(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ドーズ量が分配されると分配ドーズ量が閾値を超えるビームについて、当該ビームの周囲の複数のビームに、当該ビームに分配される分配ドーズ量の一部を再分配する再分配部をさらに備えたことを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
再分配先となる前記複数のビームとして、複数の組合せの中から再分配による重心位置のずれが、できるだけ小さくなる組合せのビーム群を選択する再分配ビーム選択部をさらに備えたことを特徴とする請求項3記載のマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
マルチ荷電粒子ビームの設計上の照射位置となる複数の設計グリッドの設計グリッド毎に、実際の照射位置が当該設計グリッドに近接する4つ以上のビームを用いて、前記実際の照射位置が当該設計グリッドを取り囲む3つずつのビームにより組合せた複数の組合せを設定する工程と、
前記複数の組合せの組合せ毎に、当該組合せを構成する3つのビームに、分配後の各分配ドーズ量の重心位置及び総和が当該設計グリッド位置及び当該設計グリッドに照射される予定のドーズ量に一致するように当該設計グリッドに照射される予定の前記ドーズ量を分配するための、当該組合せを構成する前記3つのビームの各ビームへの第1の分配係数を演算する工程と、
前記4つ以上のビームのビーム毎に、当該ビームに対応する前記第1の分配係数を合計した値を前記複数の組合せの数で割った、当該設計グリッドに対する前記4つ以上のビームの各ビームの第2の分配係数を演算する工程と、
各設計グリッドに照射される予定の前記ドーズ量がそれぞれ対応する4つ以上のビームに分配されたマルチ荷電粒子ビームを用いて、試料にパターンを描画する工程と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(マルチ電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、偏向器208、及び偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時には描画対象基板となるレジストが塗布されたマスクブランクス等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0017】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、ステージ位置検出器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、DACアンプユニット132,134、ステージ位置検出器139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。DACアンプユニット132の出力は、偏向器209に接続される。DACアンプユニット134の出力は、偏向器208に接続される。ステージ位置検出器139は、レーザ光をXYステージ105上のミラー210に照射し、ミラー210からの反射光を受光する。そして、かかる反射光の情報を使ったレーザ干渉の原理を利用してXYステージ105の位置を測定する。
【0018】
制御計算機110内には、ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、及び描画制御部72が配置されている。ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、及び描画制御部72といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、及び描画制御部72に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0019】
また、描画装置100の外部から描画データが入力され、記憶装置140に格納される。描画データには、通常、描画するための複数の図形パターンの情報が定義される。具体的には、図形パターン毎に、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。
【0020】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0021】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。
図2では、例えば、縦横(x,y方向)に512×512列の穴22が形成される。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。また、穴22の配列の仕方は、
図2のように、縦横が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0022】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、
図3と
図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド43の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、
図3に示すように、支持台33上にシリコン等からなる半導体基板31が配置される。基板31の中央部は、例えば裏面側から薄く削られ、薄い膜厚hのメンブレン領域330(第1の領域)に加工されている。メンブレン領域330を取り囲む周囲は、厚い膜厚Hの外周領域332(第2の領域)となる。メンブレン領域330の上面と外周領域332の上面とは、同じ高さ位置、或いは、実質的に高さ位置になるように形成される。基板31は、外周領域332の裏面で支持台33上に保持される。支持台33の中央部は開口しており、メンブレン領域330の位置は、支持台33の開口した領域に位置している。
【0023】
メンブレン領域330には、
図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビームのそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。言い換えれば、基板31のメンブレン領域330には、電子線を用いたマルチビームのそれぞれ対応するビームが通過する複数の通過孔25がアレイ状に形成される。そして、基板31のメンブレン領域330上であって、複数の通過孔25のうち対応する通過孔25を挟んで対向する位置に2つの電極を有する複数の電極対がそれぞれ配置される。具体的には、メンブレン領域330上に、
図3及び
図4に示すように、各通過孔25の近傍位置に該当する通過孔25を挟んでブランキング偏向用の制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、基板31内部であってメンブレン領域330上の各通過孔25の近傍には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランド接続される。
【0024】
また、
図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば10ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、制御信号用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等が接続される。クロック信号線、読み込み(read)信号、ショット(shot)信号および電源用の配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビームを構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極24と対向電極26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、
図3の例では、制御電極24と対向電極26と制御回路41とが基板31の膜厚が薄いメンブレン領域330に配置される。但し、これに限るものではない。また、メンブレン領域330にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列によってグループ化され、グループ内の制御回路41群は、
図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド43からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。具体的には、各制御回路41内に、図示しないシフトレジスタが配置され、例えば、p×q本のマルチビームのうち例えば同じ行のビームの制御回路41内のシフトレジスタが直列に接続される。そして、例えば、p×q本のマルチビームの同じ行のビームの制御信号がシリーズで送信され、例えば、p回のクロック信号によって各ビームの制御信号が対応する制御回路41に格納される。
【0025】
図5は、実施の形態1の個別ブランキング機構の一例を示す図である。
図5において、制御回路41内には、アンプ46(スイッチング回路の一例)が配置される。
図5の例では、アンプ46の一例として、CMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。そして、CMOSインバータ回路は正の電位(Vdd:ブランキング電位:第1の電位)(例えば、5V)(第1の電位)とグランド電位(GND:第2の電位)に接続される。CMOSインバータ回路の出力線(OUT)は制御電極24に接続される。一方、対向電極26は、グランド電位が印加される。そして、ブランキング電位とグランド電位とが切り替え可能に印加される複数の制御電極24が、基板31上であって、複数の通過孔25のそれぞれ対応する通過孔25を挟んで複数の対向電極26のそれぞれ対応する対向電極26と対向する位置に配置される。
【0026】
CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビーム20を偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。
【0027】
各通過孔を通過する電子ビーム20は、それぞれ独立に対となる2つの制御電極24と対向電極26に印加される電圧によって偏向される。かかる偏向によってブランキング制御される。具体的には、制御電極24と対向電極26の組は、それぞれ対応するスイッチング回路となるCMOSインバータ回路によって切り替えられる電位によってマルチビームの対応ビームをそれぞれ個別にブランキング偏向する。このように、複数のブランカーが、成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22(開口部)を通過したマルチビームのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0028】
図6は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図6に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば−x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を−y方向に移動させて、第2番目のストライプ領域32の右端、或いはさらに右側の位置に照射領域34が相対的にy方向に位置するように調整し、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、−x方向に向かって同様に描画を行う。第3番目のストライプ領域32では、x方向に向かって描画し、第4番目のストライプ領域32では、−x方向に向かって描画するといったように、交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で成形アパーチャアレイ基板203に形成された複数の穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0029】
図7は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図7において、ストライプ領域32には、例えば、試料101面上におけるマルチビーム20のビームサイズピッチで格子状に配列される複数の制御グリッド27(設計グリッド)が設定される。例えば、10nm程度の配列ピッチにすると好適である。かかる複数の制御グリッド27が、マルチビーム20の設計上の照射位置となる。制御グリッド27の配列ピッチはビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく偏向器209の偏向位置として制御可能な任意の大きさで構成されるものでも構わない。そして、各制御グリッド27を中心とした、制御グリッド27の配列ピッチと同サイズでメッシュ状に仮想分割された複数の画素36が設定される。各画素36は、マルチビームの1つのビームあたりの照射単位領域となる。
図7の例では、試料101の描画領域が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(描画フィールド)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。照射領域34のx方向サイズは、マルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じた値で定義できる。照射領域34のy方向サイズは、マルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じた値で定義できる。なお、ストライプ領域32の幅は、これに限るものではない。照射領域34のn倍(nは1以上の整数)のサイズであると好適である。
図7の例では、例えば512×512列のマルチビームの図示を8×8列のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。言い換えれば、隣り合う画素28間のピッチが設計上のマルチビームの各ビーム間のピッチとなる。
図7の例では、隣り合う4つの画素28で囲まれると共に、4つの画素28のうちの1つの画素28を含む正方形の領域で1つのサブ照射領域29を構成する。
図7の例では、各サブ照射領域29は、4×4画素で構成される場合を示している。
【0030】
図8は、実施の形態1におけるマルチビームの描画方法の一例を説明するための図である。
図8では、
図7で示したストライプ領域32を描画するマルチビームのうち、y方向3段目の座標(1,3),(2,3),(3,3),・・・,(512,3)の各ビームで描画するサブ照射領域29の一部を示している。
図8の例では、例えば、XYステージ105が8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)する場合を示している。かかる4つの画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。
図8の例では、8ビームピッチ分の距離を移動する間に4つの画素を描画(露光)することで1回のトラッキングサイクルを実施する場合を示している。
【0031】
具体的には、ステージ位置検出器139が、ミラー210にレーザを照射して、ミラー210から反射光を受光することでXYステージ105の位置を測長する。測長されたXYステージ105の位置は、制御計算機110に出力される。制御計算機110内では、描画制御部72がかかるXYステージ105の位置情報を偏向制御回路130に出力する。偏向制御回路130内では、XYステージ105の移動に合わせて、XYステージ105の移動に追従するようにビーム偏向するための偏向量データ(トラッキング偏向データ)を演算する。デジタル信号であるトラッキング偏向データは、DACアンプ134に出力され、DACアンプ134は、デジタル信号をアナログ信号に変換の上、増幅して、トラッキング偏向電圧として偏向器208に印加する。
【0032】
そして、描画機構150は、当該ショットにおけるマルチビームの各ビームのそれぞれの照射時間のうちの最大描画時間Ttr内のそれぞれの制御グリッド27に対応する描画時間(照射時間、或いは露光時間)、各制御グリッド27にマルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。
【0033】
図8の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=0からt=最大描画時間Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば最下段右から1番目の画素36の制御グリッド27に1ショット目のビームの照射が行われる。これにより、当該画素は、所望の照射時間のビームの照射を受けたことになる。時刻t=0からt=Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0034】
当該ショットのビーム照射開始から当該ショットの最大描画時間Ttrが経過後、偏向器208によってトラッキング制御のためのビーム偏向を継続しながら、トラッキング制御のためのビーム偏向とは別に、偏向器209によってマルチビーム20を一括して偏向することによって各ビームの描画位置(前回の描画位置)を次の各ビームの描画位置(今回の描画位置)にシフトする。
図8の例では、時刻t=Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の最下段右から1番目の画素36の制御グリッド27から下から1段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27へと描画対象制御グリッド27をシフトする。その間にもXYステージ105は定速移動しているのでトラッキング動作は継続している。
【0035】
そして、トラッキング制御を継続しながら、シフトされた各ビームの描画位置に当該ショットの最大描画時間Ttr内のそれぞれ対応する描画時間、マルチビーム20のうちONビームのそれぞれ対応するビームを照射する。
図8の例では、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から2段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27に2ショット目のビームの照射が行われる。時刻t=Ttrからt=2Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。
【0036】
図8の例では、時刻t=2Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から2段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27から下から3段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象制御グリッド27をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から3段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27に3ショット目のビームの照射が行われる。これにより、当該画素36の制御グリッド27は、所望の照射時間のビームの照射を受けたことになる。
【0037】
時刻t=2Ttrからt=3Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。時刻t=3Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29の下から3段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27から下から4段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27へと偏向器209によるマルチビームの一括偏向により描画対象画素をシフトする。その間にもXYステージ105は移動しているのでトラッキング動作は継続している。
【0038】
そして、座標(1,3)のビーム(1)によって、時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間に注目サブ照射領域29の例えば下から4段目かつ右から1番目の画素36の制御グリッド27に4ショット目のビームの照射が行われる。これにより、当該画素36の制御グリッド27は、所望の照射時間のビームの照射を受けたことになる。
【0039】
時刻t=3Ttrからt=4Ttrまでの間にXYステージ105は例えば2ビームピッチ分だけ−x方向に移動する。その間、トラッキング動作は継続している。以上により、注目サブ照射領域29の右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0040】
図8の例では初回位置から3回シフトされた後の各ビームの描画位置にそれぞれ対応するビームを照射した後、DACアンプユニット134は、トラッキング制御用のビーム偏向をリセットすることによって、トラッキング位置をトラッキング制御が開始されたトラッキング開始位置に戻す。言い換えれば、トラッキング位置をステージ移動方向と逆方向に戻す。
図8の例では、時刻t=4Ttrになった時点で、注目サブ照射領域29のトランキングを解除して、x方向に8ビームピッチ分ずれた注目サブ照射領域29にビームを振り戻す。なお、
図8の例では、座標(1,3)のビーム(1)について説明したが、その他の座標のビームについてもそれぞれの対応するサブ照射領域29に対して同様に描画が行われる。すなわち、座標(n,m)のビームは、t=4Ttrの時点で対応するサブ照射領域29に対して右から1番目の画素列の描画が終了する。例えば、座標(2,3)のビーム(2)は、
図7のビーム(1)用の注目サブ照射領域29の−x方向に隣り合うサブ照射領域29に対して右から1番目の画素列の描画が終了する。
【0041】
なお、各サブ照射領域29の右から1番目の画素列の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず偏向器209は、各サブ照射領域29の下から1段目かつ右から2番目の画素の制御グリッド27にそれぞれ対応するビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。
【0042】
以上のように同じトラッキングサイクル中は偏向器208によって照射領域34を試料101に対して相対位置が同じ位置になるように制御された状態で、偏向器209によって1制御グリッド27(画素36)ずつシフトさせながら各ショットを行う。そして、トラッキングサイクルが1サイクル終了後、照射領域34のトラッキング位置を戻してから、
図6の下段に示すように、例えば1制御グリッド(1画素)ずれた位置に1回目のショット位置を合わせ、次のトラッキング制御を行いながら偏向器209によって1制御グリッド(1画素)ずつシフトさせながら各ショットを行う。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、照射領域34a〜34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域の描画を行っていく。
【0043】
マルチビーム20で試料101を描画する際、上述したように、偏向器208によるトラッキング動作中にXYステージ105の移動に追従しながらショットビームとなるマルチビーム20を偏向器209によるビーム偏向位置の移動によって1制御グリッド(1画素)ずつ順に連続して照射していく。そして、試料101上のどの制御グリッド27(画素36)をマルチビームのどのビームが照射するのかは描画シーケンスによって決まる。そして、マルチビームのx,y方向にそれぞれ隣り合うビーム間のビームピッチを用いて、試料101面上におけるx,y方向にそれぞれ隣り合うビーム間のビームピッチ(x方向)×ビームピッチ(y方向)の領域はn×n画素の領域(サブ照射領域29)で構成される。例えば、1回のトラッキング動作で、XYステージ105が−x方向にビームピッチ(x方向)だけ移動する場合、上述したようにy方向に1つのビームによって照射位置をシフトしながらn制御グリッド(n画素)が描画される。或いは、x方向或いは斜め方向に1つのビームによって照射位置をシフトしながらn制御グリッド(n画素)が描画されてもよい。同じn×n画素の領域内の他のn画素が次回のトラッキング動作で上述したビームとは異なるビームによって同様にn画素が描画される。このようにn回のトラッキング動作でそれぞれ異なるビームによってn画素ずつ描画されることにより、1つのn×n画素の領域内のすべての画素が描画される。マルチビームの照射領域内の他のn×n画素の領域についても同時期に同様の動作が実施され、同様に描画される。
【0044】
次に描画装置100における描画機構150の動作について説明する。電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴が含まれる領域を照明する。複数の穴の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状の複数の電子ビーム(マルチビーム)20a〜eが形成される。かかるマルチビーム20a〜eは、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、個別に通過する電子ビーム20を偏向する(ブランキング偏向を行う)。
【0045】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20a〜eは、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビーム20aは、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビーム20b〜20eは、
図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。かかる個別ブランキング機構のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが制御される。このように、制限アパーチャ基板206は、個別ブランキング機構47によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビーム毎に、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットのビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、偏向器208,209によって、制限アパーチャ基板206を通過した各ビーム(マルチビーム20全体)が同方向に一括して偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0046】
図9は、実施の形態1における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図9において、実施の形態1における描画方法は、面積率マップ作成工程(S102)と、ストライプ単位の照射量マップ作成工程(S104)と、ビーム位置ずれ量測定工程(S112)と、ビームアレイ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S114)と、ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S116)と、ドーズ分配テーブル作成工程(S118)と、ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)と、描画工程(S140)と、いう一連の工程を実施する。
【0047】
面積率マップ作成工程(ラスタライズ処理工程)(S102)として、ラスタライズ部50は、記憶装置140から描画データを読み出し、画素36毎に、当該画素36内のパターン面積密度ρ’を演算する。かかる処理は、例えば、ストライプ領域32毎に実行する。
【0048】
ストライプ単位の照射量マップ作成工程(S104)として、照射量マップ作成部52は、まず、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。照射量マップ作成部52は、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρを演算する。
【0049】
次に、照射量マップ作成部52は、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dp(x)(補正照射量)を演算する。未知の近接効果補正照射係数Dp(x)は、後方散乱係数η、しきい値モデルの照射量閾値Dth、パターン面積密度ρ、及び分布関数g(x)を用いた、従来手法と同様の近接効果補正用のしきい値モデルによって定義できる。
【0050】
次に、照射量マップ作成部52は、画素36毎に、当該画素36に照射するための入射照射量D(x)(ドーズ量)を演算する。入射照射量D(x)は、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン面積密度ρ’とを乗じた値として演算すればよい。基準照射量Dbaseは、例えば、Dth/(1/2+η)で定義できる。以上により、描画データに定義される複数の図形パターンのレイアウトに基づいた、近接効果が補正された本来の所望する入射照射量D(x)を得ることができる。
【0051】
そして、照射量マップ作成部52は、ストライプ単位で画素36毎の入射照射量D(x)を定義した照射量マップを作成する。かかる画素36毎の入射照射量D(x)は、設計上、当該画素36の制御グリッド27に照射される予定の入射照射量D(x)となる。言い換えれば、照射量マップ作成部52は、ストライプ単位で制御グリッド27毎の入射照射量D(x)を定義した照射量マップ(1)を作成する。作成された照射量マップ(1)は、例えば、記憶装置142に格納される。
【0052】
ビーム位置ずれ量測定工程(S112)として、描画装置100は、マルチビーム20の各ビームの対応する制御グリッド27からの位置ずれ量を測定する。
【0053】
図10は、実施の形態1におけるビームの位置ずれと位置ずれ周期性とを説明するための図である。マルチビーム20では、
図10(a)に示すように、光学系の特性上、露光フィールドに歪が生じ、かかる歪等によって、個々のビームの実際の照射位置39が理想グリッドに照射される場合の照射位置37からずれてしまう。そこで、実施の形態1では、かかる個々のビームの実際の照射位置39の位置ずれ量を測定する。具体的には、レジストが塗布された評価基板に、マルチビーム20を照射し、評価基板を現像することで生成されるレジストパターンの位置を位置測定器で測定することにより、ビーム毎の位置ずれ量を測定する。各ビームのショットサイズでは、各ビームの照射位置におけるレジストパターンのサイズを位置測定器で測定困難であれば、各ビームで、位置測定器で測定可能なサイズの図形パターン(例えば矩形パターン)を描画し、図形パターン(レジストパターン)の両側のエッジ位置を測定して、両エッジ間の中間位置と設計上の図形パターンの中間位置との差分から対象ビームの位置ずれ量を測定すればよい。そして、得られた各ビームの照射位置の位置ずれ量データは、描画装置100に入力され、記憶装置144に格納される。また、マルチビーム描画では、ストライプ領域32内において照射領域34をずらしながら描画を進めていくため、例えば、
図8において説明した描画シーケンスでは、
図6の下段に示すように、ストライプ領域32の描画中、照射領域34a〜34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動して、照射領域34の移動毎に、各ビームの位置ずれに周期性が生じることになる。或いは、各ビームが、それぞれ対応するサブ照射領域29内のすべての画素36を照射する描画シーケンスの場合であれば、
図10(b)に示すように、少なくとも照射領域34と同じサイズの単位領域35毎(35a、35b、・・・)に各ビームの位置ずれに周期性が生じることになる。よって、1つの照射領域34分の各ビームの位置ずれ量を測定すれば、測定結果を流用できる。言い換えれば、各ビームについて、対応するサブ照射領域29内の各画素36での位置ずれ量を測定できれば良い。
【0054】
ビームアレイ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S114)として、ビーム位置ずれマップ作成部54は、まず、ビームアレイ単位、言い換えれば、照射領域34内の各ビームの位置ずれ量を定義するビーム位置ずれ量マップ(1)を作成する。具体的には、ビーム位置ずれマップ作成部54は、記憶装置144から各ビームの照射位置の位置ずれ量データを読み出し、かかるデータをマップ値としてビーム位置ずれ量マップ(1)を作成すればよい。
【0055】
ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S116)として、ビーム位置ずれマップ作成部54は、次に、ストライプ領域32内の各画素36の制御グリッド27でのビーム位置ずれ量マップ(2)を作成する。ストライプ領域32内の各画素36の制御グリッド27をどのビームが照射するのかは、例えば
図8において説明したように、描画シーケンスによって決まる。よって、ビーム位置ずれマップ作成部54は、描画シーケンスに応じてストライプ領域32内の各画素36の制御グリッド27毎に当該制御グリッド27への照射を担当するビームを特定して、当該ビームの位置ずれ量を演算する。そして、ビーム位置ずれマップ作成部54は、各制御グリッド27へのビームの照射位置の位置ずれ量をマップ値として、ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ(2)を作成する。上述したように、各ビームの位置ずれに周期性が生じるので、ビームアレイ単位のビーム位置ずれ量マップ(1)の値を流用して、ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ(2)を作成すればよい。
【0056】
ドーズ分配テーブル作成工程(S118)として、制御グリッド27毎に、当該制御グリッド27に設定されるドーズ量を周囲のビームに分配するためのドーズ分配テーブルを作成する。
【0057】
図11は、実施の形態1におけるドーズ分配テーブル作成工程の内部工程の一例を示すフローチャート図である。
図11において、ドーズ分配テーブル作成工程(S118)は、その内部工程として、注目グリッド選定工程(S202)と、近接ビーム探索工程(S204)と、組合せ設定工程(S206)と、ドーズ分配率演算工程(S208)と、ドーズ分配係数演算工程(S210)と、ドーズ分配テーブル作成処理工程(S212)と、いう一連の工程を実施する。
【0058】
注目グリッド選定工程(S202)として、選択部56は、対象ストライプ領域32内の複数の制御グリッド27のうち、注目する制御グリッドを選択(選定)する。
【0059】
近接ビーム探索工程(S204)として、探索部58は、マルチビーム20の設計上の照射位置となる複数の制御グリッド27(設計グリッド)の制御グリッド27毎に、実際の照射位置が当該制御グリッド27に近接する4つ以上の近接ビームを探索する。
【0060】
図12は、実施の形態1における近接ビームの探索手法を説明するための図である。各制御グリッド27に照射されるビームは、上述したように、位置ずれが生じるため、
図12に示すように各ビームの実際の照射位置(実照射位置)は、当該ビームが担当する制御グリッド27から外れた位置となる。そのため、
図12において、座標d(i,j)で示す注目する制御グリッド27(注目グリッド)(黒)の周囲には、複数の実照射位置39(白)が存在する。近接ビームの数は4つ以上であればよいが、実施の形態1では、4つの近接ビームを探索し、選択する場合について説明する。
【0061】
探索部58(近接ビーム選択部)は、制御グリッド27(設計グリッド)毎に、実際の照射位置が当該制御グリッド27に近接する4つの近接ビームとして、当該制御グリッド27を通る角度の異なる2直線によって分割される4つの領域からそれぞれ最近接の照射位置に対応するビームを探索し、選択する。
図12の例では、角度の異なる2直線として、例えば、座標d(i,j)で示す注目する制御グリッド27(注目グリッド)を通るx方向に平行な直線43aとy方向に平行な直線43bとを用いる。言い換えれば、注目グリッドを中心とするx軸とy軸を設定する。そして、注目グリッド周辺の領域をx軸とy軸とによって分割される4つの領域(第1象限〜第4象限)に分割する。そして、探索部58(近接ビーム選択部)は、第1象限(A)において最近接の照射位置39bに対応するビームと、第2象限(B)において最近接の照射位置39aに対応するビームと、第3象限(C)において最近接の照射位置39cに対応するビームと、第4象限(D)において最近接の照射位置39dに対応するビームと、を選択する。
【0062】
図13は、実施の形態1における制御グリッドと各ビームの実際の照射位置との一例を示す図である。
図13の例では、中心に示される注目する制御グリッド27に対応するビームの実際の照射位置39が左上側(−x,+y方向)に位置ずれを起こす場合(U)を示している。また、
図13の例では、注目する制御グリッド27の−x方向に隣接する制御グリッドに対応するビームの実際の照射位置39が左上側(+x,−y方向)に位置ずれを起こす場合(V)を示している。また、
図13の例では、注目する制御グリッド27の+x方向に隣接する制御グリッドに対応するビームの実際の照射位置39が左上側(−x,−y方向)に位置ずれを起こす場合(W)を示している。また、
図13の例では、注目する制御グリッド27の+y方向に2つ隣の制御グリッドに対応するビームの実際の照射位置39が制御グリッドピッチよりもさらに左上側(+x,−y方向)に位置ずれを起こす場合(Z)を示している。
図13の例のように、各制御グリッド27(黒)に対応するビームの位置ずれ方向が一致するわけではない。また、各制御グリッド27(黒)に対応するビームの実際の照射位置39(白)が、必ずしも注目グリッドと注目グリッドに隣接する制御グリッドとの間に存在するとは限らない。制御グリッドピッチよりもさらに遠くまで位置ずれが生じている場合もあり得る。探索部58は、制御グリッド27とビームとの対応関係に関わらず、実際の照射位置39が各象限において最近接の位置にあるビームをそれぞれ選択すればよい。
【0063】
組合せ設定工程(S206)として、組合せ設定部60は、マルチビーム20の設計上の照射位置となる複数の制御グリッド27の制御グリッド27毎に、実際の照射位置39が当該制御グリッド27に近接する4つ以上のビームを用いて、実際の照射位置39が当該制御グリッド27を取り囲む3つずつのビームにより組合せた複数の組合せ42a,41bを設定する。
図12の例では、第1象限(A)において最近接の照射位置39bに対応するビームと、第2象限(B)において最近接の照射位置39aに対応するビームと、第3象限(C)において最近接の照射位置39cに対応するビームと、の3つの近接ビームによって1つの組合せ42aを設定できる。また、第2象限(B)において最近接の照射位置39aに対応するビームと、第3象限(C)において最近接の照射位置39cに対応するビームと、第4象限(D)において最近接の照射位置39dに対応するビームと、の3つの近接ビームによって他の1つの組合せ42bを設定できる。注目する制御グリッド27(注目グリッド)を取り囲むため、各象限から1つずつ近接ビームを選択する場合、通常、2つの組合せが存在することになる。
【0064】
ドーズ分配率演算工程(S208)として、ドーズ分配率演算部62(第1の分配係数演算部)は、複数の組合せの組合せ毎に、当該組合せを構成する3つのビームに、分配後の各分配ドーズ量の重心位置及び総和が当該制御グリッド27位置及び当該制御グリッド27に照射される予定のドーズ量に一致するように当該制御グリッド27に照射される予定のドーズ量を分配するための、当該組合せを構成する3つのビームの各ビームへの分配率wk’(第1の分配係数)を演算する。
【0065】
図14は、実施の形態1における周囲3つの近接ビームへのドーズ分配の仕方を説明するための図である。
図14(a)には、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)の周囲に照射される3つのビームの実際の照射位置39(白)を示している。3つのビームの照射位置39の座標は、それぞれ(x
1,y
1)、(x
2,y
2)、(x
3,y
3)で示されている。また、かかる3つのビームの照射位置39の座標を注目グリッド(制御グリッド27)の座標(x,y)を原点とする相対位置で示す場合、相対座標は、それぞれ(Δx
1,Δy
1)、(Δx
2,Δy
2)、(Δx
3,Δy
3)で示される。座標(x,y)の注目グリッド(制御グリッド27)に照射されるドーズ量dをかかる3つのビームに分配する場合に、分配後の各ドーズ量d
1,d
2,d
3(分配ドーズ量)の重心位置が座標(x,y)となり、分配後の各ドーズ量d
1,d
2,d
3(分配ドーズ量)の総和がドーズ量dになるためには、
図14(b)に示す行列式を満たせばよい。言い換えれば、以下の式(1)〜(3)を満たすように分配後の各ドーズ量d1,d2,d3が決定される。
(1) x
1・d
1+x
2・d
2+x
3・d
3=x
(2) y
1・d
1+y
2・d
2+y
3・d
3=y
(3) d
1+d
2+d
3=d
【0066】
よって、分配後の各ドーズ量d
1,d
2,d
3(分配ドーズ量)は、
図14(c)に示す行列式から演算できる。言い換えれば、分配後の各ドーズ量dk(分配ドーズ量)は、
図14(d)に示す分配率wk’に注目グリッド(制御グリッド27)に照射されるドーズ量dを乗じた値で定義できる。よって、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)の周囲の3つのビームへの分配率wk’は、
図14(c)を演算することで求めることができる。言い換えれば、3つのビームへの分配率wk’は、以下の式(4)〜(7)を満たす。
(4) d
1=w
1’・d
(5) d
2=w
2’・d
(6) d
3=w
3’・d
(7) w
1’+w
2’+w
3’=1
【0067】
ドーズ分配係数演算工程(S210)として、ドーズ分配係数演算部64(第2の分配係数演算部)は、4つ以上のビーム(ここでは例えば4つのビーム)のビーム毎に、当該ビームに対応する分配率wk’(第1の分配係数)を合計した値を複数の組合せの数で割った、当該制御グリッド27(設計グリッド)に対する4つ以上のビーム(ここでは例えば4つのビーム)の各ビームの分配係数wk(第2の分配係数)を演算する。ドーズ分配率演算工程(S208)の段階では、組合せ毎に、当該組合せを構成する3つのビームへのそれぞれの分配率wk’しか演算されていない。しかし、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)用には、ビームを兼用しながら複数の組合せが存在する。よって、例えば、4象限から得られた4つのビームのうち2つのビームは2つの組合せの両方の構成に使用されるビームとなる。
図12の例では、照射位置39aのビームは、組合せ42aと組合せ42bの両方に使用される。同様に、照射位置39cのビームは、組合せ42aと組合せ42bの両方に使用される。よって、照射位置39aのビームと照射位置39cのビームとには、それぞれ組合せ42aの場合の分配率wk’と組合せ42bの場合の分配率wk’とが演算される。一方、照射位置39bのビームは、組合せ42aには使用されるものの、組合せ42bには使用されない。よって、照射位置39bのビームには、組合せ42aの場合の分配率wk’が演算されるものの、組合せ42bの場合の分配率wk’が演算されない。逆に、照射位置39dのビームは、組合せ42bには使用されるものの、組合せ42aには使用されない。よって、照射位置39dのビームには、組合せ42bの場合の分配率wk’が演算されるものの、組合せ42aの場合の分配率wk’が演算されない。また、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)用に選択された4つのビームについて演算された分配率wk’の合計は組合せ数と同じ「2」となる。そこで、各組合せで分配するドーズ量を(1/組合せ数)ずつにする。かかる演算により、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)毎に、選択された4つのビームへ当該制御グリッド27に照射される予定のドーズ量dを分配するためのそれぞれのビームへの分配係数wkが得られる。
【0068】
ドーズ分配テーブル作成処理工程(S212)として、ドーズ分配テーブル作成部66は、注目グリッド(制御グリッド27)(黒)毎に演算された4つのビームへの分配係数wkを注目グリッド(制御グリッド27)に関連させて定義させたドーズ分配テーブルを作成する。
【0069】
図15は、実施の形態1におけるドーズ分配テーブルの一例を示す図である。
図15の例では、座標(i,j)の注目グリッド(制御グリッド27)(黒)毎に、分配先の4つのビームの識別座標(i
k,j
k)と分配先となる4つのビームへの分配係数wkが定義される。
【0070】
そして、1つの注目グリッド(制御グリッド27)(黒)についてのドーズ分配テーブルが作成されたら、当該ストライプ領域内のすべての制御グリッドについてドーズ分配テーブルが作成されるまで、順に次の制御グリッド27を注目グリッドとして、注目グリッド選定工程(S202)からドーズ分配テーブル作成処理工程(S212)までの各工程を繰り返す。
【0071】
ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)として、ドーズ変調部68は、記憶装置142からストライプ単位の照射量マップ作成工程(S104)において作成した制御グリッド27毎の入射照射量Dを定義した照射量マップ(1)を読み出し、制御グリッド27毎に、ドーズ分配テーブルを用いて、当該制御グリッド27用の入射照射量Dに、演算された分配先となる4つのビームの分配係数wkをそれぞれ乗じた分配ドーズ量を、当該分配先となる4つのビームが設計上照射位置となる制御グリッド27にそれぞれ分配する。ドーズ変調部68は、かかる分配によって、照射量マップの制御グリッド27毎の入射照射量Dを変調によって補正して、補正後の変調照射量マップ(2)を作成する。さらに、ドーズ変調部68は、制御グリッド27毎の補正後の変調入射照射量Dを所定の量子化単位Δで階調化された照射時間tに変換して、変調照射量マップ(2)に定義すると良い。
【0072】
描画工程(S140)として、描画機構150は、各制御グリッド27(設計グリッド)に照射される予定のドーズ量dがそれぞれ対応する4つ以上のビームに分配されたマルチビーム20を用いて、試料101にパターンを描画する。具体的には、以下のように動作する。描画対象のストライプ領域32の各制御グリッド27へのビームの照射時間tは、変調照射量マップ(2)に定義されている。そこで、まず、描画制御部72は、変調照射量マップ(2)に定義された照射時間tデータを描画シーケンスに沿ってショット順に並び替える。そして、ショット順に照射時間tデータを偏向制御回路130に転送する。偏向制御回路130は、ブランキングアパーチャアレイ機構204にショット順にブランキング制御信号を出力すると共に、DACアンプユニット132,134にショット順に偏向制御信号を出力する。そして、描画機構150は、各制御グリッド27を照射するように、上述したように、マルチビーム20を用いて、試料101を描画する。実際には、上述したように、各制御グリッド27を照射するビームの照射位置39は、設計上の制御グリッド27から位置がずれるが、ドーズ変調されているため、露光後に形成されるレジストパターン上において形成されるパターンの位置ずれを補正できる。
【0073】
図16は、実施の形態1におけるドーズ分配による照射量頻度の一例を示す図である。
図16では、ストライプ領域32を描画するマルチビーム20の全ショットの照射量頻度の一例を示している。周囲のビームへのドーズ分配を行わない場合、各制御グリッド27(照射位置)へ照射される入射照射量(ドーズ量)の範囲は、上述したように、基準ドーズに対して、ドーズ変調の範囲が例えば数100%必要となる。よって、益々、最大照射時間が大きくなってしまう。これに対して、制御グリッド27への照射予定の入射照射量(ドーズ量)を周囲の3つのビームに分配する場合、
図16(a)の例に示すように、最大ドーズ量が基準ドーズの1.8倍の値に低減できる。さらに、実施の形態1のように、制御グリッド27の照射予定の入射照射量(ドーズ量)を周囲の4つのビームに分配する場合、
図16(b)の例に示すように、最大ドーズ量が基準ドーズの1.4倍の値に低減できる。4つ以上のビームに分配すれば、さらに最大ドーズ量が低減され得る。言い換えれば、マルチビーム20の全ショットにおける最大照射時間を大幅に低減できる。さらに、制御グリッド27への照射予定の入射照射量(ドーズ量)を周囲の3つのビームに分配する場合、
図16(a)の例に示すように、描画されるパターンエッジ位置の分散が3σにおいて1.34nmであった。これに対して、実施の形態1のように、制御グリッド27の照射予定の入射照射量(ドーズ量)を周囲の4つのビームに分配する場合、
図16(b)の例に示すように、描画されるパターンエッジ位置の分散が3σにおいて1.08nmに低減できた。すなわち、位置ずれ量の低減にも効果が大きいことがわかる。
【0074】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビーム描画においてドーズ変調の変調幅を小さくできる。よって、最大照射時間を短縮できる。その結果、スループットを向上させることができる。
【0075】
実施の形態2.
実施の形態1では、照射位置の位置ずれに起因して描画されるパターンに生じる位置ずれを補正することを前提にしながらドーズ変調の変調幅を小さくする場合について説明した。実施の形態2では、パターンに生じる位置ずれの補正効果を少々犠牲にしてでもスループットをさらに向上させるべく、実施の形態1よりもさらにドーズ変調の変調幅を小さくすることが可能な構成について説明する。
【0076】
図17は、実施の形態2における描画装置の構成を示す概念図である。
図17において、制御計算機110内に、さらに、特定部73、探索部74、設定部75、再分配部76、重心演算部77、選択部78、修正部79、及び照射量マップ作成部90が配置された点以外は、
図1と同様である。よって、ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、描画制御部72、特定部73、探索部74、設定部75、再分配部76、重心演算部77、選択部78、修正部79、及び照射量マップ作成部90といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、描画制御部72、特定部73、探索部74、設定部75、再分配部76、重心演算部77、選択部78、修正部79、及び照射量マップ作成部90に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0077】
図18は、実施の形態2における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図18において、ドーズ分配テーブル作成工程(S118)と、ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)との間に、ドーズ分配テーブル調整工程(S120)を追加した点以外は、
図9と同様である。また、以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。
【0078】
面積率マップ作成工程(S102)と、ストライプ単位の照射量マップ作成工程(S104)と、ビーム位置ずれ量測定工程(S112)と、ビームアレイ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S114)と、ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S116)と、ドーズ分配テーブル作成工程(S118)と、の各工程の内容は、実施の形態1と同様である。
【0079】
ドーズ分配テーブル調整工程(S120)において、作成されたドーズ分配テーブルを調整して、ドーズ分配の仕方を一部修正する。
【0080】
図19は、実施の形態2におけるドーズ分配テーブル調整工程の内部工程を示すフローチャート図である。
図19において、ドーズ分配テーブル調整工程(S120)は、内部工程として、照射量マップ作成工程(S220)と、ビーム特定工程(S222)と、近接ビーム探索工程(S224)と、組合せ設定工程(S226)と、ドーズ割当工程(S228)と、重心演算工程(S230)と、組合せ選択工程(S232)と、ドーズ分配テーブル修正工程(S234)と、いう一連の工程を実施する。
【0081】
照射量マップ作成工程(S220)として、照射量マップ作成部90は、作成されたドーズ分配テーブルを用いて、描画対象のストライプ領域32の全制御グリッド27に一様に面積密度が100%の場合の入射照射量Dが定義された場合において、制御グリッド27毎に、当該制御グリッド27用の入射照射量Dに、演算された分配先となる4つのビームの分配係数wkをそれぞれ乗じた分配ドーズ量を、当該分配先となる4つのビームが設計上照射位置となる制御グリッド27にそれぞれ分配する。そして、照射量マップ作成部90は、かかる分配によって、照射量マップの制御グリッド27毎の入射照射量Dを変調によって補正して、補正後の照射量マップ(3)を作成する。一様に面積密度が100%の場合の入射照射量Dについては、例えば、規格された値「1」としても良い。かかる場合、各制御グリッド27の変調後の照射量は、周囲の制御グリッド27から分配された分配係数wkの合計となる。作成された照射量マップ(3)は、例えば、記憶装置142に格納される。
【0082】
ビーム特定工程(S222)として、特定部73は、記憶装置142から照射量マップ(3)を読み出し、ドーズ量が分配されると分配ドーズ量が予め設定された閾値を超えるビームを特定する。
【0083】
図20は、実施の形態2における一様100%面積密度を仮定した場合の照射量マップの一例を示す図である。
図20の例では、例えば、10×10個の制御グリッド(黒点)と、10×10個の制御グリッドに照射される10×10本のビームの実際の照射位置(十字マーク)とを示している。実際の照射位置(十字マーク)における円の大きさの違いは、ドーズ量の違いを示している。
図20の例では、大きい円ほどドーズ量が大きいことを示している。
図20の例に示すように、ビームの位置ずれ量に依存して、分配後のドーズ量の多いビームと少ないビームとが存在することがわかる。よって、位置ずれ量の補正効果を少々犠牲にすれば、まだまだドーズ変調の変調幅を小さくできる余地があることがわかる。
【0084】
近接ビーム探索工程(S224)として、探索部74は、ドーズ量が分配されると分配ドーズ量dが閾値Th’を超える、特定されたビームについて、特定されたビーム毎に、当該ビームの周囲に近接する複数の近接ビームを探索する。
【0085】
図21は、実施の形態2における分配ドーズ量が閾値を超える特定ビームに近接する近接ビームの探索手法を説明するための図である。探索部74は、当該特定ビーム45の照射位置(ここでは照射位置39c)を取り囲む4つの制御グリッド27a〜27dからドーズ分配を受ける複数の照射位置に対応するビームを探索し、選択する。具体的には、探索部74は、当該特定ビーム45の照射位置(ここでは照射位置39c)を取り囲む4つの制御グリッド27a〜27dについて、制御グリッド27(a〜d)毎に作成済みのドーズ分配テーブルを記憶装置142から読み出し、当該制御グリッド27から分配される例えば4つの照射位置に対応するビームを探索し、選択すればよい。かかる動作により
図21の例において、探索部74は、制御グリッド27aから当該特定ビーム45以外に、ドーズ分配されるビーム46a,46b,46gを特定する。また、探索部74は、制御グリッド27bから当該特定ビーム45以外に、ドーズ分配されるビーム46a,46d,46cを特定する。また、探索部74は、制御グリッド27cから当該特定ビーム45以外に、ドーズ分配されるビーム46c,46e,46fを特定する。また、探索部74は、制御グリッド27dから当該特定ビーム45以外に、ドーズ分配されるビーム46f,46h,46gを特定する。以上のようにして、探索部74は、当該特定ビーム45の周囲の例えば8つのビーム46a〜hを特定し、選択する。それぞれの制御グリッド27(a〜d)から当該特定ビーム45以外に特定された複数のビームは重複して抽出される場合が多くなる。作成済みのドーズ分配テーブルを用いることにより、容易に、当該特定ビーム45の周囲の例えば8つのビーム46a〜hを特定できる。
【0086】
ここで、閾値を超えるドーズ量を再分配する場合に、次の手法が簡易な手法として用いることができる。当該特定ビーム45が分配先として定義される既に作成された4つの制御グリッド27(a〜d)用のドーズ分配テーブルを用いて、かかる4つの制御グリッド27(a〜d)のうちいずれか1つを選択する。そして、選択された制御グリッド27用の分配先に定義された4つのビームのうち、当該特定ビーム45以外の残りのビームに再分配する。具定的には以下のように動作する。
【0087】
組合せ設定工程(S226)として、設定部75は、制御グリッド27(a〜d)毎の作成済みのドーズ分配テーブルに定義される当該特定ビーム45と残りの3つのビームとによってそれぞれの組合せが形成される、複数の組合せを設定する。言い換えれば、ドーズ分配テーブルごとに、組を設定する。
【0088】
ドーズ再分配工程(S228)として、まず、描画制御部72は、特定されたビーム毎に、当該特定ビーム45の分配ドーズ量dから閾値dthを差し引いた再分配用の差分ドーズ量d’を演算する。当該特定ビーム45の分配ドーズ量d(周囲の制御グリッド27から分配されるドーズ量の合計)と周囲の例えば8つのビーム46a〜hの分配ドーズ量d(周囲の制御グリッド27から分配されるドーズ量の合計)とは、照射量マップ作成工程(S220)において既に演算されているので、かかる値を流用できる。次に、再分配部76は、組合せ毎に、差分ドーズ量d’がゼロになるまで、当該組合せの4つのビームの当該特定ビーム45以外の3つのビームについて分配ドーズ量が小さい方から順にそれぞれ閾値dthに達するまで差分ドーズ量d’の一部を再分配ドーズ量として割り当てる。或いは、再分配部76は、組合せ毎に、差分ドーズ量d’を個数J(ここでは3つ)で割った再分配ドーズ量d’/Jを当該組合せの当該特定ビーム45以外の残りのJ個(ここでは3つ)のビームにそれぞれ均等に割り当てるようにしても好適である。
【0089】
重心演算工程(S230)として、重心演算部77は、組合せ毎に、各ビームに再分配された後のドーズ分配テーブルに定義された例えば4つのビームの各分配ドーズ量の重心位置を演算する。
【0090】
組合せ選択工程(S232)として、選択部78(再分配ビーム選択部)は、再分配先となる複数の近接ビームとして、複数の組合せの中から再分配による重心位置のずれが、できるだけ小さくなる組合せの近接ビーム群を選択する。具体的には、以下のように動作する。再分配先された後の各分配ドーズ量の重心位置が当該組合せに対応する制御グリッド27からずれる位置ずれ量が、できるだけ小さくなる組合せを選択する。当該特定ビーム45が分配先として定義されるドーズ分配テーブルは、4つ存在する場合が多い。そのため、組合せ選択工程(S232)により、かかる4つのドーズ分配テーブルの中から、ドーズを再分配した場合に最も重心ずれが少なくて済むドーズ分配テーブルを選択することになる。
【0091】
ドーズ分配テーブル修正工程(S234)として、修正部79は、選択された組合せのドーズ分配テーブルに定義された4つのビームの分配係数wkを修正する。
【0092】
図22は、実施の形態2における修正後のドーズ分配テーブルの一例を示す図である。
図22において、選択された組合せに対応する座標(i,j)の注目グリッド(制御グリッド27)(黒)毎に、分配先の識別座標(i
k,j
k)の4つのビームへの分配係数wkがそれぞれ分配係数wk’に修正される。具体的には、再分配される分の係数Δを再分配される例えば3つのビームの分配係数wkに加算する。そして、分配ドーズ量が閾値を超えていた特定ビームの分配係数については、閾値dthを、閾値を超えていた特定ビーム45の分配ドーズ量dで割った値を係数として乗じる。これにより、選択された組合せのドーズ分配テーブルを修正する。
【0093】
或いは、変形例として、ドーズ分配テーブル毎の組合せに関わらず、ドーズの再分配を行っても好適である。かかる場合、以下のように動作する。
【0094】
組合せ設定工程(S226)として、設定部75は、探索されたm個の近接ビームの中から予め設定されたJ個ずつのビームによる複数の組合せを設定する。
図21の例では、当該特定ビーム45の周囲の例えば8つの近接ビーム46a〜hが探索されているので、かかる8つの近接ビーム46a〜hの中から、ランダムに例えば5個ずつの近接ビームで各組合せを設定する。複数の組合せは、m個の近接ビームの中からJ個の近接ビームを総当たりで選んで組み合わせると良い。
【0095】
ドーズ再分配工程(S228)として、まず、描画制御部72は、特定されたビーム毎に、当該特定ビーム45の分配ドーズ量dから閾値dthを差し引いた再分配用の差分ドーズ量d’を演算する。当該特定ビーム45の分配ドーズ量d(周囲の制御グリッド27から分配されるドーズ量の合計)と周囲の例えば8つの近接ビーム46a〜hの分配ドーズ量d(周囲の制御グリッド27から分配されるドーズ量の合計)とは、照射量マップ作成工程(S220)において既に演算されているので、かかる値を流用できる。次に、再分配部76は、組合せ毎に、差分ドーズ量d’がゼロになるまで、当該組合せのJ個の近接ビームについて分配ドーズ量が小さい方から順にそれぞれ閾値dthに達するまで差分ドーズ量d’の一部を再分配ドーズ量として割り当てる。或いは、再分配部76は、組合せ毎に、差分ドーズ量d’を個数Jで割った再分配ドーズ量d’/Jを当該組合せのJ個の近接ビームにそれぞれ均等に割り当てるようにしても好適である。ここでは、組合せを構成するビーム数Jを任意に設定できるので、差分ドーズ量d’の再分配残しの発生を実質的に無くすことができる。
【0096】
重心演算工程(S230)として、重心演算部77は、組合せ毎に、各近接ビームに再分配されるドーズ量の重心位置を演算する。
【0097】
組合せ選択工程(S232)として、選択部78(再分配ビーム選択部)は、再分配先となる複数の近接ビームとして、複数の組合せの中から再分配による重心位置のずれが、できるだけ小さくなる組合せの近接ビーム群を選択する。具体的には、以下のように動作する。再分配先となるJ個(複数)の近接ビームとして、再分配される各再分配ドーズ量(分配ドーズ量が閾値を超える特定ビームの分配ドーズ量の一部)の重心位置が当該特定ビーム45の照射位置(例えば照射位置39c)からずれる位置ずれ量が、できるだけ小さくなる組合せの近接ビーム群(J個のビーム)を選択する。
【0098】
ドーズ分配テーブル修正工程(S234)として、修正部79は、選択された組合せの近接ビーム群(J個のビーム)のビーム毎に、当該ビームが分配先として定義される複数のドーズ分配テーブルを読み出し、それぞれ再分配される再分配ドーズ量に相当する係数を分配先の数で割った再分配係数Δをそれぞれのドーズ分配テーブルに定義されていた元の分配係数に加算するように修正する。例えば、選択された組合せの近接ビーム群の1つに再分配される再分配ドーズ量に相当する係数が0.4であり、分配先のドーズ分配テーブルの数が4つあれば、対応するドーズ分配テーブル毎に、0.1ずつ加算すればよい。
【0099】
また、分配ドーズ量が閾値を超えていた特定ビームの分配係数については、選択された組合せの近接ビーム群(J個のビーム)が定義されるドーズ分配テーブルを読み出し、それぞれのドーズ分配テーブルにおける特定ビームの分配係数に、閾値dthを、閾値を超えていた特定ビーム45の分配ドーズ量dで割った値を係数として乗じる。これにより、選択された組合せの近接ビーム群に関連する各ドーズ分配テーブルを修正する。
【0100】
ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)以降の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0101】
実施の形態2では、元々、重心位置が変化しないように分配していたドーズ量の一部を、重心位置をずらして再分配しているので、少々の位置ずれが生じることになるが、それでも、極力位置ずれ量を小さくできる。
【0102】
実施の形態2によれば、実施の形態1よりもさらにドーズ変調の変調幅を小さくできる。よって、さらにスループットを向上させることができる。
【0103】
実施の形態3.
実施の形態2では、実際の描画パターンに応じた照射量を変調する前の段階でドーズ分配テーブルを修正する場合について説明したが、ドーズ変調の変調幅を小さくする手法はこれに限るものではない。実施の形態3では、実際の描画パターンに応じた照射量をドーズ分配テーブルを使って変調した後の段階で、さらにドーズ変調の変調幅を小さくする手法について説明する。
【0104】
図23は、実施の形態3における描画装置の構成を示す概念図である。
図23において、制御計算機110内に、さらに、特定部80、探索部81、設定部82、再分配部83、重心演算部84、選択部85、及び変調部86が配置された点以外は、
図1と同様である。よって、ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、描画制御部72、特定部80、探索部81、設定部82、再分配部83、重心演算部84、選択部85、及び変調部86といった各「〜部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「〜部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。ラスタライズ部50、照射量マップ作成部52、ビーム位置ずれマップ作成部54、選択部56、探索部58、組合せ設定部60、ドーズ分配率演算部62、ドーズ分配係数演算部64、ドーズ分配テーブル作成部66、ドーズ変調部68、描画制御部72、特定部80、探索部81、設定部82、再分配部83、重心演算部84、選択部85、及び変調部86に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0105】
図24は、実施の形態3における描画方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図24において、ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)と、描画工程(S140)との間に、照射量調整工程(S132)を追加した点以外は、
図9と同様である。また、以下、特に説明する点以外の内容は、実施の形態1と同様である。
【0106】
面積率マップ作成工程(S102)と、ストライプ単位の照射量マップ作成工程(S104)と、ビーム位置ずれ量測定工程(S112)と、ビームアレイ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S114)と、ストライプ単位のビーム位置ずれ量マップ作成工程(S116)と、ドーズ分配テーブル作成工程(S118)と、ストライプ単位の照射量マップ補正工程(S130)と、の各工程の内容は実施の形態1と同様である。
【0107】
照射量調整工程(S132)として、作成された照射量マップ(2)を調整して、ドーズ分配の仕方を一部修正する。具体的には以下のように動作する。
【0108】
特定部80は、記憶装置142から照射量マップ(2)を読み出し、入射照射量D(ドーズ量)が予め設定された閾値Dthを超えるビーム(制御グリッド27)を特定する。
【0109】
次に、探索部81は、入射照射量D(ドーズ量)が閾値Dthを超える、特定されたビームについて、特定されたビーム毎に、当該ビームの周囲に近接する複数の近接ビームを探索する。具体的には、以下のように動作する。入射照射量D(ドーズ量)が閾値Dthを超える制御グリッド27が実際の照射位置(例えば、照射位置39c)となる特定ビーム45の周囲に位置する複数の近接ビームを特定する。実施の形態3では、実施の形態2と同様、探索部81は、当該特定ビーム45の照射位置(ここでは照射位置39c)を取り囲む4つの制御グリッド27a〜27dからドーズ分配を受ける複数の照射位置に対応するビームを探索し、選択する。実施の形態3では、実施の形態2と同様、探索部81は、作成済みのドーズ分配テーブルを用いることにより、容易に、当該特定ビーム45の周囲の例えば8つのビーム46a〜hを特定できる。
【0110】
設定部82は、探索されたm個の近接ビームの中から予め設定されたJ個ずつのビームによる複数の組合せを設定する。
図21の例では、当該特定ビーム45の周囲の例えば8つの近接ビーム46a〜hが探索されているので、かかる8つの近接ビーム46a〜hの中から、ランダムに例えば5個ずつの近接ビームで各組合せを設定する。複数の組合せは、m個の近接ビームの中からJ個の近接ビームを総当たりで選んで組み合わせると良い。
【0111】
次に、描画制御部72は、特定されたビーム毎に、当該特定ビーム45に対応する制御グリッド27の入射照射量Dから閾値Dthを差し引いた再分配用の差分ドーズ量D’を演算する。当該特定ビーム45に対応する制御グリッド27の入射照射量Dと周囲の例えば8つの近接ビーム46a〜hに対応する8つの制御グリッド27の入射照射量Dとは、照射量マップ(2)から参照できる。
【0112】
次に、再分配部83は、組合せ毎に、差分ドーズ量D’がゼロになるまで、当該組合せのJ個の近接ビームについて、対応するJ個の制御グリッド27の入射照射量Dが小さい方から順にそれぞれ閾値Dthに達するまで差分ドーズ量D’の一部を再分配ドーズ量として割り当てる。或いは、再分配部83は、組合せ毎に、差分ドーズ量D’を個数Jで割った再分配ドーズ量D’/Jを当該組合せのJ個の近接ビームに対応する制御グリッド27にそれぞれ均等に割り当てるようにしても好適である。ここでは、組合せを構成するビーム数Jを任意に設定できるので、差分ドーズ量D’の再分配残しの発生を実質的に無くすことができる。
【0113】
次に、重心演算部84は、組合せ毎に、各近接ビームに再分配されるドーズ量の重心位置を演算する。
【0114】
次に、選択部85(再分配ビーム選択部)は、再分配先となる複数の近接ビームとして、複数の組合せの中から再分配による重心位置のずれが、できるだけ小さくなる組合せの近接ビーム群を選択する。具体的には、以下のように動作する。再分配先となるJ個(複数)の近接ビームとして、再分配される各再分配ドーズ量の重心位置が当該特定ビーム45の照射位置(例えば照射位置39c)からずれる位置ずれ量が、できるだけ小さくなる組合せの近接ビーム群(J個のビーム)を選択する。
【0115】
変調部86は、選択された組合せの近接ビーム群(J個のビーム)の近接ビーム毎に、当該近接ビームに対応する制御グリッド27の入射照射量Dにそれぞれ分配ドーズ量を加算するドーズ変調を行う。同様に、入射照射量Dが閾値Dthを超えていた特定ビームに対応する制御グリッド27の入射照射量Dを閾値Dthに変調する。
【0116】
以上により、入射照射量Dが閾値Dthを超える制御グリッド27を無くすことができる。描画工程(S140)の内容は、実施の形態1と同様である。
【0117】
図25は、実施の形態3におけるドーズ分配によるエッジ位置分散と照射量頻度との一例を示す図である。
図24(a)では、実施の形態1の4点分配の構成によって、エッジ位置分散が1.08nm(3σ)と小さくでき、また最大照射量が1.67に低減できた場合の比較例を示している。かかる比較例は、
図16に示した例とは異なるパターンを描画する場合について示している。かかる場合において、さらに、実施の形態3の照射量調整を行うことによって、エッジ位置分散が1.91nm(3σ)と劣化してしまうものの、最大照射量が1.21に低減できたことがわかる。
【0118】
実施の形態3では、元々、重心位置が変化しないように分配していたドーズ量の一部を、重心位置をずらして再分配しているので、少々の位置ずれが生じることになるが、それでも、極力位置ずれ量を小さくできる。
【0119】
実施の形態3によれば、実施の形態1よりもさらにドーズ変調の変調幅を小さくできる。よって、さらにスループットを向上させることができる。
【0120】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、上述した例では、再分配する組合せを選択する場合に、重心位置のずれを演算したがこれに限るものではない。対象基準位置(例えば制御グリッドの位置)からの距離の二乗に再分配後のドーズ量を乗じた値の合計が最も小さい組合せを選択しても良い。
【0121】
また、上述した例では、各制御回路41の制御用に10ビットの制御信号が入力される場合を示したが、ビット数は、適宜設定すればよい。例えば、2ビット、或いは3ビット〜9ビットの制御信号を用いてもよい。なお、11ビット以上の制御信号を用いてもよい。
【0122】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0123】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画装置及びマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、本発明の範囲に包含される。