(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記焼成工程は、熱処理温度が720℃未満に制御される段階、及び、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階のうちの少なくとも一方と、熱処理温度が770℃以上に制御される段階と、を含み、
前記2以上の段階のうち、熱処理温度が770℃以上に制御される段階の雰囲気から排出されたガスを、熱処理温度が720℃未満に制御される段階、及び、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階のうちの少なくとも一方の雰囲気に導入して焼成を行う請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
前記焼成工程は、熱処理温度が720℃未満に制御される段階と、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階と、熱処理温度が770℃以上に制御される段階と、を含み、
前記2以上の段階のうち、熱処理温度が770℃以上に制御される段階の雰囲気から排出されたガスと、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階の雰囲気から排出されたガスとを、熱処理温度が720℃未満に制御される段階の雰囲気に導入して焼成を行う請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
排出された前記ガスを、二酸化炭素濃度を0.02%以下としてから導入する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びそれに用いる熱処理装置について詳細に説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
[正極活物質]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によって製造される正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極の材料として用いられる。この正極活物質は、結晶構造としてα−NaFeO
2型の層状構造を有し、リチウムと遷移金属とを含んで組成されるリチウム複合酸化物(リチウム複合化合物)である。
【0020】
本実施形態に係る製造方法で製造される正極活物質は、具体的には、下記式(1)で表される組成を有する。
Li
1+aM1O
2+α ・・・(1)
(但し、前記式(1)中、M1は、Li以外の金属元素であって少なくともNiを含み、a及びαは、−0.1≦a≦0.2、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。)
【0021】
前記式(1)で表される正極活物質は、ニッケルを含有しているため、4.3V付近までの範囲で、LiCoO
2等と比較して高い充放電容量を示すことができる。また、ニッケルを含有しているため、LiCoO
2等と比較して原料費が安価であり、入手し易い点で有利である。前記式(1)において、M1当たりにおけるNiの割合は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上である。
【0022】
本実施形態に係る製造方法によって製造される正極活物質は、下記式(2)で表される組成を有することが好ましい。
Li
1+aNi
xCo
yM2
1−x−y−zM3
zO
2+α ・・・(2)
(但し、前記式(2)中、M2は、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、M3は、Mg、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、a、x、y、z及びαは、−0.1≦a≦0.2、0.7≦x<1.0、0≦y<0.3、0≦z≦0.25、0<1−x−y−z<0.3、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。)
【0023】
前記式(2)で表される正極活物質は、ニッケルの一部が、M2で表される元素、或いは、更にコバルトやM3で表される元素で元素置換されているため、充放電に伴う結晶の構造変化が抑制され、充放電サイクル特性がより良好となる。また、熱的な安定性も高くなるため、高温保存時の安定性がより向上した正極活物質となる。
【0024】
ここで、前記式(1)及び(2)におけるa、x、y、z及びαの数値範囲の意義について説明する。
【0025】
前記式におけるaは、−0.1以上、且つ、0.2以下とする。aは、一般式:LiM1O
2で表されるリチウム複合化合物の量論比、すなわちLi:M1:O=1:1:2からのリチウムの過不足量を表している。リチウムが過度に少ないと、正極活物質の充放電容量が低くなる。一方、リチウムが過度に多いと、充放電サイクル特性が悪化する。aが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0026】
aは、−0.02以上、且つ、0.05以下としてもよい。aが−0.02以上であれば、充放電に寄与するのに十分なリチウム量が確保されるため、正極活物質の充放電容量を高くすることができる。また、aが0.05以下であれば、遷移金属の価数変化による電荷補償が十分になされるので、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0027】
ニッケルの係数xは、0.7以上、且つ、1.0未満とする。リチウム以外の金属元素当たりのニッケルの割合が高いほど、高容量化に有利であり、ニッケルの割合が70原子%を超えていると、十分に高い充放電容量が得られる。よって、xを前記の数値範囲に規定することで、高い充放電容量を示す正極活物質を、LiCoO
2等と比較して安価に製造することができる。
【0028】
xは、0.75以上、且つ、0.95以下としてもよいし、0.75以上、且つ、0.90以下としてもよい。xが0.75以上であれば、より高い充放電容量が得られる。また、xが0.95以下であれば、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングが生じ難くなるため、充放電容量や充放電サイクル特性の悪化が抑制される。
【0029】
コバルトの係数yは、0以上、且つ、0.3未満とする。コバルトが添加されていると、結晶構造が安定化し、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングが抑制される等の効果が得られる。そのため、充放電容量を大きく損なわず、充放電サイクル特性を向上させることができる。一方、コバルトが過剰であると、原料費が高くなるので、正極活物質の製造コストが増大してしまう。よって、yを前記の数値範囲に規定することで、良好な生産性をもって、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
【0030】
yは、0.01以上、且つ、0.20以下としてもよいし、0.03以上、且つ、0.20以下としてもよい。yが0.01以上であれば、コバルトの元素置換による効果が十分に得られ、充放電サイクル特性がより向上する。また、yが0.20以下であれば、原料費がより低廉となり、正極活物質の生産性がより良好になる。
【0031】
M2の係数1−x−y−zは、0を超え、且つ、0.3未満とする。マンガン及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素(M2)が元素置換されていると、充電によってリチウムが脱離しても層状構造がより安定に保たれるようになる。一方、これらの元素(M2)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。1−x−y−zが前記の数値範囲であれば、正極活物質の結晶構造を安定に保ち、高い充放電容量と共に、良好な充放電サイクル特性や、熱的安定性等を得ることができる。
【0032】
M2で表される元素としては、マンガン、アルミニウム等が好ましい。このような元素は、高いニッケル含有量を有する正極材の結晶構造安定化に寄与する。中でもマンガンが特に好ましい。マンガンが元素置換されていると、アルミニウムが元素置換される場合と比較して、より高い充放電容量が得られる。また、リチウム複合化合物の焼成時、ニッケルの酸化反応が十分に進行しなくとも、原料中のマンガンが原料の炭酸リチウムと十分に反応できるので、高温の焼成時においても炭酸リチウムが残存した状態とならなくて済む。その結果、熱処理温度が723℃前後を超える場合にも、炭酸リチウムが液相を形成せず、結晶粒の粗大化が抑制される。つまり、結晶粒の粗大化を抑制して、高温でニッケルの酸化反応を進めることができるため、高い充放電容量を示す正極活物質を効率的に得ることができる。
【0033】
M2で表される元素としてマンガンが元素置換されるとき、M2の係数1−x−y−zは、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。M2の係数1−x−y−zが大きいほど、マンガンの元素置換による効果が十分に得られる。すなわち、より高温でニッケルの酸化反応を進めることが可能になり、高い充放電容量を示す正極活物質をより効率的に得ることができる。また、M2の係数1−x−y−zは、0.18以下であることが好ましい。M2の係数1−x−y−zが0.18以下であれば、元素置換されていても充放電容量が高く保たれる。
【0034】
M3の係数zは、0以上、且つ、0.25以下とする。マグネシウム、チタン、ジルコニウム、モリブデン及びニオブからなる群より選択される少なくとも一種の元素(M3)が元素置換されていると、正極活物質の活性を維持しながらも、充放電サイクル特性等の性能を向上させることができる。一方、これらの元素(M3)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。zが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性等とを両立させることができる。
【0035】
前記式におけるαは、−0.2以上、且つ、0.2以下とする。αは、一般式:LiM1O
2で表されるリチウム複合化合物の量論比、すなわちLi:M1:O=1:1:2からの酸素の過不足量を表している。αが前記の数値範囲であれば、結晶構造の欠陥が少ない状態であり、高い充放電容量と良好な充放電サイクル特性が得られる。
【0036】
正極活物質の結晶構造は、例えば、X線回折法(X-ray diffraction;XRD)等によって確認することができる。また、正極活物質の組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)発光分光分析、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって確認することができる。
【0037】
リチウム複合化合物の一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上、且つ、2μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であると、正極における充填性が良好になるため、成形密度が高い正極を製造することができる。また、粉末状のリチウム複合化合物の飛散や凝集が低減されるので、取り扱い性も良くなる。リチウム複合化合物は、二次粒子を形成していてもよい。リチウム複合化合物の二次粒子の平均粒径は、正極の仕様等にもよるが、例えば、3μm以上、且つ、50μm以下とすることができる。
【0038】
リチウム複合化合物のBET比表面積は、0.1m
2/g以上、且つ、2.0m
2/g以下であることが好ましい。粉末状のリチウム複合化合物のBET比表面積がこの範囲であると、成形密度や電極反応速度や体積エネルギ密度が十分に高い正極を製造することができる。リチウム複合化合物のBET比表面積は、より好ましくは0.6m
2/g以上、且つ、1.2m
2/g以下である。
【0039】
リチウム複合化合物の粒子破壊強度は、10MPa以上、且つ、200MPa以下であることが好ましい。粒子破壊強度がこの範囲であると、正極を作製する過程でリチウム複合化合物の粒子が破壊され難くなり、正極集電体にリチウム複合化合物を含む正極合剤を塗工して正極合剤層を形成するとき、剥がれ等の塗工不良が発生し難くなる。リチウム複合化合物の粒子破壊強度は、例えば、一粒子当たりの計測が可能な微小圧縮試験機を用いて測定することができる。
【0040】
[正極活物質の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、前記のリチウム複合化合物を、炭酸リチウムを原料として用いて、固相法で合成する方法に関する。
【0041】
前記式(1)で表される正極活物質は、ニッケルを含有しているため、焼成時、ニッケルの酸化反応が不十分であったり、リチウムが引き抜かれたりすると、2価のニッケルで構成される不活性な相を生じ易い。そのため、ニッケルを安定な2価から3価まで十分に酸化し、結晶の純度や均一性が高いリチウム複合化合物を焼成することが望まれる。
【0042】
ニッケルを十分に酸化させて、結晶の純度や均一性が高いリチウム複合化合物を焼成するには、焼成の進行に応じて熱処理温度を高温にシフトさせる多段階の熱処理が有効である。しかし、多段階の熱処理は、その段階毎に、雰囲気を高い酸素濃度に保つ必要がある。また、原料として用いる炭酸リチウムから二酸化炭素が脱離するため、雰囲気毎に炉内攪拌や排気を行う必要がある。
【0043】
このように、多段階の熱処理では、各段階の雰囲気を保つために酸素ガスの継続的な供給を要し、酸素ガスの供給に多大なコストがかかる。このような状況下、本発明者は、炭酸リチウムやニッケルを含む化合物を原料とする焼成に関し、焼成雰囲気に最低限必要な酸素分圧が熱処理温度毎に異なることを確認し、低温の焼成の段階で酸素量を削減しても、結晶の純度が高く、充放電容量が高いリチウム複合化合物を焼成できることを見出した。
【0044】
そこで、本実施形態においては、多段階の熱処理を施してリチウム複合化合物を焼成するにあたり、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階を、高温に制御される段階よりも低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行い、雰囲気ガスの供給コストの削減を図る。
【0045】
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法のフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、炭酸リチウムと前記式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物とを混合する混合工程S10と、前記混合工程S10を経て得られた前駆体を焼成して前記式(1)で表されるリチウム複合化合物を得る焼成工程S20と、を有している。
【0046】
混合工程S10では、リチウムを含む原料として、少なくとも炭酸リチウムを用いる。炭酸リチウムは、酢酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等と比較して安価であり、容易に入手することができる。また、炭酸リチウムは、弱アルカリ性であるので、焼成炉等へのダメージが少なくなる利点がある。また、炭酸リチウムは、融点が比較的高いため、固相法による合成時、液相が形成されて結晶粒が粗大化するのを避けることができる。
【0047】
混合工程S10では、ニッケルを含む原料として、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酸化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等のニッケル化合物を用いることができる。ニッケル化合物としては、これらの中でも、特に、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル又は酸化ニッケルを用いることが好ましい。
【0048】
混合工程S10では、炭酸リチウムやニッケル化合物と共に、コバルトを含むコバルト化合物や、M2で表される元素を含む金属化合物や、M3で表される元素を含む金属化合物等を混合することができる。コバルト化合物や金属化合物としては、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。これらの中でも、特に、炭酸塩、酸化物、又は、水酸化物を用いることが好ましい。
【0049】
混合工程S10では、炭酸リチウム等の原料を、それぞれ秤量し、粉砕及び混合して粉末状の混合物を得る。原料を粉砕する粉砕機としては、例えば、ボールミル、ジェットミル、サンドミル等の一般的な精密粉砕機を用いることができる。原料の粉砕は、湿式粉砕としてもよい。湿式粉砕して得た原料スラリーは、例えば、乾燥機によって造粒乾燥させることができる。乾燥機としては、例えば、噴霧乾燥機、流動床乾燥機、エバポレータ等を使用することができる。
【0050】
混合工程S10では、炭酸リチウム等の原料を、平均粒径が0.5μm以下になるまで粉砕することが好ましく、平均粒径が0.2μm以下になるまで粉砕することがより好ましい。原料がこのような微小な粒径に粉砕されていると、炭酸リチウムとニッケル化合物等との反応性が向上し、炭酸リチウムから二酸化炭素が脱離し易くなる。また、粉砕物の混合度が高くなって焼成が均一に進み易くなり、リチウム複合化合物の一次粒子の平均粒径を、容易に適切な範囲に制御し得るようになる。
【0051】
前熱処理工程S15は、混合工程S10で得られた混合物を200℃以上、且つ、400℃以下の熱処理温度で、0.5時間以上、且つ、5時間以下にわたって熱処理して焼成の前駆体を得る工程である。前熱処理工程S15は、混合工程S10で得られた混合物から、リチウム複合化合物の合成反応を妨げる水分等を除去することを主な目的として行われる。なお、前熱処理工程S15は、原料の種類、焼成の条件等に応じて、実施を省略してもよい。
【0052】
前熱処理工程S15において、熱処理温度が200℃以上であれば、不純物の燃焼反応等が十分に進むため、以降の熱処理で不活性な異相等が形成されるのを防止することができる。また、熱処理温度が400℃以下であれば、この工程でリチウム複合化合物の結晶が形成されることが略無いため、水分、不純物等が含まれるガスの存在下、純度が低い結晶相が形成されるのを防ぐことができる。
【0053】
前熱処理工程S15における熱処理温度は、250℃以上、且つ、400℃以下であることが好ましく、250℃以上、且つ、380℃以下であることがより好ましい。熱処理温度がこの範囲であれば、水分、不純物等を効率的に除去する一方、この工程でリチウム複合化合物の結晶が形成されるのを確実に防ぐことができる。なお、前熱処理工程S15における熱処理時間は、例えば、熱処理温度、混合物に含まれている水分や不純物等の量、水分や不純物等の除去目標、結晶化の度合い等に応じて、適宜の時間とすることができる。
【0054】
前熱処理工程S15は、雰囲気ガスの気流下や、ポンプによる排気下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で熱処理を行うことにより、水分、不純物等が含まれているガスを効率的に排除することができる。雰囲気ガスの気流の流量や、ポンプによる時間当たりの排気量は、混合物から生じるガスの体積よりも多くすることが好ましい。混合物から生じるガスの体積は、例えば、原料の使用量や、燃焼や熱分解でガス化する成分の原料当たりのモル比等に基づいて求めることができる。
【0055】
前熱処理工程S15は、酸化性ガス雰囲気下で行ってもよいし、非酸化性ガス雰囲気下で行ってもよいし、減圧雰囲気下で行ってもよい。酸化性ガス雰囲気としては、酸素ガス雰囲気及び大気雰囲気のいずれであってもよい。また、減圧雰囲気としては、例えば、大気圧以下等、適宜の真空度の減圧条件であってよい。
【0056】
焼成工程S20は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階を含む。なお、
図1において、焼成工程S20は、第1焼成工程S21と、第2焼成工程S22と、第3焼成工程S23と、によって構成されているが、熱処理温度が450℃以上の範囲に2以上の段階を含む限り、適宜の熱処理温度に制御される工程を任意に含むことができる。
【0057】
互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温側の段階は、主として二酸化炭素を脱離させることを目的として行われる。一方、熱処理温度が高温側の段階は、主としてリチウム複合化合物の結晶を成長させることを目的として行われる。焼成工程S20においては、混合工程S10を経て得られた前駆体、すなわち、混合後に水洗、造粒乾燥、前熱処理等の適宜の処理を施された焼成前駆体(混合物)が、酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低い雰囲気下で焼成されて、層状構造を有するリチウム複合化合物が形成される。
【0058】
焼成工程S20、すなわち第1焼成工程S21以降では、酸素濃度が少なくとも45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が少なくとも0.02%以下の雰囲気下で焼成を行うことが好ましい。また、熱処理温度が少なくとも450℃以上、且つ、900℃以下の範囲に制御されることが好ましい。なお、焼成の各段階は、段階毎の熱処理温度が一定に制御されてもよいし、段階毎の熱処理温度が所定の温度範囲内で可変的に制御されてもよい。
【0059】
炭酸リチウムを原料としてリチウム複合化合物を焼成するときの代表的反応としては、次の反応式(I)、(II)がある。
0.5Li
2CO
3+Ni
2+O+0.25O
2 → LiNi
3+O
2+0.5CO
2 ・・・(I)
0.5Li
2CO
3+M
3+O
1.5 → LiM
3+O
2+0.5CO
2 ・・・(II)
(但し、式中、Mは、Ni、Mn、Co等の遷移金属を示す。)
【0060】
前記反応式(I)に示されるように、ニッケルを含有するリチウム複合化合物を焼成するとき、ニッケルを安定な2価から3価に十分に酸化させ、結晶構造を生成する反応の標準生成ギブズエネルギを超えるために、高い酸素分圧を必要とする。これらの反応によるリチウム複合化合物の粒成長は、770℃前後よりも高温側で大きく進む。しかし、熱処理温度が高温であるほど、結晶粒が粗大化し易くなるので、比表面積が小さくなり、充放電容量等の性能が悪化する虞がある。そのため、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が高温側の段階は、高い酸素濃度の雰囲気下、短い熱処理時間で行うことが好ましい。
【0061】
また、前記反応式(I)、(II)に示されるように、炭酸リチウムを原料としてリチウム複合化合物を焼成するとき、炭酸リチウムから二酸化炭素が脱離する。雰囲気の二酸化炭素濃度が高くなると、炭酸リチウムとニッケル化合物との反応が大きく阻害されると共に、リチウム複合化合物の結晶に取り込まれる炭酸成分の量も顕著になり、充放電容量等の性能が悪化する傾向がある。二酸化炭素の放出を伴う炭酸リチウムの反応は、700〜720℃付近よりも低温側で始まり、或る程度の酸素濃度があれば、熱処理時間を長くするほど進行する。そのため、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温側の段階は、相対的に低い酸素濃度の雰囲気下であっても行うことができる。
【0062】
そこで、焼成工程S20では、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階を、高温に制御される段階よりも低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行う。一般には、多段階の熱処理における各雰囲気は、段階毎に酸素ガス等を供給し続けることによって90%以上の高い酸素濃度に維持されている。これに対し、本実施形態においては、熱処理温度が低温に制御される段階を、低い酸素濃度の雰囲気に制御するため、酸素ガスの供給コストを削減することができる。熱処理温度が低温側の段階、すなわち焼成の前期側の段階ほど、後期側の段階と比較して、同じ加熱コストで熱処理時間を長く採ることができる。そのため、熱処理温度が低温側の段階を相対的に低い酸素濃度の雰囲気に制御したとしても、結晶化が十分に進行した正極活物質を得ることができる。
【0063】
焼成工程S20は、熱処理温度が770℃未満に制御される段階と、熱処理温度が770℃以上に制御される段階と、を含むことが好ましい。リチウム複合化合物の粒成長は、770℃前後よりも高温側で大きく進む。そのため、770℃を挟んで多段階の焼成を行うと、熱処理温度が低温側の段階で、二酸化炭素を脱離させることができる。一方、熱処理温度が高温側の段階では、リチウム複合化合物の結晶の成長を進めることができる。炭酸リチウムの大半を脱離させた状態で粒成長させることができるため、炭酸リチウムから脱離した二酸化炭素によって、リチウム複合化合物の結晶の成長が阻害されたり、不活性な相が生成したりするのを防止することができる。
【0064】
焼成工程S20は、熱処理温度が720℃未満に制御される段階と、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階と、熱処理温度が770℃以上に制御される段階と、を含むことがより好ましい。炭酸リチウムとニッケル化合物との反応は、700〜720℃程度よりも低温側で始まるため、720℃を挟んで多段階の焼成を行うと、熱処理温度が低温側の段階で、二酸化炭素を十分に脱離させることができる。熱処理温度が低温側の段階は、要求される酸素濃度が低く、加熱コストも低いため、正極活物質の製造コストをより削減することができる。
【0065】
焼成工程S20では、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が720℃未満に制御される段階を、酸素濃度が45%以上、且つ、75%以下の雰囲気に制御することが好ましく、酸素濃度が45%以上、且つ、60%未満の雰囲気に制御することがより好ましい。酸素濃度がこのような範囲であると、熱処理時間を長くしたとしても、酸素ガスの必要量が少なくなるため、正極活物質の製造コストをより削減することができる。
【0066】
また、焼成工程S20では、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階を、酸素濃度が55%以上、且つ、85%以下の雰囲気に制御することが好ましく、酸素濃度が60%以上、且つ、80%未満の雰囲気に制御することがより好ましい。酸素濃度がこのような範囲であると、リチウム複合化合物の結晶を成長させながらも、低い酸素濃度の雰囲気に二酸化炭素を放出させて除去することができる。そのため、酸素を有効利用しつつ、正極活物質の製造コストをより削減することができる。
【0067】
また、焼成工程S20では、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が770℃以上に制御される段階を、酸素濃度が80%以上、且つ、100%以下の雰囲気に制御することが好ましく、酸素濃度が80%以上、且つ、93%以下の雰囲気に制御することがより好ましい。酸素濃度がこのような範囲であると、高い酸素濃度の雰囲気下、リチウム複合化合物の結晶が成長するため、結晶の純度が高く、充放電容量が高いリチウム複合化合物を焼成できる。
【0068】
図2、
図3及び
図4は、雰囲気の酸素濃度と、焼成後に測定された炭酸リチウムの残留量及び焼成物の比表面積との関係を示す図である。
図2、
図3及び
図4は、3段の焼成を行ったとき、各段の焼成後に測定した、炭酸リチウム(Li
2CO
3)の残留量、水酸化リチウム(LiOH)の残留量、及び、焼成物のBET比表面積(SSA)の測定結果を、第1段目の焼成の雰囲気の酸素濃度に対してプロットしている。なお、水酸化リチウムは、リチウムと雰囲気中の水分との反応により生成し、正極作製時にPVDF等の結着剤を変性させてゲル化を生じ得る。水酸化リチウムの残留量は、リチウム複合化合物から水へのLi
+の溶出速度を間接的に示すため、結晶表面の健全性の指標となる。
【0069】
なお、
図2に示す第1段目の焼成は、熱処理温度を650℃、熱処理時間を10時間とし、酸素濃度を変化させて行っている。
図3に示す第2段目の焼成は、熱処理温度を755℃、熱処理時間を2時間とし、酸素濃度を約100%として行っている。
図4に示す第3段目の焼成は、熱処理温度を825℃、熱処理時間を2時間とし、酸素濃度を約100%として行っている。
【0070】
図2に示すように、第1段階の焼成では、雰囲気の酸素濃度が37%から50%の範囲で、酸素濃度に対する炭酸リチウムの残留量の顕著な変化が生じている。雰囲気の酸素濃度が約50%以下で炭酸リチウムの残留量が増えており、酸素濃度が約45%未満の範囲では残留量が顕著である。一方、雰囲気の酸素濃度が約50%以上の範囲では、酸素濃度に対する残留量の変化が小さくなっており、酸素濃度が約45%以上の範囲で残留量が抑制されている。但し、炭酸リチウムの減少に伴い、水酸化リチウムの残留量はやや増大している。
【0071】
図3に示すように、第2段階の焼成では、第1段目の雰囲気の酸素濃度が37%の場合に、酸素濃度が50%の場合と比較して炭酸リチウムの残留量が多くなっており、焼成物の比表面積が小さくなっている。一方、第1段目の雰囲気の酸素濃度が約45%以上の範囲では炭酸リチウムの残留量が抑制されており、焼成物の比表面積は大きく保たれている。
【0072】
図4に示すように、第3段階の焼成では、第1段目の雰囲気の酸素濃度にかかわらず、炭酸リチウムの残留量は概ね低減している。しかし、第1段目の雰囲気の酸素濃度が37%の場合に、焼成物の比表面積が顕著に小さくなっている。一方、第1段目の雰囲気の酸素濃度が約45%以上では、比表面積が概ね適正な範囲である。
【0073】
これらの結果が示すように、熱処理温度が低温側の段階、すなわち焼成の前期側の段階の酸素濃度が、必要な濃度で確保されていれば、以降の焼成の段階で炭酸リチウムの残留量が少なくなる。したがって、前期側の段階における酸素ガスの供給量を、必要最低限の酸素濃度に削減し、以降の焼成の段階における酸素ガスの供給量を、適切な範囲に削減すると、製造コストを抑制して、結晶の純度が高く、充放電容量が高いリチウム複合化合物を焼成することができる。
【0074】
さらに製造コストを抑制する為に酸素ガスの再利用を図る。即ち、焼成工程S20は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が高温に制御される段階の雰囲気から排出されたガスを、熱処理温度が低温に制御される段階の雰囲気に導入して焼成を行うようにしてもよい。上述のように熱処理温度が高温に制御される段階は、高い酸素濃度が要求される一方、熱処理温度が低温に制御される段階は、低い酸素濃度で足りる。また、高い酸素濃度が要求される高温側の段階からは、未反応の酸素が大量に排出される。そのため、熱処理温度が高温側の段階から排出されたガスを低温側の雰囲気に導入して再利用すると、酸素ガスの総供給量を削減しつつ、低温側の段階を低い酸素濃度に制御することができる。
【0075】
焼成工程S20が、熱処理温度が720℃未満に制御される段階と、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階と、熱処理温度が770℃以上に制御される段階と、を含む場合、熱処理温度が770℃以上に制御される段階の雰囲気から排出されたガスを、熱処理温度が720℃未満に制御される段階、及び、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階のうちの少なくとも一方の雰囲気に導入して焼成を行うことが好ましい。また、熱処理温度が770℃以上に制御される段階の雰囲気から排出されたガスと、熱処理温度が720℃以上、且つ、770℃未満に制御される段階の雰囲気から排出されたガスとを、熱処理温度が720℃未満に制御される段階の雰囲気に導入して焼成を行ってもよい。このようにガスを導入すると、熱処理時間の調整によって、低温側の段階に供給する酸素ガスの供給量を大幅に削減することができる。
【0076】
図5は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造に用いられる熱処理装置の構成を示す図である。
熱処理温度が高温に制御される段階から排出されたガスの利用は、
図5に示すような熱処理装置1を用いて行うことができる。熱処理装置1は、焼成炉10A,10Bと、酸素供給装置20A,20Bと、酸素流量調整バルブ24A,24Bと、熱交換器30Bと、冷却水流量調整バルブ34Bと、ブロア40と、流量センサ42と、移送流量調整バルブ44と、二酸化炭素除去装置(二酸化炭素除去手段)50と、乾燥装置60と、温度センサs1と、二酸化炭素センサs2と、を備えている。
【0077】
熱処理装置1は、互いに異なる熱処理温度に制御され、炭酸リチウムと前記式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物との混合を経て得られた前駆体を順次、段階的に焼成する複数(2段)の焼成炉10A,10Bを備えている。熱処理装置1においては、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温側の段階が、熱処理温度が相対的に低温に制御される焼成炉10Aで行われる。また、熱処理温度が高温側の段階が、熱処理温度が相対的に高温に制御される焼成炉10Bで行われる。
【0078】
焼成炉10A,10Bは、連続式及びバッチ式のいずれの熱処理炉で構成することもできる。焼成炉10A,10Bは、気流による炉内攪拌、及び、炉内雰囲気の調整が可能である限り、連続炉及び静置炉のいずれであってもよく、電気炉、マッフル炉、雰囲気炉、高周波炉等の適宜の方式であってよい。
【0079】
焼成炉10A,10Bとしては、具体的には、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネル炉、プッシャー炉、ベルト炉、バッチ炉等を用いることができる。焼成炉10Aには、被焼成物(混合物、前駆体等)が投入され、酸素ガスの気流下、中間焼成物が焼成される。そして、焼成炉10Bには、低温側で得られた中間焼成物が投入され、酸素ガスの気流下、焼成物(中間焼成物、リチウム複合化合物等)が焼成される。
【0080】
焼成炉10A,10Bは、炉内雰囲気に開口しており、炉内にガスを流入させるガス入口10aと、炉内雰囲気に開口しており、炉内のガスを炉外に排出するガス出口10bと、を有している。焼成炉10Bのガス出口10bは、ガス排気管220Bを介して系外に連通している。一方、焼成炉10Bのガス入口10aは、ガス供給管210Bを介して酸素供給装置20Bと接続されている。酸素供給装置20Bは、焼成炉10Bに高濃度の酸素ガスを供給し、ガス入口10aから導入された酸素ガスが、焼成炉10B内に気流を形成する。酸素供給装置20Bの下流には、酸素流量調整バルブ24Bが備えられており、焼成炉10Bに供給される酸素ガスの流量が制御されるようになっている。
【0081】
焼成炉10Aは、焼成炉10Bと同様に、酸素流量調整バルブ24Aを備えた酸素供給装置20Aから、ガス供給管210Aを通じて酸素ガスが供給されるようになっている。
【0082】
酸素供給装置20A,20Bは、
図5において、PSA(Pressure Swing Adsorption)式の酸素製造装置によって構成されている。酸素供給装置20A,20Bは、吸着塔に圧縮空気を導入することにより、窒素等の濃度が低減した高濃度の酸素ガス(酸素−窒素混合ガス)を生成する。そして、その酸素ガスを所定の吐出圧力に昇圧し、ガス供給管210A,210Bに供給する。酸素供給装置20A,20Bは、90%以上の酸素濃度を供給可能であることが好ましく、92%以上の酸素濃度を供給可能であることがより好ましい。酸素濃度が90%以上であれば、通常の性能の酸素製造装置で、必要な焼成炉内の酸素分圧を確保することができる。
【0083】
なお、酸素供給装置20A,20Bは、例えば、酸素ガスを貯留するガスタンク、ガスボンベ等や、VSA(Vacuum Swing Adsorption)式、PVSA(Pressure Vacuum Swing Adsorption)式、PTSA(Pressure Thermal Swing Adsorption)式、気体分離膜式等、その他の方式の酸素製造装置によって構成されてもよい。また、酸素供給装置20A,20Bから焼成炉10A,10Bに向けて酸素ガスを供給するブロア等を、ガス供給管210A,210B上に備えてもよい。
【0084】
また、酸素供給装置20A,20Bは、
図5において、焼成炉10A,10B毎に備えられており、2段の焼成炉10A,10Bは個々の酸素供給装置20A,20Bから酸素ガスを供給される構成とされている。しかしながら、このような構成に代えて、単一機の酸素供給装置を各焼成炉10A,10Bに接続してもよい。焼成炉10A,10Bのそれぞれに供給する酸素ガスの酸素濃度は、窒素等の不活性ガスを個別に混合することによって調整することができる。
【0085】
図5に示すように、ガス供給管210B及びガス排気管220Bの途中には、熱交換器30Bが備えられている。熱交換器30Bは、高熱側がガス排気管220Bに接続されており、低熱側がガス供給管210Bに接続されている。熱交換器30Bの高熱側の下流には、熱交換したガスの温度を測定する温度センサs1が設置されている。
【0086】
熱交換器30Bは、気体−気体で熱交換を行う静止型、回転型等の適宜の熱交換器で構成される。なお、熱交換器30Bは、
図5において、三流体で熱交換を行う構成とされており、ガス供給管210Bを通じて供給されるガスと、焼成炉10Bから排出されたガスに加えて、冷却水が供給されるようになっている。熱交換器30Bに供給される冷却水の流量は、温度センサs1による計測の下、冷却水流量調整バルブ34Bによって所定の流量に調整される。
【0087】
熱交換器30Bは、焼成炉10Bから排出されたガスと焼成炉10Bに供給されるガスとの間で熱交換を行い、焼成炉10Bから排出されたガスの排熱を利用して、焼成炉10Bに導入されるガスを加熱する。このような熱交換器30Bを備えることにより、ガスの導入に伴う焼成炉10B内の温度低下を、エネルギ効率良く抑制することができる。焼成炉10Bから排出されたガスと冷却水との間で熱交換を行うことにより、熱交換器30Bから排気されるガスを、ブロア40の耐熱温度以下まで強制的に冷却させることができる。
【0088】
図5に示すように、ガス排気管220Bの熱交換器30Bの下流には、ガス移送管230が接続している。ガス移送管230は、焼成炉10Bのガス出口10bと、焼成炉10Aのガス入口10aとの間を連通している。ガス移送管230の途中部には、ブロア40と、流量センサ42と、返送流量調整バルブ44と、二酸化炭素除去装置50と、乾燥装置60とが、この順に備えられている。ガス移送管230の他端は、ガス供給管210Aに接続している。
【0089】
焼成炉10Bから排出されたガスは、ブロア40の稼働によって、ガス移送管230を流れ、二酸化炭素除去装置50と乾燥装置60に送られた後、焼成炉10Aに導入される。焼成炉10Aに送られるガスの流量は、流量センサ42による計測の下、移送流量調整バルブ44によって所定の流量に調整されるようになっている。焼成炉10Bから排出されたガスは、未反応の酸素を大量に含んでいる。そのため、焼成炉10Bから排出されたガスは、酸素供給装置20Aから供給される酸素ガスと所定の流量比で混合された後、焼成炉10Aの炉内攪拌や炉内雰囲気の調整に再利用される。
【0090】
二酸化炭素除去装置50は、焼成炉から排出されたガスに含まれる二酸化炭素を除去する。焼成炉10Bから排出されたガスには、焼成中に炭酸リチウム等から脱離した二酸化炭素が混在している。二酸化炭素除去装置50が備えられていると、大量の二酸化炭素が焼成炉10Aに移送されるのが防止されるため、二酸化炭素が炭酸リチウムとニッケル化合物との反応を阻害したり、炭酸成分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれたりするのが抑制される。そのため、焼成炉10Bから排出されたガスを、高い混合比で焼成炉10Aに導入した場合にも、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を焼成することができる。
【0091】
二酸化炭素除去装置50は、
図5において、ガスをアルカリ性化合物の水溶液(アルカリ水溶液)に接触させて二酸化炭素を除去する化学吸収式の湿式洗浄装置とされている。焼成炉10Bから排出されたガスは、アルカリ性化合物の水溶液中に通され、アルカリ性化合物との中和反応によって二酸化炭素が捕捉される。このような形態であると、二酸化炭素を含むガスが焼成炉10Aに送られるのを、より確実に防止することができる。
【0092】
アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の各種の化合物を用いることができる。これらの中でも、コスト削減の観点、ニッケルを含む原料等から不純物として分離回収して利用できる点等から、水酸化ナトリウムが特に好ましい。なお、二酸化炭素除去装置50としては、化学吸収式の他、ポリエチレングリコール、エーテル等の溶液に二酸化炭素を吸収させる物理吸収式、ゼオライト等の吸着剤に二酸化炭素を吸着させる吸着式、膜分離の原理で二酸化炭素を分離する気体分離膜式等、その他の装置を用いることもできる。
【0093】
乾燥装置60は、二酸化炭素除去装置50から排出されたガスに含まれる水分を除去する。水溶液を使用する化学吸収式の二酸化炭素除去装置50を用いる場合や、原料として水酸化物等を用いる場合には、焼成炉10Bから排出されたガスに水分が含まれ得る。水分を含むガスが焼成炉10Aに導入されると、水分がリチウムと反応してアルカリ化合物を生成したり、水分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれたりする虞があり、電気化学的に不活性な異相が生成したり、電池を構成する電解液が劣化したりする。これに対し、乾燥装置60が備えられていると、水分が焼成炉10Aに移送されるのが防止される。そのため、焼成炉10Bから排出されたガスを、高い混合比で焼成炉10Aに導入した場合にも、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示し、電解液を劣化させ難いリチウム複合化合物を得ることができる。
【0094】
乾燥装置60としては、例えば、シリカゲル等の吸着剤に水分を吸着させる吸着式、ガスを低温に冷却して凝結水を分離する冷凍式、ガスを加熱して水分を蒸発させる加熱式、膜分離の原理で水分を分離する分離膜式等、適宜の装置を用いることができる。なお、水分が脱離しない原料を用いる場合や、二酸化炭素除去装置50として乾式の装置を用いる場合は、乾燥装置60の設置を省略してもよい。
【0095】
二酸化炭素センサs2は、ガス供給管210Aとガス移送管230との合流点よりも下流に設置されており、焼成炉10Aのガス入口10aにおける二酸化炭素濃度を検知するように配置されている。焼成炉10Bから排出され、二酸化炭素除去装置50で処理されたガスは、必要に応じて酸素ガスと混合された後に、二酸化炭素濃度が検知されるようになっている。二酸化炭素センサs2を設置し、二酸化炭素濃度が閾値を超えるときにブロア40を停止すると、除去されなかった二酸化炭素が焼成炉10Aに流入するのを防止できる。
【0096】
次に、熱処理装置1における焼成雰囲気の制御方法について説明する。
【0097】
熱処理装置1では、被焼成物を焼成炉10Aに投入し、熱処理温度が低温側の段階の焼成を行い、焼成炉10Aで得られた焼成物を焼成炉10Bに投入し、熱処理温度が高温側の段階の焼成を行う。はじめに、焼成炉10A,10Bには、酸素供給装置20A,20Bから酸素ガスを供給する。酸素ガスの流量は、焼成炉10A,10Bの種類、焼成炉10A,10Bの構造や形状、焼成炉10A,10Bに投入する前駆体の量等に応じて調整することができる。酸素ガスを供給することにより、炉内雰囲気を、酸素濃度が少なくとも45%以上となる範囲で、より高い酸素濃度の気流下に維持し、被焼成物を焼成する。そして、未反応の酸素や、炭酸リチウムから脱離した二酸化炭素を焼成炉10A,10B内から排気する。
【0098】
熱処理装置1では、酸素ガスを供給して焼成を行う間、供給する酸素ガスの酸素濃度や焼成炉10A,10Bの炉内雰囲気等に応じて、ブロア40を稼働させることができる。移送流量調整バルブ44を所定の開度にした状態でブロア40を稼働させることにより、焼成炉10Bから排出されたガスは、二酸化炭素除去装置50と乾燥装置60に送られて二酸化炭素や水分を除去された後、所定の流量比で酸素ガスと混合され、焼成炉10Aに導入される。
【0099】
熱処理装置1では、焼成炉10Bから排出されたガスを、二酸化炭素濃度を0.02%以下としてから、熱処理温度が低温に制御される焼成炉10Aの雰囲気に導入することが好ましい。二酸化炭素濃度が高いガスが導入されると、炭酸リチウムやニッケルの反応が阻害されたり、炭酸成分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれたりする虞がある。しかし、二酸化炭素濃度が0.02%以下に低減されていれば、結晶の純度が高く、充放電容量が高いリチウム複合化合物をより確実に焼成できる。
【0100】
以上の熱処理装置1の構成は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、いずれの段階に適用してもよい。例えば、3段の焼成を行う場合、3段目の焼成炉から排出されたガスを2段目に移送する構成としてもよいし、3段目の焼成炉から排出されたガスを1段目に移送する構成としてもよいし、2段目の焼成炉から排出されたガスを1段目に移送する構成としてもよい。また、熱処理温度が高温側の段階から、熱処理温度が低温側の段階に向けて、順次移送する構成としてもよい。
【0101】
なお、各ガスの目標濃度値は、大気圧下を前提として規定されているが、焼成炉10A,10Bの炉内雰囲気は、大気圧に制御してよい他、陽圧に制御してもよいし、負圧に制御してもよい。炉内雰囲気を陽圧に制御すると、焼成炉10A,10Bへの意図しないガスの流入や、排出されたガスの逆流を防止することができる。また、以上の熱処理装置1は、適用する焼成の段階数や、焼成の条件等に応じて、その構成を変えてもよい。例えば、排出されたガスに含まれる二酸化炭素の濃度が低い場合は、二酸化炭素除去装置50や乾燥装置60の設置を省略し、単にガス移送管230のみを通じてガスを移送する構成としてもよい。焼成炉10Bから排出されたガスの二酸化炭素濃度は、二酸化炭素濃度を二酸化炭素の除去により低減する二酸化炭素除去装置50に代えて、酸素ガス等との混合による希釈により低減してもよい。また、焼成の段階毎に、異なる方式や種類の熱処理炉を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
また、制御の対象となる酸素濃度や二酸化炭素濃度は、各段階毎に用いる焼成炉(10A,10B)の入口、例えば、焼成炉の入口や、焼成炉の入口側に接続するガスライン上で計測することができる。計測位置は、焼成炉毎に、一箇所設けてもよいし、複数箇所設けてもよい。或いは、一部の焼成炉では計測を行わず、ガスの流量や前駆体の量に基づいて予測・推定される濃度を制御の対象としてもよい。例えば、熱処理温度が高温側の焼成炉から排出されたガスを、熱処理温度が低温側の焼成炉に向けて供給する場合、高温側の焼成炉の出口における濃度と、低温側の焼成炉の入口における濃度とを、互いに同等であると見做し、いずれかにおける計測を省略することもできる。
【0103】
また、酸素濃度や二酸化炭素濃度の計測は、オンラインによって連続的に行ってもよいし、オンライン又はサンプリングによって間欠的に行ってもよい。酸素濃度や二酸化炭素濃度の計測には、一般に汎用されている各種の原理を利用した濃度計や、ガスセンサを用いることができる。酸素濃度や二酸化炭素濃度は、雰囲気中のガスを必要に応じて常温に冷却して、計測することができる。
【0104】
図1に示したように、焼成工程S20は、第1焼成工程S21と、第2焼成工程S22と、第3焼成工程S23と、を含む構成とすることができる。
図1に示す焼成工程S20は、熱処理温度が450℃以上の範囲に、結晶成長を伴う3段階の焼成工程(S21,S22,S23)を含んでいる。このような多段階の焼成は、ニッケルの含有率が60〜70%を超える正極活物質を焼成する場合等に、特に好適に用いられる。
【0105】
第1焼成工程S21は、炭酸リチウムと前記式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物との混合を経て得られた前駆体を450℃以上、且つ、720℃未満の熱処理温度で焼成して第1中間焼成物を得る工程である。第1焼成工程S21は、前駆体を酸化させると共に、炭酸リチウムの反応を開始し、二酸化炭素等の不純物を脱離させることを主な目的として行われる。
【0106】
第1焼成工程S21において、熱処理温度が450℃以上であれば、二酸化炭素等の不純物の脱離が始まるため、その後に多量の炭酸リチウム等が残留するのを防止することができる。そのため、以降の焼成時に炭酸リチウムが液相を形成し難くなり、結晶粒の粗大化が抑制されて、高い充放電容量を示す正極活物質が得られる。また、熱処理温度が720℃未満であれば、不純物の存在下、リチウム複合化合物の結晶が形成されるのが抑制されるため、高い充放電容量を示す正極活物質が得られる。
【0107】
第1焼成工程S21における熱処理温度は、550℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、650℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度がこのように高いほど、炭酸リチウムの反応がより促進し、炭酸リチウムの残留がより確実に防止される。特に、前記式(2)中、M2で表される元素としてマンガンを元素置換するとき、マンガンの係数1−x−y−zが0を超え、且つ、0.075未満の場合は、600℃以上とすることが好ましい。一方、マンガンの係数1−x−y−zが0.075以上の場合は、反応温度が下がるため、550℃以上とすればよい。
【0108】
第1焼成工程S21における熱処理温度は、720℃未満であることが好ましく、700℃以下であることがより好ましく、680℃以下であることが更に好ましい。熱処理温度がこのように低いほど、リチウム複合化合物の結晶の成長がより抑制されるため、不純物の存在下、リチウム複合化合物の結晶が形成されるのが抑制されて、正極活物質の充放電容量が高くなる。また、炭酸リチウムが溶融し難く、液相が形成され難くなるため、結晶粒の粗大化をより確実に抑制することができる。
【0109】
第1焼成工程S21における熱処理時間は、0.5時間以上、且つ、50時間以下とすることが好ましく、2時間以上、且つ、15時間以下とすることがより好ましい。熱処理時間がこの範囲であると、炭酸リチウムの反応が十分に進むため、多量の炭酸成分を確実に除去することができる。また、熱処理の所要時間が短縮されて、正極活物質の生産性が向上する。
【0110】
第1焼成工程S21は、酸素濃度が45%以上、75%以下、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%(200ppm)以下の雰囲気となるようにガスの気流下で行う。雰囲気の酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高いと、炭酸リチウムとニッケル化合物との反応が進まず、この工程において、多量の炭酸リチウムが残留してしまう。そのため、以降の焼成時に炭酸リチウムが液相を形成し、結晶粒が粗大化し易くなる。これに対し、酸素濃度が45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%以下の雰囲気であれば、リチウム複合化合物の比表面積が高くなり、高い充放電容量を示す正極活物質が得られる。
【0111】
第2焼成工程S22は、第1焼成工程S21で得られた第1中間焼成物を720℃以上、且つ、770℃未満の熱処理温度で焼成して第2中間焼成物を得る工程である。第2焼成工程S22は、炭酸リチウムとニッケルとの反応により、ニッケルを酸化させると共に、二酸化炭素を十分に脱離させることを主な目的として行われる。
【0112】
第2焼成工程S22において、熱処理温度が720℃以上であれば、炭酸リチウムの反応が進み、二酸化炭素が十分に脱離するため、焼成後に炭酸リチウムが残留するのを防止することができる。そのため、以降の焼成時に炭酸リチウムが液相を形成し難くなり、結晶粒の粗大化が抑制されて、高い充放電容量を示す正極活物質が得られる。また、炭酸成分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれるのが抑制されるため、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を得ることができる。また、熱処理温度が770℃未満であれば、二酸化炭素等の存在下、リチウム複合化合物の結晶が成長するのが抑制されるため、結晶の純度が高く、一次粒子の粗大化が抑制され、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を得ることができる。
【0113】
第2焼成工程S22における熱処理温度は、740℃以上であることが好ましい。熱処理温度がこのように高いほど、炭酸リチウムの反応がより促進し、二酸化炭素の残留がより確実に防止される。
【0114】
第2焼成工程S22における熱処理温度は、760℃以下であることが好ましい。熱処理温度がこのように低いほど、リチウム複合化合物の結晶の成長がより抑制されるため、二酸化炭素等の存在下、リチウム複合化合物の結晶が形成されるのが抑制されて、正極活物質の充放電容量が高くなる。
【0115】
第2焼成工程S22における熱処理時間は、0.5時間以上、且つ、15時間以下とすることが好ましい。熱処理時間がこの範囲であると、炭酸リチウムの反応が十分に進むため、二酸化炭素を確実に除去することができる。また、熱処理の所要時間が短縮されて、正極活物質の生産性が向上する。
【0116】
第2焼成工程S22は、酸素濃度が55%以上、85%以下、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%(200ppm)以下の雰囲気となるようにガスの気流下で行う。第2焼成工程S22における酸素濃度は、60%以上であることが好ましい。また、二酸化炭素濃度は、0.01%以下であることがより好ましい。
【0117】
第3焼成工程S23は、第2焼成工程S22で得られた第2中間焼成物を770℃以上、且つ、900℃以下の熱処理温度で焼成してリチウム複合化合物を得る工程である。第3焼成工程S23は、ニッケルを2価から3価へと十分に酸化させると共に、層状構造を有するリチウム複合化合物の結晶粒を適切な大きさまで粒成長させることを主な目的として行われる。
【0118】
第3焼成工程S23において、熱処理温度が770℃以上であれば、ニッケルを十分に酸化し、充放電容量が高いリチウム複合化合物を得ることができる。また、熱処理温度が900℃以下であれば、リチウムが揮発し難く、層状構造を有するリチウム複合化合物の分解が抑制されるため、焼成後に得られる結晶の純度が低くなるのを避けることができる。
【0119】
第3焼成工程S23における熱処理温度は、800℃以上であることが好ましく、820℃以上であることがより好ましく、840℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度がこのように高いほど、ニッケルがより確実に酸化されるし、リチウム複合化合物の粒成長を促進させることができる。
【0120】
第3焼成工程S23における熱処理温度は、890℃以下であることが好ましい。熱処理温度がこのように低いほど、リチウムがより揮発し難くなるため、層状構造を有するリチウム複合化合物の分解をより確実に防止することができる。
【0121】
第3焼成工程S23における熱処理時間は、0.5時間以上、且つ、15時間以下とすることが好ましい。熱処理時間がこの範囲であると、ニッケルを十分に酸化して、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を得ることができる。また、熱処理の所要時間が短縮されて、正極活物質の生産性が向上する。
【0122】
第3焼成工程S23は、酸素濃度が80%以上、100%以下、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%(200ppm)以下の雰囲気となるようにガスの気流下で行う。第3焼成工程S23における酸素濃度は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、二酸化炭素濃度は、0.01%以下であることがより好ましい。
【0123】
以上の製造方法によると、第1焼成工程の熱処理時間等を調節することにより、炭酸リチウム等の原料から脱離する二酸化炭素等の不純物の大半を、酸素を節約しつつ、雰囲気から排除することができる。また、第2焼成工程や第3焼成工程の条件を調節することにより、熱処理時間を短縮して酸素を節約しながら、リチウム複合化合物の結晶の生成や粒成長を効率よく進めることができる。よって、製造コストを抑制しながら焼成を行って、結晶の純度が高く、充放電容量が高いリチウムイオン二次電池用正極活物質を製造することができる。
【0124】
[リチウムイオン二次電池]
次に、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
【0125】
図6は、リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。
図6に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101の内部に収容された捲回電極群110と、電池缶101の上部の開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。
【0126】
電池缶101及び電池蓋102は、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料によって形成される。正極111は、正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。また、負極112は、負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bと、を備えている。
【0127】
正極集電体111aは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、15μm以上、且つ、25μm以下程度の厚さにすることができる。正極合剤層111bは、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含んでなる。正極合剤層111bは、例えば、正極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した正極合剤によって形成される。
【0128】
負極集電体112aは、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、7μm以上、且つ、10μm以下程度の厚さにすることができる。負極合剤層112bは、リチウムイオン二次電池用負極活物質を含んでなる。負極合剤層112bは、例えば、負極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した負極合剤によって形成される。
【0129】
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。負極活物質の具体例としては、天然黒鉛、石油コークス、ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、黒鉛の表面に非晶質炭素を被覆したもの、天然黒鉛又は人造黒鉛の表面を機械的処理することにより表面の結晶性を低下させた炭素材、高分子等の有機物を炭素表面に被覆・吸着させた材料、炭素繊維、リチウム金属、リチウムとアルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等との合金、シリコン粒子又は炭素粒子の表面に金属を担持した材料、スズ、ケイ素、リチウム、チタン等の酸化物等が挙げられる。担持させる金属としては、例えば、リチウム、アルミニウム、スズ、インジウム、ガリウム、マグネシウム、これらの合金等が挙げられる。
【0130】
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。導電材の具体例としては、黒鉛、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系等の炭素繊維が挙げられる。これらの導電材は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。導電材の量は、例えば、合剤全体に対して、3質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
【0131】
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。結着剤の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、変性ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらの結着剤は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。また、カルボキシメチルセルロース等の増粘性の結着剤を併用してもよい。結着剤の量は、例えば、合剤全体に対して、2質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
【0132】
正極111や負極112は、例えば、一般的なリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に準じて製造することができる。例えば、活物質と、導電材、結着剤等とを溶媒中で混合して電極合剤を調製する合剤調製工程と、調製された電極合剤を集電体等の基材上に塗布した後、乾燥させて電極合剤層を形成する合剤塗工工程と、電極合剤層を加圧成形する成形工程と、を経て製造することができる。
【0133】
合剤調製工程では、材料を混合する混合手段として、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等の適宜の混合装置を用いることができる。溶媒としては、結着剤の種類に応じて、例えば、N−メチルピロリドン、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
【0134】
合剤塗工工程では、調製されたスラリー状の電極合剤を塗布する手段として、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等の適宜の塗布装置を用いることができる。塗布された電極合剤を乾燥する手段としては、例えば、熱風加熱装置、輻射加熱装置等の適宜の乾燥装置を用いることができる。
【0135】
成形工程では、電極合剤層を加圧成形する手段として、例えば、ロールプレス等の適宜の加圧装置を用いることができる。正極合剤層111bについては、例えば、100μm以上、且つ、300μm以下程度の厚さにすることができる。また、負極合剤層112bについては、例えば、20μm以上、且つ、150μm以下程度の厚さにすることができる。加圧成形した電極合剤層は、必要に応じて正極集電体と共に裁断して、所望の形状のリチウムイオン二次電池用電極とすることができる。
【0136】
図6に示すように、捲回電極群110は、帯状の正極111と負極112とをセパレータ113を挟んで捲回することにより形成される。捲回電極群110は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等で形成された軸心に捲回されて、電池缶101の内部に収容される。
【0137】
セパレータ113としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂等の微多孔質フィルムや、このような微多孔質フィルムの表面にアルミナ粒子等の耐熱性物質を被覆したフィルム等を用いることができる。
【0138】
図6に示すように、正極集電体111aは、正極リード片103を介して電池蓋102と電気的に接続される。一方、負極集電体112aは、負極リード片104を介して電池缶101の底部と電気的に接続される。捲回電極群110と電池蓋102との間、及び、捲回電極群110と電池缶101の底部との間には、短絡を防止する絶縁板105が配置される。正極リード片103及び負極リード片104は、それぞれ正極集電体111aや負極集電体112aと同様の材料で形成され、正極集電体111a及び負極集電体112aのそれぞれにスポット溶接、超音波圧接等によって接合される。
【0139】
電池缶101は、内部に非水電解液が注入される。非水電解液の注入方法は、電池蓋102を開放した状態で直接注入する方法であってもよいし、電池蓋102を閉鎖した状態で電池蓋102に設けた注入口から注入する方法等であってもよい。また、電池缶101は、電池蓋102がかしめ等によって固定されて封止される。電池缶101と電池蓋102との間には、絶縁性を有する樹脂材料からなるシール材106が挟まれ、電池缶101と電池蓋102とが互いに電気的に絶縁される。
【0140】
非水電解液は、電解質と、非水溶媒と、を含んで組成される。電解質としては、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4等の各種のリチウム塩を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、メチルアセテート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カルボン酸エステルや、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステルや、エーテル類等を用いることができる。電解質の濃度は、例えば、0.6M以上、且つ、1.8M以下とすることができる。
【0141】
非水電解液は、電解液の酸化分解、還元分解の抑制や、金属元素の析出防止や、イオン伝導性の向上や、難燃性の向上等を目的として、各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、リン酸トリメチル、亜リン酸トリメチル等の有機リン化合物や、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンサルトン等の有機硫黄化合物や、ポリアジピン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の無水カルボン酸類、ホウ酸トリメチル、リチウムビスオキサレートボレート等のホウ素化合物等が挙げられる。
【0142】
以上の構成を有するリチウムイオン二次電池100は、電池蓋102を正極外部端子、電池缶101の底部を負極外部端子として、外部から供給された電力を捲回電極群110に蓄電することができる。また、捲回電極群110に蓄電されている電力を外部の装置等に供給することができる。なお、このリチウムイオン二次電池100は、円筒形の形態とされているが、リチウム二次電池の形状は特に限定されず、例えば、角形、ボタン形、ラミネートシート形等の適宜の形状であってもよい。
【0143】
リチウムイオン二次電池100は、例えば、携帯電子機器、家庭用電気機器等の小型電源や、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源や、船舶、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源等、各種の用途に使用することができる。
【実施例】
【0144】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0145】
[製造法1:試料1〜8]
焼成の各段階の雰囲気から排出されたガスを再利用しない製造方法により、正極活物質を製造した。焼成は3段階とし、各段階の雰囲気の酸素濃度を変更して、試料1〜8に係る正極活物質を製造した。
【0146】
リチウム複合化合物の合成は、次の手順で行った。はじめに、出発原料として、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト及び炭酸マンガンを用意した。次に、各原料を、原子比でLi:Ni:Co:Mnが、1.04:0.80:0.10:0.10となるように秤量し、粉砕機で粉砕すると共に湿式混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをスプレードライヤで造粒乾燥させて混合粉とした(混合工程)。
【0147】
続いて、混合粉300gを、縦300mm、横300mm、高さ100mmのアルミナ容器に充填し、連続搬送炉を用いて焼成してリチウム複合化合物の焼成粉を得た(焼成工程)。具体的には、出発原料を造粒乾燥した混合粉を、大気中、350℃で2時間にわたって熱処理して焼成の前駆体を得た(前熱処理工程)。次いで、熱処理により脱水された焼成の前駆体を、酸素気流中、650℃で10時間にわたって熱処理して第1中間焼成物(前駆体1)を得た(第1焼成工程)。そして、第1中間焼成物を、酸素気流中、755℃で2時間にわたって熱処理して第2中間焼成物(前駆体2)を得た(第2焼成工程)。その後、第2中間焼成物を、酸素気流中、820℃で2時間にわたって熱処理してリチウム複合化合物(焼成粉)を得た(第3焼成工程)。尚、雰囲気の酸素濃度は表1に示す。得られた焼成粉は、目開き53μm以下に分級した後、正極活物質として以降の測定に供した。
【0148】
図7は、製造法1における焼成工程の概要を示す模式図である。
図7に示すように、製造法1では、各段階の連続搬送炉に所定の酸素濃度の酸素−窒素混合ガスを供給し、各段階の雰囲気から排出されるガスを、再利用すること無く、全て系外に排気した。なお、全連続搬送炉の雰囲気の圧力は、ゲージ圧で約10Paの微陽圧に制御した。
【0149】
なお、製造法1において、酸素濃度の制御は、以下のようにして実施した。各段階の連続搬送炉の上流に、流量計を備えた酸素ガス供給系統と、流量計を備えた窒素ガス供給系統とを設けた。また、酸素ガスと窒素ガスとを混合した後のライン上に、ジルコニア式酸素濃度計(LC−860、東レエンジニアリング社製)を設けた。各段階の連続搬送炉には、各流量計によってオンラインで計測しながら、所定の流量比となるように流量を制御した酸素ガス及び窒素ガスを供給した。そして、酸素ガスと窒素ガスとを混合した後のライン上で、各段階の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が、表1の酸素濃度であることを確認した。各連続搬送炉における焼成中には、所定の時間間隔で炉内の酸素−窒素混合ガスを、所定の時間間隔でサンプリングして、表1の酸素濃度であることを確認した。
【0150】
[製造法2:試料9]
互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階を、高温に制御される段階よりも低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行う製造方法により、正極活物質を製造した。焼成は3段階とし、3段目の連続搬送炉から排出されたガスを1段目に移送する構成として、試料9に係る正極活物質を製造した。なお、製造条件は製造法1と同様にした。
【0151】
図8は、製造法2における焼成工程の概要を示す模式図である。
図8に示すように、製造法2では、3段目の連続搬送炉に、酸素濃度が90%の酸素−窒素混合ガスを供給し、3段目の連続搬送炉から排出されたガスを昇圧した後、所定の濃度の酸素−窒素混合ガスと混合し、1段目の連続搬送炉に導入した。なお、全連続搬送炉の雰囲気の圧力は、ゲージ圧で約10Paの微陽圧に制御した。
【0152】
3段目の連続搬送炉から排出されたガスの酸素濃度は88%、二酸化炭素濃度は110ppmであった。2段目の連続搬送炉には、酸素濃度が60%の酸素−窒素混合ガスを供給した。1段目の連続搬送炉には、酸素濃度が50%、二酸化炭素濃度は40ppmのガスが導入された。
【0153】
なお、製造法2において、酸素濃度及び二酸化炭素濃度の制御は、以下のようにして実施した。各段階の連続搬送炉の上流に、流量計を備えた酸素ガス供給系統と、流量計を備えた窒素ガス供給系統とを設けた。また、3段目の連続搬送炉の入口側と出口側、2段目の連続搬送炉の入口側、1段目の連続搬送炉の入口側に、それぞれ、ジルコニア式酸素濃度計(LC−860、東レエンジニアリング社製)と、赤外吸収法を利用した二酸化炭素濃度計(VA−3000、堀場製作所社製)とを設けた。3段目の連続搬送炉と2段目の連続搬送炉には、それぞれ、各流量計によってオンラインで計測しながら、所定の流量比となるように流量を制御した酸素ガス及び窒素ガスを供給した。そして、3段目の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が、表1の酸素濃度(90%)であることを確認した。また、2段目の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が、表1の酸素濃度(60%)であることを確認した。
【0154】
また、1段目の連続搬送炉には、はじめに、個別に設けた供給ラインから、流量を制御した酸素ガス及び窒素ガスを供給した。このガスの流量は、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量が、1段目の連続搬送炉の最低流量となるように制御した。そして、このように制御した状態で、3段目の連続搬送炉の出口側で、3段目の連続搬送炉から排出されるガスの酸素濃度及び二酸化炭素濃度をオンラインで計測し、3段目の連続搬送炉から排出されたガスを1段目の連続搬送炉に向けて供給した。このとき、1段目の連続搬送炉に個別に設けた供給ラインからは、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの酸素濃度が所定の濃度となり、且つ、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量が一定になるように流量を制御して、酸素ガス及び窒素ガスを供給した。
【0155】
試料9の製造時においては、1段目の連続搬送炉に個別に設けた供給ラインから酸素濃度28%の酸素−窒素混合ガスを供給すると、1段目の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が50%になった。試料9の製造時には、1段目の連続搬送炉の入口側における二酸化炭素濃度が100ppmを超えることはなかったが、100ppmを超えた場合は、1段目の連続搬送炉に供給するガスの総流量を高くすることで、二酸化炭素濃度を下げることになる。二酸化炭素濃度を下げるために1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量を高くした場合、1段目の連続搬送炉における酸素濃度については、1段目の連続搬送炉に個別に設けた供給ラインから供給する酸素ガスの流量で制御することになる。
【0156】
[製造法3:試料10]
互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階を、高温に制御される段階よりも低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行う製造方法により、正極活物質を製造した。焼成は3段階とし、3段目の連続搬送炉から排出されたガスと2段目の連続搬送炉から排出されたガスとを合流させてから1段目に移送する構成として、試料10に係る正極活物質を製造した。なお、製造条件は製造法1と同様にした。
【0157】
図9は、製造法3における焼成工程の概要を示す模式図である。
図9に示すように、製造法3では、3段目の連続搬送炉に、酸素濃度が90%の酸素−窒素混合ガスを供給した。また、2段目の連続搬送炉には、酸素濃度が60%の酸素−窒素混合ガスを供給し、2段目の連続搬送炉から排出されたガスを昇圧した後、供給されるガスと熱交換し、その後、二酸化炭素と水分を除去した。そして、3段目の連続搬送炉から排出されたガスと酸素−窒素混合ガスに合流させて混合し、1段目の連続搬送炉に導入した。
【0158】
なお、熱交換は、排出されたガスの排熱を利用して、供給されるガスを300℃まで予熱した。また、二酸化炭素の除去には、アルカリ性化合物の水溶液に接触させて二酸化炭素を除去する湿式洗浄装置を使用し、12質量%の水酸化ナトリウムの水溶液を使用した。また、水分の除去には、エアドライヤを使用した。全連続搬送炉の雰囲気の圧力は、ゲージ圧で約10Paの微陽圧に制御した。
【0159】
3段目の連続搬送炉から排出されたガスの酸素濃度は88%、二酸化炭素濃度は110ppmであった。また、2段目の連続搬送炉から排出されたガスの酸素濃度は57%、二酸化炭素濃度は1000ppmであった。酸素を低減した酸素−窒素混合ガスと、3段目と2段目の排出ガスとを混合した結果、1段目の連続搬送炉には、酸素濃度が50%、二酸化炭素濃度は80ppmのガスが導入された。
【0160】
なお、製造法3において、酸素濃度及び二酸化炭素濃度の制御は、以下のようにして実施した。各段階の連続搬送炉の上流に、流量計を備えた酸素ガス供給系統と、流量計を備えた窒素ガス供給系統とを設けた。また、3段目の連続搬送炉の入口側と出口側、2段目の連続搬送炉の入口側と出口側、1段目の連続搬送炉の入口側に、それぞれ、ジルコニア式酸素濃度計(LC−860、東レエンジニアリング社製)と、赤外吸収法を利用した二酸化炭素濃度計(VA−3000、堀場製作所社製)とを設けた。3段目の連続搬送炉と2段目の連続搬送炉には、それぞれ、各流量計によってオンラインで計測しながら、所定の流量比となるように流量を制御した酸素ガス及び窒素ガスを供給した。そして、3段目の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が、表1の酸素濃度(90%)であることを確認した。また、2段目の連続搬送炉の入口側における酸素濃度が、表1の酸素濃度(60%)であることを確認した。
【0161】
また、1段目の連続搬送炉には、はじめに、個別に設けた供給ラインから、流量を制御した酸素ガス及び窒素ガスを供給した。このガスの流量は、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量が、1段目の連続搬送炉の最低流量となるように制御した。そして、このように制御した状態で、3段目の連続搬送炉の出口側で、3段目の連続搬送炉から排出されるガスの酸素濃度及び二酸化炭素濃度をオンラインで計測し、3段目の連続搬送炉から排出されたガスを1段目の連続搬送炉に向けて供給した。また、2段目の連続搬送炉の出口側で、2段目の連続搬送炉から排出されるガスの酸素濃度及び二酸化炭素濃度をオンラインで計測し、2段目の連続搬送炉から排出されたガスを1段目の連続搬送炉に向けて供給した。このとき、1段目の連続搬送炉に個別に設けた供給ラインからは、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの酸素濃度が所定の濃度となり、且つ、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量が一定になるように流量を制御して、酸素ガス及び窒素ガスを供給した。
【0162】
試料10の製造時においては、2段目の連続搬送炉の入口側と出口側との間で熱交換を行うと共に、2段目の連続搬送炉の出口側で二酸化炭素除去及び水分除去を行った。試料10の製造時には、1段目の連続搬送炉に供給されるガスの二酸化炭素濃度が100ppmを超えることはなかったが、100ppmを超えた場合は、1段目の連続搬送炉に供給するガスの総流量を高くすることで、二酸化炭素濃度を下げることになる。二酸化炭素濃度を下げるために1段目の連続搬送炉に供給されるガスの総流量を高くした場合、1段目の連続搬送炉における酸素濃度については、1段目の連続搬送炉に個別に設けた供給ラインから供給する酸素ガスの流量で制御することになる。
【0163】
[正極活物質の比表面積]
作製した試料1〜10に係る正極活物質の比表面積を測定した。比表面積は、自動比表面積測定装置「BELCAT」(日本ベル社製)を用いて、BET法により求めた。
【0164】
[正極活物質の放電容量]
作製した試料1〜10に係る正極活物質を正極の材料として用いて、リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製し、放電容量を測定した。
【0165】
はじめに、正極活物質と、結着剤と、導電材とを混合し、正極合剤スラリーを調製した。そして、調製した正極合剤スラリーを、厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、120℃で乾燥させた後、電極密度が2.6g/cm
3となるようにプレスで圧縮成形し、直径15mmの円盤状に打ち抜いて正極を作製した。また、負極活物質として金属リチウムを用いて負極を作製した。
【0166】
続いて、作製した正極と負極を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液としては、体積比が3:7となるようにエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを混合した溶媒に、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF
6を溶解させた溶液を用いた。
【0167】
試料1〜10に係る正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池のそれぞれについて、以下の条件で充放電を行い、放電容量を測定した。充電は、充電電流を0.2CAとして、充電終止電圧4.2Vまで定電流、定電圧で行い、放電は、放電電流を0.2CAとして、放電終止電圧2.5Vまで定電流で行って放電容量を測定した。尚、比較例については*を付した。
【0168】
次の表1に、試料1〜10の製造法、各段階で制御した雰囲気の酸素濃度、比表面積、放電容量を示す。また、焼成に際して削減された酸素量の度合い(省酸素度)を、試料7に対する相対評価で示す。全段階を合計して30%以上の酸素量が削減された場合を「◎」の評価、10%以上30%未満の酸素量が削減された場合を「○」の評価、10%未満の酸素量が削減された場合を「△」の評価とした。
【0169】
【表1】
【0170】
表1に示すように、試料1〜3は、いずれかの焼成の段階の酸素濃度を低く制御しているが、全段階の酸素濃度を100%に制御した試料7と同等の放電容量が得られた。一方、試料4〜6は、焼成の段階の酸素濃度を更に低くしたため、比表面積が小さくなり、放電容量も低下した。焼成の各段階の熱処理温度に応じて、必要な酸素分圧を確保できず、炭酸リチウムの残留によりリチウム複合化合物の結晶が粗大化すると共に、結晶の純度も低下したことによると考えられる。
【0171】
試料8は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階ほど、低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行っているため、試料7と同等の放電容量が得られた。また、焼成工程の全体で消費された酸素量は、製造例1で全ての連続搬送炉に酸素濃度が100%の酸素ガスを供給した場合(試料7)に対して、約57%に低減した。
【0172】
試料9は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階ほど、低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行っているため、試料7と同等の放電容量が得られた。また、3段目の雰囲気から排出されたガスを1段目に移送する構成としているため、焼成工程の全体で消費された酸素量は、試料7に対して、約47%に低減した。
【0173】
試料10は、互いに異なる熱処理温度に制御される2以上の段階のうち、熱処理温度が低温に制御される段階ほど、低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行っているため、試料7と同等の放電容量が得られた。また、3段目の雰囲気から排出されたガスと、2段目の雰囲気から排出されたガスとを、1段目に移送する構成としているため、焼成工程の全体で消費された酸素量は、試料7に対して、約39%に低減した。
【0174】
尚、上記の製造法では、3段階の焼成を実施しているが、4段階、又は、それ以上の段階があってもよく、この場合でも低温に制御される段階を高温に制御される段階よりも低い酸素濃度の雰囲気に制御して焼成を行う。また、各段階の熱処理において繰り返し複数回の熱処理を行うこともできる。例えば、第2焼成工程は、ニッケルを酸化させると共に、二酸化炭素を十分に脱離させる為には、この熱処理を複数回繰り返すことが有効である。