(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
<曲面ガラス加工装置の全体構成>
図1は本発明の実施形態を説明するための図で、曲面ガラス加工装置の全体構成図である。
曲面ガラス加工装置100は、主軸11に接続されるカッターツール(以降、カッターと略称する)13により曲面形状を有するガラス板15に切線を形成する切線加工と、ガラス板15に形成された切線に沿ってガラス板15を折り割りする折り割り加工と、主軸11に接続される研削砥石17によりガラス板15の切断端面の面取り加工とを、数値制御される多軸のマシニングセンタ等の工作機械で実施する。
【0012】
この曲面ガラス加工装置100は、ガラス板支持部21と、ガラス板支持部21を支持するベース23と、ガラス板支持部21の上方に配置され、主軸11を水平面(XY面)内で移動させる主軸移動ステージ25と、ツール交換部であるオートツールチェンジャー27とを備える。
【0013】
ここで、本明細書においては、
図1に示す主軸11の軸方向である鉛直方向をZ軸方向、
図1の紙面垂直方向をY軸方向、Y軸とZ軸に直交する
図1の左右方向をX軸方向とする。また、主軸11の回転軸をθ軸、X軸に対する回転軸をA軸とする。
【0014】
ガラス板支持部21は、ベース23に支持される基台31と、基台31の側方に配置された側方支持台33A,33Bとを有する。基台31と側方支持台33A,33Bのガラス板支持面は、加工するガラス板15の曲面形状と同等の形状の曲面にされている。基台31には、図示しないガラス突き当てピンが設けられる。ガラス板15は、このガラス突き当てピンに突き当たることで、基台31上で位置決めされる。
【0015】
基台31には、ガラス板15をエア吸引によりガラス板支持面に吸着固定する主吸着部35が設けられ、側方支持台33A,33Bには、それぞれ側方吸着部37A,37Bが設けられる。主吸着部35と側方吸着部37A,37Bは、吸引管路39,41A,41Bを通じて電磁バルブ43に接続され、吸引ポンプ45から負圧が供給される。吸引ポンプ45からの負圧は、電磁バルブ43によって、主吸着部35と側方吸着部37A,37Bとに同時、又は選択的に供給可能となっている。
【0016】
ガラス板支持部21は、詳細を後述する折り割り加工部46を備える。折り割り加工部46は、側方支持台33A,33Bを基台31に対して下方に向けて回転移動させ、ガラス板支持部21に支持されたガラス板15を切線に沿って折り割り加工する。
【0017】
ベース23は、ガラス板支持部21を鉛直方向(Z軸方向)に昇降移動させる昇降ステージ47と、ガラス板支持部21を水平面(XY面)からX軸に対する回転軸(A軸)回りに傾斜させる傾動ステージ49とを備える。傾動ステージ49は、Y軸に対する回転軸(B軸)回りにガラス板支持部21を傾斜させる機能を有していてもよい。
【0018】
主軸移動ステージ25は、θ軸回りに回転駆動する図示しないモータを備えた主軸11を、ガラス板支持部21上でX方向及びY方向に移動させる。主軸11には、コレットチャック53に接続されるフローティング部55のシャンク51が取り付けられる。コレットチャック53には、各種ツールが着脱自在に取り付けられる。
【0019】
図2(A)はカッターツールの要部斜視図、
図2(B)はカッターの先端部の側面図である。
図2(A)に示すように、カッター13は、スクライビングホイール57と、スクライビングホイール57の回転軸57aを先端部で回転自在に支持するホイール支持部材58と、ホイール支持部材58の基端部が保持されるカッターホルダ59とを有する。スクライビングホイール57は、
図2(B)に示すように、ホイールの円周稜線に沿って刃先が形成される。
【0020】
カッターホルダ59は、スクライビングホイール57の回転軸57aの向き、即ち、カッター進行方向を変更する機構を有していてもよい。この機構の一例として、スクライビングホイール57が支持されるホイール支持部材58をカッターホルダ59の軸線周りを回転可能に支持する機構が挙げられる。また、スクライビングホイール57の回転軸57aは、カッターホルダ59の軸線と交差しないことが好ましい。その場合、カッター13をスクライビングホイール57側から見た平面視において、カッター13の進行方向の後方側にスクライビングホイール57の回転軸57aが配置されることがより好ましい。この配置により、切線加工を行う際の方向制御性が向上する。
【0021】
なお、カッター13は、スクライビングホイール57がホイールの円周稜線に突起を設けたものであってもよく、スクライビングホイール57に代えてカッターピンを用いてもよい。例えば、三星ダイヤモンド工業製のPenett(登録商標),APIO(登録商標)や、超硬カッター等が使用可能である。但し、安価でカッター切断技術の実績が豊富であり、切線加工条件を簡単に適正化できる点、及びガラス板に生じるチッピングを低減できる点で優れていることから、スクライビングホイールを用いることが好ましい。
【0022】
スクライビングホイール57は、円周稜線の軸方向両側の傾斜面の開き角である刃先角度αが、100〜160°であることが好ましく、110〜150°がより好ましく、120〜145°が更に好ましい。ガラス板15の厚さが薄いものは刃先角度が小さい刃が好ましく、ガラス板15の厚さが厚いものは刃先角度が大きい刃が好ましい。
【0023】
本構成の曲面ガラス加工装置100に用いるガラス板15は、厚さが0.5〜8mmであり、とりわけ0.7〜3mmの厚さのガラス板が頻繁に用いられる。上記のガラス板の場合、刃先角度αを120〜145°にすることが好ましい。更に、0.7〜3mmの板ガラスを成型して曲面形状を付与すると、僅かに板厚偏差が生じる。この板厚偏差が生じても精度の高い切線が形成可能な刃先角度αは、120〜145°である。
【0024】
上記のカッター13は、加工時に加工送り方向を向かせるように、θ軸回りの旋回位置が主軸11の駆動によって制御される。
【0025】
オートツールチェンジャー27は、ツールを吸着保持するツール保持部をそれぞれ先端部に有する一対のアーム61と、一対のアーム61を、軸63を中心とする回転と軸方向移動とを行う交換駆動部65と、図示はしないが、アーム61の一方のツール保持部に吸着保持させることを可能に複数のツールが配置されたツールストッカと、を備える。図示例においては、一方のツール保持部に、ツールストッカに配置された研削砥石17が保持される。他方のツール保持部は、図中点線で示す退避位置の主軸11のコレットチャック53に保持されたカッター13が、交換駆動部65によって着脱可能となる。つまり、オートツールチェンジャー27は、ツールストッカに用意された複数種のツールの中から所望のツールを、選択的にコレットチャック53に取り付け、取り外しでき、コレットチャック53のツール交換を自動で行えるようにしている。
【0026】
ツールストッカには、上記のカッター13,研削砥石17、の他、後述するローラー等が用意されている。研削砥石17は、求められる加工精度に応じて複数種類が備えられていることが好ましい。最初は目の粗い研削砥石で加工した後、徐々に目の細かい研削砥石で加工することで、所望の表面性状に仕上げができる。目の粗い研削砥石の材質としては、アルミナ、cBN(立方晶窒化ホウ素)、ダイヤモンド等を使用でき、研削性、硬度の点では、材質がダイヤモンドであることが好ましい。目の粗い研削砥石の粗さとしては、#80〜#500が好ましく、#200〜#400がより好ましい。一方、目の細かい研削砥石の材質としては、アルミナ、cBN、ダイヤモンド等を使用でき、研削性、硬度の点では、材質がダイヤモンドであることが好ましい。目の細かい研削砥石の粗さとしては、#300〜#3000が好ましく、#400〜#1200がより好ましい。
【0027】
なお、主軸11に研削砥石17を取り付けてガラス板15を面取り加工する際は、加工部にクーラント(水溶性研削液)を供給しながら加工する。
【0028】
図3はフローティング部の断面図である。
フローティング部55は、主軸とツールとの間に介装され、主軸11に挿着されるシャンク51と、円筒状のカラー67と、カラー67の内径部67aに嵌挿されるスリーブ69と、コイルバネ71と、コイルバネ71を覆うホルダ73と、を備える。カラー67は、軸方向一端部がシャンク51に固定され、軸方向他端部が径方向外側に突出する上部連結フランジ67bが形成される。コイルバネ71は、上部連結フランジ67bと下部連結フランジ69bとの間に配置される弾性部材である。ホルダ73は、上部連結フランジ67bの軸方向外側の端面に当接する当接面73aと、下部連結フランジ69bの軸方向外側の端面に当接する当接面73bとを有し、コイルバネ71を覆って配置される。コイルバネ71は、圧縮された状態で上部連結フランジ67bと下部連結フランジ69bとの間に配置され、コレットチャック53を軸方向下方のガラス板支持部21側に向けて付勢する。
【0029】
図4(A),
図4(B)は、フローティング部55の動作を示す説明図である。
上記構成のフローティング部55は、
図4(A)に示す状態から、
図4(B)に示すように、軸方向力Fがコレットチャック53に負荷されると、コイルバネ71が軸方向力Fに応じて弾性変形して圧縮される。コイルバネ71は、この圧縮による弾性復元力を発生する。発生した弾性復元力は、コレットチャック53に伝達され、コレットチャック53に取り付けたカッター13をガラス板15へ押し当てる押圧力として作用する。
【0030】
コイルバネ71は、自由長が40〜50mmのものを使用できる。バネ自体の弾性復元力は、1.9 N〜30 Nであり、好ましくは4.9N〜9.8Nである。また、コイルバネ71のバネ定数は、0.1〜20 N/mmであり、好ましくは0.3〜2.0 N/mm、より好ましくは0.5〜1.0 N/mmである。上記のコイルバネ71によれば、カッター13をガラス板15へ押し当てる押圧力を、1.7N〜11.8Nの範囲内にできる。また、コイルバネ71はカッター13による加工時に、カッター13を0.1mm以上、好ましくは4〜5mm、フローティング部55に押し込まれた状態にすることが好ましい。このコイルバネ71の軸方向変形ストロークは、0.1mm〜5mmの範囲とすることが好ましい。これは、大きく湾曲したガラス板であっても、ツールをガラス板表面に当接させたまま、ガラス板表面に沿ってツールを移動可能にするためである。
【0031】
なお、
図3に示すフローティング部55の構成は一例であって、これに限らない。例えば、本構成においては、コイルバネ71として丸形コイルスプリングを用いているが、ガススプリング、スポンジやウレタン等の柔軟な弾性部材を用いた構成としてもよい。また、ガラス板15の形状によっては、弾性部材に代えて低摩擦シリンダも使用できる。
【0032】
図5はガラス板支持部21の平面図である。ガラス板支持部21は、基台31と一方の側方支持台33Aとがヒンジ部75Aを介して接続され、基台31と他方の側方支持台33Bとがヒンジ部75Bを介して接続される。ヒンジ部75A,75Bは、基台31の下面にヒンジプレート76A,76Bが取り付けられ、側方支持台33A,33Bをピン78A,78Bにより軸支する。これにより、側方支持台33A,33Bは、ピン78A,78Bの軸RA,RBを中心として、下方に向けて回転自在に支持される。
【0033】
上記構成の側方支持台33A,33Bは、ヒンジ部75A,75Bのピン78A,78Bを外すだけで簡単に基台31から分離できる。これにより、側方支持台33A,33Bのメンテナンスが容易になる。
【0034】
図6は
図5のVI-VI線断面図である。基台31の下面に取り付けられたヒンジプレート76Bは、モータやエアシリンダ等のアクチュエータ81の本体81aが設けられる。
図5に示すヒンジプレート76Bの軸RBに沿った両端部は、ヒンジプレート76Bに支柱77A,77Bが立設され、支柱77A,77Bの先端側に側方支持台33Bがピン78Bにより軸支される。
【0035】
側方支持台33Bの下面には、アクチュエータ81の駆動により出没されるロッド81bを、ロッド81bの軸線に対して傾斜可能に支持するロッド支持部79が取り付けられる。アクチュエータ81は、
図6に示す状態からロッド81bを引き戻すことで、側方支持台33Bを、ピン78Bを中心として回転駆動させる。支柱77A,77Bは、ピン78Bの軸(軸RB)位置P
0を、基台31のガラス板支持面31bと一致させている。そのため、側方支持台33Aは、基台31のガラス板支持面31bと同一面上の軸RBを中心に回転する。
【0036】
つまり、側方支持台33Bは、ガラス板15が支持されるガラス板支持面33aが、基台31のガラス板支持面31bを延長した仮想支持面に沿ったガラス支持位置と、この仮想支持面と交差するガラス折り位置と、に移動可能に基台31に接続されている。
【0037】
これにより、基台31と側方支持台33Bのガラス板支持面31b,33aに支持されたガラス板15を、軸RBを支点として折り割りできる。つまり、ヒンジ部75A,75Bとアクチュエータ81は、ガラス板15を折り割りする折り駆動機構83として機能する。
【0038】
なお、側方支持台33Bは、ガラス板15が支持されるガラス板支持面33aが、基台31のガラス板支持面31bを延長した仮想支持面に沿った高さ位置に配置される。しかし、基台31に支持されて側方支持台33Bに向けて延出されたガラス板15と、側方支持台33Bのガラス板支持面33aの間には、僅かな隙間δがあってもよい。その場合、側方支持台33Bに負圧を供給して、ガラス板15の端部が側方支持台33Bのガラス板支持面33aにガラス板15を吸着させると、上記の隙間分の変位によってガラス板15に歪みが生じ、ガラス板15が切線で切断される。この隙間δは0.1mm〜2mmであり、0.2mm〜1mmが好ましい。前記範囲であれば、側方支持台に負圧を供給するとガラス板15が側方支持台33Bに十分に変位し、切線においてガラスを折る十分な力が得られる。
【0039】
上記したヒンジ部75Bの構成及びその動作は、ヒンジ部75Aについても同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0040】
図7は曲面ガラス加工装置100の制御ブロック図である。
上記構成の曲面ガラス加工装置100は、制御部85によって統括制御される。具体的には、制御部85は、主軸移動ステージ25のX軸駆動部とY軸駆動部に接続され、主軸11をXY平面内の任意の位置に移動させる。これにより、主軸11に取り付けられたツールをガラス板支持部21上の任意の位置に配置、走査でき、且つ、退避位置でツール交換を実施できる。
【0041】
制御部85は、主軸11のθ軸駆動部に接続され、主軸11に取り付けられたツールを回転駆動する。ツールがカッター13である場合、
図2に示すカッター13をカッターホルダ59の軸線回りに旋回させることで、スクライビングホイール57の向きを変更する。ツールが研削砥石17である場合、研削砥石17を回転して研削加工が行える。
【0042】
制御部85は、昇降ステージ47のZ軸駆動部に接続され、ガラス板支持部21をZ軸方向に昇降駆動する。これにより、ツールとガラス板15との垂直距離を変更できる。
【0043】
制御部85は、傾動ステージ49のA軸駆動部に接続され、ガラス板支持部21をX軸に対して回転(水平面から傾斜)駆動する。これにより、カッター13のガラス板15への押し当て方向を、ガラス板15の厚さ方向に一致させる等、主軸11の軸方向とガラス板15の接線方向との角度を任意に変更できる。なお、制御部85を図示しないB軸駆動部に接続し、ガラス板支持部21をY軸に対して回転(水平面から傾斜)駆動してもよい。
【0044】
制御部85は、ツール交換部27の交換駆動部65に接続され、主軸11に取り付けるツールを、カッター13から研削砥石17に交換、又は研削砥石17からカッター13に交換、或いは、他のツールに交換する。これにより、加工種類に応じたツール交換が可能となり、ガラス板15への各種機械加工の適用範囲を拡大できる。
【0045】
制御部85は、電磁バルブ43と吸引ポンプ45に接続され、ガラス板支持部21の基台31に設けた主吸着部35、側方支持台33A,33Bに設けた側方吸着部37A,37Bへ選択的に負圧を供給する。これにより、主吸着部35でガラス板15を吸着保持しながら、側方支持台33A,33Bのガラス板15の吸着保持を解除できる等、部分的に吸着のオンオフや、吸着力を変更できる。
【0046】
制御部85は、折り駆動機構83のアクチュエータ81に接続され、側方支持台33A,33Bを回転駆動する。これにより、ガラス板15を移動させることなく、ガラス板15をガラス板支持部21に支持させたまま、詳細を後述する折り割り加工を実施できる。更に、詳細を後述するガラス板15の切断端面の面取り加工を実施できる。
【0047】
また、制御部85は、入力部87、記憶部89に接続される。記憶部89には、ワークとなるガラス板の形状、材料、特性等に応じて、曲面ガラス加工装置100の各部を駆動するための駆動プログラムが予め登録されている。制御部85は、入力部87から入力される指示に基づいて曲面ガラス加工装置100を駆動する。駆動プログラムは、加工するガラス板毎に用意された専用の駆動プログラムであってもよく、加工するガラス板に対する寸法等の各種パラメータを入力して動作させる汎用の駆動プログラム等、適宜なものが使用可能である。また、LAN回線等を介した通信により、曲面ガラス加工装置100の外部から駆動(加工)のための各種情報をダウンロードして動作させる形態や、曲面ガラス加工装置100を通信によりリモート駆動させる形態で加工を行ってもよい。
【0048】
なお、上記構成の曲面ガラス加工装置100は、主軸11とガラス板支持部21とを主軸11の軸方向に相対移動させる軸方向移動機構として、ベース23の昇降ステージ47を用いているが、これに限らない。例えば、主軸11をガラス板支持部21に対して昇降移動させる構成としてもよい。また、主軸11とガラス板支持部21とを主軸11の軸方向に直交する平面内で相対移動させる面内移動機構として、主軸移動ステージ25を用いているが、これに限らない。例えば、ガラス板支持部21を主軸11に対して水平面内で移動させる構成としてもよい。
【0049】
更に、曲面ガラス加工装置100は、主軸11によってカッター13を加工送り方向に向かせているが、主軸11による駆動に限らず、ガラス板支持部21側をθ軸回りに旋回する構成としてもよい。そして、カッター13のガラス板15への押し当て方向をガラス板15の厚さ方向に一致させる傾動機構として、ベース23の傾動ステージ49を用いているが、主軸11を鉛直方向から傾斜させる構成としてもよい。
【0050】
<曲面ガラスの加工工程の概要>
次に、上記構成の曲面ガラス加工装置100による曲面ガラス加工方法の手順について説明する。
曲面ガラスの加工工程は、概略的には、次の手順に沿って行う。
(St.1)
図1に示すように、成型後のガラス板15を、曲面ガラス加工装置100のガラス板支持部21に位置決めして載置する。
(St.2)吸引ポンプ45に接続された電磁バルブ43を駆動して、ガラス板支持部21に載置されたガラス板15を吸着固定する。このとき、基台31の主吸着部35と側方支持台33A(33B)の側方吸着部37A(37B)を共に負圧にする。なお、前述したように、側方吸着部37A(37B)のガラス板支持面33aとガラス板15との間に隙間δを有する場合には、側方吸着部37A(37B)を負圧にせず、主吸着部35のみ負圧にする。
(St.3)主軸11にカッター13を取り付けて、ガラス板支持部21の基台31と側方支持台33A(33B)との間で、ガラス板15に切線を形成する。
(St.4)側方支持台33A(33B)を折り割り機構により駆動して、ガラス板15を切線に沿って折り割りする。又は、上記δを有する場合には、側方吸着部37A,37Bを負圧にして、ガラス板15を折り割りする。
(St.5)側方支持台33A(33B)への負圧供給を停止し、側方支持台33A(33B)上のガラス片の吸着固定を解除する。これにより、ガラス板片を廃材として除去する。
(St.6)折り割りしたガラス板15の切断端面を面取り加工する。
【0051】
<切線加工工程>
最初に、切線加工工程について説明する。
図8(A)〜(C)は切線加工工程の手順を示す説明図である。なお、側方支持台33Aと33Bでは、それぞれ同様の加工がなされる。そのため、以下の説明においては、側方支持台33Bの側の動作を説明し、側方支持台33Aの側の動作については、その説明を省略する。
【0052】
まず、
図8(A)に示すように、ガラス板支持部21(基台31と側方支持台33Bのガラス板支持面31b,33a)上に載置されたガラス板15を、基台31の主吸着部35に負圧を供給することで基台31に吸着させる。次に、
図1に示す主軸移動ステージ25の駆動によって、カッター13を基台31と側方支持台33Bとの間に移動させ、ガラス板15に押し当てられる位置まで昇降ステージ47を駆動する。また、主軸11をθ軸回りに旋回させて、カッター13を、切線(切線となる予定線)に沿う方向である加工送り方向に向ける。
【0053】
カッター13をガラス板15に押し当てた
図8(B)に示す状態では、フローティング部55のコイルバネ71を
図4(A)の状態から
図4(B)の状態に向けて押し縮め、カッター13をガラス板15に所定の押し当て力で付勢する。
【0054】
カッター13によるガラス板15の切線形成位置(距離Lの位置)は、ガラス板15を吸着支持する基台31の外周縁から、外側に向けて1〜5mmの位置とする。好ましくは、1〜3mmの位置とする。これは、比較的均一な切線の形成が行え、次工程の面取がしやすくなるためである。
【0055】
図9はガラス板15の切線加工時におけるカッター13の基台31との位置関係を示す説明図である。基台31に片持ち支持されるガラス板15は、基台31の端部からの距離Lの位置に切線が形成される。距離Lを上記した範囲にすることで、ガラス板15の撓みを小さく抑えつつ、良好な切線を加工できる。
【0056】
この状態で、主軸移動ステージ25を駆動することにより、カッター13を切線の予定線に沿って移動させる。すると、
図8(C)に示すように、ガラス板15に切線91が形成される。切線91の溝深さは、ガラス板15の厚さの5%以上、20%以下とすることが好ましい。これは,ガラス切断に適切な傷深さとなり、ガラス板15の望んでいない位
置での割れを抑制できるためである。
【0057】
また、
図8(C)に示すように、切線91より側方側にローラーを押し当てながら移動させ、切線91を進行させる処理を施してもよい。
図10にローラーツールの側面図を示す。ローラーツール(以下、ローラーとも称する)93は、樹脂ローラー94と、樹脂ローラー94を転がり軸受96を介して回転自在に保持するローラーホルダ98とを有する。ローラー93を用いる場合、
図1に示すオートツールチェンジャー27により、主軸11に取り付けたカッター13をローラー93に交換する。そして、主軸移動ステージ25を駆動して、ローラー93を切線91より側方側に押し当てながら、切線91の形成方向に沿って樹脂ローラー94を転動させる。これにより、ガラス板15の切線91が、その形成方向へ更に延ばされる。また、押し当て条件によっては、切線91でガラス板15が割れ、ガラス板片の廃棄が確実に行われるようになる。
【0058】
ここで、上記のカッター13とガラス板支持部21との相対移動による切線加工の制御について説明する。
図11は
図5に示すX−X線断面矢視図であり、カッター13を軸RBに沿って移動する様子を示す動作説明図である。ガラス板15及び基台31は、軸RBに沿って上側に向けて凸となる凸状曲面を有する。このガラス板15の一端部Pstから他端部Pendに向けて、軸RBに沿ってカッター13を押し当てながら走査し、ガラス板15に切線を形成する。このとき、制御部85は、主軸移動ステージ25と昇降ステージ47に駆動信号を出力して、カッター13による切線加工を行う。
【0059】
図12は、
図11に示すガラス板15の一端部Pstから他端部Pendまでの曲面形状(Z軸方向の高さ)と、ガラス板15を基準とするカッター13の制御高さとの関係を模式的に示す説明図である。本構成においては、カッター13がZ軸方向に固定され、ガラス板15がZ軸方向に昇降駆動される。しかし、ここでは説明を簡単にするため、ガラス板15を基準として、カッター13のガラス板15に対する相対高さを制御するものとして説明する。すなわち、固定されたガラス板15に、カッター13をZ軸方向に駆動することで切線加工することを、本構成による制御と等価な制御として説明する。
【0060】
制御部85は、主軸移動ステージ25にXY平面における加工始点座標(Xst,Yst)と加工終点座標(Xend,Yend)を指示する。また、制御部85は、昇降ステージ47にカッター13のZ軸方向の加工始点座標(zst)を指示する。
【0061】
ここで、Z方向の加工始点座標(zst)は、ガラス板15のZ軸方向の加工始点座標(Zst)より相対的に低い位置に設定される(Zst>zst)。つまり、ガラス板15の高さよりもカッター13の設定高さが相対的にδaだけ低くなるように、昇降ステージ47を駆動する。実際には、カッター13は、ガラス板15に突き当たり、ガラス板15の高さよりも低くはならない。つまり、高さの差δaは、カッター13が接続されたフローティング部55のコイルバネ71を押し縮め、コイルバネ71に弾性変形を生じさせる。その結果、コイルバネ71の弾性変形による弾性復元力が、カッター13を介してガラス板15に伝達される。つまり、カッター13は、指定されたZ軸方向の高さzstには至らず、ガラス板15のZ軸方向の高さZstと略等しい高さ位置で、ガラス板15をガラス板支持部21側へ付勢する。
【0062】
次に、制御部85は、カッター13をガラス板15の表面に押し当てた状態で、加工終点に向けて移動するように、主軸移動ステージ25を駆動する。主軸11がガラス板15の表面に沿って移動すると、カッター13はガラス板15の曲面形状に応じてZ軸方向に従動する。このときのカッター13のZ軸方向への変位は、コイルバネ71の伸縮によって吸収され、ガラス板15に大きな圧力が負荷されることはない。
【0063】
コイルバネ71のZ方向の伸縮は、軸方向変形ストロークの範囲に限られる。そのため、制御部85は、発生するZ軸方向の変位量に応じて、昇降ステージ47に駆動信号を出力し、昇降ステージ47の駆動によりカッター13のZ軸方向の設定高さを変更する。これにより、カッター13のZ軸方向への変位量がコイルバネ71の軸方向変形ストロークを超過することを防止できる。
【0064】
図12に示すように、カッター13の設定高さは、加工始点から加工終点までの間で、ガラス板15の高さ変化に応じて階段状に設定される。図中、ハッチングで示すZ軸方向の差ΔZは、コイルバネ71の伸縮によって吸収され、カッター13のガラス板15への押圧力として作用する。
【0065】
制御部85は、例えば、このZ方向の差ΔZがコイルバネ71の軸方向変形ストロークの60%〜95%、好ましくは75%〜90%に達した際に、昇降ステージ47を駆動して、Z方向の差ΔZが軸変形ストロークの5%〜40%、好ましくは10%〜25%の領域になるようにカッター13の設定高さを変更する。こうすることで、コイルバネ71からの弾性復元力が、切線加工に適切な荷重範囲内に維持できる。
【0066】
本構成の曲面ガラス加工装置100によれば、カッター13と主軸11との間にフローティング部55を設けることで、曲面形状を有するガラス板15に切線加工を施す場合、ガラス板15に対するカッター13の高さ位置の調整を簡略化できる。つまり、切線加工に伴うガラス板15の高さ位置の変化に応じて、カッター13の高さ位置を細かい間隔で逐次変更する必要がなくなり、Z軸方向駆動の実行間隔(主軸11の高さ位置の更新間隔)を長くできる。その結果、高さ位置を逐次変更する場合と比較して、主軸11のZ軸方向駆動の実行頻度を低減できる。
【0067】
上記の昇降ステージ47によるカッター13の設定高さの変更は、コイルバネ71の伸縮量を測定し、測定された伸縮量の測定結果に応じて実施できる。また、ガラス板15の形状情報が記録されたワーク形状テーブルを予め用意し、このワーク形状テーブルを参照して実施することであってもよい。更に、予め、ガラス板15に対応する切線加工プログラムを用意して、この切線加工プログラムに基づいて、主軸移動ステージ25や昇降ステージ47等を駆動してガラス板15に切線加工を行うことであってもよい。その場合、Z軸方向駆動の実行頻度を低減できるため、高さ位置を逐次変更する場合と比較して、切線加工プログラムの作成が簡単になる。
【0068】
平坦なガラス板に切線加工を行う場合、例えばカッターの支軸にエアシリンダを設け、エアシリンダによりガラス板にカッターを押し当てる構成が採用される。この構成においては、平坦なガラス板の加工が前提であるため、エアシリンダによるZ軸方向の変位量は極めて小さい。そのため、平坦なガラス板を加工する装置では、本構成の曲面ガラス加工装置100で取り扱うような3次元の曲面形状を有するガラス板15に対しては、Z軸方向の高さ変化が過大であり、高さ調整に対応することは困難となる。
【0069】
また、エアシリンダは、Z軸方向の変位量が大きい場合に、移動動作の追従が間に合わないことがある。これは、エアシリンダが急速応答性に乏しいことに起因する。よって、Z軸方向への変位が大きい場合には、弾性部材としてバネ材を用いることが好ましい。また、弾性部材としてエアシリンダを組み込むと、装置が大型化、複雑化することからも、バネ等を用いることが好ましい。
【0070】
図13はガラス板15の曲面形状(Z軸方向の高さ)と、ガラス板15を基準とするカッター13の制御高さとの他の関係を模式的に示す説明図である。ガラス板15の曲面形状が、
図12に示すような湾曲形状より複雑である場合や、単位長さ当たりの高さ変化量が大きい場合、カッター13の高さ位置を変更する頻度を高める必要がある。また、曲面形状が複雑であるほど、ガラス板15の形状情報が膨大となり、記憶部89の記憶容量や、制御部85の演算処理能力の要求が高くなる。その結果、コストの増大や処理速度の低下を招くことになる。
【0071】
しかし、本構成の曲面ガラス加工装置100によれば、ガラス板15が複雑な曲面形状を有していても、Z軸方向の駆動制御を煩雑にすることやコスト増大を招くことなく、切線加工を実施できる。すなわち、切線加工中にガラス板15とカッター13とにZ軸方向の相対移動が生じても、フローティング部55のコイルバネ71がこの相対移動を吸収する。そのため、Z軸方向の相対移動量がコイルバネ71の軸方向変形ストロークの範囲内であれば、Z軸方向の高さ調整を行う必要がなく、Z軸方向の駆動が煩雑にならない。
【0072】
図14は傾動ステージ49によるガラス板支持部21の動作説明図である。
傾動ステージ49は、ガラス板支持部21をX軸に対する回転軸(A軸)回りに傾斜させられる。また、傾動ステージ49は、Y軸に対する回転軸(B軸)回りに傾斜させる機能を有していてもよい。この傾動ステージ49によれば、カッター13のガラス板15への押し当て方向を任意に変更できる。
【0073】
本構成においては、カッター13からガラス板15への押し当て方向は、主軸11の軸方向となる。そのため、傾動ステージ49を駆動して、切線加工位置におけるガラス板15の法線Vを主軸11の軸方向に合わせることで、カッター13の押し当て方向がガラス板15の板厚方向に一致する。これにより、ガラス板15に一定の断面形状の切線を安定して加工でき、切断端面の品質を向上できる。
【0074】
なお、カッター13の押し当て方向をガラス板15の板厚方向に完全に一致させなくても、板厚方向に向けて傾けるだけであってもよい。その場合にも、折り割りによるガラス板15の切断端面を、高品質な性状にできる。
【0075】
制御部85は、カッター13をXY面内で移動させる切線加工の最中に、傾動ステージ49を同時に駆動させられる。これにより、カッター13のガラス板15への押し当て方向を、常にガラス板15の板厚方向に一致させ続けられる。また、傾動ステージ49のA軸回りへの傾斜に加え、B軸回りにも同時に傾斜させることにより、ガラス板15の任意の曲面形状に応じて、常にカッター13のガラス板15の押し当て方向を所望の方向に変更できる。
【0076】
上記構成によれば、切線加工により形成される切線の溝形状を、ガラス板15の部位によらずに一定にできる。その結果、後述する折り割り加工後のガラス板15の切断端面にチッピングが生じにくくなり、切断端面品質の低下を抑制できる。
<折り割り工程>
次に、折り割り工程について説明する。
図15(A)〜(C)は折り割り工程の手順を示す工程説明図である。まず、
図15(A)に示すように、主吸着部35によってガラス板支持部21上に吸着されたガラス板15を、アクチュエータ81の駆動による曲げによって
図15(B)に示すように折り割りする。
【0077】
次に、
図15(C)に示すように、アクチュエータ81を駆動して、側方支持台33Bを更に回転させる。そして、側方支持台33Bの回転途中で、電磁バルブ43(
図1参照)による側方吸着部37Bへの負圧の供給を停止する。この負圧の供給停止は、吸引管の途中に設けたリーク弁により大気解放することで行う。その他、電磁バルブ43の駆動により行ってもよい。
【0078】
すると、側方吸着部37Bに吸着された切断後のガラス廃材15Aは、側方支持台33Bから外れてガラス板支持部21から排除される。そして、ガラス板15は、切断端面15aが、基台31の端面31aから外側に突出した状態で基台31に支持される。
【0079】
上記の折り割り工程においては、切線加工工程で切線を形成したガラス板15を、ガラス板支持部21の基台31に支持させたままで、引き続き折り割り工程を実施する。つまり、本工程においては、切線加工後にガラス板15を移動させる必要がなく、主軸11側とは独立して折り割り加工が可能となる。そのため、切線加工完了時から折り割り加工の開始までの所要時間が短くて済み、加工のタクトアップを図れる。
【0080】
<面取り工程>
次に、面取り工程について説明する。
図16は面取り工程の様子を示す工程説明図である。
ここでは、前述の折り割り工程によって切断されたガラス板15の切断端面15aを、回転駆動される研削砥石17により面取り加工する。
【0081】
制御部85は、まず、
図1に示す主軸11のコレットチャック53に取り付けられていたカッター13を、オートツールチェンジャー27により研削砥石17へ交換する。次いで、主軸移動ステージ25と昇降ステージ47の駆動により、研削砥石17をガラス板15の切断端面15aの位置に移動させる。そして、主軸11により研削砥石17を回転駆動しながら、研削砥石17を切断端面15aに沿って送り、ガラス板15の切断端面15aを研削する。
【0082】
研削砥石17の砥石外周面は、軸断面が凹状の面取り形状とされている。面取り加工は、ガラス板15の切断端面15aに砥石外周面の形状を転写することでなされる。
【0083】
上記の面取り加工は、折り割り加工されたガラス板15を、ガラス板支持部21の基台31に支持させたままで、折り割り加工に引き続き実施される。そのため、折り割り加工後にガラス板15をXY面内で移動させる必要がなく、また、ガラス板支持部21に支持させたままで面取り加工が行える。これにより、折り割り加工完了時から面取り加工の開始までの所要時間を短縮でき、タクトアップが図られる。
【0084】
面取り工程の完了後、ガラス板15を取り外し、側方支持台33Bを初期位置に戻す。以上でガラス板15の加工を終了する。
【0085】
上記構成の曲面ガラス加工装置100によれば、ガラス板が複雑な曲面形状を有し、4軸を同時動作させる駆動が必要な場合でも、フローティング部55の弾性部材がZ方向の変位を吸収するため、Z方向に関しての駆動プログラムを簡素化できる。また、ガラス板15が、曲率半径の大きい形状であれば、主軸11をZ軸駆動させずに済み、3軸制御の駆動プログラムで加工可能となる。
【0086】
そして、本曲面ガラス加工装置100によれば、加工装置内でガラス板15の切線加工と、折り割り加工と、ガラス板15の切断端面の面取り加工とを、ガラス板15を基台31に固定したまま、連続して実施できる。このため、切線加工、折り割り加工、面取り加工を、その加工完了の度にガラス板15をガラス板支持部21から着脱させる必要がなく、また、加工ステージを別々に設けて、ガラス板15をステージ間移動させることもない。更に、加工完了の度にガラス板15を位置決めする必要がない。よって、ガラス板15の加工を、迅速に、しかも高精度に行うことが可能となる。
【0087】
そして、ウォータージェット方式やレーザーカット方式のようなランニングコスト、メンテナンスコストが高い加工装置によらず、広く一般に使用されるマシニングセンタにより曲面ガラス加工装置100を構成するため、高い生産効率で、低コストな曲面ガラス加工が行える。
【0088】
更に、カッター切断技術の実績が豊富で安価なスクライビングホイールを用いて切線加工を行うため、豊富なデータを用いて簡単に切線加工条件を適正化でき、ガラス板に生じるチッピングを低減できる。その結果、低コストで高い切断面品質が安定して得られる。
【0089】
上記構成の曲面ガラス加工装置100によれば、例えば、
図17に示す3次元の曲面形状を有するガラス板15に対する加工が可能である。すなわち、側方の端面に直線部95a,95b,95c,95d,95e、95f、及び曲線部97a,97bを有するガラス板15に、切線を形成する切線加工工程と、形成した切線に沿ってガラス板を折り割りする折り割り工程と、切断端面を面取り加工する面取り工程との各工程を、ガラス板15を基台31に固定したまま、連続処理できる。
【0090】
図17に示すガラス板15は、
図18に示す大判のガラス基板99から切り出される。この場合の切線は、図中のL1〜L6の位置に形成される。このように、ガラス基板99自体が湾曲した曲面形状を有し、しかも、平面視で複数の直線部95a,95b,95c,95d,95e,95fと、曲線部97a,97bとの端面が混在する場合であっても、上記構成の曲面ガラス加工装置100によれば、各端面の位置でガラス板15を切り出し、各端面を面取り仕上げすることが、1回のガラス基板99の取り付け、取り外しで実現できる。また、一連の工程をガラス板支持部21に固定しままで、高精度に、しかも短時間で実施できる。
【0091】
なお、直線部95e、95fについては、切線L7,L8に沿って手折り加工で仕上げるものとする他、基台31に、更に他の側方支持台を対応する位置(
図5における上下方向位置)に配置して、上記同様に自動で折り割り加工、面取り加工を施す構成としてもよい。
【0092】
切線加工時のXY面内における送り速度は、実際には設備の加速度にも依存するが、直線部においては、最大送り速度を20000mm/minとするのが好ましく、5000〜10000mm/minがより好ましい。これは、長い直線部では安定した連続加工が可能であり、送り速度を高めても加工精度の低下が小さいため、加工時間を短縮化することを優先させるためである。一方、曲線部においては、最大送り速度は10000mm/minとするのが好ましく、1000〜5000mm/minがより好ましい。これは、短い直線部では加工速度を高める効果が得られにくく、曲線部では加工精度の加工速度依存性が高いため、安定した加工品質を得ることを優先させるためである。直線部、曲線部の速度は、切断時の走行距離に応じて設備の加速度を最大限に発揮できる範囲内で設定できる。例えば、ガラス基板99が500mm×400mmである場合、直線部95b,95e,95fについては5000mm/min程度、直線部95a,95c,95d及び曲線部97a,97bについては1000〜2000mm/min程度にすることが可能となる。
【0093】
以上、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【実施例】
【0094】
上記構成の曲面ガラス加工装置100を用いて、曲面形状を有するガラス板に対し、切線を形成してガラス板を折り割り加工した。また、比較のために、ウォータージェット法によりガラス板を切り出した。
【0095】
<切断条件>
・マシニング動作:3軸(X,Y,Z軸)
・カッター送り速度:5000mm/min
・カッター品種:Penett(登録商標)−SC(三星ダイヤモンド工業製)
ホイール外径 3mm
ホイール厚さ 0.65mm
ホイール内径 0.8mm
刃先角 115°
・フローティング部
コイルバネ:WF−50(株式会社ミスミ製),バネ定数0.5N/m
フローティング荷重:4.9〜9.8N
【0096】
上記条件により切断した結果を表1に示す。カッターによる切断は、ウォータージェットによる切断と比較して、マシニングの粗加工取代を1mmから0.3mmに減少させられた。ウォータージェットによるチッピングは0.6mm程度であったが、カッターによるチッピングは0.2mm程度に抑えられた。切断端面の性状は、カッターによる切線で切断した切断端面の方が、ウォータージェットによる切断端面よりも明らかに滑らかとなる結果が得られた。
【0097】
【表1】
【0098】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 曲面形状を有するガラス板を加工する曲面ガラス加工装置であって、
前記ガラス板を支持するガラス板支持部と、
先端にツールが取り付けられ回転駆動される主軸と、
前記主軸と前記ガラス板支持部とを前記主軸の軸方向に直交する平面内で相対移動させる面内移動機構と、
前記主軸と前記ツールとの間に介装され、前記ツールを前記軸方向に前記ガラス板支持部側へ付勢するフローティング部と、
を備え、
前記フローティング部は、前記ツールに作用する前記軸方向の力に応じて弾性変形し、前記ツールを前記ガラス板支持部へ向けて付勢する弾性復元力を発生する弾性部材を有し、
前記ツールとして少なくともカッターを備え、前記カッターを前記ガラス板に押し当てた状態で、前記面内移動機構により前記ガラス板と前記カッターとを相対移動させ、前記ガラス板に切線を形成する曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、ガラス板が、Z軸方向に変化する曲面形状を有していても、軸方向移動機構を、その曲面形状に沿って逐次Z方向位置を駆動制御する必要がなくなる。これにより、軸方向移動機構によるZ軸方向駆動の実行頻度を低減でき、駆動プログラムを簡素化できる。また、加工装置内でガラス板の切線加工と、折り割り加工と、ガラス板の切断端面の面取り加工とを、ガラス板を固定したまま、そのまま続けて実施できる。このため、切線加工、折り割り加工、面取り加工に度にガラス板をガラス板支持部から着脱させる必要がなく、迅速に、しかも高精度な加工が可能となる。
(2) 前記弾性部材は、コイルバネである(1)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、多種多様なコイルバネから適切なバネ定数を有するものを選定することや加工することで、必要とする弾性復元力を容易に、且つ安価に得られる。
(3) 前記コイルバネのバネ定数は、0.1〜20N/mmである(2)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、コイルバネが適切なバネ定数であることで、切線の形成が安定して行える。
(4) 前記主軸と前記ガラス板支持部とを前記主軸の軸方向に相対移動させる軸方向移動機構を備える(1)〜(3)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、軸方向移動機構を有することにより、ガラス板の曲面形状がコイルバネの変形量を超える高さ変化を有する場合であっても、事項方向移動機構の駆動により、ガラス板の曲面形状に沿ってツールを移動させられる。
(5) 前記カッターに作用させる前記弾性復元力は、4.9N〜9.8Nの範囲である(1)〜(4)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、適切な弾性復元力を作用させることで、切線の断面形状を一定に保持でき、高い切断面品質が得られる。
(6) 前記弾性部材は、前記弾性変形による軸方向変形ストロークが0.1〜5mmの範囲である(1)〜(5)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、ガラス板が、Z軸方向に大きく変化する曲面形状を有していても、軸方向移動機構によるZ軸方向駆動の実行頻度を低減できる。
(7) 前記カッターは、円周稜線に沿って刃先が形成されたスクライビングホイールを有する(1)〜(6)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、カッター切断技術の実績が豊富で安価なスクライビングホイールを用いて切線加工を行うため、切線加工条件を簡単に適正化でき、ガラス板に生じるチッピングを低減できる。その結果、低コストで高い切断面品質が安定して得られる。
(8) 前記カッターの前記ガラス板への押し当て方向を、前記ガラス板の板厚方向に一致させる傾動機構を更に備える(1)〜(7)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、一定の断面形状の切線を安定して加工でき、ガラス板の切断端面の品質が向上する。
(9) 前記傾動機構は、前記ガラス板支持部を前記主軸の軸方向から傾斜させるものである(8)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、ガラス板支持部が主軸に対して傾斜することにより、主軸側の回転移動機構の複雑化が防止される。
(10) 前記ガラス板支持部に支持された前記ガラス板を前記切線に沿って折り割り加工する折り割り加工部を備える(1)〜(9)のいずれか一つに記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、曲面ガラス加工装置が折り割り加工部を備えるため、切線を形成したガラス板を、同じ加工装置により続けて折り割り加工できる。
(11)前記ガラス板支持部は、基台と、該基台の側方に配置された側方支持台とを有し、前記側方支持台は、前記ガラス板が支持されるガラス板支持面が、前記基台のガラス板支持面を延長した仮想支持面に沿ったガラス支持位置と、前記仮想支持面と交差するガラス折り位置と、に移動可能に前記基台に接続され、
前記折り割り加工部は、前記側方支持台に前記ガラス板を吸着させる側方吸着部と、前記側方支持台を前記ガラス支持位置と前記ガラス折り位置とに移動させる折り駆動機構と、を備える(10)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、側方吸着部を基台から移動させることで基台に支持されたガラス板を折り割りできる。つまり、折り割り加工が主軸側とは独立して行える。
(12) 折り割り加工された前記ガラス板の切断端面を面取り加工する面取り加工部を備える(10)又は(11)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、曲面ガラス加工装置が面取り加工部を備えるため、形成された接線に沿って折り割りしたガラス板の切断端面を、同じ加工装置により続けて面取り加工できる。
(13) 前記主軸に取り付けられた前記ツールを交換するツール交換部を有し、
前記ツールとして研削砥石を更に備え、
前記面取り加工部は、前記ツール交換部により前記カッターに代えて前記主軸に取り付けた前記研削砥石により、前記ガラス板の切断端面を面取り加工する(12)に記載の曲面ガラス加工装置。
この曲面ガラス加工装置によれば、主軸に取り付けられたカッターを研削砥石に交換することで、面取り加工を切線加工と同じ主軸を用いて実施できる。そのため、面取り加工部を省スペースで配置でき、装置の小型化に寄与できる。
(14) 曲面形状を有するガラス板を加工する曲面ガラス加工方法であって、
前記ガラス板を支持するガラス板支持部と、
先端にツールが取り付けられ回転駆動される主軸と、
前記主軸と前記ガラス板支持部とを前記主軸の軸方向に直交する平面内で相対移動させる面内移動機構と、
前記主軸と前記ツールとの間に介装され、前記ツールを前記軸方向に前記ガラス板支持部側へ付勢するフローティング部と、
を備える曲面ガラス加工装置を用い、
前記ツールとしてのカッターを前記ガラス板に押し当てて、前記フローティング部内に設けられた弾性部材を弾性変形させ、前記弾性部材からの弾性復元力によって前記カッターを前記ガラス板支持部へ向けて付勢する工程と、
前記面内移動機構により前記ガラス板と前記カッターとを相対移動させ、前記ガラス板に切線を形成する工程と、
を含む曲面ガラス加工方法。
この曲面ガラス加工方法によれば、ガラス板が、Z軸方向に変化する曲面形状を有していても、その曲面形状に沿って逐次Z方向位置を駆動制御する必要がなくなる。これにより、駆動プログラムを簡素化できる。また、加工装置内でガラス板の切線加工と、折り割り加工と、ガラス板の切断端面の面取り加工とを、ガラス板を固定したまま、そのまま続けて実施できる。このため、切線加工、折り割り加工、面取り加工に度にガラス板をガラス板支持部から着脱させる必要がなく、迅速に、しかも高精度な加工が可能となる。
(15) 前記ガラス板支持部は、基台と、該基台の側方に配置された側方支持台とを有し、
前記切線を、前記基台の外周縁より外側に形成する(14)に記載の曲面ガラス加工方法。
この曲面ガラス加工方法によれば、切線を基台の外周縁より外側に形成することで、ガラス板の折り割りによる切断端面が基台の外周縁より外側に配置される。これにより、面取り加工時に研削砥石が他の部材と干渉することを防止できる。
(16) 前記ガラス板支持部に支持された前記ガラス板を、前記ガラス板支持部に支持させたまま、前記切線に沿って折り割り加工する折り割り工程を含む(14)又は(15)に記載の曲面ガラス加工方法。
この曲面ガラス加工方法によれば、加工装置内でガラス板の切線加工と、折り割り加工とを、ガラス板を固定したまま、そのまま続けて実施できる。
(17) 前記主軸に保持された前記カッターを研削砥石に交換し、前記折り割り加工された前記ガラス板を、前記ガラス板支持部に支持させたまま、前記ガラス板の切断端面を前記研削砥石により面取り加工する面取り工程を含む(16)に記載の曲面ガラス加工方法。
この曲面ガラス加工方法によれば、加工装置内でガラス板の切線加工と、折り割り加工と、ガラス板の切断端面の面取り加工とを、ガラス板を固定したまま、そのまま続けて実施できる。