特許第6853831号(P6853831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853831車両試験システム、車両試験システム用管理装置、車両試験システム用プログラム、及び車両試験方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853831
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】車両試験システム、車両試験システム用管理装置、車両試験システム用プログラム、及び車両試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20210322BHJP
   G01M 15/10 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   G01M17/007 A
   G01M15/10
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-554816(P2018-554816)
(86)(22)【出願日】2017年8月9日
(86)【国際出願番号】JP2017028862
(87)【国際公開番号】WO2018105168
(87)【国際公開日】20180614
【審査請求日】2020年7月16日
(31)【優先権主張番号】特願2016-236233(P2016-236233)
(32)【優先日】2016年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-115469(P2017-115469)
(32)【優先日】2017年6月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】小川 恭広
(72)【発明者】
【氏名】足立 香梨
(72)【発明者】
【氏名】石田 誠一
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−281940(JP,A)
【文献】 特開平8−278232(JP,A)
【文献】 特開平4−331347(JP,A)
【文献】 米国特許第5375460(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0095980(US,A1)
【文献】 特開2016−080636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00−17/10
G01M 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムにおいて、
前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を測定する温度センサと、
前記温度センサにより測定された回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方を取得する温度取得部と、
前記温度取得部により取得された暖機運転中の前記回転体温度又は前記車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部とを具備する車両試験システム。
【請求項2】
前記試験車両を運転する自動運転装置と、
前記自動運転装置を制御するための制御信号を出力して暖機運転を開始する暖機開始部と、
前記暖機完了判断部により暖機運転が完了したと判断された場合に、前記自動運転装置を制御するための制御信号を出力して前記試験車両の試験を開始する車両試験開始部とを具備する請求項1記載の車両試験システム。
【請求項3】
前記回転体を備えたシャシダイナモメータと、
前記試験車両からの排ガスを測定する排ガス測定装置とをさらに備える請求項2記載の車両試験システム。
【請求項4】
前記車両試験開始部が、前記暖機完了判断部により暖機運転が完了したと判断された場合に、前記ダイナモメータ及び前記排ガス測定装置を制御するための制御信号を出力して前記試験車両の試験を開始する請求項3記載の車両試験システム。
【請求項5】
前記暖機完了判断部は、前記回転体温度又は前記車輪温度が予め設定された目標値に到達した場合に、暖機運転が完了したと判断する請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の車両試験システム。
【請求項6】
前記目標値が、暖機運転を開始してから前記回転体温度又は前記車輪温度が上昇する昇温状態から、前記回転体温度又は前記車輪温度が落ち着く安定状態に移り変わる時点又は安定状態に移り変わった後の回転体又は車輪の温度である請求項5記載の車両試験システム。
【請求項7】
前記暖機完了判断部は、前記回転体温度又は前記車輪温度の時間変化率が予め設定された目標値よりも小さくなった場合に、暖機運転が完了したと判断する請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の車両試験システム。
【請求項8】
前記目標値が、暖機運転を開始してから前記回転体温度又は前記車輪温度が上昇する昇温状態から、前記回転体温度又は前記車輪温度が落ち着く安定状態に移り変わった後の前記回転体温度又は前記車輪温度の時間変化率である請求項7記載の車両試験システム。
【請求項9】
前記温度センサが、前記車輪の外周面を向くように配置されるものであり、
前記温度センサを支持するとともに、前記外周面に対する前記温度センサの向きを変更可能に構成された温度センサ支持機構をさらに具備する請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の車両試験システム。
【請求項10】
前記温度センサ又は前記温度センサ支持機構に設けられて、前記車輪の外周面における温度測定箇所に光を照射する光射出部をさらに具備する請求項9記載の車両試験システム。
【請求項11】
前記温度センサ支持機構が、前記車輪の外周面を向く車輪温度測定姿勢と、前記回転体の外周面を向く回転体温度測定姿勢との間で前記温度センサを移動可能に支持する請求項9又は10記載の車両試験システム。
【請求項12】
試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムに用いられる管理装置において、
前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する回転体温度取得部と、
前記回転体温度取得部により取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部とを具備する車両試験システム用管理装置。
【請求項13】
試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムに用いられるプログラムにおいて、
前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する回転体温度取得部と、
前記回転体温度取得部により取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部としての機能をコンピュータに発揮させる車両試験システム用プログラム。
【請求項14】
試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験方法において、
前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する温度取得ステップと、
前記温度取得ステップにより取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断ステップとを備える車両試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両試験システム、車両試験システム用管理装置、車両試験システム用プログラム、及び車両試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試験車両の車輪をシャシローラに搭載して、この試験車両の性能を試験する車両試験システムでは、試験前に試験車両の暖機運転を行ったり、試験車両を搭載せずにシャシローラを回転させてシャシダイナモメータの暖機運転を行ったりしている。
【0003】
この暖機運転に関して、特許文献1に記載されているシステムでは、試験に用いられる機器に応じて暖機所要時間を予め記憶させておき、各機器の暖機終了時刻が同じ時刻になるように、各機器の暖機開始時刻がスケジュールされている。
【0004】
しかしながら、上述した暖機運転は、前記暖機所要時間が予め決められている一定の時間であるので、例えばシステムを稼動させた日の翌日と、システムを稼動させなかった日の翌日とでは、暖機運転を完了した後のシャシローラや試験車両の車輪などの温度には差が生じる。
その結果、試験車両の車輪とシャシローラとの間の摩擦係数が試験毎にばらついてしまい、試験車両とシャシローラとの間における駆動力の損失が試験毎に変動し、試験結果の再現性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−71527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、暖気運転の後に行われる車両試験において、試験結果の再現性を向上させることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る車両試験システムは、試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムにおいて、前記回転体又は前記車両の少なくとも一方の温度を測定する温度センサと、前記温度センサにより測定された回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方を取得する温度取得部と、前記温度取得部により取得された暖機運転中の前記回転体温度又は前記車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部とを具備することを特徴とするものである。
【0008】
このように構成された車両試験システムによれば、暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断するので、暖機運転が完了した後の回転体温度や車輪温度のばらつきを抑えることができる。これにより、車輪と回転体との間に生じる摩擦の試験毎のばらつきを低減させることができ、試験結果の再現性を向上させることが可能となる。
【0009】
前記試験車両を運転する自動運転装置と、前記自動運転装置を制御するための制御信号を出力して暖機運転を開始する暖機開始部と、前記暖機完了判断部により暖機運転が完了したと判断された場合に、前記自動運転装置を制御するための制御信号を出力して前記試験車両の試験を開始する車両試験開始部とを具備することが好ましい。
このような構成であれば、暖機運転を開始してから、暖機運転が完了したことを判断して、試験車両を試験するまでの工程を自動化することができる。
【0010】
車両試験システムのより具体的な実施態様としては、前記回転体を備えたシャシダイナモメータと、前記試験車両からの排ガスを測定する排ガス測定装置とをさらに備える構成が挙げられる。
【0011】
試験のさらなる自動化を図るためには、前記車両試験開始部が、前記暖機完了判断部により暖機運転が完了したと判断された場合に、前記ダイナモメータ及び前記排ガス測定装置を制御するための制御信号を出力して前記試験車両の試験を開始することが好ましい。
【0012】
前記暖機完了判断部の実施態様としては、前記回転体温度又は前記車輪温度が予め設定された目標値に到達した場合に、暖機運転が完了したと判断する構成や、前記回転体温度又は前記車輪温度の時間変化率が予め設定された目標値よりも小さくなった場合に、暖機運転が完了したと判断する構成が挙げられる。
前者の構成の場合、前記目標値としては、暖機運転を開始してから前記回転体温度又は前記車輪温度が上昇する昇温状態から、前記回転体温度又は前記車輪温度が落ち着く安定状態に移り変わる時点又は安定状態に移り変わった後の回転体又は車輪の温度が挙げられる。
後者の構成の場合、前記目標値としては、暖機運転を開始してから前記回転体温度又は前記車輪温度が上昇する昇温状態から、前記回転体温度又は前記車輪温度が落ち着く安定状態に移り変わった後の前記回転体温度又は前記車輪温度の時間変化率が挙げられる。
上述した構成であれば、安定状態になっているにもかかわらず不要に暖機運転を続けることを避けることができ、暖機運転の時間を短縮化することができる。
【0013】
ところで、温度センサを車輪の外周面に向けて配置して車輪温度を測定する場合、温度センサの向きによって測定箇所が例えば車輪の内側部分、外側部分或いは中央部分などに変わり、どの箇所を測定するかはユーザによって適宜選択される。
しかしながら、例えば試験車両の車種等によって左右の車輪の間隔が異なることから、回転体に載置される車輪の位置はいつも同じになるとは限らず、温度センサがユーザの望む測定箇所を向いていなければ、所望の測定箇所における車輪温度を測定することができない。
【0014】
そこで、前記温度センサが、前記車輪の外周面を向くように配置されるものであり、前記温度センサを支持するとともに、前記外周面に対する前記温度センサの向きを変更可能に構成された温度センサ支持機構をさらに具備することが好ましい。
このような構成であれば、車輪の外周面に対する温度センサの向きを変更することができるので、回転体に載置される車輪の位置が変わったとしても、温度センサを所望の測定箇所に向けることで、その測定箇所における車輪温度を測定することが可能となる。
【0015】
所望の測定箇所に温度センサを向けるための具体的な実施態様としては、前記温度センサ支持機構が、前記温度センサを旋回可能に支持することが好ましい。
このような構成であれば、温度センサを旋回させることで、例えば車輪の内側部分、外側部分或いは中央部分等といった所望の箇所に測定箇所を合わせることができる。
【0016】
前記温度センサ又は前記温度センサ支持機構に設けられて、前記車輪の外周面における温度測定箇所に光を照射する光射出部をさらに具備することが好ましい。
このような構成であれば、車輪の外周面に照射された光を目視することで、測定箇所を確認することができる。
【0017】
上述した温度センサを用いて車輪温度と回転体温度との両方を測定可能にするためには、前記温度センサ支持機構が、前記車輪の外周面を向く車輪温度測定姿勢と、前記回転体の外周面を向く回転体温度測定姿勢との間で前記温度センサを移動可能に支持することが好ましい。
【0018】
本発明に係る車両試験システム用管理装置は、試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムに用いられる管理装置において、前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する回転体温度取得部と、前記回転体温度取得部により取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部とを具備することを特徴とするものである。
【0019】
本発明に係る車両試験システム用プログラムは、試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験システムに用いられるプログラムにおいて、前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する回転体温度取得部と、前記回転体温度取得部により取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするプログラムである。
【0020】
本発明に係る車両試験方法は、試験車両の車輪を回転体に搭載して、暖機運転を行った後に前記試験車両を試験する車両試験方法において、前記回転体又は前記車輪の少なくとも一方の温度を取得する温度取得ステップと、前記温度取得ステップにより取得された暖機運転中の回転体温度又は車輪温度の少なくとも一方に基づいて、暖機運転が完了したか否かを判断する暖機完了判断ステップとを備えることを特徴とする方法である。
【0021】
このような車両試験システム用制御装置、車両試験システム用プログラム及び車両試験方法であれば、上述した車両試験システムと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
このように構成した本発明によれば、暖気運転の後に行われる車両試験において、試験結果の再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の車両試験システムの構成を模式的に示す図。
図2】同実施形態の管理装置の機能を示す機能ブロック図。
図3】同実施形態の車両試験システムの動作を説明するためのフローチャート。
図4】同実施形態の暖機完了判断部を説明するための図。
図5】第1実施形態の変形例における管理装置の機能を示す機能ブロック図。
図6】第2実施形態の車両試験システムの構成を模式的に示す図。
図7】第2実施形態の温度センサの内向き姿勢及び外向き姿勢を模式的に示す図。
図8】第2実施形態の温度センサの車輪温度測定姿勢及び回転体温度測定姿勢を模式的に示す図。
図9】第2実施形態の温度センサの測定位置及び収納位置を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0024】
100・・・車両試験システム
V ・・・試験車両
1 ・・・管理装置
12 ・・・回転体温度取得部
13 ・・・車輪温度取得部
15 ・・・暖機完了判断部
2 ・・・シャシダイナモメータ
21 ・・・回転ドラム
3 ・・・自動運転装置
T1 ・・・第1温度センサ
T2 ・・・第2温度センサ
T ・・・温度センサ
5 ・・・温度センサ支持機構
6 ・・・上下首振り機構
7 ・・・水平首振り機構
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
以下に本発明に係る車両試験システムの第1実施形態について図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態に係る車両試験システム100は、自動車の排ガス分析や燃費測定、認証試験、耐久性試験等の試験車両Vの性能に関する試験を行うためものであり、図1に示すように、少なくとも管理装置1及びシャシダイナモメータ2を備えている。本実施形態の車両試験システム100は、排ガス分析を行うものであり、図2に示すように、排ガス測定装置4をさらに備え、試験車両Vから出る排ガス中に含まれるHC、NO、CO、CO等の各成分を連続測定できるように構成されている。さらに本実施形態の車両試験システム100は、試験車両Vをシャシダイナモメータ2上で自動走行させるための自動運転装置3を備えている。なお、この自動運転装置3の代わりに、テストドライバが試験車両Vを運転するように構成された車両試験システム100であっても構わない。この場合、車両試験システム100としては、テストドライバに運転モードを表示する運転モード表示装置であるドライバーズエイドを備えていてもよい。
【0027】
管理装置1は、例えばCPU、メモリ、通信インタフェース、ディスプレイ、入力手段等を備えたコンピュータシステムであり、通常サーバ機能を有する。そして、例えばこの管理装置1に、車両情報、走行モード等の必要なパラメータを与えることによって、シャシダイナモメータ2や自動運転装置3が管理装置1からの制御信号や種々の指令信号を受け付けて統括的に制御され、試験車両Vが所望の態様で走行するとともに、排ガス測定装置が作動して排ガスデータの自動測定が行われる。
【0028】
なお、管理装置1及び排ガス測定装置は、物理的に独立分散させても良いし、これらの一部又は全部が一体化するといった態様でも良い。また、車両試験システム100としては、シャシダイナモメータ2を制御するダイナモ制御装置や、自動運転装置3を制御する自動運転制御装置を備え、管理装置1からの制御信号をこれらのダイナモ制御装置や自動運転制御装置を中継させて、シャシダイナモメータ2や自動運転装置3を制御するように構成されていても良い。
【0029】
シャシダイナモメータ2は、例えば1軸式のもので、試験車両Vの駆動輪Wを載せる回転体である回転ドラム21と、回転ドラム21に負荷を与える図示しないモータ等を備えたものである。このシャシダイナモメータ2は、上述した管理装置1からの制御信号を受け付けて前記モータが制御されることで走行負荷が制御され、試験車両Vが路上と同様の状態で走行できるようにするものである。
【0030】
自動運転装置3は、試験車両Vの運転室に搭載されてアクセル、ブレーキ、クラッチ等を駆動する運転ロボットを備えたもので、後述する管理装置1からの種々の指令信号によって前記運転ロボットが制御され、例えば規格化されている種々のレギュレーション(例えばJC08、WLTCモードなど)に従った、試験車両Vあるいはエンジンやパワートレインの性能試験ができるようにしてある。
【0031】
ところで、上述した試験車両Vの性能に関する試験を行う前に、本実施形態の車両試験システム100は、回転ドラム21や回転ドラム21上に載置された試験車両Vの暖機運転を行うようにしている。なお、暖機運転とは、回転ドラム21や車輪Wの温度を上昇させるべく、回転ドラム21上で試験車両Vを走行させることであり、この暖機運転において試験車両Vは一定速度で走行していても良いし、加減速しながら走行していても良い。ここでは、試験車両Vを回転ドラム21に搭載した状態で暖機運転を行うものとするが、回転ドラム21の暖機運転を行うのにあたっては、試験車両Vを回転ドラム21に搭載することなく暖機運転を行っても良い。
【0032】
ここでは、例えばオペレータが暖機運転を開始する暖機開始信号を入力すると、この暖機開始信号を管理装置1が受け付けて、シャシダイナモメータ2や自動運転装置3を制御することで暖機運転が開始される。
【0033】
そして本実施形態の車両試験システム100において、前記管理装置1が、少なくとも暖機運転中の回転ドラム21の温度(以下、回転体温度という)に基づいて、暖機運転の完了を判断するように構成されている。
【0034】
より具体的に説明すると、前記管理装置1は、前記メモリに記憶されたプログラムにしたがってCPUやその周辺機器が協働することによって、図2に示すように、少なくとも回転体温度取得部12及び暖機完了判断部15を備えており、ここでは暖機開始部11、車輪温度取得部13、暖機完了温度記憶部14、及び試験開始部16をさらに備えている。
以下、各部の説明を兼ねて、本実施形態の車両試験システム100の動作を図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0035】
まず始めに、上述した暖機開始信号が入力されると、この暖機開始信号は暖機開始部11により受け付けられる。暖機開始信号を受け付けると、暖機開始部11は、シャシダイナモメータ2及び自動運転装置3に制御信号を出力してこれらを制御し、暖機運転を開始する(S1)。
具体的には、暖機開始部11は、シャシダイナモメータ2のモータ及び自動運転装置3の運転ロボットに制御信号を出力して、回転ドラム21上で試験車両Vを自動走行させる。
【0036】
回転体温度取得部12は、少なくとも暖機運転が開始された後、回転ドラム21の温度を取得する(S2)。本実施形態では、図1に示すように、車両試験システム100が、回転ドラム21の温度を測定する第1温度センサT1を備えており、この第1温度センサT1によって測定された回転体温度が前記回転体温度取得部12に送信されるようにしてある。
本実施形態の回転体温度は回転ドラム21の表面温度であり、第1温度センサT1は回転ドラム21の表面近傍に設けられた例えば赤外線温度計や放射温度計などである。
【0037】
車輪温度取得部13は、車輪Wの温度(以下、車輪温度という)を取得するものであり、少なくとも暖機運転が開始された後、車輪温度を取得する(S3)。本実施形態では、図1に示すように、車両試験システム100が、車輪Wの温度を測定する第2温度センサT2を備えており、この第2温度センサT2により測定された車輪温度が前記車輪温度取得部13に送信されるようにしてある。
本実施形態の車輪温度は車輪Wの表面温度であり、第2温度センサT2は車輪Wの表面近傍に設けられた例えば赤外温度計や放射温度計などである。
【0038】
暖機完了温度記憶部14は、前記メモリの所定領域に形成されており、暖機運転によって上昇させる回転体温度の目標値(以下、目標回転体温度という)が記憶されている。この目標回転体温度は、暖機運転が行われる前にオペレータによって予め設定されており、適宜変更可能である。ここでは、図4に示すように、暖機運転を開始してから回転体温度が上昇する昇温状態から、回転体温度が落ち着く安定状態に移り変わる時点又は安定状態に移り変わった後の安定温度を目標回転体温度に設定してある。なお、回転ドラム21の安定温度は、例えば過去の試験時に回転ドラム21の温度を測定するなどして、経験的に予測され得る値ではあるものの、常に一定の値になるとは限らないため、目標回転体温度を安定温度よりも低い温度又は高い温度に設定しても良い。
【0039】
また、本実施形態の暖機完了温度記憶部14は、暖機運転によって上昇させる車輪温度の目標値(以下、目標車輪温度という)が記憶されている。この目標車輪温度は、オペレータによって暖機運転の前に予め設定されており、適宜変更可能である。ここでは、上述した目標回転体温度と同様、暖機運転を開始してから車輪温度が上昇する昇温状態から、車輪温度が落ち着く安定状態に移り変わる時点又は安定状態に移り変わった後の安定温度を目標車輪温度に設定してある。なお、目標車輪温度に関しても、安定温度よりも低い温度又は高い温度に設定しても良い。
【0040】
暖機完了判断部15は、少なくとも回転体温度取得部12により取得された暖機運転中の回転体温度と、暖機完了温度記憶部14に記憶されている目標回転体温度とを比較して、暖機運転が完了したか否かを判断する。
【0041】
より具体的に説明すると、暖機完了判断部15は、暖機運転中の回転体温度と目標回転体温度とを比較し、回転体温度が目標回転温度に到達したかを判断する(S4)。さらに、ここでの暖機完了判断部15は、暖機運転中の車輪温度と目標車輪温度とを比較し、車輪温度が目標車輪温度に到達したかを判断する(S5)。そして、この暖機完了判断部15は、暖機運転中の回転体温度が目標回転体温度に到達した時点か、暖機運転中の車輪温度が目標車輪温度に到達した時点かの、いずれか遅い時点で暖機運転が完了したと判断する。
【0042】
暖機完了判断部15は、暖機運転が完了したと判断すると、暖機開始部11に暖機運転を終了させるための暖機終了信号を出力して、暖機運転を終了させる(S6)。
【0043】
次いで、暖機完了判断部15は、試験開始部16に車両試験を開始させるための試験開始信号を出力する。これにより、試験開始部16は、シャシダイナモメータ2及び自動運転装置3に制御信号を出力して、例えば規格化されている種々のレギュレーションに従った、試験車両Vあるいはエンジンやパワートレインの性能試験を開始する(S7)。
【0044】
このように構成された本実施形態に係る車両試験システム100によれば、暖機完了判断部15が、暖機運転中の回転体温度が目標回転体温度に到達した時点か、暖機運転中の車輪温度が目標車輪温度に到達した時点かの、何れか遅い時点で暖機運転が完了したと判断するので、暖機運転が完了した後の回転体温度や車輪温度のばらつきを抑えることができる。これにより、車輪Wと回転ドラム21との間に生じる摩擦の試験毎のばらつきを低減させることができ、試験結果の再現性を向上させることが可能となる。
【0045】
また、目標回転体温度及び目標車輪温度を昇温状態から安定状態に移り変わる時点の安定温度に設定しているので、安定状態になっているにもかかわらず不要に暖機運転を続けることを避けることができ、暖機運転の時間を短縮化することができる。
【0046】
さらに、暖機開始部11がシャシダイナモメータ2及び自動運転装置3を制御して暖機運転を開始し、暖機完了判断部15が暖機運転が完了したと判断した後、試験開始部16がシャシダイナモメータ2及び自動運転装置3を制御して車両試験を開始するので、暖機運転から車両試験までの工程を自動化することができる。
【0047】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0048】
例えば、暖機完了判断部15は、前記実施形態では暖機運転中の回転体温度が目標回転体温度に到達した時点か、暖機運転中の車輪温度が目標車輪温度に到達した時点かの、いずれ遅い時点で暖機運転が完了したと判断していたが、このいずれか遅い時点から所定時間経過後に暖機運転が完了したと判断するようにしても良い。なお、所定経過時間は、予め設定された任意の時間であり、例えば5〜20分等である。
【0049】
また、暖機完了判断部15は、回転体温度と車輪温度との一方又は両方の時間変化率を算出し、算出された時間変化率と暖機完了温度記憶部14に記憶されている目標値(以下、目標時間変化率という)とを比較して、暖機運転が完了したか否かを判断しても良い。この目標時間変化率は予め設定された値であり、例えば前記実施形態で述べた昇温状態から安定状態に移り変わった後の回転体温度の時間変化率や車輪温度の時間変化率である。
より具体的には、前記暖機完了判断部15は、前記時間変化率が目標時間変化率よりも小さくなった時点、又は、小さくなった時点から所定経過時間後に暖機運転が完了したと判断する。なお、所定経過時間は、予め設定された任意の時間であり、例えば5〜20分等である。
【0050】
また、暖機完了判断部15は、前記実施形態では回転体温度と車輪温度との両方に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断していたが、車輪温度を用いることなく回転体温度に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断しても良いし、回転体温度を用いることなく車輪温度に基づいて暖気運転が完了したか否かを判断しても良い。前者の場合、車両試験システム100には第2温度センサT2を備えさせる必要はないし、管理装置1には車輪温度取得部13を備えさせる必要はない。後者の場合、車両試験システム100には第1温度センサT1を備えさせる必要はないし、管理装置1には回転体温度取得部12を備えさせる必要はない。
【0051】
さらに、暖機完了判断部15は、エンジンからの排ガスの流路上に設けられている触媒の温度や、ミッションオイルの温度など、試験車両Vの内部の温度に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断するようにしても良い。
具体的には、図5に示すように、試験車両Vの内部温度を測定する第3温度センサT3を試験車両Vに設けて、管理装置1に内部温度取得部17を備えさせ、暖機完了判断部15が、内部温度取得部17により取得された暖機運転中の内部温度に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断するように構成すれば良い。
【0052】
加えて、前記実施形態の車両試験システム100は、試験車両Vの前輪を回転ドラム21に載置するように構成されていたが、試験車両Vの後輪を回転ドラム21に載置するものであっても良いし、前輪及び後輪の両方をそれぞれ回転ドラム21に載置するものであっても良い。
複数のシャシダイナモメータ2を備えた車両試験システム100においては、それぞれの回転ドラム21の回転体温度を測定して、各回転体温度に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断しても良いし、各回転ドラム21を代表して1つの回転ドラム21の回転体温度を測定して、この回転体温度に基づいて暖機運転が完了したか否かを判断しても良い。
【0053】
また、試験車両Vは、完成車に限らず、車輪や駆動系を備えているものであればよい。
【0054】
第2温度センサT2は、前記実施形態では車輪Wの前方に配置されていたが、車輪Wの後方に配置されていても良い。具体的に第2温度センサT2は、車輪Wの外周面を向くように当該車輪Wから例えば斜め後方に離れた位置に配置されていれば良い。
このような配置であれば、車輪が回転ドラム21から離れた直後の車輪温度を測定することができる。この車輪温度は、車輪の回転ドラム21に接触する箇所の温度と同等であるので、車輪の接地箇所における温度を把握することができ、例えば燃費測定などの車両試験における再現性や測定精度の向上を図れる。
【0055】
また、第2温度センサT2は、車輪Wの外周面に対する第2温度センサT2の向きを変更可能に構成された図示しない温度センサ支持機構に支持されていても良い。具体的に温度センサ支持機構は、第2温度センサT2を旋回可能に支持するものが好ましい。
このような構成であれば、車輪Wの外周面に対する第2温度センサT2の向きを変更することができるので、回転ドラム21に載置される車輪Wの位置が変わったとしても、第2温度センサT2を旋回させて例えば車輪の内側部分、外側部分或いは中央部分等といった所望の箇所に向けることで、その測定箇所における車輪温度を測定することが可能となる。
【0056】
さらに温度センサ支持機構は、車輪温度を測定する測定位置と、測定位置よりも下方に予め設定された収納位置との間で第2温度センサT2を昇降可能に支持するように構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、試験車両Vを回転ドラム21上へ又は回転ドラム21上から移動させる際等に、第2温度センサT2を収納位置に移動させて例えば床面よりも下方に収納させることで、第2温度センサT2が試験車両Vの移動を邪魔しないようにすることができる。
【0057】
<第2実施形態>
続いて、本発明に係る車両試験システムの第2実施形態について図面を参照して説明する。
【0058】
本実施形態に係る車両試験システム100は、自動車の排ガス分析や燃費測定、認証試験、耐久性試験等の試験車両Vの性能に関する試験を行うためものであり、図6に示すように、少なくとも管理装置1、シャシダイナモメータ2、車輪の温度を測定する温度センサT、及び温度センサTを支持する温度センサ支持機構5を備えている。
この第2実施形態における車両試験システム100は、温度センサ支持機構5が特徴的であるので、以下に詳述する。
【0059】
まず、温度センサTについて説明しておくと、ここでの温度センサTは、車輪Wの表面温度(以下、車輪温度という)を測定するものであり、車輪Wの表面近傍に設けられた例えば赤外温度計や放射温度計などの非接触式のものである。この温度センサTは、車輪Wの外周面W1を向くように当該車輪Wから離れた位置に配置されており、ここでは車輪Wの後方、より具体的には車輪Wの斜め後方であって車輪Wよりも外側に配置されている。
なお、温度センサTは、前後左右の車輪Wそれぞれに対して設けたり、例えば駆動車輪Wに対して設けたりするなど、任意の車輪Wに対して設けて良い。
【0060】
温度センサ支持機構5は、温度センサTを支持するものであり、車輪Wの外周面W1に対する温度センサTの向き、すなわち車輪Wの外周面W1における測定箇所を変更可能に構成されている。なお、ここでいう温度センサTの向きとは、温度センサTのセンサ面Tsの中心を通りセンサ面Tsに垂直な向きであり、より具体的にはセンサ面Tsを形成する図示しないレンズの光軸が延びる方向である。
【0061】
具体的に温度センサ支持機構5は、図6に示すように、温度センサTが取り付けられる支持部本体51と、支持部本体51に接続された回転可能な軸部材52と、軸部材52を所望の位置で静止させる図示しない静止機構とを有している。
【0062】
本実施形態の温度センサ支持機構5は、軸部材52が回転することにより支持部本体51及び温度センサTが旋回するように構成されているが、軸部材52を回転させずに、支持部本体51を回転可能にすることで温度センサTを回転させるようにしても良い。
なお、ここでは図6に示すように、回転体たる回転ドラム21の上部を露出させた床面F(試験室の床面F)に貫通孔Hが形成されており、この貫通孔Hを貫通するように軸部材52が支持部本体51から下方に延びている。
【0063】
この温度センサ支持機構5は、図7に示すように、温度センサTを所定の角度範囲内で水平旋回させることができるように構成されており、これにより温度センサTの向きを車輪の幅方向に沿って調整することができる。
具体的に温度センサ支持機構5は、温度センサTを内向き姿勢Aと外向き姿勢Bとの間で旋回させるように構成されており、内向き姿勢Aにおいて温度センサTが回転ドラム21の内側端部を向くようにしてあり、外向き姿勢Bにおいて温度センサTが回転ドラム21の外側端部を向くようにしてある。なお、内向き姿勢A及び外向き姿勢Bにおける温度センサTの向きは適宜変更して構わない。
【0064】
さらにこの温度センサ支持機構5は、図8に示すように、温度センサTを所定の角度範囲内で上下方向に沿って回転させることができるように構成されており、これにより温度センサTの向きを上下方向に沿って調整することができる。
具体的に温度センサ支持機構5は、温度センサTを車輪の外周面W1を向いて車輪温度を測定する車輪温度測定姿勢Cと、回転体の外周面を向いて回転体の温度(以下、回転体温度という)を測定する回転体温度測定姿勢Dとの間を移動させるように構成されている。
車輪温度測定姿勢Cにおける温度センサTの向きは、例えば水平方向に沿った向きに設定されており、回転体温度測定姿勢Dにおける温度センサTの向きは、回転体の頂部よりも手前、すなわち回転体の頂部よりも後ろ側を向く方向に設定されている。なお、各姿勢C、Dにおける温度センサTの向きは適宜変更することができ、例えば車輪温度測定姿勢Cにおける温度センサTの向きは水平方向から上方又は下方に傾いていても構わない。
なお、温度センサTにより測定された車輪温度や回転体温度は、管理装置に送信されて例えば燃費などの車両性能の分析に用いられる。
【0065】
さらに温度センサ支持機構5は、図9に示すように、車輪温度を測定する測定位置Pと、測定位置Pよりも下方に予め設定された収納位置Qとの間で温度センサTを昇降可能に支持するように構成されている。具体的には、軸部材52が軸方向に沿ってスライド可能に構成されており、軸部材52のスライド移動に連動して支持部本体51及び温度センサTが昇降移動する。
【0066】
測定位置Pは、床面Fよりも上方の位置であり、例えば温度センサTが床面Fからユーザの所望する高さに配置されたときの位置である。この測定位置Pは、必ずしも予め定められた定位置である必要はなく、試験車両Vの車種や車輪の大きさなどに応じて適宜変更して構わない。
【0067】
収納位置Qは、温度センサTが試験車両の走行等の邪魔にならない位置であり、温度センサTが外部から見えない位置に設定されていることが好ましい。具体的には、例えば床面Fよりも下方などが考えられる。
【0068】
本実施形態の温度センサ支持機構5は、図6図9に示すように、温度センサTが収納位置にある状態において、床面Fに形成された貫通孔Hを塞ぐ蓋体9をさらに備えている。この蓋体9は、上述した軸部材52とともに昇降移動するものであり、ユーザの指を引っ掛けるためのつまみ部91が形成されている。これにより、ユーザは、つまみ部91をつまんで蓋体9を上げ下げすることで、軸部材52を上下方向にスライド移動させることができ、温度センサTを測定位置Pと収納位置Qとの間で昇降移動させることができる。
【0069】
静止機構は、軸部材52と、軸部材52の周りにある図示しない周壁との間に摩擦力を発生させて、この摩擦力によって軸部材52の動きを静止するものであり、ここでは図示しないボールプランジャを利用して構成されている。
より具体的には、軸部材52又は周壁の一方にボールプランジャが設けられており、ボールプランジャのボールを軸部材52又は周壁の他方に押圧接触させることにより、これらの間に摩擦力を発生させて軸部材52を静止させている。これにより、温度センサTの向き(旋回角度)や測定位置P(床面Fからの高さ)を無段階に調整することができる。
なお、静止機構としては、ボールプランジャを利用したものに限らず、軸部材52と周壁との間に摩擦力を発生させる機構であれば種々の構成を採用することができる。また、静止機構は、例えばクリックストップやラッチ等を用いて、温度センサTの旋回角度や高さを段階的に調整できるように構成されていても良い。
【0070】
本実施形態の温度センサ支持機構5は、温度センサT又は温度センサ支持機構5に設けられて、車輪の外周面W1における温度測定箇所に光を照射する図示しない光射出部をさらに具備している。
この光射出部は、例えば温度センサTの近傍に設けられており、温度センサTの向きと平行な光を射出するものであり、具体的にはレーザ光を射出するレーザポインタ等である。
【0071】
このように構成された本実施形態の車両試験システム100であれば、温度センサ支持機構5が温度センサTの向きを変更可能に温度センサTを支持しているので、回転ドラム21に載置される車輪の位置が変わったとしても、温度センサTを所望の測定箇所に向けることで、その測定箇所における車輪温度を測定することが可能となる。
【0072】
また、温度センサ支持機構5によって温度センサTを水平旋回させることができるので、例えば車輪の内側部分、外側部分或いは中央部分等といった所望の箇所に温度センサTを向けることができる。
【0073】
さらに、測定位置にある温度センサTが、車輪の後方に配置されているので、車輪が回転ドラム21から離れた直後の車輪温度を測定することができる。この車輪温度は、車輪の回転ドラム21に接触する箇所の温度と同等であるので、車輪の接地箇所における温度を把握することができ、例えば燃費測定などの車両試験における再現性や測定精度の向上を図れる。
【0074】
加えて、温度センサ支持機構5が、上下首振り機構6を備えており、温度センサTを車両温度測定姿勢と回転体温度測定姿勢との間を移動可能に構成されているので、1つの温度センサTを用いて車輪温度と回転体温度との両方を測定することができる。
【0075】
さらに加えて、温度センサ支持機構5が、レーザポインタ等の光射出部を備えているので、車輪の外周面W1に照射された光を目視することで、測定箇所を確認することができる。
【0076】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る車両試験システムを用いることにより、暖気運転の後に行われる車両試験において、試験結果の再現性を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9