(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記窒素含有(メタ)アクリレート(b1)が、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、及び、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピルの4級アンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項4〜請求項6の何れか一項に記載の多孔質膜の製造方法。
前記ポリマー(B)は、該ポリマー(B)中に含まれる全てのモノマー単位の合計100質量%に対する窒素含有(メタ)アクリレート(b1)の割合が1〜80%である、請求項4〜請求項7の何れか一項に記載の多孔質膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る多孔質膜、及びその製造方法の一実施形態を挙げ、図面を適宜参照しながら詳述する。なお、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、本明細書において説明する「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称であり、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。
【0016】
<多孔質膜>
以下、本発明に係る多孔質膜について詳述する。
本発明に係る多孔質膜は、詳細を後述する本発明の製造方法によって製造することができるものであり、後述する膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を含有する製膜原液を用いて製膜されたものである。即ち、本発明に係る多孔質膜は、少なくとも、膜形成ポリマー(A)、メタクリル酸メチル及び窒素含有(メタ)アクリレート(b1)を含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)、を含むものである。
【0017】
[膜形成ポリマー(A)]
膜形成ポリマー(A)は、多孔質膜の構成成分の一つである。
膜形成ポリマー(A)は、多孔質膜の構造を維持させるためのものであり、多孔質膜に求められる特性に応じて、膜形成ポリマー(A)の組成を選択することができる。
【0018】
例えば、多孔質膜に耐薬品性、耐酸化劣化性、及び耐熱性が要求される場合には、膜形成ポリマー(A)として、フッ素含有ポリマー、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスチレン誘導体、ポリアミド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、又はセルロースアセテート等を用いることが好ましい。これらの中でも、膜が純水に溶解し難く、膜の構造維持が容易である観点から、膜形成ポリマー(A)は疎水性を有する材料からなることがより好ましい。ここで、本明細書において説明する疎水性とは、膜形成ポリマー(A)のバルクの純水に対する接触角が60°以上であることをいう。また、バルクの接触角とは、膜形成ポリマー(A)を後述する溶剤(S)に溶解し、溶解した溶液を流涎した後に溶媒(S)を蒸発させることで平滑なフィルムを形成した後、その表面に水滴を付着させたときの接触角のことを言う。
上記の中でも、膜形成ポリマー(A)としては、多孔質膜に耐薬品性及び耐酸化劣化性を付与できる点から、フッ素含有ポリマーが特に好ましい。
【0019】
フッ素含有ポリマーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)コポリマー、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等が挙げられる。これらの中でも、多孔質膜に耐酸化劣化性及び機械的耐久性を付与できる点から、PVDFが好ましい。
また、膜形成ポリマー(A)としては、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
膜形成ポリマー(A)としては、後述する溶剤(S)に溶解可能であり、純水に溶解しにくいポリマーを用いることが好ましい。
即ち、上述したポリマーの中でも、溶剤(S)への溶解性、多孔質膜の耐薬品性及び耐熱性が良好となる点から、PVDFが好ましい。
【0021】
膜形成ポリマー(A)の質量平均分子量(Mw)は、100,000〜2,000,000であることが好ましい。膜形成ポリマー(A)のMwが100,000以上であれば、多孔質膜の機械的強度が良好になる傾向にあり、また、2,000,000以下であれば、溶剤(S)への溶解性が良好となる傾向にある。一方、膜形成ポリマー(A)のMwの下限値は、300,000以上がより好ましく、上限値は1,500,000以下がより好ましい。
なお、膜形成ポリマー(A)として上記のMwを有するものを使用する場合、異なるMwを有するものを混合して、所定のMwを有する膜形成ポリマー(A)とすることができる。
膜形成ポリマー(A)のMwは、例えば、ポリスチレンを標準試料として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法によって求められる。
【0022】
[ポリマー(B)]
ポリマー(B)は、多孔質膜の構成成分の一つである。
ポリマー(B)は、メタクリル酸メチル及び窒素含有(メタ)アクリレート(b1)を含むモノマー組成物を重合して得られるポリマーを含有する共重合体である。
ポリマー(B)は、メタクリル酸メチル単位および窒素含有(メタ)アクリレート(b1)単位以外の単位(その他のモノマー(b2)単位)を含んでもよい。また、ポリマー(B)は、メタクリル酸メチル単位および窒素含有(メタ)アクリレート(b1)単位を含有する共重合体に加えて、さらに、ポリメタクリル酸メチル及び/又は窒素含有(メタ)アクリレートのホモポリマーを含んでもよい。
【0023】
(メタクリル酸メチル)
メタクリル酸メチルは、ポリマー(B)の構成成分の一つである。ポリマー(B)にメタクリル酸メチル単位を含有させることにより、膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)との相溶性が高まり、膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)を含む多孔質膜を効率的に得ることが可能になる。
【0024】
ポリマー(B)を構成する全ての構成単位(単量体単位)の合計を100質量%としたとき、メタクリル酸メチル単位の含有量は20〜99質量%が好ましい。メタクリル酸メチル単位の含有量が20質量%以上であれば、膜形成ポリマー(A)との相溶性が高められる効果が得られ、ポリマー(B)が実質的に非水溶性であるため、使用環境下における溶出の懸念が少なくなる傾向にある。一方、メタクリル酸メチル単位の含有量が99質量%以下であれば、多孔質膜が得られやすくなる傾向にある。また、メタクリル酸メチル単位の含有量の下限値は25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、37質量%以上が特に好ましい。また、メタクリル酸メチル単位の含有量の上限値は、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
(窒素含有(メタ)アクリレート(b1))
窒素含有(メタ)アクリレート(b1)は、ポリマー(B)の構成成分の一つである。ポリマー(B)に窒素含有(メタ)アクリレート(b1)単位を含有させることにより、高い親水性を有する多孔質膜を得ることができ、また、後述のビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を含有する製膜原液へのポリマー(B)の相溶性を高くすることができる。
【0026】
窒素含有(メタ)アクリレート(b1)の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチルの4級アンモニウム塩、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、又は(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピルの4級アンモニウム塩等が挙げられる。
窒素含有(メタ)アクリレート(b1)は、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ポリマー(B)を構成する全ての構成単位(単量体単位)の合計を100質量%としたときに、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)単位の含有量は1〜80質量%が好ましい。窒素含有(メタ)アクリレート(b1)の含有量が1質量%以上であれば、多孔質膜の表面を親水化できる傾向にあり、80質量%以下であれば、ポリマー(B)が水に溶けにくくなるため、得られる多孔質膜の親水性が維持されやすく、さらに、後述のビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)との相溶性も高くなる傾向にある。また、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)の含有量の下限値は20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。一方、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)単位の含有量の上限値は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
(その他のモノマー(b2))
その他のモノマー(b2)は、ポリマー(B)に含有させることができる構成成分の一つである。
その他のモノマー(b2)としては、メタクリル酸メチルおよび窒素含有(メタ)アクリレート(b1)と共重合可能であれば特に制限されないが、ポリマー(B)の溶剤(S)への溶解性の点から、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、プラクセルFM(商品名(登録商標)、株式会社ダイセル製;カプロラクトン付加モノマー)、メタクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ノルマルブトキシエチル、(メタ)アクリル酸イソブトキシエチル、(メタ)アクリル酸t−ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸ノニルフェノキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、ブレンマーPME−100(商品名(登録商標)、日油株式会社製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が2であるもの))、ブレンマーPME−200(商品名(登録商標)、日油株式会社製、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコールの連鎖が4であるもの))、3−(メタクリルアミド)プロピルトリメチルアンモニウムクロライド、3−(メタクリルアミド)プロピル トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
その他のモノマー(b2)としては、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ポリマー(B)を構成する全ての構成単位(単量体単位)の合計を100質量%としたとき、その他のモノマー(b2)単位の含有量は60質量%以下が好ましい。その他のモノマー(b2)の含有量が60質量%以下であれば、得られる多孔質膜の表面を親水化できる傾向にあり、また、後述のビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)との相溶性も高まる傾向にある。また、その他のモノマー(b2)単位の含有量の下限値は、得られる多孔質膜の柔軟性の点から、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。一方、その他のモノマー(b2)単位の含有量の上限値は、50質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0030】
(ポリマー(B)の物性)
ポリマー(B)の数平均分子量(Mn)は、1,000〜5,000,000が好ましい。ポリマー(B)のMnが上記範囲内であれば、ポリマー(B)の熱安定性、及び、得られる多孔質膜の機械強度や外表面の親水性が高まる傾向にある。ポリマー(B)のMnの下限値は2,000以上がより好ましく、5,000以上がさらに好ましい。一方、ポリマー(B)のMnの上限値は、300,000以下がより好ましい。
【0031】
ポリマー(B)は、1種を単独で用いてもよいし、異なる組成比、分子量分布または分子量のポリマーを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ポリマー(B)の一次構造は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体の何れでも構わない。ランダム共重合体を合成する場合は、公知のフリーラジカル重合を用いる方法が簡便である。ブロック共重合体及びグラフト共重合体を合成する場合は、公知の制御ラジカル重合を用いる方法が簡便である。
【0033】
(ポリマー(B)の製造方法)
ポリマー(B)の製造方法としては、溶液重合法が挙げられる。
ポリマー(B)を溶液重合法で製造する際に使用される溶剤(S)としては、得られるポリマー(B)が可溶であれば特に制限されないが、重合後の重合液(D)をそのまま製膜原液に用いる場合には、膜形成ポリマー(A)を溶解できるものが好ましい。このような溶剤(S)としては、例えば、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)、テトラメチルウレア(TMU)、トリエチルフォスフェート(TEP)、及びリン酸トリメチル(TMP)等が挙げられる。これらの中でも、取り扱いやすく、しかも、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の溶解性に優れる点から、アセトン、DMF、DMAc、DMSO、又はNMPが好ましい。
溶剤(S)は、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリマー(B)を製造する際には、連鎖移動剤やラジカル重合開始剤を使用することができる。
連鎖移動剤はポリマー(B)の分子量を調節するものであり、この連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン、水素、αメチルスチレンダイマー、及びテルペノイド等が挙げられる。
連鎖移動剤は、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物などが挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス−3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、及びジ−t−ブチルパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
ラジカル重合開始剤としては、入手しやすく、しかも重合条件に好適な半減期温度を有する点から、ベンゾイルパーオキサイド、AIBN、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、又は2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が好ましい。
ラジカル重合開始剤は、上記のうちの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ラジカル重合開始剤の添加量は、メタクリル酸メチル、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)及びその他のモノマー(b2)の合計100質量部に対して、0.0001〜10質量部が好ましい。
【0037】
ポリマー(B)を製造する際の重合温度は、例えば、使用する溶剤(S)の沸点やラジカル重合開始剤の使用温度範囲を考慮すると、−100〜250℃が好ましい。また、重合温度の下限値は0℃以上がより好ましく、上限値は200℃以下がより好ましい。
【0038】
ポリマー(B)を溶液重合法により製造した場合、重合後の重合液をそのまま製膜原液に用いることができる。
【0039】
[ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)]
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)は、製膜原液の構成成分の一つである。
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)は、膜形成ポリマー(A)と溶剤(S)との相分離を制御するための開孔助剤として添加される。本明細書において説明する、ビニルピロリドン単位を含むポリマーとは、その分子内に、ビニルピロリドンのモノマーユニットを有するポリマーのことを指す。
【0040】
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)としては、例えば、ポリビニルピロリドン又はビニルピロリドン単位、及びその他のモノマー(b2)単位を含有するポリマーが挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)としては、本発明の多孔質膜の物性等の点で、RI検出器を使用したGPC測定で得られたクロマトグラムのピーク面積の総面積値に対する質量平均分子量1×10
6以上のピーク面積値が10%以下の分子量分布を有するポリマーであることが好ましい。
【0042】
上記の分子量分布を有するビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を用いることにより、相分離制御剤として良好な洗浄性(除去性)を発揮し、本発明の多孔質膜の構造中に微細な割れが発生しやすくなるため、多孔質膜の濾過性能を良好にすることができる傾向がある。
【0043】
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)中における、質量平均分子量が1×10
6以上である高分子ポリマーの含有量の下限値としては、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を後述の多孔質膜前駆体中から取り除きやすい点、及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)が多孔質膜に残存することで、多孔質膜が水で膨潤して孔が閉塞しにくく、多孔質膜が良好な透水性を有する点から、5質量%が好ましく、8質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。また、上記の高分子ポリマーの含有量の上限値としては、25質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。
ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)中における、質量平均分子量が1×10
6以上の高分子ポリマーの含有量を5質量%以上とすることにより、特に、本発明の多孔質膜を下排水用濾過膜として使用する場合に、濾過特性を良好にすることができる傾向がある。
【0044】
[多孔質膜の物性・構造]
本発明の多孔質膜は、上述した膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)を含む。本発明の方法で製造される多孔質膜は、上記のポリマー(B)を含むことで、多孔質膜の外表面が親水化されており、乾燥状態と湿潤状態で得られる造水量に大きな差が無いことが特徴である。
【0045】
本発明の多孔質膜の親水性は、下記式(1)より算出された親水化度(HP)の値を指標とする。
(W
d20/W
w100)×100 ・・・・・(1)
但し、上記式(1)において、
W
d20:多孔質膜が乾燥状態であって、測定圧力20kPaにおけるWF(純水透過流束)
W
w100:多孔質膜が水で湿潤状態であって、測定圧力100kPaにおけるWF(同上)
【0046】
本発明の多孔質膜は、高い親水性を有することから上記式(1)から算出されるHPの値は50〜130である。
また、本発明の多孔質膜の純水透過流束(WF:Water Flux)は、ビニルピロリドン単位を含むポリマーを用いて製膜することから、10(m
3/m
2/MPa/h)以上200(m
3/m
2/MPa/h)未満と高い純水透過流束を有する。純水透過流束が10(m
3/m
2/MPa/h)以上であれば、一定時間内に多量の水を処理できることから水処理膜用途として好ましく、200(m
3/m
2/MPa/h)未満とすることで膜内における欠陥を少なくすることができるため、上水や下排水などの幅広い分野で利用できる。
【0047】
本発明の多孔質膜中に含まれる膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)の合計に対するポリマー(B)の含有量は、0.1〜40質量%であることが好ましい。多孔質膜中に含まれる膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)の合計に対するポリマー(B)の含有量が0.1質量%以上であれば、多孔質膜表面を親水化できる傾向にあり、40質量%以下であれば、ポリマー(B)が膜内を閉塞することが少なく水が通水できることから、純水透過流束が10(m
3/m
2/MPa/h)以上の多孔質膜を得られやすい傾向にある。多孔質膜中に含まれる膜形成ポリマー(A)とポリマー(B)の合計に対するポリマー(B)の含有量の下限値は、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。一方、その上限値は30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
本発明の多孔質膜の表面における細孔の平均孔径は、バクテリアやウイルスの除去、たんぱく質もしくは酵素の精製、又は上水用途で利用可能な観点から、1〜1200nmが好ましい。多孔質膜の表面における細孔の平均孔径が1nm以上であれば、水を処理する際に高い透水圧力を必要としなくなる傾向にあり、1200nm以下であればバクテリアやウイルス、上水中の懸濁物質等を容易に除去できる傾向にある。
上記観点から、多孔質膜表面における細孔の平均孔径は、500nm以下がより好ましく、400nm以下が更に好ましく、350nm以下が特に好ましい。
本明細書において説明する、多孔質膜の表面における細孔の平均孔径とは、走査型電子顕微鏡を用いて多孔質膜の外表面部分を観察し、30個の細孔を無作為に選び、各細孔の最長径を測定し、これら30個の細孔の最長径を平均して求めた値である。
【0049】
多孔質膜の形態としては、中空状多孔質膜(中空糸膜)が挙げられる。また、膜中にはマクロボイド、又は球晶構造を有することができる。
【0050】
多孔質膜が中空糸膜の場合、この中空糸膜の外径は20〜2,000μmが好ましい。多孔質膜の外径が20μm以上であれば、製膜時に糸切れが発生しにくい傾向にあり、2,000μm以下であれば、中空形状を保ちやすく、特に、外圧が付与された場合でも扁平化しにくい傾向にある。中空糸膜の外径の下限値は30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましい。一方、中空糸膜の外径の上限値は1,800μm以下がより好ましく、1,500μm以下がさらに好ましい。
【0051】
多孔質膜が中空糸膜の場合、中空糸膜の膜厚とは、多孔質膜の外径から中空部の直径を差し引き、その値を2で割った膜厚のことを言う。また、膜は網目構造を有していることが好ましいが、一部独立気泡構造でも構わない。
多孔質膜が中空糸膜の場合、この中空糸膜の膜厚は5〜100μmが好ましい。中空糸膜の膜厚が5μm以上であれば、製膜時に糸切れが発生しにくい傾向にあり、100μm以下であれば、高い透水性を有する傾向にある。また、中空糸膜の膜厚の下限値は10μm以上が好ましく、15μm以上がさらに好ましい。一方、中空糸膜の膜厚の上限値は95μm以下がより好ましく、90μm以下がさらに好ましい。
【0052】
<多孔質膜の製造方法>
以下、本発明に係る多孔質膜の製造方法の一例について詳述する。
本発明に係る多孔質膜の製造方法は、少なくとも、膜形成ポリマー(A)、メタクリル酸メチル及び窒素含有(メタ)アクリレート(b1)を含むモノマー組成物を重合して得られるポリマー(B)、及び、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)、を含む製膜原液を凝固させて多孔質膜前駆体を得る凝固工程を備える方法である。
【0053】
本発明の多孔質膜の製造方法においては、まず、上記成分とされた膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)、及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を、溶剤(S)に溶解させて製膜原液(多孔質膜調製用溶液)を調製する(調製工程)。
次いで、調製工程で得られた製膜原液を凝固液に浸漬して凝固させて多孔質膜前駆体を得る(凝固工程)。
次いで、多孔質膜前駆体中に残存する溶剤(S)やビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の一部、又は大部分を洗浄して取り除き(洗浄工程)、洗浄後の多孔質膜前駆体を乾燥して(乾燥工程)、多孔質膜を得る。ここで、得られた多孔質膜中の残存ビニルピロリドン量は、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜3質量%がより好ましい。残存ビニルピロリドン量が0.1質量%を下回ることは、工業生産上、困難であるため現実的ではなく、また、5質量%を上回ると、膜同士が接着して欠陥等が出来やすくなることから好ましくない。
【0054】
(製膜原液)
上述したように、製膜原液は、膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を、溶剤(S)に溶解させることで得られる。また、溶剤(S)を用い、溶液重合法によってポリマー(B)を製造した場合には、重合後の重合液(D)に、直接、膜形成ポリマー(A)及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を添加して溶解させてもよい。このとき、さらに溶剤(S)を添加して、重合液(D)を所望の濃度になるように希釈してもよい。
【0055】
なお、製膜原液は、膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の一部が溶剤(S)中に溶解せずに分散している場合でも、均一性を維持できているのであれば、その分散した状態のものでもよい。
また、製膜原液を調製する際、溶剤(S)の沸点以下であれば、溶剤(S)を加熱しながら、膜形成ポリマー(A)、ポリマー(B)及びビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を溶解させてもよい。この際、さらに、溶剤(S)を必要に応じて冷却してもよい。
【0056】
製膜原液100質量%中の膜形成ポリマー(A)の含有量は、5〜40質量%が好ましい。膜形成ポリマー(A)の含有量が5質量%以上であれば、容易に多孔質膜とすることができる傾向にあり、40質量%以下であれば、溶剤(S)中に容易に溶解することができる傾向にある。また、膜形成ポリマー(A)の含有量の下限値は8質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。一方、膜形成ポリマー(A)の含有量の上限値は30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0057】
製膜原液100質量%中のポリマー(B)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。ポリマー(B)の含有量が0.1質量%以上であれば、容易に多孔質膜とすることができる傾向にあり、10質量%以下であれば、膜形成ポリマー(A)の溶剤(S)中への溶解性が高まる傾向にある。また、ポリマー(B)含有量の下限値は0.2質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上がさらに好ましい。一方、ポリマー(B)の含有量の上限値は8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
【0058】
製膜原液100質量%中のビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の含有量は、5〜30質量%が好ましい。ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の含有量が5質量%以上であれば、容易に多孔質膜とすることができる傾向にあり、30質量%以下であれば、膜形成ポリマー(A)及びポリマー(B)の溶剤(S)中への溶解性が高まる傾向にある。また、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)含有量の下限値は6質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。一方、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の含有量の上限値は25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0059】
製膜原液100質量%に対する溶剤(S)の含有量は、50〜90質量%が好ましい。溶剤(S)の含有量が50質量%以上であれば、得られる多孔質膜が高い透過流束を得られるようになる傾向にあり、90質量%以下であれば、容易に多孔質膜とすることが出来る。また、溶媒(S)の含有量の下限値は55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。一方、ビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の含有量の上限値は85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
【0060】
(凝固液)
多孔質膜前駆体を得る際に使用される凝固液としては、膜の孔径制御の点から、溶剤(S)の0〜50質量%水溶液が好ましい。
凝固液に含まれる溶剤(S)と、製膜原液に含まれる溶剤(S)とは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよいが、同じ種類であることが好ましい。
【0061】
凝固液の温度は、10〜90℃が好ましい。凝固液の温度が10℃以上であれば、多孔質膜の透水性能が向上する傾向にあり、90℃以下であれば、得られる多孔質膜の機械強度を良好に維持できる傾向にある。
【0062】
(洗浄工程)
凝固工程によって得られた多孔質膜前駆体は、40〜100℃の熱水及び/又は次亜塩素酸Na等の水溶液中に浸漬することにより、多孔質膜前駆体中に残存する溶剤(S)やビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)の一部又は全部を洗浄して取り除くことが好ましい。
【0063】
(乾燥工程)
洗浄工程後の多孔質膜前駆体は、60〜120℃で、1分間〜24時間乾燥させることが好ましい。
乾燥温度が60℃以上であれば、乾燥処理時間を短縮でき、生産コストを抑えることができることから、工業生産上、好ましい。一方、乾燥温度が120℃以下であれば、乾燥工程で多孔質膜前駆体が収縮しすぎるのを抑制でき、多孔質膜の外表面に微小な亀裂等が発生し難くなる傾向にある。
【0064】
<作用効果>
以上説明したように、本発明の多孔質膜によれば、優れた親水性と透水性を有し、多孔質膜が一度乾燥した場合でも低圧力から通水できるので、非常に使い勝手が良いものとなる。
また、本発明に係る多孔質膜の製造方法によれば、透水性に優れたポリビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を用いることで、親水性のポリマーの添加量を少量にした場合でも高い親水性と透水性を有し、多孔質膜が一度乾燥した場合でも低圧力から通水できる多孔質膜を製造することが可能になる。また、製膜原液にポリマー(B)を添加することのみで、製膜の過程で親水化されるため、溶剤洗浄や架橋処理等の特別な処理を行うことなく親水化が可能となり、製造効率の向上、及び、得られる多孔質膜の特性の向上という両方の効果が得られる。
【0065】
<用途>
本発明に係る多孔質膜は、例えば、飲料水製造、浄水処理、排水処理等の水処理分野に用いられる多孔質膜として好適である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
本実施例においては、ポリマーの組成及び構造は、以下に説明する方法によって解析した。また、ポリマーのMw(質量平均分子量)、Mn(数平均分子量)、及びMw/Mnは、以下の方法によって測定した。
【0067】
<評価方法(測定方法)>
(1)ポリマー(B)、ポリマー(B’)の組成及び構造の解析
ポリマー(B)、ポリマー(B’)の組成及び構造を、1H−NMR(日本電子株式会社製、「JNM−EX270」(製品名))を用いて解析した。なお、重水素化溶媒としては、TMS(テトラメチルシラン)が添加されたN,N−ジメチルアセトアミド−d9を用いた。
また、ポリマー(B)、ポリマー(B’)中の、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)、及び、その他のモノマー(b2)の組成は、独立行政法人産業技術総合研究所の提供する有機化合物のスペクトルデータベース(SDBS)を参考に算出した。
【0068】
(2)膜形成ポリマー(A)のMwの測定
膜形成ポリマー(A)のMwは、GPC(東ソー株式会社製、「HLC−8020」(製品名))を使用して、以下の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN α(7.8mm×40mm:東ソー株式会社製、登録商標)と3本のTSK−GEL α―M(7.8×300mm:東ソー株式会社製、登録商標)とを直列に接続
・溶離液:臭化リチウム(LiBr)のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(LiBrの濃度:20mM)
・測定温度:40℃
・流速:0.1mL/分
なお、膜形成ポリマー(A)のMwは、東ソー株式会社製のポリスチレンスタンダード(Mp(ピークトップ分子量)=76,969,900、2,110,000、1,260,000、775,000、355,000、186,000、19,500、及び1,050の8種類)、及びNSスチレンモノマー株式会社製のスチレンモノマー(M(分子量)=104)を用いて作成した検量線を使用して求めた。
【0069】
(3)ポリマー(B)、ポリマー(B’)のMn及びMw/Mnの測定
ポリマー(B)、ポリマー(B’)のMn、及びMw/Mnは、GPC(東ソー株式会社製、「HLC−8220」(製品名))を使用して以下の条件で求めた。
・カラム:TSK GUARD COLUMN SUPER H−L(4.6×35mm:東ソー株式会社製、登録商標)と、2本のTSK−GEL SUPER HZM−H(4.6×150mm:東ソー株式会社製、登録商標)とを直列に接続
・溶離液:塩化リチウム(LiCl)のDMF溶液(LiClの濃度:0.01M)
・測定温度:40℃
・流速:0.6mL/分
なお、ポリマー(B)、ポリマー(B’)のMn及びMw/Mnは、東ソー株式会社製のポリスチレンスタンダード(Mp(ピークトップ分子量)=6,200,000、2,800,000、1,110,000、707,000、354,000、189,000、98,900、37,200、9,830、5,870、870、及び500の12種)を用いて作製した検量線を使用して求めた。
【0070】
(4)多孔質膜の外径
中空状多孔質膜の外径は、以下の方法で測定した。
まず、測定するサンプルを約10cmの長さに切断し、数本を束ねて、全体をポリウレタン樹脂で覆った。この際、ポリウレタン樹脂は支持体の中空部にも入り込むようにした。そして、ポリウレタン樹脂の硬化後、カミソリ刃を用いて、厚さ(膜の長手方向)約0.5mmの薄片をサンプリングした。
次に、サンプリングした中空状多孔質膜の断面を、投影機(ニコン社製、PROFIE PROJECTOR V−12(登録商標))を用い、対物レンズ100倍にて観察した。そして、観察している中空状多孔質膜断面のX方向、Y方向の外表面の位置にマーク(ライン)をあわせて外径を読み取った。これを3回測定して、中空状多孔質膜の外径の平均値を求めた。
【0071】
(5)多孔質膜層の膜厚
本実施例における多孔質膜層の膜厚は、支持体の表面から中空状多孔質膜の表面までの厚さであり、以下の方法で測定した。
測定するサンプルは、上記したような、外径を測定したサンプルと同様の方法でサンプリングした。次に、サンプリングした中空状多孔質膜の断面を、投影機(ニコン社製、PROFILE PROJECTOR V−12(登録商標))を用い、対物レンズ100倍にて観察した。そして、観察している中空状多孔質膜断面の3時方向位置の膜厚の外表面と内表面の位置にマーク(ライン)をあわせて膜厚を読み取った。同様に、9時方向、12時方向、6時方向の順で膜厚を読み取った。これを3回測定して、多孔質膜層の膜厚の平均値を求めた。
【0072】
(6)多孔質膜層の孔径
多孔質膜層の孔径は、以下の方法で測定した。
まず、測定したい断面構造を、走査型電子顕微鏡を用いて倍率5,000倍で撮影し、その後、得られた写真の画像解析処理により、その構造の平均孔径を求めた。この際、画像解析処理ソフトとしては、Media Cybernetics社のIMAGE−PRO PLUS version5.0を使用した。
【0073】
(7)中空状多孔質膜の透水性能:W
w100の測定
まず、測定する中空状多孔質膜のサンプルを長さ4cmに切断し、片端面をポリウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。
次に、上記のサンプルをエタノール中で5分間以上減圧した後、純水中に5分以上浸して置換した。そして、容器に純水(25℃)を入れ、サンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に100kPaの空気圧を付与して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。これを3回測定して、その平均値を求めた。そして、この数値をサンプルの表面積で割り、湿潤状態の透水性能W
w100としとした。
【0074】
(8)中空状多孔質膜の透水性能:W
d20及びW
d100の測定
まず、測定する中空状多孔質膜サンプルを4cmに切断し、片端面をポリウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。
次に、容器に純水(25℃)を入れ、サンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に100kPaの空気圧をかけて1分間保持した。
次に、サンプルを80℃の熱風乾燥器に24時間投入し、サンプルを乾燥させた。そして、容器に純水(25℃)を入れ、即座に、乾燥したサンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に20kPaの空気圧を付与して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。その後、空気圧を100kPaに昇圧して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。これを3回測定して、平均値を求めた。そして、この数値をサンプルの表面積で割り、乾燥状態の透水性能W
d20及びW
d100とした。
【0075】
(9)次亜塩素酸Na処理後のW
w100の測定
まず、測定する中空状多孔質膜サンプルを4cmに切断し、エタノール中で5分間以上減圧した後、純水中に5分以上浸して置換した。
次いで、25℃下で、有効塩素濃度10000ppmの次亜塩素酸Na水溶液に24時間浸漬した。その後、浸漬したサンプルを純水中に24時間以上浸漬することで洗浄し、60℃の熱風乾燥機で3時間乾燥させた。そして、乾燥したサンプルを、片端面をポリウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。
【0076】
次に、さらに、サンプルをエタノール中で5分間以上減圧した後、純水中に5分以上浸して置換した。その後、容器に純水(25℃)を入れ、サンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に100kPaの空気圧を付与して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。これを3回測定して、平均値を求めた。そして、この数値をサンプルの表面積で割り、次亜塩素酸Na処理後の湿潤状態の透水性能W
w100とした。
【0077】
(10)次亜塩素酸Na処理後の中空状多孔質膜の透水性能:W
d20及びW
d100の測定
まず、上記(8)の場合と同様に、次亜塩素酸Na処理したサンプルの片端面をポリウレタン樹脂で塞ぐことで中空部を封止した。
次に、容器に純水(25℃)を入れ、サンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に100kPaの空気圧をかけて1分間測保持した。
次に、サンプルを80℃の熱風乾燥器に24時間投入し、サンプルを乾燥させた。容器に純水(25℃)を入れ、乾燥したサンプルを即座にサンプルの他端面にチューブを繋ぎ、容器に20kPaの空気圧を付与して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。その後、空気圧を100kPaに昇圧して、サンプルから出る純水の量を1分間測定した。これを3回測定して、平均値を求めた。そして、この数値をサンプルの表面積で割り、乾燥状態の透水性能W
d20及びW
d100とした。
【0078】
<ポリマーの合成>
(ポリマー(B−1)の合成)
まず、冷却管付フラスコに、メタクリル酸メチル30部、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)としてメタクリル酸2−ジメチルアミノエチル(三菱レイヨン株式会社製、「アクリエステルDM」(商品名:登録商標))40部、その他のモノマー(b2)としてメタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン株式会社製、「アクリエステルHO」(商品名:登録商標))30部、及び、溶剤(S)としてN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)200部を含有するモノマー組成物を投入し、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。
【0079】
次いで、上記のモノマー組成物を加温して内温を70℃に保った状態で、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2部(和光純薬工業株式会社製、和光特級)を加えた後、4時間保持した。引き続き、モノマー組成物を加温して内温を80℃に昇温させ、先に加えたのと同量(0.2部)の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを追添加した後、60分間保持して重合を完結させた。その後、室温まで冷却し、ポリマー(B−1)を33%含有する重合液(D−1)を得た。
【0080】
重合液(D−1)に含まれるポリマー(B−1)のMn及びMw/Mnを測定したところ、Mnは115,000であり、Mw/Mnは4.7であった。その結果を下記表1に示す。
また、重合液(D−1)からポリマー(B−1)を取り出し、乾燥させた後にポリマー(B−1)の組成及び構造を解析したところ、メタクリル酸メチルの割合が30%であり、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチルの割合が40%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの割合が30%であった。即ち、ポリマー(B−1)は、メタクリル酸メチル単位30%、メタクリル酸2−ジメチルアミノエチル40%、及びアクリル酸2−ヒドロキシエチル単位30%からなる共重合体であることが確認できた。その結果を下記表1に示す。
【0081】
(ポリマー(B−2)〜(B−4)の合成)
モノマー組成物の組成を下記表1に示すように変更した点以外は、上述したポリマー(B−1)と同様の方法でポリマー(B−2)を含有する重合液(D−2)、ポリマー(B−3)含有する重合液(D−3)、及び、ポリマー(B−4)を含有する重合液(D−4)をそれぞれ得た。
そして、ポリマー(B−2)〜(B−4)のMnおよびMw/Mnを測定し、組成及び構造を解析した。その結果を下記表1に示す。
【0082】
(ポリマー(B’−1)の合成)
冷却管付フラスコに、メタクリル酸メチル50部、その他のモノマー(b2)としてメタクリル酸2−ヒドロキシエチル50部、及び、溶剤(S)としてN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)200部を含有するモノマー組成物を投入し、窒素バブリングにより内部を窒素置換した。
次いで、モノマー組成物を加温して内温を70℃に保った状態で、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.2部(和光純薬工業株式会社製、和光特級)を加えた後、4時間保持した。引き続き、モノマー組成物を加温して内温を80℃に昇温させ、先に加えたのと同量(0.2部)の2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを追添加した後、60分間保持し重合を完結させた。その後、室温まで冷却し、ポリマー(B’−1)を33%含有する重合液(D−5)を得た。
【0083】
重合液(D−5)に含まれるポリマー(B’−1)のMn及びMw/Mnを測定したところ、Mnは130,000であり、Mw/Mnは3.3であった。この結果を下記表1に示す。
また、重合液(D−5)からポリマー(B’−1)を取り出し、乾燥させた後にポリマー(B’−1)の組成及び構造を解析したところ、メタクリル酸メチルの割合が50%であり、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルの割合が50%であった。即ち、ポリマー(B’−1)は、メタクリル酸メチル単位50%、及びメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位50%からなる共重合体であることが確認できた。その結果を下記表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
ここで、上記の表1中に記載した各略号は、以下の化合物を示す。
・MMA:メタクリル酸メチル(三菱レイヨン株式会社製、「アクリエステルM」(商品名:登録商標))
・HEAM:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(三菱レイヨン株式会社製、「アクリエステルHO」(商品名:登録商標))
・DMAEMA:メタクリル酸ジメチルアミノエチル(三菱レイヨン株式会社製、「アクリエステルDM」(商品名:登録商標))
・AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業株式会社製、和光特
級)
・DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)
【0086】
<実施例1>
(製膜原液の調製)
膜形成ポリマー(A)としてポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、「Kynar761A」(商品名:登録商標)、Mw=550,000)1.2部、ポリマー(B)として上記のポリマー(B−1)を含む重合液(D−1)0.18部、ポリマー(C)としてポリビニルピロリドン樹脂を0.72部、及び、溶剤(S)としてN,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、和光特級)4.98部をステンレス容器中に配合し、60℃で5時間攪拌して製膜原液を調製した。そして、得られた製膜原液を、25℃下で一日静置した(調製工程)。
【0087】
(中空状多孔質膜の製造)
まず、図示略の支持体製造装置を用いて、ポリエステル繊維(PET製、繊度417dtex)のマルチフィラメントを円筒状に丸編みし、210℃にて熱処理を施して中空の支持体を得た。得られた支持体の外径は1.45mmであった。
そして、
図1に示すような製造装置1を用いて、中空糸膜形状の多孔質膜を作製した。
まず、製造装置1の原液供給装置2から、上記の手順で調製した製造原液を送液し、塗布部3において支持体4に製膜原液を塗布した。
次いで、製膜原液が塗布された支持体4を、77℃の凝固浴槽5中の凝固液中で浸潤させ、その後、製膜原液が凝固することで、多孔質層を有する中空糸膜前駆体(多孔質膜前駆体)6を得た(凝固工程)。
【0088】
上記の凝固液としては、DMAcの40質量%水溶液を用いた。また、本実施例においては、中空糸膜前駆体を60℃の熱水に浸漬する工程と、次亜塩素酸Na水溶液に浸漬する工程とを繰り返し実施した後、最後に115℃に熱した乾燥炉にて3分間乾燥させ(乾燥工程)、水分を蒸発させて中空状多孔質膜を得た。
得られた中空糸膜の膜厚は90μm、外径は1161μm、バブルポイント圧力は177kPa、平均孔径は0.3μm、W
d20は14.7(m
3/m
2/MPa/h)、W
d100は14.8(m
3/m
2/MPa/h)、W
w100は15.3(m
3/m
2/MPa/h)、HPは96.1(%)、次亜塩素酸処理後のW
d20は14.7(m
3/m
2/MPa/h)、次亜塩素酸Na処理後のW
d100は16.5(m
3/m
2/MPa/h)、次亜塩素酸Na処理後のW
w100は16.5(m
3/m
2/MPa/h)、また、HPは89.1(%)、であった。
【0089】
<実施例2、実施例3>
膜厚を下記表2に示す組成のものに変更した点以外は、上記の実施例1と同様にして中空状多孔質膜を得た。この評価結果を下記表2に示す。
【0090】
「実施例4〜実施例6」
重合駅を下記表2に示す組成のものに変更した点以外は、上記の実施例1と同様にして中空状多孔質膜を得た。この評価結果を下記表2に示す。
【0091】
<比較例1>
重合液を使用しなかった点以外は、上記の実施例1と同様にして中空状多孔質膜を得た。この評価結果を下記表2に示す。
【0092】
<比較例2>
製膜原液の調製においてビニルピロリドン単位を含むポリマー(C)を使用せず、下記表2に示す組成のものに変更した点以外は、上記の実施例1と同様にして中空状多孔質膜を得た。この評価結果を下記表2に示す。
【0093】
<比較例3>
重合液を下記表2に示す組成のものに変更した点以外は、上記の実施例1と同様にして中空状多孔質膜を得た。この評価結果を下記表2に示す。
【0094】
【表2】
【0095】
ここで、上記の表2中に記載した各略号は、以下の化合物を示す。
・Kynar761A:ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製、「Kynar761A」(商品名:登録商標)、Mw=550,000)
・K80:ポリビニルピロリドン(日本触媒製、「PVP K80」(商品名)、Mw=900,000)
・DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)
【0096】
<評価結果>
上記の表2に示した結果から明らかなように、各実施例で得られた中空状多孔質膜は、上記式(1)から求められる親水化度(HP)の値が50〜120であり、高い親水性を有していることから、乾燥状態から高い透水性能を示すことが明らかである。また、各実施例で得られた中空状多孔質膜は、バブルポイント圧力が100kPa以上であり、高い阻止性能及び機械物性を有する多孔質膜であることが明らかである。
【0097】
一方、比較例1においては、ポリマー(B)を使用せずに製膜したため、得られた中空状多孔質膜は疎水性であり、HPは0(%)であった。
また、比較例2においては、ポリビニルピロリドン樹脂(C)を使用せずに製膜したため、得られた中空状多孔質膜のW
d20は0(m
3/m
2/MPa/h)、W
w100は0.3(m
3/m
2/MPa/h)と低く、高い透水性を有することができなかった。
また、比較例3においては、窒素含有(メタ)アクリレート(b1)を含まないモノマー組成物から重合したポリマー(B’−1)を使用して製膜したため、このポリマー(B’−1)の製膜原液中への溶解性が低く、製膜原液が白濁したことから、得られた中空状多孔質膜は十分に親水化されておらず、HPは39.7(%)と低かった。また、比較例3は、白濁した製膜原液から製膜したために、膜内に欠陥が多く、バブルポイント圧力が41(kPa)と低く、水処理膜用途では使用できないものであった。