【実施例】
【0017】
以下、本発明による銀粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0018】
[実施例1]
銀12kgを1600℃(銀の融点(962℃)より638℃高い温度)に加熱して溶解した溶湯をタンディッシュ下部から落下させながら、水圧150MPa、水量160L/分で高圧水を吹き付けて急冷凝固させ、得られた粉末をろ過し、水洗し、乾燥し、解砕し、風力分級機(株式会社セイシン企業製のクラッシールN−01型)により粗大粒子を除去して、銀粉を得た。
【0019】
このような水アトマイズ法で製造された銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0020】
銀粉の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の乾燥モジュール)))を使用して、分散圧5barで測定した。その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.6μm、累積50%粒子径(D
50)は1.6μm、累積90%粒子径(D
90)は2.7μmであった。
【0021】
銀粉の収縮率は、銀粉0.5gと溶剤としてブチルカルビトールアセテート30μLとを混合して内径5mmの円筒形の金型に入れ、1623Nの加重をかけて成形した円柱形ペレット状の銀粉試料を、熱機械的分析装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製のTMA/SS6200)を用いて、大気雰囲気中において室温から800℃まで昇温速度10℃/分で加熱した場合の試料の長さを測定して求めた。その結果を
図1に示す。
図1に示すように、この実施例では、円柱形ペレット状の銀粉試料を大気雰囲気中において室温から800℃まで昇温速度10℃/分で加熱した場合に、膨張せずに収縮していくのがわかる。なお、500℃における収縮率は6.2%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値を求めると9.9μm・%であった。
【0022】
銀粉の結晶子径は、Scherrerの式(Dhkl=Kλ/βcosθ)によって求めた。この式中、Dhklは結晶子径の大きさ(hklに垂直な方向の結晶子の大きさ)(オングストローム)、λは測定X線の波長(オングストローム)(Coターゲット使用時1.7889オングストローム)、βは結晶子の大きさによる回折線の広がり(rad)(半価幅を用いて表す)、θは回折角のブラッグ角(rad)(入射角と反射角が等しいときの角度であり、ピークトップの角度を使用する)、KはScherrer定数(Dやβの定義により異なり、βに半価幅を用いる場合にはK=0.9)である。なお、測定には粉末X線回折装置を使用し、計算には(111)面のピークデータを使用した。その結果、銀粉の結晶子径(Dx)は50.9nmであった。
【0023】
BET比表面積は、BET比表面積測定器(ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUS)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N
2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。 その結果、銀粉のBET比表面積は0.62m
2/gであった。
【0024】
銀粉のタップ密度(TAP)は、特開2007−263860号公報に記載された方法と同様に、銀粉を内径6mmの有底円筒形のダイに充填して銀粉層を形成し、この銀粉層の上面に0.160N/m
2の圧力を均一に加えた後、銀粉層の高さを測定し、この銀粉層の高さの測定値と、充填された銀粉の重量とから、銀粉の密度を求めて、銀粉のタップ密度とした。その結果、銀粉のタップ密度は4.9g/cm
3であった。
【0025】
なお、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と、単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積を求めると、5.97×10
13(m
−2)になる。
【0026】
銀粉中の炭素含有量は、炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製のEMIA−220V)により測定した。その結果、銀粉中の炭素含有量は0.012質量%であった。
【0027】
[実施例2]
風力分級機により粗大粒子を除去する際に10μmより大きい銀の凝集体を除去することにより粒度を調整した以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0028】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は2.0μm、累積90%粒子径(D
90)は4.1μm、500℃における収縮率は1.0%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は2.0μm・%であった。結晶子径(Dx)は84.4nm、BET比表面積は0.48m
2/g、タップ密度は5.2g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は2.96×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.010質量%であった。
【0029】
[実施例3]
加熱温度を1400℃とし、水圧を100MPaとした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0030】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は1.0μm、累積50%粒子径(D
50)は3.0μm、累積90%粒子径(D
90)は6.1μm、500℃における収縮率は3.4%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は10.2μm・%であった。結晶子径(Dx)は80.3nm、BET比表面積は0.36m
2/g、タップ密度は5.4g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は2.42×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.017質量%であった。
【0031】
[実施例4]
加熱温度を1400℃とし、水圧を70MPaとした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0032】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は1.7μm、累積50%粒子径(D
50)は4.9μm、累積90%粒子径(D
90)は9.5μm、500℃における収縮率は1.5%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は7.4μm・%であった。結晶子径(Dx)は131.6nm、BET比表面積は0.26m
2/g、タップ密度は5.6g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は1.11×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.008質量%であった。
【0033】
[実施例5]
加熱温度を1500℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0034】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.7μm、累積50%粒子径(D
50)は1.8μm、累積90%粒子径(D
90)は2.9μm、500℃における収縮率は3.4%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は6.1μm・%であった。結晶子径(Dx)は45.4nm、BET比表面積は0.60m
2/g、タップ密度は4.5g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は5.92×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.008質量%であった。
【0035】
[比較例1]
加熱温度を1250℃とし、水圧を150MPaとした以外は、実施例1と同様の方法により、得られた銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0036】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.5μm、累積50%粒子径(D
50)は1.3μm、累積90%粒子径(D
90)は2.4μm、500℃における収縮率は9.7%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は12.6μm・%であった。結晶子径(Dx)は61.9nm、BET比表面積は0.90m
2/g、タップ密度は4.2g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は6.11×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.020質量%であった。
【0037】
[比較例2]
銀54kgを含む硝酸銀水溶液4500kgに、25質量%のアンモニア水203kgを添加して、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を40℃とし、37質量%のホルマリン水溶液240kgを添加して銀粒子を析出させて銀含有スラリーを得た。この銀含有スラリー中に、銀に対して0.2質量%のステアリン酸を含むステアリン酸エマルジョンを添加した後、濾過し、水洗し、ケーキ15.0kgを得た。このケーキを乾燥機に投入し、乾燥粉13.6kgを得た。この乾燥粉を解砕した後、分級して10μmより大きい銀の凝集体を除去した。
【0038】
このような湿式還元法で製造された銀粉について、粒度分布、収縮率、結晶子径、BET比表面積、タップ密度、炭素含有量を求めた。
【0039】
その結果、累積10%粒子径(D
10)は0.9μm、累積50%粒子径(D
50)は1.9μm、累積90%粒子径(D
90)は3.0μm、500℃における収縮率は14.1%であり、累積50%粒子径(D
50)×500℃における収縮率の値は26.8μm・%であった。結晶子径(Dx)は40.7nm、BET比表面積は0.43m
2/g、タップ密度は6.5g/cm
3であり、単位体積当たりの表面積=BET比表面積(m
2/g)×タップ密度(g/m
3)と単位範囲における結晶子数=1/結晶子径(m)との積は6.87×10
13(m
−2)であった。また、炭素含有量は0.196質量%であった。
【0040】
これらの実施例および比較例の銀粉の製造条件および特性を表1〜表3を示し、収縮率の温度変化を
図1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】