【実施例】
【0072】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[LaFeO
3の合成]
硝酸ランタン(La(NO
3)
3・6H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタン水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を作製した。これらの水溶液をランタンと鉄が等モルとなる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら、5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下して混合し原料水溶液を得た。なおこの水溶液は、pHがアルカリの領域になると懸濁液に変化した。
【0074】
原料水溶液を内容積5cm
3の耐熱耐圧の金属容器内に所定量投入し、密封し、予め所定の温度に加熱しておいた電気炉に投入した。ここで、電気炉の温度を水の臨界点である374℃以上とすると、密閉容器内であるので、投入した水の量に依存して、容器内の圧力が決定する。したがって、投入した原料水溶液の水が374℃以上、22.1MPa以上となるよう投入量を制御することで容器内の水を超臨界状態とすることができる。所定の時間が経った後に金属容器を電気炉から取り出して水を入れた容器に投入して急冷した。ここで、反応温度は、電気炉の設定温度とし、反応時間は、電気炉に投入した時間とした。
【0075】
冷却した金属容器の蓋を外し、容器内の生成物を取り出して、超音波洗浄及び遠心分離により、蒸留水による洗浄を5回繰り返した。洗浄後の生成物は、60℃に加熱して乾燥した。得られた粉末は、粉末X線回折測定(XRD:PANALYTICAL製X’pertPro)により生成物相の同定を行った。また、透過型電子顕微鏡(TEM:日立製作所製HF−2200)による粒径の測定を行った。さらに、TEMに付随したエネルギー分散形分光器による粒子の局所組成分析(EDS)を行った。
【0076】
表1に、実施例1〜12及び比較例1〜23それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例1〜12及び比較例1〜23それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLaFeO
3の粒径を示す。
【0077】
(実施例1〜3、比較例1〜2)
比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11又は12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度430℃、反応時間30分の条件にて水熱合成を行った。
【0078】
実施例1〜3、比較例1〜2において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例1〜3)には、LaFeO
3(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例1)には、LaFeO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例2)には、LaFeO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0079】
TEM観察により実施例1〜3のLaFeO
3の粒径を測定した。実施例1のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が30〜70nmであった。実施例2のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が100〜1000nmであった。実施例3のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が200〜700nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.8〜1.2であった。
【0080】
(比較例3〜7)
比較例3〜7においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度410℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0081】
比較例3〜7においては、いずれのpHであってもLaFeO
3が得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0082】
比較例3〜7において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例4〜6)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例3)には、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが12の場合(比較例7)には、La(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0083】
比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7は、比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7は、それぞれ対応する比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例3、比較例4、比較例5、比較例6及び比較例7において得られた生成物は、対応する比較例1、実施例1、実施例2、実施例3及び比較例2の中間生成物に相当すると考えられる。
【0084】
比較例4、比較例5及び比較例6の結果と、実施例1、実施例2及び実施例3の結果とを対比考察すると、実施例1〜3のLaFeO
3の生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeO
3が生成されると考えられる。
【0085】
(実施例4〜6、比較例8〜9)
比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び13として、金属容器内の圧力22MPa、電気炉の設定温度460℃、反応時間15分の条件にて水熱合成を行った。
【0086】
実施例4〜6、比較例8〜9において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例4〜6)には、LaFeO
3(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例8)には、LaFeO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例9)には、LaFeO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0087】
TEM観察により実施例4〜6のLaFeO
3の粒径を測定した。実施例4のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が50〜120nmであった。実施例5のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が200〜800nmであった。実施例6のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が300〜500nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.7〜1.1であった。
【0088】
(比較例10〜14)
比較例10〜14においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11及び13として、金属容器内の圧力22MPa、電気炉の設定温度420℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0089】
比較例10〜14においては、いずれのpHであってもLaFeO
3が得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0090】
比較例10〜14において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例11〜13)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例10)には、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが13の場合(比較例14)には、La(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0091】
比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14は、比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14は、それぞれ対応する比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9の反応において、昇温途中の420℃で急冷して反応を終了したものに相当する。すなわち、比較例10、比較例11、比較例12、比較例13及び比較例14において得られた生成物は、対応する比較例8、実施例4、実施例5、実施例6及び比較例9の中間生成物に相当すると考えられる。
【0092】
比較例11、比較例12及び比較例13の結果と、実施例4、実施例5及び実施例6の結果とを対比考察すると、実施例4〜6のLaFeO
3の生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeO
3が生成されると考えられる。
【0093】
(実施例7〜9、比較例15〜16)
比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、7、8、9及び12として、金属容器内の圧力50MPa、電気炉の設定温度500℃、反応時間10分の条件にて水熱合成を行った。
【0094】
実施例7〜9、比較例15〜16において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが7〜9の場合(実施例7〜9)には、LaFeO
3(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例15)には、LaFeO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例16)には、LaFeO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0095】
TEM観察により実施例7〜9のLaFeO
3の粒径を測定した。実施例7〜9のLaFeO
3は、いずれもキュービック形状で、粒径が200〜600nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0096】
(比較例17〜21)
比較例17〜21においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、7、8、9及び12として、金属容器内の圧力50MPa、電気炉の設定温度410℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0097】
比較例17〜21においては、いずれのpHであってもLaFeO
3が得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0098】
比較例17〜21において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが7〜9の場合(比較例17〜21)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例17)には、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。pHが12の場合(比較例21)には、La(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0099】
比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21は、比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21は、それぞれ対応する比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16の反応において、昇温途中の410℃で急冷して反応を終了したものに相当する。すなわち、比較例17、比較例18、比較例19、比較例20及び比較例21において得られた生成物は、対応する比較例15、実施例7、実施例8、実施例9及び比較例16の中間生成物に相当すると考えられる。
【0100】
比較例18、比較例19及び比較例20の結果と、実施例7、実施例8及び実施例9の結果とを対比考察すると、実施例7〜9のLaFeO
3の生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaFeO
3が生成されると考えられる。
【0101】
(実施例10〜12、比較例22〜23)
比較例22、実施例10、実施例11、実施例12及び比較例23においては、それぞれ原料水溶液のpHを4、6、8、11又は12として、金属容器内の圧力30MPa、電気炉の設定温度600℃、反応時間5分の条件にて水熱合成を行った。
【0102】
実施例10〜12、比較例22〜23において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例10〜12)には、LaFeO
3(JCPDSカード:01−078−4429)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例22)には、LaFeO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)が生成された。また、pHが12の場合(比較例23)には、LaFeO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化鉄の非晶質相が生成された。
【0103】
TEM観察により実施例10〜12のLaFeO
3の粒径を測定した。実施例10のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が100〜300nmであった。実施例11のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が200〜500nmであった。実施例12のLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径が200〜700nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.7〜1.2であった。
【0104】
【表1】
【0105】
(実施例13)
実施例2と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。
図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、LaFeO
3が得られた。
【0106】
TEM観察を行った結果、得られたLaFeO
3は、キュービック形状で、粒径20〜40nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0107】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLaFeO
3を効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLaFeO
3は、粒径20〜40nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0108】
[La(Fe,Ni)O
3の合成]
(実施例14〜16、比較例24〜25)
硝酸ランタン(La(NO
3)
3・6H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。さらに、硝酸ニッケル(Ni(NO
3)
2・6H
2O、純度98%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのニッケルの水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:鉄:ニッケルのモル比が、2:1:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、実施例1と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0109】
表2に、実施例14〜16及び比較例24〜25それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例14〜16及び比較例24〜25それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Ni)O
3の粒径を示す。
【0110】
実施例14〜16、比較例24〜25において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例14〜16)には、La(Fe,Ni)O
3(JCPDSカード:01−077−4279)が生成された。これに対し、pHが4の場合(比較例24)には、La(Fe,Ni)O
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)、及び酸化ニッケル(II)(NiO、JCPDSカード:00−044−1159)も生成された。pHが12の場合(比較例25)には、La(Fe,Ni)O
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)、水酸化鉄と水酸化ニッケルの混合物の非晶質相も生成された。
【0111】
TEM観察により実施例14〜16のLa(Fe,Ni)O
3の粒径を測定した。実施例14〜16のLa(Fe,Ni)O
3は、いずれもキュービック形状で、粒径が30〜50nmであった。また、La(Fe,Ni)O
3の粒子の組成分析により、La/(Fe+Ni)原子比が0.8〜1.1、Fe/Ni原子比が0.9〜1.1であった。
【0112】
原料水溶液がNiを含有するか否か以外、合成条件が同一である実施例14と実施例7、実施例15と実施例8、実施例16と実施例9をそれぞれ比較すると、Niを含有する実施例14、実施例15及び実施例16において、ペロブスカイト型複合酸化物の粒子の粒径が著しく小さくなっている。このことから、Feの一部にNiを置換させることで、粒子の小粒径化に有効であるといえる。この小粒径化の傾向は、Fe/Ni原子比が0.25、0.75の場合でも同様であった。
【0113】
【表2】
【0114】
(実施例17)
実施例15と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。
図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、La(Fe,Ni)O
3が得られた。
【0115】
TEM観察を行った結果、得られたLa(Fe,Ni)O
3は、キュービック形状で、粒径10〜40nmであった。また、EDS組成分析の結果、La/Fe原子比は0.9〜1.1であった。
【0116】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLa(Fe,Ni)O
3を効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLa(Fe,Ni)O
3は、粒径10〜40nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0117】
[La(Fe,Mn)O
3の合成]
(実施例18〜20、比較例26〜27)
硝酸ランタン(La(NO
3)
3・6H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。さらに、硝酸マンガン(Mn(NO
3)
2・6H
2O、純度98%、関東化学製)を蒸留水に希釈させ、0.1Mのマンガンの水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:鉄:マンガンのモル比が、2:1:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHとなるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、実施例1と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0118】
表3に、実施例18〜20及び比較例26〜27それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例18〜20及び比較例26〜27それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Mn)O
3の粒径を示す。
【0119】
実施例18〜20、比較例26〜27において得られた粉末のX線回折測定を行った。原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例18〜20)には、La(Fe,Mn)O
3が生成された。これに対し、pHが4の場合(比較例26)には、La(Fe,Mn)O
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)、酸化鉄(III)(Fe
2O
3、JCPDSカード:01−076−8403)、及び酸化マンガン(Mn
2O
3、MnO)も生成された。pHが12の場合(比較例27)には、La(Fe,Mn)O
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)、水酸化鉄と水酸化マンガンの混合物の非晶質相も生成された。
【0120】
TEM観察により実施例18〜20のLa(Fe,Mn)O
3の粒径を測定した。実施例18〜20のLa(Fe,Mn)O
3は、いずれも単結晶で、粒径が200〜500nmであった。また、La(Fe,Mn)O
3の粒子の組成分析により、La/(Fe+Mn)原子比が0.7〜1.1、Fe/Mn原子比が0.9〜1.1であった。
【0121】
原料水溶液がMnを含有するか否か以外、合成条件が同一である実施例18と実施例7、実施例19と実施例8、実施例20と実施例9をそれぞれ比較すると、Mnを含有する実施例18、実施例19及び実施例20において、ペロブスカイト型複合酸化物の表面凹凸が大きくなっている。このことから、Feの一部にMnを置換させることで、表面積の増加に有効であるといえる。この表面積の増加の傾向は、Fe/Mn原子比が0.25、0.75の場合でも同様であった。
【0122】
【表3】
【0123】
(実施例21)
実施例19と同様の原料水溶液を用いて流通式反応器にて超臨界水熱合成を行った。
図2に示す構成のリアクターシステムを構成した。原料水溶液を、撹拌を行いながら反応器の臨界圧力以上に加圧した配管内に供給し、加圧した同配管内で臨界点以上に加熱した超臨界水を合流させ、ランタンと鉄の混合水溶液中の水を瞬時に超臨界状態とした。合流後に水熱反応用の配管内を通過する時間が超臨界状態を維持する時間となり、水熱反応用の配管の長さと流速で決定される。混合水溶液の搬送速度を2mL/分、加熱水の搬送速度を10mL/分、水熱反応用の配管の管長を40cmとして合成実験を行った結果、La(Fe,Mn)O
3が単相で得られた。
【0124】
TEM観察を行った結果、得られたLa(Fe,Mn)O
3は、粒径10〜30nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Mn原子比は0.9〜1.1、Fe/Mn原子比は0.9〜1.1であった。また実施例18の結果と同様に得られた粒子の表面は凹凸が大きく表面積が大きい粒子であった。
【0125】
このように、流通式反応器を用いた場合でも、バッチ式反応器を用いた場合と同様に、超臨界水熱合成において副生成物の生成を抑えてLa(Fe,Mn)O
3を効率良く合成できることが分かった。また、この流通式反応器を用いて合成したLa(Fe,Mn)O
3は、粒径10〜30nmと非常に微細な粒子であった。反応時間が1.8秒と非常に短時間であり急速加熱と急速冷却が実現したため微細な粒子が得られたと考えられる。
【0126】
[LaAlO
3の合成]
(実施例22〜24、比較例28〜34)
実施例22〜24及び比較例28〜34において、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O)の代わりに硝酸アルミニウム(Al(NO
3)
3・9H
2O、純度98%、関東化学製)を用いた以外は、実施例1〜3及び比較例1〜7と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0127】
表4に、実施例22〜24及び比較例28〜34それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例22〜24及び比較例28〜34それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLaAlO
3の粒径を示す。
【0128】
反応温度が430℃で、原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例22〜24)には、LaAlO
3(JCPDSカード:01−070−4115)が生成された。これに対し、反応温度が430℃で、pHが4の場合(比較例28)には、LaAlO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化アルミニウム(Al
2O
3)も生成された。pHが12の場合(比較例29)には、LaAlO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化アルミニウムと推測される非晶質相が生成された。
【0129】
TEM観察により実施例22〜24のLaAlO
3の粒径を測定した。実施例22のLaAlO
3は、粒径が40〜100nmの単結晶粒子であった。実施例23のLaAlO
3は、粒径が150〜800nmの単結晶粒子であった。実施例24のLaAlO
3は、粒径が400〜800nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Al原子比は0.8〜1.2であった。
【0130】
これに対し、反応温度が410℃の比較例30〜34においては、いずれのpHであってもLaAlO
3が得られなかった。これは、反応温度が低いためであると思われる。
【0131】
原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例31〜33)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化アルミニウム(Al
2O
3)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例30)には、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化アルミニウム(Al
2O
3)が生成された。pHが12の場合(比較例34)には、La(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化アルミニウムと推測される非晶質相が生成された。
【0132】
比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34は、比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34は、それぞれ対応する比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例30、比較例31、比較例32、比較例33及び比較例34において得られた生成物は、対応する比較例28、実施例22、実施例23、実施例24及び比較例29の中間生成物に相当すると考えられる。
【0133】
比較例31、比較例32及び比較例33の結果と、実施例22、実施例23及び実施例24の結果とを対比考察すると、実施例22〜24のLaAlO
3の生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaAlO
3が生成されると考えられる。
【0134】
【表4】
【0135】
[LaMnO
3の合成]
(実施例25〜27、比較例35〜41)
実施例1〜3及び比較例1〜7において、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O)の代わりに硝酸マンガン(Mn(NO
3)
2・6H
2O、純度98%、関東化学製)を用いた以外は、実施例1〜3及び比較例1〜7と同様にして粉末を調製し、分析を行った。
【0136】
表5に、実施例25〜27及び比較例35〜41それぞれの原料水溶液のpH、金属容器内の圧力(MPa)、電気炉の設定温度(℃)、反応時間(分)を示す。また、実施例25〜27及び比較例35〜41それぞれの生成物相及びTEM像より測定したLa(Fe,Mn)O
3の粒径を示す。
【0137】
反応温度が430℃で、原料水溶液のpHが6〜11の場合(実施例25〜27)には、LaMnO
3(JCPDSカード:01−076−9086)が生成された。一方、反応温度が430℃で、pHが4の場合(比較例35)には、LaMnO
3以外にLa
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化マンガン(Mn
2O
3、MnO)が生成された。また、pHが12の場合(比較例37)には、LaMnO
3以外にLa(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化マンガンと推測される非晶質相が生成された。
【0138】
TEM観察により実施例25〜27のLaMnO
3の粒径を測定した。実施例25のLaMnO
3は、粒径が40〜100nmの単結晶粒子であった。実施例26のLaMnO
3は、粒径が200〜1000nmの単結晶粒子であった。実施例27のLaMnO
3は、粒径が300〜700nmの単結晶粒子であった。また、EDS組成分析の結果、La/Mn原子比は0.8〜1.1であった。
【0139】
これに対し、反応温度410℃の比較例37〜41においては、いずれのpHであってもLaMnO
3が得られなかった。これは、反応温度が低いためであると考えられる。
【0140】
原料水溶液のpHが6〜11の場合(比較例38〜40)には、オキシ水酸化ランタン(LaOOH、JCPDSカード:01−077−2349)と酸化マンガン(Mn
2O
3、MnO)が生成された。一方、pHが4の場合(比較例37)には、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9(JCPDSカード:00−026−1145)と酸化マンガン(Mn
2O
3、MnO)が生成された。pHが12の場合(比較例41)には、La(OH)
3(JCPDSカード:01−077−3934)と水酸化マンガンと推測される非晶質相が生成された。
【0141】
比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41は、比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36とそれぞれ同様の原料水溶液を用いたものであり、それらと比較して、電気炉の設定温度が低く、反応時間が短いものである。すなわち、比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41は、それぞれ対応する比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36の反応において、昇温途中の410℃で反応を急冷して終了したものに相当する。すなわち、比較例37、比較例38、比較例39、比較例40及び比較例41において得られた生成物は、対応する比較例35、実施例25、実施例26、実施例27及び比較例36の中間生成物に相当すると考えられる。
【0142】
比較例38、比較例39及び比較例40の結果と、実施例25、実施例26及び実施例27の結果とを対比考察すると、実施例25〜27のLaMnO
3の生成メカニズムは、最初に中間生成物としてオキシ水酸化ランタンが生成され、次いでさらに昇温することでLaMnO
3が生成されると考えられる。
【0143】
【表5】
【0144】
[(La,Sr)FeO
3の合成]
(実施例28、比較例42)
硝酸ランタン(La(NO
3)
3・6H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのランタンの水溶液を調製した。また、硝酸ストロンチウム(Sr(NO
3)
2)を蒸留水に溶解させ、0.1Mのストロンチウム水溶液を調製した。さらに、硝酸鉄(Fe(NO
3)
3・9H
2O、純度99%、関東化学製)を蒸留水に溶解させ、0.1Mの鉄の水溶液を調製した。これらの水溶液をランタン:ストロンチウム:鉄のモル比が、0.6:0.4:1となる割合で混合した。その後、この水溶液を激しく撹拌させながら5Mの水酸化カリウム水溶液を所定のpHが8となるまで滴下し原料水溶液を得た。原料水溶液以外は、それぞれ、実施例1〜3及び比較例1〜2、比較例4〜9と同様の超臨界水熱条件にて粉末を調製し、分析を行った(それぞれ、実施例28、比較例42とする。)。
【0145】
実施例28において得られた粉末のX線回折測定を行った結果、ペロブスカイト型構造のXRDパターンが観測された。また、TEM観察を行った結果、得られた粉末は、50〜750nmのキュービック単結晶粒子であった。さらに、EDS局所分析から得られた粉末は、La、Sr、Fe及びOを含むものであり、La/Sr原子比は0.8〜1.1、(La+Sr)/Fe原子比は0.8〜1.1であった。
【0146】
比較例42において得られた粉末のX線回折測定を行った結果、ペロブスカイト型構造のXRDパターンは観測されなかった。一方、オキシ水酸化ランタン(LaOOH)のXRDパターンが観測され、La
2(OH)
5.1(NO
3)
0.9やLa(OH)
3等の他のLaを含む化合物は観測されなかった。このことから、AサイトのLaの一部をSrに置換したペロブスカイト化合物を合成する際にも、中間生成物としてオキシ水酸化ランタンを介することが確認された。