【実施例1】
【0015】
実施例1は、取り付け性の改善と短時間分析を実現するための放熱性能向上を図ったキャピラリカートリッジ、及びそれを用いた電気泳動装置の実施例である。すなわち、実施例1は、電気泳動装置に用いるキャピラリカートリッジであって、キャピラリと、キャピラリを支持する板状の支持体と、キャピラリの一端を束ねるキャピラリヘッドと、キャピラリの他端に設けられた電極と、キャピラリの一部に設けられた検出部と、キャピラリと支持体の間に設けられた放熱体とを備えたキャピラリカートリッジの実施例である。また、実施例1は、キャピラリと、キャピラリを支持する支持体と、キャピラリの一端を束ねるキャピラリヘッドと、キャピラリの他端に設けられた電極と、キャピラリの一部に設けられた検出部と、キャピラリと支持体の間に設けられた放熱体とを有するキャピラリカートリッジと、キャピラリを所定の温度に保持する恒温槽と、キャピラリに電気泳動媒体を注入するための注入機構と、キャピラリを用いた電気泳動時に光の照射と検出を行う照射検出部、とを備える電気泳動装置の実施例である。
【0016】
以下、
図1〜
図9を用いて、実施例1のキャピラリカートリッジ、及びそれを用いた電気泳動装置の構成及び配置、取り付け方法を説明する。
図1に、実施例1のキャピラリ電気泳動装置の装置構成図を示す。本装置は、装置上部にある照射検出/恒温槽ユニット40と、装置下部にあるオートサンプラーユニット20の、二つのユニットに大きく分けることが出来る。
【0017】
上記の注入機構であるオートサンプラーユニット20には、サンプラーベース21の上にY軸駆動体23が搭載され、Y軸に駆動を行うことが出来る。Y軸駆動体23にはZ軸駆動体24が搭載され、Z軸に駆動を行うことが出来る。Z軸駆動体24の上にはサンプルトレイ25が搭載され、サンプルトレイ25の上に、泳動媒体容器28、陽極側緩衝液容器29、陰極側緩衝液容器33、サンプル容器26をユーザがセットする。サンプル容器26は、サンプルトレイ25上に搭載されたX軸駆動体22の上にセットされ、サンプルトレイ25上でサンプル容器26のみがX軸に駆動することが出来る。Z軸駆動体24には送液機構27も搭載される。この送液機構27は泳動媒体容器28の下方に配置される。
【0018】
照射検出/恒温槽ユニット40には、上記の恒温槽である恒温槽ユニット41、恒温槽ドア43があり、中を一定の温度に保つことが出来る。恒温槽ユニット41の後方には上記の照射検出部である照射検出ユニット42が搭載され、電気泳動時の検出を行うことが出来る。恒温槽ユニット41の中に、後で詳述するキャピラリカートリッジ01をユーザがセットし、恒温槽ユニット41にてキャピラリを恒温に保ちながら電気泳動を行い、照射検出ユニット42にて検出を行う。また、恒温槽ユニット41には、電気泳動のための高電圧印加時にGNDに落とすための電極(陽極)44も搭載されてある。
【0019】
上記のように、キャピラリカートリッジ01は恒温槽ユニット41に固定される。泳動媒体容器28、陽極側緩衝液容器29、陰極側緩衝液容器33、サンプル容器26は、オートサンプラーユニット20にてYZ軸に駆動することができ、サンプル容器26のみ、さらにX軸に駆動することが出来る。固定されたキャピラリカートリッジ01のキャピラリに、泳動媒体容器28、陽極側緩衝液容器29、陰極側緩衝液容器33、サンプル容器26が、オートサンプラーユニット20の動きで任意の位置に自動で接続することが出来る。
【0020】
図2に、
図1に示したキャピラリ電気泳動装置を上面から見た図を示す。サンプルトレイ25上にセットされた陽極側緩衝液容器29には、陽極側洗浄層30、陽極側電気泳動用緩衝液層31、陽極側サンプル導入用緩衝液層32がある。また、陰極側緩衝液容器33には、廃液層34、陰極側洗浄層35、陰極側電気泳動用緩衝液層36がある。
【0021】
泳動媒体容器28、陽極側緩衝液容器29、陰極側緩衝液容器33、サンプル容器26は図示のような位置関係に配置される。これにより、恒温槽ユニット41内のキャピラリカートリッジのキャピラリ02との接続の際の陽極側-陰極側の位置関係は、「泳動媒体容器28−廃液層34」、「陽極側洗浄層30−陰極側洗浄層35」、「陽極側電気泳動用緩衝液層31−陰極側電気泳動用緩衝液層36」、「陽極側サンプル導入用緩衝液層32−サンプル容器26」となる。
【0022】
図3に、
図2におけるA−A断面図を示す。泳動媒体容器28はサンプルトレイ25にセットされる。また、送液機構27は、送液機構27に内蔵されたプランジャが、泳動媒体容器28の下方になるように配置される。
【0023】
電気泳動の際、キャピラリ02の
図3における右側が陰極側となり、左側が陽極側となる。オートサンプラーユニット20が「陽極側電気泳動用緩衝液層31-陰極側電気泳動用緩衝液層36」の位置に移動し、陰極側のキャピラリ02に高電圧がかかり、陰極側緩衝液容器33、陽極側緩衝液容器29を介し、電極(陽極)44にてGNDに流すことで電気泳動を行う。なお、サンプルトレイ25の位置を固定して、照射検出/恒温槽ユニット40を可動にする装置構造にしても良い。
【0024】
図4に、本実施例におけるキャピラリカートリッジの一構成の概略図を示す。キャピラリカートリッジ01は、キャピラリ02、支持体03、放熱体04、電極ホルダ05、検出部06、キャピラリヘッド07、電極(陰極)08、掴持部である把手09から構成されている。また、電極(陰極)08は、直接支持体03に固定された構造でも良い。なお、同図において、キャピラリカートリッジ01は、
図4の手前側から把手09を備える支持体03、放熱体04、及びキャピラリ02の順に配置されている。
【0025】
キャピラリヘッド07は、キャピラリ02の端部であり、キャピラリ02を束ねて保持するとともに、泳動媒体を充填する注入端または排出端である。本実施例では、キャピラリカートリッジ01を電気泳動装置に取り付ける際に、キャピラリヘッド07と泳動媒体が貯蔵されている容器とを接続することで、注入端として機能する。キャピラリヘッドは、電気泳動装置に撓んだ状態で設置される。
【0026】
図5には、
図4に示した本実施例におけるキャピラリカートリッジの分解図を示す。放熱体04は、放熱体04の粘着性やタック性、あるいは化学的な接着や物理的な取り付け機構等により支持体03に貼りつけられている。また、キャピラリ02は、電極ホルダ05と検出部06が支持体03に取り付けられることで、一体構造となる。電極ホルダ05は、電極(陰極)08を保持しており、電極ホルダ05に形成された電極ホルダ固定ピン10を支持体03の電極ホルダ固定穴11に通すことで支持体03に固定される構造になっている。また、支持体03は検出部06を固定する検出部固定枠12を備えており、検出部06は、支持体03に形成された検出部固定枠12にはめこむことで支持体03に固定される。なお、14、16はそれぞれ検出部位置決めピンが入る位置決め穴、電極ホルダ位置決め穴である。
【0027】
キャピラリ02は、遮光及び強度を保持するための被覆が施された侠流路であり、例えばポリイミド被覆の施された内径約50μm程度の石英ガラス管である。この管に泳動媒体を充填して試料を泳動分離する泳動路となる。キャピラリ02と放熱体04が密着していることで、高電圧印加時にキャピラリ02から発生する熱を放熱体04により支持体03側へと逃がすことができ、キャピラリ02内部の温度上昇を防ぐことができる。
【0028】
電極(陰極)08は、キャピラリ02の本数に対応して存在し、電圧をかけることで、帯電した試料をキャピラリ02内に導入し、分子サイズごとに泳動分離を行うことができる。電極(陰極)08は、例えば内径0.1〜0.5m程度のステンレスパイプであり、この中にキャピラリ02が挿入されている。
【0029】
検出部06は、キャピラリ02の中間部に位置し、キャピラリ02が平面状に一定の精度で配列されている。検出部06はキャピラリ02内を通過する試料の蛍光を検出する箇所であり、装置の検出系の位置と高精度に位置合わせを行う必要がある。
【0030】
図6に、本実施例のキャピラリカートリッジの支持体03と放熱体04の断面図を示す。放熱体04は、例えば放熱性能と絶縁性能を有する柔らかいシリコンゴムであり、ゴムの変形によりキャピラリとの接触面積を増やして放熱効果を増大するとともに、クッション性によりキャピラリの破損を防ぐことが可能である。ゴムのような柔らかい部材は、荷重がかかった際につぶれて変形してしまい、キャピラリとの接触面積が小さくなったり、空気層が形成されたりすることで熱伝導が妨げられてしまうため、硬度に合わせて形状や変形量をコントロールする必要がある。
【0031】
本実施例のキャピラリカートリッジの支持体03は箱型構造になっており、支持体03の外周部に設けられた、放熱体04側に突き出た突出部03Aにより、放熱体04が平面方向に一定の大きさ以上に変形できないよう制限している。また、放熱体04の端部と支持体03の外周部の間に空隙が設ける、すなわち、支持体03の突出部03Aまでのオフセット距離を、放熱体04の弾性率を踏まえて設計することで、放熱体04が突出部03Aを超えてはみだして変形することを防ぐことができる。また、支持体03の突出部03Aの高さは、放熱体04の厚みより低くしており、荷重がかかっても支持体03の高さ以上に放熱体04がつぶれることはない。このため、キャピラリカートリッジを取り付ける装置面に、放熱体04を確実に接触させることが可能である。例えば、放熱体04に熱伝導率0.1〜5W/m・Kのシリコンゴムを用いると、200W/m
2・K以上の放熱性能を得ることができる。なお、放熱体04には、シリコン以外の各種ゴムやエラストマー、放熱ジェル等を使用してもよい。
【0032】
図7に、本実施例のキャピラリカートリッジの取り付けの詳細図の一例を示す。電気泳動装置の恒温槽ユニット41側の取り付け面50に検出部位置決めピン13を取り付け、支持体03の位置決め穴14に通して押し込むと、検出部06がクリップ52により仮固定される。このとき同時に、取り付ける装置の恒温槽ユニット41側のテーパー形状の電極ホルダ位置決めピン15が、支持体03の電極ホルダ位置決め穴16に自動的に入るため、一つの動作でキャピラリカートリッジ01が恒温槽ユニット41に仮固定される。なお、電極ホルダ位置決めピン15と電極ホルダ位置決め穴16は取り付け場所が逆であっても良い。すなわち、電極ホルダと支持体は、一方に設けられた電極ホルダ位置決めピンを他方に設けられた電極ホルダ位置決め穴に通すことにより固定することができる。
【0033】
図8に、クリップ52の断面図を示す。キャピラリカートリッジ01を取り付け面50に近づけていくと、同図上段に示すように検出部06がクリップ52の凸部にあたる事で一度クリップ52を押し込み、さらに近づけると、同図中段と下段に示すように検出部06はクリップ52の凸部を越え、クリップ52がバネ53の反力で検出部06を押さえて仮固定する構造になっている。このとき、凸部を越えると同時に、反力でクリップ52が瞬時に動くことでクリック音が鳴り、ユーザはキャピラリカートリッジ01が仮固定されたことを確認できるようになっている。
【0034】
このように本実施例では、まず検出部06から先に位置決めすることで、検出部06と電気泳動装置の光学系とを確実に高精度に位置合わせすることができる。また、電極ホルダ位置決めピン15を
図7に示したようにテーパー形状にすることで、装置ごとに電極ホルダ位置決めピン15の場所が多少ずれても確実に電極ホルダ位置決め穴16に入るようになるため、検出部06の位置が決まれば電極ホルダ05も仮固定することができる。そのためユーザは一連のキャピラリカートリッジ01取り付け操作を、掴持部である把手09を持って行うことができるため、検出部06を手で触れてしまったり、キャピラリ02を無理に曲げたりすることなく操作でき、ユーザビリティの向上と破損リスクの低減を実現する事ができる。
【0035】
図9に、本実施例のキャピラリカートリッジのキャピラリの調整代の詳細図を示す。キャピラリ02内に泳動媒体を充填するため、キャピラリカートリッジ01取り付け時にキャピラリヘッド07と泳動媒体容器28とを接続するが、この時泳動媒体容器28の位置に合わせてキャピラリヘッド07の位置を動かさなければならない。なぜなら、キャピラリヘッド07と電極(陰極)08の先端部との高さが揃っていないと、キャピラリ02内の泳動媒体が移動してしまうサイフォン現象が起こってしまうため、高精度にこれらの高さを揃える必要があるからである。
【0036】
同図下段に示したように、検出部06からキャピラリヘッド07までのキャピラリ02の長さが、泳動媒体容器28などのポリマ容器までの最短距離に設計されていると、装置によってポリマ容器位置がずれた際に、キャピラリヘッド07を左右に動かすことで高さも変わってしまう。本実施例では、同図上段に示すように、検出部06からポリマ容器までの最短距離に、調整代分を加えた長さにキャピラリ02を設計しており、左右方向にキャピラリヘッド07を動かしても電極(陰極)08の先端部と同じ高さに揃えたままにすることができる。
【0037】
キャピラリカートリッジ01が完全に固定された状態でキャピラリヘッド07を動かすと、放熱体04を磨耗したり、キャピラリ02に無理な力がかかったりする恐れがあるため、本実施例では、キャピラリヘッド07を接続する前は、キャピラリカートリッジ01は一度仮固定される構造になっている。
図8に示したように、検出部06はクリップ52のバネ53の反力によりカートリッジ平面方向に、クリップ52の凸部によりカートリッジ垂直方向に保持されているため、キャピラリ02が持つテンションで外れてしまったり、ユーザがキャピラリヘッド07を動かしてキャピラリカートリッジ01が外れてしまったりすることがないような構造になっている。
【0038】
そして、キャピラリヘッド07を泳動媒体容器28に接続した後、キャピラリカートリッジ01を
図1に示した恒温槽ドア43で押し付けることで、検出部06を、クリップ52を押し込んで固定する。同時に電極ホルダ位置決めピン15が電極ホルダ位置決め穴16の奥まで入り込むことで、キャピラリカートリッジ01全体が完全に固定される。このとき、検出部位置決めピン13が奥まで入り込むことでクリック音が鳴り、ユーザはキャピラリカートリッジ01が完全に固定されたことを確認できるようになっている。なお、電極ホルダ05の固定部にクリップ52と同様な構造を用いてクリック音がなるようにしても良い。
【0039】
図10に、本実施例のキャピラリカートリッジ01取り付けのワークフローを示す。まず検出部06を仮固定し、同時に電極ホルダ05が仮固定される(S101)。次に、キャピラリヘッド07と泳動媒体容器28を接続し(S102)、最後に恒温槽ドア43を閉めることで、キャピラリカートリッジ01が押し込まれて固定され(S103)、取り付けが完了となる(S104)。このように、一箇所を固定する事で全体も自動的に固定される構造により、手順が少なくて済み、キャピラリ02取り付けの煩雑さを軽減することができる。
【0040】
図11、本実施例のキャピラリ02の周辺部の断面図を示す。放熱体04として、例えばシリコンゴムを用いると、キャピラリカートリッジ01を電気泳動装置側の取り付け面50に接触させて所定の荷重をかけた際に、放熱体04がキャピラリ02の形状に沿って変形するため、キャピラリ02との接触面積を大きくする事ができる。このとき、ドアにより放熱体04の面全体に均一に荷重をかけることで、取り付け面50と放熱体04との間に空気層を作りにくくしている。逆に、完全に空気層がなくなると、放熱体04が吸盤のようなってしまい、キャピラリカートリッジ01が取り外せなくなる可能性がある。本実施例では、間にキャピラリ02を挟んだ一体構造であり、キャピラリ02が放熱体04の外側まで配置されており、空気層が完全になくなることはない。そのため、取り付け面50にくっついてしまうことなく簡単に取り外すことが可能である。
【0041】
図12に、本実施例の恒温槽ドアの一構造例を示し、恒温槽ドアはバネ等の弾性体を挟んだ2段構造を有する。すなわち、恒温槽ドア43は、ドア支持体58に1個以上の押し板用バネ56を介して押し板57がついた2段構造となっており、クッション性を持たせている。バネ定数を調節することで、恒温槽ドア43が閉まった際にキャピラリカートリッジ01にかかる荷重をコントロールすることができる。例えば、バネ定数3N/mmのバネ53を12個用いると、恒温槽ドア43を閉めた際に30Nの荷重をかけることができる。
【0042】
以上詳述した実施例1のキャピラリカートリッジにより、その一部に検出部が設けられたキャピラリと、キャピラリを支持する板状の支持体との間に放熱体を設けることにより、放熱体によりキャピラリ内部の温度上昇を抑えることができるため、発熱量が大きくなる高電圧印加条件下での電気泳動を可能にし、分析時間を短縮することができる。また、キャピラリと支持体と放熱体を一体化させた構造にして取り付けの際の固定箇所を減らす事で操作の煩雑さを改善することが可能となる。
【0043】
更に、本実施例では、検出部とキャピラリの陰極電極部が支持体に保持された一体構造になっており、支持体とキャピラリの陽極電極部の2箇所を固定してキャピラリカートリッジ全体を電気泳動装置のドア機構で押し付ければ固定されるので、簡単に少ない手順で取り付けることができる。また更に、キャピラリの配置も支持されているため、破損リスクも低減することが可能である。
【0044】
さらに又、本実施例では、キャピラリが高い熱伝導性をもつ部材に直接接触していることで、電気泳動時に高電圧を印加してキャピラリから発生する熱を逃がすことができる。これにより、キャピラリ内部の温度が所定温度で安定となるため、電気泳動装置の分析性能が向上し、分析時間を短縮させることができる。