特許第6853621号(P6853621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853621
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/265 20060101AFI20210322BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H01L21/265 602A
   H01L21/265 Z
   H01L29/78 652C
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 658A
   H01L29/78 658F
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-53685(P2016-53685)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-168719(P2017-168719A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年11月9日
【審判番号】不服2020-8699(P2020-8699/J1)
【審判請求日】2020年6月23日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/次世代パワーエレクトロニクス/SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発「研究開発項目I SiCに関する拠点型共通基盤技術開発」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】渡部 平司
(72)【発明者】
【氏名】志村 考功
(72)【発明者】
【氏名】細井 卓治
(72)【発明者】
【氏名】染谷 満
【合議体】
【審判長】 恩田 春香
【審判官】 小川 将之
【審判官】 ▲吉▼澤 雅博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−190865(JP,A)
【文献】 特開2014−229708(JP,A)
【文献】 特開2015−135892(JP,A)
【文献】 特表2008−503894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/265
H01L 21/336
H01L 29/12
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなる半導体基板に不純物を導入し、前記半導体基板のおもて面の表面層に不純物領域を形成する導入工程と、
前記導入工程の後、前記半導体基板のおもて面を厚さ1nm以上30nm以下の酸化膜で覆う被覆工程と、
前記半導体基板のおもて面を前記酸化膜で覆った状態で、酸素を含むガス雰囲気に前記酸化膜を晒して1500℃以上の温度の熱処理により前記不純物を活性化させる活性化工程と、
前記活性化工程の後、前記半導体基板のおもて面に絶縁ゲート構造を形成する工程を含み、
前記絶縁ゲート構造のゲート絶縁膜として前記酸化膜を残すことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記被覆工程では、前記半導体基板のおもて面を熱酸化し、前記酸化膜として熱酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ガス雰囲気の酸素ガス分圧は、0.01気圧以上1気圧以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トランジスタやダイオードなどの半導体装置を高耐圧化、低損失化するために、半導体材料として炭化珪素(SiC)を用いた半導体装置(以下、炭化珪素半導体装置とする)の研究がなされている。炭化珪素半導体装置の製造工程では、炭化珪素からなる半導体基板(以下、炭化珪素基板とする)にキャリア(電子や正孔)となる不純物を注入した後、キャリアを効率よく発生させるために1500℃以上の高温度の熱処理により不純物を活性化(以下、活性化アニールとする)させている。
【0003】
しかしながら、このような高温度の熱処理を炭化珪素基板の表面を露出させた状態で行った場合、炭化珪素基板の表面で昇華(気化)等による表面荒れが発生し、炭化珪素半導体装置の特性が著しく悪化するという問題がある。このため、炭化珪素基板の表面荒れを低減させるために、炭化珪素基板の表面をカーボン(C)からなるキャップ層(保護膜、以下カーボンキャップとする)で覆った状態で活性化アニールを行うことが一般的である(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0004】
また、炭化珪素基板の表面荒れを低減する別の方法として、高温度の熱処理による表面荒れがほとんど生じない(0−33−8)面を含む表面を炭化珪素基板の主面とすることで、キャップ層を形成せずに高温度の熱処理を行う方法が提案されている(例えば、下記特許文献2参照。)。また、別の方法として、炭化珪素基板の表面をキャップ層となる酸化膜(SiO2膜)や炭化珪素層で覆った状態で活性化アニールを行う方法が提案されている(例えば、下記特許文献3〜5参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−227473号公報
【特許文献2】特開2012−038771号公報
【特許文献3】特開2009−146997号公報
【特許文献4】特開2009−272328号公報
【特許文献5】特開2015−135892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のようにカーボンキャップを用いる場合、カーボンキャップは、炭化珪素基板の表面に塗布したレジストなどの有機物を焼き締めて炭化する方法や、炭化珪素基板の表面にCVD(化学蒸着:Chemical Vapor Deposition)法やスパッタリング法により堆積する方法で形成される。有機物を炭化してカーボンキャップを形成する場合、カーボンキャップを除去するためのアッシング(灰化処理)が必要であったり、有機物の残渣により電気的特性が劣化する虞がある。CVD法やスパッタリング法によりカーボンキャップを堆積する場合、炭化珪素基板の表面の例えばトレンチなどによる凹凸部のステップカバレッジ(表面被覆性)が悪いという問題がある。
【0007】
上記特許文献2〜5では、カーボンキャップを用いていないため、上記問題を回避可能である。しかしながら、上記特許文献2では、炭化珪素基板の主面の結晶面が限定されるため、その結晶面の特性にデバイス特性が律速され、設計の自由度が低くなる。上記特許文献3,4では、カーボンキャップを形成する場合と同様に、キャップ層とした炭化珪素層の残渣により電気的特性が劣化する虞がある。上記特許文献5には、不活性ガス雰囲気で活性化アニールを行っており、1900℃よりも高温度ではキャップ層である酸化膜が気化されやすくなることが開示されている。このため、キャップ層である酸化膜が活性化アニールで気化される量を見込んで予め厚く堆積する必要がある。また、キャップ層である酸化膜が気化してすべてなくなる高温度での活性化アニールを行うことができないという問題がある。
【0008】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、高温度の熱処理による炭化珪素基板の表面荒れを抑制することができ、プロセスを簡略化することができ、かつ設計の自由度が高い炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、炭化珪素からなる半導体基板に不純物を導入し、前記半導体基板のおもて面の表面層に不純物領域を形成する導入工程を行う。次に、前記半導体基板のおもて面を厚さ1nm以上30nm以下の酸化膜で覆う被覆工程を行う。次に、前記半導体基板のおもて面を前記酸化膜で覆った状態で、酸素を含むガス雰囲気に前記酸化膜を晒して1500℃以上の温度の熱処理により前記不純物を活性化させる活性化工程を行い、次に、前記半導体基板のおもて面に絶縁ゲート構造を形成し、前記絶縁ゲート構造のゲート絶縁膜として前記酸化膜を残す
【0010】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記被覆工程では、前記半導体基板のおもて面を熱酸化し、前記酸化膜として熱酸化膜を形成することを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記ガス雰囲気の酸素ガス分圧は、0.01気圧以上1気圧以下であることを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記被覆工程における前記酸化膜の厚さは30nm以下であることを特徴とする。
【0014】
上述した発明によれば、1500℃以上の高温度の活性化アニールであっても、被覆工程で形成したキャップ層となる酸化膜が気化しない。このため、活性化アニール時、炭化珪素基体のおもて面を確実に酸化膜で保護することができる。例えば従来においてカーボンキャップを形成するためのスパッタリング装置などが必要なく、キャップ層の形成が容易である。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、高温度の熱処理による炭化珪素基板の表面荒れを抑制することができ、プロセスを簡略化することができ、かつ設計の自由度が高いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法により製造される炭化珪素半導体装置の一例を示す断面図である。
図2】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図3】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図4】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図5】実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。
図6】熱酸化膜の厚さと熱処理温度との関係を示す特性図である。
図7】熱酸化膜の厚さと熱処理温度との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数を表している。
【0018】
(実施の形態)
まず、実施の形態にかかる炭化珪素(SiC)半導体装置の製造方法により作製(製造)される炭化珪素半導体装置の一例として、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)の構造について説明する。図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法により製造される炭化珪素半導体装置の一例を示す断面図である。図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法により製造される炭化珪素半導体装置は、炭化珪素からなる半導体基体(以下、炭化珪素基体(半導体基板)とする)10のおもて面側に一般的なMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を備える。
【0019】
炭化珪素基体(半導体チップ)10は、炭化珪素からなるn+型支持基板(以下、n+型炭化珪素基板とする)1上にn-型ドリフト領域2およびp-型ベース領域4となる各炭化珪素層を順にエピタキシャル成長させてなる。炭化珪素基体10のおもて面(p-型ベース領域4側の面)側に、p型ベース領域3、p-型ベース領域4、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6、n型JFET(Junction FET)領域7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9からなるMOSゲート構造が設けられている。p型ベース領域3は、n-型ドリフト領域2となるn-型炭化珪素層の内部にp-型ベース領域4に接するように選択的に設けられている。n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびn型JFET領域7は、p-型ベース領域4となるp-型炭化珪素層の内部にそれぞれ選択的に設けられている。
【0020】
このp-型炭化珪素層の、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびn型JFET領域7以外の部分がp-型ベース領域4である。n型JFET領域7は、p-型ベース領域4となるp-型炭化珪素層の一部をn型に反転させてなる。n型JFET領域7は、n+型ソース領域5と離して配置され、p-型ベース領域4となるp-型炭化珪素層の一部を深さ方向に貫通してn-型ドリフト領域2に達している。またn型JFET領域7は、n+型ソース領域5を挟んでp+型コンタクト領域6に対向する。これらp型ベース領域3、n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびn型JFET領域7は、後述するように例えばイオン注入されたキャリア(電子や正孔)となる不純物を熱処理(アニール)により活性化(活性化アニール)して形成された拡散領域である。
【0021】
ゲート絶縁膜8は、p-型ベース領域4の、n+型ソース領域5とn型JFET領域7とに挟まれた部分の表面上に設けられている。ゲート絶縁膜8は、例えば、高密度で絶縁性に優れた良質な二酸化珪素(SiO2)膜であり、二酸化珪素膜を容易に形成可能な熱酸化で形成される。ゲート絶縁膜8は、例えば、活性化アニール時に炭化珪素基体10のおもて面を保護するキャップ層(保護膜)の一部で構成される。ゲート絶縁膜8上にはゲート電極9が設けられている。ソース電極12は、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6に接するとともに、層間絶縁膜11によってゲート電極9と電気的に絶縁されている。炭化珪素基体10の裏面(n+型ドレイン領域となるn+型炭化珪素基板1の裏面)には、ドレイン電極13が設けられている。
【0022】
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。図2〜5は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、n+型ドレイン領域となるn+型炭化珪素基板1を用意する。n+型炭化珪素基板1は、例えば炭化珪素の四層周期六方晶(4H−SiC)からなる炭化珪素単結晶基板であってもよい。n+型炭化珪素基板1のおもて面は、例えば(0001)面(いわゆるSi面)、(000−1)面(いわゆるC面)、および、酸化速度がSi面より早くかつC面より遅い面方位の結晶面であることが好ましい。次に、n+型炭化珪素基板1のおもて面に、n-型ドリフト領域2となるn-型炭化珪素層21をエピタキシャル成長させる。次に、フォトリソグラフィおよびp型不純物のイオン注入により、n-型炭化珪素層21の表面層にp型ベース領域3を選択的に形成する。n-型炭化珪素層の、p型ベース領域3以外の部分がn-型ドリフト領域2となる。次に、p型ベース領域3の形成に用いたレジストマスク(不図示)を除去する。
【0023】
次に、n-型ドリフト領域2およびp型ベース領域3の表面に、p-型ベース領域4となるp-型炭化珪素層22をエピタキシャル成長させる。ここまでの工程により、n+型炭化珪素基板1上にn-型炭化珪素層21およびp-型炭化珪素層22を順にエピタキシャル成長させてなる炭化珪素基体(半導体ウエハ)10aが形成される。このときの炭化珪素基体10aの厚さt0は、後に行う熱酸化工程および活性化アニール工程により熱酸化膜23(図3参照)となる部分の厚さt2を考慮して製品厚さt1よりも厚くする。次に、フォトリソグラフィ、不純物のイオン注入およびレジストマスク除去を1組とする工程を異なる条件で繰り返し行い、p-型炭化珪素層22の内部にn+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびn型JFET領域7をそれぞれ選択的に形成する。n+型ソース領域5、p+型コンタクト領域6およびn型JFET領域7の形成順序は種々変更可能である。ここまでの状態が図2に示されている。
【0024】
次に、炭化珪素基体10aのおもて面を熱酸化して熱酸化膜23を形成する(熱酸化処理工程)。この熱酸化により、炭化珪素基体10aのおもて面の表面層の厚さt2分が熱酸化される。これにより、炭化珪素基体10aの厚さt0が熱酸化膜23となった部分の厚さt2だけ減少し、製品厚さt1を有する炭化珪素基体10となる。炭化珪素基体10のおもて面は熱酸化膜23で覆われる。ここまでの状態が図3に示されている。符号t3は、ここまでの状態における熱酸化膜23の厚さであり、1nm以上の厚さt3で熱酸化膜23を形成すれば、高温処理による炭化珪素基体10aのおもて面からのシリコン原子の放出を抑制できるため、キャップ層としての効果を期待できる。図3には、炭化珪素基体10aのおもて面の表面層の熱酸化された厚さt2分を破線で示す。次に、おもて面を熱酸化膜23で覆った状態の炭化珪素基体10を例えば一定の温度に維持された例えば電気炉などの恒温炉30に挿入して熱処理し、炭化珪素基体10の内部の不純物を活性化する(活性化アニール工程)。活性化アニールにおいて、熱酸化膜23は、炭化珪素基体10のおもて面の表面荒れを抑制するキャップ層(保護膜)として機能する。ここまでの状態が図4に示されている。なお、活性化アニール工程において炭化珪素基体10を酸素を含むガス雰囲気31で満たされた恒温炉30に入れ、炭化珪素基体10aが室温から活性化アニール工程に必要な1500℃に昇温されるまでの間に炭化珪素基体10aのおもて面に熱酸化膜23が1nm以上の厚さt3で形成されれば、熱酸化処理工程を省略することもできる。
【0025】
この活性化アニールは、炭化珪素基体10内部の不純物を活性化させることができる1500℃以上の高温度で行う。また、活性化アニールは、酸素(O2)を含むガス雰囲気31を用いて行う。酸素を含むガス雰囲気31を用いることで、1500℃以上の高温度の活性化アニールであっても熱酸化膜23の厚さt3’が減少しない。すなわち、恒温炉30のガス雰囲気31を酸化性雰囲気とすることで、熱酸化膜23が気化(蒸発)しない。このため、炭化珪素基体10のおもて面が露出してガス雰囲気31に曝されることを防止することができる。また、従来のように活性化アニールで気化される量(厚さの減少分:30nm以上)を見込んで予め厚く熱酸化膜23を形成する必要がない。このため、本発明においては、活性化アニール前の熱酸化膜23の厚さt3は30nm以下でよい。さらに、酸素を含むガス雰囲気31を用いることで、活性化アニールにおいて熱酸化膜23の厚さt3’(>t3)を増大させることができる。このため、熱酸化膜23の厚さt3’を適宜調整してゲート絶縁膜8として用いてもよい。これにより、活性化アニールと、ゲート絶縁膜8を形成する工程と、を同時に行うことができるため、プロセスの簡略化を図ることができる。
【0026】
熱酸化膜23の厚さt3’は、恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス分圧で調整可能である。具体的には、恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス分圧が小さいほど炭化珪素基体10の厚さt1の減少量が小さく、熱酸化膜23の厚さt3’の増分が小さくなる。より具体的には、恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス分圧を例えば0.01気圧以上1気圧以下程度とすることで、熱酸化膜23の厚さt3’を増大させることができる。酸素ガス分圧が1気圧とは、恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス濃度がほぼ100%であることを意味する(すなわち恒温炉30に導入するガス32は酸素ガスのみ)。酸素ガス分圧が0.01気圧以上とは、恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス濃度が1%以上であることを意味する。酸素ガス分圧が1気圧未満である場合、恒温炉30に導入するガス32に含まれる酸素ガス以外のガスとして、例えば、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)などの希ガスや窒素(N)、水素(H)、あるいは水蒸気(H2O)、酸窒化ガスなどを用いてもよい。恒温炉30のガス雰囲気31の酸素ガス分圧を恒温炉30内の温度に応じて適宜調整することで、熱酸化膜23の厚さt3’を増大させずに維持することも可能である(t3’=t3)。符号33は、真空ポンプなどによる恒温炉30から排気されるガスである。
【0027】
次に、熱酸化膜23上に、ゲート電極9となるポリシリコン(poly−Si)層24を堆積する。ここまでの状態が図5に示されている。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングによりポリシリコン層24をパターニングし、ゲート電極9となる部分を残す。次に、ポリシリコン層24と同一のレジストマスク(不図示)をマスクしてエッチングを行い、熱酸化膜23をパターニングしてゲート絶縁膜8となる部分を残す。次に、熱酸化膜23のパターニングに用いたレジストマスクを除去する。次に、炭化珪素基体10のおもて面に、ポリシリコン層24を覆うように層間絶縁膜11を形成する。
【0028】
次に、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、層間絶縁膜11をパターニングしてコンタクトホールを形成し、n+型ソース領域5およびp+型コンタクト領域6を露出する。次に、層間絶縁膜11のパターニングに用いたレジストマスク(不図示)を除去する。次に、熱処理(リフロー)により層間絶縁膜11を平坦化する。次に、炭化珪素基体10のおもて面にソース電極12を形成してコンタクトホールを埋める。炭化珪素基体10の裏面にドレイン電極13を形成する。その後、半導体ウエハをチップ状にダイシング(切断)して個片化することで、図1に示す炭化珪素半導体装置が完成する。
【0029】
上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法において、ポリシリコン層24のパターニング後、熱酸化膜23をパターニングせずに層間絶縁膜11を形成し、層間絶縁膜11とともに熱酸化膜23をパターニングしてもよい。また、上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法においては、キャップ層である熱酸化膜23を素子構造の一部として用いた場合を例に説明しているが、熱酸化膜23を素子構造の一部として用いない構成の炭化珪素半導体装置に本発明を適用してもよい。熱酸化膜23を素子構造の一部として用いない場合には、例えばフッ酸(HF)に浸すことによってすべての熱酸化膜23を除去すればよい。
【0030】
以上、説明したように、実施の形態によれば、炭化珪素基体のおもて面を覆うキャップ層として熱酸化膜を形成し、酸素を含むガス雰囲気で活性化アニールを行うことで、1500℃以上の高温度の活性化アニールであってもキャップ層である熱酸化膜が気化しない。このため、活性化アニール時、炭化珪素基体のおもて面を確実に熱酸化膜で保護することができ、炭化珪素基体のおもて面の表面荒れを抑制することができる。また、炭化珪素基体のおもて面の結晶面によらず炭化珪素基体のおもて面の表面荒れを抑制することができるため、設計の自由度が高い。また、実施の形態によれば、熱酸化だけでキャップ層を形成することができるため、例えば従来においてカーボンキャップを形成するためのスパッタリング装置などが必要なく、キャップ層の形成が容易である。
【0031】
また、実施の形態によれば、堆積でなく、熱酸化によりキャップ層を形成するため、炭化珪素基体のおもて面にトレンチなどによる凹凸部が生じていたとしても、キャップ層のステップカバレッジが高い。また、キャップ層は高密度で絶縁性に優れた良質な熱酸化膜であるため、その後、キャップ層を素子構造の一部(例えばゲート絶縁膜など)として用いることができ、プロセスを簡略化することができる。また、従来のようにカーボンキャップを用いる場合、アッシングによりカーボンキャップを除去する必要があるが、実施の形態によれば、キャップ層が熱酸化膜であるため、例えばフッ酸(HF)に浸すだけで容易に除去することができる。また、キャップ層を除去することで、炭化珪素基体のおもて面を犠牲酸化した状態に近い状態にすることができる。
【0032】
(実施例1)
酸素を含むガス雰囲気31で熱処理を行った場合の熱酸化膜23の厚さt3’について検証した。図6,7は、熱酸化膜の厚さと熱処理温度との関係を示す特性図である。上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがい、酸素ガス雰囲気(すなわち酸素ガス分圧が1気圧)で熱処理(熱酸化)した複数の試料(炭化珪素片)それぞれについて、熱処理時間に対する熱酸化膜の厚さの増分の近似直線を図6に示す。図6の横軸は熱処理時間であり、縦軸は熱酸化膜の厚さである。各試料は、それぞれ熱酸化膜を形成するための熱処理温度が異なる。具体的には、各試料の熱処理温度は、従来技術において、熱酸化膜の厚さの減少を伴わないことがすでに確認されている1500℃未満の3点(1350℃(不図示)、1400℃(不図示)、1450℃)と、熱酸化膜の厚さの減少を伴う1500℃以上の数点(1500℃、1600℃、1700℃)と、した。
【0033】
通常、炭化珪素基体にイオン注入した不純物の活性化アニールは、キャリアを効率よく発生させるために1500℃〜2000℃程度の高温度で行う必要がある。このような高温度の活性化アニールでは、活性化アニール時に炭化珪素基体の表面のシリコン原子が抜けて表面荒れが生じるという問題がある。このため、従来、カーボン(C)からなるキャップ層(カーボンキャップ)で炭化珪素基体の表面を覆った状態で活性化アニールを行う。かつ、活性化アニール時にカーボンキャップが気化(CO2)しないように、非酸化性雰囲気で活性化アニールを行うことが一般的である。また、従来、熱酸化膜をキャップ層として用いる場合、非酸化性雰囲気における高温度の活性化アニールでは熱酸化膜が気化してしまうため、予め気化による厚さの減少分を考慮して熱酸化膜の厚さを設定したり、活性化アニールの温度に上限値を設定したりしている。
【0034】
一方、本発明においては、図6に示す結果より、活性化アニールに必要な1500℃以上であっても、熱処理時間が長くなるほど熱酸化膜を厚くすることができることが確認された。また、高温度になるほど熱酸化膜の厚さの増分を大きくすることができることが確認された。図6の各近似直線の切片は、初期増速酸化による熱酸化膜の厚さである。さらに、熱酸化膜の成長速度のアレニウスプロット(Arrhenius Plot:アレニウスの式に基づく熱酸化膜の成長速度の算出値)を図7に示す。図7の横軸は熱処理温度(絶対温度)T[K:ケルビン]の逆数であり、縦軸は熱酸化膜の成長速度である。図7に示す近似直線41は、熱酸化膜の厚さの減少を伴わないことがすでに確認されている1500℃未満での熱処理における熱酸化膜の成長速度に基づくものである。図7に示す結果より、1500℃以上での熱処理における熱酸化膜の成長速度の測定点(点線枠42で囲む5点)も近似直線41上に位置することから、熱酸化膜の厚さの減少を伴わない、すなわち熱酸化膜が気化しないことがわかる。図示省略するが、活性化アニールに用いるガス雰囲気の酸素ガス分圧を0.01気圧以上1気圧未満とした場合においても、図6,7に示す結果と同程度の効果が得られることが確認されている。このように、本発明においては、酸素を含むガス雰囲気31で活性化アニールを行うことで、キャップ層とした熱酸化膜23の厚さt3’は減少しない、かつ熱処理温度に基づいて調整可能または維持可能である。
【0035】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した実施の形態では、MOSFETを例に説明しているが、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)など他のMOS型炭化珪素半導体装置にも適用可能である。また、活性化アニールを行うすべての炭化珪素半導体装置に適用可能であり、キャップ層として用いた熱酸化膜が炭化珪素半導体装置の構成部として残らない場合においても炭化珪素基体の表面荒れを抑制する効果が得られる。また、上述した実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上のように、本発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、活性化アニールを行う炭化珪素半導体装置に有用であり、特に炭化珪素基体の表面にゲート絶縁膜などの絶縁膜を備える炭化珪素半導体装置に適している。
【符号の説明】
【0037】
1 n+型炭化珪素基板
2 n-型ドリフト領域
3 p型ベース領域
4 p-型ベース領域
5 n+型ソース領域
6 p+型コンタクト領域
7 n型JFET領域
8 ゲート絶縁膜
9 ゲート電極
10,10a 炭化珪素基体
11 層間絶縁膜
12 ソース電極
13 ドレイン電極
21 n-型炭化珪素層
22 p-型炭化珪素層
23 熱酸化膜
24 ポリシリコン層
30 恒温炉
31 ガス雰囲気
32 導入ガス
33 排気ガス
t0 熱酸化工程前の炭化珪素基体の厚さ
t1 熱酸化工程後の炭化珪素基体の厚さ(製品厚さ)
t2 炭化珪素基体の、熱酸化膜となる部分の厚さ
t3,t3’ 熱酸化膜の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7