(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853092
(24)【登録日】2021年3月15日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】超音波送信器
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20210322BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
H04R17/00 331
H04R17/00 330A
H04R3/00 330
H04R17/00 330H
H04R3/00 310
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-67810(P2017-67810)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170687(P2018-170687A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2020年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
(72)【発明者】
【氏名】瀬志本 明
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宗
【審査官】
大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−065308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電材及びこの圧電材に接続された少なくとも2つの電極を有し超音波領域で振動する超音波共振器と、上記電極に超音波励起信号を印加する駆動回路とを含んでなる超音波送信器において、
上記電極への超音波励起信号を遮断すると略同時又はその前後に、可変抵抗素子による電気的負荷を上記電極間に接続し、上記可変抵抗素子の導通抵抗を制御信号により変化させることにより、超音波励起信号遮断後の残響振動を抑制することを特徴とする超音波送信器。
【請求項2】
上記電気的負荷を、上記超音波共振器の共振状態での等価直列抵抗と反共振状態での等価並列抵抗の略相乗平均となる最適負荷に設定することを特徴とする請求項1記載の超音波送信器。
【請求項3】
上記超音波励起信号遮断後に、上記可変抵抗素子による電気的負荷を経過時間と共に、上記最適負荷に至るまで徐々に増大させることを特徴とする請求項2記載の超音波送信器。
【請求項4】
上記超音波励起信号遮断前から遮断を挟んで、上記可変抵抗素子による電気的負荷を経過時間と共に、上記最適負荷に至るまで徐々に増大させることを特徴とする請求項2記載の超音波送信器。
【請求項5】
超音波の送信に基づき物体からの反射波を受信する超音波センサの送信器として用い、
至近距離から高い空間分解能で物体を検出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の超音波送信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波送信器、特に超音波センサ等に使用され、残響を抑制する超音波送信器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の障害物検知装置や各種の超音波診断装置等に、超音波センサが広く使われており、この超音波センサは、超音波を空気、液体又は固体の伝送媒体中に送信し、媒体と音響的特性の異なる物体からの超音波反射を受信することにより物体を検知する。この種の超音波センサでは、圧電効果を利用した超音波送信器が一般的に使用されるが、この超音波送信器は、例えば圧電材(圧電体)と、この圧電材を挟む2つの電極と、この電極に超音波励起信号を印加する駆動回路を備え、逆圧電効果によって電気励起信号を音響振動、即ち超音波に変換する。
【0003】
機械的振動の一種である音響振動は、圧電材や電極の形状によって決まる共振周波数を有し、この共振周波数で励振することにより効率的に超音波を発生させることができる。入力された電気エネルギーは、圧電材の機械的振動エネルギーとして変換・蓄積されるが、超音波励起信号を遮断した後も、蓄積された機械的振動エネルギーが消費されるまで圧電材の機械的振動は継続し、超音波を送信し続けており、これが残響と呼ばれるものとなる。
従って、超音波センサでは、上記の残響の分だけ送信超音波のパルス幅は広くなり、このため至近距離の物体の検出が困難になったり、検出位置の精度が悪くなったりする。
【0004】
従来では、超音波センサの性能に悪影響を与える残響をできるだけ短くするため、例えば特許文献1に開示されているように、残響振動を位相反転させて電極に印加し、残響振動をアクティブにキャンセルする手法が提案されている。
【0005】
図10に、上記の手法を用いる超音波送信器の構成が示されており、
図10において、符号の1は圧電体、2a,2bは電気励起信号を入力する電極、3は電極2a,2bから絶縁された第3の電極、4は励起信号源(駆動回路)、5は反転増幅器、6はスイッチである。この超音波送信器によれば、制御信号50に基づくスイッチ6により励起信号源4を接続すると、超音波励起信号が電極2a,2bから圧電体1に入力され、超音波が出力される。一方、スイッチ6により超音波励起信号を遮断すると、圧電体1の残響振動(圧電効果によって励起された電気信号)が第3の電極3から検出され、この信号が反転増幅器5で位相反転増幅された後、スイッチ6を介して電極2a,2bから圧電体1に印加される。この結果、超音波送信時の残響振動を低減することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−4916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した超音波送信器の残響抑制の手法では、
図10の第3の電極3の設置や検出のための反転増幅器5等の新たな電子回路等が必要となり、超音波送信器の構造・構成が複雑化する。また、エネルギー的には、超音波共振器に蓄積された機械的振動エネルギーを反転増幅器5で吸収・消費する構成となっている。圧電体(共振器)1のQ値を20とし、残響を1周期内に収めようとすると、反転増幅器5には励起信号源4の約20倍の電力を取り扱える能力が必要となり、装置的にも大きなものになる。結果として従来の手法は、超音波送信器の大型化及びコスト増をもたらすという不都合がある。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で残響を抑制し、小型で経済的な装置とすることができ、また超音波センサにおいては至近距離から高い空間分解能で物体を検出することが可能となる超音波送信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、圧電材及びこの圧電材に接続された少なくとも2つの電極を有し超音波領域で振動する超音波共振器と、上記電極に超音波励起信号を印加する駆動回路とを含んでなる超音波送信器において、上記電極への超音波励起信号を遮断すると略同時又はその前後に、
可変抵抗素子による電気的負荷を上記電極間に接続し、
上記可変抵抗素子の導通抵抗を制御信号により変化させることにより、超音波励起信号遮断後の残響振動を抑制することを特徴とする。
請求項2の発明は
、上記電気的負荷を、上記超音波共振器の共振状態での等価直列抵抗と反共振状態での等価並列抵抗の略相乗平均となる最適負荷に設定することを特徴とする。
【0010】
請求項
3の発明は、上記超音波励起信号遮断後に、
上記可変抵抗素子による電気的負荷を経過時間と共に、上記最適負荷に至るまで徐々に増大させることを特徴とする。
請求項
4の発明は、上記超音波励起信号遮断前から遮断を挟んで、
上記可変抵抗素子による電気的負荷を経過時間と共に、上記最適負荷に至るまで徐々に増大させることを特徴とする。
請求項
5の発明は、超音波の送信に基づき物体からの反射波を受信する超音波センサの送信器として用い、至近距離から高い空間分解能で物体を検出することを特徴とする。
【0011】
以上の構成によれば、圧電材に与えられる超音波励起信号(駆動信号)を遮断すると同時に電気的負荷(負荷抵抗)を信号入力電極間に接続することにより、圧電材(圧電体)からなる共振器内に蓄積された超音波振動エネルギーを電気エネルギーとして消費させることになり、これによって残響が抑制される。上記の電気的負荷は、超音波励起信号遮断の前又は後に接続してもよい。
圧電材からなる超音波共振器は、通常使用する共振周波数の少し高周波側に反共振周波数を有し、共振周波数では共振器のインピーダンスの絶対値が概ね極小、逆に反共振周波数ではインピーダンスの絶対値が概ね極大となる。そのため、超音波共振器を短絡すると、共振周波数での振動が継続する残響を生じ、開放すると反共振周波数での振動が継続する残響を生じる。このような残響を抑制するためには、振動エネルギーを効率的に吸収すること、ある意味で整合した最適の負荷抵抗を接続することが必要である。本発明では、選択された最適の負荷抵抗を適宜適用すれば、残響をぎりぎりまで抑制することが可能となり、その最適の負荷抵抗は、超音波共振器の構造が決まれば概ね決定できるものである。従って、この超音波共振器の内部状態を実時間で検出して負荷抵抗の値を変えるという、所謂帰還制御といった複雑な構成をとる必要はなく、簡単な制御系で実現することができる。
【0012】
一方、超音波センサでは超音波を送信する超音波共振器と受信する超音波共振器を同一の素子とすることも行われており、この場合は、超音波を送信している残響時間の間は受信回路に切り替えることができない。物体からの反射波の到達時間は、超音波センサからの距離が短くなる程、短くなるため、物体の検出の最小距離は、残響を抑制し超音波のパルス幅を短くすることにより改善される。また、パルス幅が短い分だけ空間分解能も良くなる。従って、残響の抑制された超音波送信器を超音波センサに適用すれば、至近距離から高い位置検出精度で物体を検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば
、制御信号により導通抵抗が変化する可変抵抗素子といった簡易な構成で残響を抑制し、小型で経済的な超音波送信器とすることができる。
また、超音波センサの送信に使用することで、至近距離から高い空間分解能で物体を検出することが可能になるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
参考となる第1実施例の超音波送信器の構成を示す回路図である。
【
図2】
参考となる第2実施例の超音波送信器の構成を示す回路図である。
【
図3】
本発明に係る第3実施例の超音波送信器の構成を示す回路図である。
【
図4】超音波共振器の等価回路を示す図[図(A)]と仮定の回路定数を示す表[図(B)]である。
【
図5】超音波共振器のQ値の負荷抵抗依存性を計算した結果を示すグラフ図である。
【
図7】第3実施例での動作の一例を示す可変負荷抵抗の時間変化の図である。
【
図8】第3実施例での動作の他の例を示す可変負荷抵抗の時間変化の図である。
【
図9】超音波センサに適用した場合の超音波送信及び受信の信号を示す図である。
【
図10】従来の超音波送信器の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、
参考の第1実施例の超音波送信器の回路が示されており、
図1に示されるように、圧電材1(圧電体)と電極2a,2bにより超音波共振器が構成され、圧電材1を挟む電極2a,2bにはスイッチ6の切替えによって超音波励起信号源(駆動回路)4と抵抗素子7のいずれか一方が接続される。
【0016】
一般に、圧電材1の材料として、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(Al
1−xSc
xN)、酸化亜鉛(AnO)及びチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が知られているが、これ以外の圧電材料であってもよい。圧電材1の形状としては、平らな板状、シリコン(Si)等の基板上に作製した薄膜、或いは棒状のものであってもよい。上記電極2a,2bは、圧電材1を上下又は左右に挟むものでも、同一平面上にあるものでもよく、この電極2a,2bの材料としては、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、白金(Pt)等の金属が用いられるが、ある程度の導電性を示すものであればよい。超音波共振器は、圧電材1の物性値や電極2a,2bを含む形状により決まるある特定の周波数で共振する。実施例では、その共振周波数を可聴周波数の上限(20kHz)より高周波にし、概ね30kHzから数100MHzの間で、検知したい対象や用途によって種々の周波数を使用している。
【0017】
このような構成によれば、スイッチ6(端子c側)で所定の共振周波数を持つ励起信号源4を接続し、超音波共振器の圧電材1に電極2a,2bから電圧を印加すると、逆圧電効果によって圧電材1が所定の周波数で振動し、超音波パルスが発生する。このとき、超音波送信器と超音波伝送媒体との間には、音響的整合材料を挟み、圧電材1の振動を、媒体を伝送する超音波に効率的に変換することになる。なお、超音波の振動は、印加した電界と平衡方向に伸縮振動するバルク弾性波(縦波)であってもよいし、印加した電界と垂直方向に伸縮振動する屈曲波(横波)であってもよい。
【0018】
上記超音波パルスを発生させた後、制御信号50によりスイッチ6(端子d側)で超音波共振器を励起信号源4から切り離すと同時に抵抗素子7に接続すると、超音波共振器に蓄積された超音波振動エネルギーは、励起信号源4から切り離されても暫く残存するが、抵抗素子7の抵抗値を超音波共振器の等価的な出力抵抗に整合させることにより、振動エネルギーを短時間で抵抗素子7を流れる電気エネルギーの形で消費させ、残響時間を短縮することができる。上記整合のための抵抗或いは最適の負荷抵抗については、後述する。
【0019】
なお、
図1では、スイッチ6を機械的なイメージで描いているが、トランジスタ等の電子的なスイッチング素子、或いは半導体集積回路技術を用いて励起信号源4や抵抗素子7と一体化したものであってもよい。
以上のように、実施例では、従来のような残響の検出と帰還増幅回路といった複雑な構成を用いる必要がなく、極めてシンプルなものであるため、小型で経済的な超音波送信器とすることができる。
【0020】
図2に、
参考の第2実施例の構成が示されており、この第2実施例は、抵抗素子7の接続方法の他の例である。超音波共振器を構成する圧電材1や電極2a、2bは第1実施例と同様となる。
この第2実施例では、スイッチ6(端子c側)により超音波共振器を励起信号源4に接続して超音波を送信した後、制御信号50によって励起信号源4の出力電圧をゼロ、つまり短絡状態にすると同時に、制御信号50に基づくスイッチ6の操作(端子d側)で抵抗素子7を有する接続線に切り替える。この結果、第1実施例と同様に、超音波共振器に抵抗素子7が接続されることになり、超音波共振器に蓄積された超音波振動エネルギーを抵抗素子7に流れる電気エネルギーの形で消費させ、残響時間を短縮することができる。
【0021】
図3に、
本発明に係る第3実施例の構成が示されており、この第3実施例は、上記スイッチ6及び抵抗素子7を、導通抵抗が変化する可変抵抗素子8に置き換えたものである。即ち、圧電材1及び電極2a,2bからなる超音波共振器と励起信号源4との間に、制御信号50で制御される可変抵抗8を接続する。
この第3実施例では、励起信号源4で超音波共振器を励起しているときには、制御信号50により可変抵抗素子8の抵抗を短絡(0)又は短絡に近い状態とし、励起信号源50の遮断後は抵抗を大きくすることにより、超音波振動エネルギーを消費させ、残響時間を短縮することができる。
【0022】
ここで、振動エネルギーの消費と最適負荷について
図4及び
図5により説明する。
圧電材1を用いた超音波共振器は、共振周波数近傍において
図4(A)に示される等価回路でモデル化することができる。
図4のC
p,R
0は、圧電材1の誘電体としての静電容量と誘電損失を表す。逆圧電効果によって印加した電気エネルギーは、超音波振動エネルギーに変換されて蓄積されるが、それを等価回路で表現したものがメカニカルインダクタンスL
mとメカニカルキャパシタC
mである。一方、メカニカル抵抗R
mは振動エネルギーの損失を表現したものであり、圧電材1そのものの粘性等による損失ばかりでなく、外部に超音波として放射される損失も含んだものである。圧電材1に接続される電極(2a、2b)間に超音波励起信号を印加したときの共振周波数f
sの共振は、L
m,C
m,R
mの直列共振回路で表現される。電極間を開放した場合、L
m,C
m及びR
mによる共振回路とC
p及びR
0の直列回路の両者が並列に接続した並列共振回路を構成し、電極間のインピーダンスの絶対値を極大化するように反共振周波数f
pで共振する。なお、負荷抵抗R
Lは遮断後の残響を抑制するために電極間に並列に付加したものであり、上記第1〜第3実施例のいずれもこの等価回路でモデル化することができる。
【0023】
回路を構成する各要素の数値は、一つの例として
図4(B)の表の値を用い、送信する超音波の周波数に相当する共振周波数f
sは100kHz、反共振周波数f
pは112kHzとする。また、共振周波数でのQ値(Q
s)及び反共振周波数でのQ値(Q
p)は、いずれも略20である。つまり、負荷抵抗(7,8)を用いない場合、第1実施例のように電極2a,2bを開放しようが、第2及び第3実施例のように短絡しようが、蓄積された振動エネルギーを消費するため超音波共振器は、反共振周波数或いは共振周波数で10周期を超えて振動を継続し、残響となる。
【0024】
図5に、負荷抵抗(7,8)を変化させたときのQ値(Q
s及びQ
p)の変化の様子について、
図4(A)の等価回路を用いて計算したものが示されている。
図5に示されるように、共振周波数でのQ値(共振Q
s)は、負荷抵抗が増すほど減少するが、反共振周波数でのQ値(反共振Q
p)は逆に増大する。負荷抵抗が小さい間は共振周波数で残響が生じ、負荷抵抗が大き過ぎる場合には反共振周波数で残響が生ずる。また、両方の曲線が交差する負荷抵抗(r
d)が最適負荷抵抗或いは整合負荷抵抗であり、そのときのQ値は、0.9と1以下まで下がり、残響は概ね1周期分となる。
【0025】
図6には、実施例で得られる超音波振動の波形が示されており、上記の予測通り、負荷抵抗が接続されていない場合、残響は10周期を超えて継続するが、最適負荷抵抗を接続することにより、遮断後の残響は1周期分で収まっており、本発明が残響を抑制する上で極めて有効な手法であることが理解できる。
なお、最適負荷抵抗の値(r
d:約6,700Ω)は共振状態での等価直列抵抗(R
s:約320Ω)と反共振状態での等価並列抵抗(R
p:約145kΩ)の相乗平均(R
sとR
pの積の平方根:約6,800)で近似できる。この最適負荷抵抗を接続した場合に残響時間は最も短縮できるが、必ずしも最適負荷抵抗を用いなくてもよい。残響時間は長くなるが、その分緩やかに蓄積電力を消費するため抵抗素子7、スイッチ素子6や可変抵抗素子8に対する熱的或いは耐高電圧に対する要求が緩和される効果がある。そのため、応用目的やコスト要求等を総合的に勘案して、使用する負荷抵抗値と各素子を選択すればよい。
【0026】
上記参考の第1及び第2実施例では、負荷抵抗として固定の抵抗素子7を用いたが、
本発明に係る第3実施例の可変抵抗素子8を用いる場合には、負荷抵抗を遮断後の時間経過と共に変化させることもできる。
図7,
図8に、可変抵抗素子8の抵抗値を変化させる例が示されており、
図7の場合は、遮断直後は最適負荷抵抗に対して小さな抵抗値とし、制御信号50によって超音波励起信号の遮断時から時間の経過と共に可変負荷抵抗値が徐々に大きくなるようにして、最終的には最適負荷抵抗まで増大させるものである。
【0027】
図7の例によれば、超音波共振器に振動エネルギーが蓄積されている遮断直後は負荷を軽くすることにより、可変抵抗素子8に対する熱的或いは耐高電圧に対する要求条件を緩和することができる。即ち、蓄積エネルギーの消費に合わせて負荷抵抗を最適負荷抵抗に近づけ、可変抵抗素子8に対する緩和された要求条件を維持したままで、効率的に蓄積エネルギーを消費させるようにする。これにより、残響時間の短縮と可変抵抗素子8に対する要求条件の緩和の両者のバランスを取ることが可能となる。
なお、
図5では、対数的負荷抵抗の目盛に対して直線的に負荷抵抗値を増大させているが、これは説明のための概念図であり、残響時間の短縮と可変抵抗素子8に対する要求条件から負荷抵抗値の増大の時間変化を設定すればよい。また、蓄積エネルギーを検知して可変抵抗素子8の制御に帰還するといった手段を用いる必要はない。
【0028】
図8の例は、可変抵抗素子8の抵抗値の増大を開始するタイミングを、超音波励起信号を遮断する前に設定したものである。
図8のように、超音波励起信号を遮断する前から可変抵抗素子8により負荷抵抗を掛けることによって、直列共振回路のQ値を下げ、蓄積されるエネルギーを事前に減少させておくようにする。このような手法によって、残響時間の短縮と可変抵抗素子8に対する要求条件の緩和の両者のバランスを取る自由度が増大するという効果を得ることができる。
【0029】
図9に、実施例の超音波送信器を超音波センサへ応用した例が示されている。この超音波センサは、
図9に示されるように、超音波t
aを送信して媒体中の物体により反射された超音波r
aを受信し、その時間差から物体までの距離を検知するセンサである。
このセンサにおける超音波受信器は、超音波送信器の共振器を併用し、低雑音増幅回路等で構成される受信電気回路に別途スイッチを用いて切替え接続することにより実現することも可能である。その場合、超音波送信器の残響時間内は受信することができないので、反射・受信までの時間の短い至近距離の測定が困難になるという不都合があるが、実施例では、残響が少ないので、至近距離での測定が可能になる。
【0030】
例えば、
図4の等価回路定数で表される超音波送信器の場合に、検知可能な最小検知距離を比較計算すると、電気的負荷を接続しない場合、残響は10周期を超えるが、余裕をもって20周期とすると、最小検知距離は空気中で3.4cm、水中で15cmである。これに対し、実施例のように、最適負荷抵抗を接続して残響を概ね1周期分まで短縮すると、最小検知距離は空気中で0.17cm、水中で0.75cmまで改善される。しかも、超音波のパルス波形が鋭く減衰することから、それに応じて検知位置精度や空間分解能も向上するという利点がある。
【0031】
以上のように、本発明によれば、簡易な構成で残響を抑制した小型で経済的となる超音波送信器を実現することができ、また各種超音波センサに適用することで、至近距離から高い空間分解能で物体を検出することが可能となる
。
【符号の説明】
【0032】
1…圧電材(超音波共振器)、 2a,2b…電極、
4…励起信号源(駆動回路)、 6…スイッチ
7…抵抗素子、 8…可変抵抗素子。