特許第6854477号(P6854477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6854477
(24)【登録日】2021年3月18日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20210329BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20210329BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20210329BHJP
   C01F 17/34 20200101ALI20210329BHJP
【FI】
   C01G49/00 D
   C01G53/00 A
   C01G45/12
   C01F17/34
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-251696(P2016-251696)
(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公開番号】特開2018-104230(P2018-104230A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】阿部 能之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 巌
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】相田 努
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−221044(JP,A)
【文献】 特開2016−164100(JP,A)
【文献】 特開2013−060356(JP,A)
【文献】 特開2012−180269(JP,A)
【文献】 特開2008−289985(JP,A)
【文献】 Journal of Materials Science,2006年,Vol. 41,pp. 1385-1390
【文献】 Applied Catalysis B: Environmental,2012年,Vol. 126,pp. 231-238
【文献】 窯業協會誌,1982年,Vol, 90, No. 1045,pp. 521-527
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−99/00
C01F 17/00−17/38
C01B 13/00−13/36
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式LaFeO、La(Fe,Ni)O、La(Fe,Mn)O、LaAlO、又はLaMnOで表される組成を有するペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、
pHが5以上11.5以下の原料金属イオンを含む原料水溶液を、425℃以上650℃以下で加熱するとともに22MPa以上60MPa以下で加圧することにより超臨界状態にし、前記原料水溶液に水熱処理を施す
ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記原料水溶液のpHは6以上11以下である
請求項1に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
反応中間体としてオキシ水酸化ランタン(LaOOH)を介する
請求項1又は2に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型複合酸化物は、平均粒径が1000nm以下の粒子である
請求項1乃至のいずれか1項に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
回分式リアクターで前記原料水溶液に水熱処理を施す
請求項1乃至のいずれか1項に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
流通式リアクターで前記原料水溶液に水熱処理を施す
請求項1乃至のいずれか1項に記載のペロブスカイト型複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒、天然ガス等の燃焼用触媒、又は窒素酸化物等の有害物質の吸着剤等に利用することができるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関からの排ガス中には、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等が含まれている。これらの物質は、CO及びHCを酸化させると同時に、NOを還元させることができる排ガス浄化触媒によって除去することができる。排ガス浄化触媒の代表的なものとしては、例えば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属をγ−アルミナ等の多孔質金属酸化物担体に担持させた三元触媒が知られている。
【0003】
しかしながら、このような貴金属は、価格が高く、また埋蔵量が少ないので、将来的には不足することも考えられる。したがって、貴金属の使用料を削減するための新たな排ガス浄化触媒が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、多孔質金属酸化物担体として1〜5nmのメソ細孔のみを有する多孔質シリカを用いることが提案されている。このような排ガス浄化触媒では、メソ細孔内に担持されている貴金属の移動を抑制し、長期間の使用による粒成長が防止し、貴金属が高い分散状態を維持することにより、高い触媒活性を維持することができる。
【0005】
また、特許文献2には、貴金属を含む触媒成分と、化学式ABO(A=La、Sr、Ce、Ba、Ca、B=Co、Fe、Ni、Cr、Mn、Mg)で表されるペロブスカイト型複合酸化物である触媒成分とを混合して用いることが提案されている。このようなペロブスカイト型複合酸化物を併用することにより、低温域での排ガス中の微粒子状炭素物質や炭化水素の燃焼、及びNOの吸収・分解作用を高めることができる。ここで、ペロブスカイト型複合酸化物の調製方法としては、金属のクエン酸錯体を真空中又は不活性ガス中において350℃以上で加熱した後、酸化雰囲気中で焼成する方法が提案されている。
【0006】
このように、ペロブスカイト型複合酸化物は、低温触媒活性に関して、貴金属触媒よりも優れた触媒活性を提供し得るものである。一般には、ペロブスカイト型複合酸化物は、ペロブスカイト型複合酸化物を構成する金属の塩を含有する溶液から、共沈法によってペロブスカイト型複合酸化物の前駆体を析出させ、この前駆体を乾燥、焼成することによって製造される。しかしながら、近年、環境汚染の問題が深刻化していることにより排ガスの浄化基準が厳しくなり、この方法により合成されたペロブスカイト型複合酸化物では触媒活性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−24503号公報
【特許文献2】特開平8−229404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
共沈法によってペロブスカイト型複合酸化物を製造する場合、得られるペロブスカイト型複合酸化物の粒子は、800℃以上の温度で焼成する間に粒子間の焼結が進んで数μmの大きい粒径を有する。このような粒子は、表面積が小さいため、十分な触媒活性が得られていない。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、焼成処理を施すことなく、微粒子状でペロブスカイト型複合酸化物を副生成物の極めて少なくて単相にて製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、所定のイオンを含む原料水溶液を、所定の温度及び圧力条件下で超臨界状態とし、その原料水溶液に水熱処理を施すことで、ペロブスカイト型複合酸化物を、焼成処理を施すことなく、微粒子状で製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、AサイトにLaを含み、BサイトにFe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上のイオンを含む化学式ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、pHが5以上11.5以下の原料金属イオンを含む原料水溶液を、425℃以上650℃以下で加熱するとともに22MPa以上60MPa以下で加圧することにより超臨界状態にし、前記原料水溶液に水熱処理を施すペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、AサイトにLaを含み、BサイトにFe、Al、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される1種以上のイオンを含む化学式ABOで表されるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法であって、pHが5以上11.5以下の原料金属イオンを含む原料水溶液を、425℃以上650℃以下で加熱するとともに22MPa以上60MPa以下で加圧することにより超臨界状態にし、前記原料水溶液に水熱処理を施すペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記原料水溶液のpHは6以上11以下であるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、反応中間体としてオキシ水酸化ランタン(LaOOH)を介するペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記ペロブスカイト型複合酸化物は、平均粒径が1000nm以下の粒子であるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、回分式リアクターで前記原料水溶液に水熱処理を施すペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【0017】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、流通式リアクターで前記原料水溶液に水熱処理を施すペロブスカイト型複合酸化物の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、焼成処理を施すことなく、微粒子状でペロブスカイト型複合酸化物を副生成物が極めて少なく単相にて製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】回分式リアクターの模式図である。
図2】流通式リアクターシステムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
≪1.ペロブスカイト型複合酸化物≫
本実施の形態に係るペロブスカイト型複合酸化物は、化学式ABOで表されるペロブスカイト型構造のAサイトにLaを含み、BサイトにFe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上を含む複合酸化物である。
【0022】
ペロブスカイトとは、化学式ABOで表わされる複合酸化物の総称をいう。Aサイトにはイオン半径が相対的に大きい12配位の陽イオンが、Bサイトにはイオン半径が相対的に小さい6配位の陽イオンが、Oサイトには酸素がそれぞれ配置される。本実施の形態に係るペロブスカイト型複合酸化物においては、AサイトにLaが配置され、BサイトにFe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上が、OサイトにOが配置されている。
【0023】
AサイトにはLaが配置される。Aサイトには、Laイオン以外に、例えば、Ceイオン、Ndイオン、Baイオン、Srイオン、Caイオン、Pbイオン、Biイオン、Gdイオン、Ndイオン、Yイオン、Kイオン、Naイオン等、12配位で、且つイオン半径が0.9A以上1.4A以下の陽イオンで部分的に置換することができる。
【0024】
Laイオンの含有量としては、特に限定されず、例えば、Aサイトに配置される全てのイオンの総含有量に対し、モル比で0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以であることが特に好ましい。
【0025】
Laイオン以外のAサイトに配置されるイオンの含有量としては、特に限定されず、複合酸化物がペロブスカイト構造を維持する範囲において適宜調整することができる。Laイオン以外のAサイトに配置されるイオンの総含有量としては、例えば、Aサイトに配置される全てのイオンの総含有量に対し、モル比で0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
【0026】
Bサイトには、Fe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上が配置される。Fe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上のイオンの総含有量としては、特に限定されず、例えば、Bサイトに配置される全てのイオンの総含有量に対し、モル比で0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0027】
また、Bサイトには、Fe、Al、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される1種以上のイオンを含有することが好ましい。Fe、Al、Mn、Ni及びCoからなる群から選択される1種以上のイオンの総含有量としては、特に限定されず、例えば、Bサイトに配置される全てのイオンの総含有量に対し、モル比で0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0028】
Fe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上のイオン以外のBサイトに配置されるイオンの総含有量としては、特に限定されず、複合酸化物がペロブスカイト構造を維持する範囲において適宜調整することができる。Fe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上のイオン以外のBサイトに配置されるイオンの含有量としては、例えば、Bサイトに配置される全てのイオンの含有量に対し、モル比で0.6以下であることが好ましく、0.4以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
【0029】
Oサイトに配置されるイオンとして、Oイオンを、例えば、Fイオン、Clイオン、Nイオン、Sイオン等の陰イオンで部分的に置換することができる。
【0030】
Oイオンの含有量としては、特に限定されず、例えば、Oサイトに配置される全てのイオンの総含有量に対し、モル比で0.6以上であることが好ましく、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましく、0.9以上であることが特に好ましい。
【0031】
Oイオン以外のOサイトに配置されるイオンの総含有量としては、特に限定されず、複合酸化物がペロブスカイト構造を維持する範囲において適宜調整することができる。Oイオン以外のOサイトに配置される全てのイオンの総含有量としては、例えば、Oサイトに配置される全てのイオンの含有量に対し、モル比で0.4以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.2以下であることがさらに好ましく、0.1以下であることが特に好ましい。
【0032】
ペロブスカイト型複合酸化物としては、ペロブスカイト型結晶構造を有しているものであれば特に限定されず、例えば、Aサイト、Bサイト又はOサイトに、それぞれ欠陥を有するものを得ることができる。このような欠陥の存在等により、Bサイトに配置される全てのイオンの総モル数に対するAサイトに配置される全てのイオンの総モル数(Aサイトに配置される全てのイオンの総モル数/Bサイトに配置される全てのイオンの総モル数)が、例えば、0.8〜1.2である等、当量比1.0から外れている非化学量論組成を有するものを得ることもできる。
【0033】
ペロブスカイト型複合酸化物の形態は、特に限定されず、ナノ粒子状及び微粒子状以外にも、ナノ粒子又は微粒子に焼成等の所定の処理を施すことにより、バルク状、薄膜状のものを得ることもできる。
【0034】
≪2.ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法≫
本実施の形態に係るペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、pHが5以上11.5以下の少なくともLa及びFeを含む原料水溶液を、425℃以上650℃以下に加熱するとともに22MPa以上60MPa以下に加圧することにより超臨界状態にして、原料水溶液に水熱処理を施す方法である。
【0035】
超臨界状態とは、物質の温度及び圧力が臨界点を超えた状態のことをいう。例えば、水の場合、臨界点は、温度374℃、飽和蒸気圧22.1MPaである。超臨界状態において、水は、酸やアルカリ、有機溶媒当を添加することなく、温度及び圧力のみを調整することで、系内における反応平衡及び反応速度を厳密に制御することが可能である。そのため、超臨界状態の水(以下、「超臨界水」ともいう。)は、環境調和型の反応晶析溶媒としての利用が期待されている。さらに、超臨界域では通常の水熱合成条件に比べ、金属酸化物の溶解度を極めて低い値に設定することが可能であるため、水熱反応速度が著しく上昇することから、ナノサイズ金属酸化物微粒子の高速合成に適する。
【0036】
以下、ペロブスカイト型複合酸化物LaFeOの製造方法について、より具体的な例を示して説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではなく、原料水溶液中に含まれる原料金属イオンを変更することにより多種のペロブスカイト型複合酸化物を製造することができる。
【0037】
原料水溶液の調製方法としては、特に限定されないが、例えば、Laを含む水溶液とFeを含む水溶液とをそれぞれ調製し、これらと塩基性水溶液や酸性水溶液とを混合し、pHを調整する方法が挙げられる。
【0038】
より具体的には、La源を水に溶解して調製したLa含有水溶液と、Fe源を水に溶解して調製したFe含有水溶液とを混合して金属塩の混合溶液とした後に、この混合溶液に塩基性水溶液や酸性水溶液を添加して、pHを5以上11.5以下に調整し、原料水溶液を調製することができる。
【0039】
LaFeOを製造するこの例においては、原料金属イオンとしてLa及びFeを含有する原料水溶液を用いるが、原料水溶液としては、製造するペロブスカイト型複合酸化物の化学種に応じて適宜調整することができる。例えば、LaAlOを製造する場合は、La及びFeを原料金属イオンとして含有する原料水溶液を、LaMnOを製造する場合は、La及びMnを原料金属イオンとして含有する原料水溶液を用いることができる。
【0040】
また、Aサイト又はBサイトに複数のイオンが含まれるペロブスカイト型複合酸化物を製造する場合には、複数の原料金属イオンを混合する。例えば、ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトがLaイオン以外のイオンで置換された化合物又はBサイトがFeイオン以外のイオンで置換された化合物を合成する場合には、La含有水溶液とFe含有水溶液を混合する際に、それらの水溶液以外に、その他の原料金属イオンを含有する水溶液を混合することができる。
【0041】
必須の成分である原料金属イオンの供給源としては、それらの金属イオンを含み、且つ超臨界水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、水酸化物、酸化物、ハロゲン化物(塩化物、フッ化物、臭化物、ヨウ化物等)、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩等の無機酸塩を用いることができる。また、酢酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩等の有機酸塩等を用いることもできる。中でも、入手しやすく、水溶液を調製しやすいため、硝酸塩が好ましい。
【0042】
原料溶液中の原料金属イオンの濃度としては、特に限定されないが、Aサイトに配置される金属イオンの総含有量及びBサイトに配置される金属イオンの総含有量が、それぞれ0.001M以上5M以下であることが好ましい。金属イオンの含有量が0.001M以上であることにより、十分な収量のペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。また、金属イオンの含有量が5M以下であることにより、得られる粒子の凝集を抑制することができる。
【0043】
Oサイトを窒素(N)で部分的に置換して、酸窒化物を得る場合、例えば、窒素源としてアンモニア、アミン等を原料水溶液に適宜添加することができる。
【0044】
Oサイトを硫黄(S)で部分的に置換して、酸硫化物を得る場合、例えば、硫黄源としてチオ尿素、硫化カリウム、硫化ナトリウム、二硫化炭素、硫黄等を適宜添加することができる。
【0045】
原料水溶液中に含まれる原料金属イオンの混合比としては、特に限定されず、目的とするペロブスカイト型複合酸化物と概ね同様の組成比となるよう調整することができる。
【0046】
なお、ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトがLaイオン以外のイオンで置換された化合物やBサイトがFe、Al、Mn、Ni、Co、Pd、Pt、Sc、Ti、Nb、Ta、W及びMoからなる群から選択される1種以上のイオン以外のイオンで置換された化合物を合成する際、置換するイオンや合成条件等によっては各サイトへ十分に置換されないこともある。かかる場合には、原料水溶液中のイオンの比を増減させ、得られるペロブスカイト型複合酸化物中のイオンの比を制御することができる。例えば、Bサイトに配置される全てのイオンの総モル数に対するAサイトに配置される全てのイオンの総モル数(Aサイトに配置される全てのイオンの総モル数/Bサイトに配置される全てのイオンの総モル数)としては、0.7以上1.4以下に調整することが好ましく、0.9以上1.2以下に調整することより好ましい。
【0047】
原料水溶液のpHは、5以上11.5以下に調整される。詳細は後述するが、pHを5以上11.5以下にすることにより、水熱処理の際に、反応中間体であるオキシ水酸化ランタン(LaOOH)を405〜425℃において生成させることができる。また、より効率的にオキシ水酸化ランタン(LaOOH)を生成させる観点から、原料水溶液のpHとしては、6以上10以下であることが好ましく、7以上9以下であることがより好ましい。このような条件において、オキシ水酸化ランタンを反応中間体として生成させることにより、最終的にペロブスカイト型微粒子状でペロブスカイト型複合酸化物を副生成物の少なく且つ単相にて製造することができる。
【0048】
また、オキシ水酸化ランタンのLaサイトの一部を、Laイオン以外の他の陽イオンで置換することもできる。例えば、Laイオンと価数が等しいBiイオン、Gdイオン、Ndイオン、Yイオン、Alイオン、Gaイオン、Feイオン、Mnイオン、Niイオン、Coイオン、Scイオン、Ceイオン、または、Laイオンとイオン半径が近いNdイオン、Baイオン、Srイオン、Caイオンが原料水溶液に含まれる場合は、中間生成物であるオキシ水酸化ランタンのLaサイトの一部が置換することができる。このような場合には、AサイトのLaが一部置換されたペロブスカイト型複合酸化物を合成することができる。
【0049】
原料水溶液のpHは、塩基性溶液又は酸性溶液を用いて調整することができる。塩基性溶液としては、水酸化物イオン(OH)を供給することができるものであれば特に限定されず、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化バリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の水溶液や、アンモニア水を用いることができる。また、酸性溶液としては、水素イオン(H)を供給できるものであれば特に限定されず、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、シュウ酸、酢酸、フッ酸等の水溶液を用いることができる。
【0050】
原料水溶液には、本発明の目的に反しない限りにおいて、各金属イオンの他、例えば、有機溶媒、錯化剤、分散剤、pH緩衝剤、酸化剤等を含有させることができる。
【0051】
その後、このようにして調製した原料水溶液を、425℃以上650℃以下で加熱するとともに22MPa以上で加圧することにより超臨界状態にし、原料水溶液に水熱処理を施す。
【0052】
このような水熱処理においては、反応中間体として、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)が生成する。上述したとおり、温度が425℃以上であり、且つ圧力が22MPa以上であることにより、原料水溶液を超臨界状態にすることができる。このような超臨界状態での水熱反応において、原料水溶液のpHが5以上11.5以下であることにより、反応中間体であるオキシ水酸化ランタン(LaOOH)を生成させることができる。
【0053】
例えば、LaFeOを合成する場合において、La及びFeを含む原料水溶液を、室温から昇温させると、昇温途中の410〜420℃において、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)と酸化鉄(Fe)が中間生成物として生成する。そしてさらに昇温して425℃以上になると、これらが反応してLaFeOのペロブスカイト型複合酸化物が単相で生成する。なお、例えば、La(Fe,Ni)Oを合成する場合においては、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)と酸化鉄(Fe)に加えて、酸化ニッケル(NiO)が中間生成物として生成する。Aサイトにランタンを含むペロブスカイト型複合酸化物の合成においては、このように、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)を介して反応が進行する。
【0054】
上述したように、原料水溶液のpHは、5以上11.5以下である。原料水溶液のpHが5以上であることにより、硝酸水酸化ランタン(例えば、La(OH)5.1(NO0.9、La(OH)(NO))の生成を防止することができる。この硝酸水酸化ランタンは、酸化鉄(Fe)等のBサイトイオンの化合物と反応しにくく、また一旦形成するとそのまま残存し得ることから、ペロブスカイト型複合酸化物の収量が少なくなる。また、pHが11以下であることにより、水酸化ランタン(La(OH))の生成を防止することができる。この水酸化ランタンも酸化鉄(Fe)と反応しにくく、また一旦形成するとそのまま残存し得ることから、ペロブスカイト型複合酸化物の収量が少なくなる。
【0055】
反応温度としては、425℃以上650℃以下であれば特に限定されない。上述したように、反応温度が425℃以上であることにより、原料水溶液を超臨界状態にするとともに、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)や酸化鉄(Fe)等の中間生成物を、ペロブスカイト型複合酸化物に変化させることができる。また、反応温度が650℃以下であることにより、反応容器の腐食を抑制するとともに、腐食に由来して生成する不純物の生成を抑制することができる。
【0056】
また、反応温度としては、例えば、430℃以上であることが好ましい。反応温度が430℃以上であることにより、中間生成物であるオキシ水酸化ランタンや酸化鉄等を、より効率的に反応させ、ペロブスカイト型複合酸化物を生成することができる。一方で、反応温度としては、例えば、640℃以下であることが好ましい。反応温度が640℃以下であることにより、反応容器の腐食を効率的に抑制することができる。
【0057】
反応圧力(系内の圧力)としては、22MPa以上60MPa以下であれば特に限定されない。上述したように、反応圧力が22Mpa以上であることにより、原料水溶液を超臨界状態にすることができる。また、反応圧力が60MPa以下であることにより、反応容器の腐食を抑制するとともに、腐食に由来して生成する不純物の生成を抑制することができる。
【0058】
また、反応圧力としては、例えば、50MPa以下であることが好ましい。反応圧力が50MPa以下であることにより、反応容器の腐食をより効率的に抑制することができる。
【0059】
反応時間としては、特に限定されないが、例えば、0.005秒以上であることが好ましく、0.01秒以上であることがより好ましく、0.05秒以上であることがさらに好ましく、0.1秒以上であることが特に好ましい。反応時間が0.005秒以上であることにより、ペロブスカイト型複合酸化物を形成させることができる。また、反応時間としては、10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましく、1時間以下であることが特に好ましい。反応時間が10時間以下であることにより、反応サイクルを高め、生産性を高めることができる。なお、「反応時間」とは、原料水溶液の加熱を開始した時から、原料水溶液の加熱を停止した時までのことをいう。
【0060】
反応容器としては、圧力の制御された系を提供できるものであれば特に限定されず、例えば、耐圧の密閉容器や、内部圧力の制御が可能な容器を用いることができる。また、反応の形式も特に限定されず、例えば、回分式又は流通式のいずれの形式を用いることもできる。
【0061】
回分式とは、反応容器又は反応装置に、原料を仕込み、所定の時間(例えば、平衡又は一定の反応率に達するまで)経過後、取り出す方式をいう。回分式の具体的な態様として、例えば、高温高圧でも密閉可能な耐圧、耐熱の容器に原料の水溶液を入れ、予め加熱しておいた振盪式加熱撹拌装置に投入して、溶媒を超臨界水に変化させて水熱処理を施す方法が挙げられる。
【0062】
図1は、回分式リアクターの模式図である。回分式リアクター1は、例えば、耐圧耐熱の密閉された耐圧容器11と、その耐圧容器11の周囲を囲むように配置されたヒーター12によって構成される。耐圧容器11の内部には、原料水溶液Lが装入される。ヒーター12によって、耐圧容器11の内部の原料水溶液Lが加熱され、高温高圧状態となり、原料水溶液Lは超臨界状態となり、ペロブスカイト型複合酸化物が生成される。
【0063】
流通式とは、リアクター(反応部)内に原料を連続的に供給して反応を行わせ、連続的に抜き出す方式をいう。流通式の具体的な態様として、例えば、リアクター(反応部)内に原料水溶液が連続的に供給され、リアクター(反応部)内で原料水溶液に水熱処理を施し、リアクター(反応部)からペロブスカイト型複合酸化物を含む反応後液を連続的に排出する方法が挙げられる。
【0064】
図2は、流通式リアクターシステムの模式図である。この流通式リアクターシステム2は、蒸留水供給用の配管21と、原料水溶液供給用の配管22と、水熱反応用の配管23と、ヒーター24a,24bと、冷却器25と、減圧弁(排出部)26を有する。蒸留水供給用の配管21と、原料水溶液供給用の配管22は、それぞれ水熱反応用の配管23に接続されている。また、蒸留水供給用の配管21と、水熱反応用の配管23は、それぞれヒーター24a,24bに囲まれている。接続された配管内は、内部の圧力が、22MPa以上に加圧制御されている。
【0065】
このようなリアクターシステムにおいて、蒸留水L2は、蒸留水供給用配管21を囲むように配置されたヒーター24aにより、425℃以上620℃以下に加熱され、超臨界状態となり、水熱反応用の配管23に供給される。一方で、原料水溶液L1は、例えば常温の状態で原料水溶液供給用の配管22を通じて、水熱反応用の配管23に供給される。加熱され超臨界状態になった蒸留水と、原料水溶液が混合する箇所で、原料水溶液は瞬時に超臨界状態となる。その後、水熱反応用の配管23の周囲を囲むように配置されたヒーター24bにより、加熱され、原料水溶液に含まれる金属源の反応が進行し、ペロブスカイト型複合酸化物が生成される。このようにして生成されたペロブスカイト型複合酸化物を含む原料水溶液は、冷却され、瞬時に反応が停止される。冷却された反応後液は、減圧弁を通じてリアクターシステム2内より排出され、ペロブスカイト型複合酸化物を回収する。
【0066】
このように、流通式のリアクターシステムにおいては、原料水溶液と、予熱して超臨界状態となった水を混合することにより原料水溶液を急速に加熱昇温し、瞬時に高い過飽和度を与え、ナノサイズのペロブスカイト型複合酸化物を効率的に生成することができる。
【0067】
また、反応液を冷却水により間接冷却し、反応を瞬時に停止させることにより、均一核発生を起こさせて、生成するペロブスカイト型複合酸化物粒子の粒径、結晶構造、組成及び形態を精密に制御することができる。
【0068】
このように、流通式による超臨界水熱合成法は、系内の温度、圧力及び反応時間の厳密な制御が可能であり、且つ原料水溶液の急速昇温及び急速冷却が可能であるという利点を有する。得られる粒子の粒径は、微細となる点で好ましい。
【0069】
なお、得られるペロブスカイト型複合酸化物には、副生成物として、例えば、La(OH)5.1(NO0.9、La(OH)(NO)、Fe、Fe(OH)等が僅かに含まれることがある。これらは、例えば、水や弱酸で処理することにより容易に除去することができる。したがって、例えば、本実施の形態に係るペロブスカイト型複合酸化物の製造方法は、洗浄工程をさらに備えることができる。
【0070】
得られたペロブスカイト型複合酸化物は、上述の自動車の三元触媒以外にも、例えば、脱臭、浄水、抗菌、防汚に効果を発揮する半導体材料、抗菌タイル、医療現場における抗菌フイルム等として用いることができる。また、常誘電性体から導電体等電子材料や、磁性材料として用いることもできる。
【0071】
なお、ペロブスカイト型複合酸化物粒子の粒径及び分散度は、原料水溶液のpH、圧力、温度、金属源等により適宜制御することができる。上述したように、三元触媒用途に用いる場合、粒径は小さいほど好ましいが、用途に応じて求められる粒径は異なる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[LaFeOの合成]
硝酸ランタン(La(NO・6HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタン水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO・9HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を作製した。これらの水溶液をランタンと鉄が等モルとなる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら、5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下して混合し原料水溶液を得た。なおこの水溶液は、pHがアルカリの領域になると懸濁液に変化した。
【0074】
原料水溶液を内容積5cmの耐熱耐圧の金属容器内に所定量投入し、密封し、予め所定の温度に加熱しておいた電気炉に投入した。ここで、電気炉の温度を水の臨界点である374℃以上とすると、密閉容器内であるので、投入した水の量に依存して、容器内の圧力が決定する。したがって、投入した原料水溶液の水が374℃以上、22.1MPa以上となるよう投入量を制御することで容器内の水を超臨界状態とすることができる。所定の時間が経った後に金属容器を電気炉から取り出して水を入れた容器に投入して急冷した。ここで、反応温度は、電気炉の設定温度とし、反応時間は、電気炉に投入した時間とした。
【0075】
冷却した金属容器の蓋を外し、容器内の生成物を取り出して、超音波洗浄及び遠心分離により、蒸留水による洗浄を5回繰り返した。洗浄後の生成物は、60℃に加熱して乾燥した。得られた粉末は、粉末X線回折測定(XRD:PANALYTICAL製X’pertPro)により生成物相の同定を行った。また、透過型電子顕微鏡(TEM:日立製作所製HF−2200)による粒径の測定を行った。さらに、TEMに付随したエネルギー分散形分光器による粒子の局所組成分析(EDS)を行った。
【0076】
表1に、実施例1〜12及び比較例1〜23それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例1〜12及び比較例1〜23それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLaFeOの粒径を示す。
【0077】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11又は12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度430℃、反応時間30分の条件にて水熱合成を行った。
【0078】
実施例1〜3、比較例1〜2において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例1〜3)には、LaFeO(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例1)には、LaFeO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例2)には、LaFeO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0079】
TEM観察により実施例1〜3のLaFeOの粒径を測定した。実施例1のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が30〜70nmであった。実施例2のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が100〜1000nmであった。実施例3のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が200〜700nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.8〜1.2であった。
【0080】
(比較例3〜7)
比較例3〜7においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度410℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0081】
比較例3〜7においては、いずれのpHであってもLaFeOが得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0082】
比較例3〜7において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例4〜6)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例3)には、La(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが12の場合(比較例7)には、La(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0083】
比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7は、比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7は、それぞれ対応する比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7において得られた生成物は、対応する比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の中間生成物に相当すると考えられる。
【0084】
比較例4、比較例5及び比較例6の結果と、実施例1、実施例2及び実施例3の結果とを対比考察すると、実施例1〜3のLaFeOの生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeOが生成されると考えられる。
【0085】
(実施例4〜6、比較例8〜9)
比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び13として、金属容器内の圧力22MPa、電気炉の設定温度460℃、反応時間15分の条件にて水熱合成を行った。
【0086】
実施例4〜6、比較例8〜9において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例4〜6)には、LaFeO(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例8)には、LaFeO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例9)には、LaFeO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0087】
TEM観察により実施例4〜6のLaFeOの粒径を測定した。実施例4のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が50〜120nmであった。実施例5のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が200〜800nmであった。実施例6のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が300〜500nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.7〜1.1であった。
【0088】
(比較例10〜14)
比較例10〜14においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び13として、金属容器内の圧力22MPa、電気炉の設定温度420℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0089】
比較例10〜14においては、いずれのpHであってもLaFeOが得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0090】
比較例10〜14において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例11〜13)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例10)には、La(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが13の場合(比較例14)には、La(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0091】
比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14は、比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14は、それぞれ対応する比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9の反応において、昇温途中の420℃で急冷して反応を終了したものに相当する。すなわち、比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14において得られた生成物は、対応する比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9の中間生成物に相当すると考えられる。
【0092】
比較例11、比較例12及び比較例13の結果と、実施例4、実施例5及び実施例6の結果とを対比考察すると、実施例4〜6のLaFeOの生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeOが生成されると考えられる。
【0093】
(実施例7〜9、比較例15〜16)
比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、7、8、9及び12として、金属容器内の圧力50MPa、電気炉の設定温度500℃、反応時間10分の条件にて水熱合成を行った。
【0094】
実施例7〜9、比較例15〜16において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが7〜9の場合(実施例7〜9)には、LaFeO(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例15)には、LaFeO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例16)には、LaFeO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0095】
TEM観察により実施例7〜9のLaFeOの粒径を測定した。実施例7〜9のLaFeOは、いずれもキュービック形状で、粒径が200〜600nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0096】
(比較例17〜21)
比較例17〜21においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、7、8、9及び12として、金属容器内の圧力50MPa、電気炉の設定温度410℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0097】
比較例17〜21においては、いずれのpHであってもLaFeOが得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0098】
比較例17〜21において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが7〜9の場合(比較例17〜21)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例17)には、La(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが12の場合(比較例21)には、La(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0099】
比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21は、比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21は、それぞれ対応する比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16の反応において、昇温途中の410℃で急冷して反応を終了したものに相当する。すなわち、比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21において得られた生成物は、対応する比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16の中間生成物に相当すると考えられる。
【0100】
比較例18、比較例19及び比較例20の結果と、実施例7、実施例8及び実施例9の結果とを対比考察すると、実施例7〜9のLaFeOの生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeOが生成されると考えられる。
【0101】
(実施例10〜12、比較例22〜23)
比較例22、実施例10、実施例11、実施例12及び比較例23においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11又は12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度600℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0102】
実施例10〜12、比較例22〜23において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例10〜12)には、LaFeO(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例22)には、LaFeO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例23)には、LaFeO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0103】
TEM観察により実施例10〜12のLaFeOの粒径を測定した。実施例10のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が100〜300nmであった。実施例11のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が200〜500nmであった。実施例12のLaFeOは、キュービック形状で、粒径が200〜700nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.7〜1.2であった。
【0104】
【表1】
【0105】
(実施例13)
実施例2と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、LaFeOが得られた。
【0106】
TEM観察を行った結果、得られたLaFeOは、キュービック形状で、粒径20〜40nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0107】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLaFeOを効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLaFeOは、粒径20〜40nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0108】
[La(Fe,Ni)Oの合成]
(実施例14〜16、比較例24〜25)
硝酸ランタン(La(NO・6HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO・9HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。さらに、硝酸ニッケル(Ni(NO・6HO、純度98%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのニッケルの水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:鉄:ニッケルのモル比が、2:1:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、実施例1と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0109】
表2に、実施例14〜16及び比較例24〜25それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例14〜16及び比較例24〜25それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Ni)Oの粒径を示す。
【0110】
実施例14〜16、比較例24〜25において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例14〜16)には、La(Fe,Ni)O(JCPDSカード:01−077−4279)が生成された。これに対し、pHが4の場合(比較例24)には、La(Fe,Ni)O以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)、及び酸化ニッケル(II)(NiO、JCPDSカード:00−044−1159)も生成された。pHが12の場合(比較例25)には、La(Fe,Ni)O以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)、水酸化鉄と水酸化ニッケルの混合物の非晶質相も生成された。
【0111】
TEM観察により実施例14〜16のLa(Fe,Ni)Oの粒径を測定した。実施例14〜16のLa(Fe,Ni)Oは、いずれもキュービック形状で、粒径が30〜50nmであった。また、La(Fe,Ni)Oの粒子の組成分析により、La/(Fe+Ni)原子比が0.8〜1.1、Fe/Ni原子比が0.9〜1.1であった。
【0112】
原料水溶液がNiを含有するか否か以外、合成条件が同一である実施例14と実施例7、実施例15と実施例8、実施例16と実施例9をそれぞれ比較すると、Niを含有する実施例14、実施例15及び実施例16において、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子の粒径が著しく小さくなっている。このことから、Feの一部にNiを置換させることで、粒子の小粒径化に有効であるといえる。この小粒径化の傾向は、Fe/Ni原子比が0.25、0.75の場合でも同様であった。
【0113】
【表2】
【0114】
(実施例17)
実施例15と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、La(Fe,Ni)Oが得られた。
【0115】
TEM観察を行った結果、得られたLa(Fe,Ni)Oは、キュービック形状で、粒径10〜40nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0116】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLa(Fe,Ni)Oを効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLa(Fe,Ni)Oは、粒径10〜40nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0117】
[La(Fe,Mn)Oの合成]
(実施例18〜20、比較例26〜27)
硝酸ランタン(La(NO・6HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO・9HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。さらに、硝酸マンガン(Mn(NO・6HO、純度98%、関東化学製)を蒸留水に希釈させ、0.1Mのマンガンの水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:鉄:マンガンのモル比が、2:1:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、実施例1と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0118】
表3に、実施例18〜20及び比較例26〜27それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例18〜20及び比較例26〜27それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Mn)Oの粒径を示す。
【0119】
実施例18〜20、比較例26〜27において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例18〜20)には、La(Fe,Mn)Oが生成された。これに対し、pHが4の場合(比較例26)には、La(Fe,Mn)O以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe、JCPDSカード:01−076−8403)、及び酸化マンガン(Mn、MnO)も生成された。pHが12の場合(比較例27)には、La(Fe,Mn)O以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)、水酸化鉄と水酸化マンガンの混合物の非晶質相も生成された。
【0120】
TEM観察により実施例18〜20のLa(Fe,Mn)Oの粒径を測定した。実施例18〜20のLa(Fe,Mn)Oは、いずれも単結晶で、粒径が200〜500nmであった。また、La(Fe,Mn)Oの粒子の組成分析により、La/(Fe+Mn)原子比が0.7〜1.1、Fe/Mn原子比が0.9〜1.1であった。
【0121】
原料水溶液がMnを含有するか否か以外、合成条件が同一である実施例18と実施例7、実施例19と実施例8、実施例20と実施例9をそれぞれ比較すると、Mnを含有する実施例18、実施例19及び実施例20において、ペロブスカイト型複合酸化物の表面凹凸が大きくなっている。このことから、Feの一部にMnを置換させることで、表面積の増加に有効であるといえる。この表面積の増加の傾向は、Fe/Mn原子比が0.25、0.75の場合でも同様であった。
【0122】
【表3】
【0123】
(実施例21)
実施例19と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、La(Fe,Mn)Oが単相で得られた。
【0124】
TEM観察を行った結果、得られたLa(Fe,Mn)Oは、粒径10〜30nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Mn原子比は0.9〜1.1、Fe/Mn原子比は0.9〜1.1であった。また実施例18の結果と同様に得られた粒子の表面は凹凸が大きく表面積が大きい粒子であった。
【0125】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLa(Fe,Mn)Oを効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLa(Fe,Mn)Oは、粒径10〜30nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0126】
[LaAlOの合成]
(実施例22〜24、比較例28〜34)
実施例22〜24及び比較例28〜34において、硝酸鉄(Fe(NO・9HO)の代わりに硝酸アルミニウム(Al(NO・9HO、純度98%、関東化学製)を用いた以外は、実施例1〜3及び比較例1〜7と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0127】
表4に、実施例22〜24及び比較例28〜34それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例22〜24及び比較例28〜34それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLaAlOの粒径を示す。
【0128】
反応温度が430℃で、原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例22〜24)には、LaAlO(JCPDSカード:01−070−4115)が生成された。これに対し、反応温度が430℃で、pHが4の場合(比較例28)には、LaAlO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化アルミニウム(Al)も生成された。pHが12の場合(比較例29)には、LaAlO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化アルミニウムと推測される非晶質相が生成された。
【0129】
TEM観察により実施例22〜24のLaAlOの粒径を測定した。実施例22のLaAlOは、粒径が40〜100nmの単結晶粒子であった。実施例23のLaAlOは、粒径が150〜800nmの単結晶粒子であった。実施例24のLaAlOは、粒径が400〜800nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Al原子比は0.8〜1.2であった。
【0130】
これに対し、反応温度が410℃の比較例30〜34においては、いずれのpHであってもLaAlOが得られなかった。これは、反応温度が低いためであると思われる。
【0131】
原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例31〜33)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化アルミニウム(Al)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例30)には、La(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化アルミニウム(Al)が生成された。pHが12の場合(比較例34)には、La(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化アルミニウムと推測される非晶質相が生成された。
【0132】
比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34は、比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34は、それぞれ対応する比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34において得られた生成物は、対応する比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29の中間生成物に相当すると考えられる。
【0133】
比較例31、比較例32及び比較例33の結果と、実施例22、実施例23及び実施例24の結果とを対比考察すると、実施例22〜24のLaAlOの生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaAlOが生成されると考えられる。
【0134】
【表4】
【0135】
[LaMnOの合成]
(実施例25〜27、比較例35〜41)
実施例1〜3及び比較例1〜7において、硝酸鉄(Fe(NO・9HO)の代わりに硝酸マンガン(Mn(NO・6HO、純度98%、関東化学製)を用いた以外は、実施例1〜3及び比較例1〜7と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0136】
表5に、実施例25〜27及び比較例35〜41それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例25〜27及び比較例35〜41それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Mn)Oの粒径を示す。
【0137】
反応温度が430℃で、原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例25〜27)には、LaMnO(JCPDSカード:01−076−9086)が生成された。一方、反応温度が430℃で、pHが4の場合(比較例35)には、LaMnO以外にLa(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化マンガン(Mn、MnO)が生成された。また、pHが12の場合(比較例37)には、LaMnO以外にLa(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化マンガンと推測される非晶質相が生成された。
【0138】
TEM観察により実施例25〜27のLaMnOの粒径を測定した。実施例25のLaMnOは、粒径が40〜100nmの単結晶粒子であった。実施例26のLaMnOは、粒径が200〜1000nmの単結晶粒子であった。実施例27のLaMnOは、粒径が300〜700nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Mn原子比は0.8〜1.1であった。
【0139】
これに対し、反応温度410℃の比較例37〜41においては、いずれのpHであってもLaMnOが得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0140】
原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例38〜40)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化マンガン(Mn、MnO)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例37)には、La(OH)5.1(NO0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化マンガン(Mn、MnO)が生成された。pHが12の場合(比較例41)には、La(OH)(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化マンガンと推測される非晶質相が生成された。
【0141】
比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41は、比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41は、それぞれ対応する比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41において得られた生成物は、対応する比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36の中間生成物に相当すると考えられる。
【0142】
比較例38、比較例39及び比較例40の結果と、実施例25、実施例26及び実施例27の結果とを対比考察すると、実施例25〜27のLaMnOの生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaMnOが生成されると考えられる。
【0143】
【表5】
【0144】
[(La,Sr)FeOの合成]
(実施例28、比較例42)
硝酸ランタン(La(NO・6HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのストロンチウム水溶液を調製した。さらに、硝酸鉄(Fe(NO・9HO、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:ストロンチウム:鉄のモル比が、0.6:0.4:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHが8となるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、それぞれ、実施例1〜3及び比較例1〜2、比較例4〜9と同様の超臨界水熱条件にて粉末を調製し、分析を行った(それぞれ、実施例28、比較例42とする。)。
【0145】
実施例28において得られた粉末のX線回折測定を行った結果、ペロブスカイト型構造のXRDパターンが観測された。また、TEM観察を行った結果、得られた粉末は、50〜750nmのキュービック単結晶粒子であった。さらに、EDS局所分析から得られた粉末は、La、Sr、Fe及びOを含むものであり、La/Sr原子比は0.8〜1.1、(La+Sr)/Fe原子比は0.8〜1.1であった。
【0146】
比較例42において得られた粉末のX線回折測定を行った結果、ペロブスカイト型構造のXRDパターンは観測されなかった。一方、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)のXRDパターンが観測され、La(OH)5.1(NO0.9やLa(OH)等の他のLaを含む化合物は観測されなかった。このことから、AサイトのLaの一部をSrに置換したペロブスカイト化合物を合成する際にも、中間生成物としてオキシ水酸化ランタンを介することが確認された。
【符号の説明】
【0147】
1 回分式リアクター
11 耐圧容器
12 ヒーター
2 流通式リアクターシステム
21 蒸留水供給用の配管
22 原料水溶液供給用の配管
23 水熱反応用の配管
24a,24b ヒーター
25 冷却器
26 減圧弁(排出部)
図1
図2