにより、出射光の色調が出射面内で均一となっている請求項5記載の蛍光体レンズ。
【請求項7】
一方のレンズ面が平坦面であり、他方のレンズ面が凸レンズ面、フレネルレンズ面、凹レンズ面又は非球面レンズ面である請求項6記載の蛍光体レンズ。
【請求項8】
出射光側のレンズ面の表面が微細凹凸又はピラミッド型テクスチャを有する粗面となっている請求項1〜7のいずれか1項記載の蛍光体レンズ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の蛍光体レンズ及び該蛍光体レンズの一方のレンズ面に励起光を入射する光源を備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長コンバータや照明用の部材として好適に用いられ、半導体レーザーの光(LD光)又は発光ダイオードの光(LED光)により励起されて可視域の蛍光を発する蛍光体レンズ及びその蛍光体レンズを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガーネット構造を有する結晶からなる蛍光体は古くから知られており、その中でもYAG:Ce蛍光粉末は最も有名で、青色LEDと組み合わせて白色光をつくる照明部材の材料として広く利用されてきた。ただし従来は、この蛍光体を粉末の状態とし、それを封止剤で支持して蛍光構造体として利用することが多かった。
【0003】
蛍光粉末を支持する方法としては大きく2種類が知られている。その1つはシリコーン封止剤で封止する方法、もう1つはガラスで封止する方法である。ところが、シリコーン封止剤で封止する方法では、シリコーン樹脂の耐熱温度である180℃以上の高温環境で使用することができなかった。また、ガラスで封止する方法では、300℃をピーク温度とする加熱冷却を繰り返すと、蛍光粉末とガラスとの線膨張係数差に起因するヒートサイクル応力割れが発生する問題があった。
【0004】
過去に、蛍光体となりうる材料のみからなる構造体(バルク体)が検討されており、例えば特開平10−67555号公報(特許文献1)には、代表的なYAGの例として、Al23及びY23を主成分としてガーネット結晶構造を有すると共に、少なくとも1種以上の金属酸化物を含み、この金属酸化物の標準生成ギブスエネルギー(ΔGf°)はAl23の標準生成ギブスエネルギーよりも大きな負の値で、且つ金属酸化物の含有割合は5ppm以上20000ppm以下であることを特徴とする透光性セラミックスであって、平均粒径25μm以下で且つ平均粒径の2倍以上の異常粒子を含まない、均質な構造で機械的強度に優れ、透明性にも優れた透光性セラミックスが開示されている。
しかしながら、特許文献1では、蛍光体としてではなく、単に透明性、機械的強度、耐熱性を有する発光管として開示されているだけであった。
【0005】
蛍光体のみからなる構造体、即ち透明セラミックス蛍光体材料(バルク体)の作製は工業的に難しいらしく、その後もセラミックス蛍光体を他の透明セラミックス母材中に分散し担持させる方式も長らく採用されてきた。
【0006】
例えば特許第4122791号公報(特許文献2)には、1乃至複数の収納凹所が表面に形成されたセラミック基板と、前記収納凹所の底面に実装される発光素子とを備えた発光装置において、受けた光と波長が異なる光を放射する波長変換物質、あるいは所定の波長の光を吸収する光吸収物質の少なくとも一方を前記セラミック基板内に含有し、前記収納凹所底面と背向するセラミック基板の裏面を光放射面としたことを特徴とする発光装置が開示されている。これにより、セラミック基板は可視光領域における透光性を有し、波長変換物質である、例えばYAG蛍光体を含有して形成されているため、耐光性、耐熱性、放熱性に優れ、経年変化並びにばらつきを抑制でき、光の混色性も高めることができる発光装置を提供できる。
【0007】
なお、少数ではあるが、蛍光体のみからなる構造体、即ち透明セラミックス蛍光体材料(バルク体)の検討はその後も継続して試みられている。例えばガーネット型透明セラミックスの別の例として、特許第5462515号公報(特許文献3)には、(1)一般式RE3512(但し、REは一般式PrxLu3-x又はCexLu3-x(但し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表され、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種ならびにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶体からなる透明セラミックスが、優れた透明性を有することが開示され、なかでもCexLu3-xの組成のもので蛍光中心波長550nmの緑色蛍光特性が得られることが開示されている。
しかしながら、特許文献3で示された透明セラミックスは放射線検出器用のシンチレータを前提としており、白色光の放射が必要とされる照明用途には向いていなかった。
【0008】
また、高輝度白色光LED(発光ダイオード)の業界では、なおも蛍光体のみからなる構造体、即ち透明セラミックス蛍光体材料(バルク体)ではなく、透明セラミックス母材への蛍光体の分散担持や、透明セラミックス層による蛍光層の積層化などの方法が検討されている。
【0009】
その流れの中でみると、例えば特許第5490407号公報(特許文献4)には、白色の発光装置に用いられる、ドープされたYAGのタイプの蛍光体を有する多結晶セラミック構造の蛍光体であって、前記蛍光体が、セラミックマトリックス複合材料を形成するよう、非発光多結晶アルミナを有するセラミックマトリックスに埋め込まれ、前記セラミックマトリックス複合材料が、粒界を有し、80乃至99.99vol.%のアルミナと、0.01乃至20vol.%の蛍光体とを有することを特徴とする多結晶セラミック構造体の蛍光体が開示されている。これにより、YAGのようなガーネット構造を有する材料は、組成の幅が非常に狭い化合物であるため異相が現れるので透明YAG体を作製することが困難であったものが、透光性アルミナの作製は適切に処理でき、これをマトリックスとして採用するため、残存気孔寸法も小さくできて気孔や異相による後方散乱損失を低くすることが可能である、複合材料タイプの透明セラミック蛍光体材料の構造が示された。
【0010】
更に、特許文献4の本文中において、発光セラミックマトリックス複合材料の形態ではあるが、このセラミック素子を、成形、研削、機械加工、ホットスタンプ又は研磨して望ましい形状に仕上げる付加的な利点が開示されている。即ち、発光セラミックマトリックス複合材料自体をドームレンズなどのレンズ状に成形したり、素子上部を、ランダムに、又はフレネルレンズ形状にテクスチャすることが示されている。
【0011】
また、特許第5763683号公報(特許文献5)には、発光セラミック複合積層体であって、流動系熱化学合成されたYAG:Ceを含む発光材料を含む少なくとも1つの波長変換セラミック層と、実質的に透明なセラミック材料の少なくとも1つの非発光層と、を含み、波長変換セラミック層及び非発光層は、厚み方向に積層されており、発光セラミック複合積層体は、少なくとも0.650の波長変換効率(WCE)を有する、白色の発光装置に用いられる、発光セラミック複合積層体が開示されている。ここでは、波長変換セラミック層は薄いが、それに積層される実質的に透明な非発光層を、一般的な形状である「実質的半球」形状にしたり、それ以外の幾つかの変形例に加工したりする例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平10−67555号公報
【特許文献2】特許第4122791号公報
【特許文献3】特許第5462515号公報
【特許文献4】特許第5490407号公報
【特許文献5】特許第5763683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上の先行技術文献から従来の波長変換部材(蛍光体)には白色光発光装置用として大きく3点の技術的課題があることが分かる。
1点目は、透明セラミックス蛍光体材料単体からなるバルク体の作製が困難である点、特に該蛍光体材料がYAG等のガーネット構造からなる場合の、バルク体の作製が困難である点である。
2点目は、セラミックス蛍光体材料を他の透明セラミックスバルク体で担持させた場合の問題である。一般にセラミックス蛍光体材料を他の透明母体の中に分散担持させた場合、その構造体全体の波長変換効率を向上させるためには、分散されるセラミックス蛍光体材料中のCe等の付活剤濃度を上げる必要が生じる。例えば、特許文献4に開示されている例では、YAGセラミックスの中のイットリウムを置換するセリウムの下限vol%は2%となっている。この濃度はかなり高めであり、濃度消光や温度消光を起こすリスクがかなり高まる。
3点目は、結局のところ透明セラミックス蛍光体材料単体からなるバルク体の提供が困難であるため、例えば白色LEDデバイス等の発光装置に必要となるレンズ機能を波長変換部材とは別の部材として用意する必要がある点である。この場合、部品点数が増加し、発光装置を小型化することが困難となる。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、白色光発光装置に適用可能であると共に、装置の部品点数を低減し、装置の小型化が可能な蛍光体レンズ及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の蛍光体レンズ及び発光装置を提供する。
〔1〕 下記式(1):
(LaxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、QはGd、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素(ただし、下記(III)の条件ではGd及び/又はTb)であり、x、y、z、w、v、p、q、rは下記(I)、(II)、(III)のいずれかの条件を満たす。
(I):x=y=0、0<z≦1、0.0001≦w≦0.005、0<v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0≦q≦0.55、0<r≦0.2、p+q+r=1である。
(II):0<x≦0.1、0≦y≦1、0<z≦1、0.0001≦w≦0.005、0≦v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0≦q≦0.55、0≦r≦0.2、p+q+r=1である。
(III):x=0、0<y≦1、0≦z≦1、0.0001≦w≦0.005、0≦v≦0.04、x+y+z+w+v≦1であり、0.4≦p≦1、0<q≦0.55、0≦r≦0.2、p+q+r=1である。)
で表されるA3512型ガーネット構造を有する複合酸化物を主成分として含み、副成分としてシリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む、光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率が50%以上となる透明セラミックスの焼結体からなる蛍光体レンズ。
〔2〕前記(I)の条件において、QとしてGdを含み、0<q≦0.55である〔1〕記載の蛍光体レンズ。
〔3〕 青色の励起光が入射されて、白色光を出射する〔1〕又は〔2〕記載の蛍光体レンズ。
〔4〕 レンズの径方向の厚み分布として、一方のレンズ面側の光軸上に点光源を配置し、該点光源から励起光を該一方のレンズ面に入射させた場合に、レンズ内を透過する励起光の光路長がすべて等しくなる厚み分布を有する凸型レンズである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の蛍光体レンズ。
〔5〕 当該蛍光体レンズの光軸を中心としてそのレンズ径方向に前記複合酸化物におけるCeの濃度勾配を有する〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の蛍光体レンズ。
〔6〕 前記レンズ径方向のCeの濃度勾配とレンズの径方向の厚み分布の組み合わせにより、出射光の色調が出射面内で均一となっている〔5〕記載の蛍光体レンズ。
〔7〕 一方のレンズ面が平坦面であり、他方のレンズ面が凸レンズ面、フレネルレンズ面、凹レンズ面又は非球面レンズ面である〔6〕記載の蛍光体レンズ。
〔8〕 出射光側のレンズ面の表面が微細凹凸又はピラミッド型テクスチャを有する粗面となっている〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の蛍光体レンズ。
〔9〕 〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の蛍光体レンズ及び該蛍光体レンズの一方のレンズ面に励起光を入射する光源を備える発光装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の組成のガーネット型複合酸化物を用いるので透明セラミックス蛍光体単体からなる白色光発光装置に適用可能なバルク体を容易に作製でき、更にその外面を所定形状としてレンズ機能を付与するので出射光の色調のレンズ出射面内で均一化を図ることができ、かつ部品点数を低減し、発光装置の小型化を図ることが可能な蛍光体レンズ及びそれを用いた発光装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る蛍光体レンズの構成例1を示す概略断面図である。
図2】本発明に係る蛍光体レンズの構成例2を示す概略断面図である。
図3】本発明に係る蛍光体レンズの構成例3を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[蛍光体レンズ]
以下に、本発明に係る蛍光体レンズについて説明する。
本発明に係る蛍光体レンズは、Aサイト位置に少なくともY、Lu、Sc、Laよりなる群から選択された1つ以上の元素とCeとが入り、Bサイト位置に少なくともAlが入るA3512型ガーネット構造を有する複合酸化物を主成分として含み、副成分としてシリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む、光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率が50%以上となる透明セラミックスの焼結体からなるものである。ガーネット構造はIa−3dの空間群をもつ立方晶をしており、焼結して緻密化させた場合に複屈折の散乱を生じることなく高い透明性を有すると共に蛍光体とすることができるため、本発明の目的とするものとして最も適切なものである。
【0019】
また、本発明の蛍光体レンズは、一方のレンズ面に入射した励起光により蛍光を発し、他方のレンズ面からその蛍光及びレンズ内を透過した励起光を該他方のレンズ面で屈折させてこれらの光路を制御して出射する。
【0020】
ここで、前記複合酸化物は、下記式(1):
(LaxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.1以下、yは0以上1以下、zは0以上1以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0以上0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、yとzは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上1以下、qは0以上0.55以下、rは0以上0.2以下、p+q+r=1である。QはGd、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
で表されるものであることが好ましい。
【0021】
なお、La、Lu、Y、Ce、Sc、Qを総称してAサイト位置の元素という。またAl、Ga、Scを総称してBサイト位置の元素という。
【0022】
上記式(1)のAサイト位置の元素のうち、Ceは、410〜480nmの波長範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光による励起で、480〜710nmの波長の蛍光を放出しながら速やかに低エネルギー状態に遷移する元素であり、本発明にとっては必須の元素である。
【0023】
La及びYの組み合わせ(即ち、xが0より大であり、yが0であり、zが0より大である場合)、場合により更にLuを含めた組み合わせ(即ち、x、y、z共に0より大である場合)、又はLuだけの場合(即ち、x及びzが0であり、yが0より大である場合)、及びLuとYの組み合わせ(Laは含まず)(即ち、xが0であり、y及びzが0より大である場合)は、その組み合わせにおけるそれぞれの成分濃度比を変化させることにより、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を535〜575nmの範囲で調整することができる元素である。そのため本発明にとっては別の必須の元素群である。
【0024】
Scは、Aサイト位置とBサイト位置の両方を占有する元素である。Scの好ましい作用として、そのイオン半径のもつ特徴により、Aサイト位置にもBサイト位置にも収まりうる点が挙げられる。前述の特許文献4でも言及されていたが、一般にガーネット構造を有する材料は、組成の幅が非常に狭い化合物であるため異相が現れるので透明セラミックス蛍光体を作製することが困難であった。ところがここにScを添加すると、Aサイト位置の元素が不足気味の場合にはAサイト位置にScが選択的に充填され、Bサイト位置の元素が不足気味の場合にはBサイト位置にScが選択的に充填される、A/Bサイト比の自動補償効果を発揮することができる。これにより多少の配合比のずれはScの添加によって自動的に補正されるため、実質的にガーネット組成の幅が広がり、透明セラミックス蛍光体の作製が容易になる。また、Scは波長600nmでの全光線透過率を50%以上に高めることのできる透明性向上元素である。更にCeによって放出される蛍光のスペクトル帯域を広帯域化させることができる元素でもあり、本発明にとっては更に別の重要な元素である。
【0025】
Qは、透明セラミックス蛍光体材料の蛍光特性を調整することのできるGd、Tb、Prよりなる元素群である。具体的には、Gdは、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を長波側に広帯域化させることのできる元素であり、本発明にとっては重要な元素である。
【0026】
また、Tbは、その添加量の多寡により、Ceによって放出される蛍光の強度を向上させたり、蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせることのできる元素であり、本発明にとっては重要な元素である。
【0027】
また、Prは、その添加量の多寡により、Ceによって放出される蛍光の強度を向上させることのできる元素であり、本発明にとっては別の重要元素である。
【0028】
上記式(1)のBサイト位置の元素のうち、Alは、透明セラミックス蛍光体材料の耐熱性向上や、熱伝導性の向上をつかさどる元素であり、本発明にとっては必須の元素である。
【0029】
Gaは、透明セラミックス蛍光体材料の製造温度を低下させたり、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせることのできる元素であり、本発明にとっては重要な元素である。
【0030】
本発明の蛍光材料は、上記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含有する。更に副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、ハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物材料が、前記複合酸化物の質量に対して0より大きく100ppm未満の範囲で含まれる。この副成分は光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率を50%以上にすることのできる成分であり、極微量でありながらも本発明にとっては特に重要な元素群である。
【0031】
ここで、主成分として含有するとは、上記式(1)で表される複合酸化物を90質量%以上含有することを意味する。式(1)で表される複合酸化物の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の透明セラミックス蛍光体材料は、上記の主成分と副成分とで構成されるが、更に他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、イッテルビウム(Yb)が例示でき、様々な不純物群として、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、燐(P)、タングステン(Ta)、モリブデン(Mo)等が典型的に例示できる。
【0033】
その他の元素の含有量は、Aサイト位置の元素の全量を100質量部としたとき、10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0034】
式(1)中、Ceに関するwは0.0001以上0.005以下の範囲であり、0.001以上0.004以下であることが好ましい。wがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を確保できる。wが0.0001未満であると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されるCeの濃度が薄すぎるため、励起されたCeによって放出される蛍光の強度が低下する。また、wが0.005超であると、Ceの濃度消光により再び蛍光の強度が低下し始める。
【0035】
式(1)中、Laに関するxは0以上0.1以下の範囲であり、好ましくは0以上0.05以下である。xがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を確保できる。xが0.1より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeの持つエネルギーの一部が等電位トラップされてしまい、Ceによって放出される蛍光の強度を低下させてしまうため好ましくない。更に結晶構造における格子歪も増加するため、特性再現性よく製造することが難しくなり好ましくない。
【0036】
式(1)中、Luに関するyは0以上1以下の範囲であり、好ましくは0以上0.996以下である。yがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせる効果が得られる。yが増加するに比例して単調に励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせることができるため、所望の設計波長に合わせてyの量を調整することが好ましい。
【0037】
式(1)中、Yに関するzは0以上1以下の範囲であり、好ましくは0以上0.996以下である。zがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を強めることができ、更に蛍光強度特性が安定するため、再現性よく製造することができる。zが1より多くなると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度が低下するため好ましくない。
【0038】
式(1)中、Scに関するv及びrはそれぞれ、0≦v≦0.04、0≦r≦0.2であり、好ましくは0<v≦0.04、0<r≦0.2である。vがこの範囲にあると、光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率が50%以上となる。vが0.04より多くなると波長600nmでの全光線透過率が50%未満に低下してしまうため好ましくない。一方、rが上記範囲にあると、Ceによって放出される蛍光のスペクトル帯域幅を広帯域化させる効果が得られる。rが0.2より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeのエネルギーの一部が、蛍光を放出しない遷移によって低エネルギー状態に緩和してしまうため好ましくない。
【0039】
式(1)中、Alに関するpは0.4以上1以下の範囲である。pがこの範囲にあると、良好な耐熱性や熱伝導性が得られる。pが0.4未満に低下してしまうと耐熱性や熱伝導性が有意に劣化してしまうため好ましくない。
【0040】
式(1)中、Gaに関するqは0以上0.55以下の範囲である。qがこの範囲にあると、蛍光強度を効率的に確保できる。qが0.55より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeのエネルギーの一部が、蛍光を放出しない遷移によって低エネルギー状態に緩和してしまうため好ましくない。
【0041】
式(1)中、x+y+z+w+vは1以下であり、1でない場合には、QとしてGd、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素が添加される。
【0042】
また式(1)中、yとzは同時に0(即ち無添加)を選択することはできない。例えば、複合酸化物の主相が少なくともY、Ce、Alを含んで構成されるガーネット構造、Lu、Ce、Alを含んで構成されるガーネット構造、乃至はLa、Y、Ce、Alを含んで構成されるガーネット構造を有する透明セラミックスからなる蛍光材料であることが好ましい。こうすることにより、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を535〜575nmの範囲で確実に調整することができる。
【0043】
ところで、式(1)で表される複合酸化物において、Aサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数とは、3対5の比率である。ただし試作検討を進めた結果、Aサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数の比率(AサイトとBサイトのモル比率、B/A)の3/5倍が1以上である場合、好ましくは1以上1.04以下である場合には、波長600nmでの全光線透過率が50%以上確保可能であることが確認されたので好ましい。AサイトとBサイトのモル比率(B/A)の3/5倍が1以上、好ましくは1以上1.04以下とするには、初めに各原料を秤量する際に、例えばAサイト位置の元素群の合計モル数の基本組成(式(1))におけるAサイト位置の元素群の合計モル数に対する比率が100%に満たないように、かつBサイト位置の元素群の合計モル数の基本組成(式(1))におけるBサイト位置の元素群の合計モル数に対する比率が100%をわずかに超えるように、意図的にオフセットさせて秤量するとよい。
即ち、このAサイト位置の元素群の合計モル数及びBサイト位置の元素群の合計モル数の比率は、各元素(酸化物であれば各元素の酸化物)の実秤量値から各々モル分率を計算することにより求めることができる。
【0044】
以上の式(1)で規定される透明セラミックスの焼結体とすれば、ガーネット格子を有する立方晶(ガーネット型立方晶)を主相とするものとなり、好ましくはガーネット型立方晶からなるものとなる。なお、主相とするとは、結晶構造としてガーネット型立方晶が全体の90体積%以上、好ましくは95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、特に好ましくは99.9体積%以上を占めることをいう。結晶構造が立方晶であると、複屈折による散乱の影響がなくなり、波長600nmでの全光線透過率が向上するため好ましい。
【0045】
更に、ガーネット格子を有する立方晶(ガーネット型立方晶)を主相とするものとなり、好ましくはガーネット型立方晶からなるものとすることによって、本発明の透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料では、必須元素のCe(セリウム)がガーネット型立方晶の主相の隅々にまで拡散でき、かつガーネット格子を有する立方晶中でのセリウムの偏析係数はほぼ1であるため、セリウムが粒界に偏析することも抑制され、粒界偏析や異相(第2相)の形で材料中に局所的に高濃度分布することのない蛍光材料となる。
【0046】
なおかつ、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、ハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物材料からなる副成分が前記複合酸化物に対する質量比として100ppm未満の範囲に絞られて含有されているのみとすれば、この副成分中へのCeの拡散量も極めて限定的に抑制できるため、Ceが蛍光材料中の隅々にまで拡散分布しており、粒界偏析や異相(第2相)の形で材料中に局所的に高濃度分布することのない蛍光材料とすることができるため好ましい。
以上のように、本発明の蛍光材料中でCeが局所的に高濃度分布することがなくなると、熱消光耐性の向上も期待できる。
【0047】
以上の蛍光材料によれば、光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率が50%以上あり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有するLD光又はLED光をこの蛍光材料に入射させてこのLD光又はLED光の一部を入射側と反対側に透過させ、残りのLD光又はLED光を吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長(蛍光強度が最大となる波長)が535〜575nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が80nm以上である透明セラミックスの焼結体からなる蛍光体レンズを提供できる。
【0048】
本発明の蛍光体レンズは、上記構成からなる透明な材料(透明セラミックス)であって、更にレンズ面を所定の形状とすることで更にレンズ機能を付与することができる。ここでは、これをレンズ形状機能と称する。
【0049】
最もシンプルなレンズ形状機能としては、蛍光体レンズに凸型形状をもたせる場合が挙げられる。
即ち、本発明で用いる透明セラミックスは、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有する青色の励起光(LD光又はLED光)による励起で、その一部の光を480〜710nmの波長の蛍光に変換し、変換されなかった青色の励起光成分と混色させ、白色光として外部に放出(出射)する機能を有する材料である。なお、本発明でいう白色光とは、ANSI C78.377に規定されている2700Kから6500Kの中に含まれる色温度をもった白色光である。
【0050】
ここで、青色の励起光成分が波長変換される割合はその光路長に比例する。そのため、蛍光体レンズから放出される光成分の位置ごとに光路長が異なると、混色色調むらが生じてしまう。一方、励起光の光源であるLD又はLEDから放射される光成分は一般的に点光源型の伝搬形状をもつ。すると、仮に蛍光体レンズの両側面(両方のレンズ面)がフラット(平板タイプ)である場合には、光軸中心を通る直進成分の光路長が最短となり、レンズ内を斜めに入射伝搬する外周光成分の光路長は伸びて長くなってしまう(光路長分散)。そこで、本発明では、この光路長分散を打ち消すように、蛍光体レンズの厚みを光軸中心が厚く、外周側になるほど薄くなるように径方向に厚み勾配をつけてやると、出射光の色調の面内分布が極小となり好ましい。
【0051】
つまり、蛍光体レンズの厚み分布として、蛍光体レンズの一方のレンズ面側の光軸上に点光源を配置し、該点光源から励起光を該一方のレンズ面に入射させた場合に、レンズ内を透過する励起光の光路長がすべて等しくなるような厚み分布を有するようにしてやることが好ましい。あるいは、一方のレンズ面が平坦面であり、他方のレンズ面が凸レンズ面とするときには、他方のレンズ面が、前記一方のレンズ面側の光軸上に点光源を配置し、該点光源から励起光を該一方のレンズ面に入射させた場合に、レンズ内を透過する励起光の光路長がすべて等しくなるような表面形状を有しているようにしてやることが好ましい。これにより、出射光として、例えば均一な白色光が得られる。
【0052】
なお、蛍光体レンズのレンズ径方向の厚み分布は、用いる光源(青色のLD又はLED)から放射される光成分の開口数(NA)や、蛍光体レンズとの距離などにより変化するため、白色光発光装置(白色LEDモジュール)を設計する際にこれらを考慮して計算により求めることができる。一般的には、ある曲率をもった非球面レンズ形状になることが多い。
【0053】
ここまでは、本発明の蛍光体レンズがレンズ内で均一な組成の透明セラミックスからなる場合を説明してきたが、本発明の蛍光体レンズにおいて、当該蛍光体レンズの光軸を中心としてそのレンズ径方向に前記複合酸化物におけるCeの濃度勾配を有するようにしてもよい。この場合、上記のように凸型形状をもたせる場合の他に、含有する複合酸化物のCe濃度のレンズ径方向における濃度勾配に対応させて、凸型、凸レンズ型、フレネルレンズ型、非球面レンズ型などの様々なタイプのレンズ形状として白色光の均一化を図ることもできる。また、一方のレンズ面を平坦面とし、他方のレンズ面が凸レンズ面、フレネルレンズ面、凹レンズ面又は非球面レンズ面としてもよい。なお、この場合のCeの濃度勾配の範囲は、上記式(1)で示した組成範囲となるように、例えば濃度の低い側の成分がwの下限0.0001を下回らない範囲で下限寄りに、濃度の高い側の成分がwの上限0.005を上回らない範囲で上限寄りに設計することが好ましい。こうすることで、焼結工程での熱拡散による濃度勾配緩和が起こっても、上記式(1)の範囲を逸脱することがなくなり好ましい。
【0054】
レンズ径方向にCeの濃度勾配を持たせるには様々な方法がある。最も簡便な方法としては、予めCe濃度の低い透明セラミックスの焼結体を成形しておき、その表面にスピンコート法やスプレー法などによりCe濃度の高い透明セラミックス蛍光体材料被膜をつけ、それを焼結することでCeを表面から内部に熱拡散させる方法が挙げられる。この方法は簡便ではあるが、レンズ表面に形成された均一な厚みの被膜を拡散させることからレンズの奥行方向の厚み分布に対応した濃度分布とすることしかできず、まだ完全に自由な光学設計を保証することはできない。
【0055】
この他の方法として、成形工程において、コア・クラッド型の二重成形法を採用すれば、Ce濃度勾配をレンズ中心から外周方向に濃度が増加するプラス勾配にも、濃度が減少するマイナス勾配にも自由に付与することができ好ましい。
【0056】
Ce濃度の異なるコアロッド部とクラッド外筒部とからなるコア・クラッド型の二重成形法は以下の手順で行うことができる。即ち、まず初めに、あるCe濃度に設計された(ある濃度でCeを添加しておいた粉末原料を用いた)コアロッド部を1軸プレス成形機で成形する。続いて、得られたグリーン体を、初めの1軸プレス成形機の直径より一回り大きな直径の1軸プレス成形機の略中心に装填する。このときガイド治具などを用いることで略中心へのセットが可能となる。するとグリーン体の外周部に同心円状(ドーナツ状)に空間ができ、このドーナツ状の空間(クラッド層を成形する空間)に、コアロッド部とはCe濃度を変えたクラッド外筒部用粉末を充填する。この状態でこの一回り大きな1軸プレス成形機でコアロッド部もろとも再度成形することにより、コア・クラッド型の二重成形グリーン体が作製できる。あとは通常と同様に脱脂以降のセラミックス作製工程に回すことで、特に焼結工程においてCeを熱拡散させて径方向に濃度勾配を付与することが可能となる。
【0057】
このとき、Ce濃度勾配、例えば上記2つの組成の原料粉末におけるCe濃度は、上記式(1)で示した組成範囲となるように、濃度の低い側の成分がwの下限0.0001を下回らない範囲で下限寄りに、濃度の高い側の成分がwの上限0.005を上回らない範囲で上限寄りに設計することが好ましい。こうすることで、焼結工程での熱拡散による濃度勾配緩和が起こっても、上記式(1)の範囲を逸脱することがなくなり好ましい。
【0058】
具体的には、蛍光体レンズのレンズ形状を光取出し効率が高くなるように設計し、即ち凸型、凸レンズ型などのようにレンズの光軸中心で厚くなる場合、あるいはフレネルレンズ型などのように径方向でできるだけ厚みの変化がない場合それぞれについて設計し、続いて該蛍光体レンズを構成する蛍光体材料(透明セラミックス)を励起させる青色光が同心円の底面中心乃至は上面中心から入射する場合の広がり角を設計し、それらの結果から光軸中心における入射光の直進成分とレンズ外周方向に広がり角を持って進む様々な角度成分における光路長を算出し、その結果、直進成分の光路長ほど短くなる場合には、Ce濃度がレンズ径方向として外周方向に進むほど濃くなり、逆に直進成分の光路長ほど長くなる場合には、Ce濃度がレンズ径方向として外周方向に進むほど薄まるようにするとよい。
【0059】
この方法を用いると、例えばコアロッド部のCe濃度を高く、クラッド部のCe濃度を低くするパターンと、コアロッド部のCe濃度を低く、クラッド部のCe濃度を高くするパターンの両方を作製することが可能となるため、これらを焼結により熱拡散させることによって、Ce濃度勾配をレンズ径方向に対してプラス勾配にもマイナス勾配にも自由に付与させた蛍光体レンズを作製できるため好ましい。
【0060】
このように、複合酸化物におけるCeの濃度勾配をもたせた機能性透明セラミックスとすることにより、上述した励起光入射成分の光路長を等しくさせて出射光の色調の面内均一性を向上させるばかりでなく、更に該蛍光体レンズから放出される、混色された白色光の成分の放射角度を調節するレンズ機能を付与することも可能となる。即ち、蛍光体レンズの屈折率とレンズ内部を伝搬する面内の各光成分の伝搬角とから、スネルの法則によりすべての成分の出射光の出射角をレンズ光軸中心方向に絞ったり、逆にレンズ光軸中心から外周方向に広がる方向に発散させたりするレンズとしての光学設計が可能となる。
【0061】
本発明の蛍光体レンズは、上記で説明した通り、ただ透明な蛍光体であるばかりでなく、更にレンズ形状を付与することで、色調調整機能と光学設計機能を有したものとすることができる。その上で、必要に応じて更に光が放出される面(出射面)を微細凹凸又はピラミッド型テクスチャを有する粗面とすることにより、外部光取出し効率を向上させることもできる。
【0062】
そのような粗面化の方法は特に制限されないが、従来公知のブラスト処理やエッチング処理を利用してもよいし、最近の技術としてはナノインプリント法によるテクスチャインデントも可能であり、コスト的にも有利なため、当該方法も好適に利用できる。
【0063】
ここから先は白色光発光装置(例えば、白色LEDモジュール)として組み込む際の放熱設計を含めた全体設計とも絡むが、本発明の蛍光体レンズは、前述の通りレンズ形状機能を付与することができる。そのため、例えば蛍光体レンズの側面(レンズ面)や底面にヒートシンクを接触させたい場合には、ヒートシンクの接触面の形状に合わせて、該蛍光体レンズの側面の一部又は全部をヒートシンクと嵌合するように加工することもできる。ヒートシンク接触面が平面状であれば、蛍光体レンズの嵌合する部分をフラット面にすることもできるし、曲面状であれば、蛍光体レンズの嵌合する部分を該曲面に対応させて曲面嵌合させることもできる。
【0064】
本発明の蛍光体レンズを構成する透明セラミックスの製造方法としては、フローティングゾーン法、マイクロ引下げ法などの単結晶製造法、並びにセラミックス製造法があり、いずれの製法を用いても構わない。ただし、一般に単結晶製造法では固溶体の濃度比の設計に一定程度の制約があり、セラミックス製造法の方が本発明ではより好ましい。
【0065】
以下、本発明の蛍光体レンズの製造方法の例としてセラミックス製造法について更に詳述するが、本発明の技術的思想を踏襲した単結晶製造法を排除するものではない。
【0066】
《セラミックス製造法》
[原料]
本発明で用いる原料としては、主成分の出発原料として、セリウム(Ce)と、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、スカンジウム(Sc)、ガリウム(Ga)よりなる群から選択された少なくとも1つの元素と、アルミニウム(Al)と、並びに必要に応じて希土類元素Q(Qはガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、プラセオジム(Pr)よりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である)とからなる各構成元素の金属粉末、乃至は硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記元素の複合酸化物粉末等が好適に利用できる。特に、上記各元素の各酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0067】
更に、副成分の出発原料として、シリコン(Si)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)よりなる群から選択された少なくとも1つの副成分構成元素の金属粉末、乃至は硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、上記元素のアルコキシド、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。特に、上記各元素の各酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0068】
また、上記原料の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの原料粉末の調製工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0069】
例えば、均一組成の蛍光体レンズを作製する場合には、上記主成分の出発原料を式(1)の複合酸化物のモル比となるように所定量秤量し、更にこの出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対して上記副成分の出発原料を所定の配合量となるように所定量秤量して、混合してから焼成して所望の構成の複合酸化物を主成分とする焼成原料を得るとよい。即ち、酸化イットリウム粉末又は酸化ルテチウム粉末と、酸化ランタン粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化スカンジウム粉末と、酸化アルミニウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、必要に応じて添加されるガドリニウム、テルビウム、プラセオジムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類酸化物粉末と、更に副成分出発原料とを混合した後、るつぼ内で焼成して焼成原料を作製するとよい。その後、該焼成原料を粉砕して原料粉末とする。
【0070】
上記Ce濃度の異なるコアロッド部とクラッド外筒部とからなるコア・クラッド型の二重成形法により蛍光体レンズを作製する場合には、Ceの配合量と全体の成分のモル比とを予め設計された塩梅となるように調整した2種類の出発原料を秤量混合し、それ以降は上記と同様に焼成、粉砕してコアロッド用原料とクラッド用原料の2つを用意するとよい。
【0071】
このときの焼成温度は、1000〜1400℃、好ましくは1200℃以上である。
【0072】
本発明で用いる複合酸化物原料粉末中には、製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0073】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも95%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行うことが好ましい。
【0074】
(成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、原料粉末を型に充填して一定方向から加圧するプレス工程を好適に利用できる。なお、コアロッド部とクラッド外筒部からなる二重成形グリーン体を作製するためには、内径(円筒状の場合)、乃至は各内辺(多角形状の場合)の異なる2つ以上のプレス成形治具を準備することが好ましい。またコアロッド部がクラッド層の略中央に配置されるための成形ガイドとして、一回り大きなプレス成形治具内にコアロッドグリーン体を配置するための予備的な治具を準備することが好ましい。また変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Pressing)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。
【0075】
なお、コアロッド部とクラッド外筒部からなる二重成形グリーン体の作製が不要である場合には、プレス成形法ではなく、鋳込み成形法による成形体の作製も可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組み合わせを最適化することで、採用可能である。
【0076】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素、不活性ガス等が好適に利用できる。なお、テルビウムのような酸化されやすい元素を添加する場合には、酸素分圧を下げた雰囲気を選択すると、価数変動のばらつきを低減できるため好ましい。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0077】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素、真空等が好適に利用できる。
【0078】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて、製造しようとする各種複合酸化物焼結体の融点よりも数十℃から200〜400℃程度低温側の温度が好適に選定される。また、選定される温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在するガーネット型複合酸化物焼結体を製造しようとする際には、厳密にその温度帯を外した条件となるように管理して焼結すると、立方晶以外の相の混入を抑制でき、複屈折性の散乱を低減できるメリットがある。
【0079】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多い。ただし、セリウムの拡散均一性向上などのために数十時間保持することも好適に採用できる。また焼結工程後の複合酸化物焼結体の相対密度は最低でも95%以上に緻密化されていなければならない。
【0080】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP)処理を行う工程を設けることができる。
【0081】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0082】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は材料の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1200〜1800℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成する複合酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、熱処理温度が2000℃超では本発明で想定している複合酸化物焼結体が融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透明性改善効果が得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、焼結体を構成する複合酸化物の特性を見極めながら適宜調整するとよい。
【0083】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、又はタングステン(W)が好適に利用できる。
【0084】
(アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られた透明酸化物セラミックス焼結体中に酸素欠損が生じてしまい、薄灰色の外観を呈する場合や、逆に易酸化性構成元素の価数があがってしまい、チャージトランスファー吸収による着色が生じる場合がある。これらの場合には、前記HIP処理温度以下(例えば、900〜1500℃)でアニール処理を施すことが好ましい。
【0085】
アニール処理の雰囲気ガス、並びに圧力は求める組成により適宜調整することが好ましい。真空、Ar、H2、N2、O2、それらの加圧環境が好適に選択できる。
【0086】
(加工)
本発明の製造方法においては、上記一連の工程によって得られた透明酸化物セラミックス焼結体を適宜所望の厚み、サイズに加工することにより、利用が想定される照明部品、照明ユニット、照明モジュールに組み込むことができる。
【0087】
この際、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有する光源(LD又はLED)の発光波長、並びに発光強度に合わせ、出射光の色度が所望の白色レンジに収まるように厚み調整を施したり、添加されるCeの濃度を調整することが好ましい。また透明酸化物セラミックス焼結体の面内で入射伝搬する光線分の光路長が略等しくなるよう厚み勾配をもたせた凸状、凸レンズ状に加工することも好ましい。更に透明酸化物セラミックス焼結体から放出される白色光の光束を集光させたり、逆に広角に散乱させたりする目的でレンズ機能をもった表面形状に加工することも好ましい。もちろん、その上で光の放出される面にレンズ内側への反射を防止する反射防止機能をもつテクスチャを施してもよい。
【0088】
[発光装置]
本発明の発光装置は、上述した本発明の蛍光体レンズと、該蛍光体レンズの一方のレンズ面に励起光を入射する光源とを備えるものである。このとき、励起光としてLD又はLEDの青色光を用いると、出射光として白色光が得られるので好ましい。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0090】
[実施例1]
蛍光体レンズを構成する透明セラミックスの焼結体としてCe濃度が均一な系について取り上げる。
信越化学工業(株)製の酸化ルテチウム粉末、酸化ランタン、酸化ガドリニウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、並びに日本軽金属(株)製の酸化アルミニウム粉末、ヤマナカヒューテック(株)製の酸化ガリウム粉末、及びヤマナカヒューテック(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、表1に示す最終組成となる混合比率にて原料を調合した。なお、SiO2の添加量(「SiO2」の後の括弧書き)は、出発原料中にTEOSを添加し、それを焼成する過程で生成されるSiO2成分の換算量を求め、その換算量の上記それ以外の出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対する比率として求めたものである。
【0091】
【表1】
【0092】
続いて、上記原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各原料粉末を1000〜1400℃で焼成処理した。その上で再度エタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーを、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
【0093】
ここで得られた各原料粉末の一部をアルミナるつぼに入れ、高温マッフル炉にて1500℃にて保持時間3時間で焼成処理して焼成原料を得た。得られた焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。その結果、これらの焼成原料からはガーネット型酸化物の結晶相と考えられる立方晶が確認された。
【0094】
先ほど準備しておいた顆粒状原料につき、直径8mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円柱状に仮成形したのち、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1500〜1670℃で1〜20時間処理して焼結体を得た。このとき、サンプルの焼結相対密度が95%になるように焼結温度を調整した。
【0095】
得られた焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1500〜1700℃、2時間の条件でHIP処理した。この結果、外径約φ5mm、厚み約12mmの円筒ロッド状の透明セラミックス焼結体が得られた。
【0096】
得られた焼結体の一部につき、その表裏面を研削研磨処理し、長さが10mmの鏡面仕上げ蛍光体ロッドを作製した。この鏡面仕上げ蛍光体ロッドについて日本分光(株)製の分光光度計(V−670)を用いて以下の要領で波長600nmでの全光線透過率を測定した。
【0097】
(全光線透過率の測定方法)
全光線透過率は、サンプルを透過した全光線を前方散乱成分まで含めて積算して評価する方法であり、具体的には積分球で光を集光して評価する。手順としては、まず波長600nm近傍でのブランク透過率を積分球で集光してベース光量;I0を設定する。続いて、光路中にサンプルを配置し、サンプルを透過してきた全光線を積分球で集光して光量;Iを評価する。すると全光線透過率は以下の式で算出される。
全光線透過率=I/I0×100
【0098】
その結果、本実施例サンプルの波長600nmにおける全長10mmでの全光線透過率は表2の通りであった。
【0099】
【表2】
【0100】
続いて、得られた焼結体を厚み0.8mmの円形プレート状に切り出し加工した(これを透明セラミックス蛍光体という)。更に市販のLDチップ(波長460mm、レーザー出射角度10度)を準備し、そのビームを10mm離れたところで0.8mm厚の円形プレート状の透明セラミックス蛍光体がその光軸中心(円形中心)でレーザービームを受ける設計で、上記焼結体の光学設計を行った。
【0101】
このとき、上記いずれの組成の透明セラミックス蛍光体でも可視光域における屈折率はほぼ1.8であるため、光学設計ではn1.8を用いた。出射角度10度(光軸に対して10度傾いた角度)のビームのうち最も広角で(光路長が最も長くなるように)透明セラミックス蛍光体中を伝播するのは角度10度の成分で、これは透明セラミックス蛍光体中ではスネルの法則により5.54度伝搬となる。入射面側を平坦面とし、この光路長と等しくなるように出射側の面を凸面に設計すると、図1に示す断面形状となった。即ち、光軸中心部分が最外周部(外周縁部)に比べ1.005倍凸になったわずかな非球面凸状となる。図1では凸状態を誇張して表示している。この結果に基づき、図1のように片面側がわずかに凸状となった非球面レンズ形状に厚さ0.8mmの円形プレート状の透明セラミックス蛍光体を研磨処理し、両面を鏡面仕上げして、蛍光体レンズ1のサンプルを得た。なお、この場合の非球面凸状はほぼフラットともいえるため、上記円形プレートの状態であってもその出射光の混色色調むらは無視できる程度である。
【0102】
得られた蛍光体レンズ1の平坦面(入射面)からその光軸上で10mm離れた位置から前記LDチップより蛍光体レンズ1の略中心部(光軸中心)に励起光を照射したところ、蛍光体レンズ1の凸レンズ(出射面)側から出射されてきた光はいずれの組成においても色調むらのない白色光となっていた。
【0103】
次に、出射角度10度のビームが透明セラミックス蛍光体に入射して伝搬した後、透明セラミックス蛍光体の出射面からすべての光成分が略平行となって(即ち、平行光となって)出射されてくるコリメートレンズ機能をもつ凸形状の設計を行った。
【0104】
繰り返しになるが、出射角度10度のビームのうち最も広角で透明セラミックス蛍光体中を伝播するのは角度10度の成分である。これが透明セラミックス蛍光体中では5.54度で伝搬する。その後、大気中に出射される角度が0度になるためには、その出射面はフラット面に対し12.4度傾斜している必要がある。同様に他の伝搬成分もすべて略平行となって出射するような凸面を設計すると、図2に示す断面形状となった。この設計通りに厚さ0.8mmの円形プレート状の透明セラミックス蛍光体を研磨処理し、両面を鏡面仕上げして、蛍光体レンズ2のサンプルを得た。
【0105】
得られた蛍光体レンズ2の平坦面(入射面)からその光軸上で10mm離れた位置から前記LDチップより蛍光体レンズ2の略中心部(光軸中心)に励起光を照射させたところ、蛍光体レンズ2の凸レンズ(出射面)側から出射されてきた光はいずれの組成においても白色を呈しており、かつレーザーポインターの如きコリメート光となっていた。
【0106】
以上の通り、市販のLDチップで励起されて蛍光を発する透明セラミックスの焼結体からなる蛍光体レンズであって、かつその出射光の光線プロファイルを光路収差をなくしたり、コリメート光に調節するレンズ機能をもった蛍光体レンズを作製することができた。
【0107】
[実施例2]
蛍光体レンズを構成する透明セラミックスの焼結体としてCe濃度をレンズ径方向に勾配をつけた系について説明する。
信越化学工業(株)製の酸化ガドリニウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、並びに日本軽金属(株)製の酸化アルミニウム粉末、ヤマナカヒューテック(株)製の酸化ガリウム粉末、及びヤマナカヒューテック(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、組成1:(Gd0.550.4295Ce0.0005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)と組成2:(Gd0.550.425Ce0.005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)の最終組成となる混合比率にて2種の原料を調合した。なお、SiO2の添加量(「SiO2」の後の括弧書き)は、出発原料中にTEOSを添加し、それを焼成する過程で生成されるSiO2成分の換算量を求め、その換算量の上記それ以外の出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対する比率として求めたものである。
【0108】
続いて、上記2種原料をエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各原料粉末を1000〜1400℃で焼成処理した。その上で再度エタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーを、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
【0109】
ここで得られた組成1、2の原料粉末の一部を別個にアルミナるつぼに入れ、高温マッフル炉にて1500℃にて保持時間3時間で焼成処理して焼成原料を得た。得られた焼成原料をパナリティカル社製粉 末X線回折装置で回折パターン解析した。その結果、この焼成原料からはガーネット型酸化物の結晶相と考えられる立方晶が確認された。
【0110】
先ほど準備しておいた各顆粒状原料のうち、まず組成1の原料(上記組成でAサイト位置におけるCe比が0.0005の原料)を用いて、直径5mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円柱状に仮成形した後、次いで得られた仮成形体を直径10mmの金型の略中央に専用治具を用いながらセットした。その後治具を取り外し、今度は組成2の原料(最初に直径5mmで仮成形した原料ではないほうの原料、上記組成でAサイト位置におけるCe比が0.005の原料)を外周部(ドーナツ状の隙間)に追加充填した。また、コア部と外周部の組成の組み合わせをこれと逆にしたものも用意した。即ち、まず組成2の原料(上記組成でAサイト位置におけるCe比が0.005の原料)を用いて、直径5mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円柱状に仮成形した後、次いで得られた仮成形体を直径10mmの金型の略中央に専用治具を用いながらセットした。その後治具を取り外し、今度は組成1の原料(最初に直径5mmで仮成形した原料ではないほうの原料、上記組成でAサイト位置におけるCe比が0.0005の原料)を外周部(ドーナツ状の隙間)に追加充填した。この状態でそれぞれ再度一軸プレス成形機で成形し、コア・クラッド型成形体を作製した。得られた成形体にクラックなどは生じなかった。
【0111】
得られたコア・クラッド型成形体2種を、198MPaの圧力にて静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1500〜1650℃で10〜20時間処理して焼結体を得た。このとき、いずれのサンプルも焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。更にCeが熱拡散によって、焼結体内の径方向に対してなだらかな濃度勾配がつくように最低でも10時間以上処理した。なお、もともと添加しているCe濃度が薄いため、焼結後の径方向に対するCeの濃度勾配を定量的に評価する方法がなく、経験に基づいて焼結時間を調整することにより濃度勾配を付与した。
【0112】
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1500〜1650℃、2時間の条件でHIP処理した。この結果、外径約φ7mm、厚み約12mmの円筒状のコア・クラッド型透明セラミックス焼結体が得られた。
【0113】
得られた焼結体の一部につき、実施例1と同様の方法にて波長600nmでの全光線透過率を測定した。その結果、波長600nmにおける全長10mmでの全光線透過率は67%であった。
【0114】
続いて、得られた焼結体を厚み1.0mmの円形プレート状に切り出し加工し透明セラミックス蛍光体を得た。更に市販のLDチップ(波長460mm、レーザー出射角度10度)を準備し、そのビームを10mm離れたところで1.0mm厚の円形プレート状の透明セラミックス蛍光体がその光軸中心(円形中心)でレーザービームを受ける設計で、上記焼結体の光学設計を行った。また、上記組成の透明セラミックス蛍光体についても光学設計ではn1.8を用いた。
【0115】
まず、コア組成が組成1:(Gd0.550.4295Ce0.0005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)出発、クラッド組成が組成2:(Gd0.550.425Ce0.005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)出発である、中心に向かうほどCe濃度が低くなる濃度勾配をもたせた、コア・クラッド型透明セラミックス焼結体について図1と同様のレンズ形状に仕上げた。即ち、片面の中心がわずかに凸状の非球面レンズ状に研磨処理した。なお、本構造は、意図的にCeの濃度勾配の影響がほとんどそのまま出るような構成として色調むらの発生状態を確認するためのいわば比較例の位置づけのものである。
【0116】
得られた蛍光体レンズ1の平坦面(入射面)からその光軸上で10mm離れた位置から前記LDチップより蛍光体レンズ1の略中心部(光軸中心)に励起光を照射したところ、蛍光体レンズ1の凸レンズ(出射面)側から出射されてきた光は、中心が青みがかっており、外周部にいくほど白色に変化する、径方向に色調むらのある混色光となっていた。
【0117】
図1の蛍光体レンズ1は、光軸中心がわずかに厚く(1.005倍厚く)なっているのみで事実上フラットに近い。この状態でCe濃度を径方向に対して光軸中心にいくほど薄く、外周部にいくほど濃くなるように調整したため、光軸中心での蛍光変換効率が不十分となって、光軸中心位置からはLDチップの青色が強く放射されたものと推定される。一方、外周部についてはCe濃度が十分であったため白色の色調を呈することができたと推定される。
【0118】
本構造での演色性は一見低下したようにもみえるが、Ce濃度の面内勾配をつけた光学設計ができたことにより、故意に中心部で青みの強い、色むら付き白色蛍光体を作製することも可能になったともいえる。
【0119】
次に、コア組成が組成2:(Gd0.550.425Ce0.005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)出発、クラッド組成が組成1:(Gd0.550.4295Ce0.0005Sc0.023(Al0.6Ga0.3Sc0.1512+SiO2(90ppm)出発である、中心に向かうほどCe濃度が高くなる濃度勾配をもたせた、コア・クラッド型透明セラミックス焼結体について凹レンズ状に加工した。
【0120】
実施例1と同じく、出射角度10度のビームのうち最も広角で透明セラミックス蛍光体中を伝播するのは角度10度の成分であり、これは透明セラミックス蛍光体中ではスネルの法則により5.54度伝搬となる。この成分が全反射せずに(臨界角に達せずに)反対側から出射される面と伝搬方向とのなす角は約33度である。つまり入射面との相対角は約27.4度程度となる。そこで安全をみて、出射角度10度のビームのうち最も広角で透明セラミックス蛍光体中を伝播する成分が該透明セラミックス蛍光体から出射される位置の面が25度傾き、その内側の成分が随時それより傾斜が緩やかになるような(フラットになるような)レンズ形状を設計すると、図3に示す凹面形状の断面となった。この設計通りに厚さ1.7mmの前記透明セラミックス蛍光体を研磨処理し、両面を鏡面仕上げして、蛍光体レンズ3のサンプルを得た。
【0121】
得られた蛍光体レンズ3の平坦面(入射面)からその光軸上で10mm離れた位置から前記LDチップより蛍光体レンズ3の略中心部(光軸中心)に励起光を照射したところ、蛍光体レンズ3の凹レンズ(出射面)側から出射されてきた光は色むらがなく白色を呈しており、かつ出射角度がLDからの出射角度に比べ2倍以上広い、広角散乱光となっていた。
【0122】
出射面を凹レンズ形状にすると蛍光体レンズの外周部を伝搬する光成分の相対光路長が伸びてしまうが、Ce濃度を光軸中心が高く、レンズ外周部にいくほど低くなるよう濃度勾配をもたせたため、光路長が伸びたにもかかわらず、うまく色調が補正されたと考えられる。
【0123】
以上の通り、市販のLDチップで励起されて蛍光を発する透明セラミックスの焼結体からなる蛍光体レンズであって、かつ透明でありながら該蛍光体レンズ内部にCe濃度勾配をもたせることができ、その結果、より自由なレンズ設計を可能にするレンズ形状機能つき蛍光体レンズを作製することができた。
【0124】
[実施例3]
実施例1で得られた焼結体であって、その表裏面を研削研磨処理し、長さが10mmに鏡面仕上げしたロッドについて、更に表面形状を付与した実施例について説明する。本焼結体(ピラミッド型テクスチャ表面形状付与前)の光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率は表2の通りであった。
ここで、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コートされたピラミッド型テクスチャ構造をもった微細構造転写治具を内製し用意した。ピラミッド型テクスチャのサイズはピッチ、深さ共に約1μmで設計した。該治具を用いて前述の鏡面仕上げしたロッドの両端にインプリント法によってピラミッド型テクスチャを転写させた。
得られたテクスチャ構造付き透明セラミックスロッド体の光路長10mmでの波長600nmにおける全光線透過率を再度測定した。その結果、表3に示す値まで透過率が向上していた。
【0125】
【表3】
【0126】
以上の通り、LDチップで励起されて蛍光を発する透明セラミックス蛍光体であって、かつその透過率を向上させるための表面形状設計が施された透明セラミックス蛍光体が作製できた。蛍光体レンズに適用した場合により透明性に優れたレンズとなる。
【0127】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0128】
1、2、3 蛍光体レンズ
図1
図2
図3