特許第6853538号(P6853538)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853538線維芽細胞からの心臓前駆細胞と心筋細胞の直接製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853538
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】線維芽細胞からの心臓前駆細胞と心筋細胞の直接製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20210322BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210322BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20210322BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20210322BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20210322BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20210322BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20210322BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20210322BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20210322BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20210322BHJP
   A61K 38/02 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   C12N15/12ZNA
   C12N5/10
   C12N5/071
   A61K35/33
   A61K35/34
   A61P9/00
   A61K48/00
   A61K35/76
   A61P9/10
   A61P9/10 101
   A61P9/06
   A61P9/14
   A61P7/04
   !A61K38/02
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2018-505837(P2018-505837)
(86)(22)【出願日】2017年3月7日
(86)【国際出願番号】JP2017009052
(87)【国際公開番号】WO2017159463
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-51407(P2016-51407)
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作製・制御等の医療基盤技術」研究領域、研究課題「直接リプログラミングによる心筋細胞誘導の確立と臨床への応用」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100141195
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 恵美子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】家田 真樹
(72)【発明者】
【氏名】貞廣 威太郎
(72)【発明者】
【氏名】礒見 まり
(72)【発明者】
【氏名】五島 直樹
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−213441(JP,A)
【文献】 特表2011−512855(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/008100(WO,A1)
【文献】 山川裕之,他,FGF2/FGF10/VEGFが、心筋直接フル・リプログラミングを効率的に誘導する,再生医療,2016年 2月 1日,Vol. 15, Suppl 2016,p. 213, O-11-4
【文献】 礒見まり,他,新規心臓前駆細胞誘導因子によるヒトES/iPSからの心筋誘導法の確立,再生医療,2016年 2月 1日,Vol. 15, Suppl 2016,p. 213, O-11-5
【文献】 GAVRILOV, S., et al.,Tbx6 is a determinant of cardiac and neural cell fate decisions in multipotent P19CL6 cells,Differentiation,2012年 9月,Vol. 84,p. 176-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
AGRICOLA(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維芽細胞にTbx6遺伝子を導入する工程を含む、心臓前駆細胞の製造方法。
【請求項2】
線維芽細胞にTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocardin遺伝子を導入する工程を含む、心筋細胞の製造方法。
【請求項3】
外来性のTbx6遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心臓前駆細胞。
【請求項4】
外来性のTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocardin遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心筋細胞。
【請求項5】
Tbx6遺伝子を含有する、線維芽細胞からの心臓前駆細胞の誘導剤。
【請求項6】
Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの心筋細胞の誘導剤。
【請求項7】
Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの平滑筋細胞の誘導剤。
【請求項8】
Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの血管内皮細胞の誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞から心臓前駆細胞および心筋細胞を製造するための方法、並びに当該方法により製造される線維芽細胞由来の心臓前駆細胞および心筋細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓疾患は、高齢化に伴い増加の一途をたどっており、80歳以上の男性の心不全発生率は14.7%と高い。心臓は、心筋細胞や線維芽細胞などの細胞で構成されるが、拍動機能を担う心筋細胞はほとんどまたは全く再生能力を有さないため、現在までのところ、心臓疾患の治療方法は限定されている。
【0003】
これまでに、3つの心筋リプログラミング因子(Gata4、Mef2c、Tbx5、以下GMTとも称する)の導入により、線維芽細胞からiPS細胞を介さずに心筋様細胞を直接作製する方法が見出されている(非特許文献1)。この方法では、培養細胞およびマウス生体内においても、3因子GMTにより線維芽細胞から心筋を直接作製し得ることが明らかにされている(特許文献1)。また、転写因子(Mesp1、Ets2)と複数の液性因子とを使用することで、線維芽細胞から心臓前駆細胞を介して機能的に未熟な心筋様細胞を作製できることが報告されている(非特許文献2)。また、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から液性因子を用いて心臓前駆細胞や心筋細胞を誘導する方法(非特許文献3)や、マウスES細胞から血清使用下や特殊な培養条件下で転写因子を用いて心臓前駆細胞を誘導する方法が報告されている(非特許文献4)。
【0004】
一方、前述のとおり心筋細胞は増殖能力を有さないため、心筋細胞を線維芽細胞や多能性幹細胞から直接誘導する場合は再生医療に必要なだけの細胞数が十分に得られない可能性がある。そこで、増殖能力のある心臓前駆細胞をまず作製して、その心臓前駆細胞から心筋細胞を作製する方法が有用である。
【0005】
しかしながら、前述の転写因子(Mesp1、Ets2)と複数の液性因子を用いて線維芽細胞から心臓前駆細胞を作製する方法には、心臓前駆細胞の状態を維持することができず、また、機能的に未熟な心筋様細胞しか作製することができないといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2011/139688
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ieda, M., Fu, J.D., Delgado-Olguin, P., Vedantham, V., Hayashi, Y., Bruneau, B.G., and Srivastava, D. Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors. Cell 142:375-386. 2010.
【非特許文献2】Islas JF, Liu Y, Weng KC, et al. Transcription factors ETS2 and MESP1 transdifferentiate human dermal fibroblasts into cardiac progenitors. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2012;109(32):13016-21.
【非特許文献3】Kattman SJ, Witty AD, Gagliardi M, et al. Stage-specific optimization of activin/nodal and BMP signaling promotes cardiac differentiation of mouse and human pluripotent stem cell lines. Cell stem cell 2011;8(2):228-40.
【非特許文献4】van den Ameele J, Tiberi L, Bondue A, et al. Eomesodermin induces Mesp1 expression and cardiac differentiation from embryonic stem cells in the absence of Activin. EMBO reports 2012;13(4):355-62.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況下、線維芽細胞から心臓前駆細胞を誘導し、かつ誘導された心臓前駆細胞が一定期間維持される方法、また、誘導した心臓前駆細胞から機能的に成熟した心筋細胞を作製するための方法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、線維芽細胞にレトロウイルスベクターおよびレトロウイルスを用いて1つの因子(Tbx6)を遺伝子導入すると、心臓前駆細胞のマーカーであるMesp1を発現する心臓前駆細胞が誘導され、増殖してコロニーを形成することを見出した。また、誘導された心臓前駆細胞では、複数の心臓前駆細胞遺伝子マーカーの発現が1ヶ月後も維持されることを見出した。
さらに、本発明者らは、3つの因子(Tbx6、SRF、Myocd)を、レトロウイルスベクターおよびレトロウイルスを用いて線維芽細胞に遺伝子導入すると、拍動する心筋細胞が誘導されること、および得られた細胞が心筋細胞のマーカーであるNxk2.5やトロポニンを発現することを見出した。
また、本発明者らは、3つの因子(Tbx6、SRF、Myocd)を、レトロウイルスベクターおよびレトロウイルスを用いて線維芽細胞に遺伝子導入すると、得られた細胞が平滑筋細胞のマーカーであるMyh11を発現すること、および血管内皮細胞のマーカーであるPecam1が発現することを見出した。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 線維芽細胞にTbx6遺伝子を導入する工程を含む、心臓前駆細胞の製造方法。
[2] 線維芽細胞にTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocardin遺伝子を導入する工程を含む、心筋細胞の製造方法。
前記線維芽細胞は、例えば、マウス細胞またはヒト細胞である。
[3] 外来性のTbx6遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心臓前駆細胞。
[4] 外来性のTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocardin遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心筋細胞。
[5] Tbx6遺伝子を含有する、線維芽細胞からの心臓前駆細胞の誘導剤。
[6] Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの心筋細胞の誘導剤。
[7] Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの平滑筋細胞の誘導剤。
[8] Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含有する、線維芽細胞からの血管内皮細胞の誘導剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、線維芽細胞から心臓前駆細胞を直接製造する方法および線維芽細胞から心筋細胞を直接製造する方法が提供される。また、本発明の方法により製造された心臓前駆細胞および心筋細胞を提供することが可能である。本発明により線維芽細胞から誘導された心臓前駆細胞は、複数の心臓前駆細胞遺伝子の発現が持続したことから、本発明は、従来の方法よりも安定した心臓前駆細胞の製造方法および心臓前駆細胞を提供することができる。心臓前駆細胞は、増殖能力を有するため、本発明により作製される心臓前駆細胞は、医療的使用に好ましく適用することが可能である。
また、本発明により誘導された心筋細胞は、拍動することが確認されており、また、心筋特異的な遺伝子発現や構造タンパク質の発現が確認されている。したがって、本発明の心筋製造方法は、機能的に成熟した心筋細胞を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、線維芽細胞にTbx6を遺伝子導入し、心臓前駆細胞を誘導する模式図である。
図2図2は、Tbx6を遺伝子導入した細胞における、GFP(Mesp1発現)の免疫染色(MespCre-GFP)、DAPI(核)の免疫染色、およびそれらを重ね合わせた(Merged)画像である。
図3図3は、Tbx6の遺伝子誘導1月後の細胞における、Mesp1、T、KDR、Nkx2.5およびTnnT2の各心臓分化のマーカーのmRNA発現量を示す図である。
図4図4は、線維芽細胞にTbx6、SRF、Myocd(TSM)を遺伝子導入し、拍動心筋細胞を誘導する模式図である。
図5図5は、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞が横紋構造をとること(明視野(BF))、および心臓トロポニンTを発現することを示す図である。
図6図6は、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞全体における、Mesp1、T、KDR、Nkx2.5およびTnnT2の各心臓分化のマーカーのmRNA発現量を示す図である。
図7図7は、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞における、平滑筋細胞のマーカーであるMyh11のmRNA発現量および血管内皮細胞のマーカーであるPecam1のmRNA発現量を示す図である。
図8図8は、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞が、Smooth muscle myosin heavy chainを発現することを示す免疫染色蛍光顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、線維芽細胞にTbx6を遺伝子導入することを含む、心臓前駆細胞の製造方法、および外来性のTbx6遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心臓前駆細胞に関する。
レトロウイルスによって線維芽細胞にTbx6を遺伝子導入させると、心臓前駆細胞特異的マーカーであるMesp1を発現する細胞が誘導される。Tbx6の導入30日後においても心臓前駆細胞関連遺伝子は発現し、心臓前駆細胞の状態が維持される。線維芽細胞中でTbx6ポリペプチドは発現され、その結果、Tbx6遺伝子を導入された線維芽細胞は、幹細胞や先祖細胞になることなく、分化した心臓前駆細胞に直接リプログラミングされる。
【0014】
すなわち、本発明の心臓前駆細胞の作製方法は、Tbx6を線維芽細胞に遺伝子導入する工程を含む。本発明の心臓前駆細胞の作製方法によれば、1因子のみを導入することから心臓前駆細胞を効率よく作製することができる。また、Tbx6導入1ヶ月後も心臓前駆細胞のマーカー遺伝子の発現が維持されているので、本発明により増殖能を有する心臓前駆細胞を安定に製造することができる。
【0015】
また、本発明は、線維芽細胞にTbx6、SRFおよびMyocardin(Myocd)を遺伝子導入することを含む、心筋細胞の製造方法、および外来性のTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含む、線維芽細胞由来の心筋細胞に関する。
Tbx6と共に、分化した心筋細胞において高発現するSRF, Myocdを加えた3因子(TSM)がレトロウイルスによって線維芽細胞に導入されると、拍動する成熟心筋細胞が誘導される。また、誘導された心筋細胞では、心筋特異的な遺伝子であるNkx2.5やトロポニンの発現、および横紋構造の形成が確認される。線維芽細胞中でTbx6、SRFおよびMyocdポリペプチドは発現し、その結果、Tbx6、SRFおよびMyocd遺伝子を導入された線維芽細胞は、幹細胞や先祖細胞になることなく、分化した心筋細胞に直接リプログラミングされる。
また、線維芽細胞にTbx6、SRFおよびMyocd遺伝子を導入すると、心筋細胞特異的な遺伝子発現だけでなく、心臓前駆細胞遺伝子(Mesp1, T, KDR)も誘導される。したがって、本発明によれば心臓前駆細胞を経由するため、心筋細胞、平滑筋細胞または血管内皮細胞を製造することができる。
【0016】
すなわち、本発明の心筋細胞の製造方法は、Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を線維芽細胞に遺伝子導入する工程を含む。本発明の心筋細胞の製造方法によれば、機能的に成熟した心筋細胞を作製することができる。
【0017】
このように、本発明は、Tbx6遺伝子が遺伝子導入された、線維芽細胞に由来する心臓前駆細胞、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子が遺伝子導入された、線維芽細胞に由来する心筋細胞が提供される。また、Tbx6遺伝子を含む心臓前駆細胞の誘導剤、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子、およびMyocd遺伝子を含む心筋細胞の誘導剤も提供される。また、線維芽細胞にTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を導入することにより、心筋細胞だけでなく、平滑筋細胞や内皮細胞も誘導されることから、本発明によりTbx6遺伝子、SRF遺伝子、およびMyocd遺伝子を含む平滑筋細胞誘導剤または内皮細胞誘導剤が提供される。
【0018】
[直接的なリプログラミング]
本発明において、Tbx6遺伝子を導入された線維芽細胞またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を導入された線維芽細胞は、幹細胞や先祖細胞になることなく、分化した心臓前駆細胞または心筋細胞に直接リプログラミングされる。
【0019】
[リプログラミング因子の導入]
本発明の一態様において、Tbx6遺伝子、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子のセットは、線維芽細胞にin vitroで導入され得る。また、当該線維芽細胞はin vitroで心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導される。誘導された心臓前駆細胞または心筋細胞は個体内に導入できる。
【0020】
本発明の別の態様において、Tbx6遺伝子、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子のセットは、線維芽細胞にin vivoで、例えば個体の心臓患部組織に導入され得る。また、当該線維芽細胞はin vivoで心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導される。
【0021】
本発明の別の態様において、Tbx6遺伝子、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子のセットは、線維芽細胞にin vitroで導入され得る。また、当該線維芽細胞は個体内に導入され、in vivoで心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導される。
【0022】
リプログラミング因子遺伝子(Tbx6遺伝子、SRF遺伝子またはMyocd遺伝子)の線維芽細胞への導入は、Tbx6をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、SRFをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、またはMyocdをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を線維芽細胞に導入することにより行うことができる。導入された線維芽細胞は、Tbx6、SRFまたはMyocdを発現することにより心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導される。したがって、Tbx6遺伝子を線維芽細胞に導入する工程は、Tbx6ポリペプチドを線維芽細胞に導入することを含むことができる。また、Tbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を線維芽細胞に導入する工程は、Tbx6ポリペプチド、SRFポリペプチドおよびMyocdポリペプチドを線維芽細胞に導入することを含むことができる。
【0023】
また、本発明の心臓前駆細胞製造方法または心筋細胞製造方法は、線維芽細胞をTbx6遺伝子を用いて形質転換する工程、または線維芽細胞をTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を用いて形質転換する工程を含み得る。また、本発明の心臓前駆細胞製造方法または心筋細胞製造方法は、線維芽細胞においてTbx6遺伝子を発現させる工程、または線維芽細胞においてTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を発現させる工程を含み得る。
【0024】
Tbx6遺伝子を導入した線維芽細胞、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を導入した線維芽細胞は、一定期間、例えば7〜14日、好ましくは7日の期間のうちに心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導される。例えば、線維芽細胞の集団が、Tbx6遺伝子、またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子のセットを導入される場合、集団の少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%が、例えば、7〜14日、好ましくは7日の期間の中に心臓前駆細胞または心筋細胞にリプロミングされる。
【0025】
本発明の心臓前駆細胞製造方法または心筋細胞製造方法は、線維芽細胞へのTbx6遺伝子またはTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子のセットの導入工程の一定期間(例えば、7〜14日、好ましくは7日)の後に、当該線維芽細胞の集団をソーティングする工程により、心臓前駆細胞または心筋細胞の割合を富化させることができる。線維芽細胞特異的マーカー、例えば、ビメンチン、ポリ1-4-ヒドロキシラーゼ、線維芽細胞特異的タンパク質、線維芽細胞表面抗原や1型コラーゲン等の発現陽性に関してソーティング工程を行うことにより、残存線維芽細胞がある場合にはそれを除去することができる。また心臓前駆細胞または心筋細胞に特異的なマーカーの発現に関してソーティング工程を行うことにより、それぞれの細胞の割合を富化することもできる。
【0026】
また、本発明の心臓前駆細胞製造方法または心筋細胞製造方法は、検出可能なマーカーをコードするヌクレオチド配列を含む核酸を線維芽細胞に導入する工程を含むことにより、ソーティング工程の手段を与え、あるいは、心臓前駆細胞または心筋細胞の誘導を確認する手段を与えることができる。検出可能なマーカーをコードするヌクレオチド配列は、心臓前駆細胞特異的プロモーターまたは心筋細胞特異的プロモーターに作動可能に連結しているか、あるいは、心臓前駆細胞特異的マーカーをコードするヌクレオチド配列または心筋細胞特異的マーカーをコードするヌクレオチド配列に連結する。検出可能なマーカーは、例えば、検出可能なシグナルを直接発生するポリペプチド、例えば、GFP、YEP、BFP等の蛍光タンパク質や、基質に対して作用する際に検出可能なシグナルを発生する酵素、例えば、ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ等が含まれる。心臓前駆細胞特異的プロモーターとしては、例えばMesp1、T、Flk1(KDR)のプロモーターが含まれる。また、心筋細胞に特異的なプロモーターは、例えばα-ミオシン重鎖プロモーター、cTnTプロモーターなどが含まれる。検出可能なマーカーの発現は、心臓前駆細胞または心筋細胞の検出を可能にすることができ、その結果、心臓前駆細胞または心筋細胞の誘導の確認、あるいは、誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞のソーティングの手段を与えることができる。
【0027】
本明細書において、「作動可能に連結する」とは、転写、翻訳等のような所望の機能を与える核酸間の機能的連結を指す。例えば、プロモーターやシグナル配列などの核酸発現制御配列と第二のポリヌクレオチドとの間の機能的連結を含む。発現制御配列は第2のポリヌクレオチドの転写および/または翻訳に影響する。
【0028】
[線維芽細胞]
本発明においては、線維芽細胞は、哺乳類の線維芽細胞、例えば、ヒト、またはマウス、ラット、ブタ、サル、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ等のヒト以外の哺乳動物の線維芽細胞を使用することができる。好ましくは、線維芽細胞はヒト線維芽細胞である。他の実施形態においては、線維芽細胞はマウス線維芽細胞である。線維芽細胞は哺乳動物から得られる線維芽細胞、または哺乳動物から得られる線維芽細胞の子孫であり、単離されたものであってもよく、また、その継代培養細胞であってもよい。線維芽細胞としては、例えば、胎児線維芽細胞、尾先端部由来線維芽細胞、心臓線維芽細胞、包皮線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞等を用いることができる。
【0029】
線維芽細胞の培養に用いる培地は、MEM、DMEM、IMDM培地など、当業者であれば適宜選択または調製することができる。線維芽細胞は、血清存在下または血清非存在下で培養することができる。培養は、線維芽細胞の培養に適した条件であれば特に制限されるものではなく、通常、25℃〜37℃の範囲で、5%CO2条件下で行われる。
【0030】
[リプログラミング因子]
本発明の心臓前駆細胞または心筋細胞の製造方法において、線維芽細胞は、1つ以上のリプログラミング因子をコードするヌクレオチド配列を含む核酸の1つ以上を導入され得る。または、本発明の心臓前駆細胞または心筋細胞の製造方法において、線維芽細胞は、リプログラミング因子ポリペプチド自体の1つ以上を線維芽細胞内に導入され得る。本発明において、リプログラミング因子は、心臓前駆細胞を製造する場合はTbx6であり、心筋細胞を製造する場合はTbx6、SRFおよびMyocd(TSM)である。Tbx6、SRFおよびMyocdは、一度にまたは順次に細胞に導入することができる。一度に細胞に導入するとは、複数のリプログラミング因子を、1回の細胞導入工程で細胞に導入することであり、順次とは、複数のリプログラミング因子を同日または異なる日に複数の細胞導入工程で細胞に導入することである。細胞導入効率の観点からいえば、複数のリプログラミング因子を一度に細胞に導入することが好ましい。また、本発明のリプログラミング因子のアミノ酸配列およびアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は当分野で公知である。
【0031】
[Tbx6]
Tbx6ポリペプチド(Tbox転写因子6)は、一部の遺伝子のプロモーター領域におけるTボックスと結合してこれを認識する転写因子である。種々の種に由来するTbx6ポリペプチドに関するアミノ酸配列、およびTbx6ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が知られている。例えば、Genbankアクセッション番号NM_004608.3(ヒト、ヌクレオチド配列、配列番号1、CDS 61..1371)、NP_004599.2(ヒト、アミノ酸配列、配列番号2)、NM_011538.2(マウス、ヌクレオチド配列、配列番号3、CDS 25..1335)、NP_035668.2(マウス、アミノ酸配列、配列番号4)等を参照することができる。
【0032】
また、本発明の一態様において、Tbx6ポリペプチドは、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、線維芽細胞に導入された場合に心臓前駆細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0033】
また、本発明の一態様において、Tbx6ポリペプチドは、配列番号2または配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜50個、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個)のアミノ酸が、欠失、置換、挿入あるいは付加またはそれらの組み合わせられたアミノ酸配列を有し、線維芽細胞に導入された場合に心臓前駆細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0034】
また、本発明の一態様において、Tbx6ポリペプチドは、配列番号1または配列番号3で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有し、線維芽細胞に導入された場合に心臓前駆細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0035】
また、本発明の一態様において、Tbx6遺伝子(核酸)は、配列番号1または配列番号3で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、コードするポリペプチドが線維芽細胞に導入された場合に心臓前駆細胞に誘導する機能を有する核酸を含む。
【0036】
[SRF]
種々の種に由来するSRFポリペプチドに関するアミノ酸配列、およびSRFポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が知られている。例えば、Genbankアクセッション番号NM_003131.3(ヒト、ヌクレオチド配列、配列番号5、CDS 363..1889)、NP_003122.1(ヒト、アミノ酸配列、配列番号6)、NM_020493.2(マウス、ヌクレオチド配列、配列番号7、CDS 335..1849)、NP_065239.1(マウス、アミノ酸配列、配列番号8)等を参照することができる。
【0037】
また、本発明の一態様において、SRFポリペプチドは、配列番号6または配列番号8で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Tbx6、Myocardinと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0038】
また、本発明の一態様において、SRFポリペプチドは、配列番号6または配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜60個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜25個、さらに好ましくは1〜13個(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13個)のアミノ酸が、欠失、置換、挿入あるいは付加またはそれらの組み合わせられたアミノ酸配列を有し、Tbx6、Myocardinと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0039】
また、本発明の一態様において、SRFポリペプチドは、配列番号5または配列番号7で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有し、Tbx6、Myocardinと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0040】
また、本発明の一態様において、SRF核酸は、配列番号5または配列番号7で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、コードするポリペプチドが、Tbx6、Myocardinと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有する核酸を含む。
【0041】
[Myocardin](Myocd)
種々の種に由来するMyocardinポリペプチドに関するアミノ酸配列、およびMyocardinポリペプチドをコードするヌクレオチド配列が知られている。例えば、Genbankアクセッション番号NM_001146312.2(ヒト、ヌクレオチド配列、配列番号9、CDS 300..3260)、NP_001139784.1(ヒト、アミノ酸配列、配列番号10)、NM_145136.4(マウス、ヌクレオチド配列、配列番号11、CDS 292..3243)、NP_660118.3(マウス、アミノ酸配列、配列番号12)等を参照することができる。
【0042】
また、本発明の一態様において、Myocardinポリペプチドは、配列番号10または配列番号12で表されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、Tbx6、SRFと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0043】
また、本発明の一態様において、Myocardinポリペプチドは、配列番号10または配列番号12で表されるアミノ酸配列において、1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜30個、さらに好ましくは1〜20個(例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個)のアミノ酸が、欠失、置換、挿入あるいは付加またはそれらの組み合わせられたアミノ酸配列を有し、Tbx6、SRFと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0044】
また、本発明の一態様において、Myocardinポリペプチドは、配列番号9または配列番号11で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有し、Tbx6、SRFと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有するポリペプチドを含む。
【0045】
また、本発明の一態様において、Myocardin遺伝子(核酸)は、配列番号9または配列番号11で表されるヌクレオチド配列と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有し、コードするポリペプチドが、Tbx6、SRFと共に線維芽細胞に導入された場合に心筋細胞に誘導する機能を有する核酸を含む。
【0046】
これまでに、転写因子(Mesp1、Ets2)と複数の液性因子を用いることにより、線維芽細胞から心臓前駆細胞を介して機能的に未熟な心筋様細胞を作製できることが報告されている(非特許文献2)。本発明においては、このような転写因子を線維芽細胞に導入することは必要としないし、また、このような転写因子と液性因子を組み合わせることも必要としない。
【0047】
[心臓前駆細胞]
本発明において「心臓前駆細胞」は、心臓前駆細胞に特異的なマーカーを発現することにより特徴付けられる細胞である。心臓前駆細胞に特異的なマーカーは、心臓前駆細胞に特異的に発現する因子(心臓前駆細胞関連因子)であり、T、Mesp1、Flk1(KDR)、Pdgfrα、Isl1などが含まれる。心臓前駆細胞は、心臓前駆細胞に特異的なマーカーのうちの少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、さらに好ましくは少なくとも3つを発現する。心臓前駆細胞は、好ましくは、T、Mesp1、およびFlk1(KDR)を発現する細胞である。マーカー発現は、遺伝子レベルまたはタンパク質レベルにより確認することができる。
また、本発明においては、心臓前駆細胞は線維芽細胞から誘導されることから、誘導心臓前駆細胞と称することもある。
【0048】
[心筋細胞]
本発明において「心筋細胞」は、心筋細胞に特異的なマーカーを発現することにより特徴付けられる細胞である。心筋細胞に特異的なマーカーは、心筋細胞に特異的に発現する因子(心筋細胞関連因子)であり、心トロポニン(cTnT)、Nkx2.5、Actn2などが含まれる。心筋細胞は、心筋細胞に特異的なマーカーのうちの少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、さらに好ましくは少なくとも3つを発現する。心筋細胞は、好ましくは、cTnT、およびNkx2.5を発現する細胞である。
【0049】
また、本発明において「心筋細胞」は拍動することにより特徴付けられ得る。さらにまた、本発明において「心筋細胞」は、横紋構造を形成することによって特徴付けられ得る。
また、本発明においては、心筋細胞は線維芽細胞から誘導されることから、誘導心筋細胞と称することもある。
【0050】
心臓前駆細胞または心筋細胞に特異的な種々のマーカーの発現は、生化学的または免疫化学的な手法(例えば、酵素結合免疫吸着試験、免疫組織化学試験等)により検出することができる。または、心臓前駆細胞または心筋細胞に特異的な種々のマーカーをコードする核酸の発現を測定することにより検出することもできる。心臓前駆細胞または心筋細胞に特異的な種々のマーカーをコードする核酸の発現は、RT-PCR、ハイブリダイゼーション等の分子生物学的手法により確認することができる。これらの手法に用いるプライマーやプローブは、Genbankなどのデータベースより入手可能な情報を用いて、当業者であれば適宜設計し、製造することができる。
【0051】
また、心筋細胞の拍動は、目視または明視野像により確認することができる。また、パッチクランプなどの標準的な電気生理学的方法により、自発的収縮を確認することもできる。
【0052】
また、心筋細胞の横紋構造形成は、目視または明視野像により確認することができる。また、トロポニン等の心筋構造に寄与するタンパク質の免疫染色によっても確認することができる。
【0053】
[線維芽細胞への外来性リプログラミング因子ポリペプチドの導入]
本明細書において「外来性」とは、その細胞に導入される(例えば、エレクトロポレーション、感染、リポフェクション、マイクロインジェクションまたは細胞内に核酸を導入するいずれかの他の手段による)核酸またはポリペプチドを指す。
【0054】
本発明の一態様において、外来性リプログラミング因子は、Tbx6、SRFおよび/またはMyocdのポリペプチドを、線維芽細胞に接触させることにより導入させることもできる。Tbx6、SRF、Myocdのポリペプチドは、それぞれ、公知のデータベースのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列の情報に基づき、遺伝子工学的、分子生物学的に製造することができる。
【0055】
[線維芽細胞への外来性リプログラミング因子遺伝子の導入]
外来性リプログラミング因子(Tbx6、SRF、Myocd)遺伝子の導入、すなわち、これらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、またはそのヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドの導入は、例えば、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクター等のウイルスベクターを用いたウイルス感染、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法等の公知の形質転換方法により行うことができる。
【0056】
本発明の別の実施態様においては、線維芽細胞内への外来性リプログラミング因子ポリペプチド(Tbx6あるいはTbx6、SRF、Myocdのセット)の導入は、当該リプログラミング因子ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸を線維芽細胞に導入することにより達成される。外来性リプログラミング因子の由来する種と線維芽細胞の由来する種は、例えば、ヒトとヒト、マウスとマウスなど、一致することが好ましい。
【0057】
本発明における外来性リプログラミング因子ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸は、発現カセットを含む組換え発現ベクターの形態であることができ、その場合、適当なベクターは例えば組換えレトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノウイルス;レトロウイルス発現ベクター、レンチウイルス発現ベクター、核酸発現ベクター、およびプラスミド発現ベクターを包含する。本発明の別の態様において、外来性核酸は線維芽細胞およびその子孫のゲノム内に組み込まれる。
【0058】
本発明の実施態様においては、線維芽細胞はTbx6、SRF、またはMyocdのそれぞれをコードするヌクレオチド配列を各々が含む、別個の発現コンストラクト(発現ベクター)により形質転換される。本発明の別の実施態様においては、発現コンストラクトはTbx6、SRF、またはMyocdの2つ以上をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。本発明の実施態様においては、発現コンストラクトはTbx6、SRF、およびMyocdをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0059】
本発明においては、Tbx6ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸、あるいはTbx6、SRFおよびMyocdポリペプチドの1つ以上をコードするヌクレオチド配列を含む外来性核酸は、in vitroで単一の線維芽細胞または線維芽細胞の集団に、あるいは、in vivoで単一の線維芽細胞または線維芽細胞の集団に導入される。
【0060】
本発明の別の実施態様においては、Tbx6ポリペプチド、またはTbx6、SRFおよびMyocdポリペプチドの1つ以上をコードするヌクレオチド配列を含む核酸は、線維芽細胞中のリプログラミング因子ポリペプチドの生産を可能にする発現コンストラクトであり得る。本発明の別の実施態様においては、発現コンストラクトはウイルスコンストラクト、例えば組換えアデノ関連ウイルスコンストラクト(例えば米国特許第7,078,387参照)、組換えアデノウイルスコンストラクト、組換えレンチウイルスコンストラクト等である。
【0061】
適当な発現ベクターは、ウイルスベクター(例えば、ワクシニアウイルス系ウイルスベクター;ポリオウイルス;アデノウイルス(例えばLi等、Invest Opthalmol Vis Sci 35:2543 2549,1994;Borras等、Gene Ther 6:515 524,1999;Li and Davidson,PNAS 92:7700 7704,1995;Sakamoto等、H Gene Ther 5:1088 1097,1999;国際特許出願公開94/12649,国際特許出願公開93/03769;国際特許出願公開93/19191;国際特許出願公開94/28938;国際特許出願公開95/11984および国際特許出願公開95/00655参照);アデノ関連ウイルス(例えばAli等、Hum Gene Ther 9:81 86,1998,Flannery等、PNAS 94:6916 6921,1997;Bennett等、Invest Opthalmol Vis Sci38:2857-2863,1997;Jomary等、Gene Ther4:683-690,1997,Rolling等、Hum Gene Ther 10:641 648,1999;Ali等、Hum Mol Genet 5:591-594,1996;Srivastava、国際特許出願公開93/09239、Samulski等、J. Vir.(1989)63:3822 3828;Mendelson等、Virol. (1988)166:154 165;およびFlotte等、PNAS(1993)90:10613-10617参照);SV40;単純疱疹ウイルス;ヒト免疫不全ウイルス(例えばMiyoshi等、PNAS94:10319-23,1997;Takahashi等、J Virol73:7812 7816,1999参照);レトロウイルスベクター(例えば、ネズミ白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、およびレトロウイルスから派生させたベクター、例えばラウス筋節ウイルス、ハーベイ筋節ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性筋節ウイルス、乳癌ウイルス)等を包含するが、これらに限定されない。
【0062】
多くの適当な発現ベクターが当該分野で知られており、そして多くのものが商業的に入手可能である。以下のベクターが例示のため提示され、真核生物宿主細胞に関してはpXT1、pSG5(Stratagene)、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVLSV40(Pharmacia)が挙げられる。しかしながら、何れかの他のベクターも、宿主細胞と適合する限りにおいて使用することができる。
【0063】
使用する宿主/ベクター系に応じて、多くの適当な転写および翻訳の制御エレメントの何れか、例えば、構成および誘導プロモーター、転写エンハンサーエレメント、転写ターミ・BR>Lーター等を発現ベクター中で使用してよい(例えばBITTER等、(1987)METHODS IN ENZYMOLOGY,153:516-544参照)。
【0064】
本発明の別の実施態様においては、リプログラミング因子をコードするヌクレオチド配列(例えば、Tbx6 CDR配列、SRF CDR配列、Myocd CDR配列)は制御エレメント、例えば転写制御エレメント、例えばプロモーターに作動可能に連結させてもよい。転写制御エレメントは真核生物細胞、例えば哺乳類細胞において機能する。適当な転写制御エレメントはプロモーターおよびエンハンサーを包含する。本発明の別の実施態様においては、プロモーターは構成的に活性である。他の実施形態において、プロモーターは誘導性である。
【0065】
適当な真核生物プロモーター(真核生物細胞中で機能するプロモーター)の非限定的な例はCMV最初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルス由来ロングターミナルリピート(LTR)、およびマウスメタロチオネイン−Iを包含する。
【0066】
本発明の別の実施態様においては、リプログラミング因子をコードするヌクレオチド配列は心特異的転写制御エレメント(TRE)に作動可能に連結しており、その場合TREはプロモーターおよびエンハンサーを包含することができる。適当なTREは、以下の遺伝子、すなわち、ミオシン軽鎖−2、α−ミオシン重鎖、AE3、心トロポニンC、および心アクチンから派生させたTREを包含するが、これらに限定されない(Franz等、(1997)Cardiovasc.Res.35:560-566;Robbins等、(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci.752:492-505;Linn等、(1995)Circ.Res.76:584-591;Parmacek等、(1994)Mol.Cell.Biol.14:1870-1885;Hunter等、(1993)Hypertension 22:608-617;およびSartorelli等、(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:4047-4051.)。
【0067】
適切なベクターおよびプロモーターの選択は当該分野で良く知られている。発現ベクターは、翻訳開始および転写開始のためのリボソーム結合部位を含有してよい。発現ベクターは発現を増幅するための適切な配列を包含してよい。
【0068】
適当な哺乳類発現ベクター(哺乳類宿主細胞における使用に適する発現ベクター)の例は、組換えウイルス、核酸ベクター、例えばプラスミド、細菌人工染色体、コウボ人工染色体、ヒト人工染色体、cDNA、cRNA、およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物発現カセットを包含するが、これらに限定されない。Tbx6、SRF、Myocdをコードするヌクレオチド配列の発現を駆動するための適当なプロモーターの例は、レトロウイルスロングターミナルリピート(LTR)エレメント;構成的プロモーター、例えばCMV、HSV1−TK、SV40、EF−1α、β−アクチン;ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、および誘導プロモーター、例えばTet−オペレーターエレメントを含有するものを包含するが、これらに限定されない。一部の場合において、哺乳類発現ベクターは外来性のTbx6、SRF、Myocdポリペプチドのほかに、トランスフェクトまたは感染されている細胞の識別または選択を容易にするマーカー遺伝子をコードしてもよい。マーカー遺伝子の例は蛍光タンパク質、例えば増強緑色蛍光タンパク質、Ds−Red(DsRed:Discosomasp.赤色蛍光タンパク質(RFP);Bevis and Glick(2002)Nat. Biotechnol.20:83)、黄色蛍光タンパク質、およびシアノ蛍光タンパク質をコードする遺伝子;および選択剤に対する耐性を付与するタンパク質をコードする遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ブラスチシジン耐性遺伝子等を包含するが、これらに限定されない。
【0069】
適当なウイルスベクターの例は、レトロウイルス系のウイルスベクター(レンチウイルスを包含する);アデノウイルス;およびアデノ関連ウイルスを包含するが、これらに限定されない。適当なレトロウイルス系ベクターの例は、ネズミモロニー白血病ウイルス(MMLV)系のベクターであるが;他の組換えレトロウイルスも使用してよく、例えばトリ白血症ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネズミ白血病ウイルス(MLV)、ミンク細胞フォーカス誘導ウイルス、ネズミ筋節ウイルス、網内皮症ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、Mason Pfizerサルウイルス、またはラウス筋節ウイルスが挙げられ、例えば米国特許6,333,195を参照できる。
【0070】
別の場合においては、レトロウイル系ベクターはレンチウイルス系ベクター(例えば、ヒト免疫不全ウイルス-1 (HIV-1);サル免疫不全ウイルス(SIV);またはネコ免疫不全ウイルス(FIV))であり、例えばJohnston等、(1999),Journal of Virology,73(6):4991-5000 (FIV);Negre D等、(2002),Current Topics in Microbiology and Immunology,261:53-74(SIV); Naldini等、(1996),Science,272:263-267(HIV)を参照できる。
【0071】
組換えレトロウイルスは標的細胞内への進入を支援するためにウイルスポリペプチド(例えばレトロウイルスenv)を含んでよい。そのようなウイルスポリペプチドは当該分野で十分樹立されており、例えば米国特許5,449,614を参照できる。ウイルスポリペプチドは両栄養性ウイルスポリペプチド、例えば両栄養性envであってよく、これは、元の宿主種の外にある細胞を包含する多数の種から派生された細胞内への進入を支援する。ウイルスポリペプチドは元の宿主種の外にある細胞内への進入を支援する異種栄養性ウイルスポリペプチドであってよい。本発明の別の実施態様においては、ウイルスポリペプチドはエコトロピックウイルスポリペプチド、例えばエコトロピックenvであり、これは元の宿主種の細胞内への進入を支援する。
【0072】
細胞内へのレトロウイルスの進入を支援することができるウイルスポリペプチドの例はMMLV両栄養性env、MMLVエコトロピックenv、MMLV異種栄養性env、水痘性口内炎ウイルス−gタンパク質(VSV−g)、HIV−1env、テナガザル白血病ウイルス(GALV)env、RD114、FeLV−C、FeLV−B、MLV10A1env遺伝子、およびこれらの変異体、例えばキメラを包含するが、これらに限定されない。例えばYee等、(1994),Methods Cell Biol.,PtA:99-112(VSV-G);米国特許5,449,614を参照できる。一部の場合において、ウイルスポリペプチドは発現または受容体への増強された結合を促進するために遺伝子的に修飾される。
【0073】
一般的に、組換えウイルスはプロデューサー細胞内にウイルスDNAまたはRNAコンストラクトを導入することにより生産される。一部の場合において、プロデューサー細胞は外来性遺伝子を発現しない。別の場合においては、プロデューサー細胞は1つ以上の外来性遺伝子、例えば1つ以上のgag、pol、またはenvポリペプチドおよび/または1つ以上のレトロウイルスgag、pol、またはenvポリペプチドをコードする遺伝子を含む「パッケージング細胞」である。レトロウイルスパッケージング細胞はウイルスポリペプチドをコードする遺伝子、例えば標的細胞内への進入を支援するVSV−gを含んでよい。一部の場合において、パッケージング細胞は1つ以上のレンチウイルスタンパク質、例えばgag、pol、env、vpr、vpu、vpx、vif、tat、rev、またはnefをコードする遺伝子を含む。一部の場合において、パッケージング細胞はアデノウイルスタンパク質、例えばE1AまたはE1Bまたは他のアデノウイルスタンパク質をコードする遺伝子を含む。例えば、パッケージング細胞により供給されるタンパク質は、レトロウイルス派生タンパク質、例えばgag、pol、およびenv;レンチウイルス派生タンパク質、例えばgag、pol、env、vpr、vpu、vpx、vif、tat、rev、およびnef;およびアデノウイルス派生タンパク質、例えばE1AおよびE1Bであってよい。多くの例において、パッケージング細胞はウイルスベクターの派生元のウイルスとは異なるウイルスから派生させたタンパク質を供給する。
【0074】
パッケージング細胞系統は何れかの容易にトランスフェクションできる細胞系統を包含するが、これらに限定されない。パッケージング細胞系統は293T細胞、NIH3T3、COSまたはHeLa細胞系統に基づくものであることができる。パッケージング細胞は頻繁には、ウイルスパッケージングのために必要なタンパク質をコードする遺伝子少なくとも1つにおいて欠失があるウイルスベクタープラスミドをパッケージングするために使用される。そのようなウイルスベクタープラスミドによりコードされるタンパク質から欠失しているタンパク質またはポリペプチドを供給できる何れかの細胞をパッケージング細胞として使用してよい。パッケージング細胞系統の例はPlatinum−E(Plat−E);Platinum−A(Plat−A);BOSC23(ATCCCRL11554);およびBing(ATCC CRL 11270)を包含するが、これらに限定されず、例えばMorita等、(2000),Gene Therapy,7:1063-1066; Onishi等、(1996)、Experimental Hematology,24:324-329;米国特許6,995,009を参照できる。市販されているパッケージング系統も有用であり、例えばAmpho−Pak293細胞系統、Eco−Pak2−293細胞系統、RetroPackPT67細胞系統、およびRetro−XUniversalPackagingSystem(全て入手元はClontech)が挙げられる。
【0075】
レトロウイルスコンストラクトはある範囲のレトロウイルス、例えばMMLV、HIV−1、SIV、FIV、または本明細書に記載する他のレトロウイルスから派生させて良い。レトロウイルスコンストラクトは特定のウイルスの複製1サイクル超のために必要な全てのウイルスポリペプチドをコードしてよい。一部の場合において、ウイルス進入の効率は他の因子または他のウイルスポリペプチドの追加により改善する。別の場合においては、レトロウイルスコンストラクトによりコードされるウイルスポリペプチドは米国特許6,872,528に記載されるとおり、1サイクルより多い複製を支援しない。そのような状況においては、他の因子または他のウイルスポリペプチドの追加によりウイルス進入促進を支援できる。例示される実施形態においては、組換えレトロウイルスはVSV−gポリペプチドを含むがHIV−1envポリペプチドを含まないHIV−1ウイルスである。
【0076】
レトロウイルスコンストラクトはプロモーター、マルチクローニングサイト、および/または耐性遺伝子を含んでよい。プロモーターの例はCMV、SV40、EF1α,β−アクチン;レトロウイルスLTRプロモーターおよび誘導プロモーターを包含するが、これらに限定されない。レトロウイルスコンストラクトは又パッケージングシグナル(例えばMFGベクターから派生させたパッケージングシグナル;psiパッケージングシグナル)を含んでよい。当該分野で知られている一部のレトロウイルスコンストラクトの例はpMX、pBabeXまたはこれらの派生物を包含するが、これらに限定されない。例えばOnishi等、(1996),Experimental Hematology,24:324-329を参照できる。一部の場合において、レトロウイルスコンストラクトは自己不活性化レンチウイルスベクター(SIN)ベクターであり、例えばMiyoshi等、(1998),J.Virol.,72(10):8150-8157を参照できる。一部の場合において、レトロウイルスコンストラクトはLL−CG、LS−CG、CL−CG、CS−CG、CLGまたはMFGである。Miyoshi等、(1998),J.Virol.,72(10):8150-8157;Onishi等、(1996),Experimental Hematology,24:324-329;Riviere等、(1995),PNAS,92:6733-6737を参照できる。ウイルスベクタープラスミド(またはコンストラクト)はpMXs、pMxs−IB、pMXs−puro、pMXs−neo(pMXs−IBはpMXs−puroのピューロマイシン耐性遺伝子の代わりにブラスチシジン耐性遺伝子を担持しているベクターである)Kimatura等、(2003),Experimental Hematology,31:1007-1014;MFG Riviere等、(1995),Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,92:6733-6737;pBabePuro;Morgenstern等、(1990),Nucleic Acids Research,18:3587-3596;LL-CG,CL-CG,CS-CG,CLG Miyoshi等、(1998),Journal of Virology,72:8150-8157等をレトロウイルス系として、そしてpAdex1;Kanegae等、(1995),Nucleic Acids Research,23:3816-3821等をアデノウイルス系として包含する。例示される実施形態においては、レトロウイルスコンストラクトはブラスチシジン(例えば、pMXs−IB)、ピューロマイシン(例えば、pMXs−puro、pBabePuro);またはネオマイシン(例えば、pMXs−neo)を含む。例えばMorgenstern等、(1990),Nucleic Acids Research、8:3587-3596を参照できる。
【0077】
パッケージング細胞から組換えウイルスを生産する方法およびそれらの使用は十分確立されており;例えば米国特許5,834,256;6,910,434;5,591,624;5,817,491;7,070,994;および6,995,009を参照できる。多くの方法がウイルスコンストラクトをパッケージング細胞系統に導入することから開始する。ウイルスコンストラクトは、リン酸カルシウム法、リポフェクション法(Felgner等、(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.84:7413-7417)、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、フュージーントランスフェクション等、および本明細書に記載する何れかの方法を包含するが、これらに限定されない。何れかの当該分野で知られている方法により宿主線維芽細胞に導入してよい。
【0078】
核酸コンストラクトは細胞の非ウイルス系トランスフェクションのような種々の良く知られた手法を用いて宿主細胞内に導入できる。例示される側面において、コンストラクトはベクター内に取り込まれ、そして宿主細胞内に導入される。細胞への導入はエレクトロポレーション、リン酸カルシウム媒介移行、ヌクレオフェクション、ソノポレーション、熱ショック、マグネトフェクション、リポソーム媒介移行、マイクロインジェクション、マイクロプロジェクタイル媒介移行(ナノ粒子)、カチオン重合体媒介移行(DEAEデキストラン、ポリエチレンイミン、ポリエチレングリコール(PEG)等)または細胞融合を包含するが、これらに限定されない。当該分野で知られている何れかの非ウイルス系トランスフェクションにより実施してよい。トランスフェクションの他の方法はトランスフェクション試薬、例えばLipofectamine、Dojindo Hilymax、Fugene、jetPEI、Effectene、およびDreamFectを包含する。
【0079】
[外来性遺伝子を含む線維芽細胞]
本発明は、外来性のTbx6遺伝子を含む線維芽細胞を含む。また、本発明は外来性のTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含む、線維芽細胞を含む。本発明の別の実施態様においては、本発明の外来性遺伝子を含む線維芽細胞はin vitroの状態にある。本発明の別の実施態様においては、本発明の外来性遺伝子を含む線維芽細胞は哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞であるか、またはヒト細胞から誘導されている。
【0080】
[外来性遺伝子を含む、線維芽細胞に由来する心臓前駆細胞または心筋細胞]
本発明は、さらに上記の心臓前駆細胞または心筋細胞の製造方法により製造される、線維芽細胞に由来する心臓前駆細胞(誘導心臓前駆細胞、心臓前駆細胞様細胞)または心筋細胞(誘導心筋細胞、心筋様細胞)に関する。本発明において「線維芽細胞由来」の心臓前駆細胞あるいは心筋細胞は、線維芽細胞から誘導された心臓前駆細胞または心筋細胞を意味する。本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞は、外来性遺伝子を含む線維芽細胞から誘導されるため、本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞も、また、外来性のTbx6遺伝子、または外来性のTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を含む。本発明の別の実施態様においては、本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞はin vitroの形態にある。本発明の別の実施態様においては、本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞は、ヒト細胞などの哺乳動物の細胞であるか、またはヒト細胞などの哺乳動物から派生されている。
【0081】
線維芽細胞から誘導された細胞が心臓前駆細胞であることは、前述のとおり心臓前駆細胞に特異的なマーカーの発現により確認することができる。このように心臓前駆細胞に特異的なマーカーの発現が確認された細胞は、心臓前駆細胞様細胞とも称される。
同様に、線維芽細胞から誘導された細胞が心筋細胞であることは、前述のとおり心筋細胞に特異的なマーカーの発現により確認することができる。このように心臓前駆細胞に特異的なマーカーの発現が確認された細胞は、心筋様細胞とも称される。
マーカー発現は、遺伝子レベルまたはタンパク質レベルにより確認することができる。
【0082】
本発明の誘導心臓前駆細胞は、線維芽細胞から誘導された後一定期間以上、心臓前駆細胞として維持され得る。すなわち、本発明の方法により誘導された心臓前駆細胞は、線維芽細胞へのTbx6遺伝子の導入後、心臓前駆細胞に特異的なマーカー、例えば、T、Mesp1、またはFlk1(KDR)を一定期間(例えば、3週、4週、5週)以上発現することを特徴の1つとすることができる。
【0083】
本発明は、外来性遺伝子を含む線維芽細胞または外来性遺伝子を含む、線維芽細胞に由来する心臓前駆細胞または心筋細胞を含む組成物をも提供する。本発明の組成物は上記線維芽細胞または誘導心臓前駆細胞もしくは誘導心筋細胞を含み、さらに、適当な成分として塩;緩衝剤;安定化剤;プロテアーゼ阻害剤;細胞膜および/または細胞壁保存化合物、例えばグリセロール、ジメチルスルホキシド等;細胞に適する栄養培地等を包含してもよい。
【0084】
[誘導剤]
本発明は、線維芽細胞からの心臓前駆細胞誘導剤、または線維芽細胞からの心筋細胞誘導剤をも提供する。また、線維芽細胞にTbx6遺伝子、SRF遺伝子およびMyocd遺伝子を導入することにより平滑筋細胞や内皮細胞も誘導されることから、本発明は線維芽細胞からの平滑筋細胞誘導剤または血管内皮細胞誘導剤をも提供する。
【0085】
本発明の別の実施態様においては、本発明の心臓前駆細胞誘導剤は、1)Tbx6ポリペプチドまたは2)Tbx6ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸のいずれかを少なくとも含む。本発明の別の実施態様においては、本発明の心筋細胞誘導剤、平滑筋細胞誘導剤または血管内皮細胞誘導剤は、1)Tbx6ポリペプチド、SRFポリペプチド、Myocdポリペプチドの混合物または2)Tbx6ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、SRFポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸、Myocdポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む核酸の混合物のいずれかを少なくとも含む。
本発明の誘導剤は、上記ポリペプチドまたは核酸に加えて、塩、例えばNaCl、MgCl、KCl、MgSO等;緩衝剤、例えばトリス緩衝液、N-(2-ヒロドキシエチル)ピペラジン-N'-(2-エタンスルホン酸(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、2-(N−モルホリノ)エタンスルホン酸ナトリウム塩(MES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−トリス[ヒドロキシメチル]メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS);等、可溶化剤;洗剤、例えばノニオン系洗剤、例えばTween−20;等、プロテアーゼ阻害剤;グリセロール;等の1つ以上を含むことができる。また、本発明の誘導剤は、リプログラミング因子のポリペプチドまたは核酸を線維芽細胞に導入するための試薬を含むことができる。
【0086】
本発明の誘導剤は個体(例えば、心臓組織内)に直接投与することができる。本発明の誘導剤は線維芽細胞を心臓前駆細胞または心筋細胞、平滑筋細胞、血管内皮細胞に誘導するのに有用であり、この誘導はin vitroまたはin vivoにおいて実施できる。線維芽細胞を心臓前駆細胞または心筋細胞に誘導することは、種々の心臓障害を治療するために使用できる。
【0087】
したがって、本発明の誘導剤は薬学的に許容しうる賦形剤を包含してもよい。適当な賦形剤は例えば、水、食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等、およびこれらの組み合わせである。さらにまた、所望により、少量の補助的物質、例えば水和剤、または乳化剤、または緩衝剤を含有してよい。そのような剤型を調製する実際の方法は知られている。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvania、17th edition、1985を参照できる。
【0088】
薬学的に許容しうる賦形剤、例えばベヒクル、アジュバント、担体または希釈剤は容易に入手できる。さらに、薬学的に許容しうる補助的物質、例えばpH調節剤および緩衝剤、張力調節剤、安定化剤、水和剤等は容易に購入することもできる。
【0089】
[細胞を用いた治療方法]
本発明の外来性の遺伝子を含む線維芽細胞は、治療の必要な個体においてそのような治療のために使用できる。同様に、本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞は治療の必要な個体においてそのような治療のために使用できる。本発明の外来性の遺伝子を含む線維芽細胞、または本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞は、レシピエント個体(治療の必要な個体)中に導入することができ、その場合、本発明の外来性の遺伝子を含む線維芽細胞、または本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞のレシピエント個体への導入は、個体における状態または障害を治療する。したがって、本発明は、本発明の外来性の遺伝子を含む線維芽細胞、または本発明の誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞を個体に投与することを含む治療方法に関する。
【0090】
例えば、一部の実施形態においては、本発明の治療方法は、i)in vitroで誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞を発生させること;およびii)誘導心臓前駆細胞または誘導心筋細胞をそれを要する個体中に導入すること、を含む。
【0091】
また、本発明は、in vivoで心臓組織内で線維芽細胞をリプログラミングする方法を提供する。本方法は、個体の治療に利用することができる。一部の実施形態においては、本発明の治療方法は、誘導剤またはリプログラミング因子を含む組成物をin vivoで個体の線維芽細胞に接触させることを包含する。接触は、本発明の誘導剤またはリプログラミング組成物を、治療部位またはその近傍において、例えば心臓の中または周囲において、個体に投与することを含む。投与の方法としては、例えば、末端の動脈に挿入したカテーテルを心臓患部近傍まで導き、カテーテルの先端から線維化した患部組織に本発明の誘導剤またはリプログラミング因子を含む組成物を注入して接触させる方法が挙げられる。
【0092】
本発明の治療方法は、心臓または心臓血管の疾患または障害、例えば心臓血管疾患、動脈瘤、狭心症、不整脈、アテローム性動脈硬化症、脳血管偶発症(卒中)、心臓血管疾患、先天性心疾患、うっ血性心障害、心筋炎、冠状静脈弁疾患、拡張性動脈疾患、拡張期機能不全、心内膜炎、高血圧、心筋症、肥大性心筋症、拘束型心筋症、結果として虚血性心筋症をもたらす冠動脈疾患、僧帽弁逸脱症、心筋梗塞(心臓発作)、または静脈血栓塞栓を有する個体を治療するために有用である。
【0093】
誘導心筋細胞集団、線維芽細胞、誘導心臓前駆細胞、または誘導心筋細胞の集団の単位剤型は約103個〜約109個、例えば約103個〜約104個、約104個〜約105個、約105個〜約106個、約106個〜約107個、約107個〜約108個、または約108個〜約109個の細胞を含有できる。
【実施例】
【0094】
[実施例1] マウス胎児線維芽細胞(MEF)の作製
(1)マウス胎児線維芽細胞(MEF)の作製
生後7週〜10週のメスICRマウス(日本クレア社)とMesp1-GFPトランスジェニックマウス(オス)(Development 126, 3437-3447 (1999), “MesP1 is expressed in the heart precursor cells and required for the formation of a single heart tube”)を交配させた。受精を確認した日を妊娠0日として、妊娠確認後12日目に妊娠したICRマウスから胎児を摘出した。胎児から心臓を摘出し、倒立顕微鏡(オリンパス社、IX71)にて心臓を蛍光にて投影し、GFP蛍光が発せられる胎児を選択した。
【0095】
選択した胎児より、四肢、および、頭部1/2〜2/3、肺、肝臓、腎臓、腸管などの実質臓器を摘出し、残った体幹部の組織をPBS(phosphate buffered saline)(−)(WAKO社、045-29795)にて洗浄し、血球成分を十分に取り除いた。その後、滅菌した手術用ハサミにて組織をできるだけ細かく剪断した。剪断した組織片に0.25 %Trypsin-EDTA(gibco社、25200-072)とPBS(−)(WAKO社、045-29795)を1:1に混合した溶液を加え(15 mL/6〜7匹胎児)、37℃で15分間、ウォーターバスで震盪しながらインキュベートした。FBS(Fetal Bovine Serum)(Thermo Scientific社、SV30014.03)原液を15 mL添加し、十分懸濁させた。同懸濁液を1500rpm/5分/4℃で遠心分離し、上清を除去した。
【0096】
細胞沈殿物および浮遊物をMEF用培地(10%FBS/DMEM/PSA)(表1)30 mLに再懸濁し、10 cm組織培養用dish(Thermo Scientific社、172958)に、胎児2〜3匹分で10 cm dish1枚分となるように播種した。37℃/5% CO2条件下で培養をし、翌日、MEF用培地で培地交換を行った。以降、3〜4日ごとに培地交換を続けた。
【0097】
【表1】
【0098】
(2)フローサイトメトリーによるマウス胎児線維芽細胞(MEF)のソート
心臓前駆細胞に誘導する場合は、以下のとおりフローサイトメトリー(FACS)によるソートを行い、GFP(−)の細胞を使用した。
【0099】
培地を吸引し、細胞をPBS(−)で洗浄を行い、各dishに対して0.25% Trypsin-EDTAを2 mL加え、37℃/5% CO2 条件下で5分間静置した。細胞が培養液に浮き上がることを確認した後、MEF用培地(10%FBS/DMEM/PSA)(表1)8 mLで中和し、15 mLチューブ(Corning社、430791)に細胞を回収した。回収した細胞を1500rpm/5分間/4℃で遠心分離した。上清を吸引後、FACS施行用溶液(5%FBS/PBS)(表2)350μLを加え十分に混ぜ合わせた。この懸濁液をセルストレーナー・キャップ付き5 mL ポリスチレン ラウンドチューブ(FALCON社、REF 353335)にてフィルターをかけ、FACS用試料とした。FACS(日本ベクトン・ディッキンソン、FACS AriaIII)を使用し、上記の試料におけるGFP陽性細胞および陰性細胞を分離し、陰性細胞を心臓前駆細胞誘導に用いた。
【0100】
【表2】
【0101】
[実施例2] 誘導心臓前駆細胞の作製および細胞培養
ゼラチンコーティングした10 cm組織培養用dish(Thermo Scientific社、172958)にPlat-E packaging細胞を3.6×106 cellの濃度で播種し、37℃/5% CO2 条件下で静置した(day1)。
【0102】
翌日(day2)、300μL Opti-MEM(gibco社、31985-070)に27μLのFuGENE 6 Transfection Reagent(Promega社、E2691)を混合した。5分間静置後、上記混合液にpMx-Tbx6のレトロウイルスプラスミド(Cell 142, 375-386, August 6, 2010, “Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors”を参照)を9000 ng分混注し強くタッピングをし、その後15分間室温で静置した。前日(day1)に用意したPlat-E細胞全体に上記の溶液を滴下し、37℃/5% CO2条件下で静置した(トランスフェクション)。
【0103】
24時間後(day3)、Plat-E培養液(DMEM/10%FBS/PSA)(表3)に培地を交換し、さらに24時間37℃/5% CO2条件下で静置した。
【0104】
【表3】
【0105】
また、12 well細胞培養用マルチウェルプレート(FALCON社、353043)に0.5×105 cells/wellの濃度で実施例1のMEFを播種し、MEF用培地を用いて37℃/5% CO2条件下で培養した。
【0106】
48時間後(day4)、各培養上清を0.45μm pore size Minisartフィルター(Sartorius Stedim Biotech社、17598)で濾過を行った後、50 mLチューブ(Corning社、430829)に回収した。回収した上清10 mLに対して4μL Polybrene Transfection Reagent(10 mg/mL)(Millipore社、#TR-1003-G)を混注した。これをTbx6遺伝子に対するレトロウイルス溶液とした。
【0107】
前日(day3)に12well細胞培養用マルチウェルプレートに播種した実施例1のMEFの培地を吸引し、その後、Tbx6レトロウイルス溶液にて培地交換し、ウイルスを感染させた(インフェクション)。
【0108】
遺伝子導入の翌日、培地を心臓前駆細胞リプログラミング用培地(表4)に変更し、37℃/5% CO2 条件下で細胞を培養した。以後3〜4日ごとに培地を交換して細胞培養を行った。
【0109】
【表4】
【0110】
[実施例3]Tbx6、SRF、Myocdによる誘導心筋細胞の作製および細胞培養
(1)レトロウイルスによるTbx6、SRF、Myocdの遺伝子導入法
実施例2の「誘導心臓前駆細胞の作製」と同様にウイルス溶液を作製した。ただし、本実施例では3個の遺伝子を導入した。day1には、実施例2と同様の方法で3枚の10 cm組織培養用dishにPlat-E細胞を準備した。day2において、300μL Opti-MEM(gibco社、31985-070)に27μL FuGENE 6 Transfection Reagent(Promega社、E2691)を混合した。5分間静置後、上記混合液にpMx-Tbx6、pMx-SRF、およびpMx-Myocd(製造方法は、Cell 142, 375-386, August 6, 2010, “Direct Reprogramming of Fibroblasts into Functional Cardiomyocytes by Defined Factors”を参照)のレトロウイルスプラスミドを9000 ng分それぞれ混注し強くタッピングをし、その後15分間室温で静置した。前日(day1)に用意したPlat-E細胞全体に上記の溶液を滴下し、37℃/5% CO2条件下で静置した(トランスフェクション)。
【0111】
24時間後(day3)、Plat-E培養液(DMEM/10%FBS/PSA)(表3)に培地を交換し、さらに24時間37℃/5% CO2条件下で静置した。48時間後(day4)、各培養上清を0.45μm pore size Minisartフィルター(Sartorius Stedim Biotech社、17598)で濾過を行った後、50 mLチューブ(Corning社、430829)に回収した。回収した上清10 mLに対して4μL Polybrene Transfection Reagent(10 mg/mL)(Millipore社、#TR-1003-G)を混注した。これを各遺伝子(Tbx6、SRF、Myocd)に対するレトロウイルス溶液とした。
【0112】
さらにday3では、12 well細胞培養用マルチウェルプレート(FALCON社、353043)に0.25 mL Matrigel Growth Factor Reduced(Corning社、354230)を28.2 mL DMEMに希釈したMatrigel溶液(70.4 μg/mL)を0.25 mLずつ各wellに加え、1時間37℃で静置し、プレートをMatrigelでコーティングした。溶液を除去した後に、0.5×105 cells/wellの濃度でMEF(実施例1)を播種し、MEF用培地(表1)で培養を継続した。
【0113】
day4ではday3で準備したプレートからMEF用培地を吸引した後、Tbx6、SRF、Myocdを同量ずつ混ぜ合わせたレトロウイルス溶液に培地を交換し、MEFにウイルスを感染させた(インフェクション)。
【0114】
(2)心筋細胞誘導培地での細胞培養
遺伝子導入翌日(day5)より、FFV培地(表5)に変更し、37℃/5% CO2条件下で培養を行った。以後3〜4日ごとに培地を交換し細胞培養を行った。
【0115】
【表5】
【0116】
[実施例4] マウス線維芽細胞からの心臓前駆細胞の誘導
マウス線維芽細胞(MEF)にTbx6を遺伝子導入し、心臓前駆細胞を誘導した(図1、実施例2)。
【0117】
心臓前駆細胞に特異的な転写因子であるMesp1を発現した細胞でGFPが発現するMesp1-Cre GFP floxマウス線維芽細胞にTbx6を遺伝子導入し(実施例2)、Mesp1を発現したGFP陽性細胞によるコロニーの形成を確認した(図2)。
【0118】
次に、Tbx6の遺伝子が導入された細胞における、分化マーカー遺伝子のmRNA発現を測定した。誘導1か月後において、心臓前駆細胞特異的な遺伝子であるMesp1およびT(brachyury)、さらにKDRの発現が維持されていた一方で、分化した心筋細胞に発現するNkx2.5やトロポニンTの発現は、認められなかった(図3)。
【0119】
実施例2および4から、線維芽細胞にTbx6を導入することにより、心臓前駆細胞が誘導されることが示された。
【0120】
[実施例5] マウス線維芽細胞からの心筋細胞の誘導
マウス線維芽細胞(MEF)にTbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入し、心筋細胞を誘導した(図4、実施例3)。
【0121】
誘導された心筋細胞は形態が変化し、横紋構造を示した(図5)。また、心筋の構造タンパク質であるトロポニンT(cTnT)や平滑筋細胞のタンパク質であるSM-MHCの発現が認められた(図5)。
【0122】
誘導された細胞全体のmRNA発現を検討したところ、心臓前駆細胞遺伝子(Mesp1, T, KDR)の誘導に加えて、Tbx6単独では誘導されなかったNkx2.5やトロポニンT(Tnnt2)といった心筋細胞特異的な遺伝子発現が誘導されていることが示された。
【0123】
実施例3および5から、線維芽細胞にTbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入することによって、心筋細胞が誘導されることが示された。
【0124】
[実施例6] マウス線維芽細胞からの平滑筋細胞の誘導および血管内皮細胞の誘導
実施例3と同様の方法で、マウス線維芽細胞(MEF)にTbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した。
【0125】
遺伝子導入の14日後に、抗Smooth muscle myosin heavy chain (myosin-11 or SMMHC)抗体による免疫染色を行った。
その結果、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞は当該抗体に陽性となったことから、平滑筋の特徴であるミオシン重鎖を発現したことがわかる(図8)。
【0126】
また、遺伝子導入の14日後に、qRT-PCRにより、myosin heavy polypeptide 11 (Myh11)およびPlatelet/endothelial cell adhesion molecule 1 (Pecam1)の発現量を測定した。Myh11は平滑筋に特異的に発現するタンパク質であり、Pecam1は血管内皮細胞に特異的に発現するタンパク質である。
その結果、Tbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入した細胞(TSM)では、Myh11およびPecam1の発現誘導が確認された(図7)。
【0127】
本実施例により、線維芽細胞(MEF)にTbx6、SRF、Myocdを遺伝子導入することにより、平滑筋細胞または血管内皮細胞を誘導できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明により、線維芽細胞から心臓前駆細胞を直接製造する方法および線維芽細胞から心筋細胞を直接製造する方法が提供される。また、本発明は、本発明の方法により製造された心臓前駆細胞および心筋細胞を提供することが可能である。本発明により線維芽細胞から誘導された心臓前駆細胞は、複数の心臓前駆細胞遺伝子の発現が持続したことから、本発明は、従来の方法よりも安定した心臓前駆細胞の製造方法および心臓前駆細胞を提供することができる。心臓前駆細胞は、増殖能力を有するため、本発明により作製される心臓前駆細胞は、医療的使用に好ましく適用することが可能である。
また、本発明により誘導された心筋細胞は、拍動することが確認されており、また、心筋特異的な遺伝子発現や構造タンパク質の発現が確認されている。したがって、本発明の心筋製造方法は、機能的に成熟した心筋細胞を提供することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0129】
配列番号1:ヒトTbx6のヌクレオチド配列。
配列番号2:ヒトTbx6のアミノ酸配列。
配列番号3:マウスTbx6のヌクレオチド配列。
配列番号4:マウスTbx6のアミノ酸配列。
配列番号5:ヒトSRFのヌクレオチド配列。
配列番号6:ヒトSRFのアミノ酸配列。
配列番号7:マウスSRFのヌクレオチド配列。
配列番号8:マウスSRFのアミノ酸配列。
配列番号9:ヒトMyocdのヌクレオチド配列。
配列番号10:ヒトMyocdのアミノ酸配列。
配列番号11:マウスMyocdのヌクレオチド配列。
配列番号12:マウスMyocdのアミノ酸配列。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]