特許第6853512号(P6853512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6853512
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】鍛造装置及び鍛造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 1/06 20060101AFI20210322BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20210322BHJP
   B21J 13/02 20060101ALI20210322BHJP
   B21K 29/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B21J1/06 B
   B21J1/06 A
   B21J5/00 Z
   B21J13/02 A
   B21K29/00
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-544554(P2020-544554)
(86)(22)【出願日】2020年4月2日
(86)【国際出願番号】JP2020015155
【審査請求日】2020年10月2日
(31)【優先権主張番号】特願2019-86062(P2019-86062)
(32)【優先日】2019年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正一
(72)【発明者】
【氏名】松井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】福山 建史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔悟
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第106391979(CN,A)
【文献】 特開昭59−225840(JP,A)
【文献】 特開2015−193045(JP,A)
【文献】 特開昭62−207528(JP,A)
【文献】 中国実用新案第2625076(CN,Y)
【文献】 特開平01−278932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/06
B21J 5/00
B21J 13/02
B21K 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型と、
前記上型に対向する下型と、
前記上下型を加熱可能に構成される加熱機構と、
前記上下型及び前記加熱機構を内部に配置した筐体と
を備え、
前記上下型が、前記上下型間で鍛造素材を鍛造可能とするように互いに対して、前記上下型の対向方向に相対的に移動可能に構成される、鍛造装置であって、
前記筐体が、前記鍛造素材を通過可能とするように開口する投入口を有する筐体本体と、前記筐体本体の投入口を開閉可能とするように構成される扉とを含み、
前記筐体本体が、前記上下型及び前記加熱機構を囲むように一体形成され、
前記筐体本体は、前記下型が前記対向方向に移動可能に挿入されるように開口する下型通過口と、前記上型が前記対向方向に移動可能に挿入されるように開口する上型通過口とを有し、
前記筐体が、前記型対向方向に移動可能に構成され、
前記加熱機構が、前記上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、
前記加熱機構が前記筐体本体に取り付けられ、
前記加熱機構が、前記筐体の型対向方向の移動に同期して、相対的に移動する前記上下型に対して前記対向方向に相対的に移動するように構成されており、
前記加熱機構が、前記加熱機構の対向方向の基準位置と前記上下型間の対向方向の中心位置とを前記対向方向に一致させた状態を維持するように移動する構成となっている、鍛造装置。
【請求項2】
前記加熱機構が、上側加熱部と、前記上側加熱部に対して前記対向方向の下型側に位置する下側加熱部とを有し、
前記上側及び下側加熱部が、それぞれ前記上側及び下側加熱部の加熱温度を互いに独立して調節可能とするように構成されている、請求項1に記載の鍛造装置。
【請求項3】
前記筐体の内部に不活性ガスを供給可能とするように構成されるガス供給機構を備える請求項1に記載の鍛造装置。
【請求項4】
前記上下型のそれぞれが、前記上下型を互いに合わせるように閉じた状態で前記鍛造素材を鍛造する空間を成すように形成されるキャビティ部を有し、
前記ガス供給機構が、前記上下型を閉じた状態で前記上下型のキャビティ部に前記不活性ガスを供給可能に構成されている、請求項に記載の鍛造装置。
【請求項5】
前記対向方向が鉛直方向に沿っており、
前記下型が、前記対向方向の下側に位置し、
前記下型と前記下型通過口の周縁部との間には隙間が形成されている、請求項に記載の鍛造装置。
【請求項6】
筐体の内部で互いに対向する上型及び下型間で鍛造を施される鍛造素材から鍛造製品を製造する鍛造製品の製造方法であって、
一体形成された筐体本体を有する前記筐体の内部に、前記筐体本体の投入口から前記鍛造素材を投入する投入工程と、
前記筐体本体の投入口が扉によって閉じられた状態にある前記筐体の内部にて、前記上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、かつ前記筐体本体に取り付けられた加熱機構によって前記上下型を加熱し、前記筐体本体にて開口する上型通過口に挿入される前記上型と、前記筐体本体にて開口する下型通過口に挿入される前記下型とをその対向方向に相対的に移動させ、前記筐体を、前記型対向方向に移動させ、かつ前記加熱機構を、前記筐体の型対向方向の移動に同期して、相対的に移動する前記上下型に対して前記対向方向に相対的に移動させ、これによって、前記上下型間で前記鍛造素材に前記鍛造を施す鍛造工程と
を含み、
前記鍛造工程にて、前記加熱機構の相対的な移動が、前記加熱機構の対向方向の基準位置と前記上下型間の対向方向の中心位置とを前記対向方向に一致させた状態を維持するように行われる、鍛造製品の製造方法。
【請求項7】
前記投入工程又は前記鍛造工程の前に、前記筐体の内部に不活性ガスを供給するガス供給工程を含む請求項に記載の鍛造製品の製造方法。
【請求項8】
前記ガス供給工程にて、互いに合わさるように閉じた状態にある前記上下型にて前記鍛造素材を鍛造する空間をもたらすように形成されるキャビティ部に、前記不活性ガスを供給する請求項に記載の鍛造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱機構を用いて加熱された上型及び下型間で鍛造素材を鍛造する鍛造装置に関する。本発明はまた、加熱された上型及び下型間で鍛造される鍛造素材から鍛造製品を製造する鍛造製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン、蒸気タービン、航空機エンジン等に適用されるタービンディスク、タービンブレード等には、Ni(ニッケル)基超耐熱合金等のNi基合金、Ti(チタン)基合金等が用いられる。しかしながら、Ni基超耐熱合金等のNi基合金、Ti基合金等は難加工性材料であるので、その塑性加工には恒温鍛造、ホットダイ鍛造等の熱間鍛造が用いられている。そして、熱間鍛造技術として、様々な鍛造装置及び鍛造方法が提案されている。
【0003】
このような熱間鍛造技術の一例としては、互いに対向する上型及び下型と、これら上型及び下型の対向方向に分割された上側加熱部及び下側加熱部を有し、かつ上型及び下型の周囲に配置される加熱機構と、上側加熱部及び下側加熱部をそれぞれ取り付けるように構成され、かつ上型及び下型の対向方向に分割された上側外枠及び下側外枠とを備える鍛造装置であって、上型及び下型が、鍛造素材を鍛造可能とするように、対向方向に離間した開放状態と対向方向に当接した閉鎖状態との間で移動可能に構成され、上側及び下側加熱部が、それぞれ上側及び下側外枠と一緒に、対向方向に離間した開放状態と対向方向に当接した閉鎖状態とに切り替え可能に構成されている、鍛造装置が挙げられる。(例えば、特許文献1を参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−193045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、鍛造素材がNi基合金、Ti基合金等を用いて構成される場合において、かかる鍛造素材に熱間鍛造を施すことによって製造される鍛造製品に十分な品質をもたらすためには、熱間鍛造を約800℃〜約1200℃の高温の雰囲気中で行うことが好ましい。そのため、鍛造装置の内部温度、すなわち、鍛造空間の温度をこのような高温に維持することが望まれ、さらには、このような雰囲気下において、熱間鍛造される鍛造素材の温度を適切に維持することも望まれる。加えて、上下型の温度を均一に保つことも望まれる。
【0006】
しかしながら、上記熱間鍛造技術の一例においては、鍛造装置の内部、すなわち、鍛造空間に鍛造素材を投入するときに、上型及び下型が開放状態になることに加えて、上側及び下側外枠が、加熱機構の上側及び下側加熱部と一緒に、対向方向に離間した開放状態となる。このような上側及び下側外枠の開放状態では鍛造空間全体が外気に晒されるので、鍛造空間の温度及び鍛造素材の温度が低下するおそれがあり、かつ上下型の温度を不均一にするおそれがある。
【0007】
また、上側及び下側外枠の開放状態では上下型もまた外気に晒されるので、典型的に金属製である上下型は酸化し易くなる。さらに、鍛造空間の温度が低下した場合、鍛造空間の温度を上昇させるための加熱作業が必要となり、特に、加熱作業のための時間が費やされることなる。そして、かかる加熱作業が頻繁に行われると、上下型の温度の増減もまた頻繁に生じる。このような上下型の酸化及び頻繁な上下型の温度の増減は、上下型を劣化させ易くするので、上下型の交換周期が短くなる。ひいては、鍛造の作業効率が低下するおそれがある。
【0008】
このような実情を鑑みると、鍛造装置及び鍛造製品の製造方法においては、鍛造空間の温度及び鍛造素材の温度の低下を防ぐこと、上下型の温度の均一性を効率的に維持すること、鍛造の作業効率を向上させることが望まれる。ひいては、鍛造装置及び鍛造製品の製造方法においては、十分な品質を有する鍛造製品を効率的に製造することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、一態様に係る鍛造装置は、上型と、前記上型に対向する下型と、前記上下型を加熱可能に構成される加熱機構と、前記上下型及び前記加熱機構を内部に配置した筐体とを備え、前記上下型が、前記上下型間で鍛造素材を鍛造可能とするように互いに対して、前記上下型の対向方向に相対的に移動可能に構成される、鍛造装置であって、前記筐体が、前記鍛造素材を通過可能とするように開口する投入口を有する筐体本体と、前記筐体本体の投入口を開閉可能とするように構成される扉とを含み、前記筐体本体が、前記上下型及び前記加熱機構を囲むように一体形成され、前記筐体本体は、前記下型が前記対向方向に移動可能に挿入されるように開口する下型通過口と、前記上型が前記対向方向に移動可能に挿入されるように開口する上型通過口とを有し、前記筐体が、前記型対向方向に移動可能に構成され、前記加熱機構が、前記上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、前記加熱機構が前記筐体本体に取り付けられ、
前記加熱機構が、前記筐体の型対向方向の移動に同期して、相対的に移動する前記上下型に対して前記対向方向に相対的に移動するように構成されており、前記加熱機構が、前記加熱機構の対向方向の基準位置と前記上下型間の対向方向の中心位置とを前記対向方向に一致させた状態を維持するように移動する構成となっている
【0010】
上記課題を解決するために、一態様に係る鍛造製品の製造方法は、筐体の内部で互いに対向する上型及び下型間で鍛造を施される鍛造素材から鍛造製品を製造する鍛造製品の製造方法であって、一体形成された筐体本体を有する前記筐体の内部に、前記筐体本体の投入口から前記鍛造素材を投入する投入工程と、前記筐体本体の投入口が扉によって閉じられた状態にある前記筐体の内部にて、前記上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、かつ前記筐体本体に取り付けられた加熱機構によって前記上下型を加熱し、前記筐体本体にて開口する上型通過口に挿入される前記上型と、前記筐体本体にて開口する下型通過口に挿入される前記下型とをその対向方向に相対的に移動させ、前記筐体を、前記型対向方向に移動させ、かつ前記加熱機構を、前記筐体の型対向方向の移動に同期して、相対的に移動する前記上下型に対して前記対向方向に相対的に移動させ、これによって、前記上下型間で前記鍛造素材に前記鍛造を施す鍛造工程とを含み、前記鍛造工程にて、前記加熱機構の相対的な移動が、前記加熱機構の対向方向の基準位置と前記上下型間の対向方向の中心位置とを前記対向方向に一致させた状態を維持するように行われる
【発明の効果】
【0011】
一態様に係る鍛造装置及び鍛造製品の製造方法においては、鍛造空間の温度及び鍛造素材の温度の低下を防ぐことができ、上下型の温度の均一性を効率的に維持することができ、鍛造の作業効率を向上させることができる。ひいては、一態様に係る鍛造装置及び鍛造製品の製造方法においては、十分な品質を有する鍛造製品を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る鍛造装置を、上下型を開き、かつ扉を開けた状態で概略的に示す斜視図である。
図2図2は、一実施形態に係る鍛造装置を、上下型を開き、ガス供給機構を省略し、かつ図1のX−X線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図3図3は、一実施形態に係る鍛造装置を、上下型を開き、扉を閉め、ガス供給機構を省略し、かつ図1のY−Y線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係る鍛造装置を、上下型を閉じ、扉を閉め、ガス供給機構を省略し、かつ図1のY−Y線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図5図5は、一実施形態に係る鍛造装置の上下型及びガス供給機構を、上下型を開き、ガス供給機構を未設置とし、かつ図1のX−X線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図6図6は、一実施形態に係る鍛造装置の上下型及びガス供給機構を、上下型を開き、ガス供給機構を設置し、かつ図1のX−X線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図7図7は、一実施形態に係る鍛造装置の下型及びガス供給機構の供給管を、ガス供給機構を設置し、かつ図5のZ−Z線に沿って切断した状態で概略的に示す断面図である。
図8図8は、一実施形態に係る鍛造製品の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施形態に係る鍛造装置及び鍛造製品の製造方法を以下に説明する。なお、本実施形態に係る鍛造装置及び製造方法においては熱間鍛造が行われる。かかる熱間鍛造は、鍛造に用いられる上下型の温度を鍛造素材と実質的に同じ温度にする恒温鍛造と、かかる上下型の温度を鍛造素材の温度まで近づけるホットダイ鍛造とを含む。
【0014】
「鍛造装置の概略」
最初に、図1図7を参照して、本実施形態に係る鍛造装置1の概略について説明する。鍛造装置1は、鍛造に用いられる上型2及び下型3を有する。これらの上下型2,3は互いに対向する。以下においては、必要に応じて、上下型2,3の対向方向を「型対向方向」と呼ぶ。図1図6において、かかる型対向方向は矢印Fにより示されている。また、図2及び図3においては、鍛造前にて上下型2,3を型対向方向にて互いに離した型開状態で、上下型2,3間に鍛造素材Mが配置されており、かつ図4においては、鍛造後にて上下型2,3を型対向方向にて互いに合わせた型閉状態で、上下型2,3間に鍛造製品Pが配置されている。
【0015】
図1図4に示すように、鍛造装置1は加熱機構4を有する。加熱機構4は、上下型2,3を加熱可能に構成される。鍛造装置1はまた筐体5を有する。筐体5の内部には、上下型2,3及び加熱機構4が配置される。かかる鍛造装置1においては、上下型2,3が、これら上下型2,3間で鍛造素材Mを鍛造可能とするように、型対向方向にて相対的に移動可能に構成されている。ここで、図1に示す加熱機構4は、一例を示したものであり、これに限定されるものではない。加熱機構は、円筒形状の金型を囲むように円筒状に配置されてもよい。
【0016】
図1図3及び図4に示すように、筐体5は筐体本体51及び扉52を有する。筐体本体51は、上下型2,3及び加熱機構4を囲むように一体形成されている。さらに、筐体本体51は、鍛造素材Mを通過可能とするように開口する投入口51aを有する。扉52は、筐体本体51の投入口51aを開閉可能とするように構成される。
【0017】
図2図4に示すように、加熱機構4は、上下型2,3の外周側方面21,31と部分的に又は全体的に向き合うように配置される。加熱機構4はまた、相対的に移動する上下型2,3の少なくとも一方に対して対向方向に相対的に移動するように構成されている。
【0018】
さらに、鍛造装置1の概略は次のようになっているとよい。図2図4に示すように、加熱機構4が、この加熱機構4の型対向方向の基準位置Jと上下型2,3間の型対向方向の中心位置Kとを型対向方向にて略一致させた状態を維持するように移動する構成となっている。加熱機構4はまた、上側加熱部41と、この上側加熱部41に対して型対向方向の下型3側に位置する下側加熱部42とを有する。上側及び下側加熱部41,42は、それぞれ、これら上側及び下側加熱部41,42の加熱温度を互いに独立して調節可能とするように構成されている。
【0019】
図5図7に示すように、上下型2,3のそれぞれは、これらの上下型2,3を互いに合わせた型閉状態で、鍛造素材Mを鍛造する空間であるキャビティCを成すように形成されるキャビティ部22,32を有する。鍛造装置1は、筐体5の内部に不活性ガスGを供給可能とするように構成されるガス供給機構6を有する。
【0020】
かかるガス供給機構6は、図4及び図6に示すように、型閉状態で上下型2,3のキャビティ部22,32、特に、キャビティCに不活性ガスGを供給可能とするとよい。しかしながら、ガス供給機構は、型開状態で上下型のキャビティ部に不活性ガスを供給可能であってもよい。また、ガス供給機構は、筐体の内部かつ上下型の外部に不活性ガスを供給可能とするように構成されてもよい。
【0021】
さらに、筐体本体51は、下型3を型対向方向に移動可能とするように挿入すべく開口する下型通過口51bを有する。下型3と下型通過口51bの周縁部51cとの間には下側隙間Iが形成される。特に、型対向方向が鉛直方向に沿っている場合に、かかる下側隙間Iが形成されるとよい。
【0022】
筐体5は、扉52を閉じた扉閉状態で、下側隙間Iを除いて密閉されるように構成されるとよい。下側隙間Iの大きさは、下型3をスムーズに通過可能とし、ガス供給機構6からの不活性ガスGを通過可能とし、かつ筐体5内部の温度低下を抑制可能とするように設定されるとよい。しかしながら、筐体は、下側隙間を設けない状態で密閉されることもできる。
【0023】
「鍛造素材及び鍛造製品の詳細」
図5図7を参照すると、鍛造素材M及び鍛造製品Pは詳細には次のようなものであるとよい。鍛造素材Mは、最終的な鍛造製品Pの形状を得るための予備成形体である。鍛造製品Pの形状は、型対向方向に沿って延びる軸線p1を中心として略回転対称となっている。例えば、鍛造製品Pは、ガスタービン、蒸気タービン、航空機エンジン等に適用されるタービンディスク等に適用されるものであるとよい。しかしながら、鍛造製品の形状及び鍛造製品を適用するものは、これらに限定されない、
【0024】
また、鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料は金属である。例えば、かかる材料は、Ni(ニッケル)基超耐熱合金等のNi基合金、Ti(チタン)基合金等とすることができる。しかしながら、鍛造素材及び鍛造製品に用いられる材料は、上述したものに限定されない。
【0025】
鍛造素材Mには潤滑剤が塗布されるとよい。例えば、かかる潤滑剤は、無アルカリガラスを含むガラス潤滑剤等とすることができる。しかしながら、潤滑剤はこれらに限定されない。
【0026】
「上型及び下型の詳細」
上型2及び下型3は詳細には次のようになっているとよい。図2図4に示すように、上下型2,3のそれぞれは、型対向方向にて積層される複数の層を有する。図2図4においては、一例として、上型2が、型対向方向にて下型3から離れるように順に並んだ第1層2a、第2層2b、第3層2cを有し、かつ下型3が、型対向方向にて上型2から離れるように順に並んだ第1層3a、第2層3b、第3層3cを有する場合が示されている。しかしながら、上下型のそれぞれにおける層の数は、これに限定されない。
【0027】
上下型2,3に用いられる材料は互いに同じであるとよい。しかしながら、上下型に用いられる材料は互いに異なっていてもよい。
【0028】
特に、最も下型3寄りに位置する上型2の下端層、例えば、上述のような上型2の第1層2aにおける材料は、金属であるとよい。最も上型2寄りに位置する下型3の上端層、例えば、上述のような下型3の第1層3aにおける材料もまた、金属であるとよい。例えば、かかる金属材料は、Ni基超耐熱合金等のNi基合金等とすることができる。
【0029】
さらに例えば、上下型2,3、特に、上型2の下端層及び下型3の上端層のそれぞれに用いられる金属材料は、NIMOWAL(登録商標)と呼ばれるNi基合金とすることもできる。NIMOWALは、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、及びAl(アルミニウム)を必須元素とした、耐熱性に優れるNi基合金であり、かつ耐酸化性を向上させる元素をさらに含むことができる合金である。本発明の場合、上下型2,3、特に、上型2の下端層及び下型3の上端層のそれぞれに用いられる金属材料の好ましい組成は、質量%で、W:約7.0%〜約15.0%、Mo:約2.5%〜11.0%、Al:約5.0%〜7.5%、Cr(クロム):約0.5%〜約3.0%、Ta(タンタル):約0.5%〜約7.0%、S(硫黄):約0.0010%以下、希土類元素、Y(イットリウム)及びMg(マグネシウム)から選択される1種又は2種以上を合計として約0(ゼロ)%〜約0.020%、残部はNi及び不可避的不純物でなるNi基合金とすることができる。かかるNi基合金は、質量%で、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)の元素から選択される1種又は2種を合計として約0.5%以下をさらに含有することができる。かかるNi基合金は、質量%で、Ti、Nb(ニオブ)の元素から選択される1種又は2種を合計として3.5%以下をさらに含有し、TaとTiとNbの含有量の総和が約1.0%〜約7.0%であるものとすることができる。かかるNi基合金はまた、質量%で、約15.0%以下のCo(コバルト)をさらに含有することができる。かかるNi基合金は、質量%で、C(炭素):約0.25%以下、B(ホウ素):約0.05%以下の元素から選択される1種又は2種をさらに含有することができる。かかるNi基合金は、試験温度:約1000℃、歪速度:約10−3/secでの約0.2%圧縮強度が約500MPa以上であるものとすることができる。かかるNi基合金は、試験温度:約1100℃、歪速度:約10−3/secでの約0.2%圧縮強度が約300MPa以上であるものとすることができる。
【0030】
さらに、下端層以外の上型2の層のうち少なくとも1つ、例えば、上述のような上型2の第2及び第3層2b,2cのうち少なくとも1つにおける材料は、セラミックス(耐火物)、断熱シート、ブランケット等とすることができる。上端層以外の下型3の層のうち少なくとも1つ、例えば、上述のような下型3の第2及び第3層3b,3cのうち少なくとも1つにおける材料もまた、セラミックス(耐火物)、断熱シート、ブランケット等とすることができる。なお、下端層以外の上型の層のうち少なくとも1つにおける材料を、金属、例えば、Ni基超耐熱合金等のNi基合金等とすることもできる。上端層以外の下型の層のうち少なくとも1つにおける材料もまた、金属、例えば、Ni基超耐熱合金等のNi基合金等とすることもできる。しかしながら、上下型に用いられる材料は、上述したものに限定されない。
【0031】
さらに、上下型2,3の外表面には、耐酸化コーティングが施されるとよい。例えば、かかる耐酸化コーティングにおいては、高温での大気中の酸素と金型の母材との接触による金型表面の酸化と、それに伴うスケール飛散とを防止し、かつ作業環境の劣化と、形状劣化とを防止する観点から、窒化物、酸化物、及び炭化物のいずれか1種類以上から成る無機材料等が用いられるのが好ましい。これは、窒化物、酸化物、及び/又は炭化物の塗布層によって緻密な酸素遮断膜を形成し、かつ金型母材の酸化を防ぐためである。なお、塗布層は、窒化物、酸化物、及び炭化物のいずれかから成る単層であってよく、又は窒化物、酸化物、及び炭化物のいずれか2種以上の組み合わせから成る積層構造であってもよい。さらに、塗布層には、窒化物、酸化物、及び炭化物のいずれか2種以上から成る混合物、セラミック被覆等が用いられるとよい。しかしながら、耐酸化コーティングはこれに限定されない。
【0032】
図1図7に示されるように、典型的な使用状態において、上型2は下型3に対して鉛直方向の上方に位置し、かつ型対向方向は鉛直方向に沿っている。しかしながら、上下型の使用状態はこれに限定されない。例えば、極めて例外的な使用状態ではあるが、上型及び下型を鉛直方向に対して傾斜する方向に対向させることも可能であり、上型及び下型を鉛直方向に反転させることも可能であり、上型及び下型を水平方向に対向させることも可能である。
【0033】
図3及び図6に示すように、上型2は、下型3と対向する対向部23を有する。上型2のキャビティ部22は、上型2の対向部23から型対向方向に凹むように形成される。下型3もまた、上型2と対向する対向部33を有する。下型3のキャビティ部32は、下型3の対向部33から型対向方向に凹むように形成される。
【0034】
上下型2,3は、図2図3及び図5に示すような型開状態と、図4及び図6に示すような型閉状態との間で型対向方向に移動可能になっている。図2図3及び図5に示すように、型開状態では、上下型2,3の対向部23,33間に、鍛造前の鍛造素材Mを投入可能とし、かつ鍛造後の鍛造製品Pを取り出し可能とするように空間が形成される。図4及び図6に示すように、型閉状態では、上下型2,3の対向部23,33が互いに当接する。型閉状態で上下型2,3のキャビティ部22,32により形成されるキャビティCの形状は、鍛造製品Pの形状に対応している。
【0035】
図5図7に示すように、上下型2,3には、型閉状態で上下型2,3の外部からキャビティCに不活性ガスGを流入可能とするように構成される流入口Q1が設けられる。下型3の対向部33には、後述するガス供給機構6のガス供給管61の外周面61aに対応するように凹む流入溝33aが形成されるとよい。そして、ガス供給管61がこれらの流入溝33a内に配置されて、これによって、流入口Q1が設けられる。しかしながら、流入溝は、上下型の少なくとも一方の対向部に形成することができる。すなわち、流入溝は、上型の対向部のみに形成することもできる。流入溝はまた、上下型両方の対向部に形成することもできる。
【0036】
上下型2,3には、型閉状態でキャビティCから上下型2,3の外部に不活性ガスGを流出可能とするように構成される流出口Q2が設けられる。下型3の対向部33には、このような流出口Q2をもたらすように流出溝33bが形成されるとよい。しかしながら、流出溝は、上下型の一方の対向部のみに形成されてもよい。しかしながら、流出溝は、上下型の少なくとも一方の対向部に形成することができる。すなわち、流出溝は、上型の対向部のみに形成することもできる。流出溝はまた、上下型両方の対向部に形成することもできる。
【0037】
図2図4に示すように、上下型2,3のそれぞれは、型対向方向にて積層される複数の層を有する。図2図4においては、一例として、上型2が、型対向方向にて下型3から離れるように順に並んだ第1層2a、第2層2b、第3層2cを有し、かつ下型3が、型対向方向にて上型2から離れるように順に並んだ第1層3a、第2層3b、第3層3cを有する場合が示されている。しかしながら、上下型のそれぞれにおける層の数は、これに限定されない。
【0038】
上下型2,3の相対的な移動について、図2図4を参照すると、上型2が型対向方向にて移動可能になっており、かつ下型3が固定されている。しかしながら、上下型の相対的な移動はこれに限定されない。例えば、上型を固定し、かつ下型を型対向方向にて移動可能とすることもできる。また、上下型の両方を型対向方向に移動可能とすることもできる。
【0039】
「加熱機構の詳細」
加熱機構4は詳細には次のようになっているとよい。図2図4に示すように、加熱機構4は、上下型2,3を加熱可能に構成される少なくとも1つのヒータを有する。さらに、加熱機構4の上側及び下側加熱部41,42のそれぞれは、少なくとも1つのヒータを有するとよい。ヒータとしては、例えば、カンタル(登録商標)スーパー、ニクロム線等の電熱線、炭化ケイ素系の棒状抵抗発熱体を用いることができる。しかしながら、ヒータはこれに限定されない。
【0040】
加熱機構4、特に、上側及び下側加熱部41,42のそれぞれは、型対向方向に略直交する方向にて上下型2,3と間隔を空けている。加熱機構4の基準位置Jは、上下型2,3の温度分布を略均一にすることができるように設定される。図2図4においては、一例として、加熱機構4の基準位置Jが型対向方向にて加熱機構4の略中央に位置する場合が示されている。しかしながら、加熱機構の基準位置は、型対向方向にて加熱機構の略中央に対して上型又は下型寄りに位置してもよい。
【0041】
上側加熱部41は、加熱機構4の基準位置Jに対して、型対向方向の上型2側に位置する。上側加熱部41は、上型2の外周側方面21と部分的に又は全体的に向き合うように配置される。下側加熱部42は、加熱機構4の基準位置Jに対して、型対向方向の下型3側に位置する。下側加熱部42は、下型3の外周側方面31と部分的に又は全体的に向き合うように配置される。
【0042】
しかしながら、上側加熱部を加熱機構の基準位置を跨ぐように配置することもできる。この場合、型閉状態で、上側加熱部は上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、かつ下側加熱部は下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置されることとなる。その一方で、下側加熱部を加熱機構の基準位置を跨ぐように配置することもできる。この場合、型閉状態で、上側加熱部は下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置され、かつ下側加熱部は上下型の外周側方面と部分的に又は全体的に向き合うように配置されることとなる。
【0043】
さらに、加熱機構4は筐体本体51に対して固定されている。加熱機構4は筐体本体51に取り付けられている。加熱機構4はまた、筐体本体51の投入口51aを避けるように配置される。加熱機構4は、筐体本体51の投入口51aに対して、筐体5の外周方向の外側に配置される。かかる加熱機構4の型対向方向の長さは、投入口51aの型対向方向の長さ以下であるとよい。かかる加熱機構4の上側及び下側加熱部41,42は筐体本体51に対して固定されている。上側及び下側加熱部41,42もまた、筐体本体51の投入口51aを避けるように配置される。
【0044】
しかしながら、加熱機構と筐体との関係はこれに限定されない。加熱機構は、扉に掛かるように配置することもできる。加熱機構は、型対向方向の上下型の少なくとも一方側に掛かるように配置することもできる。加熱機構の型対向方向の長さは、投入口の型対向方向の長さよりも長くすることができる。加熱機構を、筐体本体に対して型対向方向にて移動可能に構成することができる。上側及び下側加熱部の少なくとも一方を、筐体本体に対して型対向方向にて移動可能に構成することもできる。
【0045】
図5及び図6に示すように、加熱機構4は、後述するガス供給管61を離脱可能に取り付けることができるように構成される被取付部43を有する。かかる被取付部43は下側加熱部42に付設することができる。しかしながら、被取付部は上側加熱部に付設することもできる。
【0046】
「筐体の詳細」
筐体5は詳細には次のようになっているとよい。図2図4に示すように、筐体本体51は、上型2を型対向方向に移動可能とするように挿入すべく開口する上型通過口51dを有する。上型2と上型通過口51dの周縁部51eとの間には上側隙間Hが形成される。特に、型対向方向が鉛直方向に沿っている場合に、かかる上側隙間Hが形成されるとよい。
【0047】
このような筐体5は、扉52を閉じた扉閉状態で、上側及び下側隙間H,Iを除いて密閉されるように構成されるとよい。上側隙間Hの大きさは、上型2をスムーズに通過可能とし、かつ筐体5内部の温度低下を抑制可能とするように設定されるとよい。かかる上側隙間Hは上述したような下側隙間Iよりも小さいとよい。しかしながら、上側隙間は下側隙間と等しくすることもできる。また、上側隙間は下側隙間よりも大きくすることもできる。さらに、上側及び下側隙間H,Iは、グランドパッキン等を用いることによって、摺動可能な状態で気密性を高めることができる。気密性を高めることによって、外気の流出入による上下型の温度低下や温度不均一性を改善することができる。
【0048】
図1図3及び図4に示すように、筐体本体51の投入口51aは、筐体本体51の外周側方部51fに配置される。投入口51aは、筐体本体51の外周側方部51fを貫通するように形成される。投入口51aは、型対向方向にて、型開状態の上下型2,3間に形成される空間に対応するように配置されるとよい。
【0049】
図2図4を参照すると、筐体5は、型対向方向に移動可能に構成されている。かかる筐体5の筐体本体51に対して固定される加熱機構4は、筐体5の移動に同期して移動するようになっている。筐体本体51に対して固定される上側及び下側加熱部41,42は、筐体5の移動に同期して移動するようになっている。しかしながら、筐体は、型対向方向に実質的に移動しない構成とし、かつ上側及び下側加熱部の少なくとも一方を筐体に対して型対向方向に移動可能に構成することもできる。
【0050】
さらに、図1図3及び図4においては、筐体5が、筐体本体51に旋回可能に取り付けられた1つの扉52を有しており、かかる扉52は、その旋回によって、筐体本体51の1つの投入口51aを閉じた扉閉状態と、筐体本体51の1つの投入口51aを開いた扉開状態とに移動可能になっている。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、筐体が、筐体本体に旋回可能にそれぞれ取り付けられた2つの扉を有しており、かかる2つの扉が、その旋回によって、扉閉状態と扉開状態とに観音開き方式にて移動可能になっていてもよい。さらに例えば、筐体が、筐体本体に対してスライド移動可能に取り付けられた扉を有しており、扉が、そのスライド移動によって、扉閉状態と扉開状態とに移動可能になっていてもよい。また、筐体及び筐体本体は、円筒形状の金型を囲むように円筒形状に配置されてもよい。筐体及び筐体本体は、金型及び鍛造空間の温度低下を極力防ぐために2重扉構造としてもよい。
【0051】
「ガス供給機構の詳細」
ガス供給機構6は詳細には次のようになっているとよい。ガス供給機構6により供給される不活性ガスGは、筐体5の内部、特に、上下型2,3のキャビティCにおける酸素濃度を低下可能とするものとなっている。例えば、不活性ガスGは、Ar(アルゴン)ガスとすることができる。しかしながら、不活性ガスは、これに限定されない。例えば、不活性ガスは、N(窒素)ガス、He(ヘリウム)ガス等とすることもできる。
【0052】
図5及び図6に示すように、ガス供給機構6は、不活性ガスGを通過可能とするように構成されるガス供給管61を有する。ガス供給管61は、不活性ガスGを排出できる先端部62と、加熱機構4の被取付部43に離脱可能に取り付けるように構成される取付部63とを有する。先端部62は、流入溝33aに沿って配置される。取付部63は、型対向方向に沿って配置される。ガス供給管61は略L字形状に形成されている。しかしながら、ガス供給管の構造は、これらに限定されない。
【0053】
「鍛造製品の製造方法」
図8を参照して、本実施形態に係る鍛造製品Pの製造方法について説明する。鍛造製品Pの製造方法においては、上下型2,3が加熱機構4によって加熱され、上下型2,3間で鍛造素材Mに鍛造が施され、かかる鍛造素材Mから鍛造製品Pが製造される。
【0054】
最初に、鍛造製品Pの製造方法においては、筐体5の内部に不活性ガスGを供給する(ガス供給工程S1)。かかるガス供給工程S1においては、型閉状態の上下型2,3のキャビティ部22,32に不活性ガスGを供給する。このような不活性ガスGの供給によって、上下型2,3のキャビティ部22,32内の酸素濃度を約1%以下とすることも可能である。しかしながら、上下型の酸化を効率的に防止できれば、不活性ガスの供給は、上下型のキャビティ部内の酸素濃度を約1%よりも大きくなっていてもよい。
【0055】
また、ガス供給工程S1においては、不活性ガスGを供給する直前に、ガス供給機構6のガス供給管61が加熱機構4の被取付部43に取り付けられるとよい。さらに、ガス供給管61は、ガス供給工程S1の終了後に、加熱機構4の被取付部43から取り外されるとよい。しかしながら、ガス供給管の着脱タイミングはこれらに限定されない。また、ガス供給管を鍛造装置、特に、筐体の内部に設置したままの状態とすることもできる。
【0056】
次に、一体形成された筐体本体51を有する筐体5の内部に、筐体本体51の投入口51aから鍛造素材Mを投入する(投入工程S2)。投入工程S2においては、加熱炉等によって加熱された鍛造素材Mが筐体5の内部に投入される。加熱炉等から筐体5まで鍛造素材Mを搬送するときには、鍛造素材Mの温度低下を防ぐような冶具が用いられるとよい。
【0057】
上下型2,3間で鍛造素材Mに鍛造を施す(鍛造工程S3)。かかる鍛造工程S3においては、鍛造を施すにあたって、筐体本体51の投入口51aを扉52によって閉じた扉閉状態の筐体5の内部にて、加熱機構4によって上下型2,3を加熱し、上下型2,3を型対向方向に相対的に移動させ、かつ加熱機構4を、相対的に移動する上下型2,3の少なくとも一方に対して型対向方向に相対的に移動させる。このように鍛造された鍛造素材Mから鍛造製品Pは製造されることとなる。なお、鍛造中において、加熱機構4は上下型2,3を連続的又は断続的に加熱する。しかしながら、上下型の温度が適切に維持されていれば、鍛造中において、加熱機構は上下型を加熱しない状態にすることもできる。
【0058】
鍛造工程S3において、加熱機構4の相対的な移動が、加熱機構4の型対向方向の基準位置Jと上下型2,3間の型対向方向の中心位置Kとを型対向方向に一致させた状態を維持するように行われるとよい。しかしながら、製造方法はこれらに限定されない。ガス供給工程は、投入工程後かつ鍛造工程前に行うこともできる。ガス供給工程においては、型開状態の上下型のキャビティ部に不活性ガスを供給することもできる。また、ガス供給工程においては、筐体の内部かつ上下型の外部に不活性ガスを供給することもできる。
【0059】
なお、鍛造中における上下型2,3の温度及び鍛造空間の温度は、鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる金属の種類等に応じて設定されるとよい。例えば、鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、Ni基合金、Ti基合金等である場合において、上下型2,3の温度及び鍛造空間の温度は次のように設定されるとよい。鍛造開始直前における上下型2,3の温度は、約800℃以上であるとよい。鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、特にNi基合金である場合、鍛造開始直前における上下型2,3の温度は、好ましくは約1020℃以上であるとよく、より好ましくは約1040℃以上であるとよく、さらに好ましくは、約1050℃以上であるとよい。さらに、鍛造開始直前における上下型2,3の温度は、約900℃〜約1200℃の範囲内であるとよい。鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、特にNi基合金である場合、鍛造開始直前における上下型2、3の温度の下限は、好ましくは約1020℃であるとよく、より好ましくは約1040℃であるとよく、さらに好ましくは約1050℃であるとよい。鍛造中における鍛造空間の温度は、約800℃〜約1200℃の範囲内であるとよい。また、鍛造中における鍛造空間の温度は、約900℃〜約1200℃の範囲内であるとよい。特に、鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、Ni基合金である場合、鍛造中における上下型2,3の温度は、約850℃〜約1150℃の範囲内であるとよい。鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、Ni基合金である場合、鍛造中における上下型2,3の温度の下限は、好ましくは約900℃であるとよく、より好ましくは約1020℃であるとよく、さらに好ましくは約1040℃であるとよく、さらにより好ましくは約1050℃であるとよい。特に、鍛造素材M及び鍛造製品Pに用いられる材料が、Ti基合金である場合、鍛造中における上下型2,3の温度は、約750℃〜約1050℃の範囲内であるとよい。しかしながら、鍛造開始直前における上下型の温度並びに鍛造中における上下型の温度及び鍛造空間の温度は、これらに限定されない。
【0060】
以上、本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、一体形成された筐体本体51が筐体5の内部のほとんどを囲んだ状態で、筐体本体51の投入口51aを外部に開放するので、鍛造素材Mを、投入口51aから筐体5の内部、すなわち、鍛造空間に投入するときに、鍛造空間の温度が大きく低下することを防止できる。また、鍛造空間の温度を定常的に維持できて、その結果、鍛造空間に配置される鍛造素材M及び上下型2,3の温度が大きく低下することも防止できる。さらには、低下した上下型2,3の温度を再上昇させる回数及び時間を減少させることができるので、上下型2,3の温度の増減を抑制することができる。その結果、上下型2,3の劣化を防ぐことができて、上下型2,3の交換周期を延ばすことができる。加えて、上下型2,3が相対的に移動する場合であっても、加熱機構4を上下型の少なくとも一方に対して対向方向に相対的に移動させて、これによって、加熱機構4が上下型2,3を加熱する条件を一定に維持することができて、上下型2,3の温度の均一性を効率的に維持することができる。よって、鍛造空間の温度及び鍛造素材Mの温度の低下を防ぐことができ、上下型2,3の温度の均一性を効率的に維持することができ、鍛造の作業効率を向上させることができる。ひいては、十分な品質を有する鍛造製品Pを効率的に製造することができる。
【0061】
本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、加熱機構4の型対向方向の基準位置Jと上下型2,3間の型対向方向の中心位置Kとを型対向方向に一致させた状態を維持する。そのため、上下型2,3が相対的に移動する場合であっても、加熱機構4が上下型2,3を加熱する条件を一定に維持できるので、上下型2,3の温度の均一性を効率的に維持できる。
【0062】
本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、加熱機構4が上側及び下側加熱部41,42を有し、上側及び下側加熱部41,42が、それぞれ上側及び下側加熱部41,42の加熱温度を互いに独立して調節可能とする。そのため、上下型2,3の型対向方向の温度バラツキを防ぐように、上側及び下側加熱部41,42の加熱温度を互いに独立して調節することができるので、上下型2,3の温度の均一性を効率的に維持することができる。
【0063】
本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、ガス供給機構6が筐体5の内部に不活性ガスGを供給する。そのため、筐体5の内部、すなわち、鍛造空間の酸素濃度を低減させるように鍛造空間に供給される不活性ガスGによって、鍛造空間に位置する上下型2,3の酸化を効率的に防止することができる。よって、上下型2,3の劣化を効率的に防ぐことができて、上下型2,3の交換周期を効率的に延ばすことができる。
【0064】
本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、ガス供給機構6が、上下型2,3を閉じた型閉状態で上下型2,3のキャビティ部22,23に不活性ガスGを供給する。そのため、キャビティ部22,23に不活性ガスGを直接的に供給し、これによって、上下型2,3のキャビティ部22,23の酸素濃度を効率的に低減させることができて、鍛造にて特に重要となるキャビティ部22,23の酸化を効率的に防止することができる。その結果、上下型2,3の劣化を効率的に防ぐことができて、上下型2,3の交換周期を効率的に延ばすことができる。
【0065】
本実施形態に係る鍛造装置1及び鍛造製品Pの製造方法においては、型対向方向が鉛直方向に沿っている場合において、筐体本体51は、下型3が型対向方向に移動可能に挿入されるように開口する下型通過口51bを有し、下型3と下型通過口51bの周縁部51cとの間には下側隙間Iが形成されている。そのため、筐体5の内部に不活性ガスGが充満したとしても、余分な不活性ガスGを下側隙間Iから逃がすことができ、特に、余分な不活性ガスGを、下側隙間Iを通って筐体5の外部に排出するための排出口を、上下型2,3から離れた位置に設ければ、上下型2,3の温度を変化し難くできる。その結果、上下型2,3の劣化を効率的に防ぐことができて、上下型2,3の交換周期を効率的に延ばすことができる。
【0066】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【0067】
1…鍛造装置
2…上型、21…外周側方面、22…キャビティ部
3…下型、31…外周側方面、32…キャビティ部
4…加熱機構、41…上側加熱部、42…下側加熱部
5…筐体、51…筐体本体、51a…投入口、51b…下型通過口、51c…周縁部、52…扉
6…ガス供給機構
J…基準位置、K…中心位置
G…不活性ガス
I…下側隙間
M…鍛造素材、P…鍛造製品
S1…ガス供給工程、S2…投入工程、S3…鍛造工程
【要約】
鍛造装置及び鍛造製品の製造方法において、鍛造空間の温度及び鍛造素材の温度の低下を防ぎ、上下型の温度の均一性を効率的に維持し、鍛造の作業効率を向上させる。本発明の鍛造装置及び鍛造製品の製造方法においては、一体形成された筐体本体の投入口を扉によって閉じた状態とした筐体の内部で、加熱機構によって上下型を加熱し、上下型をその対向方向に相対的に移動させ、かつ加熱機構を、相対的に移動する上下型の少なくとも一方に対して対向方向に相対的に移動させ、これによって、上下型間で鍛造素材に鍛造を施す。さらに、鍛造製品の製造方法においては、かかる鍛造素材から鍛造製品を製造する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8