特許第6852747号(P6852747)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6852747非水電解液二次電池用正極組成物、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用正極組成物の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852747
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池用正極組成物、非水電解液二次電池、及び非水電解液二次電池用正極組成物の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20210322BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210322BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20210322BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 A
   C01G53/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-72999(P2019-72999)
(22)【出願日】2019年4月5日
(62)【分割の表示】特願2014-154385(P2014-154385)の分割
【原出願日】2014年7月30日
(65)【公開番号】特開2019-114560(P2019-114560A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2013-216289(P2013-216289)
(32)【優先日】2013年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】武岡 篤志
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐
【審査官】 原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−171113(JP,A)
【文献】 特開2010−040382(JP,A)
【文献】 特開2013−152874(JP,A)
【文献】 特開2012−028313(JP,A)
【文献】 特開2012−099323(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2011−0063335(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
LiNi1−x−yCoMn(1.00≦a≦1.50、0<x≦0.50、0<y≦0.50、0.00≦z≦0.02、0.40≦x+y≦0.60、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、
少なくとも酸素を含むホウ素化合物とを含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物と固体状のオルトホウ酸との混合物の焼成体である、非水電解液二次電池用正極組成物。
【請求項2】
前記ホウ素化合物の含有量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対してホウ素として2.0mol%以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池用正極組成物。
【請求項3】
前記焼成体は、焼成温度が450℃以下で得られる、請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池用正極組成物。
【請求項4】
前記一般式において、0.05≦x≦0.35、0.05≦y≦0.35である、請求項1から3のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池用正極組成物
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の正極組成物を正極に用いた非水電解液二次電池。
【請求項6】
一般式
LiNi1−x−yCoMn(1.00≦a≦1.50、0<x≦0.50、0<y≦0.50、0.00≦z≦0.02、0.40≦x+y≦0.60、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、
少なくとも酸素を含むホウ素化合物とを含む、非水電解液二次電池用正極組成物の製造方法であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物を合成する合成工程と、
前記合成工程で得られるリチウム遷移金属複合酸化物と、前記ホウ素化合物の原料化合物である固体状のオルトホウ酸とを混合し、原料混合物を得る混合工程と、
前記混合工程で得られる前記原料混合物を焼成する焼成工程と、
を含む、非水電解液二次電池用正極組成物の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程における焼成温度が450℃以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程における前記原料化合物の混合量が、前記リチウム遷移金属複合酸化物に対してホウ素として2.0mol%以下である、請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記一般式において、0.05≦x≦0.35、0.05≦y≦0.35である、請求項6から8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池用正極組成物に関する。特に電池の出力特性が向上し、サイクル特性や正極スラリーの粘度安定性も向上する正極組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、VTR、携帯電話、ノートパソコン等の携帯機器の普及及び小型化が進み、その電源用にリチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池が用いられるようになってきている。更に、最近の環境問題への対応から、電気自動車等の動力用電池としても注目されている。
【0003】
リチウム二次電池用正極活物質としてはLiCoO(コバルト酸リチウム)が4V級の二次電池を構成できるものとして一般的に広く採用されている。しかし、LiCoOの原料であるコバルトは希少資源であり且つ偏在しているため、コストがかかるし原料供給について不安が生じる。
【0004】
こうした事情に応じLiCoOのCoをNiやMn等の元素で置換したニッケルコバルトマンガン酸リチウム等層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物が開発されている。一般に層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物において、ニッケルの比率が大きいものは結晶構造が不安定になり、正極用作製時に正極スラリーにリチウム化合物が析出しやすくなる傾向にある。また、コバルトの比率が小さくなると、出力特性が低下する傾向にある。
【0005】
一方、種々の目的に応じて、ホウ酸等のホウ素化合物とリチウム遷移金属複合酸化物とを混合させる、あるいはリチウム遷移金属複合酸化物表面にホウ素化合物を存在させる技術も存在する。
【0006】
特許文献1には、マンガン酸リチウムを用いた正極において、酸化ホウ素、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸等電解液に溶解可能なホウ素化合物を含ませることでスピネル構造のマンガン酸リチウムとハロゲン化水素酸との反応を抑制し、サイクル特性を改善させる技術が開示されている。
【0007】
特許文献2には、リチウム遷移金属複合酸化物の表面に、ホウ素等コーティング元素の、ヒドロキシド、オキシヒドロキシド等を含むイオン伝導度に優れた表面処理層を形成して放電電位を高め、寿命特性を向上する技術が開示されている。具体的に開示されているコーティング手法は、溶媒に溶解したコーティング元素をリチウム遷移金属複合酸化物の表面に析出させ、溶媒を除去してなるものである。
【0008】
特許文献3には、リチウム遷移金属複合酸化物等を用いた電極中に、無機酸としてホウ酸等を含有させ、電極ペーストのゲル化を防止する技術が開示されている。具体的に開示されているリチウム遷移金属複合酸化物はニッケル酸リチウムのみである。
【0009】
特許文献4には、ニッケルまたはコバルトを必須としたリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸リチウム等のホウ酸化合物等を被着させ、酸化性雰囲気下で加熱処理することで、二次電池の高容量化と、二次電池の充放電効率向上を図る技術が開示されている。具体的に開示されているリチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケルの一部をコバルト及びアルミニウムで置換したニッケル酸リチウムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−257003号公報
【特許文献2】特開2002−124262号公報
【特許文献3】特開平10−079244号公報
【特許文献4】特開2009−146739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
遷移金属にニッケル、コバルト及びマンガンを用いたニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、そのコストと各種電池特性とのバランスが比較的良好であるが、特定の組成範囲ではサイクル特性及び/又は出力特性が近年の要求には応えきれなくなってきた。
【0012】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム系のリチウム遷移金属複合酸化物を用いてなおサイクル特性及び出力特性が向上した非水電解液二次電池用正極材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明者らは鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。本発明者らは、特定組成のリチウム遷移金属複合酸化物と、特定状態のホウ素化合物を用いて正極組成物とすることで、出力特性及びサイクル特性が向上することを見出した。また、このような正極組成物を用いた正極スラリーは、スラリー粘度の経時変化が少ないことも見出した。
【0014】
本発明の非水電解液二次電池用正極組成物は、一般式LiNi1−x−yCoMn(1.00≦a≦1.50、0<x≦0.50、0<y≦0.50、0.00≦z≦0.02、0.40≦x+y≦0.70、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、少なくとも酸素を含むホウ素化合物とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の非水電解液二次電池用正極組成物の製造方法は、一般式LiNi1−x−yCoMn(1.00≦a≦1.50、0<x≦0.50、0<y≦0.50、0.00≦z≦0.02、0.40≦x+y≦0.70、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を合成する合成工程と、前記合成工程で得られるリチウム遷移金属複合酸化物と、前記ホウ素化合物の原料化合物とを混合し、原料混合物を得る混合工程と、前記混合工程で得られる前記原料混合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の正極組成物は上記の特徴を備えているため、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムの特長を損なうことなくサイクル特性及び出力特性を向上ことができる。さらに正極スラリーにした際のスラリー粘度上昇を抑制することができる。
【0017】
本発明の正極組成物の製造方法は上記の特徴を備えているため、サイクル特性及び出力特性が向上し、且つ生産性の良い正極組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は本発明の正極組成物及び比較用の正極組成物を用いた正極スラリーの粘度変化を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の正極組成物について、実施の形態及び実施例を用いて詳細に説明する。但し、本発明はこれら実施の形態及び実施例に限定されるものではない。
【0020】
[リチウム遷移金属複合酸化物]
リチウム遷移金属複合酸化物は、遷移金属にニッケル、コバルト及びマンガン(これらを合わせて主成分とする)を含有するニッケルコバルトマンガン酸リチウム系とする。必要に応じてジルコニウム、タンタル、ニオブ、モリブデン等をさらに含有させても良い。例えばジルコニウムは保存特性の改善、チタンやマグネシウムはサイクル特性のさらなる改善に好適である。これら追加元素は2mol%程度までならニッケルコバルトマンガン酸リチウムの特性を損なうことなく各種目的を達成可能である。
【0021】
主成分におけるニッケルの比率は、多すぎると結晶構造の安定性に難があり、さらに正極スラリーの粘度上昇を招きやすい。一方少なすぎると充放電容量低下を招く。これらのバランスを考慮し、40mol%以上60mol%以下とする。一方、コバルト及びマンガンの比率は、ニッケルの比率を満たしたうえで夫々50mol%以下とする。多すぎるコバルトはコスト上昇と出力特性の低下を、多すぎるマンガンは出力特性と充放電容量の低下を招く。コバルト及びマンガンの比率は夫々5mol%以上35mol%以下であれば、各種特性のバランスが良く、より好ましい。
【0022】
リチウム遷移金属複合酸化物中のリチウム量は、多ければ出力特性が向上する傾向にあるが、多すぎるものは合成しにくい。また、合成出来たとしても焼結が進み、その後の取り扱いが困難になる傾向にある。これらを踏まえるとリチウム量はニッケルサイトの元素に対し100mol%以上150mol%以下とする。特性のバランス、合成のし易さ等を考慮すると、105mol%125mol%以下が好ましい。
【0023】
これらを踏まえると、リチウム遷移金属複合酸化物の組成は一般式LiNi1−x−yCoMn(1.00≦a≦1.50、0<x≦0.50、0<y≦0.50、0.00≦z≦0.02、0.40≦x+y≦0.70、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表される。但し、これだけでは出力特性及びサイクル特性の少なくとも一方が不十分である。さらに、正極スラリーの粘度上昇も起こるので、後述のホウ素化合物と合わせて正極組成物にする。
【0024】
[ホウ素化合物]
本発明中の正極組成物において、ホウ素化合物は酸素を含んでいる。詳細は不明であるが、ホウ素化合物の少なくとも一部はリチウム等と複合酸化物を形成していると推測される。また、ホウ素化合物の少なくとも一部はリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に被覆等の形態で存在していると考えられる。被覆等の形態は、リチウムの正極スラリーのバインダーへの溶出を防止する効果が高いので好ましい。
【0025】
上述のホウ素化合物は、リチウム遷移金属複合酸化物と、ホウ素化合物の原料化合物とを十分に混合し、焼成した結果得られるものである。原料化合物の少なくとも一部は、最終的にリチウム遷移金属複合酸化物中のリチウム等の一部元素と反応し、複合酸化物を形成していると考えられる。こうして得られる複合酸化物の形態は、リチウム遷移金属複合酸化物とホウ素化合物の原料化合物とを物理的に混合した結果だけで得られる形態とは異なる。この差は、例えばXPS(X線光電子分光分析)のスペクトル等で確認することができる。
【0026】
正極組成物におけるホウ素化合物の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物に対してホウ素として2.0mol%以下であることが好ましい。多すぎると正極組成物全体の充放電容量低下につながる。また、少なすぎれば上述のリチウムの溶出防止効果が薄い。好ましい範囲は0.5mol%以上1.5mol%以下である。
【0027】
上述のホウ素化合物の原料化合物は、酸化ホウ素、ホウ素のオキソ酸及びホウ素のオキソ酸塩からなる群より選択される少なくとも一種であると、最終的なホウ素化合物が本発明の目的に適した形態になるので好ましい。ホウ素のオキソ酸(塩)には、オルトホウ酸(塩)、メタホウ酸(塩)、二ホウ酸(塩)、三ホウ酸(塩)等のポリホウ酸(塩)等がある。オキソ酸塩を原料化合物とする場合、リチウム塩又はアンモニウム塩が好ましい。具体的な例として、四ホウ酸リチウム(Li)、五ホウ酸アンモニウム(NH)等が挙げられる。なおこれら原料化合物は水和水を有していてもよい。原料化合物は、ホウ素のオキソ酸であるとその取り扱い易さ、及び最終的なホウ素化合物の形態の点で好ましい。特にオルトホウ酸(所謂普通のホウ酸)が好ましい。
【0028】
[正極組成物の製造]
次に正極組成物の製造方法について説明する。正極組成物の製造方法は、リチウム遷移金属複合酸化物を合成する合成工程、リチウム遷移金属複合酸化物とホウ素化合物の原料化合物とを混合し、原料混合物を得る混合工程、及び原料混合物を焼成する焼成工程を含む。
【0029】
[合成工程]
リチウム遷移金属複合酸化物は、公知の手法を適宜用いて合成する。高温で酸化物に分解する原料化合物を目的組成に合わせて混合する、溶媒に可溶な原料化合物を溶媒に溶解し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で前駆体の沈殿を生じさせる、等適宜混合原料を調整し、得られる混合原料を700℃〜1100℃程度で焼成すればよい。
【0030】
[混合工程]
前記合成工程で得られるリチウム遷移金属複合酸化物と、ホウ素化合物の原料化合物とを十分混合する。既存の撹拌機等を用いて両者の偏りがない程度に混合できれば十分であるが、メカノケミカルな効果によってホウ素化合物がリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に被覆等の形態で存在していればより好ましい。この混合工程で、ホウ素化合物の原料の少なくとも一部はリチウム等と複合酸化物を形成していると推測される。原料化合物は前述のように酸化ホウ素、ホウ素のオキソ酸及びホウ素のオキソ酸塩からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく用いられる。ホウ素のオキソ酸塩を用いる場合はリチウム塩又はアンモニウム塩が好ましい。前述のように、原料化合物としてより好ましいのはホウ素のオキソ酸で、特にオルトホウ酸が好ましい。このようにして本発明の正極組成物を得ることが出来る。
【0031】
[焼成工程]
前記混合工程で得られる正極組成物を原料混合物とし、さらに焼成する。こうして、得られる正極組成物中のホウ素化合物の多くがリチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面を被覆した形態で存在する。焼成工程を経て得られ、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面を被覆したホウ素化合物は、リチウム遷移金属複合酸化物を構成する元素と化学的、あるいは物理的な結合を形成し、強固に一体化していると考えられる。その結果、リチウム遷移金属複合酸化物からリチウムの溶出が抑制され、正極スラリーの粘度上昇を抑制すると考えられる。また、同時に正極組成物全体のリチウムイオン導電性を高め、出力特性向上に寄与する。
【0032】
焼成温度は、高すぎるとリチウム遷移金属複合酸化物とホウ素化合物(あるいはその原料化合物)との反応が進みすぎ、リチウム遷移金属複合酸化物が本来の特性を発現出来なくなるので注意する。低すぎれば焼成工程による効果が見込めない。好ましい範囲は450℃以下、より好ましい範囲は200℃以上400℃以下である。
【実施例1】
【0033】
反応槽に撹拌状態の純水を調整し、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンの各水溶液を、Ni:Co:Mn=4:3:3となる流量比で滴下した。滴下終了後、液温を50℃にし、水酸化ナトリウム水溶液を一定量滴下してニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の沈殿を得た。得られた沈殿を水洗、濾過、分離し、炭酸リチウム、及び酸化ジルコニウム(IV)と、Li:(Ni+Co+Mn):Zr=1.07:1:0.005となるように混合し、混合原料を得た。得られた混合原料を大気雰囲気下885℃で15時間焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体を粉砕し、乾式篩にかけ、組成式Li1.07Ni0.4Co0.3Mn0.3Zr0.005で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0034】
得られたリチウム遷移金属複合酸化物に対し、ホウ素化合物の原料として0.5mol%のホウ酸を高速せん断型ミキサーで混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中にて250℃、10時間焼成することで目的の正極組成物を得た。
【実施例2】
【0035】
混合するホウ酸がリチウム複合酸化物に対し1.0mol%であること以外実施例1と同様にして目的の正極組成物を得た。
【実施例3】
【0036】
Ni:Co:Mn=5:2:3であること以外実施例1と同様にしてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の沈殿を得た。得られた沈殿を水洗、濾過、分離し、Li:(Ni+Co+Mn):Zr=1.14:1:0.005であること以外実施例1と同様にし、組成式Li1.14Ni0.5Co0.2Mn0.3Zr0.005で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を得た。
【0037】
得られるリチウム遷移金属複合酸化物に対し、ホウ素化合物の原料として0.3mol%のホウ酸を高速せん断型ミキサーで混合し、原料混合物を得る。得られる原料混合物を大気中にて250℃、10時間焼成することで目的の正極組成物を得た。
【実施例4】
【0038】
混合するホウ酸がリチウム複合酸化物に対し0.5mol%であること以外実施例3と同様にして目的の正極組成物を得た。
【実施例5】
【0039】
混合するホウ酸がリチウム複合酸化物に対し1.3mol%であること以外実施例3と同様にして目的の正極組成物を得た。
【実施例6】
【0040】
原料混合物を大気中にて350℃、10時間焼成する以外実施例3と同様にして目的の正極組成物を得た。
【実施例7】
【0041】
原料混合物を大気中にて500℃、10時間焼成する以外実施例3と同様にして目的の正極組成物を得た。
【実施例8】
【0042】
ホウ素化合物の原料として0.5mol%のメタホウ酸リチウムを用いる以外実施例3と同様にして目的の正極組成物を得た。
【0043】
[比較例1]
実施例1におけるリチウム遷移金属複合酸化物を比較例用に用いた。
【0044】
[比較例2]
実施例3におけるリチウム遷移金属複合酸化物を比較例用に用いた。
【0045】
[出力特性の評価]
実施例1〜8及び比較例1、2について、DC−IR(直流内部抵抗)を以下のようにして測定した。
【0046】
[1.正極の作製]
正極組成物85重量部、アセチレンブラック10重量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)5.0重量部を、NMP(ノルマルメチル−2−ピロリドン)に分散させて正極スラリーを調整した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して正極を得た。
【0047】
[2.負極の作製]
人造黒鉛97.5重量部、CMC(カルボキシメチルセルロース)1.5重量部、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)1.0重量部を水に分散させて負極スラリーを調整した。得られた負極スラリーを銅箔に塗布し、乾燥後ロールプレス機で圧縮成形し、所定サイズに裁断して負極を得た。
【0048】
[3.非水電解液の作製]
EC(エチレンカーボネイト)とMEC(メチルエチルカーボネイト)を体積比率3:7で混合し、溶媒とした。得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)をその濃度が、1mol/lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0049】
[4.評価用電池の組み立て]
上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極との間に多孔性ポリエチレンからなるセパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に、先述の非水電解液を注入、封止し、評価用のラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。
【0050】
[5.DC−IRの測定]
得られた電池に微弱電流を流してエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。その後、高電流での放電と、微弱電流での充電を繰り返した。10回目の充電における充電容量を電池の全充電容量とし、10回目の放電後、全充電容量の4割まで充電した。充電後、電池を−25℃に設定した恒温槽内に入れ、6時間置いた後、0.02A、0.04A、0.06Aで放電し、電圧を測定した。横軸に電流、縦軸に電圧をとって交点をプロットし、交点を結んだ直線の傾きをDC−IRとした。DC−IRが低いことは、出力特性が良いことを意味する。
【0051】
[正極スラリーの粘度測定]
実施例1、2及び比較例1について、正極スラリーの粘度を以下のようにして測定した。
【0052】
[1.初期粘度測定]
正極組成物30g、PVDF1.57g、NMP12.48gを150mlのポリエチレン容器に入れ、常温(約25℃)下で5分間混練した。混練後、得られたスラリーを速やかにE型粘度計にて測定した。ブレードタイプはコーンプレートタイプを使用し、ローターの回転速度は5rpmで行った。こうして初期粘度の測定値を得た。
【0053】
[2.粘度変化の評価]
次に、ポリエチレン容器内のスラリーを60℃恒温槽内に静置放置し、24時間後及び48時間後に粘度測定を行った。なお、測定前に、常温下で2分間混練した。
【0054】
[サイクル特性評価]
実施例1〜8及び比較例1、2について、サイクル特性を以下のようにして測定した。
【0055】
出力特性評価用と同様の評価用二次電池に微弱電流でエージングを行い、正極及び負極に電解質を十分なじませた。エージング後、電池を20℃に設定した恒温槽内に入れ、充電電位4.2V、充電電流1.0C(1C≡1時間で放電が終了する電流)での充電と、放電電位2.75V、放電電流1.0Cでの放電を1サイクルとし、充放電を繰り返した。nサイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除した値を、nサイクル目の放電容量維持率とした。放電容量維持率が高いことは、サイクル特性が良いことを意味する。
【0056】
実施例1〜8及び比較例1、2のリチウム遷移金属複合酸化物(構成A)、ホウ素化合物の原料化合物(構成B)及び正極組成物中のホウ素含有量(B含有量)を表1に、電池特性を表2に示す。また、実施例1、2及び比較例1の正極組成物を用いた正極スラリーの粘度変化を図1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1、表2より、ホウ素化合物の原料化合物としてホウ酸を用い、焼成工程を経た実施例1、2あるいは実施例3〜8は、ホウ素化合物のない比較例1あるいは2に比べて出力特性及びサイクル特性が共に向上していることが分かる。また、図1より、ホウ素化合物の原料化合物としてホウ酸を用い、焼成工程を経た実施例1、2は正極スラリーの粘度変化がほとんどないのに対し、ホウ素化合物のない比較例1は急速に正極スラリーの粘度が上昇し、24時間後には測定限界(40000mPa・s)に達していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の正極組成物を用いると、非水電解液二次電池においてニッケルコバルトマンガン酸リチウムの特長と高い出力特性及びサイクル特性とを両立させることができる。さらに正極スラリーの粘度上昇が抑制されるので、電池作製時の操作性及び歩留まりが向上する。これらのことより、本発明の正極組成物を用いた非水電解液二次電池は、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等のモバイル機器だけでなく、電気自動車等の大型機器の動力用にも好適に利用可能である。
図1