(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記イオン注入後に回復熱処理を200℃以下の温度で行い、その後低温PL法でCiCs複合体の発光強度から炭素濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載の炭素濃度評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のFT−IR法はウエーハに赤外光を透過させ、1106cm
−1位置の赤外吸収ピークから炭素濃度を定量する方法である(非特許文献1)。しかし、FT−IR法による分析は透過光の吸収で測定するためにウエーハ深さ方向全体の評価になってしまい、デバイス活性層である極表層の評価はできない。しかも、感度が低く、検出下限も0.03ppma程度と高い。
【0007】
上記の2次イオン質量分析法(SIMS)は、サンプル表面に一次イオンを照射し、放出された2次イオンを質量分析することで元素分析を行うことが可能である。SIMS分析は炭素濃度の深さ方向分布が測定可能だが、検出下限が0.05ppma程度となり、極低炭素分析は難しい。
【0008】
上記の電子線照射+低温PL測定法は、電子線照射によってウエーハ内に導入された点欠陥と炭素が反応し、格子間炭素と置換炭素の複合体(CiCs複合体)が形成され、低温PL法でその複合体による発光強度から炭素濃度を定量する方法である(非特許文献2)。
この手法は、感度がよく検出下限が低いが、ウエーハ深さ方向全体にCiCs複合体が形成され、低温PL法で検出されるCiCs複合体は低温PL測定時のキャリアの拡散深さに依存する。例えば非特許文献2では約10μmとなり、それよりも浅い領域の炭素濃度は測定できない。例えば、撮像素子のフォトダイオード領域である、表層1〜2μmの評価はできない。
【0009】
また、イオン注入+PL法で炭素濃度を測定する先行技術として、特許文献1があるが、定量するための検量線の作成方法である。さらに、炭素濃度測定における低温PL法で検出するCiCs複合体を形成するためのイオン注入の条件については、高感度で炭素濃度を測定するという観点で最適化されていない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができる炭素濃度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、シリコンウエーハに所定の元素のイオンを注入し、その後、低温PL法でCiCs複合体の発光強度から炭素濃度を測定する炭素濃度評価方法であって、前記イオンの注入を、1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73<注入量(cm
−2)<4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73となる注入条件で行い、炭素濃度を評価することを特徴とする炭素濃度評価方法を提供する。
【0012】
このように、イオンの注入を、1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73<注入量(cm
−2)<4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73となる注入条件で行うことで、CiCs複合体の発光強度を高めることができるので、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができ、これにより、撮像素子特性が良好なウエーハを選別することができる。また、プロセスの途中段階でも表層の炭素濃度の測定を可能にすることにより、各種プロセスの炭素濃度の汚染状況の把握を容易にすることができる。
【0013】
このとき、前記イオン注入後に回復熱処理を200℃以下の温度で行い、その後低温PL法でCiCs複合体の発光強度から炭素濃度を測定することが好ましい。
【0014】
このようにイオン注入後に回復熱処理を200℃以下の温度で行うことで、CiCs複合体の発光強度をより効果的に高めることができる。
【0015】
このとき、前記シリコンウエーハにイオン注入する元素を、ヘリウムまたは水素とすることができる。
【0016】
シリコンウエーハにイオン注入する元素として、このような元素を好適に用いることができる。
【0017】
このとき、前記炭素濃度は前記シリコンウエーハの表面から2μm以下の範囲の領域を測定することが好ましい。
【0018】
このような領域の炭素濃度を測定することで、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができ、撮像素子特性が良好なウエーハを選別することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の炭素濃度評価方法によれば、CiCs複合体の発光強度を高めることができるので、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができ、これにより、撮像素子特性が良好なウエーハを選別することができる。また、プロセスの途中段階でも表層の炭素濃度の測定を可能にすることにより、各種プロセスの炭素濃度の汚染状況の把握を容易にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
まず、イオン注入を行った後に低温PL法によりウエーハ表層の炭素濃度の測定を行うことができることを以下に説明する。
【0023】
イオン注入することで、ウエーハ中に点欠陥を導入する。導入された点欠陥はウエーハ中の炭素と反応し、CiCs複合体を形成する。形成されたCiCs複合体は、低温PL法で検出することができ、同じ導電型で抵抗率と酸素濃度が同程度であれば、炭素濃度を定量することが可能である。
【0024】
点欠陥はウエーハ中でCの他に酸素やドーパントとも反応する。従って、酸素濃度やドーパント濃度が異なるウエーハ中の炭素濃度を測定する場合は、注意が必要である。
【0025】
また、イオン注入で発生する点欠陥は、局所に限定できる。具体的には、イオン注入の注入エネルギーによって、点欠陥が発生する深さ領域を選択できる。その深さは概ね数μmでエネルギーが低いほど、浅くなる。このことから、ウエーハ表層の炭素濃度の測定が可能である。
【0026】
初めに、イオン注入によって形成されるCiCs複合体が表層に限定されていることを確認する調査を行った。エピタキシャル層の厚さが5μmのn/n−EPW(エピタキシャルウェーハ)に飛程が0.5μmになるようなエネルギーのイオン注入(Heイオン注入、ドーズ量:1×10
11cm
−2、エネルギー:150keV)を施した後に低温PL法で評価を行った。その後、表層1μmをエッチングで除去し、再び低温PL法で評価した。
図3にエッチング前後の低温PL法による測定結果を示す。
図3(a)は低温PLスペクトル全体を、
図3(b)はCiCs複合体の発光領域を拡大したものを示す。エッチング後ではCiCs複合体の発光(1278nm付近に現れる発光)が検出されなくなったことが確認できた。
【0027】
すなわち、今回実施したイオン注入により導入された点欠陥と反応する炭素は、表層1μm以内であることがわかった。この結果から、イオン注入+低温PL法によって評価される炭素はイオン注入における飛程程度の表層であることがわかった。
【0028】
そして、表層の炭素濃度を低濃度まで定量するためには、低温PL測定においてCiCs複合体の発光強度が高い方が有利である。すなわち、CiCs複合体の発光強度が高くなるイオン注入条件を求める必要がある。
【0029】
次に、CiCs複合体の発光強度が高くなるイオン注入条件(注入量)をどのようにして求めたかについて、以下に説明する。
【0030】
複数のシリコンウエーハを準備し、それぞれのシリコンウエーハにH、He、B、Oのイオン注入を施した後に、低温PL法による測定を行った結果を
図4に示す。いずれのイオン注入も注入量は1.0×10
11cm
−2である。その結果、Heのイオン注入の場合が最もCiCs複合体の発光強度が高いことがわかった。
【0031】
次に、Heのイオン注入に関して、注入量が異なる場合を調査した。具体的な注入量は1.0×10
11〜1.0×10
14cm
−2である。低温PL法による測定を行った。その結果を
図5に示す。
図5から、CiCs複合体の発光強度は注入量が低いほど高くなることがわかった。
【0032】
上記二つの結果から、注入量1.0×10
11cm
−2のHeをイオン注入したCiCs複合体の発光強度が最も高く、同じ注入量で、Heよりも質量が軽く注入ダメージの低いHのイオン注入ではCiCs複合体の発光強度が若干小さくなるものの高いCiCs複合体の発光強度が得られる。すなわち、この領域に最適なイオン注入条件が存在することがわかった。
【0033】
そこで、イオン注入で発生する点欠陥量を、二体衝突シミュレーションソフトSRIM(http://www.srim.org/)を用いて見積もった。その結果、注入量1.0×10
11cm
−2のHeのイオン注入の場合の表層1μmの平均空孔濃度は、約1.8×10
17cm
−3で、注入量1.0×10
11cm
−2のHのイオン注入の場合の表層1μmの平均空孔濃度は、約1.5×10
16cm
−3であると見積もられた。すなわち、平均空孔濃度が1.5×10
16cm
−3〜1.8×10
17cm
−3の範囲となるイオン注入条件が、CiCs複合体の発光強度が高くなる条件であることがわかった。この条件を満たすイオン注入条件を注入元素の原子量と注入量で示すと、
1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73<注入量(cm
−2)<4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73
となることがわかった。上記の条件でイオン注入を行うことでCiCs複合体の発光強度が高くなる。これを図で示すと
図6のようになる。
図6において、斜線領域がCiCs複合体の発光強度が高くなる領域(有効領域)である。
【0034】
このように最適なイオン注入条件が存在することは、以下のように考えられる。CiCs複合体の形成には点欠陥の導入が必要であるが、導入される点欠陥量が炭素濃度と比較して過剰である場合は、CiCs複合体がさらに点欠陥と反応してしまい、CiCs複合体の発光強度は低くなる。このことから、最適な点欠陥導入量が存在すると推定される。
【0035】
さらに、CiCs発光強度を追加熱処理で高くできないかどうかを調査した。具体的には、注入量1.0×10
11cm
−2のHeのイオン注入の後に、50〜300℃で10〜300minの熱処理を加えた後に、低温PL法でCiCs複合体の発光強度を調査した。その結果を
図7、8に示す。
図7、8から150℃/60minの熱処理を追加することでCiCs複合体の発光強度が最も高くなることがわかった。この理由は、イオン注入後の追加熱処理によってCiCs複合体の形成が促進されたと考えられる。250℃以上では、CiCs複合体が消滅してしまうものが出てくると考えられる。
【0036】
次に、本発明の炭素濃度評価方法を、
図1を参照しながら以下で説明する。
図1は、本発明の炭素濃度評価方法を示すフロー図である
【0037】
まず、評価対象であるシリコンウエーハを準備する(
図1のS11参照)。
【0038】
次に、準備したシリコンウエーハに、所定の元素のイオンを、1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73<注入量(cm
−2)<4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73となる注入条件で注入する(
図1のS12参照)。
シリコンウエーハにイオン注入する元素は特に限定されないが、例えば、ヘリウムまたは水素とすることができる。
シリコンウエーハにイオン注入する元素として、このような元素を好適に用いることができる。
【0039】
次に、イオン注入したシリコンウエーハについて、低温PL法でCiCs複合体の発光強度から炭素濃度を測定する(
図1のS13参照)。
【0040】
図1のS13の炭素濃度の測定において、シリコンウエーハの表面から2μm以下の範囲の領域を測定することが好ましい。
このような領域の炭素濃度を測定することで、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができ、撮像素子特性が良好なウエーハを選別することができる。
【0041】
図1のS12のイオン注入後に、回復熱処理を200℃以下の温度で行い、その後
図1のS13の炭素濃度の測定を行うことが好ましい。
このようにイオン注入後に回復熱処理を200℃以下の温度で行うことで、CiCs複合体の発光強度をより効果的に高めることができる。
【0042】
上記で説明した本発明の炭素濃度評価方法によれば、CiCs複合体の発光強度を高めることができるので、撮像素子のフォトダイオード領域である表層1〜2μmの炭素濃度を高感度に測定することができ、これにより、撮像素子特性が良好なウエーハを選別することができる。また、プロセスの途中段階でも表層の炭素濃度の測定を可能にすることにより、各種プロセスの炭素濃度の汚染状況の把握を容易にすることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
エピタキシャル層中のC濃度を変化させたn型のシリコンエピタキシャルウエーハに、注入量1×10
11cm
−2のHeをイオン注入した後、低温PL法でCiCs複合体の発光強度を測定した。
なお、Heの原子量は4であり、上記の注入量は、1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73=3.99×10
10<注入量(cm
−2)<4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73=1.56×10
11の範囲内である。
また、上記と同じ条件でイオン注入を行った後、さらに150℃/60minの熱処理を加えた場合についても、低温PL法でCiCs複合体の発光強度を測定した。
【0045】
次に、これらのシリコンエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の炭素濃度をSIMSで測定した。
そして、これらの測定結果から得られたCiCs複合体の発光強度と炭素濃度の関係から炭素濃度の検量線を作成した(
図2参照)。
【0046】
この炭素濃度は、イオン注入条件から表層から1μm程度の炭素濃度を示すものであり、0.002ppma未満の炭素濃度の測定が可能になることがわかった(
図2参照)。また、熱処理を加えた方がCiCs複合体の発光強度が若干高くなった(
図2参照)。そのため、熱処理を加えることにより炭素濃度の検出感度がさらに高くなることが確認された。
【0047】
(比較例1)
エピタキシャル層中のC濃度を変化させたn型シリコンエピタキシャルウエーハに注入量1×10
11cm
−2のOをイオン注入した後、低温PL法でCiCs複合体の発光強度を測定した。
【0048】
次に、これらのシリコンエピタキシャルウエーハのエピタキシャル層の炭素濃度をSIMSで測定した。
【0049】
そして、これらの測定結果から得られたCiCs複合体の発光強度と炭素濃度の関係から炭素濃度の検量線を作成した(
図2参照)。
【0050】
この炭素濃度はイオン注入条件から表層から1μm程度の炭素濃度を示すものである。実施例1のHeをイオン注入した場合に比べるとCiCs複合体の発光強度は小さくなり、炭素濃度の検出感度は劣り、0.02ppma未満のエピタキシャル層の表層の炭素濃度測定の測定ができないことがわかった(
図2参照)。
【0051】
このとき、0.002ppma未満の炭素濃度を測定できる検量線を得るには、Oの原子量が15.99であるので、注入量を1.45×10
10(=1.1×10
11×[注入元素原子量]
−0.73)cm
−2<注入量<5.68×10
10(=4.3×10
11×[注入元素原子量]
−0.73)cm
−2にする必要がある。
【0052】
(実施例2、比較例2、3)
本発明におけるHeイオン注入のドーズ量(注入量)の範囲は、Heの原子量が4であるので、4×10
10cm
−2<ドーズ量(注入量)<1.6×10
11cm
−2である。
そこで、実施例1と同様に、n/n
−EPW(エピタキシャルウェーハ)にドーズ量が3×10
10(比較例2)、5×10
10(実施例2)、5×10
11(比較例3)cm
−2のHeイオン注入を施した後に、低温PL法でのCiCs複合体の発光強度を測定した。
その結果、ドーズ量1×10
11cm
−2の場合(実施例1)のCiCs複合体の発光強度を1とすると、ドーズ量が3×10
10cm
−2では0.6、ドーズ量が5×10
10cm
−2では0.98、ドーズ量が5×10
11cm
−2では0.4となった。
以上の結果から、本発明のドーズ量(注入量)の範囲でCiCs複合体の発光強度が高くなることが示された。
【0053】
ドーズ量が低い場合にCiCs複合体の発光強度が低くなる理由は、測定領域中の炭素がCiCs複合体の形成に必要な点欠陥量が不足するためである。また、ドーズ量が高すぎる場合にCiCs複合体の発光強度が低下する理由は、注入により導入される点欠陥量が過剰になり、CiCs複合体と点欠陥が反応してしまい、CiCs複合体濃度が低下したためである。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。