(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被加工物を保持するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持された被加工物を加工する加工手段と、少なくとも該チャックテーブル及び該加工手段を制御する制御手段と、該制御手段に対し加工条件を入力設定する入力手段と、該加工条件を含む装置情報を記憶する記憶部と、可視光を発して稼働状況を報知するLED表示灯と、を備える加工装置であって、
該制御手段は、該装置情報に対応して該LED表示灯を点滅させて可視光送信を行い、
他の加工装置の該LED表示灯の可視光が到達する位置に配設され、可視光送信で送信された該装置情報を受信する受信部を備え、
該装置情報を可視光通信により加工装置間で送受信することを特徴とする加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本実施の形態の加工装置について説明する。
図1は、本実施の形態の加工装置の斜視図である。
図2は、比較例の加工装置の配置例を示す上面模式図である。なお、本実施の形態では加工装置として切削装置を例示して説明するが、加工装置は被加工物を加工するものであればよく、例えば、研削装置、研磨装置、レーザー加工装置、エッチング装置等でもよい。
【0012】
図1に示すように、加工装置10は、タッチパネル(入力手段)14から入力された加工条件に応じて、チャックテーブル12に保持された被加工物Wを加工手段13で加工するように構成されている。タッチパネル14は筐体11の外面に設けられており、タッチパネル14から制御手段15に対して加工条件等が設定入力されることで、制御手段15にチャックテーブル12及び加工手段13が制御されている。また、タッチパネル14から入力された加工条件を含む装置情報は記憶部16に記憶され、制御手段15は記憶部16から各種の装置情報を読み出すことで加工装置10が統括的に制御される。
【0013】
制御手段15及び記憶部16は、各種処理を実行するプロセッサやメモリ等によって構成されている。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶媒体で構成されている。また、チャックテーブル12は、ポーラスセラミック材によって保持面が形成されており、この保持面に生じる負圧によって被加工物Wが吸引保持される。加工手段13は、筐体11内でスピンドル17の先端の切削ブレード18を高速回転させ、切削ブレード18に対するチャックテーブル12の相対移動によって被加工物Wが切削加工される。
【0014】
被加工物Wの裏面にはダイシングテープTが貼着されており、ダイシングテープTの外周にはリングフレームFが貼着されている。すなわち、被加工物Wは、ダイシングテープTを介してリングフレームFに支持された状態で加工装置10に搬入される。被加工物Wは、半導体基板上に半導体デバイスが形成された半導体ウエーハでもよいし、無機材料基板上に光デバイスが形成された光デバイスウエーハでもよい。なお、ここでは被加工物Wとして切削装置の加工対象を例示しているが、切削装置以外の加工装置では、各加工装置で加工対象になるものであればよい。
【0015】
また、筐体11の上面には、可視光を発して装置の稼働状況を報知するLED表示灯19が突設されている。LED表示灯19は、例えば、加工装置10が正常に稼働している状態では緑色で点灯し、加工装置10に何らかの不具合が生じた場合に赤色で点滅する。筐体11の上面にはLED表示灯19以外の障害物が存在しないため、遠くからオペレータが視認することが可能になっている。このように構成された加工装置10は、オペレータによってタッチパネル14から加工条件が手動で設定入力されて、加工条件に基づいてチャックテーブル12及び加工手段13の動作が制御される。
【0016】
ところで、
図2A及び
図2Bの比較例に示すように、一般的に工場等では複数の加工装置30が並んで設置されており、個々の加工装置30をオペレータが手動で装置情報を設定すると負荷が大きい。このため、ホストコンピュータ31から複数の加工装置30に対して有線通信又は無線通信によって遠隔で装置情報を設定する方法が検討されている。しかしながら、有線通信では加工装置30をケーブルで接続する必要があるため、加工装置30の増設やレイアウト変更が困難になる(
図2A参照)。一方で、無線通信では指向性の低い電波が広がりながら屋外まで伝播するため、加工装置30の装置情報が外部に漏洩してしまう(
図2B参照)。
【0017】
図1に戻り、工場等では同一フロア内に多数の加工装置10が近接して設置されており、通常は隣り合う加工装置10の間に通信を遮るような障害物が設置されることはない。このため、加工装置10同士で通信させれば、通信距離が長く指向性の低い電波で無線通信する必要はない。そこで、本実施の形態では、工場等の屋内に複数の加工装置10が近接して設置される点に着目して、通信距離が短く指向性が高い可視光を用いて加工装置10同士で無線通信させている。指向性の高い可視光が屋外まで伝搬し難くなり、情報漏洩を起こすことなく複数の加工装置10間で装置情報を送受信させることが可能である。
【0018】
また、上記したように可視光通信は通信距離が短いため、距離が離れた加工装置10に直に可視光通信させることができない。そこで、本実施の形態では、隣り合う加工装置10で装置情報をリレーさせることで、複数の加工装置10を介して距離が離れた加工装置10間で装置情報を送受信させるようにしている。これにより、1台の加工装置10に装置情報を設定するだけで、隣り合う加工装置10間の可視光通信によって装置情報がリレーされて、工場等の同一フロアに設置された全ての加工装置10に同一の装置情報を同期させることが可能になっている。
【0019】
なお、装置情報は、加工装置10に含まれる情報であれば特に限定されず、デバイスデータ等の加工条件だけでなく、切削ブレード18(
図1参照)の消耗量等のブレード関連情報が含まれてもよい。ブレード関連情報を複数の加工装置10で記憶させておくことで、切削ブレード18を別の加工装置10に着け替えた時に、切削ブレード18の消耗量を反映して別の加工装置10で切削加工することができる。
【0020】
以下、
図3及び
図4を参照して、加工装置に設けられた可視光通信の通信手段について説明する。
図3は、本実施の形態のLED表示灯の一例を示す図である。
図4は、本実施の形態の可視光通信の一例を示す図である。
【0021】
図3に示すように、加工装置10(
図1参照)のLED表示灯19は制御手段15に接続されており、制御手段15の制御によってLED表示灯19が点滅されることで可視光通信が行われる。LED表示灯19では、制御手段15の制御によって装置情報に対応してオンオフされ、光の明暗情報によって可視光が変調されることで装置情報が可視光信号に変換されて送信される。なお、変調方式としては、通信していないときと人間が目視したときの明るさが同等になるような変調方式が選択される。また、LEDの点灯間隔は、人が知覚できない領域で行われ、例えば、通信をしていない時は100Hz−120Hzで点滅し、通信をしている時は3kHz−3MHzで点滅する。また、LED表示灯19の外周面には、他の加工装置10のLED表示灯19の可視光が到達する位置で、可視光通信で送信された装置情報を受信する受信部24が設けられている。受信部24は、照度センサやイメージセンサ等で構成され、可視光信号を電気信号に変換し、復調処理を施して装置情報を受信する。
【0022】
また、LED表示灯19は、可視光を加工装置10の周囲に向けて発光するように、複数のLED発光素子23が周方向に等間隔に配設されている。各LED発光素子23の発光範囲(有効角度)が部分的に重なっており、LED表示灯19の周辺に360度方向で可視光が発光される。受信部24は、加工装置10の周囲から可視光を受光するように、LED表示灯19の外周面に複数のLED受光素子25が等間隔に配設されている。各LED受光素子25の受光範囲(有効角度)も部分的に重なっており、LED表示灯19の周辺からの可視光が360度方向で受光される。
【0023】
図4に示すように、工場等の屋内には複数の加工装置10が並んでおり、隣り合う加工装置10の間隔L1、すなわちLED表示灯19の間隔L1が可視光の到達距離L2よりも狭く設定されている。この場合、隣り合う加工装置10間でしか可視光が届かないため、各加工装置10では装置情報をそれぞれ隣の加工装置10にリレーするような通信手順で通信される。複数の加工装置10で装置情報が順番に伝達されるため、1台の加工装置10に装置情報を設定するだけで全ての加工装置10で装置情報を同期させることが可能になっている。なお、加工装置10による通信手順の詳細については後述する。
【0024】
このように、本実施の形態の加工装置10では、可視光の発光範囲の狭さを複数のLED発光素子23(
図3参照)及びLED受光素子25(
図3参照)によってカバーすると共に、可視光の通信距離の短さを複数の加工装置10によるリレー伝送でカバーしている。また、各加工装置10の上面にはLED表示灯19だけが突設されており、可視光通信の障害になるような物体が存在していない。よって、各LED表示灯19の外面のLED発光素子23から発光された可視光が遮られることがなくLED受光素子25で受光されて、隣り合う加工装置10間で良好に装置情報を送受信させることができる。
【0025】
続いて、
図5から
図7を参照して、可視光信号のデータ構造及び加工装置による通信手順について説明する。
図5は、本実施の形態の可視光信号のデータ構造の一例を示す図である。
図6は、本実施の形態の通信手順のシーケンス図の一例を示す図である。
図7は、本実施の形態の通信中の可視光信号の一例を示す図である。なお、
図6にはシーケンス図の隣に加工装置の配置構成の一例が記載されている。加工装置の配置構成では、直線で接続された加工装置同士が可視光通信可能なことを示している。また、下記の通信手順及びデータ構造はあくまでも一例を示すものであり、可視光通信で装置情報を送受信可能であれば他の通信手順及びデータ構造で実施されてもよい。
【0026】
図5に示すように、装置情報は64〜1024バイト程度のデータパケットに分割して伝送される。各データパケットには複数のフィールドが設けられており、各フィールドには装置情報のデータの他に、パケット識別子、発信元ID、宛先ID、元装置ID、データID、パケットID、誤り訂正符号が設定されている。パケット識別子はパケットであることを示している。発信元IDは発信装置のIDを示し、宛先IDは宛先装置のIDを示している。元装置IDは、複数の装置のうち装置情報の最初の発信源となる装置のIDを示している。
【0027】
データIDは、データの識別情報を示しており、宛先装置に既に装置情報のデータが記憶されているか否かの確認に使用される。例えば、発信元装置から宛先装置に加工条件が送信される場合には、宛先装置ではデータIDから発信元装置と同じ加工条件が設定されているか否かが判断される。したがって、発信元装置から宛先装置に同じ加工条件が繰返し送信されることがない。なお、ホストコンピュータによる中央管理ではなく、装置毎にデータIDを管理しているため、元装置IDによってデータIDに一意性を確保している。誤り訂正符号は、データにエラーが生じた場合の訂正に使用される。
【0028】
図6に示すように、加工装置10Aに加工条件が設定されると、加工装置10Aから周辺の加工装置10に向けて加工条件を含む送信パケットが同報送信される(ステップS01)。送信パケットには、加工条件のデータIDとして「001」、元装置IDとして加工装置10Aの装置ID「A」、宛先IDとして同報送信用の「共通ID」が設定されている(
図7A参照)。以下では、元装置である加工装置10AのデータIDを「A001」として説明する。加工装置10Aからの可視光の到達距離内の加工装置10B、10CではデータID「A001」が受信されるが、可視光の到達距離外の加工装置10D、10EではデータID[A001]が受信されない。
【0029】
次に、同報送信に対する応答として、加工装置10B、10Cから加工装置10Aに加工条件が受信済みか否かを示す応答パケットが返信される(ステップS02)。応答パケットには、加工条件が受信済みか否かをY/Nで示すフラグが追加されている。加工装置10B、10CのいずれにもデータID「A001」で示すデータが受信されていないため、加工装置10Aの加工条件が未設定であるとして、応答パケットには宛先IDとして加工装置Aの装置ID、フラグとして「N」が設定されている(
図7B参照)。そして、加工装置10B、10Cから加工装置10Aに送受信済みではないことを示す応答パケットが送信される。
【0030】
次に、加工装置10Aでは、同報送信に対する応答パケットを待って、加工装置10B、10Cから送受信済みでは無いという応答があれば、加工装置10Aから加工装置10B、10Cに加工条件のデータパケットが送信される(ステップS03)。データパケットには、宛先IDとして加工装置10B、10Cの装置ID「B」又は「C」、データとして「データA−n」が設定されている(
図7C参照)。これにより、加工装置10Aから加工装置10B、10Cに向けて、「データA−01」から順番にデータが送信される。なお、加工装置10Aでは、周辺の加工装置10から送受信済みの応答があれば応答元にデータが送信されない。
【0031】
次に、データ送信に対する応答として、加工装置10B、10Cから加工装置10Aにデータが受信済みか否かを示す応答パケットが返信される(ステップS04)。応答パケットには、データが受信済みか否かをOK/NGで示すフラグが追加されている。加工装置10B、10CにデータA−01が適切に受信されているため、データA−01が受信済みであるとして、応答パケットには宛先IDとして加工装置Aの装置ID、フラグとして「OK」が設定されている(
図7D参照)。そして、加工装置10B、10Cから加工装置10Aに肯定応答を示す応答パケットが送信される。
【0032】
次に、加工装置10Aでは、データ送信に対する応答パケットを待って、加工装置10B、10Cから受信済みであるという応答があれば、加工装置10Aから加工装置10B、10Cに次のデータパケットが送信される(ステップS05)。なお、加工装置10B、10Cから受信済みでは無いという応答があった場合、又は加工装置10B、10Cから応答パケットが無い場合には、加工装置10Aから加工装置10B、10Cにデータパケットが再送される。このデータの送受信処理が繰り返されることで、加工装置10B、10Cに加工装置10Aの加工条件が設定される。
【0033】
加工装置10B、10Cに加工装置10Aの加工条件が設定されると、再び加工装置10Aから周辺の加工装置10に向けて加工条件を含む送信パケットが同報送信される(ステップS06)。加工装置10B、10Cからのみパケット受信済みの応答パケットが返信されるため、加工装置10Aの加工条件のデータの送受信処理は開始されない。また、加工装置10Bにおいても、周辺の加工装置に向けて加工装置10Aの加工条件を含む送信パケットが同報送信される(ステップS07、
図7E参照)。加工装置10Bでは、加工装置10A、10Cからのみパケット受信済みの応答パケットが返信され、加工装置10Dからはパケット受信済みでは無い応答パケットが返信される。
【0034】
さらに、加工装置10Cにおいても、周辺の加工装置に向けて加工装置10Aの加工条件を含む送信パケットが同報送信される(ステップS08)。加工装置10Cでは、加工装置10A、10Bからのみパケット受信済みの応答パケットが返信され、加工装置10Eからはパケット受信済みでは無い応答パケットが返信される。このため、加工装置10B、10D間で加工装置10Aの加工条件のデータの送受信処理が開始されると共に、加工装置10C、10E間で加工装置10Aの加工条件のデータの送受信処理が開始される(ステップS09)。この動作が繰り返されることで、全ての加工装置10A−10Eに同一の加工条件が設定される。
【0035】
以上のように、本実施の形態の加工装置10によれば、複数の加工装置10間で自動的に装置情報が送受信されるため、オペレータによる装置情報の入力負担を軽減することができる。このとき、複数の加工装置10間で可視光通信されているため、通信時に加工装置10の装置情報が屋外に漏洩することがない。また、複数の加工装置10間に配線が不要になることで、加工装置10の増設やレイアウト変更が容易になると共に、ケーブルによって美観を損なうことがない。このように、情報漏洩を起こすことなく、複数の加工装置10間で装置情報を同期させることができる。
【0036】
なお、本実施の形態では、加工装置10として切削装置を例示して説明したが、この構成に限定されない。加工装置は、被加工物を加工するものであればよく、例えば、研削装置、研磨装置、レーザー加工装置、エッチング装置でもよい。したがって、加工手段は、切削手段に限らず、研削手段、研磨手段、レーザー加工手段、エッチング加工手段のいずれでもよいし、チャックテーブルは、吸引チャック式のテーブルに限定されず、静電チャック式のテーブルでもよい。
【0037】
また、本実施の形態では、入力手段としてタッチパネル14を例示して説明したが、この構成に限定されない。入力手段は、加工装置の制御手段に対して加工条件を入力設定可能であればよく、例えば、マウス、トラックボール等のポインティングデバイスでもよいし、キーボード等の文字入力デバイスでもよい。
【0038】
また、本実施の形態では、送信部22が複数のLED発光素子23を有する構成にしたが、この構成に限定されない。送信部は、装置情報を可視光で送信する構成であればよく、単一のLED発光素子を有していてもよい。
【0039】
また、本実施の形態では、受信部24が複数のLED受光素子25を有する構成にしたが、この構成に限定されない。受信部は、送信部から可視光で送信された装置情報を受信する構成であればよく、単一のLED受光素子を有していてもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、複数の加工装置10が装置情報をリレーする構成にしたが、この構成に限定されない。加工装置の台数が少ない場合には、隣り合う加工装置10間でのみ装置情報が送受信されてもよい。
【0041】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0042】
また、本発明の実施の形態は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、本発明の技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、本発明の技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施形態をカバーしている。
【0043】
また、本実施の形態では、本発明を加工装置に適用した構成について説明したが、可視光通信によって装置情報を屋外に漏洩させることなく複数の装置間で装置情報を同期させることができる各種装置に適用することも可能である。