特許第6856052号(P6856052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6856052-半導体基板の評価方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6856052
(24)【登録日】2021年3月22日
(45)【発行日】2021年4月7日
(54)【発明の名称】半導体基板の評価方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20210329BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20210329BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20210329BHJP
【FI】
   H01L21/66 N
   G01N23/223
   C30B33/00
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-95153(P2018-95153)
(22)【出願日】2018年5月17日
(65)【公開番号】特開2019-201118(P2019-201118A)
(43)【公開日】2019年11月21日
【審査請求日】2020年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
【審査官】 小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−218085(JP,A)
【文献】 特開平05−039532(JP,A)
【文献】 特開平09−129693(JP,A)
【文献】 特開2005−003422(JP,A)
【文献】 特開2013−190403(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2006−0042273(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 33/00
G01N 23/223
C22B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度を測定して前記半導体基板の清浄度を評価する半導体基板の評価方法であって、
前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定は、前記金属不純物を酸性溶液に溶解する工程を有し、
前記金属不純物を前記酸性溶液に溶解する工程において、前記金属不純物のうち前記測定の対象とする少なくとも一種の金属元素の、前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることにより、該金属元素の前記酸性溶液中における溶解度を増大させることを特徴とする半導体基板の評価方法。
【請求項2】
前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にする金属元素を、銅とすることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項3】
前記少なくとも一種の金属元素の前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることを、前記酸性溶液に添加剤として有機配位子を添加することにより行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項4】
前記金属不純物を前記酸性溶液に溶解する工程を、HF蒸気を含む蒸気による気相分解法により行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項5】
前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、前記金属不純物を溶解した前記酸性溶液を乾燥させたのちに、乾燥痕における前記金属不純物の濃度を測定することにより行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項6】
前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、前記酸性溶液を乾燥させずに行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項7】
前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、全反射蛍光X線分析法により行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の半導体基板の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化、高性能化に伴い半導体製造装置、また半導体材料には、高い清浄度が求められるようになってきた。このために、数多くの評価、分析方法が開発運用されている。その中でも、シリコンウエーハ表面の任意の箇所を、非接触で測定できる特徴をもつ、全反射蛍光X線分析方法(Total Reflection X−Ray Fluorescence Analysis、TXRF)は、製造現場をはじめ、数多くの場所で使用されている。なお、この方法の略称はTXRFであるが、TREXと略記されることもある。
【0003】
このTXRFは、被評価サンプル表面に、X線を全反射する条件(低下角度)で入射させ、反射面で生じる蛍光X線により、汚染元素を測定する方法である。蛍光X線とは、入射X線によって原子の内殻電子が光電子としてはじき出された後に、この空位となった内殻へ外殻電子が遷移する際に生じる。
【0004】
このように蛍光X線は元素によって固有であり、波長から元素を特定することが可能である。また蛍光X線強度より、汚染元素の濃度を知ることができる。
【0005】
特別な前処理を行うことなく、測定することが可能であるが、前処理として、VPT(Vapor Phase Treatment、気相処理)を行うことで高感度化が可能であることが知られており、詳細な検討がなされている(非特許文献1)。なお、このVPTはVPD(Vapor Phase Decomposition、気相分解)とも呼ばれる。
【0006】
この前処理としてVPTを行う方法は、被測定基板表面に生成している自然酸化膜をHF蒸気で気相分解し、そのまま乾燥させる。乾燥させると、乾燥痕が形成され、この乾燥痕に金属などの元素が凝集して含まれ、TXRF評価において高感度化できる。
【0007】
しかしながら、非特許文献1にあるように、金属不純物のうち、銅(Cu)については本法では高感度化できない。しかしながら、HF以外にHClを混合して処理すると、Cuについても高感度化できることが近年報告されている(非特許文献2)。
【0008】
前処理がHFのみでは高感度化が不可能な元素であった銅(Cu)に注目すると、Cuの回収方法として、HF蒸気による回収時に、トリエチレンテトラミンを添加して錯体化する方法が開示されている(特許文献1)。トリエチレンテトラミンは、ウイルソン病(Cu代謝異常により生じる先天性疾患。Cuは人体に必須微量金属であるが、代謝異常により、体内に過剰に蓄積され、目、脳、肝機能等に影響を及ぼす)の治療薬として知られ、その分子構造が籠となり、Cuを選択的に取り込む。特許文献1に記載された技術は、この性質を利用した技術である。このようにCuをその分子構造を利用して取り込むことで、イオン化を促進し、回収率を向上させるものである。
【0009】
特許文献1に開示された方法は、イオン化された銅(Cu)を錯塩で取り込むとCuイオン濃度が平衡からずれるが、平衡を保とうとして、さらにCuがイオン化することを利用してイオン化を促進し、最終的に回収率をあげる。
【0010】
半導体基板表面において、銅(Cu)のみが特異な挙動をもち、Cuの回収方法が検討されるのには、Cuは例えばニッケル(Ni)や鉄(Fe)と物性が違っていることが影響している。すなわち、Cuは貴金属と同様に、酸性溶液下では、酸化還元電位からみるとイオン化しづらく、非イオン化の状態で安定しやすい。一方で、NiやFeはイオン化しやすい傾向にある(アルカリ溶液中では、酸化物となり、イオン化しづらくなる)。
【0011】
特許文献1の方法は、微量なイオン化したCu(100%イオン化しないことはない)を錯塩で次々と取り込み、イオン化(すなわち溶液に溶解させる)ことを狙ったものである。しかしながらいずれは平衡濃度に到達し、ほぼ全てをイオン化することは原理的に困難である。また、特許文献1における方法は平衡反応であり、平衡条件が変われば、錯体塩からCuが抜け出すことが容易に考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5−39532号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】大野力一、嵯峨幸一郎、第78回応用物理学会秋季学術講演会、8p−A411−1、“TXRF感度向上に及ぼすVPT乾燥痕の影響”(2017).
【非特許文献2】大野力一、嵯峨幸一郎、第65回応用物理学会春季学術講演会、18p−B301−7、“TXRF感度向上に及ぼすVPT乾燥痕の影響(2)”(2018).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、半導体基板における銅(Cu)はデバイスに影響を及ぼし、評価の必要性を考えられているにも関わらず、溶液に溶解させる(イオン化させる)ことが難しく、これがひいては評価を困難にしているという問題があった。また、銅以外のイオン化しづらい金属不純物についても、同様に溶液に溶解させる(イオン化させる)ことが難しく、評価が困難であった。
【0015】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、イオン化しづらい金属不純物であっても、酸性溶液に溶解させることを可能とし、評価感度が向上された半導体基板の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度を測定して前記半導体基板の清浄度を評価する半導体基板の評価方法であって、前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定は、前記金属不純物を酸性溶液に溶解する工程を有し、前記金属不純物を前記酸性溶液に溶解する工程において、前記金属不純物のうち前記測定の対象とする少なくとも一種の金属元素の、前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることにより、該金属元素の前記酸性溶液中における溶解度を増大させることを特徴とする半導体基板の評価方法を提供する。
【0017】
このような半導体基板の評価方法は、イオン化しづらい金属不純物であっても、酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることによって、酸性溶液に溶解させることを可能とすることができ、その結果、評価感度が向上された半導体基板の評価方法となる。
【0018】
このとき、前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にする金属元素を、銅とすることができる。
【0019】
本発明は、金属不純物として銅の濃度を測定する際に特に効果的である。
【0020】
また、前記少なくとも一種の金属元素の前記酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることを、前記酸性溶液に添加剤として有機配位子を添加することにより行うことが好ましい。
【0021】
このように、酸性溶液に添加剤として有機配位子を添加することによって、簡便な方法で金属元素の酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることができる。
【0022】
また、前記金属不純物を前記酸性溶液に溶解する工程を、HF蒸気を含む蒸気による気相分解法により行うことが好ましい。
【0023】
このように、簡便な方法であるHF蒸気を含む蒸気による気相分解法を用いて、金属不純物を酸性溶液に溶解することができる。
【0024】
また、本発明の半導体基板の評価方法では、前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、前記金属不純物を溶解した前記酸性溶液を乾燥させたのちに、乾燥痕における前記金属不純物の濃度を測定することにより行うことができる。
【0025】
また、本発明の半導体基板の評価方法では、前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、前記酸性溶液を乾燥させずに行うこともできる。
【0026】
このように、本発明の半導体基板の評価方法では、金属不純物を溶解した酸性溶液を乾燥させて行うこともでき、乾燥させずに行うこともできる。
【0027】
また、本発明の半導体基板の評価方法では、前記半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、全反射蛍光X線分析法により行うことが好ましい。
【0028】
このように全反射蛍光X線分析法により金属不純物の濃度の測定を行うことにより、簡便な方法で測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の半導体基板の評価方法では、イオン化しづらい金属不純物であっても、酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることによって、酸性溶液に溶解させることを可能とすることができ、その結果、評価感度が向上された半導体基板の評価方法となる。これにより、半導体基板の表面に存在する微量金属についてより高い精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例及び比較例におけるTXRFによる測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
前述のように、半導体基板における銅(Cu)はデバイスに影響を及ぼし、評価の必要性を考えられているにも関わらず、溶液に溶解させる(イオン化させる)ことが難しく、これがひいては評価を困難にしているという問題があった。そこで、Cuの評価をTXRFやVPD−TXRF法(Vapor Phase Decomposition−Total Reflection X−Ray Fluorescence Analysis:気相分解−全反射蛍光X線分析)等を用いて簡便に評価できる方法を検討した。
【0032】
その結果、半導体材料の清浄度を評価する際、特に基板表面に存在するCu元素を評価するときに、酸化還元電位を低下させることで溶解度を向上させることで、金属のイオン化を促進し、溶液への溶解を促進することを見出した。この具体的な方法として、添加剤として有機配位子を添加することで、酸化還元電位を調整することができることを見出した。このような処理を行ったのちに、評価法として、TXRF等により直接評価する場合、又は、乾燥させたのちに乾燥痕を評価する場合に、従来よりも高感度化が可能になる。
【0033】
以下、本発明について、実施態様の一例を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
本発明は、半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度を測定して半導体基板の清浄度を評価する半導体基板の評価方法であり、半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定は、金属不純物を酸性溶液に溶解する工程を有する。本発明では、金属不純物を酸性溶液に溶解する工程において、金属不純物のうち測定の対象とする少なくとも一種の金属元素の、酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にする。このように酸化還元電位を調整することにより、該金属元素の酸性溶液中における溶解度を増大させる。これにより、イオン化しづらい金属不純物であっても、酸性溶液に溶解させることを可能とすることができる。その結果、本発明の半導体基板の評価方法は、評価感度を向上させることができる。
【0035】
本発明において、酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にする金属元素を、銅とすることができる。本発明は金属不純物として銅の濃度を測定する際に特に効果的である。以下では、銅の酸化還元電位をマイナス側にする場合を中心に説明する。ただし、本発明で評価可能な金属不純物は、銅に限定されるものではない。
【0036】
銅(Cu)元素は、酸化還元電位が正であり、“貴”すなわち、酸等に溶解しない金属として知られている。他の多くの遷移金属の酸化還元電位が負であるのに対して、銅はプラスの値を示している。
【0037】
以下に代表的な金属の酸化還元電位を示す。反応式(1)〜(3)は、電位がプラスであれば、反応が右に進むことを示している。
(1) Ni2+ + 2e → Ni −0.23 V (vs SHE)
(2) Fe2+ + 2e → Fe −0.44 V (vs SHE)
(3) Cu2+ + 2e → Cu +0.337V (vs SHE)
ここで、SHEは、標準水素電極の略であり、これを陰極として、測定したい元素を陽極側に接続して測定した電位を、酸化還元電位と定義している。なお、測定温度は30℃である。
【0038】
上記のように、銅(Cu)はもともとイオン化しづらい。すなわち、酸に溶解しないことを示している。そこで、この酸化還元電位を負側に変化させることができれば、銅をイオン化し、溶解させることが可能となる。なお、同じ方法でCu以外の金属元素についても酸化還元電位を負側に変化させて酸に溶解させることもできる。
【0039】
酸性溶液中における銅(Cu)の酸化還元電位をマイナス側にするための方法としては、銅元素にカウンターカチオンを添加する方法があるが、これでは塩基が生成し、溶液に溶解しなくなる。そこで、有機配位子を利用することが好ましい。有機配位子は、炭素骨格を持った構造に、酸素や、窒素のような極性分子を含んだ構造である。このような有機配位子は、比較的長い分子構造によって、金属元素を3次元で包み込むように結合(配位)することで、金属元素の電子状態を変化させて、酸化還元電位を変化させる。
【0040】
このように、金属不純物のうち測定の対象とする少なくとも一種の金属元素の、酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることを、酸性溶液に添加剤として有機配位子を添加することにより行うことが好ましい。このように、酸性溶液に添加剤として有機配位子を添加することによって、簡便な方法で金属元素の酸性溶液中における酸化還元電位をマイナス側にすることができる。
【0041】
有機配位子としては、各種知られているが、どのような構造の有機配位子を採用するかは、測定対象とする金属元素と有機配位子を含んだ溶液をCV測定(Cyclic Voltammetry)にて酸化還元電位測定を行うことで、決定することができる。また、金属不純物を酸性溶液に溶解する際に有機配位子の添加量(添加濃度)をどのようにするかも、このCV測定で決定することができる。
【0042】
有機配位子の例としては、乳酸や、クエン酸、グリシンなどがある。その他の有機配位子も適宜選択して使用することができる。有機配位子を使用した酸化還元電位の変化の測定は以下のようにして行うことができる。例えば、金属元素単体でCV測定を行い、酸化還元電位を測定し、そののち配位子を添加して再度CV測定を行うことで、酸化還元電位の変化を測定する。
【0043】
このようにして酸化還元電位を変化させることで、溶解しづらい金属元素を酸性溶液に溶解させることが可能となる。
【0044】
金属不純物を酸性溶液に溶解する工程を、HF蒸気を含む蒸気による気相分解法により行うことができる。このように、HF蒸気を含む蒸気による気相分解法により、簡便な方法で金属不純物を酸性溶液に溶解することができる。HF蒸気以外の蒸気(例えばHCl等)を混合してもよい。このHF蒸気を利用した気相分解法は、その後、全反射蛍光X線分析法(TXRF)により金属不純物濃度を測定することができる。これは上記のようにVPD−TXRF法と呼ばれる手法である。本発明の半導体基板の評価方法は、VPD−TXRF法に特に好ましく適用することができる。ただし、気相分解によらずに酸性溶液に不純物金属元素を溶解することもできる。この場合、例えば、半導体基板にHF蒸気を含む蒸気を接触させる代わりに、半導体基板に液体状のHF含有溶液を接触させて、半導体基板表面に存在する金属不純物を酸性溶液に溶解することができる。
【0045】
また、本発明の半導体基板の評価方法では、半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、金属不純物を溶解した酸性溶液を乾燥させて行うことができる。この場合、乾燥後に残る乾燥痕における金属不純物の濃度を測定することにより金属不純物の濃度測定を行うことができる。測定方法は上記のようにTXRF法によることが好ましい。
【0046】
また、本発明の半導体基板の評価方法では、半導体基板の表面に存在する金属不純物の濃度の測定を、酸性溶液を乾燥させずに行うこともできる。この場合も測定方法はTXRF法によることが好ましい。
【0047】
このように、金属元素(特に銅)の酸性溶液中における溶解度を増大させた上で酸性溶液に溶解させた後にTXRF測定等を行うことで、高感度化が達成できる。
【0048】
以下に、金属に対する有機配位子の配位の例として、有機配位子として乳酸及びエチレンジアミンを用いて銅の酸化還元電位を変化させた場合の反応式(4)〜(6)を示す。以下の反応式中において、CuLはCu元素1個に対して、乳酸が2個配位し、CLは3個配位していることを示す。CuEはCu元素1個に対して、エチレンジアミンが2個配位していることを示す。
(4) Cu2+ + L → CuL
(5) Cu2+ + L → CuL
(6) Cu2+ + E → CuE
【0049】
なお、反応式(4)、(5)中のLは乳酸を示し、構造式は以下の通りである。
【化1】
【0050】
反応式(6)中のEは、エチレンジアミンを示し、構造式は以下の通りである。
【化2】
【0051】
以下に、反応式(4)〜(6)に対応する銅の酸化還元電位の例を示す。以下に示す酸化還元電位は、後述の実施例で測定した値である。
(4) Cu2+ + L → CuL +0.25V (vs SHE)
(5) Cu2+ + L → CuL −0.05V (vs SHE)
(6) Cu2+ + E → CuE +0.25V (vs SHE)
【0052】
この場合、反応式(5)で示したように、銅元素1個に対し乳酸が3個配位した場合、酸化還元電位をマイナスにすることができる。このように、銅の酸化還元電位をマイナス側にすることによって、銅を酸性溶液に溶解させることを可能とすることができる。その結果、イオン化しづらい銅であっても、TXRFやVPD−TXRF等による測定評価感度を向上させることができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(実施例)
まず、銅(Cu)の1mol/l塩酸溶液を測定温度30℃でCV測定し、酸化還元電位として、+0.34V(vs. SHE)の値を得た(CV測定1)。次に、このCuの1mol/l塩酸溶液に乳酸を2mol/l添加して、測定温度30℃で再度CV測定を行った(CV測定2)。また、次に、Cuの1mol/l塩酸溶液に乳酸を3mol/l添加した溶液を調製し、測定温度30℃で再度CV測定を行った(CV測定3)。乳酸はCuに対して2座配位(CuL)と3座配位(CuL)が存在するため(上記反応式(4)及び(5)参照)、CV測定2、3ではそれぞれ、乳酸の添加量をCuに対して2倍及び3倍等量とした。CV測定2、3の結果、酸化還元電位として、それぞれ+0.25V(vs.SHE)と、−0.05V(vs.SHE)を得た。
【0055】
また、別の有機配位子として、エチレンジアミンを準備した。Cuの1mol/l塩酸溶液にエチレンジアミンを添加した。こちらはCuに対して2倍等量となるように添加して、測定温度30℃でCV測定を行ったところ、酸化還元電位として+0.25V(vs.SHE)を得た(CV測定4)。なお、エチレンジアミンは、これ以上濃度を大きくしても、酸化還元電位に変化は見られなかった。
【0056】
以上のCV測定の結果から有機配位子としてCuに対して3倍等量以上の乳酸を用いることに決定した。
【0057】
次に、半導体基板として、導電型がp型で直径200mmのシリコンウエーハ(ボロンドープで通常抵抗品)を準備した。準備したシリコンウエーハに対し、それぞれ1mol/lの鉄(Fe)と銅(Cu)(塩酸溶液)を、表面濃度1×1010atoms/cmとして故意汚染を行った。その後、故意汚染を行ったシリコンウエーハ径よりもわずかに小さい径のテフロン(登録商標)容器に50%HFを入れ、その上に故意汚染を行ったシリコンウエーハを載せて、気相分解を行った。前記処理後、シリコン基板表面に所定濃度の乳酸水溶液をピペットで全体に滴下した。なお乳酸は、過剰になるように、10mol/lとした。
【0058】
その後、シリコン基板表面の液体を乾燥させて、TXRF測定を行った。その結果、図1に示す測定結果を得た。この実施例ではCV測定3で測定されたように、Cuの酸化還元電位が−0.05V(vs.SHE)でマイナス側である。そのため、実施例におけるCuの検出感度は、次に述べるCuの酸化還元電位が正側にある比較例1〜3と比較して高くなっている。
【0059】
(比較例1)
半導体基板として、導電型がp型で直径200mmのシリコンウエーハ(ボロンドープで通常抵抗品)を準備した。準備したシリコンウエーハに対し、それぞれ1mol/lのFeとCu(塩酸溶液)を、表面濃度およそ1×1010atoms/cmとして故意汚染を行った。その後、故意汚染を行ったシリコンウエーハに対し、実施例1と同様HFで気相分解を行った。その後、有機配位子を添加せず、そのままシリコン基板表面の液体を乾燥させて、TXRF測定を行ったところ図1中に示した測定結果を得た。実施例と比較して、Cuは検出感度が低い。
【0060】
(比較例2)
半導体基板として、導電型がp型で直径200mmのシリコンウエーハ(ボロンドープで通常抵抗品)を準備した。準備したシリコンウエーハに対し、それぞれ1mol/lのFeとCu(塩酸溶液)を、表面濃度およそ1×1010atoms/cmとして故意汚染を行った。その後、故意汚染を行ったシリコンウエーハに対し、実施例1と同様HFで気相分解を行った。前記処理後、シリコン基板表面に所定濃度の乳酸水溶液をピペットで全体に滴下した。なお乳酸は、不足になるように、0.01mol/lとした。
【0061】
その後、シリコン基板表面の液体を乾燥させて、TXRF測定を行ったところ図1の測定結果を得た。Cuについて有機配位子である乳酸を添加したにも関わらず、感度が向上しなかった。これは、有機配位子として乳酸を添加したが、量が不十分なために、乳酸が2座配位子のままであったために、酸化還元電位が正側のままでありイオン化しなかったために、感度向上が望めなかったと考えられる。
【0062】
(比較例3)
半導体基板として、導電型がp型で直径200mmのシリコンウエーハ(ボロンドープで通常抵抗品)を準備した。準備したシリコンウエーハに対し、それぞれ1mol/lのFeとCu(塩酸溶液)を、表面濃度およそ1×1010atoms/cmとして故意汚染を行った。その後、故意汚染を行ったシリコンウエーハに対し、実施例1と同様HFで気相分解を行った。前記処理後、シリコン基板表面に所定濃度のエチレンジアミン水溶液をピペットで全体に滴下した。このときのエチレンジアミンも過剰になるように、10mol/lとした。
【0063】
その後、シリコン基板表面の液体を乾燥させて、TXRF測定を行ったところ図1の測定結果を得た。Cuについて有機配位子を添加したにも関わらず、感度が向上しなかった。これは有機配位子(エチレンジアミン)を添加したが、酸化還元電位が正側のままでありイオン化しなかったために、感度向上が望めなかったと考えられる。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1