【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業」「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(網膜色素上皮・肝細胞)」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の容器の数が、50個以上であり、分注開始から分注されるまでの滞留時間が1時間以上であるアリコートが存在する、請求項6から9のいずれかに記載の分配方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、細胞やビーズなどの粒子を分注する場合、塑性流体を利用することで、分注中の撹拌操作がなくても、分注される一定分量中の粒子の濃度や密度の変動を抑制できるという知見に基づく。
本開示は、また、分注中の撹拌操作を使用しない分注が可能になれば、細胞などの生きた粒子成分や壊れやすい粒子成分であっても、撹拌によるダメージを回避しつつ、分注される一定分量中の粒子の濃度や密度の変動を抑制できるという知見に基づく。
本開示は、さらに、分注中の撹拌操作を使用しない分注が可能になれば、貯留部(リザーバー)における気体の混入を抑制でき、分注量の変動を抑制できるという知見に基づく。
本開示は、さらにまた、ポンプと管を用いた分注において塑性流体を利用することで、管内で層流による送液が可能となり、吸入時と同じ粒子の濃度を維持しやすくなるという知見に基づく。また、層流での送液が可能になることで、気相との界面の崩れが抑制され気体を含みにくいという知見に基づく。
但し、本開示はこれらの知見に限定されなくてもよい。
【0011】
[分配方法・分注方法]
本開示は、一態様において、粒子を塑性流体中に分散させること、及び、前記粒子を含む塑性流体を分注することを含む、粒子の分配方法に関する。
本開示に係る粒子の分配方法において、例えば、粒子が細胞である場合、前記塑性流体としては、培地や凍結保存液に後述する特定化合物を混合して塑性流体としたものが挙げられる。
したがって、本開示に係る粒子の分配方法は、以下のように言い換えることができる。すなわち、本開示は、一態様において、粒子を含む液体の液体を塑性流体とすること、及び、前記粒子を含む塑性流体を分注することを含む、分注方法に関する。
本開示の分配及び分注方法によれば、一又は複数の実施形態において、攪拌等の操作を行わなくても、粒子を含む液体(塑性流体)を一定密度かつ一定量で分配又は分注することができる。よって、本開示の分配及び分注方法は、一又は複数の実施形態において、粒子を含む塑性流体を定量に分配又は分注することを含む。
粒子及び塑性流体について以下に説明する。
【0012】
[粒子]
本開示に係る分配・分注方法において、粒子は、液体との混合物として分注できるものをいう。
粒子は、固体であってもよく、液体であってもよい。
粒子の一又は複数の実施形態として、細胞、微生物、リポソーム、薬包粒子、顔料などの化粧成分、ビーズ、コロイドなどが挙げられる。
本開示に係る分配・分注方法は、分配中・分注中の撹拌操作を必須とはしないから、シェアストレス(物理的ストレス)に感受性のある粒子の分配・分注に好適である。但し、粒子はこれらに限定されなくてもよい。
細胞としては、動物由来の細胞及び植物由来の細胞が含まれうる。細胞の一又は複数の実施形態として、培養細胞が挙げられる。培養細胞としては、幹細胞が挙げられ、幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)などのような多能性幹細胞、或いは、間葉系幹細胞、造血幹細胞及び組織幹細胞などのような多分化能幹細胞が挙げられる。
ビーズとしては、ポリマービーズ、セラミックビーズ、金属ビーズ、金属酸化物ビーズが挙げられる。ビーズの形態としては、また、磁性ビーズ、ビーズ担体、砥粒などが挙げられる。
コロイドとしては、エマルション、サスペンションが挙げられる。
【0013】
本開示において、粒子の分配は、粒子と液体との混合物の分注を含む。
本開示において、液体は、塑性流体でない液体及び塑性流体の両方を意味しうる。特に言及のない場合、液体は、塑性流体でない液体を意味する。
【0014】
[塑性流体]
本開示において、塑性流体とは、流動させるために降伏応力が必要な流体、すなわち、降伏値を持つ流体をいう。塑性流体は、ビンガム流体であってもよく、非ビンガム流体であってもよい。本開示において、塑性流体とは、静置状態において、分配(分注)目的の粒子の沈降を抑制できるもの、好ましくは、該粒子を沈降させずに保持できるものをいう。
【0015】
本開示において、塑性流体は、限定されない一又は複数の実施形態において、塑性流体ではない液体と特定化合物とを混合することで得ることができる。
前記特定化合物は、塑性流体ではない液体を塑性流体とすることができる化合物であり、限定されない一又は複数の実施形態において、WO2014/017513に開示されるものや、下記のものが使用できる。
【0016】
塑性流体ではない液体を塑性流体とするための特定化合物としては、特に制限されるものではないが、高分子化合物が挙げられ、好ましくはアニオン性の官能基を有する高分子化合物が挙げられる。
アニオン性の官能基としては、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基及びそれらの塩が挙げられ、カルボキシ基またはその塩が好ましい。
前記高分子化合物は、前記アニオン性の官能基の群より選択される1種又は2種以上を有するものを使用できる。
【0017】
塑性流体ではない液体を塑性流体とするための特定化合物の好ましい具体例としては、特に制限されるものではないが、単糖類(例えば、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソース、ヘプトース等)が10個以上重合した多糖類が挙げられ、より好ましくは、アニオン性の官能基を有する酸性多糖類が挙げられる。ここにいう酸性多糖類とは、その構造中にアニオン性の官能基を有すれば特に制限されないが、例えば、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸)を有する多糖類、構造中の一部に硫酸基又はリン酸基を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類であって、天然から得られる多糖類のみならず、微生物により産生された多糖類、遺伝子工学的に産生された多糖類、或いは酵素を用いて人工的に合成された多糖類も含まれる。より具体的には、ヒアルロン酸、ジェランガム、脱アシル化ジェランガム(以下、DAGという場合もある)、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ザンタンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、へパラン硫酸、ヘパリン、へパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、ラムナン硫酸及びそれらの塩からなる群より1種又は2種以上から構成されるものが例示される。多糖類は、好ましくは、ヒアルロン酸、DAG、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン又はそれらの塩であり、低濃度の使用で粒子を浮遊させることができ、かつ粒子の回収のしやすさを考慮すると、より好ましくは、DAGである。ここでいう塩とは、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩、カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩又はアルミニウム、亜鉛、鋼、鉄、アンモニウム、有機塩基及びアミノ酸等の塩が挙げられる。
【0018】
これらの高分子化合物(多糖類等)の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜50,000,000であり、より好ましくは100,000〜20,000,000、更に好ましくは1,000,000〜10,000,000である。例えば、当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるフルラン換算で測定できる。さらに、DAGはリン酸化したものを使用することもできる。当該リン酸化は公知の手法で行うことができる。
【0019】
前記多糖類は、一又は複数の実施形態において、複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用することができる。多糖類の組み合わせの種類は特に限定されないが、好ましくは、当該組合せは少なくともDAG又はその塩を含む。即ち、好適な多糖類の組合せには、DAG又はその塩、及びDAG又はその塩以外の多糖類(例、キサンタンガム、アルギン酸、カラギ−ナン、ダイユータンガム、メチルセルロース、ローカストビーンガム又はそれらの塩)が含まれる。具体的な多糖類の組み合わせとしては、DAGとラムザンガム、DAGとダイユータンガム、DAGとキサンタンガム、DAGとカラギーナン、DAGとザンタンガム、DAGとローカストビーンガム、DAGとκ−カラギーナン、DAGとアルギン酸ナトリウム、DAGとメチルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
特定化合物の更に好ましい具体例としては、ヒアルロン酸、脱アシル化ジェランガム、ダイユータンガム、カラギーナン及びキサンタンガム及びそれらの塩が挙げられ、好ましい例としては脱アシル化ジェランガムまたはその塩が挙げられる。本開示において脱アシル化ジェランガムとは、1−3結合したグルコース1−4結合したグルクロン酸、1−4結合したグルコース及び1−4結合したラムノースの4分子の糖を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類であり、以下の一般式(I)において、R
1、R
2が共に水素原子であり、nは2以上の整数で表わされる多糖類である。ただし、R
1がグリセリル基を、R
2がアセチル基を含んでいてもよいが、アセチル基及びグリセリル基の含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0022】
前記特定化合物により塑性流体となるメカニズムは様々であるが、脱アシル化ジェランガムの場合について記載すると、脱アシル化ジェランガムは、液体と混合した際に、液体中の金属イオン(例えば、カルシウムイオン)を取り込み、当該金属イオンを介した不定形な構造体を形成し、粒子を浮遊させる。脱アシル化ジェランガムから調製される塑性流体である液体の粘度は、一又は複数の実施形態において、8mPa・s以下であり、好ましくは4mPa・s以下であり、粒子の回収のしやすさの点を考慮すると、より好ましくは2mPa・s以下である。しかし、塑性流体である液体の粘度は、特に制限されず、上記値より大きくてもよい。
【0023】
塑性流体とするための前記特定化合物は、化学合成法でも得ることができるが、当該化合物が天然物である場合は、当該化合物を含有している各種植物、各種動物、各種微生物から慣用技術を用いて抽出及び分離精製することにより得るのが好適である。その抽出においては、水や超臨界ガスを用いると当該化合物を効率よく抽出できる。例えば、ジェランガムの製造方法としては、発酵培地で生産微生物を培養し、菌体外に生産された粘膜物を通常の精製方法にて回収し、乾燥、粉砕等の工程後、粉末状にすればよい。また、脱アシル化ジェランガムの場合は、粘膜物を回収する際にアルカリ処理を施し、1−3結合したグルコース残基に結合したグリセリル基とアセチル基を脱アシル化した後に回収すればよい。精製方法としては、例えば、液−液抽出、分別沈澱、結品化、各種のイオン交換クロマトグラフィー、セファデックスLH−20等を用いたゲル漏過クロマトグラフィー、活性炭、シリカゲル等による吸着クロマトグラフィーもしくは薄層クロマトグラフィーによる活性物質の吸脱着処理、あるいは逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等を単独あるいは任意の順序に組み合わせ、また反復して用いることにより、不純物を除き精製することができる。ジェランガムの生産微生物の例としてはこれに限定されるものではないが、スフィンゴモナス・エロディア(SPhingomonas elodea)及び当該微生物の遺伝子を改変した微生物が挙げられる。
【0024】
脱アシル化ジェランガムの場合、市販のもの、例えば、三品株式会社製「KELCOGEL(シーピー・ケルコ社の登録商標)CGーLA」、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「ケルコゲル(シーピー・ケルコ社の登録商標)」等を使用することができる。また、ネイティブ型ジェランガムとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製「ケルコゲル(シーピー・ケルコ社の登録商標)HT」等を使用することができる。
【0025】
[塑性流体における特定化合物の濃度]
塑性流体中の前記特定化合物の濃度(質量/容量%、以下単に%で示す)は、特定化合物の種類に依存し、静置状態において貯留ボトルの細胞を沈降させずに保持できる塑性流体とすることのできる範囲で適宜設定することができるが、通常0.0005%〜1.0%、好ましくは0.001%〜0.4%、より好ましくは0.005%〜0.1%、さらに好ましくは0.005%〜0.05%である。例えば、脱アシル化ジェランガムの場合、0.001%〜1.0%、好ましくは0.003%〜0.5%、より好ましくは0.005%〜0.1%、更に好ましくは0.01%〜0.05%、更により好ましくは0.02%〜0.05%である。キサンタンガムの場合、0.001%〜5.0%、好ましくは0.01%〜1.0%、より好ましくは0.05%〜0.6%、更により好ましくは0.3%〜0.6%である。κ−カラギーナンおよびローカストビーンガム混合系の場合、0.001%〜5.0%、好ましくは0.005%〜1.0%、より好ましくは0.01%〜0.1%、最も好ましくは0.03%〜0.05%である。ネイティブ型ジェランガムの場合、0.05%〜1.0%、好ましくは0.05%〜0.1%である。
【0026】
上記多糖類を複数種(好ましくは2種)組み合わせて使用する場合、当該多糖類の濃度は、静置状態において液体中の細胞を沈降させずに保持できる塑性流体とすることのできる範囲で適宜設定することができる。例えば、DAG又はその塩と、DAG又はその塩以外の多糖類との組合せを用いる場合、DAG又はその塩の濃度としては0.005〜0.02%、好ましくは0.01〜0.02%が例示され、DAG又はその塩以外の多糖類の濃度としては、0005〜0.4%、好ましくは0.1〜0.4%が例示される。具体的な濃度範囲の組合せとしては、以下が例示される。
DAG又はその塩:0.005〜0.02%(好ましくは0.01〜0.02%)
DAG以外の多糖類
キサンタンガム:0.1〜0.4%
アルギン酸ナトリウム:0.1〜0.4%
ロ一カトビーンガム:0.1〜0.4%
メチルセルロース:0.1〜0.4%(好ましくは0.2〜0.4%)
カラギーナン:0.05〜0.1%
ダイユータンガム:0.05〜0.1%
なお該濃度は、以下の式で算出できる。
濃度(%)=特定化合物の質量(g)/液体の容量(ml)×100
【0027】
特定化合物は、化学合成法によってさらに別の誘導体に変えることもでき、そのようにして得た当該誘導体も、本開示にかかる細胞培養方法において有効に使用できる。具体的には、脱アシル化ジェランガムの場合、前記一般式(I)で表される化合物のR
1及び/又はR
2に当たる水酸基を、C1−3アルコキシ基、C1−3アルキルスルホニル基、グルコースあるいはフルクトースなどの単糖残基、スクロース、ラクトースなどのオリゴ糖残基、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸残基などに置換した誘導体も本発明に使用できる。また、1−ethyl−3−(3−di−methylaminopropyI)carbodiimide(EDC)等のクロスリンカーを用いて当該化合物を架橋することもできる。
【0028】
特定化合物或いはその塩は製造条件により任意の結品形として存在することができ、任意の水和物として存在することができるがこれら結品形や水和物及びそれらの混合物も本発明の範囲に含有される。また、アセトン、エタノール、テトラヒドロフランなどの有機溶媒を含む溶媒和物として存在することもあるが、これらの形態はいずれも本開示の範囲に含有される。
【0029】
特定化合物は、環内或いは環外異性化により生成する互変異性体、幾何異性体、互変異性体若しくは幾何異性体の混合物、又はそれらの混合物の形で存在しもよい。本開示において前記特定化合物は、異性化により生じるか否かに拘わらず、不斉中心を有する場合は、分割された光学異性体或いはそれらを任意の比率で含む混合物の形で存在してよい。
【0030】
塑性流体である液体は、一又は複数の実施形態において、前記特定化合物の溶液又は分散液を液体培地に添加することにより製造できるが、必要に応じて、特定化合物がイオンを介して集合するため、あるいは、特定化合物が三次元のネットワークを形成するため、金属イオンを添加することが好ましい。金属イオンとしては、一又は複数の実施形態において、2価の金属イオンが挙げられる。2価の金属イオンとしては、一又は複数の実施形態において、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン及び銅イオン等が挙げられる。金属イオンの濃度は、一又は複数の実施形態において、0.1mM〜300mM、0.5mM〜100mM、又は0.5mM〜10mMである。
【0031】
[塑性流体の降伏値]
本開示に用いる塑性流体の降伏値は、静置状態において粒子を沈降させずに保持できる程度であることが好ましい。本開示で使用する塑性流体の降伏値は、粒子を保持する観点から、0.02Pa以上が好ましく、0.03Pa以上がより好ましい。本開示で使用する塑性流体の降伏値は、例えば、0.2Pa以下又は0.1Pa以下である。
【0032】
[自動分注装置]
本開示に係る分配・分注方法は、自動分注装置による分注に好ましく適用できる。本開示に係る分配・分注方法によれば、一又は複数の限定されない実施形態において、自動分注装置により分注されるアリコートの分注量の偏り、粒子の密度の偏り、及び粒子が細胞である場合における細胞の生存率の偏りの少なくとも1つを抑制しうる。
本開示において自動分注装置は、特に制限されないが、貯留部(リザーバー)から液管及びポンプを含むポンプユニットにて吸引してバイアルやマルチウェルプレートに吐出するタイプや、吸引・吐出が可能な分注ピペットヘッドによって貯留部からマルチウェルプレートに分注するタイプが挙げられる。
本開示の自動分注装置は、一又は複数の実施形態において、ポンプユニット及び分注ピペットヘッド等を制御する制御部を備える。制御部は、一又は複数の実施形態において、貯留部内に貯留された粒子を分散させた塑性流体を、複数の容器に定量分注するように、ポンプユニット及び分注ピペットヘッド等を制御することを含む。
【0033】
[製造方法]
本開示は、その他の態様として、粒子と前記粒子の容器とを備える製品の製造方法であって、前記粒子を分散させた塑性流体の貯留部から複数の前記容器へ前記塑性流体を分注することを含む、製造方法に関する。
本開示の製造方法は、以下のように言い換えることができる。すなわち、本開示は、その他の態様として、液体と前記液体の容器とを備える製品の製造方法であって、前記液体の貯留部から複数の前記容器へ前記液体を分注することを含み、前記液体は、粒子を含む塑性流体である、製造方法に関する。
本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、粒子の量(又は濃度)及び/又は液体の量が実質的に均一な製品を製造することができる。本開示の製造方法によれば、一又は複数の実施形態において、自動分注装置に配置された貯留部内の前記塑性流体又は液体の残量が、分注開始前の20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下又は1%以下になった場合であっても、分注開始時に容器に分注した粒子の量(又は濃度)及び/又は液体の量と実質的に同じ量で分注することができる。また、自動分注装置に配置された貯留部内の前記塑性流体又は液体の残量が、分注量以下となった場合は、残りすべてを1つの容器に分注できる。
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、複数の容器に、粒子を分散させた塑性流体を定量に分注することを含む。本開示の製造方法における特に限定されない一又は複数の実施形態において、自動分注装置に配置された貯留部内の前記塑性流体又は液体を前記複数の容器に定量に分注することを含む。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、定量に分注された前記製品を、自動分注装置を用いて複数製造すること含む。
本開示において「定量に分注」としては、粒子の量(又は濃度)及び/又は液体の量が実質的に同じとなるように、複数の容器に分注することを含む。本開示において「粒子の量(又は濃度)が実質的に同じ」とは、所望の粒子の量(又は濃度)(X
p)に対する容器に分注された粒子の量(又は濃度)(Y
p)に対する相対誤差({(X
p−Y
p)/X
p}×100)が、±15%以下、±14%以下、±13%以下、±12%以下、±11%以下、±10%以下、±9%以下、±8%以下、±7%以下、±6%以下、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下又は±0.55%以下であることをいう。本開示において「液体の量が実質的に同じ」とは、所望の量(X
l)と容器に分注された液体の量(Y)に対する相対誤差({(X
l−Y
l)/X
l}×100)が、±10%以下、±9%以下、±8%以下、±7%以下、±6%以下、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下又は±0.55%以下であることをいう。
本開示における「複数の容器(又は製品)」としては、特に限定されるものではないが、50以上、60以上、70以上、80以上、90以上又は100以上である。
本開示の製造方法で製造されうる製品としては、培養細胞、リポソーム、又は薬包粒子などが分注されたバイアル製品が挙げられ、その他、化粧品、及び医薬品などが挙げられる。
【0034】
[組成物]
本開示は、その他の態様として、本開示に係る分配方法又は製造方法における分注に使用するための組成物であって、粒子が分散する液体又は粒子を分散させる液体を塑性流体とするための物質を含む組成物に関する。
本開示に係る組成物は、固体や粉体状であってもよく、液体の状態であってもよい。
前記「塑性流体とするための物質」としては、前述の特定化合物が使用できる。
本開示に係る組成物は、さらに、その他の成分、すなわち、前記物質(特定化合物)以外の成分を含んでいてもよい。
その他の成分としては、粒子が細胞の場合、細胞培養培地成分や細胞凍結保存液の成分が挙げられる。細胞培養培地成分は前記細胞に応じて適宜選択できる。本開示において細胞凍結保存液は、細胞凍結保存用培地であってもよい。凍結保存液の成分としては、細胞凍結防止剤、細胞内凍害防止剤、細胞外凍害防止剤などが含まれうる。
よって、本開示は、その他の態様として、細胞凍結保存液と、前記液体を塑性流体とするための物質とを含む組成物に関する。本開示に係る組成物の一又は複数の実施形態として、細胞凍結保存液に「塑性流体とするための物質」が溶解して塑性流体となった細胞凍結保存液が挙げられる。また、本開示に係る組成物のその他の一又は複数の実施形態として、細胞凍結保存液と「塑性流体とするための物質」とが互いに混ざらないような形態で保持されている、細胞凍結保存液と「塑性流体とするための物質」との組み合わせが挙げられる。
【0035】
その他の成分が、細胞凍結保存液の成分である場合、特定化合物がイオンを介して集合するため、あるいは、特定化合物が三次元のネットワークを形成するため、金属イオンを添加することが好ましい。金属イオンとしては、一又は複数の実施形態において、2価の金属イオンが挙げられる。2価の金属イオンとしては、一又は複数の実施形態において、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオン及び銅イオン等が挙げられる。金属イオンの濃度は、一又は複数の実施形態において、0.1mM〜300mM、0.5mM〜100mM、又は0.5mM〜10mMである。
【0036】
本開示はさらに以下の限定されない一又は複数の実施形態に関する。
〔1〕 粒子の分配方法であって、
前記粒子を塑性流体中に分散させること、及び、
前記粒子を含む塑性流体を分注することを含む、方法。
〔2〕 前記分注は、自動分注装置によって行われる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 前記粒子が細胞である、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 粒子と前記粒子の容器とを備える製品の製造方法であって、
前記粒子を分散させた塑性流体の貯留部から複数の前記容器へ前記塑性流体を分注することを含む、製造方法。
〔5〕 前記分注は、自動分注装置によって行われる、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕 前記粒子が細胞である、〔4〕又は〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕 〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法、又は、〔4〕から〔6〕のいずれかに記載の製造方法における分注に使用するための組成物であって、粒子が分散する液体又は粒子を分散させる液体を塑性流体とするための物質を含む組成物。
〔8〕 細胞凍結保存液と、前記液体を塑性流体とするための物質とを含む組成物。
【0037】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0038】
貯留部1の液溜ボトル内の液体を管路2及びポンプ3を介して複数のバイアル瓶4に分注する自動分注装置(
図1)を準備した。この自動分注装置を用いて、バイアル瓶に分注される粒子(ビーズ又は細胞)を評価した。
【0039】
[評価モデル]
自動分注装置によって分注された製造された培養細胞のバイアル製品の品質を評価するモデルとして下記式(I)を用いた。下記式(I)は、1つのバイアル瓶の中の有効な細胞数の指標Yを求める式である(
図2参照)。
Y=(V/V
t)
ts,Fs・(D/D
0)
ts,Fs・(P/P
0) (I)
【0040】
式(I)におけるパラメータは、tsとFsである。tsは、貯留部の液溜ボトルにおいて分注開始から吸引されるまでの時間(以下、「滞留時間」ともいう。)(h)を示し、Fsは、液溜ボトルの振とう速度(s
−1)を示す。
(V/V
t)
ts,Fsは、分注量の相対値である。V
tは設定した分注量、Vは分注されたアリコートの量である。
(D/D
0)
ts,Fsは、密度の相対値である。D
0は分注開始時(ts=0、分散状態)のアリコートの密度(粒子数(又は細胞数)/ml)であり、Dは分注されたアリコートの密度である。
(P/P
0)は、細胞の生存率であって下記式で算出される。
(P/P
0)=α
ts,Fsxβ
ts,Fsxγ
ts,Fs
γ
ts,Fs=n
1/n
0
β
ts,Fs=n
2/n
1
α
ts,Fs=n
3/n
2
n
0:初期生存細胞数
n
1:分注後の生存細胞数
n
2:凍結・復温(解凍)後の生存細胞数
n
3:播種24時間後の接着細胞数
γは、撹拌前後での生存率を示す。
βは、凍結・復温(解凍)前後での生存率を示す。
αは、播種前と播種24時間後とでの接着細胞率を示す。
【0041】
[試験例1:濃度の均一性]
液溜ボトルにビーズと凍結保存液(商品名:STEM−CELLBANKER
(R) GMP grade、ZENOAQ製)を入れ、ビーズ濃度1.0×10
6ビーズ/mlのビーズ懸濁液100mlを作製した。オートピペッターと50mlピペットを用いてボトル内を急速で10回ピペッティングし濃度を均一にした。濃度を均一にしたボトルを
図1の自動分注装置の貯留部に設置し、液管の先端をボトルに差し込み、液管の先端の位置を調整した。その後、自動分注装置で凍結バイアル100本に懸濁液を1mlずつ分注した。オートセルカウンターを用いて分注したバイアル内のビーズ濃度を測定した。
図3参照。
【0042】
さまざまな振とう速度(Fs)と滞留時間(ts)で液上面から5mm下の位置でサンプリングした時の(D/D
0)を
図4に示す。
図4に示すとおり、Fs=0すなわち撹拌がないと時間の経過とともに液上面から5mmの位置のサンプルのビーズ密度が低下している。同様の傾向は、Fs=0.1及び0.4(s
-1)の振とう速度でも生じた。試験例1の条件では、分注されるバイアルのサンプル密度を一定に維持するためには、振とう速度Fs=0.9s
-1以上の撹拌が必要であることが分かった。
【0043】
振とう速度Fs=0、0.9、及び1.6s
-1で撹拌して分注した100本のバイアルについてそれぞれ(D/D
0)を算出した。その結果を
図5に示す。
図5に示すとおり、Fs=0すなわち撹拌がない場合、サンプリングの後半のバイアルでビーズ濃度が著しく低下していた(円囲み部分)。一方、振とう速度Fs=0.9s
-1以上の撹拌では、100本のバイアルでビーズ濃度が一定に維持されていた。
【0044】
[試験例2:分注量の均一性]
液溜ボトルを振とうしながらポンプ吸引できるようにした自動分注装置で100mlの凍結保存液(商品名:STEM−CELLBANKER
(R) GMP grade、ZENOAQ製)を102本のバイアルに約30分かけて分注した。なお、液溜ボトルからの吸引は、液管の先端をボトルの底面から5mm上の位置に固定して行った。
分注された102本のバイアルについて分注量を測定した。その結果を
図6に示す。
図6(GG(−))が示すとおり、振とう速度Fs=0、及び0.9s
-1の場合はバイアル中の分注量が最初から最後までほぼ一定だった。しかしながら、振とう速度Fs=5.8s
-1の場合はサンプリングの後半でバイアル分注量が著しく低下した(円囲み部分)。
したがって、振とう速度が早すぎると(Fs=5.8s
-1)、泡が液管に吸い込まれることにより後半の分注量が低減する可能性が示された。
【0045】
試験例1及び2からは、液体保存液のような通常の液体の場合、ビーズや細胞といった粒子の濃度をバイアル間で一定にさせるためにはある程度以上の速さの撹拌が必要であるが、バイアルに注入される分注量をバイアル間で一定にさせるためには撹拌の速さが速すぎないことが必要であることが確認された。
【0046】
つぎに、液溜ボトルに、化合物A(脱アシル化ジェランガム、日産化学社製)を添加した上記凍結保存液(化合物Aの濃度:0.06%)を入れて、振とうなし(Fs=0)で行った以外は、上記と同様に分注を行い、分注量を測定した。その結果を
図6に示す。
図6(GG(+))が示すとおり、化合物Aを添加した場合には、つまり、塑性流体とした凍結保存液を用いることで最後(101本目)まで定量に分注することができた。また、
図6が示すとおり、化合物Aを添加した塑性流体とした凍結保存液を用いることで(GG(+))、化合物Aを添加しない(塑性流体ではない)場合(GG(−))と比較して、分注時の定量性が向上した。
【0047】
[試験例3:細胞の生存率]
試験例1及び2のビーズに替えて、T−225フラスコで培養したhiPS細胞(D2株、StemFit培地)を使用した(
図7参照)。培養後分注前、分注後凍結前、凍結復温後に生細胞をカウントし、凍結復温後の培養24時間後に接着した細胞をカウントし、生存率(P/P
0)を算出した。
所定の滞留時間ts(1h又は4h)中に受けた振とうの時間が生存率(P/P
0)に及ぼす影響を確認した。その結果を
図8に示す。
【0048】
本試験例でいうtsは、凍結保存液で細胞懸濁液を作製してから凍結するまでの時間をいう。
図8において、ts=1hのグラフで、振とう時間が0h及び0.5hとは、振とう無し及び振とう30分でサンプリング(分注)された、ts=1hの時点で凍結されたことを意味する。ts=4hのグラフも同様である。
図8に示すとおり、例えば、分注に4時間かかった場合、最初に分注されたアリコートと1〜4時間後に分注されたアリコートでは細胞の生存率(P/P
0)が大きく異なることがわかる。すなわち、同じロットであっても、分注工程で振とうに晒される時間に応じて細胞の生存率が著しく異なるバイアル(製品)が混在することが示された。
【0049】
[塑性流体の作製]
2mMとなるように塩化カルシウムを加えた凍結保存液(商品名:STEM−CELLBANKER
(R) GMP grade、ZENOAQ製)92.5mlを液溜ボトルに入れ、シリンジと注射針を用いて濃度が0.06%になるように化合物A(脱アシル化ジェランガム、日産化学社製)7.5mlを入れて転倒混和させ、一晩冷蔵庫で保管した。
【0050】
[試験例4:濃度の均一性(塑性流体)]
液溜ボトルにビーズと化合物A入りの凍結保存液を入れ、ビーズ濃度1.0×10
6ビーズ/mlのビーズ懸濁液100mlを作製した。オートピペッターと50mlピペットを用いてボトル内を急速で10回ピペッティングし濃度を均一にした。濃度を均一にしたボトルを上記の自動分注装置の貯留部に設置し、液管の先端をボトルに差し込み、液管の先端の位置を液上面から5mm下の位置に調整した。その後、自動分注装置で凍結バイアル100本に懸濁液を1mlずつ分注した。オートセルカウンターを用いて分注したバイアル内のビーズ濃度を測定した。
図9参照。
【0051】
振とうなし(Fs=0)で、凍結保存液に化合物Aを添加した場合と添加しない場合とで、分注したバイアルについてそれぞれビーズ濃度(D/D
0)を算出した。その結果を
図10に示す。
図10に示すとおり、Fs=0すなわち振とうしない、かつ、化合物Aを添加しない場合、サンプリングの後半のバイアルでビーズ濃度(D/D
0)が著しく低下していた。一方、振とうしない場合であっても、化合物Aを添加した場合には、ビーズ濃度(D/D
0)の低下が抑制された。
【0052】
[試験例5:細胞の生存率(塑性流体)]
液溜ボトルの振とうを行わず(Fs=0)、CaCl
2及び化合物Aを用いて凍結保存液を塑性流体(CaCl
2:2mM、化合物A:0.06%)とした他は、試験例3と同様に所定のts(0〜4h)で分注、凍結、復温(解凍)、培養を行った。撹拌前後での生存率γ(%)、凍結・復温(解凍)前後での生存率β(%)、再培養播種前24時間後での接着細胞率α(%)を算出し、さらに、再培養時の倍加速度μ(h)を測定した。それらの結果を、化合物Aを用いない場合(塑性流体としない場合)と比較して
図11に示す。
また、再培養の様子を観察して、化合物Aを用いて凍結保存液を塑性流体とした場合と、化合物Aを用いない場合(塑性流体としない場合)とで比較した。その結果を
図12に示す。
【0053】
図11及び12に示すとおり、塑性流体とした凍結保存液を用いた場合であっても、上記パラメータ(α、β、γ、μ)は塑性流体としない凍結保存液を用いた場合と同様であり、塑性流体とした場合の細胞毒性は認められなかった。
【0054】
以上のことから、細胞を分散させた凍結保存液を分注する際に塑性流体を用いた場合には、撹拌・振とうを必要とせずに分注されるアリコートの分注量及び細胞密度の偏りを抑制でき、また、細胞の品質(生存率など)を維持しつつ偏りを抑制できる分注が可能となることが認められた。
【0055】
[試験例6:細胞の生存率(塑性流体)]
下記表1に示す凍結保存液、CaCl
2及び化合物A(脱アシル化ジェランガム、日産化学社製)を用いて、上記塑性流体の作製と同様の手順で塑性流体(SCB−GG(+)及びSS−GG(+))を作製した。
【表1】
【0056】
SCB−GG(+)及びSS−GG(+)にhiPS細胞(1383D2株)を分散させ、液溜ボトルの振とうを行わず(Fs=0)、所定のts(0〜4h)で分注、凍結、復温(解凍)、及び培養を行った。分注前後での生存率γ(%)、凍結・復温(解凍)前後での生存率β(%)、再培養播種前24時間後での接着率α(%)、及び細胞ポテンシャルP/P
0(=α×β×γ)を算出した。その結果を
図13に示す。
化合物Aを用いない場合(塑性流体としない場合、SCB−GG(−)及びSS−(GG(−)))を使用した以外は、上記と同様に行った。その結果を
図13に示す。なお、化合物Aを用いない場合(SCB−GG(−)及びSS−(GG(−)))は、細胞の濃度を均一とするために、液溜ボトルの振とうしながら(Fs=0.90 s
−1)分注を行った。
【0057】
図13に示すとおり、いずれの凍結保存液であっても、塑性流体にしたほうが、分注及び復温等により生じうる細胞ポテンシャルの低下が抑制される傾向が確認された。