特許第6852771号(P6852771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6852771液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6852771
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
   C07C 217/84 20060101AFI20210322BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALI20210322BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C07C217/84CSP
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】7
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2019-193735(P2019-193735)
(22)【出願日】2019年10月24日
(62)【分割の表示】特願2017-508395(P2017-508395)の分割
【原出願日】2016年3月23日
(65)【公開番号】特開2020-40953(P2020-40953A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2019年11月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-61095(P2015-61095)
(32)【優先日】2015年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】国見 奈穂
(72)【発明者】
【氏名】永井 健太郎
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/152928(WO,A1)
【文献】 特開2005−255981(JP,A)
【文献】 特開2014−029465(JP,A)
【文献】 特開2014−205659(JP,A)
【文献】 特開2005−154436(JP,A)
【文献】 Ukrains'kii Khemichnii Zhurnal,1957年,23,496-500,Derived from data in Chemical Abstruct the 6th Collective Formula Index (1957-1961), 1958, 52: 6273d-g
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 217/84
C08G 73/10
G02F 1/1337
CAplus/REGISTRY(STN)
MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1b)で表されるジアミン。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−NR12−、エステル結合、チオエステル結合、ウレア結合、カーボネート結合、又はカルバメート結合であり、R12は水素原子又はメチル基であり、Aは炭素数2のアルキレン基である。)
【請求項2】
前記式(1b)中、R及びRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−NR12−、又はエステル結合であり、Aは、炭素数2のアルキレン基である請求項1に記載のジアミン。
【請求項3】
前記式(1b)中、R及びRは、−O−であり、Aは、炭素数2のアルキレン基である請求項1に記載のジアミン。
【請求項4】
下記式(1a−1)、(1a−3)、(1a−6)、(1a−8)又は(1a−9)のいずれかで表されるジアミン。
【化2】
(式中、Rは、水素原子、メチル基、ヒドロキシ基又はメトキシ基である。R12は、水素原子又はメチル基である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重縮合反応により得られるポリアミック酸である重合体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重縮合反応により得られるポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドである重合体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の重合体の液晶配向剤としての使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残像特性が良好な液晶表示素子の製造に用いられる液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び該液晶配向膜を有する液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光配向法は、ラビングレスの配向処理方法として、工業的にも簡便な製造プロセスである。特に、IPS(In-Plane-Switching)駆動方式やFFS(Flinge-field-Switching)駆動方式の液晶表示素子においては、上記の光配向法で得られる液晶配向膜を用いることで、ラビング処理法で得られる液晶配向膜に比べて、液晶表示素子のコントラストや視野角特性の向上が期待できる。これにより、液晶表示素子の性能を向上させることが可能であり、有望な液晶配向処理方法として注目されている。
しかし、光配向法により得られる液晶配向膜は、ラビングによるものに比べて、高分子膜の配向方向に対する異方性が小さいという問題がある。異方性が小さいと充分な液晶配向性が得られず、液晶表示素子とした場合に、残像が発生するなどの問題が発生する。
一方、光配向法により得られる液晶配向膜の異方性を高める方法として、光照射によって前記ポリイミドの主鎖が切断されて生成した低分子量成分を、光照射後に除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本特開平9−297313号公報
【特許文献2】日本特開2011−107266号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「液晶光配向膜」木戸脇、市村 機能材料 Vol.17(1997) No.11 p.13-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子には、従来、ポジ型液晶が用いられているが、ネガ型液晶を用いることで、電極上部での透過損失を小さくし、コントラストを向上させることが可能である。
光配向法で得られる液晶配向膜を、ネガ型液晶を用いたIPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子に用いると、従来の液晶表示素子より高い表示性能を有することが期待される。しかし、本発明者が検討した結果、光照射によるポリマーの分解により、異方性を出し、液晶を配向させる、いわゆる、光分解型液晶配向膜とネガ液晶を用いて液晶表示素子を作製した場合、偏光紫外線照射によって生じる液晶配向膜を構成するポリマーの分解生成物に由来する表示不良(輝点)の発生率が高いことが分かった。
本発明の課題は、ネガ型液晶を用いた場合でも、輝点が発生せず、良好な残像特性が得られる光配向法用の液晶配向膜を得るための液晶配向剤、該液晶配向剤から得られる液晶配向膜、及び該液晶配向膜を具備する液晶表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下に示す通りである。
1.主鎖中に下記式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体を含有する液晶配向剤。
【化1】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−NR12−、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、ウレア結合、カーボネート結合、又はカルバメート結合であり、R12は、水素原子、又はメチル基である。Aは炭素数2〜20のアルキレン基である。B及びBは、それぞれ独立して、下記構造から選ばれる2価の有機基であり、BとBは同じ構造ではない。)
【化2】
(式中、Rは、炭素数1〜5のアルキレン基である。Rは水素原子、メチル基、ヒドロキシ基又はメトキシ基である。)
【0007】
2.前記ポリイミド前駆体が、下記式(2)の構造単位を含有する重合体である上記1に記載の液晶配向剤。
【化3】
(式中、Xは、下記式(X1−1)及び(X1−2)で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも1種である。Yは前記式(1)で表される2価の有機基である。Rは水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有してもよい、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基若しくは炭素数2〜10のアルキニル基である。)
【化4】
【0008】
3.前記ポリイミド前駆体が、前記式(2)で表される構造単位を、全構造単位に対して、20〜100モル%有する上記2に記載の液晶配向剤。
4.Xが、下記式(X1−2)である上記2又は3に記載の光配向用液晶配向剤。
【化5】
5.前記式(1)の構造が下記構造である、上記1〜4のいずれかに記載の液晶配向剤。
【化6】
(式中、A、R及びRは、前記と同定義である。)
【0009】
6.上記1〜5のいずれかに記載の液晶配向剤を塗布、焼成して得られた膜に、偏光された紫外線を照射して得られる液晶配向膜。
7.上記6に記載の液晶配向膜を具備する液晶表示素子。
8.下記式で表されるジアミン。
【化7】
(式中、R及びRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−NR12−、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、ウレア結合、カーボネート結合、又はカルバメート結合であり、R12は、水素原子又はメチル基であり、Aは炭素数2〜20のアルキレン基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶配向剤を用いることにより、光配向処理時に発生する液晶配向膜由来の分解物による輝点を抑制でき、照射感度が高く、優れた液晶配向性を有する液晶配向膜を得ることができ、表示不良がなく、信頼性の高い液晶表示素子の提供が可能となる。
本発明の液晶配向剤を用いることで、上述の効果が得られるのかについては必ずしも明らかではないが、液晶配向剤を構成する重合体の原料として用いるジアミンが、特定の非対称の構造を有していることにより、光照射により生じる分解物の溶解性及び結晶性が変化したためと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<特定構造>
本発明の液晶配向剤を構成する重合体の主鎖中には、上記式(1)で表される特定構造(以下、特定構造ともいう。)を含有する。
【化8】
上記式(1)において、R及びRは、それぞれ独立して、単結合、−O−、−S−、−NR12−、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、ウレア結合、カーボネート結合、又はカルバメート結合であり、R12は、水素原子又はメチル基である。Aは炭素数2〜20のアルキレン基である。B及びBは、それぞれ独立して、下記構造から選ばれる2価の有機基であり、BとBは同じ構造ではない。なお、B及びBは、同じ構造にならないことにより、光照射により生じる分解物の溶解性及び結晶性が変化し、ポリマーの分解成分由来の輝点を抑制することができる。
【0012】
【化9】
上記式中、Rは、炭素数1〜5のアルキレン基である。Rは水素原子、メチル基、ヒドロキシ基又はメトキシ基である。)
【0013】
なお、上記式(1)において、なかでも、R、Rは、液晶配向性の観点から、単結合、−O−、−S−、−NR12−、エステル結合又はアミド結合が好ましく、−O−が特に好ましい。また、Aは、液晶配向性の観点から、炭素鎖2〜6のアルキレン基が好ましく、炭素鎖2〜4のアルキレン基が特に好ましい。
上記式中、Rは、液晶配向性の観点から、炭素数1〜3のアルキレン基が好ましい。Rは、液晶配向性の観点から、水素原子又はメチル基が好ましい。
上記した特定構造は、ポリイミド前駆体の原料であるジアミン中に含有することが好ましい。上記した特定構造を有するジアミンの具体例としては、下記ジアミンが挙げられるが、これらに限定されない。
【化10】
【0014】
【化11】
(Rは、前記と同定義である。)
【0015】
【化12】
【0016】
【化13】
上記式において、R及びR12は、それぞれの好ましい例も含めて、前記と同定義である。
【0017】
上記の特定構造を有するジアミンは、なかでも、配向性及び液晶表示素子にした際の輝点減少の観点から、以下の構造を有するジアミンであることが好ましい。
【化14】

上記式中、R、R、Aは、それぞれの好ましい例を含めて、上記したとおりである。上記特定構造を有するジアミンとしては、なかでも、以下のジアミンが好ましい。
【化15】
【0018】
<ジアミンの合成>
上記ジアミンの主な合成法につき以下詳述する。なお、以下で説明する方法は、一つの例であり、これに限定されるものではない。
本発明のジアミンは、下記反応式で示すように、ジニトロ化合物を還元してニトロ基をアミノ基に変換することで得られる。なお、下記反応式は、実施例において記載したジアミンを1つの例として記載している。
【化16】
【0019】
ジニトロ化合物を還元する方法は特に制限はなく、パラジウム−炭素、酸化白金、ラネーニッケル、白金黒、ロジウム−アルミナ、硫化白金炭素などを触媒として用い、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アルコール系などの溶媒中、水素ガス、ヒドラジン、塩化水素などによって還元を行う方法が例示できる。必要に応じて、オートクレープなどを用いて加圧下で行ってもよい。一方で、ベンゼン環や飽和炭化水素部の水素原子を置換する置換基の構造に不飽和結合部位を含む場合、パラジウムカーボンや白金カーボンなどを用いると、この不飽和結合部位が還元されてしまい、飽和結合となってしまう恐れがある。そのため、還元鉄、錫、塩化錫などの遷移金属を触媒として用いた還元条件が好ましい。
【0020】
ジニトロ化合物の合成においては、下記反応式に示すように、市販のビフェニル誘導体を、ハロゲンなどの脱離基Xが置換されたニトロベンゼンと反応させることにより、該ジニトロ化合物を得ることができる。好ましい脱離基Xとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トシラート(−OTs)、メシラート(−OMs)などが挙げられる。
【化17】
【0021】
上記反応は、塩基存在下にて行なうことができる。用いる塩基は、合成可能であれば特に限定はないが、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、ナトリウムアルコキシド、カリウムアルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウムなどの無機塩基、ピリジン、ジメチルアミノピリジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの有機塩基などが挙げられる。また、場合によっては、ジベンジリデンアセトンパラジウムやジフェニルフォスフィノフェロセンパラジウムのようなパラジウム触媒や銅触媒などを併用すると、収率を向上させることができる。合成のし易さの観点からは、炭酸カリウムを用いる方法が好ましいが、この方法以外でも合成は可能であるため、特に合成法は限定されない。
【0022】
<重合体>
本発明の液晶配向剤を構成するポリイミド前駆体は、下記式(2)の構造単位を含有する。
【化18】
【0023】
は、下記式(X1−1)及び(X1−2)で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも1種である。その中でも、液晶配向性の観点から、下記式(X1−2)が好ましい。
【化19】
【0024】
は、式(1)で表される2価の有機基である。
は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基などが挙げられる。加熱によるイミド化のしやすさの観点から、Rは、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0025】
及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は置換基を有してもよい、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基若しくは炭素数2〜10のアルキニル基である。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、上記のアルキル基に存在する1つ以上のCH−CH構造を、CH=CH構造に置き換えたものが挙げられる。具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、前記のアルキル基に存在する1つ以上のCH−CH構造を、C≡C構造に置き換えたものが挙げられる。具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基などが挙げられる。
【0026】
上記のアルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基は置換基を有していてもよく、更には、置換基によっては環構造を形成してもよい。なお、置換基によって環構造を形成するとは、置換基同士又は置換基と母骨格の一部とが結合して環構造となることを意味する。
置換基の例としては、ハロゲン基、水酸基、チオール基、ニトロ基、アリール基、オルガノオキシ基、オルガノチオ基、オルガノシリル基、アシル基、エステル基、チオエステル基、リン酸エステル基、アミド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を挙げることができる。
ハロゲン基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基が挙げられる。このアリール基には前述した他の置換基が、さらに置換していてもよい。
【0027】
オルガノオキシ基としては、O−Rで表される構造を示すことができる。このRは、同一でも異なってもよく、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
オルガノチオ基としては、−S−Rで表される構造を示すことができる。このRとしては、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、ヘプチルチオ基、オクチルチオ基などが挙げられる。
【0028】
オルガノシリル基としては、−Si−(R)で表される構造を示すことができる。このRは同一でも異なってもよく、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。具体例としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリプロピルシリル基、トリブチルシリル基、トリペンチルシリル基、トリヘキシルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基などが挙げられる。
アシル基としては、−C(O)−Rで表される構造を示すことができる。このRとしては、前述したアルキル基、アルケニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
【0029】
エステル基としては、−C(O)O−R、又は−OC(O)−Rで表される構造を示すことができる。このRとしては、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。
チオエステル基としては、−C(S)O−R、又は−OC(S)−Rで表される構造を示すことができる。このRとしては、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。
リン酸エステル基としては、−OP(O)−(OR)2で表される構造を示すことができる。このRは同一でも異なってもよく、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。
【0030】
アミド基としては、−C(O)NH、又は、−C(O)NHR、−NHC(O)R、−C(O)N(R)、−NRC(O)Rで表される構造を示すことができる。このRは同一でも異なってもよく、前述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などを例示することができる。これらのRには、前述した置換基がさらに置換していてもよい。
アリール基としては、前述したアリール基と同じものを挙げることができる。このアリール基には、前述した他の置換基がさらに置換していてもよい。
アルキル基としては、前述したアルキル基と同じものを挙げることができる。このアルキル基には、前述した他の置換基がさらに置換していてもよい。
アルケニル基としては、前述したアルケニル基と同じものを挙げることができる。このアルケニル基には、前述した他の置換基がさらに置換していてもよい。
アルキニル基としては、前述したアルキニル基と同じものを挙げることができる。このアルキニル基には、前述した他の置換基がさらに置換していてもよい。
【0031】
一般に、嵩高い構造を導入すると、アミノ基の反応性や液晶配向性を低下させる可能性があるため、Z及びZとしては、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基がより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基が特に好ましい。
上記式(2)で表される構造単位を、全構造単位に対して、20〜100モル%有することが好ましく、液晶配向性の観点から、30〜100モル%が特に好ましい。
【0032】
<その他の構造単位>
本発明の液晶配向剤を構成する重合体が、上記式(2)の構造単位以外の構造単位を含む場合、その構造単位は、下記式(3)で表される。
【化20】
、Z及びZの定義は、上記式(2)と同様である。
【0033】
は、4価の有機基であり、Yは、2価の有機基である。
は、テトラカルボン酸誘導体由来の4価の有機基であり、その構造は特に限定されるものではない。ポリイミド前駆体中、Xは2種類以上が混在していてもよい。Xの具体例を示すならば、下記式(X−1)〜(X−44)の構造が挙げられる。
【0034】
【化21】
【0035】
【化22】
【0036】
【化23】
【0037】
【化24】
【0038】
上記式(X−1)におけるR〜R11は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基又はフェニル基である。R〜R11が、嵩高い構造である場合、液晶配向性を低下させる可能性があるため、水素原子、メチル基又はエチル基がより好ましく、水素原子又は、メチル基が特に好ましい。
【0039】
式(3)において、Yは、ジアミン由来の2価の有機基であり、その構造は特に限定されない。Yの構造の具体例を示すならば、下記の(Y−1)〜(Y−118)が挙げられる。
【化25】
【0040】
【化26】
【0041】
【化27】
【0042】
【化28】
【0043】
【化29】
【0044】
【化30】
【0045】
【化31】
【0046】
【化32】
【0047】
【化33】
【0048】
【化34】
【0049】
【化35】
【0050】
【化36】
【0051】
【化37】
【0052】
【化38】
【0053】
【化39】
【0054】
【化40】
【0055】
【化41】
【0056】
(式(Y−109)中、m、nは、それぞれ独立して、1〜11の整数であり、m+nは2〜12の整数であり、式(Y−114)中、hは1〜3の整数であり、式(Y−111)及び(Y−117)中、jは0〜3の整数である。)
本発明に用いるポリイミド前駆体は、ジアミン成分とテトラカルボン酸誘導体との反応から得られるものであり、ポリアミック酸やポリアミック酸エステル等が挙げられる。
【0057】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下の方法により製造される。
具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを、有機溶媒の存在下で、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間反応させることによって合成できる。
【0058】
ジアミン成分とテトラカルボン酸成分との反応は、通常、有機溶媒中で行う。その際に用いる有機溶媒としては、生成したポリイミド前駆体が溶解するものであれば特に限定されない。下記に、反応に用いる有機溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノンが挙げられる。
また、ポリイミド前駆体の溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン又は下記の式[D−1]〜式[D−3]で示される有機溶媒を用いることができる。
【0059】
【化42】
式[D−1]中、Dは炭素数1〜3のアルキル基を示し、式[D−2]中、Dは炭素数1〜3のアルキル基を示し、式[D−3]中、Dは炭素数1〜4のアルキル基を示す。
【0060】
これら溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、前記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
反応系中におけるポリアミック酸ポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0061】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで、精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0062】
<ポリイミド前駆体(ポリアミック酸エステル)>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルは、以下に示す(1)、(2)又は(3)の製法で製造することができる。
【0063】
(1)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、前記のように製造されたポリアミック酸をエステル化することによって製造できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶剤の存在下で−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって製造することができる。
【0064】
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジ−t−ブチルアセタール、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン、1−エチル−3−p−トリルトリアゼン、1−プロピル−3−p−トリルトリアゼン、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して、2〜6モル当量が好ましい。
【0065】
有機溶剤としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン又はγ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3−ジメチル−イミダゾリジノンが挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、又は前記式[D−1]〜式[D−3]で示される溶媒を用いることができる。
これらの溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、前記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は、重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0066】
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性から、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時の濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0067】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを、塩基と有機溶剤の存在下で、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって製造することができる。
【0068】
前記塩基としては、ピリジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2〜4倍モルであることが好ましい。
上記の反応に用いる溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性から、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの製造に用いる溶媒は、できるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0069】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンから製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造することができる。
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンとを、縮合剤、塩基、及び有機溶剤の存在下で、0〜150℃、好ましくは0〜100℃において、30分〜24時間、好ましくは3〜15時間反応させることによって製造することができる。
【0070】
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ−1,3,5−トリアジニルメチルモルホリニウム、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2〜3倍モルが好ましい。
【0071】
前記塩基としては、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、ジアミン成分に対して2〜4倍モルが好ましい。
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0〜1.0倍モルが好ましい。
【0072】
上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は(2)の製法が特に好ましい。
上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0073】
<ポリイミド>
本発明に用いられるポリイミドは、前記したポリアミック酸エステル又はポリアミック酸をイミド化することにより製造することができる。
ポリアミック酸エステルからポリイミドを製造する場合、ポリアミック酸エステル溶液、又はポリアミック酸エステル樹脂粉末を有機溶媒に溶解させて得られるポリアミック酸溶液に、塩基性触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の課程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。
【0074】
化学的イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸エステルを、有機溶媒中において、塩基性触媒存在下で撹拌することにより行うことができる。有機溶媒としては、前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもトリエチルアミンは反応を進行させるのに充分な塩基性を持つので好ましい。
イミド化反応を行うときの温度は、−20〜140℃、好ましくは0〜100℃であり、好ましくは反応時間は1〜100時間で行うことができる。塩基性触媒の量は、アミック酸エステル基の0.5〜30モル倍、好ましくは2〜20モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間等を調節することで制御することができる。イミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
【0075】
ポリアミック酸からポリイミドを製造する場合、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物との反応で得られたポリアミック酸の溶液に、触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の過程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。
化学的イミド化は、イミド化させたいポリアミック酸を、有機溶媒中において、塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。有機溶媒としては、前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。なかでも無水酢酸は、反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
【0076】
イミド化反応を行うときの温度は、−20〜140℃、好ましくは0〜100℃であり、反応時間は好ましくは1〜100時間で行うことができる。塩基性触媒の量は、アミック酸基の0.5〜30モル倍、好ましくは2〜20モル倍であり、酸無水物の量は、アミック酸基の1〜50モル倍、好ましくは3〜30モル倍である。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間等を調節することで制御することができる。
【0077】
ポリアミック酸エステル又はポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して、精製されたポリイミドの粉末を得ることができる。
貧溶媒としては、特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられる。
【0078】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、主鎖中に特定構造を有するポリイミド前駆体及び該ポリイミド前駆体のイミド化重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体を含有する。重合体の分子量は、重量平均分子量(Mw)で2,000〜500,000が好ましく、より好ましくは5,000〜300,000であり、さらに好ましくは、10,000〜100,000である。また、数平均分子量(Mn)は、好ましくは、1,000〜250,000であり、より好ましくは、2,500〜150,000であり、さらに好ましくは、5,000〜50,000である。
【0079】
本発明の液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下とすることが好ましい。重合体の濃度は好ましくは2〜7質量%である。
【0080】
本発明に用いられる液晶配向剤に含有される、重合体を溶解させる有機溶媒(以下、良溶媒ともいう)は、重合体が均一に溶解するものであれば特に限定されない。
例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン又は4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンを挙げることができる。なかでも、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンを用いることが好ましい。
さらに、本発明の重合体の溶媒への溶解性が高い場合は、前記式[D−1]〜式[D−3]で示される溶媒を用いることが好ましい。
本発明の液晶配向剤における良溶媒の含有量は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の20〜99質量%であることが好ましい。なかでも、20〜90質量%が好ましい。より好ましいのは、30〜80質量%である。
【0081】
本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない限り、液晶配向剤を塗布した際の液晶配向膜の塗膜性や表面平滑性を向上させる溶媒(貧溶媒ともいう)を用いることができる。貧溶媒の具体例を挙げるが、これらの例に限定されるものではない。
例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール、ネオペンチルアルコール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2−ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン、3−エトキシブチルアセタート、1−メチルペンチルアセタート、2−エチルブチルアセタート、2−エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2−(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2−(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1−(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸メチルエチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、前記式[D−1]〜式[D−3]で示される溶媒などを挙げることができる。
【0082】
なかでも、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
これら貧溶媒の含有量は、液晶配向剤に含まれる溶媒全体の1〜80質量%であるのが好ましい。なかでも、10〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。
【0083】
本発明の液晶配向剤には、上記の他、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、本発明に記載の重合体以外の重合体、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的の誘電体若しくは導電物質、液晶配向膜と基板との密着性を向上させる目的のシランカップリング剤、液晶配向膜にした際の膜の硬度や緻密度を高める目的の架橋性化合物、さらには塗膜を焼成する際にポリイミド前駆体の加熱によるイミド化を効率よく進行させる目的のイミド化促進剤等を添加してもよい。
【0084】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、上記液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥し、焼成して得られる膜である。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができ、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることが、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0085】
本発明の液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。
液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択できる。通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために、乾燥温度は好ましくは50〜120℃℃あり、乾燥時間は好ましくは1〜10分である。また、焼成温度は好ましくは150〜300℃であり、焼成時間は好ましくは5〜120分である。
焼成後の膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が損なわれる可能性があるので、好ましくは5〜300nm、より好ましくは10〜120nmである。
【0086】
液晶配向膜の光配向処理の方法としては、塗膜表面に、一定方向に偏向した放射線を照射し、場合によっては、さらに150〜250℃の温度で加熱処理を行い、液晶配向能を付与する方法が挙げられる。放射線としては、100〜800nmの波長を有する紫外線及び可視光線を用いることができる。このうち、100〜400nmの波長を有する紫外線が好ましく、200〜400nmの波長を有するものが特に好ましい。また、液晶配向性を改善するために、塗膜基板を50〜250℃で加熱しつつ、放射線を照射してもよい。放射線の照射量は、1〜10,000mJ/cmが好ましく、100〜5,000mJ/cmが特に好ましい。上記のようにして作製した液晶配向膜は、液晶分子を一定の方向に安定して配向させることができる。
より高い異方性が付与できるため、偏光された紫外線の消光比は高いほど好ましい。具体的には、直線に偏光された紫外線の消光比は、10:1以上が好ましく、20:1以上がより好ましい。
【0087】
偏光された放射線を照射した膜は、次いで、水及び有機溶媒から選ばれる少なくとも1種を含む溶媒で接触処理してもよい。
接触処理に使用する溶媒としては、光照射によって生成した分解物を溶解する溶媒であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、乳酸メチル、ジアセトンアルコール、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸シクロヘキシルなどが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を併用してもよい。汎用性や安全性の点から、水、2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール及び乳酸エチルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。水、2−プロパノール、又は、水と2−プロパノールの混合溶媒が特に好ましい。
【0088】
本発明において、偏光された放射線を照射した膜と有機溶媒を含む溶液との接触処理としては、浸漬処理、噴霧(スプレー)処理などが挙げられ、膜と液とが十分に接触するような処理が好ましい。なかでも、好ましくは10秒〜1時間、より好ましくは1〜30分、有機溶媒を含む溶液中で、膜を浸漬処理する方法が好ましい。接触処理は、常温でも加温してもよいが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは20〜50℃で実施される。また、必要に応じて、超音波などの接触を高める手段を施すことができる。
接触処理の後に、使用した溶液中の有機溶媒を除去する目的で、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトンなどの低沸点溶媒によるすすぎ(リンス)や乾燥のいずれか、又は両方を行ってもよい。
【0089】
さらに、溶媒による接触処理をした膜は、溶媒の乾燥及び膜中の分子鎖の再配向を目的に、150℃以上で加熱してもよい。加熱温度としては、150〜300℃が好ましい。温度が高いほど、分子鎖の再配向が促進されるが、温度が高すぎると分子鎖の分解を伴う恐れがある。そのため、加熱温度は、180〜250℃がより好ましく、200〜230℃が特に好ましい。
加熱する時間は、短すぎると分子鎖の再配向の効果が得られない可能性があり、長すぎると分子鎖が分解してしまう可能性があるため、10秒〜30分が好ましく、1〜10分がより好ましい。
【0090】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤から形成された液晶配向膜を有する基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作製し、該セルを使用して素子としたものである。
液晶セルの作製方法の一例として、以下に、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。
【0091】
まず、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えば、ITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようにパターニングされる。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル−ゲル法によって形成されたSiO−TiOからなる膜とすることができる。
次に、各基板の上に、本発明の液晶配向膜を形成する。次に、一方の基板に他方の基板を、互いの配向膜面が対向するようにして重ね合わせ、周辺をシール材で接着する。シール材には、基板間隙を制御するために、通常、スペーサーを混入することが好ましい。また、シール材を設けない面内部分にも、基板間隙制御用のスペーサーを散布しておくことが好ましい。また、シール材の一部には、通常、外部から液晶を充填可能な開口部が設けられる。
【0092】
次に、シール材に設けた開口部を通じて、2枚の基板とシール材で包囲された空間内に液晶材料を注入する。その後、この開口部を接着剤で封止する。注入には、真空注入法を用いてもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に、一対の偏光板を貼り付ける。以上の工程を経ることにより、本発明の液晶表示素子が得られる。
本発明において、シール剤としては、例えば、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、ヒドロキシ基、アリル基、アセチル基などの反応性基を有する紫外線照射や加熱によって硬化する樹脂が用いられる。特に、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基の両方の反応性基を有する硬化樹脂系を用いるのが好ましい。
【0093】
上記のシール剤には、接着性、耐湿性等の向上を目的として、無機充填剤を配合してもよい。使用可能な無機充填剤としては、特に限定されないが、具体的には、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、シリコンカーバイド、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸リチウムアルミニウム、珪酸ジルコニウム、チタン酸バリウム、硝子繊維、炭素繊維、二硫化モリブデン、アスベスト等が挙げられる。好ましくは、球状シリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、酸化チタン、チタンブラック、窒化珪素、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、マイカ、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウムなどである。前記の無機充填剤は2種以上を混合して用いてもよい。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した化合物の略号は以下のとおりである。
【0095】
NMP:N−メチル−2−ピロリドン、 BCS:ブチルセロソルブ
【化43】
【0096】
[DA−1の合成(4‘‐(2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−アミン)]
第1ステップ:4−ニトロ‐4‘‐(2−(4−ニトロフェノキシ)エトキシ)−1,1’−ビフェニル(DA−1−1)の合成
【0097】
【化44】
【0098】
4−ヒドロキシ‐4‘−ニトロビフェニル(10.0g、46.5mmol)をDMF(40.0g)に溶解し、炭酸カリウム(17.2g、69.7mmol)を加え、β‐ブロモ‐4−ニトロフェネトール(17.2g、69.7mmol)のDMF溶液(40.0g)を80℃で滴下した。
そのまま80℃で2時間撹拌し、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略す)で原料の消失を確認した。その後、反応液を室温に放冷し、水(500.0g)を加えて析出物をろ過し、ろ物を水(100.0g)で2回洗浄した。得られたろ物は、MeOH(500.0g)で2回洗浄した。析出物をろ過し、50℃で減圧乾燥することで、4−ニトロ‐4‘‐(2−(4−ニトロフェノキシ)エトキシ)−1,1’−ビフェニル(DA−1−1)を得た(白色粉末、収量:17.6g、収率:99%)。
【0099】
1H NMR (DMSO- d6):δ 8.22-8.29 (m, 4H, C6H4), 7.94 (d, J = 7.2 Hz, 2H, C6H4), 7.79 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 7.25-7.15 (m, 4H, C6H4)4.54-4.45 (m, 4H, CH2). 13C{1H} NMR (DMSO- d6):δ 164.1, 159.6, 146.6, 146.5, 141.4, 130.7, 129.1, 127.5, 126.4, 124.5, 115.7, 115.6, 67.8, 66.7(each s).
融点(DSC):193℃
【0100】
第2ステップ:4‘‐(2−(4−アミノフェノキシ)エトキシ)−[1,1’−ビフェニル]−4−アミン(DA-1)の合成
【化45】
【0101】
DA−1−1(5.0g、13.1mmol)をテトラヒドロフラン(100.0g)に溶解し、5質量%パラジウム−炭素(0.1g)を加え、水素雰囲気下、室温で2時間撹拌した。原料の消失をHPLCで確認した後、反応液をテトラヒドロフラン(800.0g)中で溶解し、触媒をろ過により除去した後、ろ液を濃縮した。析出した固体をヘプタン(200.0g)中で撹拌、洗浄し、ろ過した。得られた固体を乾燥することでDA−1を得た(白色粉末、収量:4.0g、収率:94%)。
【0102】
1H NMR (DMSO- d6):δ 7.45 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 7.29 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 6.97 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 6.70 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 6.62 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 6.52 (d, J = 8.8 Hz, 2H, C6H4), 5.14 (s, 2H, NH2), 4.64 (s, 2H, NH2), 4.24 (br, 2H, CH2), 4.16 (br, 2H, CH2). 13C{1H} NMR (DMSO- d6):δ 157.2, 150.0, 148.2, 143.1, 133.9, 127.7, 126.2, 116.3, 115.9, 115.5, 115.0, 114.4, 67.2, 66.9 (each s).
融点(DSC):156℃
【0103】
なお、合成例の水素核磁気共鳴(1HNMR、500MHz)は重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)溶媒中で測定し、化学シフトは、テトラメチルシランを内部標準としたときのδ値(ppm)で示した。
【0104】
[粘度]
各溶液の粘度は、E型粘度計(TVE−22H、東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0105】
[分子量]
GPC装置:Shodex社製(GPC−101)、カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃、溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o−リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、流速:1.0ml/分。
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製 TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw);約900,000、150,000、100,000及び30,000)、及びポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp);約12,000、4,000及び1,000)。
測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000及び1,000の4種類を混合したサンプルと、150,000、30,000及び4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定した。
【0106】
[液晶セルの作製]
フリンジフィールドスィッチング(Fringe Field Switching:FFS)モード液晶表示素子の構成を備えた液晶セルを作製する。
30mm×50mmの大きさで、厚さが0.7mmの、電極付きのガラス基板を準備した。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたITO電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には、第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目として、ITO膜をパターニングして形成された、櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により、電気的に絶縁されている。
【0107】
第3層目の画素電極は、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を、複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字のくの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0108】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では、画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では、画素電極の電極要素が−10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が、互いに逆方向となるように構成されている。
【0109】
次に、液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と、裏面にITO膜が成膜されている、高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板とに、スピンコート塗布にて塗布した。塗布後、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させた。この塗膜面に偏光板を介して、消光比10:1以上の直線偏光した波長254nmの紫外線を照射した。この基板を、水及び有機溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒に3分間浸漬させ、次いで、純水に1分間浸漬させ、その後、150〜300℃のホットプレート上で5分間加熱し、液晶配向膜付き基板を得た。
【0110】
2枚の基板を一組として、一方の基板上にシール剤を印刷し、もう一方の基板を、液晶配向膜面が向き合い、配向方向が0°になるようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC−7026−100(メルク社製)を注入し、注入口を封止して、FFS駆動液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、一晩放置してから各評価に使用した。
【0111】
[長期交流駆動による残像評価]
上記した液晶セルと同様の構造の液晶セルを準備し、60℃の恒温環境下、周波数60Hzで±5Vの交流電圧を120時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間をショートさせた状態にし、そのまま室温に一日放置した。
放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで、液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素においても、第1画素の場合と同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。
【0112】
[液晶セルの輝点の評価(コントラスト)]
上記した液晶セルの輝点の評価を行った。液晶セルの輝点の評価は、液晶セルを偏光顕微鏡(ECLIPSE E600WPOL)(ニコン社製)で観察することで行った。具体的には、液晶セルをクロスニコルで設置し、倍率を5倍にした偏光顕微鏡で液晶セルを観察して、確認された輝点の数を数え、輝点の数が10個未満を「良好」、それ以上を「不良」とした。
【0113】
<合成例1>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50mL四つ口フラスコに、DA−1を1.44g(4.50mmol)、及びDA−2を0.49g(4.53mmol)を量り取り、NMPを25.38g加えて、窒素を送りながら撹拌し、溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を1.92g(8.56mmol)添加し、更に、固形分濃度が12質量%になるようにNMPを2.82g加え、室温で24時間撹拌して、ポリアミック酸溶液(A)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は1680mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量は、Mn=14700、Mw=35000であった。
【0114】
<合成例2>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50mL四つ口フラスコに、DA−1を2.24g(7.00mmol)を量り取り、NMPを24.64g加えて、窒素を送りながら撹拌し、溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を1.49g(6.65mmol)添加し、更に、固形分濃度が12質量%になるようにNMPを2.73g加え、室温で24時間撹拌して、ポリアミック酸溶液(B)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は2650mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量は、Mn=21300、Mw=52300であった。
【0115】
<合成例3>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50mL四つ口フラスコに、DA−1を1.51g(4.71mmol)、及びDA−3を1.14g(4.71mmol)を量り取り、NMPを16.99g加えて、窒素を送りながら撹拌し、溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を2.07g(9.23mmol)添加し、更に、固形分濃度が20質量%になるようにNMPを1.89g加え、40℃で24時間撹拌して、ポリアミック酸溶液(C)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は5000mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量は、Mn=13900、Mw=34100であった。
【0116】
<合成例4>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50mL四つ口フラスコに、DA−4を1.59g(6.51mmol)、及びDA−2を0.70g(6.47mmol)を量り取り、NMPを33.07g加えて、窒素を送りながら撹拌し、溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながら、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を2.71g(12.09mmol)添加し、更に、固形分濃度が12質量%になるようにNMPを3.67g加え、室温で24時間撹拌して、ポリアミック酸溶液(D)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は360mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量は、Mn=14500、Mw=30200であった。
【0117】
<合成例5>
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50mL四つ口フラスコに、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を3.59g(16.01mmol)を量り取り、NMPを34.18g加えて、窒素を送りながら撹拌し、溶解させた。この酸二無水物溶液を撹拌しながら、DA−2を1.59g(14.70mmol)添加し、更に、固形分濃度が12質量%になるようにNMPを3.80g加え、室温で24時間撹拌して、ポリアミック酸溶液(E)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は200mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量は、Mn=12600、Mw=30500であった。
【0118】
<実施例1>
12質量%のポリアミック酸溶液(A)15.00gを100ml三角フラスコに量り取り、NMP9.00g及びBCS6.00gを加え、25℃にて8時間混合して、液晶配向剤(1)を得た。液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0119】
<実施例2>
ポリアミック酸溶液(A)の代わりにポリアミック酸溶液(B)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、液晶配向剤(2)を得た。液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0120】
<実施例3>
20質量%のポリアミック酸溶液(C)9.00gを100ml三角フラスコに取り、NMP15.00g、BCS6.00gを加え、25℃にて8時間混合して、液晶配向剤(3)を得た。液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0121】
<比較例1>
ポリアミック酸溶液(A)の代わりにポリアミック酸溶液(D)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、液晶配向剤(4)を得た。液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0122】
<比較例2>
ポリアミック酸溶液(A)の代わりにポリアミック酸溶液(E)を用いたこと以外は、実施例1と同様に処理を行い、液晶配向剤(5)を得た。液晶配向剤に、濁りや析出などの異常は見られず、均一な溶液であることが確認された。
【0123】
<実施例4>
上記液晶配向剤(1)を、1.0μmのフィルターで濾過した後、上記電極付き基板と裏面にITO膜が成膜されている高さ4μmの柱状スペーサーを有するガラス基板とに、スピンコート塗布にて塗布した。次いで、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させ、230℃の熱風循環式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させた。この塗膜面に偏光板を介して、消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を、0.2J/cm照射した。その後、230℃のホットプレート上で14分間加熱して、液晶配向膜付き基板を得た。
【0124】
2枚の基板を一組とし、一方の基板の上にシール剤を印刷し、もう一方の基板を、液晶配向膜面が向き合い、配向方向が0°になるようにして張り合わせた。その後、シール剤を硬化させて、空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC−7026−100(メルク社製)を注入し、次いで、注入口を封止して、FFS駆動液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを110℃で1時間加熱し、一晩放置して、長期交流駆動による残像評価を実施した。長期交流駆動後における、この液晶セルの角度Δの値は、0.01°であった。また、液晶セル中の輝点観察を行った結果、輝点の数は10個未満であり、良好であった。
【0125】
<実施例5>
上記液晶配向剤(2)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、塗膜を形成させた。この塗膜面に偏光板を介して、消光比26:1の直線偏光した波長254nmの紫外線を、0.5J/cm照射した。その後、230℃のホットプレート上で14分間加熱して、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、FFS駆動液晶セルを作製し、得られた液晶セルについて、実施例4と同様の評価を実施した。その結果、角度Δの値は、0.03°であった。また、輝点の数は10個未満であり、良好であった。
【0126】
<実施例6>
上記液晶配向剤(3)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、塗膜を形成させ、紫外線を照射し、加熱して、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、FFS駆動液晶セルを作製し、得られた液晶セルについて、実施例4と同様の評価を実施した。その結果、角度Δの値は、0.02°であった。また、輝点の数は10個未満であり、良好であった。
【0127】
<比較例3>
上記液晶配向剤(4)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、塗膜を形成させ、紫外線を照射し、加熱して、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、FFS駆動液晶セルを作製し、得られた液晶セルについて、実施例4と同様の評価を実施した。その結果、角度Δの値は、0.10°であった。また、輝点の数は10個以上であり、不良であった。
【0128】
<比較例4>
上記液晶配向剤(5)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、塗膜を形成させ、紫外線を0.5J/cm照射し、加熱して、液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜付き基板を用いた以外は、実施例4と同様の方法で、FFS駆動液晶セルを作製し、得られた液晶セルについて、実施例4と同様の評価を実施した。その結果、角度Δの値は、0.19°であった。また、輝点の数は10個以上であり、不良であった。
【0129】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の液晶配向剤は、ネガ型液晶を用いた場合でも、輝点が発生せず、良好な残像特性を有する光配向法用の液晶配向膜の形成が可能であり、高い表示品位の、FFS駆動方式の液晶表示素子などに利用できる。
なお、2015年3月24日に出願された日本特許出願2015−061095号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。