(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「屈曲部」とは、平均曲率がゼロでない部分を意味する。
「屈曲面」とは、屈曲部を有する面を意味する。
「シリカ前駆体」とは、焼成することによってSiO
2を主成分とするマトリックスを形成し得る物質を意味する。
「主成分」とは、物質を構成する成分のうち、当該物質に90質量%以上含まれる成分を意味する。
「鱗片状粒子」とは、扁平な形状を有する粒子を意味する。粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも記す。)を用いて確認できる。
「60゜鏡面光沢度」は、JIS Z8741:1997(ISO2813:1994)に記載された方法によって、裏面(防眩層が形成された側とは反対側の面)反射を消さずに測定される。一般的に、60°鏡面光沢度が低いと防眩性が増す。一方で、60°鏡面光沢度が高いと、ディスプレイのカバーガラスとして使用した場合には、視認性が増し解像度が良好となる。
「ヘイズ率」は、JIS K7136:2000(ISO14782:1999)に記載された方法によって測定される。
「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2001(ISO4287:1997)に記載された方法によって測定される。
「平均粒子径」は、体積基準で求めた粒度分布の全体積を100%とした累積体積分布曲線において50%となる点の粒子径、すなわち体積基準累積50%径(D50)を意味する。粒度分布は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定した頻度分布および累積体積分布曲線で求められる。
「アスペクト比」は、粒子の厚さに対する最長長さの比(最長長さ/厚さ)を意味し、「平均アスペクト比」は、無作為に選択された50個の粒子のアスペクト比の平均値である。粒子の厚さは、原子間力顕微鏡(以下、AFMとも記す。)によって測定され、最長長さは、TEMによって測定される。
【0010】
<透明基材>
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る透明基材は、例えば、
図1に示すように、表面の少なくとも一部に屈曲面を有する基材1と、基材1の屈曲面上に設けられた防眩層2を有する。以下、
図1を使用して本発明の第1の実施形態に係る透明基材を説明する。なお、基材において表面とは防眩層2が設けられた側の面のことであり、表面と裏面とは、その組成や状態が同じであっても異なっていてもよい。
図1に示す透明基材にあっては、基材のうち凸面側が表面、凹面側が裏面である。
【0011】
防眩層とは所定の粗さの凹凸を有し、主に反射光を散乱させ光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する効果をもたらす層である。具体的には、防眩層2は、基材1の表面の少なくとも一部をエッチング等することにより粗面化された層であっても構わないし、基材1の表面上の少なくとも一部に粗面化層を成膜したものでも構わない。本実施形態において防眩層2は、基材1の屈曲面の凸面側に設けられている。本実施形態の透明基材は、同一基材内において屈曲面の中央領域の60°鏡面光沢度と比べて屈曲面の端部に近い端部領域の60°鏡面光沢度が高くなっている。ここで、本実施形態に係る透明基材は中央領域の60°鏡面光沢度と、端部領域の60°鏡面光沢度の絶対値の差が20%超である。60°鏡面光沢度の好ましい範囲としては中央領域が30%以上120%未満、端部領域が60%〜140%であり、より好ましい範囲としては中央領域が80%以上120%未満、端部領域が100%〜140%である。
【0012】
本実施形態において、屈曲方向とは、屈曲部を断面方向から見た際の円周方向のことを指す。また、本実施形態において、基材を上に凸になるように平坦面に載置し、平坦面との接地点を高さ0%、平坦面と最も遠い距離にある点を高さ100%とした場合に屈曲面の中央領域とは90〜100%の高さの領域のことを指し、屈曲面の端部領域とは0〜10%の高さの領域のことを指す。
【0013】
屈曲部の曲率半径の上限値は特に制限はないが、5000mm以下が好ましく、3000mm以下がより好ましく、1000mm以下がさらに好ましく、500mm以下が特に好ましい。曲率半径が5000mm以下であれば、本実施形態における中央領域と端部領域との60°鏡面光沢度の差などの光学特性を調整しやすい。
屈曲部の曲率半径の下限値も特に制限はないが、1mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。屈曲部の曲率半径が1mm以上であれば、屈曲面を有する基材の周辺部にある他部材と、滑らかに接続したデザインが得られやすい。
【0014】
屈曲部の曲げ深さの上限値は特に制限はないが、1000mm以下が好ましく、800mm以下がより好ましく、500mm以下がさらに好ましく、200mm以下が特に好ましい。1000mm以下の曲げ深さを有する屈曲部を有する基材であれば、本実施形態における中央領域と端部領域との60°鏡面光沢度の差などの光学特性を調整しやすい。
屈曲部の曲げ深さの下限値も特に制限はないが、3mm以上が好ましく、5mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましく、20mm以上が特に好ましい。屈曲部の曲げ深さが3mm以上であれば、屈曲部を有する基材の周辺部にある他部材と滑らかに接続したデザインが得られやすい。また屈曲面を有する基材の材質がガラスの場合、基材の剛性が向上し、組み付け工程時の変形抑制や、使用時の指での押し圧による不用意な変形を抑制できる。
なお、曲げ深さは、屈曲部を有する基材の厚さ方向断面視で、同一の主面における2つの端部を結ぶ直線と、この直線と平行となる直線のうち、屈曲部に接する接線との距離をいう。
【0015】
屈曲面を有する基材は、その屈曲面にひねり構造を有してもよい。ここでいう「ひねり」とは、屈曲面における曲率半径が一定である必要はなく、開き角が一定である必要もない、これら条件により得られる形状を示す。また屈曲面を有する基材は平坦部を有してもよい。
【0016】
防眩層2の表面粗さRaは、0.01μm以上0.7μm以下が好ましく、0.02μm以上0.4μm以下がより好ましい。防眩層2は屈曲面の中央領域から屈曲方向端部領域に向かって表面粗さRaが小さくなっていても構わない。このような構成では、中央領域と端部領域で表面粗さRaが異なることにより、触った際に中央領域と端部領域の位置の違いを触感でも感じることが出来る。
【0017】
基材1の材料としては、ガラスや樹脂等が挙げられる。ガラスを用いる場合は化学強化ガラスを使用することが好ましい。すなわち、ガラスの表面に圧縮応力層があることが好ましい。化学強化ガラスを用いる場合には、化学強化ガラスの表面圧縮応力の最大値を500MPa以上かつ圧縮応力層深さを10μm以上とすることが好ましい。上記の範囲とすることで、樹脂と比較して優れた強度と耐擦傷性を有する基材とし、ディスプレイのカバーガラスとして好適に使用できる。
ガラス組成がSiO
2を60モル%以上、かつAl
2O
3を8モル%以上含有するアルミノシリケートガラスであると、さらに大きな表面圧縮応力および圧縮応力層深さを実現できるため、安全性が重視される車載用のディスプレイのカバーガラスに好適である。ガラスを用いる場合には基材1の厚さは0.5〜3mm程度である。
【0018】
基材1上に成膜することによって粗面化層を設けて防眩層2とする場合には、防眩層2はシリカをマトリックスの主成分とする膜を成膜することが好ましい。このマトリックス中に鱗片状粒子を含有することが防眩層の光学特性、例えば60°鏡面光沢度を所望の値に調整しやすい点からさらに好ましい。鱗片状粒子としては、例えば鱗片状シリカ粒子、鱗片状アルミナ粒子、鱗片状チタニア粒子、鱗片状ジルコニア粒子等が挙げられる。鱗片状粒子は、1種または2種以上含有することが好ましい。鱗片状シリカ粒子の場合、鱗片状シリカ粒子のSiO
2純度は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0019】
鱗片状粒子の平均アスペクト比は、50〜650が好ましく、100〜350がより好ましく、170〜240がさらに好ましい。鱗片状粒子の平均アスペクト比が50以上であれば、防眩層2の膜厚が厚くても防眩層2のクラックや膜剥がれの発生を抑えることが出来る。また、鱗片状粒子の平均アスペクト比が650以下であれば、防眩層2の塗布組成物中における分散安定性が良好となる。鱗片状粒子の平均粒子径は、0.08〜0.42μmが好ましく、0.17〜0.21μmがより好ましい。
【0020】
鱗片状シリカ粒子は、薄片状のシリカ1次粒子、または複数枚の薄片状のシリカ1次粒子が、互いに面間が平行的に配向し重なって形成されるシリカ2次粒子である。シリカ2次粒子は、通常、積層構造の粒子形態を有する。鱗片状シリカ粒子は、シリカ1次粒子およびシリカ2次粒子のいずれか一方のみであってもよく、両方であってもよい。
【0021】
シリカ1次粒子の厚さは、0.001〜0.1μmが好ましい。シリカ1次粒子の厚さが前記範囲内であれば、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった鱗片状のシリカ2次粒子を形成できる。シリカ1次粒子の厚さに対する最小長さの比(最少長さ/厚さ)は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0022】
シリカ2次粒子の厚さは、0.001〜3μmが好ましく、0.005〜2μmがより好ましい。シリカ2次粒子の厚さに対する最小長さの比は、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。シリカ2次粒子は、融着することなく互いに独立に存在していることが好ましい。
【0023】
本実施形態の透明基材は、防眩層2上に各種機能膜を備えていても構わない。このような機能膜の具体例としては、反射防止膜、防汚膜、赤外線カット膜、紫外線カット膜、撥水膜、静電防止膜などが挙げられる。上記の膜のいずれか1つを備えても良いし、複数組み合わせても構わない。
【0024】
反射防止膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.70〜2.70の高屈折率層と屈折率が1.30〜1.55の低屈折率層とを積層した構成、もしくは、膜マトリックス中に中空粒子や空孔を混在させた波長550nmでの屈折率が1.2〜1.4の層を含む構成とすることができる。
【0025】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される反射防止性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)及び窒化ケイ素(SiN)からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO
2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料及びSiとAlとの混合酸化物を含む材料からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0026】
防汚膜が形成される場合、防眩層2上またはその他機能膜上の最外層に設けられることが好ましい。防汚膜の厚さは、特に限定されないが、防汚膜が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、膜厚は2〜20nmが好ましく、2〜15nmがより好ましく、2〜10nmがさらに好ましい。
【0027】
防汚膜を形成した最外層の面の静止摩擦係数は1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。静止摩擦係数が1.0以下であれば、人間の指が透明基材の表面に触れる際に指滑り性が良い。また、動摩擦係数は0.02以下が好ましく、0.015以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。
【0028】
最外層の面の静止摩擦係数や動摩擦係数は、例えば、以下のように測定できる。トリニティーラボ社製触角評価測定機TL201Tsにおいて、測定したい基材の最外層に、同社製擬似指接触子を、荷重30gかけた状態で置く。これを10mm/秒の速度で、基材の最外層の上を移動させ、静止摩擦係数と動摩擦係数を測定する。前記接触子が静止状態から動き始めた際の摩擦係数を静止摩擦係数、前記接触子が移いている際の摩擦係数を動摩擦係数と定義する。
【0029】
以上、示したように、本発明の第1の実施形態に係る透明基材は、
図1に示すように基材1のうち凸面側である屈曲面上の中央領域及び端部領域上に防眩層2が設けられている。例えば、この透明基材は車載用のディスプレイのカバーガラスとして使用出来る。通常、表示装置が運転席と助手席の間に設けられた場合、運転者及び助手席の乗員は、ディスプレイの端部領域の方向からカバーガラスを通して見ることになる。そうすると、ディスプレイの中央領域の面に対応するカバーガラスの表面から反射してくる光が多いと、ディスプレイが見づらくなってしまう。
【0030】
一方、本実施形態の透明基材をカバーガラスとして使用し、ディスプレイと組み合わせた表示装置の場合、カバーガラスの端部領域の60°鏡面光沢度を高くすることにより、運転者及び助手席の乗員のディスプレイの映像の視認性を高められるとともに、カバーガラスの中央領域の60°鏡面光沢度を低くして反射光を効果的に抑制できる。なお、カバーガラスの中央領域から端部領域に向かって防眩層の表面粗さRaが小さくなると、中央領域に近づくにつれてカバーガラスの手触り感が向上するため、中央領域に操作ボタン等を配置すると手触りで操作ボタンを認識できるためより好ましい。
【0031】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る透明基材は、例えば、
図2に示すように、屈曲面を表面に有する基材3と、基材3の屈曲面上に設けられた防眩層4を有する。以下、
図2を使用して本発明の第2の実施形態に係る透明基材を説明する。
【0032】
防眩層4は所定の粗さの凹凸を有し、主に反射光を散乱させ光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する効果をもたらす層である。防眩層4は、基材3の表面の少なくとも一部をエッチング等することにより粗面化された層であっても構わないし、基材3の表面上に塗膜等を成膜することによって粗面化層を設けたものでも構わない。本実施形態において防眩層4は、基材3の屈曲面の凹面側を表面とし、その上に設けられている。本実施形態の透明基材は、同一基材内において屈曲面の中央領域の60°鏡面光沢度と比べて屈曲面の端部に近い端部領域の60°鏡面光沢度が低くなっている。
【0033】
ここで、本実施形態に係る透明基材は中央領域の60°鏡面光沢度と、端部領域の60°鏡面光沢度の絶対値の差が20%超である。60°鏡面光沢度の好ましい範囲としては中央領域が60%〜140%、端部領域が30%以上120%未満であり、より好ましい範囲としては中央領域が100%〜140%、端部領域が80%以上120%未満である。ここで、屈曲方向とは、屈曲部を断面方向から見た際の円周方向のことを指す。本実施形態が前記した第1の実施形態と異なる点は、防眩層4が設けられている面が基板に対して反対側である点であり、中央領域に比べ端部領域の60°鏡面光沢度が低くなる点である。材料・形状等は第1の実施形態と同様のものを使用出来る。
【0034】
防眩層4の表面粗さRaは、0.01μm以上0.5μm以下が好ましく、0.05μm以上0.3μm以下がさらに好ましい。防眩層4は屈曲面の中央領域から屈曲方向端部領域に向かって表面粗さRaが大きくなっていても構わない。このような構成では、中央領域と端部領域で表面粗さRaが異なることにより、触った際に中央領域と端部領域の位置の違いを触感でも感じられる。
【0035】
基材3の材料は、前記した第1の実施形態と同様のものを用いることが出来る。基材3上に成膜することによって粗面化層を設けて防眩層4とする場合には、防眩層4はシリカをマトリックスの主成分とする膜を製膜することが好ましい。このマトリックス中に鱗片状粒子を含有することが防眩層の光学特性、例えば60°鏡面光沢度を所望の値に調整しやすい点からさらに好ましい。鱗片状粒子としては、例えば鱗片状シリカ粒子、鱗片状アルミナ粒子、鱗片状チタニア粒子、鱗片状ジルコニア粒子等が挙げられる。鱗片状粒子は、1種または2種以上含有することが好ましい。鱗片状シリカ粒子は前記した第1の実施形態と同様のものを使用出来る。
【0036】
本実施形態の透明基材は、防眩層4上に各種機能膜を備えていても構わない。このような機能膜の具体例としては、反射防止膜、防汚膜、赤外線カット膜、紫外線カット膜、撥水膜、静電防止膜などが挙げられる。上記の膜のいずれかを1つを備えても良いし、複数組み合わせても構わない。
【0037】
反射防止膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.70〜2.70の高屈折率層と屈折率が1.30〜1.55の低屈折率層とを積層した構成、もしくは、膜マトリックス中に中空粒子や空孔を混在させた波長550nmでの屈折率が1.2〜1.4の層を含む構成とできる。
【0038】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される反射防止性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)及び窒化ケイ素(SiN)からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO
2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料及びSiとAlとの混合酸化物を含む材料からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0039】
防汚膜が形成される場合、防眩層4上またはその他機能膜上の最外層に設けられることが好ましい。防汚膜の厚さは、特に限定されないが、防汚膜が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、膜厚は2〜20nmが好ましく、2〜15nmがより好ましく、2〜10nmがさらに好ましい。
【0040】
防汚膜を形成した最外層の面の静止摩擦係数は1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。静止摩擦係数が1.0以下であれば、人間の指が透明基材の表面に触れる際に指滑り性が良い。また、動摩擦係数は0.02以下が好ましく、0.015以下がより好ましく、0.01以下がさらに好ましい。なお、静止摩擦係数と動摩擦係数とは上述の装置を使用した方法により測定できる。
【0041】
以上、示したように、本発明の第2の実施形態に係る透明基材は、
図2に示すように基材3のうち凹面側である屈曲面上の中央領域及び端部領域に防眩層が設けられている。例えば、この透明基材は車載用のディスプレイのカバーガラスとして使用出来る。通常、カバーガラスとディスプレイとを備えた表示装置を、カバーガラスの中央領域に正視してカバーガラスを通してディスプレイを見る場合、両サイドの端部領域からの反射光が多いと画像を鮮明に認識し難くなる恐れがある。
【0042】
一方、本実施形態の透明基材をカバーガラスとして使用し、ディスプレイと組み合わせた表示装置の場合、端部領域の60°鏡面光沢度を低くして端部領域からの反射光を抑えられるとともに、中央領域の60°鏡面光沢度を高くしてディスプレイ中央領域に正対する乗員の画像の視認性を高められる。なお、カバーガラスの中央領域から端部領域に向かって防眩層の表面粗さRaが大きくなると、端部領域に近づくにつれてカバーガラスの手触り感が向上するため、端部領域に操作ボタン等を配置すると手触りで操作ボタンを認識できるためより好ましい。
【0043】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る透明基材は、例えば、
図3に示すように、複数の屈曲面を表面に有する基材5と、基材5の屈曲面上に設けられた防眩層6を有する。以下、
図3を使用して本発明の第3の実施形態に係る透明基材を説明する。
【0044】
防眩層6は所定の粗さの凹凸を有し、主に反射光を散乱させ光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する効果をもたらす層である。防眩層6は、基材5の表面の少なくとも一部をエッチング等することにより粗面化された層であっても構わないし、基材5の表面上に塗膜等を成膜することによって粗面化層を設けたものでも構わない。本実施形態において基材5は複数の屈曲面を有している。防眩層6は、基材5の前記屈曲面のいずれかに設けられている。本実施形態の透明基材は、複数存在する各屈曲面それぞれにおいて、防眩層6が基材5の屈曲面の凸面側に設けられている領域では、屈曲面の中央領域の60°鏡面光沢度と比べて屈曲面の端部に近い端部領域の60°鏡面光沢度が高くなっており、防眩層6が基材5の屈曲面の凹面側に設けられている領域では、屈曲面の中央領域の60°鏡面光沢度と比べて屈曲面の端部に近い端部領域の60°鏡面光沢度が低くなっている。第3の実施形態に係る透明基材は、屈曲面の凸面側の中央領域における60°鏡面光沢度が最も低く、屈曲面の凹面側の中央領域の中央領域における60°鏡面光沢度が最も高い。この時、屈曲面の凸面側および凹面側の端部領域は、凸面側および凹面側の中央領域の60°鏡面光沢度の範囲に入る60°鏡面光沢度を有する。
【0045】
本実施形態では、いずれの屈曲面においても屈曲面の中央領域と屈曲面の端部領域の60°鏡面光沢度の差の絶対値は20%超となっている。ここで、防眩層6が基材5の屈曲面の凸面側に設けられている領域では、60°鏡面光沢度の好ましい範囲としては中央領域が30%以上120%未満、端部領域が60%〜140%であり、より好ましい範囲としては中央領域が80%以上120%未満、端部領域が100%〜140%である。防眩層6が基材5の屈曲面の凹面側に設けられている領域では、60°鏡面光沢度の好ましい範囲としては中央領域が60%〜140%、端部領域が30%以上120%未満であり、より好ましい範囲としては中央領域が100%〜140%、端部領域が80%以上120%未満である。
【0046】
ここで、屈曲方向とは、屈曲部を断面方向から見た際の円周方向のことを指す。本実施形態は前記した第1および第2の実施形態が組み合わさった形態となっており、材料等は同様のものを使用出来る。
【0047】
防眩層6の表面粗さRaは、0.01μm以上0.5μm以下が好ましく、0.05μm以上0.3μm以下がさらに好ましい。防眩層6は複数存在する各屈曲面それぞれにおいて、屈曲面の中央領域から屈曲方向端部領域に向かって表面粗さRaが変化していても構わない。防眩層6が基材5の屈曲面の凸面側に設けられている領域では、防眩層6は屈曲面の中央領域から屈曲方向端部領域に向かって表面粗さRaが小さくなっており、防眩層6が基材5の屈曲面の凹面側に設けられている領域では、防眩層6は屈曲面の中央領域から屈曲方向端部領域に向かって表面粗さRaが大きくなっていると、触った際に中央領域と端部領域の位置の違いを触感でも感じられる。
【0048】
基材5の材料は、前記した第1の実施形態と同様のものを使用出来る。基材5上に成膜することによって粗面化層を設けて防眩層6とする場合には、防眩層6はシリカをマトリックスの主成分とする膜を成膜することが好ましい。このマトリックス中に鱗片状粒子を含有することが防眩層の光学特性、例えば60°鏡面光沢度を所望の値に調整しやすい点からさらに好ましい。鱗片状粒子としては、例えば鱗片状シリカ粒子、鱗片状アルミナ粒子、鱗片状チタニア粒子、鱗片状ジルコニア粒子等が挙げられる。鱗片状粒子は、1種または2種以上含有することが好ましい。鱗片状シリカ粒子は前記した第1の実施形態と同様のものを使用出来る。
【0049】
本実施形態の透明基材は、防眩層6上に各種機能膜を備えていても構わない。このような機能膜の具体例としては、反射防止膜、防汚膜、赤外線カット膜、紫外線カット膜、撥水膜、静電防止膜などが挙げられる。上記の膜のいずれかを1つを備えても良いし、複数組み合わせても構わない。
【0050】
反射防止膜の構成としては光の反射を抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、波長550nmでの屈折率が1.70〜2.70の高屈折率層と屈折率が1.30〜1.55の低屈折率層とを積層した構成、もしくは、膜マトリックス中に中空粒子や空孔を混在させた波長550nmでの屈折率が1.2〜1.4の層を含む構成とできる。
【0051】
高屈折率層、低屈折率層の材料は特に限定されず、要求される反射防止性の程度や生産性等を考慮して適宜選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)及び窒化ケイ素(SiN)からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(SiO
2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料及びSiとAlとの混合酸化物を含む材料からなる群より選択された1種以上を好ましく使用できる。
【0052】
防汚膜が形成される場合、防眩層6上またはその他機能膜上の最外層に設けられることが好ましい。防汚膜の厚さは、特に限定されないが、防汚膜が含フッ素有機ケイ素化合物被膜からなる場合、膜厚は2〜20nmが好ましく、2〜15nmがより好ましく、2〜10nmがさらに好ましい。
【0053】
防汚膜を形成した最外層の面の静止摩擦係数は1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.8以下がさらに好ましい。静止摩擦係数が1.0以下であれば、人間の指が透明基材の表面に触れる際に指滑り性が良い。また、動摩擦係数は0.02以下が好ましく、0.015以下がより好ましく、0.01以下であることがさらに好ましい。なお、静止摩擦係数と動摩擦係数とは上述の装置を使用した方法により測定できる。
【0054】
以上、示したように、本発明の第3の実施形態に係る透明基材は、複数の屈曲面を有する基材上に防眩層が設けられている。このような形態とすることによって、領域毎に運転手または助手席の乗員に適した領域と、その他の乗員に適した領域をそれぞれ提供出来る。
【0055】
<透明基材の製造方法>
(第1の実施形態)
図4は本発明の第1の実施形態に係る透明基材の製造方法の一形態を模式的に示した断面図である。以下、
図4を使用して本発明の第1の実施形態に係る透明基材の製造方法の一例を説明する。
【0056】
本製造方法は、エッチングによって基材1の表面の屈曲面を粗面化して防眩層2を形成する方法である。
図4に示すように、基材1の屈曲面の凸面側を表面として下にして、処理槽7に満たされた処理液8に接触させる。その後、屈曲面の凸面側を下にした状態のまま、徐々に基材1を引き上げていく。屈曲面の凸面側の中央領域ほど処理液8に接触している時間が長くなるため、屈曲面の端部領域の60°鏡面光沢度が100%〜140%とすると、屈曲面の端部領域に比べて中央領域の表面粗さRaが大きくなり、60°鏡面光沢度が80%以上120%未満となる。なお、引き上げる速度は求める表面粗さRaの変化具合に合わせて適宜変更出来る。なお、60°鏡面光沢度は表面粗さRaだけではなく、最大山高さRzや表面粗さRms等のパラメータも影響するため、60°鏡面光沢度の値に応じて処理条件を調整することが好ましい。
【0057】
処理液8は公知のものを適宜使用出来るが、基材1がガラスの場合、フッ化水素溶液やフッ化水素溶液とその他の溶液の混合溶液等のエッチング液を使用出来る。エッチング液に浸漬する前にフッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に浸漬した後にエッチングするフロスト処理を行っても構わない。
【0058】
なお、エッチングによって粗面化しない側の面(本実施形態では凹面側であり、裏面に相当)は、フィルムを貼る、保護膜と設ける等の手段でマスキングしても構わない。
【0059】
また、第1の実施形態に係る透明基材は、
図5に示すように、基材1の屈曲面上に防眩膜を設けることによって防眩層2とする方法によっても製造出来る。防眩膜は一般的にはケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有するシラン化合物およびその加水分解縮合物、アルコキシシランおよびその加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等のシリカ前駆体を含む液状媒体を塗布することによって製造される。
【0060】
前記した液状媒体には粒子を含有させても良く、鱗片状粒子を含有させる場合には、塗布前に液状媒体に含有させておくことが好ましい。液状媒体は、水のみであってもよく、水と他の液体との混合液であってもよい。他の液体としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0061】
液状媒体に含有されるシリカ前駆体と粒子との合計の含有量は、液状媒体中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体はSiO
2換算とする。)のうち、30〜100質量%が好ましく、40〜100質量%がより好ましい。シリカ前駆体と粒子との合計の含有量が30質量%以上であれば、防眩膜の曲げ基材との密着性に優れ、防眩膜のクラックや膜剥がれが抑えられるため好ましい。
【0062】
本実施形態では、
図5に示すように、基材1の凸面側(表面側)に配置されたノズル9から液状媒体を吹き付けることで基材1の屈曲面上に防眩膜の成膜を行う。ノズル9は一般的なものを使用でき、例えば二流体スプレー、エアレス式、回転霧化式等の液滴形成方法および静電コート方式のノズルを使用出来る。ここで、基材1が屈曲部を有しているため、ガラスの大きさに対してノズル9が十分に小さい場合、基材1における屈曲面の中央領域と端部領域とではノズル9からの距離が異なる。具体的には、屈曲面の端部領域の方が中央領域よりもノズル9からの距離が遠いため、スプレー液滴の塗着効率の低下により凹凸構造が形成されづらく、焼成後の膜は中央領域と比べて端部領域の防眩性能が低く、60°鏡面光沢度が高くなる。
【0063】
本実施形態の透明基材の製造方法では、ノズル9の吐出口の面積を、ノズル9の方向から見たときの基材1の面積(以下、平面視した時の基材の面積と称する。)の20%以下としている。ノズル9と基材1の屈曲面の中央領域および端部領域との距離に、積極的に差を付けるような構成とすることで、中央領域の60°鏡面光沢度と、前記端部領域の60°鏡面光沢度との差の絶対値が20%超である透明基材を製造出来る。
【0064】
液状媒体を塗布する際の基材1の表面温度は、15〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。基材1の表面温度が15℃以上であれば、液状媒体が速やかに蒸発するため、防眩層となるために充分な凸凹を形成しやすい。また、基材1の表面温度が50℃以下であれば、基材1と防眩膜との密着性が良好となる。
【0065】
液状媒体塗布後、焼成によって防眩層2を形成する。焼成は、液状媒体を基材に塗布する際に基材を加熱することによって塗布と同時に行ってもよく、液状媒体を基材に塗布した後、塗膜を加熱することによって行ってもよい。焼成温度は、30℃以上が好ましく、たとえば基材1がガラスである場合は100〜750℃がより好ましく、150〜550℃がさらに好ましい。
【0066】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係る透明基材の製造方法の一形態を模式的に示した断面図である。以下、
図6を使用して本発明の第2の実施形態に係る透明基材の製造方法の一例を説明する。
【0067】
本製造方法は、エッチングによって基材3の表面にある屈曲面を粗面化して防眩層4を形成する方法である。
図6に示すように、基材3の屈曲面の凹面側を表面として下にして、処理槽7に満たされた処理液8に接触させる。その後、屈曲面の凹面側を下にした状態のまま、徐々に基材3を引き上げていく。屈曲面の凹面側の端部領域ほど処理液8に接触している時間が長くなるため、屈曲面の中央領域の60°鏡面光沢度が100%〜140%とすると、屈曲面の中央領域に比べて端部領域の表面粗さRaが大きくなり、60°鏡面光沢度が80%以上120%未満となる。なお、引き上げる速度は求める表面粗さRaの変化具合に合わせて適宜変更出来る。なお、60°鏡面光沢度は表面粗さRaだけではなく、最大山高さや表面粗さRms等のパラメータも影響するため、60°鏡面光沢度の値に応じて処理条件を調整することが好ましい。
【0068】
処理液8は公知のものを適宜使用出来るが、基材3がガラスの場合、フッ化水素溶液やフッ化水素溶液とその他の溶液の混合溶液等のエッチング液を用いることが出来る。エッチング液に浸漬する前にフッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に浸漬した後にエッチングするフロスト処理を行っても構わない。
【0069】
また、第2の実施形態に係る透明基材は、
図7に示すように、基材3の屈曲面上に防眩膜を設けることによって防眩層4とする方法によっても製造出来る。防眩膜は一般的にはケイ素原子に結合した炭化水素基および加水分解性基を有するシラン化合物およびその加水分解縮合物、アルコキシシランおよびその加水分解縮合物(ゾルゲルシリカ)、シラザン等のシリカ前駆体を含む液状媒体を塗布することによって製造される。
【0070】
前記した液状媒体には粒子を含有させても良く、鱗片状粒子を含有させる場合には、塗布前に液状媒体に含有させておくことが好ましい。液状媒体は、水のみであってもよく、水と他の液体との混合液であってもよい。他の液体としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、セロソルブ類、エステル類、グリコールエーテル類、含窒素化合物、含硫黄化合物等が挙げられる。
【0071】
液状媒体に含有されるシリカ前駆体と粒子との合計の含有量は、液状媒体中の固形分(100質量%)(ただし、シリカ前駆体はSiO
2換算とする。)のうち、30〜100質量%が好ましく、40〜100質量%がより好ましい。シリカ前駆体と粒子との合計の含有量が30質量%以上であれば、防眩膜の曲げ基材との密着性に優れ、防眩膜のクラックや膜剥がれが抑えられるため好ましい。
【0072】
本実施形態では、
図7に示すように、基材3の凹面側(表面側)に配置されたノズル9から液状媒体を吹き付けることで基材3の屈曲面上に防眩膜の成膜を行う。この際、ノズル9と基材3とを相対的に移動させながら成膜を実施することが好ましく、例えば、
図7においてノズルを固定し、基材3を紙面左側から右側に移動させる。これにより基材3の所望の位置に所望の防眩層4を形成できる。ノズル9は一般的なものを使用でき、例えば二流体スプレーや静電コート方式のノズルを使用出来る。ここで、基材3が屈曲部を有しているため、ガラスの大きさに対してノズル9が十分に小さい場合、基材3における屈曲面の中央領域と端部領域とではノズル9からの距離が異なる。具体的には、ノズルを固定し、基材3を紙面左側から右側に移動した場合、基材3の屈曲面の中央領域の方が端部領域よりもノズル9からの距離が遠いため、スプレー液滴の塗着効率の低下により凹凸構造が形成されづらく、焼成後の膜は端部領域と比べて中央領域の防眩性能が低く、60°鏡面光沢度が高くなる。
【0073】
本実施形態の透明基材の製造方法では、ノズル9の吐出口の面積を、平面視した時の基材3の面積の20%以下としている。ノズル9と基材3の屈曲面の中央領域および端部領域との距離に、積極的に差を付けるような構成とすることで、中央領域の60°鏡面光沢度と、前記端部領域の60°鏡面光沢度との差の絶対値が20%超である透明基材を製造出来る。
【0074】
液状媒体を塗布する際の基材3の表面温度は、15〜50℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。基材3の表面温度が前記範囲の下限値以上であれば、液状媒体が速やかに蒸発するため、防眩層となるために充分な凸凹を形成しやすい。また、基材3の表面温度が前記範囲の上限値以下であれば、基材3と防眩膜との密着性が良好となるため好ましい。
【0075】
液状媒体塗布後、焼成することによって防眩層4を形成する。焼成は、液状媒体を基材に塗布する際に基材を加熱することによって塗布と同時に行ってもよく、液状媒体を基材に塗布した後、塗膜を加熱することによって行ってもよい。焼成温度は、30℃以上が好ましく、たとえば基材3がガラスである場合は100〜750℃がより好ましく、150〜550℃がさらに好ましい。
【0076】
(第3の実施形態)
本実施形態の透明基材の製造方法は前記した第1および第2の実施形態を組み合わせて実施可能であるため詳細な説明は省略する。
【0077】
<変形例>
以上説明したように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
例えば、基材や透明基材(以下、被加工物と記載)には以下のような工程・処理がされてもよい。
【0078】
被加工物の少なくとも一方の主面を研削・研磨加工を実施してもよい。
【0079】
(端面加工・孔あけ加工工程)
被加工物の端面は、面取加工等の処理がなされていてもよい。機械的な研削により一般的にR面取、C面取と呼ばれる加工を実施するのが好ましいが、エッチング等で加工を行ってもよく、特に限定されない。また、平板状の被成形ガラスを予め端面加工してから成形工程を経て屈曲部を有する基材としてもよい。
また成形工程前後問わず、被加工物に孔あけ加工や切断工程を行ってもよい。
【0080】
(強化工程)
被加工物がガラスである場合、該被加工物に表面圧縮応力層を形成する強化処理方法として、物理強化法や化学強化法が利用できる。ガラス主面が強化処理された被加工物は、機械的強度が高くなる。本構成においては、いずれの強化手法を採用してもよいが、厚みが薄くかつ表面圧縮応力(CS)値が大きな被加工物を得る場合には、化学強化法によって強化するのが好ましい。
強化処理工程は、成形工程後に実施することが好ましい。
【0081】
[化学強化工程]
被加工物に、化学強化により表面に圧縮応力層を形成し、強度及び耐擦傷性を高められる。化学強化は、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径のより大きなアルカリ金属イオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオン、Naイオンに対してはKイオン)に交換することで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する処理である。化学強化処理は従来公知の方法によって実施でき、一般的には硝酸カリウム溶融塩にガラスを浸漬する。この溶融塩に炭酸カリウムを10質量%以下入れて使用してもよい。これによりガラスの表層のクラックなどを除去でき高強度のガラスを得られる。他に硝酸ナトリウムなどを混合した硝酸カリウム混合塩を使用してもよく、硝酸カリウム溶融塩中に水蒸気や炭酸ガスなどを吹き込んでもよい。化学強化時に硝酸カリウムに硝酸銀などの銀成分を混合することで、ガラスがイオン交換され銀イオンを表面に有し、抗菌性が付与される。
【0082】
(印刷層形成)
基材の裏面の少なくとも一部に印刷層を有することも好ましい。印刷層は、用途に応じて種々の印刷方法、インキ(印刷材料)により形成されて良い。印刷方法としては、例えば、スプレー印刷、インクジェット印刷やスクリーン印刷を利用できる。これらの方法により、面積の広い被加工物でも良好に印刷できる。特に、スプレー印刷では、屈曲部を有する被加工物に印刷しやすく、印刷面の表面粗さを調整しやすい。一方、スクリーン印刷では、広い被加工物に平均厚さが均一になるように所望の印刷パターンを形成しやすい。また、インキは、複数使用してよいが、印刷層の密着性の観点から同一のインキであるのが好ましい。印刷層を形成するインキは、無機系でも有機系であってもよい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載によっては限定されない。
例1〜3のうち、例1および例2は実施例であり、例3は比較例である。
各例で使用した評価方法および材料を以下に示す。
【0084】
<評価方法>
「60゜鏡面光沢度」は、JIS Z8741:1997の60゜鏡面光沢度に規定されている方法で、光沢度計(コニカミノルタ社製、MULTI GLOSS 268Plus)を用い、防眩層付き基材の裏面反射は消さず測定した。
「ヘイズ」は、JIS K7136:2000(ISO14782:1999)に記載された方法によって測定され、ヘイズメーター(村上色彩研究所社製、HR−100型)を用いて測定した。
「算術平均粗さRa」は、JIS B0601:2001(ISO4287:1997)に記載された方法によって測定し、表面粗さ測定機(東京精密社製、サーフコム130A)を用いて測定した。測定長さは4mmとした。
【0085】
<静電塗装法により成膜した基材の作製;例1および例2>
[使用材料]
(鱗片状シリカ粒子分散液(a)の製造)
特開2014−094845号公報に記載された実施例1と同様の工程により、シリカ分散体を作製後、酸処理して洗浄、アルカリ処理、湿式解砕し、最後にカチオン交換したシリカ分散体を作製した。カチオン交換後のシリカ分散体を限外濾過膜(ダイセンメンブレンシステム製、MOLSEP(登録商標)、分画分子量:150000)にて処理し、濃度調整した。
得られたシリカ分散体(鱗片状シリカ粒子分散液(a))からシリカ粒子を取り出し、TEMにて観察したところ、不定形シリカ粒子を実質的に含まない鱗片状シリカ粒子のみであることが確認された。
鱗片状シリカ粒子分散液(a)に含まれる鱗片状シリカ粒子の平均粒子径は、湿式解砕後と同じであり、0.182μmであった。平均アスペクト比は188であった。
赤外線水分計で計測した鱗片状シリカ粒子分散液(a)の固形分濃度は5.0質量%であった。
【0086】
(ベース液(b)の調製)
変性エタノール(日本アルコール販売社製、ソルミックス(登録商標)AP−11、エタノールを主剤とした混合溶媒、沸点78℃。以下同じ。)の34.3gを撹拌しながら、シリケート40(多摩化学工業社製、テトラエトキシシランおよびその加水分解縮合物の混合物、固形分濃度(SiO
2換算):40質量%、溶媒:エタノール(10%以下)。以下同じ。)の4.2gおよび鱗片状シリカ粒子分散液(a)の2.0gを加え、30分間撹拌した。これに、イオン交換水の3.6gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.06gの混合液を加え、60分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が4.0質量%のベース液(b)を調製した。なお、SiO
2換算固形分濃度は、シリケート40のすべてのSiがSiO
2に転化したときの固形分濃度である。
【0087】
(シラン化合物溶液(c)の調製)
変性エタノールの3.85gを撹拌しながら、イオン交換水の0.4gおよび硝酸水溶液(硝酸濃度:61質量%)の0.01gの混合液を加え、5分間撹拌した。次いで、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(信越化学工業社製、KBM−3066、固形分濃度(SiO
2換算):37質量%)の0.5gを加え、ウォーターバス中60℃で15分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が4.3質量%のシラン化合物溶液(c)を調製した。
【0088】
(組成物(d)の調製)
ベース液(b)の44.1gを撹拌しながら、シラン化合物溶液(c)の4.8gを加え、60分間撹拌した。これに、変性エタノールの146.7gを加え、室温で30分間撹拌し、固形分濃度(SiO
2換算)が1.0質量%の組成物(d)を得た。
【0089】
[基材の準備]
曲げ基材として、
図7に示すような屈曲部と平坦部を備えた形状のアルミノシリケートガラス(ドラゴントレイル(商品名);旭硝子社製、サイズ:x=500mm、y=200mm(曲げ深さh=65mm)、厚さt=1.1mmのガラス基板。)を用意した。前記曲げ基材について化学強化処理を行い、CS750MPa、圧縮応力層深さ(DOL)28μmの圧縮応力層を形成した。該ガラスの表面を酸化セリウム分散水で洗浄後、イオン交換水でリンスし、乾燥させた。なお、使用した曲げ基材を上に凸になるように平坦面に載置し、平坦面との接地点を高さ0%、平坦面と最も遠い距離にある点を高さ100%とした場合、中央領域とは90〜100%の高さの58.5〜65mmの領域であり、端部領域とは0〜10%の高さの0〜6.5mmの領域である。
【0090】
[静電塗装装置]
静電塗装装置(液体静電コーター、旭サナック社製)を用意し、静電塗装ガンとしては、回転霧化式自動静電ガン(旭サナック社製、サンベル、ESA120、70φカップ)を用意した。
基材を載置するための導電性基板として、カーボン製の導電性基板を用意した。これら導電性基板は成膜を行う曲げ基材との接触面と一致する形状となるように加工した。
【0091】
[静電塗装]
(例1)
静電塗装装置のコーティングブース内の温度を25±1℃、湿度を50%±10%に調節した。
静電塗装装置のチェーンコンベア上に、カーボン製の導電性基板を介して曲げ基材を置いた。チェーンコンベアで等速搬送しながら、曲げ基材のトップ面(フロート法による製造時に溶融スズに接した面の反対側の面)に、表1に示す塗布条件による静電塗装法によって組成物(d)を塗布した後、大気中、300℃で60分間焼成し、防眩膜付き曲げ基材を得た。なお、防眩膜中のシリカ含有量は90%以上であった。
【0092】
(例2)
コート回数以外は例1と同様の条件で静電塗装を行った。例1および例2の塗布条件について表1に示す。例1、例2ともに凹面側に成膜を行った。
【0093】
【表1】
【0094】
(例3)
例3は例1および例2とは異なり、スプレー法により凹面側に成膜した。
[使用材料]
VAUノズルのエア吐出圧を0.4MPaに設定し、洗浄済みの曲げ基材上を750mm/分の速度で横方向に移動し、次いで、前方へ22mm移動し、そこから曲げ基材上を750mm/分のスピードで横方向に移動する。このとき、ガラスとVAUノズルの距離は200mmで一定となるように走査した。VAUノズルの移動は、あらかじめ90℃±3℃に加熱しておいた洗浄済みの曲げ基材の全面をVAUノズルがスキャニングするまで実施する。この方法で基材の全面に組成物を塗布したものを1面コート品と呼ぶ。その上に、さらに同じ方法でもう1回組成物を塗布することも出来る。同様に塗り重ねしていくことで、3面以上のコート品が得られる。表2に示す塗布条件によって組成物(d)を塗布した後、大気中、300℃で60分間焼成し、防眩膜付き曲げ基材を得た。
【0095】
【表2】
【0096】
<評価結果>
例1〜3の透明基材について、60°鏡面光沢度および表面粗さRaついての評価を行った。結果を表3に示す。例1および例2の透明基材は、屈曲面の中央領域(平坦面からの高さ61mmおよび62mmが相当)と端部領域(平坦面からの高さ4mmが相当)との60°鏡面光沢度の差の絶対値が20%超であった。また、欠点なども観察されず美観に優れた防眩膜であった。一方、例3の透明基材は、平坦部も屈曲部も同等の60°鏡面光沢度となる防眩膜が成膜された。
【0097】
【表3】